あれは、どういうことだったのだろうか‥‥。
『二人きりで話がしたい』
そう、話を持ちかけたのは、ゼロの方だった。
ユーフェミア皇女殿下は笑顔でそれを受け入れ、二人は会場を離れ、G1ベースへと入って行った。
戻ってきたのは、ユーフェミア皇女殿下一人だけだった。
会場の自らの席で待っていた一同が訝しむ。
桐原は眉を顰め、G1ベースに続く回廊へと視線を向けた。
ダールトンもまた、気遣わしげにユーフェミア皇女殿下の背中を見つめ、姿を現さないゼロについて思案を巡らせる。
列席者の思惑を他所に、ユーフェミア皇女殿下は、マイクの前へと進み、会場に集まる多くの"日本人"を見まわして宣言を下す。
『わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に、「行政特区日本」成立を宣言』
『‥‥‥‥待っていただこうか、‥‥ユーフェミア‥‥』
ユーフェミア皇女殿下の宣言を遮るように、途切れ途切れに聞こえた声は、どこか弱いながらもまぎれもなくゼロのモノで。
次いで、ゼロの乗って来たナイトメアフレーム『ガウェイン』が空高く舞い上がる。
「特区日本を敵に回す気か、‥‥ゼロ」
そう呟いた桐原の声は、あまりにも小さくて誰の耳にも届かなかった。
ダールトンが飛び出し、ユーフェミア皇女殿下を庇いつつ後退させる。
『わたしは、‥‥本気で参加しても良い、‥‥そう、思っていたのですが、貴女にその気がないのでしたら、‥‥諦めるより他に道はなさそうですし』
ゼロの、意味不明の言葉は、それでもユーフェミア皇女殿下が何らかの形で、ゼロの手を払った事を意味していると取れる。
それに思い至ったその場に集まった"日本人"達が、不安そうな顔で周囲と顔を見合わせている。
ダールトンは舌打ちをしたい気持ちを抑えると、配下の兵士にユーフェミア皇女殿下を託すと、マイクを握った。
このままでは収拾が付かない事を悟っていたからだ。
『‥‥』
だが、ダールトンが反論をする前に、再びゼロの声が放たれた。
『ゼロの名において、‥‥我々、黒の騎士団は、‥‥ユーフェミアの敵に回る。信頼‥‥どころか、‥‥信用すら出来ぬ者の手は‥‥取れない』
これまでよりも、押しが弱いその声は、どこか切れがちで、不自然さを聞く者に与えていた。
『ゼロ、そのくらいにしておけ。一旦帰還するぞ。‥‥早くその怪我の手当をしないと、‥‥出血が多い』
だが、続いて聞こえた、別の、明らかな女の声に、いやその内容に、聞いていた者は愕然とする。
ダールトンは咄嗟に、直前までゼロと一緒だったユーフェミア皇女殿下を振り返っていた。
ダールトンのその動作に、発言を求められたと思ったのだろう、ユーフェミア皇女殿下はにっこりと笑って頷いた。
『はい、わたくしが、ゼロを撃ったのですわ』
その言葉は会場に戻った時に、取り付けたドレスの胸元のマイクが拾っていて、会場に響いた。
『‥‥そう、貴女はわたしを誘い出し、‥‥攻撃する為に、この場を設けたのですよ。‥‥"日本人"の為ではなく、』
『だって、貴方はクロヴィス義兄様を殺したのですよ?それに「行政特区日本」はちゃんと』
『ちゃんと?‥‥ユーフェミア。「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の名前を返上した、‥‥ただの「ユーフェミア」の宣言に何の意味があると言うのですか?』
ゼロの言葉は更に会場中に不安をまき散らす。
『だけど』
反論しようとユーフェミア皇女殿下が口を開くが、ゼロには反論する隙を与えるつもりはなかった。
『それとも、わたしに‥‥「返上した」と言ったのは、わたしを欺くためだけのものですか?皇族でなくなったのならば、‥‥貴女にはそこに立つ資格がないのですよ』
『おい、いい加減にしておけ。‥‥せめて止血だけでもちゃんとしろ』
合間に女の声が入る。
『宣言をなさるのでしたら、‥‥ただの「ユーフェミア」ではなく、‥‥貴女の姉、第二皇女「コーネリア・リ・ブリタニア」か、‥‥ッ』
『ほら見ろ、我慢せずさっさと止血しろ』
『‥‥第二皇子「シュナイゼル・エル・ブリタニア」の、名前でなければ、‥‥機能しない事も、念頭になかったのですか?』
ゼロはところどころで入る女の声をここまでは完全に無視していた。
『‥‥「返上した」のならば、‥‥「行政特区日本」を顧みない、身勝手なおこない、‥‥「返上していない」のならば、偽りを口にした‥‥』
『‥‥まったく。‥‥どちらにしても、ゼロ、お前にとって「裏切り者」には違いないのだろう?もう放っておけ。少しは我が身の事を考えろ』
『あぁ、‥‥もう少し待て。‥‥「ユーフェミア」裏切りの皇女よ。‥‥残った、なけなしの良心で、わたしが示した、信頼だけは‥‥裏切らないで頂きたい、ものだ』
『‥‥さて、集めたからには保護の義務があるのは知っているだろうな?』
『一般の"日本人"諸君。‥‥ここが「行政特区」として、機能するかどうかは、わたしにはわからない。だが、とりあえず避難してほしい』
『ここはこれより戦場となる。‥‥もっとも、ブリタニアが場所を変えてと悠長な意見に賛同すれば、別だがな』
『あら、ゼロはうたなくてはなりませんわ。そう、言いましたわよね。‥‥ブリタニアの兵士の皆さん。ゼロをうってください』
ユーフェミアが号令をかけると、周囲を囲んでいたナイトメアフレーム「サザーランド」が一斉に起動し始める。
この言葉にはダールトンも驚く。
場所を変えるなり、この場は見逃すなり、とにかくこの場でこのまま闘うのはこちらにとって不利だと思っていたにも関わらず先に言われてしまったのだ。
『姫様、何を言われるのですか』
慌てたダールトンが制止しようとしたが、ダールトンは脇腹に痛みを感じてくずおれた。
『邪魔をしないでください。ゼロをうつのです。逃がしてはいけませんよ』
こうしてサザーランドによるガウェインへの攻撃が始まった。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.19
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「おれを撃て」【1】『行政特区日本』の会場より。
G1ベースでの密談後、会場の檀上でのユーフェミアの宣言からスタート。
暴走時点の言葉が「日本人を~」ではなく、「おれを撃て」だった場合でGoGo。
が、もう一つ、とっても気になる点が有ったのでそれもここで盛り込んでしまってますけど。
「その名は捨てたわ」
最初にギアスを掛けようとしたルルーシュに対してのその言葉。
いやぁ~良いんですけどね?
何故それで「行政特区」を動かせるんだ?なんて思ってたりなんかするわけで。
しかもコーネリアもシュナイゼルもこの場にいないんだから、彼等の名前でおこなってるとは思えないし。
さて、ユーフェミアはゼロの正体をバラしちゃうんでしょうかね~。
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