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握手した手を離した後、ユフィはくすりと笑った。
「でも、わたしって信用ないのね。脅されたからって、わたしがルルーシュを撃つと思ったの?」
そう言ったユフィは下から問いかけるようにルルーシュの顔を見上げた。
ゼロの仮面を小脇に抱えていたルルーシュは、一瞬きょとんとした表情を見せた後、「あぁ」と納得した様子を見せた。
「あぁ、違うんだよ。おれが本気で命令したら誰だって逆らえないんだ。おれを撃て、スザクを解任しろ‥‥。どんな命令でも」
ユフィの身体がビクンと跳ねる。
「あ‥‥い、や‥‥。ダメ‥‥」
ガクンと、ユフィは床に膝をついて蹲る。
ルルーシュはその状況に驚く。
「まさか‥‥。ユフィ、今の命令は忘れるんだッ」
ルルーシュは、左目を左手で覆う。
ギアスのオンオフが出来ない?まさかッ‥‥。
「‥‥。そうね、貴方はテロリストのゼロだし、クロヴィス義兄様を殺したんだもの。撃って当然ね」
ユフィは素早く銃を拾うと、ルルーシュに向けるなり引き金を引いた。
ルルーシュは右肩に鋭い痛みを感じてその場にくずおれる。
「‥‥‥‥」
「‥‥そうだわ。『行政特区』の宣言をするんだったわ‥‥。行かないと‥‥」
身動ぎしないルルーシュから興味が消えたのか、それともギアスの効果が尽きたのか、ユフィはルルーシュには見向きもしないで歩き去って行った。
ルルーシュはユフィの姿が消えると同時に詰めていた息を吐き出した。
「‥‥当初の予定通りとは言え、‥‥これは流石に堪えたな‥‥。自業自得か‥‥」
肩の痛みに顔を顰めながら立ち上がると、ゼロの仮面を被って歩き出す。
ユフィが宣言を出す前に、ガウェインに辿り着いていなければならないのだ。
一時、痛みは忘れる事にしたゼロは、駆け出した。
倒れているC.C.とスザク、それに数人の護衛官達。
ゼロはまずC.C.の傍らに膝を付いた。
「大丈夫か?C.C.」
「あ、あぁ。‥‥そっちはどうなった?」
眼を開けたC.C.は何もなかったように上体を起こすと状況を尋ねる。
「‥‥ガウェインに乗ってからだ。‥‥それから話す。‥‥スザクと、こいつらは?」
「あぁ、気を失っているだけだ。大したことじゃない」
ゼロは頷くと踵を返してガウェインに搭乗し、C.C.がそれに続く。
密室となったコックピットの中で、ゼロは仮面を無造作に剥いで、脇に置いた。
C.C.はその時見えた赤い色に、眼を伏せて「そうか」と小さく呟いていた。
「それで、この血の匂いは、あのお姫様に負わされた傷のせいだな?かなり匂うぞ。出血が多いんじゃないか?」
「‥‥平気だ。‥‥おれは、ユフィの『行政特区』を生かす形で策を練ると、‥‥言ったばかりだったのに‥‥」
「後悔しているのか?」
「‥‥違う。こうなる事はわかっていたのだからな。‥‥とにかく、余計な口は挟むなよ、C.C.」
ユフィがマイクの前に立つ姿が見える。
『わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に、「行政特区日本」成立を宣言』
ゼロはオープンチャンネルにしたガウェインの中で、声を出したのだった。
「‥‥‥‥待っていただこうか、‥‥ユーフェミア‥‥」
それはゼロ本人が思っていた以上に、暗く沈んでいたように聞こえた。
「くッ‥‥」
幾らC.C.の腕前でもかわし切れないと、思った時、目の前に紅の風が通り過ぎ、攻撃を薙ぎ倒していった。
『ゼロッ、ご無事ですか?』
「カレンか。‥‥助かった」
