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(「今日はゼロの日(違)」設定/過去捏造/皇族)
「‥‥それは?」
コーネリアは首を傾げて尋ね返した。
「ここでは見かけないでしょうね。必要ないんですもの」
マリアンヌは口元に笑みを浮かべながらもそう応じる。
「必要ある方が問題だろう‥‥」とマリアンヌの話を聞いていたシュナイゼルとコーネリア、そしてルルーシュは思う。
なんと言ってもここは皇族の住まう場所なのだから。
「みんなでやるのですか!?」
ユーフェミアが瞳を輝かせて尋ねる。
「えぇ。そうですわ。みんなで、協力し合って」
「わたしにも出来るの?お母様」
ナナリーもまた期待に満ちた瞳をマリアンヌに向けて言う。
「ここでない場所でならば出来るわね」
マリアンヌは答える。
「ナナリー、ユフィ。外に行けるくらい大人になったらみんなでやろう」
ルルーシュが楽しそうな妹達を見ながらそう言った。
「本当!?ルルーシュ」
「本当ですか?お兄様」
ユーフェミアとナナリーは喜んでルルーシュに飛びついた。
「良いね。その時はみんなに呼びかけて盛大にやろうか」
いきなり飛びつかれたルルーシュが倒れそうになるのを支えたシュナイゼルが提案する。
「それは良い考えですね、シュナイゼル義兄上。ならば軍を上げてでも協力させましょう」
コーネリアもまた二つ返事で頷いて意見を述べた。
「「「「「5月30日が楽しみ(だ/です)ね」」」」」
マリアンヌはそれを楽しそうに見ていた。
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2008.06.04作成
2008.06.08-2008.06.12up
2008.07.07再録
(「入団試験」設定/過去捏造/皇子+ダル)
ダールトンはコーネリア皇女殿下の執務室から下がると、重い身体に渋面を作りながら歩く。
これは残務を手早く片付けるか、切り上げるかして部屋に戻った方が良いだろうと考える。
そう、ダールトンは体調が悪い事を自覚していた。
ダールトンが足を止めたのは体調不良の為に歩けなくなったからではない。
目の前に突然子供が現れたからだ。
「‥‥あねうぇのきしのだぁるとんだったな?」
舌足らずな物言いながらしっかりした内容に、ダールトンは少し驚きながらも居住まいを正して礼をとる。
「はッ、アンドレアス・ダールトンと申します、ルルーシュ殿下」
「ぐあいがわるいときにむりなんてするひつよぉはないからやすめ」
突然の言葉に、体調不良を表に出していたつもりのなかったダールトンは驚く。
「‥‥何を仰せに」
「うるさい。むりをするなといまいったばかりだぞぼくは」
誤魔化そうとしたら、不機嫌な声に遮られた。
「あの、ですな」
自分は大丈夫だと幼い皇子を説得しようとダールトンが再び言葉を紡ぐも、それもまた遮られた。
「やすまないっていぅのならぼくにもかんがえがあるぞ」
ふと、どんな考えがあるのかとダールトンは気になった。
「考え‥‥とは?」
それが負けの始まりだと、この時のダールトンは気づかなかった。
「だぁるとんにいじめられたといってなくぞここで」
何故か幼い皇子は胸を張って言い切った。
究極の脅し文句に、否、既に脅迫の言葉に、ダールトンは負けを認めて、大人しく休む事になった。
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2008.06.05作成
2008.06.08-2008.06.12up
2008.07.09再録
スザクは浮かれていた。
数日前、生徒会室でルルーシュに言葉を貰ってから。
ずっと浮かれていた。
『10日、お前時間が取れるって言ってただろ?なら出て来れるよな?』
ルルーシュはスザクにそう言った。
わざわざ「10日」と言ったのは、きっと誕生日を覚えていてくれて、だから祝ってくれるのだと思ったから。
ご機嫌なスザクに、セシルは「何か良い事有ったの?スザク君」と尋ねる。
「う~ん。これから、かなぁ」とスザクは曖昧に答えて微笑む。
こんな時には適合率が普段より良い事が判っている特派主任のロイドはそれを無駄にするつもりはない。
人よりも高い適合率を誇るというのに、波が激しく、低い時には「普通の」騎乗者よりも低くなるのだ。
そんな数値を見る度に、「やる気あるのかねー?」とか「仕事だろー?」とか疑問に思うのだ。
「調子良さそうだねー、スザク君?ならさくさくっと実験やっちゃおうかー」
と機嫌の良いスザクをランスロットのコックピットへと追い立てる。
勿論スザクにも、10日に作業を残さない為にも嬉々として二つ返事でランスロットに乗り込んだ。
2日前。
今日も今日とて、ロイドとセシルを除いた特派メンバーが「ちょっと過酷じゃないか?」「いや、でも全然元気そうだし」と小声で囁きあっている。
ロイドやセシルにもそれは聞こえるが、取り合う気は全くないので、故意にスルーしている。
ロイドの携帯の着信音が鳴り、相手を確認したロイドは「セシル君、暫く頼むね」と言ってから、通話を繋げる。
「はい。‥‥じゃあスザク君。次に行きましょう?」
セシルの笑顔に、スザクは素直に頷き、特派メンバーは冷たいモノを感じながら、慌てたように次の準備に取り掛かった。
『状況はどうなっている?』
「順調ですよー」
『そうか。役に立っているなら、良いがな。‥‥それで?対象についてはどうだ?』
「それについては嫌になるくらいですけどねー。全然ですしー」
『‥‥プランの変更が必要か‥‥』
「そうですねー。いっそ全部試しますー?」
『全て、か。‥‥そうだな。調整してみよう。明日にでも最終確認の連絡を入れる』
「わかりましたー。それまでは今のままやってますねー」
『あぁ、頼む』
短い返事と共に切れた通話に、ロイドは寂しく思いながらも「明日も声が聞ける」と喜ぶ事にした。
ルルーシュは通話を切ると息を吐き出す。
「どうした?巧く行っていないのか?」
その様子を向かいから見ていた藤堂が声を掛けた。
「いや。ロイドは予定通りに事を進めているようだ。ただあいつの体力が思っていた以上に底がなかっただけだな」
ルルーシュはそう言って肩を竦めて見せる。
「それで、プランを変更すると?」
「あぁ。どうせ変更するなら全部やればどうか?と言われた。これから調整に入ろうかと思う」
「‥‥全て、か。おれのプランはきっちりこなそう」
藤堂はしっかりと請け負う。
藤堂のプランは当然といおうか、月下での対白兜破損計画である。
デヴァイサーを仕留められれば、それに越した事はないのだが、悪運が強いので、ランクを少し落としているのだ。
白兜が破損すれば、ロイドが小言を喰らわせて、「ざんねんでしたー。スザク君残業決定~」と言う事になっている。
「あぁ、疑っちゃいないさ。問題があるとすれば、白兜が出てこない事だが‥‥、それはロイド次第だな。後は‥‥」
「確か、第二皇子と第二皇女にも話をつけたとか言っていたな?それは?」
全てのプランを把握しているわけではなかった藤堂が尋ねる。
「義兄上には特派、当然白兜込みの出迎えをするようにと連絡を入れるように頼んでいる。丁度こちらに来るそうだ」
ルルーシュはそう言ってから、「予定時間を早めに告げて、機か何かのトラブルで遅くなった事にすれば長時間拘束できるからな」と笑う。
藤堂はそれを聞いて、とばっちりを受ける事になる特派のメンバーに同情した。
何をどういってもスザクを抱え込んでいる特派のダメージが一番大きいのは事実なのだ。
「義姉上には、ユーフェミアとその騎士を呼び出すように頼んだ。まぁ、口実は義兄上が来る事に関連した事ででもと言ってある」
つまり、特派白兜のデヴァイサーとして空港で長時間拘束された後、そのまま政庁に直行して、第三皇女の騎士としてまたも時間を拘束されるという事だ。
