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★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤ルル/ゼロバレ)
「なんだお前達。まだこんなところで止まっていたのか?藤堂、任せておいたはずだが?」
呆れた口調でその場の全員に言った後、ゼロは藤堂に向けて尋ねる。
「あ、あぁ。すまない。それと‥‥‥」
藤堂はまずは謝罪の言葉を口にし、そしてどう話すべきかと悩んで言葉を切った。
「ゼロ!貴方がルルーシュだってホントですか!?」
「なッ‥‥なんだ、いきなり」
カレンの直球に、ゼロは驚いて声を上げたものの、意思の力を総動員して、問い返す。
「藤堂さんが、写真に写っていた『彼が、ルルーシュ君がゼロだ』って言いました。ホントですか?どうして藤堂さんにだけ教えていたんですか?」
ゼロはカレンの言葉に、藤堂を見る。
「‥‥わたしは、教えて良いなんて一言も言った覚えは無いぞ、藤堂」
ゼロのその言葉は遠回しな肯定だった為、あちこちで息を呑む音がした。
「あ、あぁ。すまない。写真の人物描写を千葉が話したらラクシャータと紅月が」
「‥‥なるほどな。二人とも面識があるからわかるだろうな。だが、しらばっくれるくらい出来なかったのか?」
「あぁ、すまない」
謝罪しか口にしない藤堂に、これ以上責めるのも酷だとゼロは溜息を吐いてカレンの問いに答えた。
「説明が面倒だった事もある。藤堂とは面識も有ったし、わたしとスザクの関わりを正確に知っていたからな。顔を見せるだけで事足りたのが理由だ」
「それなら、わたしだって知ってます。わたしだってルルーシュの事知ってました。スザクの事だって」
「お嬢ちゃん。そこまでにしてあげなさぁい。ゼロだってきっと考えた末だったんでしょうしぃ」
カレンの言い募る言葉を止めたラクシャータの瞳には全てを理解した光が浮かんでいた。
「考えた末って?」
「つまりぃ。7年前を知っていた藤堂とぉ、それ以前を知っていたわたし、今を知っていると言うお嬢ちゃんとぉ。誰に話を聞いてもらうのが良いかって事よぉ」
「その通りだ、ラクシャータ。あの時、わたしは動揺していた。まさかスザクが白兜に乗っていたなんて思ってもいなかったからな」
ゼロは自嘲気味な笑声を発し、それがかつて無頼から聞こえてきた笑い声を思い出してカレンは顔を歪ませる。
「わかるわぁ。ナイトメアにナンバーズが乗るなんて今までありえなかったんですものぉ。まぁたくぅ、白兜はハードもデヴァイサーも規格外よねぇ」
「その上、スザクはユーフェミアの騎士になった。‥‥わたしは藤堂の意見が聞きたくなったのだ。7年前のスザクとの関わりを知っていた藤堂に」
ゼロは苦い声でそう言い、「だから藤堂の前で仮面を外したのだ」と締めくくった。
「それは完全に白兜のデヴァイサーが悪いわよぉ。まさかゼロと知り合いで傍にいて、それで第三皇女の騎士に収まるとはねぇ。完全な裏切り行為だわぁ」
ラクシャータがどこか懐かしむような、それでいて呆れた口調で評した。
「あのさ、ゼロッ。もうバレたんですから、仮面外しませんか?」
唐突に、朝比奈が口を挟んだ。
「なんだそれは。バレたのは名前と学生だという事だけだろう?顔を見せる必要はない」
「有りますって。てか隠しているなんて勿体無いです。おれももっと見たいですし」
朝比奈がゼロに詰め寄りながらせがむ。
「ダメです」「ダメよぉ」「ダメだゼロ」
ゼロが考える仕草をした時、カレン、ラクシャータ、藤堂が、一斉に反対した。
「な‥‥藤堂さんまで。どうしてダメなんですか?」
「ダメに決まってるじゃない。見えないの?そこでディートハルトがカメラ準備してるのがッ!」
「あ‥‥。すみませんでした」
ビシッとディートハルトを指してカレンが指摘すると、それを見た朝比奈は即座に謝った。
確かにあの顔をディートハルトに見せたらお終いだった。
どこまででもゼロを追って行きそうで怖いものがある。
「それにぃ。全員、虜にしてしまいかねないしねぇ?お嬢ちゃんが言ったでしょ?『男女問わずモテまくって』って。完全な事実だから、活動に支障がでるわよぉ」
ラクシャータの言葉に、カレンがうんうんと頷いた。
「‥‥‥中佐は何故反対を?」
千葉が藤堂に尋ねる。
「‥‥それはだな。朝比奈、ルルーシュ君に惚れるのは認めないぞ。‥‥おれの、恋人だからな」
藤堂は若干テレながらそう言うと、ゼロを後ろから抱きしめた。
「「「「ッ‥‥なんだってぇ~~~!!!」」」」
「ッ‥‥と、藤堂ッ。何もそこまでバラす必要はなかったのではないかッ?」
ゼロが慌てた声を出したが、それが肯定の言葉である事を、果たしてゼロは自覚しているのかどうか。
「ダメだ。それとも君はおれに嫉妬して欲しいのか?」
「‥‥ふむ。それは良いかも知れないな。藤堂はいつも冷静だし、少しくらい慌てるところを見てみたい気がする」
藤堂の例えに、ゼロは思わず真面目に考え込んで、素でそんな事を返してしまう。
「‥‥慌てるとは限らないだろう?そうなった時、おれは何をするか自分でもわからない。危険だから試さないでくれないか?」
「わかった。とりあえず、今はまだ仮面を外す気はないな。‥‥ラクシャータ。一度だけ尋ねる。離れるか?それともこのまま残るか?」
ゼロは頷くと藤堂の腕の中から逃れないままにラクシャータに尋ねる。
「残るわよぉ。勿論。今まではぁナイトメア弄る為にここにいたけどぉ。これからはぁ貴方についていく為にここに留まるわぁ」
「そうか、助かる。‥‥カレン。君は?」
「従うわ。わたしは零番隊隊長、紅蓮弐式のパイロット、ゼロの騎士だもの。それに、もうスザクにあんな事言わせたままになんてさせないから」
「‥‥‥良いのか?」
何故か念を押すゼロに、カレンは苦笑した。
「良いのよ、もう。というか、これまでの態度、謝るわ。本当にごめんなさい、ルルーシュ」
「いや。おれの方こそ、知っていてからかったりしていたからな」
「ゼロ、一人称」
藤堂が注意を入れるとゼロは「あ。」と言った後押し黙った。
「え!?ゼロって表じゃ一人称『おれ』なんですか?あの姿で『おれ』‥‥なんかすっごくかわ‥‥、すみません、藤堂さん睨まないでください」
「言ったはずだぞ、朝比奈。ゼロは渡さん」
藤堂はゼロを抱きしめる腕に力を込めながら言う。
「藤堂、息苦しいから力を緩めろ。それと苦情は後でC.C.に言っておく事だ。ちゃんと言わないとあいつには通じないからな」
「すまん、ゼロ。‥‥そうだな、そうしよう」
「‥‥扇。お前達はどうだ?離れるか、残るか」
「従うよ。君にリーダーをして欲しいと頼んだのはこちらだ。今更それを撤回するつもりはない。これからもよろしく頼む。‥‥但し」
扇はゼロを受け入れ、頭を下げて今一度頼んだ後、ゼロをヒタと見据えた。
「但し、君が学生だというのならば、まだ睡眠は十分に必要な年頃だという事を念頭に入れておいてくれないか?もっと大人を頼って欲しい」
扇が元教師らしく生活態度を注意した。
「良いかぁ?今度テメェが白兜と直接対決するような作戦練りやがっても従わねぇからそのつもりでいろよ」
玉城は親友だって思ってた相手に直接対決を挑む必要はないと言う。
「つまり、中佐ではなく、扇さん達が中佐に嫉妬しているようですよ?自分達にも頼れ、と」
黙ったままのゼロに、千葉が言う。
「‥‥そ、そうだな。‥‥ありがとう、諸君」
「ゼロ。感動するのは良いが、惚れてくれるなよ」
ゼロが微かに肩を震わせているのが伝わってきて藤堂は、ゼロが受け入れられた事を良かったと思う半面、少し複雑な気分で水を差した。
了