見れば藤堂や四聖剣も他の団員もブリタニアのナイトメアフレームとの戦闘に突入していた。
その一方で"日本人"達の避難誘導も開始されていて、ゼロはホッと息を吐いた。
途端に傷口がズキズキと痛みだす。
無理をして走ったりするから、傷口が予想以上に広がったのだろう。
『C.C.。援護するからガウェインは引いてください。ゼロの手当をしないと‥‥』
「‥‥そうだな。では任せる」
「なッ、まだ駄目だッ‥‥」
「お前がここに留まっている方が被害が広がるとは思わないのか?一旦身を隠すべきだろう?」
『藤堂さんにもくれぐれもと頼まれているんです。お願いですゼロ、まずはちゃんとした手当を』
C.C.とカレンの二人がかりで諭され、だがゼロは頷かなかった。
「‥‥ダメだ。‥‥"日本人"の避難、‥‥現状動く、ナイトメアフレームの、停止。‥‥それから、‥‥」
「‥‥強情な。‥‥藤堂、敵の艦‥‥G1ベースとか言ったか?あれを落とせ。そうすればこいつも大人しく手当てされるだろう」
C.C.が溜息を吐いてから、藤堂に向かって指示を出した。
『‥‥わかった。仙波と卜部はG1ベースを。千葉と朝比奈はこのままナイトメアフレームにあたれ』
『『『『承知ッ』』』』
仙波、卜部と弐番隊がG1ベースへと進んでいき、千葉、朝比奈と壱番隊はそのままナイトメアフレームと相対していた。
「‥‥もう一つ。‥‥ダールトンが、負傷、しているはずだ。‥‥捕らえられるようなら、捕えて、‥‥手当をした後、監禁してお、け‥‥」
「‥‥ゼロッ、いい加減にしろ。今はもう喋るな。わたしの気まで散るだろう?大人しく、とりあえず寝とけ」
C.C.の言を漏れ聞いた騎士団は、その内容に唖然とする。
戦闘中のナイトメアフレームの中で、「とりあえず寝とけ」とは‥‥。
例え複座式の操縦系統以外に座っているとはいえ、攻防の幾つかの制御はゼロが座る側で操作するというのに「寝とけ」とは‥‥。
「お前達も。後々のこいつの負担を減らしたいなら、ヘマはしない事だな。カレン、G1までの道を確保しろ、降りるぞ」
『わかったわ‥‥。貴女は攻撃を受けないようにそっとついて来て』
カレンはきっぱりと肯くと、手近なサザーランドにスラッシュハーケンを叩きつけていた。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.21
『‥‥‥‥待っていただこうか、‥‥ユーフェミア‥‥』
宣言をしようとするユーフェミアに、黒の騎士団一同、同盟はなったか?と気を抜きかけた直後だった。
どこか物悲しそうな、ゼロの制止の声が、途切れがちに聞こえてきて、みな身を固くする。
『わたしは、‥‥本気で参加しても良い、‥‥そう、思っていたのですが、貴女にその気がないのでしたら、‥‥諦めるより他に道はなさそうですし』
「本気で?だが、貴方は何らかの形で、破断に持って行くつもりだったはず」
ディートハルトはモニターの前で口の端を持ち上げて笑みを浮かべながら、小さく呟いた。
そう、ゼロの計画では、黒の騎士団側からではなく、ブリタニア側から破断するように持ち込む事だと、ディートハルトは理解していた。
『‥‥中佐、どうしますか?』
月下に乗っている千葉が同じく月下に乗る藤堂に通信で話しかける。
『‥‥指示はまだだ。‥‥もう暫く様子を見る』
藤堂はそう応じながら、ギリギリと操縦桿を握った拳に力を込める。
騎士団の待機場所でそんな会話がかわされる中、ゼロの声は流れる。
『ゼロの名において、‥‥我々、黒の騎士団は、‥‥ユーフェミアの敵に回る。信頼‥‥どころか、‥‥信用すら出来ぬ者の手は‥‥取れない』
『ぅわ~。‥‥お姫様、一体何したんでしょうね。まさか、騙し撃ち?』