「‥‥しかしそれだけでは丸一日の拘束には至らないのではないか?」
「あぁ、だからタイミングを見計らって騎士団が行動を起こす。義姉上が物資も提供すると言っているので、ついでに奪取するが」
「‥‥その言い方は逆ではないか?物資を奪取するついでに白兜破損計画をおこなうのだろう?」
藤堂がやんわりと訂正するが、ルルーシュはきっぱりと首を横に振った。
「いや。今回ばかりは優先順位を逆転させて貰う。物資の奪取は必須だが、白兜破損も必須だからな」
ルルーシュは言い切り、「だから奪取する扇隊と白兜破損の藤堂隊に完全に分けただろう?」と笑った。
つまり、早朝から空港で長時間到着を待ち、政庁にて第三皇女の騎士として行動し、更には白兜のデヴァイサーとしてテロ対応をする。
そして、特派に呼び戻されてお小言を喰らい残業を言い渡される、というスザクのタイムスケジュールが、当人の与り知らぬところで決定されたのだった。
枢木スザクの7月10日のタイムスケジュールはゼロの予定通りになった、とだけ記しておく。
待機と銘打った拘束時間の間中、焦りを募らせていっていたスザクは、月下と紅蓮の攻撃によって白兜を見事に破損させたのだ。
そうしてロイドから小言を喰らい、愚痴を言われ、残業を言い渡されたのも、予定通りだった。
そうしてスザクの今年の誕生日は散々な終わりを告げた。
次の日。
なんとか生徒会に顔を出したスザクを待っていたのは。
「いやぁ、昨日は来れなくて残念だったなぁ。主役いなかったけど、折角用意したんだしってみんなで美味しくルルの料理食べちまったぜ」と礼を言うリヴァルと。
「モノは用意してなくってね~。サプライズを用意してたんだけど、それも昨日限定だったから、何もないのよね~」と苦笑するミレイと。
「ルルーシュに言われて結構遅くまで待っていたんだけど。‥‥普通連絡の一つも入れるものよ?」と嫌味を言うカレンと。
「騎士さまだもの。主のご用事が優先されるのは当然なのに、どうしてそんな顔をしているの?」とスザクの表情に不満そうなニーナと。
「はぁ~。スザク君も騎士なんだから、もう少し常識っての覚えた方が良いわよ?」と呆れ顔で忠告を入れるシャーリーと。
冷ややかな視線を向けてくるルルーシュだった。
「る、るるー、しゅ?その‥‥」
「お前馬鹿だろ?来ると言ってた奴が連絡もなく来なかったら何かあったかと心配するだろ?」
恐る恐る尋ねるスザクは、案じるような言葉が返ってきた事にホッとする。
「その、ごめん。連絡を入れる暇もなくて‥‥」
「‥‥仕方がないから、昨日のとは別に用意しておいた。食べるだろう?」
溜息を吐いたルルーシュの続けた言葉に、スザクは満面の笑みを浮かべて力強く頷いた。
しかし、ルルーシュが持ってきた「おにぎり」を一口食べたスザクは蒼白になるのを自覚した。
「改めて作ろうと思ったところに、お前の職場の女性がやって来て『誕生日、忙し過ぎて用意するのが遅くなったのだけど』と持ってきたからな」
ルルーシュはそう言って悪びれる事無く、「折角用意して持ってきてくれたんだ。おれが作る必要もなくなった。しっかり食べてくれ」と言い切った。
はっきり頷いた手前、今更「食べない」とは言えず、スザクは蒼い顔をしながら、「おにぎり」を平らげたのだった。
「‥‥あんな事言ってばれないかな?」
「ん?平気だろ。他の生徒と交流持つ奴じゃないし」
「昨日は生徒会室にすら集まらなかったじゃないか。ルルーシュの料理は食べたけど。スザクが来れるようになってたら何言われてたか」
「その時間なら待ちきれなくて解散したところだったんだとでも言っておけば良いんだよ」
ルルーシュは「いや結局来なかったわけだけどさ」というリヴァルにきっぱりと言い切ったのだった。
更に翌日、アジトにやってきたルルーシュとカレンによって事の顛末が幹部達に披露され、爆笑が巻き起こったという事を記し、終わりとする。
了
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作成 2008.07.11
アップ 2008.07.12
★明日咲様へのリクエスト作品★
(ロイルル/騎士設定/アジト/ゼロを信頼しない幹部に怒る話/ゼロ&皇族バレ)
「ちょっと待て」
藤堂が待ったを掛ける。
「何?」
盗聴器の件で叫ぶ幹部達を煩そうに見ていたロイドは、気のなさそうに藤堂に視線を向けて尋ねる。
「先程は粛清と言ったな?一体どの立場に立っての言葉だ?ブリタニアか?それとも軍か?」
「違うね。ぼくの主はゼロだから、ブリタニアも軍も関係ない。‥‥ゼロの為にならないなら、ゼロがやらなくたってぼくが粛清すると言っている」
きっぱりと言い切るロイドに、藤堂は「彼の言っている事は本当か?」と尋ねるようにラクシャータを見た。
「‥‥あぁまぁ、プリン伯爵の中ではぁ。ゼロを中心に世界が回ってるしぃ。後はナイトメアとプリンが有って、最後にちょろっとその他諸々がある感じだしぃ?」
「良く判ってるじゃないか、ラクシャータ。その『ちょろっ』にはゼロの為になる者しか置くつもりないから、残りはことごとく排除しようかなって思ってさ」
「あんた‥‥。言葉遣いからして変だ変だと思ってたけどぉ。キレてるわねぇ?よっくそれでセシルが黙ってたわねぇ?」
「あぁ。セシル君なら、快く送り出してくれたよ。彼女もゼロ一筋だし?」
「ラクシャータ。貴女とその男が会話をするとどんどん話がズレているように思う」
千葉が再び修正を試みる。
「そうかもねぇ。半分はわざとだものぉ。ガス抜きしとかないと後が怖くってぇ?」
団員達は「ラクシャータが怖いってどんだけだよッ!」と一層怯える。
「‥‥ゼロを主というが、どういう事だ?」
再び藤堂が問う。
「ん?昔、主であるゼロに忠誠を誓ったんだよ。次に会う時まで気持ちが変わらないなら騎」
「プリン伯爵ッ!」
ロイドの言葉を慌てたラクシャータが鋭く遮る。
「‥‥何?説明の邪魔しないでくれるかな?ラクシャータ」
「プリン伯爵ぅ。あんた、もしかしてゼロの素性まで暴露しに来たなんて言わないでしょうねぇ」
「良いかなぁと思って。隠したままだと折角主が作った組織なのに、安らげないだろ?それで離れるようなら粛清の対象のトップに上げるだけ。簡単じゃないか」
ラクシャータとロイドの会話に、幹部も団員も関係なく蒼褪める。
「だからってぇ、ゼロに無断で暴露したら、あんた嫌われるかもよぉ」
ラクシャータは一騒動起こる事がわかっているだけに止めに掛かるのだが、ロイドはそれでも引き下がらなかった。
「‥‥ぼくが嫌われたとしても、それで主にとって安らげる場所が手に入るなら、喜ばしい事じゃないか?」
真摯な瞳で言うロイドに、ラクシャータは白旗を揚げる事にした。
本当に主一筋で、自分の事を二の次にするロイドに、これ以上反論する言葉が見つからなかったからだ。
「‥‥ラクシャータ。今の話の流れからすると、君はゼロの素性を知っていると言う事になるが‥‥」
「その通りよぉ、藤堂。プリン伯爵が主と慕うなんて後にも先にも唯一人だけだものぉ。こぉんな側にいたってぇのに今まで気付かなかったなんてねぇ」
ラクシャータはそう言って溜息を吐くと「不覚だわぁ」と嘆いた。
「君は素性を知ってもゼロについていくと?」
「当然よぉ。ゼロが本国からいなくならなかったら、野に下ってなんてないわよぉ」
ラクシャータの答えに、もしそうならば紅蓮や月下は存在していなかったかも知れないと思った者が何名か。
「あぁ、時期的に考えてそうだろうなぁとは思ってたけど、やっぱりか。そぉれで主の下に辿り着くなんて羨ましいよ」
ロイドはそう言うと、溜息を吐いて視線を巡らせて入り口に主の姿を発見して固まった。
固まるロイドに、その視線を追ってゼロが来た事を知る。
「ゼロッ!呼び出してすまない。その‥‥」
扇が声を掛ける。
