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コードギアスの二次創作サイト。 ルルーシュ(ゼロ)至上主義です。 管理人は闇月夜 零です。
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ゼロ(ルル)至上主義です。
騎士団多め。
表現力がなく×ではなく+どまり多数。
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黒の騎士団が攻め上がった政庁の一室で。
ゼロが己の持つ銃を突きつけた相手。
神聖ブリタニア帝国、第二皇子にして宰相の任にあるシュナイゼル・エル・ブリタニアは悠然と座ったまま優雅な笑みを浮かべていた。
ゼロの後ろには騎士団幹部である藤堂、扇、カレン、朝比奈に千葉がやはり銃を手に控えていると言うのに、である。
ちなみに残りの四聖剣の仙波と卜部や、他の幹部達は各所で騎士団を率いてブリタニア軍を牽制、或いは戦闘中である。
「‥‥これで、チェックメイトのつもりかい?ゼロ。‥‥それとも名前を呼んだ方が良いかな?」
シュナイゼルの言葉に、藤堂はシュナイゼルを凝視し、残りはゼロを凝視する。
「いいえ、結構。わたしはゼロですから」
ゼロはその素性がバレているかも知れないと言うのに、平然と応じる。
「そうだろうね。‥‥そうそう、君に一人紹介したい者がいてね?」
シュナイゼルはそう言うと、背後の扉に視線を向けた。
「お入りください。‥‥枢機卿猊下」
次期皇帝に一番近いとされているシュナイゼルが敬語を用いて声をかけた事に、騎士団の幹部達は興味を覚えて視線が扉に向かう。
注目を浴びる中、開いた扉から男が一人、悠然と入って来た。
漆黒の髪、白い肌、そして紫の双眸。
ゼロが、藤堂が、そしてカレンが驚いた。
「‥‥‥‥ル、‥‥ルルー、シュ?」
新たに現れた、その少年とも呼べそうな若い男は、あまりにも知っている人物に似ていたのだ。
カレンは驚きの表情のまま、ポツリと呟いた。
藤堂はハッとしてゼロを顧みる。
扇と朝比奈、千葉はカレンを見た。
「‥‥知り合いなのか?」
しかし扇の言葉はカレンの耳には届いていない。
「‥‥どうやら、人違いをしているようだね」
優しげな笑みを浮かべて枢機卿と呼ばれた少年は言いさした。
「わたしは神聖ブリタニア帝国、第十一皇子、第十皇位継承者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。現在は枢機卿の任を授かる者‥‥」
人違いと言いながら、それでもカレンの呟いた「ルルーシュ」を名に持つ少年は、動じる様子を見せない。
相手の名乗りに対し、藤堂が何かを言いかけるのをゼロが制し、口を開いた。
「継承順位が随分と上がっているではありませんか?‥‥殿下。以前は確か十七位だったはずですが?」
「クロヴィス義兄上を筆頭に高位の継承者の方が幾人か退いたし?‥‥ねぇ、ゼロ」
親しげに話をするゼロと枢機卿の『ルルーシュ』に騎士団達は戸惑うばかり。
「‥‥ゼロ‥‥」
「‥‥あの時、皇女のみを狙った理由は、返り咲きを目論んでいた為ですか?」
「気づいていたのか?‥‥まぁ、だからこそ身を隠した。そしてゼロになったのだろうけど?」
「そちらこそ、気付いていたのですね、‥‥やはり」
誰かの呟くような呼びかけを無視して、続いていく会話に、カレンが耐えきれなくなって混乱しながら口を挟んだ。
「ゼロッ‥‥。あの、‥‥どういうことですか?」
ゼロは溜息を吐いただけで答えず、スッと仮面に手を掛け、そして外した。
中から現れたのは「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」と名乗った枢機卿と同じ顔、但しこちらは片方に眼帯が掛けられていたが。
元から素顔を知っていたシュナイゼルと『ルルーシュ』、それに藤堂は驚かなかったが、他はそうはいかない。
いや、シュナイゼルと『ルルーシュ』は、その顔を飾る眼帯に視線を向けて一瞬表情らしきものを浮かべはしたけれど。
「‥‥なッ、同じ顔?」「え?‥‥ル、ルルーシュ?」
そして、藤堂もまた、わからない事が有って、口を開く。
「説明して貰えるのか?‥‥ルルーシュ君」
藤堂の視線は枢機卿ではなく、唯一人ゼロに向いていた。
ゼロはチラと藤堂を見、視線をシュナイゼルと主に『ルルーシュ』に向けて言う。
「皇妃マリアンヌが長子は実は双子だったというのはあまり、いやほとんど知られてはいない」
「そう。かつて『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』は二人いて。双子のどちらもが『ルルーシュ』の名を持っていた‥‥」
「七年前、一人は国に戻り、今一人はこの地で亡くなった‥‥」
「ランペルージ‥‥。とかいったね?仮の名前は。今はゼロなのだろうけど?」
ゼロと『ルルーシュ』とが、交互に言葉を紡いでいく。
「‥‥ゼ、ゼロがルルーシュ?‥‥けど、‥‥皇族?」
「そう、かつては、だがな。‥‥なぁ?我が半身、ルルーシュ」
ゼロは『ルルーシュ』にそう呼びかけた。
束の間落ちる沈黙。
それを利用した扇がカレンをせっついた。
「‥‥ゼロは同級生のルルーシュ・ランペルージ‥‥です。‥‥皇族だとは知りませんでしたけど‥‥」
こそこそと扇に囁き返したカレンの言葉は、扇のほかには藤堂と朝比奈、千葉にのみ聞き取れた。
若いとは思っていたけれど高校生、ブリタニア人だとは知っていたけれど皇族だった事に、扇と朝比奈、千葉、そしてカレンも驚きが勝っていて言葉にならない。
「‥‥一つ聞くけど、ゼロ。‥‥それは、どうしたのかい?鏡に映したようにそっくりだったと言うのに、傷でもつくったのかな?」
『ルルーシュ』は憂い顔で半身に対して「ゼロ」と呼び掛け、左目を覆う眼帯を指して尋ねる。
「‥‥‥‥答える必要は感じませんね。まさか出て来るとは思いませんでしたけど‥‥、というか何故?シュナイゼル殿下に丸め込まれましたか?」
「人聞きの悪い事を言わないで貰いたいね、ゼロ」
シュナイゼルは優雅に肩を竦めて否定する。
「別に丸め込まれてはいないよ。‥‥ただ、生きていると聞いたものでね。あの子を迎えに来たまで」
「‥‥今更出てきて、『はいそうですか』と大人しく渡すとでも?」
「まさか。君の妹思いがどれ程のものか、良く承知しているからね。‥‥勿論君を無力化してから、迎えに行くつもりだよ?」
『ルルーシュ』は笑みを浮かべたままそう言い、藤堂はゼロを庇うようにその前に出る。
「‥‥『奇跡の藤堂』だったかな?君は初めから知っていたようだね?ゼロの素性を」
その様子を見たシュナイゼルが面白そうに訊ねる。
「え?そうなんですか?‥‥藤堂さん?」
藤堂はシュナイゼルと朝比奈の問いに答えず、肩越しにゼロを振り返った。
「一つ聞く。おれが七年前に会ったのは、君の方で間違いないな?」
確信を持って問いかける藤堂に、ゼロは目を見開き、驚きを表す。
「‥‥何故、そう思う?」
「わたしも知りたいな?何故それをゼロの方だと思うのか、を」
ゼロが問い、『ルルーシュ』も便乗した‥‥。
朝比奈と千葉はゼロと『ルルーシュ』を見比べてから、心配そうに藤堂に視線を固定した。
扇とカレンは顔を見合せてから、藤堂とゼロとを視界に収めた。

───────────
作成 2008.02.04 
アップ 2008.03.08 

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夕刻。
テレビがジャックされたと聞いてスイッチを入れると、そこには朝「行政特区日本」の会場だった場所が移っていた。
舞台の上には、何故か垂れ幕がしていて、その後ろに動く人影が見えていたがそれが誰なのかはまだ教えてくれない状態だ。

ここは「アヴァロン」の中の一室。
ユーフェミアとスザク、ロイド、セシルがいる場所で、4人は今、一緒にテレビを見ている。
「‥‥これは、黒の騎士団、ですね‥‥。何をするつもりなのでしょうか‥‥」
セシルが不安気に呟いた。
「‥‥この放送、止められないのかな~。ブリタニアよりも先になんらかの発表をしようとしてるんだろうけど‥‥」
そう言うロイドは全く焦りを見せない。
「なッ、それって大変じゃないですか。なんとかならないんですか?ロイドさん」
「ぼくに言われてもね~。なんとかなるくらいなら、そもそもこんな映像流れてないと思うんだよね~」
非難の眼差しを向けるセシルに、ロイドはやれやれと肩を竦める。
「心配いりません。ゼロは『行政特区日本』を生かす形で策を練ると‥‥」
ユーフェミアが自信たっぷりに言い切るのを、3人は不思議なものでも見るような表情で眺めてしまう。
「ちょっ‥‥ユーフェミア様」
「ユフィ、って呼んでくださいって言ったはずですよ、スザク」
「ゆ、ユフィ?‥‥ゼロがそう言ったのに、彼を撃ったのかい?」
スザクは驚いて裏返りまくった声音で訊ねた。
「むぅ。何度言わせるのですか?スザク。ゼロはクロヴィス義兄様を殺めたのですよ?」
拗ねた口調になったユーフェミアは、一転不機嫌に応じる。
「矛盾してると言っているんですよ~、お姫様ぁ?‥‥それに、現状で『特区』を生かす形で事を進めるには‥‥」
ロイドがそこまで行った時、テレビの画面内で変化が起こった。
幕が取り払われ、舞台が露わになったのだ。

大きく×印をつけられたブリタニア国旗。
自分の存在を強調するシンプルすぎる日本国旗。
舞台に並んだ黒の騎士団と、イレブン‥‥日本人と思われる老人達。
そして──。