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作成 2008.04.11
アップ 2008.04.13
★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤ルル/ゼロバレ)
ひらり、と紙片が一枚右に左に揺れながら落ちていくのに、朝比奈が気付いたのは会議が終わっての移動中。
「ゼロッ、何か落としたよ」
言いながら朝比奈は廊下の床に落ちた紙片を拾い上げた。
声を掛けられて立ち止まったゼロは振り返る。
周囲を歩いていた幹部達も足を止め朝比奈に視線を向け、朝比奈が拾った物をゼロに返すのを待つ事にしたのだが。
チラと紙片に目を向けた朝比奈は、ピキリと固まって、一向に紙片をゼロに差し出そうとしなかったのだ。
流石に不審に思った傍にいた藤堂と千葉は朝比奈の手元を覗き込んだ。
「‥‥‥ッ」
千葉が息を呑み固まったのと、藤堂が手を伸ばして朝比奈からその紙片を奪うのが同時。
「‥‥ッちょ‥‥藤堂さん!?」
凝視していた対象が突然奪われた事で我に返った朝比奈が、珍しくも藤堂に抗議した。
だが藤堂は朝比奈の言葉を無視してゼロに近づいた。
「落としたぞ。‥‥だが、何故これを持ってきていたんだ?」
藤堂はゼロに紙片を差し出しながら尋ねた。
「ん?」と首を傾げながらも受け取った紙片に視線を落としたゼロもまた、ピキリと固まった。
「‥‥ゼロ?」
藤堂に名前を呼ばれて我に返ったゼロは、バッと振り返って「C.C.!!」と呼ばわる。
だがしかし、先程までゼロの隣を歩いていた件の少女はその姿を先の角へと隠したところだった。
「藤堂!この場は任せた」
言うなり、紙片を握りつぶしたゼロは、C.C.を追って駆け去っていった。
大変なのは藤堂である。
珍しくも慌てた様子を見せた上、走り去ったゼロを呆然と見送った後、朝比奈と千葉は藤堂に視線を向けた。
紙片を見なかったものの、ゼロの様子が気になったその場に居合わせた幹部達もまた藤堂を見る。
「藤堂さんッ!今の‥‥まさかゼロの彼女ですかッ!?」
朝比奈の問いに、カレンとディートハルトが叫ぶ。
「ちょッ‥‥朝比奈さん!?か、彼女‥‥って、今の写真だったんですかッ!?」
「ゼ!ゼロが!女性の写真を‥‥!?」
他の者は、いきなりの事に驚きすぎて声も出ないで唯藤堂と朝比奈を凝視していた。
藤堂は、予想外の事を言われて、マジマジと朝比奈を見返すのみだった。
「藤堂さん、さっき『何故これを』って言ってましたよね?あれの事、知ってたんですか?誰ですか?どうして知ってるんですか?教えてください!藤堂さんッ」
黙ったままの藤堂に詰め寄る朝比奈の姿は「こいつホントに藤堂の事が第一の四聖剣か?」と首を傾げたくなる程だ。
「落ち着け、朝比奈。そんなに一度に尋ねられては、藤堂中佐も答えられまい」
思わず仙波が間に入って朝比奈を止めると、藤堂に向き直って代わりに質問した。
「藤堂中佐。その写真とやらの存在を知っておられたのですか?」
藤堂は仙波に視線を向け、それからその場に留まったままの幹部達を見渡して言う。
「‥‥お前達、仕事は良いのか?」
「んなの、気になって手につくわけねぇだろうが。仕事させたいなら、さっさと答えろって」
玉城が反論する言葉に、何人かがうんうんと頷いて同意した。
藤堂は溜息を吐いてから「‥‥いや」と言って首を振る。
「では写真に写っていたという人物を知っておられたのですか?」
再び仙波の問い。
「‥‥仙波。あの写真はゼロが持っていたのではなく、C.C.が勝手に忍ばせておいたもののようだ。その内容についてここで語るのはどうかと思うのだが」
藤堂は遠回しに答えるのを拒否してみたのだが、取り様によっては知っていると肯定したようにも取れる。
「て事は愛人のC.C.公認の恋人かよ」
素早くツッコミを入れるのは例によっての玉城である。
しかしどうして玉城はこんなところだけに頭が回るのだろうか?と呆れた視線が幾つか向けられるが玉城はまったく気付かない。
「いや、彼はゼロの恋人では」
藤堂はそこまで言って、朝比奈の驚愕の声に言葉を切った。
「と、藤堂さん!?今、『彼』って‥‥。少年なんですか?あの子‥‥」
言われて藤堂は自分の失言に気付く。
「てか、朝比奈さん、千葉さん。一体どんな人が写ってたんですか?」
カレンが写真の人物に興味を持って尋ねた。
「黒髪で細身で少し首を傾けているポーズが愛らしい学生服を着た美少女、に見えたな。中佐が『彼』と仰るのだから美少年と言うべきだろうが」
千葉の説明に、朝比奈は頷き、藤堂は無表情でカレンとラクシャータの反応をわからないように窺った。
「あらぁ?それじゃあ、確かにゼロの恋人じゃないかもねぇ」
ラクシャータは楽しそうに言い、逆にカレンは蒼白になった。
「絶対有り得ません!そいつがゼロの恋人だなんて!だって、外見に反して性格すっごく悪いんですよ。ゼロが相手にするはずが無いです!」
「‥‥‥てか、カレン。知ってるのか?てか今の千葉さんの描写だけでわかったのか?それに、ラクシャータも‥‥」
扇が驚きと呆れ混じりに尋ねる。
「えぇ。でもねぇ。わたしは何も言う気はないわよぉ。叱られるのはゴメンだしぃ」
にやにやと笑うラクシャータはいつもの気だるげな様子は見られず、本当に楽しそうに言う。
「黒髪で学生服着て細身で‥‥。で白い肌したブリタニア人ですよね?クラスメイトに一人いますから」
「紅月さん、名前はッ!?」
口の重たい藤堂から、朝比奈はカレンに矛先を変更したようである。
「‥‥ルルーシュ・ランペルージ。生徒会副会長もしてます。頭は良いらしいけど成績はそんなにだし、体力ないし、素行は悪いし、性格も悪いです」
カレンはそう言ってから、「後、シスコンで、男女問わずモテまくって、いつも告白されてます。全部断ってるらしいですけど」と付け加えた。
カレンの説明に千葉は首を傾げて考えた。
頭が良くて体力がなくて‥‥どこかで聞いたフレーズではないか?と。
それから藤堂に向き直って「中佐」と声を掛ける。
「中佐。写真に写っていた少年が、もしやゼロ本人、ですか?」
千葉の言葉は疑問系だったが、どこか確信を持った声音だった。
「ちょッ‥‥有り得ないわそれこそ!アイツは世の中を斜めに見ていて『どうせ世界は変わらない』って何もしない奴なのよ!それに枢木スザクが親友なのよ!」
カレンの反論は途中から恐怖を含んだものになり、必死に否定したがっているように見えた。
それは最後の台詞で否定したいはずだと理解できた。
その『ルルーシュ・ランペルージ』がゼロなのだとしたら、ゼロは親友と戦っている事になるのだから。
「‥‥‥枢木の件は置いておくとして、裏の顔を悟られない為のポーズかも知れない。中佐、どうですか?」
「間違いなく、その子がゼロでしょうねぇ。だって彼にはそれだけの理由があるんですものぉ。藤堂、あんた往生際悪すぎよぉ」
ラクシャータがあっさりと肯定して藤堂に振った。
「‥‥‥。あぁ、そうだな。彼が、ルルーシュ君がゼロだ」
ルルーシュの素性を知っているであろうラクシャータに肯定されたのでこれ以上黙っている事も出来ず、藤堂は認めた。
「‥‥って事はゼロって学生かよ。しかも枢木の親友だと!?」
玉城の反論は既に条件反射としか思えず、卜部はさっさと自分の疑問を口にした。
「中佐ぁ、『ルルーシュ君』って彼の事、ホントに知ってたんだなー。何時?どんな関係?」
「7年前にスザク君が友達だといって紹介してきた。ゼロが彼だと知ったのは、騎士団に合流してすぐだ」
藤堂がそう答えたところで、ゼロが戻ってきた。
後編に続く。