「‥‥来たのか。お前にしては随分とゆっくりしていたな。‥‥まったく。お前だと判っていれば、急ぐ必要はなかったんだがな」
ゼロはそう言うと、スタスタと歩いてロイドとその周囲を囲む幹部団員達の横を通り過ぎようとする。
「どこ行くんだよッ、ゼロ」
「扇から『ブリタニア人がアジトに接近している』と聞いて慌てて来たんだ。少しくらい休ませろ」
「いや、休むのは別に良いんですけど、この人どうにかしてからにしませんか?」
朝比奈がロイドを示して訴えた。
ゼロは一つ息を吐くと、ロイドに向き直った。
「‥‥ロイド。その服装という事は、もう戻る気はないのか?」
「はいー。ランスも持ち出して近くに隠してますしー。あ、これ、起動キーですー。あちらはセシル君が引き受けてくれるって言うし、任せてきちゃいましたー」
にこにこと、先程までの雰囲気はなりを潜め、がらりと変わったロイドが応じる。
それを見てラクシャータはホッと息を吐いた。
しかし、他の幹部団員達は余りの変貌振りに戸惑うばかりである。
「家と婚約者は?」
「あはー?やきもち焼いてくれてるわけじゃないですよねー。‥‥あー‥‥もしかして怒ってらっしゃいますー?」
「当たり前だろう?全く。もう少し手段を選べ。‥‥それで?どうしたいんだ?お前は」
「‥‥どうって。決まってるじゃないですかー。家は別にどうでも良いでーす。彼女の意志も変わらないそうですから、そのうち来ると思いますー」
呆れたように言うゼロに、にこにこと笑うロイド。
「で?本気でわたしの素性をバラす気だったのか?」
「あ、聞いてらしたんですねー。そうですよ?だってここは今、貴方にとって安らげる場所ではないじゃないですか。表の箱庭だって崩壊してるのに」
主と言い切るゼロの問いに、ロイドは真正面から頷いて答え、「ぼくは貴方が安らげる場所を手に入れたいんです。すぐにでも!」と言う。
騎士団の一同はゼロの答えを固唾を呑んで待つ。
場合によってはロイドとかいうプリン伯爵に粛清されかねないから一応と逃げ道を視線で確認する者もいたが。
ゼロは深く息を吐き出すと、すっと仮面に手を伸ばした。
「お前がその気ならば、隠していても意味がないな。バラされる前に自分で仮面を取った方が幾らかマシだろう」
そう言ってから仮面を外した。
もちろん、一騒動があったけどね。
何故か「奇跡の藤堂」が主の事を知っていたり、赤いナイトメアのパイロットだって言う少女が主につっかかったり。
少女に関しては、主が庇うので保留にしたのだけど、後日それを少しばかり後悔したりする。
何故って、婚約者殿がやって来て、「あら、カレン。やっぱり騎士団のメンバーだったのね」なんて話しかけたりしたからだ。
主と婚約者殿の両方が知っていて好意的な相手を粛清の対象になんてできるわけないじゃないか。
まぁ、その時には、主に対する態度から反抗的な要素は消えていて主から「紅蓮の騎士」なんて呼ばれるに相応しくはなってきていたけど。
ディートハルトとかいうブリタニア人が暴走して主に突進してきたのはその場で沈めて、今後も一層注意しようと思ったり。
結果としては主は未だにゼロを続けている。
素性を知った後も、誰も離れようとはしなかった事はここに記しておくけど。
それがぼくが睨みを利かせたせいなのか、そうじゃないのかはこれから判断しようと思う。
了
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作成 2008.07.06
アップ 2008.07.10
★明日咲様へのリクエスト作品★
(ロイルル/騎士設定/アジト/ゼロを信頼しない幹部に怒る話/ゼロ&皇族バレ)
特派唯一の移動手段であり研究機材が満載の居住性はすごぶる悪いトレーラーの内部は、現在加えて長居したいとは思えない場所に成り果てていた。
原因は戦々恐々の視線を一身に集めながらも気にした様子もなく怒りに燃えている主任のロイドに有った。
普段は道化じみた言動をするロイドが今は何故か「道化?誰が?」とでも言いたげに、眼光鋭く宙を睨んでいるのだ。
研究員達は耐え切れなくなって縋るようにセシルを見る。
しかしセシルには焦りも恐怖も困惑も見られず、諦めの苦笑だけが浮かんでいた。
その瞳はなによりも雄弁に「今のロイドさんには何を言っても無駄ですよ」と語っているようで、研究員達は最後の手段である逃げにでた。
我先にセシルに向かって「今日はこれで‥‥」とか「お先に失礼します」などと暇の挨拶をすると、トレーラーから退散していった。
残ったのは元凶のロイドとセシルだけ。
セシルは溜息をつく。
「止めてもどうせ聞かないでしょうから止めませんけど。服は着替える事と、これを忘れないように」
ロイドに向かってセシルが差し出したのは、ランスロットの起動キー。
ロイドはジト目をセシルに向けた。
「スザク君から借りたんです。『メンテナンスの為にロイドさんに渡したいから』って。だから後の事は問題ないですよ?」
「‥‥‥‥良いの?セシル君。ぼくは君を裏切るかも知れないよー?」
「かも‥‥って。別にロイドさんがどんな行動を取ろうと、それがわたしへの裏切りにはなりませんから」
大事なもの、大切なもの、守りたいものが同じで、それが世界の中心に在って、自分にとっては全てで有った時、裏切りは起こらない。
「そうだったね。ならこっちの事は任せるよ~」
ロイドはセシルの意を正確に読み取ってにやりと笑ってみせた。
黒い騎士服、黒いマント、要所を縁取る刺繍はメタルシルバーで施されている。
上に乗っているのは銀髪に眼鏡をかけたいかにも不機嫌そうな顔。
「ブリタニア人接近」の報告は総司令のゼロがいない為、副司令の扇と軍事の責任者藤堂の元へと上がって来た。
藤堂は接近者の動きを止めるように指示し、扇はゼロに報せるべく電話に手を伸ばした。
遠巻きにじりじりと下がりながら、格納庫に侵入されてしまった団員達は、それでもたった一人を相手に手を出しあぐねていた。
殺気立つ相手に気圧されているのは明白だった。
報告を受けて幹部達が駆け付けたのは、だから格納庫の中程で侵入者が立ち止まった後だった。
「ブリキ野郎が何の用だ!?」
玉城が銃を突き付けながら怒鳴る。
「‥‥‥‥ラクシャータ。いるんだろ?」
侵入者は玉城をあっさり無視して鋭い声で呼ばわった。
「あー‥‥‥‥。予想は付くんだけどぉ、なぁにしに来たのぉ?プリン伯爵ぅ」
不本意そうに前に出て来たラクシャータは、嫌そうに言った。
「予想通りなら、当然一纏めにして構わないよな?ラクシャータ」
「良いわけないじゃないのぉ。第一纏められる謂れはないわよぉ」
外野を無視して続く会話に団員達は途方に暮れ、幹部達は訳も解らぬままに苛立ちを募らせる。
「ラクシャータッ!‥‥知り合いなのか?」
扇が慌てたように割って入る。
「昔の同窓かしらぁ、不本意だけどぉ。あぁ、一つ言っておくけどぉ、わたしが知る中では二番目に強いわよぉ、癪だけどぉ」
「保証の仕方がイマイチだよね、それ?」
「事実でしぉ、一番は不動よ不動。それとも抜かせてるつもりなのぉ?」
殺気立つ相手にラクシャータは負けていない。
「まぁ、今回は保留にしておくけど、次も同じならその時は」
「分かってるわよぉ。善処するわぁ」
相手の言葉を強引に遮って、ラクシャータは頷いた。
話にケリが着いたと見てとった幹部達が口を挟むよりも早く視線をラクシャータから幹部達に立て直したロイドが声を出す方が早かった。
「なんかさ、すっごく腹が立つ。お前達、良くそれで騎士団なんて名乗っているよね、ホント呆れるの通り越して、いっそ感心するよ」
冷ややかに言うロイドに、当然ながら大半の者がむっとしたりカチンと来ている。
なので、「なんだとぉ~ッ!」とあちこちから反論が上がっても仕方がないのだろう。
「自覚ないなんて最悪。ワザとでも性質悪いからどっちもどっちなんだけど。‥‥てか、ラクシャータ、どこ行く気なんだ?」
