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コードギアスの二次創作サイト。 ルルーシュ(ゼロ)至上主義です。 管理人は闇月夜 零です。
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ゼロ(ルル)至上主義です。
騎士団多め。
表現力がなく×ではなく+どまり多数。
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扇は遅れて来たという負い目も手伝って、押し切られる形でゼロの自室の前に立っていた。
これでも精一杯の反論はしたのだ、扇も。


「‥‥ゼロの機嫌が?」
「そうなんです、扇さん。なんだかとっても悪いみたいで」
「‥‥でも、ゼロにだって機嫌の悪い時くらいはあるんじゃないのか?」
「ちょっとどころじゃねーんだぞ、あれは。声だけで人を殺す事だって出来るぜ、今のゼロは」
「‥‥緊急時以外声をかけるな、と言われたんだろう?」
「でもッ、あのまま放っておくなんて、良いはずがないんです、きっと。何か有ったと思うから、相談くらい乗って上げた方が良いかと」
「‥‥‥‥それが、何故おれなんだ?」
「あの場にいた奴は、全滅なんだから仕方ねぇだろ。それに副司令だし?」
扇の問いに、カレンと玉城が交互に答えて、扇の退路をドンドンと削って行く。
「あー‥‥。それなら、藤堂さんとか」
「ダメですよ。藤堂さんを煩わしちゃ。ここは古株の威厳をしっかりと見せていただかないと」
と、足掻く扇に朝比奈が止めを刺した。
「‥‥‥‥‥‥。じ、じゃぁ、聞いて、くる」


そうして、扇はすごすごと、二階へと上がって来て今に至る。
意を決してノック。
「‥‥‥‥。‥‥‥‥。ゼロ?扇だけど。‥‥いないのか?」
返事がないので、扇は声をかけ、もう一度ノック。
「‥‥‥‥入れ」
微かに聞こえた声に、扇は驚いた。
今まで、「入れ」と言われた事はなく、「なんだ?」とか「どうした?」とかで扉越しに報告するか、ゼロが直接扉を開けて出て来るかしていたからだ。
そろり、と扇は開閉ボタンに手を伸ばし、何の抵抗もなく空いた扉から中へと入った。

扇が中に入ると、ゼロはまるで扇を待っているかのように、ただソファに優雅に座っているだけだった。
「‥‥‥‥‥‥。ゼロ。みんなからゼロの機嫌が悪いようだと聞いた。‥‥何か、有ったのか?」
扇は背後で勝手にしまった扉にビクリと反応した後、用件を早く済ませて立ち去ろうと思い、早速切り出した。
「‥‥まず、座れ。聞きたいと言うのならば、話してやろう。‥‥聞きたくなければ引き返せば良い」
何かを見定めるようでもあり、どこか投げやりにも聞こえるゼロの言葉に、扇はその場で少し考えた。
だが、ゼロ本人が話すと言っているのだから、と扇はゼロの向かいのソファにそろっと腰を下ろした。
「‥‥今日、ここへ来る途中、とある現場を目撃した」
ゼロの話は唐突で、扇は鸚鵡返しに、「現場?」と繰り返した。
「そうだ。‥‥租界でブリタニアの学生とぶつかっていたな?扇」
よりにもよってゼロに見られていたとは思っていなかった扇は、指摘されてわたわたと慌てた。
「‥‥あ、‥‥あぁ。確か、に。ど、こで見ていたんだ?ゼロ‥‥」
「‥仮面をしていないのに、声を掛けると思うか?‥‥それに、ぶつかった事を問題にしているんじゃない。その時いた、‥‥お前の連れ、だ」
ゼロの容赦のない指摘に、扇はドクンと身体が震えるのを感じた。
それは今、指摘されたくない事柄でも有ったからだ。
「‥‥‥‥か、‥‥彼女、が‥‥何か?」
尋ねながら、扇はダラダラと冷や汗をかいている。
「‥‥わたしの記憶が正しければ、ブリタニア軍の『純血派』の一人だったはずだが?‥‥そう、『オレンジ君』の部下だったか。何故共にいた?」
「‥‥‥‥。彼女が軍人だとは知らなかったんだ。怪我をして倒れていたから助けたんだが‥‥。その、記憶を失くしているから、報告しそびれた‥‥」
扇は少し迷った後、ホンの少しだけ嘘を混ぜて、後はそのまま報告した。
軍人とは知らなかったと言ったが、助けた時の場所や服装から、ある程度そうではないかと思っていたのは確かだったのだけど。
「‥‥‥‥‥‥‥‥。何時の話だ?」
怪我と言う言葉に、ゼロはとある可能性に気付いて、扇に確認を取る。
「あー‥‥港での作戦が有ったあの場所で、‥‥次の日の夕方、だ」
扇の言葉で、ゼロの懸念が一つ解消された。
「そうか。‥‥それで?どうするつもりなんだ?扇」
「‥‥それは‥‥」
「記憶が戻れば、あの女は『純血派』だからな。お前とは相容れないぞ?」
そう、唯のブリタニア軍人と言うわけではないのだ、記憶が戻れば「イレブン」である扇を認めるとは思えない。
「‥‥‥‥。あの、ゼロ。機嫌が悪かったのは、‥‥このせいだったのか?」
考えても答えを出せなかった扇は、話を逸らすかのように問いかけていた。
「‥‥そうだな。‥‥中核となったグループのリーダーだった男が、ブリタニア軍人と連れ立って歩いていれば気になって当然だと思うが?」
ゼロは当然の結果だと応じ、「しかも時間になっても現れなければ余計だ」と付け加える。
「す、すまなかった。‥‥その、具合が悪くなったみたいで、一度家に戻っていたから‥‥」
藪蛇だったかと思いながら、連絡くらいはするべきだったと、扇は素直に詫びを入れる。
「‥‥それにしても勇気が有るな。ゲットーにブリタニア人を置いているのか?」
そう言ったゼロの声音に若干の呆れたような笑いが含まれていたように感じた扇は、少しは機嫌が直ったのかとホッとする。
それから内容に苦く笑った。
「‥‥他に、預ける先が見つからなかった事もあるし‥‥、その」
離しがたくなった、とは扇は口に出来なかった。
「まぁいい。承知の上なら構わない。気を配ってやる事だ。‥‥わたしに報告しなかったという事は、自分で解決するつもりも有ったはずだな?」
「あ、あぁ。それは‥‥」
「ならば、この件に関しては今後もお前の責任であたれ。これ以上は問わない。‥‥もし、わたしに助けを求めるのならばその後の苦情は受け付けないが」
扇はまさか報告した後もそのまま任されるとは思わず、驚いた。
「‥‥い、良いのか?」
「軍人だった時は、『オレンジ君』の部下で、それなりに手を焼いた存在だったが、今はそうではないのだろう?‥‥ならば任す」
「あ、‥‥ありがとう、ゼロ」
扇は礼を言った後も、何か言いたそうにゼロを見ていて、それに気づいたゼロは「なんだ?」と尋ねる。
「あ、その。‥‥下でみんながゼロの不機嫌だった理由を聞いて来いと‥‥。けど流石にこれは‥‥」
「‥‥ならば、表で起きたトラブルについて考えていたとでも言っておけ」
扇の躊躇いを汲んだゼロの言葉に、扇は驚いた。
てっきり、「それくらい自分で考えろ」くらい言うかと思ったのだ。
思いがけず、温かい気づかいを見せてくれたゼロに、扇は素直に感謝した。
「‥‥ありがとう、‥‥ゼロ」
礼を言って、扇はゼロの部屋から出て行った。



───────────
作成 2008.02.11 
アップ 2008.02.16 

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2月14日。

その日、アッシュフォード学園に在学する女生徒の内、実に三分の一に相当する人数(+一部(計上不能?)の男子生徒)が嘆きの声を上げたという。
「ん?あぁ。ルルーシュなら、今日は休みだぜ」
と教えるのはルルーシュ・ランペルージの悪友として名が高い(ホントか?)リヴァル・カルデモンドだった、但し少々辟易して、だが。
朝からずっと、授業時間を除いて絶え間なく問われ続けていたら、辟易するのも当然と言えよう、しかもお礼チョコすら置いていかないのだから尚更だ。
「ん?それも無理無理。クラブハウスにもいないって。朝、病院に行くからって出てったからさ。あぁ、風邪だろ?たぶん」
放課後になると、既に投げやりに近い言葉を発しながら、リヴァルは途切れたら速攻生徒会室へ逃げ出すぞ、と機会を窺っていた。


その日、カレンは学校を休んだ。
何故ならいつアジトにゼロが来ても良い様に、ずっとアジトで待機していたかったからである。
「おい、カレン。‥‥学校、良かったのか?」
小さいながらも、義理だとハッキリキッパリ言いながらだったけれど渡されたチョコを食べた手前、強く出られないまま、扇はカレンに尋ねた。
「良いのよ。それより、扇さん。ホントにゼロから連絡来てないんですね?」
カレンの表情も声も真面目で、扇はつられるように真面目に頷いた。
「あ、あぁ。今日はまだ連絡は来ていない。‥‥元から来る日じゃなかったから、今日は来ないかも、知れないぞ?」
「‥‥わかってます。‥‥それでも‥‥」
カレンは俯いて、ポツリと呟いた。
正体不明のリーダーのどこがそんなに気に入ったのか、と思わないでもないが、親友の妹であるカレンは、扇にとっても妹のような存在で、応援はしたくなる。
だから、扇はゼロの素性がカレンとお似合いならば良いと思いながら、カレンをそっと応援する事にしているのだ。
「ま、良いさ。最近は学校に行く事が多かったから、たまにはサボっても良いだろうし、カレンの気の済むようにすれば良い」
「‥‥ありがとう、扇さん」
カレンは嬉しそうに笑って礼を言った。

ゼロの部屋の扉が開いて、カレンは「え?もしかして、いつの間にか来てたの?」とか思ったのだが、出て来たのはC.C.だったので、落胆する。
「ん?扇に、カレン、か?何をしているんだ?こんなところで」
C.C.の問いかけに、何時もならば反発するカレンだったが、背に腹は代えられないッとばかりにC.C.に詰め寄った。
「お願い、C.C.。ゼロの予定を教えて。今日は、ゼロ、ここに来るの?」
「あぁ‥‥。来ないぞ、アイツは。今頃は‥‥。‥‥そうだな。どこかに潜伏中じゃないか?」
カレンの意図を察したC.C.の答えに、カレンだけでなく、傍で成り行きを聞いていただけの扇も首を傾げる。
「潜伏中って‥‥何か有ったのか?」
「バカかお前は。今日が何の日か知らないわけじゃないだろう?アイツはモテるからな。世の女性から追いかけられないように隠れているに決まっているだろう?」
C.C.の言葉はすなわち、ゼロはこの日、追いかけ回される程、モテる!と言う事なのだ。
「じゃ、じゃあ‥‥アジトにも?」
「当たり前だ。アイツ、わたしに昨日、何と言ったと思う?『C.C.。無事に終わったらピザを十枚くれてやる。だからおれを一人にしておけ』だぞ」
「C.C.!二十枚出すわ。だからゼロの居場所、教えてッ」
「悪いな。十枚は先払いにさせて既に腹の中だ。今教えると後が煩い。魅力的な提案だが、乗るわけにはいかないんだ、諦めろ」
そう言うとC.C.は絶望するカレンと、それを憐れむ扇を残して立ち去って行った。
C.C.の姿が見えなくなってから、扇とカレンはふと、別の事に気付いて首を傾げた。
「そういえば‥‥。今日は人が少なくないか?」
いつもならば、こんな場面で、突っ込みを入れるハズの声がないから気付いたのだとはどちらも言わない。
「ですね。さっき義理チョコ配りに回ってた時、いつもアジトにいるハズの藤堂さんや四聖剣も見かけなかったんですよ」
「ん?千葉さんはいたぞ?井上やラクシャータと話をしてた。平団員も普通だったが、‥‥そうか、幹部の男性陣が少ないんだ。‥‥どこへ行ったんだ?」
二人は顔を見合せて、再び首を傾げたのだった。


