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扇は遅れて来たという負い目も手伝って、押し切られる形でゼロの自室の前に立っていた。
これでも精一杯の反論はしたのだ、扇も。
「‥‥ゼロの機嫌が?」
「そうなんです、扇さん。なんだかとっても悪いみたいで」
「‥‥でも、ゼロにだって機嫌の悪い時くらいはあるんじゃないのか?」
「ちょっとどころじゃねーんだぞ、あれは。声だけで人を殺す事だって出来るぜ、今のゼロは」
「‥‥緊急時以外声をかけるな、と言われたんだろう?」
「でもッ、あのまま放っておくなんて、良いはずがないんです、きっと。何か有ったと思うから、相談くらい乗って上げた方が良いかと」
「‥‥‥‥それが、何故おれなんだ?」
「あの場にいた奴は、全滅なんだから仕方ねぇだろ。それに副司令だし?」
扇の問いに、カレンと玉城が交互に答えて、扇の退路をドンドンと削って行く。
「あー‥‥。それなら、藤堂さんとか」
「ダメですよ。藤堂さんを煩わしちゃ。ここは古株の威厳をしっかりと見せていただかないと」
と、足掻く扇に朝比奈が止めを刺した。
「‥‥‥‥‥‥。じ、じゃぁ、聞いて、くる」
そうして、扇はすごすごと、二階へと上がって来て今に至る。
意を決してノック。
「‥‥‥‥。‥‥‥‥。ゼロ?扇だけど。‥‥いないのか?」
返事がないので、扇は声をかけ、もう一度ノック。
「‥‥‥‥入れ」
微かに聞こえた声に、扇は驚いた。
今まで、「入れ」と言われた事はなく、「なんだ?」とか「どうした?」とかで扉越しに報告するか、ゼロが直接扉を開けて出て来るかしていたからだ。
そろり、と扇は開閉ボタンに手を伸ばし、何の抵抗もなく空いた扉から中へと入った。
扇が中に入ると、ゼロはまるで扇を待っているかのように、ただソファに優雅に座っているだけだった。
「‥‥‥‥‥‥。ゼロ。みんなからゼロの機嫌が悪いようだと聞いた。‥‥何か、有ったのか?」
扇は背後で勝手にしまった扉にビクリと反応した後、用件を早く済ませて立ち去ろうと思い、早速切り出した。
「‥‥まず、座れ。聞きたいと言うのならば、話してやろう。‥‥聞きたくなければ引き返せば良い」
何かを見定めるようでもあり、どこか投げやりにも聞こえるゼロの言葉に、扇はその場で少し考えた。
だが、ゼロ本人が話すと言っているのだから、と扇はゼロの向かいのソファにそろっと腰を下ろした。
「‥‥今日、ここへ来る途中、とある現場を目撃した」
ゼロの話は唐突で、扇は鸚鵡返しに、「現場?」と繰り返した。
「そうだ。‥‥租界でブリタニアの学生とぶつかっていたな?扇」
よりにもよってゼロに見られていたとは思っていなかった扇は、指摘されてわたわたと慌てた。
「‥‥あ、‥‥あぁ。確か、に。ど、こで見ていたんだ?ゼロ‥‥」
「‥仮面をしていないのに、声を掛けると思うか?‥‥それに、ぶつかった事を問題にしているんじゃない。その時いた、‥‥お前の連れ、だ」
ゼロの容赦のない指摘に、扇はドクンと身体が震えるのを感じた。
それは今、指摘されたくない事柄でも有ったからだ。
「‥‥‥‥か、‥‥彼女、が‥‥何か?」
尋ねながら、扇はダラダラと冷や汗をかいている。
「‥‥わたしの記憶が正しければ、ブリタニア軍の『純血派』の一人だったはずだが?‥‥そう、『オレンジ君』の部下だったか。何故共にいた?」
「‥‥‥‥。彼女が軍人だとは知らなかったんだ。怪我をして倒れていたから助けたんだが‥‥。その、記憶を失くしているから、報告しそびれた‥‥」
扇は少し迷った後、ホンの少しだけ嘘を混ぜて、後はそのまま報告した。