歩いて登場してくる、ゼロ。

「まぁ、そうだろうね~。現状で『特区』を生かすにはこれしかないだろうしぃ?」
ロイドはポツリと続きを呟いた。
「「ロイド、さん?」」
既に何かを悟っているらしいロイドに、セシルとスザクが物問いた気に名前を呼んだ。
ユーフェミアもまた、首を傾げてロイドを見た。
テレビではゼロの演説が始まる。
「既に先の無い頓挫した『特区』をこき下ろす事によって別の力に変える。つまり~、『行政特区』は既に踏み台の役にしか立たないんだよね~」
ロイドはゼロの声を聞きながら、やっぱりかぁと自分の考えに自信を持ちながら、そう説明した。
ブリタニアを、ユーフェミアを、そして『特区』を、‥‥全てを悪者に仕立てて行くゼロの言葉。
それは直前の騒動を見れば、彼等をもってしても、全てが真実としか思えない内容で、とても説得力が有った。
「では、『行政特区日本』は‥‥」
茫然とユーフェミアは呟いた。
「それはすぐにわかるよ~」
ロイドの言葉を待っていたかのように、テレビでゼロは宣言する。

『その名は、「合衆国日本」ッ』

「『合衆国日本』‥‥。『行政特区日本』は‥‥」
「名前を変えたようだね~。まぁ、独立してる分『合衆国』の方が日本人受けはするだろうね~。多分、成功するよ、コ、レ」
「もう、ロイドさん。ブリタニアが黙っているはずないじゃありませんか」
セシルが反論するが、ロイドは首を振った。
「ブリタニアと騎士団の立場が逆転したんだよ。ここで『合衆国日本』をブリタニアが攻撃すれば、自ら『行政特区』をも否定する事に繋がるよ~?」
少し前の騎士団が『特区』に参加しなければ意義を失うと言われていた事と同じだね~とロイドは笑う。
「けどッ、これはあまりにも準備良すぎじゃないですか?その日の内になんて‥‥。まだ半日も経ってないって言うのに‥‥」
スザクがどこか慌てたように言い募る。
「恐らく、かなり前から構想は有ったんだろうね~。それを発表する前に、『行政特区』を先に打ち出されてしまった‥‥てのが本音かなぁ?」
構想すらなく、突発的に独立を宣言したとしても、それは長続きなどしないのだと、読み取れるかは別にして言外に告げる。
ロイドのその言下以外の言葉を読み取ったのはセシルだけだった。
「じゃあ、『行政特区』に参加すると言うのは‥‥」
「姿を見せた以上、彼は本気だったんだと思うよ~?『合衆国』として準備していた草案なんかを『行政特区』に盛り込めれば御の字だったはずだしぃ?」
ロイドはそう言って、皮肉気な視線をユーフェミアに向けた。
その視線に、セシルは「お姫様が余計な事をしなければ~?」という言葉を読み取ってしまって顔を顰める。
「‥‥でもッ、そんなの勝手すぎますッ。あんな騒動の後、独断でこんな発表までして、ユーフェミア皇女殿下の事を蔑ろにしすぎています」
スザクは憤慨する。
「けどね~、スザク君?ゼロの立場に立てば、むしろ大人しいくらいだと、ぼくは思うけどね~?」
「ロイドさんッ!?」
「まずは何の打ち合わせもなしに全国放送で『行政特区』への参加を促され、退路を断たれているよね?これで騎士団、ゼロには参加以外の道がなくなった」
スザクの非難の声に耳を貸さず、ロイドはユーフェミアを見ながらそう言った。
「‥‥だって、みんなが仲良く過ごせる場所が有れば、危険な事をする必要もなくなるじゃないですか」
ユーフェミアがどこが悪いのかわからないと言った様子で言い返す。
「‥‥ふ~ん?まぁいーですが?‥‥で、ノコノコやって来たゼロを罠に嵌めちゃった訳ですね~?」
「ロイドさん、いい加減にしてくださいね?皇女殿下も困っているじゃないですか。それとも、少しお話しましょうか?」
セシルが何度目かの注意を呼びかける。
「‥‥いえ、結構。ま、そーだね~。じゃあ、ぼくはこれで」
と今度はロイドもあっさりと従い、立ち上がると、ゼロの居なくなったテレビの画面から興味を失ったように、その場を離れた。
「ユー、ユフィ。気にしなくても良いからね」
途方に暮れたようにロイドの消えた扉を見るユーフェミアに、スザクは優しく声をかける。
セシルはそんな主従の様子を見ながら、そっと息を吐いたが、不意に通信が鳴ってそれに手を伸ばす。
『コーネリア皇女殿下がお着きになりました』
「わかりました。ロイドさんにも伝えてください。すぐに参ります」
セシルはそう返事を返すと通信を切って立ち上がった。
「と、言う事ですので、ユーフェミア様は暫くこちらでお待ちください。‥‥スザク君もね」
「あ、はい。‥‥あの、お出迎えに‥‥行かなくても、良いんですか?」
「良いのよ。今はジッとしていて欲しいから。‥‥お願い出来るわね?スザク君」
「わかりました」
しっかりと肯いたスザクを見たセシルは、ユーフェミアに向かって一礼すると部屋を出て行った。

「‥‥お姉さまが‥‥怒っているかしら?」
ユーフェミアがポツリと呟く。
「‥‥ユフィ?‥‥怒られると思う事を、何か‥‥したと思ってるのかな?」
スザクはユーフェミアの表情一つ見逃さないつもりでジッと見つめて問いかける。
ユーフェミアは「ん~と‥‥」と考える仕草をしてから、そっと首を振った。

───────────
作成 2008.01.27 
アップ 2008.03.07 

夕刻。
舞台が整い、キョウトと黒の騎士団幹部がズラズラと並ぶ中、ゼロが現れる。
ユーフェミアに、ブリタニアに、失望した「日本人」を前にして、ゼロは演説をおこなった。
ゼロは、怪我をしているにしては力強い、物言いと、過剰な身振りで会場を引き込んでいく。
そして、ゼロは「合衆国日本」を宣言したのだった。

「ゼロッ」
舞台から降りたゼロに、後ろから追いついた藤堂が声をかける。
チラと肩越しに振り向いたゼロは、しかしそのまま確かな動きで歩きだす。
「ゼロぉ~。あんたね~。あんなに肩動かして、ど~いうわけ~?無茶ばっかしてると使い物にならなくなるわよ~」
と、今度は「めんどぉ~」と言って舞台には上がらなかったラクシャータがゼロの前に立ちはだかって、彼女にしては珍しく人の心配をしている。
「‥‥藤堂、ラクシャータ。ブリタニアに動きが無いようならば、後で部屋に来てくれ」
ゼロの言葉に、藤堂は少し考えてから「‥‥わかった」と頷いたが、ラクシャータは眉を顰めた。
「後で~?しかも何気にブリタニアが動いたら治療はもっとずっと後回し~みたいな~?」
憤慨気味のラクシャータの声に反応したのは、ゼロではなく様子を見ていた騎士団幹部。
「二人はそのままゼロと行ってくれ。ブリタニアの動きくらいならおれ達にだってちゃんと見れる」
「そうですとも、ゼロ。情報面に関してはわたしが万端にッ」
扇とディートハルトが相次いで申し立てる。
「ヘッ、グズるようなら、この場でひん剥いて傷見たら良いんじゃねーか?」
「玉城ッ、あんた、なんてこと言うのよ」
玉城の言葉に激怒したカレンが拳を見舞う。
床に沈む玉城には目もくれず、「ここは任せて先に治療してきてください、ゼロッ」とカレンは訴える。
この時、四聖剣の千葉と朝比奈が顔を見合わせたが、何も言わなかった。
「‥‥わかった。お前達に任せる。‥‥一緒に来い」
折れたゼロがそう言って歩き出すと、ラクシャータは道を譲ってから藤堂と一緒に後に続いた。

人気のない廊下を歩きながら、藤堂は前を行くゼロに問いかける。
「‥‥声だけ部屋から出していたのか?」
ゼロがピタリと止まる。
「‥‥良く、わかったな。何時気づいた?」
振り返ったゼロの発した声はC.C.のそれで。
「あら~?中身、C.C.だったのぉ~?」
「そうだ。あいつは体力はないがプライドは高いからな。人前で絶対倒れたりしないし?無理をしては悪化させるだけだからな」
「へぇ~。優し~とこあるんだ~?」
そう感心したラクシャータだったが、ふと思い当たる。
「もしかして~。ゼロが後で、とか言ってたのって今仮面つけてないから~?」
「そうだ。それに、動いていないのだから、傷口が開いているでもないしな。ところで藤堂。何時気づいたかまだ聞いていなかったが?」
「‥‥壇上で、動きにおかしなところがなかったから訝しんだ。今のゼロにあの動きは出来ない」
藤堂の回答に、フッと笑声を発したC.C.は再び歩き出した。
扉の前でC.C.は振り返る。
「少し待ってろ。仮面を渡して来るから」
解錠し、扉を開けると、そういって先に中に入った。