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作成 2008.04.11
アップ 2008.04.12
「‥‥皇族だったとはいえ、既に戸籍上、存在しない者にまで手を掛けるつもりは、わたしにはない」
脱線しかけたロイドとミレイが黙ると、ゼロはそう告げた。
「‥‥相手にするまでもない、って?」
ゼロの言葉にピクリと反応したロイドが、好物のプリンを前にしながら、剣呑な目つきをゼロに向けて言う。
「ブリタニアに戻るつもりがないのならば、敵ではないという事だ。『ランペルージ』は皇族ではなく、唯の学生、子供だろう?」
「それを軽んじてるって言うって知ってる?凄く不愉快なんだけど?」
ゼロは二人に害意を持っていない事を告げようとしただけなのだが、ロイドに反発されてしまった。
反発してボソボソと低音になって反論するロイドに、ミレイは慌てる。
「ちょ‥‥ロイドさん。口調も声音も変わってますから。それに、」
「ミレイくんは少し黙ってて。ぼくはどーしても許せないんだよね。あの方が軽視されるのは我慢できない」
道化師の仮面はなりを潜め、ロイドはゼロをまっすぐに睨みながら言う。
ゼロはそんなロイドを見ながら、息を吐いた。
「‥‥皇女とは交流はなかったが、兄皇子とならば、一度話をした事がある。‥‥その時だな、わたしが『ゼロ』になろうと思ったのは」
ロイドとミレイはきょとんとしてゼロを見、ラクシャータは驚いて軽く目を見開き、藤堂は一人無表情で話を聞いていた。
「‥‥‥‥‥‥。一体どんな話をしたんですか?」
聞いたのはミレイだった。
「あの時、お互いに力がない事を実感していた。‥‥一人では何も出来ない事を痛感していた。足掻いても世界は変わらない。‥‥だから時を待つ事にした」
ゼロの話を、みな静かに聴いていたが、藤堂は少々懸念していた。
バラすつもりがないのならば、下手な事を云って、悟られるのは不味いのではないか、と思ったせいだ。
「十年。或いは十五年。‥‥そうすれば子供だった彼も、何も持たなかったわたしも、世界を変える為の力を手に入れ動き出せるのではないか、と」
「‥‥ちょっと待ちなさいよ、ゼロぉ。それってあんた、第十一皇子と結託してたって事ぉ?」
ラクシャータが待ったをかける。
「‥‥まさか。最初の動機、きっかけに過ぎない。以来、彼とは一度も会わず、連絡さえ取っていなかった。今回、桐原公を介して連絡してきた時は驚いた」
「それってその時の相手がゼロだって事を、知ってらしたって事ですか~?」
「さあな。わたしは随分と前倒しに動き始めてしまったし、このナリだ。気付いてなくても不思議ではない。気付いていたとしても驚かないが」
そう応じたゼロに、ロイドのまなざしがフッと緩んだ。
「わーかーりまーしーたー。実は我が君から今回の件に対しての報酬をお渡しするように託されまして~」
「‥‥不要だ。これは桐原公からの依頼なんだ」
「そうは行きませんよ~。それに、話だけで、実際には受け取りに行ってもらわなくてはなりませんし、少し危険でもありますしー?」
元の口調と声音に戻ったロイドの言葉に、藤堂の表情が険しくなる。
「‥‥それは、どういう事だ?」
「実はー。とある島に、開発途中のナイトメアフレームが一機有りまして~。それをゼロに進呈するようにって話を請けましたー」
「特殊なヤツなのぉ?」
ナイトメアフレームと聞いてラクシャータが反応する。
「そりゃそうさ。諦めの悪いぼくが、いつかを夢見て開発してたんだから~?た~だ~しぃ。現在は第二皇子の管理下に置かれてるけど~?」
「‥‥彼の為、にか?‥‥良いのか?それをわたしに渡しても?‥‥今はその気がなくとも、いつか、彼や彼女に仇なすかも知れないというのに?」
「‥‥‥‥。その時はぼくの全力を持ってお二人をお守りしますともぉ。‥‥例えゼロ。君を殺す事になっても、ね?」
ゼロとロイドはゼロの仮面越しに睨み合う。
「そこまでにしておけ、ゼロ。今、その気がないのならば、後の事は後で考えれば良い話だろう?」
睨み合う二人が、主とその騎士志願だという関係を知っている藤堂が、その光景に耐えきれなくなって止めに入る。
フッとゼロは笑みを零した。
「藤堂の言う通り、か。‥‥良いだろう、そのナイトメア、わたしが戴こう。‥‥代わりに彼にこれを」
ゼロはそう言って、懐から取り出した小さな箱をロイドの前、プリンの横に置いた。
「「‥‥これは?」」
ロイドとミレイの問いが同時に発せられる。
「渡せば判るだろう。‥‥約束の品、そう言えば、伝わるはずだ。‥‥彼が覚えていれば、な」
一人芝居を続けるゼロに、藤堂は寂しさを感じてしまう。
何故、そこまで別人である事を示さなければならないのか、と。
「了解した。‥‥責任を持って我が君にお渡しするまで預かりますよ。‥‥で、場所は神根島ね。機体の名前はガウェインって言うんだけど」
「ふぅん?あんた、その話、好きだったっけぇ?白兜のランスロットも、今度のガウェインもアーサー王伝説の円卓の騎士の名前じゃないのさ」
「良ーだろ、別に。そんなのぼくの勝手だね。それよりも、近々第二皇子もエリア11に来る予定だから、取りに行くのなら早目の方が良いよー?」
ラクシャータが首を傾げながら問いかけると、不貞腐れたように応じたロイドは、ゼロに第二皇子来訪を告げた。
「‥‥そうか、わかった」
ゼロはそう言うと、立ち上がる。
「ガウェインについては、有りがたく奪取させて戴く。具合の悪い者の部屋に押し掛けて長々とすまなかった。大人しく休んでくれ。失礼する」
そう暇の挨拶をしたゼロに従い、藤堂とラクシャータも立ち上がった。
「お嬢ちゃん。プリン伯爵をちゃんと休ませてあげてねぇ?プリン食べたって良くなったりしないんだしぃ?」
「わかりました。‥‥重ね重ねありがとう‥‥、ラクシャータさん」
ミレイの言葉を受けて、三人はロイドとミレイを残して部屋を出た。
「じゃ、わたしはナイトメアの整備に戻るしぃ?藤堂、あんたの月下の調整、後でするからねぇ?」
ラクシャータはそう言うと、肯く藤堂を見てから煙管を持った手をヒラつかせて歩いて行った。
「‥‥ゼロ、話がある」
「‥‥‥‥。良いだろう。付いて来い」
藤堂の言葉に頷いたゼロが自室に向かって歩き出すと、藤堂もその後に続いた。
その言葉を聞いた時、脳裏に映し出されたのは、あの時の光景。
わたしの瞳は何も映さないと言うのに、それでもあの時の光景は、いつまでも鮮明に見えてしまう。
その度に、わたしはお兄様を悲しませてしまう。
驚いたお兄様の顔、重く圧し掛かるお母様の身体、広がって行く赤い色、濡れる身体、痛む身体。
熱い血の海の中、徐々に冷えて行くお母様の身体。
重さも、色も、匂いも、音も、全てが最早有り得ないはずの情報を、身体は勝手に作りだし、わたしを悩ませるのだ。
『‥‥‥‥は、母上ッ‥‥ナナリーッ』
悲痛な、お兄様の声が、今もまだ耳に残っていた。
『ロイド、ミレイ。今回は我ながら急だったと思うが、かなりの無理を聞いて貰って感謝する。
桐原公とは連絡をつけた。この手紙と荷物も彼の好意で騎士団に向けて送って貰う事にした。
みんながそちらを出る前にと思い少々強引に出発直前の荷に紛れ込ませて貰いもした。
‥‥桐原公が全面的にゼロと騎士団を支援していると聞いた。
わたしも賭けに出たいと思う。
ロイド。以前話していたナイトメアフレームは出来ただろうか?
ロイドが見極め、ゼロを認めたのならば、それを回しても良いと、わたしは思っている。
判断はロイド、君に任せたい。‥‥頼んだ、ロイド。
追記。荷物の中にロイドの好きなプリンも入れてある。ミレイも好きだったな?