「咲世子さん。‥‥お兄様、やっぱり戻ってきてくださいませんでしたね‥‥」
日付が変わりそうになる時間、ナナリーは寂しそうにポツリと呟いた。
その手にはシンプルな包装に包まれた最愛の兄へのチョコレート。
「そうですね‥‥。年に一度だけ、ナナリー様を避けておしまいになられる日ですから‥‥」
そう。この日だけは、最愛の妹すら寄せ付けず、ルルーシュは雲隠れを敢行する。
その為、ナナリーのチョコレートはいつも一日遅れで手渡される事になっていた。


チョコレートケーキをつつきながらも暗い表情でその部屋にいる全員が深い溜息を吐いた。
選択を誤ったかも知れない、と誰もが思っているのだ。
去年までの毎年、この日はドキドキハラハラちょっと女性が近づく度に緊張し、何事もなく離れていくと落胆、貰えれば天国な日だったのだ。
それが、何故男ばかり同じ部屋で、とてもおいしいチョコレートケーキをつつきつつも暗い表情をしているか、というと‥‥。
チョコレートケーキの作り手がゼロで、彼等に渡したのもゼロだったからだ。
幾らおいしくっても男からじゃなぁ~‥‥というのが、暗い表情と、溜息の原因だった。
‥‥いや、全員じゃないか、ディートハルトは一人ご満悦で敬愛するゼロの手作りケーキを頬張っているのだから。
「何故、ゼロは奴まで呼んだんだ?」とは他のメンバーの一致する意見なのだが、勿論ゼロが呼んだ訳ではない。
ディートハルトは独自の情報網でこの場を嗅ぎつけてやってきたのだ。
なので、彼等は「ディートハルトがゼロの部屋に近づこうとすれば全力で止めろ」とまで指示されていた。
ゼロの部屋に招かれたのは、洋菓子は苦手だと言いきった藤堂と、四聖剣の三人。
ならばとゼロが自室で和菓子を提供しているはずである。
この時、目の前のチョコレートケーキに目が眩んでケーキを取った一同は、少々後悔したとかしないとか。
和菓子が恋しい日本人男性だ、羨ましそうに、ゼロの自室に目を向けたのだった。

藤堂は畳の上に正座をしながら、抹茶をすすっていた。
お茶受けは羊羹が供されている。
四聖剣の三人もまた、楊枝を手に羊羹を頬張っていた。
「おいしいね、ルルーシュ君」
朝比奈はにこにことゼロの格好をしながら仮面だけを外した少年に声をかけた。
「‥‥名前を呼ぶな、と言ったはずだが?」
キラリンと紫の瞳を煌めかせてゼロが朝比奈を睨むが、堪えた様子は見られない。
「藤堂、徹底させろ」
ゼロは朝比奈に直接言うのは早々に諦めて、朝比奈が敬愛する上司に指示する。
「‥‥朝比奈、次呼べば追い出す」
一緒に追い出されたら堪らない藤堂は、朝比奈を睨んでそう言った。
「ぅ、わかりましたよ、藤堂さん。だから睨まないでくださいって」
同じように睨んで言っているのに、効果がなかったゼロは威圧感が足りないか?と反省した。
そうして日々威圧感に磨きがかかって行くゼロだったが、原因が朝比奈にあるとは誰も知らない。
「朝比奈はさ。反省って言葉を知らないだよなぁ?」
「そんな事ないですよ、卜部さん。おれだって反省くらいしますって」
「へぇ?いつ?前反省したのはどんな事だった?」
「え?‥‥えーとぉ‥‥‥‥‥‥」
卜部と朝比奈の言い合いを他所に、藤堂はゼロに話しかける。
「‥‥妹君は良かったのか?それとも、朝受け取って来ているとか?」
その問いにゼロは「う゛ッ‥‥」と呻いて固まった。
ゼロのその反応があまりにも意外だったので、訊ねた藤堂だけでなく、見ていた仙波も、卜部と朝比奈もゼロを凝視する。
「‥‥‥‥ゼロ?」
「‥‥。‥‥。‥‥。妹からは、いつも翌日、に‥‥貰っている。‥‥今日みたい、に。おれが、‥‥雲隠れしていたから‥‥」
「「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」」
ゼロの逡巡だらけの言葉に、四聖剣の三人は絶句し、困惑顔を藤堂に向ける。
「‥‥‥‥。ゼロ。この日に何か、あるのか?」
無言の圧力を受けた藤堂は、自身も気になっていたので、ゼロに問いかける。
「‥‥あ、あぁ。‥‥昔。数名のパワフルな少女から一日中追いかけ回されてな。‥‥この日は女性から逃げなければならないと言う強迫観念が‥‥」
ゼロの言葉に、唖然とする。
ちなみにパワフルな少女とは、下からナナリー、ユーフェミア、コーネリア、セシル、ラクシャータ、それとマリアンヌ、だった。
普段は庇護する側にいる優しい母や、守ってやるんだと思っている妹からさえも追われる日、‥‥それがルルーシュのバレンタインだったのだ。
更に余談だが、ルルーシュはこの日だけは、体力不足に悩みながらも体力で勝る相手達から見事に逃げきっていた。
「それで、騎士団の男性幹部だけ、誘ったわけですか?」
「普通ならば、異性を招くだろう?」と疑問に思っていた仙波が、得心が行った様子で言った。
「まぁな。‥‥ディートハルトだけは来て欲しくなかったがな」
ゼロは仙波の言葉に頷いた。
「‥‥しかし、それだと次の日は凄いんじゃないか?当日じゃなくても、と思う女性はかなり多いだろう?」
「あ、あぁ。‥‥普段は次の日の朝だけと言う事で、規制を掛けてくれている人がいて‥‥わたしの為に用意してくれたのを受け取らないのも申し訳ないし‥‥」
ゼロも畳に座って抹茶を手に取りながら応じる。
抹茶を飲んだ後、羊羹を食べるゼロは幸せそうである。
「‥‥ゼロ。‥‥おいしい羊羹を、ありがとう。改めて、礼を言っておこう」
藤堂は、とりあえずもう一度礼を言う事にした。
「‥‥感謝する、ゼロ」
「ありがとう、ゼロ。おいしかったぜ」
「ゼロ。また作ってくださいね♪」
一同の感謝の言葉に、ゼロは四人に向かって満面の笑みを見せた。


2月15日。

「おかえりなさい、お兄様。‥‥これ、受け取って頂けますか?」
朝一番で、ナナリーはルルーシュにそう言ってチョコレートの入った包みを差し出した。
「ありがとう、ナナリー。嬉しいよ。‥‥昨日は、ごめんね、ナナリー」
「良いんです。わたしは、受け取って頂ければ、それで‥‥」
ナナリーはそう言って嬉しそうに笑った。

『良い事~?並んで並んで~。予鈴鳴るまでだからね~。押し合った人は問答無用でどいて貰うからね~』
ミレイが何故かマイクを持ち出して一列に並び始めている女生徒達に説明している。
行列の整理には生徒会のメンバーが駆り出されている。
スザクを含めた男子生徒はこの列に並ぶ資格を持っていない為、涙を呑んで諦めた。
スザクは、生徒会メンバーが後で生徒会室で渡す事を知らない。
そして知らないまま、軍に呼ばれて放課後になる前に、生徒会室に寄る前に帰り、とうとう知らず仕舞いだった。

ルルーシュは一旦部屋に戻って朝貰ったチョコレートの山を置き、生徒会室へ行ってミレイ、シャーリー、ニーナからチョコレートを受け取った。
カレンからは「義理よ、義理。一応だからね」と小声で言われて苦笑する事になったが、見た目笑顔で渡すカレンに、ルルーシュも笑顔で礼を言った。


その後、騎士団のアジトに向かったゼロは、待ち構えていた女性陣に思わず足を止める事になる。
勿論、その中に、何故かラクシャータが含まれていたからなのだが。
他にはカレン、井上に千葉の姿まで有った。
「昨日は来られなかったので、‥‥一日遅れですけど、受け取って頂けますか?‥‥ゼロ」
頬を染めたカレンがそう言って包装された小箱を差し出す。
「いつもお世話になってますし。‥‥一応義理ですけど、お渡しします」
井上が生真面目な表情でリボンの掛かった包みを示す。
「いつも、特に中佐や朝比奈が世話になっている。その礼代わりと思って貰いたい」
千葉もまた黒の紙袋を渡そうとしている。
「またナイトメアフレームの部品とか仕入れて貰わないとだしぃ?こんな日くらい渡しとこうと思ってぇ?」
ラクシャータが差し出したのは昔を彷彿とさせるリボンの掛かった真四角の箱。
「‥‥‥‥。あ、ありがとう。戴こう、カレン、井上、千葉、‥‥ラクシャータ」
仮面の下で表情を引き攣らせながらもゼロは四人の贈り物を受け取ったのだった。



