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コードギアスの二次創作サイト。 ルルーシュ(ゼロ)至上主義です。 管理人は闇月夜 零です。
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ギ ア スの小説を書いています。
ゼロ(ルル)至上主義です。
騎士団多め。
表現力がなく×ではなく+どまり多数。
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租界を、ブリタニアの男子学生が一人後ろを気にしながら走っている。
少し離れた場所では、その男子学生を追いかけるように走る複数の女子学生。

学園の外に出れば追ってこないだろうと思っていたルルーシュは、走りながら己の甘さに内心舌打ちをする。
このままでは早々に息が上がって追いつかれるのは目に見えている。
第一、かなり目立つので、何処で誰に見咎められるかも知れない今の状況は、ルルーシュにとって、かなり有り難くなかった。

千葉は一人、ゲットーの一角で呆然と壊れた壁──正確には壊れた壁に貼られた破れた貼り紙──を見ていた。
なんとか読み取れる文字を繋げるに、この場所に在ったハズの店の転移の知らせ文らしい。
移動先が租界だと言うのも問題だが、地図の部分がほとんど読み取れない事も大問題だった。
地名で、大まかな場所はわかっても、随分と様変わりしているに違いないその場所にたどり着くのは至難の業だろう。
千葉は一度腕時計に視線を送ってから、その場所に向かうべく踵を返した。

「角を曲がって、身を、隠すッ。‥‥ゲットーに、近い、から‥‥、それで、諦める、ハズだッ」
弾む息の合間に、そう呟いたルルーシュは、早速手近な角を曲がった。
もう一度曲がれば‥‥と思っていると、その場所から出てきた相手とかなり派手にぶつかってしまった。
勢いが出ていた事も手伝って、ルルーシュはかなり派手にすっ転ぶ。
「くッ‥‥失礼した。‥‥急いでいたもので‥‥ッ」
自分に非があるとわかっていたルルーシュは、上体を起こしただけで相手を気遣って声を掛けたのだが。
そこにいた人物に見覚えがある事と、相手が口の前に指を立てて短く「しッ」と鋭く注意したのとで、途中で口を噤んだ。
「あ、すみませ~ん。こっちに学生が一人来ませんでした?すっごく綺麗な男の子なんですけどぉ?」
ルルーシュを追っていた女子の一人が千葉に声を掛けた。
どうやらルルーシュの事は千葉の影になっていて見えなかったらしい、というか、明らかにイレブンの千葉に対し声を掛けるとは勇気のある奴だ。
「‥‥少年なら、その先を左に曲がって行ったぞ」
「どうもありがとう」
千葉のおこなった嘘の説明に女子達が礼を言ってその方向へと駆け出していった。
足音すら聞こえなくなってから、ルルーシュは立ち上がる。
「‥‥まずは礼を言います。‥‥助かりました。‥‥あの先に、危険はありませんか?」
「あぁ、気にしなくて良い。ぶつからなければ逃げ切れていただろうし‥‥。あの先は租界の別の道に出ていたはずだ。‥‥怪我はないか?」
千葉は相手の少年がかなりの美形──美人と言っても差支えない──と気づいて目を見張りながら、声をかけた。
「ぁ、はい‥‥。受け身らしきものはちゃんと取れましたから‥‥。本当にすみません」
「あー‥‥それはもう良いんだが。少し道を尋ねても良いだろうか?」
改めて詫びるルルーシュに、千葉はそのままでは相手の気がすまないのだろうと、そう聞いてみる。
これで場所が分かれば、千葉としても助かるのは確かなのだ。
「おれでわかる場所なら良いんですが?‥‥どこですか?」
千葉はメモを書いた紙を見せながら、「ここなんだが‥‥」と指で示す。
「‥‥あぁ、『なごみ』、確か和菓子屋、でしたよね」
ルルーシュはメモ用紙を覗き込んでから頷いた。
一度咲世子に連れて行ってもらった事がある、かなりおいしい和菓子を提供する店だ。
「‥‥知っているのか?」
「えぇ。‥‥ただ、口で説明するには、入り組んだ場所にいますから‥‥」
「‥‥案内して貰うわけには、いかないだろうか?」
入り組んだ、と言われて千葉はますます単独での到着に不安を抱いた。
ルルーシュは珍しく不安そうな千葉に、少し考えてから時計を見る。
「‥‥一時間なら時間を取れます。おれで良ければ案内しますよ」
千葉はホッとした表情を浮かべて頷いた。
「よろしく頼む。‥‥わたしは千葉という。‥‥君は‥‥」
「‥‥‥‥。ランペルージ。学生です」
ルルーシュは無難に姓だけを名乗った。
藤堂の事を考えたからだが、どの道カレンの耳に入れば同じか、と諦めが入りながらも「こっちです」と言って先に立って歩き出した。

小さなキャンピングカーを改造して和菓子屋を営む『なごみ』の主は、見知った顔に笑みを浮かべた。
「いらっしゃい、久しぶりだねぇ、千葉ちゃん。今日もいつも通り五つかい?」
「あ、いや‥‥。‥‥そう、五つを包んで、それとは別に二つ、頼めるかな?」
「はい、まいどぉ。‥‥彼氏かい?」
連れの顔が見えていない店主は、そう言って千葉をからかいながら、和菓子を詰めている。
「‥‥ここまでの道がわからなかったので、案内を頼んだだけだ。‥‥もう少しわかりやすくして欲しかったが」
「あー‥‥そうか。すまないねぇ、千葉ちゃん。馴染みには来て欲しいけど、来て欲しくない連中もいるもんだから‥‥」
千葉は紙袋を受け取って料金を渡す。
「‥‥なら租界に移動したのは‥‥」
「以前いたゲットーの辺りも、急に軍人が押し寄せてきたからねぇ‥‥。ほとんど仕方なく、だよ。それに道も悪いから車じゃねぇ」
諦めの入った店主の言葉を聞いた後、千葉は少しばかり強引に話を終わらせて店を後にした。

「‥‥聞こえていたか?」
少し離れた場所で待っていたルルーシュに、近寄った千葉は気まずそう尋ねていた。
「‥‥聞こえていましたが、だからと言ってどこかに報告するつもりはありませんよ」
ルルーシュは肩を竦めて、投げやりに言った。
実際、そんなつもりは毛頭なかったし、店主の言っている事は事実だったから腹も立たない。
いや、ルルーシュ自身が、ブリタニアや軍人に対して腹を立てている状態だから、共感するところの方が大なのだ。
千葉は暫くルルーシュをジッと見つめていたが、紙袋から和菓子をひとつ取り出すとルルーシュに差し出した。
「案内をしてくれた礼だ。‥‥こんなもので悪いが‥‥」
「迷惑をかけたお詫びと、嘘の証言をしてくれたお礼に案内したはずだったのですけど?」
ルルーシュは首を傾げて千葉の差し出す手を見る。
「あぁ。だが、予定時間を越させてしまったようだから、な」
千葉に言われて時計に目をやったルルーシュは、思った以上に経っている時間に目を丸くした。
計算上では時間内だったはずが、疲れていたせいか、歩く速さがいつもよりゆっくりになっていたようだとルルーシュは分析した。
「‥‥では遠慮なく。‥‥ゲットー付近まで行けば後はわかりますか?出会った場所まではとてもご一緒できませんが」
「あぁ、助かる。最後まですまない、ランペルージ君」
ルルーシュは貰った和菓子を鞄に入れると、少し足早に歩き出した。

