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★弥生様へのリクエスト作品★
(ルルで双子で黒の騎士団/ルル≠ゼロ)
「それで?何の用だ?」
幹部会議室にルルーシュを通したゼロは、同席を希望する幹部達に渋々ながらも許可を出していた。
扇、カレン、玉城、杉山、井上、吉田、南、ディートハルト、ラクシャータ、藤堂、仙波、卜部、千葉、朝比奈。
それにゼロとルルーシュが加わって、会議室には現在16名が座っていた。
ちなみにゼロとルルーシュは隣同士の椅子に座り向かい合って膝を突き合わさんばかりの体勢である。
それを会議机と椅子はそのままにやられているので、反対側に座った玉城や吉田達には細部までは見えていない。
「何って。‥‥‥‥ゼロに会いに来たんだが?」
「だから、何故わざわざ会いに来る?ここはゲットーで、ブリタニア人にとっては危険な場所なんだぞ?」
不機嫌な声を出すゼロの仮面を、ルルーシュは正面から見返し、一歩も譲らぬ構えを見せる。
幹部達にしてみれば、ゼロを恐れる様子もみせずに言い返し睨む少年には驚くばかりである。
「‥‥ゼロ。少し、良いだろうか?」
そこへそんな声をかけて割り込んだのは藤堂で、ゼロとルルーシュが藤堂を振り返る。
ルルーシュの表情に驚きが浮かび、目を見開くに至って、藤堂は確信し、ゼロは嘆息した。
「‥‥だから『来るな』と言ったのに‥‥」
そう呟いたゼロの声は小さすぎてルルーシュにしか届かなかった。
「‥‥‥‥‥‥なんだ?藤堂」
声をかけておきながら続きを言わない藤堂に、ゼロが訝しげな声を掛ける。
「あ、いや。‥‥その。君はその少年の事を知っているようだったが‥‥。出来れば紹介をして欲しいのだが」
藤堂は何故か言い淀んだ後、ゼロにそう提案し、カレンを見てから「君も知っているようだったな?」と声を掛ける。
ゼロは仮面の下で、ルルーシュは無表情を貼りつけた表情の内面で、藤堂の言葉に驚く。
「あ、えっと。すみません。わたしの通う学園のクラスメイト、です。後、わたしは生徒会にも所属しているんですけど、彼は副会長でして‥‥」
謝ってから、そう説明し、カレンは大きく頭を下げてから「ホントすみません、つけられていたみたいなのに気付きませんでした!」と再度謝罪する。
「カレン。今回は不問にする。今後気をつけてくれれば良い。そう気にするな」
そんなカレンにゼロは優しい言葉を掛ける、が声音は別段変わらないので感極まっているのはカレンだけだったりする。
「さて。‥‥あぁ、彼は『厳島の奇跡』として有名だから知っていると思うが、藤堂鏡志朗だ」
藤堂は「少年を紹介しろ」と言ったのだが、ゼロが取った行動は、少年に藤堂を紹介する事だったので、「あれ?」と首を傾げる者多数。
「知ってる。忠誠を誓うという四聖剣を率いて黒の騎士団に合流したのだろう?確か本人は処刑されるところを騎士団に助けられていたな」
「あぁ。四聖剣が救出を依頼してきた事も有ってな。第一お前は当時から『厳島の奇跡』には興味が有っただろう?」
「まぁ、当時の日本としては奇跡としか言いようのない戦略や戦術を用いた将だからな」
ゼロとルルーシュはそのまま「厳島の奇跡」談義に花を咲かせ始め、藤堂を含めた幹部達は唖然とする。
「ちょ‥‥っと待ってくれ、ゼロ。それにそっちの少年も‥‥えーと名前なんだっけ?」
卜部がなんとか割り込む。
「‥‥ルルーシュ・ランペルージ。アッシュフォード学園で生徒会副会長をしている事は、さっき、カレンが言ったな?」
「あぁ。あ、おれは卜部な。じゃあ‥‥ルルーシュ君は、ゼロとどんな関係なんだ?んでもって藤堂中佐の事良く知ってるみたいだけど‥‥なんで?」
卜部は気圧されそうになりながらも問いを続ける。
「ブリタニアに土をつける男。それが奇跡ではなく、実力だと判れば興味が湧いて当然だと思うが?」
疑問形で応じたルルーシュに、きつい目を向けたカレンが割り込む。
「何故?ブリタニアにとって邪魔だから?」
そんなカレンに視線を移したルルーシュはおもむろに溜息を吐いた。
「カレン。お前、仮にも生徒会のメンバーなら話もう少し聞いておいた方が良いぞ。‥‥それが雑談だったとしても、な」
「‥‥どういう事よ、それは」
「生徒会のメンバーはみんな知っているって事さ。おれがブリタニアを嫌っているって事をな。ゼロ肯定派ってのも含めて、な」
「へ?‥‥だって、あなたあいつと‥‥」
「親友だと意見まで同じでなければならないか?主義主張も?個は認めないって?誰と交流が有ろうとおれはおれ、だろう?」
カレンの言葉を遮って畳みかけるようにルルーシュは言葉を連ねると、カレンは言われてみればと思いつつも頷いた。
「‥‥‥‥そ、そうね。‥‥なら、どうして?」
「いつか、旗揚げする事があれば、招きたいと思った事はあるな。ゼロが先に行動を起こしたから、その必要はなくなったけどな」
「んー肝心のゼロとの関係聞いてないよね」
朝比奈がゼロとルルーシュとを見比べながら尋ねる。
「‥‥ゼロの素性に関わる事だから、話す気はない、って言ったら?」
ルルーシュが真っ直ぐに朝比奈を見ながら言うと朝比奈はにっこり笑顔で笑って言った。
「そんなの通る訳ないじゃないかー。君も分かってるから聞いたんだろー?」
しかし朝比奈の笑顔は一瞬の内に消失した、ゼロから放たれる殺気によって。
「‥‥朝比奈。貴様、今、ルルーシュを馬鹿にしたな?」
それまで傍観に徹していた幹部達が、椅子を蹴倒すようにして立ち上がって壁まで下がる。
名指しされた朝比奈は椅子に座ったままで固まった。
「‥‥朝比奈。とりあえず詫びておけ」
やはり椅子に座ったままだった藤堂が声を掛ける。
我に返った朝比奈が、藤堂を見返し、頷かれて「ご、ごめんね、えっとルルーシュ君?悪気はなかったんだけど」と声を掛ける。
