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★hidori様へのリクエスト作品★
(四聖剣とゼロ(又はルルーシュ)がメインの話)
「ゼロってぇ、藤堂さんの事、結構信頼してますよね?」
朝比奈の問いは唐突だった。
その場にいた他の四聖剣にしてからが、訝しげな視線を朝比奈に向ける。
それは尋ねられたゼロにしても同様だったが。
「いやぁ、今逃したら、こんな機会ないと思って。藤堂さんもいないし、おれ達四聖剣とゼロだけだし。だから丁度良いかなって」
朝比奈の明るい口調に、ゼロは溜息を吐いた。
「藤堂の戦略や戦術の知識は経験に基づいているし、頭も切れる。十分に信頼に値すると思うが?」
それでも答えるゼロに、仙波、卜部、千葉も「確かにこんな機会はないかもしれない」と話を聞く体勢をとる。
「ゼロはおれ達が合流する前から、藤堂さんの事知ってたりしました?」
朝比奈の質問はまだ終わらないらしいと、ゼロは手に持っていた書類をテーブルに戻した。
「『厳島の奇跡』はこの地ではあまりにも有名だからな。当時、ブリタニアに土をつけたと聞いて喝采を上げた程だ」
ゼロのその答えには、四聖剣は驚いた。
「当時、からですと?」
仙波が呆然と尋ねる。
「そうだが?わたしは昔からブリタニアが嫌いだったのでな」
ゼロは首を傾げてから頷き、「何をそんなに驚く?」と不思議そうに仙波を見た。
「筋金入りだな~。ゼロって、主義者って奴か?」
そんなゼロの様子に卜部が問うが、ゼロとしては一括りにされたくはないと言う思いもないではない。
「ブリタニアの政策だけではなく、ブリタニアという国の在り方そのものを憎んではいるが、な」
「‥‥‥。何故か、と聞くのもいけないことか?ゼロが何を思って黒の騎士団を率いているのか、それが判らないままでは不安が残る」
千葉が言葉を選びながら尋ねる。
「黒の騎士団を作ったのは、力が欲しかったからだ。一人でブリタニアを相手取るには、少々手間が掛かる。だから騎士団を作った」
ゼロのその言葉は「一人でもやってやれない事はない」と言っているようにも取れる。
「ふむ。つまり、わし等は駒か?」
仙波が冷静に尋ねる言葉に、ゼロは躊躇いもせずに頷いた。
駒という認識のされ方に、眉を顰めないでもない四聖剣だったが、それも束の間の事だった。
「そうだ。一応、指し手はわたしのつもりだが、‥‥そう、言わば賭チェスのようなものだな。負ければ指し手も諸共だ」
そう言って笑声を発するゼロに、「駒は駒でも捨て駒ではないのだ」と納得できたからだった。
「ゼロ。一つ忠告をしておくが、人は駒呼ばわりされる事をあまり好まぬ。少し言い回しに気をつけた方が良かろう」
仙波は真面目な口調で諭すように告げた。
「‥‥そうなのか?‥‥そうか。わたしの戦略の構想の基盤はチェスなのでな。‥‥そうか、気をつけよう」
ゼロは首を傾げ、まるで今始めて知ったとでもいうように、しきりに頷いている。
「真面目だよね、ゼロって」
そんなゼロを見て、朝比奈が評すると、三人は同意するように頷いた。
「当然だろう?人命が掛かっているんだぞ?それに指揮官たるもの、犠牲は最小に留めた上で、最大の効果を得なければならないのだからな」
ゼロは「真面目でなくてどうする?」と不思議そうである。
「なるほど。上に立つ者としては当然の気構えだな。仮面を被っているのに、人がついてくるわけがわかった気がする」
「犠牲は最小って、なら一つ改めた方が良いんじゃないかなぁ?」
千葉は納得し、朝比奈は首を傾げた。
「どこをだ?」
「君だよ、ゼロ。指揮官だからといって、毎回最前線に出る必要はないと思うけど?適材適所って言葉、知ってるよねー?当然」
朝比奈がゼロを指差して説明していると、千葉が横から「指を差すな、指を」と朝比奈の手を叩き落とした。
「しかし、トップが動かなければ、誰もついてこないだろう?」
「まぁ、そーなんだがな。ゼロはこれまでに十分実績を積んでる。少しくらい前線に出なくなったからといって、途端に誰も従わなくなるなんて事はないぞ?」
「卜部さんの言うとおり。だから、前線はおれ達に任せて、後方で指揮に専念すれば、もっと良い成果とか出ると思うんだけどな。ほら、白兜とか」
卜部や朝比奈の言う事もわかるのだが、ゼロは更に反論してみた。
「だが、藤堂も前線に出ながら指揮をしているだろう?」
「藤堂中佐は戦術レベルの指揮官。だが、ゼロは戦略レベルの指揮官、全体を把握しておく必要があり、一つの戦場に出る事がマイナスとなる場面もある」
「‥‥‥そうか。わたしはリーダーが動かなければ、誰もついて来ないと思っていたし、『行け』と言うより、『ついて来い』と言う方が好きなのでな」
「ゼロ‥‥。言いたい事はわかるし、同感だが、好き嫌いで選ぶのはどうかとも思う」
千葉が少し呆れながらも意見を述べた。
「だが、命じられる側も後方で踏ん反り返って『行け』と言われるよりも、先頭に立って『ついて来い』と言われる方が従いやすいだろう?」
「ま、まぁ、確かに前線に立った事すらない上官からただ『行け』と命じられるのは少々辛いのは確かだが‥‥」
「けど、ゼロは前線の事だってちゃんと理解してるからな。無謀で無意味な『行け』にはならないだろう?ならば従うさ、みんな」
仙波と卜部が唸りながら言ったのは、状況を検討していたからだろう。
「ゼロって軍隊にはいた事ないみたいなのに、良く分かってるんだね、そう言うところ」
朝比奈が感心したように言うと、ゼロは軽く溜息を吐いた。
「‥‥そうでもない。ゼロになってから兵法の書物を読みあさりはしたが付け焼刃なのは自覚している」
「待て、ゼロ。ゼロになってから?と言う事は、クロヴィスを暗殺してからなのか?兵法を学んだのは」
千葉が驚きの表情を隠しもしないで、ゼロに尋ねる。
「以前にも読んだ事は有ったが、随分と昔の話だったので、改めて読み直した。‥‥やはり問題だったか?」
ゼロは「そんなに驚く事だったか?」と思いながら質問に答え、仮面を傾けた。
「問題ないから驚いていると言うか‥‥。随分昔って?読み直したってどのくらい?」
朝比奈が呆然と首を振りながら答えた後、とりあえずの疑問点を尋ねてみた。
「そうだな。‥‥日本に来る前の話だからな。‥‥八年くらい前までか?読み直したのは、図書館で関連の書物を総浚いしただけだ」
「‥‥『総浚い』を『だけ』とは言わないと思うが」
ゼロのズレた感覚に、千葉は頭痛を覚えながらも一応の訂正を試みる。
「エリアのせいか、蔵書量が少なくてな。関連と言ったところで昔読んだ分の半分にもならなかった」
残念そうに言うゼロに、租界にあるブリタニアの図書館を思い浮かべた四聖剣の面々は首を傾げた。
「かなり大きな図書館だと思ってたんだが、‥‥本少ねぇのか?」
「そうだな、日本人が建物の外観で考えるよりは少ないだろう。ブリタニア人は無駄な空間を取るのが好きなようだ」
不必要に吹き抜けだったり、天井が高かったりする建物の構造を思い浮かべてゼロは答えた。
「確かにねー。そこまで大きくしなくてもーとか思うのって結構たくさんあるよね、あちこちにさ」
「この地は狭いのだから、極力無駄は省くべきだと言うのに、大半がブリタニアにいる時の感覚で物事を処理しようとしているからな」
そう言ったゼロの視線が、時計に向かい、四聖剣もつられるように時計を見た。
「もうこんな時間か。朝比奈、質問はもう良いか?そろそろ会議の準備を始めないと間に合わなくなる」
「あ、じゃあ後二つ」
と言う朝比奈に、ゼロは軽い溜息を吐いて、「それで?」と問う。
「おれ達の評価を聞いていいかな?ゼロがおれ達四聖剣をどう思っているのか」
「藤堂の部下。絶対に藤堂を裏切る事はしないだろうし、何が有っても藤堂に付き従う。騎士団にいるのは藤堂がいるから、だろう?」
ゼロが即答すると、朝比奈は少しだけ不満そうに「他には?」と尋ねる。
「‥‥流石に軍人だけ有って、藤堂共々、他のメンバーよりも戦闘力は高いし、一から十まで懇切丁寧に説明しなくて良い分楽だな」
促されてゼロはそう続けたが、それでも朝比奈は不満そうに「それで?」と続きをねだる。
「‥‥‥‥。続きを聞くか、二つ目を言うか、どちらが良い?」
数瞬黙ったゼロに逆にそう聞かれて、朝比奈は二つ目を口にした。
「また、時間くれる?それで、『おれ達と話をしませんか?』」
朝比奈の二つ目に、そう来るとは思っていなかったゼロは、くつくつと笑った。
「良いだろう。時間が有ればな。一つ目の続きもその時に言ってやる」
ゼロはそう言うと、書類に手を伸ばし、朝比奈は「やったぁ~」と喜んだ。
「では、わし等も準備をしに戻ります。行くぞ」
仙波が言い、ゼロが頷くと、四聖剣はそれぞれゼロに暇の挨拶をして、一旦部屋に戻る為にその場を後にした。
「おかしな奴等だな」
ゼロはそう呟くと、本格的に書類を読み始めた。
以来、団員達は時々、ゼロと四聖剣が語らう姿を目にする事になる。
