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コードギアスの二次創作サイト。 ルルーシュ(ゼロ)至上主義です。 管理人は闇月夜 零です。
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ゼロ(ルル)至上主義です。
騎士団多め。
表現力がなく×ではなく+どまり多数。
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──審査編初期──

その日、ゼロは自室で入団希望者リストを眺めていた。
藤堂と四聖剣が騎士団に合流後、これまでにも増して入団希望者が増えていた。
中にはスパイや明らかに怪しい者も含まれてくるので、審査は何重にも及び、次第に厳しいものになってきている。
そう、例えるなら今玉城辺りが審査を受ければ、まず間違いなく落ちているだろう程、にだ。
最終審査はゼロ自身がおこない、最終的な合否が決まるようにしているのはトップに立つ者の務めだと思っているからだ。
ふと、リストを捲っていた手が止まる。

ブリタニア人。

ディートハルトが入団後、それが知られているはずはないというのに、時々見かけるようになった。
ディートハルト以外にまだ入団許可を出した事はないが、リストを作成している一人であるディートハルトは、それを何故か喜んでいる。
まずは特記事項に視線を向け、唖然とする。
「‥‥なんの冗談だ?」
そのまま顔写真と、氏名に改めて目を向けた。
「‥‥‥‥。見なかった事にするべきだろうか、これは‥‥」
とりあえず保留にして次に進み、ゼロは素で泣きたくなった。
見覚えのある顔が、と言うよりはかつては良く見た顔の乗った書類が四枚。
全てブリタニア人である。
とりあえず、リストから外し、別の場所によけておいて、続きを見る事にした。

幹部だけでおこなわれるミーティングも滞りなく終わり、後はゼロの解散の合図を待つだけとなった時である。
「‥‥。ディートハルト」
ゼロが、思い出したかのように、広報担当の名前を呼んだ。
「はい」
「これは今回の入団希望リストの最終合否だ。処理しておけ」
「承知いたしました」
ディートハルトは席を立つと書類を受け取りに行き、「他には?」と尋ねる。
「‥‥‥この後、話がある。ラクシャータと藤堂もだ。‥‥扇とカレン、四聖剣については任意。残りは解散」
難色を示すのはいつもの如く玉城である。
「はぁあ?半分以上じゃねぇかよ。ならこの場で話したって構わねぇんじゃねぇのか?」
「‥‥‥。ならば変更する。ディートハルト、ラクシャータ、藤堂はわたしの部屋に来い。残りは解散」
ゼロは前言を翻すと、そのまま自室に引き上げていった。
「‥‥玉城ッ、あんたが文句ばっか言うからわたし達まで締め出されたじゃないの」
「そうですよ。おれだって藤堂さんが聞く事知りたかったのに」
任意と言われていて参加する気満々だったカレンと四聖剣が玉城に詰め寄った。
「めんどぉだわぁ」
そんな騒ぎを眺めながら、ラクシャータは盛大な溜息を吐いてからゆうらりと立ち上がる。
無言で立ち上がった藤堂と、キビキビとした動きで早速階段に向かうディートハルトの後を追ったのだった。

「ディートハルト。貴様何を考えている?」
自室に三人を招いたゼロは、椅子を進め、三人がソファに座るのを待って、そう切り出した。
ちなみに長ソファはラクシャータが一人で占領し、藤堂とディートハルトはそれぞれ一人掛けのソファに座っている。
藤堂とラクシャータの視線がディートハルトに向かう。
「わたしには判断がつきかねましたので、ゼロの判断を仰ごうと思った次第ですが?」
ディートハルトは平然と応じる。
「‥‥貴様以外ならば、わたしの元に来る遥か手前で即座に落としていただろうな」
「わたしも一瞬そうしようかと愚考いたしましたが、思い直しまして」
ゼロは黙ったままディートハルトを見ていた。
「‥‥先程ザッと目を通しましたが、合否どちらのリストにも載っておりませんでしたね?」
「ちょっとぉ、ゼロぉ?一体入団希望者とわたし達に何の関係があるってのよぉ?」
要領を得ない二人の会話に痺れを切らせたラクシャータが口を挟んだ。
「入団希望者が技術屋でな。君の意見が聞きたい」
ゼロはそう言うと、テーブルの上に二枚の経歴書を置いた。
ラクシャータはそれに触れる事無く、一瞥しただけで顔を顰めた。
「って‥‥なんでプリン伯爵がぁ?」
「やはり知り合いか。こちらの女性もか?」
「えぇ‥‥プリン伯爵とぉ、セシルちゃんじゃないのぉ」
驚くラクシャータにゼロは二つの経歴書の備考欄を指し示した。
「‥‥‥‥‥ひとっ言も聞いてないわぁ」
『ラクシャータに照会すればぼくの身元はハッキリするよぉ~』
『ラクシャータさん、よろしくお願いしますね』
それぞれ、備考欄にはそう書き込まれていた。

「で?どんな奴等だ?」
「プリン伯爵はぁ、ナイトメア以外一切興味のないオタクの変人よぉ。今はオモチャがあるからこんな気なんて起こさないと思ってたけどぉ?」
「‥‥オモチャ?」
「そ。騎士団じゃ、『白兜』って呼んでるナイトメア。あれの開発担当じゃないかしらぁ?」
「ふぅん?‥‥つまりこちらのナイトメアの情報を手に入れる為のスパイ、と言うことも有りか?」
「プリン伯爵に限ってそれはないわねぇ。セシルなら有りかも知れないけど、プリン伯爵が一緒となると可能性は低いわぁ」
「ナイトメアを破壊する為の工作要員と言う事は?」
「それも有り得ないわぁ。わたし達は技術屋だからねぇ」

「では次だ。今度は藤堂とディートハルトにも意見が聞きたい」
次にテーブルの上に置かれた経歴書は三枚。
既に知っているディートハルトは口の端を上げただけだったが、流石の藤堂とラクシャータでさえ絶句した。
ユーフェミア・リ・ブリタニア、アンドレアス・ダールトン、そして‥‥。
「スザク君‥‥」
枢木スザクだった。
「信じる道を行け」‥‥そう言って敵と味方に別れたはずのかつての弟子の経歴書を、藤堂は半ば唖然と見つめる。
「ユーフェミアとその補佐、騎士、及び白兜関連がごっそりだな。ディートハルト。ダールトンとはどんな奴だ?」
「真面目で実直。仕える者が道を踏み外そうとしていれば、身体を張ってでも止めようとする男だと思っておりましたが」

「面倒だな。‥‥一人採れば全員採用しなければならない勢いだろうな、これは」
「ん~?ゼロ、あんたこの中に誰か欲しい人いるわけぇ?」
「‥‥枢木はわたしの手を何度も拒み敵となっていたはずだな?‥‥このアスプルンド、クルーミー、それにダールトンは評価しても良いかと思っているが‥‥」
「あー‥‥曲がりなりにも騎士ですし、主である皇女殿下のお付、だったのではないでしょうか?」
「‥‥ならばユーフェミアと枢木を不採用とし、残りの三人を採用、と言うのはどうだ?」
ゼロはそう言い、「その場合、白兜はどっちに転ぶかな?」と呟いた。
「どーせならぁ、デヴァイサーである枢木も取り込んじゃえばぁ?皇女殿下がいれば軍も手荒な事出来ないかも知れないしぃ?」
「‥‥まぁ、コーネリアに対する何らかの手にはなるかもしれないが‥‥。下手をすると今以上に凶暴化するぞ?」
「あぁ、それ、わかるわぁ‥‥。てか、ゼロ、あんた、結構皇室に詳しい?」
「わたしの目的の一つに『皇族を倒す』と言うものがあるからな。かなり調べたのさ」
藤堂の指が動いて、ユーフェミアとダールトンの経歴書の備考欄を相次いで指した。
「‥‥ゼロ。これは?」
『ゼロ。貴方の力になりたいと思います。貴方がそちらで頑張るのでしたら、わたしがそちらに参りましょう』
『今回は、ユーフェミア姫様のお言葉に従いたく存じます。‥‥コーネリア姫様には申し訳ありませんが、ゼロ、貴殿にお味方したく存じ上げる』
「あらぁ?熱烈ねぇ、ゼロ。あんたさぁ。もしかして個人的な知り合い?そんでもって正体バレてたりするのぉ?」
ラクシャータはにやにやとゼロの返事を待っている。
「‥‥全く。あのおしゃべり皇女は‥‥。恐らく口を滑らせたか何かしたのだろうな‥‥」
「て事はぁ。‥‥わかっちゃったかもぉ?あんたの正体ぃ」
「だ、ろうな。ダールトンがコーネリアよりもと思う相手は限られている」
「それはピンクのお姫さまにしてもそーなんじゃなぁい?」
「‥‥ゼロ。君は‥‥」
「‥‥なんだ、藤堂も気づいたのか?」
「あ、あぁ。‥‥可能性を考えれば、それしかないからな。‥‥また会えて、嬉しく思う」
「面識有りなのぉ?ホントあちこちと顔広いわよねぇ?」
「‥‥あの‥‥」
「へぇ?あんたはわからないんだ?ディートハルト。残念ねぇ。教えるつもりはなくってよぉ」
「‥‥悪いが、おれも口を割る気はない」
ディートハルトがごねた為に、その日、彼等の合否は決まらなかった。

