04 | 2025/05 | 06 |
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★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/幼.少時/捏造)
「おかえりなさい、お母様」
マリアンヌの帰宅にナナリーは嬉しそうに駆け寄って抱きつきながら挨拶をする。
「ただいま、ナナリー。元気にしていたようね。ルルーシュと藤堂さんは?」
「雨に濡れたからお風呂で温まって、今はお兄様のお部屋」
マリアンヌは挨拶を返した後、出迎えに出てこない二人の事を尋ね、ナナリーの答えにスッと目を細めた。
「そう。じゃあ、少し様子を見てくるから、ナナリーはここで待っていてくれるかしら?」
「はい、お母様」
ナナリーから離れたマリアンヌはその足でルルーシュの部屋へと向かい、そして仲良く手を繋いで眠るルルーシュと藤堂を発見した。
マリアンヌは完全に気配を断っていたので藤堂が目覚める事はなかった。
マリアンヌはその様子を見るとにっこりと笑い、そして静かに立ち去った。
次の日、藤堂が目を覚まして見たものは、隣ですやすやと眠るルルーシュと、にっこりと微笑んで座るマリアンヌの姿。
「少し、お話があるのですけど、後でお時間を頂いても宜しいかしら?藤堂中佐?」
普段、「藤堂さん」とルルーシュ達に合わせて呼んでいたマリアンヌの違う呼びかけに、藤堂は背中に冷たいものを感じながらも頷いた。
後でというのは、いまだ眠るルルーシュの手が藤堂の手を離していないからだろう。
「ありがとうございます、藤堂中佐。では後程」
マリアンヌは笑顔のままでそう言うと、やはり気配も音もなく立ち上がって立ち去って行った。
その後起きたルルーシュはまだ藤堂と手を繋いでいた事に驚いた。
「‥‥すみませんッ!もしかしてずっとついていてくださったのですか!?」
一晩中傍にいたのかと思うと、ルルーシュは恥ずかしいやら嬉しいやら、どうして良いのか判らずうろたえた。
「いや、おれも眠ってしまっていたようでな。だから気にする事はない」
藤堂は離れた手に寂しさを感じてしまいながらもそう言って宥めた。
ルルーシュもまた藤堂と繋いでいた手を見てから、藤堂に視線を移した。
「‥‥あの。‥‥ありがとうございました、藤堂さん」
はにかむような笑顔で礼を言うルルーシュに、藤堂も笑みを見せた。
「いや、役に立てたのなら嬉しく思う」
そう言ってから立ち上がった。
「先に行っている。平気そうなら着替えると良い」
藤堂はそう声をかけ、ルルーシュが頷くのを待って部屋を後にした。
藤堂はその足でマリアンヌの元を訪れた。
「藤堂中佐?責任は取って頂けるのでしょうね?」
マリアンヌの言葉に、藤堂は目を点にした。
「責任ってなんだ?」というのが正直な思いだ。
「待って頂きたい。おれは別に」
「何か仰って?聞こえなかったのですけど。わたくし、今、『はい』と言う言葉しか耳に入らないみたいですわ」
藤堂の反論を遮ってマリアンヌは笑顔のままにそう言った。
あまりな言いように、藤堂は頭痛を覚える。
それはつまり、「責任を取る」という選択肢しか藤堂には与えられていないという事だ。
「‥‥お返事頂けないのかしら?‥‥それとも藤堂中佐はルルーシュの事がお嫌いなのかしら?」
マリアンヌの言葉を聞きながら、「これでは護衛を引き受けざるを得なかった時と同じだな」と思いながらも藤堂は厭っていないと気付いていた。
「‥‥‥嫌いではない」
どこか憮然としながらも藤堂はそう答えていた。
「それは良かったわ。ではお返事は頂けるのでしょうね?」
マリアンヌははやっぱりにっこりと微笑みながらも再三の問いを投げる。
「‥‥‥‥‥‥。どういう意味で仰っているのか、確認しても良いでしょうか?」
「あら。お分かりになりません?勿論、責任を取ってあの子を幸せにして頂けるのでしょう?という意味ですわ」
「‥‥同性で、しかも随分と年上だ。ルルーシュ君がそれを良しとするとは思えないのだが‥‥」
「あら、そんな事ありませんわ。ねえ?ルルーシュ」
やっぱり笑顔のままでマリアンヌはそう言って藤堂の後ろに視線と言葉を投げ、藤堂は驚いて振り返る。
戸口にルルーシュが立っていて、藤堂は固まった。
「ルルーシュ。貴方は藤堂さんをどう思っているの?」
「好きです、母上。藤堂さんは強くて、優しくて、それに暖かい人ですから」
マリアンヌの問いに、ルルーシュはあっさりとそう応じた。
「と、言う事ですの」
当人にまでそう言われてしまえば、藤堂は自分の心に向き合わねばならなくなった。
藤堂を前にしたルルーシュの言葉はいうなれば告白であり、藤堂はそれに何らかの返事を出す必要が生じたのだ。
そうして藤堂が思い出すのは、昨夜の事だ。
ルルーシュの笑顔に、寝顔に見惚れていた自分、そして手が離れた時に感じた寂しさ。
「‥‥おれもルルーシュ君が好きらしい」
ルルーシュに向かってそう言えば、ルルーシュはぼんっと再び顔を朱に染めた。
そこで初めて、昨日の事が熱のせいではないと気付き、藤堂は「いい加減おれも鈍いな」と自覚した。
「そうですか。では認めて差し上げますわ。ルルーシュを不幸にしたら当然赦しませんけど、宜しいですわよね?藤堂中佐?」
マリアンヌの宣言に、藤堂は意を決したように頷いた。
こうして藤堂はルルーシュとの交際を母マリアンヌに認められたのだった。
「‥‥おれで良かったのか?ルルーシュ君」
「貴方が良いんです、藤堂さん。ぼく、貴方が一番好きですから」
「おれも、君が一番好きだよ、ルルーシュ君」
周囲から見れば微笑ましいカップルが誕生した。
その後、勃発したブリタニアとの戦争。
圧倒的な軍事力の差は、日本の敗北を示唆していたが、結果は大きく予想を外れる事になる。
「閃光」の異名を持つ女性と、新たに「奇跡」の異名を手にした軍人によってブリタニアの撤退で幕を閉じたのだ。
ブリタニアは今後一切「日本」に手を出す事はしない、との条約に同意した為、日本はブリタニアの脅威から開放されたのだった。
その日本の片隅で、「奇跡」の異名を手に入れた藤堂鏡志朗は、一人の恋人と幸せに暮らしているという。
了
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作成 2008.09.02
アップ 2008.09.08
★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/幼.少時/捏造)