───────────
作成 2008.01.31 
アップ 2008.03.16 

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ギルフォードは部屋に入るなり、スザクに鋭い一瞥を投げ、気付かないスザクから興味を失ったように視線を外した。
ユーフェミアが立ち上がり、「お姉様ッ」と言ってコーネリアに抱きつく。
コーネリアは普段通りのユーフェミアにほんの少し安堵して妹姫の身体を抱きしめた。
「じゃ、セシル君。後は任せるね。殿下、ぼくはこれで」
ロイドはそう言ってさっさとその場から離れようとするのだが。
「待て。状況も聞きたいし、このまま同席していたまへ」
ギルフォードによって足止めされてしまい、仕方無くセシルの横、壁際に並び立った。
コーネリアはその声で、ユーフェミアを離し、一同を見渡した。
「ダールトンはまだ見つからないのか?」
視線はロイドとセシルに向けられていて、その声音は厳しい。
「‥‥はい」
セシルはロイドをチラリと見たが、返事をする気がなさそうなので、短く応じた。
「ユフィ。‥‥お前は何か知らないか?ダールトンはお前につけた副官だ」
すぐ傍で自分を見上げる妹姫に視線を落とすとコーネリアは声を掛ける。
「‥‥‥‥。知らないわ。だって、ダールトンは邪魔をしたのですよ、お姉様」
表情を曇らせたユーフェミアは、コーネリアから視線を外すように俯いて、そう言った。
「ユフィ。わたしは何でもダールトンと諮って事に当たれ、と言っておいたはずだね?」
溺愛する妹に対するにして少しきつい口調で、コーネリアは確認する。
くしゃり、とユーフェミアの表情が歪んだ。
「だってお姉様。ゼロは‥‥ゼロはクロヴィス義兄様を殺したのですよ?」
「それは分かっている。‥‥だが、クロヴィスの仇はわたしが取る、と言っておいたはずだね?ユフィが手を汚す必要はないのだよ?」
コーネリアは妹のピンクのドレスについた赤いシミを悲しそうに見つめる。
「申し訳ございません。何分にもこのアヴァロンにはユーフェミア様に着ていただける服を載せていなかったものですから‥」
それと察したセシルが項垂れて謝罪する。
ユーフェミアの着替えはG1ベースに置きっ放しなのだ。
「良い。後で何か取り寄せよう。‥‥それよりもユフィ。ゼロと二人きりでどんな話をしたのだ?いや、それ以前に、何故ゼロを招いた?」
「え?えーと‥‥。目的は同じなのですからゼロと黒の騎士団にも『特区』に参加して欲しいと思ったのですわ、お姉様」
「目的が同じ」と言うユーフェミアの言葉に頷いたのは、スザク唯一人。
「‥‥それで?」
「ゼロは確かに式場に来てくれましたけれど、まだしかとは決めかねていたようなのです。だから『話をしよう』といってきたのですわ」
そのくだりはコーネリアも映像で見ているので、先を促す。
「で?ゼロと二人きりでどんな話をしたのだ?」
「えーと。大切なモノの話を。その為に名前を返上したと言ったら、『特区を生かす形で策を練る』と手を取ってくれたの」
初めて聞く内容に、コーネリアとギルフォードは困惑した表情をロイドとセシルに向ける。
ロイドはいつも通りの表情で肩を竦めただけだったが、セシルは同じ困惑顔でそっと首を振った。
「それならば、何故今こんな事になっている?」
「‥‥だって思い出したの。ゼロが、クロヴィス義兄様を殺したって事を。シンジュグゲットーで『虐殺を命じた』、『ブリタニア皇帝の子供』だからという理由でッ」
ユーフェミアは憤ったようにそう言って俯いた。
「少し宜しいでしょうか?ユーフェミア様。‥ゼロがクロヴィス殿下を殺害した理由に『ゲットー虐殺』は以前から言われていましたが、もう一つの方は何処で?」
ギルフォードが疑問点を口にした。
「河口湖のホテルで、です。わたしを助けてくれて‥。その時にそう言って、『そういえば貴女もあの男の子供でしたね』と続けて銃を向けてきた事があります」
大人達の視線が一斉にスザクに向かったのは、そんな報告は受けていなかったからだ。
「あ、スザクが来た時には、ゼロの銃は降ろされていましたから。『他にする事がある』‥‥そう言って人質の人達を救ったのです」
ユーフェミアはそう言うが、ゼロの言うところの「他にする事がある」とは黒の騎士団の宣言である事だと他の者にはわかった。
「‥‥しかし、ゼロはかなりの皇帝嫌いなようですねぇ?」
「ロイドさんッ」
ロイドとセシルの会話はユーフェミア以外の一瞥を受けただけでスルーされる。
「ユフィ。‥‥『大切なモノの話』、とは?名前を返上する事を決めた程の。‥‥ユフィは何が大切だったのだ?」
コーネリアの問いに、スザクとギルフォード、セシルはハッとしてユーフェミアを見た。
ギルフォードとセシルはコーネリアの問いに「確かに‥‥」と思って答えが気になったからだが、スザクは答えを知っているからこそ、だ。
「えーと。大きくて安全な、弱者と呼ばれる方でものびのびと暮らせる場所を作りたいと思ったのです。‥‥ブリタニアの名の下では無理でしょう?」
「ユーフェミア様ッ。それは皇帝批判に繋がりかねません」
あまりの理由に、ギルフォードが口を挟んだ。
「‥‥何故、わたしに相談しなかった?ダールトンにでも、お前の騎士枢木にでも‥‥。何故一人で決めたのだ?」
悔しげに表情を歪めたコーネリアは、ユーフェミアに訊ねる。
「だって。‥‥お姉様はお忙しそうでいらっしゃったし。ダールトンも、わたしの仕事の大半を受け持っていて‥‥」
「ユフィ。お前は何も分かっていないのだね。‥‥枢木、貴様もだ。‥‥名前を返上し、皇族でなくなったのならば、騎士を持つ事は出来なくなる」
コーネリアの言葉に、セシルは沈痛な表情になって俯き、ユーフェミアとスザクはハッとなって顔を見合わせた。
「‥‥‥‥え?‥‥でもスザクは、既にわたくしの騎士ですわ」
「名前の返上と同時に、騎士もまた返上、と言う事になります。枢木は騎士叙任に対する少佐昇級でしたので、准尉に逆戻りもします」
ギルフォードが冷たい声音で告げる。
「‥‥ユ、‥‥ユーフェミア様?」
スザクが茫然とした表情でユーフェミアの名前を呼んだ。
「枢木。一度なりとも騎士としての誓いを立てた相手であるユフィが、何の地位も、権力も失った後も、貴様のユフィへの誓いは変わらないと信じて良いのか?」
冷たい視線を投げられたスザクは直立した。
「はッ、はい。‥‥勿論であります。コーネリア殿下。ぼ‥‥自分はユーフェミア様の、ユフィの剣となり盾となる事を誓約しております」
内心では大いに動揺していたスザクだったが、面と問われれば、そう応じるしか道はない。
反射的に応じてしまったスザクは、それが本心か建前なのか、自分でもわからなくなっていた。

───────────
作成 2008.03.01 
アップ 2008.03.15 

ゼロはトレーラーの自室に篭り、「これだからこの手のイベントはッ」と忌々しげに呟いてソファにどさりと沈み込んだ。
今ここにC.C.はいない。
朝出掛けに、「ピザ10枚」と言ってきたので、今日は部屋で大人しくしているだろう、それが今は救いだった。
このまま寝てしまおうか、そう思わないでもなかったが、朝比奈が用事が有ると言っていたのを思い出し、ゼロは顔を顰めた。
朝比奈のテンションに今はついていけないと、ゼロは藤堂へ連絡を入れた。

朝比奈が再度ゼロを迎えに行く為に部屋を出ようとした時、奥の部屋から仙波が出て来た。
「朝比奈。迎えにはわしが行く事になった」
そう言った仙波は朝比奈を部屋に押し戻すと自分が出て行った。
誰にも何も言う隙を与えない、素早い行動だった。
朝比奈が我に返った時には、既に仙波の姿は何処にもなく、朝比奈は奥の部屋に直行した。
「藤堂さん、どういう事ですか?迎えはおれが行くって言ってたのに」
「諦めろって、朝比奈。仙波さんを指名したの、ゼロだしさぁ」
卜部が言うと、朝比奈は「が~ん」と擬音つきでショックを受けていた。

千葉は月下のコックピットの中でモニター越しに、仙波を発見して首を傾げた。
荷物を担いだ団員を一人従えてアジトから出て行った仙波は、どこか団員に気を使っているように見えたからだ。
「折角ゼロが良いものをくれたというのに、みなどこへ行ったのだ?‥‥中佐までおられないし」
千葉は一人そう呟いたのだった。

仙波は頭痛がする頭を手で押さえながら、背後に向かって声を投げる。
「別に、あの姿のままでも宜しかったのでは?」
「だが、用があるのは『ゼロ』なのだろう?団員姿で行っても意味がないだろう?」
あっさりした答えが返ってきて、仙波の頭痛は酷くなる。
「‥‥いつもこのような場所で着替えを?」
「あぁ。人がいた時の為に、他にも幾つか確保してあるが?‥‥もう良いぞ、仙波」
ゼロを振り返った仙波は、ずずずいと近寄ると有無を言わさぬ口調で言った。
「次からは、わし等四聖剣の誰でも良いから、呼びつけるか、着替えずにアジトまで来るように。宜しいですな!?」
ゼロが戸惑っていると、「この件は藤堂中佐にも報告させていただく」と言って、先に立って歩き出した。
ゼロはまだ戸惑いながらも、その後に従った。

仙波が立ち止まって「ここです」と示したのは、一月前にゼロが男性幹部を連れてきた場所だった。
「‥‥‥‥帰る」
ゼロはポツリと呟くと踵を返して引き返し始める。
仙波は慌てて止める。
「ゼロ。‥‥用事が済んだ、という事は千葉達にお返しを渡したという事ですな?ご自分だけお返しを渡しておいて、わし等に渡すな、と?」
仙波の言葉に、ゼロの足がピタリと止まる。
「まさか‥‥全く思われなかったのですか?」
この期に及んでゼロが逃げに出るとは思っていなかった仙波は、もしやと思って尋ねてみたのだが。
「わたしは男だ。この日に何か貰うなどと思うわけがないだろう?」
ゼロにキッパリと肯定されてしまった。
「ゼロ。この場合、前提条件が異なりますぞ。一月前に渡せば、今日貰う可能性は高くなると言う事ですな」
仙波はそう言ってゼロの認識の誤りを訂正すると、「さあ入ってください」と促した。
ゼロは諦めの息を吐くと扉に手を伸ばした。

ゼロは入った途端、にゅ~ぅと突き出されたカラフルな物体に、固まる。
いや、それが花束だという事は、ゼロにも理解できたのだが、差し出してきた人物が玉城だった事で、頭が拒否してしまったのかも知れない。
「‥‥‥。あー‥‥その、なんだ。この前の、ケーキは美味かったからさ。おれ達にゃあんなの作れねぇし、それぞれで何かってのも金がねぇしで、コレやる」
玉城が黙ったままのゼロに向かって、ポソポソと言い訳じみた説明をしてみせた。
「「「「感謝の気持ちとして、受け取ってくれ、ゼロ!!」」」」
杉山と、南と、吉田他、前回集まった隊長クラスの男達が唱和する。
その中に、ディートハルトがいないのを素早く確認したゼロは、玉城の持つ花束を受け取った。
「‥‥‥あ、ありがたく、受け取ろう」
声を引きつらせながらもゼロはそう言った後、一同を再度見渡して尋ねた。
「──ところで、今日の作業は終わらせているのか?」
礼を言ったゼロに、浮かれて騒ぎ始めていた男達は、その一言で、ピタリと動きを止めた。
「ッ‥‥な、なんでぇ、今日くらい、固い事言わなくたって良いじゃねぇか」
「玉城。言葉は正しく使った方が良いぞ?固い事ではなく、当たり前の事だ」
ゼロが言い直すと、杉山と南が笑い、つられた他の者にも伝染した。
「ま、おれ達の用件は済んだし、帰って作業の続きでもするか」
杉山の言葉に、玉城以外が頷いて、玉城は南と吉田に引きずられるようにしながら出て行った。
「後は任せた」との言葉が仙波に残された。

