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コードギアスの二次創作サイト。 ルルーシュ(ゼロ)至上主義です。 管理人は闇月夜 零です。
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ゼロ(ルル)至上主義です。
騎士団多め。
表現力がなく×ではなく+どまり多数。
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「藤堂!」
ゼロが藤堂の名を呼びながら近づいて来るのを見て、四聖剣は嫌な予感を覚えた。
藤堂とゼロが藤堂の部屋で待ったり過ごしていたのを目撃してからそう日が経っていなかったからだ。
四人が「まさか‥‥またッ!?」と思ってもそれは不思議ではないだろう。
「どうした?ゼロ」
「‥‥今日は時間が取れるか?」
「って待った、ゼロッ!藤堂さんはおれ達とこの後話があるんだから、時間なんてないよッ」
朝比奈があれはもう見たくないと横から慌てて割って入った。
「そうか、わかった。‥‥ラクシャータ」
ゼロはあっさり引き下がり、背中を見せていたラクシャータに話を振った。
藤堂は口を開こうとしたまま固まっており、朝比奈は千葉から殴られた。
「んー?なぁに?事と次第によっちゃ、時間作ってもいーけどぉ?」
振り返ってそう応じたラクシャータは完全にゼロではなく藤堂を見てにやにや笑っている。
「‥‥事と次第?」
ゼロはそう繰り返して首を傾げる。
「わたしは藤堂の代役ぅ?」
「‥‥そうだな。藤堂は断るかも知れないと思ったが、ラクシャータは断らないだろうと判っているからな」
「ふぅん?断るかも知れないと思ってる藤堂に先に聞くくらい藤堂の方が良かったわけねぇ?」
二人は既に隣に藤堂がいる事を忘れ去っているかのように会話を続けている。
「‥‥まぁ、そうだが。時間が取れないと言うのならば、尋ねるまでもないだろう?」
ゼロの言葉を聞きながら、「それを本人のいる横で言うか?普通‥‥」とラクシャータと四聖剣は頭痛を覚える。
というか、邪魔をした朝比奈さえもが頭に手を置いているのは何も千葉に殴られたせいばかりではないのだ。
ラクシャータもまた、「話を振ったのは確かにわたしだけどぉ~」と少し気の毒そうに藤堂を見た。
「ゼロ。ちなみに藤堂中佐に何と言われるつもりだったのですか?」
仙波が気になってゼロに声をかけた。
「‥‥『この間の件、今日も頼めないか?』‥‥だったが、時間がないようだから、それはラクシャータに頼もうかと思っている」
「てかなんでラクシャータ!?てかあれを断らないってゼロとラクシャータってどんな関係?」
「朝比奈‥‥。わたしはその『この間の件』とやらも、『あれ』とやらも知らないんだからねぇ」
ラクシャータが知らないものは答えられる訳ないと朝比奈に抗議する。
「ゼロ‥‥‥‥。今日、それを言って来ているという事は‥‥まさか」
藤堂がかなりの渋面を作りながら、恐る恐ると言った様子で口を挟んだ。
四聖剣は成り行きを見守る為に、藤堂とゼロとを大人しく見比べる。
「そのまさかだ、藤堂。ダメか?‥‥というか時間が取れないんだったな」
「‥‥。‥‥‥‥。いない、のか?」
「あぁ、いない」
「そうか、わかった。引き受けよう。‥‥但し、おれの部屋ではこいつらに苦情を言われるので、出来ればゼロの部屋の方が良いのだが」
「良いぞ。今日はC.C.も来ていないからな。邪魔は入らん。‥‥だが、良かったのか?」
「話は今日でなくても出来る。まさかゼロを一年も待たせるわけにはいかないだろう?」
「‥‥助かる。では待っている。作業が終わったら来てくれ。ラクシャータ。すまなかったな」
「良いわよぉ」
ラクシャータは笑ってゼロを見送った。

「あの、藤堂さん?一年も待たせるとかって何?」
ゼロの姿が見えなくなってから、朝比奈がポツリと尋ねた。
「今日は母の日でしょぉ。夢見でも悪かったんでしょうねぇ」
「ラクシャータ。君は‥‥」
しんみりと言うラクシャータに、藤堂が声をかける。
「知ってるわよぉ。ゼロのお母様がお亡くなりになっているのはねぇ。藤堂こそどうして?」
「以前、『たった一人の家族は』と言ったのを聞いた事がある。それが親とは思えなくてな」
「へぇ。藤堂そんな話、いつしたのぉ?」
「‥‥‥‥子供の日だ」
「良く分かったわねぇ。確かにゼロは成人してないから、子供って言っても間違っちゃいないけどぉ?」
「‥‥ラクシャータって、ゼロの事知ってるみたいに断言するんだなー」
「知ってるわよ、卜部。ゼロのお母様の事、とぉっても尊敬してたものぉ。ゼロも言ってたでしょぉ。わたしなら断らないって」
「言っていたが‥‥それは一体何の話なのだ?」
仙波が嫌な予感を感じつつも、そろっと尋ねる。
「藤堂、あんた、もうここは良いからゼロのとこ行ってきなぁ?‥‥頑張ってねぇ、母親役ぅ」

ラクシャータの爆弾発言に、渋面を作りつつも去って行った藤堂を四聖剣は絶句しながら見送った。

四人揃って奇声を上げ、周囲から注目を集めるまでラクシャータもその場にいる気はなく、キセルを揺らしながら去って行った。

一方、ゼロの部屋では、「母親らしい事なぞ出来んぞ」と言いつつ膝を貸す藤堂の姿が有った。



───────────
作成 2008.05.11 
アップ 2008.05.11 

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★咲様へのリクエスト作品★
(藤堂ルル←メカオレンジ君)

結局、ブリタニアとの最終決戦と思われていた戦いは、『オレンジの寝返り』によって黒の騎士団側の勝利として幕を閉じた。
まともな戦いにすらならないその戦場では、ギルフォードですらどうする事も出来ずに、敗北を余儀なくされたのだ。

政庁の謁見の間に騎士団の幹部と捕虜待遇の総督コーネリアを筆頭としたブリタニア高官が一同に会する。
軍人はコーネリアとギルフォードがいるだけだった。
他の軍属含む軍人達は、武装解除された上で騎士団の団員達に見張られていた。
ちなみに余談だが、白兜のデヴァイサーだけは、危険だと言う事で雁字搦めに拘束されていた。
更に言えば、両手両足が自由な軍属含む軍人達と同じ場所に放り込まれているにも拘らず、誰も拘束を解こうと動く者はなかった。

「ゼロ。まず一つ答えろ。どうやって『オレンジ卿』を手懐けた?」
「姫様。その単語を口になされるのは‥‥」
「知らんな。オレンジ君が勝手にこちらについただけだろう?」
ゼロはコーネリアの問いを一蹴するが、「嘘だ、それは絶対嘘だ。何かしたんだ絶対!」とブリタニア側どころか騎士団幹部達も思っている。