その他については日持ちするだろうから適当に食べてくれ』
それはロイドとミレイ、‥‥おもにロイドに向けられた彼等の主からの手紙だった。
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作成 2008.02.16
アップ 2008.04.11
お陰さまで、No.1にて40000HIT致しました。
今回は、優先問題がありませんので、完全な先着順としまして、ここで募集してみようと思います。
条件1:先着5名様と致します。
条件2:時間がかかる事が予想されます。いつまででも待ってくださる方のみとさせていただきます。
条件3:短くても構いませんので、No.1内についての感想もお願いします。
条件4:今回はメールフォームではなく、コメントでの募集と致します。
注意1:スザルルなんて絶対に書きませんし、書けません!!
注意2:R2設定およびキャラは書けません。
注意3:R2を見ているので、引きずられないとは言い切れません。
注意4:「糾弾」、「白主従」のお話は現在食傷気味で書けない恐れがあります。
注意5:×になりきらず、+どまりになる可能性は大です。
上記、条件と注意をご確認の上、ご応募ください。
よろしくお願いします。
※締め切ります。
★レイシア様へのリクエスト作品★
(スザクに厳しい話/ルルの騎士(カレンと藤堂)の話)
「‥‥表で何か有ったのか?」
藤堂がポツリと尋ねた。
「‥‥いつも通りだ。その延長線でしかない。日常とくくられる事だけだ」
「だが、いつも以上に疲弊している。何か有ったのだろう?」
藤堂の声があまりにも優しく聞こえ、カレンは思わず目を見張る。
「ゼロ。何か有ったのなら、話してください。力になれるかも知れないし、話すだけでももしかしたら気が休まるかも知れません」
カレンが負けじと言い募る。
「‥‥藤堂、カレン。お前達は、わたしの素性を知った時、どうするだろうな?」
「ブリタニア人と知っていて従っている。今更君が子供だろうが、君の親が軍人や貴族や皇帝だろうが、離反しようとは思わないな」
藤堂は、噛んで含んだようにゆっくりと言い聞かせる。
「‥‥‥‥わたしも。ゼロが例え誰だって、そんな事はどうでも良いんです。貴方は進むべき道を見失っていたわたし達にそれを示してくれたわ」
藤堂の例えを検討した後で、カレンもそう言い、「だから今度はわたしが、わたし達が貴方について行くんです」と迷いなく付け足した。
ゼロは藤堂の例えに「気付いていたんですね‥‥」と苦笑して仮面を取った。
「やはり君だったか。ルルーシュ君」
「る‥‥。てか違うはず‥‥。じゃなくて藤堂さんと知り合い?‥‥あ、だったら疲れてるのは枢木スザクのせいね!?」
藤堂はゼロの正体に納得したが、カレンの驚きは尋常ではなく、一体何に驚けば良いのかと言葉が上ずっていた。
「すまない、カレン。あの時はまだバレるわけにはいかず、少し細工をさせて貰った。‥‥おれがゼロだ。嫌いな奴に従うのは嫌だろう?」
「‥‥馬鹿言わないで。ルルーシュ。貴方を嫌っていたのは貴方が批評家ぶって何もしようとしない態度を見たから。でも違うじゃない」
カレンは頭を振って言葉を重ね、「なら嫌う理由なんてないわ。ゼロに従う。これからもずっとよ」と言った時には満面の笑みになっていた。
「‥‥スザク君がルルーシュ君を苦しめているのか?」
藤堂が剣呑な声音で問いかける。
「そうよ。あいつ、あのお飾り皇女の騎士になったくせに、まだ学園にきてルルーシュに言うのよ。『君達を守る』って!」
「‥‥学園は、アッシュフォードがおれ達の為に作った箱庭だった。‥‥安息の場所だったのだがな‥‥」
憤るカレンに、懐かしむような諦めの入ったルルーシュ。
「‥‥不甲斐無い弟子ですまない、ルルーシュ君。おれはスザク君に大切な事を教えそびれてしまったようだ」
「そんなの関係ないわ。あいつ、全然人の話ってモノを聞こうとしないんだもの。だから藤堂さんのせいじゃないわ」
「そうだな。スザクには一番、ヒントを出してきたのに、少しも気付こうとしなかった。挙句がこれだ。あの調子じゃスザクは学園に来続けるだろう」
「会長に言って退学にさせるとか、出来ないかしら?」
「無理だな。スザクを学園に入れたのはユーフェミアだ。皇族のお願いは命令と同じ。スザクの意思で自主退学でもしない限り実現しない」
「だが‥‥。スザク君が学園に通い続けるのならば、そこに留まるのは危険ではないか?」
「そうですね。‥‥ナナリーを安全な場所に移す手はずは既に整えています。‥‥次にスザクが来る前には移動できるでしょう」
話の流れについていけなかったカレンが声を上げる。
「ちょっ‥‥どうして?どうしてルルーシュとナナリーちゃんが学園を出て行くって話にまでなるの?それに安全な所ってナナリーちゃんだけ?貴方は?」
「ナナリーだけだ。おれはゼロだからな。ここを離れるつもりはない。‥‥ゼロを始めた時からいつかはナナリーと離れる時が来る事は想定していた」
「妹君は‥‥キョウトに預けるのか?」
「はい。あそこならば皇と桐原が悪いようにはしないでしょうし」
「待ってルルーシュ。貴方、ナナリーちゃんの為にゼロになったのでしょう?それをスザクのせいで離れ離れなんて‥‥」
カレンが声を荒げて話を留める。
「紅月君。そのくらいにしておけ」
「しないわ。どうして?ナナリーちゃんをここに連れて来るって言わないの?貴方が守りたいと望む存在なのよ?わたしが全力で守るわよ!」
「‥‥‥‥ここは、戦場だからだ」
「勝てば良いんでしょう?負けた時の事まで心配していたら何にも出来ないわよ。ここに連れてくれば、いつだって会えるじゃない」
カレンの言葉に、藤堂は笑う。
「なるほどな。確かにその通りだろう。ルルーシュ君、君には妹君が必要だろう?スザク君のせいで君が全てを我慢する必要はない」
「そうよ。あいつが学園から貴方を追い出す事になった。それだけでも許されない事なのに、その上ナナリーちゃんにまで会えなくなるなんて認めないわ」
「スザク君には、相応の報いを受けて貰おう。さしあたっては、今度の戦場で、白兜を叩ける作戦にしてくれると有り難いな。ルルーシュ君」
「あ、それまさか月下だけでなんて言わないでしょうね。白兜はわたしが倒すんですからね」
「おれはスザク君の師として、彼の行動を許すわけにはいかない。あれほど『ルルーシュはおれが護る』と言っておきながら‥‥」
「今も言ってます。全く他の騎士になってまでそんな事言うなんて、これだから騎士を判っていない名誉はなってないんです。わたしだって許せません」
「騎士がどうとかではないだろう?守ると言った相手とは別の相手を選ぶ事自体が言語道断。更に危険を招き且つそれを判っていないとは‥‥不甲斐無い」
「学園で大過なく過ごせるようになったのも、生徒会に入れたのもルルーシュのお陰だってのに、ちっとも気付いてないんです。当然と思ってるとしか思えないわね」
「ルルーシュ君がゼロだと気付いてないせいだとは言え、何度もルルーシュ君の身を危険に陥れている事も、気に入らない」
「全くです。ゼロッ。是非白兜を罠に嵌めて負かす手を考えてくださいね。全力で叩きますから」
藤堂と思う存分スザクをけなしてから、ルルーシュを振り返ったカレンは、茫然と二人を見るルルーシュを発見する。
「どうしたんですか?ゼロ」
尋ねると、一瞬後、ルルーシュは笑いだす。
