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※「恐怖と勝敗、そして...」の続きです。
生徒会室で。
赤いパイロットスーツを着たカレンは、生徒会のメンバー(ミレイ、リヴァル、シャーリー、ニーナ)と向き合っていた。
「‥‥今頃何しに戻ってきたのかなぁ?カレンさんは?」
リヴァルがおどけた声でまず口を開いた。
重たい雰囲気に耐え切れなくなったとも言う。
「幾つか言いたい事があって」
「‥‥座って良いかしら?落ち着いて話を聞いた方が良さそうだし?」
ミレイが応じる。
カレンが頷くと、みんなに指示を出してそれぞれ椅子に座った。
「どうせなら部屋の外にいる団員もどけて欲しいくらいだけど?」
ミレイの言葉に、カレンは扉に近づいて開く。
外に待機していた団員が、ハッとしてカレンを振り返った。
「お前達は建物の周りで警戒してろ。ここは良いから。‥‥ここと、隣の建物とね。後は学園の周囲を。軍は入れるな。今度こそ」
「ちょっ、待ってカレンッ!」
隣という言葉に、ミレイは悲鳴を上げる。
「咲世子さんに用があるんです。‥‥何してる、良いから行って」
「「はッ」」
バタバタと駆け去る足音を聞きながら、カレンは扉を閉めた。
「聞いて良い?咲世子さんに何の用があるっていうの?」
低い声でミレイは尋ね、振り返ったカレンはミレイを見たが、その問いを黙殺した。
「‥‥まず、苦情を言って良いかしら?どうして枢木スザクを助けたのか。何故、白兜を解き放ったのか。みんな、白兜にここから追い払われたって言っているわ」
「ゼロの黒い機体が建物を背後にして戦ってたからよ。そしてスザクの白い機体が撃たなかったから」
「‥‥余計な事をしてくれたわよね。おまけに、その作業にかまけてナナリーちゃんを一人にしたんでしょう?驚いたわよ、誘拐されてたって知った時は」
カレンのその言葉に、ミレイもリヴァルもシャーリーもニーナも、それぞれ視線を逸らして俯いた。
「スザクが騎士団を追い払わなければ、貴方達が彼女の元を離れなければ、そう思うわ」
「‥‥待ってカレン。あなた今、『誘拐されてた』‥‥って言ったわよね?じゃあ」
「ええ。救い出したわ。学園を守る。そう言ったのはこちらだったし。‥‥お陰で騎士団の団員にかなりの被害が出たけれど」
「何処にいるの?無事なのね?」
「来る気ある?咲世子さんには来て貰わないとだけど。会長達に強制するつもりはないの」
「行くわ。勿論。連れてってくれるんでしょ?ナナちゃんのところへ」
ミレイはキッパリと言い切る。
「ちょっ会長。そんな即答ですか!?そりゃ、ナナリーちゃんの事は心配だけど‥‥危なくないっすか?」
リヴァルは驚いた。
「目を離したのは確かよ。わたしにはナナちゃんの無事を確かめる義務があるのよ。貴方たちにまで来いとは言わないけどね」
「いや、勿論行きますよ、おれは。唯一つだけ。今戦況?ての?どーなってるんすか?」
ミレイの決意を聞いたリヴァルは行く事を決め、それでも気になる状況をカレンに尋ねる。
「わたしがここに来た事で察してると思ったけど?ブリタニア軍は租界から撤退したわ。政庁の一部にまだいるらしいけどね」
「らしい‥‥って、あなたも戦ってたんじゃないの?あの赤いナイトメアで」
「‥‥そのハズだったのだけど。租界を離れてたのよ。そう、ついさっきよ。ナナリーちゃんを連れて租界に戻って来たのは」
「ヘッ?‥‥じゃあ、ナナリーちゃんを助けたのってカレンさんだったのか?」
リヴァルの驚きはもっともで、赤い機体が精鋭中の精鋭だと言う事は一目でわかるからだ。
それを戦場から離してまで一人のブリタニアの少女を助けようとしたのだと言う事に、驚いたのだ。
「わたしと‥‥後二人。一人はゼロ、よ。そしてその邪魔をしに現れたのが白兜って言ったら信じる?」
「「嘘ッ!?スザクが?」」
シャーリーとニーナが驚きの声を上げた。
「扉の前に立ちはだかって妨害してくれたわ。‥‥捕まえて簀巻きにしてるけど。‥‥今度は逃がさないでね」
カレンの声に暗い響きを感じ取った一同はコクコクと頷いた。
「良いわ。咲世子さんにも連絡して、みんなで行くわ。安全は保障してくれるのでしょう?」
「勿論。約束するわ」
ミレイの言葉に、カレンはしっかりと頷いていた。
『‥‥おい。本気で少しかかるぞ、お前等。先に手当てして来い』
ガウェインの中から、C.C.の声が聞こえる。
「何に時間を取られている?‥‥第一、おれ達が説明を求めるのは間違ってはいないと思うが?」
藤堂が声に出して尋ねる周りで、四聖剣や他の幹部、団員達がうんうんと頷いている。
『確かに間違っちゃいないな。だが、カレンが後で説明すると言っていたはずだな?カレンの説明で判らない事があれば聞きに来れば良いだろう?』
「カレンは出かけている」
『そんな事は知ってる。‥‥なんなら、今ここで禁句とやらを言っても良いぞ?』
ズザザザッと騎士団員がガウェインと「怪物」から離れる。
「捨て身の戦法だね~‥‥」
そう評した朝比奈の声は明るいが、作った笑みは引き攣っているし、たらりと汗も掻いていた。
『煩いぞ、C.C.。もう少し静かに出来ないのか?』
小さくゼロの声が回線に割って入って来て、団員達の身がピシッと引きしまった。
『あぁ、もう。いつまでもやってろ。わたしは先に降りるからな』
C.C.の宣言と共に、ガウェインのハッチが開いた。
それぞれに伸び上がるようにして中を覗こうとしていたが、離れていた事もあって、しかと見る前にC.C.が出てきて再び閉ざされてしまった。
C.C.がひょいとガウェインから飛び降りる。
それからスタスタと団員達の間を抜けて、「怪物」の前に立った。
「おい、貴様。降りて来い。それとも『疑惑の名前』とやらを呼ぶか?」
『おぉぉぉぉお。呼ぶハ危険!!今降りませ』
「アイツはわたしが預かる。ラクシャータを呼べば喜んで調べるだろう」
「えぇ、勿論喜ぶわよぉ。勝手に見てもいーのかしらぁ?」
「好きにしろ」
プシュー‥‥と音を響かせて開いたコックピットから、メカオレンジが現れた。
生身の姿を見るのが初めてな騎士団員達は、その変わりように驚いた。
「「「‥‥‥‥なッ‥‥」」」
「あぁ、念の為に言っておくが、禁句とやらの効果は生身の方が強いらしいから気をつけた方が良いぞ」
「「「「「「「そ、それを先に言え先に!!」」」」」」」
団員の大半による非難の大合唱が高々と響き、より遠くに下がり、動かなかった藤堂と四聖剣、ラクシャータはやれやれと溜息を吐いたのだった。
了
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作成 2008.03.08
アップ 2008.03.25
千葉が騎士団のアジトに辿り着いた時には、既に予定の時間を大幅に過ぎてしまっていた。
格納庫では出発の準備の為か、みなアチコチで忙しく動き回っている。
「千葉さ~ん。こっち、こっち~。遅いですよ~。急いで急いで」
目敏く見つけた朝比奈が、手を振りながら千葉を呼ぶ。
「すまない、遅くなった」
「みんな心配してたんですよ~。藤堂さんもとっても気にしてたしぃ」
言われて月下を振り仰ぐと、既に藤堂の隊長機はトレーラーに積み込まれた後だったらしく見当たらなかった。
二機の月下、仙波と卜部がトレーラーに積み込もうとしているところなのだろう、見上げる千葉に気づいて月下の片手が振られた。
「さ、おれ達の月下も積み込みましょう。藤堂さんは今は扇さんと話してるところだから報告は後、後」
「‥‥そうだな」
朝比奈の言葉に、肯いた千葉は己の月下に向かって駈け出した。
移動中、中佐から注意を受けたが、あまり厳しいものではなかった。
と、いうのも、リーダーであるところのゼロ本人から、「間に合わないので途中で合流する」との連絡が有ったからだそうだ。
その余波というわけでもないが、「あまり怒らないように」と中佐は扇さんに言われたらしい。
「すみません、以後気をつけます」
しかし、悪かった事は認めるし、反省もしているので、素直に詫びを入れる。
「けどさー、何かトラブル?結構時間かかったよね?」