念の為にと、ラクシャータは半ば強引に包帯を取り換えた。
「‥‥ちょっ、ゼロあんた、ホントにジッとしてたわけ~?」
傷口を見たラクシャータはかなり憤慨していたが、技術屋らしくその手付きは繊細だった。
なので、手当が終わるとゼロは「すまない。‥‥助かった」と仮面なのにも関わらずソッポを向いて礼を言ったくらいだ。
「‥‥あんたさ~。もしかして仮面の中身、結構若くてハンサムだったりする~?それでもって少々照れ屋かな~?」
ラクシャータはジーっとゼロの仮面を凝視して、そんな感想を述べた。
「ぶっ‥‥」
ゴホゴホとC.C.がむせて咳き込んでいる。
「‥‥どーでもい~けど~。どーして、藤堂まで反応してるのかね~?」
藤堂は胡乱な視線をラクシャータから受けて思わず視線を逸らせてしまう。
「そうイジメるな、ラクシャータ。藤堂はわたしの顔を知っているからな。‥‥それよりC.C.。貴様、そんなに笑うな」
あっさりゼロは藤堂を評し、笑いを堪えているC.C.に声を投げた。
「あっはっは。その仮面のどこをどうみたらそうなるのか、考えると笑わずにはいられるか」
C.C.はゼロに向き直ると、堪えるのをやめて盛大に笑い飛ばしてそう応酬する。
「ん~。やっぱりそーなのかぁ。結構告白され慣れてるでしょぉ?でも、照れが出る年頃だから高校生か大学生くらい~」
「なるほど?慣れる程告白されるならハンサムで、高校や大学なら十分若いと言うわけか。当たっているではないか?」
C.C.はにやにやと人の悪い笑みを浮かべてそう応じた。
「C.C.。口が過ぎるぞ、貴様ッ‥‥」
「喚くな。傷に障るぞ?大体、頻繁に告白されているのは事実だろう?貴様の取り得はその顔くらいのものだからなぁ?」
ゼロが低く恫喝すれば、C.C.は人を小馬鹿にしたような口調で応酬する。
「‥‥‥‥ピザの代金は自分で払えよ」
「ほぉ?貴様は自分のしなければならない事も分かっていなかったらしいな?」
だが、ポツリと呟いたゼロの一言が、雰囲気を一変させてしまった。
「少なくとも、貴様のピザの代金を払う事ではない事は確かだ」
「へぇ?つまり『共犯者』のわたしに対し、『出て行け』と言いたいわけだな?」
「何故そうなる。大体出て行ったところで行くあて等ないのだろう?」
「そうだな。そうするとどうなるか分かっているだろう?困るのは貴様、だよなぁ?」
ピザ代からエスカレートした唯の言い合いに、話の核心がわからない藤堂は苛立ちを覚え、思わず止めに入った。
「‥‥おい、いい加減にしておけ。おれ達がいる事を忘れていないか?」
「「‥‥あ」」
ゼロとC.C.は一瞬後同時に呟いて口を閉ざした。
それはつまり、‥‥二人だけの時は、こーいった状態が日常だと暴露しているようなものなのだが。
「あはは~。たのし~ね~。しっかし、ゼロが高校生とはね~。て事は紅蓮のお嬢ちゃんとか白兜のデヴァイサーと同じくらいなのかー」
ラクシャータは3人を傍観して笑い、そう言った。
「‥‥‥‥」
ゼロは無言を通した。
C.C.と藤堂は答えるならゼロが答えるだろうと、黙って見ていた。
「ま、わたしは別に~、ゼロが子供だろうが、女だろうが気にしちゃいないけどね~。じゃ、ホントに安静にしてなさいね~」
ヒラヒラとラクシャータは手を振り、気だるげに部屋を出て行った。

ラクシャータの足音が、完全に聞こえなくなると、C.C.はさっさとゼロの仮面を取り除いてしまう。
「‥‥おい」
声だけの制止しかしなかったゼロは、あっさりと素顔を晒されていた。
「‥‥で?本気でピザ代を払わないつもりか?」
「‥‥‥‥。まずそこなのか?ならば、桐原公にでも交渉してくればどうだ?ピザ代の計上を認めろとでも」
「なるほど?」
再び始まったピザ代議論に、藤堂は良い顔をしていなかったのだが、思わず突っ込みを入れてしまった。
「‥‥おい。キョウトにタカるのか?ピザ代を?」
「おれ個人の懐からそれを出すのはそろそろきつくなっているので。しかし『ゼロ』としてはC.C.が離れるのも確かに痛手」
「つまりわたしの『ピザ代』は必要経費だな」
「‥‥問題は一つ。それをした場合、玉城の無駄遣いを止める事が出来なくなる事だな」
「奴なら、床に沈めておけば良かろう?それよりも今はわたしのピザ代だ」
「‥‥‥‥。おい。二人とも。今の問題は『合衆国日本』とブリタニアだろう?」
真剣にピザ代議論を進める二人に、藤堂は頭痛まで感じ始めていた。
「ふむ。確かにそうだな。『合衆国日本』を軌道に乗せ、ブリタニアや中華連邦、EUへの対策をしっかり練れば、ピザ代の心配もなくなるか」
藤堂の意見に、ゼロは頷き今後の展望を語る。
何故か最後にピザ代が来るのには首を傾げざるを得ないが、藤堂はやっと話題が移った事を少し喜んだ、ホンの一瞬だけ。
「──そして、ゼロも必要なくなる」
ゼロの言葉に固まった室内、藤堂は無表情のルルーシュとC.C.を視界に収めていた。

───────────
作成 2008.01.25 
アップ 2008.03.06 

『トウキョウ租界の西部エリアで、未明、車がフェンスに激突、炎上する事故が発生しました。死亡者は三名、身元はまだ分かっておりません』
その放送が流れた時、黒の騎士団に戻っていたロイドはバッとテレビ画面を振り返っていた。
驚いたのは一緒にいたミレイとナナリー、千葉に朝比奈、そしてラクシャータである。
それまではラクシャータとロイドの言い合いを中心に、ナイトメアの話で盛り上がっていたのである。
ハッキリ言って微かにしか聞こえてこないテレビからの音など、誰もしかとは聞いていないのだ。
「ロイドさん?」
画面に見入ったまま動かなくなったロイドを訝しんで、ミレイがそっと名前を呼んだ、が反応はない。
テレビは既に別のニュースを流している。
「どーしたのぉ?プリン伯爵~?」
ラクシャータも流石に変に思ったのだろう、声をかけるが、やはり反応はないままだった。
千葉と朝比奈は顔を見合わせ、千葉が立ち上がると、そのままテレビを消してみた。
肩越しにロイドを見るが、それでも固まったまま。
朝比奈が恐る恐るロイドの肩に手を置いた。
「ぅわ~~。‥‥あー驚いたー。‥‥‥‥なになに?どーしたのかな~?」
ロイドは本当に驚いたらしく、朝比奈の腕を振りほどいて飛び退った後、胸に片手を置いて驚きを表現している。
「ロイドさん?急に固まるから、みんな心配してたのですけどー?何か有ったのですか?」
ミレイがロイドの余りの驚きように逆に驚いて、声をかける。
「てか、すみません。そんなに驚くとは思わなくてー。顔色、ホントに悪いですよー?」
結果的に驚かした事になる朝比奈は素直に詫びを入れる。
「えー。それはたいへんだ、ねー。ミレイくーん。ぼく、不治の病かもー」
フラフラとミレイの元へ行くと、ロイドはミレイの肩に懐いて見せる。
「ちょっ、‥‥ロイドさん?」
ミレイはいきなりの事にうっすらと頬を染め、目を白黒させて驚いている。
「ミレイさん。ロイドさんを休ませてあげてください」
「ナナちゃん。‥‥かといってこれを運ぶのわたしには出来ないわよ~。てことでそこの朝比奈さん、でしたっけ?責任もって運んでくださいね?」
「ぅわー。おれより全然大きいのに~。‥‥あ、仙波さ~ん、卜部さ~ん、ヘルプヘルプ~」
藤堂と話しながらやってくる仙波と卜部を見つけた朝比奈は救いとばかりに声をかけた。
「どうした朝比奈。何か有ったのか?」
見ようによってはイチャついているようにも見える(にしか見えない?)ロイドとミレイに視線を向けながら近づいて来た卜部が訊ねる。
「あー、ちょっと驚かしたみたいで、具合が悪くなったようで‥‥。顔色が悪いのは本当だから、運ぶようにって言われて‥‥」
朝比奈が後ろめたそうに応じた。
「あはー。ちょっと寝不足が入ってるのはホントだからーそのせいかもー」
口調は変わらず人を喰っているが、顔色が悪いだけに強がってるようにしか見えない。
「あんたが寝不足ぅ?何してたわけぇ」
「あーちょっと留守にするからー、部下に仕事残しとこーかなーとか思って、色々用意してたらー‥‥ほぼ徹夜になったかな~とか」
あはあはと力なく笑うロイドは、元気がない以外は普段通りに見える。
「卜部。部屋に運んで休ませてやれ。朝比奈、お前もついていけ」
藤堂は内心で「ゼロの読み通りか‥‥」と思いつつ、部下に指示を出した。
「中佐が言うんじゃ仕方ないな。出発までに治ってるのか~。ほら、肩に掴まれ」
卜部はロイドに近づくと腕を取って肩に回す。
朝比奈が逆側に回って支えると、ゆっくり歩き出した。

「‥‥で?結局どうしたんだ?」
藤堂が遠ざかる三つの背中を眺めながら問いかける。
「それが‥‥。彼は突然テレビを凝視して固まってしまって。朝比奈が肩に手を乗せたら、殊の外驚いて真っ青になってしまったんです、中佐」
千葉が見たままを伝える。
「テレビ?」
藤堂と仙波は消えているテレビに視線を移す。
「えーと。声をかけても、テレビを消しても反応がなかったので、朝比奈さんが動いたんですけどねー」
ミレイが補足する。
「‥‥それで、千葉。テレビで何をやっていたのだ?」
「‥‥‥‥。ニュースでした。良くは覚えていませんが、確か‥‥テロと殺人事件と事故と火災‥‥だったかと」
仙波の問いに、千葉は記憶を辿るように思い出し、曖昧ながらも告げて行く。
「良く聞いてたわね~。プリン伯爵と言い合いしてたから全然聞いてなかったわぁ」
ラクシャータは感心したように言うものの、フイッと視線を泳がせた。
ナナリーの異変に気づいたのはミレイとラクシャータと藤堂が同時。
「ナ、ナナちゃん?」
ミレイは慌てて立ち上がるとナナリーの身体を引き寄せて抱きしめる。
遅れて仙波と千葉がナナリーとミレイに気づく。
「‥‥藤堂、ランペルージを部屋に運んでやれ。ラクシャータは同行を。千葉は食堂に行って篠崎を呼んでくるように」
唐突にゼロの声が届いて一同振り返る。
何時の間に来ていたのか、かなり近くにいたゼロに驚く。
「‥‥聞こえなかったのか?」
ゼロを見たまま動こうとしない一同に、ゼロが問いかけると、慌てて指示に従う。
「‥‥仙波。車椅子を頼む。‥‥失礼する」
藤堂は、一声かけるとナナリーを抱き上げて部屋に向かう。
その後ろにラクシャータが続き、「承知」と小さく応じた仙波が車椅子を担ぎあげて後を追った。
それを見た千葉は足早に食堂へと向かって行き、ミレイもまたナナリーの後を追おうとしてゼロを振り返った。
「良く気がつくのね。今回はお礼を言った方が良さそうね、ゼロさん?」
「必要ない」
短く応じたゼロは踵を返した。
一瞬その背を視線で追ったミレイだったが、振り切ると部屋へと駆け出して行った。
一人残ったゼロは、ミレイの消えた回廊を見た後、自室に引き上げていった。