「まったく、‥‥お前達が居れば良いな。そんな事を言っていると、本当に連れて来るぞ?」
それはカレンをして、久々に見るルルーシュの心からの笑顔だった。
そして、妹を前にしてさえ心から笑えなくなっていたのだと気付いて、「打倒スザク」に意欲を増す。
「あぁ、連れて来い。おれ達は、君と、妹君とを守ってみせよう」
「まるで、騎士みたいな言いようですよ?藤堂さん」
「君が主だというのならば、それも構わない。ゼロ。‥‥ルルーシュ君。君におれの忠誠を」
「わたしも!ゼロに、ルルーシュにわたしの忠誠を捧げるわ。受け取ってくれますか?」
「‥‥裏切りは許さないぞ?」
「「勿論!」」
迷いなく告げられた言葉に、ルルーシュは満面の笑みを浮かべたのだった。
この日。ゼロは二人の騎士を得る。
それは騎士団幹部にだけ知らされ、衝撃を生んだ。
しかしその後、幹部達の間で、「枢木スザク抹殺計画推進会」が発足し、藤堂とカレンが会長と副会長に就任したのは全団員が知るところとなる。
入会者は後を絶たなかったとか。
後に来たゼロの妹だと言う少女が推進会の名誉会長になっている事はトップシークレットとしてゼロには伏せられていたとか。
了
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作成 2008.04.07
アップ 2008.04.10
★レイシア様へのリクエスト作品★
(スザクに厳しい話/ルルの騎士(カレンと藤堂)の話)
「スザク。もうここには来るな」
ルルーシュがそう言ったのは、二人だけの生徒会室でだった。
ユーフェミアの騎士になってさえルルーシュの側にいようとするスザクに、ルルーシュは笑みを向ける事が困難になってきたからだ。
いつ皇族に見つかるか、今まで以上に神経を尖らせて、気の休まる時も無くなっている。
本来ならば、この箱庭ではもっと落ちつけるはずだったと言うのにだ。
「何を言うんだい?ルルーシュ。ぼくは君を、君達を守るって約束しただろう?」
スザクは冗談とでも受け取ったのか笑って応じた。
通じぬ言葉に押し黙るルルーシュに代わって、言い返したのは入って来たばかりのカレンだった。
「あまりふざけた事は言わない方が良いわよ、枢木くん」
「ふざけた事って?ぼくは本気だよ、カレンさん」
「なら余計に悪いわね。皇女とルルーシュと、二心を抱いてるって事じゃない。どちらに対しても失礼だわ」
キッパリとスザクの言葉を切り捨てる。
「そんなつもりはない。ぼくは」
「つもりがなければ何をしても良いの?どんな結果を招いても『そんなつもりじゃ‥‥』と言えば許されるのかしら?」
「む。‥‥第一君には関係ないだろう?カレンさん」
「答えになってないわよ。枢木くん。‥‥忘れるところだったわ。ルルーシュに用事があるの。とりあえず今日のところはお帰りになったら?」
カレンは質問に答えなくなったスザクに「ルルーシュにも言われたんでしょう?」と出口を指して言う。
「‥‥ルルーシュ。また今度話をしよう」
「おれの話は終わっているよ、スザク。お前は聞いていなかったのかも知れないけどな」
ルルーシュは俯いたままスザクを見ようともしないでそう告げた。
スザクは戸惑ったものの、確かに軍に行く時間も迫っていたので、「じゃあ‥‥」と言って部屋を出て行った。
「‥‥平気?ルルーシュ」
カレンがそっと声をかけると、深い溜息を吐いてからルルーシュは顔を上げた。
「あぁ。すまない、カレン。手間をかけた。‥‥助かったよ」
「良いのよ。わたしは貴方よりもスザクが嫌いだし。彼の言い分を聞いているとムカムカしかしないんだもの」
「だが、おれも嫌いなんだろう?」
「それでも、よ。‥‥ユーフェミアの騎士になっておきながらまだ別の人を守るつもりでいるなんて、ホント信じられないわ」
カレンが憤慨しながら言うのを聞いてルルーシュは苦笑した。
「騎士がどういう事なのか、スザクはわかっていないんだよ。それに恐らくユーフェミア皇女も」
「よね。でなければスザクを騎士にしようだなんて思わないでしょうね」
「‥‥それで?用事とは?」
ルルーシュが「思ってたけどな」と内心自嘲しながら尋ねると、カレンはバツの悪い表情を見せた。
「ないの。偽りだから」
「そうか。‥‥なら、会長が来たら、先に戻った、と伝えておいてくれないか?」
「‥‥良いわ。それくらいなら引き受けてあげるわ。‥‥だけど、今日だけよ?」
カレンの言葉には、苦笑や呆れやらの要素が多分に混じり合っていたが、それでもそう応じていた。
「ありがとう、カレン」
ルルーシュは礼を言うと、足早に部屋を出て行った。
「‥‥ロ。‥‥おぃ、ゼロ聞いてるのか?」
ゼロは唐突に聞こえた声に我に返る。
そっと周囲に視線を向ければ、そこが騎士団のアジトの会議室だとわかった。
どうやら考え事に没頭していたか、意識が飛んでいたようである。
「おい、ゼロッ」
それは先程から聞こえていた玉城の声で、かなり苛立っている事はわかる、まぁ当然だろうが。
「‥‥‥‥。すまない。考え事をしていた」
「‥‥作戦会議中にか?」
藤堂の訝しげな声。
「ああ。‥‥すまない。‥‥ついでに少し休憩を取った後仕切り直したいと思う」
ゼロが素直に非を認め、そう言った事に、驚きの声が上がる。
「‥‥わかった。なら後で改めて、という事だな。1時間か2時間後?それとも日を改める方が良いかな」
扇が頷いてそう尋ねる。
「‥‥‥‥日を改める程ではない」
「わかった。‥‥一旦解散だ。2時間後に改めて集合しよう」
立ちあがった扇が、そう言ってお開きにした。
ガタガタと椅子を立つ音が続き、心配そうにゼロを見ながら一人、また一人と会議室を出て行った。
「藤堂さん?」
「先に行ってろ、朝比奈」
「はい」
戸口で室内を振り返って動かない藤堂に声をかけた朝比奈は、藤堂の返事を聞いて頷いて出て行った。
会議室に残ったのは、ゼロと藤堂、カレンに扇の4人だけとなる。
カレンは立ち上がったものの、ゼロが心配でそれ以上動く事が出来ないでいた。
「‥‥カレン、ここは任せても良いか?」
「わかりました。扇さん」
扇は残りたいとも思ったが、普段会議室から出た後は色々と指示を出していたので、多分待っている団員が多いだろうとカレンに託して部屋を出た。
後編に続く。
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作成 2008.04.07
アップ 2008.04.09
「おーい、藤堂ー」
玉城の声が格納庫に響く。
「あ、おい朝比奈。藤堂は?」
目当ての人物を見つけられずにいた玉城はちょうどやって来た朝比奈を呼び止めた。
「‥‥藤堂さんでしたら、部屋にいますけど?」
玉城のくせに藤堂さんを呼び捨てにするなんて‥‥と思いながらも朝比奈は答える。
「んじゃこれ。藤堂宛に荷物が来てるぜ」
と玉城が示したのは、一抱えありそうなダンボールの箱だった。
箱に近づいて確かに藤堂宛なのを確認した朝比奈は、首を傾げながらも箱を抱え上げた。
「じゃあ部屋に運んで来ますね~」
見た目の感じよりも随分と重い荷物に疑念を膨らませながら、朝比奈は藤堂の部屋に向かった。
両手が塞がっているので、足で扉を蹴ると千葉が出て来て、朝比奈に渋面を向けるも荷物を見て黙って扉を全開にした。
「朝比奈、それは?」
「藤堂さん宛の荷物です。下に行った途端渡されました」
「誰からだ?」
仙波の声が奥から飛んで来て、朝比奈は首を傾げた。