───────────
作成 2008.02.29 
アップ 2008.04.04 

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「いてッ」
猫に引っかかれた腕を瞬時に引っ込める。
と、同時に枝から落ちかけて、そのまま見事な着地を決めた。
「‥‥スザクには無理だな、猫が懐かないんだから。第一猫が可哀想だ。‥‥ぼくがやる」
木に登って猫に手を伸ばしていた子供を下から見上げていた子供が声を張る。
「なッ‥‥君には無理だよ、ルルーシュ。‥‥木登り、出来ないじゃないか」
「やってみる前から無理だなんて言いきるな、スザク。第一、事実上無理だったスザクに言われたくない」
二人の子供のじゃれあい、というか言い合いを遠くから藤堂は見ていた。
ブリタニアから皇子と皇女が来てから、藤堂は時々こうして遠目に見ている事があった。
スザクが猫にかまれたり、引っかかれたりするのは良くある事で、藤堂は動じない。
ルルーシュは頭から否定するスザクの言葉に、悔しそうに目の前の大木とその枝で鳴く猫を見上げていた。
それから周囲に視線を巡らした後、スザクを見た。
「スザク。少しかがんでぼくを乗せろ。‥‥少しでも近くなれば猫も飛び移る気になるかもしれないだろ」
途端にスザクが膨れっ面になる。
「おれに踏み台になれって言うのか?ルルーシュ」
「良いだろ?お前は猫には懐かれないが、体力はあるんだ。そういうのを適材適所って言うんだぞ」
暫くの押し問答の後、言い負かされたスザクが渋々と屈んでいた。
スザクの背に乗ったルルーシュは、まだ高い位置にいる猫に手を伸ばす。
その不安定で危なっかしい体勢に、藤堂は眉を顰め、近づく事にした。
かなり足早に歩いた藤堂だったが、それでも結果的には間に合わなかったのだ。
その前に意を決した猫がルルーシュの腕に飛び移り、当然の如くルルーシュはバランスを崩した。
「ほわぁッ」「ッ、ルルーシュッ」
ルルーシュの口から衝いて出たおかしな驚きの声に、スザクもまた慌てる。
土台のスザクが動いた事が決定打となったのは言うまでもない。
地面に投げ出されたルルーシュと、どうして良いかわからず唯見下ろすだけのスザク。
近寄った藤堂は、茫然としているだけのスザクを押しのけるようにしてルルーシュの容体を確認した。
ミーと鳴く猫をルルーシュの腕の中からそっと取り上げて傍らに置き。
まずは首筋に手を置いて脈を確かめ、口元へ移動させて呼吸を確認すると、藤堂は微かにホッと息を吐いた。
この状況で、情勢で、日本に来ているブリタニアの皇子の身に何か有れば‥‥、最初に藤堂が思ったのがそんな事だったのは確かだったが。
「と、藤堂師匠。‥‥ル‥‥その子、大丈夫?」
スザクはルルーシュの名前を言おうとして思い留まり、容体だけを尋ねる。
それについては、藤堂もスザクを評価したが、既に名前を呼んでしまっている事には頭が回っていないらしい。
「あぁ。脈も呼吸も正常だ。ただ、頭を打っているかも知れないから動かす事は避けたい。君は先に戻っていなさい」
遅くなれば妹の皇女が心配するだろうし、皇女への連絡を頼みたかったのだ。
「え‥‥と。けど、おれのせいだし‥‥残ります、おれも」
しかしハッキリ言わないと伝わらないらしく、スザクは頑固に残ると主張する。
「‥‥何か、冷やすモノが有った方が良いかもしれない。それを取ってくるついでに、遅くなって心配する人がいるなら心配要らないと伝えて来い」
藤堂の再度の言葉に、スザクはハッとして頷いた。
「わかりました、藤堂師匠。‥‥えと、その子をお願いします」
バッと頭を下げて頼むなり、スザクは家に向かってかなりの速度で駆け出して行った。
藤堂は姿勢を変えて、ルルーシュを抱えると問題の木の幹に寄り掛かった。
膝元で、助けられた子猫がミーと鳴いていた。


「‥‥佐。‥‥中佐、聞いておられますか?」
控えめな千葉の声に藤堂は瞬いた。
心配そうな千葉の顔がすぐ近くにある事に、藤堂は無表情に驚いていた。
千葉の後ろには、朝比奈と仙波、卜部も控えていて、それぞれ戸惑った様子を見せている。
「‥‥いや、すまん。少々考え事をしていた‥‥」
藤堂は何の話かわからず、素直に聞いていない事を認めた。
事実、四聖剣がいつ部屋に入ってきたのかすら、覚えていないのだ、話を聞いていようハズもない。
藤堂のらしくない様子に、四聖剣は余計に戸惑い、お互いに顔を見合わせる。
「‥‥そろそろ、散策の時間なのでは、‥‥と申し上げたのですが‥‥」
千葉は躊躇いがちに再度言って、「それとも今日はやめておきますか?」と続けた。

藤堂は難しい表情で沈黙した。
「‥‥えーっと、藤堂さん?ホントどうしたんですか?」
朝比奈が藤堂の表情の変化に目敏く気付いて、心配して尋ねる。
「‥‥千葉。卜部と朝比奈を連れて散策に行って来い。藤堂中佐は今回は休まれる」
仙波が有無を言わさずに、断言した。
千葉は仙波を振り返り、「承知」と頷くと、ゴネる朝比奈の襟首を引っ張って卜部と共に部屋を後にした。

「仙波‥‥」
藤堂の意見を待たずして独断で決めた仙波に、藤堂は名前を呼ぶ事で真意を尋ねる。
「たまには宜しいでしょう、藤堂中佐。‥‥時には肩の力を抜く事も必要だとわしは愚考いたします」
「‥‥‥散策は気分転換になって良いんだが?」
「承知しておりますが。散策の気分ではない時もあるでしょうな。今のように?」
仙波が珍しく茶目っ気を含んだ声音で言うので、藤堂もフッと笑みらしきものを浮かべていた。
「少し、昔を思い出して、感傷に浸っていたようだ」
「で、しょうな。わし等が部屋に入った事にも気付かれていなかったようですから」
「なんだ、気付いていたのか」
「はい。目を開けたまま眠ってしまわれているのかと思っておったくらいですよ」
二人はそう言い合って笑った。

「仙波さんってば、おーぼーだと思いませんか?」
「煩いぞ、朝比奈。少しは静かに歩けないのか?」
「だっておれだって藤堂さんの事心配なのに~」
「ならば大人しく歩け」
卜部はそんな同僚の言い合いを眺めていたが、ふと思いついて尋ねてみる。
「ところでお二人さん。中佐の様子がおかしくなったのって昨夜からだろ?昨夕の散策で何か有ったりしたのか?」
千葉と朝比奈の足と口が、同時に止まる。
同じ動きで卜部を見返して、更に同時に顔を見合わせてから首を傾げたのも一緒だった。
「‥‥どう思う?朝比奈」
「どうって‥‥千葉さんは‥‥?」
「‥‥おーい、聞いてるか?それじゃさっぱりわからねぇんだけど?てか何かが有ったってくらいしかわかんねぇぞ」
取り残された卜部が口を挟んでみるも、千葉にも朝比奈にも卜部の声を届いていないらしい。
「確かあの服は‥‥」
「あ、そうですよ、千葉さん。制服、間違いないです」
「‥とすると‥‥」
「紅月さんですね。早いとこ戻りましょう」
「朝比奈。そこで踵を返すな。ぐるッと回るくらいしろ」
「てか二人とも、おれにもわかるように説明してくれる気はないんだな?」
二人だけで納得して話を進め行動を決める千葉と朝比奈に卜部が低い声を投げた。

───────────
作成 2008.03.07 
アップ 2008.04.03 

※「合流」の続きです。

それに気付いたのは朝比奈だった。
「あれ?‥‥藤堂さ~ん。藤堂さんの月下、通信入ってますよ?」
副指令の扇が重傷者リストに載っている事も有って、軍事の責任者である藤堂の負担も増えていた。
この時、藤堂は月下を離れ、団員に幾つか指示を出しているところだった。
月下のハッチを開けて顔を出した状態の朝比奈を藤堂は見上げた後、団員を振り返って、「行け」と言い、立ち去るのを見届けてから自分の月下を見上げた。
朝比奈が月下の手を藤堂に差し出し、藤堂は目で礼を言ってからそれに乗って月下のコックピットまで運んでもらった。