卜部がロイドをベッドに横たえる。
「ほんと、ごめんねー。悪気はなかったんだけどー。あの時は何故固まってたのかな~とか」
朝比奈が片腕で目を隠しているロイドに訊ねてみる。
「さー、どーしたのかな~。ぼくも良く分からないんだよね~。寝不足だったから意識とんでたかな~?」
もう片方の手を、ヒラヒラとひらめかせながら、ロイドは応じる。
「やれやれ。人騒がせな奴だな、お前。とりあえず一寝入りするんだな」
卜部が投げやりに指示を下した。

と、廊下が騒がしくなる。
「ラクシャータ、開けてくれ」
「はいは~い。ちょっと待ってね~」
藤堂とラクシャータの声が届き、卜部と朝比奈は顔を見合わせ、ロイドはガバリと起き上がる。
扉の開く音。
「とりあえず、お姫様はベッドに寝かせて。車椅子は適当に置いとけば良いわ。それが済んだら外に出てねぇ」
ラクシャータの声が再び聞こえ、ロイドは慌ててベッドから降りて扉に向かう。
すんなりと間を素通りされた朝比奈と卜部が驚きながらもその後を追う。
扉を開けて外に出ると、藤堂と仙波が隣の扉を見る中、ミレイが入り扉が閉ざされるところだった。

「‥‥何が有ったんですか?」
さっきまでの人を喰ったような口調ではない静かに問いかけるロイドに、藤堂達は目を見開く。
「あの後すぐ、彼女も具合を悪くしたらしい。今、ラクシャータが様子を見ているが‥‥」
藤堂が応じる。
「‥‥な、ぜ?」
ロイドの顔色はどんどん悪くなっている。
「‥‥ニュースを見ておかしくなったと言うからどんな内容なのかと尋ねた。『テロと殺人事件と事故と火災』‥‥お前はどれに反応したのだ?」
部屋に届かないように声を落として藤堂はロイドに尋ねる。
だが、ロイドは答えられなかった。
その場に力尽きたように座り込むロイドを卜部と朝比奈が慌てて支える。
「ちょ‥‥大人しく横になってないから。運びますよ?」
朝比奈が言い、返事も待たずに卜部が半ば引きずるように元の部屋へと運び込む。
藤堂と仙波もそれに続いた。

ベッドにつれられようとしないロイドを、仕方無くソファに座らせると、その向かいに藤堂が座った。
「‥‥ぼくのせいだなんて‥‥」
ポツリとロイドの声。
それはあまりにも弱々しい口調で、憔悴しきっているように見えた。
「‥‥‥‥。仙波、卜部、朝比奈。お前達は戻っていろ。‥‥こいつも、こんな姿は大勢に見られたくないだろうからな」
藤堂が部屋に所在なく立ったまま、ロイドを見る三人の部下に指示を出した。
確かに、とそう思っていた事もあり、「「「承知」」」と短く頷いて、三人は退室していった。

一方、自室に戻ったゼロは、仮面のままソファに深く座り込み、携帯を片手にジッと考え込んでいた。
「‥‥どうした?たったあれしきの事で、計画を取りやめるつもりか?」
C.C.の笑いを含んだ声が飛ぶ。
「‥‥いや。計画は既に動き出している。‥‥それに今更取りやめるつもりもない。お前も、取りかかってくれ、C.C.」
ゼロは感情を窺わせない声で、キッパリと言い切り、指示を出した。
「‥‥ならば良い。お前も早目に合流しろよ」
C.C.はそう言うと猫のような動きで、部屋を出て行き、ゼロは独りきりになった。

───────────
作成 2008.01.25 
アップ 2008.03.05 

その日、カレンと四聖剣の千葉に付き添われて、滞在中の闖入者であるところの車椅子のブリタニア少女と活発なブリタニア少女が格納庫に顔を出した。
ちなみに同じく闖入者の日本人女性は少し前に「買い物へ‥‥」と言って外出している。
「おい、カレン。なんだってこんなところへ連れて来るんだ?」
目敏く見つけた玉城が、早速とばかりに喰ってかかっている。
「煩いわね、引っこんでな、玉城。ちゃんとゼロの許可も取ってるんだからね」
そう反論したものの、カレンもまた、ナイトメアフレームの見学を許したゼロの意図を測りかねている。
「へぇ~。これが純日本製のナイトメアかぁ~。やるわね、日本も」
ミレイが感心したように月下と紅蓮弐式を見上げている。
「か、会長、もう少し大人しくお願いしますって」
慌ててカレンが小声で注意したのは、これ以上玉城を筆頭とした熱血組を煽らないで欲しいからだ。
その時、月下から降りてきた藤堂と二、三話したラクシャータが四人に向かってやって来た。
「んー?ゼロからナイトメアの解説を頼む~とかって言われたんだけどぉ。‥‥本気~?」
気だるげに、ラクシャータは訊ねる。
「えぇ、宜しければお願いします。‥‥わたしはともかく、ナナちゃんは説明を頂かないとわかりませんし‥‥」
「興味あるんだー?ナイトメア」
「はい。本当は乗ってみたいのですけど、それは無理ですから‥‥」
ナナリーが頷いて言う。
「‥‥もしかして、乗った事あるとか?」
「そうですね。目と足を悪くする前に何度か」
「えー?ナナちゃんそれホント~?だって確か、悪くしたのって六歳とか、七歳とかじゃなかったっけ~?」
ミレイの驚く声が少々大きかったせいで、その場にいたほぼ全員の耳に届く事になった。
「ナイトメア初騎乗が六、七歳だと~?一体どんな子供?てかどんな環境だよ、それ」
「ふ~ん、気に入ったわ~。ナイトメアの説明したげるわね~」
驚く外野は速攻無視して、ラクシャータはにんまりと笑って話を進め、早々にナイトメアの説明に入った。
こうなってはラクシャータの邪魔をすると碌な事にならない事を既に知っているメンツは黙ってそろそろと離れていった。

「大変ですねー、千葉さん」
ほとんど一人喋っているラクシャータと、それを熱心に聴いている二人のブリタニア少女、それに紅月カレンを近くの壁にもたれながら眺めている千葉に声がかかる。
「‥‥代わるか?朝比奈」
チラと横目で相手を確認した千葉は、疲れた声で応じた。
「やーですよー。しかし、そろそろ二時間ですよねー。良く持つな~」
「そろそろ紅月がキレそうだがな。ところどころ話についていけていないようだ」
「え?それってミレイさんとナナちゃんは話についていけてるって事?」
「あぁ、時々質問もしているし、それがわかるのかラクシャータの話す内容もどんどん高度になっている」
「‥‥あーそうか。ミレイさんはアッシュフォードで、第三世代ガニメデの関係者だからかなー?」
ポンと手を打った朝比奈が、やっぱりのんびりと応じた。
その女性ばかりの輪の周囲には科学者達白衣を着た集団が少し距離を置いて話を聞き入っている。
そして、ミレイやナナリーの問いとラクシャータの回答を真剣な表情でメモしている姿が見えていた。
初めはまばらだったその行動が、質問の回を重ねる度に増えていき、今では全員が忙しなく手を動かしていた。
当然ながら、ナイトメアの整備は中断状態であり、或いは一種の妨害工作と見えなくもないかもしれない。
「そうだろうな。第三世代ナイトメアは特殊だったと聞いた事がある。どう特殊だったのかは知らないがな」
千葉が言い、朝比奈はもう一度白衣の集団に目を走らせ、その向こうに藤堂の入ってくる姿を見つけた。
「あッ、藤堂さんみ~つけたー。じゃあね、千葉さん」
あっさりと千葉を見捨てると、朝比奈は手を振って藤堂の元へと移動していった。
「全く、相変わらずか、あいつは」
千葉はやはり疲れた様子でそう呟いたのだった。

当然と言うべきか、その日の内に、ミレイとナナリーの株は技術者を中心に上昇していた。
特にラクシャータが手放しに褒めていて、散々な言われようだった団員を唖然とさせていた。
夜は夜で咲世子の作る食事を相伴したカレンと千葉が、久々のまともな日本料理に感激して周囲に吹聴したので、咲世子の株も上がる事になる。
千葉等は、その食事だけで疲れが吹き飛んだと大喜びで、中佐や他の四聖剣にも食べさせたいとまで言い切った。
それを受けたゼロは、滞在期間中の格納庫と食堂への出入りを解禁とした。
反対者は玉城だけで、当然黙殺された。
ディートハルトは承服しかねると言った表情をしていたが、無言を通していた。
「ディートハルト。反対か?」
が、ゼロから問いかける。
「いえ。ただ、ゼロが余り警戒していらっしゃらないのが少々不思議だっただけです」
「‥‥ディートハルトが見込んだ者と、ラクシャータが認めた技術者、カレンが保証する学生‥‥。何か問題でも?」
「貴方がそれだけで信じる事が信じられないと申しますか」
ディートハルトは煮え切らない返事を返す。
「‥‥アッシュフォード家とアスプルンド家は知っている。ディートハルト、お前も知っているから強引に反対しなかった。違うか?」
「否定は致しません。ですが‥‥上に立つ者がそれでは」
「別に全ての出入りを認めるつもりもないな。‥‥それにカレンや千葉が同行している。問題にはならないはずだが?」
「では残りの二人は如何ですか?特派の主任はいまだ戻らず、咲世子くんは今日も外出しました。それぞれ単独で行動している事については?」
「篠崎咲世子についてはお前の方が詳しいのだろう?お前が信用できない相手を使うとは思えない」
「では特派の主任については?」
「‥‥ディートハルト。わたしもお前も、表の顔を持っているな。後はカレンと。ロイド・アスプルンドにだけそれを認めないと言う気はない」
ディートハルトはゼロの仮面を見つめ、折れる事にした。
「わかりました、ゼロ。‥‥ですがひとつだけ。万が一の対策は練っておいでですか?」
「当然だな。手放しで信用するつもりもないからな」
「結構です」
ディートハルトはそこでやっと心の底からの笑みを見せた。

次の日、ナナリーとミレイは許す限りの時間を格納庫でラクシャータと過ごした。
護衛と言うか、同行者は千葉と朝比奈で、朝比奈は完全に夕食目当てである。
カレンはと言うと学校へ行くと言ってアジトには来ていなかった。