「あぁ。‥‥『なごみ』が場所を移していて‥‥、少し迷った」
「ん?どこまで行って来たのだ?千葉‥‥」
訝しげに仙波大尉が訊ねる。
「‥‥租界の入り組んだ先の方。D3辺りです」
「げ。あのオヤジ、んなとこまで移動してたのか?‥‥にしては戻るの早くないか?途中で諦めた‥‥わけでもなさそうだし?」
卜部さんが驚きながらも、わたしが持っていた紙袋を指して首を傾げた。
「‥‥途中で良い案内に出会ったから‥‥」
わたしはそう応じてから、彼は予定に間に合ったのだろうか、と考えた。
一時間ならと言っていた彼に、倍以上の時間を費やさせてしまったのだ、和菓子一つでは割に合わなかっただろう。
「‥‥にしては浮かない顔だが。何か嫌な事でも有ったのか?千葉」
仙波大尉に問われて、わたしはゆっくりと首を振った。
「いえ‥‥、なんでもありません」
そう答えてから俯いたわたしは、そっと視線を交わす同僚に気づかなかった。
「扇、わたしだ」
『ゼロッ、今何処だ?そろそろ出発の時間なんだが』
「すまないが、わたしを待たずに出発してくれ。時間までに間に合いそうにない。途中で合流する」
『えッ‥‥。何か、有ったのか?』
「‥‥少し表でトラブルが生じただけだ。大した事じゃないが、時間を取られてしまった。‥‥すまないが頼む」
『‥‥わかった。合流って‥‥どの辺りになりそうなんだ?』
「そうだな。‥‥恐らくは現地付近になると思われる。‥‥合流の際にはC.C.に連絡を入れるから行き違いにはならないだろう」
『わかった。気をつけて来てくれ』
「そうしよう。では切るぞ」
ルルーシュは通話を切ると、深い溜息を吐いた。
帰りが殊の外遅くなって、ナナリーに心配をかけてしまった。
そのナナリーを宥めるのに更に時間を費やし、気付けばアジトでの合流が不可能な時間になってしまっていたのだ。
この時ふと、「この分では千葉もまた出発時間ギリギリだったんじゃないだろうか?」と心配になった。
まぁリーダーのゼロ自身が間に合わないのだからそんなに強く怒られる事はないだろうが、と思う事にしておく。
学園を出て、通りがかった車を拾い、ギアスを掛けて目的の場所まで送らせるのは造作もない事だ。
その間、C.C.と連絡を取って、少々先行した辺りで、車を降り、「ゼロ」になって騎士団の到着を待つ。
乗り捨てた車の運転手は、どこか適当な辺りまで走ってからギアスから覚めるだろう。
「ゼロ」
C.C.の声が聞こえ、顔を上げると、頭だけを指揮官用に変えた無頼が近づいてきていた。
「すまなかったな、C.C.」
「これきりにして欲しいな。‥‥とりあえず、ピザ三枚だぞ」
C.C.の言葉に、ゼロは仮面の下で顔を顰めたが、表に出しては頷いただけで留める。
とりあえず、移動が終わるまではと、ゼロを肩に乗せた無頼はC.C.の操縦で騎士団の隊列に戻って行った。
作戦は一応の成功を収めた。
ブリタニア軍の補給基地を叩き、出張って来た枢木スザクの乗る白兜をカレンの紅蓮弐式と零番隊が足止めした。
扇が率いる部隊がラクシャータが希望した物資の強奪をする中、残存兵力を藤堂以下他のメンバーが叩いたのだ。
ほぼ、ゼロの立てた計画通りに進行したと言って良いだろう、今回の作戦で。
ゼロの予想外の事が一つ起こっていた。
各人の能力までを計算に入れているゼロの予測に反して、千葉がミスを犯したのだ。
近くで行動していた四聖剣が、なんとかカバーしたから致命的な事態に繋がる事はなかったのだが、ミスはミスだった。
唯でさえ集合時間に遅れていて、叱責を受けていたというのに、重なる失態に、当の千葉だけでなく他の四聖剣もまた色を失くしていた。
敵のナイトメアフレームを追う四聖剣の月下‥‥。
それがふと別の景色と重なってしまい、千葉は月下の制御を乱してしまったのだ。
それに隙を見出した敵は反転して攻撃に移り、千葉の月下を弾き、そのまま逃走しようとしたところを、仙波と卜部の月下が回りこんで倒していた。
朝比奈は他の機体の背後に回って退路を断ち、戻った仙波と卜部と一緒になって殲滅したのだが。
ゼロの作戦では、そのまま追って行き、先で待ち伏せしている隊と連携して囲いつつ殲滅の後、更に前進して別の隊に合流するというものだった。
四聖剣が、留まって敵の一部隊を殲滅した余波は、待ち伏せ隊の不安を煽り、次の行動に移るタイミングを計る術を奪う。
それは別動隊を孤立させかねない可能性を含んでいた。
いち早い仙波の連絡により、ゼロと藤堂が咄嗟にそれぞれの隊へ連絡を入れた為、どちらも作戦通りに進行する事が出来、全体への影響は消えていた。
四聖剣もそのまま速度を増して、何とか別動隊への合流を果たす事が出来もした。
それでも藤堂も四聖剣もミスはミスだと認めていたし、不測の事態に弱いゼロもまた事の重大さを理解していた。
それが、アジトへの帰路、藤堂と四聖剣が乗るトレーラー内での会話を奪っていたのだ。
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作成 2008.02.11
アップ 2008.03.24
「七年前、おれが会ったのは一人だけだ。だからこそ、双子だと言う事も知らなかった‥‥」
藤堂は同じ顔と同じ「ルルーシュ」と言う名を持つ二人、ゼロと枢機卿に尋ねられてそう切り出した。
「‥‥それで?それをゼロの方だと断定するのは何故かな?」
シュナイゼルはそれにもまた面白そうに先を促す。
「おれの会ったルルーシュ君は、妹君の事を全力で守ろうとしていた。‥‥今のゼロのように、だ」
藤堂は迷いもなく、そう言いきる。
「‥‥まるで、わたしがあの子の事を守っていないとでも言いたいようだね」
『ルルーシュ』は心外とばかりに訊ねる。
「ゼロが言っていたな。『‥‥あの時、皇女のみを狙った理由は、返り咲きを目論んでいた為ですか?』と。皇女とは妹君の事だろう?」
「君はそれを否定しなかった」と藤堂は厳しい目を『ルルーシュ』に向けた。
『ルルーシュ』は笑みを浮かべる。
「『初めまして、藤堂鏡志朗』‥‥と言うべきか?確かに、七年前、わたしが会った日本人は枢木の家の者だけだった」
ゼロは答えず、フイッと顔を背けただけだった。
「では桐原公に会ったのも、ゼロだけだな?‥‥枢木スザク‥‥は?」
千葉が確認するように問いかける。
「枢木スザクが親友と思っていた相手は、このわたしの方だよ。ゼロではなく、ね。‥‥そうだろう?ゼロ」
変わらない笑みで『ルルーシュ』が告げると、カレンはハッとしたようにゼロに視線を向ける。
学園で、ルルーシュ・ランペルージは枢木スザクを友人として遇していたのに?と、訝しげな視線になっている。
ゼロは、どこか諦めたように深い溜息を吐いた。
「‥‥‥‥その通りですね。‥‥スザクは我々の見分けはついていなくて同一人物だと見ていたようですけど‥‥」
「だろうね。あいつは表面しか見ないから、それだけで第十一皇子をわかった気になっていたからね」
「‥‥‥‥それで親友?おかしいでしょ、それは。それに、だったらゼロだって同じなんじゃ?」
朝比奈が首を傾げて『ルルーシュ』に意見した。
ゼロは朝比奈に視線を向けると肩を竦める。
「スザクと会う時は常に片方ずつ‥‥あいつも双子だと知らない。‥‥『ルルーシュ、スザクとは仲良くなった。そのつもりで』‥‥そう言っていましたね。‥‥兄上は」
「わたし達が別々の反応を返せば、双子である事も、その双方共に来ていると言う事も知られてしまうからね?合わせる必要が有っただけ」
「スザクと喧嘩をしたのはわたし、仲直りをしたのは兄上。‥‥いつもそんな感じだったのは確かですね」
「そう。君はいつもスザクを怒らせてばかりいて‥‥。けれどスザクが折れて謝る時はいつもわたしだったからね」
「えっと‥‥。ゼロが弟?なら、七年前に日本に来たのは三人で、ブリタニア本国に帰ったのは一人だけでそれが兄のそいつ‥‥って事なのか?」
扇が確認の為、整理しながら言ってみる。
「その通りだ、扇。我々が双子だった事を知っているのはとても少ない。日本では枢木ゲンブだけ。だから兄上が本国に戻った事を知る者はいなかった」
「そう、ゼロ、君以外は。本国でさえ、亡き母上を除けば、妹と‥‥。このシュナイゼル義兄上だけなのだから」