藤堂は上体だけをコックピットに入れて通信をオンにすると、「誰だ?」と尋ねる。
『‥‥わたしだ』
「ゼロか。‥‥どうした?みんな心配している。まだ降りて来れないのか?」
『いや、今から降りる。‥‥が、藤堂。人を一人乗せている。怪我に問題がないのならば、手を貸せ』
ゼロの言葉に、藤堂は顔を顰めた。
「紅月が枢木を連れていた。君は一体誰を連れてきたんだ?」
『‥‥見れば判るだろう?藤堂、お前ならば。今はあまり人目に晒したくない』
「‥‥わかった。今行こう」
『頼む』
短い声と共に、通信は切れた。
藤堂は溜息を吐いてから、スイッチを切って身体を起こした。
朝比奈が月下で藤堂を下に降ろしながら小さく尋ねる。
「藤堂さん。ゼロが乗せてるって誰でしょうね。‥‥てか、その怪我で人一人抱えるの大変でしょ?卜部さんか誰か呼びますか?」
卜部にはあのまま枢木スザクについていてもらっているし、ゼロの言い方が気になっていた事も有って、藤堂は首を振った。
「良い。わざわざ指名してきたのだから、何か意味が有るのかもしれない。無理な時は手伝いを呼ぶ」
藤堂は月下の手のひらから地面に降り立ちながら、そう応じた。
「わかりました。‥‥けど、自分で運ばないって、ゼロも怪我でもしてるんでしょうかね~?」
「それなら紅月がもう少し焦っているだろう」
藤堂はガウェインの足元で、車椅子に手を添えたカレンがガウェインを見上げているのに目をやって言った。
「ですね」
朝比奈はそれもそうだと頷き、「ならなんで?」と首を傾げた。

カレンは遠巻きな物問いた気な視線に内心うんざりしていた。
そこへ近づいてくる気配がして、しつこいと怒鳴ってやるつもりで振り返って、一瞬固まった。
カレンもまさか藤堂が来るとは思わなかったからだが、その雰囲気も何か他の者とは違っていたからでもあった。
「‥‥何か?」
「ゼロに呼ばれた。通るぞ?」
「え?ちょっ‥‥。あ、そうか。でも、なんで、藤堂さん?」
藤堂の言葉に、一瞬驚いたカレンだったが、何かを納得した後、何故藤堂だったのかに首を傾げた。
ピロロ、ピロロと鳴る携帯の着信音に、カレンは会長達か?と思いつつ相手を見て、慌てて繋げた。
「はいッ‥‥‥。あ、そうですね、わかりました」
電話の相手に丁寧に応じながら、カレンは身振りで通って良いと藤堂に伝えた。
そして電話を切るなり、紅蓮に向かって駆け出した。

藤堂は「今の電話の相手もゼロなのか?」と疑問に思いはしたが、通って良いのならとそちらを優先して、ガウェインを上り始めた。
すぐ傍にいるのに、手の込んだ事をするゼロに、藤堂は訝しさを覚えるが、それ以上に心配にもなっていたからだ。
ガウェインの肩まで来ると、ハッチが開き、「入れ」と小さく聞こえたので、C.C.の席に乗り込んだ藤堂を取り込んでハッチは再び閉じた、っておい。
「降りるんじゃなかったのか?」
そう声を掛けながらゼロの席を見上げ、藤堂は固まった。
ゼロと、ゼロの膝に乗る少女がそこにいた。
ピクッと少女は肩を震わせ、ゼロに尋ねる。
「どなたですか?お兄様」
少女の言葉に、藤堂は目を見開いた。
「‥‥君の、‥‥妹なのか?」
藤堂は疑問を口しながらもその答えを自分で導き出していた。
下にある車椅子と、盲目らしき少女、その兄。
「‥‥‥ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとその妹のナナリー・ヴィ・ブリタニアか‥‥!?」
「当たりだ、藤堂。随分と変わっているだろうに、良くわかったな。‥‥ナナリー。彼は藤堂鏡志朗。昔会った事があるだろう?あの、『奇跡の藤堂』だ」
呆れ口調で藤堂に答えたゼロは、一転優しい声音に変わって少女、妹に藤堂を紹介する。
「はい。覚えています。優しくして頂きましたし」
「藤堂が下まで運んでくれる。藤堂ならナナリーも安心だろう?」
「お兄様も一緒でなければ嫌です」
どうやら、ゼロは妹の説得に手間取っていたらしいと藤堂は察した。
「‥‥一つ尋ねても良いか?他の者に見られる心配のないこの場所で、何故仮面を被ったままだったのか。それとも今被ったのか?」
「違いますわ。お兄様は『自分はゼロだから、仮面は取らない』と仰るのです」
「一体‥‥」
「こんなモノでもないよりマシでな。‥‥藤堂、妹を頼む。それと‥‥」
「素性の事ならおれからは何も言わないと約束しよう」
「お兄様ッ」
「おれもすぐに降りるよ、ナナリー。先に行って待っててくれ。ミレイや、咲世子さんもいるから、一緒に」
「‥‥‥わかりました、お兄様。早く来てくださいね」
渋々折れるナナリーに、ゼロはマントを羽織らせる。
「頼む、藤堂」
「承知した」
ゼロの、ルルーシュの最愛の妹の軽い身体を抱き上げた藤堂は、ゼロが開いたハッチから外へと出て行った。



───────────
作成 2008.03.11 
アップ 2008.04.02 

──面接「ジェレミア」編──

そこはダールトンが面接を受けたゲットーの廃墟ビルの一室だった。
座っているのはゼロと藤堂で、ロイドはゼロの座るソファの背もたれに肘をついているし、ダールトンとディートハルトは左右に分かれて直立して立っていた。
ちなみにディートハルトは一切記録に残さず外に漏らさないと言う条件付で同席を認められている。

部屋に入ったジェレミア・ゴットバルトはその場にアンドレアス・ダールトンとディートハルト・リートがいる事に度肝を抜かれた。
ロイド・アスプルンドがランスロットのデヴァイサーとして、黒の騎士団に与した事は最早有名な話だったので驚きはしなかったのだが。

ジェレミアの驚きが冷めぬ内に、ゼロが口を開いた。

「まずは聞こうか?『オレンジ君』?‥‥理解した、その内容とやらを」
ゼロの言葉に、「オレンジ」と呼ばれた時のジェレミアの反応を知っているディートハルトとロイド、ダールトンはひやりとして心なしか身構える。
だがそれは肩透かしを喰らってしまった。

「ずっと、考えておりました。あの時の事は、未だに思い出せないのですが、何故わたしはゼロを全力で見逃す気になったのかと言う事を‥‥」
ジェレミアは怒るでもなく、逆上するでもなく、真面目な表情でそう告げる。
ゼロは「そりゃ思い出せないだろうな、なんたってギアスのせいだし」と思いながら、「それで?」と先を促した。
「実際、わたしにはやましい覚えは一つもなく、ゼロに従う必要はなかった。なのに従ったのは、何故なのか。それをやっと思い出しました」
ジェレミアの言葉に、四人はゼロを見た。
しかしゼロの方にこそ、「思い出した」と言う内容に心当たりは当然なく、思わずコテンと首を傾げてしまった。
それから慌てて不思議がってるわけにはいかないんだと思い出し、「思い出した?」と何とか尋ねた。

勿論、納得する者はいない。
「もしかして見当違いな答え持ってきたのかなぁ~?オレンジ卿はぁ~?」
ゼロがとても楽しみにしていた様子を知っている者としては、捨て置けない事だったので、ロイドは眇めた目で見据えて言う。
「貴様にそれで呼ばれる筋合いはないぞ、プリン伯ッ」
ジェレミアはロイドをきつい眼差しで睨み返して怒りをぶつける。
「むッ、ぼくだって、オレンジ卿にその名前で呼ばれたくないんだけどぉ~?」
「それくらいにしておけ、貴様等。場をわきまえよ」
ダールトンが一喝して、二人の不毛な、或いは低次元な言い争いに割って入る。
二人はゼロを見て押し黙った。

「とりあえず、答えを聞いてからでも良いだろう?これ以上騒いでいると、また言われるぞ」
藤堂が、ロイドを見ながらそう言って扉を指差したので、ロイドはぶんぶんと首を振った。
ゼロに「次は追い出す」と言われている以上、次にゼロが言えば、藤堂が容赦なく追い出しに掛かるのが判ったからだ。