朝比奈が呆れたような声を出すと、周辺の殺気濃度が急上昇する。
『煽るな、朝比奈』
千葉が声をかけるが、時既に遅し、だ。
そして、更に追い討ちをかける声が飛び込んでくる。
『ゼロ、そのくらいにしておけ。一旦帰還するぞ。‥‥早くその怪我の手当をしないと、‥‥出血が多い』
C.C.の声が聞こえた途端、カレンは頭に血が昇るのを感じていた。
「あッ‥‥んの、お飾り皇女~ッ」
動かなかったのは、ゼロから、「こちらからの指示があるまで動くな」と厳命されていたからに他ならない。
それでも藤堂だけは軍事の総責任者として、「不測の事態と判断した時はその限りではない。が、無暗に動くなよ」と続けて言われていた。
『藤堂さん。ゼロを助けに』
カレンが歯がみをしながら藤堂に訴える。
『まだだッ。まだ、ゼロに指揮ができないわけではない。‥‥』
藤堂は、己もまた飛び出したい気持ちを抑えながらも、一同を抑える言葉を放つ。
しかし、無情にも流れる次の声が完全に騎士団員の怒りに火をつけていた。
『はい、わたくしが、ゼロを撃ったのですわ』
それはユーフェミアの声だった。
朗らかに、明るく、一点の曇りもないその声には、暗い響きは少しも見られなかった。
「罠‥‥だったのか、‥‥この『特区日本』は‥‥」
扇が、茫然と呟いていた。
『‥‥そう、貴女はわたしを誘い出し、‥‥攻撃する為に、この場を設けたのですよ。‥‥"日本人"の為ではなく、』
『だって、貴方はクロヴィス義兄様を殺したのですよ?それに「行政特区日本」はちゃんと』
『ちゃんと?‥‥ユーフェミア。「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の名前を返上した、‥‥ただの「ユーフェミア」の宣言に何の意味があると言うのですか?』
二人の言葉の応酬が、騎士団の耳に入っていた。
「行政特区日本」は、黒の騎士団を誘き寄せる為の罠だった。
ユーフェミアの狙いは、義兄クロヴィスを殺したゼロであり、その抹殺。
「行政特区日本」は、「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の名で進められていた事業だった。
にもかかわらず、「ユーフェミア・リ・ブリタニア」は名前を返上し、唯の「ユーフェミア」になってその義務を放棄した。
それは黒の騎士団にとっては受け入れがたい話だった。
「くそッ、お飾りどころか、腹黒じゃないかッ。‥‥こんなッ」
カレンは藤堂の月下だけを見つめ、指示が下るのを待ちながら、逸る気持ちを懸命に抑えていた。
藤堂もまた、号令すら掛けずに、まっ先に飛び出したい気持ちを必死になって抑えていた。
怪我をしたというゼロを案じ、ゼロを傷つけたというユーフェミアへの怒りによって、周りが見えなくなるのではないかというくらい血が上っている。
それでも、ゼロの声が聞こえて来るから、何とか己を保てているのだ。
『それとも、わたしに‥‥「返上した」と言ったのは、わたしを欺くためだけのものですか?皇族でなくなったのならば、‥‥貴女にはそこに立つ資格がないのですよ』
『おい、いい加減にしておけ。‥‥せめて止血だけでもちゃんとしろ』
『宣言をなさるのでしたら、‥‥ただの「ユーフェミア」ではなく、‥‥貴女の姉、第二皇女「コーネリア・リ・ブリタニア」か、‥‥ッ』
『ほら見ろ、我慢せずさっさと止血しろ』
『‥‥第二皇子「シュナイゼル・エル・ブリタニア」の、名前でなければ、‥‥機能しない事も、念頭になかったのですか?』
そろそろ「演説」の終りが近いと悟った藤堂が、無理やり呼吸を整えた後、指示を出す。