ロイドは振り返りもせずに背後でそろりと退場しようとしていたラクシャータを呼びとめた。
「‥‥保留なんでしょぉ?」
「ラクシャータ?話も聞かないで何を善処するんだぃ?」
ロイドの言葉にラクシャータは深い溜息を吐いて逃亡を諦めた。
「とばっちりぃ‥‥」と呟いて幹部達を睨む事は忘れなかったが。
「プリン伯爵といったか?」
藤堂が一歩進み出て真顔で声を掛ける。
「む。‥‥『奇跡の藤堂』だっけ?ぼくはロイド・アスプルンドって名前があるんだから、次からそれで呼ばないように。‥‥それで?」
ロイドはむっとしたものの、「そういえばまだ名乗ってなかったっけ?」と思い至り、初回なのでそこだけは譲歩する事にした。
「‥‥結局、何をしに来た?要点が判らないのだが。それとおれも『奇跡の』はつけなくて良い」
「‥‥騎士団の粛清?」
ロイドが何故か疑問系で応える。
「はぁ~~~あ?何だってブリキ野郎におれ達が粛清されなくちゃならねぇんだ!?」
玉城が呆れたような口調で抗議すると何人かが同調して頷く。
「黒の騎士団ってゼロの組織なんだろ?つまり騎士団の団員はリーダーであるゼロを信頼してないと成り立たない。‥‥何か間違ってるかな、ラクシャータ?」
「ぜぇんぜん間違ってないわよぉ。プリン伯爵ぅ」
「君のその嫌がらせは間違ってるからやめてくれないか?」
「やぁよ。あんたに嫌がらせって他に有効そうなのないんだからぁ」
「てかラクシャータ、てめッ。どっちの味方だよ、おい」
「んー。プリン伯爵の味方ってぇのは癪だしねぇ‥‥。わたしはゼロの味方ってぇ事にしとくわぁ」
「‥‥話が脱線してばかりな気がするのは気のせいか?」
千葉がロイドとラクシャータの口論をうんざりした様子で眺めながら言う。
「ぼくが見た限り、ゼロを信頼してるのってほっとんどいないよね。指示通り動かなかったり、反抗ばっかりしてたり。騎士団にいる意味ないんじゃないかそれ?」
玉城はロイドの冷たく鋭い氷のような眼光に射竦められて固まる。
「ゼロのいない場所では散々悪口やら批判やら、果ては素性が知れないからと疑って掛かるし」
「「「ってちょっとまてぃ!!どこで聞いてやがった!?てかラクシャータ?」」」
一斉に待ったを掛けて尋ねる幹部達に、ラクシャータは首を振り、ロイドはにやりと笑う。
「違うわよぉ。わたしだってこいつと連絡つけたいなんて思わないんだからぁ」
「そんなの盗聴器とか色々仕掛けたからに決まってるだろ。ゼロがいないと途端に箍が緩むし、不平不満だらけだし、どうしようもないよ」
平然と己のおこないを暴露するロイドに、「盗聴器ぃ~~い!?」と叫んで幹部達は周囲を見渡した。
もちろん、見渡したくらいで見つかるような盗聴器は存在しなかったが。
後編に続く
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作成 2008.07.06
アップ 2008.07.09
騎士団のアジトは騒然としていた。
事の起こりはゼロの登場だ。
いつも通りやってきたゼロは、とてもいつも通りとは言えないモノを肩に担いでいて、幹部団員達はそれに驚いたのだ。
活動に関係の無い物をあまり持ち込む事のないゼロが持って来たモノ。
それは──。
「笹?‥‥‥ってゼロ。あの、もしかして七夕するんですか?」
カレンが心底意外そうに尋ねる。
どこから運んで来たのか、ゼロは大振りな笹の枝を担いでいたのだ。
「そうだ。短冊に願い事を書く。‥‥年に一度の事だ。気休めでもやりたくなってな。まぁお前達に強制するつもりはないから安心しろ」
立ち止まって応えるゼロの言葉に、一同戸惑う。
七夕をするつもりで笹まで用意して来たゼロが、きっぱりと「気休めでも」と言った事に、どう反応すれば良いか測りかねたのだ。
てか「安心しろってなんだ?」という気持ちもある。
「ゼロ。信じてないのに願い事書くの?」
朝比奈が尋ねる。
「そうだな。‥‥『鶴を千羽折って願い事をすると叶う』と同じくらいには信じているかな?」
ゼロが応えると、「いやそれ叶わないし‥‥」と思わずツッコミたくなった一同に恐らく非はないだろう。
「‥‥折ったのか?千羽鶴‥‥」
唖然として玉城が呟く。
「いや‥‥。話を聞いただけだ。‥‥信じて折っている最中の者は知っている。叶うのか?」
玉城はゼロに素でそう応えられ、仮面を傾けるゼロにたじろいだ。
「えっと、おれは千羽折れたって人に会った事がないから‥‥判らない、かな」
絶句した玉城に代わって、扇が応えると、ゼロは「そうか‥‥」と呟いた。
「あのッ!ゼロの願い事って何ですか?」
カレンが勢い込んで割り込み尋ねる。
「わたしの?わたしの願いは変わらない。『優しい世界』。それに『ブリタニアの崩壊』だ」
ゼロはそう言うと歩き出す。
「わたしも同じ事をお願いします。一人で願うよりも効き目があるかもしれませんしッ!」
カレンの言葉にゼロは立ち止まってカレンを振り返る。
「カレンの願いは別にあるだろう?日本を取り戻す事、それに‥‥。とにかく七夕に無理をしてわたしに合わせる必要はない」
「でもッ!取り戻した日本が『優しい世界』だったら嬉しいですッ!その為にはブリタニアが邪魔なのも変わりありませんッ!」
勢い込んで反論するカレンに、それでもゼロは頷かなかった。
「‥‥表でする気がなかったから持ち込んだだけだ。お前達にまでやれとは言わない」
そう言ってゼロは歩き出す。
困惑する幹部団員達は、戸惑うように隣や近くの者と視線を交わしあう。
「‥‥ちょっと待った~~~あ!ゼロストップストップ」
笹を担いだまま格納庫を出ようとしていたゼロを朝比奈の声が呼びとめた。
立ち止まったゼロは朝比奈を振り返ると煩そうに「なんだ?」と尋ねる。
「う~ん。ちょっと聞きたい事が有ってさ~‥‥」
躊躇うように朝比奈はそう言ってゼロの反応を待った。
「なんだ?言ってみろ、朝比奈」
ゼロは溜息を吐いた後、先を促した。
「えーっと、ですねー。ゼロが七夕をどう認識しているのか、ちょーっと興味があってさー」
朝比奈の言葉の意味が理解できた者はこの場にはいなかった。
藤堂や四聖剣も例外ではなく、質問されたゼロもそうだった。
「認識?」と仮面を傾けるゼロに誰もが無理もないと思う。
「うん、そう。おれが考えてる七夕と、なんか違ってそうだったから気になってさ」
朝比奈の言葉に、「そう言えば『強制しない』とか『お前達にもやれとは言わない』とか言ってたよな、ゼロ」と思い当たる。
幹部団員達にとって、七夕は祭りである。
なのに、「見せびらかすだけ見せびらかして一人で楽しもうなんて」と思った者もいたわけで。
最初の認識が違っているのなら仕方がないかもとゼロの答えを待つ事にした。
「七夕は‥‥『願い事をする日』だろう?『自分一人では叶えられない願いをする日』。‥‥違うのか?」
合ってるのに違うような気がしてならず、曖昧に首を傾げるだけで頷く者はいない。
「えーっと。織姫とか‥‥は?」
扇が躊躇いがちに聞く。
「‥‥あぁ。晴れると良いな」
ゼロは空は見えないのに、格納庫の天井を見上げて、そう呟くように言った。
「あ、やっぱり、ちゃんと合ってるんじゃないか?」とホッとし、「ならなんで一人で?」と首を傾げる。
しかし、続くゼロの言葉に頭を抱える事になる。
「晴れてくれれば、心置きなく願い事が出来る」
「は?ゼロ?ちょっと待ってください。別に曇っていたって雨が降っていたって願い事は普通に出来ますよ?」
カレンが驚いて問い返す。
藤堂とラクシャータが信じられないものを見るかのように、ゼロを凝視していた。
「‥‥普通に?しかし‥‥」
カレンの言葉に逆に驚いたゼロは言い淀んだ。
「‥‥ゼロ。別に晴れていなければ代償が必要になるというわけではない。ただ、願うだけで、叶えるのは結局自分達だからな」
藤堂が、諭すようにそう言うと、「一体いきなり何を言い出すんだ?」と言う視線に晒される。