その場がゼロと仙波だけになった後、ゼロは仙波を振り返る。
「わし等の当面の作業は終わっておりますよ」
仙波の言葉に、ゼロは諦めて奥の部屋へ向かった。
扉を開くと朝比奈が突っ込んでくる勢いで近づいて来た。
「酷いよ、ゼロ~。おれが迎えに行くって言ってたのにー。なんで仙波さん?」
「朝比奈、耳が痛い。もう少し静かに話せんのか」
「遅くなってすまなかったな、藤堂」
ゼロは朝比奈をスルーして奥に座ったままの藤堂に声を掛けた。
「いや。‥‥用事は済んだのか?」
「あぁ‥‥、当面はな」
後ろで仙波が扉を閉めて鍵を掛けるのを音で察したゼロは、そのまま仮面を外した。
仮面をつけた状態で花束を持つ図は、ミスマッチ過ぎて笑いを誘うか、不気味なだけだが、仮面を外せば、似合う‥‥どころか花束が霞んで見えさえする。
「今日も綺麗だね~‥‥てか、なんか疲れてる?顔色悪い気がするけどー?」
ゼロが仮面に手をやった時からウキウキと期待に満ちた目で見ていた朝比奈が、それと気付いて表情を曇らせて尋ねた。
「‥‥少し寝不足なだけだ」
「とりあえず、座りなって。茶ぐらい出すぜ」
「ぐらい、じゃないですよー、卜部さん。さぁさ、行きましょ、ル‥‥‥‥じゃなくて、ゼロ」
危うく言い直した朝比奈はゼロの背を押して奥へ誘う。
「‥‥待てッ。わたしは靴を脱がなければッ」
畳の間との境にある段差に躓いて危うく転びそうになるゼロを、近くまで来ていた卜部が慌てて抱きとめた。
「ッぶねぇ~。朝比奈、テメ、慌てすぎ。‥‥大丈夫か?ゼロ」
卜部がそのまま朝比奈に文句を言って、ゼロを気遣う。
後ろにいた仙波は問答無用で朝比奈の頭に拳を落とした。
「ッ~~~。ご、ごめんね、ゼロ」
朝比奈は自分に非がある事が判っているので、痛いのを我慢してゼロに詫びる。
「あ、あぁ。‥‥助かった、卜部。朝比奈も、そう気にするな。なんともなかったのだから」
礼を言って一人で立つと、ブーツを脱いで、揃えてから畳の間に入る。
「以前も思ったが似合わないな‥‥」とゼロは思い、マントも外して畳んで端に置いた。
「しっかし、ゼロ。ちゃんと喰ってるのか?腰回りなんてありえないくらい細いんだけど」
手をわきわきとさせながら言う卜部にゼロはさっと赤くなった。
「──ッ食べている。食べても太らないのだから仕方がないだろう。それより、花瓶とかないのか?このままでは花が可哀相だ」
「んじゃ、おれが水につけてきてやるよ。別に今愛でる必要はねぇんだろ?」
卜部は言うと、ゼロの手から花束を取り上げて一旦部屋の外に出て行った。
「ゼロ、とりあえず座れ。疲れているようだし、ゆっくりしていけば良い」
藤堂の声を聞いて、平静を取り戻したゼロは畳の上に正座した。
「‥‥ッあ。お茶でも注ぐか?」
「って、ゼロ?君、客だって自覚ある?お茶くらいおれ達にだって淹れられるんだから、ゆっくり座ってなよ」
座ってすぐに立とうとするゼロに、朝比奈は呆れて言う。
「何かしていないと、どうも落ち着かなくてな‥‥‥‥」
ゼロはそう応じながらも息を吐いて気持ちを落ち着けた。
そこへ卜部も戻ってくる。
「では、始めましょうか、藤堂中佐」
仙波が頃合いと藤堂に声をかけた。
「おれ達は、君のように手作り等はとても出来ないから、買って来たモノになって申し訳ないが」
藤堂の言葉に、仙波、卜部、朝比奈がテーブルの上に皿を載せ始めた。
いちごのショートケーキ、いちごタルト、いちごプリン、それにいちご大福と見事にいちご尽くしだった。
ゼロは目を見張ってそれらを見てから、藤堂と四聖剣を見上げる。
「‥‥‥‥買ってきたって、こんなに、どこで?」
「紅月さんに良い店教えて貰ったんだよね。前にゼロ、いちごが好きだって言ったこと有ったろ?それで」
朝比奈がにこにこと笑って説明する。
「どうだ?気に入ったか?まずくはないと思うんだけどさ?」
卜部が首を傾げながら問いかける。
「『まずくはないと思う』ではなく、素直に『おいしいと思う』と言った方が良いだろうに‥‥」
仙波は卜部の言葉を注意していた。
「ゼロ、‥‥まぁ食べてくれ」
藤堂が少しテレながら勧めた。

始まりは一月前のゼロの我が儘だったはずなのに。
花を貰い、お菓子を貰う。
そんな可能性など、全く考えていなかったゼロは、この時、やっと心からの笑みを見せた。

「ありがとう‥‥本当に、嬉しい‥‥」
ゼロは、ルルーシュはそう言うと真っ赤になって俯いた。



───────────
作成 2008.03.14 
アップ 2008.03.14 

生徒会室から出たルルーシュは、時間は早いながらも、いつものルートを通り、アジトへ向かう。
もちろん、途中でゼロになっている。
到着するなり目標を探そうとしたが、見つける前に邪魔が入った。
「ゼロ!よかった。今日は来ないかもとか思ったけど来てくれて」
朝比奈がそう声をかけてきて、そのままゼロの背中を押すようにして案内する。
「‥‥後だ、朝比奈ッ」
身を翻して朝比奈の手からなんとか逃れたゼロがそう言った。
「えぇ!?藤堂さんだって待ってるんですよ、ゼロが来るのを」
断られるとは露とも思っていなかったようで、朝比奈は盛大に驚いてくれる。
「‥‥活動に関係が有る事か?」
ゼロは一瞬考えて、それならば妥協しようかと尋ねたのだ。
「そーじゃありませんけど!」
朝比奈は拗ねたように否定する、って幾つだ貴様。
「なら後にしてくれ。第一今日は随分早いんだ。それを」
「え~‥‥。良いじゃないですか、今日くらい」
「朝比奈。‥‥用事が済めば行く。どこだ?」
ゼロが少し疲れた色を声音に乗せると、朝比奈はやっと渋々引き下がった。
「えっと。それは秘密です。なので用事が済んだら知らせてください。一度藤堂さんに伝えてから戻ってきますし」
「‥‥わかった」
朝比奈の答えに「なんだそれは」と思いながら息を吐いてゼロは頷くと、朝比奈に背を向けて当初の目的を果たしに歩き去った。

「朝比奈、一人かぁ、お前‥‥」
部屋に入るなり、かかる声に、朝比奈は無言で頷いた。
「ゼロ、来たんじゃなかったのか?」
「来た事は来たんですけど~。『活動に関係がない事なら後だ』とか言われました。だから一度藤堂さんに報告に戻って来たんですよね~」
朝比奈は力なくそう言うと、「報告したらまた戻りますよ、だから」と付け加える。
「なんでぇ~。折角早く来たんだから少し付き合うくらいすりゃ良いってのに。ホント付き合い悪い奴だぜ、アイツはよぅ」
「そう思うのならば、戻ればどうだ?玉城」
「杉山、テメッ。おれまで締め出そうってのか?ディートハルトだけじゃなく」
「それはよした方が良いですよ、杉山さん。下手に戻るとディートハルトに感づかれてしまうし」
「まぁ、そんな事になれば、来た途端回れ右しかねないからな。朝比奈、戻るなら」
「判ってます。扇さんでしょ?ちゃんと言っときますから。とりあえず、おれは藤堂さんに報告してきま~す」
ぶんぶんと手を振って朝比奈は奥の部屋に向かった。

「ラクシャータ」
ナイトメアの横で最初の一人を見つけたゼロは、「苦手は先に済ますべき」と内心唱えて声を掛ける。
「ん~?あれまぁ。早いじゃないのさ、ゼロ。何か有ったのぉ?」
「いや。‥‥君に、渡したい物が有っただけだ」
顔だけゼロに向けるラクシャータに、ゼロはそう言った。
立ち上がるラクシャータにゼロはシンプルな小箱とデータチップを一枚差し出す。
「ん~?これはぁ?」
「‥‥いつかの礼と、ナイトメアに関する情報だ」
ゼロの返事に、ラクシャータは「あぁ」と納得顔になってにんまりと笑って受け取った。
「律儀ねぇ。こっちのデータチップだけでも良かったのにぃ。ま、有りがたく受け取っとくわぁ」
「そうか。ではわたしはこれで」
「あ、ゼロ。千葉なら一人ポツンと月下にいるわよぉ?」
背中を向けようとしたゼロを止めてラクシャータは月下の上部を煙管で指示した。
「ん?‥‥まぁ良いか。助かった、ラクシャータ」
何故一人なのか疑問に思って首を傾げたが、とりあえず今は用事が先と思い、ラクシャータに情報提供の礼を言うと、ゼロはタラップを上った。
足音に反応したのか、千葉が月下から顔を覗かせる。
「ゼロか。中佐ならここにはいないが?」
千葉の言葉にゼロは絶句する。
そのまま思い返してみれば、かなりの割合で藤堂に用事だったから仕方がないか、と思い直した。
「あー‥‥、いや、今は千葉、君に渡したい物が有ったんだが」
ゼロがそう言うと、千葉は一瞬目を見開いて、月下から出てきた。
「それは失礼した。‥‥それで?」
前に立った千葉に促されて、ゼロはやはり小箱とデータチップを一枚差し出した。
千葉はそれらに視線を落とし、手を伸ばさずに訝しげにゼロを見る。
「一月前の礼と、おまけ‥‥だが」
千葉は「一月前‥‥?」と呟きつつ眉を寄せていたが、思い当たって、驚いた。
渡しておいてなんだが、千葉はお返しが貰えるとは思ってもいなかったのだ。
「‥‥‥おまけ?」
「あぁ、ナイトメア戦での陣形のわたしなりの考察を纏めてある」
ホワイトデーで、お返しだと言うのに、ゼロに浮いた様子はなく、いつも通りなので千葉は苦笑して手を伸ばした。
「ありがたく頂こう。ありがとう、ゼロ」
「い、いや。では、わたしはこれで」
テレたかのように、そそくさと背を向けるゼロに、千葉はかわいいと思ったが、それは中佐にも他の四聖剣にも黙っておこうと思った。

