04 | 2025/05 | 06 |
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扇とカレンは後ろ髪引かれる思いで、ゼロと藤堂、四聖剣の二人を残して騎士団の本陣まで下がっていた。
「おいッ、扇、カレン。ゼロや藤堂達はどうしたッ」
玉城が二人に苛立たし気に声を掛ける。
四聖剣の仙波と卜部や他の団員達もその答えを固唾を呑んで待っている。
「‥‥まだ残っている。‥‥シュナイゼルと会談中だ」
扇はカレンと視線を合わせてから、そう言った。
とりあえずはゼロの素性と、枢機卿については黙っているように言われているからだ。
言ったところで混乱を招くだけ、と言われては従うより他にないし、うまく説明できる自身もなかったからだ。
「‥‥じゃあ、扇さん。わたしは行きますね」
カレンは扇に一言声を掛けると、紅蓮弐式に向かう。
「って、何所行く気だ?カレン」
「任務、よ。‥‥ゼロに頼まれた事があるの。あ、仙波さん、卜部さん。ついて来て下さい。藤堂さんから許可は貰ってますから」
仙波と卜部は顔を見合わせ、一度政庁に視線を向けてから頷いた。
「「承知」」
カレンは紅蓮弐式に騎乗し、月下に乗った二人を従えてその場を去って行った。
「‥‥で?おれ達はここでボケーッとしてろってのか?」
「えっと‥‥。ラクシャータ、ディートハルト。被害状況はどんな感じだ?」
「ナイトメアはぁ~。パイロットがいるモノのぉ、損害率30%ってところねぇ。今修理中だけどぉ。全く動かないのはないわよぉ」
「団員の死亡者が32名。重傷を負って戦線離脱の者87名。軽傷多数、といったところですな」
ラクシャータがナイトメアフレームの事だけを説明し、後にディートハルトが人的損害だけを告げた。
「32、‥‥120‥‥か。とにかく交替で食事と仮眠を。話し合いの結果次第ではもう一戦有るかも知れない」
扇は溜息を吐くと、団員に指示を出した。
「ってシュナイゼルを捕まえたんじゃなかったのか?‥‥さっきの停戦の指示だって‥‥」
玉城が呆れたような声を出す。
「とりあえず、一旦停戦、と言うだけだ。今おこなわれている会談がどうなるのかはおれだって知らない」
扇は政庁に目を向け、眉を寄せながら、そう言った。
「そんな状況なのに、ゼロを残して来るなんて、ゼロに危険はないのですか?」
扇の言葉に素早く反応したのはディートハルトだ。
彼に関して言えば、ゼロの安否だけが気がかりなのだろう。
「それは‥‥。藤堂さん達が責任を持って護る、と言っていたから‥‥。ゼロには3人付いているし」
「ゼロには?‥‥シュナイゼル殿下には何人ついているのですか?」
「あー‥‥っと、‥‥1人、だよ。‥‥武装はしてない、と思う」
扇は滑った口を呪いながら、ボソボソと応じていた。
ソファにシュナイゼル、『ルルーシュ』とゼロ、藤堂が向かい合って座り、千葉と朝比奈はゼロと藤堂の後ろに立っていた。
「立っていられると落ち着かないね。‥‥君達も座ったらどうかな?」
シュナイゼルが千葉と朝比奈に声を掛ける。
「座りたくなったら考えますよ。それか藤堂さんに言ってください」
朝比奈はシレっと応じる。
シュナイゼルは、藤堂に視線を向けた。
「ゼロ、気になるなら座らせるが?」
藤堂はシュナイゼルの視線などお構いなしに隣のゼロに聞く。
ゼロは首を傾げた。
「わたしは別に気にならないが?」
「‥‥まぁ君は、そうだろうね、ゼロ」
昔から他人の視線には頓着しない二人の「ルルーシュ」に、双子だと知る者達がどれほど気をもんだ事か。
特に苦労させられたのは、離宮以外で会う事の多かった第二皇子とアッシュフォード家の令嬢だった。
シュナイゼルやミレイが笑顔の下で、他人の視線に敏感になったのは、それが原因なので、物悲しい気分になった。
「義兄上、話を進めましょう」
『ルルーシュ』がやっぱり、シュナイゼルの言った意味を理解しないまま、先を促した。
「まずお尋ねしても?‥‥何度ありますか?シュナイゼル義兄上」
ゼロが尋ねる。
「やれやれ。二人ともせっかちだねぇ。‥‥クロヴィスが亡くなる前までで32回‥‥だったかな?」
シュナイゼルの回答に、ゼロだけでなく、『ルルーシュ』もまた驚いていた。
「良くそれで、未だに宰相なんてやれてますね‥‥」
「と言うか、それだけ失敗してるんですか?‥‥わたしは人選を誤ったのかも知れませんね」
二人してそっくり同じ呆れ顔をシュナイゼルに向けて言い、一拍置いて続けた。
「「‥‥と言う事は、まさか他の者も?」」
声を揃える双子に視線を向けたシュナイゼルは苦笑する。
「ゼロが知らないのは判るとして、猊下もご存知ではなかったとはね」
「仕方がないでしょう、シュナイゼル義兄上。足場固めに忙しかったのですから」
どこか拗ねたように『ルルーシュ』が言い訳を口にする。
「と言う事は、兄上はゼロですか?」
「‥‥‥数回クロヴィス義兄上を嗾けた事はあるよ」
「クロヴィス義兄上がエリア11に飛ばされたのはそのせいですね‥‥。気の毒に」
確かに気の毒とは思う。
本国で第十一皇子の口車に乗ったせいでこの地に飛ばされ、飛んだ先で第十一皇子に暗殺された事になるのだから。
「ゼロ。それは何の回数ですか?」
千葉が口を挟む。
「‥‥知りたいのか?」
「はい。教えて頂けるのでしたら」
首を傾げて訝しげに問うゼロに、千葉は頷いた。
ゼロは、「そうか‥‥」と呟いた後、シュナイゼルと『ルルーシュ』に視線を向けた。
「「皇帝暗殺‥‥失敗の回数と言うのが正しい(でしょう)ね」」
千葉の問いに、二人の「ルルーシュ」が同時に答える。