「あらぁ?そう言うって事は、藤堂もおんなじ事を考えたのかしらぁ?‥‥て事はぁ、『生きてて良かったわぁ』って言うべきかしらぁ?」
ラクシャータの言葉が、藤堂とゼロと、その他の幹部団員達を驚かせた。
「‥‥‥‥なッ‥‥。何故‥‥」
否定する事すら忘れたのか、肯定とも取れる返事を返すゼロに、ラクシャータと藤堂は苦笑する。
「『七夕はね。晴れていれば離れ離れになっていた恋人達が会える日で、だから無償で願い事を叶えてくれるのですよ』って言ってた方を知ってるからぁ?」
ラクシャータは一言一句間違えないように言って見せる。
「『けれど雨が降れば会えなかった恋人達へ代償を払わなければならない。願うには会いたい人に会えなくなる覚悟が必要だ』と言った君を覚えている」
藤堂もまた、昔聞いた事をそのまま告げた。
その時も何度も「それは間違っている」と諭したつもりだったのだが、どうやら思い違いを覆すには至らなかったらしいと藤堂は思う。
「‥‥ッく。‥‥行事でバレる事になるとは‥‥」
「大体、昔から聡明だったんだからぁ。幾ら仰ったのがお母様だからって、鵜呑みにしたままにしなくても良かったんじゃないですかぁ?」
ラクシャータは呆れた口調で指摘する。
「何を言う。母上が間違うはずがないだろう?日本の文化に造詣が有って、『丑の刻参り』で何人もの幸福を祈ったとも仰っていたし」
唖然。
絶句して唖然とゼロを見る一同は、「それ間違ってる。激しく誤解してる。てかゼロに何を吹き込んでるんだ、母親はぁ!?」と内心で絶叫していた。
声に出さなかったのは、怖かったからである。
誰も、「丑の刻参り」で幸福を祈られたいとは思わないのだ。
「藁が手に入るのは秋だからな。今回は『優しい世界』を願おうと思っていた。『ブリタニアの崩壊』は秋になってから祈ろうかと」
ゼロゼロゼロゼロゼロ‥‥‥‥(えんどれす)。
「てかゼロもするんですか、藁人形に五寸釘を!!!」ともやはり口に出せない一同は数名を残して後ずさっている。
「あー‥‥お母様直伝なら多分すっごく効果抜群なんだと思うんですけどぉ。それでも皇帝はピンシャンしてるわけでぇ」
ラクシャータは遠い目をしながら「あっちの方が一枚上手なんじゃぁ?」と尋ねる。
ラクシャータの言葉に「ゼロの母親の藁人形の対象が皇帝!?てか効果抜群って程の五寸釘でピンシャンって。何モノだ皇帝はッ!?」と大混乱中の一同。
「あの男には効かないだろ。母上も散々愚痴っておられた。だから周囲から攻めようかと考えている」
「ゼロゼロ。それ、やるのってぇ秋になってからって言ってたわよねぇ?」
「そうだが?藁を手に入れて人形を作ってからになるな」
「手伝いますッ!ゼロ!」
カレンが手を挙げ立候補する。
「ゼロぉ。とりあえず提案なんだけどぉ。七夕の願い事をぉ。『ブリタニアからの寝返り』ってぇのにしないぃ?たぶん叶うわよぉ」
ラクシャータは面白そうにそう言って、「ゼロが貴方だって判っていれば最初っからこの手を使うんだったわよねぇ」と藤堂を見る。
「まぁ。‥‥ブリタニア人達にどの程度有効なのかはともかく、スザク君に効果が有るのだけはこの目で見た事があるな」
「あらぁ?疑うのぉ?白兜のパーツはいらないけどぉ。ゼロのお母様のその辺りの事を覚えている人って多いのよねぇ」
ラクシャータと藤堂がそんな会話で盛り上がった為に、ゼロの正体とか素性とか尋ねそびれた一同は、ゼロと一緒になって首を傾げたのだった。
了
───────────
作成 2008.07.05
アップ 2008.07.07
藤堂と仙波はポツリポツリと昔の話を口にしていた。
日本が敗れて以来、あまり口の端に上る事のなかった事柄ばかりだった。
そこへお座なりなノックの後、返事も待たずに卜部が一人で戻ってきた。
「早かったな、卜部。千葉と朝比奈はどうした?」
仙波が声を掛ける。
「あー‥‥多分、もう来るぜ。えっと、紅月連れて。だもんだから、先に報告しとこうかなぁと」
藤堂と仙波は出てきた名前に眉を寄せて顔を見合わせた。
「紅月を?何故?」
「えっとぉ。二人の話に寄ると‥‥『制服がアッシュフォードのだから、紅月に聞けばわかるとかなんとか』で引っ張ってくるらしい」
卜部が「ちゃんと聞いてはないんだが」と言って曖昧に告げた。
「‥‥卜部、行って止めさせて来い」
藤堂が苦い声で卜部に指示を出し、その声音に仙波と卜部は驚いた。
しかし、時既に遅く、バタンと扉が開いて朝比奈と千葉、カレンが顔を出した。
「なんなんですか、藤堂さん。お話が有るって?」
開口一番、カレンが怒ったような声で尋ねていた。
「お前等、何を言って彼女を連れてきた」
藤堂が鋭い視線を、千葉と朝比奈に向ける。
「えーっと?『少し学校の生徒について尋ねたい事があるんだけど、藤堂さんにも聞いて欲しいから来てくれないかな?』‥‥だったよね?」
「‥‥。その前に、『ラクシャータ、少し紅月さん借りて良いよね?』とも言っていたな、お前は」
カレンは「あれ?藤堂さんの指示じゃなかったんだ?」と内心首を傾げつつ、それなら仕方ないかなぁと諦めた。
「それで‥‥話って?」
「えっとね。黒髪でぇ。肌の色なんてすっごく白くってぇ、容姿なんかはと~~っても整っててぇ、瞳の色が神秘的な絶世のぉ、美少年が通ってるよね?」
朝比奈の形容に、カレンは「なんて的確な‥‥」と苦虫を噛み潰しながら、「性格に難有りなんて見た目でわかる訳ないものねぇ」と諦めて頷いた。
「‥‥いるわね、‥‥ひとり。‥‥それが何か?」
あっさり肯定されて、「そりゃ一目見たら忘れられないような美人だったけど‥‥」と朝比奈の方が驚いた。
「知りたいんだよね?だから教えて?」
「アイツが何か朝比奈さん達にしたんですか?てか、確か租界には出ないはずだったんじゃ‥‥」
露骨に嫌そうなカレンの反応は、続いて「確かゼロと‥‥」と非難の眼差しに変わった。
「勿論。出てないよ。見かけただけなんだよね。彼が助けてるところをさ」
慌てた朝比奈は、ブンブンと首を振って説明した。
カレンは納得して非難を引っ込める。
「まぁ。わたしも彼が日本人を庇ってたりするところを見たことは有りますけど‥‥。アイツ、ゲットーの付近まで何しに来てたのよ」
カレンは自分のテリトリーに入られていた事に酷く憤慨している様子だった。
というか、朝比奈は「助けているところを見かけた」としか言っていないのに、カレンは勝手に「日本人を」という言葉を嵌め込んでしまった様でそこには驚いた。
カレンの憤慨する様子から、「いや、ゲットー付近じゃなくて、ゲットー内なんだけど」とか言えば、暴れそうだなと千葉と朝比奈は思った。
「‥‥その彼、日本人を良く助けるんだ?」
朝比奈がちょっと脱線して、尋ねてみると、カレンはむすっとして応じた。
「‥‥良くかどうかは知らないけど‥‥。わたしは一度見た事があるし、他にも見たって人を知ってるから‥‥」
「けどさ。言っちゃなんだけど、彼、全然強そうじゃないよね?助けに入って、その後どうするんだろ?」
「朝比奈。話が逸れているぞ」
「だけど、千葉さん、気になりませんか?」
注意する千葉に言い返す朝比奈を見ながら、カレンは「さぁ」と首を傾げてみせた。
「わたしが見た時は少し話をしていただけですよ。かなり非友好的に。そしたら相手は何をどう納得したのか、ふいっと行ってしまって」
「「‥‥へ?」」
朝比奈と卜部の声が重なる。
「いや、だから。あいつが『イレブンイジメは飽きただろう。だったらお前達が去れ』とかなんとか言ったんですよね。そしたら『あぁ、そうだな』とか言って、そのまま」
「‥‥その時の顔が怖かったとかか?」
卜部がまだ首を傾げながら言うと、藤堂と千葉、朝比奈、カレンが揃って首を振った。
「「「「いや、それはない」」(ですよー)」(わね)」
口々に否定の言葉まで言うのを、仙波は不思議そうに見ていた。