藤堂は少し淋しく思いながらその様子を見、団員達はそんな藤堂に少し同情した。
了
───────────
作成 2008.04.24
アップ 2008.05.02
混乱の始まりはその日の戦闘終了後の事だった。
‥‥そう団員達にとっては。
アジトに戻った後、月下隊長機からはゼロが、ゼロの無頼からは藤堂が降りて来たのだ。
ちなみにゼロの無頼は、いつもの如く、戦闘中やられて片腕を失っている。
更に言うならば、月下隊長機もまたいつも通り目覚ましい活躍を披露していた。
なのに、乗り手が逆だったので団員達はパニックに陥ったのだ。
「大丈夫か?」
月下隊長機から降りたゼロが無頼から降りた藤堂に近づきながら、そう声をかけた。
「あぁ、怪我はしていない。‥‥月下の扱いはどうだ?」
「体格の差の分だけ、調整が必要だな‥‥このままでは、咄嗟の時ミスが出る」
ゼロと藤堂は外野を無視して会話を続け、揃って溜息を着いた。
「ちょッ‥‥。藤堂さん、それにゼロ!隊長機にゼロが乗っていたなんておれ達聞いてなかったんですがッ!」
朝比奈が抗議の声を上げたのを皮切りに、団員達が口々に疑問や驚きを言い立てた。
「というか中佐、ゼロ。何故今、月下の乗り手を変える必要が?」
裏返った声が大半だった為か、はっきりした千葉の声はしっかりとゼロと藤堂に届き、二人は顔を見合わせた。
「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」
暫くの沈黙。
団員達は答えを待って固唾を呑んでいる状態だ。
「そうだな。やはり、四聖剣とラクシャータには話しておいた方が無難だな」
藤堂がそう言うとゼロが頷いた。
「はぁ~あ?おれ達には言えねッてのか!?」
玉城の怒鳴り声。
「‥‥更に混乱するのがオチだ。一度にそんなに宥められるものか」
藤堂が冷ややかな視線を玉城に向けて言い捨てると、歩きだした。
「ラクシャータ、四聖剣はついて来い」
ゼロはそれだけ言うと、藤堂の後を追った。
移した先は藤堂の部屋だった。
藤堂とゼロ、四聖剣、ラクシャータが、朝比奈と卜部が運び込んだ椅子に落ち着いたところで、藤堂が口を開いた。
「実は‥‥」
だが藤堂は珍しく困惑の表情を浮かべて言葉をとめた。
「‥‥説明が難しいからな。代わるか?」
ゼロがそんな藤堂を気遣ってか声をかける。
くすりと藤堂は笑う。
「いや。だが面倒なのは確かだ。いっそ素で話すのが、手っ取り早いだろう」
「‥‥本気か?」
「あぁ。人を絞ったのはその為でもあるのだろう?」
藤堂にしては珍しく笑みを浮かべて言う言葉に、ゼロはチラと四聖剣を見渡して頷いた。
「‥‥そうだな。ラクシャータ、月下の調整を頼みたい」
それからゼロはおもむろに、ラクシャータへ仕事を依頼する。
「ちょッ、待ちなさいよぉ。その前に説明してくれるんじゃなかったのぉ。ゼロぉ」
話があっさりとすっ飛んだ事に、流石のラクシャータも慌てて抗議するが、それに対して「なんだ?」と返事をしたのは藤堂だった。
「月下には今後も藤堂を乗せる。その為に必要な調整だ。やってもらうぞ、ラクシャータ」
藤堂がそう言うので、ラクシャータも四聖剣も、唖然と藤堂を凝視した。
姿は、声も、藤堂なのに、「藤堂を」と他人事のように言い、口調も違い、それはまるでゼロのようで。
「最初から飛ばしすぎだ、ゼロ。少しは加減してやってくれ」
聞いていたゼロが苦笑を漏らした後、藤堂に向かってそう言った。
「‥‥つまり、もしや、中佐とゼロの中身が入れ替わった‥‥なんて事になっていたりするのですか?」
「どうやらそうらしい、千葉」
ゼロが千葉の言葉を肯定した。
暫く続いた沈黙を、朝比奈が破る。
「それって藤堂さん、ゼロの顔を見たって事ですか!?」
「朝比奈。まずそこなのか?他に言う事はないのか?」
ゼロ(外見藤堂)が呆れた口調で朝比奈に言う。
「え?ポイント高くないですか?」
「なんだ、そのポイントというのは‥‥。藤堂、教育しなおせ」
「すまない、ゼロ。多分手遅れだ」
げんなりとする藤堂(中身ゼロ)がゼロ(中身藤堂)に向かって指示を出すも、藤堂(外見ゼロ)はあっさりと謝り匙を投げた。
「あのさぁ?原因と元に戻る目処はぁ?それともずっとこのままぁ?」
ラクシャータが朝比奈をスルーして問いかける。
「‥‥いや、目を覚ました時には入れ替わっていて‥‥」
ゼロ(中身藤堂)は首を傾げながら答える。
「原因ならハッキリしている。『C.C.の悪戯』だ。現に入れ替わって以来、アイツの姿を見かけていないからな。どうせ今頃どこかで笑っているのだろう」
ゼロ(外見藤堂)が心底嫌そうに言い捨てた。
「ちょっと待て、ゼロ。その話は聞いていなかったのだが」
「そうだな。言ったところで、何の解決にもならない。効力切れが何時起こるのか、或いはC.C.がその気になるまでかも知れないが、わたしは知らないのだからな」
藤堂(外見ゼロ)がゼロ(外見藤堂)に抗議するが、ゼロ(外見藤堂)は堪えた様子もなくあっさりと応じた。
「ってそこまでわかっててなんで落ち着いてるのさ。C.C.を捕まえて元に戻すように言わないと」
「今、C.C.はアジトにはいない。ならば表の住まいだと思うが‥‥藤堂にわたしの表になりきって周囲に悟られる事なくC.C.を連れて来い‥‥と?」
朝比奈の焦った言葉に、ゼロ(外見藤堂)は畳み掛けるように説明した。
「う゛‥‥無理だぞ。流石にそこまで器用ではない」
「知っている。期待もしていない。だから言わなかったんだ」
呻いて力なく首を振るゼロ(中身藤堂)に、藤堂(中身ゼロ)はどこか遠い目をしながらもすっぱりと言い切った。
「‥‥そんなに大変なのですか?表の行動は‥‥」
仙波が「藤堂に期待していない」と言い切るゼロ(外見藤堂)に少しむっとしながら尋ねた。
「想像出来ないからな上司にからかわれる藤堂や、書類に埋もれる藤堂や、多数の男女に追い掛け回される藤堂は」
あっさり言うゼロ(外見藤堂)は「‥‥第一、下手をすれば殺傷沙汰になりかねない」とこれまた心底嫌そうに言い切った。
その例えに、「ゼロって表で日常的にそんな生活をしてるのか‥‥?」と四聖剣の頭の中にハテナマークが飛び交った。
「ちょっとぉ。殺傷沙汰って物騒だけどぉ?そんなに危険なのぉ?」
ラクシャータはあっさり前半をスルーして自分の気になるところだけを尋ねる。
「‥‥さて。藤堂がキレる状況が待っている可能性があるのでな。流石にわたしの表の姿でそんな惨事を引き起こして貰いたくはない」
藤堂(中身ゼロ)はまっすぐにゼロ(中身藤堂)の仮面を見据えて真面目な表情で言う。
「‥‥つまり、おれがキレる状況を表で体験している、ということだな?ゼロ。‥‥やはり彼、か?」
藤堂(外見ゼロ)は声を低くして唸るように言う。
既にキレかけている藤堂(外見ゼロ)に、四聖剣はゼロ(外見藤堂)の暴言への非難を取り下げた。
「それは答えられないな。言っておくが、表に出る事は認めないからな、藤堂。大人しくしていろよ」
藤堂(外見ゼロ)の言葉を物ともせずに、ゼロ(外見藤堂)が逆に藤堂(外見ゼロ)に警告する。
「‥‥あぁ、承知した」
暫し検討する為に黙った藤堂(外見ゼロ)は、重々しく頷いたのだった。
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作成 2008.04.14
アップ 2008.05.01
★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤ルル/白主従糾弾)
「‥‥ところでスザク君。君達こそ何故ここにいるんだ?」
藤堂が、重い口調でスザクに問いかける。
「え‥‥っと。それはルルーシュとは友達だから」
「君は騎士になったのだろう?ブリタニア第三皇女の。とてもその自覚を持っているとは思えないが」
藤堂はチラとユーフェミアを見てから、厳しい声音のまま非難した。
その唐突な始まりに、ルルーシュまでもが驚いた。
目を見張って自分を見るルルーシュに藤堂は気付いたが、やめる気も抑える気もなかった。
何故なら、藤堂が思っていた以上に発揮されている、この目の前の二人のお気楽振りに呆れたからだ。
「そんな事ありませんわ。スザクは良くやってくれています」
自分が選んだ騎士を悪く言われてむっとしたのか、スザクがけなされて怒ったのか、ユーフェミアが反論する。
「良くやる‥‥というのが、お忍びと称して主を一人連れ出す事を差すのか?それならば一人で対処できない事もあると学んだ方が良いぞ、スザク君」
「そんな‥‥スザクはちゃんとわたしを守ってくれますわ」
「君もだ。第三皇女。『ただの』と言うが、どう足掻こうが皇族だろう?結果まで考えて行動する事を誰にも教わらなかったのか?」
藤堂の言葉に容赦は存在しなかった。
「わたくしとて考えています」
「ならば考えが足りないのだな。姉の第二皇女にでも周囲の補佐する大人達にでも尋ねれば、周囲を振り回して呆れられる事も少なくなるだろう」
藤堂の言葉に、「『なくなる』と言わないところが藤堂らしいな」とルルーシュは思う。