「別に。当然の言い分だと思いますし。なぁ?ゼロ」
ルルーシュはゼロから放たれている殺気に気づかないのか、平然とゼロに声をかけている。
すると、ゼロからの殺気は薄れ、息を詰めていた者達がほぅっと息を吐き出した。
「ルルーシュは今後、参謀として騎士団に参加する事になる。お前達は言動に注意する事だな」
「なッ、ちょっと待てよゼロ。今の話のどこにそんな事が出てた!?第一なんだよ学生が参謀って」
唐突なゼロの宣言に、案の定玉城が喰ってかかる。
「このアジトに来た以上、ルルーシュは引き下がらないだろうし、この中で一番頭が良いからに決まっているだろう?」
当然のようにゼロは「適材適所という言葉を知らんのか」と玉城に言い放つ。
「待て、ゼロ。紅月にも言える事だが、彼もまだ学生だ。学校の事も、家族の事もあるだろう?」
難色を示したのは藤堂で、ゼロに抗議する。
「カレンには何も言っていなかっただろう?藤堂。お前がルルーシュを戦場に置きたくないだけじゃないのか?」
ゼロはそう言っておかしそうに笑い、幹部達は驚きよりも何故か恐怖を感じて壁に張り付いたのだった。
3に続く
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作成 2008.08.14
アップ 2008.08.28
★弥生様へのリクエスト作品★
(ルルで双子で黒の騎士団/ルル≠ゼロ)
ルルーシュはここ数日、迷っていた。
教室でもいつも通り「眠っていないように見えて実は眠ってます」姿勢をとりながらも眠っていたわけではないし、生徒会室でもつい手が遅くなったりしていた。
「ルルちゃんは恋煩いかなあ?」
ミレイのからかいを含んだ声にルルーシュは視線をカレンからミレイに移す。
「なんですか?それは」
ルルーシュは呆れを声音に込めて聞き返した。
「何ってさっきからカレンばっかり目で追ってるでしょ~?だからカレンに惚れちゃったのかなぁ~って?」
にやにやとした笑みを浮かべながらミレイはルルーシュをからかう。
迷惑そうなカレンと驚きに声も出ないシャーリー、驚愕の叫びを上げるリヴァルを見回してからルルーシュは溜息を着いた。
「違いますよ、会長。考え事をしてただけです」
「カレン見ながら?」
「そうですね。違和感があるとつい原因を探したくなるんですよね」
切り返すルルーシュの言葉にカレンはドキッとして警戒し、ミレイは納得し、リヴァルとシャーリーは首を傾げた。
「会長、今日は人に会いに行こうと思うのでこれで引き上げます」
話をしている内に考えが纏まったのか、ルルーシュは立ち上がって暇の挨拶をした。
ルルーシュは足早に祖界を歩いていた。
このペースで歩いていれば目的地に着く頃にはきっと息が上がっているだろうと思うがペースを落とすわけには行かない。
後の事は後で考えようと決めて、ルルーシュは先を急いだ。
『何故ダメなんだ?』
そう聞いて来たのは一月くらい前だった。
「危険だから」と答えたけれど、納得してないのは明らかだった。
なのに以来他の話題しか口にしない。
大人しく引き下がるなんてありえないのに‥‥。
「ゼロ。考え事してるようだけど‥‥何か問題が?」
ゼロがあまりにも動かない事を心配した幹部達にせっつかれた扇がゼロに声をかけた。
「‥‥‥‥お前達には関係がない。プライベートだ」
ゼロは側に立つ扇とその後ろに集まる幹部達を見渡すと、首を振って答える。
「プライベートだってぇならこんな人の来るところで考えてんじゃねぇぞ。紛らわしいじゃねぇかよ」
玉城が喚く、がその直後、玉城は床に沈んでいた。
「ゼロッ!プライベートでも相談に乗ります。解決に繋がる事があるかも知れませんし!」
そう言い切る玉城を沈めた張本人のカレンに「いつ来たカレン!?」と幹部達は驚く。
確実に扇がゼロに話し掛けた時にはいなかったのだから、たいしたタイミングだったのだろう。
ゼロは沈んだ玉城からカレンに視線を移すように仮面を動かしたが、何かを言う前に「大変だッ!」と団員が駆け込んで来た。
「どうした!?」
反射的に扇が尋ねる。
「ブリタニアの学生が一人向かって来てますッ!」
「カレン、つけられたのか?」
タイミング的にそう思っても仕方がないだろう。
カレンもまた学生でブリタニアの学園に通っているのだ。
カレンは「まさかッ!?」と思って踵を返す。
ゼロも立ち上がり、無言のままカレンの後を追う。
「ぇ、ちょっ、‥‥ゼロ!?」
慌てた扇もまたゼロの後を追ったのだった。
「この近くのはずなのに‥‥」と、足早に前を歩いていたカレンを見失ったルルーシュはとうとう足を止めた。
膝に手をついて、荒い息を整える。
がらっと音がしたと思って顔を上げれば、騎士団の格好をした男が出てくるところを見て、「見つけた」と顔を綻ばせようとした。
しかし、出てくる団員が一人ではなく、わらわらと出てきて自分に向かって来るとなると話は別だった。
「見つかった‥‥と言うべきだな」とルルーシュは冷静に判断してまずは息を整えてしまおうとその場で団員達の出方を待つ事にした。
取り囲み、「何の用だ」とか「どうやってここを」とか口々に言う団員達に、ルルーシュは他人事ながら心配になる。
「‥‥外で騒いで困るのはそちらだと思いますけど」
そう言われた相手の取る方法は二通り。
その場で口封じをするか、内部に入れるか、だ。
黒の騎士団が正義の味方を名乗る以上学生相手に取れるのは後者しかないだろう。
ついでとばかりにダメ押しを入れる。
「ゼロに話がある」
「ちょっ‥‥なんだってあんたがッ!ゼロに話って何よッ!」
飛び出して来たカレンが凄い形相で喚いた。
「なるほど。違和感があると思っていたら、やっぱり病弱なのは偽りか。それにしても凄く活発そうだな、カレン」
ルルーシュは平然と切り返した。