───────────
作成 2008.02.14 
アップ 2008.02.15 

「‥‥‥‥アラン・スペイサー?」
租界の街角で、人とぶつかり転倒した(つまり勢いに負け尻もちをついた)ルルーシュは、「いてて」と言っていた口を閉ざして咄嗟に顔を上げる。
ぶつかった相手、それはどこか見覚えのあるブリタニア女性と、──扇。
扇はぶつかった相手に向かって手を伸ばしていたが、連れの呟きが耳に入るなり、手を引っ込めて連れに向きおなる、っておいおい。
「‥‥記憶が戻ったのかッ?」
ルルーシュは小声で訊ねているつもりらしい扇の声を聞きながら、自力で立ち上がり、パンパンと服に着いた埃や汚れを払う。
見られる訳にはいかない鞄に異常はなさそうで、内心ホッと息を吐いた。
その間、ルルーシュは表情には出さず、見覚えのある女性の事を思い出そうと頭を回転させていた。
「き、君。大丈夫だったかい?‥‥君は、ちぐさ‥‥いや、彼女の事を知っているんだろうか?」
扇が肩を掴まんばかりの勢いでルルーシュに迫り、ルルーシュは思わず数歩後退る。
だが不意にルルーシュの中で思い出される事が有った。
彼女はルルーシュを「アラン・スペイサー」と呼んだ、それは最近、ルルーシュが一度だけ名乗った名前でもある。
相手はブリタニア軍でナイトメアフレームに搭乗していた一人の女性軍人、確か、名前は──。
どうやら彼女は記憶喪失らしいが、いつ失われた記憶が戻らないとも限らず、その名前を、そして顔を覚えている以上迂闊な事は云わない方が無難だった。
「‥‥えっと‥‥。直接会った事はありませんよ?それに名前も知りません。‥‥ただ、たぶん、顔は見た事は有りますけど」
首を傾げ、曖昧に、何故そんな事を聞くのだろうと訝しげにする事を忘れずに、ルルーシュはそう言った。
「えッ?‥‥どこで?」
扇は訊ねておきながら少しでも肯定される事を想定していなかったのだろう、かなり驚いている。
「えっと、番組、です。‥‥少し前に、総督暗殺の容疑者が護送される番組を放送してましたよね、あれで。随分雰囲気が違ってますけど‥‥」
そう、ルルーシュが後で確認した番組に、彼女も映っていたのを覚えていたのだ。
「‥‥‥‥‥‥。沿道にいた民衆とか?」
扇はつーッと額から汗を流しながら、そっと訊ねてきた。
「いえ。ナイトメアフレームに乗っていたので、ブリタニア軍人‥‥ですよ?‥‥今日は休暇中みたいですけど。あ、おれ、そろそろ行かないと時間が‥‥」
ルルーシュは答えて扇にもわかるように腕時計に視線を向けてもう良いだろうと訴える。
「あ、ありがとう。えっと‥‥アラン、君?」
「いいえ。何故、彼女がそう言ったのかは知りませんけど、それ、おれの名前じゃないです。誰かと間違えたんじゃありませんか?‥‥じゃこれで」
ルルーシュはキッパリと否定してそう告げると、ペコリとお辞儀をして、その場から足早に立ち去った。
背中にかかる扇の声は、聞こえなかった振りを貫いた。


仮面を被っていると言うのに、ゼロの機嫌の良し悪しは、そこはかとなく伝わってくる。
良し悪し、ではない、機嫌が悪い事が、だ。
騎士団の誰もが、「ゼロの機嫌が良かった事って有っただろうか?」と何度目かの考えに嵌りこむ瞬間でもある。
ゼロはトレーラーの二階の自室ではなく、一階のソファに座って腕を組んでいる。
ただ、それだけ。
しかしゼロはやってきてこの場に座るなり、ピクリとも動いていないのだ。
これが藤堂ならば理解できるのだが、ここに座る時のゼロは書類に目を通している事が多いので普段と違う事は明らかだった。
ゼロが来る前からソファに座っていた藤堂と四聖剣。
藤堂は一度チラとゼロに視線を向けただけで、話す事がないならと放っておく事にしたようである。
だが四聖剣は、それでも気になるのか、度々ゼロに視線を向けたり、顔を見合わせたりと、集中力が乱されている様子であった。
その空間への入口付近では、騎士団幹部達が集まってなにやらヒソヒソと囁き合っている。
玉城の声が大きいので、他の、カレンや井上、杉山達が幾らヒソヒソと声を落としても、話を推察するのは容易だったりするのだが。
卜部と千葉の無言の要求を感じ取った事もあって朝比奈が立ち上がると、カレンに近づいてそっと訊ねる。
「あのさ。扇さんはどうしたの?姿が見えないみたいだけど~?」
困惑の表情を浮かべたカレンがこちらもコソリと応じた。
「まだ来てないです。来るって言ってた時間はとっくに過ぎてるんですけど‥‥」
「‥‥アレ、どうしたの?すっごく気になるんだけどー?」
「それはこっちもです。確かに扇さんなら、聞いてくれるんでしょうけど」
チラリとゼロを見ながら、コソコソ、ヒソヒソと言い合うカレンと朝比奈の言葉を聞いた玉城は両手で拳を作った。
「ヘッ、どいつもこいつも。‥‥だったらおれ様が聞いてやる。‥‥おい、ゼロ。テメッ、さっきから何怒ってやがるんだ?」
カレンと朝比奈に宣言し、二人が止めるのも聞かずにゼロにズカズカと近づいて指さしながら言いきった。
ゼロは仮面を玉城へと動かし、無言のまま元の状態へと戻る。
「かぁ~ッ。テメ、おれ様には言えねッてのか。その態度改めろッて何度も言ってるだろーがッ」
玉城の、全くもって説得力の欠片もない棚上げ発言が叫ばれる。

「うるさい。黙れ。少しは大人しく出来ないのか?」

そこはかとなく冷たい声が、ゼロの口から吐き出され、言われた玉城は元より、その場にいてその声を聞いた者すべてが凍りつく。
仮面をしているので、純粋に声だけでこの威力である。
もしも万が一鋭かったり冷ややかだったりする眼差しが一緒だったならば心臓すら止まっているだろう。
「‥‥ゼロ。みな、君の事を心配しているんだ。もう少し違う言い方は出来ないものか?」
その場で一番胆力の在る藤堂が、珍しくもフォローを入れる為に口を挟んだ。
「‥‥‥‥。心配?わたしの?‥‥何故?意味がわからないな」
ゼロは藤堂を見、しばらく黙った後、心当たりはないと訝しげに応じると立ち上がった。
「どうやら、わたしがここにいては仕事にならないようだな。‥‥自室にいる。緊急時以外は声をかけるな」
ゼロはそう言うとマントをバサリと翻して、誰もが止める間もなく二階に消えていった。

ゼロの自室の扉が閉まった後、何人もがホッと溜息を吐いた。
「ッかはぁ~‥‥。なんだありゃ。メチャクチャ怖いじゃねぇかよ。あれで、なんでもないつもりだったのか奴は」
玉城が盛大に息を吐き出してから、ようやっと悪態を吐いた。
「てか玉城ッ、あんたがキレるから」
「んだとぉ」
ここに扇がいれば、玉城とカレンの言い合いをすぐに止めるのだろうが、他のメンツではみな離れて傍観するだけである。
二人の言い合いと、ディートハルトの独り言は頭から締め出すように設定されているとしか思えない節がないでもない。

暫く、二人の喧々囂々とした言い合いだけが響いた後、待望(?)の扇がひょっこりと顔を出した。
扇は室内の様子に首を傾げた後、何が原因なのか言い合いを続けている二人に声をかけた。
「‥‥一体、何を騒いでいるんだ?」
どこかのんびりとしたいつもの扇に、玉城とカレンは瞬時に口を噤む。
次の瞬間、二人は共謀するかのように顔を見合わせた後、扇に向かって同時に声をかけた。
「「扇(ッ)」さんッ」
扇はあまりの勢いに上体を仰け反らせながら、「な、‥‥なんだ。一体?」と返した。

───────────
作成 2008.02.09 
アップ 2008.02.14 

誰かが接近している。
その報が黒の騎士団の本部を駆け巡ったのは、藤堂と四聖剣が仲間になった次の日だった。
それぞれ物陰に隠れたり、窓から相手を確認しようとしたり、攻撃に適した配置に移動したりと大慌てである。
紅月カレンも、相手を見ようと窓にかかったカーテンの隙間からそっと眺めた。
そして驚いた。
「‥‥‥‥ッんで‥‥」
振り返って少し離れた場所にいた扇に向かって小さく声をかける。
「扇さん、お願い、攻撃はしないで」
「‥‥知ってる奴等なのか?カレン」
カレンは曖昧に頷く。
「女性はみんな、‥‥男は初めて見るけど‥‥」
カレンは、「だから照準を合わせるのなら男の方で」と頼んだ。
「判ってる。おれ達だって無暗に女子供を傷つけたくない。‥‥とにかく、誰かゼロに知らせて来てくれ。カレン、見つかるとマズイなら出るなよ」
扇の言葉に杉山が踵を返し、カレンは頷いた。

車椅子に座ったナナリーと、それを押す咲世子、その両脇を歩くミレイとロイドは警戒する黒の騎士団員を他所に入口から広間へと入ってから止まる。
ロイドは周囲を見渡して、とりあえず目当ての人物を探す事にしたが、それはすぐにわかった。
奥にあるナイトメアフレームの傍に立っているのが遠目にもはっきりとわかったのは白衣のせいだろう。
「あぁ、やっぱりここにいたんだね~、ラクシャータ」
自分には関係がないとナイトメアフレームの整備を続けていたラクシャータは、呼ばれて嫌そうな顔を向けてから作業を中断して出てきた。
「なぁにしにきたわけぇ」
「いやぁ~。いるとは思ってたけど、ホントにいたとはね~。でも、今回は助かったかな~」
にこにことロイドは笑顔満面で言う。
「‥‥‥‥。言っとくけどぉ。あんたなんかの頼みは聞かないからね~」
「そ~言わずにさぁ~。流石に知り合いがいないと頼み難いじゃないか~」
「あんたがそれを気にするわけぇ?」
ロイドがラクシャータと舌戦を繰り広げていると、バラバラと騎士団の団員が出てきて周囲を取り囲んだ。
カレンと扇の会話が行き届いていたのか、照準はロイドだけに向けられている。
「ラクシャータ。‥‥知り合いか?」
「んー。まぁ、以前一緒の研究所にいたってだけだけどぉ~」
「‥‥一体何をしに」
扇が「来たんだ?」と続ける前に、ミレイが一点を指さして「あーーー」と叫んだ。
ミレイはそこに見知った顔を見つけてしまったのである。
「カ、カレン??なんで貴女が黒の騎士団のカッコをしてるの?」
「知り合い?じゃあ丁度良いねぇ。ラクシャータよりは頼みがいがありそうじゃないか~」
ロイドは「あはー」と笑ってラクシャータから視線を外して、既に彼女を関心の外に置いている。
「‥‥ミレイ会長こそ、どうしてこんなところに?てかみんなして‥‥夜逃げ?‥‥まだ夜じゃないけど」
渋々出てきて扇の隣に立ったカレンは、首を傾げつつ思った事を口にする。
「あーおしい。ざ~んね~んでしたー。ちょっとしたお引越し希望中~なんだよね~」
「ロイドさん。余計なチャチャは入れないでください。‥‥えっとね。本題から言えば、キョウトまで連れて行って欲しいと頼みに来たのよ」
ミレイはロイドを黙らせてから、回りくどく言っても納得しないだろうと、ズバッと本題を切り出した。
「‥‥あの。ブリタニア人である会長が、どうしてキョウトへ?」
「‥‥‥‥。それはキョウトにつけばわかると思うわ。‥‥桐原って方とは話が付いてるって事だったから」
「‥‥そのメンツで、あいつの姿がないのが一番不自然なんだけど、どうしたのあいつ」
「一人で先行したらしいわ。ただ、移動中何かあると困るから護衛をつけたいとかって話はしていたのよ」
「‥‥その護衛が黒の騎士団?それってちょっとふざけてない?」
「あは~。でも黒の騎士団って、弱者の味方、なんだよね~。助けを求めてやって来た弱者を追い出す事はまさかしないと思うけども~?」
「てっめぇ。都合の良い時だけ弱者気取る気か?」
「‥‥玉城、あんたはちょっと黙ってて。‥‥てか、扇さん。外野がうるさくて説明ちゃんと聞けないです」
外野がアチコチで交わし合っている囁き声が気になって仕方がないカレンが、ついでに扇に泣きついたところで、バサリと布を翻す音が聞こえた。
「なんだ、この集団は。侵入者となごんで井戸端会議か?害がなければ、持ち場に戻って仕事しろ」
「ゼロッ。てめぇが遅いからこーなってるんだろーがよ。ブリタニア人が迷い込んだんだよ。どーする気だ?」
玉城が早速ゼロに突っかかる。
玉城が吼えるのは何時もの事と、あっさり無視したゼロは、井戸端会議の中心に向かって声をかけた。
「扇、カレン、ディートハルト、ラクシャータ。‥‥藤堂に四聖剣、以外は解散。カレン、四人を第二会議室へ通せ」
「えッ‥‥、わ、わかりました。‥‥会長、とりあえず大人しく付いてきてください」
現れて説明も求めず指示を出したゼロに驚いたカレンだが、肯いてから、小声でミレイに囁いた。
ミレイが頷いたのを確認してから先頭に立って歩き出した。
「呼ばれた者も、第二へ入ってくれ。‥‥‥‥全く、世の中狭すぎるな」
最後に呟くように言ったゼロの言葉は誰の耳にも届かなかったけれど。

