★明日咲様へのリクエスト作品★
(ロイルル/騎士設定/アジト/ゼロを信頼しない幹部に怒る話/ゼロ&皇族バレ)
特派唯一の移動手段であり研究機材が満載の居住性はすごぶる悪いトレーラーの内部は、現在加えて長居したいとは思えない場所に成り果てていた。
原因は戦々恐々の視線を一身に集めながらも気にした様子もなく怒りに燃えている主任のロイドに有った。
普段は道化じみた言動をするロイドが今は何故か「道化?誰が?」とでも言いたげに、眼光鋭く宙を睨んでいるのだ。
研究員達は耐え切れなくなって縋るようにセシルを見る。
しかしセシルには焦りも恐怖も困惑も見られず、諦めの苦笑だけが浮かんでいた。
その瞳はなによりも雄弁に「今のロイドさんには何を言っても無駄ですよ」と語っているようで、研究員達は最後の手段である逃げにでた。
我先にセシルに向かって「今日はこれで‥‥」とか「お先に失礼します」などと暇の挨拶をすると、トレーラーから退散していった。
残ったのは元凶のロイドとセシルだけ。
セシルは溜息をつく。
「止めてもどうせ聞かないでしょうから止めませんけど。服は着替える事と、これを忘れないように」
ロイドに向かってセシルが差し出したのは、ランスロットの起動キー。
ロイドはジト目をセシルに向けた。
「スザク君から借りたんです。『メンテナンスの為にロイドさんに渡したいから』って。だから後の事は問題ないですよ?」
「‥‥‥‥良いの?セシル君。ぼくは君を裏切るかも知れないよー?」
「かも‥‥って。別にロイドさんがどんな行動を取ろうと、それがわたしへの裏切りにはなりませんから」
大事なもの、大切なもの、守りたいものが同じで、それが世界の中心に在って、自分にとっては全てで有った時、裏切りは起こらない。
「そうだったね。ならこっちの事は任せるよ~」
ロイドはセシルの意を正確に読み取ってにやりと笑ってみせた。
黒い騎士服、黒いマント、要所を縁取る刺繍はメタルシルバーで施されている。
上に乗っているのは銀髪に眼鏡をかけたいかにも不機嫌そうな顔。
「ブリタニア人接近」の報告は総司令のゼロがいない為、副司令の扇と軍事の責任者藤堂の元へと上がって来た。
藤堂は接近者の動きを止めるように指示し、扇はゼロに報せるべく電話に手を伸ばした。
遠巻きにじりじりと下がりながら、格納庫に侵入されてしまった団員達は、それでもたった一人を相手に手を出しあぐねていた。
殺気立つ相手に気圧されているのは明白だった。
報告を受けて幹部達が駆け付けたのは、だから格納庫の中程で侵入者が立ち止まった後だった。
「ブリキ野郎が何の用だ!?」
玉城が銃を突き付けながら怒鳴る。
「‥‥‥‥ラクシャータ。いるんだろ?」
侵入者は玉城をあっさり無視して鋭い声で呼ばわった。
「あー‥‥‥‥。予想は付くんだけどぉ、なぁにしに来たのぉ?プリン伯爵ぅ」
不本意そうに前に出て来たラクシャータは、嫌そうに言った。
「予想通りなら、当然一纏めにして構わないよな?ラクシャータ」
「良いわけないじゃないのぉ。第一纏められる謂れはないわよぉ」
外野を無視して続く会話に団員達は途方に暮れ、幹部達は訳も解らぬままに苛立ちを募らせる。
「ラクシャータッ!‥‥知り合いなのか?」
扇が慌てたように割って入る。
「昔の同窓かしらぁ、不本意だけどぉ。あぁ、一つ言っておくけどぉ、わたしが知る中では二番目に強いわよぉ、癪だけどぉ」
「保証の仕方がイマイチだよね、それ?」
「事実でしぉ、一番は不動よ不動。それとも抜かせてるつもりなのぉ?」
殺気立つ相手にラクシャータは負けていない。
「まぁ、今回は保留にしておくけど、次も同じならその時は」
「分かってるわよぉ。善処するわぁ」