「え?‥‥さあまだ見てませんよ」
答えた朝比奈はテーブルの上に荷物を置いて息をついた。
テーブルの上に置かれた箱に藤堂と四聖剣の視線が注がれる。
差出人の名前はなく、宛名は「藤堂鏡志朗」のみ。
住所や黒の騎士団を示唆する記述は何もないと言うのに、何故ここにあるのかと悩んでいたのだ。
そこへ、ノックが響き、一斉に扉を振り向いたのは、驚いたからだ。
「‥‥誰だ?」
千葉が声を投げると「わたしだ。藤堂はいるか?」とゼロの声。
「あぁ、いるぞ。入ってくれ」
藤堂の返事にゼロが扉を開けて入って来た。
「次の作戦に関する事前資料だ。ミーティングの前に目を通して置いてくれ。‥‥‥‥それと、忘れ物だ」
「あ、あぁ。わざわざすまない」
応じた藤堂はゼロに近づき書類と忘れ物を受け取った。
「‥‥それと、食べ物は眺めてないで早目に食べた方が良いぞ」
ゼロは去り際にそう言って出て行った。
「‥‥‥‥‥‥食べ物?‥‥って、この箱の中身?どうしてわかったんでしょうか?」
暫く続いた沈黙を、朝比奈が破る。
藤堂は、軽い溜息を吐いた後、箱を開けた。
「‥‥‥‥‥‥」
「これは‥‥重箱か?かなりの量だな」
箱の中には、重箱が並べられていた。
取り出した重箱は全部で4つ、それと手紙が一通。
箱はどけて全てをテーブルに広げてみた。
そこに並んだのは、みんながみんな何かの祝い事メニューと言う事請け合いの日本料理だった。
赤飯に炊き込み御飯、尾頭付きの鯛や、伊勢海老、入れ物が入れ物だけにおせちにも見えかねない代物ではあったが。
「あッ。今日って藤堂さんの誕生日でしたっけ?」
朝比奈が思い出したかのように叫ぶと、他の3人もまたなるほどと思わず納得してしまった。
藤堂は手紙を開封して中を見るとそこには一行、『「奇跡の藤堂」へ「鬼籍の皇子」より』と有って、藤堂は思わずむせて咳込んだ。
慌てた千葉が背中をさすってやる。
「平気ですか?中佐」
「何が書いていたんですか?」
「い、‥‥いや。‥‥どうやら、昔の知り合いからの贈り物らしい。一緒に食べよう」
気を落ち着かせた藤堂は四聖剣に言った。
「良いんですか?‥‥てか、おれ達、何にも用意してませんよ?」
「まぁ、忘れてたくらいだしよ。てかよくわかったよな、その知り合いっての?中佐がここにいる事とか。この場所とか」
朝比奈が躊躇いと、申し訳なさに控え目に訊ね、卜部は差出人の藤堂の昔の知り合いとやらに首を傾げた。
「以前から頭が良かったから、多分造作もなかっただろうな。信頼できる者だから心配はいらないぞ」
藤堂が保証すると、四聖剣はホッと息を吐いてそれぞれ椅子に座った。
「では、とりあえず、一言だけでも」
と仙波が言うと、四聖剣は頷き合って、まだ一人立っている藤堂に向かって声を揃えた。
「「「「藤堂中佐(さん)。お誕生日、おめでとうございます」」」」
藤堂はただ鷹揚に頷いただけだった。
(‥‥生きていたのか、‥‥ルルーシュ君。料理よりも、四聖剣からの言葉よりも、君が生きていると言う報せが一番の贈り物だったぞ)
いつしか藤堂の表情に笑みが浮かんでいたが、四聖剣は目の前の料理と祝いの言葉に対する笑みだと思った。
了
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作成 2008.04.08
アップ 2008.04.08
★由香様へのリクエスト作品★
(玉城×ルル<--騎士団+a)
そんな彼等を正気づかせたのは、玉城の行動だった。
いつの間にかゼロの背後に回っていた玉城は、後ろからがばぁっとゼロを抱きしめたのだ。
「「「「「「‥‥‥なッ‥‥‥!!!!!」」」」」」
「こいつはおれのだ。手前等にはやらん。手を出すな」
「‥‥‥耳元で喚くな。わたしの鼓膜を破る気か?」
何とか正気に戻ったゼロが、氷点下の声で玉城に注意した。
いや、ゼロ。耳元で喚いた事だけですか?抱きついている事も注意して引き剥がさないんですか?
言いたいのに言えない言葉と言うのは、確かに存在するのだと、この時初めて気付いた者もいただろう。
「‥‥ならゼロは手を出されても良いってのか?」
「誰がそんな事を言った?わたしは煩いのは嫌いだと言っている。もっと判りやすく言う必要があるか?」
「‥‥‥‥‥‥ない。この体勢で喚かなければ良いんだろ」
「まだ煩いな。もっと声を落とすか離れるかどちらかにしろ」
「‥‥お前さ、ゼロ。もちっと愛想良くならねーか?」
極力声量を抑えた玉城が、呆れ口調で抗議する。
「この場所で?みんなが唖然として見ているのに?」
「あ、やっぱ良いや。愛想の良いゼロをこいつらに見せるのもやだしな」
「る‥‥じゃなくて、ゼロ。聞きたい事が有ります!」
ゼロと玉城の密着した状態での会話に、カレンが勢い良く割り込んだ。
「‥‥なんだ?カレン」
「‥‥‥‥玉城は、る‥‥じゃなくてゼロの表での名前を知っているの?」
カレンの口調は既にルルーシュに対するそれになっていて、幹部達が奇異の目をカレンに向ける。
「‥‥わたしが、教えると思うのか?」
ゼロが訊ね返し、カレンはホッとしながら、ぶんぶんと首を横に振った。
「ならば当然玉城は素性も知らないのだな?」
次にそう尋ねたのは藤堂だった。
「あらぁ?そういうカレンは名前を、藤堂は素性を知っているのかしらぁ?」
面白そうな口調と態度のまま、ラクシャータが混ぜっ返す。
「‥‥そうだな。表の名前を知っているのはカレンだけで、素性を知っているのは桐原公を除けば、藤堂とラクシャータだけだな」
「って、おれだって知らないってのに、なんだって奴等が知ってるんだよッ」
「喚くな、と言ったはずだぞ、玉城。‥‥離れろ。‥‥それとも」
ゼロが不機嫌そうにそこまで言うと、玉城は「悪かったッ」と言ってパッと離れる。
「てかカレン。ゼロを知っているのか?」
「藤堂さん。どうしてゼロの素性を知っているんですか?いつ知ったんですか?」
「ラクシャータ。ゼロの素性をわたしにも教えてください」
扇と朝比奈とディートハルトが一斉に尋ねる。
「わたしが教えるわけないでしょぉ。貴方がゼロだって言うのなら、わたしはずっと貴方の味方でいてあげるわぁ。昔から気に入っていたものぉ」
「昔、会った事が有る。気付いたのは顔を見た時だ。‥‥だが、ゼロ。相手はもう少しちゃんと選んだ方が良いとおれは思うぞ?」
「‥‥どうして玉城?そりゃ、あいつよりは断然マシだけど、どうして?てかあいつにしろこいつにしろ本気で趣味悪くない?」
ラクシャータと藤堂は辛うじて質問に答えているが、カレンに至っては答えにならない声をあげている。
「‥‥別に良いだろう?第一カレンは、表でのわたしを嫌っているじゃないか」
「はぁ?めちゃくちゃベタ惚れのカレンがお前の事を嫌ってるってかぁ?」
「それはッ。誤解してたのよ。‥‥もう、誤解も解けたわ。だから‥‥嫌う理由はなくなったの。ゼロをあいつからだって守って上げるわ」
「わたしがゼロで、構わないと?」
「そう言ってるの。ただし、玉城と付き合うなんて事だけは断固阻止するけどね。それ以外なら全面的に守るわ」
「阻止するな。ゼロはおれのだ。誰にも渡さねぇからな」
「紅月さん。協力するから一緒に玉城の魔の手からゼロを守ろう」
「‥‥‥‥。ゼロ。一つ聞いても宜しいか?」
「ん?なんだ?仙波」
「いつ、玉城に素顔を?」
「あぁ、それか。『使い込みはもうしない。その代わりに素顔が見たい』と言われたのでな。条件を幾つか出した上で仮面を取った」