「確かに失敗しているけどね、初めから失敗を前提にしているわけじゃないのだし、一言余計だよ、二人とも」
「「事実は認めた方が宜しいですよ、シュナイゼル義兄上」」
苦笑しながらやんわりとシュナイゼルは訂正を求めるが、二人に軽く一蹴されてしまった。
「「‥‥‥‥皇帝暗殺!?」」
やっと言葉が脳に浸透した千葉と朝比奈が、揃って驚きの声を上げる。
「弱肉強食が国是だからね。皇帝から苦情は出ないんだよ。だからまぁ、この件に関して皇族なら咎められる事もない」
シュナイゼルが笑みを浮かべたまま応じる。
「それにしても、その回数は頑張り過ぎでは?」
「単純計算で年5回以上ですね」
二人はやはり呆れた口調のままである。
「‥‥‥‥曲がりなりにも貴方達の父親の事だろう?ゼロも」
千葉が呆れ混じりの口調で皇族達に意見する。
「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」
双子は、顔を見合わせて沈黙する。
「‥‥‥‥あの男が父親である事を喜んでいる兄弟の方が少ないのだよ」
苦笑して応じるシュナイゼルの声音には明らかな怒りが混じっていた。
「えーっと。それって皇子皇女のほとんどが主義者‥‥って事なのかな?」
混乱した朝比奈が、そろっと尋ねてみる。
「「「‥‥‥‥‥‥」」」
皇族の三人は、沈黙したまま顔を見合わせた。
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作成 2008.02.29
アップ 2008.08.02
(「災厄は突然に」設定/藤ル.ル)
「‥‥これは?」
藤堂はルルーシュが取り出してきてローテーブルの上に置いた小さな機械の群れに首を傾げた。
「小道具、だな。集音器とその受信機。離れている間に、伝え切れていない事を聞かれると困るだろう?お互いに」
ルルーシュは「お互いに」と言ったが、頭の良いルルーシュは藤堂が説明した事は既に頭に入っているようだ。
とすれば藤堂の伝え漏れを気にしているのかも知れないな、と藤堂は苦笑した。
「おい。おれは何をどう言っても突発的な事には弱い。こう言うのが有った方が気分的にも楽なんだ」
ルルーシュは「今、邪推してなかったか?」と鋭い眼差しで藤堂を見る。
お互い自分の顔に浮かぶ表情を見ているからか、かなり正確に藤堂の心情を言い当てたルルーシュに藤堂は唸る。
「‥‥なんと言うか、自分を外から見るというのは‥‥」
「言うなそれは。おれだって変な感じがしているんだ。‥‥それより説明を続けるぞ?」
ルルーシュは藤堂が頷くのを待って口を開いた。
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2008.06.30作成
2008.07.14-2008.07.20up
2008.08.05再録
念の為にと、ラクシャータは半ば強引に包帯を取り換えた。
「‥‥ちょっ、ゼロあんた、ホントにジッとしてたわけ~?」
傷口を見たラクシャータはかなり憤慨していたが、技術屋らしくその手付きは繊細だった。
なので、手当が終わるとゼロは「すまない。‥‥助かった」と仮面なのにも関わらずソッポを向いて礼を言ったくらいだ。
「‥‥あんたさ~。もしかして仮面の中身、結構若くてハンサムだったりする~?それでもって少々照れ屋かな~?」
ラクシャータはジーっとゼロの仮面を凝視して、そんな感想を述べた。
「ぶっ‥‥」
ゴホゴホとC.C.がむせて咳き込んでいる。
「‥‥どーでもい~けど~。どーして、藤堂まで反応してるのかね~?」
藤堂は胡乱な視線をラクシャータから受けて思わず視線を逸らせてしまう。
「そうイジメるな、ラクシャータ。藤堂はわたしの顔を知っているからな。‥‥それよりC.C.。貴様、そんなに笑うな」
あっさりゼロは藤堂を評し、笑いを堪えているC.C.に声を投げた。
「あっはっは。その仮面のどこをどうみたらそうなるのか、考えると笑わずにはいられるか」
C.C.はゼロに向き直ると、堪えるのをやめて盛大に笑い飛ばしてそう応酬する。
「ん~。やっぱりそーなのかぁ。結構告白され慣れてるでしょぉ?でも、照れが出る年頃だから高校生か大学生くらい~」
「なるほど?慣れる程告白されるならハンサムで、高校や大学なら十分若いと言うわけか。良かったな、ルル‥‥っと、ゼロ‥‥」
C.C.は素顔の話をしていたせいで、思わず名前を呼び掛け、慌てて言い直して口に手を持って行った。
室内に流れる重い沈黙。
C.C.が、藤堂が、そしてゼロがラクシャータを見ていた。
「‥‥若くて、ハンサムで、統率力が有って、頭も良くて、ナイトメアフレームの知識にも詳しくて、‥‥そして、ブリタニアを憎んでいる‥‥」
ボソボソと、形容詞を述べて行くラクシャータにいつもの口調はそげ落ちていた。
「‥‥もしかしなくても、ルルーシュ様ですか?」
藤堂とC.C.はそろりと視線をゼロに向ける。
「‥‥‥‥‥‥。後で覚えていろよ、‥‥C.C.」
地の底から響いていそうな低い声音で、己の共犯者を恫喝するゼロに、C.C.は項垂れる。
「すまない。今のはわたしの失態だ」
己の過失を全面的に認めてC.C.は珍しくも謝った。
「‥‥なら、やっぱり。‥‥」
姿勢を変えようとしてラクシャータは藤堂とC.C.に視線だけを向けた。
「‥‥心配ない。二人とも知っている。‥‥おれが、誰なのかも。‥‥C.C.」
ゼロは一転威厳のある声になってそう告げてから、C.C.を呼ばわった。
溜息を吐いたC.C.はゼロの後ろに回ってその仮面を外した。
現れたのは漆黒の髪と白い肌と紫の輝きが──鋭く一つ。