『ゼロッ!大変だ。囲みを突破して「ジェレミア」がそっちに向かったッ!』
団員からの報告が唐突に謁見の間に響き、次の瞬間には轟音と共に壁が一面なくなっていた。

「ジェレミア・ゴットバルト。攻撃を中止しろ。停戦を命じる。動きを止めろ、ジェレミア卿」
ゼロの命令が飛び、ジェレミアが遅れて動きを止めたが、その時にはナイトメアモドキは謁見の間の中に侵入を果たしていた。
『殲滅が未完!条件が残留!止めるは不幸』
「敗北を認めると言って来ているのだ、殲滅の必要はなくなった。暫く大人しくしていろ。それと、それから降りておけ。わたしまで危険だろう?」
オレンジのわけのわからない言い分に、何故かゼロは平気で応じて指示を出している。
ゼロ以外、その最大の謎に首を傾げる者が続出する中、ハッチが開いてジェレミアが降りて来た。
姿を現したジェレミアの変わり果てたナリに、驚愕が室内に満ちる。
『デシタラ、排除が最大イイデシタ?』
「ダメだ。藤堂も騎士団の団員だという事を忘れるな。排除されてはわたしが困る」
それでも続く何故かエコーが効いたメカオレンジの言葉を、平然としたままのゼロは即座に却下してのける。
「って、また藤堂さんッ!?どうしてそう、藤堂さんが目の敵にされているんですか?」
突然入って来た藤堂の名前に、藤堂と四聖剣は特に驚いて、朝比奈が反射的に訊ねる。
「ゼロ、おれも知りたい」
藤堂も気になっていたのか、戦闘も終わった事だしと、訊ねてみた。
「それは‥‥だな。‥‥、話しても良いが‥‥オレンジ君は強いぞ?藤堂、身を護りきる自信はあるか?」
「「「「は?」」」」
ゼロの躊躇った末の言葉に、四聖剣は思わず揃って聞き返していた。
「つまり、これを言ったらオレンジ君の矛先は藤堂に固定されるだろうと予測できるのだが‥‥それでも聞きたいか?」
『貴方様はゼロ~~!!排除が最大!』
「あ、手遅れだったか。藤堂、全力で逃げろッ!オレンジ君がキレた。四聖剣、死ぬ気で藤堂を護れッ!」
「って止めてくれないんですかッゼロ!」
指示を飛ばすゼロに、仙波、卜部が藤堂の前に立ち塞がり、千葉はその場からジェレミアに向けて銃を構え、朝比奈はゼロに意見した。
「手遅れだと言っただろう。説得には時間がかかる。それまで逃げ切れ、藤堂。‥‥それから、コーネリア殿下」
開始された藤堂+四聖剣v.s.メカオレンジの攻防を他所に、ゼロはコーネリアに話しかける。
「‥‥‥‥なんだ?」
「ここは少々危険なようですから、暫く別室で待機しておいてくれませんか?」
「そうだな。バカげたとばっちりはゴメンだ」
「扇。お前達はブリタニア側の者を別室に。一応軟禁という扱いだ。丁重に扱えよ」
「わ、わかった。‥‥それより、あれ、どうにかしないのか?」
扇は頷いて、藤堂と四聖剣以外の幹部を振り返ってゼロに従うように促すと、チラと藤堂達を見て言う。
「‥‥平気だろう?一応、騎士団の団員には手を出さないようには言ってあるのだから、多少は鈍っているだろうし。行け、扇」
「あ、あぁ、わかった。その、‥‥健闘を祈る、ゼロ」
扇達騎士団の幹部がブリタニア高官を連行して謁見の間を去ると、ゼロは溜息を吐いて騒動を振り返った。
変わり果てたメカオレンジ君の繰り出す攻撃を、藤堂がかわし、四聖剣が受け流し、そらし、何とか防いでいるが、そう持ちそうもない。
ゼロは進み出ると藤堂の前に立った。
「これ以上の攻撃は認めないぞ、ジェレミア卿」
途端にピタリと止まるメカオレンジに、「全然時間かかってないじゃないか!」と朝比奈は疲れを覚える。
『邪魔が最大!排除が必須!』
「ダメだと言っているだろう!?」
『信頼が激怒!嫉妬が最大!排除が必須!』
「お前はッ‥‥。‥‥ではこうしよう、ジェレミア卿。藤堂を排除しないのならば、わたしの傍にいる事を認める。排除する気ならば即刻出て行け」
「って認めるんですかッ!?あんなに藤堂さんを目の敵にしているのにッ!?」
「突発的に中佐を狙わないとも限りません。傍に置くのは危険だ、ゼロッ!」
「‥‥藤堂。お前も反対か?」
朝比奈と千葉の言葉を聞いたゼロは藤堂にも尋ねてみた。
「‥‥‥‥ゼロ。彼は君のなんだ?」
何かを悟っているらしい藤堂は、頭から否定せずにゼロに問い返す。
「オレンジ君か?そうだな、昔の馴染み、だな。恐らく何かの拍子でわたしの素性に気付いたのだろう」
「そうか。‥‥という事はおれを狙っているのもその延長線上か?」
「‥‥そうなる、と思うが。どこでバレたんだ?」
首を傾げるゼロに、メカオレンジが声を上げた。
『信頼が激怒!労いが憤怒!雰囲気が!声音が!』
「そ、‥‥そうか。‥‥それで、オレンジ君。どうするんだ?」
『肯定なのデシタ!?‥‥‥‥居場所が幸せ!我慢が最大!』
「わかった。‥‥藤堂。時々、暴走するらしいが、何とか凌いでくれるか?」
「って、ゼロ!本気で傍に置くんですかッ!?」
「むッ、藤堂中佐に危険が及ぶようならば安全な場所に」
「仙波。おれは離れる気はない。決めるのはゼロだからそれは好きにすれば良いが、降りかかる火の粉は払うぞ?」
「当然だな。やられたりしたら、許さないからそのつもりで頑張れ、藤堂」
「わ、わかった。善処しよう」
ゼロの言葉に頷く藤堂を見ながら、千葉は「まさか中佐はゼロと付き合っているのか?」と思ったが、オレンジを警戒して口には出さなかった。



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作成 2008.05.05 
アップ 2008.05.11 
 

★咲様へのリクエスト作品★
(藤堂ルル←メカオレンジ君)

『おはようございました』
目覚めたジェレミアは、バトレーが率いる研究者や軍人を振り払う。
ナイトメアにすら見えないのに何故か知っているマシンに乗り込みその場を飛び出して行った。

「祖界に攻め込むぞ」とゼロが言った時、誰もが無謀だと声をあげた。
いや、藤堂が黙っていた為、四聖剣も声をあげ損ねたが、内心は他と似たりよったりであった。

祖界の外苑部がそこに展開していたコーネリアの軍を巻き込んで崩壊するさまを、騎士団の団員もまた唖然として見ていた。

「‥‥ではこれより、作戦通り進撃する。右翼は朝比奈、左翼は仙波、中央本陣は藤堂と卜部に千葉。カレンは側面に。指揮は藤堂に任せる」
藤堂は『了解した』、四聖剣は『承知ッ!』、カレンは『任せてください、ゼロ!』とそれぞれ返事をして自分に割り当てられた部隊を率いて突入した。
「わたしはガウェインで先行して、コーネリアを抑える」
『ゼロ、無茶はするなよ?』
「わかっている。藤堂こそ、気をつけろ」
ゼロは藤堂と短い会話を交わした後、ガウェインで戦場の上空を駆ける。
しかし、ガウェインの前に立ちはだかる形で見慣れないマシンが割り込んできてC.C.はガウェインを停止させた。
『貴方様はゼロ~~!』
「その声は‥‥オレンジ君か。どうした?こんなところまでやってきて。それに、そのマシンはなんだ?とてもナイトメアには見えないぞ」
『ゼロッ!相手は未知だ。一旦下がれ』
「そうだな。本陣の手前を突っ切れ」
「無茶を言ってくれる」
割り込んで来た藤堂の言葉に、ゼロはあっさり同意し、見慣れぬオレンジの機体を置いてガウェインを急降下させた。
急に目の前から消え失せたゼロの乗る機体、ガウェインに、ジェレミアは一瞬呆然と何もなくなった空間を見詰めた。
『のおおおおおおおおおお』
オレンジの機体から叫び声が上がったかと思うと、その機体はずんぐりな外見からは想像出来ない程俊敏な動きでもって急降下を始めた。
「ガウェインを追ってる!!」と誰の目にも見えたのだが、実際には違っていた。
急降下の後、地面すれすれの戦場の鼻先を掠めたガウェインが急上昇に入ったのもお構い無しに、急降下しながら前方に向かって攻撃を仕掛けたのだ。
攻撃は唯、月下隊長機だけを狙っているようで、『卜部、千葉。隊を任せるッ』と言い置いた藤堂は月下を突出させた。
当然のように後を追う攻撃に、藤堂は内心で焦る。
『『攻撃相手が違う(だろ)!なんだって中佐が狙われるんだ!?』』
卜部と千葉は隊を任されたために、藤堂を追って突出するわけには行かず、訳がわからないままに叫んだ。
藤堂の月下隊長機は単独でブリタニア陣営を駆け巡り、その攻撃を避けながら、追ってくる攻撃を誤爆させていく。
「おい。何故藤堂が狙われているんだ?『オレンジ』と言ったのはお前だろう?」
「‥‥あー‥‥。考えられる事は、一つ、だけかな。‥‥あれは止めた方が良いと思うか?」
「そうだろう?流石の藤堂でもそういつまでも持たないんじゃないか?」
「だが、ブリタニアのナイトメアが確実に減っていっている。もう少し様子を見るわけには行かないかな?」
『って、ゼロッ!理由判ってて止められるんだったらさっさと止めてくださいッ!』
『その通り。このままでは藤堂中佐の身がッ!』
『『ゼロッ!!』』
四聖剣の抗議に、ゼロは溜息を吐くと、オレンジのマシンに呼びかけた。
「ジェレミア・ゴットバルト。‥‥それ以上、月下への攻撃を続けるようならば、わたしにも考えがある。今すぐ攻撃を中止しろ」
そう、それはただの呼びかけにしか過ぎず、「ゼロに恨みがあるオレンジが言う事聞いて攻撃やめるなんて思えないッ」と敵味方問わず思った。
だが、実際にはオレンジのマシンはピタリと攻撃をやめ、いや、動き自体すら止めたのだ。
藤堂は丁度ブリタニア陣営から離れたところだったので、これ幸いにと本陣の卜部と千葉の元へと戻る。
『何故!確保が絶対、空席が必須、排除がナイデシタ!』
戦場に響くオレンジの言葉、だがその意味は誰もが図りかねて首を傾げる。
「ならば‥‥。攻撃相手が違うだろ!そう思うのならば、まずはブリタニア軍を排除しろ。それ以前に月下に手を出すというのならば、わたしは」
しかしゼロは驚く事に理解したのか、嗾けるようにオレンジに対して一喝して言い募る。
『‥‥‥違いマシタカ!?デスガ、邪魔が最大デシタ。理解は不幸。ワタシガ最大』
「何故そんな無茶苦茶な文法になっているか知らないが、わたしと敵対したいというのならば遠慮はいらんぞ?オレンジ君。相手になってやるから向かって来い」
『ってッ、危険ですゼロッ!今の動き見た限りじゃかなり性能良いですよ!?もしかしたら白兜よりも上かも知れないのにッ』
カレンの声が飛び込んでくる。
それ以前に、「敵対したいも何も敵だろう?」と誰しもが思わないでもない。
「心配ない、カレン。‥‥ジェレミア・ゴットバルト。わたしに従いたいと言うのならばわたしのモノに手を出すな。そうすれば傘下に入る事を認めるぞ?」
『はぁ~あ?何、冗談言ってやがんだッ、ゼロ!オレンジはゼロの事憎んでるんだろッ!何だって傘下がどうとかって話になるんだよ、おい!』
「バカがッ」
ゼロのボソリとした呟きを認識したと同時に、オレンジの叫び声と、攻撃が同時におこなわれる。
『のおおおお。死ンデイタダケマスカ!?』
『どぅおぉおおわッ!!』
攻撃を受けて間一髪で避けた玉城はしかしナイトメアの腕を一本持って行かれる。
「ジェレミア・ゴットバルトを『オレンジ』と呼べばそうなる。今後は気をつける事だな。こればかりはわたしにもとめようがない」
さらっと言い切るゼロに、C.C.は呆れた溜息を吐いた。
「‥‥ゼロ。攻撃相手が違うだろ?こんなときくらい団員の玉城を庇ってやればどうだ?」
「そうか?自業自得の責任まで負えと?‥‥ジェレミア。わたしの気が変わらない内に、態度を決めた方が良いぞ」
ゼロは不思議そうにC.C.に応じておいて、オレンジに呼びかけた。
『ゼロ。まだそいつを味方に引き入れようとするのか?今騎士団を攻撃しただろう?』
「あれは玉城の失言だからな。‥‥ジェレミア。『オレンジ』と言った以外の団員に攻撃を仕掛けたならば、そこまでと思っていろよ」
『ゼロ。何故君はその単語を言っているのに攻撃されないんだ?』
「わたしだからだよ、藤堂。わたし以外が『オレンジ』と言えば、あーなるんだ。藤堂、特にお前は気をつけていろよ」
『へ?どうして藤堂さんが特にって言われないといけないんですか?』
朝比奈が目の前のナイトメアを破壊しながらも驚いた声を上げる。
「‥‥‥‥説明が面倒だ。戦いが終わって落ち着いたらその内話してやる。今はそう言うものだと覚えておけ」
「そうだな。お前達、今が戦闘中であり作戦行動中だという事を忘れていないか?ゼロ、お前もだが」
「そうなんだがな。ジェレミアをこのまま放置しておくわけにもいかないだろう?」
「ならばさっさとどうにかしろ」
「わかった。ジェレミア。即答を命じる。わたしに従い騎士団につくか、わたしと敵対するか。どちらかだ」
『貴方様はゼロ~~~!!認識を確認!対象が把握!標的が殲滅!』
オレンジが本当に即答すると、くるりとそのマシンが反転して即座にブリタニア軍に向かって突進していった。
そして誰もが唖然とする中で、ブリタニア軍に対する攻撃を始めたのだ。
『『『『攻撃相手が違うだろーーーー!!!!』』』』
ブリタニア軍将兵から、一斉に叫び声が上がり、逃げ惑う。
「あー‥‥、藤堂。とりあえず、とばっちりを喰わないように、精鋭以外は下げろ。‥‥意図して騎士団を狙う事はないと思うが‥‥」
『‥‥わかった。紅月は零番隊とゼロの傍に。四聖剣は壱番隊、弐番隊とおれに続け。残りは扇の指示に従って後方へ』
ゼロの要請に従った藤堂の指示に、それぞれが承諾の返事をして行動に移した。