「聞いてるのはこっちよ。なんだってあんたはここにいて、ゼロに話って何よッ!」
「ゼロに話があるから来たんじゃないか。話はゼロに直接話す」
憤るカレンは団員も幹部も近寄り難くなると思っているのに、と肩を竦めるだけで動じない相手に奇異の目を向ける。
しかし次の瞬間には更に驚く事が起こった。
「ここへは来るな、と言っておいたはずだぞッ!」
カツカツと足音高く、ゼロがアジトから出て来るなり、声を投げる。
団員達はゼロに道を明けるべく左右に分かれた。
ゼロの後ろには他の幹部が続いている。
「おれが大人しくそれに従わない事は知っているだろう?油断したゼロが悪いな」
「‥‥この場所は教えていなかったはずだが?」
「あぁ。だからカレンの後をつけた」
「へ?‥‥ちょっ。どうしてわたしが騎士団のメンバーだって事‥‥前から知ってたっていうの?」
「いや?設定が偽りかも知れないと思った時点で、では何故かと考えて当たりをつけただけだ」
憤るカレンにあくまでも平然としたルルーシュのやりとりに、幹部も団員もどうしたものかとゼロを見る。
ゼロは無言でルルーシュの側まで来ると、むんずと腕を掴んだ、勿論ルルーシュが痛くないように配慮されているが。
「とにかく、外でこれ以上騒ぐのはまずいから、中に入るぞ。お前達もだ」
そう言うと、ルルーシュの手を引いてゼロは先に立って歩き出した。
勿論、それが目的のルルーシュに拒む理由はなく、大人しくついていく。
残された幹部団員達は戸惑ってから何かしら知ってそうなカレンに視線を向ける。
しかし最初に動いた藤堂が、さっさとゼロに続いて中に入っていったので、四聖剣がそれに続き、残りもまたそれに倣った。
そうして、場はアジトの中へと移されたのだった。
2に続く
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作成 2008.07.17
アップ 2008.08.27
(「父の日騒動」続編【6】/藤堂+ゼロ)
目を見開いて固まっている藤堂に、ゼロは仮面を傾ける。
「その。‥‥折角来てくれたのに、追い返すような事をして、すまなかった」
ゼロは考えても分からないので、話を切り出す。
それでも藤堂からの反応がないので一方的に話しを進める事にした。
「それで‥‥詫びと言っては何だが、これを。良ければ食べてくれ」
ゼロはそう言うと持っていた袋を藤堂に差し出した。
それでも固まったままの藤堂にゼロは困惑する。
「‥‥その。来てくれたのは‥‥嬉しかったのだが‥‥少々考え事をしていて、だな」
ゆっくりと藤堂が反応を返すのを待ちながらも言葉を重ねていくゼロは、不安が増していく。
「‥‥‥藤堂‥‥?」
ゼロはとうとう訝しげに藤堂の名を呼んでから言葉をとめてしまった。
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2008.07.30作成
2008.08.06-2008.08.13up
2008.09.01再録
──面接「ヴィレッタ」編──
わたしは心配ないとは思いつつも、用心しながらゲットーを歩いていた。
記憶を失っていた間に世話になっていた男が、騎士団の人間だと知った。
記憶がなかった間の事は覚えていて、自分はその男を慕っていたという事も自覚していた。
でも、記憶が戻れば自分は軍人で、騎士団とは敵同士、とても共にはいられない、と黙って出てきた。
軍に戻る前に、記憶がない間の情報を得ようと動き、大きな変化がある事を知った。
特派の白兜を抱えてそこの主任が騎士団へと寝返ったという。
それに続くかのようにダールトン将軍と、そしてあのゼロを目の敵にしていたジェレミア卿までが騎士団側として戦場に立ったという。
その3人に共通する事‥‥と考えていて気付いたのだ。
ゼロの素顔、それは写真を見た時にも思った事では有ったのだが、知っている顔に似ていたのだ、だからこそ特に気になっていた。
でもあの時は、這い上がる事しか考えておらず、何故這い上がろうとしていたのかすら忘れていたのだ。
けれど、今は。
わたしは自らの意思で、騎士団への入団希望届けを投函し、面接だからと呼ばれてのこのことやってきているのだ。
目的地の前まで来ると、ダールトン将軍が出迎えの為なのか待ち構えていた。
「‥‥‥ダールトン将軍」
「ヴィレッタ・ヌゥだな。心変わりがないのであれば、付いてくるが良い」
ダールトン将軍はそう言うと踵を返し中へと入っていく。
わたしは躊躇いもせずにその後に続いた。
どこか別の場所での面接になると思っていたのだが、通ってきた格納庫には騎士団のナイトメアが並んでいてここが既にアジトなのだと知って驚く。
通された場所は会議室のようで、面接というには多すぎる人数が集まっていた。
正面にゼロ。
その右に恐らくは「奇跡の藤堂」、左にはジェレミア卿が座り、ゼロの背後には特派の主任が立っていた。
更には、白衣を着たイレブンでは有り得ない女性が特派主任に「座りなさぁい、プリン伯爵ぅ」と声を掛ける姿も有った。
このような場で「プリン伯爵」などとふざけていると思っていると、ゼロが主任を振り返る。
「場所はそこで構わないから椅子を持ってきて座れプリン伯。でなければ‥‥」「ぅわ、判りました判りました」
ゼロの半ば脅しの文句に主任は慌てて椅子を一つひょいっと運んできて場所を確保していた。
どうやら、主任の名前になっているようだ、とその事についてはスルーする事にして首を巡らした。
「奇跡の藤堂」の更に右に要さんの姿を見つけ、その表情に安堵の色を見つけてホッとする。
更には、ここまで案内してきたダールトン将軍がジェレミア卿の隣に座り、更に隣に視線を移して、そこで固まった。
「なッ、‥‥何故貴様がここにいる?ディートハルト・リート」
思わず鋭く尋ねていた。
当のディートハルトは肩を竦めただけだったが、ジェレミア卿が応じる。