「‥‥アッシュフォードの者も知っていますよ。あそこは母上の後見だったのですから」
「父であるブリタニア皇帝すら知らない秘事。お陰でゼロ、君が勝手に宣言した皇位継承の放棄を取り消すのにとても苦労したけれど」
ゼロと『ルルーシュ』とによって、さらさらと語られる話に、ついていけなくなって朝比奈がキレた。
「ちょ~~~~っと待った~~。なんか話が随分とそれまくってませんか?今のおれ達の仕事は第二皇子シュナイゼルを捕らえる事だったはずだし」
「そりゃ、ゼロの素性とかいきなり知っちゃって驚きまくりはしたけども」と言い訳しながら、朝比奈は一同に訴える。
「‥‥わたし達を捕まえると?それでどうするつもりかな?父上への人質に、と思っているのなら無駄だよ?」
シュナイゼルはそれでも笑みを絶やさない。
「兄上。‥‥シュナイゼル義兄上にも、ここで投降していただきます。わたしの目的は、ご存知でしょう?」
「‥‥クロヴィスにユーフェミア、それにコーネリア。三人の皇族を、異母兄弟を殺してきたゼロ。勿論、知っているよ?母を殺された、その復讐だね?」
シュナイゼルは平然と殺された異母弟妹達の事を口にした。
「おかしいね。わたしよりも君と仲の良かった兄弟ばかりじゃないか。まぁ彼等しかこのエリア11に来なかったからかも知れないけど?」
『ルルーシュ』もまた、何でもない事のように笑みを浮かべたままに言う。
「‥‥‥‥。今また一人や二人追加されたところで、咎に違いはありません。‥‥速やかに停戦し、投降してください」
ゼロは銃を構えなおし、再度投降を呼びかける。
「ゼロ。‥‥‥‥知っているだろう?」
スッと笑みを消したシュナイゼルが、低い声音でゼロに問う。
それに合わせるかのように、『ルルーシュ』の表面からも笑みが失われた。
「‥‥ブリタニア皇帝の事ですか?‥‥弱者に優しくないあの男の事ですから、投降すれば切り捨てられる可能性は高いでしょうけれど」
「‥‥その通りだよ。折角この地位まで登り詰めた。わたしも、猊下も。それを君は奪おうとしているのだよ?」
真顔で言うシュナイゼルに、しかしゼロはフッと笑みを浮かべた。
「御冗談を。わたしが、知らないとでも?‥‥では言い方を変えればいかがですか?」
「おやおや。そこまで気づいていたのか?流石はゼロと言ったところだろうね?‥‥良いだろう。投降はしないが、停戦は受けよう」
ゼロが何を知っていると言ったのかは不明だが、そのゼロを褒め、シュナイゼルはあっさりと前言を翻した。
そして通信装置に手を伸ばし、オープンチャンネルを開くと、そのまま声を出す。
「わたしは、神聖ブリタニア帝国、第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアです。この場の戦いは一旦わたしが預かる。よってブリタニア軍将兵は戦いをやめたまえ」
シュナイゼルはそのままゼロにマイクを差し出した。
「‥‥わたしの名はゼロ。黒の騎士団も同様だ。今すぐ停戦せよ。この場でのこれ以上の戦いは双方認めない」
マイクを受け取ったゼロは続けてそう言い、更に藤堂に向ける。
「‥‥‥‥。仙波、卜部。聞いた通りだ。騎士団を率いて、後退していろ」
藤堂が言い終わると、ゼロはマイクをシュナイゼルに返した。
「わかったね?戦闘は一時御預けだ。みな大人しく待っていなさい」
シュナイゼルは再度マイクにそう言うと、通信を切った。
「立ち話も無粋だね?ゼロ‥‥。どこかで落ち着いて話をしようじゃないか?」
シュナイゼルの提案に、ゼロは即答せずに、騎士団幹部を見る。
「藤堂、扇、カレン、千葉、朝比奈。‥‥お前達はどうしたい?」
千葉と朝比奈は目顔で藤堂に従うと伝える。
「‥‥ゼロ。主導権はどちらが持っているんだ?」
藤堂の言葉に、ゼロはくすりと笑い、シュナイゼルと『ルルーシュ』もまた「ほぉ」と感心する。
「6:4でわたし、ですよ。‥‥ひっくり返る可能性は否定できませんが」
「そうだね、認めるよ。今は君が持っているね、ゼロ。取り返したいとは思っているけれど?」
「わたしがそう簡単に渡すとでも?」
「だけど、チェスの勝負ではいつもわたしが勝っていたね?」
ゼロとシュナイゼルは穏やかに昔話をしていた。
「‥‥‥‥。良いだろう。話し合いとやらの席には、同席させて貰うぞ」
藤堂は、皇族達の様子を見ながら首肯していた。
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作成 2008.02.06
アップ 2008.03.23
──面接「ダールトン」編──
とうとう、ゼロは特例として異例の決断をした。
何しろ、ディートハルトがそれを見るなりゴミ箱行きにしたような経歴書なので、当然ながら正規の試験を通していないからだ。
ディートハルトが密かに人を介してその旨の通知を届けた。
よって、入団希望者アンドレアス・ダールトンの面接がおこなわれる事になった。
ちなみに面接官は、事情を知る藤堂とロイドをつれたゼロ本人である。
ついでに言えば、面接場所はゲットーでは有るが、騎士団とは関係のない場所が選ばれていた。
特派の主任が出奔したと聞いた時、まさか、と思った。
だがそれ以外に奴が消え失せるとは考えられず、わたしは進退を迫られていた。
特派とは第二皇子が奴の為に作ったと言っても過言ではなく、それを全て投げ出す程の「理由」など、わたしはほかに知らないのだ。
一緒に消えたランスロットが騎士団にて確認できた時、わたしは確信した。
即座に身辺を整理し、さり気なく引継ぎをおこない、心中で姫様に頭を下げた。
経歴書を作成し、何度も漏れがないか確認して、投函した。
「ホントに来たんだ~?ダールトン将軍」
ダールトンがその部屋に入るなり、特派の主任の声がダールトンの耳に届いた。
しかし、ダールトンの視線は真っ直ぐとゼロに向けられていた。
「何故、とお尋ねしても宜しゅうございますか?」
ダールトンは用意されていた椅子にも座らず、ゼロに問いかける。
途端に、スチャッとロイドは銃を取り出して照準をダールトンに向けた。
「否定とかぁ、非難とかぁ。そー言う事の為に来たんなら即座に撃つけど~?」
「その気はない。ただ‥‥。本人の口からお聞きしたいと望む事も許されませんか?」
「何故。そう尋ねたいのはわたしの方だな。コーネリアを見限ったのか?ユーフェミアを見放したのか?」
「‥‥そう取られたとしても仕方ありますまいな。‥‥唯、わたしは貴方にこそお仕えしたい、と望むのみでございます」
「ダ~メ。騎士にはぼくがなるんだからぁ~」
「‥‥藤堂。プリン伯爵を追い出すか?」
ゼロの言葉に続き、組んでいた腕を解いた藤堂が立ち上がろうとしたのを見たロイドは慌てた。
「むぅ。大人しくしてますぅ~」
「‥‥わたしの望むもの。それは、『優しい世界』。それと『母の死の真相』だ。クロヴィスは言った。『真相はシュナイゼルかコーネリアが知っている』とな」
ゼロはそう言い、「お前は何か知っているか?」とダールトンに尋ねた。
「ん~?それって暗殺しに行った時にですかぁ~?苦し紛れとかじゃ~?死にたくない為のぉー」
ロイドが首を傾げる。
「ないな。クロヴィスは『やってもいないし、やらせてもいない』と断言した。‥‥つまり奴は無関係だ」
「‥‥‥。珍しいな。君がそこまで信を置くと言うのは」
藤堂が苦笑混じりに言った。
「あぁ。‥‥クロヴィスが嘘をつく時は、かなり判りやすいからな。‥‥そう、少しも、‥‥変わっていなかったな」
声音を変えて、懐かしむようにゼロは言った。
「‥‥‥。我が君ぃ?前々からお尋ねしたかったんですけどぉ~?もしかして『奇跡の藤堂』って我が君の事知ってらっしゃるんですかぁ~?」
「ん?あぁ。バレてるな。でなければこんな話できないだろう?」
「ぼくの努力はぁ~?」
「バレてるのは藤堂にのみだからな。その点助かっているのは確かだが?」
「‥‥話がズレたぞ」
「あぁ。そうか。クロヴィスの言葉に嘘はない。ならば次はシュナイゼルかコーネリアに尋ねるだけだ。‥‥もっとも」
キッパリ言い切ったゼロは、そこで言葉を切った。