第二会議室の奥に不法侵入者四名を通し、扉側に各々居場所を決めた騎士団員。
「‥‥お前達は、ナナリー・ランペルージ、ミレイ・アッシュフォード、ロイド・アスプルンド、篠崎咲世子に間違いないか?」
最初に口を開いたのは、ゼロだった。
呼ばれた四人も、騎士団の団員も一様に驚く。
「ゼロ、何故彼等の名前を知っているんだ?」
扇が四人とゼロとを見比べて、混乱しながらも訊ねる。
しかしゼロは、扇を一瞥すると、無言のまま再び四人に視線を戻した。
「おおあたり~。どうしてわかったのかなぁ?」
「桐原公から連絡が有った。キョウトまでの護衛を黒の騎士団に頼みたい、とな。‥‥どうやって接触するか、検討していたところだ」
相変わらずの口調でゼロに尋ねるロイドに、ゼロは淡々と事実を述べた。
「‥‥ならゼロ。このメンツを選んだのは何故なんだ?」
扇は尚も疑問をぶつける。
「‥‥不確定要素は除いておきたいからだ。顔見知りのようだな?‥‥ラクシャータ、カレン、‥‥それにディートハルト」
ゼロは言って、三人に視線を巡らせるが、呼ばれた三人は驚く。
ゼロが来る前に、ある程度の会話をしていたラクシャータとカレンはともかく、ディートハルトは一同の視線を浴びてしまう羽目に陥っていた。
「あー、良くご存じでしたね、ゼロ。‥‥そちらの、篠崎咲世子さんとは面識がありますが‥‥何故?」
ディートハルトは、すんなりとゼロの言葉を肯定してのけて、悪びれる事なく、何故知っていたのかと逆に訊ねていた。
「貴様が各所にスパイモドキを置いているのは知っている。学校なんぞに置いて何を探っていたのかは知らないがな」
ゼロは質問が返る事を予測していたように、スラスラと応じた。
慌てたのはミレイである。
「ちょっ、ちょっと待って。咲世子さんが来たのって、ゼロや黒の騎士団が現れる、ずっとずっと前なのよ?そんな前から一体、何を探っていたと言うの?」
ミレイの言葉は、ディートハルトと咲世子に向けられた言葉だった。
「良家子息の通う学校では、ドラマが生まれやすいのですよ。彼女には、目についた情報の提供を頼んでいた」
「初めは学内新聞等を流しておりましたが、‥‥途中から情報を『枢木スザク』に関する事と変更されましたので」
咲世子は素直に認めた。
「まぁ。では、時々お書きになっていたお手紙は恋人の方へのものではなく、こちらの方に宛てられていたのですか?」
驚いた声音で、しかし残念そうな響きも載せてナナリーが言う。
「‥‥ディートハルト。貴様の探っていたモノは、アッシュフォード学園そのものか、アッシュフォードの家の方だったのだな」
断定的に言いきったゼロに、流石のディートハルトも驚き、いや驚愕に表情を崩した。
「良くお分かりになりましたね、ゼロ。‥‥わたしは、第三世代のナイトメアフレームが今後どうなって行くのか知りたかったのですが」
ディートハルトのあくまで悪びれない言葉に、ゼロは溜息を吐いて、カレンに声をかける。
「カレン。お前は確かアッシュフォード学園に在籍していたな?」
「は、はい。ミレイ会長とは生徒会で一緒です。生徒会室のある建物に残りの二人がいて‥‥。そっちのロイドって人は知りません」
「ならば、ラクシャータ」
「えっとぉ。そっちの男はプリン伯爵って言う、嫌ぁな奴よぉ。以前同じ研究所にいた事が有ったけど、ホント最悪ぅ」
「ちょっと~、ラクシャータ。何もそこまで言わなくても良いだろう?そ~れ~にぃ、ぼくはそんな名前じゃないって何度言ったらわかるかなぁ」
「なぁに~?あの時はこっちも迷惑していたんだからねぇ」
「‥‥‥‥。つまりかつての同僚か‥‥」
再び言い合いを始めてしまったロイドとラクシャータにゼロは半ば強引に言葉を割り込ませていた。

───────────
作成 2008.01.13 
アップ 2008.02.13 

※「17話の後」の続きです。

その日、生徒会室には会長のミレイと副会長のルルーシュしかいなかった。
リヴァルは他校との打ち合わせにニーナを連れて出掛け、シャーリーは水泳部へ、スザクは軍、カレンは休み‥‥と都合が付かなかったのだ。
先に来ていたミレイが、珍しく一人ポツンとする事もなくぼんやりしているところへ、ルルーシュがやって来たのだ。
少々暇を持て余していたミレイは、早速ルルーシュをからかって遊ぼうと思い振り返ったのだが、瞬時に固まった。
普段のルルーシュからは考えられない程、沈痛な表情を見せていたからで‥‥。
「‥‥‥‥どう、なさいました。ルルーシュ様‥‥」
と、思わず呟いてしまったほどである。
ルルーシュは苦笑を洩らす。
「‥‥ミレイ。今まで世話になった。書類はここにある。おれは、本国へ転校する事にしておいてくれ。‥‥ナナリーと共に」
ミレイは驚きに目を見張る。
「なッ‥‥一体、何が‥‥まさかッ、見つかって‥‥?」
「まだ、今は見つかっていないだろう。‥‥だが、最早時間の問題だ。‥‥おれは先に消える。‥‥ミレイには、ナナリーを頼みたい」
「‥‥しておいてくれ、という事は、実際には違う、という事ですね?それは?わたしは‥‥貴方についていきたい」
ミレイの頭には、アッシュフォードの家の事も、学園の事も、学友の事も有ったけれど、それでもと性急に訊ねていた。
「‥‥良いのか?今まで良くしてくれたアッシュフォードにも、迷惑はかけたくないのだが」
「構いません。わたしは貴方を選びます。それは祖父にも既に伝えてある事」
「‥‥では、これを。確か、まだ婚約は解消していないな?‥‥ロイドとは」
ルルーシュの言葉に、ミレイは顔を顰める。
「‥‥それって、もしかして、わたし、ダシにされてました?」
「さぁな、それはロイドに聞け。‥‥託として、『最後のチャンス、返事は即答』‥‥だな。頷いたならばここへ連れて来てくれ。待たせておく」
「待たせておく?‥‥つまりルルーシュ様はいらっしゃらない?」
「おれには他にする事がある。‥‥ナナリーを無事キョウトへ届けて欲しいんだ」
「‥‥わたしが貴方の騎士になりたがっていたのは知っているでしょう?貴方の大切なナナリー様の事は任せてください。‥‥ただ、また会えますね?」
「‥‥約束しよう。‥‥ナナリーを頼む」
「イエス、ユアマジェスティ」
満面の笑みで、ミレイは応じた。


特派のトレーラーを覗くと、以前も対応に出てきていた確かセシルと言う女性士官が顔を出した。
「あら、貴女、ロイドさんの婚約者の‥‥?」
「は、はい。あの、ロイド伯爵、いらっしゃいますか?」
「ちょっと待ってくださいね。‥‥ロイドさん、お客様ですよ~」
背後を振り返ったセシルが、トレーラー内に向かって声を荒げた。
「ん~。ぼくに~?上がって貰って、セシルくん」
どこか上の空で返って来た声に、セシルは振り返り様にっこりと無理やり笑顔を作っているような顔で対応した。
「入ってください。危険ですから、コード類には触れないようにお願いしますね」
言われて頷くと、セシルの後ろを大人しく付いていき、ロイドの元へとたどり着いた。
隣にいるのは枢木スザクだ。
「‥‥あれ、ミレイ会長?」
スザクの驚いた声に、ロイドが顔を上げて振り向いた。
「おやぁ~。これはこれはー、婚約者殿。今日はどーしたのかなぁ?」
「‥‥今日はこれを届けたくて参りました。ロイド伯爵。出来れば早急に目を通して頂き、返答を、との事ですので‥‥」
「んー」
ロイドは生返事を返した後、わたしの差し出した手紙を取るでもなく、手元の書類へと視線を移した。
「ロイドさんッ」
セシルの声に、やっとロイドは少し慌てながら手紙を受け取った。
「怖いな~セシルくんは。‥‥んーどれどれ。‥‥‥‥」
手紙を開いて一読していたロイドは、ピタリと動きを止めた。
「ロ、ロイド‥‥さん?」
動こうとしないロイドに、セシルが訝しげな声をかけた途端、ロイドは爆笑した。
「あー‥‥あはははははは~。おーけー、おーけー」
笑いながら立ち上がり、それでもお腹を押さえながら、セシルとスザクに視線を向けた。
「セシルくん、後は任せるね~。スザクくんのデータ取ってあげて。ぼくは、これからデートだから~」
「ちょっ、‥‥本気ですか?」
手紙に、何が書かれていたのかは知らないけれど、突然デートなどと言われては驚くしかないと、ミレイは思うけれど口は勝手に動くモノ。
「本気本気~。善は急げ~。それに二人はとっても優秀~。さぁさ。でましょでましょ♪」
ミレイの背中を押すようにトレーラーから出、その後は腕を引っ張るようにしてその場を後にした。
トレーラーの外まで見送りに出たセシルとスザクは、何も言えないまま二人を見送ったのだった。