親子との対面から暫く、藤堂は桐原の正式な要請により枢木神社へ通う日々が始まった。
なんでも、『閃光』の異名は伊達ではなく、軍人としての各種技能がずば抜けていると桐原が大いに喜んだそうだ。
これは是非にでも指導をと、いうなれば藤堂はその代わりとして差し出されたようなものだったが。
そう言った裏事情は内密に、と釘を刺されたので(というか、言えないだろ、それは)、仙波達には「桐原公の用事」とだけ言ってあった。
卜部曰く「藤堂中佐が居ない時に何度かすっごい美人が来たんですよ。勿体無い事しましたね」だそうだ。
千葉曰く「名前しか名乗らなかったので、『まり』という事しか判りませんが、‥‥とてつもなく強いんです。手も足も出ませんでした」と悔しそうだった。
仙波からは「対戦しておられないのはお偉方の他は、藤堂中佐を残すのみです。次は中佐のおられる時に参られると宜しいですな」と楽しみにされた。
仙波には悪いが、おれが戦ったとしても、言いたくはないがまず勝てないだろう。
ふと翳った気がして顔を上げると、心配そうな表情をした顔が間近に有って少し引く。
「ルルーシュ君‥‥どうした?」
「それはこちらの台詞です、藤堂さん。さっきからずっと呼んでいたんですが」
「そ、そうか。‥‥すまない。それで?」
初めは皇子、皇女という事もあり、敬語で話そうとしていたが、早々に「ぼく達は子供です。敬語でなくて構いません」と言われてやめてしまった。
「『雨が降りそうなので中に入りませんか?』と言ったんです。‥‥あの、どこか具合でも?」
「いや、すまない。少し考え事をしていたようだ」
藤堂は苦笑してそう応え、空を見上げると確かに黒い雨雲が広がっていてまもなく夕立が来そうだと判る。
翳ったと藤堂が思ったのは、何もルルーシュが覗いていたせいばかりではないらしいと気づいた。
「ナナリー君は?」
「先に戻らせました」
社を示しながらルルーシュが言うので藤堂も見ると障子の隙間から顔を覗かせて手を振る少女の姿が見えた。
頷いて立ち上がった藤堂はルルーシュと共にナナリーの元へと動き出したがその矢先に、ポツリと雫が当たった。
「急ごう、ルルーシュ君」
声を掛けるその間にも、雫は次から次へと落ちてきて、即座に叩きつけるような土砂降りへと変化した。
藤堂はルルーシュを雨から庇うような体勢で移動していたが、豪雨の前にはあまり役に立たなかった。
ナナリーのいる社に辿り着いた時には、藤堂だけでなくルルーシュも濡れ鼠になっていたからだ。
びしょ濡れの二人にナナリーがおろおろとしている。
「ナナリー。濡れるから触るなよ。えーっと。着替え、持ってきますね」
濡れて張り付く前髪を掻き揚げながら、ルルーシュはナナリーと藤堂に声をかける。
ナナリーはこくんと頷くが、藤堂はルルーシュを抱き上げた。
「ほあ‥‥ッと、藤堂さん!?」
突然の事に驚いて顔を赤くするルルーシュに、藤堂は諭す様に言う。
「身体が冷えている。お互い風呂場に行って温まった方が良さそうだ」
「あ、歩けますからッ」
「濡れる面積は少しでも少ない方が良いと、ルルーシュ君も思うだろう?」
だから暴れてくれるなよ、と藤堂はルルーシュに笑いかけながら風呂場へと向かった。
大人しくなったルルーシュは風呂から上がっても大人しいままだった。
頭からタオルを被り、髪を乾かす為に動かしている腕も緩慢で、「風邪でも引かせたか!?」と藤堂は不安になる。
「ルルーシュ君?」
「ぅわっはいっ!なんでしょうか?藤堂さん」
ルルーシュにしてみれば唐突だったのか、驚いて返事をしてから声のした方を振り仰いだ。
藤堂は雨に濡れた服の代わりに着流しを着ていた。
いつもとは違う雰囲気の藤堂が目に映った途端、ルルーシュの顔はぼんっと音を立てたように真っ赤になった。
藤堂は「やはり熱が出たのかッ!」と慌てた。
「すぐに休みなさい、ルルーシュ君。悪化したら大変だ」
藤堂はそう言うと、再びルルーシュを抱えあげた。
「ぅわ、あの‥‥?ぼくは平気ですからッ!」
わたわたと慌てるルルーシュに、藤堂は眉を寄せる。
「君が寝込めばナナリー君が悲しむだろう?大人しく横になるんだ」
藤堂の有無を言わさぬ様子に、「違うのに」と思いながらも言葉が出ずにルルーシュは大人しくなって俯いた。
藤堂はそのままルルーシュを部屋に運び、布団に寝かせ、タオルケットを掛けた。
「寒くはないか?ルルーシュ君」
髪を梳いて熱を見る為に額に手を乗せた藤堂が尋ねる。
病人の看病とか、あまりした事のない藤堂にはどうすれば良いのかあまりわからないが、わからないなりに気付いた事を尋ねてみたのだ。
「はい」
こっくりと頷くルルーシュにホッとした藤堂は手を引っ込めて、「ゆっくり休むんだぞ」と言って立ち上がった。
「あのッ‥‥!」
立ち去る気配を見せた藤堂にルルーシュは咄嗟に声を掛けていた。
ルルーシュの声に必死さを感じた藤堂は、再び座って「なんだ?ルルーシュ君」と尋ねてみた。
「‥‥‥あの。眠るまで、‥‥傍にいて貰っても良いでしょうか?」
どこか縋るような、ルルーシュの表情に、藤堂は知らず頷いていた。
「良いぞ。なんなら手も握っていてやる。だから安心して休め、ルルーシュ君」
そう言って差し伸べた藤堂の手に、ルルーシュは自分の手を重ね、嬉しそうに顔を綻ばせてからゆっくりと目を閉じた。
藤堂は思わずルルーシュの笑顔に見惚れていた。
掌にルルーシュの体温を感じながら、その寝顔を見続けていた藤堂は、いつしか聞こえてきた規則正しい寝息に我に返る。
一体どのくらい見惚れていたのかと、藤堂は自嘲気味に思う。
それから手を引っ込めようとして、しっかりと握られている事に戸惑った。
強引に解けば起こしてしまうかもしれない、と考えた藤堂は、ルルーシュが手を離すのを待つ事にした。
後編に続く
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作成 2008.08.24
アップ 2008.09.07
★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/幼.少時/捏造)
※捏造かなり捏造既に別な話な気がします....。
『次、‥‥皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア様。ご入来です』
謁見の間に響いたその声に、大きな広間に集った者達がざわつく。
(まさか‥‥。確か凶弾に倒れられたのでは‥‥?)
(娘のナナリー皇女を庇われて撃たれたという話ではなかったのか?)
