(「母親役選出」続編/藤堂とゼロ)
膝の上でずっと動かなかった仮面が動いたのに気づき、藤堂は閉じていた目を開ける。
「ん‥‥ぁ、すまない。眠っていたか?」
状況を把握したゼロは少し慌てたように身を起こした。
「問題ない。こんな時くらいゆっくり休めば良い」
正座に慣れている藤堂にとっては、ゼロの軽い仮面が膝に乗っていたくらいで痺れたりする事はない。
しかしゼロは時計を見ると首を振る。
「‥‥もう十分休ませて貰った。藤堂、まだ時間は有るか?」
「あぁ、それは‥‥平気だが?」
藤堂は「今度はなんだ?」と内心で少しばかり警戒しながらもそれを表に出す事無く尋ねる。
「‥‥礼代わりになるか判らないが食べていくと良い。少し待っていてくれ」
ゼロはそう言うと藤堂の返事も待たずに奥へと消えていく。
程なくしてトントンカタカタと音が届いてきて、料理をしているのだと察した藤堂は驚いた。
暫く固まっていた藤堂だが、良い匂いが漂ってくるに至って、苦笑を漏らす。
「‥‥これではどちらが母親役だか、判らないな‥‥」
藤堂の呟きは誰の耳にも届く事はなかった。
そして藤堂が食べた夕食は、今まで食べたどの和食よりも美味しかった。
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2008.06.09作成
2008.06.10-2008.06.16up
2008.07.08再録
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