「‥‥生きて、‥‥生きておられたのですね。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下」
ポロリと、ラクシャータの瞳から涙が零れ落ちる。
相変わらず、黒いバンダナをしたルルーシュを見て、藤堂は顔を顰めていた。
「その名は既に死んでいる。廃嫡もされているし、意味もない。‥‥表ではルルーシュ・ランペルージを名乗っていた。ここではゼロだ」
「そんな事は関係ありません。わたし達技術屋にとっては『閃光の』マリアンヌ様と、ルルーシュ様、ナナリー様は絶対のお方」
切々と語るラクシャータに普段とのギャップが有りすぎて、藤堂は頭痛を覚えた。
「‥‥ひとつ言っておく。団員や他の人の目のある場所で、今まで以外の態度は取るなよ。お前がそれを見せたらみな驚く」
こめかみに手を置く藤堂の気持ちを察したのか、ゼロがそう言った。
「はい。‥‥ところで、殿下」
「それはやめろ。呼び方は今まで通りゼロだ。‥‥もしも万が一、ゼロでない時に会ったとしてもそれは許さない。話し方も戻せ」
ラクシャータの話の腰を折って、ゼロはそう命じた。
「‥‥その目をどうなされたのか、お答えくだされば考えましょう?」
「‥‥。そうだな。ラクシャータ。お前、眼帯を作れないか?‥‥どんな光も通さない、漆黒の」
ゼロの言葉に、ラクシャータと藤堂は首を傾げてしまった。
「‥‥ゼロ。視力を失っているわけではないのか?」
藤堂が訊ねる。
「ん?‥‥あぁ。見えるぞ、ちゃんと。見せる気がないだけで。作れるか?ラクシャータ。‥‥他にもつけたい注文はあるが‥‥」
「‥‥‥‥。作れる事は作れるけど~。他の注文って~?」
「装着者、つまりおれの意思でスライド出来ればもっと良い」
言葉づかいを元に戻したラクシャータに応じたゼロの言葉に、C.C.はゼロの仮面を被った。
「つまり、こう言う具合に、だ」
シュッとごくごく軽い音と共に、仮面の一部が消え、仮面をつけたままのC.C.の左目が見えた。
シュッシュッとC.C.はそれを何度か繰り返した後、仮面を外す。
「仮面を被っている時には、連動できれば更に良い。だろう?ルルーシュ」
「‥‥C.C.。騎士団内で名前を呼ぶのは止せ。また間違える気か」
C.C.の呼んだ名前に、嫌そうな表情を浮かべたゼロは言い返す。
「いつまでも過去の話を持ち出すな。男らしくないぞ」
「貴様はもっと女らしい言動を取った方が良いぞ、C.C.」
取り合わない様子でC.C.が応じると、ゼロはそれに即座に言い返す。
「えっとぉ、ゼロ?‥‥前々から噂には有ったけどもぉ。‥‥C.C.が愛人ってのは本当ですかぁ?」
ラクシャータが尋ねた途端、ゼロは再び嫌そうな表情を浮かべた。
「愛人?このピザ女が?‥‥‥誰だそんな根も葉もない噂をバラ撒いているのは」
「わたしにだって選ぶ権利はある。こんな軟弱者はお断りだ」
「愛人か」と問われた時、二人はほとんど同じ台詞を吐く。
お陰で藤堂は何度目かの台詞を耳にしたわけだが。
「‥‥いつも、否定するだけだが‥‥。では、どういう関係なんだ?」
流石に訝しんで、藤堂は疑問を口にしていた。
「なんだ、藤堂。お前も気になっていたのか?‥‥『共犯者』。以前にもそう答えたはずだが?」
「何に対する、『共犯者』なんだ?」
苦笑して応じるゼロに、藤堂は突っ込む。
「‥‥‥C.C.はゼロのきっかけの一つだ。C.C.がいたからこそ、反逆の計画を前倒しに進めてこれた。その代価はまだ支払っていないがな」
「‥そうだな。わたしは代価を受け取るまでは『共犯者』として傍にいる。外野の意見は受け付けない」
それは藤堂の問いからはズレた答え。
ゼロとC.C.の両方が、わざとズラした答えを返しているのならば、これ以上は何を聞いても無駄なのだろうと藤堂は諦めの溜息を吐いた。
「‥‥代価が何か、聞いても良いだろうか?」
「‥‥‥‥‥。知って良いのは、契約を交わした相手だけだ。他に教える気はないし、教えさせる気もない。諦めろ」
「えーとぉ?仮面と連動するとかしないとかって話だったかなぁ?」
固まった空気を払拭させるかのように、ラクシャータが話を戻したのは、少したった後。
「‥‥あぁ、出来るならば、頼みたい」
「まかせて~。ゼロの頼みだしぃ~。張り切ってあげるわ~」
ラクシャータは二つ返事で頷いたのだった。
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作成 2008.01.28
アップ 2008.07.31
(「ナナリーi.n騎.士団」設定/神楽耶)
神楽耶は待ちわびていた。
ナナリーが来ると桐原に聞いてから、それはもう実際にやって来る日を心待ちにしていた。
キョウトにいるのは年寄りばかりで、ずっと退屈だったのだ。
少し年上になる従兄がいるにはいたが、現在名誉になんぞなりおったから絶縁を申し渡した。
それに反発したからか知らぬが、今では軍に入り、「日本」を攻撃していると言う。
あのような不甲斐無い従兄を慕っていた昔の自分が呪わしい。
いや、今はもう絶縁した奴の事などどうでも良い。
ナナリーは本当に年の近い同性の友達だったから、その兄ともども亡くなったと聞いた時には泣いたものだ。
二人は「ブリタニア」とそして「日本」によって殺されたのだと、ずっと思っていたから。
神楽耶と従兄が唯目先の事に囚われていた為に、大切な友人を失ってしまったのだと。
だから神楽耶は頑張った。
幼い身で、お飾りと言われようとも出来るだけ見聞を広め、己の意思をしっかりと持つように心がけた。