『‥‥間もなく、ゼロから、指示が入るだろう。‥‥紅月、白兜が出て来るまでは、お前はゼロの守りに回れ。一度引くようなら付いていけ』
『はいッ。‥‥白兜が来たって、今回は容赦しないわ』
「そう、あんな腹黒お姫様を選んだ、枢木スザクになんて、絶対に負けるもんか」と、カレンは闘志を燃やす。
『扇。ゼロが撤退を選んだならば、この場の撤退は任せる。戦闘を選んだ場合は、"日本人"の安全を』
『わかった。任せてくれ』
「行政特区日本」への移住を真剣に検討し、騎士団へも参加するよう勧めた扇もまた、いつもの優柔不断さがなりを潜めてしまっている。
『四聖剣、おれと共に敵を減らす。狙いはユーフェミア。それを阻むモノだ』
『『『『承知ッ』』』』
『‥‥「返上した」のならば、‥‥「行政特区日本」を顧みない、身勝手なおこない、‥‥「返上していない」のならば、偽りを口にした‥‥』
『‥‥まったく。‥‥どちらにしても、ゼロ、お前にとって「裏切り者」には違いないのだろう?もう放っておけ。少しは我が身の事を考えろ』
いつもの高飛車な物言いではなく、どこか気遣う口調のC.C.に、ゼロの怪我はそこまで酷いのかと不安になる。
『あぁ、‥‥もう少し待て。‥‥「ユーフェミア」裏切りの皇女よ。‥‥残った、なけなしの良心で、わたしが示した、信頼だけは‥‥裏切らないで頂きたい、ものだ』
『‥‥さて、集めたからには保護の義務があるのは知っているだろうな?』
それまで、ずっとゼロの怪我についての発言しかしていなかったC.C.が、ゼロの言葉を補足するような言葉を言い始めた。
『一般の"日本人"諸君。‥‥ここが「行政特区」として、機能するかどうかは、わたしにはわからない。だが、とりあえず避難してほしい』
『ここはこれより戦場となる。‥‥もっとも、ブリタニアが場所を変えてと悠長な意見に賛同すれば、別だがな』
藤堂を筆頭に騎士団は腹を括った。
ゼロとC.C.の言い方では戦闘は必至、戦いが始まるのだ。
『あら、ゼロはうたなくてはなりませんわ。そう、言いましたわよね。‥‥ブリタニアの兵士の皆さん。ゼロをうってください』
『姫様、何を言われるのですか』
『邪魔をしないでください。ゼロをうつのです。逃がしてはいけませんよ』
ユーフェミアの宣言の言葉と共に、銃撃の音を拾って、一同慌てる。
『‥‥藤堂、聞いた通りだ。‥‥ユーフェミアは敵に、なった。‥‥騎士団は、会場に入り、‥‥"日本人"を護って、敵を蹴散らせ』
藤堂は月下の片手を持ち上げて振り下ろすと、先陣を切って飛び出した。
みな、その後に続く。
藤堂は通信をガウェインのみに切り替える。
「わかった。ゼロ、怪我は平気なのか?C.C.」
『‥‥‥‥出血が酷いのが気になる程度だ。傷自体はそれ程大きくはないのだが‥‥』
「とにかく、ガウェインは一旦引いて、ゼロの怪我の手当を優先してくれ。紅蓮弐式を援護に回す」
『止血はしてある。C.C.が少し大袈裟に、言っていただけだ。‥‥それに、今現在、奴等の狙いは、わたしのようだ。‥‥"日本人"の避難を、優先する』
「‥‥避難状況は?」
ゼロが一度言い出したらなかなか引かない事は藤堂とて承知しているので、無駄な言い合いを避ける為、今は逆らわず渋々話題を変えた。
『ガウェインは上空だからな。流れ弾は少ないが、それでもそれなりの被害は出ている。現状避けるので手一杯なのでな』
「後2分で到着できるだろう。‥‥その後は、ちゃんとした手当を受けてくれ」
藤堂の懇請に近い言葉に対するゼロの返事はなく、別の指示が下される。