「あの時の言葉は‥‥ハッタリ、ですね?何故なら貴方の言った『オレンジ』とはわたしの瞳の色だからだ」
最初こそ恐る恐るだったが、最後はキッパリとジェレミアは言い切った。
「ほぉ?‥‥確かにハッタリだったな。軍等の組織や、派閥を唱えている者はとかく疑惑に弱い。混乱を招くには良い手だっただろう?」
ゼロはあっさりとハッタリだと認め、「ついでに、あのカプセルもハリボテのハッタリだ。わたしはあの時、ハッタリしか用いていない」と言い切った。
「ハリボテ‥‥!?」
ゼロの言葉にジェレミアは驚いて目を見開き、ゼロを凝視する。
「あぁ。お前達軍の者は、クロヴィスからカプセルの中身は毒ガスだと聞いていたのだろう?少々利用させて貰った。あれは単なるスモークだった」
「という事は、シンジュク事変の元凶となったテロリストに盗まれ使用されたという‥‥」
ゼロの言葉に、ディートハルトが思い出しながら言い添える。
「そうだ。結局、中身は毒ガス等ではなく、‥‥いや、クロヴィスにとってはそれ以上に危険なモノだったが‥‥。まぁ、中身を知る者はほとんどいなかったからな」
「そうですね。クロヴィス殿下お亡くなりの後、バトレー将軍も更迭されましたし‥‥」
とディートハルトは更迭した張本人であるジェレミアに視線を向けて言う。
「‥‥ゼロ。ならば中身は何だったのだ?」
藤堂が尋ねる。
「‥‥‥‥‥。知りたいか?」
少しの沈黙の後、尋ねたゼロに、一同揃って頷いた。
「‥‥‥‥。言われずとも承知しているだろうが、念を押しておく。外で、これに関する発言及び行動は一切認めない。‥‥そう、表情に出す事も」
またも少し間を空けて厳命したゼロは、「それでも聞きたいか?」と尋ねた。
「クロヴィスにとっては毒ガス以上に危険なモノ」とゼロは言ったが、それはゼロにとっても似たようなモノなのだと気を引き締めた。
けれども、好奇心には勝てずに、またはゼロの事なら何でも知りたいという思いから、それぞれ頷いていた。

「‥‥‥あれに入っていたのは。一人の少女だ。拘束服で拘束されていた‥‥」

沈黙。
藤堂の脳裏にゼロの周辺に出没する少女が浮かぶ。
ディートハルトの脳裏にゼロの愛人ではないかと噂される少女が浮かぶ。
ロイドの脳裏に主の傍で偉そうにピザを頬張る少女が浮かぶ。
ダールトンの脳裏に恐れ気もなく自分を見返し、鼻で笑った少女が浮かぶ。

「‥‥‥‥少女?それが何故危険で、拘束服でカプセルなどに?」
一人心当たりのないジェレミアが首を傾げてゼロに尋ねた。

「さて。その辺りまではクロヴィスに聞くのを忘れていたから、わたしも知らないな。だが危険だったのは確かだぞ」
ゼロはジェレミアにそう答え、新参であるが故に少女と付き合いの浅いロイドとダールトンが目を細めた。
「どぅ危険だったのか、聞いても良いですか~?」
「クロヴィスはあれを人の目に触れさせない内に始末をつけたかったらしいな。人目についたと知った途端、壊滅作戦に移行している」

「少しお待ちください。貴方はシンジュク事変の時にゲットーにいらっしゃったのですか?」
ダールトンが険しい表情で尋ねる。
「あぁ、巻き込まれた挙句にカプセルの中身まで見る羽目になった。お陰で危うく親衛隊に殺されるところだったが」

「なッ‥‥。では、親衛隊全員を返り討ちにしたのはッ」
「返り討ち?‥‥まぁ、名を明かしたら、銃を向けた非礼を詫びるといって止めるまもなく自殺したから、返り討ちといえばそうか?」
「ってクロヴィス殿下の親衛隊と親交ありましたっけぇ~?」
「いや?初めて見る顔だったし、名前も知らないな。その時わたしを庇った少女は、気付いたら何故か傍に‥‥。話がズレてるな」
ゼロはハタとそこで一度言葉を切って、咳払いをしてから話題を変えたというか戻した。

「‥‥ハッタリである以上、名称は何でも良かったから、特に決めていたわけではない。目の前にいて丁度目を合わせていたことだし、良いかと思ったのは確かだな」
「へぇ~?じゃあジェレミア卿の推測って大当たりだったんですねぇ~」
ロイドは感心したように暢気な声を出したが、藤堂は「当たり」と聞いて、またもや「おかしなブリタニア人が増えるのか?」とげんなりとしていた。

───────────
作成 2008.03.13 
アップ 2008.04.01 

ダールトン入団の後、ディートハルトはゼロから「当分の間、ブリタニア人が希望してきたとしても、わたしの元まで回さずに落としまくれ」と言われていた。
ディートハルトはその時、「承知いたしました」と二つ返事で頷いたものだった。
その後は、ダールトンの時のような事故を防ぐ為に、必ず部屋の施錠を確認してもいる。
「だがしかし、‥‥」と手の中の経歴書を前にして、ディートハルトは一人固まっていた。

ロイドの時も、それなりに混乱していた団員達だったが、今度はその時の比ではなかった。
ロイドは、ブリタニア人で、軍属で、だけど七年前の戦争には参加していない事はハッキリしていた。
だが、ダールトン(通称は将軍だが、これまた一部しか呼ぶ者はいない)はハッキリと七年前の戦争に参加している事が確認されていた。
団員の中で、直接戦火を交えたのは、藤堂と四聖剣だけとは言え、その戦争で国を奪われ、名を奪われ、親しい人を奪われているのだ。
簡単に納得できる者の方が少なくて当たり前だった。

更に言えば、ダールトンは何処にいようと威風堂々とした将であり、大抵の団員は傍によると位負けしてしまうので、敬遠したいという事もあった。
ダールトンに位負けしないのは、リーダーのゼロと軍事の責任者である藤堂、四聖剣の仙波、何故かC.C.、後はロイドとラクシャータくらいである。

七年前の戦争で敵味方に分かれていたはずの藤堂が面接に同席しておいて、「何故!?」と言う声も一部上がっているが、藤堂は気にしていない。
一度、四聖剣に尋ねられた時に、「裏切らないのならば、問題はなかろう」と言ってのけたという話も流れている。
「‥‥ッて、自軍を裏切って来てるんだぜ?また裏切らないって何故言いきれるんですか?中佐」
卜部が驚いて尋ねた言葉に対しても「ゼロの顔の広さには恐れ入る」とだけ答えたという。

そりゃ顔が広いってのには、誰もが賛成するだろう。
何処からともなく列車一杯のナイトメアを用意したり、最初のアジトであるトレーラーを放蕩貴族から譲り受けたり。
キョウトの桐原公と旧知である事を知った時には魂消る程に驚いたし。
そうこうしている内に、ゼロを「我が君」と呼んで白兜を抱えたブリタニアの貴族で軍でも中佐の一組織の主任がやってきた。
今度は将軍だ、広いにも程があるってなものだろう。


幹部会議の間中何故か大人しかったディートハルトが、ゼロが解散の合図をした途端、「ゼロ‥‥」と声を掛けた。
厭な予感を覚えたのは、ゼロと藤堂、ロイドと、ダールトンの四人のみ。
ちなみにこの場にロイドがいるのは、みんなが諦めたせいだし、ダールトンがいるのはゼロと藤堂が希望したからである。
当然、ゼロから希望されたという事に、ロイドは拗ねたのだが、誰も取り合いはしなかった。
「わたしにまで回すな。そう言っておいたはずだぞ、ディートハルト」
ゼロはディートハルトに話の内容を尋ねすらせずに、そう突っぱねてみた。
「はい、伺っておりますが。それでも一人だけ、見て頂きたいと‥‥」
「少し待て、ディートハルト。一人だけ、という事は、他にもいたのか?」
眉を寄せて藤堂が尋ねるとディートハルトは黙然と首肯した。
この日、ゼロの横に座っていたのは、カレンと扇だったが、二人だけはゼロの小さな呟きを聞き取っていた。
曰く、「これだからブリタニアはッ」である。

ゼロはその呟き以外無言でディートハルトを見据え、ディートハルトはゼロの返事をじっと待っていた。
「‥‥ゼロは解散と言ったはずだ。仙波、卜部、千葉、朝比奈。お前達も先に戻っていろ」
藤堂が溜息を吐いた後、とりあえず自分の部下に声を掛けた。
四聖剣はすぐに立ち上がり、揃って「承知」と言った後、後ろ髪引かれる思いでそれでもその場を離れていく。
その為、藤堂もまた下がるべきだった事に気づく者はいなかった。
次いで扇が立ち上がり、残りの者に声を掛けつつ、自ら下がっていった。
カレンもまた、渋る玉城を引っ張るようにして後に続き、一人、また一人と人が減っていった。
残ったのは、ゼロとディートハルトの他には、藤堂、ロイド、ダールトンだけとなる。

「ゼロ。そんなに見たくないのか?」
何故日本人組織として名を馳せているはずの場所で、一人取り残されているのだろうと藤堂は内心不思議に思いながら、口を開いた。
不思議といえば、この中で日本人は藤堂だけだが、ゼロの素性を知らないのはディートハルトだけか、と別な事まで考えてしまう。
「‥‥予想がついて厭なんだ。なんなら見てみるか?藤堂。確実に後悔するから」
名指しされた以上、見たくないとは最早言えず、藤堂はディートハルトに手を伸ばした。
渡された経歴書を見て、藤堂はゼロの言った通り後悔した。
「‥‥‥‥それで?『オレンジ君』はなんと言ってきている?」
結局、ゼロは経歴書を見もせずに、そう尋ねた。
目を見張ったロイドとダールトンだが、それでも何となく予想は立てられたので自失する事はなかった。