「‥‥で?説明してくれるかな~。なんで、君がこれをぼくに持って来たのか~を~」
ロイドに問われてミレイは首を傾げたので、ロイドは手紙をミレイに見せてやる。
『祖国を裏切る気はあるか?』
文面を見て、ミレイは絶句する。
「‥‥‥‥これは?」
ロイドが特派を出てきてここにいる以上、この文面に賛同したという証なのだが。
「で?我が君はどこ~?」
ロイドは嬉しそうに言っているものの、その目は笑っていない。
ミレイはもう一通の手紙を差し出した。
「ここまで来たら渡すように頼まれていたの。確かに渡したわよ」
「あは~。もしかしてぼく達、同じ立場~?だとすると、婚約破棄だね~。それとも連絡取り易いように暫くこのままかな~?」
「‥‥なら、貴方も騎士に立候補中?」
「そーだよ~。しかし、我が君があれ程大切にしていた妹姫を任されるなんて‥‥。これは気が抜けないね~」
「立候補中」という言葉に否定しないまま、「我が君」と言い切ったロイドは、渡されたばかりの手紙をミレイに差し出した。
訝しげに眉を寄せてから、ミレイは受け取って文面に目を通す。
『妹をキョウトに預ける手はずを整える。最も確実なのは「黒の騎士団」経由だと判断した。
その後、キョウトの桐原を経由して皇の元へ預けられたし。‥‥‥‥頼んだ』
「‥‥‥‥そっけないですね、これ‥‥」
ミレイは学園での様子を知る分余計にそっけなく感じてしまう。
呆れながら手紙をロイドに返すと、ロイドはおもむろにライターを取り出して手紙に火をつけた。
「なッ、‥‥何をしてらっしゃるんですか?」
「んー?危ない文面の手紙残しておくわけにはいかないからね~。万が一落としたりしたら大変だし~」
完全に紙を燃やし、火が消えるまでを目で追っていたロイドは、ミレイに視線を戻した。
「で?これからお迎えに?それとも日を改めてかな~?」
問われてミレイは腕時計に視線を落とす。
「そろそろ到着の時間だわ。ここで待ち合わせをしているのよ」
ミレイは言って周囲を見渡した。
するとそれを待っていたかのように、車椅子に乗った少女とそれを押す女性が姿を現した。

───────────
作成 2008.01.12 
アップ 2008.02.11 

「そこの団員、126番」
スザクは中庭でルルーシュを待っていると、名指し(番号指し)で呼ばれて軍人の習性上、振り返って直立した。
そこにはゼロが一人。
ぅ、嫌だな、なんか‥‥ゼロを一人二人と数える日が来るとは‥‥とスザクの脳裏に要らぬ事が駆け巡ったりしていたが。
「このわたし、7番のゼロが命じる。126番はこれより校門へ急行し、外に展開するブリタニア軍に対し手を振って戻って来る事。それを十回繰り返せ」
「ゼロ」の声はそう命じる。
スザクにとってはあまりにも聞き覚えのある、本物の「ゼロ」ッぽい声に、驚きを隠せない。
大体、最初の命令を言った放送の時からそう思っていたのだけど、とスザクは7番のゼッケンをつけた「ゼロ」を凝視する。
なのにルルーシュに結び付けようとはしないスザクは抜けているのか天然なのか──げに、恐ろしきは先入観。
「‥‥どうした?団員だと言うのに、わたしの命令には従えない、と?」
「‥‥本当に生徒の変装?」
スザクは思わず訊ねてしまう。
「‥‥‥‥。当たり前だ。こんなところに本当のゼロが来ると?言ったはずだ。わたしは7番のゼロだと。速やかに命令を実行に移せ」
「‥‥了解。えっと門へ行って手を振る‥‥を十回だったね。じゃあ行ってくる」
応じると腑に落ちないものを感じながらもスザクは駆け出して行った。

中庭が見渡せる教室の一室で、ニーナとシャーリーがその状況を見下ろしていた。
「ねぇねぇシャーリー。あの7番のゼロって誰かな?」
「んー‥‥。ミレイ会長?それか3年の誰かかも。スザク君、面喰らってたね。あれって‥‥」
「うん、減点対象、かなぁ?でも、おかしな事命じていたよね」
「馬鹿にして~とかって軍の人に怒られないかなぁ?‥‥会長に報告しとく?」
「大丈夫、だと思うけど‥‥。でも、7番のゼロは結構点数稼げるね、コレって」
「そうね。さっきの放送も点数高いし、今のやり取りもいけてるし。結構上位に喰い込みそう」
ニーナとシャーリーは顔を見合せてどちらからともなく笑みを見せた。

「んー?」
学園の門を映していたモニターを見るともなしに見ていたロイドは、不意の変化に声を上げた。
「どうかしたんですか?ロイドさん?」
セシルに尋ねられてモニターを指さす。
「これ。誰か近づいて来たよ。‥‥脱走かなぁ?」
促されて見たセシルは、モニターの中に黒の騎士団の姿をした人物を見つけた。
軽く身長よりも高い門の上に飛び乗ったその団員は、キョロキョロと周囲を見渡すといきなり手を振った。
「何かの合図かな~?」
「っていうかロイドさん。コレ、スザク君ですよ?」
「知ってるよ~。パーツくらいの身体能力がないと、あれに飛び乗るなんてできないしぃ?」
スザク扮する団員は、ひとしきり手を振り終えると門から飛び降りて駆け去ろうとして少し行ったところで立ち止まった。
パラパラとブリタニア軍人が数名外から門に近づいて、どうやら呼びとめたらしい。
「‥‥わたし達も行った方が良くないですか?」
「ん~。‥‥流石に生徒に無体な事はしないでしょ~?」
ラクシャータとの取り決め通り、大人しくしているつもりのロイドは、のらりとかわした。

そのラクシャータはというと、後方支援として、出撃している騎士団に同行していた。
作戦開始まではまだ時間が有る事もあって、ラクシャータはのんびりとソファに腰を降ろしている。
『あのー』
そこへ、前線で待機している月下から朝比奈の声が回ってきた。
「んー?ど~かしたぁ?なんか、トラブルぅ?」
ラクシャータは気のない返事を返す。
『じゃないですけどね~。ちょっと気になって~。紅月さんのせいだっていう、ゼロとの会話。アレ、なんだったんですか~?』
ゼロはラクシャータの名前を呼んだだけで、かなり嫌がっていたラクシャータの事が、朝比奈は気になって仕方がないらしい。
このタイミングで訊ねたのは、このままでは任務に支障を来しかねないとでも思ったのだろう。
「‥‥‥‥‥‥答える必要はないと思うけどぉ~」
ラクシャータはかなり言い渋った後、そんな返答を返した。
『だけど~。ゼロは「あれが出て来るとややこしい事にしかならない」とかって言ってましたしー?』
「だからぁ、それは出てこないように言っといたしぃ?」
ラクシャータはしつこい朝比奈にうんざりしながらも応じる。
『‥‥誰に?』
聞いていたのか、ポツリと千葉の声が鋭く飛び込んで来た。
「ないしょ~?知りたいならゼロに聞いて~。藤堂~、あんたの部下でしょぉ~?黙らせて頂戴ぃ?」
『‥‥‥‥後にしろ』
『『わかりました』』
やめろと言わなかった藤堂に、良いお返事を返した朝比奈と千葉はそのまま沈黙する。
「後で、ゼロに尋ねなさいね~」
含みを持たせた藤堂の言葉を気にしながらも、ラクシャータは逃げの一手を打ったのだった。

指示通り、手を振って戻ろうとしたところで、スザクは背後からの制止の声に立ち止まる。
振りかえるとバラバラとブリタニア兵が数名近づいてきていた。
スザクはバイザーの下で眉を顰めながら門のところへと戻って行く。
「あの、‥‥何か?」
「今の行動を説明したまへ。どこへ合図した?」
高飛車な言い様よりも、その内容に、スザクは警戒する。
「いえ、どこへも合図は送っていません」
「では、一体なんだったのだ?」
「‥‥単に手を振っていただけで‥‥それ以外にはなにも‥‥」
これが自分で良かったとスザクは思う。
他の一般の学生や、ましてやルルーシュだったらと考えるとゾッとするものがあるが、スザクならば同じ軍人だし対処のしようもあると少し安堵したのだ。
「学年と名前を。本当に学生なんだろうな?」
「自分は‥‥。アッシュフォード学園2年の枢木スザク、です」
「枢木スザク?‥‥まさか」
「第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア様の騎士にして、特別派遣嚮導技術部に所属する少佐です。軍は学園に関わらないはずではなかったのですか?」
「名誉の分際で‥‥。チッ」
ボソリと小声で吐き捨てるように呟いた軍人は、手で行くように合図を送る。
「‥‥自分は同じ事を後9回、する事になっている。また来るのでそのつもりで」
スザクは団員の格好のままで、ブリタニア軍人に対して注進するというスパイ行為にも見える動きをすると踵を返して駈け出した。
ちなみに、採点者がこれを見ていれば、減点対象と言う事になるだろう、恐らく。
走りながら、今度7番のゼロを見かけたらこんな指示を出さないように注意しようと心にとめる事を、スザクは忘れなかった。

カレンは暫くその場に留まっていたが、ルルーシュらしい団員が来る気配がなかったので、移動しようと踵を返す。
そこに他の知らない団員がいたので声をかける事にする。
「そこの」
団員2名がカレンを見たので、先を続ける。
「7番のゼロが命じる。‥‥グランドを2周走って来てくれ」
「ぅわ。‥‥あの、せめて1周になりませんか?さっき走って来たばっかりなんですけど」
「‥‥そうだな。では1周で」
「ありがとう、7番。それじゃあ」
走り去る団員を見送りながら、カレンは驚いている。
そして慌てて止めるスイッチを押した。
実はカレンは先程から一度も自分の声で命令を出していないのだ。
全ては事前に本物のゼロに吹き込んで貰っていたテープを流していたに過ぎない。
なのに、何故ここまで会話が成立するのかと、カレンは驚いていたのだ。
スザクとのやり取りでさえ、ゼロがスザクの性格をそれなりに把握しているから、と言われていたからまだ驚きも少しで済んでいたというのに。
偶然会った、ゼロにとっては会った事も見た事すらない相手に対してここまでとは、驚くなと言う方が無理なのだ。
今度会った時に、改めてお礼を言おうと決めたカレンは、次の獲物(団員に扮した生徒)を求めて移動を開始した。

───────────
作成 2008.01.28 
アップ 2008.02.09

その日、最後の授業をカレンはサボる。
生徒会長のミレイと副会長のルルーシュには既に報告、承認済みの話であった。
一足早く着替えを済ませたカレンは、ソロリソロリと誰にも出会わないように注意しながらミレイの待つ放送室へと向かった。
「‥‥カレン?」
放送室への扉を開くと、中からやはりゼロの衣装を着たミレイが声をかけてきた。
「あ、はい。そうです‥‥が?」
「へ~、似合うじゃない。‥‥じゃ、時間も頃合いだし、始めましょうか」
こうして放送室はゼロ二人に占拠されたのだった。