驚きつつも、場所を考えひそひそと囁かれる言葉。
気遣えたのはそこまでだった。
「‥‥シャルル・ジ・ブリタニア」
マリアンヌは頭も垂れずに階の下で立ち止まると、真っ直ぐに睨みつけるかのようにブリタニア皇帝を見てそう呼び捨てた。
完全な不敬罪であるのだが、誰も口を挟む事は出来なかった。
そこにいたのは皇妃マリアンヌではなく、『閃光』としての気迫を有していた武神だったからだ。
「何の音沙汰もありませんでしたね?まさか、本当に一ッ言も言ってこないなんて思いませんでしたわ」
にっこりと笑うマリアンヌの瞳には欠片も優しい光は見られない。
「何を言うか。皇帝とはそう言うものだと何度も言ったはずだぞ」
言い返す皇帝の声に、「ホンの少し怯えが含まれているように感じるのは気のせいか?」と大多数が思うが、当然口にはしない。
「わたくし、今度という今度は本当に愛想が尽きてしまいましたわ。元々ありませんでしたけど。なので、子供達を連れて出て行く事にしました。さようなら」
マリアンヌはそう言い切ると、くるりと踵を返して歩き出す。
「待てッ。そんな勝手が赦されると思っているのか?」
皇帝は今度はありありと焦りを込めて呼び止めた。
しかしマリアンヌの足は止まらないし、誰も‥‥衛兵さえも止めようと動く事はない。
「勿論、思っていますわ。怒髪天を衝いていますの。‥‥それとも、どなたかが止めるとでも仰るのですか?このわたくしを?」
言い終わってからマリアンヌは足を止めて振り返り、その場の全員を見回した。
マリアンヌの視線を避けるように俯いたり逸らしたり勢い良く首を振ったり、誰も名乗りを挙げる者はいない。
それを確認したマリアンヌは今一度皇帝に視線を固定した。
「と、言う事です。二度と顔も見たくなければ、声も聞きたくありませんわ。そのように配慮していただきます。それでは」
再び宣言したマリアンヌは、今度は制止の声すら掛からずに悠然と去っていった。
マリアンヌが出奔先に何故極東の日本を選んだのかは定かではない。
有力な説としては、「既に罰せられて日本の地を踏んでいたアッシュフォードを追ったのではないか」と言うものがある。
一部で真しやかに囁かれているのは「彼の地には神社があるから‥‥」だったが、これは本当に一部の者にしか通じない説だったりする。
マリアンヌが滞在先に枢木神社(当然土蔵ではないが、社そのものを住処として認めさせた)を選んだ理由もだから謎とされている。
土蔵を遊び場としていた子供が居たが、それもマリアンヌは着いたその日に目障りだと言う理由で排除した。
次にマリアンヌが子供達と共に訪れたのは、枢木ゲンブを警戒して近くに来ていた桐原泰三のところだった。
「ブリタニアの皇妃が何をしに参られた?」
「あら、わたくしは既に皇妃ではありませんわ、桐原公。貴方にも判り易く言えば『三行半(みくだりはん)』を叩きつけてやりましたもの」
周囲で警戒していた黒服黒眼鏡の男達が、その言い回しにがくっとこけて膝をつく。
微動だにしなかったのは、日本側は、元からどっしりと座っていた桐原本人と正座で座っていた藤堂の二人だけだった。
ブリタニア側の親子三人は平然としている。
母親の方は発言者当人なので置いておくとして、子供二人が平然としているのは意味が分かっていなかったからか、「それとも?」なのかと疑問は残るが。
「あらつまらない。驚かないなんて」
「いやいや、十分驚いておるよ。まさかそのような言い回しをご存知だとは思わなんだでな」
「日本にはとても素晴らしい文化があるものですから、色々と学びましたの」
にっこりと微笑むマリアンヌと、それを聞いた桐原や藤堂が思い描く文化が、天地程に掛け離れている事にこの時気づく者はいなかった。
「して?皇妃としてではないというのならば、何用有って参られた?」
桐原はとりあえず話を進める。
「取引を提案しに参りましたの。‥‥そうですわね、『閃光』の異名を持つ者として」
「取引?『閃光のマリアンヌ』の名はこちらにも聞こえておる。‥‥つまり戦力になろうと言うておると?」
「えぇ。応じていただけるのでしたら、日本の為にこの力を振るいましょう?」
そう言う間にもマリアンヌの落ちついた笑顔は崩れない。
「‥‥何を望むか、まず聞いても宜しいか?」
「わたくしの望むもの。それはわたくしの子供達の安全と幸せですわ」
「母上。母上が戦われるのでしたら、ぼくも戦います。ぼくだって母上と妹を守りたいです。‥‥今度こそ」
「わたしも!お母様もお兄様もお守りしたいです。次は足を引っ張ったりなんてしませんから」
マリアンヌの言葉に、それまでジッと黙って聞いていた二人の子供がマリアンヌに縋るように言い募った。
「ありがとう、二人とも。でも子供を守るのは親の役目。そして安全を確保するのも親の役目なのよ」
マリアンヌは二人の子供の髪を撫でながら、優しく諭すように説明する。
その表情は同じ微笑を浮かべながらも慈愛に満ち溢れていた。
子供達が渋々ながらも頷くのを見たマリアンヌは、再び顔を上げる。
「騎士とまでは申しませんわ。既に皇族ではないのですから。ただ守り手を頂きたいの。わたくし一人だけでは目が届かない事もありますから」
そう言うマリアンヌは子供達へと向ける眼差しとは違う鋭いそれを藤堂へと固定させていた。
桐原もまたその視線を追って藤堂を見る事になった。
藤堂はこの時初めて、表面はそのままに、内心大いに怯んでいた。
視線に気づかぬ振りを続けようにも、じーっと見られていてはそれも長続きせず。
とうとう藤堂は、「その役目をおれにせよ、と?」と尋ねるしかなかったのだった。
中編に続く
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作成 2008.06.24
アップ 2008.09.06
(「父の日騒動」続編【8】/藤堂+ゼロ)
「‥‥‥‥やはり、怒っているか?」
ゼロはそれまで藤堂の顔に仮面を向けていたが、ふっと俯いた。
「‥‥ッい、いや。怒っては、‥‥いない。ただ、少し考える事があって、だな」
仮面が逸らされた事で、まるで呪縛が解けたかのように我に返った藤堂が言葉を紡いだ。
「‥‥考える、‥‥事?」
再び藤堂に仮面を向けたゼロは、こてんと仮面を傾けて問う。
「ゼロ。君は、ルルーシュ君、だな?」
藤堂の言葉に、ゼロは一瞬息を呑み、それから詰めていた息を吐き出すと肩を竦めた。
「やはり、気付いてしまいましたか」
そう言って苦笑したゼロは、続ける。
「‥‥先程は、考えに没頭していた為に、言葉選びを間違えました」
「その。‥‥顔を、見せてくれないか?」
藤堂が願う。
ゼロはあっさりと首肯すると仮面を外した。
7年前の面影を残した少年が、色彩もそのままに現れた。
「あぁ、無事で良かった。‥‥綺麗に、なったな、ルルーシュ君」
安堵の色が籠った声音で無事を喜ばれ、ルルーシュの思いもよらぬ言葉を藤堂は続け。
今度はルルーシュが顔を朱に染めて固まった。
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2008.08.06作成
2008.08.08-2008.08.19up
2008.09.05再録
★さな様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/同居(ナナ含)/騎士団に見つかって質問攻め)