「備考欄に『オレンジ疑惑について理解した』と書いているが‥‥」
藤堂が困惑した様子で読み上げた。
「そういえば、ゼロ。いつかお伺いしようと思っていたのですが、結局公表するという『オレンジ』とは何だったのですか?」
ゼロはディートハルトの問いには答えなかった。
「ほぉ?『理解した』‥‥か。面白い。その言い分、聞いてやらないでもないな」
くつくつとゼロはさも面白そうに笑って言ったのだ。

「あれぇ?だけどさー?『オレンジ卿』って、確かナリタ以来、療養中じゃなかったでしたっけ~?」
「その通りだ。勝手に持ち場を離れ、ゼロに向かって行って赤い新型のナイトメアにやられたのでな」
ロイドの疑問にダールトンが答える。
「‥‥そう言えば、あの時は何時になくあっさりと脱出していたようだが、ナイトメアの不具合だったのか?」
紅蓮弐式の輻射波動の影響がナイトメア全体に及ぶ遥か前に、コックピットが飛んでいってしまったのを見た時、ゼロは一瞬固まる程驚いたのだ。
「はい、左様で。自らの意思でしたら、降格モノと調べてみたのですが、確かにナイトメアの脱出機能の接触不良でした」
「ふむ、輻射波動で誤作動を起こしたか。『オレンジ君』なら無駄に粘るかと思っていたが、逆にそのせいで助かったようだな」
「‥‥‥ゼロ。『オレンジの彼』が助かったのを喜んでいるように見えるのだが‥‥?」
ナリタの戦いの時には解放戦線の一人として参加していた藤堂は、ゼロの様子を不思議そうに見た。
「フッ‥‥。『オレンジ君』は素直で反応が面白いものでな。見ていて飽きない」
楽しそうに言うゼロは、やはり喜んでいるようだ、と藤堂は思った。
「‥‥‥やはり、人が悪くなられたようですな」
そんなゼロを見て、ダールトンはポツリと呟いていた。

──審査「ジェレミア」編──

───────────
作成 2008.03.12 
アップ 2008.03.31 

「‥‥ゼロ」
藤堂は掠れた声でゼロを呼んだ。
素顔を晒しているゼロは無表情のまま、藤堂を見る。
「尋ねたい事が二つ、ある」
「‥‥‥答えられる事ならば答えよう。‥‥それで?」
ほとんど睨むようにゼロの一つだけ見える紫の瞳を凝視しながら、藤堂が言えば、ゼロは暫く静かに見返した後、無感動に応じる。
「C.C.とはなんだ?『「ゼロ」としてはC.C.が離れるのも確かに痛手』とは、どういう意味なのだ?」
「‥‥その答えを持っているのはC.C.だな。‥‥わたしには答えられない」
ゼロの回答に、藤堂は眉を顰めて、C.C.へと視線を移す。
「‥‥答える気はないぞ。わたしは。わたしはわたしだし、なんだと問われても答えようがないしな。‥‥でもそうだな、ピザを献上すると言うのなら‥‥」
「やめろ、C.C.。そう簡単にピザで左右されるな。‥‥その内、おれの素性もピザで売ろうとしないだろうな?貴様‥‥」
「流石に、時と場合と相手は選ぶ。大体、貴様がわたしのピザ代をケチろうとするからこうなるんだろう?」
どうしたものかと考えたが、この場にゼロも同席している以上ピザで釣るのは不可能と判断して、藤堂はゼロへと視線を戻した。
「‥‥全てが終わった後、『ゼロ』をどうする気なんだ?そして、君はどうする気なんだ?‥‥ルルーシュ君」
そして二つ目の問い。
「『ゼロ』は当然消える。全てが終わり、反逆する必要がなくなれば、『ゼロ』もまた無に戻るだけだ」
一切の未練も感じさせないゼロの言い様に、藤堂は嫌な物を感じる。
「‥‥では、君は?ルルーシュ君。‥‥君は、その時は、」
「初めの名は既に死んでいる。表の名もまもなくその場所を奪われる。おれはナナリーさえ幸せになってくれればそれで良い」
「待て。まもなくという事は、まだ奪われない手を打てるのではないのか?妹君の幸せは、君が傍にいなければ叶わない。‥‥間違っているか?」
「‥‥例えナナリーがゼロの正体を知り、それでもと望んでも、それは応えてはいけないし、応えられない。おれの未来はナナリーとは繋がっていないからだ」
「‥‥居場所が奪われない為の手は打たないのか?」
「既に打てる手は打ってきた。だが、ここまで皇族がエリア11に来ていては、見つかるのも時間の問題。せめてナナリーだけでも隠す算段はつけるさ」
ギリッと藤堂の奥歯が鳴る。
「‥‥ならば、日本の地を踏む皇族を、ことごとく屠れば、居場所は出来るか?コーネリアも、ユーフェミアも、シュナイゼルさえ屠ってみせれば良いか?」
藤堂の内に沸きあがるのは純粋な怒りだった。
誰に対するモノかは判らないが、ただ怒りだけが、膨れ上がっていって止める事が出来ない。
「無駄だな、藤堂。仮に、今からそれを成した所で、十手も二十手も後手であり、最早手遅れで有る以上、悪手にしか成りようがない」
藤堂に、そんな暴挙に出られては堪らないと、C.C.が口を挟む。
「それに、そんなにこいつの居場所を確保したいのならば、お前の傍に新しく作ってやれば良いんじゃないのか?」
「C.C.、貴様ッ。何を考えている?」
「お前が考えていない事だ。そうだろう?お前は妹の、『合衆国日本』の、そして騎士団の未来は見ているが、お前自身の未来は見ていない」
「‥‥見ているさ。唯、おれの先には道がないだけだ。‥‥元々、道なき道を糸を渡して強引に渡って来たようなモノだったのだ。なくて当然なんだ」
「だが、今はあるはずだぞ?わたしが作ったのだからな。お前の道はわたしとの『契約』が有る限り、なくなりはしない。わかっているはずだな?」
C.C.の提案と、それに続いた二人の会話に、藤堂は内に広がっていた怒りが急速に萎んでいくのを感じていた。
「‥‥『契約』とはなんだ?」
「質問が増えているぞ。‥‥それに、お前には関係のない事だ、藤堂。‥‥強いて言えば、わたしがこいつの傍にいる『理由』か?」
藤堂はC.C.の答えにならない答えを聞いてから、ゆっくりとゼロに視線を移した。
「‥‥‥‥。君が『ゼロ』のままだろうとそれをやめようと構わない。おれが君を、君達を守りたいと言えば、守らせてもらえるだろうか?」
ゼロはその言葉に、見えている片目を大きく見開いた。
「‥‥‥お前は、‥‥お前にはやるべき事があるはずだ。おれ達にかかわっている場合ではないはずだぞ、藤堂」
「‥‥‥‥。『ゼロ』は日本人に『合衆国日本』と言うかけがえのない宝を取り戻してくれた。その『ゼロ』を優先する事を誰も咎めたりはしない」
「文句も言わせないし、聞くつもりもない」と藤堂は言ってのけた。
「‥‥‥‥ッ」
乱暴なその言い分に、ゼロは咄嗟に反論が出てこない。
「建前と体裁はこれで整うのだ、『ゼロ』にも文句は言わせない。‥‥それとも守らせては貰えないのか?」
藤堂のそれはゼロの、ルルーシュの為だけを想った言葉だ。
他の誰をも説得して、言い負かして、ねじ伏せて、それでも傍に残りたいのだと言っているのだ。
「‥‥どうした?答えてやらないのか?」
C.C.が黙ったままのゼロに声を掛ける。
「‥‥‥‥‥‥。ッその時が来るまで、‥‥保留だッ」
迷っていたゼロはそう云い捨てるとソッポを向いた。
「‥‥いいだろう。ただし、返事を言う前に勝手に消えるなよ」
その場で即座に否定されなかった事に、藤堂は頷くと、そう返した。

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作成 2008.02.03 
アップ 2008.03.30 

──「影響と反響」編──

このところ、エリア11に駐留するブリタニア軍に、それは不祥事と呼んでしまっても差し支えない事件が起こっていた。

始まりは、第二皇子直属の部隊、通称特派の主任が姿を消した事。
のみならず、どうやら特派が唯一擁していたナイトメアフレーム「ランスロット」を持ち逃げしたらしい。

特派のメンバーは主任の出奔を知った時、さほど驚かなかった。
主任のロイドに次ぐ、しかし実際には一番力を持つセシルもまた、「ロイドさんったら~」の一言で笑って済ませてしまったくらいである。
勿論、それを部外へ見せる事はしない。
やってきたスザクがランスロットがない事に気付き、慌てて駆け込んで来るその直前まで、トレーラーの中は陽気ですらあった。

「主任、一人で出てったんですかぁ?」
「あの人はなぁ。おれ達一生お供するってあれッだけ言ってたのにさぁ」
「セシルさん、どうにかなりませんか?」
「そうねぇ。ロイドさんの出奔先は調べるとして、とりあえずは、ホントに無関係なんだから疑われないようにしましょうね」
「勿論ですよ。こんな我々に無断で、ランスロットだけ持ち逃げするような人の為に疑われたんじゃ割に合いませんし」
「あら?スザク君が来るわ。彼に悟られるのも厄介よね?」
笑顔で言うセシルに、技術者一同頷き、それぞれ素早く室内のいたるところに散った。

