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その時、ゼロはディートハルトに別件で用事が有り、偶々その場所を訪れただけだった。
ディートハルトはゼロの来訪に珍しく気付かず、手にした用紙を一枚ポイとゴミ箱送りにしたところだった。
ゼロは首を傾げつつも厭な予感を覚え、スタスタと近づくと、今しがた捨てられたばかりの用紙を拾った。
「ッ‥‥‥ゼロッ!?そ、それは‥‥ッ!」
いつもならばゼロの出現をディートハルトは喜ぶが、この時ばかりは心底焦った様子を隠さずに、あろう事か捨てたばかりの紙を取り上げようと手を伸ばした。
何となく予想がついていたゼロは、その前にサッと下がり、用紙に視線を落とした。
「‥‥‥‥‥‥」
無言。
見られてしまった事で、諦めたのか、ディートハルトはそれ以上の抵抗はせずに、ゼロの一挙手一投足を見守る。
「‥‥‥‥‥‥」
まだ無言。
まるで石化したかのように、身動ぎ一つしないゼロ、「もしかすると呼吸すらしてないのでは?」と不安に思ったディートハルトだが、それでも反応を待つ。
「‥‥‥‥‥‥」
それでも無言。
流石にディートハルトにも焦りが見え始め、「だから見せたくなかったのだ」と内心思うのだが。
「‥‥‥‥‥‥」
そしてやはりゼロはまだ無言を通していた。
ディートハルトに頼んでいた情報を受け取る為に、藤堂はあまり近寄らないようにしていたディートハルトの部屋に向かった。
本来ならば、ディートハルトの方がやってくるはずだったのだが、刻限を過ぎても現れないのだから、その情報が必要な藤堂が出向く必要が生じたのだ。
扉は、開いていた。
気にせず中を覗き、藤堂はその光景に驚いた。
ゼロが立っている、がゼロとて必要な情報が有れば訪れるだろうからそれは別に良い。
問題なのはディートハルトの反応だった。
無防備とも思えるゼロが目の前にいると言うのに、ディートハルトは戸惑った表情で、唯立っているのだ。
「‥‥何か、有ったのか?」
藤堂が尋ねれば、あろう事か、ディートハルトは藤堂を見て、ホッとした表情を見せたのだ。
「あー‥‥、その。ですね。不要と判断した書類を捨てたところを見られてしまいまして。それを見たゼロが‥‥固まっているのです、はい」
困惑しきったディートハルトの言葉に、ゼロを見た藤堂はその手にある用紙を見つける。
確かに身動ぎしないゼロを訝しんだ藤堂は、その用紙を取り上げ、視線を向けた。
「‥‥‥‥‥‥」
これは確かに反応し辛いだろう、と藤堂もまた無言でその内容に目を走らせる。
「‥‥‥ッ、どうなっているんだ?ブリタニアはッ!」
やっと動き出したゼロの第一声がそれだとしても、ディートハルトも藤堂も驚かなかった。
入ったばかりなのに、どんなに阻止しても幹部会議には顔を出す、ゼロが振り払っても傍に居座る、幹部達の指示には従わないと言う団員が一人いた。
名前はロイド・アスプルンド、通称は「プリン伯爵」である。
本人は「それで呼ばないでくれるかな~」と剣呑な視線で周囲を睥睨したのだが、ゼロが「なら入団は認めないぞ」と言えば、コロッと「なら仕方ないね~」と諦めた。
勿論、本人に面と向かって「プリン伯爵」と呼ぶ者は限られている。
常にそう呼ぶのはゼロとラクシャータで、時と場合とで使い分けるのがカレンと朝比奈、それに玉城。
所属は技術班で、従ってラクシャータの指揮下におかれているロイドには、ゼロからの言葉はあまりかからない。
当然ながら、声がかかるのを唯待っているロイドではなく、ちょろちょろとゼロの近辺に出没し、声をかけ、その他積極的なアプローチは続いていたが。
「あぁ、そこにいたのか、プリン伯爵」
その日、ロイドにそう声を掛けたのは、朝比奈だった。
「‥‥‥‥。なにかなー?」
鋭い視線を投げた後、普段通りの声で尋ねる。
この件に関しての苦情は言えばゼロの耳にも入るので、ロイドは堪えるのだ。
「睨むのは勝手だけどさ。藤堂さんから呼んで来いって言われてるんだよね。話、聞きたい?プリン伯爵」
こんな言い方を朝比奈がするのはゼロに関する事だと、これまでの経験で既に悟っているロイドは、不服そうに下手に出た。