カレンがアジトに来た時、何故かゼロは既に来ていて、丁度トレーラーに入っていくところだった。
声を掛けるには少し離れていたので、走って追いかける。
トレーラーの入り口に着いた時、中から聞こえたゼロの声に、カレンの足は止まる。
「井上?一人か?」
「あら、ゼロ。早いのね。さっきまで扇さんがいたわよ。他の幹部を誰も見かけないから探してくるって出てったところ」
「一人なら丁度良い。井上に渡したい物があるんだが」
「渡したい物?‥‥って仕事かしら?」
「いや‥‥これだ」
気になったカレンはそっと覗き、ゼロが小箱と袋を差し出しているのを見てしまった。
それ以上話を聞いていられなくなったカレンは、そろそろと後退り、トレーラーを離れた。

ラクシャータは嬉々としてデータチップの検証をおこなっている時に物凄い勢いでタラップを駆け上がる音を聞く。
千葉は焦るように紅蓮弐式のコックピットの中に飛び込んでハッチを閉めるのを見た。
余計なお世話かとも思ったが、思いがけず良いものを貰ったばかりの二人は、ゼロが向かったと思われるトレーラーに足を向けた。

ゼロは自室ではなく、トレーラーの一階にいた。
ここにいたはずの井上の姿は見えない。
「ゼロぉ?あんた、お嬢ちゃんが来たの知ってるぅ?」
ラクシャータの声にゼロは顔(仮面)を上げる。
「‥‥来たのか?随分と早かったな」
と応じたゼロが立ち上がろうとするのを見て、ラクシャータと千葉は顔を見合わせた。
「あー‥‥、もしかしてぇ。やっぱり、気付いてなかったのかねぇ?多分、井上に渡そうとしてるところ、見られてるわよぉ、お嬢ちゃんに」
ラクシャータが忠告めいた言葉を紡いだのだが、ゼロは「ん?それが?」と首を傾げただけだった。
「あの様子では、誤解したかと思うが。今、紅蓮に閉じ篭っている」
千葉が続ける。
「‥‥‥誤解?」
「鈍いねぇ。つまりぃ、一人ずつにプレゼントを渡して回ってるって、その場を見たら結構コクッてるようにも見えるわけよぉ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。わたしが?」
「紅月がそう受け取ったようだ、と言っている」
恐らく目が点になっているか、呆然としているだろうと仮面の下を想像しながら、千葉は言葉を足した。
「‥‥‥流石に、仮面をつけたまま告白しよう等と、誠意に欠ける事をする気にはならないが」
「ゼロ。この場合、ゼロがどう考えているかではなく、紅月がどう受け取ったかというのが、問題だと思うが」
ゼロの言い分に好感を持ちながらも、千葉は的外れな事を言うゼロを諭す。
「‥そ、そうだったな。紅蓮だな?行ってみよう。‥‥助かった、ラクシャータ、千葉」
ゼロは二人に礼を言うと、二人の間を抜けてトレーラーから出て行った。

紅蓮の傍に立ったゼロは、そのままで声を出す。
「カレン。聞こえているのならば、話がある」
張り上げるでもないいつもの声で、ゼロは語った。
『す、すみません、ゼロ。い、今は‥‥』
オープンチャンネルでも無いようなのに、声が聞こえて、振り返ったゼロは、集音器を手にしたラクシャータを発見した。
「‥‥カレン。君に渡したい物があるのだが、受け取って貰えないのか?」
『えッ‥‥あいたッ‥‥。それって‥』
驚いたのか慌てたのか、カレンはそんな事を言った後、ハッチを開いた。
ゼロの手にある小箱に見覚えがあり、カレンは慌ててコックピットから降りた。
「あ、あのあの、ゼロ。一つだけ先に聞いても良いですか?さっき井上さんに渡していたのも‥‥」
「あぁ。一月前の件のお返しだ。カレンにはこれからも零番隊で頑張ってもらわなければならないし。‥‥受け取ってもらえるか?」
「はいッ!喜んで!!‥‥‥あの、これは?」
小箱と一緒に受け取ったデータチップが気になって尋ねた中には、「井上さんに渡していたのは袋だったのに」と言う思いもあった。
「表との二重生活も大変だろうから、それで少しでも軽減になればと思ってな。後でゆっくり見てくれれば良い」
ゼロは気負うでもなく答える。
カレンがわからないなりにももう一度礼を言うと、ゼロは、「ではわたしはこれで」と言って背を向ける。
「ん~?ゼロぉ?あんたもしかして、これをわたしらに渡す為だけに来たわけぇ?」
ラクシャータがそう尋ねたのは、何となくゼロがかわいく見えたから。
「「‥‥い、いや。別に。‥‥そういうわけでは(ッ)」ないんだが‥‥。当たったようだな、ゼロ」
ゼロと千葉の言葉が重なり、ゼロは驚いて途中で言葉を区切り、千葉はくすっと笑ってゼロを見た。
「ッ‥‥‥。失礼するッ」
恐らく真っ赤になってるんじゃないだろうか、なんて三人は思いながら、ラクシャータと千葉は「少しからかい過ぎたか‥‥」と反省した。

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作成 2008.03.11 
アップ 2008.03.14 

三月に入り、ひな祭りも無事に済むと、ルルーシュはいつもの如くミレイにお願いをする。
ミレイは、それを苦笑混じりに聞いて引き受けるのだ。
「ルルちゃんも大変ねぇ~」
というミレイの表情には、いつもの面白がる様子とは別に、同情まで浮かんでいる。
「そう思うのならもう少し何とかなりませんか?」
「ならないわねぇ、こればかりは」
ミレイに即答されて、ルルーシュは溜息をついた。
「とにかく、ここの事は任せましたよ、会長」
「わかってるって。でも、生徒会のみんなには自分で対処しなさいよ」
「わかってますよそれは」
応じてルルーシュは片手を振りながら生徒会室を後にした。

妹は勿論、生徒会も人数が少ないので何とかなるから今までも頼んだ事無いでしょう?との言葉はわかりきった事なので言わないでおいた。
それはきっと、ミレイにもわかってるのだろうけど言わずにいられなかったと言うところだろう。
最近、忙し過ぎたからな、と反省した。
後は‥‥騎士団か‥‥と内心で思う。
一番厄介なのがカレンだ。
生徒会と騎士団と、意味合いが多少違うだろうし、まさか似たような物を渡す訳にもいかないからだ。
バレンタインも厄介だがホワイトデーも厄介だなと、ルルーシュは一人溜息をついたのだった。

当日。

「ナナリー。これ、バレンタインのお返し。受け取ってくれるかい?」
ルルーシュはバレンタインの当日に自分が雲隠れするのでホワイトデーに受け取って貰えなくても仕方がないと思っている。
だから、そんな言い方をする。
「まあ当然ですわ。ありがとうございます、お兄様」
にっこり笑ってそう答えた妹にルルーシュは贈り物を手渡し、そっと髪を撫でる。
「これは、咲世子さんに」
「まあ、ありがとうございます、ルルーシュ様」
咲世子は礼儀正しく頭を下げて受け取った。
「ルルーシュ様?もうお出かけになるのですか?」
渡したすぐ後に鞄を肩にかけたルルーシュに咲世子が訝しげに問い掛ける。
「あぁ。少し用事が有ってね。始業前に生徒会に顔を出しておく事にしたんだ」
ルルーシュはキッパリと授業をサボると言ってみせた。
第一、その為にミレイに生徒会の女子全員に集合をかけて貰っているのだ。
「じゃあナナリー。行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ、お兄様」

クラブハウスを出たルルーシュは、生徒会室に向かう。
既に全員揃っていた。
「おはよう、ルルちゃん。時間通りね」
ミレイが笑顔で手を振って挨拶した。
「おはようございます、会長。シャーリーもニーナも‥‥カレンも、朝早くからすまなかったな」
「えーっ。呼びだしたのって会長じゃなくてルルだったの?てかそれで一番最後って‥‥」
シャーリーが驚いて叫ぶ。
「悪いな。こちらの都合で朝早くから集まって貰って」
「‥‥それで。用事って何かしら?」
カレンが普段よりも若干低い声で訊ねる。
カレンの猫かぶりを知らないシャーリーとニーナは気づかない程度の、恫喝を含んだ声音。
「渡したいものが有ったんだ。‥‥勿論、受け取るかどうかはそれぞれで決めれば良い事だが」
とルルーシュは前置きをしてから、まずはミレイに奇麗にラッピングした箱を差し出した。
それを見て、それぞれ今日がホワイトデーである事を思い出した。
「も~ちろん♪受け取るわよ~わたしは。ありがとね、ルルちゃん」
ミレイにしては珍しく悪だくみのそれではない満面の笑みを浮かべて箱を受け取った。
「で~?これの意味を聞いて良いのかしら~?」
と、ミレイは一転悪だくみのそれに変わった笑みでそう尋ねた。
「いつもお世話になっていますからね、会長には。‥‥そう、感謝の気持ち、ですか。ダメですか?」
「ノープロブレムよ。ありがたく戴くわ♪」
ルンルンと本当に嬉しそうなミレイから、ルルーシュは隣のシャーリーに視線を移す。
「シャーリー。君にもお世話、というか仲良くして貰ってるしな。受け取って貰えるかい?」
「もっちろんよ。‥‥ありがとう、ルル」
シャーリーは特別な感情じゃないと言われたけれど、それでも嬉しそうに受け取った。
次に視線を移されたニーナは薄く頬を染めて俯いた。
「え~と、迷惑でなければ受け取って貰いたいのだけど?‥‥そう、また色々と教えて貰いたいし、な?」
ルルーシュは少しおどけてそう言うと、顔を上げたニーナは嬉しそうにコクリと肯いて受け取った。
「ありがとう。わたしで役に立てる事ならなんでも教えるわ」
「期待しているよ、ニーナ」
最後にルルーシュの視線はカレンに向けられる。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
数瞬、無言で見つめ合い(実際は睨み合い)、ルルーシュは無言のまま箱を差し出してみた。
カレンは視線を箱に移す。
他の三人と同じように奇麗にラッピングされたそれ。
「わたしも、聞いて良いのかしら?これをくれる意味を」
「ん?君のと同じ、と言えば良いのか?‥‥まぁ、わからなければお返し、とでも思っておけば良い」
カレンはそれなら、と渋々手を伸ばして受け取った。
「ルルってばなんでカレンさんにだけそーなわけぇ?」
「‥‥っと、悪いシャーリー。これから少し用事が有って、もう出ないと。会長、後は頼みました」
ルルーシュはシャーリーの苦情に答えず、少し慌てたようにそう言って、さっさと出て行ってしまった。
取り残された女性陣がミレイに問い質し気な視線を向けたのは無理もない事だった。