「騎士団の情報・広報担当らしいぞ、ヴィレッタ。我々はどうやらとんでもない男に話を持ちかけていたらしいな」
ジェレミア卿は憤るでもなくそう言い、用意された椅子に座るように手振りで指示を出した。
大人しく椅子に座る間に、一同の視線がディートハルトに注がれ、ディートハルトは居心地悪そうに身動ぐ姿が見られた。
「あー‥‥その。お二人が、ナリタに出掛けるのでととある調査の依頼を持ってきまして‥‥」
ディートハルトはジェレミア卿とわたしを気にしながら説明した。
「なるほど?その情報をそのまま騎士団に流したわけか。入団を引き換えに」
ゼロと要さんが納得して頷き、「奇跡の藤堂」も「それで騎士団はナリタにいたのか‥‥」と納得したようだった。
「ねぇ。『とある調査』ってなにかなー?」
「プリン伯爵」の言葉に、わたしとジェレミア卿が同時に「それはもう良いッ!」と声を上げていた。
この場に、ゼロの素性を知らない者がいては大変だ、というのがその理由である。
けれど再び一同の視線はディートハルトに集まる。
「あー‥‥その、ですね。ゼロの関係者が、アッシュフォード学園にいる、という事なので、調べるように、と‥‥‥ぁあああ!!!!」
言いながらディートハルトの声は段々と小さくなっていき、最後に叫ぶようにしてゼロを見た。
「もしやッ!あの写真の少年ですか?確か名前はルルーシュ・ランペルージと」
ディートハルトの叫ぶような確認の言葉に、わたしとジェレミア卿は身を縮める。
「あらぁ?やぁあっとわかったみたいねぇ?バレちゃったわよぉ、ゼロぉ」
キセルを揺らしながら女性がゼロに「どぅするぅ」と笑みを向ける。
要さんが驚いたように突然叫んだディートハルト・リートとゼロとを見比べている。
どうやらこの場で知らなかったのはこの二人だけだったのだと知る。
「‥‥‥写真?」
ゼロがディートハルト・リートに仮面を向けてから、ジェレミア卿とわたしに仮面を巡らした。
「‥‥その。シンジュク事変の折にわたしからナイトメアを奪った、その時の関係者と思い、ならばゼロと関連があると‥‥」
「写真はどうやって手に入れた?」
「それは‥‥ナリタでの事後処理中にその写真を持っている女生徒の手帳から‥‥」
説明をしている途中でゼロから息を呑む気配が伝わってきて、わたしは口を噤んだ。
「‥‥それ以上は良い。‥‥話は繋がったからな。一応聞いておく。‥‥入団を希望した動機を」
「ぇえ!?繋がったって、我が君。我が君の事を調べていたんでしょう?良いんですかー?放置で」
「プリン伯爵」が不満の声を上げる。
「良いんだ。唯、そうだな。お前に怪我を負わせた相手に対して報復しようとするなら‥‥その時は別とするが」
「‥ゼロッ!?君は彼女に怪我を負わせた相手を知っているのか?」
ゼロの言葉に真っ先に反応したのは要さんで、半ば腰を浮かせてゼロを見ていた。
「今気付いたと言うべきだな。‥‥血溜まりと銃の落ちた現場を見た。『人を殺した』のだと嘆いていた者を知っている。怪我はもう良さそうだな?」
ゼロのその沈んだ声音に、扇はストンと椅子に座り直した。
人を傷つけた事すらない素人なのだと気付いたからだろう。
「分かっている。それに関してはわたしが悪かったのだから恨んではいない」
「‥‥そうか。ならば改めて入団を希望した動機を尋ねたい」
「動機は三つある。一つにはジェレミア卿がここに来ている事。一つには扇要に受けた恩を返したい事」
「恩ってぇ、扇ぃ。なぁにしたのぉ?」
「ッ‥‥怪我をして倒れていたから‥‥手当てを‥‥その。無事で良かった」
「ヴィレッタ。彼はお前が急にいなくなったからとずっと心配して塞ぎこんでいたぞ」
説明した後、わたしに優しい笑みを向ける要さんに、ジェレミア卿が補足を入れ、わたしは戸惑った。
「それでぇ?後の一つは何かなー?」
「プリン伯爵」はその辺りには興味がないのか、さくっと先に進めようと話を促した。
「‥‥後の一つ、は。‥‥ゼロ。貴方が誰かを思い出しこれまでの非礼を詫び、赦されるならばジェレミア卿と共にお仕えしたい、と‥‥」
ヴィレッタの言葉に。
ロイドとダールトンとジェレミアは揃って嘆息した。
「まぁねー。そーいう展開だと思ってたけどさー」
「そうですな。この調子では、今後の展開も予想できると言うものですな」
「次は誰か、賭ける気も起きぬわ」
「‥‥‥それは同感ですが、わたしの合否はどうなっているのでしょうか?」
「採用する。これから宜しく頼む。ヴィレッタ。それとも『千草』と呼んだ方が良いか?なぁ、扇?」
ゼロの口から入団の許可を聞いてホッとしたのも束の間、要さんに振られた言葉に驚く。
振られた要さんもわたわたと慌ててから、小さく「‥‥あー‥おれ、は『千草』‥‥と呼びたいと、思う、けど‥‥」と言うのでわたしは驚いて要さんを凝視した。
「そうか。ならば、ヴィレッタの呼び名を『千草』にしよう」
あっさりと頷いたゼロはさらっとそう決定してしまった。
「‥‥とりあえず、ようこそ、黒の騎士団へ。‥‥と言うべきなのだろうな」
「奇跡の藤堂」が疲れたようにそう声をかけてきた。
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作成 2008.07.29
アップ 2008.08.25
この数日、どんよりと暗く、心ここにあらずな様子の扇を旧扇グループはもとより、藤堂や四聖剣も心配していた。
ゼロはと言うと、まだ扇の変調に気づいていないだろう。
「表で仮初の生活をするのはやめた」と言い放ったゼロは、表に戻る事がなくなった。
しかし、それに代わるように今まで表に戻っていた時間は自室に篭るようになったのだ。
カレンの話で、ゼロがカレンの同級生、つまり学生だった事が幹部にだけ知らされ驚愕を呼んだのはつい先日の事である。
