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「‥‥‥‥アラン・スペイサー?」
租界の街角で、人とぶつかり転倒した(つまり勢いに負け尻もちをついた)ルルーシュは、「いてて」と言っていた口を閉ざして咄嗟に顔を上げる。
ぶつかった相手、それはどこか見覚えのあるブリタニア女性と、──扇。
扇はぶつかった相手に向かって手を伸ばしていたが、連れの呟きが耳に入るなり、手を引っ込めて連れに向きおなる、っておいおい。
「‥‥記憶が戻ったのかッ?」
ルルーシュは小声で訊ねているつもりらしい扇の声を聞きながら、自力で立ち上がり、パンパンと服に着いた埃や汚れを払う。
見られる訳にはいかない鞄に異常はなさそうで、内心ホッと息を吐いた。
その間、ルルーシュは表情には出さず、見覚えのある女性の事を思い出そうと頭を回転させていた。
「き、君。大丈夫だったかい?‥‥君は、ちぐさ‥‥いや、彼女の事を知っているんだろうか?」
扇が肩を掴まんばかりの勢いでルルーシュに迫り、ルルーシュは思わず数歩後退る。
だが不意にルルーシュの中で思い出される事が有った。
彼女はルルーシュを「アラン・スペイサー」と呼んだ、それは最近、ルルーシュが一度だけ名乗った名前でもある。
相手はブリタニア軍でナイトメアフレームに搭乗していた一人の女性軍人、確か、名前は──。
どうやら彼女は記憶喪失らしいが、いつ失われた記憶が戻らないとも限らず、その名前を、そして顔を覚えている以上迂闊な事は云わない方が無難だった。
「‥‥えっと‥‥。直接会った事はありませんよ?それに名前も知りません。‥‥ただ、たぶん、顔は見た事は有りますけど」
首を傾げ、曖昧に、何故そんな事を聞くのだろうと訝しげにする事を忘れずに、ルルーシュはそう言った。
「えッ?‥‥どこで?」
扇は訊ねておきながら少しでも肯定される事を想定していなかったのだろう、かなり驚いている。
「えっと、番組、です。‥‥少し前に、総督暗殺の容疑者が護送される番組を放送してましたよね、あれで。随分雰囲気が違ってますけど‥‥」
そう、ルルーシュが後で確認した番組に、彼女も映っていたのを覚えていたのだ。
「‥‥‥‥‥‥。沿道にいた民衆とか?」
扇はつーッと額から汗を流しながら、そっと訊ねてきた。
「いえ。ナイトメアフレームに乗っていたので、ブリタニア軍人‥‥ですよ?‥‥今日は休暇中みたいですけど。あ、おれ、そろそろ行かないと時間が‥‥」
ルルーシュは答えて扇にもわかるように腕時計に視線を向けてもう良いだろうと訴える。
「あ、ありがとう。えっと‥‥アラン、君?」
「いいえ。何故、彼女がそう言ったのかは知りませんけど、それ、おれの名前じゃないです。誰かと間違えたんじゃありませんか?‥‥じゃこれで」
ルルーシュはキッパリと否定してそう告げると、ペコリとお辞儀をして、その場から足早に立ち去った。
背中にかかる扇の声は、聞こえなかった振りを貫いた。
仮面を被っていると言うのに、ゼロの機嫌の良し悪しは、そこはかとなく伝わってくる。
良し悪し、ではない、機嫌が悪い事が、だ。
騎士団の誰もが、「ゼロの機嫌が良かった事って有っただろうか?」と何度目かの考えに嵌りこむ瞬間でもある。
ゼロはトレーラーの二階の自室ではなく、一階のソファに座って腕を組んでいる。
ただ、それだけ。
しかしゼロはやってきてこの場に座るなり、ピクリとも動いていないのだ。
これが藤堂ならば理解できるのだが、ここに座る時のゼロは書類に目を通している事が多いので普段と違う事は明らかだった。
ゼロが来る前からソファに座っていた藤堂と四聖剣。
藤堂は一度チラとゼロに視線を向けただけで、話す事がないならと放っておく事にしたようである。
だが四聖剣は、それでも気になるのか、度々ゼロに視線を向けたり、顔を見合わせたりと、集中力が乱されている様子であった。
その空間への入口付近では、騎士団幹部達が集まってなにやらヒソヒソと囁き合っている。
玉城の声が大きいので、他の、カレンや井上、杉山達が幾らヒソヒソと声を落としても、話を推察するのは容易だったりするのだが。