『‥‥アヴァロンはどこにいるかわかるか?‥‥会場に、枢木スザクはいたが、白兜はなかった。‥‥到着を牽制出来れば、敵の機動力が異なる』
「わかった。調べて対処しよう」
『一旦通信は切るぞ。合流するまでは忙しい。‥‥良いな?ゼロ。‥‥切るぞ』
ゼロは頷いたのだろう、C.C.の声だけが聞こえて通信が切られた。
藤堂は迷いを振り切るように頭を一度振ると、騎士団内の回線を開いた。
「ディートハルト。アヴァロンの現在位置を調べてくれ。到着を牽制したい。‥‥ゼロの指示だ」
『了解しました。すぐに確認します』
「扇、戦闘が進むにつれて、日本人への被害が拡大する前に、出来るだけ逃がせ」
『分かっている。ゼロは離脱出来ないのか?』
「弾幕がきついらしいな。紅月、お前はゼロを第一に考えておけ。ユーフェミアを見かけても飛び出すな」
『‥‥ッわかってる。今はゼロが第一だわ』
「刃向う敵には容赦するな」
藤堂の声に、騎士団の返事が唱和した。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.20
あれは、どういうことだったのだろうか‥‥。
『二人きりで話がしたい』
そう、話を持ちかけたのは、ゼロの方だった。
ユーフェミア皇女殿下は笑顔でそれを受け入れ、二人は会場を離れ、G1ベースへと入って行った。
戻ってきたのは、ユーフェミア皇女殿下一人だけだった。
会場の自らの席で待っていた一同が訝しむ。
桐原は眉を顰め、G1ベースに続く回廊へと視線を向けた。
ダールトンもまた、気遣わしげにユーフェミア皇女殿下の背中を見つめ、姿を現さないゼロについて思案を巡らせる。
列席者の思惑を他所に、ユーフェミア皇女殿下は、マイクの前へと進み、会場に集まる多くの"日本人"を見まわして宣言を下す。
『わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に、「行政特区日本」成立を宣言』
『‥‥‥‥待っていただこうか、‥‥ユーフェミア‥‥』
ユーフェミア皇女殿下の宣言を遮るように、途切れ途切れに聞こえた声は、どこか弱いながらもまぎれもなくゼロのモノで。
次いで、ゼロの乗って来たナイトメアフレーム『ガウェイン』が空高く舞い上がる。
「特区日本を敵に回す気か、‥‥ゼロ」
そう呟いた桐原の声は、あまりにも小さくて誰の耳にも届かなかった。
ダールトンが飛び出し、ユーフェミア皇女殿下を庇いつつ後退させる。
『わたしは、‥‥本気で参加しても良い、‥‥そう、思っていたのですが、貴女にその気がないのでしたら、‥‥諦めるより他に道はなさそうですし』
ゼロの、意味不明の言葉は、それでもユーフェミア皇女殿下が何らかの形で、ゼロの手を払った事を意味していると取れる。
それに思い至ったその場に集まった"日本人"達が、不安そうな顔で周囲と顔を見合わせている。
ダールトンは舌打ちをしたい気持ちを抑えると、配下の兵士にユーフェミア皇女殿下を託すと、マイクを握った。
このままでは収拾が付かない事を悟っていたからだ。
『‥‥』
だが、ダールトンが反論をする前に、再びゼロの声が放たれた。
『ゼロの名において、‥‥我々、黒の騎士団は、‥‥ユーフェミアの敵に回る。信頼‥‥どころか、‥‥信用すら出来ぬ者の手は‥‥取れない』
これまでよりも、押しが弱いその声は、どこか切れがちで、不自然さを聞く者に与えていた。
『ゼロ、そのくらいにしておけ。一旦帰還するぞ。‥‥早くその怪我の手当をしないと、‥‥出血が多い』
だが、続いて聞こえた、別の、明らかな女の声に、いやその内容に、聞いていた者は愕然とする。
ダールトンは咄嗟に、直前までゼロと一緒だったユーフェミア皇女殿下を振り返っていた。
