★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/幼.少時/捏造)
※捏造かなり捏造既に別な話な気がします....。
『次、‥‥皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア様。ご入来です』
謁見の間に響いたその声に、大きな広間に集った者達がざわつく。
(まさか‥‥。確か凶弾に倒れられたのでは‥‥?)
(娘のナナリー皇女を庇われて撃たれたという話ではなかったのか?)
驚きつつも、場所を考えひそひそと囁かれる言葉。
気遣えたのはそこまでだった。
「‥‥シャルル・ジ・ブリタニア」
マリアンヌは頭も垂れずに階の下で立ち止まると、真っ直ぐに睨みつけるかのようにブリタニア皇帝を見てそう呼び捨てた。
完全な不敬罪であるのだが、誰も口を挟む事は出来なかった。
そこにいたのは皇妃マリアンヌではなく、『閃光』としての気迫を有していた武神だったからだ。
「何の音沙汰もありませんでしたね?まさか、本当に一ッ言も言ってこないなんて思いませんでしたわ」
にっこりと笑うマリアンヌの瞳には欠片も優しい光は見られない。
「何を言うか。皇帝とはそう言うものだと何度も言ったはずだぞ」
言い返す皇帝の声に、「ホンの少し怯えが含まれているように感じるのは気のせいか?」と大多数が思うが、当然口にはしない。
「わたくし、今度という今度は本当に愛想が尽きてしまいましたわ。元々ありませんでしたけど。なので、子供達を連れて出て行く事にしました。さようなら」
マリアンヌはそう言い切ると、くるりと踵を返して歩き出す。
「待てッ。そんな勝手が赦されると思っているのか?」
皇帝は今度はありありと焦りを込めて呼び止めた。
しかしマリアンヌの足は止まらないし、誰も‥‥衛兵さえも止めようと動く事はない。
「勿論、思っていますわ。怒髪天を衝いていますの。‥‥それとも、どなたかが止めるとでも仰るのですか?このわたくしを?」
言い終わってからマリアンヌは足を止めて振り返り、その場の全員を見回した。
マリアンヌの視線を避けるように俯いたり逸らしたり勢い良く首を振ったり、誰も名乗りを挙げる者はいない。
それを確認したマリアンヌは今一度皇帝に視線を固定した。
「と、言う事です。二度と顔も見たくなければ、声も聞きたくありませんわ。そのように配慮していただきます。それでは」
再び宣言したマリアンヌは、今度は制止の声すら掛からずに悠然と去っていった。
マリアンヌが出奔先に何故極東の日本を選んだのかは定かではない。
有力な説としては、「既に罰せられて日本の地を踏んでいたアッシュフォードを追ったのではないか」と言うものがある。
一部で真しやかに囁かれているのは「彼の地には神社があるから‥‥」だったが、これは本当に一部の者にしか通じない説だったりする。
マリアンヌが滞在先に枢木神社(当然土蔵ではないが、社そのものを住処として認めさせた)を選んだ理由もだから謎とされている。
土蔵を遊び場としていた子供が居たが、それもマリアンヌは着いたその日に目障りだと言う理由で排除した。
次にマリアンヌが子供達と共に訪れたのは、枢木ゲンブを警戒して近くに来ていた桐原泰三のところだった。
「ブリタニアの皇妃が何をしに参られた?」
「あら、わたくしは既に皇妃ではありませんわ、桐原公。貴方にも判り易く言えば『三行半(みくだりはん)』を叩きつけてやりましたもの」
周囲で警戒していた黒服黒眼鏡の男達が、その言い回しにがくっとこけて膝をつく。
微動だにしなかったのは、日本側は、元からどっしりと座っていた桐原本人と正座で座っていた藤堂の二人だけだった。
ブリタニア側の親子三人は平然としている。
母親の方は発言者当人なので置いておくとして、子供二人が平然としているのは意味が分かっていなかったからか、「それとも?」なのかと疑問は残るが。
「あらつまらない。驚かないなんて」
「いやいや、十分驚いておるよ。まさかそのような言い回しをご存知だとは思わなんだでな」
「日本にはとても素晴らしい文化があるものですから、色々と学びましたの」
にっこりと微笑むマリアンヌと、それを聞いた桐原や藤堂が思い描く文化が、天地程に掛け離れている事にこの時気づく者はいなかった。
「して?皇妃としてではないというのならば、何用有って参られた?」
桐原はとりあえず話を進める。
「取引を提案しに参りましたの。‥‥そうですわね、『閃光』の異名を持つ者として」
「取引?『閃光のマリアンヌ』の名はこちらにも聞こえておる。‥‥つまり戦力になろうと言うておると?」
「えぇ。応じていただけるのでしたら、日本の為にこの力を振るいましょう?」
そう言う間にもマリアンヌの落ちついた笑顔は崩れない。
「‥‥何を望むか、まず聞いても宜しいか?」
「わたくしの望むもの。それはわたくしの子供達の安全と幸せですわ」
「母上。母上が戦われるのでしたら、ぼくも戦います。ぼくだって母上と妹を守りたいです。‥‥今度こそ」
「わたしも!お母様もお兄様もお守りしたいです。次は足を引っ張ったりなんてしませんから」
マリアンヌの言葉に、それまでジッと黙って聞いていた二人の子供がマリアンヌに縋るように言い募った。
「ありがとう、二人とも。でも子供を守るのは親の役目。そして安全を確保するのも親の役目なのよ」
マリアンヌは二人の子供の髪を撫でながら、優しく諭すように説明する。
その表情は同じ微笑を浮かべながらも慈愛に満ち溢れていた。
子供達が渋々ながらも頷くのを見たマリアンヌは、再び顔を上げる。
「騎士とまでは申しませんわ。既に皇族ではないのですから。ただ守り手を頂きたいの。わたくし一人だけでは目が届かない事もありますから」
そう言うマリアンヌは子供達へと向ける眼差しとは違う鋭いそれを藤堂へと固定させていた。
桐原もまたその視線を追って藤堂を見る事になった。
藤堂はこの時初めて、表面はそのままに、内心大いに怯んでいた。
視線に気づかぬ振りを続けようにも、じーっと見られていてはそれも長続きせず。
とうとう藤堂は、「その役目をおれにせよ、と?」と尋ねるしかなかったのだった。
中編に続く
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作成 2008.06.24
アップ 2008.09.06
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