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「あ、卜部さん。藤堂さんは?知りませんか?」
主に藤堂と四聖剣が集まる彼等の部屋に一番近い休憩室に入った朝比奈は、出てこようとしていたらしい卜部を見つけて声をかけた。
「‥‥藤堂中佐に何の用なんだ?」
卜部は歯切れも悪く、朝比奈に問い返す。
「さっき、扇さんがゼロからの連絡を受けて、今日は来られなくなったって言うから、藤堂さんに構って貰おうと思って♪」
朝比奈の言葉に、卜部は肺が空になるまで盛大に息を吐き出した。
「‥‥‥‥卜部さん?」
いつにないリアクションの大きさに、朝比奈は目を白黒させて卜部に問いかける。
「あー‥‥。中佐は仙波さんと出かけている。‥‥その、急な予定だ」
声を落とした卜部は、言いにくそうにそう説明した。
「‥‥って何時の間に!?‥‥当然、ゼロにも何も言ってないですよね?その反応だと」
「そうなんだ‥‥。今日は来る日だってわかっていたんだが‥‥。仙波さんに誤魔化せと言われててどうしようかと」
肩の荷が降りたと言わんばかりの卜部に、朝比奈は笑顔を向ける。
「良かったじゃないですか。次来るの五日後ですよ♪」
「‥‥そうだな。千葉にも伝えてくれ」
「わっかりました。行ってきます」
目当ての藤堂はいなかったが、それなりに退屈はしなさそうだと朝比奈は千葉の元へと駆けて行った。
ディートハルトが、ゼロ欠席の報を受けたのは、騎士団のアジトに向かう為に仕事場を出た暫く後の事だった。
ゼロが来ないからと言って、今更仕事場に戻るわけにも行かず、かといってまっすぐアジトに向かう気も失せたディートハルトは散歩をする事にした。
普段は通らない地区へと足を踏み入れ、何らかの有意義な情報でもないかと精神を研ぎ澄ますのは何時もの事。
特にゼロを知ってからこの方、ゼロと騎士団とに役立つ情報に敏感になって来ていると自覚するディートハルトである。
だがこの日、ディートハルトは自分の感覚を少々疑いたくなってしまった。
目に留まったのは、ブリタニアの子供だったからだ。
年の頃は十代半ばから二十歳まで。
珍しい黒髪の、白い肌の、薄い色のサングラスをかけていたとしても隠し切れないその美貌の、細身の、麗しい少女だったのだ。
これは恋?いや、わたしにはゼロだけが‥‥だがこの胸の高鳴りは‥‥と心の中での葛藤とは裏腹に、身体は勝手に動くのだ。
ディートハルトの瞳はファインダー越しに少女を捉えているし、指はシャッターを切っているし、足は少女を追っているのだから。
ゼロに続いて、二人目の被写体だと、早々にディートハルトは思い定めていた。
異様な気配に、藤堂のすぐ後ろを歩いていた仙波は視線を巡らせて、それを見つけてしまった。
「藤堂中佐。‥‥あちらを」
前を行く藤堂に注意を促すと、藤堂は立ち止ったが振り返りも、そちらを見る事もしなかった。
「‥‥見るな。忘れておけ」
低い、それは低い声で、藤堂は仙波に命じた。
それに心底同意したいと思っていた仙波だが、一点だけ気になる事が有ったので、言及してみる。
「ですが‥‥、カメラを向けている場所が問題ですので」
「‥‥わかっている。裏から入るぞ」
「承知」
気付いているのならば、忘れる事に否やはなく、仙波は返事をすると行き先を若干変えた藤堂に従った。
通された部屋で、藤堂と仙波は戸惑っていた。
目の前に桐原が座っている、それは良いのだ、彼に会いに来たのだから。
では桐原の後ろにそっと控える少女はどうなのだろうか?と訝しげに思うのも無理はない話だと思う。
まるで祖父に着き添う孫のような様子だが、彼女はどうみても日本人には見えず、二人の関わりが説明できないのも戸惑う原因の一つだ。
桐原への挨拶の言葉も、その為にまだ発せられていない。
