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──「影響と反響」編──
このところ、エリア11に駐留するブリタニア軍に、それは不祥事と呼んでしまっても差し支えない事件が起こっていた。
始まりは、第二皇子直属の部隊、通称特派の主任が姿を消した事。
のみならず、どうやら特派が唯一擁していたナイトメアフレーム「ランスロット」を持ち逃げしたらしい。
特派のメンバーは主任の出奔を知った時、さほど驚かなかった。
主任のロイドに次ぐ、しかし実際には一番力を持つセシルもまた、「ロイドさんったら~」の一言で笑って済ませてしまったくらいである。
勿論、それを部外へ見せる事はしない。
やってきたスザクがランスロットがない事に気付き、慌てて駆け込んで来るその直前まで、トレーラーの中は陽気ですらあった。
「主任、一人で出てったんですかぁ?」
「あの人はなぁ。おれ達一生お供するってあれッだけ言ってたのにさぁ」
「セシルさん、どうにかなりませんか?」
「そうねぇ。ロイドさんの出奔先は調べるとして、とりあえずは、ホントに無関係なんだから疑われないようにしましょうね」
「勿論ですよ。こんな我々に無断で、ランスロットだけ持ち逃げするような人の為に疑われたんじゃ割に合いませんし」
「あら?スザク君が来るわ。彼に悟られるのも厄介よね?」
笑顔で言うセシルに、技術者一同頷き、それぞれ素早く室内のいたるところに散った。
バタンと扉を壊さん勢いでやってきたランスロットのデヴァイサー、枢木スザクが駆け込んできたのは、その直後だった。
スザクが室内で見たものは──。
陰気の縦線が無数に見えかねない、空気すら重たい場所だった。
特派の技術者の半数が床に座り込んでいた。
床に人差し指で「の」の字を書いている者がいる。
床を向いてぶつぶつと呪いか念仏のような呟きを呟き続けている者がいる。
ただ、俯いているだけの者もいた。
残りの半数も、何人かはモニターに視線を向け、普段は忙しなく動いている腕をだらりと落として、他はランスロットが有るはずの場所を見つめていたりしていた。
そして──。
「スザク君。‥‥貴方も、聞いたのね」
どこか取り乱したようにセシルがスザクに声を掛けてきたのだ。
「‥‥‥はい」
スザクは返事をして俯く。
「ごめんなさいね、貴方を引き込んだのはわたし達なのに、このままランスロットが戻らなければ」
「ぼくの事よりも、ロイドさんは一体、どこへ‥‥」
「それが‥‥。わたしも誰も、何も聞いてなくて。ロイドさんもスザク君もいなかったから、わたし達がいない間に出動が有ったのかと思ったくらいなのよ」
顔を上げたスザクはセシルの話を聞きながら、ランスロットの有った場所を見上げた。
何もない空間がそこに広がっていて、今更ながらに寂寥感を覚えた。
「義兄上は何かご存じないのですか?」
コーネリアが通信画面の向こう側で苦笑を浮かべる義兄シュナイゼルに向かって問い質す。
『何も聞いていないんだよ、わたしも。寝耳に水で驚いているくらいだし』
「‥‥行き先に心当たりは?」
『‥‥心当たりと言われてもね。わたしはエリア11には行った事もないからね』
「‥‥‥‥特派の他の者が知っていると言う事は?」
『どうかな。ロイドは時々、わけのわからない道理で突っ走る事が有ったからね。今回もそうかもしれないし』
「良くそのような輩に一部隊をお預けになっていましたね。‥‥失礼します」
埒の明かない会話に苛立ったコーネリアはそう暇の挨拶を告げると一方的に通信を切った。
ランスロットが持ち逃げされてから初めて黒の騎士団とぶつかった時。
ランスロットがいないだけだと言うのに、ブリタニア軍は、紅蓮弐式と月下四機を前面に押し出して来た黒の騎士団に苦戦を余儀なくされた。
しかし、コーネリアはその場に、リーダーのゼロと、『奇跡の藤堂』の乗る月下(赤毛なので見た目で判断可能)がいない事に眉を寄せる。