「‥‥もっとも、クロヴィスが知らないだけで他にも知っている者はいるかも知れないがな。確実なのはクロヴィスが無関係だと言う事だけだ」
断言するゼロに全く疑う様子がない事に、戸惑った藤堂が躊躇った後問う。
「‥‥‥昔、クロヴィスとは仲が良かったのか?」
その問いに答えたのは、ゼロではなくダールトンとロイドだった。
「良く、チェスをしておいででした。‥‥ほとんどクロヴィス殿下は負けてばかりでしたが、それでも足繁くお通いになられておりましたな」
「ほ~んとぉに邪魔だったなぁ~。突然やってきて我が君連れてっちゃうんだもん。ぼくは約束まで取り付けてたってのにさ~」
「それは‥‥仕方ないだろう。クロヴィス殿下は高位の継承権を有しておいででしたし、無碍にもできますまい」
昔話に話を弾ませる二人のブリタニア人に、ゼロは「これだからブリタニアはッ」と頭痛を覚えた。
「あー‥‥おれの問いのせいだが、話がまたズレたな」
藤堂もまた頭痛を覚えたのか、軌道修正を試みる。
「今一度尋ねる。ダールトン、お前は何か知っているか?」
「‥‥いえ。姫様がお調べになられていたのは知っておりますが、単独で動かれておいででして、わたしは詳しくは聞いておりませぬ」
ダールトンは首を振ってそう答えた。
ゼロは「そうか‥‥」と小さく呟くと、気持ちを切り替える為に小さく息を吐いた。
「‥‥‥ダールトン。他に軍内でわたしの素性を知る者はいるのか?」
「わたしはアスプルンド伯の出奔とランスロットの騎士団加入で気付きました。アスプルンド伯を知る者の半数は遅かれ早かれ気付くかと」
ダールトンの言葉に、ロイドは藤堂から睨まれてしまった。
「‥‥シュナイゼルとセシル、特派の連中もか。‥‥これにダールトンの出奔も重なればコーネリアとギルフォード、それにユーフェミアも気付くな」
「コーネリア姫様はその前にお怒りになられるでしょうな」
「当然だな。コーネリアは裏切りを許さないからな。特にダールトンとギルフォードには絶対の信を置いていたはずだろう?」
「ですが、貴方だけは裏切る事は出来ません。それと知って敵対を続ける事も‥‥」
「‥‥何故だ?わたしの何処を見て、そう思う?」
ゼロは訝しげな声をダールトンに投げる。
「わたしは、貴方から何度か声をかけて頂きました。初めは偶々だと思いましたが、その後も他に気づいた者はおりませんでした」
ダールトンは変わらず真っ直ぐとゼロを見ながら言い、「貴方だけです。コーネリア姫様さえ気づかなかったというのに」と重ねた。
「あ、それわかる~。けど、何度かって、そんなに体調不良するなんて軍人も大変だねぇ~」
ロイドは明るく応じ、「でもそんなに声掛けられてたなんて羨ましいなぁ~」と呟いた。
「お前の立ち位置はコーネリアの後ろだからな。‥‥しかし他にも気づいた者はいただろう?」
「いえ、全く」
「そうか?お前とプリン伯爵、それにオレンジ卿は特にわかりやすかったが」
平然と言ったゼロを見て、藤堂は「ダールトンの入団も確定か‥‥」と思い、嘆息した。
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作成 2008.03.08
アップ 2008.03.22
その時、ゼロはディートハルトに別件で用事が有り、偶々その場所を訪れただけだった。
ディートハルトはゼロの来訪に珍しく気付かず、手にした用紙を一枚ポイとゴミ箱送りにしたところだった。
ゼロは首を傾げつつも厭な予感を覚え、スタスタと近づくと、今しがた捨てられたばかりの用紙を拾った。
「ッ‥‥‥ゼロッ!?そ、それは‥‥ッ!」
いつもならばゼロの出現をディートハルトは喜ぶが、この時ばかりは心底焦った様子を隠さずに、あろう事か捨てたばかりの紙を取り上げようと手を伸ばした。
何となく予想がついていたゼロは、その前にサッと下がり、用紙に視線を落とした。
「‥‥‥‥‥‥」
無言。
見られてしまった事で、諦めたのか、ディートハルトはそれ以上の抵抗はせずに、ゼロの一挙手一投足を見守る。
「‥‥‥‥‥‥」
まだ無言。
まるで石化したかのように、身動ぎ一つしないゼロ、「もしかすると呼吸すらしてないのでは?」と不安に思ったディートハルトだが、それでも反応を待つ。
「‥‥‥‥‥‥」
それでも無言。
流石にディートハルトにも焦りが見え始め、「だから見せたくなかったのだ」と内心思うのだが。
「‥‥‥‥‥‥」
そしてやはりゼロはまだ無言を通していた。
ディートハルトに頼んでいた情報を受け取る為に、藤堂はあまり近寄らないようにしていたディートハルトの部屋に向かった。
本来ならば、ディートハルトの方がやってくるはずだったのだが、刻限を過ぎても現れないのだから、その情報が必要な藤堂が出向く必要が生じたのだ。
扉は、開いていた。
気にせず中を覗き、藤堂はその光景に驚いた。
ゼロが立っている、がゼロとて必要な情報が有れば訪れるだろうからそれは別に良い。
問題なのはディートハルトの反応だった。
無防備とも思えるゼロが目の前にいると言うのに、ディートハルトは戸惑った表情で、唯立っているのだ。
「‥‥何か、有ったのか?」
藤堂が尋ねれば、あろう事か、ディートハルトは藤堂を見て、ホッとした表情を見せたのだ。
「あー‥‥、その。ですね。不要と判断した書類を捨てたところを見られてしまいまして。それを見たゼロが‥‥固まっているのです、はい」
困惑しきったディートハルトの言葉に、ゼロを見た藤堂はその手にある用紙を見つける。
確かに身動ぎしないゼロを訝しんだ藤堂は、その用紙を取り上げ、視線を向けた。
「‥‥‥‥‥‥」
これは確かに反応し辛いだろう、と藤堂もまた無言でその内容に目を走らせる。
「‥‥‥ッ、どうなっているんだ?ブリタニアはッ!」
やっと動き出したゼロの第一声がそれだとしても、ディートハルトも藤堂も驚かなかった。
入ったばかりなのに、どんなに阻止しても幹部会議には顔を出す、ゼロが振り払っても傍に居座る、幹部達の指示には従わないと言う団員が一人いた。
名前はロイド・アスプルンド、通称は「プリン伯爵」である。
本人は「それで呼ばないでくれるかな~」と剣呑な視線で周囲を睥睨したのだが、ゼロが「なら入団は認めないぞ」と言えば、コロッと「なら仕方ないね~」と諦めた。
勿論、本人に面と向かって「プリン伯爵」と呼ぶ者は限られている。
常にそう呼ぶのはゼロとラクシャータで、時と場合とで使い分けるのがカレンと朝比奈、それに玉城。
所属は技術班で、従ってラクシャータの指揮下におかれているロイドには、ゼロからの言葉はあまりかからない。
当然ながら、声がかかるのを唯待っているロイドではなく、ちょろちょろとゼロの近辺に出没し、声をかけ、その他積極的なアプローチは続いていたが。
「あぁ、そこにいたのか、プリン伯爵」
その日、ロイドにそう声を掛けたのは、朝比奈だった。
「‥‥‥‥。なにかなー?」
鋭い視線を投げた後、普段通りの声で尋ねる。
この件に関しての苦情は言えばゼロの耳にも入るので、ロイドは堪えるのだ。
「睨むのは勝手だけどさ。藤堂さんから呼んで来いって言われてるんだよね。話、聞きたい?プリン伯爵」
こんな言い方を朝比奈がするのはゼロに関する事だと、これまでの経験で既に悟っているロイドは、不服そうに下手に出た。
「知りたいね。勿論、教えてくれるんだよね?朝比奈君?」
ボソボソと拗ねた口調でロイドは尋ねた。
「ディートハルトの部屋だよ。ディートハルトと藤堂さんと、‥‥それからゼロが待ってるって、‥‥さ。ってもういないし。早いなぁ、行動が」
朝比奈が言い終わる前には、というかゼロの名前を出した途端、ロイドは駆け出していて、朝比奈が口を閉ざした時には影も形も消えうせていた。
バタンッ。
ノックもなく扉が開けられ、ロイドが姿を見せた。
「お呼びですか、我が君ッ!」
ロイドがノックするのは、ゼロの部屋だけである。
「扉は静かに開閉しろと何度言ったと思っているんだ?プリン伯爵」
「今ので42回です、我が君」
平然と答えるロイドに、同席している藤堂とディートハルトは唖然とする。
「つまりわたしの言う事を聞く気がない、と思って良いんだな?」
