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それは、ギリギリの勝利だった。
得るモノは確かに大きかったが、その為に失ったモノもまた、大きかったのだ。
ブリタニアを退け、独立を果たした最大の立役者である黒の騎士団の全員を、リーダーのゼロは大講堂に集めた。
押し合いへし合いしながら、どこか誇らしげに団員は整列する。
報告を受けた重傷をおしてやって来ていた扇が、座ったままゼロに声をかけた。
「ゼロ。来れる者は全員揃ったようだ」
ゼロは扇に視線を向けて頷いてから、幹部達を見渡した。
みな、どこかしら怪我をして包帯が巻かれている。
それは、平の団員にも言える事だった。
幾人か見えない顔があるのは、重傷者か‥‥死者なのだ。
ゼロは壇上に用意されたマイクに向かって優雅に歩いていった。
途端に、少々騒がしかった場内が、水を打ったように鎮まった。
マイクの前で、ゼロは場内を見渡した後、ゆっくりと話し始める。
『騎士団の諸君。良くやった。本日、この地はエリア11ではなくなり、独立国「合衆国日本」となった。もはや、諸君を「イレブン」と呼ぶ者はいない‥‥』
場内を揺るがす程の大音声が、ゼロの語尾を消す勢いで響き渡った。
雄叫びをあげる者、歓喜を叫ぶ者の声が巻き起こったのだ。
ゼロは、それを鎮めようとはせずに、自然に鎮まるのを待った。
『国葬に先んじて、明日、騎士団内の合同葬儀を執りおこなう。全員参加して貰う。黒の騎士団はその後、幹部を残して解散する。以上。解散』
続いたゼロの言葉に、先程とは違う種類のどよめきが起こるが、ゼロは気に留める事なく壇上を降りた。
袖で待っていた幹部の中に、ディートハルトを見つけ声をかける。
「ディートハルト。合同葬儀の手配を頼む。騎士団入団後死亡した者のリストを、わたしにも届けてくれ」
ゼロはそう言ってから、改めて幹部一同を見渡した。
「もちろん、抜けたいと望む者を引き止めるつもりはない。それぞれで選ぶといい」
幹部の中に、動揺が走る。
「ゼロ。君はどうするつもりだ?」
藤堂がみんなの最大の関心事を口にした。
「‥‥わたしは‥‥。‥‥そうだな、明日の合同葬儀の時に発表しよう。みんなもゆっくり考えるといい」
ゼロははっきりとは答えずに答えを先送りにして、歩き出す。
幹部達はそれを不思議に思った。
消えるにしろ残るにしろ、ゼロならとっくに決めていると思っていたからだ。
「今は言えねッてのか?」
いつもの如くに玉城が突っ掛かる。
足を止め、振り返ったゼロは、真っ直ぐ玉城に仮面を向けた。
微かな違和感。
「そうだ。確かに、わたしは既に決めているが、‥‥今は言う気にならないな」
「‥‥何故か、聞いても構わないか?」
再び藤堂が尋ねる。
「お前達の中には、わたしの存在の有無で決めかねない者が少なからず、いそうだからだ」
ゼロは藤堂を中心に、幹部達を見ながら即答する。
ゼロがいるなら参加したい者、ゼロがいなければ参加したい者、またはその逆‥‥‥‥。
それには否定できず、誰もが黙る。
カレンと玉城はその両極端だろうと言われているくらいあからさまだったりもする。
「これからの大事な決断だ。わたしに構う必要はない。己のやりたい事を、自分なりに考えてみる機会だと思えばどうだ?」
「だけど‥‥。君の存在はかなり大きいと思う。君の身の振り方はみんなの最大の関心事でもあるわけで‥‥わからないままだと気になってしまう」
扇が、そう切り出した。
「残るにしろ、去るにしろ、わたしは素性を明かす気はない。‥‥それで桐原公はともかく残りのキョウトや民が同意するかどうかという問題もあるぞ?」
ゼロの言葉は、「残ると決めていたとしても、周囲の反対から残れない事だって有り得る」と言っていた。
「‥‥ゼロ。桐原公はともかく、とは。桐原公が君の素性を隠したままでの参画を認めると?」
「彼はわたしを判っているからな。‥‥認めるだろう?わたしに残る意思があると判れば」
「で?残る意思はあるのか?」
「それは明日だと答えたはずだが?」
ゼロは視線を転じてゾロゾロと引き上げていく平団員の波に逆らうようにしてやってくる老人に気づいた。
それが誰か分かった団員達は行動を邪魔しないように避けるから、余計にわかる。
ほとんど邪魔されなかった老人は、程なく幹部たちの傍へとやってきた。
「合同葬儀をおこなうそうじゃの、ゼロ」
「はい。‥‥騎士団としての締め括りとしては必要かと。この日の為に、頑張ってくれた者達ですし」
「話があるのじゃがな、ゼロ。‥‥独立を果たした以上、可及的速やかに決めねばならぬ案件が山のようにある」
「承知している。軍事、民間レベルでは話をつけているとはいえ、早急に代表を立て各国との調停を結ばねば、第二第三のブリタニアとなりかねない事は」
桐原にとっての最大の懸念事項をサラッと言ってのけたゼロに、桐原は「何故?」と困惑した視線を投げる。
「それが分かっているのならば、黒の騎士団の解散はしばし待たれよ」
ほんの少し硬質化した老人の声に、気付いたのは藤堂と仙波、それにゼロだけだったが、ゼロはフッと笑ってみせた。
「‥‥黒の騎士団の名前で話をつけていたわけではない。わたしが話をつけた時に出した名前は貴方のものだ、桐原公」
「なに‥‥?」
訝しげに桐原は眉をよせてゼロを見る。
「何をどういったところで、黒の騎士団はテロリストに変わりはない。第一、何の為に『合衆国日本』の宣言に、キョウト六家を立ち合わせたと?」
「‥‥見届け人、ではないとでも言う気か?ゼロよ」
「違うな、桐原公。キョウト六家があの場にいた事で、例えわたしが宣言をしたとしても、『合衆国日本』はキョウトを中心に置く事になった」
キッパリと言い切ったゼロの言葉に、騎士団幹部達にも動揺が走った。
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作成 2008.03.01
アップ 2008.08.06
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合衆国日本成立後「合同葬儀」 【1】発表。 ゼロ:「明日、騎士団内の合同葬儀を執り行う」
ブラックリベリオンにて辛勝した後、っぽい感じですね。
これからの新しい旅立ちに入る前に、区切りをつける意味も込められた葬儀。
この後少しで、筆が止まっていた為、ずっと日の目を見なかった。
そして筆は止まったままなので、この先はないかも知れない。