ガラッと扉を開け、いつものように静々と自席に向かう中、漂うのは暗~い雰囲気で、カレンは早くも後悔する。
たった一人欠けただけで、こんなにも沈むのだと半ば感心してしまうのだが。
「‥‥カレンさん、今日はもう良いのかぃ?」
いつもより静かなリヴァルが声をかけてきた。
「おはよう、リヴァル。‥‥どうしたの?みんな、なんだか暗いみたいですけど」
病弱ぶりっこで、カレンは既にわかっている事を尋ねる。
「あー‥‥ちょっと‥‥ルルの奴が転校しちまって、みんな落ち込んでるんだよ」
リヴァルは小声で説明した。
カレンは軽く目を見開いて、驚いて見せる。
「ルルーシュ、が?‥‥でも、随分と急だったのね」
「そーなんだよ、その日も休みかな~とか軽く思ってたら終礼の時間に突然だもんな~」
「‥‥えっと、やっぱりナナリーちゃんも?」
「そ。かなしーぜ。あ、チャイム。じゃあ後で」
よよよと泣いて見せたリヴァルは授業開始のチャイムに合わせて自席に戻って行った。

「セシルく~ん。これ、打ち込みよろしくー。それとその分の調整とデータ取り、スザク君と一緒にがんばってねー」
デンとセシルの机に乗せられた書類の束に、セシルは目を丸くする。
パラパラと捲ると内容も相当なものだ。
「ちょっ、ロイドさん?これ、どーしたんですか?」
「ちょっとねー。昨日あれから徹夜で仕上げたんだよ~。セシルくんはスザク君と協力して、それを完成しておいてね~。ぼくが戻るまでに」
「え?どこかへ出かけるんですか?」
セシルは少し慌てる。
ロイドがいなければ、この量は軽く十日くらいかかってしまいそうな程だ。
なんだかんだとふざけた態度を取っていても、ナイトメアフレームに関する(場合のみ)ロイドの仕事が早い事は、セシルも認めているのだ。
しかもスザクはユーフェミアの騎士叙任関連で時間をかなり拘束され始めるだろうし、とセシルは思い溜息を吐いた。
「うん、これでもぼく伯爵でしょー?色々と雑事が溜まってるって言われてさー。仕方なくお休み取る事にしたんだよねー」
家の、それも伯爵家の事情と言われると、セシルも強く出るわけにはいかなくなる。
「‥‥‥‥それならもっと早く言っておいて欲しかったですわ、ロイドさん」
「あはー?ぼくにやれる分はこの通りやってるんだから、他に仕事させようとしてても無理だったよ~?じゃ、がんばってね~」
ぶんぶんと手を振って激励してから、ロイドはトレーラーを後にした。
「‥‥ごめんねスザクくん。この量だと、十日くらいかかるわ‥‥」
「‥‥仕方ないですよ、セシルさん。‥‥頑張りましょう」
スザクは学校当分いけないのか~と物悲しく思ってしまった。

───────────
作成 2008.01.15 
アップ 2008.03.04 

空が茜色に染まりだした頃、ルルーシュはミレイに声を掛けた。
「会長。そろそろお開きにしませんか?暗くなる前に行きたいところがあるので」
「お?デート?」
「違いますって。人形屋に挨拶に。明日から暫く休むそうなので、お礼を兼ねてもう少し修繕について聞いて置きたいかと」
勿論嘘だが、足はつかないようにしてあるから、ルルーシュの言葉に迷いはない。
「それじゃぁ仕方ないわね~。ま、ここの片付けはリヴァルがやってくれるだろうし?人形は明日まで飾っておくわ」
「あ‥‥」
「明日までと言わず、今週くらい出して置いたらどうですか?どうせ、この部屋で作業する事はあまりないですよね、会長は」
「そうなさったらいかがですか?お部屋の人形さん達も、昨日出したばかりなので、暫く飾って置いてくださるってお兄様が」
ルルーシュに続いてナナリーまで言うので、ミレイはその気になってくる。
「‥‥‥確信犯‥」
ポソリと呟かれたカレンの言葉を拾ったのは、生憎とルルーシュだけだった。

こうして誰よりも早く生徒会室を出たルルーシュだったが、ゼロとなってアジトに着いた時には既にカレンは到着していたようだった。
相変わらずの素早い行動に呆れていると、扇が近づいてきた。
「ゼロ」
「扇か。‥‥準備はどうだ?」
「ほぼ完了してる。食事当番にもちゃんと説明したし、食堂の椅子も増やしておいた」
「そうか。‥‥そうだな。わたしの準備が二時間程かかる。その後、放送をかけるから、それまでに今日の作業を終わらせておけ」
「わ、わかった。みんなにも伝えておく。しかし、‥‥ホントにあの条件で、カレン達が参加すると思うのか?」
「気になるのは千葉くらいだが‥‥朝比奈が是が非でも説得するだろう。条件は全てクリア、だ。楽しみにしていろ」
そう言うゼロ自身が珍しくなんだか楽しそうである。
「‥‥なんていうか、一番楽しんでないか?」
「‥‥‥‥。そうかもしれないな。修繕での鬱屈が溜まっているのかも知れない。‥‥たまには良いだろう?」
ゼロの言葉に、この数日の間にゼロの苦労の程が身に沁みた扇はあっさりと頷いたのだった。

ゼロが第二会議室に入ると、そこは「日本」だった。
部屋の端には紅のひな壇に並んだひな人形が桃の花と和装で着飾った女性陣に囲まれている。
逆側には所在無気な男性陣が、こちらも白の袴姿でそんな女性達を見守っていた。
滅多に見る事はないだろうその姿に、ある者は眩しげに、ある者は軽く頬を染め、ある者は感慨深げに‥‥。
一人、ラクシャータだけが和装をしておらず、そんな様子を楽しそうに見ている。
ゼロは、というと普段通りの姿であるから、こちらも浮いているだろう自覚はあった。
「ゼロッ。先に始めていろって事だったんだが、みんな君を待つって言うから‥‥待っていたんだが‥‥」
最初にゼロに気づいた扇がホッとした様子でそう声を掛けたのだが、尻つぼみに声は消えていった。
扇の声に室内の視線が一斉にゼロに向けられる。
「‥‥どうした?」
「‥‥ゼロは着替えなかったんですね。そのままですか?‥‥それと、C.C.は?」
「仮面を取る気はないから変だろう?流石に。‥‥C.C.なら今来る」
ゼロが言った途端、扉が開いてC.C.が入ってくる‥‥着物姿で。
「かッ‥‥わいぃ~~。どうしたの?それ。‥‥まさかとは思うけど、‥‥着付けはゼロが?」
井上が真っ先に声を上げる。
自分自身とカレンと千葉の着付けをした井上だからこそ気になったのかも知れない。
「着せろ、と言うので仕方なく、な。ご苦労だったな、井上。大変だっただろう?」
「暫く振りだったから、結構忘れていただけね。出来てホッとしてるわ。ゼロこそ、どうして着付けなんて出来るわけ?」
井上が満面の笑みを見せて応じてから問いかける。
「女性用の和服は華やかな物が多いからな。いつか着せてやりたいと思って習った後、練習していた」
「それって彼女!?奥様?それとも‥‥お子さん??」
井上が即座に喰いつき、発想が卜部と同じだった事が受けたのか、男性陣が一斉に吹き出した。
「‥‥わたしはまだ独身で、従って子供もいないし、ついでに彼女もいない。だいたい『いつか』だと言っただろう?」
「じゃあ未来の!?」
カレンが驚いて尋ねる。
「未来の」とか「まだ見ぬ」とかつけたら何でも有りな気がしたのだ。
「わたしの為だと素直に言ってしまえばどうだ?」
C.C.が更に混乱を招く言葉を吐く。
「誰がそのような嘘を吐けるか。そんな格好をしている時くらい少しは大人しく出来ないのか?C.C.」
「‥‥‥‥。そうだな、良いだろう。この服に免じて今日は大人しくしておこう」
C.C.はフッとゼロから視線を外すと、ひな壇に近づいていった。
「「ぅお、折れた?‥‥あのC.C.がピザ以外で!?」」と何人かが驚く。
「‥‥さて。写真を撮って構わないだろうか?人形を譲ってくれた人が、是非『日本』が見たい‥と言っていたのでな」
レジスタンスなのに記念写真?と思わないでもないが、それよりも気になる事が有り、視線が藤堂に向けられた。
「‥‥‥‥誰か聞いても構わないだろうか?」
無言の圧力を感じた藤堂が、渋々口を開く。
「桐原公だ。‥‥最終的には皇の、らしいな」
「‥‥ッて、これ、天皇家縁のひな壇ですかッ。え?でもそしたら今年は飾ってないの?」
「いや、これは当代の物ではない。皇は姫が生まれるたびに作らせていたはずだし、これは随分と古いからな」
応じてからゼロは息を吐き出した。
「質問ばかりでは何時まで経っても始まらない。ほら、和装の者は並べ。写すぞ」
ゼロの急きたてるような言葉に、藤堂達男性陣もひな壇に近づいた。
赤いひな壇と華やかな和装の女性陣の周囲に白の袴姿の男性陣が並ぶ姿はかなり絵になった。
「ふ~ん。良いわねぇ。これが『日本』かぁ」
楽しそうに感心するラクシャータの隣で、ゼロがカメラのシャッターを何度か切った。
「ゼロッ。‥‥あの、一緒に写りませんか?」
「いや、‥‥わたしは‥‥」
カレンの誘いにゼロは渋る。
「桐原公への写真はもう撮ったんでしょ?なら入りなさいな、ゼロ。わたしが写してあげるから」
「そうそう。今回一番の功労者なんだし?凄いんですよ、ふぐッ」
「ストップ。それをここで言うなよなぁ朝比奈よぉ」
「藤堂中佐。朝比奈を追い出しますか?」
卜部に口を塞がれ、脅しかけられ、仙波が藤堂にお伺いを立てる段になって、朝比奈はブンブンと首を激しく横に振る。
「す、すみません、もう言いませんから、追い出さないでください~」
卜部に手を放して貰った朝比奈は、平身低頭で詫びを入れた。
それを見て井上がまず笑い、すぐにみんなに伝染する。
笑いながらラクシャータはまだ隣にいたゼロの背中をドンと押し、ひな壇にぶつかりそうになるゼロを藤堂が慌てて支える。
カシャッとジャストタイムでラクシャータによってシャッターが切られた。
ゼロの手が触れて一枝落ちた桃の花を、ゼロはそっと掲げた。
「さて、始めるか」
「「「「「はいッ」」」」」
ぼんぼりに灯りが入り、宴が始まる。