ゼロの返答に、玉城は一斉にその場の幹部達から鋭い視線を受けてたじろいだ。
「ゼロ。素性を知らせない気なのか?後で知られた時の事は考えているのか?」
「素性を知っているお前はどうだ?離れるか?それともいっそ、わたしを殺してみるか?」
物騒なゼロの問いかけに、ざわつく幹部達の中で、玉城がゼロと藤堂の間に入った。
「なんだそれ。お前の素性って、藤堂にとって拙いモノなのか?だからって差し出す気はねぇぞ」
「お前を含んだ全てにとって拙いと言うべきだぞ?」
「あらぁ?わたしの言葉聞いてなかったのぉ?ず~っと味方でいてあげるって言ったはずよぉ」
ラクシャータがゼロの言葉に抗議する。
「おれも。殺める気はない。それどころか、君がゼロである事に納得したし、桐原公に言われるまでもなく手を貸す気にもなる」
「だからぁ。貴方が思っているよりもぉ。貴方の事を思っている人は多いって事よぉ」
「そうだな。君の一番は何時も唯一人だけで、他に目を向ける余裕がなかったのだから仕方がないだろうが」
ラクシャータと藤堂の肯定の言葉に、カレンが入る。
「一番って‥‥あの子でしょ?‥‥間違ってもあいつなんかじゃないわよね?」
「あぁ。今もそうだろう?」
「勿論よ。傍で見ていたって判るわよ。相思相愛だもの」
わざとその単語を使ったカレンは、慌てる玉城を見てしてやったりと笑う。
「なッ。ゼロ、お前、好きな奴がいるってのか?しかも相思相愛だとッ。んな話聞いてないぞ」
「身内の話を何故しなければならない?そんな条件はなかったはずだが?」
「へっ?‥‥‥‥まさか結婚してるのか?」
「ばかか、貴様は。何故そうなる?」
「藤堂さん、誰の事ですか?あの子って。まさかC.C.なんて事は‥‥」
「妹よ、妹。あんなピザ女じゃないわよ‥‥。あ」
思わずツッコミついでにばらしてしまったカレンは声をあげて黙りこむが、勿論みんなしっかり聞いている。
「ゼロッ。玉城やめておれにしませんか?おれと付き合ってよ」
「あ、抜駆けはダメです、朝比奈さん。ねぇ、わたしと付き合いましょう。一番長く一緒にいられるわよ」
「だぁ~~。朝比奈、それにカレン。言ったはずだぞ、ゼロは渡さねぇって。散れ!」
「あんたになんて聞いてないわ。ゼロ。答えてください」
「あー‥‥悪いな、カレン。それに朝比奈。‥‥まぁ、玉城が約束を反故にするまでは切る気はないんだ。‥‥今のところはな」
「「気が変わるまで、待ちます。てか変えてみせますッ」」
気を変える気のない二人に、玉城が切れた。
「ほぅわっ。‥‥てか何をする玉城」
いきなり抱きあげられたゼロは、奇怪な声を上げた後、玉城に抗議するも、玉城は無言でその場から逃げを打った。
「あっ、待ちなさい玉城ッ。ゼロを離せッ!!」
「そうです。わたしのゼロをッ」
「ってあんたも便乗するのやめなさいな。ディートハルト」
「‥‥‥‥仙波、卜部、千葉。幹部以外に見つからないように手配しろ。それと朝比奈をつれ戻せ」
「「「‥‥承知‥‥」」」
藤堂の指示に、3人は渋々返事をして、行動を開始した。
了
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作成 2008.04.06
アップ 2008.04.07
★由香様へのリクエスト作品★
(玉城×ルル<--騎士団+a)
扇は数枚の紙ペラを手に途方に暮れていた。
ローテーブルを挟んだ先にはゼロが座って書類に目を通している。
声を掛けなければならないのはわかっているのに、扇は二の足を踏んでいた。
「‥‥扇さん?どうしたんですか?」
カレンの訝しげな声にハッとするとゼロもまた扇を見ていた。
「‥‥その紙が何か問題なのか?」
ゼロに問い掛けられ、扇は観念して「その‥‥」と言いながら持っていた紙を差し出した。
受け取ったゼロは紙に目を通し、バサリとローテーブルの上に投げ出した。
次に来る言葉を予測した扇は身構えたが、言葉は降らなかった。
それまで見ていた書類だけを揃え、手にして立ち上がったゼロは、扇が渡した紙には目もくれず逆に扇に懐から取り出した用紙を渡した。
「読んでおけ」そう言い残すと自室に引き上げて行った。
思わず背中を見送った扇は受け取った用紙を見た。
ローテーブルに放置されたままの紙に興味を持ったカレンはそれらを拾いあげた。
「‥‥‥‥‥‥。なッ、ちょっとどういう事よ、この額は!聞いてるの?玉城!あんたに言ってるのよ!」
カレンはそれが何かを悟ると素早い動きで目を通して計算し、青くなって怒鳴った。
井上がカレンの手元を見て絶句した。
「な、なんでぇ。いつもの事じゃねぇかよ」
「いつもの、じゃないわよ。ゼロだって呆れて行っちゃったじゃないの」
カレンと玉城はいつもの如く言い合う。
「‥‥玉城。この額、払えるのはゼロくらいだ。これが最後だとでも泣き付いて払って貰って来い」
扇が言うと旧扇グループ達が口々に同意した。
流石に勢いに押された玉城は、渋々ゼロの部屋に向かった。
カレンはこっそり、扇に声をかけた。
振り返った扇はカレンの手にあるそれに渋面を作った。
「玉城‥‥か?」
「‥‥多分」
カレンの返答に扇は頭を抱えた。
『二度としないならば良し。次はないと思え。注)玉城には黙っていろ』と書かれていたゼロからの手紙が扇の脳裏を駆け巡っていた。
それでも黙っている事も出来ず、扇は玉城の弁護をするつもりで請求書をゼロに見せた。
「‥‥誰のだ?これは」
ゼロが苦い声音で問う。
それを聞いた扇は驚く。
扇が何をゼロに見せたのかを知っている幹部達もまた驚愕した。
無駄遣いなんて犯人は玉城しかいない事を彼等は知っているからだ。
誰かが「玉城が」と呟き、ゼロの耳にも届く。
「違うな。これはあれではない」
しかしゼロはきっぱりと否定した。
「えと、ゼロ。そう言い切る根拠は‥‥?」
扇が遠慮がちに尋ねる。
「本人に聞けばどうだ?‥‥玉城」
ゼロがそう呼び掛け、幹部達は一斉に振り返った。
「おれじゃねぇよ。誰だ?おれ様に罪をなすりつけようとしてる奴はッ」
玉城は憤慨してがなるが、本当に濡れ衣なのだとしたら当然だろう──とてもそうは思えないが。
「自業自得だな。日頃のおこないが悪いからそうなる。‥‥ディートハルト。真犯人を見つけておけ。‥‥それとも既に報告するだけか?」
玉城に一言言ったゼロは、ディートハルトに指示を出す。
「確かにすぐにでもご報告できますが、‥‥。ゼロは何故、玉城ではないと?」
あっさり頷くディートハルトに玉城が沸騰する。
「ッな‥‥ディートハルト、テメッ」
「煩いぞ、玉城。‥‥玉城には既に言ってあるからな。‥‥次はない、と」
吼える玉城を一言で黙らせ、ゼロは説明した。
「‥‥あの、ゼロ。‥‥玉城がそれを守るって信じてるんですか?」
簡潔なゼロの言葉に、カレンが信じられない思いで、恐る恐る尋ねると、ゼロは「勿論」と答えて玉城を見た。
「ふッ‥‥守るだろう?‥‥なぁ?玉城」
「あ、あぁ。勿論だぜ。嘘はつかないって言ったんだから、それはやめろ」
玉城が、焦りながら応え、カレンを始め、その場にいたものは「それ?」と首を傾げた。
いつもの人をバカにしたような笑声に続き、試すような声音になったゼロの問いかけ、ただそれだけのはずなのに、と。
「惚れた一念というのだったか?」
唐突にC.C.の声が聞こえ、幹部達の心臓がドクンと跳ねたが、それよりも、しーつー、今何を仰いました?