「こちらにランスロットがいない事を知らない為の陽動か?」とも一瞬考える。
そう、幸いにも、即座に緘口令を敷いた為、軍の外部にランスロット不在が伝わった様子はなかったのだ。
ならばこれを逆手にとってゼロを捕まえよう‥‥とコーネリアはゼロがいると思われる場所を推測して親衛隊と共にそちらに向かった。
確かにそこに、ゼロの乗る機体と思しきナイトメアはいた。
傍には赤毛の月下もついているので間違いはないだろうと、コーネリアは二機の前に飛び出した。
『ようこそ。コーネリア殿下。待っていましたよ』
途端にゼロの声がオープンチャンネルから飛び出した。
コーネリアの動きを予測していたのか、慌てるでもなくゼロは優雅に挨拶をしてきた。
『今日こそは観念してもらうぞ、ゼロ。いかに「奇跡の藤堂」が優れていようと、この数を相手に貴様を守れると思うなよ』
コーネリアの言い様は、ゼロをまるっきり戦力外扱いしていた。
自分の力量をきちんと把握しているゼロは別段怒ったりはしなかったが、その言い様に怒った者が二人いた。
隣に控えていた月下の藤堂と、ゼロの号令を待って近くに潜んでいたランスロットのロイドである。
藤堂は月下の首をゼロの乗る無頼に向け、無言の圧力、というか催促をする。
『なるほど?では一人でなければ如何か?わたしを守る者が二人いても同じ事を言いますか?』
ゼロが問い、コーネリアは『はん。騎士団が擁する新型、その月下以外は全てあちらに回しているというのにか?』と自信満々に答えたのだ。
しかし直後、ゼロの合図と共に、現れた白い機体を見て驚愕が取って代わった。
『なッ‥‥ランスロットだとッ』
『そう。紹介するまでもないだろう?このたび、採用する事にした、白兜だ。‥‥黒の騎士団には不似合いだから黒くしようかと考えているが』
驚くコーネリアにそう告げたゼロは、「その場合は『黒兜』に改名か?」と続けて呟く。
『いや‥‥。それは今は関係がないぞ。‥‥しかも採用したのは白兜ではないだろう?』
ゼロの言葉に、月下からの冷静なというよりは呆れたつっこみが入った。
『そうか?味方になったら白兜の方が役に立つのだから、間違いではないだろう?』
何故か漫才のようなやり取りを始めるゼロと『奇跡の藤堂』にも驚いていたコーネリアと騎士と親衛隊だった。
『それはあんまりですよ~。ランスロットがぼくの付属品なんですから~』
だが、その言葉に、いや、その発言者に、今までで最大級の驚きを体験していた。
『ロイド・アスプルンド!?貴様、そこで何をしている!?』
『ん~。何って、黒の騎士団の入団試験に受かったので、転職したんです~。ぼくが作ったからランスロット持参しましたよ~』
ロイドはあっさり言うが、誰が作ろうがこの場合、ランスロットは軍のものには違いなく、立派な横領である。
『まてッ。貴様はまだ軍に籍を置いているだろうが』
『え~。ちゃんと受理させておきましたよ?退役届け~』
またまたあっさり言ったロイドだが、勝手に何処も通さず受理させたのはハッキングの成せる業であり、やっぱり違法であった。
そして驚きすぎていたコーネリアはこの時、とうとう気付かなかったのだ。
背後に控えるギルフォードとダールトンが、口論に参加しなかった事を。
数日後、ダールトンが姿を消した事で、ブリタニア軍は恐慌状態に陥る。
それが、まだ序章である事にすら気付く者はほとんどいなかった。
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作成 2008.03.11
アップ 2008.03.29
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黒の騎士団入団試験 【4】影響と反響編 ゼロ:『なるほど?では一人でなければ如何か?』
ロイドが脱走?失踪?した後のブリタニア側のお話です。
後は、騎士団に入った事に驚く辺り。
特派と第二皇子、第二皇女がメインでしょうか。