「なッ‥‥藤堂さん。ルルーシュ達の事はユフィ以外知らないんです。他の皇族や、軍人に相談なんてッ」
慌てて割って入るスザクに、藤堂は氷のように鋭い眼差しを向けた。
「お前達はッ!そこまで頭が回りながら、何故、その先を考えないのだ!?」
声を荒げて藤堂は二人を断罪するが、二人は戸惑いながら首を傾げるだけだった。
「皇族の行動は護衛という名の監視がつく。騎士になる者の周囲には調査の手が入る。何故それでこの場に現れるのだ!」
「‥‥ッだけど、ぼくはッ」
「騎士になったのならば、即座にルルーシュ君との繋がりを断つべきだったのだと言っている。それが嫌ならばそもそも君は騎士になるべきではなかったのだ」
「ですがッ!」
「中途半端に関わって、ルルーシュ君を苦しめるだけ苦しめて、その事にすら気付かない。何故お前達はルルーシュ君の気持ちを考えない!?」
藤堂の言葉に、ユーフェミアとスザクの視線がルルーシュに流れる。
「‥‥だ、だって。‥‥ルルーシュは『おめでとう』って、ぼくにそう言ってくれて‥‥」
スザクの眼差しは既に助けを求めるかのように揺れていて、ルルーシュは溜息を吐いた。
「めでたいんだろう?‥‥スザクにとっては。なら、友達としては祝福してやるべきなんだろう?‥‥『君は喜んでくれる?』って目で見られたらな」
ルルーシュはそう応じて、最近の習い性になっている笑みを浮かべた。
「‥‥ルルーシュ君。『無理に笑う必要はない』と言ったはずだ。‥‥いつもそんな表情で笑っていたのか?君は」
痛ましそうに、藤堂はルルーシュの作った笑みを浮かべる頬に手を滑らせ、ルルーシュの表情から不自然な笑みが消えた。
藤堂が「そんな」という笑みが、どんな表情を差すのかわからず、ルルーシュは藤堂の手を振り払うでもなく首を傾げた。
「ルルーシュ。わたくしが貴方を苦しめていたというのは本当なのですか?わたくしは貴方やナナリーが安心して暮らせる場所を」
ユーフェミアの更に続くだろう言葉を、ルルーシュは聞きたくなくて「ユフィ」と名前を呼ぶ事で遮った。
「君は勘違いをしているぞ、第三皇女。政事に私情を挟んではいけないと、言われた事はないか?公私の区別は必要だ」
続けたのは藤堂だった。
「むッ。‥‥わたくしとてそのくらいの事は知っています」
「とてもそうは思えない。ルルーシュ君達の為に『特区』を作る?『日本人の為』と謳っておきながら!それの何処が公私混同ではないというのだ!?」
段々とヒートアップする藤堂を、ルルーシュが止めた。
「藤堂さん。そこまでで良いです。一度にそれ以上言っても、二人には整理できないでしょうから」
ルルーシュの視線の先では、愕然とした表情で項垂れる二人がいる。
「ユフィ。スザク。今日はもう帰れ。話ができる状態でもなさそうだし」
「‥‥今のうちに言っておくが、改善が見られないようならば、何度でも言うぞ?」
藤堂の言葉はどう聞いても、「来るなら来い。返り討ちにしてやる」にしか聞こえない。
「あ、‥‥あの、さ。る、ルルーシュ。‥‥藤堂さんは、ま、また来る、のかぃ?」
藤堂のいない時を見計らおうとでも思ったのか、スザクは上滑りする思考で尋ねる。
「‥‥それを聞いてどうする?スザク君。今度は軍人として、ここまで捕まえに来るのか?」
「違いますッ」
藤堂の言葉を慌てて否定するが、藤堂の言った事の方が軍人としては正しいのだと、スザクは考えつかないらしい。
ルルーシュは溜息を吐き、藤堂も遅れて溜息を零す。
「咲世子さん。帰るそうだから、二人を玄関まで送ってください」
ルルーシュの言葉に、二人はもう言葉もなく立ち上がった。
なんだか、色々と言われすぎて、頭が真っ白になって、「一体今日は何をしに来たんだろう?」なんて二人は考える。
咲世子が開いた扉に向かう途中で、チラとルルーシュを振り返ったユーフェミアとスザクは、振り返った事を後悔した。
とうとう尋ねる事が出来なかった問い、「ルルーシュと藤堂さんの関係って‥‥?」の答えがそこにあったからだ。
藤堂は先程までの刺々しい雰囲気を払拭してルルーシュを優しく抱きしめ、ルルーシュも安らいだ状態で身を預けていた。
「さぁ、まいりましょう。お二方。これ以上ここにいては馬に蹴られてしまいますわ」
咲世子が二人の耳元で、こっそりと囁くその声の調子とその笑顔に、逆らってはいけないと思った二人は、静かに廊下に出て、扉が閉まるのを見た。
「ルルーシュ。‥‥筋書きを無視してしまって、すまなかったな」
ユーフェミアとスザクがいなくなってやっと落ち着いた藤堂は、カッとなっていた自覚があるだけにルルーシュに謝った。
「いや。初めから加わっていてくれたお陰で、色々すっ飛ばせたから、却って良かった」
ルルーシュは首を振って応じてから、藤堂の胸に顔を埋めた。
「‥‥どうした?やはり、堪えたか?」
心配して尋ねながら、藤堂は優しくルルーシュの髪を梳く。
「違う‥‥。こうしていると落ち着いて‥‥暫くこのままでいて良いか?」
すっかり安心しきった様子で言うルルーシュに、藤堂はルルーシュに見えないのを良い事に顔を顰めながらも頷いた。
「あぁ。なんなら暫くと言わず、今日はずっとこうしていても良いぞ?」
藤堂は「これでこの先もずっと安心されていると、おれの抑えが利かなくなるが」と言う考えは、慎重に押さえ込んだ。
こんな時くらい、いつも以上に優しくしようと藤堂は思うのだ。
許可を得て顔を上げるルルーシュに、藤堂は即座に渋面を解く。
ルルーシュは心の底からの嬉しそうな笑みを藤堂に見せると、再びその胸に顔を埋めたのだった。
一方、政庁に戻ったユーフェミアとスザクは、コーネリアとダールトン、ギルフォードからきついお叱りの言葉を頂いて、更なるダメージを受けていた。
了
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作成 2008.04.23
アップ 2008.04.30
★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤ルル/白主従糾弾)
夕刻、チャイムがなったので咲世子は玄関に出る。
扉を開けた先にいたのは、ユーフェミアとスザクで、どちらも私服‥‥というか一般人のような服装である。
「やあ、咲世子さん。ルルーシュ、いるかな?」
笑ってそういうスザクに、咲世子はチラとユーフェミアに視線を向けてから、尋ねる。
「いらっしゃいませ、スザクさん。今日は軍人としていらっしゃったのですか?それとも騎士として?」
本来ここで、スザクは「騎士として」と応えなければならないのだ、隣に主たるユーフェミアがいるのだから、尚の事。
それ以外が答えられた場合、主は騎士を糾弾出来るのだが、恐らくユーフェミアはそれすら知らないのだろう、そしてスザクも。
「ルルーシュの友人、としてだよ?軍は休みなんだ。ユーフェミア様も休みが取れたし」
公人だろうが私人だろうが主は主だし、騎士は騎士なのだが、それすらユーフェミアもスザクもわかっていないのだ。
「わたくしも、ただのユフィとして参りました。ルルーシュはいるでしょうか?」
スザクの言葉に、ユーフェミアも頷いて応じたが、これもまたおかしな話である。
皇族は生まれを指すのだから仕事が休みだろうが皇族のはずである、それを返上するか廃嫡されるまでは。
この二人はどう思っているのか、と咲世子は心底不思議に思う。
もしも咲世子ではなく、別の人が取次ぎに出ていれば、ユフィの言葉はルルーシュを詮索させるだけのものを有しているのだ。
だが、咲世子は「ただのユフィ」と「ルルーシュの友人スザク」を通す。
咲世子はルルーシュに頼まれていた事、「言質を確かに頂戴いたしました」と胸のうちで呟いた事に、当然ながら二人は気付いていなかった。
ユーフェミアとスザクが通されてくる事になっている部屋で、ルルーシュは少し緊張しながらソファに座っていた。
藤堂はそんなルルーシュを見かねて隣に腰掛け肩を抱いた。
初めは部屋の隅にいる予定だったのだが、予定は未定、繰り上げても問題なかろうと藤堂は考えたのだ。
「藤堂‥‥。すまない」
ルルーシュはそう言って藤堂にもたれかかる。
「謝る必要はない。おれは頼られて嬉しいと思っている。‥‥このまま二人きりならもっと嬉しいんだがな」
「‥‥そう、だな」
藤堂がルルーシュに笑みを向けると、ルルーシュもまた、同意してぎこちないながらも笑みを見せた。
緩やかで穏やかなそんな時間は、咲世子のノックが聞こえるまで続いていた。
その部屋に通されたスザクは、視線を巡らせた後、ピキリと固まった。
スザクに続いて部屋に入ったユーフェミアもまた、それを目撃するなり絶句して目が離せなくなった。
咲世子は気にする事無く、部屋に入ると扉を閉めて、既に用意してあるお茶のセットの傍にいき、準備を始める。
目を離すとどうなるか不安だったので、咲世子は事前に準備して持ち込んでいたのだ。