「少しくらい睨んだからって、逃げ出すくらい怖い顔になるはずないですよねー」
朝比奈が言えば、控えめながら千葉も頷く。
「いや、結構威圧的な態度とか取れるかも知れないけど、世の中を斜めに見てるあいつが、そこまで労を割くとは思えないんで」
「‥‥斜めに?」
「そうなんですよ。批評家ぶって色々言うくせに、自分じゃ動こうとしない。世界は変わらないって諦めきってて。見てるとすっごくムカつくんですよね」
忌々しいとばかりにカレンはバシンと左の手のひらに右の拳をぶつけていた。
「‥‥あー‥‥、その紅月。その者の名前をまだ聞いていなかったと思うのだが」
藤堂を気にしながら、仙波が控えめに尋ねた。
「‥‥あいつの名前はルルーシュ・ランペルージ。本気になるのは溺愛する妹の事だけで、顔は良いけど口は悪いし素行も悪いし、ついでに趣味も悪いわ」
千葉と朝比奈は顔を見合わせて、「口が悪い?」「素行が悪い??‥‥まぁゲットーには来てたけど」と目で語り合い、それから千葉がカレンに尋ねた。
「趣味が悪いというのは?」
「だってあいつ。あの白兜の枢木スザクを親友だなんて言ってるんですよ!!生徒会に入れたのだってあいつだし」
カレンは「その時は名誉で軍人だって事は知ってたけど、白兜に乗ってるなんて知らなかったからうっかりちょっぴり親しくなってしまったしッ」と続けて愚痴る。
「頭は良いって聞くのに成績はそれ程でもないって事は手を抜いてるって事だし、賭け事ばっかりしてるらしいし、体力は人並み以下なのに偉そうだし」
放っておくと際限なく続きそうな、カレンの「ルルーシュ・ランペルージ」に関するマイナス評価に、藤堂の表情が徐々に険しくなるのに気付いたのは四聖剣のみ。
「こ、紅月。‥‥あー‥‥良くわかったから、そのくらいで」
仙波が額に汗を浮かべながら止めに入った。
作成 2008.03.12
アップ 2008.07.03
★上條 心様へのリクエスト作品★
(藤ル.ル+スザ/騎士団の否定話中/颯爽と現れルルを連れ去る藤堂)
ゼロの私室で、ルルーシュは隣に座る藤堂の胸に顔を埋めていた。
藤堂はそっと優しくルルーシュを抱きしめていて、ゆっくりと背中を撫でている。
時々、ルルーシュは藤堂にこうして甘える。
藤堂は甘えられて嬉しいと思う反面、こんな時のルルーシュは不安になっていると判っているだけに気がかりでもあった。
尋ねたいけれど、それで余計に辛い思いをするのではないかと思うと、切り出すのにかなり躊躇ってしまう藤堂だった。
結局藤堂は尋ねるきっかけがないままに時間となり、ルルーシュを、ゼロを表へと送り出していた。
ずっと一緒にいたいと思う反面、遅くなると危険だからと早く返したくもある。
住まいの前まで送って行きたいと思うけれど、幾つもの障害が立ちはだかりそれが出来ないでいる。
ずっと共にいたい、誰の目をはばかる事無く側にいたい、と藤堂はこのところ強く思うようになっていた。
リヴァルがバイトのせいで、スザクと二人で買い出しに出る事になったルルーシュは何度目かの溜息を吐く。
「また溜息?最近多いね、ルルーシュ」
隣を歩くスザクが、明るい声で咎めるように声を掛ける。
ルルーシュは(だれのせいだ‥‥)と思いながら、「‥‥お前は元気だな、スザク」と呆れ口調で言う。
「うん、楽しいよ?学園の生徒会の人達とか、軍の人達もね。良い人達ばかりだから」
尋ねられてスザクはにこにこと嬉しそうに答える。
「‥‥馬が合う‥‥のか?軍‥‥」
スザクと対照的に、暗い表情であからさまに作った笑みを浮かべたルルーシュが更に問う。
「え?‥‥うん。そうみたいだね。ユフィ‥‥皇女殿下にも良くして貰ってるし‥‥。これでゼロと黒の騎士団さえ現れなければ言う事はないかな?」
(言う事ないとは羨ましい事だな。現状に満足して何を変える気なんだ?)
「なぁ、スザク。軍人って人を殺す事を職業にしている人だって知っているか?」
「ぇ‥‥?知っている、けど?仕事だし、命令だから‥‥。どうしたの?ルルーシュ。溜息吐いたり、なんだか少し変だよ?」
首を傾げてから、まじまじとルルーシュを見返すスザクはルルーシュが何を言いたいのか全く判っていない様子だった。
「命じられたからと人を殺すお前と、自分の意思で人を殺すゼロ、黒の騎士団か‥‥。どちらか一方だけが悪いとは思えないけど?」
ルルーシュはさっきまでは溜息を吐きながらもさっさと通り過ぎてしまおうと思っていたゲットー近くの道で完全に足を止め、スザクを見て言う。
「なッ!‥‥ルルーシュ。ゼロは黒の騎士団は間違っているんだよッ!?テロなんて方法を取る必要なんてどこにもないんだからッ!」
スザクも足を止め途端に声を荒げてルルーシュの考え違いを正そうとする。
「軍や警察に入って?確か以前そう言っていたな?」
「そうだよ。軍や警察に入って内側から変えていけば良いじゃないかッ!」
「‥‥入るにはイレブンならまずは名誉になる必要があるな?それは誇りを捨てる事にならないか?」
「え?もしかしてぼくの事心配してくれてた?大丈夫、大した事じゃないよ?テロなんて暴挙に出るよりよっぽどマシだし」
嬉しそうにそれでも苦笑といった笑顔を浮かべながら、スザクは言う。
「なぁ、スザク。知っているか?名誉が軍に入って、普通なら一生を掛けても軍曹どまり、曹長まで行ける者の方が少ないって、知ってたか?」
(そしてそんな立場で変えられるのは自分の小隊のちょっとした待遇くらいだって、知っているか?軍隊に入るって事は兵力を増強させるだけだって知ってるか?)
「‥‥えっと、でもぼくは、少佐なわけだし‥‥」
「ナイトメアの騎乗資格は本来ブリタニア人だけ。騎士になれるのもそう。お前、自分が特例だらけだって気づいてたか?」
(‥‥そして、特例を認めない者はどこにでもいて、鵜の目鷹の目と粗探しや弱点を探しに掛かる。知ってるか?それが周囲にまで及ぶ事を)
「‥‥でもだったら、ぼくがッ!ぼくが頑張って出世して必ず変えてみせるから、だから」
「だから?それをそう言ってゼロと黒の騎士団に投降を呼びかけるつもりか?『自分が頑張るから、大人しく処刑台に上がってくれ』って?」
(今更テロ行為をやめたとしても、ゼロも黒の騎士団もブリタニアが赦さないだけの事を既にしてきているのだから、つまりはそう言う事だ)
「そんな事、ぼくは言ってないッ!」
「それが現実だ。ブリタニアと言う国の。‥‥それに、内側から変えるのにどのくらい掛かる?それは本当に実現可能な事なのか?夢物語ではなく?」
次から次へとスザクにとっての否定的な疑問をぶつけてくるルルーシュに、スザクは訝しげな表情をありありと浮かべた。
「‥‥‥ルルーシュ?何が不安なの?どうして急にそんな‥‥。大丈夫。間違っているのはゼロと黒の騎士団だから。ぼくはちゃんとやるよ?」
「‥‥‥」
(スザクの行動がゼロと黒の騎士団にどんな関係があると?‥‥あぁ、ゼロや騎士団が現れなければ出世なんかしなかったか、スザクは)
「きっとエリア11がこのところ物騒だから不安になったんだね、ルルーシュ。大丈夫だよ、ぼくがゼロも黒の騎士団も捕まえてテロなんてなくしてあげるから」
「‥‥‥‥」
(やはりこいつには何を言っても届きはしない、か‥‥。都合の悪い事は全て都合の良いように置き換えてしまう。これでは届くはずが無い)
ルルーシュはスザクの言葉には答えず、諦めの溜息を吐いた。
「あ、ほら。また溜息。ホントどうしたのさ、ルルー‥‥」
その時、スザクの言葉を遮るように、横合いから人が飛び出してきてスザクとルルーシュとの間で立ち止まった。
「なッ‥‥‥藤堂さんッ!?」
突然現れた藤堂はルルーシュを背に庇うようにしてスザクと対峙する。
「‥‥‥‥‥‥とうど‥さ、ん?」
驚くスザクに鋭い視線を投げた後、藤堂は肩越しにルルーシュを振り返る。
「君はッ。この愚か者の言い分を大人しく聞いていたというのか?ずっと‥‥」