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作成 2008.02.29 
アップ 2008.03.03 

夕日に染まる空を見上げながら、カレンはアッシュフォード学園の制服のままかなりの速度で走っていた。
本当はもっと早く学園を出て、今頃は着替えも済ませてアジトについていたはずだったのに、と思うが長居をしたのは去り難かったからだ。

結局途中からリヴァルを手伝って飲み物を取りに立ったルルーシュを追いかけて手紙の用件を聞く事が出来た、けれど。
「ん?あぁ。まだ気付かないのか?会長に頼まれたんだ、カレンが先に帰ってしまわないように招待しておいてくれって」
「‥‥じゃあ、この‥‥為?」
「そうだ。‥‥そうそう、少し忠告しておいてやるよ。猫を被るならもう少し巧く被れ。普通の病弱な少女はシャーリーの走りについていけないしな」
あっさり頷いたルルーシュは、ついでとばかりに一言添える。
言われてみれば確かにそうだ‥‥とカレンは少し反省する、「というか、今日はもしかしてコイツに助けられッぱなしか?わたしは」と気づいて目を見開いた。
「ん?どうした?」
「な、‥‥なんでもない、わ。そ、そうね。気をつけるわ」
「特に生徒会のメンバーはおれの猫に慣れているからな。多少の猫は見破られていると思った方が無難だぞ?じゃあな」
そう言うとルルーシュは飲み物を取りに去って行った。

世の中を斜に構えてただ見てるだけのいけ好かない奴、口は悪いし、厭味だし、みんな外見に騙されてるのよ‥‥とカレンは思っていた。
でも、もしかしたら、それすらも「猫の範疇だったら?」なんてふと思ったら、せっかく用意して招待してくれた席を途中で立つ事が出来なくなったのだ。
なんだかんだ言って、結局のところ、カレンが猫を被っていて本当は病弱じゃない事も、アイツはみんなに告げていないのだから。
お陰でこんな姿で走る羽目になったのだが、いつものような悪態は出て来なかった。

「おっそ~い、ぞ~。カレン。もっと早く来れるんじゃなかったの?」
アジトに文字通り駆け込むなり、井上の苦情がカレンの鼓膜を打った。
カレンは膝に手を付いて息を整えるのに忙しい。
「‥‥てか、大丈夫?カレンがそんなになるまで急ぐなんてねぇ‥‥。ってそれ、制服じゃない?アッシュフォードの。良いのそんな恰好で」
しかしカレンの様子と服装を見た井上は一転気遣わし気に声音を和らげる。
「だッ、大丈夫です、もう。それより、遅くなって済みません。えーっとこれ、です」
カレンはやっとそう言える程回復すると、井上の分の招待状を渡す。
「ありがと、カレン。とりあえずサッとシャワーしてきたら?」
「ですね。あ、じゃあこれ渡して貰えますか?」
「おっけー。って三枚?ラクシャータと千葉さんと‥‥?」
にっこり笑って引き受けた井上は、その枚数に首を傾げる。
「C.C.にも、です‥‥」
「お、おっけー‥‥」
井上は一転今度は顔を引き攣らせながら、それでも引き受けた。

井上から招待状を渡された千葉は、その足で藤堂と残りの四聖剣の元へ向かった。
「中佐。少々よろしいでしょうか?」
改まった千葉の様子に藤堂は首を傾げてから応じる。
「あぁ。どうした?千葉」
その様子を朝比奈はにこやかに、仙波と卜部は顔を見合わせてから訝しげに見た。
「これを‥‥」
「‥‥ってまさかラブレターか!?」
途端に卜部が驚いて見せる。
「違うッ。‥‥ゼロから招待状を戴きました。‥‥条件は同伴者なのですが‥‥わたしは中佐と四聖剣を伴わなければ参加できないそうです」
「は~い。行きます行きま~す」
横から朝比奈が、待ってましたとばかりに声を上げた。
千葉はギッと朝比奈を睨んだが、「まだ貴様にまで聞いてない」等と言えば、改めて言わなければならないのでグッと堪える。
「‥‥おれは構わないが‥‥。千葉、良いのか?」
藤堂は頷いたが、どこか千葉を気遣う風を見せた。
「?わたしは中佐さえ御迷惑でなければ同行して戴きたいと思いますが‥‥何か?」
訝しげに藤堂を見る千葉を置き去りに、朝比奈は仙波と卜部に話しかける。
「藤堂さんがおっけーって事はおれもおっけーだし、仙波さんと卜部さんは?」
「勿論、お呼ばれしますって。なぁ仙波さん」
「そうだな」
「じゃ、千葉さんは参加だって井上さんに言ってきますね~」
話を速攻でまとめた朝比奈は、千葉に口を挟む隙さえ与えずに、そう言って出て行ってしまった。
「‥‥中佐。何故報告先が井上なのですか?扇さんならわかりますが」
「千葉。‥‥その招待状、ちゃんと見たのか?」
藤堂に言われて千葉は改めて招待状の中身を見直した。
「‥‥‥‥‥‥‥‥なッ‥‥」
一言言ったっきり、千葉はその場で固まった。
「‥‥やはりか」
ポツリと呟いた藤堂と、訳がわからず顔を見合わせた仙波と卜部。
しかし朝比奈が既に出て言った以上、変更が叶うはずがない事はその場の全員がわかっていた。

その様子をラクシャータだけはのんびりと見ていた。
「大変ね~。日本の女性ってぇ?」
などとソファに横になりながら気楽に言う。
「それにしても大人しいわね、カレン。もっとごねると思ってたんだけど?」
「‥‥今日が何の日か、思いだしたんですよね。それで、今日くらいは良いかなって」
「何の日って‥‥あ。‥‥もしかして、この招待状って?」
「かも知れないかなって、今日ここに来る前に思ったんですよね」
「あー‥‥。確かに途中を見ても楽しいわけないハズよね~それじゃあ‥‥。もしかして軽くホラーだったのかしら?」
カレンと井上が納得したように頷き合った。
「ん?何か思い当たったのぉ?第二についてぇ?」
ラクシャータは一人、訳がわからないとばかりに問いかけた。
「判らないなら、見た時のお楽しみに取っとく方が楽しいですよ、きっと」
カレンは楽しそうにそう言った。

準備のいらなかったラクシャータは元より、カレンの、千葉の、そして井上の準備が終わるのを待っていたかのように、内部放送がかかる。

『騎士団の諸君。作業を中断し、食堂に集合の事。但し、事前に通告している者は除く。以上』
ゼロの声が唐突に聞こえ、そして放送は終わる。

女性陣は思わずスピーカーに視線を向けて沈黙する。
そこに扉をノックする音が聞こえた。
「千葉さ~ん。準備終わりました~?みんなが食堂に移動したらおれ達は第二に移動で~す」
「朝比奈?第二って‥‥。それにゼロは何時来たんだ?」
「女性陣解禁で~す。今は招待者以外が入れなくなってま~す。後、ゼロが来たのは日没頃でしたっけ?そろそろ二時間くらいになりますよ~」
扉越しに交わされる千葉と朝比奈の言葉を、残りの女性陣が見守る。
「‥‥食堂で何があるんだ?」
「多分食事会、ですかね。昨日から朝にかけてと、さっきまでゼロが作ってましたから」
朝比奈が自信なさ気に告げる。
「‥‥あらぁ?そっちの方が良かったかしらぁ?」
「それは違いますってラクシャータ。食堂でやる食事会より、第二の方が絶対楽しいです。食事も(食堂のより)豪勢なのが出ますから」
「朝比奈。団員の食堂への移動が終わったぞ」
仙波の声が聞こえ、時間が来た事を女性陣は悟る。
「て事ですんで、千葉さん。それに紅月さんと井上さんとラクシャータ。出てきてください」
「どーでも良いけどぉ?どーしてわたしだけ呼び捨てなのかしらねぇ?」
「‥‥なんとなく、ですね~」
扉越しの会話はここまでだった。
扉が開いた途端、朝比奈は絶句して固まった。

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作成 2008.02.28 
アップ 2008.03.03 

カレンは苛立たしい気分を病弱と言う仮面の下に押しやりながら、楚々とした動作で教科書を鞄にしまう。
今、最後の授業が終わって残すは終礼だけなのだ、と言うのにである。
終礼が終わると同時に生徒会にも寄らずに帰って、アジトに向かう気満々だったカレンだが、朝の内に邪魔が入ってしまったのだ。
自席に着いた時、机に手紙が入っている事に気づき、開いたのがいけなかった。
中も見ずに捨てていれば‥‥と本気で後悔した。
チラと差出人を見れば、いつもは朝一番から眠りの体勢に入っているのに、今日はすぐに視線が合い、途端にアイツは口の端を持ち上げて笑ったのだ。
逃げそうになった猫を必死に縛り付け、貼り付けた後、最悪な気分でその日の授業を受ける羽目に陥った。

終礼も終わると、嫌な事はすぐに終わらせようと、立ち上がった途端、声が掛かる。
「カレ~ン。行こッ。ほら、早く早く」
お元気娘のシャーリーがサクッとカレンの鞄を取り上げて、片腕を掴んで引っ張って急かす。
これもアイツの差し金かと振り返ってみれば、その姿は既に消えていた。
同じ生徒会のリヴァルの姿も見えない。
「ちょッ‥‥、あのッ‥‥」
今日もまた「病弱設定にするんじゃなかったッ」と後悔しながら、カレンは反論らしい反論一つ出来ずに生徒会室へと連行されたのだった。