スザクとユーフェミアが見たもの、それは、藤堂(ユーフェミアは見知らぬ男と認識した)の肩にもたれて眠るルルーシュの安らいだ姿だった。
「‥‥なッ!なんで、藤堂さんが、ここに‥‥ッ!」
我に返ったスザクが発した声はあまりにも大きかった。
「スザク君。眠っているのが見えないのか?気遣って声を落とす事も考え付かないとは‥‥」
藤堂はスザクの問いに答えずに、非難がましく苦情を述べる。
だが、スザクの声はルルーシュが目覚めるには十分で、ルルーシュにとってはなんとも不快な目覚めとなった。
警戒も露わに上体を起こすと、ルルーシュは室内を見渡し、ユーフェミア、スザク、咲世子、藤堂の順に視界に入れてから、警戒を解いて座りなおした。
「来ていたのか‥‥。転寝していたようだ。話があるんだろう?座れば良い」
ルルーシュは藤堂の事にはふれずに、二人にソファを勧めた。
「ルルーシュ様。お休みだったとは気付かず、申し訳ございませんでした。ご友人のスザクさんとユフィさんがお越しですわ」
と、咲世子が言質を取った事を知らせる為に、遅ればせながらそんな報告をしながら、お茶をテーブルに置いて行く。
だが、スザクもユーフェミアも藤堂が気になって動かない。
「る、‥‥るるーしゅ?どうして、と、藤堂さんがここに?」
動揺したまま、スザクが尋ねる。
ルルーシュはスザクを見上げ、瞬いて首を傾げた。
「いけないのか?スザクも昔は世話になっているだろう?」
「どなたですの?ルルーシュ」
やっと我に返ったユーフェミアが尋ねる。
「藤堂鏡志朗。以前はスザクの師匠だった男だ。‥‥そうだな、ユフィには『厳島の奇跡』と言った方がわかりやすいか?」
このエリア11ではあまりにも有名なそのフレーズを、だがユーフェミアは知らない様子で首を傾げていた。
それが意味するところは、このエリアの事を何も学んでこなかったという事だ。
「い、いけないのかって。だって藤堂さんは黒の騎士団の人間なんだよ!?知らないわけじゃないだろ、ルルーシュだって」
スザクはルルーシュと藤堂の落ち着きぶりに憤って叫んだが、ユーフェミアはルルーシュがゼロである事を知っているので却って納得した。
「スザク、座りましょう。今日は話をしに来たのですよ」
ユーフェミアはスザクを注意すると、ルルーシュの向かいのソファに腰かけた。
スザクもまた藤堂を気にしながらも、ユーフェミアの隣に座る。
「る、ルルーシュ?学園の警備って厳しいんだろ?部外者の藤堂さんをどうやって入れたの?」
スザクが驚くのは、「だって藤堂さんって顔も知られているし、手配だってされてるだろうし、見つかるとやばいだろ?」と思ったからだ。
「何言ってるんだ?スザク。お前だってユフィを連れて来ているじゃないか。ユフィだって学園関係者じゃないんだし、同じ事だろう?」
ルルーシュはとりあわず、首を傾げてスザクを見る。
「え?だけど、ユフィは皇族だし」
「今は唯のユフィなんだろ?その唯のユフィを通しているんだ。唯の藤堂さんを通したって別におかしくはないだろう?」
混乱するスザクにルルーシュは笑って「藤堂さんも今日は騎士団が休みなんだ」と言った。
勿論ルルーシュ自身はおかしい事を承知でそう言っているのだが。
「‥‥休み?」
「なんだ、スザク。お前だって軍、休んでるんだろ?騎士団にだって休みが有っても不思議じゃないよ。年中無休でテロしてるわけじゃないんだし」
「けど‥‥手配書が回っているんだし‥‥」
「一度でもテロリストに手を貸したら、それ以後どんな状況でも犯罪者‥‥か?」
「う、うん。そうだよ、ルルーシュ」
「スザク。そこまで言ってしまっては誰も改心する事が出来なくなりますわ」
ユーフェミアの言葉に、スザクは「そうかなぁ?」と思いながらも曖昧に頷いた。
後編に続く。
───────────
作成 2008.04.23
アップ 2008.04.29
★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤ルル/白主従糾弾)
月下の整備をしていると、ゼロがやって来るのに気付いて、藤堂は手を止めた。
遠目にも様子がおかしい事がわかったからだ。
近くまでやってきて足を止めたゼロに、藤堂は尋ねた。
「ゼロ、何か有ったのか?」
ゼロが来るなりの藤堂の言葉に、傍にいた四聖剣は驚いてゼロを見るが、普段通りだろうと首を傾げる。
「‥‥整備が終わってからで良いのだが、‥‥少し相談したい事がある。時間を作って欲しい」
ゼロの言葉に、藤堂は微かに顔を顰め、今後の予定を思い浮かべてから頷いた。
「わかった。一時間後、部屋にお邪魔する」
「おれとの予定があるのにッ!」とでも声を上げそうになっていた朝比奈の口は卜部が抑えて封じていて、藤堂は表に出さずに卜部を褒めた。
藤堂は時間通りにゼロの私室を訪れ、ゼロは即座に室内に通した。
勧められるままにソファに座って、藤堂は「それで?」と用件を尋ねた。
ゼロは仮面を外してルルーシュとなり、向かいのソファに座って、暫くしてから切り出した。
「‥‥‥。藤堂、お前の手を借りたい事があるんだが‥‥」
ルルーシュの言葉に藤堂は表情に出さずに驚く。
ルルーシュは、これまで気を張って生きてきて、誰かに頼るという事自体に慣れておらず、藤堂にすら頼る事があまりない。
有能だから誰かに頼らずとも大抵の事は難なくこなしてしまい、頼らなくてもなんとかなるのも要因の一つだったりする。
そんなルルーシュがわざわざ藤堂を呼びに来てまで手を借りたいと言った事に驚いたのだ。
「おれに出来る事ならば何でもしよう」
一体どんな難題にぶつかっているのかと、藤堂は眉間の皺を深くしてルルーシュを見た。
「‥‥実は、明日の夕方にクラブハウスに客が来るのだが‥‥」
ルルーシュは言い難そうに、そう説明を始める。
「ミレイに頼んで、ナナリーに明日はミレイの本宅に泊まるように言ってあって、それについては問題ないのだが‥‥」
藤堂は「最愛の妹を遠ざける程の客とは」と危険を感じ、「その客人は一体何者だ?」とルルーシュに尋ねた。
「‥‥『ゆっくり話がしたい』、『明日の夕方から少し纏まった時間が取れる』、『話をしよう』、『遊びに行く』‥‥。ろくに返事も出来なかったよ」
そう言って苦笑するルルーシュに、藤堂は「やはり、か」と思う。
「‥‥ユーフェミア皇女とスザク君、なんだな?」
確認の為に尋ねる藤堂に、ルルーシュは力なく頷いた。
「一人では、最後まで笑っていられる自信がない。第一笑っていられる話でもないだろう。昔話もあるかも知れないが、『特区』の件がメインだろうからな」
「無理に笑う必要はない。妹君もいないのならば、尚更だ。そうすれば、少しは二人も身に沁みるかも知れない」
「沁みないさ。その場限り、表面を通り過ぎるだけだ。留まりさえしない。その時だけ悲しそうな表情を作るだけで、変わりはしない」
藤堂のある意味希望的観測を、ルルーシュは一蹴してのけた。
言われてみれば確かに、と藤堂はルルーシュの言葉を認める。
身に沁みるのならば、これまでの間に、言動になんらかの変化が有ってしかるべきだったのだから。
「だから、藤堂。二人が来る時に、同席していて欲しい」
そう続いたルルーシュの言葉に、しかし藤堂は目を見開いた。
「‥‥おれが、黒の騎士団に所属している事は、知られている。君も関わりがあると知れてしまうぞ?」
藤堂も同席してルルーシュを守りたいと思ったが、その前に懸念事項について尋ねる。
「ユフィはゼロの正体を知っている。だからこそ公衆の面前でゼロに呼びかけた。『ルルーシュならば応じるだろう』と安易に信じ込み、おれに確認すらせずに」
「同席しよう。いつどうやって行けば良い?」
ルルーシュの返答に、藤堂はあっさり前言を翻して即座に応じた。
藤堂は四聖剣に「出かけてくる。何もなければ戻るのは二日後だ。後は頼む」と言ってアジトを出てきた。
突然の事に、四聖剣の面々は驚いたり、単独行動を心配したりと忙しかったが、藤堂は何とか四人を宥めた。
ゼロは出てくる前に扇に「表が少し忙しいので数日来れない。特区は会場の工事等で日は有るから、戻ってから話をしよう。後は任せた」と言っておいた。
藤堂は外でゼロの衣装ではなくなったルルーシュと合流し、地下の秘密の回廊を通ってクラブハウスまで人に見られる事無く移動した。
「ごめんね~、ナナちゃん。無理言っちゃってぇ~」
苦笑を浮かべて明るい声で平謝りするミレイにナナリーは優しく微笑む。
「良いんです、ミレイさん。じゃあ、咲世子さん。お兄様をよろしくお願いしますね」
「お任せください、ナナリー様」
朝早く、迎えに来たミレイが短いやり取りの後、ナナリーの車椅子を押してクラブハウスを出て行った。
「‥‥宜しかったのですか?ルルーシュ様」
「あぁ、構わない。今日は少し難しい話になるかも知れなくてね。ナナリーには後で謝っておくよ」
ミレイとナナリーの姿が見えなくなってから、咲世子が憂い顔で尋ねると、ルルーシュは苦笑して頷く。
「そうですか。‥‥本当にそうなさってくださいね、ルルーシュ様」