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作成 2008.03.09 
アップ 2008.03.14 

「軽いショック症状ね。‥‥しばらく休んでいたら落ち着くと思うけどぉ?」
そういって枕元を離れるラクシャータに、咲世子はホッと息を吐いた後、深々と頭を下げる。
「はい。‥‥お手数をおかけしました」
「さぁ~て、と。一応プリン伯爵のところにも行っとこうかなぁ。えっと?付いて来て貰っても良いかしらねぇ?アッシュフォードのお嬢ちゃん?」
「咲世子さん、少しの間お願いしても良いですか?」
ラクシャータに頷いたミレイは咲世子に頼むと一緒に部屋を出た。

二人になったものの、どう声を掛けるべきか、藤堂は悩んでいた。
目の前で憔悴して座るロイドという男は、ルルーシュに対して騎士に‥‥と願ったという。
主と仰ぐ者が、たった一つ、大切にしている存在に仇を成したのだと思えば、この状態はありえない事ではないだろう。
そこへ、控えめなノックが届く。
「‥‥。なんだ?」
ロイドが反応しないので、藤堂が返事を返す。
「あれぇ。藤堂、ここにいたんだぁ?今アッシュフォードのお嬢ちゃんと一緒なんだけどぉ。入れて貰えるぅ?」
「空いている。入ってくれ」
藤堂は青い顔を上げるロイドを見ながら返事をした。
すぐに扉が開いてラクシャータとミレイが入ってくる。
「まずぅ。お姫さまは平気よぉ。少し休めば良くなるわぁ。‥‥あんたを励ますのは業腹だけどぉ、だから元気出したら?」
「‥‥そ、うか‥‥。ありがとう、ラクシャータ」
ロイドが素直に礼を言うと、ラクシャータはすぐさま両腕をさする仕草をした。
「ぅわ~。明日は絶対雪だわねぇ。‥‥藤堂、少し詰めなさぁい。お嬢ちゃん、あんたも座ったらぁ?ちょっと話がしたいからさ?」
「‥‥‥。邪魔なら消えるが?」
「それならそうと言ってるわよ、藤堂。‥‥まぁったく、一人涼しい顔しちゃってさぁ。絶対、部外者じゃないでしょ、あんた」
ラクシャータの言葉に、ミレイとロイドは顔を見合わせ、ミレイはロイドの隣に座って向かいの二人に視線を向ける。
「な~んにも知らないって割には、さっき、あのお姫さまを運ぶ時はすっごく丁重に扱ってたわよねぇ?」
「‥‥って、ラクシャータ、君‥‥」
「そーりゃ、気づくでしょぉ?アッシュフォードがついてたりぃ?幼少時にナイトメアに乗ったり~とか有ればぁ?その場にいた事もあるしぃ?」
ラクシャータは「馬鹿にしないでくれるぅ?」と嫌そうに眉間にシワを寄せた。
「‥‥‥そーだっけ?」
ロイドは首を傾げて昔の記憶を引っ繰り返すも、出てくるのは主の事ばかりで。
「あんたはお姫さまの傍にはあまり来なかったから知らないでしょ~けどぉ。‥‥心配しなくても他に話すつもりはないわよぉー」
ラクシャータはロイドを小馬鹿にしたように言った後、ミレイに向かって他言しないと断言した。
「‥‥言葉を交わした事もなければ、直接会った事もない。ただ、‥‥何度か遠目に拝見しただけだ。‥‥七年前に、な」
三人の視線が集まった事で、藤堂は観念してそう告げた。
「あぁ、なるほどねぇ。あんた、そういえば、枢木スザクの師匠だったっけぇ?」
「そうだ。‥‥開戦のドサクサで亡くなったと聞いていた。身を隠しているのならば、触れない方が良いと判断したから黙っていたが」
スザクの事は軽く肯定するだけに留めた藤堂は、ナナリーについての説明を続けた。
苗字が変わっている以上、身を隠していると判断するのは当然だろう。
「あぁ、な~んだぁ。そういう意図かぁ。何考えてるのかと思ったわぁ」
「‥‥それについては、感謝します。‥‥頼っておいて失礼とは思うけど、ゼロは皇族であるクロヴィス殿下を殺害しているから」
ミレイはみなまでは言わなかった。
「んー?でも待ちなぁ。藤堂、あんた確か、ゼロとも七年前に一度会った事があるとかないとか言ってなかった?もしかして‥‥」
ラクシャータは眉を顰めながら、藤堂を見て言う。
「それは判らない。が、おれが会った時には彼女達は傍にはいなかった。‥‥ゼロの事だから、気づいている可能性の方が高いとは思うが‥‥」
藤堂は曖昧に答える。

そこへ再びノックの音。
ミレイがさっと同席者を見渡して返事をする。
「はい。どなたですか?」
「ゼロだ。荷物がある。不都合がなければあけて貰えるか?」
このタイミングで?とは誰もが思ったものの、荷物と言われてミレイは立ち上がる。
続いて何故か藤堂も立ち上がり、ソファを回った。
「今、開けます」
ミレイが鍵を開けて扉を開くと、ゼロが立っていて、その横にそれ程大きくはない箱が置いてあった。
「キョウトからの荷物に入っていた。わたし宛てだったから開けたが‥‥。中身は客人に宛てられているようだったから持ってきた」
「それは‥‥ありがとうございます。‥‥入ってください。あ、荷物は持ちます」
ミレイは扉を全開にしてゼロを招き入れようとしたが、ゼロが荷物を抱えようとしたので、慌てて制する。
「見た目の割に重いから止した方が良いぞ。‥‥藤堂、頼む」
ミレイがゼロに持たせるのを悪いと思っているのだと気づいたゼロは、近くまで来ていた藤堂に言う。
「あぁ、承知した」
そう言って荷物を持ち上げた藤堂は、ゼロの言った通り見た目に比べてかなり重いそれに眉を顰めた。
だが、何も言わずに持って入ると、ローテーブルの上にそっと乗せ、ミレイは扉を閉めて鍵を掛けるとテーブルに近づく。
「キョウトからって‥‥差出人は桐原公ぉ?」
興味をそそられた様に、荷物の箱に視線を向ける。
「‥‥表向きはそうらしいな。‥‥だから気付かずに開けたのだが‥‥。中に手紙が入っていた。内容は見ていないが」
表向きと言う言葉に、ラクシャータは首を傾げ、ロイドとミレイはハッとして中にあるという手紙を探す。
手紙を見つけたのはミレイの方が早かったが、手を伸ばして浚うのはロイドの方が早かった。
一通の白い封筒、その宛名は「ゼロ」であり、差出人は「桐原」とあり、封もあいているので、ロイドは視線をゼロに向ける。
「‥‥その中にもう一通の封筒が入っている。また中に入れて持って来ただけだ。見てみろ」
「あ、‥‥座ってください。‥‥藤堂さんも」
自分も立っていたミレイが二人を促した。
手前の一人掛けソファの前にはミレイが立ったままだったので、ゼロは奥の一人掛けソファに移動して腰を下し、藤堂とミレイも元の場所に座り直す。
その間に、ロイドは中から封書を取り出した、今度は淡い紫。
宛名には「ロイドとミレイ」とあり、差出人は書いていなかった。
ロイドは丁寧な手つきで封を切り、中身を取り出す。
手紙を開くロイドの横から、ミレイが覗き込んだ。
黙々と文面を追っているらしい二人に、ゼロと藤堂、ラクシャータは無言で二人の反応を見ている。
ロイドは真摯な表情を一貫して動かさず、ミレイは徐々に表情を驚きに変化させながら終わりまで目を通していた。