準備をしながらくすくすと笑うルルーシュを見て、こちらも楽しそうに手を動かすリヴァルが声を掛ける。
「楽しそーだな、ルルーシュ。ナナリーちゃんも呼んだからか?」
「そうだな」と返したルルーシュだが、実際のところは、今頃カレンはどんな表情でシャーリーに連行されているか、を想像していたからである。
「しっかし、こういう事はタフだよな、ルルも。完璧主義も程ほどにしとけよぉ。始まる前に顔洗って来いよ。目の下に熊飼ってるぞ?」
呆れた様子で、しかし心配そうにリヴァルはルルーシュの綺麗な顔、眼の下に出来た隈を揶揄る。
「洗ったくらいで逃げる熊じゃないんでな。‥‥全く、会長ももっと早くから言ってくれていれば良いものを。ねぇ、会長」
肩を竦めてリヴァルに応じた後、やってきたミレイに苦情を述べた。
「あー‥‥、今回はホント悪かったと思ってるのよ~、ルルちゃん。もしかしてそっち、終わらなかった?」
苦笑を浮かべながら謝るミレイに、ルルーシュは溜息を一つ。
「何とか朝には飾りつけまで終わらせましたよ。お陰で熊が棲み付き始めたみたいですが。当分、残業なんてしませんよ?」
「良い良い。それはリヴァルがちゃ~んとルルちゃんの分までやってくれるから、ねぇ?リヴァル」
「う~ん、しゃーない。あくまで暫く、だからな、ルルーシュ。さっさと熊を追い払えよ?」
当然の如く話と仕事を振ってくるミレイと、隈が痛々しいルルーシュを見比べて、リヴァルは折れた。
「助かるよ、リヴァル」
「あーーッ。会長、もう始めてるんですかぁ?」
カレンを引っ張って飛び込んできたシャーリーは慌てた様子でミレイに声を掛けた。
「まぁだ。これからよ、これから。ニーナとナナちゃんが来たら生徒会長室に移動よ」
ミレイの言葉を聴いてホッとしたシャーリーは、そこでやっとカレンの腕を解放した。
シャーリーが深呼吸するのに対して、病弱設定のカレンが息一つ乱していない事に気づいたのはルルーシュだけのようだったが、気を逸らすを出す事にした。
「飾りつけは?」
「咲世子さんにも手伝って貰って完璧よ」
「なら後は運び込むだけですよ」
「え‥‥っと。これは、一体‥?」
「あれ?カレン知らない?日本のお祭りよ、お祭り。ひな祭りっていうの。珍しく家の中で祝う、しかも女の子が対象のね」
「あ。‥‥今日、3月3日ですね。そっか、」
「ッほらそこ。参加したいなら隣の部屋から桃の花を取って来い。早くしないとナナリーが来るだろう」
ルルーシュの声にカレンは言葉を切ったが、よくよく思い返してみて助かったと、この時ばかりはルルーシュに(ほんの少し)感謝した。
危うく「今日は桃の節句だったわね‥‥」なんて言いそうになっていたからだ。
「‥‥申し訳ございません。少し、早かったでしょうか?」
控えめな咲世子の声がして、扉を振り返ると、車椅子に座ったナナリーと、その後ろに続く咲世子と廊下で一緒になったと思われるニーナの姿もあった。
「ごめん、ミレイちゃん、遅れちゃった?」
「今からよ、今から。丁度良かったわ。今呼びに行こうと思っていたところだったから。貴女も入っていきなさいね、咲世子さん」
「それでは、お邪魔致します」

「どーしたんですか?これ‥‥。こんな立派なひな壇なんて‥‥」
カレンは驚きに目を見開いている。
昔、まだほんの小さかった頃。
これ程ではない、もっと質素なモノにしろ、ひな壇を飾ってお祝いをした覚えが、カレンにもあったのだ。
「ん~。知り合いの人形屋がねぇ。随分痛んでるけどいるなら譲るって言うから、貰ったのよ。で、結果的に言うと、ルルちゃんが綺麗にしたのよ」
「会長命令で仕方なく。次はしませんよ?綺麗にしまってくださいね」
「当然よぉ。保存状態には気を使うわよ。だから来年は楽できてよ」
永久保存しかねない勢いでミレイは断言してみせた。
「‥‥お兄様、わたしの部屋に飾ってくださったひな人形も確か修繕なさってくださったと聞いたのですが。‥‥無理をなさったのでは?」
「あれは咲世子さんにもかなり手伝って貰ったからね。それに、会長のところの程、痛んでいたわけでもないから、無理なんてしてないよ、ナナリー」
ルルーシュはナナリーの髪を撫でながら、桃の枝を手渡してやる。
「見えないのは残念かも知れないけど、桃の香りとかナナリーでも楽しめると思うんだが‥‥」
「はい。とても良い香りです、お兄様。ありがとうございます」
ミレイは二人の世界に突入した兄妹を放っておく事にして他のメンバーに声をかけた。
「さぁ~て。始めましょうか?当然、今日の給仕はリヴァルだって事はわかってるでしょうねぇ?」
ミレイがリヴァルに意味深な視線を向ける。
「え?‥‥あーーーッ。しまった。くっそー、さっさと準備して逃げれば良かったぜ」
一瞬ドキッとしたリヴァルだったが、その場にいるメンバーを見返して悲鳴を上げた。
ミレイ、シャーリー、ニーナにカレン、ナナリーと付き添いの咲世子さんとみんな女性だらけだ。
そしてリヴァル以外ただ一人の男性であるところのルルーシュは熊を飼ってる上にナナリーに付き添っていて離すのは可哀想だ。
スザクが(軍務の為)来ていない以上、リヴァル以外に使える男手はなかった。
「勿論、今更逃がすわけないって判ってるわよね~?」
「ぅ‥‥は~い。会長。んじゃ、飲み物もってきま~す」
二重の意味で逃げられなくなったリヴァルは、気持ちを切り替えると飲み物を取りに部屋を出て行った。

───────────
作成 2008.02.28 
アップ 2008.03.03 

次の日。
確かにゼロはやってきた。
C.C.の言った通りの状態で。
‥‥そう、物凄い不機嫌オーラを発していて、迂闊に近づけない程なのだ。
平団員は思わず後退り、遥か遠くから遠巻きにしてリーダーの一挙手一投足を怖々と見つめていた。
幹部連中はそう言うわけにもいかず、その場に留まって、何とか挨拶だけでもと声を掛ける。
「ゼ、ゼロ。‥‥急に来られなくなって、心配しました。‥‥あの、もう平気なのですか?」
そんな中、カレンが特攻し、それを見た全員が拍手喝采を送る‥‥現実の手を動かさずに。
「‥‥あぁ。カレンか。心配をかけてしまったようだな。少々表が忙しくて連絡すら取れなかった事はすまないと思っている」
「そんなッ。‥‥また来て下さって、嬉しいですッ。‥‥あのッ、今後の予定をお聞きしても宜しいですか?ゼロ」
スッと不機嫌オーラが和らいだ気がしたカレンは、それだけの事が嬉しくって仕方がない様子でゼロに尋ねる。
「‥‥一応、表での仕事は一区切りついたので、不意に連絡が取れない、と言う事は暫くはないはずだ。今日はこのまま。‥‥明日は夜に来る予定だ」
ゼロの言葉に、カレンは「夜‥‥」と呟く。
「カレン。これを渡しておく」
反射的に受け取ったカレンを残して、ゼロは自室へと向かっていった。
みんなカレンが受け取った物の方が気になるのか、或いはまだゼロに声を掛け辛かったのか、他にゼロを止める者はいなかった。

ゼロを遠巻きにしていた団員(ギャラリー)は、ゼロがいなくなった途端、カレンに群がった。
「カ~レン。何貰ったの?ラブレター?」
普段ならこの手のからかいには顔を赤くして恥ずかしがるか怒るかするカレンなのだが、この時は違っていた。
ガバッと顔を上げて声を掛けてきた井上を見ると、ガシッと片腕を掴み、周囲に群がる野郎どもを一括する。
「邪魔だ、散れッ。サボってるとゼロに怒られるわよ。‥‥それで困るのはわたしじゃないけど、ゼロの手を煩わせる前に沈めてやろうか?」
かなり過激である、と言うか、これだけの野郎ども相手に中々言えない啖呵だろう。
「ほぉら。あんた達も、恋する乙女の邪魔すると馬に蹴られちゃうわよ~。散って散って」
「ちょっ、‥井上さんッ、そんなんじゃないですッ。行きますよ」
「あッ、ちょっ手を離しなさいよ、カレン」
男性陣が散る前に、井上の腕を掴んだままのカレンがその場から移動して行った。
行く手には紅蓮弐式の近くで作業しているラクシャータと書類を持ってラクシャータに近づこうとしていた千葉がいる。
気になってついてきていた男性陣は、振り返ったカレンの一睨みでスゴスゴと退散していった。
「これ、さっきゼロに頂きました。見てください」
カレンはそう言うと、さっきまで自分が見ていた紙をラクシャータに渡した。
ラクシャータはにやにやしながら眼を通し、隣の千葉に回す。
千葉もそれに倣うが、こちらは段々目が眇められ、憮然とした様子で井上に回した。
「お嬢ちゃん。この招待状ってぇのは?」
「あ、貰いました。ただ明日わたしが来てからみんなに渡すようにって‥‥。だから待ってて貰えますか?」
「い~わよぉ。わたしは一人だしぃ。いつでもい~からねぇ」
「‥‥しかし、‥‥個人的な好奇心の為に中佐を煩わせる事は‥‥」
「あれ?誘ってくれないの?千葉さん。藤堂さんだって結構楽しみにしてたのに。勿論おれもだけど」
千葉が迷っていると、その後ろからひょっこり朝比奈が顔を覗かせた。
即座に朝比奈の頭に千葉の拳が決まった。
「驚かすなといつも言っているだろうが」
「ひどいよ、千葉さ~ん。折角教えてあげたのにぃ。‥‥てか、それ持ってるって事は、ゼロ来てるんだ?」
「え、ええ。ついさっき」
「いっけね。藤堂さんにどやされる。じゃあね~」
ブンブンと手を振った朝比奈はあっさりその場から立ち去っていった。
「‥‥‥。なんだったんですか?」
カレンの問いかけに、三人は千葉を見る。
「気にしないでやってくれ‥‥」
千葉は疲れた口調でそう応じた。