「そんなッ。ぼくが我が君の言う事を聞かないなんて事、あるはずがないです」
「次は追い出す」
「我が君ぃ~」
ロイドに泣きが入るが、誰も取り合う者はいなかった。
「本題に入る。プリン伯爵を呼んだのは、これを見て貰う為だ」
ゼロはそう言って、問題の用紙をロイドに差し出した。
嬉々として受け取ったロイドはそれを見て、やはり固まった。
「‥‥あのー。これ、何かの間違いでは?」
そろり、と上目遣いにゼロを見ながら尋ねてみる。
「プリン伯爵の時にも思ったが?いっそ、そこから間違いだったとしてみるのも手かな?」
「それはあんまりですよぉ、我が君ぃ‥‥。う~ん。ぼくの出奔で、ゼロの素性があちらにバレたと仮定すると、有り得たりしません?」
ロイドのブリタニア軍、及び特派からの突然の出奔は、各所に混乱を招いていた。
特に、一緒になくなったランスロットに関しての非難はかなりのものだったのだ。
一人、そのデヴァイサーであるところの枢木スザクは、呆然といつもランスロットが置かれていた場所を見上げていたとか。
そしてデヴァイサーだから准尉に昇格したのに、とまたぞろ降格の話が出ているとかいないとか。
更に、何処に雲隠れしたのかと思っていたランスロットがその姿を騎士団のナイトメアとして現した時の驚愕といったら‥‥、ちょっとした見物であった。
ちなみにランスロットの騎士団でのデヴァイサーはロイドである。
ロイドの趣味に走った設定に、ラクシャータは呆れ、「よくもまぁこんなとんでもないものを操ってたわねぇ」とその一点に関してのみ枢木スザクを評価した。
カレンですら匙を投げたその、『粗大ゴミ』になりかけたナイトメアについて、ゼロが言い切った。
「プリン伯爵。責任を持ってお前が騎乗しておけ」
それを耳にしたロイドは、「は~い、我が君。仰せのままに」ととても嬉しそうに頷いたものだった。
「‥‥だとすれば、それなりの責任は取って貰うぞ?プリン伯爵」
「責任を取って騎士になりお守りいたしますよ、幾らでも」
「本末転倒じゃないか?それは。騎士になる為に、主と定めた者を窮地に落としてる事になるぞ?」
藤堂が冷静な突込みを入れた。
「‥‥素性、か‥‥」
ゼロは呟いて、机の上に戻されたその用紙、経歴書に視線を向けた。
写真には斜めに傷の走った男の顔が写っていて、名前欄には「アンドレアス・ダールトン」とあるその経歴書。
ゼロは再び「どうなっているのだ、ブリタニアはッ」と内心で叫んでみた。
──審査「ダールトン」編──
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作成 2008.03.06
アップ 2008.03.21
※「対決と救出」の続きです。
ガウェインのコックピットが閉まるのを見てから、ゼロはカレンに向き直る。
ちなみに、忘れ去られた感のある枢木スザクは、まだ意識を飛ばしたまま車椅子の上に簀巻き状態で転がっている。
「‥‥‥黙っていた事、すまなく思う。‥‥だが、良いのか?」
素性を知ったと言うのに、変わらないカレンに、ゼロは戸惑う。
「良いの。貴方が何故戦場を離れてここに来たのか、それも理解できたし。‥‥第一発端はあの場所を守るように言われていた騎士団の落ち度でしょう?」
カレンはそう応じ、「だったら騎士団の誰に対しても文句は言わせないわ」と笑った。
「‥‥そうか。ならば、租界の戦闘にキリがつき次第、生徒会のメンバーと咲世子さんを連れてきて欲しい。ナナリーを頼みたいから」
「‥‥一緒にいてあげないの?‥‥ってか、まだ勝てると思っているの?これだけ長く『ゼロ』が離れているのに?」
ゼロが離れてから短い時間しか租界にいなかったカレンだが、それでもかなりガタガタとなった騎士団を見ていたので、思わず尋ねていた。
「藤堂とディートハルトに任せてきたからな。まぁ後方は扇ではなく南だったが、それでも容易く崩させたりはしないだろう?」
「‥‥‥その言葉。みんなに聞かせてあげたいわね」
ゼロの言葉が無意識の信頼の現われのように感じられたカレンは、ポツリと呟いた。
「それに、今は『オレンジ君』も租界に戻っている」
「あッ、それさっきも言ってたけど、あんな怪物が租界に戻ったんじゃ、それこそみんな全滅してるんじゃ‥‥」
カレンは思い至った可能性に青くなる。
「あぁ。一応『間違っても騎士団には攻撃するな』とは言ってある。騎士団がヘマをしない限りは平気だろう」
「‥‥‥言ってあるって?‥‥それに、ヘマって?」
「一応味方につけた。半分な。『オレンジ』の言葉で暴走するが‥‥それさえ言わなければ、騎士団を襲ったりはしないはずだが?」
「オレンジ卿を味方につけたんですか?ゼロが?‥‥あんなにゼロを追い掛け回していたのに!?」
ゼロは頷きつつも、「その言い回しはどうかと思うぞ、カレン」と内心で呟く。
「巧くいけば、租界に戻る頃には、騎士団の勝利で戦闘に幕が下りているかも知れないな」
『おい。何時までお喋りしているつもりだ?いい加減戻らないのか?』
痺れを切らしたらしいC.C.が回線を開いて声を掛けてきた。
「そうだったな。スザクは紅蓮に乗せてくれ。流石に四人は乗らないからな。それとエナジーフィラーの交換を」
「わかりました。ゼロ♪」
カレンは元気良くそう言って満面の笑みを見せた。
「‥‥ぅ‥‥こ、こは‥‥」
枢木スザクの呻き声に、カレンは顔を顰めた。
どうせなら租界に着くまで気を失ったままだったら良かったのに、と思う。
「き、君は、カレン、か?」
「そうね。暴れないでね、枢木。狭いんだから」
カレンがそう言った端から枢木スザクは縄を解こうと足掻く。
「暴れるなって言ったでしょ。落ちたいの?」
「き、君は騙されているんだ。ゼロにッ!」
「その話なら聞く耳持たないわ。‥‥あんたの言葉に一貫性というか、筋の通った主張が出来たら聞くくらいしても良いかもしれないけど、今はないものね」
「ゼロは間──」
「間違ってる?相手を否定しているだけ、って言うのよそれ。否定も批判も主張とは言わないでしょ?反論って言うんだと思うけど?」
カレンはスザクの言葉を引き継ぎ、冷ややかな声を投げた。
「あんたの中には否定と批判と反論と、後は何?自己弁護かしら?自分は正しいって?それだけなんでしょ?」
「違うッ!おれはッ!」
「ねえ、『虎の威を借る狐』って知ってる?あんたの事よね?『ブリタニアと軍の威を借りてる枢木スザク』」
「違うッ!」
カレンは「スザクは気付いていないのだろうか、今もまた否定しかしていないということに‥‥」と思って溜息を吐いた。
「‥‥さっきの話、わたしも一つして良いかしら?」
「‥‥‥‥。さっきの?」
「そ。『過程と結果の境界線』の話よ」
「‥‥聞いてたのか?てか君かッ!おれを殴ったのは」
スザクの非難の眼差しも口調も、カレンは全て無視してのける。
「ねぇ。『結果』って最終目的地、最終目標の事だと思わない?」
「‥‥‥そうだな。それが?」
「ブリタニアがどこまで行こうとしているのか、知ってる?」
「‥‥‥‥どこまで?」
「あちこち占領してエリアという名前にして統治して、それが『結果』だとでも?全て『過程』よ。現在進行形の。さて、この『過程』は間違ってないのかしら?」
「‥‥過程?これが?全部?」
「だって、ブリタニアは全世界の統治が目的だもの。EUも中華連邦も、全てをエリアとして支配する‥‥その『過程』よ、今って。で、正しいのかしら?」
「‥‥‥‥」
「都合が悪くなるとだんまり?あんたって、ほんっと目の前の事しか見えてないのね。てか目の前の事すら見えてないわ」
「‥‥どういう意味?それに見えてないのは君じゃないの?‥‥ゼロの──」
「正体‥‥とか?知ってるわよ。そしてわたしはこの場所。零番隊隊長紅月カレンとしてここにいるの。おわかり?」
カレンはスザクのこの問いが今で良かったと思った。
これが洞窟内で言われていれば、ナナリーを見る前に言われていれば、ぐら付いただろう自分を知っているから。
「‥‥あんたこそ、知ってるのね。それでよくもまぁあれだけ否定して来れたものね。親友の主張を否定し、非難し続けて」
カレンは、少々狭くなろうともスザクを紅蓮に乗せたのは正解、と身柄を預かった自分を褒める。