遅い‥‥そう思わないでもなかったが、だからこそしっかりとしようと決めていた。
今では多少の発言権はあり、黒の騎士団への援助を決めたのも神楽耶だ。
それが結果的に失ったと思っていた友人の役に立った事が純粋に神楽耶は嬉しかった。
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2008.06.20作成
2008.07.08-2008.07.13up
2008.08.06再録
★hidori様へのリクエスト作品★
(朝.ゼロ/ブラコン皇.族兄弟(シュナ、ネリ、アラン?)/騎.士団押し掛け話)
沈黙。
「‥‥‥そうかぃ」
ゆぅらり、とシュナイゼルが前に出ながら呟いた声は、そこはかとなく低かった。
「きさま‥‥か」
一瞬で殺気を放出し始めたコーネリアもまた前に出る。
「ぜっ‥‥‥たいに認めないから、今すぐ離れろッ!」
アランもまた前に進みゼロの腕を掴んで朝比奈の腕から解放しようと引っ張り始める。
「‥‥えーっと。朝比奈さんと皇族三人組で、ゼロの取り合いしてる、の?」
いけ好かないクラスメートそっくりの皇族がぎゃいぎゃい騒いでいるのを呆然と見ながらカレンが呟いた。
そっくりだけど、そいつなら絶対見せない姿に激しいギャップを感じながら。
「ゼロぉ。この調子だとバレるの時間の問題だから、先に団員達に説明しといた方が良いわよぉ」
ラクシャータの忠告が飛ぶ。
ゼロはラクシャータの言葉に、またもや深々と溜息を吐いた。
「‥‥今すぐ離さないと嫌いになるぞ」
小さく呟かれたゼロの言葉に、朝比奈とアランが同時にゼロを離し、ゼロはその反動で数歩たたらを踏むも何とか堪える。
「まぁ、確かに。ラクシャータの言う通りだな。しかし、お前はそれで良いのか?ラクシャータ」
身軽になったゼロが頷いて問い返せば、ラクシャータはこの上なく素晴らしい笑顔を返した。
「喜びこそすれ非難なんて致しませんわぁ」
ゼロは次に、藤堂に仮面を向ける。
「藤堂。お前は?」
「問題はない。‥‥これまで以上に力になろう」
重々しく頷いた藤堂は、そう言ってからやはり優しい笑みを見せる。
その事に朝比奈を含めた四聖剣は驚いた。
ゼロは更にカレンへと仮面の向きを移動させる。
「‥‥カレン。その‥‥‥‥‥君は?」
「‥‥ッへ!?‥‥て事はまさか‥‥‥。そ、そうね。後で一度だけ苦情を聞いてくれるなら以降は従うわ。良いわよね?そのくらいは」
尋ねられるとは思っていなかったカレンは、驚くも、何故尋ねられたのかを察して、ゼロを窺いつつそう言った。
ゼロ至上のカレンらしくない頷き方に驚く幹部達を尻目に、ゼロはあっさりとそれを容認した。
「あぁ、妥当だな。認めよう。‥‥朝比奈」
そして、更には騒動の渦中とも言える朝比奈へと問いかけは移る。
「一体何の基準だ!?」とは問われていない幹部達の共通する思いだったりする。
「むー。この三人受け入れないってなら文句なしに賛同するんだけど。すっごく邪魔だし」
問われた朝比奈はむくれて皇族の三人を睨みながら言う。
「何を言うか。貴様のような悪い虫をいつまでも可愛いゼロの側にのさばらせておく気はないわ」
即座に反論するコーネリアに、ゼロは仮面の上から頭を押さえた。
幹部達の混乱はいや増す。
「悪い虫‥‥ってあれの事か?」とか「朝比奈が悪い虫って‥‥」とか「可愛いゼロだってぇ~~え!?」とか。
囁き合っていたり、絶叫していたりと幹部達は忙しい。
しかし、「わかった」と言ったゼロが両手を仮面に持っていったのを見て、しーんと静まった。
小さな機械音の後、そっと仮面を外すゼロに、幹部と皇族と‥‥その場にいる全ての者の視線が注がれる。
さらりと黒い髪が揺れる。
仮面を片手に持ち直し、空いた手でマスクを下げる。
白い肌に赤い唇に、そして強い意志を窺わせる紫の瞳。
ゼロの仮面の下から現れたのは、────。
「同じ、‥‥顔!?」
アランと言った第十皇子とそっくり同じ顔が有った。
「わたしは。神聖ブリタニア帝国の第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア‥‥アランの同腹の弟、だな」
「素直に双子だって言いなさい、ルルーシュ。わたしがどれだけ君に会いたいと思っていたと思ってる?」
少し怒ったような表情でそれでも仮面を外した「弟」を嬉しそうにアランは見る。
「さて。既に廃嫡されているはずですし、皇位継承権も手放した身ですよ?」
しれっとルルーシュは言うが、皇族三人組に揃って首を振られて「ん?」と首を傾げる事になる。
「残念だけどね、ルルーシュ。君達の廃嫡は無効になったし、死亡報告も握り潰したから鬼籍に載ってもいないよ?」
「わたし達がお前達の死亡報告とやらをそのまま鵜呑みにすると思っていたのか?」
「そうそう。片割れの喪失に何も感じないなんてあるはずないからね。ちゃんとあの男を脅してそんな書類全部抹消しておいたよ」
にこにことルルーシュの顔を嬉しそうに見る三人の皇族に、ゼロの素性を知ったばかりの幹部達はどこに驚くべきだろうかと悩む。
ゼロが皇族だったという事よりも、これまで敵対していたはずの皇族がこの場にいる事の方に驚きの比重があるように思うからだ。
いや、それよりも。
「ルルーシュ君。おれ、君に双子の兄弟がいるなんて全然聞いてなかったんだけど」
「言ってなかったからな。第一おれは既に廃嫡されていると思っていたし‥‥」
ルルーシュに対して抗議の声を上げる朝比奈と、それに応じるルルーシュに、「あれ?」と思う。
「あの男の戯言なんぞ、気にするな。酷い事を言ったと聞いたからな。きっちり一万倍返しにしておいたぞ?」