ロイドは自分のペースで二度読み返すと、手紙はミレイに渡し、荷物を漁る。
「‥‥一体どんなこと書かれてたのぉ?プリン伯爵ぅ?」
何の説明もないまま、箱を漁るロイドに、ラクシャータが不機嫌な声を投げる。
「あ、コレかなぁ~。だってぼくの好物を入れてくれてるって書いてあったんだよ?それが先に決まってるじゃないか」
そんなロイドを見て、ラクシャータは呆れて黙り、藤堂は「どうやら少しは元気になったようだな」と思って少し安堵する。
「‥‥ロイドさん。ナナちゃんと咲世子さんの分まで食べてしまわないでくださいね」
ミレイもまた、呆れた様子でそこだけはと注意する。
断熱素材で包んだ物を取り出したロイドは、傍目にも嬉しそうに包みを解いていた。
「わかってますよ~。それは当然じゃないか~。‥‥あ、君の分は貰っても良い?」
「ダメに決まってるでしょ?わたしだって好きなんですから、譲るつもりはありません」
図々しいロイドに、とんでもないとミレイは拒否する。
包みの中からは保冷剤と、プリン。
十分冷たいそれに、ロイドはご満悦だった。
「‥‥でぇ?わたし達を目の前にして一人で食べるつもりなのかしらぁ?プリン伯爵ぅ?」
プリンを前に小躍りしそうなロイドを見るに、「ラクシャータの呼び方はあながち間違いじゃないな‥‥」と藤堂は実感を持って納得してしまった。
ロイドはむっと顔を顰めて言い返そうとしたが、ゼロの存在に気付いてゼロが来る前の会話を思い出した。
「‥‥ゼロぉ。あんた、あの車椅子の少女の事、知ってたのぉ?」
ロイドの視線が流れた事に気づいたラクシャータがゼロに尋ねる。
首を巡らせてラクシャータを見たゼロは言いたい事がわからずそのまま思案する。
「‥‥おれが七年前、彼女に会った事があると言ったら、ゼロに会ったのも七年前だから面識が有ったのか、と問われていた」
仮面の下で混乱している事を知っていた藤堂が、ラクシャータの問いを補足した。
「‥‥彼女の、素性‥‥か?‥‥なるほど?それで警戒していたわけか。確かに知っているが、殺めるつもりはない」
落ち着いたゼロは内心で藤堂に礼を言い、クスリと笑って肯定し、案じているらしい三人の懸念も取り除く。
「‥‥‥‥。それは七年前に交流が有った、から?」
「いや?ないな。盲目で車椅子、『ナナリー』と言う名前‥‥七年前を知っていればすぐにわかる事だ。‥‥だから藤堂にも訊ねなかっただろう?」
「なら何故?貴方はクロヴィス殿下を殺めているわ。‥‥それとも、クロヴィス殿下個人に何か?」
同じ皇族と言う事でミレイは心配していたのだが、「もしかしてクロヴィス個人?一体どんな恨み?」と考える。
「‥‥日本に送られた時点で、切り捨てられた‥‥つまり縁が切れていると解釈していたが‥‥違ったのか?」
ゼロの考えを口にし、もし違うのならば‥‥と怪しい響きを乗せた最後のセリフに、ロイドとミレイは慌てて否定するべく首を振った。
「違ってない違ってないわ。悔しいけれど、切り捨てられたのは事実だわ‥‥。名目はどうあれ事実上人質だったはずなのにそれでも開戦したんだもの」
「全く。亡くなったって聞いた時には‥‥って、ミレイくんは生きている事知っていたんだよね‥‥ずるいなぁ~」
「‥‥仕方がないでしょう?あの時は亡くなった事にして匿わなければ、本当に日本かブリタニアかに殺されていたんだから」
危機一髪で助けた時の状況を思い出したミレイは、もしあの時間に合わなかったらと身を震わせた。
「勿論、お助けした事と匿った事はちゃんと感謝してるよ~。ご無事ならそれが一番なんだし」
遠くで訃報だけを聞いたロイドと、近くで命を狙われる様を見て来たミレイと、どちらが辛かったかなど比べるべきではない。
二人はその事をわきまえていた。

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作成 2008.02.11 
アップ 2008.03.13 

※「光と闇の想い」の続きです。

ゼロは歩いて神根島を移動し、洞窟の前に止まる無人のナイトメアフレームを三機見つける。
言わずと知れたC.C.のガウェインとカレンの紅蓮弐式、それにスザクの白兜である。
洞窟に入る前に、ゼロはまず白兜に近づき、エナジーフィラーを抜いた。
ゴトンと地面に落ちたエナジーフィラーを、ゼロは無感動に眺める。
それからコックピットの中を覗いて予備がないかどうかも確認し、発見したので当然なんとか外に放り出す。
再びゴトンと音がして、エナジーフィラーが地面に落ちる度に結構派手に響かせるのが気がかりなくらいだ。
次いでガウェインに近づきコックピットに入る。
起動キーは抜かれていたが、複座式だからとC.C.と暗号付きの隠し場所を取り決めていた為、今回もそこに置かれていた。
取り出した起動キーを挿し、ガウェインを動かしたゼロは、まずは白兜から取り出したエナジーフィラーを収得する。
これで白兜は援軍が来なければ動けない。
本来なら武装解除くらいしておいた方が良いのだろうが、流石にそんな時間的余裕はなく、ゼロは黒の騎士団に向けて通信を繋げた。

租界。
藤堂は前線で、南は後方本陣で、ディートハルトは広報車で、続々と入る被害報告に苛立ちと焦りを募らせていた。
途中で戦場を放棄して消えた総司令ゼロとC.C.とガウェイン。
その後を追うように扇に指示されてやはり戦場を離れたエースパイロットのカレンと紅蓮弐式。
何故か唐突に負傷して戦線離脱せざるを得なかった副指令の扇。
中枢にいる三人がほぼ同時に戦線離脱した事は、かなりの痛手となった。
そして、最悪の報告がもたらされる。

『大変だッ!ゼロのガウェインを追っていっていたハズのあの怪物が戻ってきたッ』

人形すらしていない、ナイトメアフレームモドキの怪物。
これまで性能の勝っていたガウェインや白兜、紅蓮二式の上を行く化物である。
それだけが戻ってきたと言うのは、どういうことだろうか、考えると怖いものがある。
性能で勝るあの怪物が、追っていったガウェインを見失ったとは思えないから、まさかやられたのか!?と更に不安に思う。
戦場から何の説明もなく消えたゼロを、それでも案じるのは戻ってきて欲しいと願うからだ。
ゼロが消えた途端、戦局は一気に不利になった。
何故か第二皇女は指揮を取っていないようだが、その騎士であるギルフォードの手腕も、それに動かされるブリタニアの大軍も馬鹿にならないのだ。
どんな事情があるかはわからないが、早く戻ってきて指揮を取って欲しいと願わずにはいられないのはその為である。
ゼロさえいれば、戦局が逆転するかも知れない、再び奇跡を起こしてくれるかも知れない、と信仰に近い思いもある。

「くッ‥‥」
その報を受けた藤堂は呻く。
既に性能による彼我の差がハッキリしていて、誰を宛てても「死にに行け」と言うのと同義にしかならない。
例えそれに多数を宛てても勝てる気がしない上に、明らかな穴を作る事になるのだ、判断に迷っても仕方がないだろう。
まだ勝負になるのは騎士団のナイトメアフレームでは、ガウェインと紅蓮弐式を除けば、月下だけだろう。
しかし、藤堂自身や、四聖剣までもが戦列から離れれば、待っているのは確実な敗北なのも判りきっている。
「せめて、弱点なりとも判れば‥‥」
『藤堂中佐。わしと卜部が行きましょう。ここを手薄にしてしまいますが‥‥』
『そうそう。今はなんとしても持たせないと、だしな、中佐』
仙波が月下間のみに通信を繋げ提案し、卜部が同意する。
『抜けた穴はわたしと朝比奈とで全力でカバーします、中佐』
『まっかせてー、藤堂さん』
こんな時でも戦意を失わない四聖剣を、藤堂は誇りに思った。
「仙波、卜部。無理はするな。‥‥戦線を下げて守りに回る。千葉と朝比奈は再度隊列を整えろ」
『『『『承知ッ』』』』

しかし、四聖剣が動き出す前に、通信が飛び込んできた。

『藤堂。聞こえるか?』

藤堂にのみ繋げて来た通信は、月下に乗る四聖剣にも届いた。
それは騎士団の誰もが待ち望んだ声でもある。
「ゼロッ!無事だったのだな。今何処にいる?用事は済んだのか?」
『‥‥‥ッまだだ。だから余り時間がない。急いでいるのだが、そちらにナイトメアフレームモドキが戻ったから知らせようと思った』
「‥‥こちらでも既に確認している」
『そうか、流石に速いな。‥‥藤堂、それには手を出すな。一応、「騎士団に攻撃は加えるな」、とは言ってある』
『‥‥言ってある‥‥って、敵でしょう?』
租界を離れる前のアレに、騎士団が散々な目に遭わされたのは記憶に新しいのだ。
『朝比奈か。今も半分敵だが、半分はまぁ味方だろう。‥‥藤堂、騎士団員に徹底させろ。「オレンジ」と言う単語を耳にすると暴走する。注意しろ』
ゼロの言葉に、藤堂も四聖剣も眉間に皺を作った。
「‥‥‥というと、奴、か?ジェレミア‥‥とか言った‥‥。平気なのか?奴はゼロを」
『地雷を踏まない内は平気だろう。‥‥わたしはもう行かなければ。暫くガウェインを離れる』
「そこは何処だ?C.C.と紅月は?」
『先行している。‥‥白兜もあるから枢木も来ているのだろう。用事が無事に済めば戻る』
『なッ。こっちはもう壊滅寸前なんですよ!』

ドドドドドォ~~ン。

爆撃が巻き起こり、ゼロの声を消し去る。
いつの間にか戦場に到着した怪物がブリタニア軍のナイトメアフレームを破壊した音だった。

「黒の騎士団、全員に告げる。今後『オレンジ』という言葉を禁句にする。‥‥あの怪物を敵に回したくなければ、徹底しろ。態勢を整えるぞッ」
全騎士団員に向けての、藤堂の言葉が響いた。

藤堂の声を聞きながら、団員は敵だったはずの怪物がブリタニア軍に牙を剥いて襲いかかっているのを茫然として見つめていた。
さっきまであんなに絶望的だったというのに、今、戦局は三度変わろうとしているのだ、‥‥たった一機の怪物によって。
『もう一度繰り返す。あれを敵に回したくなければ、禁句は口にするな。‥‥その条件でゼロがあれを説得した』
藤堂の言葉に、騎士団のアチコチから「奇跡だッ」「ゼロがまた奇跡を起こしたッ」と騒ぐ声が聞こえだす。
『隊を編成し直す。この機に乗じて攻めるぞ。浮かれてないで気を引き締めろ』
「「「「「ッわっかりました~~~~~!!!」」」」」
敗戦一色だった騎士団の暗い雰囲気が一掃された。



