04 | 2025/05 | 06 |
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★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
黒の騎士団、幹部会議室。
その場には暗い表情をした幹部達がいた。
いや、ラクシャータは普段通りだったし、何故かいるC.C.は面白そうににやにやと笑いながら幹部達を眺めていた。
いないのはゼロと藤堂のみである。
「‥‥‥‥どうするよ、おい」
玉城がボソリと呟く。
いつも反抗ばかりしてゼロに楯突く玉城とて、実際にゼロが騎士団を離れ、あまつさえ敵に寝返った場合どうなるか分かっていた。
ゼロが次々に生み出す作戦、そのどれもがこの場にいる全員が束になって考えても思いつきすらしないもので。
更には相手の動きを見るその洞察力の深さはかつて軍人だった藤堂や四聖剣ですら舌を巻くものなのだ。
「そぉねぇ。良い手なら一つあるけどぉ?」
ラクシャータがキセルを揺らしながら、いつも通りの口調で提案する。
「良い手ってどんなのですかー?」
顔を見合わせるばかりで尋ね返そうとしない幹部達を見渡してから朝比奈がそう尋ねた。
「んー。結局ぅ、ゼロも男なんだからぁ。色仕掛けとかぁ?ほらぁ、ここには愛人だって言うC.C.もいるんだしぃ?」
ラクシャータの意見に幹部達の視線がC.C.に向かう。
「‥‥わたしはやらないぞ。第一、それは噂で有って、事実無根だ。わたしにだって選ぶ権利くらいはあるんだ」
C.C.は嫌そうに顔を顰めてから断った。
「ぇ‥‥。C.C.ホントにゼロの愛人じゃないの!?」
カレンが驚いたように尋ね返す。
どうやら否定していてもどこかで信じていたようである。
「だからそう言っているだろう?あいつとは唯の『共犯者』だ。ちなみにわたしはあいつがどこにいようと構わないからな」
カレンの言葉に頷きつつ、幹部一同を突き放す。
「構わないって‥‥。ゼロがもしブリタニアに行ったら、君はどうするんだ‥‥?」
扇が戸惑い気味に尋ねる。
「決まっているだろう?わたしは別に騎士団に所属しているわけでもない。唯のあいつの『共犯者』。だからあいつについて行くさ」
あっさりと意志を表明したC.C.に幹部達は驚いた。
「ちょッ‥‥おれ等見捨てて行くってのか?」
「黙れ玉城。‥‥『見捨てて』?良くそんな事が言えるな?散々反抗していたのは貴様だろう?」
「んだとぉ。大体仮面被ったままで素性明かさねぇゼロが悪いんじゃねぇか」
「何を言っている?今更。桐原が認めた事だと納得していたのはお前達だったはずだな?」
「ぅっわムカつくー。だからって仲間なんだから知りたいと思ったって仕方ないだろーがよぉ」
「貴様はあれか?好きな奴程苛めたいとかいうどこぞの小学生か?」
「だぁーあ!‥‥玉城ッ!C.C.も。いい加減にしろ。いつまで言い争っているつもりだ?」
玉城とC.C.の舌戦に、扇が割って入る。
「まぁ、せいぜい色仕掛けだろうがなんだろうがあいつを引き留める事だな。わたしは楽しく見物させて貰おう」
C.C.はそう言うとどっかと椅子に座ってチーズ君を抱え込んだのだった。
「えっとー。色仕掛けって事だけど‥‥。C.C.がしないなら‥‥紅月さん、とか?」
朝比奈が話を戻し、色仕掛けの執行人としてカレンを指名する。
カレンは突然の事に「えッ‥‥!?」と驚きの声をあげて固まった。
わたわたと顔をまっかにして無意味に両手を振っている。
「わたわた、わたしには、ムリですッ!!」
慌てまくるカレンに「これは面白い」と笑みを深くする半数と、「カレンにそんな事をさせるのは‥‥」と渋面を作る扇以下数名。
残りはそれぞれの表情で成り行きを見守っている。
「あら、カレンがやらないなら、ラクシャータとか千葉さんとかに振るけど、どうする?」
井上がにやにやしながら選択肢を迫る。
「ゔ‥‥だ、ダメです。そんなッ!」
カレンは一瞬詰まったものの、「そんなの耐えられないッ」と結論付けて反射的に反対した。
「じゃあカレン。ほら覚悟決めなさいな」
うりうりと井上がやっぱり面白そうな表情を浮かべたままに返答を迫る。
「ぅ‥‥で、でも、どう‥‥やるんですかッ!?」
カレンが真っ赤になって尋ねると、視線は再びC.C.へと集まる。
「ねぇ、C.C.。ゼロの好みの女性ってどんなタイプか知ってるなら教えて欲しいんだけど?」
そう尋ねたのはやはり井上で。
「さて。あいつは‥‥強くて誰にも負けないタイプか、可憐で守りたくなるようなタイプか?」
C.C.はマリアンヌとナナリーを思い浮かべながら答える。
「なぁんか、描写が具体的な気がするんだけどー。正反対だから、例えば過去にゼロが好きになったタイプとか?」
「まぁ、とにかくさ。色仕掛けって分は紅月と女性陣に任せて、おれ等は別の作戦練らねぇか?」
朝比奈がC.C.に問いかけるが、そんな事をしていては話が進まないと卜部が口を挟んだ。
「そ、そうだな。井上、ラクシャータ、それに千葉さん。カレンを頼むよ」
扇が女性陣にそう言うと、それぞれの方法で是を返した。
「じゃ、行くわよぉ、カ~レン。C.C.あなたも来るわよね?」
「後でな。他にどんな案が出るのか興味がある」
「わかったわ、なら後で。どんな案が出たのかもその時教えてくれると嬉しいけど、それも頼んで良いかしら?」
「‥‥‥良いだろう」
井上に渋々と言った感じで頷いたC.C.は出て行く女性陣を尻目にその場から動かなかった。