後編に続く。

───────────
作成 2008.04.30 
アップ 2008.05.10 
 

※「難解な君」の続きです。

ミレイはナナリーの無事な姿を見るなり、その膝にすがるように抱きついた。
「良かった、無事で‥‥」
涙混じりの声でそれだけを言うと、ミレイはただただナナリーを抱きしめた。
ナナリーは優しくミレイの頭を撫でる。
「心配を掛けてしまってすみません、ミレイさん。‥‥それに、みなさんも」
「そんなッ、謝るのはこっちの方だよ。ごめんな」
リヴァルが心底申し訳なさそうに謝り倒す。
それを皮切りに、シャーリーが、ニーナが加わった。

「‥‥咲世子君。説明して欲しいのだが?」
暫く外していて戻って来るなり展開されていた、そんな光景を何の感慨もなく見ながら、ディートハルトはこそりと咲世子に尋ねる。
「申し訳ありませんが、わたくしからは何も申し上げる事は出来ません」
咲世子は別段声を低めもせずに、にっこり笑ってディートハルトの問いを突っぱねた。
絶句するディートハルトと、不思議そうに二人を見る生徒会メンバー。
「咲世子さん?」
顔を上げたミレイが、そっと名前を呼ぶ。
「咲世子さん、そちらの方ですか?お手紙をお送りしていると言う方は?」
続いてナナリーがそう尋ねた。
「はい、お嬢様。ディートハルト・リートと申しまして、表ではブリタニアのメディア関係を仕事をしているのですが、黒の騎士団に所属しているのですよ」
「ッな‥‥」
自分の事を開示されたディートハルトは、驚きの声を上げた後、二の句が続かない。
ディートハルトは本来、情報を集める側が普通なのに、自分の事を晒された事がショックだったようである。
「では、咲世子さんのお邪魔をしたと言う?」
「そうです。黒の騎士団に入ろうとしていたのですけど、何故か留め置かれてしまいまして‥‥」
嘆息する咲世子はチロリとわざとらしくディートハルトに鋭い視線を向けた。
「ちょッ‥‥と待って、咲世子さん、ナナちゃんも。‥‥咲世子さんが黒の騎士団に入ろうとしてたってどういうこと?」
慌てたミレイがあたふたと尋ねる。
「ブリタニアに対抗出来得る勢力は、しっかり確認していませんと」
「君はッ‥‥スパイなのか!?」
ディートハルトが驚く。
「あら、違いますわ。咲世子さんは日本人ですもの。ブリタニアにつくはずがありませんわ。ね、咲世子さん」
「勿論ですわ。よそのエリアと比べても反抗が活発とは申しましても、無闇に被害を拡大するだけの組織ではアテになりませんでしょう?」
咲世子は「ならば中に入って確認してみませんと」と艶やかに笑う。
「ちょッ、咲世子さん?一体何を‥‥」
「ミレイお嬢様も承知しておいででしょう?ブリタニアの支配が続く限り、平和は訪れませんわ」
慌てるミレイにも、咲世子は平然としたままである。
ミレイは咲世子の言いたい事を理解して押し黙った。
咲世子の言う「平和」とは、すなわち「ルルーシュとナナリーにとっての平和」である。
「ただ待っているだけでは、何も変わりませんもの。勿論、闇雲に動いても何の足しにもならないでしょうけれど」

混乱する少女が二人いた。
一人はゼロによって敬愛するユーフェミア皇女を殺されたニーナで。
一人はゼロ=ルルーシュだという、書いた覚えのない自筆の手紙を見てしまっていたシャーリーである。
ゼロは憎い敵で、この黒の騎士団はゼロの組織で、日本人だけど優しいと思っていた咲世子はそこに入団しようとしていた?
ゼロはルルーシュで、ルルーシュは良くは知らないけどナナリーちゃんの兄だと言うし、二人の世話をしている咲世子もまた騎士団のメンバー?
ニーナが怖い日本人の多くいるこの場に来たのは、ゼロに会ったら復讐しようと思っていたからで、と制服の上から隠し持った銃を握る。
シャーリーが同行したのは、ナナリーが心配だったと言う事も有るけれど、ゼロにもう一度ちゃんと確認する為だったのだ。

不意に、ナナリーがニーナとシャーリーを見るように顔を向けた。
「ニーナさん、シャーリーさん。ゼロはわたしを助けてくださいました。‥‥勿論、何もなさいませんよね?」
ナナリーの念押しとでも言うべき一言に、ニーナとシャーリーは震えた。
シャーリーは、ナナリーのブラコン振りを知っており、もしも本当にゼロがナナリーの兄なのだとしたら、逆鱗に触れて当然とばかりに慌てて何度も頷いた。
ニーナは、何故、何がナナリーの逆鱗に触れたのか判らず、それでも「命の恩人だから?」と思わないでもないけれど、頷くのにも抵抗があって固まる。
ミレイとリヴァルは、「ぅお。ナナリーがルルーシュ以外の事で怒るなんて‥‥」と純粋に驚いて固まった。
ディートハルトは、「この二人の少女がゼロに何かをするのか?」と言う方が気になったらしい。
咲世子は見慣れすぎているので、一人平然としたものだ。
「ありがとうございます、シャーリーさん。‥‥ニーナさんも宜しいですよね?」
頷いたシャーリーににっこりと微笑んでお礼を言ったナナリーは、そのまま頷かなかったニーナに再度尋ねた。
「‥‥う、うん。わかった。‥‥何も、しないわ」
ニーナの答えに、ナナリーは満足して満面の笑みを浮かべた。