卜部と千葉の無言の要求を感じ取った事もあって朝比奈が立ち上がると、カレンに近づいてそっと訊ねる。
「あのさ。扇さんはどうしたの?姿が見えないみたいだけど~?」
困惑の表情を浮かべたカレンがこちらもコソリと応じた。
「まだ来てないです。来るって言ってた時間はとっくに過ぎてるんですけど‥‥」
「‥‥アレ、どうしたの?すっごく気になるんだけどー?」
「それはこっちもです。確かに扇さんなら、聞いてくれるんでしょうけど」
チラリとゼロを見ながら、コソコソ、ヒソヒソと言い合うカレンと朝比奈の言葉を聞いた玉城は両手で拳を作った。
「ヘッ、どいつもこいつも。‥‥だったらおれ様が聞いてやる。‥‥おい、ゼロ。テメッ、さっきから何怒ってやがるんだ?」
カレンと朝比奈に宣言し、二人が止めるのも聞かずにゼロにズカズカと近づいて指さしながら言いきった。
ゼロは仮面を玉城へと動かし、無言のまま元の状態へと戻る。
「かぁ~ッ。テメ、おれ様には言えねッてのか。その態度改めろッて何度も言ってるだろーがッ」
玉城の、全くもって説得力の欠片もない棚上げ発言が叫ばれる。
「うるさい。黙れ。少しは大人しく出来ないのか?」
そこはかとなく冷たい声が、ゼロの口から吐き出され、言われた玉城は元より、その場にいてその声を聞いた者すべてが凍りつく。
仮面をしているので、純粋に声だけでこの威力である。
もしも万が一鋭かったり冷ややかだったりする眼差しが一緒だったならば心臓すら止まっているだろう。
「‥‥ゼロ。みな、君の事を心配しているんだ。もう少し違う言い方は出来ないものか?」
その場で一番胆力の在る藤堂が、珍しくもフォローを入れる為に口を挟んだ。
「‥‥‥‥。心配?わたしの?‥‥何故?意味がわからないな」
ゼロは藤堂を見、しばらく黙った後、心当たりはないと訝しげに応じると立ち上がった。
「どうやら、わたしがここにいては仕事にならないようだな。‥‥自室にいる。緊急時以外は声をかけるな」
ゼロはそう言うとマントをバサリと翻して、誰もが止める間もなく二階に消えていった。
ゼロの自室の扉が閉まった後、何人もがホッと溜息を吐いた。
「ッかはぁ~‥‥。なんだありゃ。メチャクチャ怖いじゃねぇかよ。あれで、なんでもないつもりだったのか奴は」
玉城が盛大に息を吐き出してから、ようやっと悪態を吐いた。
「てか玉城ッ、あんたがキレるから」
「んだとぉ」
ここに扇がいれば、玉城とカレンの言い合いをすぐに止めるのだろうが、他のメンツではみな離れて傍観するだけである。
二人の言い合いと、ディートハルトの独り言は頭から締め出すように設定されているとしか思えない節がないでもない。
暫く、二人の喧々囂々とした言い合いだけが響いた後、待望(?)の扇がひょっこりと顔を出した。
扇は室内の様子に首を傾げた後、何が原因なのか言い合いを続けている二人に声をかけた。
「‥‥一体、何を騒いでいるんだ?」
どこかのんびりとしたいつもの扇に、玉城とカレンは瞬時に口を噤む。
次の瞬間、二人は共謀するかのように顔を見合わせた後、扇に向かって同時に声をかけた。
「「扇(ッ)」さんッ」
扇はあまりの勢いに上体を仰け反らせながら、「な、‥‥なんだ。一体?」と返した。
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作成 2008.02.09
アップ 2008.02.14
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Ⅰ.ばったり遭遇「扇+α」編 【1】扇+千草デート中、ルルーシュはアジトへの途上。のち、騎士団内。
なんか、シリアス?.....おかしいなぁ?
書き始めた時は、「ヴィレッタとの再会」とかってタイトルだったのに....(汗
初めは記憶喪失の千草と会ったらどうかなぁとか思ってたんだけど、後が続かず。
どちらかというと扇がメインかも.....と、「+α」になっちゃいました(汗
今のところ千草最初しか出てきません。