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作成 2008.02.21 
アップ 2008.03.12 

※「休暇と思い出」の続きです。

もしも万が一素行調査や実態調査などの名目の尾行が存在したとしても、十分撒いたと思った頃。
ギルフォードは目的の場所へと足を向けた。

ピ~ンポ~ン
『授業中ですが。生徒会長及び副会長は至急理事長室へ出頭してください』

放送は唐突だった。
しかし、それを聞いた教師も、生徒達も驚いたりはしない。
それどころか、「またか~」「大変だな~ルルーシュ~」等と呼び出されたクラスメイトに労わりの言葉までかける。

呼び出された対象の片割れである副会長のルルーシュは、溜息を吐くと立ち上がった。
「すみませんが、行ってきます」
「あぁ、毎度毎度大変だな、生徒会も」
「いえ‥‥では、失礼します」
教師からも呆れ混じりに同情されて居心地の悪くなったルルーシュは、言葉少なに返事をすると教室を出て行った。
そう、既に二桁の大台にはとっくに乗っている事なのだった。

理事長室に繋がる廊下に入る前にルルーシュは会長のミレイと合流した。
「‥‥で?今日は何ですか?会長」
ルルーシュが眇めた目でミレイを見ながら訊ねると、ミレイは乾いた笑いを浮かべた。
「あはは‥‥。それがね、ルルちゃん。わたしも知らないのよ。今朝は何も言ってなかったから」
ルルーシュは更に目を細める。
「‥‥帰って良いですか?会長。何だか嫌な予感がするんですが」
「珍しいわね。おじい様の呼び出しを断ろうとするなんて」
ミレイは驚いた様子で応じる。
「‥‥冗談です。さ、行きましょう、会長」
「ルルちゃん?嫌なら良いのよ?おじい様の我が儘に付き合わなくっても」
「理事長も別に我が儘で呼び出しているわけではないでしょう?」
「そこんところはちょっと~。孫娘のわたしにも良くわかんないのよね~」
言い合いながら、二人の足は理事長室へと向かっていた。

中に入ってミレイは、ルルーシュをそのまま帰してしまわなかった事を後悔した。
ルルーシュもまた、冗談に紛らわさずに予感に従って帰っていればと後悔していた。
理事長室には、ミレイの祖父ルーベンがいた。
だが、一人だけではなかったのだ。
第二皇女コーネリアの騎士、ギルバート・G・P・ギルフォードが、何故か私服姿でそこにいた。
「‥‥彼等が、この学園の生徒会長と副会長、です」
ルーベンがギルフォードにそう紹介した。
紹介されたからには名乗らないわけにはいかない。
「‥‥‥‥。生徒会長のミレイ・アッシュフォードですわ。‥‥彼は副会長のランペルージ」
ミレイは最後の悪足掻きに出てみる。
ギルフォードはまっすぐにルルーシュを見つめた。
「‥‥やはり、生きておいででしたか、殿下」
ルルーシュとミレイの肩が、同時に強張る。
「‥‥『やはり』?最初から知っていた、と?」
これ以上の誤魔化しは無意味と、ルルーシュは息を吐いた後、そう尋ねた。
「‥‥‥‥。誰も殿下と妹姫の御遺体を確認した者がおりませんでしたから。‥‥それは、『亡くなられた』ではなく、『行方不明』と言うのですよ」
「なるほど?‥‥それで、わたしの存命を知って、どうするつもりだ?ギルバート・G・P・ギルフォード」
ルルーシュは慌てたりせず、静かに相手に確認を取る。
「‥‥お戻りになるおつもりはないのですか?既に七年。‥‥いえ、本国を離れてより八年になられるのですよ?」
「異な事を。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは既に死んでいる。戸籍も記憶も。そうなっているのだろう?今更戻っても居場所など在りはしない」
ルルーシュは笑みさえ浮かべて、そう応じた。
「コーネリア姫様が保護してくださいます。殿下のご無事な姿をご覧になられたら、きっと温かくお迎えくださいます」
ギルフォードはルルーシュの言葉に即座に返す。
「‥‥。この学園はブリタニアから隠れる為の箱庭だった。かなり自由に振る舞えるところが気に入っている。‥‥義姉上は我々をどこに閉じ込めるおつもりか?」
ルルーシュは遠まわしに言葉を綴る。
気に入っている場所を追い出し、不自由などこに幽閉するのか、と。
ブリタニアに戻る、と言う事はそう言う事なのだと暗に言ったのだ、ルルーシュは。
ギルフォードは静かに首を振って答える。
「‥‥姫様はまだ、存じ上げません。‥‥この姿を見ていただければ判るかと存じますが、現在、休暇中でして」
「ほぉ?真面目なお前らしくないな?ギルフォード卿。主に無断で、わたしに会いに‥‥いや、わたしがここにいると踏んだ時点で何故主に知らせなかった?」
ルルーシュが訝しげに眉を寄せて尋ねるのを、ルーベンとミレイは不思議な思いで見つめていた。
ルルーシュが、ギルフォードと親しかったとは終ぞ聞いた事がなかったからである。
ギルフォードの主で有り、ルルーシュの義姉であるコーネリアが妹共々、ルルーシュの住まうアリエスの離宮を良く訪ねていた事は知っていたが。
「ご承知の通り、姫様は実妹であるユーフェミア様と殿下のご一家をこよなく愛しておられました。不確かな情報をお教えする事は出来ませんでしたから」
ギルフォードは当時を思い出して、苦いモノを感じながらも、そう答えた。
「‥‥‥‥。義姉上には黙っていて欲しい、‥‥そう言ったとしても、既にわたしを確認しているのだから、無理な相談か?」
ルルーシュの諦めたような言葉に、ギルフォードは瞬間沸騰した。
「ッ‥‥何故ですか?‥‥何故殿下はッ‥‥」
「落ち着け、ギルフォード卿。わたしには、あの表面のみが華やかな、忌わしい場所に戻る気がないだけだ。‥‥アレがテロでなかった事は知っているだろう?」
突然憤りを見せたギルフォードに、ルルーシュはやはり動揺する事無く、言い聞かせるように話す。
「‥‥それはッ‥‥。ですが、今はこのエリア11も何かと物騒です。イレブンが活気づいておりますし。皇室とまでは申さずとも、本国に一旦お戻りになられた上で」
「ダメだ。本国にも戻るつもりはない。‥‥わたしに、顔を隠して行動しろとでも言うつもりか?」
「ちょ‥‥。何故かは知らないけれど、彼は貴方の事を考えて言ってるみたいなのに、もう少し言い方を考えてあげたら如何ですか?」
ルルーシュの口調がきつくなったのを感じて、ミレイが口を挟んだ。
「ミレイ。お前は黙っていなさい。‥‥殿下。隣に部屋がございます。ギルフォード卿と、そちらでお話になられますか?」
ルーベンが孫を叱責した後、ルルーシュに提案する。
「‥‥良いだろう。借りるぞ、ルーベン」
ギルフォードが微かに頷いたのを見たルルーシュは、そう応じて隣に移動していった。
「おじい様ッ」
ミレイは二人の姿が隣室に消えるなり、祖父に抗議する。
「ミレイ。ギルフォード卿は、殿下を悪いようにはなさらないだろう。大人しく待っていなさい」
確信に満ちたルーベンの言葉に、ミレイは渋々頷いて、隣室に繋がる扉を見つめ続けた。



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作成 2008.02.15 
アップ 2008.03.11 

「ゼッケン‥‥‥ですか?」
ゼロと二人だけになった会議室で、説明を受けていたカレンは、首を傾げた。
「そうだ。最優秀の選定を採点式にしたいが、みな同じ格好で紛らわしいとのクレームが上がったらしい。ゼッケンをつけて見分けると言う案が出ているようだ」
聞いたカレンはニュースソースであろう金髪の女性を思い浮かべ、「そこまで流しますか、ミレイ会長‥‥」とげんなりとした気分になる。
勿論それを有効利用しているゼロを目の当たりにしているし、役に立てている側の者としてはむしろ喜ぶべきなのだろう事は、カレンも承知しているのだが。
どこかしら、割り切れないモノがカレンの中に存在する事もまた事実だったのだ。
「カレンには前日までのなるべく早い時期に、カレン自身と枢木スザクのゼッケン番号を入手して来て貰いたい」
「はい。‥‥えっと‥‥、それは‥‥何に使うのでしょうか?」
「例えば、カレンのゼロを7番、枢木の団員を100番と仮定しよう。『そこの団員100番。このわたし、7番のゼロが命じる』‥」
ゼロの芝居がかった台詞にカレンは目を丸くした。
「あ、あの。‥‥手伝っていただけるのですか?」
「幾つかのパターンを想定して吹き込むくらいは造作ない。‥‥但し、カレンには内容とタイミングを誤らないように覚えてもらう必要があるが‥‥」
「それくらいなら‥‥。ありがとうございます、ゼロ。枢木スザクになんて絶対に負けませんから」
カレンは上気した頬を隠す為にも、勢い良く頭を下げて礼を言った。