「‥‥待て。ここはおれの家なのだから、誰が同居していようと別に報告の義務はないはずだが‥‥」
藤堂はなんとかそれらしい反論を口にする事が出来たのだが。
「ぅ‥‥それはまぁ確かに‥‥」と言葉を濁す扇達をよそに四聖剣はずずいと藤堂に近寄った。
「「「「それはあんまりなお言葉ではありませんかッ!!藤堂中佐(さん)!!!」」」」
いつまで経っても藤堂を中佐と呼び、声を揃える事の出来る四聖剣のシンクロした動きに、藤堂は珍しく押されている。
「我等四聖剣はずっと藤堂中佐と共に有ったというのに、そのお言葉は情けない」
「おれ等には教えてくれたって良かったと思うんですが、中佐が言うなって言うなら他言なんてしなかったし、協力だって惜しまなかったってぇのによ」
「中佐。一体何故教えてくださらなかったのですか?」
仙波、卜部、千葉は順にそう言い足して、男泣きをしてみせる。
「藤堂さん。おれ達の事信じてくれないんですか?」
朝比奈はうるうると両目を潤ませて藤堂をひたと見上げるのだった。
これには藤堂も言葉に詰まった。
がらっ。
扉が開く音がして、幹部達は自然と扉の方へと視線を向けた。
藤堂と四聖剣の修羅場じみたやりとりから目を逸らす為でもある。
その藤堂と四聖剣も一旦扉に視線を向ける。
入ってきたのは先程の女性か、問題のルルーシュと言う少年か、と思われたのだが。
びしり、と藤堂も来客達も固まった。
咲世子ではなかった。
ルルーシュでもなかった。
まだ見ぬルルーシュの妹、ナナリーという名の少女でも断じてなかった。
それはその場にいた全員が知っている姿、知っている名前を持っていたからだ。
「「「「「「「どーして!ここにしーつーがいるんですかッ!!!!とーど」」」」」」」
「うるさい。黙れ貴様等。藤堂。出掛ける前にピザを頼め。あいつに作るように頼んだのに、出掛けるから時間がないとか言われたんだ」
C.C.は変わらぬ調子で言い放って下さり、「あぁ、ホントにC.C.だよ、こいつは」と納得する空気が数瞬流れた。
藤堂はC.C.を見たまま固まっていた。
「ピザを頼めといっているだろう?」と再三言うC.C.の言葉など聴いていないかのように。
藤堂の様子がおかしい事に気付いた幹部達は、藤堂とC.C.の様子を固唾を呑んで見守る。
すると藤堂の表情が徐々に変化していく事に気付いた。
それはC.C.にも判ったのか、それこそシンクロした動きでC.C.と幹部達は藤堂から距離を取ろうとじりじりと下がる。
「‥‥C.C.」
藤堂の低い声が短くC.C.を呼ぶと「あの」C.C.が怯んだように「な、‥‥なんだ?藤堂」と応じた。
「この状況でおれがピザを頼むと、‥‥思うか?」
「‥‥‥‥‥思わないな。というか思えなくなったな。‥‥仕方がない、咲世子に頼むか」
「‥‥宅配ピザが来て、おれがそれを家に上げると思うのか?」
思案にくれる様子を見せたC.C.が踵を返そうとしたところで、藤堂が低く唸るように言う。
「そこまでするのか!?わたしはピザが食べたいと」
「C.C.」
藤堂が名を呼べば、観念したように諦めの溜息を吐いたC.C.がしかし最後の抵抗をした。
「わかった。今回は諦める。‥‥だが、あいつに言いつけるからそのつもりでいろ」
C.C.はそう言うと今度こそ出て行こうとした。
しかし、それは我に返ったカレンによって阻まれた。
「ちょッ‥‥待ちなさいよ、C.C.!!どうして貴女が藤堂さんのところにいるのよ」
「そうですよ、何だって藤堂さんにピザをたかったりなんかしてるんだよ」
「ずっと騎士団にも顔を出さず、どうしているのかと思えば、まさか中佐の家に上がり込んでいたとは‥‥」
「わたしとてこんな口喧しい男のところに等いたくはないんだが、仕方がないだろう?」
C.C.は詰め寄られると苛立たしそうに言い返した。
「仕方がないって何よッ!何がどう仕方ないって言うの?」
「あいつが前の住処を引き払ってここに来たんだ。『アジトには来るな』と言うし、共犯者としてはここしかいるところがなくなったんだ」
「‥‥‥‥‥‥あの、さ。藤堂さん?ゼロもここに住んでるんですか?」
ぎぎぎぎぎ‥‥と扇は藤堂へと首を巡らせ、尋ねる。
「わたしを入れて5人だ」
答えたのはC.C.だったが、5人では計算が合わない。
藤堂、C.C.、咲世子、ルルーシュ、ナナリーで5人、これにゼロも含めるのならば6人でなければならないはず。
藤堂は失言ばかりを繰り返すC.C.を実力で排除したいと思った。
しかし、それは二つの理由から無理なので耐えるしかないのだが、藤堂は半ば諦めていた。
「計算が合わないじゃないの。5人て誰よ」
「こいつとあいつと咲世子と妹とわたしだ」
カレンのぶっきらぼうな問いかけに、C.C.は一応配慮してそう説明したが、配慮は配慮として機能しなかった。
「‥‥‥‥そ、れってつまり、ルルーシュがゼロだって事?」
ぎぎぎぃとカレンはC.C.から藤堂へと視線を移す。
「‥‥‥‥‥‥‥‥そうだ」
渋々、本当に渋々と藤堂はカレンの言葉を認めた。
「「「「「「はぁ~~~~あ!!????」」」」」」
驚く声が響き渡り、途端に入口から「うるさいぞ、貴様等」という馴染んだ命令口調の声が届いた。
ばっと振り返れば、慣れ親しんだ仮面と衣装の男が姿を現していた。
「ゼロッ!!!」
「‥‥C.C.お前は咲世子さんのところに行って大人しくしていろ。全く、お前さえ出なければ誤魔化せたものを」
「誤魔化すって‥‥いつまでも誤魔化せるはずがないだろう?ルルーシュ。だからお前は甘ちゃんだと言うんだ」
C.C.はそんなセリフを残して部屋から出て行ってしまった。
ゼロはそのまま藤堂の元まで進み、隣に座る。
立ち上がっていた者や、腰を浮かしていた者は、だからもぞもぞと座りなおした。
それを見届けたゼロはその仮面を外した。
「『初めまして』とでも言うべきか?‥‥カレンには『久しぶり』と言った方が良いんだったかな?」
「‥‥良かったのか?ルルーシュ君」
藤堂が気遣わしげにルルーシュを見て問いかけるのを、四聖剣は驚きの眼差しを向けて見ていた。
ある意味、ゼロの正体が美少年だった事や藤堂の家にいた事以上に驚いていたりする。
「えぇ。C.C.の存在が知れたので、遅かれ早かれ気付かれていましたし。でしたらゼロは廃業ですから」
にっこりとルルーシュは笑って応じる。
ゼロだったルルーシュの言葉に、幹部一同はハッとする。
「げ。そうだった。桐原公との取り決めが有ったんだ!」
「ゼロ!お、おれ達はなんにも見てない!聞いてないから!!」
「だから続けてくれッ、ゼロを!!!」
「「「「「頼むッ!ゼロ!!!」」」」」
慌てた幹部達は拝み倒さんばかりに訴える。
「約束は約束ですからね。良いですよね、藤堂さん?」
「‥‥‥‥あぁ。桐原公に言えば、さぞかし慌てるだろうが‥‥後で辞職願いでも一緒に出そう」
「『辞職願い』ではなく、『契約満了証明書』ですよ、藤堂さん。決定事項ですからね」
にっこりと笑うゼロの衣装を纏ったルルーシュに、藤堂は頷き、カレンは「まさか‥‥」と呟いた。
「ちょ‥‥、る、ルルーシュ!?あんたまさか、わざとC.C.をこの部屋に寄越した、なんて言わないでしょうね?」
慌てた様子のカレンの言葉に、四聖剣も扇達も慌てた。
「‥‥‥‥そそそそ、それは、どどどど、ういう‥‥」
「C.C.には様子を見るように言っておいた。お前達の藤堂への質問攻めがあまりにも酷いと判断したんだろう?」