相手の言葉を強引に遮って、ラクシャータは頷いた。
話にケリが着いたと見てとった幹部達が口を挟むよりも早く視線をラクシャータから幹部達に立て直したロイドが声を出す方が早かった。
「なんかさ、すっごく腹が立つ。お前達、良くそれで騎士団なんて名乗っているよね、ホント呆れるの通り越して、いっそ感心するよ」
冷ややかに言うロイドに、当然ながら大半の者がむっとしたりカチンと来ている。
なので、「なんだとぉ~ッ!」とあちこちから反論が上がっても仕方がないのだろう。
「自覚ないなんて最悪。ワザとでも性質悪いからどっちもどっちなんだけど。‥‥てか、ラクシャータ、どこ行く気なんだ?」
ロイドは振り返りもせずに背後でそろりと退場しようとしていたラクシャータを呼びとめた。
「‥‥保留なんでしょぉ?」
「ラクシャータ?話も聞かないで何を善処するんだぃ?」
ロイドの言葉にラクシャータは深い溜息を吐いて逃亡を諦めた。
「とばっちりぃ‥‥」と呟いて幹部達を睨む事は忘れなかったが。
「プリン伯爵といったか?」
藤堂が一歩進み出て真顔で声を掛ける。
「む。‥‥『奇跡の藤堂』だっけ?ぼくはロイド・アスプルンドって名前があるんだから、次からそれで呼ばないように。‥‥それで?」
ロイドはむっとしたものの、「そういえばまだ名乗ってなかったっけ?」と思い至り、初回なのでそこだけは譲歩する事にした。
「‥‥結局、何をしに来た?要点が判らないのだが。それとおれも『奇跡の』はつけなくて良い」
「‥‥騎士団の粛清?」
ロイドが何故か疑問系で応える。
「はぁ~~~あ?何だってブリキ野郎におれ達が粛清されなくちゃならねぇんだ!?」
玉城が呆れたような口調で抗議すると何人かが同調して頷く。
「黒の騎士団ってゼロの組織なんだろ?つまり騎士団の団員はリーダーであるゼロを信頼してないと成り立たない。‥‥何か間違ってるかな、ラクシャータ?」
「ぜぇんぜん間違ってないわよぉ。プリン伯爵ぅ」
「君のその嫌がらせは間違ってるからやめてくれないか?」
「やぁよ。あんたに嫌がらせって他に有効そうなのないんだからぁ」
「てかラクシャータ、てめッ。どっちの味方だよ、おい」
「んー。プリン伯爵の味方ってぇのは癪だしねぇ‥‥。わたしはゼロの味方ってぇ事にしとくわぁ」
「‥‥話が脱線してばかりな気がするのは気のせいか?」
千葉がロイドとラクシャータの口論をうんざりした様子で眺めながら言う。
「ぼくが見た限り、ゼロを信頼してるのってほっとんどいないよね。指示通り動かなかったり、反抗ばっかりしてたり。騎士団にいる意味ないんじゃないかそれ?」
玉城はロイドの冷たく鋭い氷のような眼光に射竦められて固まる。
「ゼロのいない場所では散々悪口やら批判やら、果ては素性が知れないからと疑って掛かるし」
「「「ってちょっとまてぃ!!どこで聞いてやがった!?てかラクシャータ?」」」
一斉に待ったを掛けて尋ねる幹部達に、ラクシャータは首を振り、ロイドはにやりと笑う。
「違うわよぉ。わたしだってこいつと連絡つけたいなんて思わないんだからぁ」
「そんなの盗聴器とか色々仕掛けたからに決まってるだろ。ゼロがいないと途端に箍が緩むし、不平不満だらけだし、どうしようもないよ」
平然と己のおこないを暴露するロイドに、「盗聴器ぃ~~い!?」と叫んで幹部達は周囲を見渡した。
もちろん、見渡したくらいで見つかるような盗聴器は存在しなかったが。
後編に続く
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作成 2008.07.06
アップ 2008.07.09
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