「知りたいね。勿論、教えてくれるんだよね?朝比奈君?」
ボソボソと拗ねた口調でロイドは尋ねた。
「ディートハルトの部屋だよ。ディートハルトと藤堂さんと、‥‥それからゼロが待ってるって、‥‥さ。ってもういないし。早いなぁ、行動が」
朝比奈が言い終わる前には、というかゼロの名前を出した途端、ロイドは駆け出していて、朝比奈が口を閉ざした時には影も形も消えうせていた。
バタンッ。
ノックもなく扉が開けられ、ロイドが姿を見せた。
「お呼びですか、我が君ッ!」
ロイドがノックするのは、ゼロの部屋だけである。
「扉は静かに開閉しろと何度言ったと思っているんだ?プリン伯爵」
「今ので42回です、我が君」
平然と答えるロイドに、同席している藤堂とディートハルトは唖然とする。
「つまりわたしの言う事を聞く気がない、と思って良いんだな?」
「そんなッ。ぼくが我が君の言う事を聞かないなんて事、あるはずがないです」
「次は追い出す」
「我が君ぃ~」
ロイドに泣きが入るが、誰も取り合う者はいなかった。
「本題に入る。プリン伯爵を呼んだのは、これを見て貰う為だ」
ゼロはそう言って、問題の用紙をロイドに差し出した。
嬉々として受け取ったロイドはそれを見て、やはり固まった。
「‥‥あのー。これ、何かの間違いでは?」
そろり、と上目遣いにゼロを見ながら尋ねてみる。
「プリン伯爵の時にも思ったが?いっそ、そこから間違いだったとしてみるのも手かな?」
「それはあんまりですよぉ、我が君ぃ‥‥。う~ん。ぼくの出奔で、ゼロの素性があちらにバレたと仮定すると、有り得たりしません?」
ロイドのブリタニア軍、及び特派からの突然の出奔は、各所に混乱を招いていた。
特に、一緒になくなったランスロットに関しての非難はかなりのものだったのだ。
一人、そのデヴァイサーであるところの枢木スザクは、呆然といつもランスロットが置かれていた場所を見上げていたとか。
そしてデヴァイサーだから准尉に昇格したのに、とまたぞろ降格の話が出ているとかいないとか。
更に、何処に雲隠れしたのかと思っていたランスロットがその姿を騎士団のナイトメアとして現した時の驚愕といったら‥‥、ちょっとした見物であった。
ちなみにランスロットの騎士団でのデヴァイサーはロイドである。
ロイドの趣味に走った設定に、ラクシャータは呆れ、「よくもまぁこんなとんでもないものを操ってたわねぇ」とその一点に関してのみ枢木スザクを評価した。
カレンですら匙を投げたその、『粗大ゴミ』になりかけたナイトメアについて、ゼロが言い切った。
「プリン伯爵。責任を持ってお前が騎乗しておけ」
それを耳にしたロイドは、「は~い、我が君。仰せのままに」ととても嬉しそうに頷いたものだった。
「‥‥だとすれば、それなりの責任は取って貰うぞ?プリン伯爵」
「責任を取って騎士になりお守りいたしますよ、幾らでも」
「本末転倒じゃないか?それは。騎士になる為に、主と定めた者を窮地に落としてる事になるぞ?」
藤堂が冷静な突込みを入れた。
「‥‥素性、か‥‥」
ゼロは呟いて、机の上に戻されたその用紙、経歴書に視線を向けた。
写真には斜めに傷の走った男の顔が写っていて、名前欄には「アンドレアス・ダールトン」とあるその経歴書。
ゼロは再び「どうなっているのだ、ブリタニアはッ」と内心で叫んでみた。
──審査「ダールトン」編──
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作成 2008.03.06
アップ 2008.03.21
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黒の騎士団入団試験 【2】審査「ダールトン」編 ゼロ:「‥‥‥ッ、どうなっているんだ?ブリタニアはッ!」
2人目の審査とか言いながら、ロイドのその後も少々。
名前が最後にしか出て来ないので、タイトルの一部も最後に持って来てみましたが。
......しかし、何故こいつ!?いや、結構好きだけどさぁ。
流石に反応気になるかな、これは。
まぁ、いっか、たまには。
ゼロの茫然自失を書きたいなとか思ってたので、このくらいで。