「ぅ‥‥‥‥し、しかし‥‥」
「藤堂のプライベートにやってきたお前達が悪い。諦めろ」
笑顔のままのルルーシュに冷たく言い棄てられた幹部達はがっくりと肩を落とした。
「ルルーシュ君?そんなに今回の桐原公からの要請が嫌だったのか?」
藤堂が尋ねると、ルルーシュはやっぱり笑顔のままこっくりと頷いた。
「おれは、今更あのメンツの使節団を相手になんてしたくありませんから」
きっぱりと言い切ったルルーシュはそれからふっと表情を曇らせて、「こんなおれは‥‥嫌いになりますか?」と藤堂に問う。
「そんな事はない。おれはどんなルルーシュ君だろうと嫌いになったりはしない」
藤堂はそう言ってルルーシュを抱き寄せる。
あんま~い雰囲気になって来た二人に、結局は当てられに来た幹部達は、ふらふらとあちこちにぶつけながらもその部屋を何とか出たのだった。
了
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作成 2008.08.31
アップ 2008.09.04
★さな様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/同居(ナナ含)/騎士団に見つかって質問攻め)
とある日本家屋が一望できる場所に、男が一人角に身を隠すようなこの上なく怪しい様子で立っていた。
貧乏くじを引いたこの男、昨夜からこの場に立ち、当然ながら一睡もしていない。
この男の名を卜部と言い、昨夜仲間内で「一番運の悪い男」または「ここぞと言う時にジャンケンポンに勝てない男」の称号を得ていた。
(余談だが、「ジャンケンポン」は大多数の反対を受けながらも何故かそのままになった称号だ。何故「ポン」が付いたかは不明)
もちろん、卜部は泣いたが参加した以上は負けた時のペナルティは背負うものである。
他の参加者に見送られて、卜部はその場を出たのだった。
そして、今に至る。
「あ、いたいた。どうですか?様子は。あ、これ、朝食です」
日本家屋からは死角になる場所からやって来て明るく声をかける男に卜部はじと目を向ける。
「元気そうだな‥‥、てか楽しそうだな、朝比奈。‥‥‥‥まだ中、だ。出て来てはいない」
差し入れを受け取りながらも卜部は恨めしそうに言う。
「みーんな、もうすぐ来ますよー」
朝比奈の言った通り、幹部達は程なくやって来た。
中には、表に出て騎士団との橋渡し的な仕事をする者やその先の業務に就いている者の姿もあり、これでゼロと藤堂がいれは全員が揃う勢いだった。
そんなメンツを眺め、卜部は「あれ?」と首を捻った。
「ディートハルトがいないな」
「声をかけておらんのだから当然だな」
仙波が平然と応じた。
その言葉に幹部一同頷き、卜部も納得した。
何が待ち受けているかもわからないのに、あの男を同行させたいとは思えないからだ。
そうして、集まった者達は未だ住人が外出していない藤堂邸へと足を向けたのだった。
出かける用意は出来ている。
今日はかなり強引に確保された休みを利用して、買い物に出る事になっていた。
買い物には二人で出掛け、留守は三人。
今は出掛ける一人が留守組と別れを惜しんでいるところだった。
ぴぃ~んぽぉ~ん。
間延びした呼び鈴が鳴り、渋面を作った世帯主、藤堂鏡志朗は、すぐ目の前にある扉を凝視した。
なんとなく、どころかひしひしと嫌な予感がするので開けたくはない藤堂はただ扉を睨むだけで気配さえ殺して様子を見る。
ぴぃ~んぽぉ~ん。
再びの呼び鈴の音に、同居人の一人が姿を見せた。
篠崎咲世子。
腕の立つハウスキーパーである。
やはり同居するナナリー・ランペルージの世話が主な役目ではあるが、騎士団で立て込む事があれば、家事全般を完璧に熟してしまえる。
平時にそれが発揮されないのは、やはり同居人のルルーシュ・ランペルージが時間の許す限りすると言っているからである。
二度目の呼び鈴の後、中で移動する微かな気配がして、卜部は動きを止める。
ちらと同行者を顧みれば、四聖剣は気付いたのが険しい表情を浮かべているが、残りは変わらずドキドキと息を詰めているだけ。
来客を告げる呼び鈴が鳴ったというそれだけで、普通は気配を断って扉に近づくだろうか?
かちゃっと扉が鳴って、ゆっくりと開くのと同時に、卜部は一歩下がった。
現れたのは日本人の女性で、カレンが大きく目を見開いた。
「はい、どなた様でしょうか?」
「‥‥って、ささささ咲世子、さん!?」
カレンは大きく震える指を差しながら、驚きの声を張り上げた。
「まぁ、カレンさんではないですか。お久しぶりでございますね」
驚くカレンとは対照的に咲世子と呼ばれた女性は落ち着き払ってにっこりと微笑んだ。
「‥‥カレン。知り合いか?」
「と、‥‥‥‥藤堂さんが女性と同棲!?」
朝比奈は衝撃的事実にやっぱり声を上げる。
すると聞き捨てならなかったのか、藤堂が現れた。
「馬鹿な事をいってるんじゃない、朝比奈。‥‥第一なんだ?この人数は!?‥‥いきなりやって来てもてなされるとは思わない事だな」
「だッ‥‥だって、じゃあ!その人との関係は!?」
「わたくしの事でしたらお気になさらずに。住み込みで家人の身の回りの世話をさせて頂いているだけですので」
慌てる朝比奈に咲世子がフォローにならないような事を云う。
「‥‥つまり、あの兄妹もここにいるって事ですよね?」
カレンがゴゴゴゴゴぉと背景で音がしそうな雰囲気で尋ねると咲世子はあっさりと「はい」といって笑ったのだった。
「藤堂さん?咲世子さん?誰だったんですか?」
更に奥からそんな声がかかり、咲世子は藤堂を見てから奥を振り返り、藤堂は溜息を吐いた。
「‥‥‥‥藤堂さん?勿論、説明!してくれるんですよね?」
カレンがそれはそれは恐ろしい笑みで藤堂に詰めより、「なッ、その声はカレン!?なんだってここへ!?」と奥から再び少年の声が届いてきて。
「言っておくが、狭いし、もてなさない。それでよければ、入れ」
なんだか全て諦めたような溜息を吐いてから、藤堂は一同を家に招き入れたのだった。
狭い、と言いながら通された部屋はかなりの広さを有していた。
板張りで家具の置かれていないその空間に、四聖剣は「「「「‥‥‥‥道場!?」」」」と驚く。
「‥‥風通しの良い半地下だからな。空調は良いし鍛錬には最適だぞ」
驚く四聖剣に藤堂は一呼吸空けてから応じた。
「‥‥‥‥で?どーして咲世子さんとルルーシュがここにいるんですか?二人がいるって事は、当然ナナリーちゃんもいるんだろうし?」
半眼ジト目でカレンは藤堂を見据えながら問いかける。
「‥‥というか、カレン。お前、あいつら知っているのか?」
杉山が尋ねる。
「ルルーシュはクラスメイトでしたから。生徒会でも同じで。咲世子さんはルルーシュの足の不自由な妹の世話をする為に学園にいたので」
カレンは杉山の問いに応じてから藤堂に「さぁ、答えてください、藤堂さん」と詰め寄る。
あまりの迫力に四聖剣すら、気になっているのも相俟って庇う事をしないというか、出来ない。
「‥‥ルルーシュ君とは旧知でな。いつまでも学園で生活というのもなんだからと招いた」
藤堂は一つ溜息を零すと平然と言ってのけた。
「旧知!?ブリタニアの少年と!?」
「招いた!?ってどうして藤堂さんが!?」
「中佐!?そのようなお話、我等四聖剣も伺っていなかったのですが!」
それぞれが口々に質問を投げる。
一斉の問いに、さしもの藤堂もたじろいだ。
後編に続く