プライベートと称されて、自室を尋ねる者も制限された為、もしかしたら表に戻っていた時よりも厄介かも知れないが。
ちなみに、許可されたのは、「ゼロの素顔を知る者」である。
藤堂、カレン、ラクシャータ、プリン、将軍、オレンジに加え今回新しく入団した三人である。
いや、更に加えて元から団員だったと主張し、何故かディートハルトもそれを認めた咲世子と言う女性もだ。
これまたカレンの話では、新団員の三人は学園の生徒でカレンやゼロとも仲が良いのだと言う話だった。
ゼロの正体に気付いて、共に戦いたいのだと言うのが入団希望の動機だと聞いて幹部達はゼロとの友情に感動する者もいた。
だが、そのうちの一人である車椅子の少女がゼロの部屋から出て来る様子がない事には首を傾げ捲った。
いや、ゼロの部屋を訪れる許可を貰っている者達には動揺は見られず、当然の事と受け止めているようだったが。
カレンが渋々ゼロの自室を訪れたのは、扇の様子を報せて、判断を仰ぐ為だった。
だがしかし、玉城達にせっつかれたとはいえ、騎士団の用事では、きたくなかったのだ、カレンは。
来る途中に、藤堂やラクシャータや将軍に「気をつけろ」的な忠告を投げ掛けられ、気が重いカレンだった。
カレンは扉をノックして「ゼロ、カレンです」と声をかけた。
『‥‥どうした?カレン』
中からゼロの声が届いて、カレンは泣きたくなった。
「その、扇さんが何故だか沈んでまして。副司令という立場上、このままにしておくわけには行かないので‥‥」
『‥‥‥‥カレン。扇と藤堂、それにオレンジ卿を小会議室に‥‥。そうだな、一時間後で』
カレンは「何故その組み合わせ?」と首を傾げながら「わかりました」と応じて引き返していった。
「むー。『奇跡の藤堂』はともかく、何故オレンジ卿なのさー。ミレイ君はぼくまで締め出しちゃうしさー」
ロイドは口を尖らせて文句を述べる。
「当然じゃないですか。リラックスする為の時間に軍人入れたがる人はそうそういません」
「そんなことないよー。ぼくの側は落ち着くって言ってた事だってあるんだからねー」
「勝手に捏造するのやめなさいよ。後、ゼロを待たせる事にならないように早目に行ってくださいね、扇さん」
「あ、あぁ。‥‥わかった」
名前を呼ばれて反射的にしたような返事に、どこまでわかったのか、みんな疑問に思う。
そんな中、ロイドと更にラクシャータ、ダールトンだけはロイドの言葉が捏造でない事を知っていたが言葉を重ねても無駄だと無言を保った。
「‥‥ディートハルト、今度は誰だ?」
そんな中、小さく息を吐いた藤堂がディートハルトに声をかけた。
「それはまさか‥‥。で、ですが、扇さんとジェレミア卿に関連しているらしい方は思い浮かばないのですが」
結局、藤堂の問いに明確な答えがでないまま、藤堂とジェレミアは扇を促しつつ場所を移動した。
カレンや井上は心配顔で扇を見送り、四聖剣は上司の苦労に苦笑を浮かべていた。
小会議室についた三人は、既にゼロがいる事に驚いた。
ジェレミアは「主をお待たせしてしまうとは‥‥‥‥」と平身低頭してしまっている。
ゼロが身振りで座るように促すのに従い、三人が席に着くと、ゼロは扇に仮面を向けた。
「扇、原因を話せ」
余りにも単刀直入な問いに、藤堂とジェレミアも唖然とする。
「それは‥‥‥‥」
言い渋る扇にゼロは溜息を一つ。
「わたしは知っている、と言えば話す気になるか?扇」
ゼロのその一言は劇的な効果を生み出し、扇はガタンと立ち上がる。
「知って、いる‥‥‥‥?」
「有り体に言えば女性問題、だろう?」
ゼロはそう言ってくすりと笑った。
扇は「それはそうなんだが‥‥」と口内で呟きつつ、ゼロを凝視した。
「扇、君の口から聞かない事には、話が始められないのだが?」
「‥‥‥‥ほ、ホントに知っているのか?‥‥全部?」
「少なくともお前が言い渋っている原因は把握しているつもりだが?」
扇はストンと椅子に座り込む。
「す、すまない」
扇から出た謝罪の言葉にジェレミアの表情が険しくなる。
「魔がさす事はある。初めの動機は不問にしてやるからさっさと話せ」
ゼロはそう言って扇を促すが次に口を開いたのは藤堂だった。
「ゼロ。知っていると言いながら話せ、というのは何故だ?」
「わたしが知っているのが表面の事象だけだからだ。扇がどう思っているなどの内面までは認知外なのでな」
ゼロの言葉に、扇はぽつりと話し始めた。
「もう十日、二週間になる‥‥。おれは、もう一度会いたいと‥‥。それが無理なら無事を確かめるだけでも良いからと」
うなだれて絞りだすように言う扇を、藤堂とジェレミアは痛ましそうに見る。
「良いだろう、扇。その望み、叶えてやろう」
ゼロは威厳に満ちた声で告げると、一枚の用紙をテーブルに乗せた。
「なッ‥‥‥‥!ななななななあぜ!」
扇が目を見開いて経歴書の写真に釘づけになっていると、ジェレミアが驚き吃りまくった声を上げて、写真を指していた。
「ヴィレッタ・ヌゥ。オレンジ君の元部下だな。‥‥‥‥扇には千草と言った方が良いか?」
「なッ!何故その名前までッ!」
「尋ねる前に備考欄を見てみろ」
そう言ったのは藤堂で、なんだかすっかり慣れてしまっている。
『ジェレミア卿、騎士団にいると聞いて驚きました、ヴィレッタ』と言うジェレミアに対する一文と。
『要さん。助けて頂きありがとうございました。千草』と言う扇に対する一文が並んでいた。
──審査「ヴィレッタ」編──
───────────
作成 2008.05.30
アップ 2008.08.24
(「父の日騒動」続編【5】/藤堂+ゼロ)
月下の中で、藤堂の考えがぐるぐると何度目かの始まりに戻った時だった。
月下の外でコツコツと音がするのに気付いた。
どうやら月下の装甲をノックしているらしいと気付いた藤堂は、モニターを見て固まる。
ぐるぐると思い悩んでいた原因がそこに存在したからだ。