「あぁ、わたしも三千回程暗殺者を送り込んでおいたのだけどね。しぶといのだけが取り柄のあの男には効果が見られなかったようで残念だよ」
「あの男の通る床にワックスや油を流したり、バナナの皮を置いたりと嫌がらせはたっぷりしておいたからね」
三人の言う「あの男」が誰だか判ったのはラクシャータと藤堂、それに朝比奈とゼロの四人だけ。
「あの男って誰だ?」
「い、一万倍返しって‥‥普通は倍返しか、多くても十倍返しだよな?」
「三千回も暗殺者送り込んでるのに無事って何もんだ?」
と、怖くて声高に尋ねられない内容に、幹部達はひそひそと囁き合う。
「‥‥なるほどな、アランのせいか。あの男の視線が時々足元に向けられたり、恐る恐る歩く時が有ったのは」
「あ、気づいてくれてたんだね、ルルーシュ。だって、すっ転ぶ度に衣装を汚すし、流石に放送中にそんな無様な姿をさらせないから、必死だよね」
「だぁ。そうやってルルーシュ君の気を引こうとするのやめなよ」
「うるさいな、お前には関係ないだろ。わたしはルルーシュの双子の兄なんだ。一緒にいるのが当たり前なんだからね。君のが邪魔」
「むー。何言ってるのさ。ルルーシュ君はおれの恋人なんだから、兄弟だからって割り込まないでよね」
喧々囂々とヒートアップした二人の言い合い、その内容に、幹部達は今度こそ絶叫していた。
ルルーシュは耳を塞いで音を遮ると、少し下がって藤堂の横に並ぶ。
「えーっと。‥‥朝比奈と付き合っているというのは本当なのか?ルルーシュ君」
朝比奈とアランの言い合いに、シュナイゼルとコーネリアが参戦するのを見ながら、藤堂はそっとルルーシュに尋ねる。
「‥‥はい、一応。あれ、収まるまでここにいて良いですか?二人まで参加してしまったので止められません」
頬を染めてテレながらも頷いたルルーシュもまた、四人の言い合いを見つめていた。
「それは良いが。‥‥止めて欲しいのなら割り込むぞ?」
「無理無理ぃ。やめときなさぁい、藤堂。あぁなったら殿下方はやめないしぃ、それなら朝比奈だってやめるわけにはいかなさそうだしねぇ」
ラクシャータが近づいてきて藤堂の提案を却下してのけた。
「扇。すまないが、ゼロがわたしである事に異論がないようならば通常作業に戻ってくれないか?」
「‥‥‥‥。わ、わかった。異論はない、し‥‥。ここは任せる、よ」
扇は頷き、その他の見ているしか出来なかった者達を促して作業に戻らせた。
ドモッていたのは単に急な展開についていけなかっただけにすぎない。
そう、思いはまさに、カレンの述べた事、「朝比奈さんと皇族三人組で、ゼロの取り合いしてる」事に驚いているというやつである。
そうして大半の者が通常作業に戻っても、朝比奈とシュナイゼル、コーネリア、アランの言い争いは続いていた。
ルルーシュには止める意思はないらしく、ラクシャータは楽しそうにその様子を見ている。
藤堂と残りの四聖剣は、呆れたような、諦めたような溜息を吐きつつ、朝比奈に視線を向けるのみ。
いつ終わるとも知れない舌戦の攻防を始まりとして、騎士団が新たに認識した事。
それは朝比奈とゼロが付き合っているという衝撃的事実と。
皇族の三人が新たに騎士団に入団したという事。
そしてゼロに不用意に近づけば争いに巻き込まれるという事だった。
了
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作成 2008.07.26
アップ 2008.07.28
★hidori様へのリクエスト作品★
(朝.ゼロ/ブラコン皇.族兄弟(シュナ、ネリ、アラン?)/騎.士団押し掛け話)
その三人が格納庫に姿を見せた時、ほとんどの者が「‥‥夢だ‥‥最近忙しかったし‥‥」と認識した。
そう、現在敵対している相手のトップとも言える第二皇子と第二皇女が(騎士でもなさそうな)供を一人だけ連れて乗り込んでくるはずがないのだ。
しかし、別の視点で見てしまった幾人かがその大半がただの供としか見ていない三人目を凝視して固まっていた。
名前を挙げるならカレンとラクシャータ、藤堂、それに朝比奈だった。
カレンは「どうしてあいつが皇族なんかと一緒にいてしかもこんなところにやって来るのよッ!」と驚いていた。
ラクシャータと藤堂は俯き加減なその顔を良く見ようと食い入るように見ている。
みんなが正気ならば恰好のからかいネタだっただろう。
そして朝比奈は初めこそ蒼褪めていたが、「何か違うなぁ」と首を傾げる。
団員が誰も銃を向けないのを確認したコーネリアが一歩進み出た。
「ゼロはいるか?話がある。ゼロを出して貰おう」
居丈高に言い放つコーネリアに、やっと頭が回った幹部達が警戒して身構えた。
「もう少し穏便な言い方をしなさい、コーネリア。争いに来たわけではないのだから」
いきり立つコーネリアを横から諌めるシュナイゼルの言葉に、戸惑ったように顔を見合わせる者多数。
「報せるにしても、誰が来たか言わないと報せに行った者が怒られるんだけど、名乗る気もないわけ?」
そう言ったのが朝比奈だった事に藤堂と残る四聖剣が驚く。
確かに朝比奈は良く口を挟む性質だが初めから全開なのはあまり例がなかったからだ。
「これは異な事を。わたし達の事は知っているだろう?」
シュナイゼルが平然と応じる。
「第二皇子と第二皇女は知ってるね、流石に?けど、‥‥そっちは?」
「あぁ、彼かぃ?アランと言うんだよ。確かに表に出る事の方が少ないから知らないかも知れないね」
シュナイゼルはそう応じてから、アランに視線を向ける。
ふいと逸らされる顔にシュナイゼルは息を吐くと再び前を向く。
「さあ、ゼロを呼びたまえ」