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作成 2008.08.24
アップ 2008.09.03
★さな様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/同居(ナナ含)/騎士団に見つかって質問攻め)
扇が恐縮しつつ持って来た報告にゼロは久しぶりに怒りに燃えた。
表面的には変わらないその変化に、それなりの付き合いになる扇は気付いて震えた。
そう、黒の騎士団を結成してから既に二年、「合衆国日本」が独立国として正式に機能し始めてからでさえ半年になるのだ。
騎士団は幹部の大半が新政府に組み入れられ、残りの有志が規模を大幅に縮小させた黒の騎士団のまま、側面からのサポートに徹していた。
この時でさえ、ゼロは仮面を外す事を厭い、またしても桐原がそれを認め、だから扇以下誰もが未だにゼロの素性を知らないで来ている。
桐原が認めるに当たって出したたった一つの条件、それが「何らかの形で『合衆国日本』の運営に関わる事」だったのだ。
ゼロは暫く迷い、結局C.C.の「別に良いんじゃないか?わたしは反対なんぞしないぞ」と言う言葉で決めたようだった。
桐原に向かい「良いでしょう、素性がバレないでいる間は側面よりの助言を致しましょう」との言葉を用いて引き受けていた。
だから黒の騎士団は未だにゼロの組織であり、ゼロの指示を正確に実行するのがその活動内容の全てだった。
扇は教師に戻りつつも騎士団から離れがたくて残った。
カレンも大学に通いながらもやって来ている。
「藤堂を呼べ。‥‥扇?どうした?」
「あ‥‥いや。藤堂さんだな、わかった」
ゼロの不機嫌全開の声に慌てて応じると扇は一旦下がって行った。
扇が不思議に思った事は、藤堂が騎士団残留を決めた事だった。
四聖剣もまた驚いていたから藤堂の独断だったのだろう事にも驚いた。
元が軍人で桐原やキョウトとも交流が有ったのだから、絶対表で活躍するだろうと思っていたし、実際打診も有ったらしい。
なのに、「表に出る気はない」と言って藤堂は断ったのだ。
これまた桐原が「‥‥ならば」(以下同文)を条件に認めた為、藤堂は騎士団に残り、離れる気のない四聖剣も残った。
もちろん、ゼロはこの時「素性がバレた後まで続ける気はないんだぞ?それから表に参画するのは難しいだろう。それでも良いのか?」と聞いている。
残留を決めた幹部達はそれこそ全員一致で頷いたのだ。
朝比奈と話をしていた藤堂を見つけて、「ゼロが呼んで来いと言っているんだけど‥‥」と告げる。
藤堂はあっさりと、朝比奈との話を中断させて扇に頷いた。
朝比奈もまた、それに文句はないようで、扇は藤堂を伴ってゼロの部屋へと引き返した。
ブリタニアからの使節団が来るからと合衆国日本政府、つまるところ桐原から連絡が有ったのだ。
使節団のメンバー表を見て、ゼロの仮面を被るルルーシュは怒りに燃え上がった。
団長の欄に神聖ブリタニア帝国、皇帝シュナイゼル・エル・ブリタニア陛下。
副団長の欄には宰相、コーネリア・リ・ブリタニア皇妹殿下。
更には平や警備のあちこちに、ロイド・アスプルンド公爵、アンドレアス・ダールトン大将軍、ギルバート・G・P・ギルフォードの名前まであった。
ギルフォードの地位が上がっていないのは、「自分がお仕えするのはコーネリア殿下のみ」と言い切り、筆頭騎士に専念しているからだ。
使節団と銘打てば、合衆国日本に大手を振って入れるとでも思ったのだろう。
実際にその思惑の通り、本来の肩書では色々と規制されるであろう許可が、すんなりとは言わないまでも下りているのだから。
本来の肩書のままであれば、事前にゼロに一報があるべきなのだが、それが事後報告となっているところからもそれは明らかだった。
『すまぬ、ゼロ。少々油断しておったようだ』
桐原からの手紙にはそう有った。
ルルーシュが皇族の来日に過敏になっている事を承知している桐原としては詫びる以外ないのだろう。
『‥‥詫びついでに、「ゼロの同席を」と有っての。‥‥来ては貰えぬだろうか?』
これでは怒るな、という方が間違いなのだと言い聞かせ、ルルーシュは怒りを抑える事はしなかったのだ。
来日が来週で多少の時間があるという事がまだ救いだろう。
ノックがして『ゼロ?扇だ。藤堂さんを連れて来た』と扇の声がする。
立ち上がって扉を開けに行く。
「入れ」
怒りのオーラもそのままに、扉を開けるなりくいと仮面を動かして中に入るように促し、二人が入った後、再び扉を閉ざした。
二人が並んで座るソファの前にどっかといつもの優雅さを損なわせるような座り方で腰をおろしたゼロに、藤堂は訝しげな視線を扇に向ける。
「あー‥‥その、政府の桐原翁から連絡が‥‥あって」
「‥‥また無理難題を吹っかけてきたのか?」
この半年、桐原経由で来るかなり難易度の高かった依頼を思い浮かべた藤堂が渋面を作る。
「──あぁ、難題だともっ!そこで、だ。藤堂」
まるでやけになったようなゼロの言葉に、藤堂は真顔でゼロを見返し続きを待つ。
「藤堂、お前にはこれをやっておいて貰う。わたしは準備に忙しく、今日は手一杯だ」
数枚の書類を手渡すゼロに、「一体桐原翁は何を言って来たんだ?」と訝りながらも受け取って視線を落とした。
一枚、二枚と頷きながらも読み進め、最後の一枚になったところで、藤堂は危うく吹き出しそうになりつつも、扇の手前我慢した。
「り、‥‥了解した。‥‥詳しい話は‥‥明日以降に時間を取って聞かせてくれるか?」
「当然だ。それ以外の事は、当面、扇で事足りるだろう。‥‥それから、桐原翁に『二度はない』と伝えておけ」
きっぱりと言い切るゼロに、「本当に桐原翁は何を言って来たんだ?」と藤堂はやっぱり訝りつつ頷いたのだった。
扇がゼロの部屋から出てくると、先に出ていたはずの藤堂の姿はなかった。
四聖剣が団員達に指示をしている姿はあったが、それを伝えたはずの藤堂がいない事に扇は首を傾げた。
「えっと、藤堂さん、知らないか?」
近くにいた卜部に尋ねる。
「んぁ?中佐なら、用事があるからってここをおれ等に任せて出てったぞ」
扇は首を傾げる。
用事というからにはゼロの用なのだろうが、アジト内で済ませられるものだと思っていたからだ。
大体、合衆国日本になったからといっても、いや、だからこそ藤堂のように顔の知れた者には外での用事はあまり回さなかったのに、と。
「あれ?扇さん?藤堂さんなら帰りましたよ?直帰するから結果は来た時に聞くって言ってましたー」
通りがかった朝比奈が扇に気づいて横から口を挟む。
扇はますます首を傾げたくなった。
「えーっと。用事ってゼロの用事、だよな?」
扇は「あの恐ろしい様子のゼロに頼まれた用事をまさか四聖剣に丸投げなんて事は‥‥」と思いつつもそろっと尋ねる。
「そのはずですよー?おれ達に仕事を割り振った後も一枚、藤堂さんの手元に残ってましたしー」
「あぁ、そうだな。それを見ながら、『用事が有る、後は任せた』って言ってたしなぁ?」
「ですねー‥‥。すっごく眉間の皺が増えてましたけどー」
「そうそう。それで、声も普段より低かったかなぁ?」
朝比奈と卜部は藤堂の様子を思い浮かべながらもそれぞれ違う点を挙げていく。
それからくるりと同時に扇を振り返った。
「「‥‥で?ゼロの用事って何だったん(だ/ですか)?」」
卜部と朝比奈は声を揃えて扇に尋ねたのだった。
中編に続く