「えっと。‥‥それで?他に案がある者は‥‥」
女性陣の声が聞こえなくなってから、扇がそう言って残った男性陣を見渡す。
「‥‥あ。そうだ。交渉の時にゼロを閉じ込めて行かせないってぇのはどうだ?」
「って玉城、それはダメだろう?ゼロが納得していないなら、後になって出て行くことになりかねないのだし‥‥」
玉城の乱暴な提案に、扇は慌てて異を唱える。
「でも、その時いかなけりゃシュナイゼル側がゼロを受け入れる事はなくなるわけだろ?」
「とにかくッ!それはおれが認めないからな、玉城」
「なんでぇ~~え。肝っ玉が小せぇなぁ、扇は」
「そうかなー?おれも反対。第二皇子が受け入れなくっても、ゼロが騎士団から手を引いたら同じだと思うしー」
「そうだな。朝比奈のいう通りだとおれも思う」
卜部が朝比奈の言葉に賛意を示し、仙波も頷いて同意する。
「‥‥あのさ。あれこれ考えるより、正面から頼み込むなり、ゼロが必要だって訴えた方が、多分良いような気がするんだけど」
みんなが考える姿勢に入ったところで、扇がそう提案する。
その扇の言葉に、C.C.が笑みを見せたがそれに気づいた者はいなかった。
3に続く
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作成 2008.08.05
アップ 2008.08.18
★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
トレーラーの一階、いつもの場所に陣取っているゼロは、考える彫像と化していた。
既に数時間、ゼロは呼吸すらしていないのではないかと思いたくなる程、微動だにしないでいた。
これで眠っているとかならば心配して周囲で気にしている幹部達からガミガミと総攻撃を喰らうだろうが、それは杞憂だった。
‥‥いやもしかしたら眠っていた方が良かったのかも知れない。
唐突に動いたかと思うとゼロはそれはそれは深い溜息を吐いて下さったのだ。
真っ先に反応したのは一番近くに座っていた藤堂で、次が遠巻きながらもガン見していたカレンとディートハルトである。
「‥‥‥‥どうした?」と藤堂が声をかける。
もしかしたら答えないかもとか思う者がいる中で、しかしゼロは言葉を返していた。
「少し迷っているんだ」
どこか途方に暮れているといった、幼ささえ垣間見せるような言いように、幹部達は驚き息を呑む。
「‥‥迷う、とは?」
藤堂が更に問うがその声はかなり低くなっている。
「ブリタニアから誘いが‥‥ッ」
ゼロはそこで唐突に言葉を切った。
やけに素直に答えていると思っていたら考えに没頭していて周りが見えていなかったようである。
当然ながらの問題発言に、驚きが醒めた幹部が詰め寄ったのも無理からぬ事だっただろう。
ゼロはいかにも仕方がないと言う態度で説明を始めた。
「第二皇子から引き抜きを受けた。あれは宰相でもあるからかなりの好条件でな、正直揺れている」
「テメッ、今更裏切る気かッ!」
当然ながら玉城が吠える。
「‥‥条件を聞いて良いか?」
しかし、藤堂はあっさり玉城を無視してゼロに尋ねる。
「凄いぞ。エリア11をくれるそうだ」
ゼロは本当に珍しくも弾んだ声で応じた。
どう考えても受ける気満々な気がしてならない幹部達は、ゼロの言葉のその内容にも遅れて驚く。
「日本を手放してまでゼロを手に入れたいなんて‥‥。ゼロ、第二皇子となにか関係があるのか?」
扇が呆然と尋ねる。
「ん?それは違うぞ、扇。わたしがこの地を手にする時はすなわちブリタニアに行った後と言う事になるから手放すのとは意味が違うだろう?」
扇の疑問にゼロは仮面を傾けつつも応じる。
「てか待った、ゼロ!既にそこまで思い巡らせてるの?揺れてるどころじゃないじゃないか」
朝比奈が慌てて話と注意を引き戻す。
朝比奈の言葉にそれぞれ我に返った幹部達は「そうだった」と慌ててゼロを引き留めにかかった。
「ゼロ!ブリタニアを憎んでて倒すんだって言ってましたよね?なのに下るなんて言わないでくださいッ!」
まずはカレンが説得を試みる。
「確かにな。だが、応じれば、シュナイゼルは皇帝を廃位させて自分が帝位に就きブリタニアを変えると言うしな‥‥」
「あらぁ?確かに第二皇子なら出来そうな気も確かにするけどぉ?無理でしょぉ流石にぃ?」
ラクシャータが面白そうに検討しながらも否定的な意見を述べる。
「‥‥まぁ、それが可能ならば今頃はとっくに交代してるだろうからな‥‥。だが、だからこその勧誘とも言えるだろう」
ラクシャータの意見に同意するゼロにホッとしたのも束の間、幹部達はやはり慌てた。
「‥‥第二皇子は‥‥ゼロを引き込めばそれが可能だと考えていると?」
「扇は不可能だと思うか?」
尋ねた扇は逆に返され、思わず絶句する。
「騎士団をどうするつもりだ?ゼロ。君が作ったのだろう?」
「わたしに従う者は一緒に不問にするそうだ。そのまま親衛隊にでもすれば良いとまで言っていた。諸ともに引き込む気なのかも知れないな」
何を言っても答えが返ってくる事に、幹部達の焦りは強くなる。
「しかし。それは内部に不穏分子を抱え込むような愚考に思えるのだが」
千葉が難しい顔で発言する。
「相手はあの第二皇子だぞ?」
千葉の言葉にほんのり希望を見出した幹部達を、ゼロの言葉が粉砕してのけた。
結局、ゼロが表に戻る時間だと言い出したので、話は持ち越しとなった。
ただ一つだけ、全員を納得させる事が出来ないうちは無断で誘いに乗らないという取り決めをして、ゼロは自室へと引き上げた。