おざなりなノックの後、朝比奈が扉を開けると、既にゼロ以外は来ていた。
「ゼロ、来てるそうです。多分自室の方だと思いますけど」
扇があからさまにホッとした様子で息を吐く。
「遅いぞ、朝比奈。ゼロを除けば一番詳しいお前が遅くては作業が進まない」
「すみませんッ、仙波さん。‥‥さっき格納庫通ってきたんですけど、女性陣既に招待状貰ってました」
「やっぱ、仕事早いよなぁ、ゼロは。‥‥んで?自室で何やってるんだ?」
「必要なものを取りに行っていただけだが?‥‥それよりも、何故扉が開けっ放しなのだ?」
唐突に現れて卜部の質問に答えたゼロにも驚いたが、その後に続いた言葉にも驚いて、一同の視線が朝比奈に向かう。
「ぅわ。すみませんッ、ゼロ。たった今です。誰も覗いていませんッ。以後気をつけます」
ゼロは朝比奈から藤堂に(今回は普通に)仮面を移動させてから頷いた。
「良いだろう。もう規制も終わりだしな。‥‥それに運び込んで貰って助かった件もある。今回だけは不問にしておこう」
ゼロの言葉に「やったッ」と喜ぶ朝比奈を横目に、扇が問いかける。
「ゼロ。今回おれ達が運び込んだ荷物だけど。最初にゼロが持ってきた時より明らかに多いんだが、人形だけじゃないのか?」
まだ全ての箱を開け切っていない事もあって、量の多さに首を傾げていたのだ。
「‥‥‥‥扇。例の通達は団員に伝えているだろうな?」
「例の?‥‥あ、あぁ。断水の件か?今日の夕方から明日の昼までって。一応伝えたから食事は外でと‥‥。けど他からはそんな話は受けてないんだが」
急に変わった話の内容に、扇は一瞬戸惑いながらも、記憶をひっくり返してついていく。
フッとゼロが笑った。
「当然だな。偽りだし。開けるなと言っておいた赤ラベルの箱は食堂に運んでおいてくれ。‥‥食材だ」
「えーっと。それってやっぱり、ゼロが調理するって事なのかなぁ?」
「ああ。わたしが調理台に立っているところを団員が見れば流石に引くと思ったから、取っておいた処置だが‥‥」
ゼロ=(仮面+スーツ+マント)-マント+エプロン=仮面+スーツ+エプロン‥‥‥確かに誰もが引くだろう。
それぞれ僅かにゼロから視線を外し、その件についてのコメントを避けた。
「‥‥ゼロ。荷物を受け取りに行った時、C.C.が『わたしはこれから戻って報酬のピザを食べるのだ』とか言っていたが?」
藤堂が話題逸らしの為に、忘れていた報告をする。
ルルーシュはゲットーに近い公園にC.C.を待たせ、ギアスを掛けた運送会社の人間にそこまで箱を運ばせたのだ。
後は藤堂、扇と四聖剣の三人にその場所まで取りに行くよう指示を出しておいたのだ。
「‥‥‥‥あぁ、今回は仕方がないからな。人形に臭いがつかない限りにおいては認めた」
「ん?ゼロ。自宅にも飾っているのか?」
「‥‥あぁ。日本の女性と知り合いでな。『是非飾りましょう』と言われたのが始まりだったな」
「「「「‥‥‥‥‥」」」」
「ゼロぉ?‥それって彼女とか奥さんとかって話かぁ?」
一同絶句する中、卜部が果敢に問いかける。
「いや。彼女は‥‥わたしが世話になっているところのメイド、だな」
「ちょっと待ったゼロ。世話に‥って居候?なのにC.C.も居候させてるわけ?」
「‥‥アイツは勝手に居着いたんだ。‥‥多分、まだ見つかっていないはずだ。‥‥お陰でわたしがピザばかり食べていると思われてしまっているがな」
忌々しげに言うゼロに、「それはゼロも苦情の一つも言いたくなるだろう」と、C.C.がピザを注文する事に難色を示し続けるゼロの、真実を見た気がした。

「さて、時間も限られている事だし、飾り付けを急ぐとしようか」
暫くしてから気を取り直したように告げられたゼロの言葉に、一同は揃って頷いたのだった。

───────────
作成 2008.02.27 
アップ 2008.03.02 

3月に入ってしまった。
姿を見せなくなったゼロの事を気にしながら、作業を続けていたカレンは、アジトの入口に人影を見つけ、思わず凝視する。
それが誰かわかった途端、手にしていた書類を放り出して駆け寄った。
「C.C.!!ゼロは?一緒じゃないの?」
カレンの勢いに押されて目を見開いたC.C.は、黙ったままカレンを見返した。
カレンの声の大きさに、周囲にいた団員も反応し、いつの間にかカレンとC.C.を取り巻くようにして人だかりが出来あがっている。
「‥‥一緒ではない。アイツなら明日には顔を出す、‥‥と言っていたぞ。後の事は本人が来てから直接聞け」
C.C.は不機嫌な声でそう言った。
それから人だかりを見渡して、目当ての人物を見つけると呼ばわった。
「朝比奈。わたしはピザが食べたい。注文しておけ」
一同の視線が一斉に朝比奈に向けられる。
「ぅわ‥‥っと。今ここでそれを言いますか?えーっと。来たらゼロの部屋に持ってけば良いのかな?」
視線にたじろいだ朝比奈は、大勢の前で言った事に対してのみ苦情を述べただけで、内容自体には何も言わずに従っていたのでみんなが驚く。
藤堂と四聖剣は「一体何事?」と言った表情で朝比奈を見るし、他の団員は「ゼロと三角関係か!?」なんて思っていたりする。
「あぁ。それで構わない。‥‥藤堂、扇。話がある。‥‥そうだな。邪魔の入らないところ‥‥ゼロの部屋で良いか。ついて来い」
それだけ言うと、C.C.は歩き出す。
団員の人だかりがザザッと割れる中、C.C.は気にせず通り過ぎ、顔を見合わせた藤堂と扇がその後に続いた。
「あ、おれも行って良いですか~?ピザの注文し終わったら~」
「‥‥貴様はピザと一緒になら入れてやる」
C.C.は振り返りもせずに朝比奈の問いに答え、聞いた朝比奈は早速とばかりにピザ屋に注文をするため電話を取った。


「第二のあれらを壊さないように箱に詰めろ。一度表に持って行く」
ゼロの私室に入って鍵を閉めた後、椅子を勧めもせずにC.C.は本題を口にする。
藤堂と扇は戸惑って顔を見合わせた。
「えっと‥‥すべて、か?明日にはゼロ来るってさっき‥‥」
「別に正確に一組分けられるのならそれでも構わないが‥‥。流石に表ではもう飾らないといけないからな」
正確に、と言われればひな人形についてあまり詳しくない彼等に反論の余地はない。
「‥‥あー‥‥朝比奈に無理なら、お手上げだな。‥‥扇は心当たりあるか?」
この場合の心当たりとは当然男性に限られる。
「う~ん。‥‥ちょっと思い浮かばないな」
「そうか。朝比奈待ちか」
そう呟いたC.C.はどっかとソファに座り、藤堂と扇にも座るように視線で促す。
そろそろとソファに座った扇の隣に藤堂も腰を落ち着けた。
「しかし、箱に詰めたとして、その後はどうするのだ?あれはかなりの重さになるが‥‥」
「あぁ。一番重いのは壇の枠組みだ。今回持って戻るのは人形と小物だけだから、わたしでも運べるさ」
C.C.は質問してきた藤堂を馬鹿にするように、「大体全部揃ってアイツが運んでいたんだぞ?」と云い添えた。
これには藤堂も扇も苦笑するしかない。
「わたしは第二には入れないからな。ちゃんと梱包しておけよ?転ぶつもりはないが、唯運んでいただけで破損したなんぞと言われるのは癪だからな」
「えーっと。もしかして、この『おつかい』もピザで‥‥なのか?」
「当り前だろう?今回は十枚かかっているからな。ふふふ、久々の大仕事だ」
心底嬉しそうなC.C.に尋ねた扇は少し後悔した。
「‥‥朝比奈とはどんな取引を?」
「ん?少し協力してやっただけだ。あれも中々おいしい仕事だったな。‥‥内容は秘密だ。知りたいのならば朝比奈に聞け」
にやりと笑うC.C.に藤堂は渋面を作った、‥‥朝比奈に聞いてもきっと答えまい。

「‥‥それで?ゼロの表でのトラブルとは?」
強引に話題を変えようと思ったのか、藤堂はC.C.への質問を変えた。
「‥‥はははは。大変だぞ、貴様等。明日、確かにゼロは来るには来るが‥‥。機嫌は恐らく最悪だろうからな」
一瞬の沈黙の後、C.C.は乾いた笑いを立てて、藤堂と扇に同情を示した。
「ちょっ‥‥ちょっと待て。最悪って、ホントに表で何が有ったんだ?」
「‥‥仮名を『ゼロ』とするぞ。『はーい。この電話は「ゼロ」ので~す。ただいま忙しくって電話に出る事は出来ませ~ん。どちら様ですか~?』と声が聞こえた」
藤堂はあの時か、とC.C.が電話を耳にあてたままこの部屋に引き込んだ時の事を思い返した。
「友人Cと出ただろ?約束が有るのだが?『えーっと、それはキャンセルで~す。「ゼロ」は今内職に励んでますから~2、3日は外出不可ですね~』」
「「‥‥内職?」」
二人の呟きが重なった。
ゼロが内職‥‥凄く似合わない‥‥と思ってしまってもそれは仕方がないだろう。
内職で生計を立てるゼロ、内職でピザ代を稼ぐゼロ、内職で活動資金を貯めるゼロ‥‥。
事実だとすれば悲しすぎる‥‥‥‥。
「ツッコミどころが違うぞ貴様等。『え?えーと。人形の修繕で~す。じゃあまたね~』ガチャン、だ。戻ってみると案の定だ。‥‥恐らく第二と同じ惨状だな」
「‥‥‥‥つまり、一組流した友人、の人形も結局ゼロが修繕する事になったって事か、な?」
同情しながらも確認の言葉を紡いだ扇に、C.C.は笑いもせずに肯定した。
「当たりだ、扇。どうやら、友人宅でも職人が見つからなかったらしいな。しかもそれをギリギリになって唐突に言いだす。まぁいつもの事らしいが」
ゼロは表でも苦労しているんだな、とは扇も藤堂も言葉には出来なかった。

コンコンとノックが聞こえ、「C.C.~。ピザ持って来たから入れて~」と廊下から朝比奈の声が聞こえて来るまで、その場は沈黙に包まれていた。

───────────
作成 2008.02.25 
アップ 2008.03.01 

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