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作成 2008.07.27
アップ 2008.09.02
(「父の日騒動」続編【7】/藤堂+ゼロ)
「‥‥‥‥やはり、怒っているか?」
ゼロはそれまで藤堂の顔に仮面を向けていたが、ふっと俯いた。
「‥‥ッい、いや。怒っては、‥‥いない。ただ、少し考える事があって、だな」
仮面が逸らされた事で、まるで呪縛が解けたかのように我に返った藤堂が言葉を紡いだ。
「‥‥考える、‥‥事?」
再び藤堂に仮面を向けたゼロは、こてんと仮面を傾けて問う。
「ゼロ。君は、ルルーシュ君、だな?」
藤堂の言葉に、ゼロは一瞬息を呑み、それから詰めていた息を吐き出すと肩を竦めた。
「やはり、気付いてしまいましたか」
そう言って苦笑したゼロは、続ける。
「‥‥先程は、考えに没頭していた為に、言葉選びを間違えました」
「その。‥‥顔を、見せてくれないか?」
藤堂が願う。
ゼロはあっさりと首肯すると仮面を外した。
7年前の面影を残した少年が、色彩もそのままに現れた。
「あぁ、無事で良かった。‥‥綺麗に、なったな、ルルーシュ君」
安堵の色が籠った声音で無事を喜ばれ、ルルーシュの思いもよらぬ言葉を藤堂は続け。
今度はルルーシュが顔を朱に染めて固まった。
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2008.08.06作成
2008.08.08-2008.08.19up
2008.09.05再録
★弥生様へのリクエスト作品★
(ルルで双子で黒の騎士団/ルル≠ゼロ)
「‥‥つまり、ゼロってルルーシュの騎士、なのですか?」
ゼロから『紅蓮の騎士』と呼ばれ、ゼロの騎士として認識されているカレンには複雑な話だった。
「わたしがルルーシュの騎士では不服か?カレン。ルルーシュはわたし以上にキレる。作戦も相手の動きを読むことも‥‥」
ゼロは続きを言わなかったが、藤堂とカレンには「まぁ、体力面においては」と続くはずだっただろうと予測は出来た。
「‥‥‥ゼロ。ルルーシュ君を騎士団に入れるという話だけど‥‥」
扇が声を掛けた。
「反対か?扇」
「君が仮面を取って素顔を見せてくれるのなら‥‥。そこまでの意思が君にあるのなら反対はしない」
扇の提案に、あちこちで頷く気配がして、幹部達から賛同の声が上がった。
「‥‥‥二言はないだろうな?扇。もしもわたしの素顔を見てついてくる気がなくなった者は騎士団から抜けるのは認める」
ゼロはそう言って、扇が頷くのを待ってから仮面に手をかけて外した。
現れたのは、ルルーシュと一点を除き、寸分違わぬ姿だった。
黒髪に白い肌、違っているのは瞳の色だけで、ルルーシュがアメジストを思わせる紫ならば、ゼロはルビーを思わせる真紅。
「‥‥‥‥‥‥兄弟?」
漏れる言葉に、ゼロはくすりと妖艶に笑う。
「あぁ。ルルーシュはわたしの双子の弟になる」
「良かったのですか?兄上。ラクシャータもいるというのに仮面を外してしまうなんて」
呆れたような溜息と共に、ルルーシュは問いかけ、ゼロと同時にラクシャータに視線を向けた。
「あらぁ。昔の同僚にリークしても良いかしらぁ?きっと喜び勇んで寝返ってくると思うのだけどぉ?」
ラクシャータはうきうきと、今までの気だるげな様子を完全に拭い去ってそんな提案を寄越す。
「おや?プリン君とは仲が悪かったんじゃないのか?」
「そぉだけどぉ。いい加減敵側でちょろちょろ動かれるのも鬱陶しくってぇ」
にこにこと態度が豹変しているラクシャータに奇異の眼差しを向ける幹部達の中、四聖剣は藤堂に視線を向けた。
「藤堂中佐。あのルルーシュという少年は本当に一体何者ですか?」
「ゼロと双子ってのは顔見ただけで確かなんだと判るんだけどもよ?」
「でも、普通兄が弟の騎士になるとかって話にはならないんじゃないですかー?」
「だからこそ余計に気になります、中佐」
「悪いがおれからは言えない。ルルーシュ君が嫌がっているうちに何かを言う気はない」
首を振る藤堂に四聖剣は、矛先を変え、それはカレンはすっ飛ばしてラクシャータへと向けられる。
「ラクシャータはゼロとどんな関係なの?」
「わたしぃ?んー。ゼロ達一家が仕事場によく来てたのよねぇ。ナイトメアについても詳しいはずよねぇ。気付かなかったなんて迂闊だったわぁ」
けらけらと笑うラクシャータはすっきりとした表情を見せている。
「‥‥とにかく、仮面は外した。出て行く者は好きにすれば良い。ルルーシュの入団は確定だ。以上」
「い、以上って待てってゼロッ!顔見ただけでどう判断しろってんだよ」
玉城が焦った声で立ち上がろうとするゼロを止める。
「‥‥扇の条件は『仮面を取って素顔を見せる』事だけだったはずだな。それを承知したのはお前達だ」
赤い瞳で玉城を見据えて言い放った後、ゼロはルルーシュに視線を移し、優しい声をかける。
「ルルーシュ。行こう。とりあえず現状を説明した方が良いだろう?」
エスコートするようにルルーシュを立ち上がらせるゼロの動きはとても優雅で。
「‥‥兄上?おれの為に団員と諍うのは良くないですよ。ゼロについてきた人達なのだから」
「構わん。お前達がわたしがゼロである事の基盤。それを認めないならゼロを認めないと言っているのと同じ事」
「また、そうやってすぐ無茶を言う。あの子は安全な場所に移したし、おれは平気だ。ゼロが認めてくれるだけで良い」
見つめ合う兄弟に何故か目のやり場に困ると思う幹部達が数名、視線を逸らせる。
「‥‥参謀のみで戦場には出ないと言うのならば、参加を認めても良い。‥‥どうだろうか?ルルーシュ君」
そう言ったのは藤堂で、四聖剣も扇達も驚いて藤堂を見る。
「元からそのつもりだ、藤堂。ルルーシュを戦場になど出せるかッ!‥‥ラクシャータ。その時は傍にいてやってくれないか?」
ゼロの言葉に、「あぁ、戦闘中に残るって事はディートハルトもいるしなぁ」とほぼ全員が頷いている。
「了解。良いわよぉ。よろしくねぇ?」
「こちらこそ、よろしく頼む、ラクシャータ。‥‥ゼロ、お前も無茶はするなよ」
ルルーシュはラクシャータに軽く頭を下げてから、仮面を被りなおしたゼロにそう言った。
「判っている。わたし達は双子にして、お互いの主にして騎士。最も近い存在。ルルーシュが待っているところに必ず戻る」
ゼロは何かの宣言のように、謡うかのように言う。
「ん?主にして騎士って?」
引っかかりを覚えた言葉を復唱して首を傾げる朝比奈に、ルルーシュが応じた。
「あぁ、ゼロが『騎士になる』というから、『ならぼくも兄上の騎士になる』と相互に誓い合った。母上には笑われたけれど、それがおれ達の形だから」
それから藤堂とカレンを見て続ける。
「だから、おれにとってはゼロが唯一であり絶対だし、ゼロにとってもそれは変わらない。分かって貰えるだろうか?」
それは「スザクよりもゼロを取る」と言った理由なのだと気付いた。
確かにそれだけ深い絆があるのならば、ゼロを選ぶのはむしろ自然。
特にカレンは生徒会での「ゼロ批判」をルルーシュと一緒に聞いている。
自分の双子の兄弟であり、主であり、騎士でもある存在をあぁも批判されたのではスザクに対する評価が下落するのも当然だ。
「‥‥そう言う事なら、歓迎するわ、ルルーシュ。ただし、ホントに戦場には出ないでね?」
カレンの言葉に、ルルーシュは笑みを向け「判っている」と頷いた。