「ゼロ。‥‥‥今のこの時期に、この場所を襲撃する意図は何処にある?‥‥まさかイベントに合わせただけではあるまいな?」
ゼロの私室に呼ばれた藤堂と四聖剣は、イベント当日におこなう予定になっている作戦の資料を手渡されたばかりだった。
ざっと眼を通した藤堂が、ゼロが説明を始める前に、そう切り出した。
場所はヨコハマ。
アッシュフォード学園から遠すぎず近すぎない、手頃な位置にある。
「合わせたのは確かだが、元から予定には入っていた。まるっきり無駄な事はしない」
「では、襲撃する理由を聞いても構わないな?」
重ねて尋ねる藤堂に、「もちろん」とゼロは頷いた。
「この襲撃に関しては全権を藤堂に任せるからな。疑問点は少ないに越した事はない。迷えば隙が出来るから気をつけろ」
そう前置きしたゼロに、朝比奈が待ったをかける。
「ちょ、っと待った、ゼロ。藤堂さんに任せるって‥‥ゼロは参加しないんですかー?」
「そうだ。わたしが参加しなくても平気な作戦にしているが、それでも『ゼロ』がいなければと藤堂が判断するのならば、元の日に戻すのは可能だ」
「‥‥ちなみに、元々は何時決行だったんだ?この作戦は」
千葉が軽く手を上げて発言する。
「ハッキリした日程はまだ決めていなかったが中旬には決行予定だった。半月程前倒しになった形、だな」
「‥‥物資の補充は間に合うのか?」
「あぁ、それは。通常ルートの搬入には問題がないし、特殊ルートも明日発注予定だったから今日までならばまだ変更は利く」
「おれ。今すっごく特殊ルートの事が気になるな~。いつもゼロが直接注文出してるんですよね~?どんなのー?」
「‥‥ノーコメントだな。それは知らなくても作戦に支障は出ない。‥‥さて、襲撃する理由だが‥‥」
朝比奈の問いはあっさり切って捨てたゼロは、三つ有った理由を順番に挙げていった。

「‥‥‥襲撃する理由は納得できた。‥‥次はゼロが参加しない理由を聞いても良いだろうか?」
「‥‥‥。表の都合、だ。決行予定が中旬だったのはそれまでわたしの予定が立たなかった為だ。纏まって租界を離れる時間が作れない、というのが理由だ」
ゼロの答えに藤堂はやっと頷いた。
「良いだろう。イベント当日、ゼロ不在の騎士団はおれが預かろう」
「すまないな、藤堂。‥‥では作戦について不明な点が有れば言ってくれ」
こうしていつも以上に詳細な打ち合わせはそれから更に続いたのだった。

特派のトレーラーの中で、セシルの悲鳴が特派一同の鼓膜を響かせた。
「ちょっ、ちょっとなにをやっているんですか、ロイドさんッ」
しかしロイドはセシルの声量に少し眉を顰めただけで、作業の手を止めたりはしなかった。
「んー?おしごと~」
のほほんとそんな回答を返すロイドに、セシルはプッツンとどこかをぶち切った。
「今そんな事をやったら、今日中にランスロットを起動できるまでに持って行けないじゃないですか。どうするんですか、ロイドさんッ」
ロイドの胸倉を掴まんばかりに迫るセシルに、ロイドはやっぱりのらくらへらりと笑みを見せた。
「だってね~、セシルくん。パーツが学業でランスロットをほったらかしにしてるんだよ?別に構わないんじゃないかなー?」
「学業、じゃなくて、ロイドさんの趣味、の為じゃないですか、アレはッ。それなのにあなたって人はッ」
「まぁまぁ、そんなに怒らないで。ねーセシルくん。君も手伝えば、それだけ早く元に戻るんだしー?」
「だからって、明日も出動かかっているんですよ?こんな状態のランスロットかかえてどうしようって言うんですか」
「んー。だってね~。パーツはたぶん戻ってこないだろうし?明日のイベントが終わるくらいまでに戻しておけば良いんだから~?」
言い訳しながら、「まったく君のせいでとんだとばっちりだね、ラクシャータ」とロイドは口の中で呟いてみる。
これでラクシャータが「知っている」のなら、くやしーやらかなしーやらと、涙にくれるのだろうとロイドはそうも思う。
「‥‥‥‥次、こんな事をしたら、承知しませんからね、ロイドさん?」
「わ、‥‥わかりましたよ。セシルくん。気をつけるから、‥‥ね?」
ロイドは及び腰になりながらもコクコクと肯いたのだった。

藤堂は己の月下の中で瞑想に耽るかのように両目を閉じていた。
その耳に届くのは、騎士団の通信でも、四聖剣の会話でもない──そのどちらも、今は回線が切れている。
モニターに映るのは、外の景色ではなく、別の場所、そう、某学園の門前だったりする。
門前には、歩哨か門番よろしくブリタニア兵が二人立っていて、学園内から走り来る人がいる度に、その数を数えていた。
『八回‥‥本気で十回やる気かよ、こいつは』
いささか辟易しながら藤堂はそれを聞くともなく聞いていた。
本気で実行に移したのか、ゼロ、それに紅月‥‥と思う反面、ホントに指示に従っているスザクにゼロの読み通りかと感心もする。
いや、藤堂自身、あの時ゼロと話した事に偽りはないのだから、非難しようとは一欠けらも思ってはいないのだが。
「もう少し、疑問を持ったらどうだ、スザク君‥‥」と、かつての弟子に言いたくなってくるのがいただけないだけだ。

『──枢木が十回目の合図を送ったら、作戦開始だ』

ゼロの言葉が藤堂の頭に蘇る。
離れたところでおこなわれているイベントの進行も作戦に組み込む事に、藤堂は難を示していたのだが。
話を聞いて納得はしたし、支障が出る場合は、連絡を寄越すと言うので、藤堂もその作戦を受け入れたのだった。
枢木スザクがモニターに姿を見せる事九回目、モニターから流れる音量を消した藤堂は、従う騎士団への通信を繋げた。
「各位、突入準備。まもなく作戦を実行に移す」
四聖剣からは「承知」、他の団員からは「わかった」や「はい」などの返事が返る。
藤堂が何でタイミングを計っているか知っている四聖剣の返事には、少々勢いが欠けていたが、無理はないだろう。
それでも余計な事は何も言わなかったのは、ゼロの説明を一緒に聞いていたせいだろうが。
藤堂は四聖剣の心中を思って、十回目の姿を見るまでの間、苦い笑みを浮かべたのだった。

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作成 2008.02.03 
アップ 2008.03.10 

「‥‥‥‥で?扇さん、ゼロは何て?もう機嫌は直った?」
扇が二階から降りて来るなり、下でずっと今か今かと待っていたと思われるカレンがまず駆け寄って尋ねた。
その後ろで扇とカレンを遠巻きにするように、みんな注目している。
「あー‥‥。一応、直った‥‥、かなぁ?」
扇は少し躊躇った後、曖昧に応じた。
「何よそれ。一応って。かなぁって。扇さんハッキリしてください」
ずずいとカレンが詰め寄り、扇は後退りながら、こくこくと頷く。
「い、いや。うん。‥‥だから、もう‥‥機嫌は悪くない‥‥かな」
しかし出てくる言葉が変わり映えしないのは扇ならではだろうか。
「かな、じゃねぇ!それじゃさっきと同じ答えじゃねぇか。ハッキリキッパリ言えよ、扇」
ハッキリキッパリ過ぎる玉城が、遠い位置から声を投げる。
「だから、機嫌は直ってる、うん」
扇は再度言い直した。
「それで、扇さん。ゼロの相談に乗って上げたんですよね?何が原因で機嫌が悪かったんですかー?」
朝比奈がズバリと扇が聞いて欲しくない事を聞いてきた。
「‥‥‥‥‥‥。も、もうゼロの機嫌は直っているんだから、それは別に言わなくても良いだろう?」
長い沈黙の後、扇は視線を逸らせて逃げの手に出る。
固唾を呑んで待っていた分、団員達はずっこける。
勿論、それですまそうなんて思う者はいない。
全員が扇の押しの弱さを知っているのだ。
ここは押して押して押しまくり、押しの一手で扇の口を割らせようと、元扇グループ+朝比奈は一致した見解に達した。
「扇さん。今はゼロもいませんし、みんな扇さんが話したなんて言いませんから。ね?話してください、扇さん」
「そうよね、カレンの言う通りだわ。だから教えて、扇さん。さっきのゼロ、ホンットに怖かったのよ?逆の立場だったら扇さんだって」
カレンと井上の言葉に、杉山と南と吉田がうんうんと頷く。
「‥‥‥‥い、いや。‥‥し、しかし、だな‥‥」
扇は勢いに押されて後退するが、壁にぶつかり逃げ出せなくなってしまった。

「‥‥何をしている?騒々しい」
その時、いつの間にか部屋から出てきていたゼロが、階段の途中から声を投げて来た。
その声に、先程の凄まじさは込められていない事に、一同ホッとする。
「ゼロッ。‥‥あの、‥‥どうして機嫌が悪かったのか、‥‥き、聞いても良いですか?」
扇に聞いても埒が明かないと、カレンはゼロに直接尋ねていた。
「‥‥なんだ、扇。教えていなかったのか?」
「あ‥‥いや、その‥‥。そう、なんとなく」
やっぱり扇はしどろもどろに意味不明な言葉を連ねた後、コクリと肯いた。
フッとゼロは笑う。
「おかしな奴だな。わたしは別に口止めはしていなかったはずだぞ」
「あ、あぁ。それは、勿論。‥‥だけど、その‥‥」
それでも扇の口からは有益な言葉は出てこない。
「くっくっ‥‥。では扇。今度また、わたしの機嫌が悪くなった時も相談に乗って貰おうか?」
ゼロはそう言うと、茫然とする扇と、唖然とする一同を残して格納庫の方へと歩いて行ったのだった。


部屋に消える前のゼロとは全く違い、笑いながら出て行ったゼロに開いた口が塞がらない。

我に返った扇は、「絶対ゼロの意趣返しだ。おれだってあんな状態のゼロと対面したいはずはないってのに‥‥」と心なしか青くなる。
「流石副司令だけの事はあるんですね~。あの状態のゼロを落ち着かせるどころか、笑わせるなんて」と朝比奈は感心する。
玉城はしつこく相談の内容を知りたがり、再び扇に視線を戻す。
カレンはかなりのダメージを受けたのか、いまだ唖然としたままゼロの消えた方向を見つめていた。

そこへ、千葉が爆弾を落とした。
「なんだか、ゼロと扇さんが付き合ってるように思えてしまったが?」

当然、その直後、その場に絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。

その日、騒動は終わらなかった。



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作成 2008.02.21 
アップ 2008.03.09 

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