「愚か者って‥‥貴方は指名手配をされているんですよ、藤堂さんッ。ルルーシュ、離れて!藤堂さんは黒の騎士団の」
かつての師匠で、未だに尊敬の念を抱いている藤堂に「愚か者」呼ばわりされた事で、スザクの頭に血が上る。
「黙れ、スザク君。君にはルルーシュ君の親友を名乗る資格はない。一方的に意思を押し付ける、それのどこが親友だ?」
再びスザクを見据えた藤堂はスザクの言葉を遮り、断罪する。
「なッ‥‥。突然現れた貴方に何が判るというのですか?」
「少なくとも君よりはルルーシュ君の事を理解しているつもりだが?」
「‥‥というか、何故藤堂さんがここにいるんですか?」
まだ目を見開いたまま、ルルーシュは呆然と呟いた。
「心配だったからに決まっているだろう?」
当たり前のように言う藤堂にルルーシュは潮時だと悟る。
こんな状況なのに、藤堂が来てくれて、そう言ってくれた事を嬉しいと感じる自分を見つけてしまったから。
「そうですか。少し待ってもらって構いませんか?」
ルルーシュは藤堂にそう言って頷くのを見ると携帯を取り出す。
訝しげな表情をして藤堂とルルーシュとを見比べたスザクを「るるーしゅ‥‥?」と恐る恐る尋ねる。
ルルーシュはそんなスザクにはお構いなしにコールを始めた携帯を耳に当てた。
「あ、おれです。すみませんが、手配をお願いしても良いですか?移ど‥‥そうです、よろしくお願いします」
短い言葉の後、通話を終えたルルーシュは藤堂に対してのみ、「お待たせしました」と告げた。
電話の意味が理解できなかったスザクは、ただ驚きの表情で藤堂とルルーシュを見返す。
電話の意味を正確に理解できた藤堂は、スザクの視線など物ともせずにルルーシュを抱きしめた。
「ルルーシュ君。‥‥このまま浚って良いんだな?」
「構いません。もう箱庭は崩壊したも同じ。おれの生きる場所は藤堂さんの側にしかありません」
二人の言葉が、やっとスザクの脳にも届く、というか直撃した。
「ッな‥‥。ルルーシュッ!箱庭って‥‥。てかナナリーはどうするんだ!?行くなッ!騎士団は悪なんだッ!それに所属する藤堂さんもッ!」
「‥‥スザク君。君は今まで何を見てきた?何をしてきた?もう一度、己の言動を振り返って見直せ」
「藤堂さんッ!貴方を捕まえてルルーシュを取り戻しますッ!」
「ルルーシュ君の意思を無視してか!?」
「無駄です。あいつにおれの言葉は届かない。何を言っても無駄なのだと、諦めました」
藤堂はルルーシュの言葉に諦めと深い悲しみとを察した。
「‥‥そうだな。ではこのまま行くぞ。スザク君。次に会う時は容赦しない。そのつもりでいたまえ」
「なッ‥‥!逃がしませんッ!」
スザクはルルーシュを腕に抱いたまま踵を返そうとする藤堂を制止しようと動く。
「スザクッ!‥‥さよならだ」
「なッ!‥‥るるーしゅ?」
「ルルーシュ君の事はおれが守る。君は君の主の事だけを考えていたらどうだ?スザク君」
そう言って藤堂はルルーシュを連れて立ち去って行く。
スザクはルルーシュの別れの言葉に衝撃を受け、思わず後を見送ってしまい、気付けばどこへ行ったかすらわからなくなっていた。
そして、学園からはナナリーも消えていた。
ランペルージ兄弟が学園から姿を消した事は全校生徒の知るところとなる。
生徒会長のミレイ・アッシュフォードが多くの生徒がいる前で、「貴方のせいでッ!」とスザクを詰問した事でスザクは全校生徒を敵に回した。
居づらくなったスザクは、潮時と思い退学届を提出し、それはすんなり受理される。
「あら、やめちゃったんですか?貴方には学生をやっていて欲しかったのですが‥‥」
とユーフェミアに残念がられるのは、スザクが政庁に戻ってからの事になる。
了
作成 2008.06.29
アップ 2008.07.02
★本樹様へのリクエスト作品★
(独占欲藤堂x周り牽制ルル/甘々)
「最近の藤堂さん、なんだか少しおかしくないですか?」
朝比奈はこのところ抱いていた疑問を、同じ四聖剣の三人にぶつけた。
「まぁ、‥‥そうだな」
仙波はまるで「何を今更」と言いたげな視線を朝比奈に向けてそう応じた。
「で?朝比奈は中佐のどこがどうおかしいって思うんだ?」
卜部もまた、どこか笑いを堪えているような表情で、朝比奈に尋ねる。
「え‥‥っと、ですね。ゼロに頼りすぎてません?」
問い返された朝比奈は、考えながらそう答えた。
「‥‥‥。そうか、朝比奈。お前には中佐のあれがそう見えるか」
千葉は呆れた様子で朝比奈に視線を向けた。
「え?え?え?あの、ちょっと千葉さん?だって藤堂さん。最近特に『ゼロ、少し良いか?』とか『ゼロ、作戦についてなんだが』とかって多いですよ?」
三人の、特に千葉の反応に、朝比奈は慌てながらも「前はそうでもなかったじゃないですかッ!」と言う。
「朝比奈。中佐がそうゼロに言う時の様子、思い返してみたらどうだ?」
卜部がそう言ってからやれやれと溜息を吐いた。
「えっと、さっきは、ゼロは扇さんと話をしてて‥‥。その前はディートハルトからの報告を聞いてました。でも、作戦の件だって急を要したりしますし‥‥」
「問題はそこじゃない、朝比奈。‥‥だが、判らなければそれでも良いとわたしは思う」
千葉が言うと、仙波と卜部も「そうだな」とか「それもそうか」とか言って同意し、一人混乱する朝比奈は答えを聞く事が出来なかった。
「なぁ、ゼロ」
「なんだ、扇」
「思ったんだけど、藤堂さんとの話ってここで出来ないのか?別にわざわざ移動しなくても良いと思うんだけど‥‥」
「あぁ、その事か。‥‥作戦は決まるまでの二転三転している途中経過は知らない方が混乱が減るだろう?」
扇の疑問に、ゼロはさも当然とばかりに答え、それがまた「なるほど」と納得出来てしまう内容なので扇も頷いた。
「うっかりボツにした作戦が耳に残っていて、それで動かれては堪らない」
それをソファに座って雑誌を読みながら聞くとはなしに聞いていたC.C.は危うく噎せるところだった。
もっともらしい事を言っているゼロが、自室で藤堂とかなり和やかな時間を過ごしていると知れば、「驚くだろうな、こいつ等‥‥」とC.C.は思う。
しかもこんな風に言っていれば、今後藤堂を自室に招いている時に邪魔に入ろうとする者は格段に減るだろう。
「ダメだ、笑いたい‥‥」と思ったC.C.は雑誌を放り出して立ち上がると、周囲の目などお構いなしに部屋を出て行った。
きっと暫く後にゲットーの何処かで少女の笑い声が響く事だろう。
藤堂を部屋に招き入れたゼロは、鍵を掛けると即座に仮面を取る。
藤堂を先に座らせて、緑茶と和菓子を出すのは既に恒例の事。
二人だけの時間が嬉しくて、ただ静かに同じ空間を共有する、穏やかな瞬間。
ノックが聞こえて来た時、ゼロと藤堂は同時に顔を顰めて扉を振り返った。
『話中すまない。ゼロ、少し見てもらいたいものがあるんだけど‥‥』
扇の声に、しかし応じたのは藤堂だった。
「ゼロは今奥の部屋に資料を取りに行っていて手が離せない。後に出来ないか?」
『‥‥‥そ、そうか、わかった。ゼロに伝えておいてくれ』
「そうしよう」
即答する藤堂はちらとルルーシュを見るだけで終わらせてしまう。
結局、この時の扇の「見てもらいたいもの」をゼロが見るのは日が沈んでからだった。
「朝比奈」
呼び止められた朝比奈が振り返るとゼロがいて少し驚く。
「なんですかー?」
「これを。提出された書類に不備がある。直しておけ」
渡された書類を受け取って示された場所を見てから「ぅわ、なんて間違いを‥‥」と朝比奈は青褪める。
「‥‥間違いは誰にでもあるから、そう気にする事はない。だが、明日の朝には出来ているか?」
「あ、はいッ。明日の朝には再提出しますッ!」
答えると朝比奈は一度藤堂のところへと戻り、事情を話して許可を貰ってから自室へと引き上げて行った。
残る四聖剣は、その光景を少し離れたところで見ていた。
「‥‥‥‥そろそろあるとは思ったけど、見事な追い払いっぷりだなぁー」