シュナイゼルが催促するが、誰かが呼びに行く前に騒ぎを聞き付けたのかゼロが現れた。
「何の騒ぎだ?これは」
ゼロの声に人垣が割れ、ゼロは侵入者を目視することになった。
「‥‥‥‥何故ここにブリタニアの皇族がいるんだ?」
「ッてめぇに会いに来たんだと!」
玉城がツッコむ。
「用はない。引き取って頂け」
「ツレないなぁ。折角こうやって会いに来たんだ。お茶の席にくらい招きなさい、ゼロ」
即答するゼロをシュナイゼルがやんわりと諌め、コーネリアはうんうんと頷いている。
そこでアランと呼ばれた黒髪の少年が二人の間から進み出て来た。
止める間も、割って入る間もなく、ゼロの前まで辿り着いた少年は、何故か動かないゼロに抱きついた。
「会いたかったよ、ゼロッ!てか無粋な仮面も外しなさい。あと『ゼロ』と呼ぶのもあれだから名前呼んで良いね?‥‥‥‥ダメ?」
大半が唖然とし、カレンは悲鳴を上げ、朝比奈は無言で近付くとベリッと音が聞こえそうな勢いでアランをゼロから引きはがした。
「ダメに決まってる。第一ゼロに抱き着くな」
「むッ、君にとやかく言われる筋合いはないな。それに拒否はされていない」
「固まってただけだろ。何を都合の良いように解釈してるのさ、図々しい」
突然始まった言い争いに、次第に空気は唖然から困惑に変わって行く。
「ちょッ‥‥と待て。朝比奈。アラン、お前もだ」
フリーズの溶けたゼロが未だ混乱中だと言う事がすぐにわかったのは四人だった。
侵入者達と朝比奈である。他の者も遅れて気付く。
「‥‥‥‥‥‥あのさ、ゼロ。なんだってそいつの名前、知ってるんだ?そいつもゼロの名前知ってるッぽいし‥‥。まさか知り合い?」
扇の問いに視線がゼロに集まる。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
ゼロは無言を通していたが仮面の下ではルルーシュが打開策を考えるも、良案なんて浮かばない。
浮かぶはずがないのだ。
カレンは疑惑の眼差しでアランを凝視しているし、藤堂とラクシャータの視線は既にゼロに向けられているのだ。
そんな中では何を言ったところで納得させられる訳がない。
更に言えば朝比奈もアランも睨み合って一歩も譲らない構えだし、シュナイゼルとコーネリアも参戦する気満々だとわかるし‥‥。
「ゼロ。その馴れ馴れしい奴は何?人名乗らせといて自分は名乗りもしない無礼者を側に置くのは感心しないよ」
「名乗ったのは君じゃないだろ。第二皇子が紹介してたじゃないか。‥‥おれはね、朝比奈って言うんだよ。ゼロが呼んだの聞いてなかったの?」
やはりバチバチと火花を散らせて言い合う二人に、ゼロはまず藤堂を振り返った。
「‥‥藤堂、朝比奈を止めろ。第二皇子、第二皇女、アランを止めて頂きたい」
深い溜息をつきながらゼロが言うと藤堂は朝比奈に近付いたが次に視線を向けられたシュナイゼルとコーネリアは首を振った。
「それは出来ないな、ゼロ。どちらかと言うと参戦したいと思っているくらいだからね」
「そうだぞ、ゼロ。だいたいアランばかり名前を呼ぶのはずるいだろう?」
平然と言う二人に「参戦って何?」「ずるいってなんだ?」と幹部達の頭上には大量の「?」マークが浮かぶ。
藤堂は「あちらに止める意思がないのに朝比奈だけ下がらせるのは良いものか」と迷う。
「あッそうだ、ゼロ!説明!」
朝比奈が思い出したかのように肩越しにゼロを顧みた。
朝比奈の求める説明が、他と違っている事にゼロは気付いたがこれまた「どーするかなぁ」と悩んだ。
少し置いて溜息をつくと、アランに視線を固定させた。
「彼はアラン・ヴィ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国の第十皇子‥‥。マリアンヌ皇妃が長子。‥‥皇位継承順位はどうなっていましたかね?」
「離れる気ないからね、変わらず十六と十七だよ」にっこり笑うアラン。
「‥‥では、ゼロ。やはり君は‥‥」と足を止めた藤堂が言い、「生きてらしたんですねぇ」とラクシャータがホッとする。
「だぁあッ!そこ!てかテメェらさっきからッ!こっちにも判るように話しやがれ」
疎外感を覚えた玉城がキレ、そこかしこで幹部達がそれに同意するように頷いていた。
ゼロは玉城を振り返った後、皇族3人組に視線を移した。
「‥‥用件を伺いましょう」
ゼロの言葉に、シュナイゼルは「やれやれ」と笑顔を見せる。
「わたし達はね。ゼロに味方したくて来たんだよ。君のしたい事、その全てに手を貸そうじゃないか」
「そうだぞ、ゼロ。君がブリタニアの崩壊を望むなら、あの皇帝を引き摺り下ろしてやろう」
「その為に必要な準備をするのに手間取って、こんなに遅くなってしまったけど、これからはずっと側にいて良いよね?」
シュナイゼル、コーネリア、アランの順に、ゼロに味方する為に来たのだと、言い切った。
「なッ!てめぇら、そんなあっさりと自分の国を裏切るってのか!?」
「そう受け取ってくれて構わないよ。ブリタニアとゼロ。どちらを取るかと言われれば、迷わずゼロを取るだけの事」
「ゼロよりも大事なものなど、何一つない」
「そう、ゼロが一番大切だからね。‥‥お前達だって、ゼロの為にならないなら、相応の報いは受けて貰うよ?」
玉城の怒鳴り声に、またもやそれぞれきっぱり言い切り、アランは加えて朝比奈を睨みすえながら付け足した。
朝比奈はアランを睨み返し、ゼロは深々と、本当に深々と息を吐き出した。
「ぇえ?ゼロ、まさか認めるの?絶対、騒動の元にしかならないの判ってるのに?」
朝比奈が驚きの声を上げて、まだ何も言っていないゼロを見て抗議する。