暫くして藤堂がゼロの部屋を訪れる。
「‥‥別に、日本を切り捨てる気はないんです」
ゼロ、いや既に仮面を外しているルルーシュが扉を閉ざしたその前に立つ藤堂に言う。
藤堂はルルーシュの苦い笑みに誘われてルルーシュに近づきそっと抱き締める。
「では、なぜ?」
「第二皇子、義兄上の譲歩が分かって、それで少し、揺れているだけなんです、きっと」
ルルーシュは抵抗する事なく、藤堂の胸に頬を押し付けて背中に手を回して言う。
「‥‥譲歩?」
「昔は、何故か義兄上に気に入られていまして。良く他の義兄弟と一緒にいる時に連れ出されたりしていたんです。理由は『チェスをする』でしたけど」
昔話をするルルーシュに藤堂は眉間の皺を深くする。
「でも、その義兄上が言うんです。『「奇跡の藤堂」と離れたくないのなら共に来れば良いだろう?』って。随分な譲歩だと思いませんか?」
苦笑するルルーシュにしかし藤堂の表情は晴れない。
「七年も八年も離れていて我慢が出来なくなったか‥‥」と思ってしまったからだ。
藤堂はルルーシュを抱く腕に少し力を込める。
「行かせない。そう言えば行かないか?」
力が入る藤堂の腕に、ルルーシュは少しの間を置いてくすくすと笑いだす。
「貴方ならそう言うと思っていました。‥‥でも少し気になりませんか?」
藤堂の問いにすんなりと答える事はせずにルルーシュは尋ね返す。
「ん?気になる、とは?」
「団員達がどんな手を使って引き留めようとするのか、です」
悪戯っぽい笑みを浮かべたルルーシュに、藤堂もまたにやりと笑った。
「有効な手段がない時は、最後にはおれが引き留めるからな?」
「お願いします。藤堂さん」
見ようによっては怖い笑みを浮かべる藤堂に、しかしルルーシュは嬉しそうに微笑み返していた。
2に続く
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作成 2008.07.27
アップ 2008.08.17
(「災厄は突然に」設定/藤ル.ル)
狭いコックピットの中で、藤堂が騎乗する姿は見慣れたものだ。
しかしゼロにとっては初めての事であり、やはり慣れない。
「‥‥‥‥ダメだな。すぐに操作を間違える。頭では解っているつもりなんだが‥‥」
悔しそうに言うゼロに藤堂は苦笑する。
「やはり身体を動かす事になるとついていかないか。指先の操作は器用なのにな‥‥」
「からかうな。今度ラクシャータに頼んで、キーボード操作で動かせるナイトメアを作らせよう」
そう言い切ったゼロに藤堂は呆れた。
「‥‥本気か?というか、それは技術的に可能なのか?」
「知らん。頼めばラクシャータなら何とかするだろう?」
ゼロは憮然として言い切り場所を譲る。
藤堂は替わりに座りながら「そうなのか?」と問う。
ゼロの騎乗する姿は慣れない。
だが藤堂にとっては少しばかり違和感を感じるものの慣れたものだ。
「あぁ。面白がって取り組むと思う」
きっぱりと頷いたゼロに藤堂は仮面の中で渋面を作っていた。
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2008.07.28作成
2008.08.03-2008.06.08up
2008.08.23再録
カレンは中々戻らないゼロと藤堂と四聖剣に、「まさか厳罰だったのかな‥‥」と心配になって様子を見に来ていた。
扇からも頼まれた結果だったのだが、いざ会議室の前まで来ると、ノックするのに躊躇ってしまったのだ。
そしてその言葉が中から微かに聞こえてきて、カレンは思わず目を見張って扉を凝視していた。
小会議室内では、外にカレンがいるとは思いもせずに、会話は続けられていた。
「ランペルージ?だけ?それって名前?苗字?」
「苗字だろう。わたしも千葉としか名乗っていないから、お互い様だ」
朝比奈の疑問に答える千葉に、ゼロは「いや、名前まで名乗ると、こういった場合に藤堂にバレるからやめたんだが‥‥」と思う。
しかし、「状況は違えど藤堂や四聖剣に話すと想定していたとおりになるとはな」とゼロは気づかれぬようにそっと溜息を吐いた。
「どんな学生だったのだ?女性に追い掛け回されるとは‥‥」
仙波が首を捻る。
「‥‥美人、だったな」
千葉の簡潔な回答に、ゼロは思わずずっこけそうになるのを意志の力で我慢した。
「‥‥待て、千葉。男子学生と言っていなかったか?」
「えぇ、そうです、卜部さん。そこらの女性より余程美しかったので表現は間違っていないはずです」
「千葉さん、千葉さん。細かい描写は?」
「話がズレていないか?朝比奈」
藤堂が苦言を述べるが、朝比奈は千葉に視線を固定していて藤堂の声すら耳に入っていなさそうだ。
ゼロは「詳しい描写まで言われては流石に藤堂に疑問を持たれる」とますます焦るが、何か言う前に千葉の描写説明が始まる。
「ブリタニア人にしては珍しい黒髪と透けるような白い肌と強い意志を窺わせる紫の瞳が印象的な──」
千葉の語尾に扉が勢い良く開かれる音が重なり、千葉は言葉を切った。
藤堂と四聖剣は驚きの表情で反射的に振り返り、一瞬遅れてゼロも仮面を巡らし、そしてゼロは固まった。
「紅月さん?‥‥今会議中なの判らなかった?」
千葉の処遇がどうなるかの大事な時に、と朝比奈は不機嫌な声を投げる。
「千葉さんの事を決めてたんじゃないんですか?どうしてあいつの事なんか‥‥」
固まったゼロには誰も気づかずそのまま置き去りにして、話は進む。
「‥‥紅月、扉を閉めろ」
藤堂が憤り気味に、呆然としたカレンに指示を出した。