バタンと扉を壊さん勢いでやってきたランスロットのデヴァイサー、枢木スザクが駆け込んできたのは、その直後だった。
スザクが室内で見たものは──。

陰気の縦線が無数に見えかねない、空気すら重たい場所だった。
特派の技術者の半数が床に座り込んでいた。
床に人差し指で「の」の字を書いている者がいる。
床を向いてぶつぶつと呪いか念仏のような呟きを呟き続けている者がいる。
ただ、俯いているだけの者もいた。
残りの半数も、何人かはモニターに視線を向け、普段は忙しなく動いている腕をだらりと落として、他はランスロットが有るはずの場所を見つめていたりしていた。
そして──。

「スザク君。‥‥貴方も、聞いたのね」
どこか取り乱したようにセシルがスザクに声を掛けてきたのだ。

「‥‥‥はい」
スザクは返事をして俯く。
「ごめんなさいね、貴方を引き込んだのはわたし達なのに、このままランスロットが戻らなければ」
「ぼくの事よりも、ロイドさんは一体、どこへ‥‥」
「それが‥‥。わたしも誰も、何も聞いてなくて。ロイドさんもスザク君もいなかったから、わたし達がいない間に出動が有ったのかと思ったくらいなのよ」

顔を上げたスザクはセシルの話を聞きながら、ランスロットの有った場所を見上げた。
何もない空間がそこに広がっていて、今更ながらに寂寥感を覚えた。


「義兄上は何かご存じないのですか?」
コーネリアが通信画面の向こう側で苦笑を浮かべる義兄シュナイゼルに向かって問い質す。
『何も聞いていないんだよ、わたしも。寝耳に水で驚いているくらいだし』
「‥‥行き先に心当たりは?」
『‥‥心当たりと言われてもね。わたしはエリア11には行った事もないからね』
「‥‥‥‥特派の他の者が知っていると言う事は?」
『どうかな。ロイドは時々、わけのわからない道理で突っ走る事が有ったからね。今回もそうかもしれないし』
「良くそのような輩に一部隊をお預けになっていましたね。‥‥失礼します」
埒の明かない会話に苛立ったコーネリアはそう暇の挨拶を告げると一方的に通信を切った。

ランスロットが持ち逃げされてから初めて黒の騎士団とぶつかった時。
ランスロットがいないだけだと言うのに、ブリタニア軍は、紅蓮弐式と月下四機を前面に押し出して来た黒の騎士団に苦戦を余儀なくされた。

しかし、コーネリアはその場に、リーダーのゼロと、『奇跡の藤堂』の乗る月下(赤毛なので見た目で判断可能)がいない事に眉を寄せる。
「こちらにランスロットがいない事を知らない為の陽動か?」とも一瞬考える。
そう、幸いにも、即座に緘口令を敷いた為、軍の外部にランスロット不在が伝わった様子はなかったのだ。
ならばこれを逆手にとってゼロを捕まえよう‥‥とコーネリアはゼロがいると思われる場所を推測して親衛隊と共にそちらに向かった。

確かにそこに、ゼロの乗る機体と思しきナイトメアはいた。
傍には赤毛の月下もついているので間違いはないだろうと、コーネリアは二機の前に飛び出した。
『ようこそ。コーネリア殿下。待っていましたよ』
途端にゼロの声がオープンチャンネルから飛び出した。
コーネリアの動きを予測していたのか、慌てるでもなくゼロは優雅に挨拶をしてきた。

『今日こそは観念してもらうぞ、ゼロ。いかに「奇跡の藤堂」が優れていようと、この数を相手に貴様を守れると思うなよ』
コーネリアの言い様は、ゼロをまるっきり戦力外扱いしていた。

自分の力量をきちんと把握しているゼロは別段怒ったりはしなかったが、その言い様に怒った者が二人いた。
隣に控えていた月下の藤堂と、ゼロの号令を待って近くに潜んでいたランスロットのロイドである。
藤堂は月下の首をゼロの乗る無頼に向け、無言の圧力、というか催促をする。
『なるほど?では一人でなければ如何か?わたしを守る者が二人いても同じ事を言いますか?』
ゼロが問い、コーネリアは『はん。騎士団が擁する新型、その月下以外は全てあちらに回しているというのにか?』と自信満々に答えたのだ。
しかし直後、ゼロの合図と共に、現れた白い機体を見て驚愕が取って代わった。
『なッ‥‥ランスロットだとッ』

『そう。紹介するまでもないだろう?このたび、採用する事にした、白兜だ。‥‥黒の騎士団には不似合いだから黒くしようかと考えているが』
驚くコーネリアにそう告げたゼロは、「その場合は『黒兜』に改名か?」と続けて呟く。
『いや‥‥。それは今は関係がないぞ。‥‥しかも採用したのは白兜ではないだろう?』
ゼロの言葉に、月下からの冷静なというよりは呆れたつっこみが入った。
『そうか?味方になったら白兜の方が役に立つのだから、間違いではないだろう?』
何故か漫才のようなやり取りを始めるゼロと『奇跡の藤堂』にも驚いていたコーネリアと騎士と親衛隊だった。
『それはあんまりですよ~。ランスロットがぼくの付属品なんですから~』
だが、その言葉に、いや、その発言者に、今までで最大級の驚きを体験していた。
『ロイド・アスプルンド!?貴様、そこで何をしている!?』
『ん~。何って、黒の騎士団の入団試験に受かったので、転職したんです~。ぼくが作ったからランスロット持参しましたよ~』
ロイドはあっさり言うが、誰が作ろうがこの場合、ランスロットは軍のものには違いなく、立派な横領である。
『まてッ。貴様はまだ軍に籍を置いているだろうが』
『え~。ちゃんと受理させておきましたよ?退役届け~』
またまたあっさり言ったロイドだが、勝手に何処も通さず受理させたのはハッキングの成せる業であり、やっぱり違法であった。

そして驚きすぎていたコーネリアはこの時、とうとう気付かなかったのだ。
背後に控えるギルフォードとダールトンが、口論に参加しなかった事を。

数日後、ダールトンが姿を消した事で、ブリタニア軍は恐慌状態に陥る。
それが、まだ序章である事にすら気付く者はほとんどいなかった。

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作成 2008.03.11 
アップ 2008.03.29 

ルルーシュは、それを見て完全無欠に固まっていた‥‥。
その日、バイトがあるからと生徒会室にさえ顔を出さず教室から直接出かけて行ったリヴァル。
その結果、ルルーシュは一人租界に出てきていた、──買い出しの為に‥‥。
しかし、大通りに出た時、ふと視線が合ってしまったのがまずかったと言うのだろうか。
相手もまた、車に乗るところだったその動きを止めてしまい、供の者達の不審を買っていた。
一つ息を吐いたその人物は、片手で何でもないと示し、一行を乗せた黒塗りの高級車はそのまま滑り出して走って行ってしまった。
視界からその人物と車とが消えてから、ルルーシュはやっと息を吐く。
‥‥‥‥な、何故、こんなところにいたんだ‥‥、桐原‥‥。
車が消えた先を見やりながら、ルルーシュは呆然と思うわけで。
大体キョウトからも何も言って来ていないのに‥‥とゼロ思考で考えて深々と溜息を吐いた。
今日は生徒会が終わった後、ゼロがアジトに行く予定だったけれど変更だな‥‥と今後のスケジュールを考える。
五日後はどうしてもしなければならない事があるから絶対にアジトに行かなければならないが、今日はその下準備だけだったはず。
シワ寄せは何処だ?と脳内で調整しながら、ルルーシュは先程までよりも遥かに足早になってその場所を後にした。

買い出しが終わった後、一度部屋に戻ったルルーシュは、携帯を取り出して扇をコールする。
「扇か?わたしだ」
『ゼロ‥‥?‥‥どうしたんだ?』
珍しく連絡を入れたゼロに、驚いたのか扇は訝しげな声を返す。
「今日は急な予定が入ってそちらへは行けなくなった」
『え!?‥‥珍しいな』
誰にだって急用が入る事くらいあるだろうに、扇は派手に驚いてから、ボソリと呟いた。
「すまない。騎士団で次回までに急ぎしなければならない処理はなかったはずだから、構わないな?」
押しの弱い扇を説き伏せるには、有無を言わさぬ勢いとそれらしく思わせる言い回しで事足りるので、案外楽だったりする。
『えーっと‥‥あ、あぁ。‥‥なら次は‥‥』
一応考えているらしい扇だが、本当に予定が思い当たったのかも怪しいモノだとルルーシュは思っているが今は放っておく。
「何もなければ予定通り五日後だ」
『あ、あぁ。‥‥もし、何か有ったら‥‥』
「‥‥今日の夜七時から十二時‥‥の間で、手が空いていれば応じる。それ以外は掛けて来るな」
それはルルーシュがゼロとなってアジトにいる予定にしていた時間帯である。
それ以外はプライベートだとルルーシュは割り切っていた。
『わ、かった』
肯定する扇に、ルルーシュは一番聞きたいと思っていた事をついでのように訊ねる事にする。
「‥‥ところで、扇。キョウトから何か言って来てるか?」
『え‥‥いや、聞いてない』
「そうか‥‥。では後は頼む」
さっさと暇の挨拶をしたルルーシュは、そのまま通話を切って電源をオフにした。
この携帯はゼロ用のモノだから不要な時にはいつも切っている。
「‥‥やはり無断、か‥‥。全く、厄介な‥‥」
低く呟いたルルーシュは、気持ちを切り替えると生徒会室へと取って返した。