これをガウェインの中でやられた日には、と考えただけでゾッとする。
スザクが動く気配を察したカレンは慌てて言う。
「で、都合が悪くなると暴力に訴えるのよね。流石名誉ね。ブリタニアの法に殉じてるって褒めるべきなのかしら?」
スザクが一瞬動きを止めた隙に、カレンは懇親の力を込めて拳を振るった。
カレンは自分が暴力に訴えた事については「レジスタンスだし、良いわよね、このくらい」と開き直っていた。
了
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作成 2008.03.07
アップ 2008.03.20
※「光と闇の想い」の続きです。
洞窟の前に、白い機体を持つ白兜と、黒い機体を持つガウェインを見つけて、カレンは赤い機体の紅蓮弐式を降り立たせた。
どちらにも人が乗っている気配はなく、カレンもまた紅蓮弐式から降りた。
状況からしてスザクとC.C.は洞窟の中だろうと、カレンもまた洞窟に入っていった。
何故こんなところに?と疑問に思う程、大きな扉の前で、スザクとC.C.が何事か言い合いをしているのを、物陰に隠れながら進んでいたカレンは見つけた。
聞こえないその内容や、険悪な雰囲気よりも、カレンは扉の向こうが気になり、身を隠しながら側面を移動した。
その小さな扉を見つけたのは偶然だった。
もしかしたら大きな扉の向こう側へ行けるかも知れないと、カレンは好奇心の赴くままに、その扉を開けて中に入った。
再び小さな扉から出たカレンは、まだ言い合いを続ける二人に、そっと近づいていく。
「奴はッ!ゼロは間違っているんだッ!」
「何を基準にして間違っていると?‥まさか、貴様が決めた、等とは言うまいな?」
厳しいスザクの声と、苦笑を含んだC.C.のそれ。
余裕があるのはC.C.に見えるが、武器を手にしているのは、スザクだけだ。
「法に背いてるじゃないか。何もかも間違ってるのがわからないのか?存在自体がッ!彼が生きている事がッ!」
スザクの主張をC.C.は鼻で笑い飛ばした。
「確か、‥‥貴様の主張は、『結果だけでなく、過程も大事』だったか?『間違った過程で得られた結果には意味がない』とか言っていたな?」
「そうだ。だからゼロは!」
「まぁ、わたしの話にも付き合ってもらおうか?というより、聞きたいものだな?『何処までが過程で、何処からが結果』だと思っているのか、をな」
「『何処までが過程で、何処からが結果』?‥‥なんだそれは」
枢木スザクが眉を顰める。
近くまで寄っていたカレンもまた首を傾げた。
「例えば、日本解放。大抵のイレブンと呼ばれるかつての日本人達にとってはそれこそが『結果』だと言うだろう。その為に努力するのが『過程』か?」
C.C.の言葉にカレンは頷いた。
まさにカレン達はその為にこそ、頑張っているのだ、是非とも「日本解放」をこそ結果にしたいのだと。
「だけどその為にテロなんて、間違ってるッ!体制を変えて行けば良いじゃないか」
「貴様のように名誉になって軍に入って?普通はまず二等兵止まりだなぁ?」
「‥‥何が言いたい?」
「ゼロが。クロヴィスの本隊を叩いたお陰で、貴様は白兜に乗る事が出来た。『結果』、准尉に昇格?‥‥これは『間違った過程』で得たモノだと思うが?」
C.C.は笑い、「テロは間違っているのだろう?」と付け加える。
確かにそうだ、とカレンは思う。
間違った過程だと言う、テロがあったお陰で結果的にスザクは白兜に乗る事になったのだろう。
そして、軍の昇進とは所詮そんなモノなのだ。
他者との戦が全てで、戦に出て相手をたくさん殺してこそ昇進もするのだろう。
「それはゼロがッ!」
「はいはい。自分を肯定する為に、ゼロを悪者に仕立てたいわけだ」
「違うッ!」
「ナリタはどうだ?ゼロと黒の騎士団が勝ちそうになった『過程』があるから、『結果』、お前は出動したよなぁ?コーネリアに恩を売る事も出来た?」
しかもこの時、上からの命令を待っていたのではなく、下から上をせっつき、尚且つ、知り合いであるという情にまで訴えているのだ。
ユーフェミアに対して「ユフィ」と声なき声で呼んで見せる事で、ユーフェミアから出動を勝ち得た。
「ゼロはッ!正義の味方を名乗りながら、民間人まで巻き込んだんだぞ」
「『結果』だろう?その『過程』は?先に攻撃を仕掛けたのはブリタニアだ。それともブリタニアが仕掛けるのは正しくて、反撃するのは間違ってるとでも?」
それもそうだ、とカレンは再び頷いた。
「ブリタニアが仕掛けなければ、ゼロもあんな手は打たなかっただろう。それと。第一ゼロは街への避難勧告を軍がしている事を知っていた」
「‥‥え?」
「つまり、軍に従っていれば、街は無人だったはず。この時の死者は軍が『過程』を間違えたのか、これこそが正しい『過程』だったのか。どちらかの『結果』だぞ?」
C.C.の声に容赦はない。
「なッ!それは違うッ!彼等を死に追いやったのはッ!ゼロや黒の騎士団だッ!!」
「正しい『過程』で得られた『結果』には文句は言わず、受け入れるんじゃなかったのか?‥‥。やれやれ。話す価値もないか。とりあえず殴り倒しておくか?」
呆れたC.C.の声に従ったカレンが、スザクに振り返る隙すら与えず、殴って昏倒させた。
「‥‥C.C.。こいつはどうするの?」
「後腐れないように、ここで始末すれば話は簡単なんだろうが‥‥。わたしの独断でそんな事は出来ないからな。つれて戻るしかないな」
面倒そうにC.C.が言った。
「‥‥ねぇ。一つだけ教えてくれない?ゼロがここに来たのって、‥‥ナナリーちゃんの為?あちらに、ナナリーちゃんがいたわ。つまりゼロの正体って‥‥」
「一つと言いながら、二つになっているぞ。‥‥確かに、何故か守られているはずの学園から、浚われたナナリーを助ける為だな。‥‥無事なのだろうな?」
「ええ。今、連れてくるわ」
カレンはそう言うと踵を返した。
「浚われたナナリーを助ける為」と言い切ったC.C.の言葉に、カレンの抱いていた疑惑の全てが氷解した今、その足取りは軽かった。
ナナリーはカレンが抱えた。
ナナリーの車椅子には気を失って簀巻きにされたスザクが乱暴に乗せられ、ガタガタの洞窟内をC.C.が押して移動していた。
出口付近で、入ってこようとするゼロと遭遇する。
「おい。とりあえずご注文どおり、ナナリーは助けておいたぞ。コレはおまけだ。そっちはどうなった?」
C.C.が相変わらずの高飛車な物言いで尋ねる。
「‥‥『オレンジ君』なら、租界に戻った。今頃は戦闘中のはずだ」
「‥‥‥おにい、さま?」
ナナリーのか細い声に、ゼロとC.C.の動きが止まる。
「やっぱりナナリーちゃんの事が気になって助けに入ろうとしてたのね?待っていれば良かったのに。ルルーシュ」
カレンが呆れた口調でそう言った事で、ゼロは「バレたのか‥‥」と思い、そっと息を吐いてから話しかけた。
「‥‥ナナリー、無事だったんだね?‥‥何処も、怪我とかしてないかい?」
「勿論ですわ。おにいさまが助けに来てくださるって、信じていましたから」
「‥‥そ、うか。‥‥その。‥ここは租界から少し離れていてね?戻るのに、ナイトメアに乗る必要があるんだけど‥少し窮屈な思いをさせてしまうんだ」
「おにいさまと一緒ならどんなところだって構いません」
「C.C.。先にナナリーを連れて上がっていてくれ」
「それは良いが。エナジーフィラーはもうないぞ?」
「予備がある。後で紅蓮で交換する。紅蓮の予備は?」
「あ‥‥持ってません。残り後15分程だったかと‥‥」
「なら何とかなる。白兜はここに捨て置く。あれのエナジーフィラーを取ってあるから、何とか持つだろう」
C.C.は頷くと、カレンからナナリーを受け取り、器用にガウェインの腕伝いにコックピットまで移動して行った。
了
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作成 2008.03.07
アップ 2008.03.19
おれが、スザクと再会した時──。
いきなり飛び回転蹴りを喰らったな‥‥‥‥。
思い返してみれば、初めて会った時は、殴られたし──。
実は嫌われていたりするのか‥‥?
