★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
トレーラーの一階、いつもの場所に陣取っているゼロは、考える彫像と化していた。
既に数時間、ゼロは呼吸すらしていないのではないかと思いたくなる程、微動だにしないでいた。
これで眠っているとかならば心配して周囲で気にしている幹部達からガミガミと総攻撃を喰らうだろうが、それは杞憂だった。
‥‥いやもしかしたら眠っていた方が良かったのかも知れない。
唐突に動いたかと思うとゼロはそれはそれは深い溜息を吐いて下さったのだ。
真っ先に反応したのは一番近くに座っていた藤堂で、次が遠巻きながらもガン見していたカレンとディートハルトである。
「‥‥‥‥どうした?」と藤堂が声をかける。
もしかしたら答えないかもとか思う者がいる中で、しかしゼロは言葉を返していた。
「少し迷っているんだ」
どこか途方に暮れているといった、幼ささえ垣間見せるような言いように、幹部達は驚き息を呑む。
「‥‥迷う、とは?」
藤堂が更に問うがその声はかなり低くなっている。
「ブリタニアから誘いが‥‥ッ」
ゼロはそこで唐突に言葉を切った。
やけに素直に答えていると思っていたら考えに没頭していて周りが見えていなかったようである。
当然ながらの問題発言に、驚きが醒めた幹部が詰め寄ったのも無理からぬ事だっただろう。
ゼロはいかにも仕方がないと言う態度で説明を始めた。
「第二皇子から引き抜きを受けた。あれは宰相でもあるからかなりの好条件でな、正直揺れている」
「テメッ、今更裏切る気かッ!」
当然ながら玉城が吠える。
「‥‥条件を聞いて良いか?」
しかし、藤堂はあっさり玉城を無視してゼロに尋ねる。
「凄いぞ。エリア11をくれるそうだ」
ゼロは本当に珍しくも弾んだ声で応じた。
どう考えても受ける気満々な気がしてならない幹部達は、ゼロの言葉のその内容にも遅れて驚く。
「日本を手放してまでゼロを手に入れたいなんて‥‥。ゼロ、第二皇子となにか関係があるのか?」
扇が呆然と尋ねる。
「ん?それは違うぞ、扇。わたしがこの地を手にする時はすなわちブリタニアに行った後と言う事になるから手放すのとは意味が違うだろう?」
扇の疑問にゼロは仮面を傾けつつも応じる。
「てか待った、ゼロ!既にそこまで思い巡らせてるの?揺れてるどころじゃないじゃないか」
朝比奈が慌てて話と注意を引き戻す。
朝比奈の言葉にそれぞれ我に返った幹部達は「そうだった」と慌ててゼロを引き留めにかかった。
「ゼロ!ブリタニアを憎んでて倒すんだって言ってましたよね?なのに下るなんて言わないでくださいッ!」
まずはカレンが説得を試みる。
「確かにな。だが、応じれば、シュナイゼルは皇帝を廃位させて自分が帝位に就きブリタニアを変えると言うしな‥‥」
「あらぁ?確かに第二皇子なら出来そうな気も確かにするけどぉ?無理でしょぉ流石にぃ?」
ラクシャータが面白そうに検討しながらも否定的な意見を述べる。
「‥‥まぁ、それが可能ならば今頃はとっくに交代してるだろうからな‥‥。だが、だからこその勧誘とも言えるだろう」
ラクシャータの意見に同意するゼロにホッとしたのも束の間、幹部達はやはり慌てた。
「‥‥第二皇子は‥‥ゼロを引き込めばそれが可能だと考えていると?」
「扇は不可能だと思うか?」
尋ねた扇は逆に返され、思わず絶句する。
「騎士団をどうするつもりだ?ゼロ。君が作ったのだろう?」
「わたしに従う者は一緒に不問にするそうだ。そのまま親衛隊にでもすれば良いとまで言っていた。諸ともに引き込む気なのかも知れないな」
何を言っても答えが返ってくる事に、幹部達の焦りは強くなる。
「しかし。それは内部に不穏分子を抱え込むような愚考に思えるのだが」
千葉が難しい顔で発言する。
「相手はあの第二皇子だぞ?」
千葉の言葉にほんのり希望を見出した幹部達を、ゼロの言葉が粉砕してのけた。
結局、ゼロが表に戻る時間だと言い出したので、話は持ち越しとなった。
ただ一つだけ、全員を納得させる事が出来ないうちは無断で誘いに乗らないという取り決めをして、ゼロは自室へと引き上げた。
暫くして藤堂がゼロの部屋を訪れる。
「‥‥別に、日本を切り捨てる気はないんです」
ゼロ、いや既に仮面を外しているルルーシュが扉を閉ざしたその前に立つ藤堂に言う。
藤堂はルルーシュの苦い笑みに誘われてルルーシュに近づきそっと抱き締める。
「では、なぜ?」
「第二皇子、義兄上の譲歩が分かって、それで少し、揺れているだけなんです、きっと」
ルルーシュは抵抗する事なく、藤堂の胸に頬を押し付けて背中に手を回して言う。
「‥‥譲歩?」
「昔は、何故か義兄上に気に入られていまして。良く他の義兄弟と一緒にいる時に連れ出されたりしていたんです。理由は『チェスをする』でしたけど」
昔話をするルルーシュに藤堂は眉間の皺を深くする。
「でも、その義兄上が言うんです。『「奇跡の藤堂」と離れたくないのなら共に来れば良いだろう?』って。随分な譲歩だと思いませんか?」
苦笑するルルーシュにしかし藤堂の表情は晴れない。
「七年も八年も離れていて我慢が出来なくなったか‥‥」と思ってしまったからだ。
藤堂はルルーシュを抱く腕に少し力を込める。
「行かせない。そう言えば行かないか?」
力が入る藤堂の腕に、ルルーシュは少しの間を置いてくすくすと笑いだす。
「貴方ならそう言うと思っていました。‥‥でも少し気になりませんか?」
藤堂の問いにすんなりと答える事はせずにルルーシュは尋ね返す。
「ん?気になる、とは?」
「団員達がどんな手を使って引き留めようとするのか、です」
悪戯っぽい笑みを浮かべたルルーシュに、藤堂もまたにやりと笑った。
「有効な手段がない時は、最後にはおれが引き留めるからな?」
「お願いします。藤堂さん」
見ようによっては怖い笑みを浮かべる藤堂に、しかしルルーシュは嬉しそうに微笑み返していた。
2に続く
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作成 2008.07.27
アップ 2008.08.17
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