咲世子にとってはいつも世話をしている分、ナナリー至上なので、ついルルーシュに対しても咎める色合いが声音に混じってしまうのだ。
「うん。勿論だよ、咲世子さん。ところで、今日の件、宜しく頼むね」
「心得ております。わたくしと致しましても、皇族や軍の方をお招きしたいとは思いませんし‥‥。お任せくださいませ、ルルーシュ様」
咲世子はそう請け負って頭を下げたのだった。
中編に続く。
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作成 2008.04.23
アップ 2008.04.28
──審査編初期Ⅱ──
その日、ゼロは自室で入団希望者リストを眺めていた。
藤堂と四聖剣が騎士団に合流後、これまでにも増して入団希望者が増えていた。
中にはスパイや明らかに怪しい者も含まれてくるので、審査は何重にも及び、次第に厳しいものになってきている。
そう、例えるなら今玉城辺りが審査を受ければ、まず間違いなく落ちているだろう程、にだ。
最終審査はゼロ自身がおこない、最終的な合否が決まるようにしているのはトップに立つ者の務めだと思っているからだ。
ふと、リストを捲っていた手が止まる。
ブリタニア人。
ディートハルトが入団後、それが知られているはずはないというのに、時々見かけるようになった。
ディートハルト以外にまだ入団許可を出した事はないが、リストを作成している一人であるディートハルトは、それを何故か喜んでいる。
まずは特記事項に視線を向け、唖然とする。
「‥‥なんの冗談だ?」
そのまま顔写真と、氏名に改めて目を向けた。
「‥‥‥‥。見なかった事にするべきだろうか、これは‥‥」
とりあえず保留にして次に進み、ゼロは素で泣きたくなった。
見覚えのある顔が、と言うよりはかつては良く見た顔の乗った書類が三枚。
全てブリタニア人である。
とりあえず、リストから外し、別の場所によけておいて、続きを見る事にした。
幹部だけでおこなわれるミーティングも滞りなく終わり、後はゼロの解散の合図を待つだけとなった時である。
「‥‥。ディートハルト」
ゼロが、思い出したかのように、広報担当の名前を呼んだ。
「はい」
「これは今回の入団希望リストの最終合否だ。処理しておけ」
「承知いたしました」
ディートハルトは席を立つと書類を受け取りに行き、「他には?」と尋ねる。
「‥‥‥この後、話がある。ラクシャータと藤堂もだ。‥‥扇とカレン、四聖剣については任意。残りは解散」
難色を示すのはいつもの如く玉城である。
「はぁあ?半分以上じゃねぇかよ。ならこの場で話したって構わねぇんじゃねぇのか?」
「‥‥‥。ならば変更する。ディートハルト、ラクシャータ、藤堂はわたしの部屋に来い。残りは‥‥そうだな、代表で仙波。以外は解散」
ゼロは前言を翻すと、そのまま自室に引き上げていった。
「‥‥玉城ッ、あんたが文句ばっか言うからわたし達まで締め出されたじゃないの」
「そうですよ。おれだって藤堂さんが聞く事知りたかったのに」
任意と言われていて参加する気満々だったカレンと朝比奈が玉城に詰め寄った。
「しかし‥‥。何故仙波さんだったのだ?」
「一番の年長者だからじゃねぇの?」
千葉と卜部は顔を見合わせてから、仙波を見て囁き合った。
「めんどぉだわぁ」
そんな騒ぎを眺めながら、ラクシャータは盛大な溜息を吐いてからゆうらりと立ち上がる。
無言で立ち上がった藤堂と、キビキビとした動きで早速階段に向かうディートハルトの後を追い、仙波も藤堂に従った。
「ディートハルト。貴様何を考えている?」
自室に四人を招いたゼロは、椅子を進め、四人が座るのを待って、そう切り出した。
ちなみに長ソファはラクシャータが一人で占領し、藤堂とディートハルトはそれぞれ一人掛けのソファに座っている。
仙波は一人だけソファではなく藤堂の後ろに移動させた椅子に腰かけていた。
藤堂とラクシャータ、仙波の視線がディートハルトに向かう。
「わたしには判断がつきかねましたので、ゼロの判断を仰ごうと思った次第ですが?」
ディートハルトは平然と応じる。
「‥‥貴様以外ならば、わたしの元に来る遥か手前で即座に落としていただろうな」
「わたしも一瞬そうしようかと愚考いたしましたが、思い直しまして」
ゼロは黙ったままディートハルトを見ていた。
「‥‥先程ザッと目を通しましたが、合否どちらのリストにも載っておりませんでしたね?」
「ちょっとぉ、ゼロぉ?一体入団希望者とわたし達に何の関係があるってのよぉ?」
要領を得ない二人の会話に痺れを切らせたラクシャータが口を挟んだ。
「入団希望者が技術屋でな。君の意見が聞きたい」
ゼロはそう言うと、テーブルの上に二枚の経歴書を置いた。
ラクシャータはそれに触れる事無く、一瞥しただけで顔を顰めた。
「って‥‥なんでプリン伯爵がぁ?」
「やはり知り合いか。こちらの女性もか?」
「えぇ‥‥プリン伯爵とぉ、セシルちゃんじゃないのぉ」
驚くラクシャータにゼロは二つの経歴書の備考欄を指し示した。
「‥‥‥‥‥ひとっ言も聞いてないわぁ」
『ラクシャータに照会すればぼくの身元はハッキリするよぉ~』
『ラクシャータさん、よろしくお願いしますね』
それぞれ、備考欄にはそう書き込まれていた。
「で?どんな奴等だ?」
「プリン伯爵はぁ、ナイトメア以外一切興味のないオタクの変人よぉ。今はオモチャがあるからこんな気なんて起こさないと思ってたけどぉ?」
「‥‥オモチャ?」
「そ。騎士団じゃ、『白兜』って呼んでるナイトメア。あれの開発担当じゃないかしらぁ?」
「ふぅん?‥‥つまりこちらのナイトメアの情報を手に入れる為のスパイ、と言うことも有りか?」
「プリン伯爵に限ってそれはないわねぇ。セシルなら有りかも知れないけど、プリン伯爵が一緒となると可能性は低いわぁ」
「ナイトメアを破壊する為の工作要員と言う事は?」
「それも有り得ないわぁ。わたし達は技術屋だからねぇ」
「では次だ。今度は藤堂とディートハルトにも意見が聞きたい」
次にテーブルの上に置かれた経歴書は一枚。
既に知っているディートハルトは口の端を上げただけだったが、流石の藤堂とラクシャータ、そして仙波も絶句した。
アンドレアス・ダールトン。
「コーネリアの元副官にして、ユーフェミアの補佐。及び白兜関連がごっそりだな。‥‥ディートハルト。ダールトンとはどんな奴だ?」
「真面目で実直。仕える者が道を踏み外そうとしていれば、身体を張ってでも止めようとする男だと思っておりましたが」
ディートハルトはそう答え、「まさか自身が道を踏み外すとは‥‥」と苦笑する。
「どう思う?藤堂、仙波」
問われて藤堂と仙波は渋面を作る。
かつて、国土防衛戦での戦争からして、その名前を耳にしていた、歴戦の将だったはずである。
「国を裏切るとはとても思えないが‥‥」
藤堂の指が動いて、ダールトンの経歴書の備考欄を指した。
「‥‥ゼロ。これは?」
『お疑いになるのは承知しておりますが。ゼロ、貴殿にお味方したく存じ上げる』
「あらぁ?熱烈ねぇ、ゼロ。あんたさぁ。もしかして個人的な知り合い?そんでもって正体バレてたりするのぉ?」
ラクシャータはにやにやとゼロの返事を待っている。
「‥‥心当たりは一人だけ‥‥。恐らく口を滑らせたか何かしたのだろうな‥‥」
「て事はぁ。‥‥わかっちゃったかもぉ?あんたの正体ぃ」
「だ、ろうな。ダールトンがコーネリアよりもと思う相手は限られている」
「そーよねぇ。だけどぉ?どーして彼一人だったのかしらぁ?」
「ダールトンは選任ではないからな」
「‥‥ゼロ。君は‥‥」
「‥なんだ、藤堂も気づいたのか?」
「あ、あぁ。‥‥可能性を考えれば、それしかないからな。‥‥また会えて、嬉しく思う」
それが本当に嬉しそうな声音だった事に、居合わせた三人は驚く。
「藤堂中佐。‥‥ゼロと以前よりお知り合いだったのですか?」
「面識有りなのぉ?ホントあちこちと顔広いわよねぇ?」
「‥‥あの‥‥」
「へぇ?あんたはわからないんだ?ディートハルト。残念ねぇ。教えるつもりはなくってよぉ」
「‥‥悪いが、おれも口を割る気はない。‥‥それと、仙波。お前も面識ならばあるぞ。忘れているだろうが」
おかしそうに笑うラクシャータに、苦笑する藤堂、首を傾げる仙波に一人悔しげに唇を噛むディートハルト。
「‥‥とりあえず、仮入団、とでもしておくか?‥‥ディートハルト。足がつかないように、アジトに招いておけ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。は、はい。承知いたしました、ゼロ」
長い間の後に、ディートハルトは頷いたのだった。
了
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作成 2008.03.05
アップ 2008.04.27
★レイシア様へのリクエスト作品★
(ルルーシュにやさしい話/目指せスザク糾弾皇族批判と言う感じでなおかつルルーシュ(ゼロ)争奪戦in黒の騎士団)