生徒会が終わった後、ルルーシュは一旦部屋に戻って内容は異なったけれど、出かける準備をする。
予定通り「帰りは遅くなるから」とナナリーに告げて、クラブハウスを出るとアッシュフォードの秘密の抜け道に向かった。
ここのロックは定期的にパスワードが変更されるが、その都度ミレイから新しいパスワードが知らされてくる。
ゼロになった今は勿論の事、ゼロになる前から、かなりの頻度でルルーシュが使っているお忍び用通り道であった。
途中にある幾つかの隠し部屋の一つで、ルルーシュは変装した後、外へ向かって歩いて行った。

桐原の滞在地へ向かうと、すぐさま部屋に通された。
その際の桐原の供が放つ不躾な視線には目をつむる。
桐原の部屋には、豪華な調度品、ばかりで構成されているような応接室が有った。
一人掛けソファに座って両手を杖の上で組んでいる桐原の正面に立ったルルーシュは不機嫌な顔で桐原を見据える。
「良く来たな‥‥。あれだけで良くわかったものよ」
視線が合ったあの時、桐原はルルーシュに向けて会いに来いと合図を寄越していたのだ。
「‥‥‥‥何の用ですか?桐原公。‥‥用件は手短にお願いします」
黒い髪はセミロング程の長さになり、紫の双眸を隠す為か薄い色のついたサングラスをかけている。
それだけで紫は黒か茶かに見えてしまうのが不思議なのだが、少しは気が紛れる。
服装も普段とは違い、少し明るめの色を使用したモノを選んでみた。
「まぁそう慌てず、掛けるが良い。‥‥そう、怒るモノでもないぞ」
笑いを含んだ桐原の声音に、ほんの少し怒気を上げればすぐに気づいたので、ルルーシュは息を吐いて桐原の向かいに座った。
桐原が背後に立つ護衛に合図を送ると、全員が一礼の後退室していった。
「無断で降りて来た事は詫びよう。じゃがな。わしにも付き合いというものがある」
二人きりになった部屋で、桐原の第一声は詫びと言い訳だった。
「‥‥わたしは呼びつけられた事に対してのみ、憤っておりますが?」
ルルーシュは少々見当違いをしている桐原に対して低い声で応じる。
「すぐに来ると思うておったが‥‥。随分とゆっくりしていたものよな?」
苦笑とともに、当てが外れたとでも言いたげな桐原に、ルルーシュは眉を顰めた。
「‥‥いくらわたしでも、そうそうすぐには動けないのですよ、桐原公」
まったく、怒っていると言った傍から、更に怒らせるような事を言ってどうする気なのかと、ルルーシュは半ば呆れる。
「ゆっくり、腹を割って話したかったのだが‥‥。その姿は?」
と、ここでやっとルルーシュの姿について言及した桐原は、外見を気にしないのか、それとも鷹揚なのか。
「念の為、というものです。‥‥それで?」
「‥‥この後、客が来る。‥‥同席するなら止めぬぞ?」
キョウトの重鎮に会いに来る客との会見に同席を許すとは、不思議な事もあるというか‥‥、ルルーシュは嫌な予感を覚える。
こう言う話の流れ方では、客がルルーシュの知り合いという事も有り得そうだ。
「客とは何者です?」
「藤堂と‥‥四聖剣の仙波、じゃな」
すんなり答えた桐原に、ルルーシュは内心で、ピキリと青筋を十本くらい立ててみた。
桐原にしろ藤堂にしろ、ゼロに無断で動くとは‥‥。
「興味はありますね。‥‥わたしの事は?」
「そうじゃな。わしの縁‥‥としても良い。呼び方に気をつけよ。‥‥わしはなんと?」
「‥‥エル、で宜しいですわ。‥‥おじい様」
悠然と、エルは微笑んで見せた。

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作成 2008.02.08 
アップ 2008.03.28 

※「転機」の続きです。

C.C.が「オレンジ卿」を連れて何処かへ去って暫く、団員達はガウェインから降りてこないゼロを気にしながら、それぞれの作業をこなしていた。
「オレンジ卿」のナイトメアモドキを気にするラクシャータを宥めすかして、治療班の指揮に当たらせ、怪我人を送り込んだ。
指揮の都合上、幹部が先に見て貰ったのは仕方がないことだったが。
そのラクシャータの治療が、幹部から平団員に移って暫くした頃、紅蓮弐式帰還の報告が届いた。
但し、付き従う零番隊のナイトメアが二機のみと言う事で、騎士団員に緊張が走った。

紅蓮弐式は先程と同じ場所に降り立ち即座に膝をついたが、二機はその後ろに控えるように直立していた。
幹部達が集まりだす中、紅蓮のハッチが開き、カレンが姿を見せた。
「おいッ、カレ‥‥ン?‥‥てか誰だそいつは」
玉城が叫ぶ中、続いて現れた人影に、音量を落とした訝しげな問いかけに変わった。
当然ながら、カレンは無視した。
「そっちお願いします」
メイド服を着た、おしとやかそうな日本人女性が、カレンと二人して、大きな車椅子を紅蓮のコックピットから下ろそうとしている姿は少し異様だ。
「力ありますね。平気ですか?」
「大丈夫ですわ。このくらい出来なくては勤まりませんもの。それよりも、このナイトメアで下に下ろしてもらえますか?」
「‥‥そうね。揺れるかも知れないので、落ちないように気をつけてください」
「承知しております」
カレンは返答を聞くと紅蓮のコックピットに戻り、ハッチを開けたままその腕を操作した。
紅蓮の手の平が女性の立つ肩口に近づけられると、器用に車椅子を操りながら、重さを感じさせない動きで手の平に移る。
それを見届けたカレンはそっと紅蓮の手の平を地面につけ、女性と車椅子を降ろすと、元の体勢に戻した紅蓮から下りてきた。
「それで、どちらに?」
「‥‥と、いうか、みんなと一緒に、先に部屋に行ってもらっても良いですか?そちらに連れて行きますから」
「承知いたしました」
カレンは周囲放置で女性と話をした後、後ろに控えていた零番隊の二機に手を上げて合図をした。
「‥‥ディートハルトは何処にいる?」
二機が膝をつこうと動く中、カレンは周囲を見渡して一人の幹部の名前を呼んだ。
「ここにおりますが。‥‥何故、その女性を?」
声を上げて進み出たディートハルトを、カレンはキッと睨みつける。
「貴様が言うな、貴様が。どうして、ゼロが知らない団員が存在してるわけ?後でキッチリ説明してもらうわよ」
カレンの剣幕に、周囲の幹部は驚いて彼女を見たが、その内容に視線はディートハルトに移される。
「とりあえず今は、彼女達を部屋に案内して。後でゼロが向かうわ」
「‥‥たち?‥‥と、言うと他にも?」
「彼女の連れよ。あなたに責任持って貰って構わないわよね?誰にも手出しさせるんじゃないわよ」
ディートハルトはカレンの怒りが本物である事を察し、頷く事にした。
「承知いたしましょう。‥‥それで?」
「じゃあ、咲世子さん、お願いしますね」
ディートハルトに対するものとは、態度も声音もコロッと変えて、カレンは女性にも頼んだ。
「はい。勿論でございますとも」
女性もまた頷いて返事をした時、賑やかな声と共に、二機のナイトメアから人が降りてきた。
「ふへぇ~。滅茶苦茶狭いじゃないか、ナイトメアに乗るのも考え物だな~」
「そうねぇ。あ、かいちょ~、ニーナ、平気そう?」
「ええ。ちょっと怖がってるけどね。ちゃんと手を握ってたし、平気よね?ニーナ?」
「う、うん‥‥ミレイちゃん。‥‥平気、みたい」
「すまないが、静かに歩いてもらえないだろうか?」
賑やか過ぎる学生達に、零番隊の一人が小声で注意したが、誰も聞いていない様子であった。
「‥‥って、カレン。何ブリタニアの学生なんて連れてきてるんだ?」
「煩いわね、少しは黙ってな、玉城。わたしはまだあんたへの怒りも納めちゃいないんだからね」
カレンは玉城を一喝して黙らせ、近づいてくる学生に声を掛けた。
「会長。とりあえず、みんなには部屋を用意しますから、そこで待ってて貰えますか?」
そしてまた、コロッと変わった声でカレンはそう尋ねるのだ。
「なんか、みんなの視線がとっても痛いんだけど?ホントに平気なの?カレン」
ミレイがこそっと囁いた。
「えっと、こいつはブリタニア人だからニーナも平気でしょう?後は、咲世子さんの傍から離れないようにしてくれれば‥‥団員からも守れます」
「カレン。これは一体‥‥」
「玉城が学園手放したりしなかったらここまで面倒な事しなくてすんだのよ。文句があるなら玉城に言いな」
「ってなんでおれ名指しなんだ?カレン、テメいい加減にしろよ」
「‥‥‥そういえば、オレンジ卿どうしたんですか?姿が消えてるみたいですけど?」
「呼ぶなっつたろ、カレン。‥‥C.C.が連れてったよ」
杉山が教えただろっと注意してから、尋ねられた事にも答えてやった。
「へ‥‥?じゃあ、ガウェインには‥‥。ったく、あんのピザ女~~」
しかし、一瞬呆然としたカレンが、立ち直った後、発したのは、C.C.に対する怒りの絶叫だった。