「てか、会長~。ルルの奴、どこでなにしてるんだよ~。こんな大変な時に、大事な妹ほったらかしてぇ」
「‥‥それもあるけど、わたしはルルちゃんの方が心配。‥‥まさか巻き込まれたりとかしてないとは思うけど‥‥」
この場にいない、居所もハッキリしない生徒会メンバーの身を案じるミレイとリヴァル。
だが、ナナリーには明かす気は更々なく、シャーリーは今し方口止めされたばかりなので、沈黙を守っていた。



───────────
作成 2008.03.18 
アップ 2008.05.09 

★武嗣彩人様へのリクエスト作品★
(藤堂とルルが付き合うに至るまで)

【ルルーシュ】
藤堂が、おれを好き?有り得ない。
いや、「ゼロ」をと言ったが、それはゼロがおれだと知らないからだ。
「誰だろうと」と言ったところで、それが「おれ」だと知ればそんな事も言っていられなくなるだろう。
「関係ない」と言っても、おれが何をして来たかを、何をしたかを知れば、離れて行くだろう。
なのに、これ以上、おれを「ゼロを好きだ」なんて言ってくれるな、藤堂。
罪悪感だと思った、だが、シャーリーに対して感じたものとは違う。
日を追うにつれて、藤堂に黙ったままでいる事が辛くなって行く、これはなんだ?
いっそのこと、ゼロがやった事を、洗い浚い言ってしまえば楽になるだろうか?とさえ思う。
藤堂や四聖剣のかつての同志だった、解放戦線に対して、ゼロが、おれがやった事。
河口湖のホテルジャック事件で草壁達を自殺に追いやり、止めもしなかったのだと。
ナリタでは解放戦線のアジトがあると、解放戦線にさえ被害が及ぶ事を知りながら、土砂崩れを起こしたのだと。
逃げる手引きを依頼してきた片瀬達を自爆に見せかけて船ごと爆破させたのだと。
告げるべきではないと理解しているのに、黙っているのが、何故、こんなにも苦しいのだろうか。

**********
立ちあがって背を向けるゼロに、藤堂は今を逃せば機会は最早訪れないのだと直感した。
だから藤堂も後を追うように立ち上がると、背を見せるゼロに近づいて後ろから抱き締めたのだ。
「なッ‥‥。離せッ!」
心底驚いたのか、ゼロは慌てて身を捩る。
「これ以上は何もしない。だが、君が消えてしまいそうに思えたんだ」
そう言う藤堂は、確かにゼロを抱きすくめる以上の事はしないので、ゼロは動きを止めた。
今ならばその手を伸ばして仮面を外す事すら容易だというのに、藤堂はそれをしようとしないのだ。
「‥‥何の真似だ、これは」
「おれは君におれの背負う荷の、その重さを軽くして貰った。今度はおれが君の荷の重さを軽くしてやりたいと思う。‥‥教えてくれないか?」
藤堂の言葉に、ビクンとゼロの身が跳ねる。
藤堂はそれについては何も言わず、唯ゼロが答えるのをじっと待っていた。
「‥‥‥‥騎士団は、確かに『正義の味方』だが、わたしはその手段を選ぶつもりはない、という事だ」
ゼロは、軽く息を吐いた後、そう答えた。
「そうだな。それはある程度正しいと、おれも思う。手段を選んで結果が得られなければ、意味はないだろう」
藤堂はゼロの意見に同意して頷き、「君は被害を最小限にしようと努力している。その上での選んだ手段なのだとしたらそれは正しいと思うぞ」と付け足した。
「‥‥バカなッ!何をしたかも聞かずに、それでは盲信にも程があるッ!」
「盲信ではない、ゼロ。‥‥『奇跡』ではないおれ自身を望んだのは、『奇跡』が起こらないと思っているからだろう?」
「‥‥そうだ。『奇跡』なんてそう簡単に起きてたまるか」
「『奇跡』を期待しない君は、最後まで目標に向かって、己の力の全力を用い、努力する事をやめないだろう。その姿勢も偽りか?」
「偽りであるものか。どんな手を使ってでも、わたしには創りたい世界がある!」
「ならばッ。おれはその結果を受け入れる。受け入れた上で、言うのだ。君が好きだと」
きっぱりと言い切った藤堂は、少しだけゼロを抱きしめる腕に力を込めた。
藤堂の言葉に、ゼロの、ルルーシュの中で何かが切れたと、ルルーシュは感じた。
「‥‥‥‥受け入れる‥‥だと?ナリタでの戦いの時、土砂崩れを起こしたのが、わたしだと言っても?解放戦線も麓の住民も巻き込んでッ」
「だが、その介入が有ったお陰で、あの時解放戦線は壊滅せずに済んだ。おれ達も間に合った」
藤堂は頷いて肯定し、「麓の住民には気の毒だったが、ブリタニア側が戦闘前に避難を徹底していれば回避出来た事だな」と続ける。
「片瀬を殺したのがわたしだと言ってもか?」
ゼロの告白に、藤堂は「泣きそうな声だ‥‥」と思った。
仇と思う前に、こんな声を出させるまで悩ませてしまった事を、藤堂はすまないと思ってしまったのだ。
「‥‥‥‥。そうか、それでおれを避け、怯えていたのか?ゼロ。おれが片瀬少将に殉じようとしていた事を知っていたから、許さないだろうと?」
「‥‥そうだ。わたしはお前が命を掛けていた相手を殺した。いや、何度あの場面を迎えようと、何度でも殺すだろう」
「すまない、ゼロ。あの時のおれには、君に既に見えていた事が見えていなかったのだ。だから君の手を煩わせてしまった‥‥」
藤堂の詫びの言葉とその内容に、ゼロは驚いて仮面の下で目を見開いた。
「どういう意味だそれは。見えていれば藤堂が片瀬を殺めていた、と?」
「違う。見えていれば、勇退を勧める事が出来ただろう。少将が咄嗟の時、最終的な判断が、既に出来なくなっていた事を、認めたくなかったのだ」
というよりは、解放戦線自体が数だけを頼みとして実際には弱体化していて、片瀬少将が問題視される事がなかったから気付かなかったと言うべきか。
黒の騎士団が現れて、初めて顕在化し、浮き彫りにされてきた問題だ。
初めに草壁の一派が暴走し、ナリタの件で一気に瓦解し、敗走する段階では既に解放戦線としての体裁も保ててはいなかったのだ。
その結果をゼロ一人の肩に背負わせてしまった事を、藤堂はすまなく思った。
「‥‥そう、か。‥‥だが、わたしに仮面を取る意思はないぞ?」
「構わない。おれは君が好きだ。‥‥愛しく思う、ゼロ」
「‥‥ぃ、言っておくが、わたしは愛してなどいないぞ、藤堂。‥‥真実を知ったお前が、わたしを憎む事になると怯えていたのは確かだが‥‥」
ゼロの言葉に、「憎まれたくないと思う相手」である事に気づいた藤堂は嬉しく思った。
「おれは君が好きで、嫌いになったりはしない。‥‥時々、こうして抱きしめても良いだろうか?ゼロ」
「‥‥藤堂、お前。本気でわたしが良いと言っているのか?仇なのだろう?得体まで知れないのだぞ?」
呆れ混じりのゼロの声に、藤堂は苦笑した。
「勿論だ。片瀬少将の事はもう気にするな。ゼロの目標の手前に、彼の目指すものも有った。だからもう良い」
ゼロは、ルルーシュは藤堂の言葉に、心の中に淀んでいた何かが拭われるのを感じた。
「‥‥良いだろう。時々だな?‥‥但し、座らないか?立ったままのこの姿勢は疲れるのだが。それとわたしは作業をしているからな」
「あぁ、ありがとう。ゼロ」
ゼロの了承に、藤堂は笑みを浮かべ、やっとゼロを離す。
「‥‥ところで、託けた書類は読んだのだろうな?藤堂」
「あ‥‥。すまない、忘れていた」
振り返ったゼロはテーブルに投げ出されたままの書類を見つけ、藤堂に確認すると、バツの悪そうな声音と表情で藤堂は詫びた。
「仕方がないな。ここで読んで行け、藤堂。質問が有るならば受ける。わたしもまだする事が残っているしな」
そう言ったゼロは、藤堂の横をすり抜けてソファに座り、少ししてからぽんぽんと隣を叩いて藤堂を招いた。
藤堂は「これからこんな穏やかな時間をたくさん作って行こう」と決めながら、ゼロに近づいて行った。

二人が正式なお付き合いを始めたのは、それから暫く後の事であった。



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作成 2008.05.05 
アップ 2008.05.08 
 

★武嗣彩人様へのリクエスト作品★
(藤堂とルルが付き合うに至るまで)