「一体何の真似ですか、藤堂師匠」
スザクは藤堂にそう言ってから、キッとゼロを睨む。
「どう言うつもりだ、ゼロ。ぼくを浚ったからと言って、人質にしようとしているのなら無駄だよ」
「そんな気はない。無駄は嫌いだからな。‥‥みなが言いたい事があるそうだ。そこで、戦場で口論に裂く無駄を省く為に招待したまで。存分に聞いてやれ」
ゼロはスザクの言葉を一蹴し、「済んでまだ無事ならば戻してやるさ」と笑うと、「後は任せた」と入ってきたばかりのC.C.に言ってゼロは部屋を出て行った。
「あんたに聞きたいのよ。うんざりするくらいしつこくゼロのやり方を否定してくれたけど。否定ってのはね、誰にでも出来るのよね。なら正しいやり方って?」
まずはカレンが冷ややかな侮蔑の眼差しでスザクを見下ろして、言う。
スザクはカレンをにらみ返した。
「何と言われようとテロなんて間違っている!警察や軍に入って、内から変えていけば良いのに、それをしないゼロは卑怯だッ!」
「スザク君。君は名誉になり、軍にも入ったのに、知らないのか?警察や軍に入るにはそれなりの審査と言うものが有る。実際、日本にも有った事だが」
藤堂がどこか淋しげに言い返した。
「知ってます。ぼくだって審査を通って軍に入ったんですから」
「知ってる?だって?審査が有るって知っててそんな事を?‥‥君にはテロをしなければならないって事がどういう事なのかわからないんだろうな」
扇もまた一瞬憤った後、悲しげな声音で言ってスザクから視線をそらした。
「ぼくはテロなんて間違ったやり方はしませんから、そんな人達の気持ちがわかるはずないです。だって貴方達は間違っているんだから」
「ぅわ、むっかつくなぁ、こいつー。おい、カレン。お前こんなのずっと聞かされ続けてたってのか?なぁ、口塞いじゃだめか?」
玉城はスザクの言葉に腹を立て、素直にカレンに同情した。
「スザクは手柄欲しさにわたしに騎士団から抜けて欲しかったらしくって。説得の意味も有ったようですよ?知られてから酷くなりましたから」
カレンがしれっと言いきると、スザクは慌てた。
「なッ。ぼくは手柄が欲しかったわけじゃない。カレンさんがゼロに騙されてるなら、早い内に足を洗った方が良いと思っただけだ」
「中佐の弟子にしては、お粗末ですな。正規の手順すら判らずにゼロや我等を間違っているなどと否定する。話を聞く価値もないのでは?」
「それは言えてる。確かゼロの手を拒否して判決の場に戻ったのは、『間違った方法で得た結果に意味がないから』とかだったはず」
「軍にいる以上、上官への報告は義務。テロは発見次第、逮捕か射殺。彼女に対し、そのどちらもおこなった様子はないな」
「それで『カレン』さんを手懐けて、騎士団の情報でも手に入れて、自分の手柄にしようと考えたのか~。やる事酷いね、君」
四聖剣の連続攻撃は口を挟む暇さえない。
「違うッ」
「あんたさぁ。否定する前に、自分のおこない振り返りなぁ?他人にあれこれ言うのはぁ、やる事なす事矛盾だらけの自分の言動直してからにした方がいーわよぉ」
「そうよね。『内から変える』とかって割には、力のないお飾り選んでるし。他の皇族からは相手にされないから手っ取り早いところで手を打ったの?ばっかよね~」
ラクシャータと井上が前後して言葉を放つ。
「違うッ。ユーフェミア様は優しい方だから。日本人の事もちゃんと考えてくれて、ぼくにだって優しくしてくれる。素晴らしい方だ。だからぼくはッ」
「あのさ。あのお飾りが何かをしたって話、全然聞かないんだけど。‥‥日本人の事を考えて、あのお飾りが一体何をしたっていうの?実績は?」
「結果が伴わない事を幾ら言おうがやろうが、意味がないって知ってるか?それくらいちっと頭使えばわかることだろ?」
カレンはユーフェミアをけなし、玉城はスザクを責める。
「だからと言って、間違った方法で得た結果なんて意味があるはずがないッ!」
「面白い事を言うわねぇ。ならあんたはさぁ。事故を起こした少年を助ける為に病院に運ぶ時、法定速度を守って『ごめん間に合わなかった』っていうわけかぁ」
「あ、それ知ってる。医者が言うんだろ?『後少し早くついていれば‥‥』ってさ」
「スザク君。おれは君に、『君の信じる道を行け』と言ったが、それは『約束を破っても良い』事にはならない。流される事が君の道とは思わなかったよ」
「そんなッ。違います。ぼくはッ!」
「スザク君。過程が大事だと君は言うが。では君が騎士になった過程がどうだったのか、ちゃんと確認してみたのか?確認すらしないで引き受けたのか?」
「あんなのッ!お飾り皇女のその場の思い付きでしょッ!どうせ、非難されるだけだったどっかの誰かが可哀想とか思ったのよね」
「あぁ、それまではイレブンが乗ってるなんて知らないブリタニア人が結構白兜の応援してたのに、あの一件でばれて非難浴びてたんだって?」
「なぁんにも出来なくて、肩身の狭い思いを勝手にしてた自分と重なったかなぁ。騎士制度も遊びじゃぁないのにねぇ」
「‥‥。少なくとも騎士は失格ですよ。枢木は。主たるユーフェミアへの暴言を認める発言が有りましたし。『だからと言って』とは肯定の意味です」
それまで大人しかったディートハルトが、冷ややかに言ってのけた。
スザクは蒼白になって俯く。
それを見たC.C.が口を挟んだ。
「‥‥やれやれ。そろそろ終わりかな?ディートハルト。どうせ録音でもしていたのだろう?編集して一緒に送り届ける準備でもして来い」
「わかりました」
「扇、玉城。お前達はそいつを連れて行け。もう十分言っただろう?まだ無事のようだからゼロの言ったように戻してやろう」
扇と玉城は盛大に溜息を吐くと、ディートハルトに続いて、スザクを連れて部屋を出て行った。
引き立てられていくスザクを見たのか、ディートハルト辺りが声を掛けたのか、ゼロが入ってくる。
「終わったのか?」
「あぁ。上位3名が藤堂とカレンとラクシャータ、と言ったところだな」
「‥‥ふむ。ディートハルトの言い分もあながち間違いではなかったんだな。それで?」
「わたしは藤堂を押す。一番ダメージを与えていたように見えたからな」
C.C.はあっさりと勝者を告げ、ゼロもまたさっくりと頷いた。
「そうか。‥‥で、藤堂。本当に、こんな選び方で良いのか?」
「君はおれの事をどう思っている?」
「好きだぞ?お前は昔から強くて優しかったからな。憧れと尊敬と、‥‥あの時は傍にいてくれれば良いのにと言った独占欲も有ったかもしれない」
「そうなのか?‥‥なら、今は?」
藤堂は目を見開いて驚きながらも、また尋ねる。
「今?今は、傍にいるだろう?」
首を傾げるゼロに、藤堂は笑った。
「構わない。おれは君が好きだし、君も嫌がってはいないようだ。必ずおれを好きにさせてみせるから」
「はいはい、勝手にやってろ。‥‥わたしは寝るからな」
早くもバカップルぽくなった出来立てカップルに、ひらひらと手を振ってC.C.は立ち去っていった。
少女を見送った藤堂はゆっくりとゼロを抱きしめる為に腕を回した。
「負けた~~」
「悔しいのぉ?お嬢ちゃん」
「う~ん。かなり。でも、ストレスは発散できたから、今回は譲ります。もし次があるなら絶対負けませんけど」
「殿下いますか~?」
「どうしたんだぃ?ロイド」
「ちょっと落ち込んでまして~。愚痴聞いてください~」
「‥‥そのまま回れ右して帰ってくれるかな?ロイド」
「や~ですよ~。実はですね~。昔の同僚から連絡がありましてー。ちょっとした遊びにデヴァイサー借りましたーって」
「確か、枢木スザク、だったね?それが?」
「なんでも、騎士団内で、『ゼロ争奪戦』をしたとかで、勝者はゼロの恋人になったそうなんですよー」
「なに?まさかゼロに恋人が出来たって言う話なのかい?」
「そーなんですよー。『奇跡の藤堂』が勝者らしくてー。なんとかなりませんかねー、殿下ー」
「‥‥わかった。コーネリアや父上に相談してみよう」
「‥‥‥‥。殿下?もしかして、単に知らせるだけとか言いませんか?ご自分だけ知って悔しい思いをするのが嫌なんですねー?」
「当然だろ、ロイド。君ももっと早く情報を持ってきなさい。そうすれば参加できたのに」
「はぅ‥‥。もー、ぼくは帰りますねー。健闘を祈ってますー」
「スザク、スザク。ここを開けなさい!これは命令ですよ?」
ユーフェミアの言葉にも扉は開かず、中からはすすり泣くスザクの声が聞こえていて、ユーフェミアは途方に暮れていた。
了
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作成 2008.04.21
アップ 2008.04.26
★レイシア様へのリクエスト作品★
(ルルーシュにやさしい話/目指せスザク糾弾皇族批判と言う感じでなおかつルルーシュ(ゼロ)争奪戦in黒の騎士団)
その日、ルルーシュはゼロとしていつものようにアジトに行き、いつものように過ごすはずだったのだが。
ゼロは会議室のいつもの席に座り、「何故自分は騎士団の活動をするでもなく、ここに座っているのだろう」と、内心で首を傾げていた。