ピ~ンポ~ンパ~ンポ~ン。
『アッシュフォード学園の諸君。わたしは生徒会長のミレイ・アッシュフォードです。‥‥ただいまより、イベント「黒の騎士団」を開催します』
最後の授業時間も残り十数分と言う段になって、唐突にそんな校内放送が響き渡った。
ルルーシュは、溜息を吐くと、教科書やノートを鞄にしまい始めた、──もう授業は終わるのだ。
教師も、諦めに近い笑みを浮かべている。
『各自、所定の場所に移動の後、着替えてね~。チャイムと同時に命令が飛ぶわよ~』
教室のあちこちで椅子を引くガタガタと言う音が響き、教師がいるのに授業中の教室を飛び出して行く生徒達。
「ルル。おれ達も急ごーぜ?間に合わなくなっちまうぞ」
リヴァルがまだ座ったままのルルーシュに声をかける。
「あぁ、あ。先に行っていてくれ、リヴァル。おれは着替える前にまだする事があるからな。何、開始までには間に合わせるから」
「絶対だぞ~?」
リヴァルは念を押すと、ルルーシュを残して所定の場所へと駆け出して行った。
ルルーシュは再び溜息を吐くと、ゆったりと歩きだした。

「じゃ、ここは任せるわね~」
放送を切ったミレイは、そう言うとカレンの返事も待たずに放送室を出て行ってしまう。
これから審査組のシャーリーとニーナの様子を見に行く予定だった。
カレンはミレイの消えた扉を見て、仮面の下で本性の笑みを浮かべると、そのまま扉に鍵を掛けた。
「後は、スザクの居所を掴んで、指示を出すのと‥‥、みんなを巧く誘導しないといけないわね」
カレンは、改めてマイクの前に座ると、今後の予定を挙げながら、チャイムの鳴るのを待ち望んでいた。

ルルーシュは着替えを終えた後、誰も来ない場所に身を隠していた。
手元には携帯と通信機、それに集音機にマイクなど。
今は通信機が生きていた。
『こちら扇。みんな所定の位置に着いた。‥‥本当にゼロが参加しなくても平気なのか?この作戦‥‥』
「あぁ。問題ない。藤堂の指揮で条件はクリアされる」
ゼロの口調で応じてルルーシュはそっと息を吐き出した。
どうして扇はこうも自信が足りないのだろうとは何度思った事なのか、既に両手の指では足りないだろう。
「目的を達成したら速やかに引き上げればそれで良い。‥‥それは扇、お前も分かっているだろう?」
『あ、‥‥ああ、そうだな。わかった。‥‥えと、ゼロは今、どこに‥‥?』
「租界だ。わたしにもするべき事としておきたい事があるからな。‥‥ッとにかくそちらは任せた。‥‥切るぞ」
ルルーシュが少し慌てて通信を切った直後、学園のチャイムが音高く響いた。
流石にこれを聞かれるわけにはいかなかったルルーシュはホッと息を吐き出したのだった。

『わたしはゼロ。7番のゼロだ。学園内にいる、全ての騎士団団員に告ぐ。速やかに校舎から外へ出たまへ。これは命令である』
チャイムの直後、「ゼロ」の声がスピーカーから溢れ返った。

「‥‥これで、団員姿の生徒全員が一旦外へ出なければならなくなったな」
ルルーシュは「ゼロ」の声を聞いてほくそ笑むと携帯を掛ける。
『もしもし?ルルーシュ?どうしたの?』
「スザクか?今何処だ?」
『今?放送の通り外に出てるけど?‥‥えっと、中庭の方』
「そうか。これから合流したいから待ってて貰えるか?‥‥勿論、新たな指示がなければ、だけど」
『うん、わかった。待ってるよ。指示が有ってもまた戻るから、いなくても待ってて欲しいな』
「わかった。そうする。じゃあ中庭で」
ルルーシュは通話を切ると今度はカレンへコールする。

『はい。‥‥カレンだけど』
「おれだ。ルルーシュだ。約束の件だが」
『‥‥あんた、本気だったの?』
「そう言っただろう?ゼッケンの番号は既に教えたな。現在の居場所は中庭だ」
『‥‥どうして教えるの?』
「約束だからな。‥‥一応待ち合わせをしているからおれも行く予定だが、おれには命じるなよ?」
『え、ええ。わかってるわ。‥‥ありがとう』
「‥‥もう切るぞ」
言うなり通話を切ったルルーシュは、そのまま携帯の電源も切ってしまう。
リヴァルやミレイ辺りからコールがかかるのはいただけないからだ。
「‥‥カレンはうまくやるかな?」
ルルーシュは独り呟く。
今の放送で、採点はカレンが一歩リードしているはずだ。
このまま指示通り動いていれば、最優秀になるのも難しくはないだろうが、何が有るかわからないのでまだ油断は出来ないだろう。

携帯が鳴り、相手を見て予想通りだったと言うのに、カレンは少し躊躇ってから通話ボタンを押した。
「はい。‥‥カレンだけど」
『おれだ。ルルーシュだ。約束の件だが』
変わらない声音で言う相手に、カレンは眉を寄せる。
「‥‥あんた、本気だったの?」
変装している事も手伝って、カレンの猫はすっかり退散してしまっていた。
『そう言っただろう?ゼッケンの番号は既に教えたな。現在の居場所は中庭だ』
淡々と、事務的に言う相手に、カレンの中で疑心は膨れる。
曲がりなりにも親友の事を、イベントとは言え、何をするかもハッキリ言っていないというのに、こうも教える事が出来るのだろうか、と。
「‥‥どうして教えるの?」
『約束だからな。‥‥一応待ち合わせをしているからおれも行く予定だが、おれには命じるなよ?』
冗談めかして言う相手に、チャメッ気が見えた気がして、カレンはほんの少しホッとする。
「え、ええ。わかってるわ。‥‥ありがとう」
『‥‥もう切るぞ』
そっけない言葉と共に切れた通話に、もしも会ったら何か命じてやろうかしらとカレンは思った。
「‥‥とにかく、中庭ね」
携帯をしまったカレンは、そう呟くと駈け出した。


ロイドは、それはそれはふか~い溜息を吐いた。
「‥‥どうしたんです?ロイドさん」
それに気づいたセシルが声を掛ける。
「どーしたって言われてもねぇ?どうしてパーツもないのに、ぼくのランスも動かないのに、ぼく達がこんなところでジッとしてないといけないのかなぁと」
ロイドの愚痴にセシルは呆れる。
「‥‥どうしてって‥‥。ロイドさんでしょう?スザク君に無茶な頼み事したの。ランスロットが起動できないのも。それに一応、これも軍務、ですよ?」
「軍務、ねぇ?なんだって学園を完全包囲するのが軍務になるんだか」
トレーラーのモニターにはアッシュフォード学園の門が映し出されていたり、周囲を囲んでいる軍を映しているモニターも有ったりする。
「でも、いかにも騎士団に来てくださいッて言っているようなイベントですから、警戒した方が良いと判断されたんでしょう?」
「普通はイベント自体を中止するとか、そっちに動くんじゃないかなぁ~?」
「ですから、ロイドさんにそれを言う資格はないですって」
見えない位置にナイトメアフレームさえ配備しているのを知っているので、余り強く出れないセシルは、それでもロイドに注意するのだった。

───────────
作成 2008.01.27 
アップ 2008.02.03 

生徒会室の前でカレンはミレイと行き違う。
「ミレイ会長?‥‥どちらへ?」
「ルルちゃんったら人遣い荒くって~。もぉ~やんなっちゃんわ~」
まずは大抵おどけた愚痴が零される。
「会長。自業自得って言葉覚えたほうが良いですよ。急ぎなんですから、さっさと行って来て下さい。‥カレン、来たなら入ってくれ」
部屋の中からルルーシュのかなり不機嫌そうな声が飛び出してくる。
「あちゃ~。じゃ、後はよろしく~」
結局ミレイはカレンの問いに答えることなく足早に立ち去っていった。
カレンは少しその背を見つめていたが、仕方なく生徒会室に入る。
みんなそれぞれ出払っていて、机に書類を満載にしたルルーシュだけが室内にいた。
‥‥これを手伝うくらいなら、少しくらい人遣いが悪かったとしても、あちこち動き回る方が良いかなと思う量である。
しかし、この量の書類仕事をしながら、生徒会メンバーや実行委員に指示を出しまくるとは、凄い事ではないかとカレンは少しルルーシュを認めた。
もっともカレンがここに来たのは、準備を手伝う為というよりは、とある事を聞く為だったりする。
カリカリと物凄い速さで何かを書き付けるルルーシュに声を掛ける雰囲気でもなく、暫く待っているとピタリと音が止まってルルーシュは顔を上げた。
「採点をしやすくする為、ゼッケンを採用する事になった。そこにゼロ用のゼッケンがある。カレンが預かっていて、当日ゼロ役に配ってくれ」
桐原公経由でゼッケンの話を既に知っていたカレンは、内心ほくそ笑みながら聞いていたが、ルルーシュの最後の言葉に驚く。
「‥‥良いの?誰がどの番号か、把握してなくて?」
「生徒会だけが知っていると不公平だろう?特にゼロ役は指示を出すほうだからな。知っていれば不正が起こりやすい」
そろりと尋ねるが、ルルーシュは軽く笑って肯定した。
「‥‥なら、‥‥団員の方は?」
カレンがさりげなく本題を切り出す。
「会長の指示でおれが管理している。‥‥言っておくが、おれのは教えないぞ?」
さらりと暴露したルルーシュがにやりと笑って付け加えた。
「だッ、誰があんたのなんか知りたいって言ったのよ」
カレンは頭に血が昇って思わず、素のままに怒鳴り返してしまい、バツの悪そうな表情で視線を逸らした。
「おれのなんか、‥‥か。誰か知りたい奴でもいるのか?手伝うなら一人くらいは教えないでもないが‥‥。勿論、おれ以外でな」
今のルルーシュにとって、人手を確保する事が最優先課題だった為、ついついそんな言い方をしてしまう。
カレンは迷って机の書類に目を向ける。
「‥‥手伝い‥って、それ?」
「そうだが?‥‥流石に会長達の手前、カレンにあちこち駆け回れ‥‥とは言えないからな」
これでも譲歩しているんだとばかりのルルーシュの言葉に、カレンは「駆け回る方が良いに決まってるじゃない~」と内心叫びながらも頷いた。
会長達を出されれば、例えルルーシュには本性が知られているとはいえ、病弱設定である以上、頷く以外の手は残されていないからだ。
「それは助かる。‥‥で?誰が良い?」
「‥‥あ、じゃあ‥‥枢木君を」
カレンは知りたい事でも有った事だしと、それ以上深く考えずにポロリと零す。
すると、ルルーシュは数瞬カレンを凝視した後、それはそれは人の悪い笑みを浮かべたのだ。
「へぇ~。カレンお嬢様のお気に入りはスザクだったのか。スザクに教えたら喜びそうだな」
「バッ、‥‥ちょ‥‥ちが‥‥。何言ってるのよ。誰もそんなこと言ってないじゃないの」
カレンは言われた意味に気づいて顔を真っ赤に染めて反論する。
だいたい、枢木スザクは敵なのだから、そんな邪推は迷惑以外のなにものでもない。
「これを並び替えて、こっちは集計、それとこれの統計を取ってくれ。終わったらまだあるから声をかけてくれれば良い」
トン、トサ、トスと紙の束が目の前に置かれるのをカレンは口をパクつかせながら見ているしかなかった。
カレンは声が出せない程驚いていたので、「こ、こいつ、なんだってこう変わり身が早いのよッ」と内心で思いっきり毒づいておく。
「‥‥‥‥どうした?手伝うんだろう?‥‥それとも気分が悪くなったのか?カレンお嬢様?」
「‥‥‥‥。やれば良いんでしょう、やれば」
動かないカレンに、ルルーシュは「一旦引き受けておいてやめるのか?」と言いたげな視線を向ける。
勿論、そんな視線を投げられたからには、カレンに引き受けると言う選択肢しか残されてはいない。
椅子に座ると、はがれかけた病弱設定をなんとかくっつけ直して、静々と作業をやり始めたのだった。