突然現れたC.C.がにやにやと人の悪い笑みを浮かべながら、そんな爆弾を落とした。
「C.C.。そう言った事を人前で言うのはよせ。混乱を招くだけだ」
ゼロが厭そうな声で「共犯者」に注意すると、それに便乗するかのように玉城も文句を言う。
「テッメェには関係ないだろうが」
「煩いんだ、貴様は。‥‥それにわたしはゼロの『共犯者』だから、関係はあるぞ。まさかここまで趣味が悪いとは思わなかったな」
「ちょ‥‥‥っと待って!C.C.、惚れた‥‥って玉城がゼロに‥って事?それに、‥‥趣味が悪いってまさか‥‥‥ゼ、ゼロも!?」
動揺しまくったカレンが否定して欲しいと願いつつ、確認せずにはいられないといった様子でC.C.に尋ねた。
「ゼロに話すなと言われたので話せないな」
「ピザ5枚!!」
「玉城がゼロの素顔を見て一目惚れしたんだ。惚れた一念で、約束を違える事が出来なくなっているようだな」
「C.C.。いつも言っているだろうが。ピザでわたしを売るのはよせと」
「ッてめ、何あっさり暴露してんだよッ!?」
ピザに釣られてあっさり白状したC.C.にゼロと玉城が抗議するが、幹部達は突破口を見つけてキラリと目を輝かせた。
当然ながらゼロの判断ミスである。
「C.C.2枚進呈しよう。ゼロも玉城の事を?」
「そうだ。かなり気に入っているようだぞ?」
「まさか、付き合ってるの!?‥‥ピザ5枚!」
「てか玉城が一目惚れってゼロの素顔が気になる。C.C.ピザ10枚で」
「ゼロの素顔か‥‥。かなり美人だぞ?男女共に、毎日のように告白しに来ているからな」
更にピザを餌に質問を続ける幹部達だが、ゼロが冷ややかに告げた。
「お前達に、そんなにピザを買う金があるとは知らなかったな」
ピタリ、と沈黙が落ちる。
「‥‥貴様等。今言った枚数は必ず取り立てるからな。それと‥‥これはオマケだ」
静寂になった事に、ゼロはホッとして、一瞬油断していたところを、C.C.に見事につかれた形になった。
素早い動きで仮面の止め具を操作して小さな機械音を立てたかと思うと、C.C.はゼロの仮面をスポンと取り外したのだ。
ゼロは、固まった。
幹部達も固まった。
C.C.は持っていた仮面を再びゼロに被せると、固まったままの一同を残してゼロの部屋に引き上げていった。
そんな、違うはずなのに、どうしてあの顔が、てか彼なら確かに一目惚れってありえるけどでも違うはずで‥‥‥。
ぐるぐると考えが無限ループを起こしているカレン。
面影が残っている‥‥‥確かに彼ならばゼロだったとしても不思議ではないが‥‥しかし、いくらスザク君が敵になっているとはいえ‥‥。
藤堂もまたそう考え、玉城を選んだのだとしたら‥‥とその選択にのみ疑問を持った。
綺麗だったな、ゼロってホントに美人なんだ‥‥、でも玉城が??いや、諦めていたら始まらないよね、それにきっとまだ遅くはないだろうし?
朝比奈もまた一目惚れ状態で今後の計画を練る。
なんて素晴らしい。流石ゼロ。信じてはいたが、まさかここまで整った顔を有していたとは。最早彼以上の被写体など存在しない。一生彼について行こう。
一人でそんな結論をつけたディートハルトは、うっとりと既に仮面をつけた状態になっているゼロを見ていた。
他の幹部達もまた、ゼロの美貌に、陶酔状態で「一生ついていきます!!」と心の中で何度も叫んでいた。
後編に続く。
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作成 2008.04.06
アップ 2008.04.06
※「一つの解答」の続きです。
藤堂がカレンに近づいた時、みな少し期待したのだ。
「後で」と言いながら、説明を始めないカレンに痺れを切らせて抗議に向かったのではないか、と。
だが実際は、何事か話をした後、カレンは紅蓮に駆け込み、藤堂はスルスルとガウェインを昇って、そのコックピットに収まってしまったのだ。
「‥‥ッて、良いのかおい」
玉城がガウェインのコックピット辺りを指差しながら、他の幹部を振り返る。
「良いんですよ。藤堂さん、ゼロに呼ばれてましたから」
答えたのは朝比奈で、月下に乗ったまま近づいてきていた。
「って、朝比奈さん!?なんで月下?」
紅蓮に乗ったままのカレンが月下を運んでくる朝比奈に驚く。
「ん?藤堂さんのお手伝いをしようかとー」
「ゼロに頼まれたからそれは紅蓮でやるわ。朝比奈さんは少しみんなを退けておいて」
「‥‥てさぁ。ゼロが降りてくるってだけで、そんなに警戒するもん?まさか仮面してないとか言わないよね?」
朝比奈の言葉にみんな驚いて紅蓮のカレンを見上げる。
注目を浴びたカレンはここで初めて動揺した。
「‥‥‥‥‥え?‥‥さぁ。あ、でも藤堂さんが入っていったんだから、仮面はしてると‥‥思うけど?」
「じゃあ何故?‥‥それに、あの車椅子、まさかゼロが使うなんて事はないよねぇ?」
「違います。あれはッ‥‥。てか話してる場合じゃないでしょ。何故藤堂さんだったのか知らないけど、人呼んだ以上降りてくるんだから」
カレンが話を打ち切り、藤堂の名前が出たので朝比奈も突っ込むのをやめる。
二人のやり取りを見上げていた幹部達は、「そのまま勢いで暴露話とかしないかな」とか思っていたので落胆した。
ガウェインのハッチが開き、藤堂が顔を出した。
「藤堂さん。下まで運びます。‥‥えっと、二人、ですか?」
カレンが紅蓮の手のひらをコックピットに近づけながら言う。
「紅月か。あぁ、頼む」
藤堂がゆっくり立ち上がると、黒い布が広がった。
それはどうみてもゼロのマントで、誰もが、「藤堂さんがゼロを抱えている!?」と目を疑ったのは言うまでもない。
だが藤堂が紅蓮の手によって移動している間に、コックピットから出て来たゼロがマントをつけていない事に気付いて何故かホッとした。
ホッとしてから、「ではゼロがマントを貸し、わざわざ藤堂を呼んでまで運ばせたのは誰だ?」と言う疑問が浮上する。
「‥‥ん?朝比奈か。丁度良い。それの手を貸せ」
ゼロのその言葉に、過剰に反応した者が二人いた。
ナナリーを抱えた藤堂を無事地面に降ろしたばかりのカレンと、地面に降り立ったばかりの藤堂が、バッとゼロを振り仰ぐ。
二人はやはりどこか具合が悪いのかと思ったが、ナナリーがいるところで、迂闊な事を言えば、余計な心配をさせたと怒らせるだけなので言えなかった。
「朝比奈、貸してやれ」
代わりに藤堂は己の部下に指示を出した。
そこでやっと朝比奈が月下を動かした。
その間に藤堂はそっとナナリーを車椅子に座らせると、カレンを見上げた。
「‥‥頼めるか?」
「勿論よ」
カレンは言われるまでもない事だと思いながら返事をすると、今度は紅蓮の姿勢もそのままでコックピットから下りて来た。
カレンが車椅子を押してその場を離れるのを見ながら、ゼロは藤堂の前に降り立った。
「怪我をしているのか?それとも具合が悪いのか?」
先に藤堂が尋ねた。
「‥‥怪我をしているのはお前だろう、藤堂」
「なら、具合が悪いのか?」
ゼロが左手で仮面の上から頭を押さえているのを気にして藤堂は問いを続ける。
「‥‥耳鳴りがするだけだ。‥‥今から止めて来るさ」
ゼロの回答に、「はぃい??」と幹部達が意味を図りかねて思わず声を出す。
「何処に?」
「『オレンジ君』のところだが?今C.C.と口論になって敵に傾きかけているようなんでな。煩くて敵わない」
さも当然の事のように言うゼロは、耳鳴り(言い争い)が煩すぎて自分にしか聞こえていない事を失念していた。
さらっと「オレンジ君」と言ったゼロに、一同恐怖を覚える中、藤堂がゼロの腕を取った。
「付き合おう。万が一の場合、あっさり君を殺されるわけにはいかないからな」
「‥‥良いのか?『オレンジ君』の戦闘能力はかなり高いぞ?」
「あぁ、平気だ。が出来ればその禁句は口にしないで欲しいものだな」
抵抗なく頷く藤堂に、慌てたのは朝比奈である。
「ぅわ、藤堂さん、怪我してるって事忘れないでくださいって。おれも行きますよ?行きますからね」
かなり慌てて、月下から駆け下り、既に歩き始めているゼロと藤堂の後を追いかけた。
コンコンと扉をノックすると、内側から開いて咲世子が顔を出す。
「お嬢様ッ。よくご無事で‥‥」
「じゃあ、咲世子さん、後はお願いできますか?」
カレンは車椅子を咲世子に託し、自分はさっきまでナナリーにかけていたゼロのマントだけをその手に持って言う。
「はい。お任せください。‥‥ありがとうございました、カレンさん」
頭を下げる咲世子を見て頷いてから、カレンはそのまま踵を返した。
了
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作成 2008.03.12
アップ 2008.04.05