「中佐。少しお話があるのですが‥‥」
千葉が藤堂に声を掛けたのは、藤堂が一人になった時だった。
「なんだ?」
腕を組んでずっと考え事をしていた藤堂は顔を上げて部下を見ると、そう短く先を促した。
「ゼロの事で」
千葉が切り出すと藤堂は眉間の皺を深くする。
そう、最近のゼロの態度、それもまた藤堂の悩みの種だったからだ。
初めは気付かなかったが、段々と顕著になっていくようで、このままではいずれ他の者も気付くだろうと言う程度になってきている。
「‥‥ゼロがどうした?」
とりあえず、話を聞こうと、そう尋ねる。
「‥‥中佐は、騎士団に合流してから、‥‥その、ゼロに何かしましたか?」
千葉が珍しく躊躇いがちに尋ねる言葉の意味を計り兼ねた藤堂は、「なにかとはなんだ?」と聞き返した。
「‥‥。『計り兼ねている』‥‥そのような感じだったゼロの視線に、『怯え』を感じるようになったものですから」
千葉の言葉に、藤堂は目を丸くして驚いた。
避けられている、とは思っていたが、まさか怯えられているとは思っていなかったからだ。
「避けられているのは気付いていたんだがな‥‥」
藤堂は自嘲気味な笑みを浮かべる。
初めは他の幹部と同じ接し方をしていたはずのゼロは、藤堂に対してだけ距離を置くようになった。
距離を置かれた当人だけしか気付かないくらい開いた空間に、藤堂は寂しいと感じていた。
だがまさか、怯えられていたとは思っていなかった藤堂は少し、いやかなりショックを受けた。
「中佐?」
千葉とて藤堂がゼロを怯えさせるような何かをしたとは思っていない。
だが、実際に怯えているとしか思えない視線を感じてしまっては、千葉も念の為に尋ねずにはいられなかったのだ。
「‥‥おれは何もしていない」
憮然とした表情で、藤堂は千葉に答えた。
大体、「自分を誘って引き入れた相手が自分を怯えているなんて思うはずがない」と藤堂は理不尽に思う。
沈んだ部屋に、ノックと同時に開いた扉から賑やかに顔を見せ、部屋の空気を入れ換えた朝比奈にタイミングが良いと言うべきか、千葉は迷った。
「返事を待ってから開けろといつも言っているだろうが、朝比奈。ノックの意味がないぞ、それだと」
しかし、だからと言って言うべき事を控えるつもりは千葉にはない。
「はーい。でですね、藤堂さん。これ、藤堂さんに渡してくれって預かりました。ゼロから」
千葉に対しては一言返事をするだけで、後は藤堂に向かって言いながら近付いた朝比奈は、持っていた書類を藤堂に差し出した。
藤堂は書類に視線を向けるも手を伸ばそうとはしない。
「朝比奈、どこでそれを?」
「え?‥‥っと、ゼロが月下のところに来たんですよ、藤堂さんはいるかーって。部屋だと答えたら渡しておいてくれと」
千葉が横から口を挟むのに、朝比奈は一瞬驚いてから千葉を見て、答える。
「それで、今ゼロは?」
「えぇ?えーと‥‥ラクシャータと話をしてて、扇さんとディートハルトが来たから、どちらかと話をしてるか、自室かな?」
朝比奈はそう答えてから、「あ、そう言えば、扇さんに次来る時の話をしてた気がするからもしかしたら表に出たかなぁ?」と付け足した。
藤堂は立ち上がると、千葉の方を向きながらも差し出しっ放しだった書類を朝比奈の手から取り上げ歩きだす。
「藤堂さん?」
「健闘は祈りますが、穏便に願います、中佐」
首を傾げる朝比奈の横で、千葉はそう言って藤堂を送り出した。

**********
ゼロの部屋にやって来た藤堂は暫く扉を見つめてからノックした。
『‥‥‥‥誰だ?』
部屋に戻ってきていたようで、中からゼロの誰何の声が聞こえて来た。
「おれだ、藤堂だ」
名前を言えば開けてくれないかも知れないと思いながらも、藤堂は応じて反応を待つ。
少ししてから、扉は開き、ゼロが姿を見せた。
「どうした、藤堂?珍しいな、お前がここに来るのは」
藤堂にはゼロが怯えているようには見えず、「千葉の気のせいか?」と思いながらもここまで来たのだしと問いに答える。
「少し、伝えたい事と聞きたい事が有ってやってきた。今、良いか?」
「‥‥あぁ。入れ」
ゼロは入口から下がって藤堂に入るように言い、藤堂はそれに従った。

ソファに向かい合って座った後、ゼロは「それで?」と藤堂に話を促した。
藤堂はじーっとゼロの仮面を正面から見つめている。
なかなか話そうとしない藤堂にゼロが再び促そうとした時、ようやっと藤堂は口を開いた。
「‥‥ゼロ。おれは君の事が好きらしい」
藤堂の言葉はそれはもう唐突だった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥な、に?」
仮面の下で驚きに目を見開き、固まったゼロはなんとか聞き直す。
「‥‥おれはゼロが好きだ、と言ったのだ」
今度はキッパリと藤堂は断言した。
「‥‥本気か?いや、正気か?藤堂。素性の知れない仮面の男を相手に、何を言っているのか、わかっているか?」
ゼロは驚きかつ呆れた声音で更に聞く。
「おれは正気だし、本気だ。君がおれを避けていると感じた時、寂しいと、悲しいと思った。今、千葉に怯えられていると言われて辛いと思った」
「‥‥‥‥なッ」
「君を目の前にして、嬉しいと感じた。‥‥だが、確かに怯えているのだと知って‥‥今は辛い。おれの何が君を怯えさせている?」
切々と言って藤堂は「直せるのならば直す。だから教えてくれ、ゼロ‥‥」と願う。
「‥‥素性どころか、素顔さえ知らないというのに?これまで何をして、どう生きて来たのかも知らずに?」
ゼロはいつもの自信に満ちた声ではない、どこか揺らいだ声音で藤堂に尋ねたが、藤堂はそれを表現する言葉を持っていなかった。
「世の中には『一目惚れ』という言葉もある。それよりはマシだろう?君が好きだ、ゼロ」
苦笑して例を挙げた藤堂は、再び真面目な口調に戻って告白する。
「‥‥わたしの素性を知れば、そんな事を言っていられなくなるぞ。わたしが成した事を知れば、憎みすらするだろう」
ゼロは首を振って拒絶し、理由を告げた。
「関係ない。おれに、『奇跡』ではなく『おれ』を求めたのは君だった。そう、あの時から、君がおれの一番になっていたのだと思う」
諦めない藤堂のまっすぐな言葉にゼロは驚いた。
「助けに行った時、から‥‥だと?」
「そうだ。誰もが『奇跡の藤堂』としてしか、おれを見ようとしなかった中、君は『藤堂鏡志朗』を望んだ」
「‥‥‥‥それならば、四聖剣もそうなのではないのか?別に藤堂が『厳島の軌跡』を起こしたからではなく、それ以前から付き従っていたのだろう?」
「そうだな。だが、奴等は共に戦ったからな、『厳島』でも。それがどんなものだったのか、知っている」
「‥‥‥‥藤堂。話がそれだけならば、出て行って貰おう。これ以上言葉を重ねようがわたしの答えは変わらない」
ゼロはそう言い捨てるとソファから立ち上がった。

後編に続く。

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作成 2008.04.30 
アップ 2008.05.07 
 

★武嗣彩人様へのリクエスト作品★
(藤堂とルルが付き合うに至るまで)

【仙波】
藤堂中佐をお救いし、黒の騎士団に正式に加入してから、幾つか気になる事が出来た。
ふとした拍子、ちょっとした瞬間に、藤堂中佐の意識が他所へ向けられる事がある。
お尋ねしても、「いや‥‥」とか「なんでもない」と言われるだけで、或いは中佐ご本人にも良くわかっていないのかもしれなかったが。
それとは別に時折感じる視線。
新参者を快く思うておらぬとか、そういった負の視線ではない。
視線の主を捜しても、わしには見つける事が出来なかったが。

【朝比奈】
藤堂さんの様子がおかしい。
表面上はいつも通りに見えたって、おれ達四聖剣の目はごまかせない。
視線?関係ないね、そんなもの。
藤堂さんに害意や敵意がないなら、おれは気にしないから。
それよりも今の問題は藤堂さんの事じゃないか。

【卜部】
中佐にだって、考える事の一つや二つ有るって事は、おれにだってわかるけどさ。
煮詰まった時くらいはおれ達四聖剣に相談してくれたって良いとおれは思うわけで。
視線ねぇ?
おれは気づかなかったな。
そんなに露骨だっていうなら、これからは少し気を配るか‥‥。

【千葉】
中佐の様子がおかしい事はわたしも気付いている。
そうだな、「心ここに在らず」と言うか、「物思いに耽る」と言うか、そのように見えたな。
今暫くは、黙って様子を見た方が良いと思うぞ、わたしは。
視線?あぁそれならば、ゼロだ。
中佐と我ら四聖剣とを計り兼ねているような、そんなふうに取れたので、放っているが。
仮面をしているのに何故わかるかだと?
‥‥視線には敏感なんだ、それを辿ったらゼロに行きついただけだ。