「朝比奈ぁ。あんた、少し黙ったらぁ?殿下方のこれって昔っからだからぁ、追い返そうったって絶対に引き下がらないわよぉ」
ラクシャータが騒ぐ朝比奈に意見すると、朝比奈は「むー」っと唸って、再びゼロに抱きついた。
「ダメッ!それが判ってるから反対してるんじゃないですかー。絶対、小姑にしかならないって判」
「朝比奈ッ!」
ゼロが少し慌てたように朝比奈の言葉を遮った。
後編に続く
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作成 2008.07.26
アップ 2008.07.27
(「入.団試.験」設定/過去捏造/黒の騎.士団アジト/後日談)
既にいつものメンバーで通じるだろう、藤堂+ブリタニア陣営幹部達とゼロ。
不意にラクシャータがゼロに尋ねる。
「そういえばゼロぉ。今ちょぉっと思い出したんだけどぉ」
「ん?どうした、ラクシャータ」
ゼロは唐突だったから質問の内容に思い当たる節も無く、心底疑問そうに尋ねる。
「むかぁしぃ、あの子に『美味しかった』って言ったんですってぇ?」
藤堂は「むかぁしぃ」と言う単語に他人事だと割り切って考えるのを放棄し、ゼロとブリタニア人達の様子を見る事にした。
ラクシャータの言う『あの子』に思い当たる節がなく、それぞれ眉根を寄せて考え込んだが。
唯一人だけ、素早く思い当たる者に行き当たったのか、ロイドは驚きの表情を浮かべてゼロから身を離しつつ凝視する。
「あらぁ。プリン伯爵ならぁ、そぉんなリアクションすると思ってたわぁ」
ラクシャータはしてやったりとにやりと笑う。
そしてロイドの態度から、該当する人物に気づいた順に、似たような驚愕の表情をゼロの仮面に向けたのだった。
判っていないのは、藤堂とディートハルト、それにゼロ本人だけだ。
「『所員の女の子ぉ』ってぇ言えばわかるかねぇ?」
ラクシャータが言葉を足すと、やっと「あぁ、彼女か」と思い至ったゼロは疲れた声を出したのだった。
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2008.06.14作成
2008.07.04-2008.07.10up
2008.08.04再録
(「災厄は突然に」設定/藤ル.ル)
藤堂はとうとう待ったを掛けた。
「ん?早かったか?」
ルルーシュは説明を一旦切るとそう言って首を傾げた。
「い、‥‥いや、そうではなく。すまないが、多過ぎてとてもこなせそうにない」
藤堂は慌てたように否定してから、疑問点を尋ねた。
「一体どれだけ仕事をしていたんだ、君は」
「どれだけ‥‥。後はこれとこれにそっちのもだが‥‥」
ルルーシュは少し考えてから書類の束を三つ程指した。
「‥‥‥‥」
「わかった。なら、とりあえず団員の前でしなければならない事を重点に説明する。裏方は今まで通りおれがやる」
きっぱりと言い切るルルーシュに、藤堂は「それはそれで‥‥」と呟いてから反論する。
「ならば、おれの作業もおれが、」
「無理をする事は無い。慣れ‥‥るまでこのままではいたくないが、それからでも‥‥」
「しかし‥‥」
渋る藤堂をルルーシュは片手を上げて制する。
「それよりも問題はナイトメアだ。言っておくが、おれに月下を扱い切る自信はないぞ」
これまたきっぱり言い切るルルーシュに、藤堂は「確かに‥‥」と思ってしまった。
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2008.06.25作成
2008.07.10-2008.07.15up
2008.08.01再録
いつでも出発できる状態で迎えた三日目、しかしこの日のキョウトへの出発は延期となった。
状況を尋ねに行った千葉(女性の部屋という事で仙波達が半ば強引に千葉に押し付けたとも言う)は、咲世子から今日は動かしたくない、と言われたのだ。
千葉はラクシャータを伴って再び訪れ、診察したラクシャータはゼロに、「二、三日延期できないかしらぁ?」と進言した。
ゼロは「確認してみよう」と言って一旦自室に戻り、桐原公の許可を取り付けて戻ってきた。
「最大十日は待てるそうだ。その後は、改めて日程調整から入る必要が生じる」
最初のメンバーを集めた場所で、ゼロはそう言った。
と、言っても、臥せっているナナリーと付き添いの咲世子は参加せず、カレンとディートハルトは不在だったが。
「で?どーなんだい?ラクシャータ」
「微熱よぉ。ただ移動するとなるとぉ、下がるまでは様子見ときたいってぇ感じだから。明日か明後日には発てるんじゃなぁい?」
「悪化したりとかはしないのかぃって聞いてるんだけど、ぼくは?」
「それは平気でしょ~?受け答えもしっかりしてたしぃ。昼下がりには熱も下がってるわぁ」
ロイドとラクシャータが、以前の知り合いという事が影響しているのか、かなり気安く話を進める。
「ゼロ。‥‥騎士団としてはどうする気だ?」
藤堂が、ゼロに尋ねる。
「他の予定を変える気はない。‥‥ラクシャータ。君はどうする?」
ゼロはキッパリと言い切ると、そのままラクシャータに尋ねる。
「わたしぃ?‥‥てか、わたしが行かないと話にならないでしょぉ?」
「他の予定って‥‥ゼロ何かするんですか?」
首を傾げた朝比奈が尋ねる。
「わたしは表の用事があるから、数日不在にする。藤堂とラクシャータには用事を頼んでいた」
「ホントーはぁ。あんた達を見送ってから出発しようってぇ話してたんだけどねぇ。延期するならそうも言ってられないしぃ?」
「中佐?どちらに行かれるのですか?」
千葉が藤堂に尋ねる。