その笑顔に幹部達もまたぎこちない笑みを返し、「よろしく」とか「ようこそ」とか口にする。
「おい。言っておくがルルーシュに手を出した奴にも容赦はしないからな」
ゼロはルルーシュを庇うように抱きしめてそう宣言したのだった。
こうしてルルーシュ・ランペルージは黒の騎士団に所属する事となり、騎士団の計画はより緻密になったのだった。
了
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作成 2008.08.24
アップ 2008.08.30
★弥生様へのリクエスト作品★
(ルルで双子で黒の騎士団/ルル≠ゼロ)
「‥‥‥‥あ、あの、ゼロ?どうして藤堂さんがルルーシュをって思うのですか?会うのだって初めてなはずなのに」
ゼロの言葉に引っかかりを覚えたカレンが躊躇いがちに尋ねる。
「‥‥初めてではないと思うから言っている。過去にニアミスくらいしていたってわたしは驚かん」
ゼロはそう言って藤堂に仮面を向けると珍しくも藤堂は視線を逸らせた。
その動作を見た者の目には、ゼロの言葉を肯定しているようにしか見えない。
「‥‥‥‥藤堂中佐?本当に初対面ではないのですか?」
仙波がそんな藤堂に対して気遣わしげに問いかける。
「‥‥あぁ。以前。‥‥面識はある。また会えるとは思っていなかったが‥‥再会を嬉しく思う」
視線が集まり観念したのか、そう言ってからルルーシュに向けて笑みを見せた。
「‥‥おれも、ですね。処刑されると聞いた時は驚きましたから。無事で良かったです」
ルルーシュもまたそんな藤堂の笑みに誘われるように笑みを見せた。
「ぅ~ん?なぁ、ゼロ。お前が藤堂中佐の救出を承諾したのってもしかしてルルーシュ君の為だったりするのか?」
卜部がかなりの渋面を作りながらゼロに尋ねる。
「ふッ。半分はな。‥‥ルルーシュの事がなくても引き受けていたのは間違いないがな。その為の月下だ。‥‥そう言われるのは嫌か?」
「嫌って言うか納得したって言うか。今藤堂中佐が無事なんだから、文句はないかなぁ、おれは」
卜部はそう言うと同じ四聖剣を振り返って「どうよ?」と視線を向ける。
「同感。て事はもしかしてルルーシュ君がゼロに頼んでくれてたりしたのかな?」
「わたしにルルーシュの望みが判らないとでも言う気か、朝比奈?」
再び朝比奈に氷の言葉を投げるゼロに一同が固まる前にルルーシュが口を開く。
「その割には、『アジトには来るな』とか、『忙しくて戻れない』とかそんな事ばかり言われていた気がするんだが?」
「だがルルーシュ。ここはゲットーにあるからブリタニア人であるルルーシュが来るのは本当に危険なんだぞ」
首を傾げて問うルルーシュに、「あの」ゼロが少し慌てたように反論と言うか言い訳を口にする。
「だが、カレンは来ているよな?」
「カレンは身を守る事が出来るが君には無理だろう?途中で何かあったらどうする?」
カレンは自分を信じてくれているゼロの発言に感動し、確かにルルーシュだと無理よねぇと納得する。
「‥‥なら『忙しくて戻れない』と言うのは?」
「それはッ‥‥どこぞの愚か者が無駄遣いなんぞをしてくれるから、いらぬ作業が増えてだな‥‥」
ゼロは慌てながらも名指しにはしなかったと言う事に、幹部達は気づいた、一人を除いて。
「ッてめ、ゼロ!おれ様のせいだってのかよ、ぉい!!大体愚か者ってのはなんだよ!えぇ!?」
そしてその一人は、ゼロの折角の配慮を自ら台無しにしてしまう。
「ゼロ。君が大変なのは良くわかった。やはりおれも騎士団に入れて貰う。良いよな?」
「ちょっ‥‥妹はどうするのよ、あんた!あんたがここで捕まったりなんかしたら妹にだって迷惑かかるでしょうがっ!」
さらっと話を進めるルルーシュに、カレンが憤って口を挟む。
兄なのに、妹を放って危険な事をしようとするルルーシュに腹を立てたのだ。
「あの子には既に言ってある。『おれはゼロを助ける』ってな。今頃は会長がキョウトに連れて行っている頃だろう」
「会長が!?てかどうしてキョウトに?」
「キョウトの皇と桐原公はルルーシュ達の事を知っているからな。‥‥そうだろう?藤堂」
驚くカレンにゼロが平然と応じ、藤堂に振る。
「‥‥あぁ。それを君が知っている事の方が驚きだが、ゼロ。おれは、桐原公と旧知と聞いた時点でゼロはルルーシュ君ではないかと思ったくらいだ」
藤堂の今更の言葉に、四聖剣も他の幹部達も驚く。
「あながちハズレではないですよ、藤堂さん。‥‥桐原公はゼロがおれ達の関係者だと判ったからこそ仮面を取らない事を認めたのだから」
ルルーシュの言葉に、なんだか納得しかけた一同は同時に首を傾げてしまう。
「ちょ‥‥それってゼロの顔見ただけでルルーシュ達の関係者って判るって事?‥‥顔が似てる、とか?」
ルルーシュに一番馴染みのあるカレンが疑問を口にする。
「‥‥好きに解釈すれば良い。わたしは仮面を取らないし、ルルーシュとの関わりについて何かを言うつもりもない。それと、ルルーシュの入団は認めて貰うぞ」
「「ゼロッ!」」
藤堂とカレンの咎めるような呼びかけの声が重なる。
「ルルーシュの妹は既に移動済みだ。ルルーシュが学園に戻っても、誰もいないと言う事だな。いるのは‥‥白兜のデヴァイサーか?」
ゼロの言葉に藤堂とカレンはハッとする。
「ルルーシュ君。君はスザク君とは仲の良い友達だったはずだ。‥‥なのに何故ここに」
藤堂の言葉に、警戒の色を見せる幹部達をよそに、カレンが首を振って反論した。
「藤堂さん。ルルーシュは確かにスザクを親友だって言ってたけど、最近はゼロ批判をするスザクと意見が正反対だから対立してるわ」
「おれはスザクよりもゼロを取る。それだけです、藤堂さん。あいつはユーフェミア皇女殿下の騎士になった。道は完全に分かたれたんですよ」
溜息と共に吐き出された言葉は、どこまでも悲しく聞こえ、幹部達の警戒はやるせなさに変わった。
「嘆くな、ルルーシュ。あの愚かな偽りの騎士には落とし前はつけさせてやろう。‥‥それにわたしがいるだろう?」
ゼロはルルーシュの両手をしっかりと握り元気付けるように言う。
「うーん。なんだかゼロってルルーシュ君の為に動いているように聞こえるんだけども?」
卜部がそんな雰囲気に居た堪れなくなったのか、つい言葉を紡ぐ。
「‥‥わたしがゼロになったのは、『優しい世界を望む妹の願いを叶えたい』と言うルルーシュの願いを叶える為だ」
回りくどく言うゼロだが、ようするに卜部の言うとおりだといったようなもので。
「どうしてゼロが代わりに叶える為に行動を起こすんだ?」
「まぁルルーシュってのは学生だから無理だとしてもなぁ?」
「ホントに一体どんな関係なんだ?ゼロとルルーシュってのは」
そんな事をひそひそと囁きあう幹部達に、ゼロは溜息を吐いた。
「昔の話だ。わたしもルルーシュもまだ本国にいた頃。幼いルルーシュに『騎士になってやる』と約束した男がいただけの事」
「男って年でもなかっただろう?第一美化しすぎだ、それは」
ゼロの昔語りに、ルルーシュがツッコミを入れる。
「待て。騎士とは皇族にしかつかないのではなかったのか?」
「わたしが仕えても良いと思ったのは後にも先にもルルーシュ唯一人。皇族がどうのとかいう形式なんて知った事か」
言い捨てるゼロに「あぁ、ゼロならそういうだろうな」と納得してしまった。
4に続く
───────────
作成 2008.08.22
アップ 2008.08.29