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藤堂は部下である四聖剣の内の二人、千葉と朝比奈を連れてゲットーを歩いていた。
黒の騎士団に身を寄せ始めたばかりで、周辺の地理、地形を知らないままなのが不安だった為だ。
ゲットーを出ない、と言う条件で、ゼロに許可を貰ったのは身を寄せたその日の内だった。
以来、日に最低2回は、アジトの周辺を散策していた。
この日も例に漏れず、2回目の散策中だった。
アジトに籠ってばかりでは運動不足にもなるので、既に日課になりつつはある。
「う~ん。‥‥租界の様子も見てみたいですねぇ~。‥‥藤堂さ~ん」
行けども行けども、どこかしら崩れている建物ばかりで、気が滅入ってきている朝比奈は、前を行く藤堂に声を掛けた。
「こら、朝比奈。ゲットーから出ない約束なんだぞ」
千葉が焚きつけるなと言わんばかりに、速攻で注意する。
「だって、このシンジュクゲットー、他のゲットーと比べても廃墟だよ?こんな景色ばっかり見てたんじゃ、心が荒んじゃいますって、絶対ッ」
朝比奈は周囲に誰もいない事を確認してから、大袈裟に嘆いて見せた。
「‥‥仕方がないだろう?クロヴィスの壊滅作戦に見舞われてしまっているんだ。無理もない」
逆に千葉は声を潜めて、応酬する。
かなりな打撃を受けた上に、復興だって進んではいない。
そう、その後すぐクロヴィスが暗殺された為に、色々とうやむやのまま放置されていると言うべきか。
藤堂はそんな二人のやり取りを背中に聞きながら、スッと道を逸れた。
「ッ中佐?‥‥そちらへ行ったら租界ですよ?」
それに気づいた千葉は、慌てて声をかけて後を追う。
ゼロが見ているとは思わないが、約束を違えたからと罰せさせるわけにはいかないのだ。
「租界までは行かない。‥‥境まで行って租界の様子を見るのも悪くないと思っただけだ」
「さっすが藤堂さん♪」
朝比奈は自分の意見が取り入れられたのかと思って途端に上機嫌になる。
しかし千葉の拳が朝比奈の頭に入る。
「ってぇ~~。何するんですか、千葉さん‥‥ッてまたッ」
二度目に振るわれた千葉の拳に、朝比奈は涙目で訴える。
「租界に近づくというんだから、無暗に名前を呼ぶんじゃない。立場を自覚しろ」
「ッ‥‥ご、ごめんなさい。気をつけま~す」
千葉の言葉が正しいと気づいた朝比奈は、自分の非を認めて詫びた。
千葉は普段多少おちゃらけた言動が目立つのに憎めない朝比奈の、こういった素直なところも気に入っていた。
無人の荒野‥‥もといゲットーを歩いていた三人が、その気配を感じたのは、そろそろ租界が見えそうな所まで来た時だった。
租界側から誰かがやって来る事に気づいて、三人は壊れかけた壁の陰に身を隠す。
ほどなく聞こえて来たのは、ミャーという猫の鳴き声、そして。
「‥‥こら、人のモノを銜えてどこへ行くんだ?それを返すんだ。このイタズラ好きめ。待てと言うのに‥‥」
猫に何か取られたらしい少年の声が届いて来た。
「全く、こんなところまで入り込んで。‥‥ん?‥‥もしかしてこの為におれを連れて来たかったのか?」
口調が変わった事に興味を覚えて、藤堂と千葉、朝比奈はそっと隠れていた場所から顔を覗かせた。
そこにいたのはブリタニアの学生らしき一人の少年。
黒い髪の下、遠目横顔でさえわかるその美貌に、三人は目を見張る。
透けるように白い肌と整った顔に、はっきりとはわからないまでも濃い色の瞳には意志の強そうな光が見えていた。
屈んで猫から何かを受け取った少年は、猫の頭を一撫でしてから立ち上がると頭上を見上げる。
つられるように三人もまた視線を上げて、少年の背よりも遙かに高い壁の出っ張りに、猫を一匹見つけた。
少年は一度足もとに視線を落とすと、何かを探すように巡らせて、吐息をひとつ。
「これは流石に‥‥」
もう一度頭上の猫を見上げると手を伸ばしてみる。
「来い。‥‥無理か。もう少し近くなれば‥‥」