それが「出ていろ」という言葉でない事を四聖剣は悟った。
ゼロが何も言わない事を了承と取り、朝比奈が立ち上がってカレンを会議室内に置いたままさっさと扉を閉めた。
「‥‥で?あいつって誰?紅月さんの知ってる人だったの?」
そうして朝比奈はそのまま早速とばかりに問いかける。
カレンは鍵を閉めた扉を背にする朝比奈と椅子に座ったままカレンを見るゼロと藤堂と残りの四聖剣をぐるりと見回す。
ちなみにゼロは扉を振り返った時から固まっているのだが、気づく者はやはりいなかった。
ゼロまで返答を待っていると思ったカレンは渋々と口を開く事にした。
「同じ学園の生徒、なので。あんな外見二人といないから、すぐわかりました。どうしてあいつの話なんかしてたんですか?」
硬い声音で告げるカレンに、「一体学園でどんな仲だ?」と首を傾げたくなる。
「んーとだな。早い話が千葉が惚れてるらしくてさ」
「なッ‥‥。わたしはそんな事言っていませんッ、卜部さんッ!」
「だが、気になっていたのだろう?」
驚いて反論する千葉に、仙波までがそう言うものだから千葉はますます慌てた。
「仙波大尉ッ!からかうのはやめてくださいッ」
「‥‥‥ぇーっと?接点がない気がするんですけど‥‥?」
「てか、紅月さん。その美少年の名前は?それにどんな人?」
戸惑うカレンに、果てしなく脱線する気満々な朝比奈。
いつもの藤堂ならばそろそろ注意しそうなものなのに、何か気を取られている事があるのか、騒動は収まる気配を見せない。
それはゼロにしても同じ事だったが。
反対する者がいなかったので、カレンは(主に)ゼロを気にしながらも朝比奈の問いに答える事にした。
「えっと、クラスメイトです。生徒会でも同じで、彼は副会長をしています。外面はあの通り良いんですが、性格は最悪なのであまり薦めませんよ?」
朝比奈に対して、というよりは千葉に対しての忠告めいているのはカレンなりの親切心からだろう。
「しかし、‥‥彼は道を尋ねても嫌な顔一つせず、少し入り組んでいるからとわざわざ案内までしてくれたが‥‥」
「被ってる猫が凄いだけですッ!学園でもみんな気づいてなくて、だから人気も学園一なんですよね」
カレンはそう言ってから、更に渋面になって「次に人気があるのが枢木スザクだってんだから学園のみんながどうかしてるんです」と言い切った。
「んー?けど枢木ってイレブンってか名誉なのに?」
「そうです、卜部さん。‥‥なんだかんだ言って皇女の騎士ですからね。ミーハーな女生徒にはモテるようですよ」
カレンはきっぱりと「目当ては皇族とお近づきになる事な気もしますけどね」と言ってのけた。
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作成 2008.07.01
アップ 2008.08.14
(「父の日騒動」続編【3】/ラク+卜+α)
カレンが連れてきたのは卜部と千葉だった。
「えっと、藤堂さんは?」
「中佐は今手が離せません。話は卜部さんに聞いてください。朝比奈は引き取ります」
千葉は扇にそう言うと、朝比奈の腕をむんずと掴んで抗議する声を物ともせずに引きずるように消えていった。
「悪かったな、ラクシャータ。そっちはどうだったんだ?」
残った卜部は何も聞かずにまずラクシャータへ詫びを入れ、尋ねる。
扇とカレンはいきなりの事に首を傾げる。
卜部が謝ったという事は、悪かったのは朝比奈だったのだろうか?と思うが経緯も不明なので口出しが出来ない。
「良いわよぉ、別にぃ。一言で言うなら、原因はあんた達が思ってるのとは違うってぇ事かしらねぇ」
「へ?違うのか?おれはまたてっきり‥‥」
「だぁからぁ。もう少し様子見てなさぁい。‥‥多分、後で馬鹿らしくなるからぁ」
ラクシャータはそう言うと立ち上がる。
「扇ぃ、もう言って良いでしょぉ」
「あ、‥‥‥‥あぁ。喧嘩しないんならそれで‥‥」
「だぁからぁ。‥‥もぉ良いわぁ。とりあえず戻るわねぇ」
ラクシャータはキセルをふらふらと揺らせながら立ち去って行った。
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2008.07.04作成
2008.07.23-2008.07.27up
2008.08.21再録
★nao様へのリクエスト作品★
(シュナ+ネリ+騎.士達+ユフィ/騎.士団合流/ス.ザク切捨て)
立ち上がったシュナイゼルに、コーネリアが声を掛ける。
「‥‥義兄上。どちらへ‥‥?」
「勿論、ルルーシュとナナリーのところだよ」
さも当たり前のように答えるシュナイゼルにコーネリアは慌てた。
「なッ。皇族が学園に出向いて二人に会おうとすれば、それだけで注目が集まります。それでは隠れているであろう二人の事が公にッ!」
「勿論、承知しているよ。二人はきっと皇族から隠れて過ごしていたはず。枢木が名前を出してしまった為に露見したけれど、ね」
「ご承知だというのでしたら何故!?」
「何も学園に乗り込もうとはしていないよ。他に心当たりがあるから、そちらに向かおうとは思っているけれどね。来るかい?」
そう応じたシュナイゼルはコーネリアにも同行するかと誘う。
「行きます」
「わ、わたくしもご一緒してもよろしいですか?シュナイゼルお義兄様」
「もちろんだよ、ユフィ。‥‥ダールトン将軍。ギルフォード卿。とめるかい?」
「いえ。姫様が行かれるところがわたくしの存在する場所ですから。出来ますれば同行の許可を」