乾いた笑いを浮かべながら卜部が評した。
「まったくです。ある意味あからさまなのに、そう見る者が少ないせいか、気付いている者は少ないですね」
千葉も感心したように言って頷く。
「しかし‥‥朝比奈がミスをしていなければ、どうなっていたかと思うと、そちらの方が恐ろしいと思うのは気のせいか?」
「いえ、気のせいじゃないと思います、仙波大尉。わたしもそれは見たいとは思いません」
「当面、朝比奈を忙しくさせとくか?‥‥おれ達の精神衛生上の為に」
「ふむ。それが良かろう」
「賛成です、卜部さん」
三人が頷きあった時、ゼロの仮面が三人を見たので、慌てて首を振った。
すると満足げに頷いた仮面は別の方向、藤堂へと向かい遠ざかっていった。
「‥‥やっぱり朝比奈を忙しくさせとこう」
卜部が言うと、仙波と千葉は声もなく頷いた。
朝比奈に入れ替わるように近付いてきたゼロに、藤堂が先に声を掛ける。
「ゼロ、朝比奈が迷惑を掛けた」
するとゼロはゆるりと仮面を振って側に他に誰かいるでもないのに声を低めた。
「いや、渡りに船と言う奴だ。実はそれ程急ぎではなかったんだが‥‥」
その内容に、上司としては苦情を言うべきなのだろうが、藤堂は笑みを見せて尋ねる。
「そうか。なら今夜は時間があるのか?」
「あぁ。藤堂さえ良ければ‥‥」
「伺おう」
「わかった」
ゼロにみなまで言わせず藤堂が答えると、ゼロは苦笑してから短く答えた。
「‥‥ところで月下について少し尋ねたい事があるのだが‥‥」
「ラクシャータはどうした?」
「先程医務室の方へ行った。暫く戻らん」
真面目に言う藤堂に、一瞬言葉を詰まらせたゼロはくすりと笑って頷いた。
「‥‥そうか。コックピットだろう?」
そう言うと藤堂とゼロは並んで月下隊長機のコックピットへと消えていった。
「あ、千葉さん。ゼロ知らないか?」
「‥‥‥先程までは居ましたが‥‥忙しい人ですから既に移動したのかも知れません、扇さん」
千葉は二人が月下隊長機のコックピットへと消えるのを目撃していたが、しれっと答える。
「そうか。ありがとう」
そんな事は知らない扇は礼を述べてからゼロの姿を求めて格納庫を後にしたのだった。
了
作成 2008.06.29
アップ 2008.06.30
「‥‥何故、あんな話を作った?何故そこまでして、別人である事を強調しようとするんだ?‥‥ゼロ、いや、ルルーシュ君」
ゼロの私室で向かい合って座った藤堂は、仮面を外したゼロに対して、そう尋ねていた。
「作ったつもりはないぞ、藤堂。出会った云々以外はほぼ真実だろう?」
ゼロに言われて、藤堂は当時を思い返した。
確かに、ゼロが話した皇子との会話の内容を藤堂が聞いたのは二度目だった。
『ぼくには力がない‥‥今は。一人では何も出来ないのも知っている。子供のぼくが足掻いても世界はきっと変わらない、何一つ。‥‥だから待つんだ』
『十年だろうと、十五年、いや二十年だって。その間にぼくは大人になる。力をつける。世界を変える為に必要な力を、きっと手に入れてみせる』
それはかつて、かの皇子が藤堂に言った言葉だった。
しかし、その後、開戦のドサクサで亡くなったと聞かされ、守り切れなかった事を、藤堂は悔やんだ。
そうなる前に、妹共々浚ってでも連れ出していれば、と何度思った事か。
己の葛藤まで思い出した藤堂は動揺を押し隠すように、応じる。
「‥‥確かに、同じだが。‥‥それではラクシャータの言葉まで事実になるのではないか?」
「結託はしてないだろう?‥‥単に本人なだけで」
懸念する藤堂に、しかしゼロは悪びれない。
確かに自分と結託、とは言わないだろうが、と藤堂は複雑である。
軽い溜息を吐いた藤堂は話題を変えた。
「‥‥ゼロ。ロイド・アスプルンドのあれは‥‥」
「あれ?‥‥具合が悪くなった事か?それともナイトメアの話か?」
首を傾げてから、ゼロは藤堂にどの話かを問う。
「‥‥両方だ。彼程の男が、ちょっとした事で体調を崩すとは思えない。‥‥とすればニュースの内容、だな?」
「そうだ。未明に起きた交通事故。それに乗っていたの者の一人が『ルルーシュ・ランペルージ』だと気づいたんだろう」
平然と己の死を口にするゼロに、藤堂は顔を顰めた。
「‥‥‥‥今からでも、止める事は出来ないのか?」
「無理だな。既に動き出している。軍のスザクとその周辺に対する調査も、な。‥‥それに、例えおれが本気で止めようとしても、‥‥もはや止まらない」
軍が動き出している以上、徹底的にやっておかなければ意味すらなくなる。
それは藤堂にも理解できるのだが、それでも良い気がしないのも確かなのだ。
「妹君の見舞いには‥‥。アスプルンドが、己を責めていたぞ。『妹君が体調を崩したのは自分のせいだ』と言って」
「‥‥テロと殺人、‥‥か。‥‥おれのミスだな。同じニュースでやる他の事件にまでは手が回らなかったからな‥‥」
表情を曇らせたゼロは、妹の身を案じて溜息を吐いた。
「‥‥‥‥藤堂」
「なんだ?」
表情を曇らせたままのゼロに、藤堂は訝しげに応じる。
「‥‥ロイドの言ったナイトメアを奪取するのに、同行して欲しい。‥‥彼等をキョウトに送り出した後すぐに出るつもりだ」
藤堂は即座に頷いた。
「おれで良ければ付いて行こう。‥‥てっきり紅月君と紅蓮弐式を連れて行くのだと思っていた」
「カレンには学園に通っていて貰わなければならないからな。‥‥スザクが気づいた時期と反応が知りたい。あいつも行動が読めないからな」
スザクの名前に藤堂は顔を曇らせる。
どこまで行っても、ゼロの、ルルーシュの邪魔をする藤堂のかつての弟子。
決別を済ませた以上、最早師でも弟子でもないのだが、それでもその行動を耳にする度に、藤堂は怒りを募らせるのだ。
「‥‥わかった。‥‥移動は、月下を使うのか?それとも」
「月下は持って行くが、出来れば使いたくないな。‥‥ラクシャータの伝手で良いモノを手に入れた。‥‥先行して使わせて貰おうと思っている」
「では彼女も?」
「あぁ、後は操縦士などだな。扇やディートハルトは今回は留守番だ。ここを留守にするわけにもいかないからな」
ゼロの言葉に藤堂は頷く。
「四聖剣と客人を見送った後、月下を乗せたトレーラーで移動する。‥‥表向きは藤堂とラクシャータのみでの受け取り、だ」
「わかった。‥‥ところでC.C.を見ないのだが、彼女はどうしている?」
「‥‥既に目的地付近にいるだろう。‥‥ロイドの言っていたナイトメアは、二人乗りなんだ。‥‥おれより腕が良い」
最後に憮然と言い添えるゼロに、毎回のように騎乗するナイトメアを壊されている事を余程気にしているのだと気付いた。
「‥‥別に君の腕が悪いというわけではないだろう?唯、君が指揮官だから腕の良い敵が相手に回るだけで‥‥」
藤堂は一面の真実を述べるのだが、つまりは相対的なモノであっても、敵となる相手よりも腕が落ちる、と言っているようなものではあった。
「壊されているのは事実だからな。流石にロイドのナイトメアまで壊したくはない。‥‥というか、壊したら泣くぞ?アイツは」
苦笑しながら言うゼロは、かなり本気で言っている様子だ。
きっと、「ぅう、こんな事ならば、主に逆らってでも渡すんじゃなかったぁ~」とか言いながら、残骸となったナイトメアに縋りついて泣くのだろう。
もっとも、壊されたのがその主だと知れば、「ぅう。主は無事だったし、こんな姿になってまで良くお守りしてくれたな。ご苦労だったね」くらいは言いそうだが。
「‥‥それで、合流はどこで?」
「あ、あぁ。‥‥一度表に戻ると言って、わたしが先に出る。合流は港で良いだろう。場所はラクシャータが知っている」
藤堂が話を戻すと、反射的に頷いたゼロは、少し間を置いてそう応じた。
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作成 2008.03.02
アップ 2008.06.27