部屋の中には、当然いるものと思っていた護衛の姿も、一人もおらず、桐原とその少女と、二人だけだったのだ。
「久しいな、藤堂。‥‥それに、仙波も。掛けるが良い」
促されて藤堂と仙波はぎこちなく桐原の対面に並んで座った。
「ん?あぁ、この者か?案じるな。わしに縁ある者でな。今回はわしの身を案じて付き添って来ている。害はない」
桐原の保証を受けて、藤堂と仙波は警戒を一応解いた。
「急な連絡には驚きました。一体‥‥何が‥‥」
藤堂は桐原に尋ねる。
「別に。所用で近くまで来たモノでな。近況を聞いておきたいと来て貰っただけじゃな」
そう応じる桐原は悪びれない。
「それならばそうと、言って頂きたかった。‥‥突然『近くまで来ている。出て来い』では慌てるしかないので」
少女はそっと桐原の傍を離れ、何かを持って戻ってくる。
ブリタニアの少女が湯のみと急須を盆に載せて来たと知って、藤堂と仙波は少し驚いた。
サイドテーブルに置いた盆の上で、急須を傾ける姿は堂に入っていた。
「ふッ。どうやら気に入られたようじゃな?どうじゃ?わし等捨て置いて付いて行くか?」
桐原と藤堂、仙波にお茶を出した少女に、桐原がそう尋ねる。
「御冗談を仰らないでください、おじい様」
少女は少し怒った様子で桐原に応じた。
「桐原公。失礼だが、お孫さんには見えないが‥‥、縁、というのは?」
「‥‥惚れたのか?藤堂?」
くつくつと桐原は笑って藤堂を揶揄する。
「おじい様。お客様がお困りになっているではありませんか。そうおからかいになるものではありませんわ」
少女はそう言って桐原を諫めてから、藤堂に向きなおった。
「‥‥桐原様はわたしの祖父のご友人なのですわ。‥‥『おじい様』と呼ばせて頂いておりますが」
「‥‥名を、聞いても構わぬでしょうか?」
訊ねたのは仙波の方だった。
これ以上藤堂に尋ねさせれば、またも桐原からのからかいの言葉がかからないとも限らないと思って割って入ったのだ。
「エルと申します」
「わしは仙波と申す。こちらは‥‥」
「藤堂だ」
藤堂は桐原の言葉を気にしてか、言葉少なに応じた。
「存じておりますわ。『奇跡の藤堂』様と、四聖剣の方ですね。お噂は良くお聞きしておりました」
にっこりと笑って言う少女に、藤堂と仙波は思わず見惚れた。
「えー、それは桐原公、からですかな?」
ごほんッと咳払いをした後、仙波が尋ねる。
「ええ、おじい様からもそうですが、他にも色々な方から‥‥。有名でいらっしゃるようですね」
「なんじゃ、やはり気に入っておるのではないか。別に老体に気を使わずとも良いのじゃぞ?」
にやにやと桐原は人の悪い笑みを、主に藤堂と仙波に向けながらそんな良い方をする。
「‥‥おじい様?わたしに黒の騎士団に行って何をしろ、と仰るのですか?」
少女はそんな桐原にまたも怒った様子で抗議した。
確かに華奢で儚げにも見える少女がテログループに来たところで、何も出来ないだろうと藤堂と仙波は思う。
「ゼロに会ってみるのもまた一興だと思うぞ?なぁ、藤堂、仙波。お主等から見てゼロをどう思う?」
桐原は少女に笑って見せてから、真顔になって藤堂達に尋ねたのだった。
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作成 2008.02.20
アップ 2008.04.18
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Ⅳ.ばったり遭遇「桐原+α」編 【2】目撃情報??
「ゼロを誤魔化す」という大変な任務を受けていた卜部、安堵。
肩すかしを喰らった朝比奈。
移動中の変装ルルを目撃したディートハルト。
藤堂と仙波が見たのは、出待ちのディートハルト。
そして会談。
桐原はなんでも楽しんでしまいますなぁ^-^;;