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作成 2008.03.10 
アップ 2008.03.27 

藤堂は部下である四聖剣の内の二人、千葉と朝比奈を連れてゲットーを歩いていた。
黒の騎士団に身を寄せ始めたばかりで、周辺の地理、地形を知らないままなのが不安だった為だ。
ゲットーを出ない、と言う条件で、ゼロに許可を貰ったのは身を寄せたその日の内だった。
以来、日に最低2回は、アジトの周辺を散策していた。

この日も例に漏れず、2回目の散策中だった。
アジトに籠ってばかりでは運動不足にもなるので、既に日課になりつつはある。
「う~ん。‥‥租界の様子も見てみたいですねぇ~。‥‥藤堂さ~ん」
行けども行けども、どこかしら崩れている建物ばかりで、気が滅入ってきている朝比奈は、前を行く藤堂に声を掛けた。
「こら、朝比奈。ゲットーから出ない約束なんだぞ」
千葉が焚きつけるなと言わんばかりに、速攻で注意する。
「だって、このシンジュクゲットー、他のゲットーと比べても廃墟だよ?こんな景色ばっかり見てたんじゃ、心が荒んじゃいますって、絶対ッ」
朝比奈は周囲に誰もいない事を確認してから、大袈裟に嘆いて見せた。
「‥‥仕方がないだろう?クロヴィスの壊滅作戦に見舞われてしまっているんだ。無理もない」
逆に千葉は声を潜めて、応酬する。
かなりな打撃を受けた上に、復興だって進んではいない。
そう、その後すぐクロヴィスが暗殺された為に、色々とうやむやのまま放置されていると言うべきか。
藤堂はそんな二人のやり取りを背中に聞きながら、スッと道を逸れた。
「ッ中佐?‥‥そちらへ行ったら租界ですよ?」
それに気づいた千葉は、慌てて声をかけて後を追う。
ゼロが見ているとは思わないが、約束を違えたからと罰せさせるわけにはいかないのだ。
「租界までは行かない。‥‥境まで行って租界の様子を見るのも悪くないと思っただけだ」
「さっすが藤堂さん♪」
朝比奈は自分の意見が取り入れられたのかと思って途端に上機嫌になる。
しかし千葉の拳が朝比奈の頭に入る。
「ってぇ~~。何するんですか、千葉さん‥‥ッてまたッ」
二度目に振るわれた千葉の拳に、朝比奈は涙目で訴える。
「租界に近づくというんだから、無暗に名前を呼ぶんじゃない。立場を自覚しろ」
「ッ‥‥ご、ごめんなさい。気をつけま~す」
千葉の言葉が正しいと気づいた朝比奈は、自分の非を認めて詫びた。
千葉は普段多少おちゃらけた言動が目立つのに憎めない朝比奈の、こういった素直なところも気に入っていた。

無人の荒野‥‥もといゲットーを歩いていた三人が、その気配を感じたのは、そろそろ租界が見えそうな所まで来た時だった。
租界側から誰かがやって来る事に気づいて、三人は壊れかけた壁の陰に身を隠す。
ほどなく聞こえて来たのは、ミャーという猫の鳴き声、そして。
「‥‥こら、人のモノを銜えてどこへ行くんだ?それを返すんだ。このイタズラ好きめ。待てと言うのに‥‥」
猫に何か取られたらしい少年の声が届いて来た。
「全く、こんなところまで入り込んで。‥‥ん?‥‥もしかしてこの為におれを連れて来たかったのか?」
口調が変わった事に興味を覚えて、藤堂と千葉、朝比奈はそっと隠れていた場所から顔を覗かせた。
そこにいたのはブリタニアの学生らしき一人の少年。
黒い髪の下、遠目横顔でさえわかるその美貌に、三人は目を見張る。
透けるように白い肌と整った顔に、はっきりとはわからないまでも濃い色の瞳には意志の強そうな光が見えていた。
屈んで猫から何かを受け取った少年は、猫の頭を一撫でしてから立ち上がると頭上を見上げる。
つられるように三人もまた視線を上げて、少年の背よりも遙かに高い壁の出っ張りに、猫を一匹見つけた。
少年は一度足もとに視線を落とすと、何かを探すように巡らせて、吐息をひとつ。
「これは流石に‥‥」
もう一度頭上の猫を見上げると手を伸ばしてみる。
「来い。‥‥無理か。もう少し近くなれば‥‥」
呟きながら考える少年は、藤堂達に全く気付かない。
肩から下げていたかなり大きな鞄を降ろした少年は、鞄を縦向きに立てて置いて倒れないか確認した後、その上に立って再び猫に手を伸ばしていた。
「ぅわ‥‥危ないなぁ~。地面だってガタガタだから不安定なハズなのに‥‥」
朝比奈が焦った声を出す。
その時、脳裏に似たような場面がフラッシュバックして来た藤堂は、気づけば隠れた場所を飛び出して少年に向かって駆け出していた。
驚いたのは千葉と朝比奈である。
普段の藤堂が思慮深い分、この突然の行動に驚き、ついつい見送ってしまった状態である。
鞄の高さだけ近づいた伸ばされた手に、猫は飛び移る。
唯でさえ不安定な足場に不安定な姿勢で伸びをするような体勢を取っていた少年は、当然ながらバランスを崩して落下する。
猫を庇っている為か、受け身の体勢すら取らずに頭から地面に激突しようとする少年をすんでのところで受け止めたのは、飛び出していた藤堂だった。
衝撃を予測して固く両目を閉じていた少年を、藤堂は見下ろして既視感を感じていた。
同じように木に登ったまま降りられなくなった子猫を助けようとして倒れた子供‥‥。
藤堂の飛び出すのが遅かったせいで、そのまま目を開かないのではないか、と思った事がある。
気を失った子供が、眼を覚ますまで、藤堂は生きた心地がしなかったのだ。
同様の状況を目の当たりにして、藤堂の身体は、だから勝手に動いていたのだ。
その甲斐あってか少年は、すぐに目を開く。
紫の光‥‥。
鋭く苛烈な光を灯す双眸‥‥。
「大丈夫ですか?‥‥いったい‥‥」
背後から千葉が困惑したように声をかけて来たので、藤堂は我に返る。
「いや、おれは平気だ。‥‥君、平気か?」
「‥‥ッあ、はい。お陰で怪我ひとつせずに済みました。猫も無事のようですし‥‥」
驚きに目を見開いている少年は、そのままの表情で呆然とそう返答し、身を起こす。
少年の腕の中で救出された猫がミーと鳴いた。
少年は猫をひとしきり撫でた後、そっと地面に降ろしてやる。
すると少年をここまで連れて来た猫が寄って来て、助けられた猫を舐めるとミャーミャーと鳴いてから連れだって去って行った。
「‥‥まるで、お礼を言ってるみたいでしたね~、あの猫」
朝比奈がそんな感想を述べた。
「‥‥そう、ですね。‥‥子猫を助けた事へのお礼と、‥‥連れて来る為とはいえ、モノを盗った事への謝罪ですよ」
少年は猫達が角を曲がるまでを見送りながら応じた。
「へ?‥‥君、‥‥猫の言葉、わかるのか?」
まさか少年から、それも具体的な肯定の返事をもらうとは思っていなかった朝比奈は、素で驚いて聞き返していた。
「‥‥‥‥というか。助けていただいた事にはお礼を申し上げますけど、何故ここに?」
やっと頭が働いたのか、少々警戒を持った少年が問いかけて来た。
「‥‥日本人の我々が、ゲットーにいるのは別におかしくはないだろう?君こそブリタニア人のようだからこんなところに来ていては危ないんじゃないのか?」
千葉が応じる。
「来たくて来たわけじゃないですよ。物盗りの猫を追った結果なので。‥‥もう帰ります。‥‥本当にありがとうございました」
会話を千葉と朝比奈に任せきりだった藤堂は、頭を下げてから立ち去る少年をずっと見つめていた。

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作成 2008.02.08 
アップ 2008.03.26 

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