そう、それが半分以上自分の蒔いた種であったとしても、首を傾げたくなるのは致し方ない。
事の起こりはディートハルトのいつもの一言だった。
「ゼロ、今日もお美しい。いつまでもお慕い申し上げます」
ディートハルトのこの手の発言はいつもの事なので、ゼロはあっさりスルーして書類から目を離さない。
しかし、ディートハルトはゼロの仮面の何を見て「美しい」などとほざいているのかと、ゼロは毎度ながら不思議には思う。
ゼロが無反応だと諦めがつくのか、暫く待った後ディートハルトは下がるのだが、この日は違っていた。
「ゼロ~。おれも君が好きだよ~」
何を思ったのか、朝比奈が参戦してきたのだ。
「むッ。ゼロはわたしが」
「変態カオスは黙ってろ。ゼロに移ったらどうするのさ」
そして、参戦者は朝比奈だけではなかったのだ。
カレンが、藤堂が、千葉が、更にはラクシャータや井上や扇や玉城までもが名乗りを上げるに至って、ゼロはキレた。
「黙れッ。一体なんの冗談だ?」
「冗談なんかじゃない。わたしはゼロが好きなんだ」
千葉が切々と訴える。
「お前等どうかしたのか?素顔も見せない、素性も明かさない謎しかないようなわたしの何処が良いと?」
ゼロは集まってきた幹部達を見渡して尋ねる。
「あらぁ?謎だらけってわけじゃないわよぉ。少なくともぉ、わたしは貴方の事を知ってるしぃ。その上でこうしてるんですものぉ」
ラクシャータはそう言って、「好きですよぉ、とってもぉ」と続ける。
「おれも、君の事を知ってる。君が何故ゼロになったのか、何を望んでいるのかをおれは知っている。だからこそ一番近くで守りたいと思う」
藤堂もまたゼロの言葉を否定して「好きだ」と訴える。
「わたしだって知っているわッ。そりゃ、初めは驚いたけど、今はそんな事はどうだっていいんです。貴方が何の為に戦っているのか判ったから」
カレンもまたそう言って告白を続ける。
「知っている‥‥ですって!?それは重大なフライングではないですか。情報は共有するべきです。是非教えなさい」
ディートハルトは3人に迫り、「プライバシーは何処に行った?これだから報道関係者は!?」的な発言をする。
「言うわけないでしょ。ライバル増やすようなマネ誰がするもんですかッ」
カレンは突っぱね、藤堂とラクシャータは初めから取り合わない。
ゼロは混乱した。
ルルーシュの時にさえ、これだけ多岐に渡った大人数に一度に告白された事はない(大体が一人ずつおこなうものだろう?)からである。
いや、それ以前に、「いつから気付いていたんだ?藤堂にラクシャータにカレンはッ」とも思うわけで。
「この中から誰かを恋人に選んでくださいッ」と口を揃えて言う彼等に、ゼロはうっかり頷いていた。
気付いたのは、頷いたゼロに彼等が歓声を上げた時だった為、取り下げる事は最早不可能だった。
「‥‥ッ言っておくが、わたしの一番は既に決まっている。それを変えるつもりは毛頭ない事は念頭に入れておけ」
と、ゼロは負け惜しみのように言った。
「勿論よ」「無論、承知の上」「当然よねぇ」
ゼロの正体を知るという三人が間髪入れずに首肯したので、他のメンバーもまた頷いた。
その「一番」というのはゼロにとって神聖な者なのだと理解したからである。
「それと、わたしから、誰と付き合うとはすぐには決められない。それでもすぐに決めて欲しいと言うのならば、一つ考えがないでもないが‥‥どうする?」
ゼロのそう続いた言葉に、一斉に頷いた幹部達を見て、ゼロは低く「判った」と告げた。
そして今に至るのだ。
ゼロは会議室に座り、黙って時を待っていた。
同様にして座るのは、ディートハルトとラクシャータ、扇、玉城、井上だった。
ゼロと彼等は、藤堂と四聖剣とカレンが首尾よく事を運んで戻ってくるのを唯待っていたのだ。
バタバタと騒がしい足音を響かせて、次いでバタンと扉を開けて入ってきたのはカレンだった。
「ゼロ!首尾良く作戦終了です。今藤堂さん達も来ます」
「ご苦労。‥‥しかし、今更だが、本当にやるのか?‥‥争奪戦を」
「「「「もっちろん!」」」」
声を揃えて頷く一同に、「性格変わっているだろう、お前等。特に扇。ノリが良過ぎだ」と疲れた思考回路でゼロは思う。
そこへ、藤堂と四聖剣が戦場で捕らえてきた枢木スザクを引っ立ててやってきた。
ゼロの出した条件、その一つ目が「とりあえず枢木スザクを連れて来てから始めよう」だった。
理由を聞いて納得した一同は、ゼロに計画を練って貰って、藤堂と四聖剣、カレンとC.C.とで出かけていって見事に枢木スザクを捕虜として戻ってきたのだ。
ここに、「ゼロ争奪戦in騎士団」の準備は整っていた。
後編に続く。
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作成 2008.04.21
アップ 2008.04.25
★無焔様へのリクエスト作品★
(ルルーシュにやさしい話/黒の騎士団が戦場でスザクを追い詰め、学園でも生徒会が容赦ない)
スザクは重い身体を無理やり動かして学園を目指していた。
やっと見え始めた学園を見ながらも、深々とした溜息が出る。
そして、スザクは昨日の事を思い返してみた。
例によって黒の騎士団が現れたという情報を受け、特派にも出動要請が有った。
スザクは今度こそゼロを捕まえる気満々でランスロットを発進させ、黒の騎士団が現れた場所へと向かったのだ。
ランスロットが現場に着いた時、その場のブリタニア軍側は既に壊滅状態で、黒の騎士団は撤退しようとしていたところだった。
どうせまたゼロが卑怯な手を使ったのだろうと、苦々しく思いながら、スザクはランスロットを突進させていった。
『スザク君。無理はしないでね』
「はい、わかっています」
セシルからの通信に、そう応じ、見つけた騎士団のナイトメア「無頼」にスラッシュハーケンを発射した。
だが、まるで動きが読まれていたかのように、無頼はその場から動きスラッシュハーケンをかわしたのだ。
スザクは紅蓮弐式や藤堂の乗る月下以外からかわされるとは思ってもいなかったので、目を見張り、慌てて後を追いかけた。
何時しか市街地を抜け、それなりの広さの荒野へと差し掛かったところで、無頼を見失ってしまい、スザクはランスロットを止めた。
『スザク君。‥‥一旦戻った方が‥‥』
控えめに言うセシルに、「大丈夫です」と応じたスザクは、更にランスロットを進ませた。
スザクは学園の門前にたどり着くと再び深~い溜息を吐き、それから目を丸くした。
普段は開いている門が、今日は何故か閉じられていたからである。
「えーと、この場合は確か、学生証を通すんだったよね‥‥?」
カードキーになっている学生証を取り出して、門の横に備え付けられているカードリーダに通したスザクはエラー音に泣きたくなった。
スザクが学園に来た時はいつも開いていた門、その為にスザクはまだカードリーダを使用した事がなかったのだ。
やり方が拙かったのかと思ったスザクは、再び、今度はそっとカードを通すが、やはりエラー音が鳴るだけで、門が開く様子はない。
『警告!警告!不法侵入者は処罰!不法侵入者は処罰!』
更に警告まで鳴り出し、スザクは数歩後退する。
すると、ピタと警告は鳴り止んだ。
スザクは唯でさえ疲労した心と身体に更なるダメージを受けた事を自覚していた。
荒野の中程まで来た時、騎士団の紅蓮弐式が襲い掛かってきて、慌てて跳んで逃げた。
だが、着地地点には、月下が踊りかかってきて、いつかの戦いを髣髴とさせて、スザクは焦る。
前と違う回避行動、前と違う‥‥と言い聞かせながらでは、動きが鈍って当然で、前回は藤堂の月下以外は完璧に避けられていたというのに掠りまくった。
ランスロットのあちこちに傷を作り、動揺したスザクは藤堂の月下の繰り出した三段突きをよけ損なって、ランスロットの首を飛ばされてしまった。
更に背後から襲ってきた四聖剣の攻撃により片手と片足を持っていかれ、脱出装置がつけられていないと散々聞かされていたというのに思わず動かしていた。
だが、何故か脱出機能は作動し、スザクはランスロットを残して脱出する事に成功していた。
もっとも狙い済ましたような大量に繰り出されるスラッシュハーケンの攻撃に晒されたコックピットは、飛来している間にも、衝撃を受け続けていたが。
騎士団のナイトメアが追ってくる様子はなかったが、スザクを乗せて飛んで行ったコックピットはかなりの衝撃を持って地面に激突した。
衝撃に次ぐ衝撃に、スザクはかなりのダメージを受けたのだった。
通信装置はランスロットにしかなく、移動手段は己の足しかないスザクが特派のトレーラーに戻ったのは夜中を過ぎた頃だった。
スザクは心配して迎えてくれると思っていたのだが、誰もが厳しい顔をしてスザクを睨んでいた。
「ぼく、あれ程ランスロットを壊さないでねって言ってたのに、まさか大破された上に、置いて来ちゃうなんてね」
ロイドが冷たく言った。