「わたしも、同行を希望致します。殿下」
シュナイゼルの問いかけに、ギルフォードもダールトンも諌めるどころか同行を希望する始末。
そんなノリの良い雰囲気に、スザクも頷いていた。
そう、ルルーシュとナナリーに自分も会えると思ったのだ。
それをシュナイゼルが見咎めて、表情を険しくする。
「枢木スザク。君は本当に何も分かっていないのだね。君のおこないは『皇族から隠れている二人を皇族に売った』と言うのに」
シュナイゼルの言葉に、スザクの肩が跳ねる。
「ぇ‥‥?で、でも。命令、だと‥‥」
「つまり君は『命令』だと言われれば守ろうとしていた者さえも売る事が出来る、という事だ。とても騎士に相応しい精神とは思えないな」
「し、しかし自分はっ!」
「‥‥わたくしが間違っていたのですね、シュナイゼルお義兄様、コーネリアお姉様。‥‥わたくしはもう自分でもちゃんと選べるようになったのだと‥‥」
「今からでもきっと遅くはありません、ユーフェミア様」
「左様です。枢木スザクを選任騎士より解任し、新たなる騎士をお選びになられればよろしいでしょう」
ギルフォードとダールトンとの言葉に励まされ、ユーフェミアはスザクに手を伸ばす。
「スザク。そう言う事ですので、返上して頂けますか?宜しいですよね?あなたは主となったわたくしにすら嘘を吐いていらしたのですから」
きっぱりと言い切ったユーフェミアに、スザクはのろのろと騎士の証を手にとって差し出した。
「確かに、返していただきましたわ。今まで短い間でしたが楽しかったです」
「特派のロイドにも連絡しておこう。騎士を返上した枢木スザクは騎士になった時に昇格した位を取り下げ、元の准尉に戻った、と」
「枢木准尉。そう言う事だ。下がって良い」
ユーフェミア、シュナイゼル、コーネリアの続けざまな言葉に、打ちのめされたスザクは呆然と敬礼をして退出していった。
「それで?義兄上。どちらへ参られるのですか?」
スザクのいなくなった室内で、コーネリアがシュナイゼルに問いかける。
「それはね、コーネリア」
シュナイゼルの答えに、さしものコーネリアやダールトン、ギルフォードですら驚きの声を上げる事になった。
ランスロットのデヴァイサーである枢木スザクが、主に呼び出しを受けて出ているので、特派はとっても暇である。
特にランスロットの駆動テストをしようとしていた時だっただけに、デヴァイサーがいなければ何も出来ない。
ロイドもセシルもどこか気の抜けたような様子でぼーっとしていた。
そこへ通信が入り、セシルが繋げる。
『やぁロイド。少々報告が有ってね』
「これは殿下ー。なんでしょーかー?」
『実はついさっき、枢木少佐をユフィの騎士から解任してね?従って階級も准尉に逆戻りしたからそのつもりでいてくれたまえ』
「へ?‥‥ちょ‥‥殿下?」
『本来ならば、超特例的に上げた准尉の階級も下げたいところだけどね』
「あのー。スザク君、いえ枢木准尉は一体何をしたのですか?」
『それは言えない。けれど彼をランスロットに乗せるのにも反対したいくらいだ、とだけは言っておこう』
「んー。ところで、殿下ー?どちらに行かれるんですかー?」
『ふッ。やはり判るか?ロイド。実は義弟と義妹が生きている事が分かってね?これからみんなで会いに行くところなのだよ』
「‥‥ぇええ?ホントですか?それ!行きます。ぼくもすぐに駆けつけますからね?あ、ランスロットも持ってった方が良いですよねー」
『‥‥‥‥許す。但し、枢木准尉の同行は認めないから、悟られる事のないようにするように』
「わっかりましたー。ではあちらでー」
切れてブラックアウトしたモニターに向かってロイドは会心の笑みを浮かべる。
「あの、ロイドさん?一体‥‥」
「セシル君は分からなかったのかー。それはねー」
セシルはロイドの言葉を聞いて驚きに目を見張ったのだった。
「不法侵入者」と聞いてゼロは幹部達と格納庫へと向かう。
ゼロを待ち構えていたのは、神聖ブリタニア帝国の皇族達とその騎士、それに軍属の科学者が2名。
それを見たゼロは本当に深々と溜息を吐いた。
「‥‥何故、バレたと聞くべきでしょうか?」
ゼロは何かを諦めたようにそう言うと、仮面に手を伸ばしたのだった。
了
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作成 2008.08.12
アップ 2008.08.13
★nao様へのリクエスト作品★
(シュナ+ネリ+騎.士達+ユフィ/騎.士団合流/ス.ザク切捨て)
「お姉様ッ!お力を貸して下さいッ!」
バタンと扉を開け放つなり、少しもしとやかでない仕種でユーフェミアは執務中でギルフォードとダールトンと話をしていたコーネリアに泣き付いた。
そうなると仕事は終わりだと悟っている二人は片付けに入る。
勿論この日も仕事はそれ以上進まなかったが。
「義兄上ッ!お話がありますッ!」
バタンと扉を開け放つなり、全くしとやかでない仕種でコーネリアは執務中のシュナイゼルに言いたてた。
シュナイゼルはその後ろに続く三人がコーネリアの言動をやめさせる為に追い掛けて来たわけではないと気付いて筆を止めた。
枢木スザクは途方にくれていた。
それはもう直立したままカチコチに。
呼び出しを受け、ユーフェミアの執務室に向かうとそこにいたのは部屋の主だけではなかったからだ。
ユーフェミアの姉コーネリアがいて、ダールトンとギルフォードがいて、更にはシュナイゼルがいる。
(‥‥なんだ?この華やかさは?どうしてこんな状況でぼくが呼ばれるんだ?)