呟きながら考える少年は、藤堂達に全く気付かない。
肩から下げていたかなり大きな鞄を降ろした少年は、鞄を縦向きに立てて置いて倒れないか確認した後、その上に立って再び猫に手を伸ばしていた。
「ぅわ‥‥危ないなぁ~。地面だってガタガタだから不安定なハズなのに‥‥」
朝比奈が焦った声を出す。
その時、脳裏に似たような場面がフラッシュバックして来た藤堂は、気づけば隠れた場所を飛び出して少年に向かって駆け出していた。
驚いたのは千葉と朝比奈である。
普段の藤堂が思慮深い分、この突然の行動に驚き、ついつい見送ってしまった状態である。
鞄の高さだけ近づいた伸ばされた手に、猫は飛び移る。
唯でさえ不安定な足場に不安定な姿勢で伸びをするような体勢を取っていた少年は、当然ながらバランスを崩して落下する。
猫を庇っている為か、受け身の体勢すら取らずに頭から地面に激突しようとする少年をすんでのところで受け止めたのは、飛び出していた藤堂だった。
衝撃を予測して固く両目を閉じていた少年を、藤堂は見下ろして既視感を感じていた。
同じように木に登ったまま降りられなくなった子猫を助けようとして倒れた子供‥‥。
藤堂の飛び出すのが遅かったせいで、そのまま目を開かないのではないか、と思った事がある。
気を失った子供が、眼を覚ますまで、藤堂は生きた心地がしなかったのだ。
同様の状況を目の当たりにして、藤堂の身体は、だから勝手に動いていたのだ。
その甲斐あってか少年は、すぐに目を開く。
紫の光‥‥。
鋭く苛烈な光を灯す双眸‥‥。
「大丈夫ですか?‥‥いったい‥‥」
背後から千葉が困惑したように声をかけて来たので、藤堂は我に返る。
「いや、おれは平気だ。‥‥君、平気か?」
「‥‥ッあ、はい。お陰で怪我ひとつせずに済みました。猫も無事のようですし‥‥」
驚きに目を見開いている少年は、そのままの表情で呆然とそう返答し、身を起こす。
少年の腕の中で救出された猫がミーと鳴いた。
少年は猫をひとしきり撫でた後、そっと地面に降ろしてやる。
すると少年をここまで連れて来た猫が寄って来て、助けられた猫を舐めるとミャーミャーと鳴いてから連れだって去って行った。
「‥‥まるで、お礼を言ってるみたいでしたね~、あの猫」
朝比奈がそんな感想を述べた。
「‥‥そう、ですね。‥‥子猫を助けた事へのお礼と、‥‥連れて来る為とはいえ、モノを盗った事への謝罪ですよ」
少年は猫達が角を曲がるまでを見送りながら応じた。
「へ?‥‥君、‥‥猫の言葉、わかるのか?」
まさか少年から、それも具体的な肯定の返事をもらうとは思っていなかった朝比奈は、素で驚いて聞き返していた。
「‥‥‥‥というか。助けていただいた事にはお礼を申し上げますけど、何故ここに?」
やっと頭が働いたのか、少々警戒を持った少年が問いかけて来た。
「‥‥日本人の我々が、ゲットーにいるのは別におかしくはないだろう?君こそブリタニア人のようだからこんなところに来ていては危ないんじゃないのか?」
千葉が応じる。
「来たくて来たわけじゃないですよ。物盗りの猫を追った結果なので。‥‥もう帰ります。‥‥本当にありがとうございました」
会話を千葉と朝比奈に任せきりだった藤堂は、頭を下げてから立ち去る少年をずっと見つめていた。
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作成 2008.02.08
アップ 2008.03.26
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Ⅲ.ばったり遭遇「藤堂+α」編 【1】藤堂+αは散策中、ルルーシュは救助中(?)。
ゲットーを散策するお尋ね者....まぁゲットー内なら日本人(イレブン)は通報しないかなぁ?
逃走経路とは言わず、地の利を求めるのは軍人のサガとでも言う事に....。
今回の遭遇はぶつかってません。
見かけたルルの危ないところを藤堂が助けました。