ダールトンのその動作に、発言を求められたと思ったのだろう、ユーフェミア皇女殿下はにっこりと笑って頷いた。
『はい、わたくしが、ゼロを撃ったのですわ』
その言葉は会場に戻った時に、取り付けたドレスの胸元のマイクが拾っていて、会場に響いた。
『‥‥そう、貴女はわたしを誘い出し、‥‥攻撃する為に、この場を設けたのですよ。‥‥"日本人"の為ではなく、』
『だって、貴方はクロヴィス義兄様を殺したのですよ?それに「行政特区日本」はちゃんと』
『ちゃんと?‥‥ユーフェミア。「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の名前を返上した、‥‥ただの「ユーフェミア」の宣言に何の意味があると言うのですか?』
ゼロの言葉は更に会場中に不安をまき散らす。
『だけど』
反論しようとユーフェミア皇女殿下が口を開くが、ゼロには反論する隙を与えるつもりはなかった。
『それとも、わたしに‥‥「返上した」と言ったのは、わたしを欺くためだけのものですか?皇族でなくなったのならば、‥‥貴女にはそこに立つ資格がないのですよ』
『おい、いい加減にしておけ。‥‥せめて止血だけでもちゃんとしろ』
合間に女の声が入る。
『宣言をなさるのでしたら、‥‥ただの「ユーフェミア」ではなく、‥‥貴女の姉、第二皇女「コーネリア・リ・ブリタニア」か、‥‥ッ』
『ほら見ろ、我慢せずさっさと止血しろ』
『‥‥第二皇子「シュナイゼル・エル・ブリタニア」の、名前でなければ、‥‥機能しない事も、念頭になかったのですか?』
ゼロはところどころで入る女の声をここまでは完全に無視していた。
『‥‥「返上した」のならば、‥‥「行政特区日本」を顧みない、身勝手なおこない、‥‥「返上していない」のならば、偽りを口にした‥‥』
『‥‥まったく。‥‥どちらにしても、ゼロ、お前にとって「裏切り者」には違いないのだろう?もう放っておけ。少しは我が身の事を考えろ』
『あぁ、‥‥もう少し待て。‥‥「ユーフェミア」裏切りの皇女よ。‥‥残った、なけなしの良心で、わたしが示した、信頼だけは‥‥裏切らないで頂きたい、ものだ』
『‥‥さて、集めたからには保護の義務があるのは知っているだろうな?』
『一般の"日本人"諸君。‥‥ここが「行政特区」として、機能するかどうかは、わたしにはわからない。だが、とりあえず避難してほしい』
『ここはこれより戦場となる。‥‥もっとも、ブリタニアが場所を変えてと悠長な意見に賛同すれば、別だがな』
『あら、ゼロはうたなくてはなりませんわ。そう、言いましたわよね。‥‥ブリタニアの兵士の皆さん。ゼロをうってください』
ユーフェミアが号令をかけると、周囲を囲んでいたナイトメアフレーム「サザーランド」が一斉に起動し始める。
この言葉にはダールトンも驚く。
場所を変えるなり、この場は見逃すなり、とにかくこの場でこのまま闘うのはこちらにとって不利だと思っていたにも関わらず先に言われてしまったのだ。
『姫様、何を言われるのですか』
慌てたダールトンが制止しようとしたが、ダールトンは脇腹に痛みを感じてくずおれた。
『邪魔をしないでください。ゼロをうつのです。逃がしてはいけませんよ』
こうしてサザーランドによるガウェインへの攻撃が始まった。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.19
No.1の管理人 闇月夜 零です。
なんとなく試してみようかと。
とりあえずは、
HPの方で既にアップしている物を順次上げていきます。
続くかどうかは不明ですが。