「枢木スザク。以前より聞きたいと思っていたのだけど、答えてくれるかな?」
ここは、ユーフェミアの執務室だと言うのに。
だけど、座っているのはシュナイゼルで、その右にコーネリアが立ち、コーネリアの背後にはギルフォードが寄り添っている。
左にはユーフェミアが立っていて、その後ろ、本来ならばスザク自身が立つはずの場所にはダールトンがいた。
そんな中、シュナイゼルの問いに、スザクは反射的に「イエス、ユア、ハイネス」と答える。
「君はユーフェミアから騎士として指名されたわけだけど、何故受けたのかな?」
シュナイゼルの問いに、スザクは首を傾げる。
何故も何も皇族の指名で、スザクの意思などどこ吹く風の勢いだったようにスザクは思っているからだ。
一応、ユーフェミアの考えに賛同し、力になりたいと思った事もあるし、尊敬しているし守りたいとも思うのだけど。
どういって良いのか判らず、スザクは「えーっと」といったまま沈黙した。
しかしそれでも長く沈黙なんてしていられず、「自分は」と言ってから、一度ごくりと喉を鳴らして先を続けた。
「ユーフェミア様を守り助けたいと思い、お受けいたしました」
それが、スザクの出した答えだった。
これまでスザクがそう言うと、嬉しそうににこにこと笑顔を浮かべていたユーフェミアは、しかしこの時、表情を曇らせる。
スザクは「何か失敗しただろうか?」と内心で焦っていた。
「枢木。偽りを述べるのは感心しない。騎士がそのようではコーネリア殿下も安心してユーフェミア殿下を任せて置けないと嘆いておられる」
ギルフォードが鋭い眼差しをスザクに向けて言う。
「偽りなんてッ!自分はッ!」
「ユフィが憤って泣き付いて来た。『自分は蔑ろにされている』のだとな」
コーネリアの瞳にも、怒りがありありと浮かんでいる。
スザクは気圧されそうになりながらも反論を試みる。
「自分はッ!蔑ろになどッ‥‥」
しかしギロと睨まれて途中で言葉が途切れる。
「しかし、ユフィの前で上の空の事が多いそうではないか?一体何を考えているのやら」
コーネリアが侮蔑するかのように吐き捨てる。
「報告書を読みました。スザク貴方は別の人を守りたいから騎士の話を受け、騎士になったのだそうですね?」
ユーフェミアが悲しそうな表情でそう言い、「そんな事、わたくしはスザク自身から一言も伺っていませんわ」と涙を零す。
「騎士が主に隠し事をするなどと、‥‥有るまじき行為ですな」
「まったく、嘆かわしい限り。ユーフェミア皇女殿下を蔑ろにするにも程があります」
涙を零すユーフェミアを元気付けるようにシュナイゼルがその手をぽんぽんと優しく叩く。
ギルフォードとダールトンが、同じ騎士として許せないおこないをする枢木スザクを睨みながら非難する。
「‥‥‥報告、書?」
聞きなれない単語にスザクは首を傾げる。
それがその場にいる者の怒りを更に煽る行為だと、スザクは気付かない。
「知らぬとは言わさぬ。皇族の選任騎士になる者には、それなりの人物でなければならず本人、周囲に関して調査がおこなわれる」
コーネリアの宣言に近い言葉は、スザクの顔色を蒼白にさせた。
「‥‥どうやら、君は我々に、というよりはユフィに言わなければならない事があるようだね?」
シュナイゼルがそんなスザクを観察しながら、やんわりと問いかけた。
しかし、シュナイゼルは皇族であり、宰相閣下でもあるのだから、その問いかけは絶対のものだ。
「‥‥‥‥‥。それは‥‥」
けれど、スザクは躊躇いを見せて押し黙った。
自分の行動がルルーシュとナナリーを危険な立場に追いやったかもしれないと今更ながらに気付いた結果だったが。
「ユフィの言葉通りのようだな。貴様にユフィを託すのは間違っているようだ」
「ユーフェミア様。今からでも遅くありません。イレブンだからと言うのではなく、この男自身にユーフェミア様の騎士になる資格などありません」
「そのようですな。解任する事をお勧めいたす」
コーネリア、ギルフォード、ダールトンのスザクへの評価は右肩下がりに下がりまくる。
「枢木スザク。名誉とはいえ、ブリタニア人なのだから、宰相でもあるわたしの問いには答えなくてはならないのだよ?」
シュナイゼルはそう言って「さあ」と促す。
「‥‥‥」
「枢木スザク。命令である。誰を守りたいが為に騎士になったのか、今すぐに言いたまえ」
黙るスザクにシュナイゼルは、一転して高圧的に命じた。
はっとしてシュナイゼルを見返したスザクは、その表情に怒りが浮いているのを察して、慌てた。
「じ、自分、は‥‥る、ルルーシュとナナリーを守りたい、と‥‥」
がたんッと音がして、スザクは言葉を切る。
誰かが身動いでどこかにぶつけたのか音を境に室内の空気が重くなったとスザクは感じた。
シュナイゼルが、コーネリアが、ユーフェミアが、ダールトンが、ギルフォードが、スザクを凝視していた。
「ほぉ?これは面白い事を言う。『ルルーシュ』、『ナナリー』とはこの地で亡くなったとされる皇族の兄妹の名前。今、出てくるべきではない名前だね?」
「枢木。いつから二人の生存を知っていた?」
押し殺したようなコーネリアの声音で告げられた問いに、スザクはやはり言い淀む。
「それは‥‥」
「答えなさい、スザク」
キッと眦釣り上げて、ユーフェミアがスザクに尋ねた。
「‥‥‥‥。が、学園に入った時に、‥‥再会、しました」
スザクは俯いて、拳を握りながらも、とうとうそう報告していた。
「枢木スザク。君には失望したよ。再会した時には、名誉ブリタニア人であり、ブリタニア軍人で有ったにも関わらず、報告の義務を怠っていたとは」
