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「いてッ」
猫に引っかかれた腕を瞬時に引っ込める。
と、同時に枝から落ちかけて、そのまま見事な着地を決めた。
「‥‥スザクには無理だな、猫が懐かないんだから。第一猫が可哀想だ。‥‥ぼくがやる」
木に登って猫に手を伸ばしていた子供を下から見上げていた子供が声を張る。
「なッ‥‥君には無理だよ、ルルーシュ。‥‥木登り、出来ないじゃないか」
「やってみる前から無理だなんて言いきるな、スザク。第一、事実上無理だったスザクに言われたくない」
二人の子供のじゃれあい、というか言い合いを遠くから藤堂は見ていた。
ブリタニアから皇子と皇女が来てから、藤堂は時々こうして遠目に見ている事があった。
スザクが猫にかまれたり、引っかかれたりするのは良くある事で、藤堂は動じない。
ルルーシュは頭から否定するスザクの言葉に、悔しそうに目の前の大木とその枝で鳴く猫を見上げていた。
それから周囲に視線を巡らした後、スザクを見た。
「スザク。少しかがんでぼくを乗せろ。‥‥少しでも近くなれば猫も飛び移る気になるかもしれないだろ」
途端にスザクが膨れっ面になる。
「おれに踏み台になれって言うのか?ルルーシュ」
「良いだろ?お前は猫には懐かれないが、体力はあるんだ。そういうのを適材適所って言うんだぞ」
暫くの押し問答の後、言い負かされたスザクが渋々と屈んでいた。
スザクの背に乗ったルルーシュは、まだ高い位置にいる猫に手を伸ばす。
その不安定で危なっかしい体勢に、藤堂は眉を顰め、近づく事にした。
かなり足早に歩いた藤堂だったが、それでも結果的には間に合わなかったのだ。
その前に意を決した猫がルルーシュの腕に飛び移り、当然の如くルルーシュはバランスを崩した。
「ほわぁッ」「ッ、ルルーシュッ」
ルルーシュの口から衝いて出たおかしな驚きの声に、スザクもまた慌てる。
土台のスザクが動いた事が決定打となったのは言うまでもない。
地面に投げ出されたルルーシュと、どうして良いかわからず唯見下ろすだけのスザク。
近寄った藤堂は、茫然としているだけのスザクを押しのけるようにしてルルーシュの容体を確認した。
ミーと鳴く猫をルルーシュの腕の中からそっと取り上げて傍らに置き。
まずは首筋に手を置いて脈を確かめ、口元へ移動させて呼吸を確認すると、藤堂は微かにホッと息を吐いた。
この状況で、情勢で、日本に来ているブリタニアの皇子の身に何か有れば‥‥、最初に藤堂が思ったのがそんな事だったのは確かだったが。
「と、藤堂師匠。‥‥ル‥‥その子、大丈夫?」
スザクはルルーシュの名前を言おうとして思い留まり、容体だけを尋ねる。
それについては、藤堂もスザクを評価したが、既に名前を呼んでしまっている事には頭が回っていないらしい。
「あぁ。脈も呼吸も正常だ。ただ、頭を打っているかも知れないから動かす事は避けたい。君は先に戻っていなさい」
遅くなれば妹の皇女が心配するだろうし、皇女への連絡を頼みたかったのだ。
「え‥‥と。けど、おれのせいだし‥‥残ります、おれも」
しかしハッキリ言わないと伝わらないらしく、スザクは頑固に残ると主張する。
「‥‥何か、冷やすモノが有った方が良いかもしれない。それを取ってくるついでに、遅くなって心配する人がいるなら心配要らないと伝えて来い」
藤堂の再度の言葉に、スザクはハッとして頷いた。
「わかりました、藤堂師匠。‥‥えと、その子をお願いします」
バッと頭を下げて頼むなり、スザクは家に向かってかなりの速度で駆け出して行った。
藤堂は姿勢を変えて、ルルーシュを抱えると問題の木の幹に寄り掛かった。
膝元で、助けられた子猫がミーと鳴いていた。
「‥‥佐。‥‥中佐、聞いておられますか?」
控えめな千葉の声に藤堂は瞬いた。