ミレイは途中まだ大量の書類を抱えて行きすぎようとするスザクと遭遇する。
「あれ、スザク君。あの後一度戻ったの?」
ミレイが生徒会室に入った時に出ようとするスザクの持っていた書類の量と同じくらいだったから、思わず声をかけていた。
「あ、会長さん。‥‥いえ、まだです。これは行った先で貰った物もあるので、減らなくて‥‥」
体力馬鹿と称されるスザクにとって、重さは大した事がなくても、いつ紙が飛ばないか、落ちないかと結構神経を使うので疲れてきている。
「大変ね~。軍の仕事は良いの?」
「あ、はい。このイベントが終わるまでは‥‥。何故かみんな、協力的で‥‥」
「豪華賞品に魅かれたかな~?」
ミレイは本当にに~っこりと笑う。
「‥‥えーと。会長さん。ところで、騎士団側はどうなったんですか?」
「あぁ。とりあえず打診はしておいたわよ。返答待ちってところかしら。でも、多分大丈夫だから安心していーわよ~」
お~ほっほと高らかにミレイは得意満面に笑って見せた。
「そうですか。一応、軍の方でも、学園の周辺に配備すると言う事になっているらしいんですけど‥‥来ないに越したことはないですからね」
「そ~ね~。‥‥あ、急いで戻らないとルルちゃんに叱られちゃうわ。スザク君も頑張ってね」
「は、はい。では、後で」
呼びとめたのはミレイだったが、そう言うと、二人は慌ただしく自分の仕事に戻って行った。


「は~い、もしもし~。誰かな~?」
ロイドは非通知の電話に出るとそう尋ねる。
『‥‥‥‥相変わらずね~、プリン伯爵ぅ?』
「げ、ラクシャータ。‥‥ど~したんだぃ?珍しい事もあるね~」
それまでそれなりに見た目機嫌の良さそうだったロイドは、眉を顰めて一気に不機嫌モードに突入してしまう。
『わたしだって、あんたなんかに連絡取りたいとは思わなかったんだけどね~。仕方なく~ってやつ~?』
「‥‥それで~?一体なんの用事なんだぃ?」
『ちょっとね~。あんたの名前を小耳に挟んじゃったから~?あんた白兜のデヴァイサーにおかしな指示を出したんだって~?』
「‥‥ハッ、まさか、君。そっちでも似たような事考えてるんじゃないだろうね?」
『なんの話~?』
「‥‥‥‥。むぅ。良いじゃないか少しくらい。君は常に傍にいられるようだけど、ぼくは現在敵側に立っているんだし~」
『‥‥‥‥‥‥。だから、プリン伯爵?一体何の話かって聞いてるじゃないの~?』
「へ?‥‥‥もしかして、君。知らない?全然?まったく?」
『わからないからき~てるんじゃないのさ~。だから、一体なんの話なわけ~?』
「‥‥‥‥。あは~。別に~。それならそれでいーんだ。‥‥それで?用事は?」
『ん~。「あれが出て来るとややこしい事にしかならない」って言うしぃ?大人しくしててくれるわよね~?プリン伯爵ぅ?』
「‥‥‥‥ラクシャータ、君ね?ホントのホントはわかってるのかぃ?それともわかっていないのかぃ?一体どっち?」
『またわけのわからない事を‥‥。返事は~?』
「‥‥仕方がないね~。その日だけだよ~。その日だけ、ぼくのランスのメンテナンスをエラーにしとくから。それだけだからね~?」
『ま、それでいーんじゃないかなぁ~?‥‥じゃ、ね~プリン伯爵』
ガチャン、ツー、ツー。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。一体どっちなんだぃ?ラクシャータ?」
切れた電話を眺めて、ロイドは切なげにポツリと呟いたとか。

───────────
作成 2008.01.26 
アップ 2008.02.02 

再び座るゼロに、視線が集中する。
ディートハルトとラクシャータの表情が引きつっているのは、笑いの余韻が中途半端に残ったせいだろう。
「‥‥カレン。どこまで説明した?」
「あ、はい。イベントの名前と、簡単な内容です。まだ本決まりにはなっていなかったので、触りだけですけど‥‥。あの、ゼロッ」
「なんだ?」
「ゼロの機嫌が悪いのは‥‥‥。この話のせいですか?」
カレンは思い切って尋ねる。
「‥‥。四割程はその通りだな。‥‥桐原公も突然の事に少々驚かれていた様子。‥‥お陰で夜中に叩き起こされる始末だ」
「四割って、じゃあ他にも?」
朝比奈が尋ねるが、ゼロは「そうだな‥‥」と言って黙ってしまった。
「ゼロ。‥‥何故、その話が桐原公から回ってきているのだ?」
藤堂が訝しげに尋ねる。
「アッシュフォード学園から打診が有ったそうだ。『イベントをおこないたいが軍と黒の騎士団双方の介入は避けたい』と。『騎士団に関しては頼めないか』だそうだ」
「あ。‥‥その、生徒会長が、『騎士団の方にはちゃんと申し入れをしておくから』と言ってたんですけど‥‥」
「なるほど?直接ではなく、間にキョウトを挟んだわけか‥‥。とすれば、桐原公が懸念していた、最優秀者とやらに贈られる『豪華賞品』についても確かなのか?」
ゼロの問いかけに、カレンはビクンと身を震わせた。
「カレン?なんだ、その‥‥『豪華賞品』って言うのは?」
カレンの反応に戸惑った扇が尋ねる。
「あ、その。‥‥会長がどこからか入手したみたいで‥‥その、止めようとは思ったんですけど‥‥。どの程度のモノかも見てないのでハッキリしないですし‥‥」
「‥‥今ハッキリしていないのは君だろう?」
情報の出し惜しみよろしく、しどろもどろのカレンに、ディートハルトがイライラと突っ込む。
「えと。会長の言葉をそのまま言います。‥‥『ゼロの写真と、騎士団が名乗った時の写真等、騎士団に関するデータ満載!のお得版よ』‥‥です」
ぶはッ。
誰かが吹いた。
ディートハルトは撃沈しているし、四聖剣も千葉以外突っ伏している。
「あら~。それは確かに言いにくいわね~。わかるわ~」
ラクシャータは全然気にしないとばかりに、そうコメントした。
藤堂は、呆れた様子だったが、不意にハッと顔色をわずかに変えて口を開いた。
「待て、紅月。確か枢木スザクも同じ学校だったはずだな?」
「あッ」
藤堂の言葉に、四聖剣と扇が声を上げる。
「はい。‥‥その、スザクはロイドって言う上司から、『是非、一番になって賞品を貰って帰ってくるように~』と命令されています」
頷いたカレンは、顔を歪めて会長の言葉を伝える。
「あら~?‥‥大変ね~、それはぁ?」
ラクシャータは嫌そうな表情を浮かべながら言い、珍しい事もあると内心思う。
「‥‥桐原公からも同様の事を言付かっている、カレン。『軍の手に、情報が渡るのは避けた方が良かろう?確か学園に通っている団員がいるそうだな』と」
ゼロの言葉に、カレンは「え゛ッ‥‥」と唸ってしまい、他の者はカレンに同情と憐みの視線を送る。
「『その者に、必ずや最優秀者になるようにと伝えてくれんかの。この件で表だって騎士団が関わるのはデメリットにしかなるまい?』と言われた」
「ぅわ~‥‥。桐原さんも案外オチャメだったんだな~。ねぇ千葉さん」
朝比奈が率直な感想を述べる。
ところが、桐原のこの言葉はカレンだけに向けられたものではなく、ゼロ本人に対しても向けられていたりしたのだが。
当然ながら、ゼロは一存を持って黙殺してのけ、全てはカレン一人に託される事になったのである。
「わたしに振るな。‥‥紅月、こっそり潜入とか無理なのか?みながみな騎士団の格好をしているのならば、見つかる確率も減るだろう?」
「あー‥‥たぶん、無理、です。‥‥あの学園、何故か警備はかなり厳重で‥‥。外部の者の出入りはかなり制限されているんです」
千葉の問いにカレンは力なく答える。
厳重な理由を知るゼロは、仮面の下で思わず笑みを浮かべてしまう──笑うしかないと言うべきだろう。
「‥‥ゼロ。騎士団としてはどう動くつもりだ?」
二人の会話を聞きながら、藤堂はゼロに尋ねる。
「‥‥‥‥。そうだな。イベントに関してはカレンを頼むしかないだろうな。‥‥騎士団は同日、別にひとつ作戦を展開する」
「「「‥‥は?」」」
「話では当日、軍が学園付近の警備を厳にして、騎士団が網にかかるのを待っているとか。‥‥ならば、他はかなり手薄となるだろう」
「‥‥‥‥囮作戦、というわけですか?‥‥その情報も桐原公から?」
「そうだ。ディートハルトは当日の軍の動きを出来るだけ調べてくれ。カレンはゼロの役だそうだな?」
顎に手を当てながら訊ねたディートハルトに、ゼロは頷いて指示を出し、カレンに確認する。
「は、‥‥はい」
「当日、是非やってもらいたい事があるのだが?」
「はい。わたしに出来る事でしたら、なんだってッ」
咎められるかと一瞬強張ったカレンだったが、そうではないと知って勢いよく頷く。
「‥‥枢木が扮する役はどちらかわかるか?」
「あ、団員です。本人が、ゼロにはなりたくないって言ってましたから」
「‥‥なるほどな。ならば、団員に扮する枢木に指示を出せるわけだな?『門まで走って行き、外に展開する軍に手を振ってこい』‥‥とか」
ゼロの話にみな真剣に耳を傾けていたのだが、出てきた例えに、ラクシャータとディートハルト、扇に朝比奈と卜部が思わず噴き出す。
「‥‥ゼロ、それ、本気で言ってるのか?」
千葉が眇めた目でゼロを見て言う。
「‥‥‥‥。それも有りだな、ゼロ。‥‥紅月。戻って来たら即座に『もう一度』と言うのも良い。いや、『十回繰り返せ』の方が効率的か」
しかし、思案気に沈黙していた藤堂がゼロに同意して、更にを要求してきたので、四聖剣は驚く。
「有りなんですか~~。藤堂さん~」
ゼロと藤堂は同時に頷いた。
「「当然、有りだな。枢木ならば」」
見事に声まで揃えて言いきった。
「彼は一直線で前しか見ない、走り出したら止まらない、‥‥馬のような性格をしているからな」
「自分で考えているようで、本人が理不尽とは思わない命令には犬のように、かなり従順に従う。イベント等の祭りの中では疑う事すらしないだろう?」
藤堂がかつての弟子を馬に例えれば、ゼロは犬に例える、がどちらもかなりな言いようである。
「ほぉ?ゼロは枢木の事を良く把握しているな?」
感心する藤堂にゼロはフッと暗い笑声を上げる。
「現在最大の敵だからな。性格もそれなりに把握しておいた方が読みやすい」
ゼロと藤堂による、かなり黒い枢木談義である。
「‥‥えと、ゼロ。スザクの事、だけですか?」
「いや。‥‥枢木の件はまぁオマケのようなものだが。‥‥本題については後で説明しよう」
枢木をけなした事で、機嫌が少し上昇したのか、纏う空気が少しだけ柔らかくなっている。
カレンは少しホッとして頷いた。
「ラクシャータ」
次いでゼロは、ラクシャータを呼ぶが。
「え~‥‥。いやよ~わたしは~」
何も言う前から、ラクシャータは心底嫌そうに拒否を示す。
当然話の見えない他のメンバーはゼロとラクシャータとを見比べたり顔を見合わせたりするだけだ。
少し低くした声で、再びゼロは名前を呼ぶ。
「‥‥‥‥ラクシャータ」
「ちょッ、ちょっとゼロ、お~ぼ~よぉ、それは~」
柄にもなく少し慌てたラクシャータが意見するが、ゼロは取り合う気がなさそうであるし、一向に話は見えてこない。
「‥‥‥‥あの。何の話ですか?」
カレンが業を煮やしたのか訊ねる。
「お嬢ちゃんのせいよ~。‥‥ッたく~。ゼロ、今回だけだからね~」
「助かる。あれが出て来るとややこしい事にしかならないからな」
「それはそーだろう~けどさぁ。‥‥あんた、絶対性格悪いって言われてるでしょ~」
カレンの問いはスルーされ、何が自分のせいなのかと余分な疑問まで残されて悩む中、ゼロとラクシャータの間でだけ、何かしらの成立を見たらしい。
「まぁな。自覚もしている。枢木がイベントから出て来れない以上、白兜も動けまい。‥‥こちらも紅蓮二式は出られないが‥‥」
ゼロはあっさり頷き、状況を説明すると藤堂と四聖剣を見る。
「その分、月下が頑張ってくれるのだろう?」
有無を言わせぬゼロの口調に、藤堂と四聖剣は揃って頷いた。
「扇、移動の準備を進めてくれ。‥‥ではカレンのみ残れ。すまなかったな」
ゼロの言葉に、立ち上がった一同は、若干不安そうな表情をしたカレンを心配しながらその場を後にした。
───────────
作成 2008.01.21 
アップ 2008.02.01 