四聖剣が傍にいない時に、四聖剣には何も言わずに動こうとしていた事が藤堂らしくないと思ったためだ。
「わたしのぉ、護衛かねぇ?ちょっとしたモノを受け取りに行くんだけどねぇ。モノがモノだからさー。手に入れるまでは秘密なわけぇ」
ラクシャータが口を挟み、「だからぁ。ゼロと藤堂にも他言無用だってぇ頼んだのはわたしなのよねぇ」と笑う。
「ラクシャータ‥‥。君、こんなところでまで、やりたい放題かぃ?」
「いけないかしらぁ?わたしのやりたい事とぉ、ゼロのやらせたい事がおんなじなんだから、プリン伯爵にとやかく言われたくないわぁ」
「なんか、二人って仲が良いんだか悪いんだか判らないね」
ラクシャータとロイドの言い合いを聞いて朝比奈がそう評した。
「「仲が良いなんて気持ちの悪いこと言わないでくれるぅ?‥‥って真似しな」」
バッと朝比奈に振り返った二人は、同時に抗議し、お互いに向かって苦情を言うもまたも揃った為に途中で口を噤んだ。
「‥‥では、ラクシャータも変更はないんだな?」
気まずい沈黙を破ったのはゼロの呆れた声だった。
「ないわよぉ。‥‥そうねぇ。幾つか薬を処方するくらいの時間を取って貰えればぁ、いつでも出発出来るわよぉ」
「そうか。‥‥ならば、ラクシャータの準備が整い次第、二人は出発してくれ」
「わかったわぁ。‥‥で、あんたは?ゼロ。いつ表にぃ?」
「まだ若干しておく事があるからな。‥‥3時間程だな。その間の事は、扇、任せるぞ」
「あぁ、判った。いつも通りに処理しておく。‥‥戻るのは‥‥?」
「少なくとも三日は戻れないつもりでいてくれ」
「あ、あぁ。‥‥その、ゼロ。そういう事を客人達の前で言ってしまって良かったのか?」
扇は今更ながらに、チラとロイドとミレイを見る。
「何か問題があるのか?表にいる間、わたしに連絡は取れない。それは客人にも認識しておいて貰った方が話が早いだろう?」
「いや、それはそーなんだろうけど‥‥」
「それにわたしが不在かどうかなど、中にいなければわからない事だろう?」
「あ、あぁ、そうだな」
ゼロの言葉に扇は頷いたが、ロイドが反論した。
「そーかなぁ?戦闘開始してみたら、君がいるかどうか判るだろー?なんたって君は最前線に出ながら指揮まで執っちゃうんだから~?」
「‥‥そもそも、わたしがいない状態で作戦行動に出る事自体がないのに、そんな事は気にする必要はないだろう?」
ロイドの反論をあっさり肯定したゼロは、それでもそんな事は歯牙にもかけていない様子で返す。
「‥‥ゼロ。出立前に、2、3確認して置きたい事がある。少し時間を割いてくれ」
藤堂が息を吐いた後、ゼロに声を掛けた。
「‥‥判った。扇、任せた。客人を頼んだ、四聖剣。ではわたしはこれで」
扇と四聖剣とがそれぞれ頷いたのを確認すると、ゼロは立ち上がり、藤堂を連れて先に部屋を出て行った。
「‥‥えーと。じゃあ、わたしは結果をナナちゃんと咲世子さんに報告してくるけど、ロイドさん?あんまり騒動起こさないでくださいね」
ミレイがそう言って立ち上がる。
「‥‥ミレイ君?ぼくの事、子ども扱いしてないかぃ?きみ」
「あら、そんな事ありませんわ。子どもっぽいところがある事は否定しませんけど」
「プリン伯爵はお子様でしょぉ?ナイトメアをおもちゃにして、プリンさえあればご満悦で、にやにやと笑ってるんじゃないのぉ?今もぉ」
ラクシャータの横やりに、ミレイは「そんな感じだったような‥‥」と特派のトレーラーを訪れた時を思い出して思う。
「それは違うよ、ラクシャータ。訂正して欲しいね、ぼくはそれでも主がいないなら心から喜べないんだから」
「あぁ、まぁ、それは認めるけどねぇ。まったくぅ、結構迷惑な話よねぇ」
再び始まったロイドとラクシャータの舌戦に、ミレイは肩を竦めると、千葉に目礼してついて来て貰いつつ、賑やかな部屋を後にした。
残った扇、仙波、卜部、朝比奈は顔を見合せて揃って溜息を吐いたのだった。
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作成 2008.03.19
アップ 2008.07.26
(「ナナリーi.n騎.士団」設定/桐原+神楽耶)
「‥‥‥ナナリーが!?」
驚く神楽耶に桐原は笑みを浮かべて頷く。
「はい。この度、キョウトを頼りたい、と申されましてな」
「無事だったのか‥‥良かった。‥‥ならばルルーシュも一緒だな?」
心底ホッとした様子の神楽耶に、しかし桐原は笑みを引っ込めて首を振った。
「聞いておりますのは妹姫の事だけです、神楽耶様」
「ルルーシュが一緒でないなどと言う事は有り得ぬ。何故じゃ、桐原」
訝しげな声を上げる神楽耶に、桐原は声を落とすように言う。
「これは内密の要請。声が大きいですぞ、神楽耶様。キョウトへの要請は、お一方の身の安全。宜しいな?」
「‥‥要請をしてきたのがルルーシュなのだな?無事だと判れば良いと、今は思う事にする」
自分に言い聞かせるように言って頷く神楽耶に、桐原は一層声を低めた。
「彼の皇子は聡明な方でしたからな。黒の騎士団を経由して護衛をつける手はずまで整えているとの事」
「そうかッ!流石ですね。その為ではありませんでしたけど、援助をした甲斐がありましたね。騎士団には更なる援助を」
「出来る限りの手配は致しましょう」
喜ぶ神楽耶に、「あやつ、一石二鳥でも狙っていたのか?」と内心で訝りながらも桐原は素直に頷いておいた。
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2008.06.18作成
2008.07.03-2008.07.09up
2008.08.02再録