【藤堂】
黒の騎士団のリーダー、ゼロ。
桐原公により、身元を保証され、素顔を晒さぬ事を認められた者。
おれを救い出し、死を覚悟していたおれに「奇跡の責任を取れ!」と言い切った男。
「正夢にしてみせるがな」と笑う男に、かつては「奇跡」と言う名の夢を他人に見せたおれが夢を見た。
「この男の下でならば‥‥」そう思った時には、口元に笑みを浮かべて頷いていた。
実際、以前から凄い男だとは思っていたが、目の当たりにして更に感心した。
観察力と分析力に優れ、戦略にも長けている。
引き際も弁えていて指揮官としても申し分はない。
統率力も有り、一部反抗している者がいるが、団員が増えているだろうに、全体に混乱があるようには見えない。
反抗といっても、それも問題になるようなレベルではない事は見て取れた。
それなのに何故か気にかかった。
これほどの男が今まで表(?裏と言うべきか?この場合)舞台に出て来ず、身を隠していた訳が気になるのかも知れない。
これだけ多才ならばいずれかの分野で注目を集めていても不思議ではない。
なのに、それがないのだからゼロとなる前から目立たないように日々を送っていたと言う事だろう。
それはいずれ立つ気が有ったからなのか、それともずっと隠れているつもりだったのか。
「その辺りが気になるのかも知れないな」と、ふと思った。

【ゼロ】
「厳島の奇跡」、「奇跡の藤堂」藤堂鏡志朗。
絶対の忠誠を誓う四聖剣を従える男。
経験に裏打ちされた知略と戦略、戦術を有し、戦闘指揮官としても、一個の武人としても優れている。
追記としては、枢木スザクの師匠。
昔と全然変わっておらず、真面目で実直で義理堅く、主と定めていたという日本解放戦線の片瀬に殉じようとしていた男。
片瀬の死がわたしの手に因るものと知れば、黙ってはいないだろう。
扇が四聖剣の到着と藤堂の救出依頼を伝えて来た時、わたしは安堵すると同時に恐怖を覚えていた。
間に合った事に対する安堵と、直接対面する事への恐怖だ。
藤堂が片瀬の死の真相を知れば‥‥、そう思うと何故かすくんでしまう。
後悔はしていない。
あれは必要だったのだと理解しているし、真相など自分以外知る者がいないのだから、不審に思ったところで疑惑どまりなのだ。
それでも、死を選ぼうとした藤堂には、申し訳ないと思ってしまう。
「きれいごとでは世界は変わらない」と、捨てたはずの罪悪感からなのかもしれない。
ゼロを、「わたし」を「おれ」と結び付けられる数少ない人物でもある。
やはり、必要最小限の接触に留めた方が良いのだろうな。
そう結論付けたのは、それでも藤堂の力を認めているからで有り、抜けられると困ると思ったからだ。

【C.C.】
やれやれ、また何か考え込んでいるらしいな、あいつは。
ま、自分の事と恋愛事になると途端に鈍感になるあいつらしいと言えばそうなんだがな。
‥‥良いか、面白いから放っておこう。


**********
不意に翳ったかと思うと、頭を軽くぽんぽんと叩かれた。
「こぉら、ルルーシュ~?今寝てたでしょ~」
顔を上げると丸めた書類を片手に掲げて身を乗り出したミレイの姿。
「‥‥寝てませんよ、会長」
実際、ルルーシュは寝ていたわけではないので、無駄とは思いつつ反論を試みる。
「手が止まってた」
「だからっていつもいつもそうぽんぽんと叩かないでくださいよ」
「んー、それよりルルーシュ。ちょっと疲れてる?顔色悪いんじゃない?」
苦情を申し立てるも、ミレイはあっさりと話題を変え、どこか真剣な表情で尋ねてくる。
「そんな事ないですよ。ちょっと気になっている事はありますが、それだけですし、疲れてもいません」
なんて言ってみてから、ルルーシュは失敗を悟ったが、既に遅い。
「お?ルルちゃんのお悩み相談、この生徒会長直々に、応じてあげようではないか。さぁ言ってみなさい」
ミレイに勢い良く喰いつかれてしまって、ルルーシュは諦めの溜息を吐いた。
こうなると、納期の迫っている書類仕事もそっちのけで、面白い事や目新しい事に突進していくミレイを何とか宥める。
しかし、宥めきれるものではなく、「書類仕事を終わらせてから相談しますから」と言わされてしまったのだ。

そして、そんなイベントを黙って見過ごして帰るような殊勝なメンバーはこの生徒会にいるはずもなく。
軍の用事で泣く泣く後ろ髪引かれる感じ182%のスザクを見送った残る生徒会メンバーの視線がルルーシュに突き刺さったのだ。
「‥‥で?」
と尋ねたのはルルーシュだった。
「で?じゃないでしょ~?相談するのはルルちゃんなんだから」
ミレイが呆れた口調で返す。
ミレイのほかにはリヴァルとシャーリーとニーナ‥‥と、そこまでは判るのだが、カレンまでいるのは何故だろう。
まぁ、つまりスザク以外の全員がここに集まっている事になるのだが。
「と言われましても、会長。おれにだって良くわかっていないんですから」
ルルーシュはそう言って肩を竦めてみせた。
「珍しいな。ルルーシュが自分の事わからないなんて言うの(とある方面にとてつもなく鈍いけど、それは本人気付いてないしなぁ)」
「ねぇ。とりあえず『気になってる事』って言うの教えてくれる?わたし達になら判るかも知れないんだし」
リヴァルが心底珍しそうにルルーシュを見ると、シャーリーがそう言い、ニーナが同意するように頷いた。
「‥‥‥気に掛かる奴が、いるんだが」
「恋ッ!?‥‥そっか、ルルちゃんもお年頃だもんね~。それって誰?どんな人?」
ミレイが一人喰いついて、勝手に話を進めだし、興味津々な表情で「続き続き」とルルーシュに催促を始める。
ミレイの予測に、「まさかルルーシュが恋愛相談!?」と固まる他のメンバー。
「会長。どうしてそんな話になるんですか?」
ルルーシュは呆れつつも、額に手をやってあるはずのない頭痛をやり過ごした。
「違うの?じゃあどうして気になるのかなぁ?」
ミレイがまるで「あら残念」とでも言いたげな口調で、続きを促す。
「‥‥どちらかといえば、怖いもの見たさ?ですね、多分。恐れているのに、いえ、恐れているから情報を集めようとしている‥‥?」
ルルーシュは考えながらも曖昧に答える。
「あぁ、まぁルルーシュは、不安要素は徹底的に調べないと気がすまないからなぁ」
リヴァルがホッとした様子でうんうんと納得して頷く横で、ミレイはさっと顔色を変えて、ルルーシュに尋ねる。
「ルルーシュ。まさか、‥‥」
「違いますよ、会長。それに、実際にはそう怖い人でもないですし」
「おいおいルルーシュ~。なぁに会長と二人だけで話終わらせてるかなぁ?」
リヴァルが抗議し、シャーリーとニーナがうんうんと頷く。
「いや、まぁ、それはわたしの勘違いだったみたいだしぃ。‥‥で、どこの人?学内?」
「学外、ですよ。多分、‥‥誰も知らないと思いますよ」
ミレイの言葉を否定するルルーシュを見て、ミレイは視線をリヴァルに移す。
「リヴァル~?まぁた、ルルちゃんを外に連れ出してるのぉ?」
「無実!会長、おれ無実ですって。ルルーシュ、何とかしろよ~」
気の有る相手に非難の眼差しを向けられたリヴァルは元凶となった相手に助けを求めた。
「会長。誰も知らないと思いますと言ったばかりでしょう?リヴァルは関係ないですよ」
ルルーシュは「確かおれの相談だったはずじゃなかったか?」と思いながらも、取りなしを始めた。
カレンは「気に喰わないルルーシュの弱みでも握れればと思って残ったのに」と残った事を少し後悔した。

中編に続く。

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作成 2008.04.25 
アップ 2008.05.06 
 

ゼロはその日、ガウェインの整備をする為にアジトに来ていた。
いつもはC.C.が一人でやって来ては整備をおこない、報酬のピザを夢見てほくほく顔で帰って行くのだが。
この日は何故かゼロが一人でやって来ていて、C.C.の姿はなかった。