藤堂は何とか腕を動かして外の音声を拾う。
『‥‥先程は、‥‥すまなかった、藤堂』
ゼロが悪いわけではないのに謝らせてしまった事に藤堂の動揺は激しくなる。
そしてゼロの後ろ、少し離れた場所で四聖剣がそんなゼロと月下を見ている事に気付いた。
藤堂は慌ててハッチを開け、「入ってくれ」と言う。
ゼロは首を傾げてから、それでもその指示に従い月下のコックピットに乗り込んだ。
当然ながら、藤堂は再びハッチを閉ざした。
モニター越しに四聖剣の驚く姿が映るが、今は無視しておこう。
狭いコックピットでゼロを振り返り、その近過ぎる距離に藤堂は再び動揺していた。
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2008.07.24作成
2008.08.01-2008.08.04up
2008.08.28再録
なんとか宥めたカレンを穏便に帰した後、未だに機嫌の悪い藤堂に四聖剣の視線は集中する。
「‥‥藤堂中佐。先程、紅月の言っておった少年の事を、ご存知なのですか?」
ゴホンと咳払いをした後、口を開いたのは、仙波だった。
一番、今回の事情に疎かったせいもある。
「えーと。昨日の散歩中に、助けてるところを見たんだよ。おれと藤堂さんと千葉さんとで」
黙ったままの藤堂に代わって朝比奈が答える。
「‥‥日本人をか?」
仙波が首を捻って尋ねるが、千葉が首を振って否定した。
「いえ、‥‥‥猫です」
「「‥‥‥猫ぉ~!?」」
仙波と卜部の訝しげな声が重なった。
「容姿についてはさっき言った通りだし、紅月さんが言うように口は悪くなかったし。あ。猫語までわかるんだよ、彼」
にこにこと朝比奈が答える。
「‥‥‥‥猫語‥‥?あの、にゃーにゃーとかってやつか?」
訝しげに眉を寄せ、卜部が猫の鳴き真似をしてみるが、はっきりいってミスマッチである。
「いや、彼は鳴き真似しなかったよ。猫の鳴き声を聞いて、普通に話をしてただけで」
「‥‥それって、単なる思い込みってやつじゃないのか?」
「え?そうかなー?だっておれ、聞いてて納得しちゃったし。ねぇ千葉さんもそうでしょう?」
朝比奈は首を振って千葉に同意を求めた。
「‥‥そうだな、わたしも判っているように感じた。‥‥猫を助けた彼が落ちそうになったところを、中佐が助けておられた」
「そうそう。急に飛び出して声を掛ける暇もなかったんだよね。‥‥でも藤堂さん?彼の足場が崩れたの、その後だったと思うんですけど」
千葉と朝比奈の言葉に、再び四聖剣の視線は藤堂に集中した。
「‥‥昔。似たような状況を見た事が有ったから、気付いたら身体が動いていた。‥‥その時は間に合わなかったのでな」
沈んだ声音で飛び出した理由を語る藤堂に、四聖剣は戸惑いを浮かべる。
もう少し詳しく、そう思いもしたが、尋ねて良いのかどうかを迷ってしまって言葉が出ないのだ。
「‥‥藤堂中佐。『間に合わなかった』‥‥というのはもしや」
仙波が意を決して尋ねたのは暫く沈黙が続いてからだった。
「いや。‥‥軽い脳震盪で気を失っていただけだ。‥‥目を覚ますまで、少々肝が冷えた」
藤堂は苦笑して四聖剣の懸念を拭ったので、そこは四聖剣もホッと息を吐く。
「‥‥中佐。昨夕の、『ルルーシュ』という少年を助けた時、驚いておられたようですが。仙波大尉の言われたとおり、お知り合いだったのですか?」
千葉が藤堂からの答えの得られていない問いを蒸し返して尋ねた。
「‥‥随分と会っていなかったし、また会えるとも思っていなかったが面識はある。‥‥彼は覚えていないようだったが、まだ小さかったから無理もない」
藤堂の声音に寂しさが混じっている事に気付いた四人は慌てた。
千葉と朝比奈は、礼を言うとさくっと帰っていった少年の様子を思い出し、朝比奈は「確かに覚えてなかったかもね~」と少年に対する評価を少しだけ下げた。
「小さかった‥‥とは、中佐は彼といつお会いに?」
「‥‥戦前、だな。戦後は‥‥一度見かけただけだ」
その言葉に、朝比奈は下げた評価を白紙にした。
攻めている敵地で、親がいたかもしれないが子どもが乗り切るのがいかに大変であるか、わからない者は四聖剣にはいないからだ。
例えその期間が短かったとしても、戦後に見かけたというのならば、無事に乗り切ったということだ。
「だがその後、姿が見えなくなり、日本人に殺されたのでは、との噂が立った。見かけたあの時、保護しておけば、とおれは悔やんだ」
だがそう続いた藤堂の言葉に、空白の七年を彼がどう過ごしたのかを思う。
「藤堂さんッ。そんな事情があるなら、もう一度ちゃんと会って話をした方が良いと思います」
「中佐。わたしも朝比奈に賛成です。紅月に言って彼に連絡を取って貰うべきです」
「ダメだ。これ以上紅月をこの件に関わらせる気はない。良いな」
有無を言わせぬ藤堂の強い口調に、四聖剣は反射的に「「「「承知ッ!」」」」と応えてしまっていた。
その後、藤堂は「暫く一人になりたい」と四聖剣に言い、四人は揃って頷くと部屋を出て行く。
静かになった部屋で、藤堂は再び昨夕の事を思い出す。
「ルルーシュ君‥‥。まさかこんなに近くにいたとは‥‥な」
藤堂の呟きは勿論誰にも届く事はなかった。
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作成 2008.06.27
アップ 2008.08.21
(「父の日騒動」続編【4】/ゼロ+四)
ゼロは月下の側で四聖剣に足止めされていた。
「藤堂さん、追い返したのにまだ何か用?」
朝比奈が刺々しく尋ねる。
「朝比奈、もうちょっと穏便に話せって」
「無理ですッ!卜部さんは黙っててください」
「お前が黙れ、朝比奈。これ以上話をややこしくするな」
宥める卜部に反論する朝比奈を千葉が抑え、ついでとばかりに頭に拳を振り下ろした。