シュナイゼルはそう言うと、立ち上がた。
後編に続く
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作成 2008.08.12
アップ 2008.08.12
(「災厄は突然に」設定/藤ル.ル/+朝比奈)
ゼロと藤堂は連れ立って格納庫に顔を出す。
目指すは藤堂の月下隊長機だ。
しかし、目聡く見つけた朝比奈が驚きの声を上げる。
「藤堂さんッ!?今までどこに行ってたんですか?探したんですよッ!」
朝比奈のその大き過ぎる声に格納庫にいた幹部団員の視線が自然と集まる。
「‥‥ゼロと今度の作戦について話をしていた」
「そうですか。ゼロは表に戻ってるものだと思って捜索対象外にしてましたよー」
朝比奈はそう言いつつも「一言連絡欲しかったですよー」と愚痴を言う。
かなり心配していたので拍子抜けした為なのだろうが。
それが判るだけに、藤堂は「すまんな、朝比奈」と侘びの言葉を口にした。
「いえ、良いです。それで、話し合いは終わりですかー?」
あくまでも藤堂に話しかける朝比奈の気持ちは判る。
不機嫌オーラを発するゼロに「触らぬ神に祟りなし」と思ったらしい。
「いや。月下についてゼロに説明するところが出来たから一時中断しただけだ」
藤堂はそう言うと、ゼロに視線を向けて隊長機のコックピットへと入っていった。
それにゼロも続き、ハッチは閉じられた。
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2008.07.24作成
2008.07.29-2008.08.01up
2008.08.20再録
──「酒の席」編──
(※原案となる藤ルル会話文を聖魔王様より頂き加工しました。)
注意:軽く(?)違和感がありそうなので、設定だけの別モノと捉えてください。
でんッ。或いは、どんッ。
そんな感じで目の前に置かれた瓶にゼロは仮面の下で目を見開いた。
ゼロの両隣に座っていた藤堂とロイドも一瞬瓶に視線を注いでから置いた当人を睨みあげた。
「何の真似だ?卜部」
藤堂の視線の先には、酒瓶をでんと置いた体勢の卜部が苦笑を浮かべていた。
その後ろには両手に持った酒瓶を掲げて見せる朝比奈がいる。
「騎士団に合流してから、酒盛りしてないなあと思いまして」
「たまには羽目を外しませんか?藤堂さんにゼロ」
卜部と朝比奈の提案に側にいた幹部達が即座に食いついた。
「賛成っ!!賛成賛成賛せ~~~い!!!」
真っ先に叫ぶように同意したのは当然と言うか玉城だ。
しかし間髪入れずに放たれたロイドから鋭い一瞥を受け、玉城は固まった。
ロイドはそのまま再び提案者の卜部と朝比奈へと視線を移した。
「我が君が仮面を外さないでいる事に対する嫌がらせかなー、それはー?」
殺気に近い気が、ロイドと、ゼロの正面にいたダールトンから零れる。
卜部と朝比奈は顔を見合わせ揃って首を振った。
元軍人だった藤堂や四聖剣の目には、ゼロが成人していない事は解るので、始めから参加しないだろうとの読みがあったのだ。
だから卜部と朝比奈にすれば、「許可だけくれたら後はこっちで適当に」と考えただけだったのだ。
しかし、「未成年だし」なんぞと言おうものなら何がどう跳ねるかわからず二人は首を振るだけに終始する。
「‥‥明日も通常作業が出来るなら‥‥好きにすれば良いさ。但し、わたしは参加しないからな」
ゼロの言葉でロイドとダールトンは殺気を引っ込めた。
瞬時に広がる緩んだ空気に、それまで張りつめていたのかと思いながらも息を吐く者が数名。
「卜部、朝比奈。それはどうしたんだ?」
藤堂が二人の手にある酒瓶を示して尋ねる。
「あー‥‥、水、なんだよなー、これの中身は」
「ゼロ。ちなみに福利厚生ッて事で経費で落ちたりしませんかー?」
卜部の言葉に盛大にずっこけた面々は続いた朝比奈の言葉に期待の眼差しをゼロに注いだ。
「良いぞ、‥‥‥‥残っているならな」
ゼロの許可の言葉に沸きかけた一同は「‥‥‥‥はぃ?」と掴み損ねた意味を問う。
「玉城の使い込みを主にそこから充てているからな。福利厚生‥‥団員の娯楽、道楽、だろう?」
玉城の使い込みを道楽だと断じたゼロに、反論出来ない一同は同時に玉城を睨み据えていた。
しかし結局、扇の「大丈夫だ。酒代くらいならば、なんとか‥‥あるから」との言葉で、飲み会が急遽開かれる運びとなった。
仮面を外したゼロ、つまりルルーシュは、室内にいるメンバーを見渡した。
最初にやって来たのは四聖剣を振り切った藤堂だった。
仮面を外す気はないからと酒の席に立ち会う事すらしなかったゼロ──ルルーシュ──が気になったらしい。
なので久々にのんびりとした会話を楽しもうと思ったし、藤堂もそれに同意した。
しかし、すぐにロイドがやって来て、ラクシャータがロイドを追って来て、更にはダールトンまで姿を見せた。
何故か静かに、なんて雰囲気は望めなくなり、話、というか流れは飲み比べへと突き進む。
ルルーシュは諦めの溜息を吐くと肴を用意する為に台所へと向かった。
飲み比べに参加したのは藤堂とロイド、ダールトンの三人、男の意地と言う奴だ。
ラクシャータはその審判をしつつ見物しながら、ルルーシュにも酒を勧めていた。
ルルーシュは何度か断ったものの結局何故か飲む羽目になっていて、ちびりちびりと盃を傾けていた。
しかし飲み比べなので相手を牽制する言葉は飛び交うも。
見ているだけのルルーシュやラクシャータにまで声をかける余裕が段々なくなっていく。
それがルルーシュには物足りなくなる。
ルルーシュは溜息をつくと手に持っていた盃に残っていた酒を干してから口を挟む事にした。