初めは、確かにガウェインの整備に専念していたゼロだったが、折角ゼロが来たのだしと、あれこれと確認やら指示を求めにやって来る者が後を絶たず。
ゼロの作業はあまり捗ってはいなかった。
ふと、ゼロはガウェインのコックピットから外を、窓の外を見て固まった。
身動ぎ一つせずに、ジッと窓の外を見たままなのだ。
例に漏れず指示を仰ぎに来た藤堂は、その様子を見て、同じように視線を窓の外へと向けた。
そこには鯉のぼりが泳いでいて、「あぁ、今日は子供の日だったか?」と納得した。
「‥‥ゼロ?鯉のぼりを見ているのか?」
ゼロが素直に頷くとは思っていなかった藤堂だが、ついそう尋ねていた。
「‥‥‥‥あ、あぁ。あれは親子だろう?‥‥仲が良さそうだと、思って、って藤堂ッ!」
鯉のぼりに気を取られていたのか、さらっと頷いて応えていたゼロは、ハタと状況に気付いたらしく慌て出した。
藤堂は驚いた表情を一瞬浮かべたものの、周囲に他に人がいない事を確認してから、肯いた。
「あぁ、そうだ。父親と母親、それに子供達だな。‥‥まだ出しているところがあるとは思わなかったが‥‥羨ましいと思ったのか?」
「ッ‥‥羨ましいだと!?それは違うぞ、藤堂。お前は思い違いをしている」
「そうか?‥‥今日は子供の日だ。君も今日くらい普通の子供に戻っても誰も文句は言わないと思うが?」
「‥‥‥‥わたしを、子供だと?」
「あぁ。随分と若く見える。まだ二十歳にも届いていないだろう?ならば十分子供だと思うが?」
「‥‥わたしは、」
ゼロが言いかけるが、それを遮って藤堂は続ける。
「ゼロ。おれは軍人で、体格を見ればわかる事もある。だが、君以上に騎士団を纏められる者がいないから、君に頼ってしまっているがな」
「‥‥はぁ。言っておくが、他の者には言うなよ?それと、『普通の子供に戻れ』と言うが、では普通の子供とは何をしているのだ?」
諦めの溜息の後、ゼロは藤堂に口止めをしてから、首を傾げて尋ねる。
改めて尋ねられて、藤堂も唸りながら考え、言葉を紡ぐ。
「家族と過ごしたり、友人と遊んだり、‥‥か?」
「なるほどな。たった一人の家族は、この連休を利用して友人と旅行に出かけている。いつもわたしが家を空けてばかりだからな。たまには良いだろう?」
ゼロの苦笑を察した藤堂は、だからゼロがアジトに来たのだと気付く。
「‥‥では、もし今日の予定が他にないのならば、整備が終わったら、おれの部屋に来ないか?」
「お前の?確かに予定はないが、それでどうするのだ?」
「今日だけ、おれがお前の家族になってやろう。父でも兄でも、好きに思えば良い。そして甘えろ」
藤堂の断定、命令口調に、ゼロは藤堂をじっと見た後、ポツリと呟いた。
「‥‥‥‥。いっておくが、仮面は取らないぞ?」
「それで構わない」
「そうか。‥‥そうだな、ならば今日だけ、わたしの兄になれ。藤堂、‥‥いや、鏡志朗。後で行く」
「わかった。‥‥待っている、ゼロ」
同意したゼロに、藤堂は何故かホッとした様子で頷いて、そう言うと踵を返して去って行った。

その日、藤堂の部屋で、四聖剣は不思議なものを数多く目にする事になった。

よもや、藤堂の膝を借りて横になるゼロを拝む事になるとは思わなかった、と卜部は肩を落とした。
まさか、ゼロが藤堂を「鏡志朗」などと名前で呼び捨てにするのを耳にするとは思わなかった、と仙波も耳を疑った。
千葉は「てか、どーしてゼロがここで藤堂さんとあーんなに密着してるんですか?」と小声で叫ぶ朝比奈の言葉を耳に、二人を見つめていた。
朝比奈は様々な言葉を小声で器用に叫びながら、二人の間に割って入れない雰囲気を感じて涙を流していた。



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作成 2008.05.05 
アップ 2008.05.05 

──「団内の反応」編──

前日、ゼロは「表の用事が有るから数日来れない」と言って去っていった。
次の日、静かなアジトに団員達は戸惑った様子で周囲を見渡していた。
原因は言ってみれば簡単な事で、最近立て続けに入団したブリタニア人達が大人しかったからである。

ロイドはラクシャータを筆頭とした技術者達との話に熱中していた。
主な内容は、紅蓮弐式と白兜の事で、これに月下や無頼、無頼改もところどころ混じる。
ラクシャータ以外の技術者は、ロイドの博識ぶりに、「これで性格がまともならば」と嘆いたとか。

一方、ダールトンとジェレミアはディートハルトといた。
ディートハルトが収集してきたデータを見て、ダールトンとジェレミアが意見を述べたり補足をしたりと、データをより確かなものにしていっていた。
これにはディートハルトも喜び、「次は‥‥」と言いながら、資料に手を伸ばした。

藤堂はトレーラーのソファに座っていた。
腕を組んで、表情はすっかり渋面である。
藤堂の前には左右に分かれて四聖剣が立ち、彼等の表情を彩っているのは、戸惑い、であろうか。
藤堂の正面に揃う旧扇グループと、藤堂とを四聖剣は見比べている形である。

「藤堂さんに聞きたい事があるんだ」
そう話を切り出したのは扇だった。
だがしかし、次の瞬間には玉城が割り込んでいた。
「やい、いったいどういうつもりだ、藤堂さんよぉ。あんな連中次々引き込みやがってッ!!」
玉城は語尾も荒く言い放ち、「伯爵や将軍、挙句はオレンジだと!?」と続ける。
「‥‥それを藤堂中佐に言うのはお門違いというものですな。決めたのはゼロであって中佐ではない」
仙波が弁護に入り、発言者の玉城を見据える。
「あ、あぁ。それは判ってるんだが。‥‥その、どういう経緯で入団が認められたのかが知りたくて」
扇が背後に視線を感じながら、それでも控えめに尋ねた。

「‥‥経緯?」
藤堂は訝しげに問い返す。
「そう。これまでブリタニア人はディートハルトだけしか受かってなかったし、それだって彼が民間のジャーナリストで、ゼロを撮りたいとかって変な動機だからだろう?」
確かに変な動機なのだが、それについては誰にも異論はなかった。
ラクシャータはキョウトからの紹介で、別なのは周知の事実なので除外されている。
「だけど、今度の三人は動機もハッキリしないし、みんな軍人で、これまで敵対すらしてたんだ。俄かには信じられないと思っても仕方がないと思うんだ」
扇の言葉に、旧扇グループが一斉にうんうんと頷いている。
ロイドは白兜を擁した特派の主任だし、ダールトンは現在敵対しているコーネリアの副官だったし、ジェレミアに至ってはゼロに陥れられて恨みを持っていた。

「‥‥‥。動機は‥‥ゼロ。‥‥だそうだ」
藤堂はゆっくりと、告げた。
「動機がゼロ」とは際どい言い回しで、その場にいた幹部達は、意味を図りかねていた。
「いや、それがわからないし」とみんな思う。
確かにロイドとジェレミアがゼロを慕っているのは一目瞭然で判るのだが、何故そうなったのかもわからないのだ。

「あ、あの。藤堂さん。‥‥ゼロ、嫌がってたんじゃないんですか?あの時だって、『これだからブリタニアはッ』てすっごく忌々しそうに呟いてましたし」
その間にカレンが自分の疑問をぶつける。
相手がどれだけ慕っていようが、ゼロが嫌がっているのならばとカレンは考えたのだ。
「あ、あぁ。‥‥ブリタニアのノリとか思い切りの良さとか、思い込みの激しさには、時々ついていけないものを感じるからな」
藤堂の言葉に、「あぁなるほど」と思わず頷いたのは、一人や二人ではない。
どころか、ほとんどがそんな心境だろう。
脳裏にはディートハルトや、ラクシャータが浮かんでいたかも知れないし、ロイドやダールトン、ジェレミアだったかも知れないが。
カレンの脳裏には、何故か生徒会のメンバーが浮かんでいた。

「‥‥で、話を戻すけど、『動機がゼロ』‥‥って言うのは?」
扇が疲れた様子で尋ね直した。
「‥‥ゼロの力になりたい、と言うのが動機だそうだ」
藤堂もまた答えを言い直した。
「ちょッ‥‥。藤堂さん?前から疑問だったんですけど、それってプリン伯爵も将軍もオレンジ卿もゼロの正体知ってるって事ですか?」
朝比奈が驚きながら慌てた様子で藤堂に尋ね、その質問の内容を聞いて、扇グループも色めきだす。
「‥‥ゼロがブリタニアにいた頃の、知り合いだったらしいな」
藤堂は慌てるでもなく、渋面のまま応じた。
何せ最初にやってきたブリタニア人がディートハルトで、「仮面をしたままでも!」と叫びながら嬉々として仕えてるような男だったから、みな思考停止していたのだ。

「んん?中佐よぉ。それってゼロがあの三人を呼び寄せたのか?」
卜部が首を傾げて尋ねる。
「逆だな。ゼロの正体を察した彼等の一方的な押しかけだったぞ。入団希望の書類を見て酷く驚いていたからな」
藤堂はそう言うと深々と息を吐き出した。
「‥‥中佐?もしや、中佐もゼロの素性をご存知だったりしますか?」
話を聞きながら首を傾げていた千葉が疑問を口にした。
「‥‥‥あぁ。知っている。昔、面識があったから、気付いたんだが」
藤堂の言葉に、四聖剣も旧扇グループも目を点にする。

ゼロって何者!?