「ぃったぁ~千葉さん酷いじゃないですか」
頭を押さえて抗議する朝比奈を、しかし見ている者はいなかったので朝比奈は拗ねた。
「ゼロ。藤堂中佐は隊長機の中におられる。‥‥が、その、」
仙波がゼロに藤堂の居場所を教え、それから何と言ったものかと言いよどむ。
「諍いに来たわけではない。‥‥渡したい物が有って、だな」
ゼロの言葉に、四聖剣は脇に退き、月下隊長機までの道が開いた。
「足止めしてすまなかった、ゼロ。通ってくれ」
千葉の言葉に、ゆっくりと頷いたゼロは隊長機へと歩いていった。
「お前さ、朝比奈。追い返す気ないのに意地悪するのやめろって」
ゼロの背中を見ながら、小声で卜部が注意する。
「少しくらいなら良いじゃないですか。藤堂さんにダメージ与えたのは事実なんですから」
「おれは知らねぇぞ」
朝比奈の言葉に、卜部がボソリと呟いた言葉は、小さすぎて誰の耳にも届かなかった。
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2008.07.08作成
2008.07.28-2008.07.31up
2008.08.24再録
★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
「ゼロの部屋に戻る」と言って2階に行ったはずのC.C.がいくらも経たない内に降りて来た。
「あれ?‥‥上がったんじゃなかったの?C.C.」
戻ってきたC.C.に気づいたカレンが声を掛ける。
「そのつもりだったんだが、あんなところ、いられないから戻って来たんだ」
不機嫌そうに、そして元気もなさそうに応じたC.C.は手近なソファにボスンと身を沈めた。
「いられない‥‥って、藤堂さんまだ戻ってませんけど?」
朝比奈が不思議そうに首を傾げながら声をかけた。
「そうだな。だからいられないんだ。全くあの馬鹿」
「ちょ‥‥まさかそれ藤堂さんの事じゃないだろうね?」
「違う。藤堂は堅物と言うんだろう?‥‥まぁ、堅物というのも違うのかも知れないが」
「ちょ‥‥C.C.ならそれってゼロの事を言ってるわけ!?」
朝比奈の抗議を退けたC.C.に今度はカレンが喰ってかかる。
「あんな奴、馬鹿で十分だ。‥‥というか、お前等安心しろ?どうやら、藤堂が説得に成功したらしいぞ?」
「「へッ!?藤堂さんが!?」」
カレンと朝比奈の声が重なる。
「あぁ。『第二皇子のところへは行かせない』とか藤堂が言っていた。」
C.C.がそう言った時だった。
「なッ‥‥。C.C.お前聞いていたのか!?」
慌てたゼロの声が頭上から降ってきたのは。
驚いた1階にいた幹部達は、そろそろと頭上を振り仰ぎ、ゼロと、その横にいる藤堂の姿を視認したのだった。
「聞かれて悪い事だったのか?」
「それを当人達のいないところで言うのが悪いと言っているんだ」
「なら、今なら当人がいるのだから言っても良いんだな?」
いつも通りのゼロとC.C.の言い合いに、頭を抱えたくなる幹部達だが、それでは一向に話は進展しない。
そんな事はみんな承知しているので、頭を抱えたくなるのを我慢して二人の言い合いを止めにかかった。
「ちょちょちょっと、待ってください、ゼロッ!それにC.C.あんたもよ」
カレンがまず声をかけて止める。
「ゼロ。それに藤堂さん。降りて来てくれないか。話を聞きたい事が、あるんだ」
扇がまだ2階部にいるゼロと藤堂に声をかけると、息を吐いたゼロに次いで藤堂も階段を下りてきた。
幹部達はそれぞれ動いてゼロと藤堂の場所を空ける。
空いた場所に座った二人は、「それで?」と扇を見る。
「えっと、今C.C.の言った、『藤堂さんが「第二皇子のところへは行かせない」とゼロに言った』というのは本当ですか?」
扇が藤堂に尋ねる。
「あぁ、確かにそう言ったな」
「えっと、じゃあ、C.C.が『藤堂さんが説得に成功したらしいぞ?』って言ったんですけど、それも本当ですか?」
朝比奈の問いかけに、しかしゼロと藤堂は顔(片方は仮面だったが)を見合せただけで無言を通した。
「‥‥中佐?」
黙る藤堂に千葉が声を掛ける。
「おれは確かにそう言ったが、ゼロの返答はまだ貰っていない。説得が成功したとは思っていなかったのだが?」
「ていうか、藤堂中佐は全然ゼロの引き留め作戦に参加してなかったから、成行きに任せてるんだと思ってたんだけど、違ったんですねー」
卜部が少しばかり驚いた表情を浮かべながら藤堂を見ていた。
「‥‥言っただろう?おれの我が侭と承知しているが、ゼロには行かないで欲しいと」
藤堂の再度の言葉に、四聖剣は4人とも頷き、くるりとゼロを見た。
「「「「ゼロ。藤堂中佐(さん)はこのように言っています。ですから、どうか騎士団に残り、第二皇子のところへはいかないでください!」」」」
四聖剣は声を揃えてそう言って、頭を下げた。
これにはゼロも、藤堂も、他の幹部一同も驚いた。
しかし、驚いてばかりもいられない。
「ゼロッお願いします。騎士団に!わたし達のところに残ってくださいッ!!」
いち早く我に返ったカレンが次いでそう言うとがばっと頭を下げる。
「ゼロッ頼む。おれ達にはゼロが必要なんだッ!」
扇もまたそう言ってやっぱり頭を下げた。
「「「「「ゼロッ!!頼むから残ってくれ!!!」」」」」
他の幹部一同もまたそう言って倣った。
「‥‥‥‥‥‥ッ」
「ゼロ。どうやら、みんな君を必要としているようだ。これでも第二皇子の誘いに乗るか?」
頭を下げて頼む幹部達に、気押されるように息を呑む声が仮面から漏れ、藤堂が尋ねる。
「‥‥ッ言っておくが、わたしを引き留めたからにはこれまでのようには行かないからそのつもりでいろよッ!」
ゼロはそれだけを言うとふいっと仮面をそむけてしまった。
「テレているのか?存外可愛いところもあるじゃないか?なぁ?」
