(「入団試験」設定/過去捏造/皇子+ジェレ)
ジェレミアは表情にも態度にも出さずにパニック状態に陥っていた。
なんてことだなんてことだなんてことだなんてことだ‥‥‥
どうすればどうすればどうすればわたしはどうすればいいというのか‥‥‥
周囲に人影はなく、目の前には壊れた花瓶と水を吸った絨毯と、散乱する生けられていた花。
そう、ジェレミアはうっかりというか蹴躓いて花瓶を倒して割ってしまったのだ。
「なにをしている?」
幼い声がかかり、ジェレミアは直立不動の体勢をとった。
ここにいる子供とはすなわち皇族の誰か、或いは大貴族に連なる者くらいだからだ。
「はッ!申し訳ありません!花瓶を割ってしまいました」
反射的に自己申告をしてしまうジェレミア。
「おまぇ‥‥ここはいぃからへやにもどってやすめ」
幼い子供の言葉に、ジェレミアは「貴様は罷免(くび)だ」と言われた気がして愕然とする。
「たいちょうがわるいときにむりをするからしっぱいするんだいいからもどってやすんでよくなったらでてこい」
しかし続いた言葉にジェレミアは子供をマジマジと見つめた。
珍しい黒髪の整った顔立ちの可愛い‥‥
「‥‥なにをみている?」
子供は少し不安になったのか、表情を緩めて首を傾げる。
「‥‥罷免‥‥という話では」
「くび?くびがいたいのか?とにかくむりせずにやすめ」
「‥‥あのッ。わたしは体調はどこも‥‥」
「やすむきがなくてもやすませてやるぞぼくが」
子供はそう言うとすたすたと歩き出し、ジェレミアを無視して割れた花瓶の前にしゃがみ込む。
手を伸ばして破片を触ろうとする子供をジェレミアは慌てて制した。
「お待ち下さい、危険です。怪我でもしたらどうなさるおつもりなのですかッ!」
「‥‥やすまないというのならこれはぼくがかたづけるぞ」
「休みます!休みます!休ませて頂きますからそのまま離れてください!」
子供を相手に懇願し、花瓶の傍から離れたのを見届けてからジェレミアは宣言した通り下がった。
いつの間にか皇族かどうかもはっきりしない子供に対して必死になっていた事にジェレミアが気づいたのは部屋に戻ってからだった。
ジェレミアが子供の素性を知る、数日前の事であったとか。
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2008.06.05作成
2008.06.10-2008.06.15up
2008.07.12再録
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