藤堂の正面に座り直したルルーシュは見上げるように藤堂の顔を見る。
「そのくらいでやめませんか?藤堂さん‥‥。それにプリンと将軍も」
いきなりの事に藤堂は驚いて言葉少なに何とか問い掛けた。
「何を‥‥?」
「あー‥‥殿下が『奇跡の藤堂』に敬語使ってるなんてーッ。ダーメですよーぉ、我が君ー」
「煩いぞ、アスプルンド伯爵。殿下に絡むのもやめろ」
ロイドが藤堂の声を掻き消す勢いで割って入り、ダールトンはそれを咎める。
しかしルルーシュの視線はあくまでも藤堂に向かっていた。
「‥‥お酒」
ぽつり、とルルーシュは言葉を足す。
「「「‥‥?」」」
酒がどうしたのか?と、藤堂はルルーシュを見返し、ロイドとダールトンは顔を見合わせてからルルーシュへと視線を向けた。
「‥‥お酒、じゃなくて」
そう言ったルルーシュの上体がくらりと揺れ傾ぐ。
「‥‥っ!ルルー‥‥ッ」
「我が君ッ」「殿下ッ」
慌てたのは三人で、藤堂が手を差し延べて抱き寄せるようにしてルルーシュの身体を支えた。
藤堂の腕の中に収まったルルーシュの片手が持ち上がり、藤堂の頬に添えられる。
それを見た、ロイドは「ぎゃあ、我が君なんて事を~~」と叫び、ダールトンは固まり、ラクシャータは目を見開いた後にやにやと二人を見つめた。
頬にルルーシュの手の感触を感じた藤堂は目を見開いて腕の中のルルーシュを見つめる。
「おれを相手にしてください」
続けられたその言葉に、ラクシャータ以外が固まってしまっても、誰も咎めたりはしないだろう。
ロイドなどは「我が君が‥‥、我が君が‥‥」と言い続けているも目が離せない、と言った有様だ。
「‥‥ルルーシュ君‥‥」
藤堂は突然のルルーシュの言葉に困惑をありありとその表情に乗せて、真意を問うべく名前を呼ぶ。
「藤堂さ、ん」
酔いの為か潤んだ瞳と薄く色付いた頬で見上げられながら掠れた声で名前を呼ばれ、藤堂は言葉を失い、ただルルーシュを見返す。
藤堂も酒が入っているせいか、頬が染まっているように見えるのは気のせいなのか。
「‥‥‥‥」
そんな藤堂の視線から逃れるように瞼が下がり、ルルーシュはそのまま藤堂の胸に顔を埋めた。
「‥‥くぅ」
ルルーシュの口から漏れた言葉を拾い損ね、藤堂はルルーシュの艶やかな黒髪を梳きながら復唱した。
「‥‥『くぅ』?」
しかし、ルルーシュからの反応はない。
「‥‥」
「ルルーシュ君?」
藤堂は訝るように名を呼んだ。
「‥‥むにゃ」
しかしルルーシュの瞳は開かれず、口からついてでたのはかわいらしい寝言で。
「‥‥‥‥‥‥びっくりした」
藤堂は思わずそう言って、息を深々と吐き出していた。
「‥‥‥‥」
ルルーシュの返事は規則正しい寝息だけ。
「我が君が『むにゃ』って‥‥そんなー」
「アスプルンド伯爵。静かにしないか。殿下がお起きになられたら如何致す気だ」
嘆くロイドにダールトンは吐息だけに近い言葉で注意を促す。
ロイドは暫く、ルルーシュの様子を見ていたが、やがて溜息を吐くとこくりと頷いた。
「‥‥‥」
藤堂は腕の中で眠るルルーシュに穏やかな眼差しを向け、その眠りを妨げないように、髪を梳き続けた。
まさか、主の穏やかな眠りを妨げるわけにもいかず、黙り込むロイドとダールトンを促すラクシャータに従ってそっと部屋を後にした。
勿論、ロイドは出る前に藤堂を睨む事は怠らなかったが。
次の日、目が覚めたルルーシュは、一睡もしなかったらしい藤堂の腕の中だった事に激しく動揺する事になった。
その後。
宴会会場となった場所に足を踏み入れたゼロ、藤堂、ロイド、ダールトン、そしてラクシャータが見たものは。
屍累々たる地獄絵図だったとか。
ゼロは自身の記憶が途中からない事を自覚しながらも、幹部一同を正座させて、懇々とした説教大会を開く事になった。
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作成 2008.08.06
アップ 2008.08.11
(「父の日騒動」続編【2】/扇+ラク+朝)
扇は途方に暮れていた。
たまたまゼロの部屋の近くで睨み合ってるラクシャータと朝比奈を見つけたのだ。
ゼロを煩わせるのはどうかと思い、何とか下まで連れ出したのは良いのだが、原因がさっぱりわからない。
とりあえず、朝比奈が突っかかるのは藤堂絡みだろうと、居合わせたカレンに藤堂か四聖剣を呼ぶように言った。
「‥‥それで、喧嘩の原因は?」
扇が二人に問いかける。
「あらぁ?喧嘩なんてしてないわよぉ。単に朝比奈が突っかかってきただけぇ」
「む。突っかかってきたのはそっちじゃないか」
途端に小馬鹿にしたようなラクシャータと喧嘩腰の朝比奈は言い合って睨み合う。
「ぅわ、待った。えっと言い合ってる原因は?」
扇は一度止め、尋ね方を変えてからもう一度問いかける。
「べっつにぃ。ただぁ、朝比奈がゼロの迷惑になるような事をしようとしてたからぁ?」
「違うだろ。ゼロが藤堂さんに仇をなすようならってちゃんと注釈入れたじゃないか」
「いつゼロが藤堂に仇なしたってぇ?勝手にあんたが思い込んでるだけじゃないのぉ」
「ぅわ、待った。ストップ。えっととりあえず待ってくれ。元はゼロと藤堂さんが原因なのか?」
再び止めに入ってから、扇はまたまた違う尋ね方をした。
その問いに対してはラクシャータも朝比奈も沈黙を守った。
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2008.07.01作成
2008.07.18-2008.07.23up
2008.08.18再録