日本人ではないのに、桐原公とは知り合いで、藤堂とも面識が有ったというゼロ。
現在、軍の高官(一部降格済み)で、皇族の覚えもめでたい、横繋がりのなさそうな者達とも過去に知り合いだったというゼロ。
一人目は第二皇子の友人だとかいう伯爵で、直属の部隊を預かる主任だったし。
二人目は第二皇女の副官だか騎士だかで、歴戦の将軍だし。
三人目は第三皇子(故)の元でメキメキと頭角を現し始めていた(ゼロにより失墜済み)純血派とか言う派閥のリーダーだったらしいし。
ゼロと知り合った頃に、何をしていたか知らないが、「どんな出会いだよ」とツッコミたいところである。

「てかありえねぇだろ?なんだってリーダーの素顔とか素性とか幹部が知らなくて、ポッと出の新参者が知ってるんだよ?」
玉城が吼える。
「‥‥‥それって、ヤキモチ?」
朝比奈が思わずツッコミを入れていた。
怒りで顔を染めた玉城は「んな事言ってねぇ~だろッ」と否定するが、テレで赤くなったようにも見えるのだ。

「藤堂中佐。ゼロの素性がどうのとは問いませんが、ひとつお伺いしても?」
玉城はまるきり無視で、仙波が藤堂に声を掛けた。
「なんだ?」
「現在、ゼロの正体を知っている者は、どのくらいいるのですか?」
仙波の問い。
みんな首を傾げながら、指折り数えてみる。
C.C.、桐原公、藤堂、ロイド、ダールトン、ジェレミア‥‥六人は出てきて、なら六人か?と藤堂を見る。

「‥‥‥知らん」
しかし、藤堂は憮然としてそう答えた。

「え‥‥と。C.C.に桐原公に藤堂さんにプリン伯爵に将軍にオレンジ卿で六人ですよね?」
朝比奈が確認の為、声に出して言う。
「‥‥騎士団内で言えば、加えてラクシャータが入るな、恐らく」
藤堂の答えはまたしても聞く者を驚かせるに十分だった。

「‥‥‥‥。な、なら他を入れたら?」
扇が恐る恐る尋ねる。
「だから知らんと言った。どうやら、三人の行動で、わかる者にはわかったらしい。そのような話をしていたから、軍内にはそれなりにいるそうだ」
そう言った藤堂は、それはそれは重い溜息を吐いたのだった。

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作成 2008.03.18 
アップ 2008.05.04 

ラクシャータは一人格納庫に戻った後、口々にゼロの容体を尋ねられ、ひとしきりの質問が落ち着くまでをのんびりと待った。
その場にいた団員とキョウト六家のお歴々に、「お目付け役として藤堂を置いてきたわぁ」と告げたのは、だからしばらく経ってからの事だ。
騎士団の一同は驚いた。
この局面で、ブリタニアが何時攻めてくるかも知れない時に、的確な戦闘指示を出せるのはゼロと藤堂しかいないというのに、と。
「ちょっとラクシャータ。ゼロが動けないなら、藤堂さんには戻って指揮を執ってもらわないと。いつブリタニアが動くか判らないんだし」
朝比奈が慌てた声を出す。
「そんなの知ってるわよぉ、わたしだってぇ?攻めてきたら呼びに行けば良いんじゃなぁい?それまではあんた達四聖剣が指揮してればぁ?」
どこか投げやりにラクシャータは言い返す。
「‥‥そんなにゼロの容態は悪いのか?」
まだ言い返そうとしていた朝比奈を抑えた千葉が、険しい表情で尋ねる。
「んー、当分は絶対安静ねぇ。傷が開いてたって事もあるけどぉ。結局のところ、過労よ、過労。無理しすぎ、させすぎ」
キセルを振りながらラクシャータは「第一体力ないんだから傷の治りも普通より遅いだろうし、もっと気遣ってあげるべきよねぇ」と一同を睥睨する。
「だからでしょ。言っちゃなんだけど、ゼロが満足出来るレベルの戦闘指揮って藤堂さんにしか無理なんだから」
ラクシャータと朝比奈、千葉のやり取りを、周囲で聞いていた団員は、改めて反省する。
思い返せば、ゼロが「指示通りに動け」と言っていた事もあって、指示通りにしか動いてこなかったのだ。
ゼロの立てた作戦は大抵において成功を収めていたし、白兜さえ出て来なければほぼゼロの読み通りだったから。
ゼロに付いて行きさえすれば‥‥。
何時しかそんなふうに思っていたのは確かなのだ。
「なら、今からもう少し考えて行動すればぁ?まだ遅くないと思うしぃ。少しはマシになるんじゃなぁい?」
キセルをゆらゆらと揺らすラクシャータには、引く様子はない。
「あの‥‥。ラクシャータ」
カレンが進み出て、思いつめたような声を掛ける。
「ん?なぁに?お嬢ちゃん」
「傍についているだけなら、別に藤堂さんでなくたって良いんじゃないの?‥‥C.C.だっているんだし‥‥」
「わたしが何だと?」
躊躇いに躊躇ってからカレンがC.C.の名前を出した途端、タイミング良く(悪くと言うべきか)C.C.の声が掛かった。
一斉にC.C.の声がした方を見て、更に驚いた。
C.C.がどう見てもゼロの仮面にしか見えないモノを抱えていたからだ。
「‥‥‥って、今、ゼロ仮面してないの!?」
カレンの驚いた声に、みんなは唯頷くだけ。
「藤堂さんがまだいるはずなのにッ??」とはカレンをはじめとする騎士団の心の叫びである。
「ん?‥‥あぁ、この仮面は予備だ。アイツが人前で仮面を外すと思うか?ラクシャータに頼みたい事があるんで、持ってきた」
「頼みぃ?どんなぁ?」
ラクシャータの声音には楽しげな色が乗っている。
「‥‥外野のいないところで話そう」
「んー?てことはゼロの部屋に逆戻りぃ?」
不機嫌そうに言うC.C.にラクシャータもまた眉を顰めて尋ねる。
「外野のいないところで、と言ったはずだぞ、ラクシャータ。あそこにはまだ藤堂がいる。‥‥そうだな、ガウェインの中に行こう」
更に低くなったC.C.の声が怒ったようにそう告げる。
「ぅわぁ、徹底してるわねぇ。‥‥それは良いけど、ゼロと藤堂は何してるわけぇ?」
「わたしは藤堂に追い出されたんだ。‥‥わたしがいるとゼロと喧嘩になるから、ゼロが安静にしていられないと言う理由でな」
C.C.の言葉に、ラクシャータ以外が驚く。
「へッ、やるじゃねぇか。愛人追い出すなんて、普通しねぇだろーによぉ」
玉城の言葉はいつもの事だったが、いつもならばいない人達がいる事を、玉城は失念していたのだ。
「愛人ですって?‥‥ゼロ様の?」
ゼロに会った途端、ゼロを「未来の旦那さま」と公然と言ってのける日本最後の皇、神楽耶が過激に反応した。
怪我人だからと桐原に窘められて、ゆっくり話す機会すら与えられない神楽耶は嫉妬に頬を膨らませる。
「ほぉ、あやつもやるものよのぉ」
ゼロの自室での二人の独特の雰囲気を見ていた桐原は、逆に感心したように呟いた。
「あ、‥‥いや。‥‥あれはわたし達が勝手に勘ぐっているだけで、本人達は否定しているから、違うかと‥‥」
慌てた扇が控え目ながら否定を試みる。
キョウトの面々にまで誤解されてはゼロが気の毒だ、と思った為だ。
無言で玉城に近づいたカレンは、無言のまま玉城の頭に拳を見舞った。
「それにしてもぉ、まぁだ言い合ってたのぉ?」
「悪いか?わたしにとっては死活問題だ」
呆れた調子で尋ねるラクシャータに、C.C.は開き直ったように応じた。
「悪いでしょ、それは。そりゃ藤堂さんだって追い出すって。‥‥C.C.にとっての死活問題って、‥‥ピザの事だよね?」
思い当たった朝比奈もまた呆れた様子で口を挟んだ。
納得した雰囲気が漂う中、神楽耶が首を傾げた。
「そこの女の死活問題がピザと言うのはどういう事か?何故それで負傷しているゼロ様と喧嘩など‥‥」
「えーとですね。ゼロはC.C.の事を『共犯者』と呼んでいまして、C.C.を傍に置いてますけど、時々ピザ代の事で口論してます」
朝比奈が説明する。
「たかがピザ代くらいでガタガタと。アイツが男らしくない事を言っているからだろう?」
「しかし。‥‥あの金額をたかがとは言えないかと‥‥。個人で賄えるのは、騎士団内でもゼロしかいないと思うが。‥‥中佐でも無理だぞ」
男達が反論できずに黙る中、千葉が控えめにゼロの弁護をする。
「まぁ。ゼロ様も水臭いですわ。‥‥それくらい、キョウトに請求してくださればよろしかったですのに」
「これ、神楽耶さま。流石にピザ代は経費では落ち申さぬぞ」
神楽耶の言葉に、C.C.は瞳を怪しく光らせたが、口を開く前に、桐原が神楽耶を嗜めた。
「そのくらいなんとかなさいませ。ゼロ様が困っていると言うのですよ」
「ここでもピザ代議論始める気なのぉ?‥‥C.C.あんたも急いでるんじゃないのぉ?頼み事とやらぁ」
「あ、そうだった。行くぞ、ラクシャータ」
本題を思い出したC.C.は、唖然とする一同を置き去りにして、ガウェインのコックピットの中に入り、ラクシャータもまたそれに続いた。

「‥‥‥えーっと。‥‥結局、藤堂さんは戻ってこないわけだね?」
「そうらしいな。‥‥仕方がない。外に出ている仙波さんと卜部さんにも伝えないと」
「‥‥本気で荷が重いんですけどぉ~。早く戻ってきてくださいよ~。藤堂さ~ん」
泣き言を言う朝比奈を千葉が引きずって、月下へと歩いていった。

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作成 2008.02.26 
アップ 2008.05.03 

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