心配そうな千葉の顔がすぐ近くにある事に、藤堂は無表情に驚いていた。
千葉の後ろには、朝比奈と仙波、卜部も控えていて、それぞれ戸惑った様子を見せている。
「‥‥いや、すまん。少々考え事をしていた‥‥」
藤堂は何の話かわからず、素直に聞いていない事を認めた。
事実、四聖剣がいつ部屋に入ってきたのかすら、覚えていないのだ、話を聞いていようハズもない。
藤堂のらしくない様子に、四聖剣は余計に戸惑い、お互いに顔を見合わせる。
「‥‥そろそろ、散策の時間なのでは、‥‥と申し上げたのですが‥‥」
千葉は躊躇いがちに再度言って、「それとも今日はやめておきますか?」と続けた。
藤堂は難しい表情で沈黙した。
「‥‥えーっと、藤堂さん?ホントどうしたんですか?」
朝比奈が藤堂の表情の変化に目敏く気付いて、心配して尋ねる。
「‥‥千葉。卜部と朝比奈を連れて散策に行って来い。藤堂中佐は今回は休まれる」
仙波が有無を言わさずに、断言した。
千葉は仙波を振り返り、「承知」と頷くと、ゴネる朝比奈の襟首を引っ張って卜部と共に部屋を後にした。
「仙波‥‥」
藤堂の意見を待たずして独断で決めた仙波に、藤堂は名前を呼ぶ事で真意を尋ねる。
「たまには宜しいでしょう、藤堂中佐。‥‥時には肩の力を抜く事も必要だとわしは愚考いたします」
「‥‥‥散策は気分転換になって良いんだが?」
「承知しておりますが。散策の気分ではない時もあるでしょうな。今のように?」
仙波が珍しく茶目っ気を含んだ声音で言うので、藤堂もフッと笑みらしきものを浮かべていた。
「少し、昔を思い出して、感傷に浸っていたようだ」
「で、しょうな。わし等が部屋に入った事にも気付かれていなかったようですから」
「なんだ、気付いていたのか」
「はい。目を開けたまま眠ってしまわれているのかと思っておったくらいですよ」
二人はそう言い合って笑った。
「仙波さんってば、おーぼーだと思いませんか?」
「煩いぞ、朝比奈。少しは静かに歩けないのか?」
「だっておれだって藤堂さんの事心配なのに~」
「ならば大人しく歩け」
卜部はそんな同僚の言い合いを眺めていたが、ふと思いついて尋ねてみる。
「ところでお二人さん。中佐の様子がおかしくなったのって昨夜からだろ?昨夕の散策で何か有ったりしたのか?」
千葉と朝比奈の足と口が、同時に止まる。
同じ動きで卜部を見返して、更に同時に顔を見合わせてから首を傾げたのも一緒だった。
「‥‥どう思う?朝比奈」
「どうって‥‥千葉さんは‥‥?」
「‥‥おーい、聞いてるか?それじゃさっぱりわからねぇんだけど?てか何かが有ったってくらいしかわかんねぇぞ」
取り残された卜部が口を挟んでみるも、千葉にも朝比奈にも卜部の声を届いていないらしい。
「確かあの服は‥‥」
「あ、そうですよ、千葉さん。制服、間違いないです」
「‥とすると‥‥」
「紅月さんですね。早いとこ戻りましょう」
「朝比奈。そこで踵を返すな。ぐるッと回るくらいしろ」
「てか二人とも、おれにもわかるように説明してくれる気はないんだな?」
二人だけで納得して話を進め行動を決める千葉と朝比奈に卜部が低い声を投げた。
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作成 2008.03.07
アップ 2008.04.03
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Ⅲ.ばったり遭遇「藤堂+α」編 【2】藤堂の回想、四聖剣の行動。
まずは藤堂の回想から、過去のルル(+スザク)による救助場面を。
心ここにあらずな藤堂を心配する四聖剣。
他の三人を遠ざけた仙波に求めるのはさりげない気遣い!なんて思ってたりします。
卜部の意見を聞かず暴走気味な千葉と暴走している朝比奈。
千葉と朝比奈に振り回される卜部が良いかもw