C.C.のからかい口調の声に誘われて頭を下げていた幹部達がそろそろと身体を起こす。
そんな幹部一同の目に飛び込んできたのは。
キッとC.C.を睨みながらゼロを抱き寄せる藤堂と、まるで恥ずかしがるように藤堂の胸に仮面を埋めるゼロの姿だった、とか。
了
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作成 2008.08.11
アップ 2008.08.20
★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
藤堂が幹部会議室に足を踏み入れた時、そこでは男性陣がまだあーだこーだと言い合っていた。
その様子に、「良い案はあまり出ていなさそうだ」と思う。
「あ、藤堂さん。遅いですよー。‥‥ゼロは何て言ってました?」
藤堂の存在に目敏く気づいた朝比奈が声をかける。
「‥‥まぁ、まだ望みはあると見たが。‥‥下手を打って後押しだけはしてくれるなよ」
藤堂はまるで他人事のように言うと、朝比奈と仙波の間に空いている席へと座った。
「ん?千葉はどうした?」
「あぁ、それなら中佐。千葉を含めた女性陣は『紅月の色仕掛け作戦』の方に回ってて席外してますよ」
「ぐッ‥‥。‥‥い、色仕掛け、だと?」
藤堂は噎せかけ、数瞬置いてから、眇めた目で卜部を見て尋ねた。
「初めはC.C.って話だったけど、『自分は愛人じゃないから断る』って言われて、紅月になったけどよ」
卜部はそう言ってから、「あっちで女性陣だけ集まって詳細を詰めてるぜ」と女性陣が消えた方を指した。
「‥‥‥‥で、で?こちらはどうなんだ?」
「ばっちりだぜぃ。カレンがしくじったって、おれ様がばっちり決めてやるぜ」
玉城が自信満々に言うが、その周囲で扇達がげんなりとした表情をするので、どんな作戦かは推して知るべしだろう。
藤堂は扇に確認を取る為に視線を移す。
「ぇ、えーと。‥‥玉城は、第二皇子との会見の時にゼロを閉じ込めれば‥‥なんて言っている」
扇はすまなそうな上目使いで藤堂を見ながら、気弱そうな声で答える。
途端に藤堂の眉間の皺が増えたのに、幹部達は少し怯える。
「ゼロは『全員が納得しない内は』、との取り決めに同意している。そのゼロに無理強いをするのは感心しない」
「だけど藤堂さん。それって、ゼロがおれ達全員を説得出来ない内は第二皇子の誘いには乗らないって思ってて良いって事ですよね?」
朝比奈が藤堂の言葉を受けて問いかける。
「そうだな。‥‥だが、おれはゼロの説明自体には納得している。その上で、行って欲しくないと思うのはおれの我が侭だと承知しているがな」
藤堂に「納得している」と苦く笑われて四聖剣は怯み、扇達はうろたえる。
「最後の砦が~ッ!」と嘆く者もちらほらと窺える。
「‥‥とにかく、正攻法でやってみろ」
藤堂はそれだけを言うと腕を組んで目を閉じた。
仙波と卜部は息を吐いただけで何も言わず、朝比奈は扇に視線を向けた。
「~~~って事だから、扇さん。玉城の案はやっぱり却下って事で、後は片っ端から試してみましょうよ」
何が「て事」なのかと首を傾げる旧扇グループ達を他所に仙波と卜部は朝比奈の言葉に頷いた。
なものだから残る幹部達も仕方なしに頷き、ゼロへの説得工作を正攻法で仕掛ける事にしたのだった。
どんッ。
ゼロの自室で、仮面を外したルルーシュは握った拳をローテーブルに叩きつけた。
ルルーシュの座るソファの正面には、そんなルルーシュに同情する藤堂が座っている。
「‥‥大変そうだな、ルルーシュ君」
藤堂はそう言いながら腕を伸ばして叩きつけられたばかりのルルーシュの腕を優しく持ち上げると、痛むであろう場所を摩る。
「そう思うのでしたら、あの連中を何とかして欲しいのですけど‥‥」
ルルーシュは大人しく腕を預けたまま、弱り切った表情を浮かべて言った。
「だが、あれが君の見たかった団員の反応だろう?」
「‥‥そうですが。‥‥あぁもバラバラとやって来られたのでは、嫌がらせをされているようにしか思えませんよ」
「‥‥‥‥紅月は来たのか?」
ふと、藤堂は思い出して尋ねた。
「カレン、ですか?‥‥いえ、カレンはまだ‥‥。そう言えばまだ一度も‥‥」
きょとんとしたルルーシュは今まで嫌がらせのようにバラけて来ていた者が全員男だった事に気づいた。
「‥‥女性陣はまだ‥‥準備中らしいな」
不安そうな表情を見せたルルーシュに、藤堂は渋々ながらもそう答える。
本当は実行に移して欲しくはないけれど、とは思いながらもそんなルルーシュの顔を見ると黙っている事は出来なかったのだ。
「‥‥準備?そんなに準備が必要なんて‥‥何をするつもりなんですか?」
ホッと息を吐いた後、ルルーシュは不思議そうに首を傾げる。
「それは‥‥おれも良くは知らない」
「そうですか。‥‥ところで、やはり様子見、ですか?藤堂さんがここに来たのは」
「あぁ、そうだ。扇達からゼロのその後を聞いてきてくれ、と頼まれた。ついでにおれからも説得をしてきてくれとも頼まれたが」
「『出て行け』なら面と向かってそう言えと言いたくなりますね。‥‥藤堂さんは説得、しますか?」
「したいが、今は曲解されそうだな。‥‥と扇達には言って今回は何も言っていないとでも言っておこう」
「‥‥すみません、藤堂さん。おれが馬鹿な事を言い出したばかりに‥‥」
恐縮するルルーシュに、藤堂は笑みを見せる。
「構わない。どんな結果になろうと、最後にはおれが引き留める。シュナイゼルのところには行かせない」
「‥‥藤堂さん‥‥」
きっぱり言い切った藤堂に、ルルーシュは頬を染めて俯き加減になりながらも小さく頷いていた。
4に続く
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作成 2008.08.11
アップ 2008.08.19