黒の騎士団の本部。
上級に位置する団員達が作業もそこそこ、そこかしこで少数の塊を作ってヒソヒソと話し合っている。
内容は言わずと知れた、彼等のリーダーについてである。
先程、現れたゼロは、仮面をしていても不機嫌なのがありありとわかる状態で、「部屋にいる。しばらくは誰も寄越すな」と言い置いてさっさと篭ってしまったのだ。
ならなんでやってきたのか?と疑問にも思うと言うもの。
カレンはゼロの私室がある方向をチラチラと気にしているが、一歩を踏み出せないでいる。
「落ち着かないね~、紅月さん。そんなにゼロが気になるのかなぁ?」
紅蓮弐式のメンテナンス中のその状態に、隣の月下からやっぱりメンテナンス中の朝比奈が声を掛けた。
「ッ‥‥それは‥‥確かに気になりますけど。‥‥その、報告したい事があるんです」
カレンは動揺しつつも、問いに答えた。
カレンの言葉に、他の月下からは藤堂と四聖剣が視線を寄越し、横に立っていたラクシャータも顔を上げた。
「そっかぁ。‥‥急ぎとか深刻とかの話なら、言いに行った方が良いんじゃないかなぁ?それか扇さんに報告しとくか」
「おれ達にでも良いよ~?」と朝比奈が返した。
言われて暫く躊躇っていたカレンが言いさした時、不意に立ちこめたピザのにおいに顔を上げた。
やってきたのは言わずと知れたC.C.だ。
気づいた順に口を閉ざし、波が引くように静かになる。
現れたC.C.は格納庫を見回すと、ディートハルトと話をしている扇を見つけ声を掛けた。
「扇。あいつが話があるそうだから会議室へ行って待ってろ」
C.C.が扇にだけ声を掛けたことに、一同騒然となる。
煩そうにC.C.が顔を顰めていると、扇は頷きながらも問いかける。
「わ、わかった。‥‥けど、‥‥おれだけなのか?」
「いや?‥‥‥煩いぞ、貴様等」
ピザを口に銜えながら応じていたC.C.が、ピザを口から放すなり、声のボリュームを上げた。
当然、再びピタリと静かになる。
「扇の他は、カレン、ディートハルト、ラクシャータ。‥‥藤堂と四聖剣‥‥だったかな?」
「はぁ~?なんでおれ様が入ってないんだよ。おかしいだろ?おれだって幹部なんだぜ?」
玉城が速攻で抗議を口にする。
「煩い。あいつは入れようとしていたがわたしが却下した。貴様が入ると話が進まないからな」
「なッ、テメッ勝手な事してるんじゃねーぞ」
「煩い。‥‥今、あいつの機嫌は最悪なんだ。貴様があいつに怒られたいのは勝手だし忠告する義理はないが言ってやる。‥‥今だけは止せ。骨も残らないからな」
C.C.は玉城にそれだけを言うと、「指名した者は急げよ」と手を振りながら戻っていった。
玉城はC.C.の姿が見えなくなるまで呆然としていて、ハッと我に返る。
「なッ‥‥。ふざけるな。おれ様がゼロに怒られたいだと~。勝手な事言いやがって」
一人憤慨する玉城を誰も取り合わない。
蒼褪めるのは呼ばれたメンツだ、──特に扇。
「骨も残らないってなんだ?」
「機嫌最悪ってどんだけだよ」
と呼ばれなかった幹部や、団員達がヒソヒソと話をする中、最初から下にいた扇とディートハルトを先頭に、ナイトメアフレームから下りたメンバーが続いた。
その足取りは、重いながらも確実なもので、内面の葛藤が現れているようでもあった。

会議室に入った後、ゼロが現れるまでに三十分程を無駄に過ごした。
ゼロは無言で現れて、定位置に座ると一言。
「カレン」
「はッ‥‥はい」
いまだ機嫌の悪い様子のままのゼロに、突然呼びかけられて、身体を強張らせたカレンは半ばパニック状態である。
「桐原公から話が回ってきた。‥‥事実か?」
唐突な質問に、カレンは完全にパニック状態になった。
「え?え?え?え?」
と無意味に繰り返すだけで要領を得ない。
「待てゼロ。‥‥桐原公が何を言ってきたのか、それをまず話すべきじゃないのか?紅月も驚いているし、話が見えない」
気の毒に思ったのか、藤堂が助け舟をだす。
ゼロは藤堂に仮面を向け、それから一同を見渡した。
「‥‥‥‥。あぁ、言っていなかったか?‥‥C.C.はどうした?」
どうやらゼロは既に話した気になっていたらしいとみな驚いた。
「おれ達に声を掛けた後戻っていったが‥‥?」
「‥‥‥逃げたな、あいつ‥‥」
扇の言葉に、ゼロはそれはそれは低い声でポツリと呟き、軽く息を吐き出した。
「すまなかったな。‥‥桐原公が連絡を寄越して来た。カレンの通う‥‥『アッシュフォード学園でとある催しをするから、それには一切関わるな』とな」
ゼロの説明に、一同絶句。
「イベント~?一体、何のイベントなのぉ?お嬢ちゃん」
まず最初にラクシャータが何とか、それでもいつも通りの声を上げる。
「‥‥えと‥‥。‥‥仮装イベント、です。‥‥とあるテーマに沿った仮装をして一日を過ごすって‥‥来月初めに‥‥」
活発なカレンにしては躊躇いがちに、そしてゼロを気にしながらそれだけ言う。
勿論、それだけで判れと言う方が無茶なので、誰もほとんどわかっていない。
「‥‥事実か。‥‥既に桐原公から催しの名称も聞いている。‥‥カレン、他の者にもちゃんと説明してやれ。‥‥ちッ。少し外す」
話の途中で携帯を取り出したゼロは、それを手に持ったまま立ち上がると、返事も待たずに出て行く。
その背中を見送った一同は、そのままカレンに視線を戻した。
「‥‥さっき言ってたゼロに報告したい事って件?」
朝比奈が水を向ける。
「え、ええ、そう‥‥よ」
「まずは観念して、イベントとやらの名称を」
曖昧に頷くカレンに千葉が更に促す。
「‥‥‥‥‥。イベント名は‥‥‥『黒の騎士団イベント』‥‥よ」
それでもしばらく躊躇った後に発したカレンの言葉に、戸惑いを見せる日本人の扇と藤堂、四聖剣を他所に、ディートハルトとラクシャータは笑い出す。
「‥‥あのさー、それって笑い事なのか?」
爆笑する二人を、胡乱な様子で卜部が、誰にともなく問いかける。
「やはりアッシュフォード学園は他より抜きん出てイベント好きですな。まさかここまでとは」
頷きながらディートハルトが応じる。
「あっはは~。やるわね、今時の学生も~。あー、おかし~」
笑いながらも生徒を褒めるラクシャータに、これだからブリタニア関係者はと思う日本人達。
「‥‥それで、紅月。そのイベントとやらは何をするのだ?仮装して‥‥それで終わりというわけではあるまい?」
まだ笑っている二人は置き去りにする事に決めたらしい仙波が口を開く。
「あ、はい。えっと。まだ確定じゃないんですけど、『黒の騎士団の団員』に扮した大多数の生徒が、『ゼロ』に扮した十人くらいの指示に従う。だそうです」
「‥‥‥。それ、何が楽しいの?」
呆れた様子で朝比奈が突っ込む。
「あの学校の突発イベントは変わったものが多いらしいんです。聞いた話だと、『男女逆転祭り』とか、『絶対無言パーティー』とか、『水着で授業』とか‥‥」
「‥‥紅月も参加するのか?今回の、イベント」
タイトルを聞いただけでおかしい事がわかる過去のイベントに、多少は目をつぶる事にしたのだろう、千葉が話を戻す。
「‥‥‥‥‥。はぃ。団員の格好をしてバレるとまずいと思ったので‥‥『ゼロ』の役を‥‥」
カレンは「今は戻ってこないでください、ゼロ」と心中で思いながら、視線を泳がせつつ告げた。
途端にディートハルト、ラクシャータだけでなく、扇や、四聖剣、藤堂までもが笑ってしまった。
そして、タイミングが良いのか悪いのか、席を外していたゼロが戻ってきたのだった。
「‥‥楽しそうだな」
ゼロの言葉は、見事に一同の笑みを奪う効果を持っていた。

───────────
作成 2008.01.18 
アップ 2008.01.31 

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