わたしが初めて白兜に遭遇した時──。
奴はわたしが折角用意した駒をことごとく潰し──。
このわたしにまで飛び回転蹴りを見舞ってくれた‥‥‥‥。
────ん?????
‥‥‥‥‥‥‥‥ッ、まさか!?
了
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作成 2008.03.16
アップ 2008.03.18
※「反撃の烽火」の続きです。
「なんだ、あれはッ」
ギルフォードの驚く声が響く。
内心で、悪態を付きまくっていたが、それは何とか表には出さない。
『どこかへ飛んで行く前は黒の騎士団を攻撃しておりましたな』
配下の誰かが、わかりきった事を平然と口にする。
「くッ‥‥。総員、態勢を立て直せ。たった一機に怯むなッ」
とは言ったモノの、ギルフォードとて、先程、アレが黒の騎士団に対し、どれほど圧倒的だったかを見ているのだ。
コーネリアとの連絡が取れない事に焦燥を覚えながらも、ギルフォードは一人、ブリタニア軍の指揮に追われているのだ。
『見えた見えた見えた見えた‥‥‥‥』
メカオレンジが歓喜の声を上げながら、ブリタニア軍のナイトメアの攻撃を避け、確実にその数を減らして行っている。
オープンチャンネルが何故か開きっ放しなので、その呟きは戦場に丸聞こえだった。
『攻撃ムダ!当たらず!このジェレミア・ゴットバルトには!!』
『ちぃッ、オレンジの分際でッ』
ブリタニアのナイトメアの一つから、そんな声が広がった。
メカオレンジに続いていた騎士団は、それを耳にした途端、固まり、いつでも逃げられるように、どころか一部は既に回避行動に出ている者もいる。
『おおおぉぉぉぉ、お願いデス!死んでいただけマスか?!』
そう言うなり、スラッシュハーケンがそのナイトメアを直撃し、パイロットは脱出する暇もなくあの世へと逃げ落ちた。
騎士団は、絶対に「オレンジ」とは言わないでおこう、と改めて心に誓う。
一方、その光景を目の当たりにしたブリタニア軍将兵は、恐慌状態に陥った。
みな、それぞれ、「オレンジ」とか「オレンジ卿」とか「オレンジの分際で」とか一度は言った事のある者ばかりだったからだ。
逃げ腰、及び腰になってしまっては、ギルフォードの奮戦も指揮もフルに発揮出来はしなかったのだ。
こうして、ブリタニア軍は敗走した。
「ガウェインと紅蓮弐式が租界に近づく」の報を騎士団幹部が受けたのは、ブリタニア軍が政庁の一部を残して租界から撤退してしまった後だった。
ギルフォードは敗走後に知った唯一の主コーネリア重体を知り、二重の衝撃を受けていたとか。
騎士団はそんな報告と共に、コーネリアに負傷させたのがゼロだと知らされ困惑気味だった。
それならそうと知らせておいてくれれば、もっと違った攻め方だって出来たかも知れないのに、と「怪物」が来るまでの劣勢を苦く振りかえる。
それから。
未だに「怪物」から降りてこない「オレンジ」が気になって仕方がないのか、ちらり、‥‥ちらり、と「怪物」に視線が流れたりしていた。
「突然背後から襲ってきたらどうしよう‥‥」誰の目もがそう語っていた。
相次いで着地した紅蓮弐式とガウェインは、どちらもが膝をつく形で停止した。
先にハッチが開いたのは紅蓮弐式だった。
「すみません、手を貸してくださいッ」
顔を出すなりのカレンの言葉に、わけが判らずざわつく。
「手を貸せってなんのだよ」
「枢木スザクを捕らえました」
その名前に、四聖剣は藤堂を振り返り、頷くのを見て卜部が紅蓮弐式に近づいた。
「とりあえず、意識ありませんけど、起きたら暴れますから、速攻殴って落としといてください」
カレンの言葉には遠慮と言うものが欠落していた。
しかし有無を言わせぬ勢いと迫力があり、卜部は「あぁ」と頷いて、枢木スザクの身柄を預かった。
預けた途端、カレンは先に紅蓮から飛び降り、ガウェインの元へと走り寄った。
卜部はその行動が気になりはしたが、荷物を抱えた状態では動けないので、仕方なくそのまま紅蓮から下りる事にした。
「C.C.。状況は?」
カレンがゼロにではなく、C.C.に声を掛けたことに、その場にいる大半の者が驚いた。
『‥‥もう少し待ってろ。‥‥そうだな。彼女と、あちらの件を』
「あ、‥‥そうね。わかったわ」
カレンの納得した声にガウェインは再び沈黙する。
勿論、納得したのはカレン一人で、他の幹部も団員も首を傾げるばかりだ。
カレンがガウェインから視線を外して振り返ると、説明を求める無言の圧力に満ち満ちていた。
「えっと‥‥。わたしに判る範囲は後で説明します。でも質問が先です。政庁と仮の指揮所にしていた学園はどうなってますか?」
「軍は撤退した。政庁の一画に一部人が立て篭もっている状態だ。‥‥学園の方は‥‥白兜が動いた時に撤退を余儀なくされて、その後立ち入っていない」
頭や肩に包帯を巻いた藤堂が答えた。
カレンは政庁については無表情に聞いていたが、学園の話になると驚きの表情に変わった。
「冗談でしょ?‥‥何処までも祟る奴ね、枢木スザクはぁ!‥‥玉城ッ、あんたあの場所の警備任されてたんじゃなかったの!?」
「こっちの身が危ねってのに、ブリタニア人にまで構ってられっかよッ」
枢木のとばっちりで怒鳴られては堪らないと、玉城は怒鳴り返すのだが、カレンはその言葉にスーッと目を細めた。
「‥‥つまり、あんたのせいでゼロは戦線を離れなくてはならない状況に陥ったって事ね?後でキッチリなしつけてあげるわ、玉城」
冷ややかに、カレンは低い声で玉城に告げた。
それは普段、玉城をポンポンと怒鳴る姿を見慣れた幹部達に息を呑ませる程の迫力を有していた。
「‥‥それはどういう事だ?カレン」
杉山が問いかける。
「説明は後だって言ったはずです。‥‥ところで、あれは何故ここに止まってるんですか?中身まだ入ってるッポイですけど」
「あー‥‥、ゼロが説得して、半分味方、になってるらしい。‥‥ちなみに禁句は言うなよ。ゼロのつけた疑惑の名前だ」
納得はしていない杉山だったが、事情の知らない者に、いきなり禁句を口にされてとばっちりを喰らう気もなかったので、そこは大人しく答える。
「‥‥じゃあ放っといて良いですね。わたしはとりあえず学園に行ってきます。‥‥そうね、零番隊を連れて行きますけど、構いませんね?」
カレンは真っ直ぐに藤堂を見て尋ねる。
「あ、あぁ。‥‥しかし無事なのは半数だぞ?それに零番隊を動かすにはゼロの許可も」
藤堂の言葉を途中でカレンは「貰ってます、許可なら既に」と遮った。
「半数で十分。わたしの指示に従うし、他の隊が混ざると指揮系統が混乱するもの。ラクシャータ、紅蓮とガウェインのエナジーフィラーを交換して」
「いーけどぉ?一つ良いかしらぁ?何処まで行ってたのか知らないけどぉ。この時間じゃぁ、ここまで戻ってくるまでの残量なんて、ないと思ったのだけどぉ?」
進み出たラクシャータはこの期に及んでのんびりな姿勢を崩さない。
「それは、ゼロが白兜から接収しました。動けなくなった白兜は現地に置き去りにしてきましたけど」
「‥‥現地って?」
「‥‥‥‥‥神根島よ」
『おい、カレン。何時までそこで喋ってるつもりだ?お前が行って戻ってこないうちは』
「ごめんッ、C.C.。すぐ行くわ。零番隊、出動するわ。みんな騎乗して」
カレンもまた紅蓮弐式に戻り、エナジーフィラーの交換が終わるなり、零番隊を率いてその場を後にした。
残ったのはわけが判らないままの幹部と団員達で、彼等は呆然と零番隊を見送った後ガウェインに視線を移した。
了
