★武嗣彩人様へのリクエスト作品★
(藤堂とルルが付き合うに至るまで)
「中佐。少しお話があるのですが‥‥」
千葉が藤堂に声を掛けたのは、藤堂が一人になった時だった。
「なんだ?」
腕を組んでずっと考え事をしていた藤堂は顔を上げて部下を見ると、そう短く先を促した。
「ゼロの事で」
千葉が切り出すと藤堂は眉間の皺を深くする。
そう、最近のゼロの態度、それもまた藤堂の悩みの種だったからだ。
初めは気付かなかったが、段々と顕著になっていくようで、このままではいずれ他の者も気付くだろうと言う程度になってきている。
「‥‥ゼロがどうした?」
とりあえず、話を聞こうと、そう尋ねる。
「‥‥中佐は、騎士団に合流してから、‥‥その、ゼロに何かしましたか?」
千葉が珍しく躊躇いがちに尋ねる言葉の意味を計り兼ねた藤堂は、「なにかとはなんだ?」と聞き返した。
「‥‥。『計り兼ねている』‥‥そのような感じだったゼロの視線に、『怯え』を感じるようになったものですから」
千葉の言葉に、藤堂は目を丸くして驚いた。
避けられている、とは思っていたが、まさか怯えられているとは思っていなかったからだ。
「避けられているのは気付いていたんだがな‥‥」
藤堂は自嘲気味な笑みを浮かべる。
初めは他の幹部と同じ接し方をしていたはずのゼロは、藤堂に対してだけ距離を置くようになった。
距離を置かれた当人だけしか気付かないくらい開いた空間に、藤堂は寂しいと感じていた。
だがまさか、怯えられていたとは思っていなかった藤堂は少し、いやかなりショックを受けた。
「中佐?」
千葉とて藤堂がゼロを怯えさせるような何かをしたとは思っていない。
だが、実際に怯えているとしか思えない視線を感じてしまっては、千葉も念の為に尋ねずにはいられなかったのだ。
「‥‥おれは何もしていない」
憮然とした表情で、藤堂は千葉に答えた。
大体、「自分を誘って引き入れた相手が自分を怯えているなんて思うはずがない」と藤堂は理不尽に思う。
沈んだ部屋に、ノックと同時に開いた扉から賑やかに顔を見せ、部屋の空気を入れ換えた朝比奈にタイミングが良いと言うべきか、千葉は迷った。
「返事を待ってから開けろといつも言っているだろうが、朝比奈。ノックの意味がないぞ、それだと」
しかし、だからと言って言うべき事を控えるつもりは千葉にはない。
「はーい。でですね、藤堂さん。これ、藤堂さんに渡してくれって預かりました。ゼロから」
千葉に対しては一言返事をするだけで、後は藤堂に向かって言いながら近付いた朝比奈は、持っていた書類を藤堂に差し出した。
藤堂は書類に視線を向けるも手を伸ばそうとはしない。
「朝比奈、どこでそれを?」
「え?‥‥っと、ゼロが月下のところに来たんですよ、藤堂さんはいるかーって。部屋だと答えたら渡しておいてくれと」
千葉が横から口を挟むのに、朝比奈は一瞬驚いてから千葉を見て、答える。
「それで、今ゼロは?」
「えぇ?えーと‥‥ラクシャータと話をしてて、扇さんとディートハルトが来たから、どちらかと話をしてるか、自室かな?」
朝比奈はそう答えてから、「あ、そう言えば、扇さんに次来る時の話をしてた気がするからもしかしたら表に出たかなぁ?」と付け足した。
藤堂は立ち上がると、千葉の方を向きながらも差し出しっ放しだった書類を朝比奈の手から取り上げ歩きだす。
「藤堂さん?」
「健闘は祈りますが、穏便に願います、中佐」
首を傾げる朝比奈の横で、千葉はそう言って藤堂を送り出した。
**********
ゼロの部屋にやって来た藤堂は暫く扉を見つめてからノックした。
『‥‥‥‥誰だ?』
部屋に戻ってきていたようで、中からゼロの誰何の声が聞こえて来た。
「おれだ、藤堂だ」
名前を言えば開けてくれないかも知れないと思いながらも、藤堂は応じて反応を待つ。
少ししてから、扉は開き、ゼロが姿を見せた。
「どうした、藤堂?珍しいな、お前がここに来るのは」
藤堂にはゼロが怯えているようには見えず、「千葉の気のせいか?」と思いながらもここまで来たのだしと問いに答える。
「少し、伝えたい事と聞きたい事が有ってやってきた。今、良いか?」
「‥‥あぁ。入れ」
ゼロは入口から下がって藤堂に入るように言い、藤堂はそれに従った。
ソファに向かい合って座った後、ゼロは「それで?」と藤堂に話を促した。
藤堂はじーっとゼロの仮面を正面から見つめている。
なかなか話そうとしない藤堂にゼロが再び促そうとした時、ようやっと藤堂は口を開いた。
「‥‥ゼロ。おれは君の事が好きらしい」
藤堂の言葉はそれはもう唐突だった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥な、に?」
仮面の下で驚きに目を見開き、固まったゼロはなんとか聞き直す。
「‥‥おれはゼロが好きだ、と言ったのだ」
今度はキッパリと藤堂は断言した。
「‥‥本気か?いや、正気か?藤堂。素性の知れない仮面の男を相手に、何を言っているのか、わかっているか?」
ゼロは驚きかつ呆れた声音で更に聞く。
「おれは正気だし、本気だ。君がおれを避けていると感じた時、寂しいと、悲しいと思った。今、千葉に怯えられていると言われて辛いと思った」
「‥‥‥‥なッ」
「君を目の前にして、嬉しいと感じた。‥‥だが、確かに怯えているのだと知って‥‥今は辛い。おれの何が君を怯えさせている?」
切々と言って藤堂は「直せるのならば直す。だから教えてくれ、ゼロ‥‥」と願う。
「‥‥素性どころか、素顔さえ知らないというのに?これまで何をして、どう生きて来たのかも知らずに?」
ゼロはいつもの自信に満ちた声ではない、どこか揺らいだ声音で藤堂に尋ねたが、藤堂はそれを表現する言葉を持っていなかった。
「世の中には『一目惚れ』という言葉もある。それよりはマシだろう?君が好きだ、ゼロ」
苦笑して例を挙げた藤堂は、再び真面目な口調に戻って告白する。
「‥‥わたしの素性を知れば、そんな事を言っていられなくなるぞ。わたしが成した事を知れば、憎みすらするだろう」
ゼロは首を振って拒絶し、理由を告げた。
「関係ない。おれに、『奇跡』ではなく『おれ』を求めたのは君だった。そう、あの時から、君がおれの一番になっていたのだと思う」
諦めない藤堂のまっすぐな言葉にゼロは驚いた。
「助けに行った時、から‥‥だと?」
「そうだ。誰もが『奇跡の藤堂』としてしか、おれを見ようとしなかった中、君は『藤堂鏡志朗』を望んだ」
「‥‥‥‥それならば、四聖剣もそうなのではないのか?別に藤堂が『厳島の軌跡』を起こしたからではなく、それ以前から付き従っていたのだろう?」
「そうだな。だが、奴等は共に戦ったからな、『厳島』でも。それがどんなものだったのか、知っている」
「‥‥‥‥藤堂。話がそれだけならば、出て行って貰おう。これ以上言葉を重ねようがわたしの答えは変わらない」
ゼロはそう言い捨てるとソファから立ち上がった。
後編に続く。
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作成 2008.04.30
アップ 2008.05.07
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