軍人とは知らなかったと言ったが、助けた時の場所や服装から、ある程度そうではないかと思っていたのは確かだったのだけど。
「‥‥‥‥‥‥‥‥。何時の話だ?」
怪我と言う言葉に、ゼロはとある可能性に気付いて、扇に確認を取る。
「あー‥‥港での作戦が有ったあの場所で、‥‥次の日の夕方、だ」
扇の言葉で、ゼロの懸念が一つ解消された。
「そうか。‥‥それで?どうするつもりなんだ?扇」
「‥‥それは‥‥」
「記憶が戻れば、あの女は『純血派』だからな。お前とは相容れないぞ?」
そう、唯のブリタニア軍人と言うわけではないのだ、記憶が戻れば「イレブン」である扇を認めるとは思えない。
「‥‥‥‥。あの、ゼロ。機嫌が悪かったのは、‥‥このせいだったのか?」
考えても答えを出せなかった扇は、話を逸らすかのように問いかけていた。
「‥‥そうだな。‥‥中核となったグループのリーダーだった男が、ブリタニア軍人と連れ立って歩いていれば気になって当然だと思うが?」
ゼロは当然の結果だと応じ、「しかも時間になっても現れなければ余計だ」と付け加える。
「す、すまなかった。‥‥その、具合が悪くなったみたいで、一度家に戻っていたから‥‥」
藪蛇だったかと思いながら、連絡くらいはするべきだったと、扇は素直に詫びを入れる。
「‥‥それにしても勇気が有るな。ゲットーにブリタニア人を置いているのか?」
そう言ったゼロの声音に若干の呆れたような笑いが含まれていたように感じた扇は、少しは機嫌が直ったのかとホッとする。
それから内容に苦く笑った。
「‥‥他に、預ける先が見つからなかった事もあるし‥‥、その」
離しがたくなった、とは扇は口に出来なかった。
「まぁいい。承知の上なら構わない。気を配ってやる事だ。‥‥わたしに報告しなかったという事は、自分で解決するつもりも有ったはずだな?」
「あ、あぁ。それは‥‥」
「ならば、この件に関しては今後もお前の責任であたれ。これ以上は問わない。‥‥もし、わたしに助けを求めるのならばその後の苦情は受け付けないが」
扇はまさか報告した後もそのまま任されるとは思わず、驚いた。
「‥‥い、良いのか?」
「軍人だった時は、『オレンジ君』の部下で、それなりに手を焼いた存在だったが、今はそうではないのだろう?‥‥ならば任す」
「あ、‥‥ありがとう、ゼロ」
扇は礼を言った後も、何か言いたそうにゼロを見ていて、それに気づいたゼロは「なんだ?」と尋ねる。
「あ、その。‥‥下でみんながゼロの不機嫌だった理由を聞いて来いと‥‥。けど流石にこれは‥‥」
「‥‥ならば、表で起きたトラブルについて考えていたとでも言っておけ」
扇の躊躇いを汲んだゼロの言葉に、扇は驚いた。
てっきり、「それくらい自分で考えろ」くらい言うかと思ったのだ。
思いがけず、温かい気づかいを見せてくれたゼロに、扇は素直に感謝した。
「‥‥ありがとう、‥‥ゼロ」
礼を言って、扇はゼロの部屋から出て行った。
了
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作成 2008.02.11
アップ 2008.02.16
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Ⅰ.ばったり遭遇「扇+α」編 【2】騎士団、ゼロ私室にて(ゼロ+扇)。
みんなにせっつかれて押しの弱い扇は渋々ゼロの元へ。
ゼロは初めから扇と話をするつもりだったので、二人だけでのお話合いに....。
扇はゼロの意外な一面を見て、.....恋に発展する事は、ないだろうなぁ(汗