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作成 2008.03.06
アップ 2008.03.18
──審査「ロイド」編──
その日、ゼロは自室で入団希望者リストを眺めていた。
藤堂と四聖剣が騎士団に合流後、これまでにも増して入団希望者が増えていた。
中にはスパイや明らかに怪しい者も含まれてくるので、審査は何重にも及び、次第に厳しいものになってきている。
そう、例えるなら今玉城辺りが審査を受ければ、まず間違いなく落ちているだろう程、にだ。
最終審査はゼロ自身がおこない、最終的な合否が決まるようにしているのはトップに立つ者の務めだと思っているからだ。
ふと、リストを捲っていた手が止まる。
ブリタニア人。
ディートハルトが入団後、それが知られているはずはないというのに、時々見かけるようになった。
だが、ディートハルト以外にはまだ入団許可を出した事はなかった。
リストを作成している一人である当のディートハルトは、それを何故か喜んでいるが。
まずは特記事項に視線を向け、唖然とする。
「‥‥なんの冗談だ?」
そのまま顔写真と、氏名に改めて目を向けた。
「‥‥‥‥。見なかった事にするべきだろうか、これは‥‥」
とりあえず保留にして次に進む。
他は滞りなく終わり、問題の経歴書だけが残り、再びそれに視線を落とした。
見覚えのある顔と名前、と言うよりはかつては良く目にした顔であり、良く耳にした名前が載ったその書類。
人種は先程も確認した通り、ブリタニア人である。
暫く睨むように見つめていたが、やがてその一枚をリストから外し、別の場所に保管しておいて、合否それぞれのリストを締めた。
幹部だけでおこなわれるその日のミーティングも大過なく終わり、後はゼロの解散の合図を待つだけとなった時である。
「‥‥。ディートハルト」
ゼロが、思い出したかのように、広報・情報担当の名前を呼んだ。
「はい」
「これは今回の入団希望リストの最終合否だ。処理しておけ」
「承知いたしました」
ディートハルトは席を立つと書類を受け取りに行き、「他には?」とまるで「まだ用件は残っているのでしょう?」と言わんばかりに尋ねる。
「‥‥‥この後、話がある。ラクシャータと藤堂もだ。‥‥扇とカレン、四聖剣については任意。残りは解散」
難色を示すのはいつもの如く玉城である。
「はぁあ?半分以上じゃねぇかよ。ならこの場で話したって構わねぇんじゃねぇのか?」
「‥‥‥。ならば変更する。ディートハルト、ラクシャータ、藤堂はわたしの部屋に来い。残りは解散」
ゼロは前言をあっさり翻すと、そのまま自室に引き上げていった。
「‥‥玉城ッ、あんたが文句ばっか言うからわたし達まで締め出されたじゃないの」
「そうですよ。おれだって藤堂さんが聞く事知りたかったのに」
任意と言われていて参加する気満々だったカレンと朝比奈が玉城に詰め寄った。
無言だったが他の四聖剣、三人も不満そうな視線を玉城に向けていた。
「めんどぉだわぁ」
そんな騒ぎを眺めながら、ラクシャータは盛大な溜息を吐いてからゆうらりと立ち上がる。
無言で立ち上がった藤堂と、キビキビとした動きで早速階段に向かうディートハルトの後を追ったのだった。
「ディートハルト。貴様何を考えている?」
自室に三人を招いたゼロは、椅子を勧め、三人がソファに座るのを待って、そう切り出した。
ちなみに長ソファはラクシャータが一人で占領し、藤堂とディートハルトは一人掛けのソファに座っている。
藤堂とラクシャータの視線がディートハルトに向かう。
「わたしには判断がつきかねましたので、ゼロの判断を仰ごうと思った次第ですが?」
ディートハルトは平然と応じる。
「‥‥貴様以外ならば、わたしの元に来る遥か手前で即座に叩き落としていただろうな」
「わたしも一瞬そうしようかと愚考いたしましたが、思い直しまして」
ゼロは黙ったままディートハルトを見ていた。
「‥‥先程ザッと目を通しましたが、合否どちらのリストにも載っておりませんでしたね?」
「ちょっとぉ、ゼロぉ?一体入団希望者とわたし達に何の関係があるってのよぉ?」
要領を得ない二人の会話に痺れを切らせたラクシャータが口を挟んだ。
「入団希望者が技術屋でな。君の意見が聞きたい。パイロット代表として藤堂、お前にもな」
ゼロはそう言うと、テーブルの上に一枚の経歴書を置いた。
ラクシャータはそれに触れる事無く、一瞥しただけで顔を顰めた。
「って‥‥なんでプリン伯爵がぁ?」
「やはり知り合いか」
「えぇ‥‥プリン伯爵って言ぅのよねぇ」
驚くラクシャータにゼロは経歴書の備考欄を指し示した。
「‥‥‥‥‥ひとっ言も聞いてないわぁ」
『ラクシャータに照会すればぼくの身元はハッキリするよぉ~』
備考欄には、達筆でそう書き込まれていた。
勿論、ラクシャータに照会しないままに最終のゼロに見せたのはディートハルトである。
「で?どんな奴だ?」
「プリン伯爵はぁ、ナイトメア以外一切興味のないオタクの変人よぉ。今はオモチャがあるからこんな気なんて起こさないと思ってたけどぉ?」
「‥‥オモチャ?」
「そ。騎士団じゃ、『白兜』って呼んでるナイトメア。あれの開発担当じゃないかしらぁ?」
「ふぅん?‥‥つまりこちらのナイトメアの情報を手に入れる為のスパイ、と言うことも有りか?」
「プリン伯爵に限ってそれはないわねぇ有り得ないわぁ」
キッパリとそれでも嫌そうにラクシャータは断言した。
「ナイトメアを破壊する為の工作要員と言う事は?」
「それも有り得ないわぁ。わたし達は技術屋だからねぇ」
「では藤堂。もしもこいつが入団した場合、ナイトメアを任せる気になるか?」
ゼロは藤堂に尋ねたが、藤堂が口を開く前に、ラクシャータが難色を示す。
「ちょッ‥‥お断りよぉ。プリン伯爵と共同作業なんてぇ。日本製触らせる気もないしぃ」
「‥‥ゼロ。入れる事は決定事項なのか?」
藤堂はそんなラクシャータを見ながら、質問で返す。
「‥‥‥‥いや?どちらかと言えば、見なかった事にしようかと思ったくらいだな」
ゼロは珍しくも素直な感想を率直に口にした。
「何故そうせずに、おれ達に諮った?」
藤堂はますます訝しむ。
「特記事項を見たから、だな」
ゼロはそう答えるが、改めて見ても特記事項には『伯爵、中佐』としかかかれていない。
「それは、わたしが書いたものですが‥‥?」
ディートハルトがそう言って首を傾げる。
「お前か。‥‥それではなく、その下だ。持参品が書かれているだろう?」
と、ゼロは言うのだが、三人には他に何も見えない。
「いや‥‥他には何も書いているようには見えないが‥‥」
戸惑った藤堂の声に、今度はゼロが「ん?」と首を傾げた。
「‥‥‥‥‥。あぁ。もしかしてコレか?」
思い当たったらしいゼロが、ポイッと藤堂に何かを放った。
器用に受け止めた藤堂は、それを見て眉を顰める。
「‥‥‥ペンライト?」
「それで光を当てて見てみろ。多分見えるだろ」
ゼロの言葉どおりにしてみると、確かにディートハルトの書いたという『伯爵、中佐』の文字に重なるようにして別の文字が浮き上がった。
書き込む時にディートハルトは先に書かれていた文字が見えなかった為に、上から重ね書きをしてしまったようである。
『お~め~で~と~ぉ。もれなくランスロットを持参します~。だ~か~ら~ぁ。い~れ~て~ぇ』
ふざけているとしか思えないその文字に、三人は暫し、絶句したのだった。
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作成 2008.03.05
アップ 2008.03.17