「わたしは無理をしないようにとも、一度引いた方が良いとも言ったわよね?『大丈夫‥‥』、そう言ったのはスザク君だったのに‥‥」
セシルが悲しそうに言う。
「ランスロットがなくなったら、おれ達失業でしょうか?」
「さぁなぁ。万が一の為に、身の振り方、考えておいた方が良いかも知れないな」
特派のメンバーもまた、口々に暗い未来予想を述べた。
「あー‥‥。とにかく、スザク君。君さ、暫く謹慎だからねー」
ロイドはそう言うと、手を振ってスザクを追い払うような仕草をしてからモニターに向き直った。
「あれー?騎士様じゃね?‥‥何してるんだ?こんなところで?」
不意に聞こえたリヴァルの声に、スザクはホッと顔を綻ばせて振り返った。
「あ、うん。校門が閉まっててどうしようかと。学生証通してもエラーになってしまって‥‥」
「なんだ、連絡回ってなかったのか?まぁ、騎士様だしなぁ、スザクは。今学園休みだぜ?寮生以外は入れない事になってる。お前通いだろ?」
リヴァルはあっさりと答えると自分の学生証をカードリーダに通して門を開ける。
サイドカーを押して門を潜るリヴァルに続いて入ろうとするスザクに、リヴァルが声を掛けた。
「おいおい、聞いてなかったのか?寮生以外は立ち入り禁止だって言ったばっかだろ、おれ。門潜ると警備来るぞ?」
リヴァルの言葉にスザクの動きが止まる。
「あ、‥‥そうか。‥‥なら、ルルーシュを呼んで来て欲しいんだけど」
「そいつも無理。あいつ今いないし。出かけるとか言って、おれまでおいてったから、戻ったらとっちめてやるけど。じゃあな、騎士様。お仕事頑張れよ」
リヴァルがそう言うと門は再び閉ざされ、リヴァルはサイドカーに乗って後ろも見ずに遠ざかっていった。
取り残されたスザクは、「なんで!?」と首を傾げつつ、行くあてもないのにとぼとぼと来た道を戻っていった。
ルルーシュは騎士団幹部の前で宣言した。
「今度という今度は、スザクを許さない」
ゼロの格好すらしていない、制服姿のまま、やって来て早々のルルーシュの宣言に、幹部達は「「「そうこなくっちゃ」」」と賛同する。
「「「なんっでも言ってくれッ!!!」」」
そう口を揃える幹部達に頷いたルルーシュだが、まずした事はどこかへ連絡を入れる事だった。
「おれだ。‥‥‥ああ、今度という今度はおれもキレた。‥‥そうだな、それはラクシャータに。あぁ、それについてはおれが検討する。後は任せた」
短いやり取りの後、通話を切ったルルーシュはまっすぐに朝比奈を見た。
「今回は無頼に乗って貰うぞ、朝比奈。囮役だ。白兜を誘い込む」
「まっかせて~。白兜の攻撃なんて全部避けてあげるから♪」
「藤堂。朝比奈の月下にはC.C.を乗せるが、連携に問題はないか?」
問われた藤堂は四聖剣に視線を向けると、それぞれ頷くので「大丈夫だ」と応じる。
「ラクシャータ。白兜のデータをロイドから受け取れ。今回スザクが乗る白兜は似せた別の機体にするそうだ。徹底的に叩いても問題ないとも言われた」
「って、プリン伯爵まで巻き込むんですかぁ?徹底してますねぇ。一応敵ですよぉ、彼」
「当たり前だ。それに奴もかなり腹に据えかねているようだから渡りに船だとも言われた」
呆れるラクシャータに、ルルーシュは平然としたものである。
「良いデータは欲しいが、スザクの言い分にはうんざりする、といったところらしいぞ」とルルーシュが言えば、ラクシャータは渋々頷いた。
ルルーシュはそこでふと思いついた表情を見せ、再び携帯を取って何処かへ連絡を入れた。
「あ、会長。おれです」
というルルーシュに、相手がミレイだと気付いた。
「少しお願いが。‥‥えぇ、その件です。良くわかりましたね。‥‥明日から数日学園を休みに‥‥。話が早い。その通りです。では任せます、会長」
話が纏まったのか、携帯を切ったルルーシュは今度はカレンを見た。
「と、言う事なので、カレンには悪いが数日登校は控えてくれ。明日から数日、寮生以外の出入りが出来なくなるからな」
ルルーシュの言葉を聞いた幹部一同は、ルルーシュの怒りの深さを思い知り、全力でスザクを懲らしめ、苦しめる事を誓うのだった。
了
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作成 2008.04.16
アップ 2008.04.24
※「難解な君」の続きです。
G1ベースの一室で、C.C.はソファに座って壁際に立つメカオレンジを観察していた。
部屋に入って立ち位置を決めるなり、閉じた扉を見つめたまま直立不動の体勢で身動ぎ一つしないのだ。
「おい。いい加減座ったらどうだ?『オレンジ君』」
ピクリ。
メカオレンジの身体が揺らいで放つ空気に刺々しさを纏う。
C.C.は「これはもしかすると面白いおもちゃか?」と思ってにやりと笑った。
勿論、C.C.としてもゼロ=ルルーシュを倒されては困るのだが、このどっちつかずの状態が気に入らないのも確かだったのだ。
「‥‥ゼロから『オレンジ』で暴走すると聞いたが、本当か?」
ピ、ピクリ。
またもやメカオレンジは身動ぎ、刺々しさも増した。
メカオレンジはギギギ‥‥と、扉からC.C.へと首を巡らし、ギロッと睨む。
「ゼロの何様!?」
「‥‥‥は?」
C.C.は目を点にしてメカオレンジを見返した。
ゼロが藤堂に支えられるようにG1ベース内の廊下を歩いている。
その後ろに朝比奈が続き、千葉と卜部と仙波も話を聞きつけてやってきて従っている。
少し間を置いて、玉城とディートハルトが続いた。
残りの幹部もついてきたいと思わないでもなかったのだが、どうしても手持ちの作業が押していて抜ける事が出来ず泣く泣く諦めた。
「‥‥ゼロ、平気なのか?」
藤堂が気遣わし気にゼロに問いかける。
「‥‥残念だが平気とは言い難いな。全く、C.C.の奴。あそこまで『オレンジ君』を挑発してどうする気だ?」
この場にいない相手に向かって悪態を吐いた後、ゼロはチラと後ろを見た。
「ついて来るのは勝手だが、部屋に入る時は気をつけた方が良いぞ。この様子だと、扉を開けた途端ズドンと来るかも知れないからな」
ゼロの物騒な言葉に、玉城とディートハルトの足が鈍って距離が更に開いたが、四聖剣は意志の力で更に近づいた。
「ゼロ。部屋に入らない、と言う選択肢はないのか?」
「わたしはこの耳鳴りをなんとかしたい。‥‥考えが纏められないのは致命的だ」
頭脳派のゼロにそう言われては確かに致命的だと思ってしまった(←失礼)ので、それ以上の反論は出なかった。
部屋の前で、藤堂は足を止めるとゼロに「開けるぞ?」と確認を取った。
しかしゼロが反応する前に、室内からの声が届いてきた。
「ゼロの何様!?」
「しつこいぞ。バカの一つ覚えのように‥‥。それしかいえないのか?『オレンジ君』?」
C.C.の言葉に、玉城とディートハルトは真っ青になって踵を返した。
「後は任せたッ」
「わたしは戦闘要員ではありませんし、出直しましょう」
それぞれ一言残すなり、後ろも見ずに脱兎の如く駆け去った。
ゼロと藤堂は初めから眼中になく、四聖剣は唖然としてその様子を見送った。
立ち直った四聖剣は、小声で藤堂とゼロを宥めすかして、少し下がらせて前に出る。
扉の両脇に千葉と朝比奈が張り付き、ゼロと藤堂を庇うように仙波と卜部が立つと朝比奈がノックする。
「‥‥C.C.、わたしだ。入るぞ」
ゼロが後ろから声を出し、千葉が扉の開閉ボタンを押した。
「貴方様はゼロぉ~!?」
「馬鹿者。部屋から出るなと言っただろうが。戻れ『オレンジ』」
「貴方様は貴方様は貴方様は貴方様は貴方様は貴方様は貴方様は貴方様はぁ!!」
C.C.の言葉も聞かずに廊下に飛び出したメカオレンジは、キョロキョロと首と視線を動かしてゼロの姿を探す。
藤堂と仙波、卜部の影に隠れてメカオレンジの視界に入らなかったようである。
「‥‥‥煩いぞ、ジェレミア卿。少し黙れ」
ゼロが疲れた口調でポツリと呟くように言った途端、ピタリ、とメカオレンジが止まる。
止まった事に、藤堂と四聖剣は驚いた。
「説得したとか言ってたけど、本当だったのか‥‥」と言うのが彼等の共通した思いである。
「廊下で騒ぐな。中に入れ」
ビシッと直立しなおしたメカオレンジは、そのままキビキビとした動きで部屋に戻っていく。
ホッと息を吐き出したゼロは、藤堂の腕を断わると先に立って部屋に入り、藤堂と四聖剣がそれに続いた。
「‥‥C.C.。貴様、からかい過ぎだ。暴走するとあれ程言っておいただろうが」
部屋に入り扉が閉じると、ゼロはC.C.に向かって苦情を言う。
「ん?なんだ。気付いていたのか。つい面白くてな。悪く思うな」
しかしC.C.はいつも通り悪びれる事無く応じて笑った。
「十分悪い。反省してろ」
しかしさっきまで耳鳴りとそれによる頭痛に悩まされていたゼロは取り合わず、聞かないだろうと思いながらも突き放したように付け加えた。
「貴方様はゼロ!何様!誰様!如何様!!」
すると「黙れ」と言った少しの時間が終わったのか、またぞろメカオレンジが叫ぶ。
「お前こそ、この『オレンジ君』を何とかしろ。これしか言わないんだ。いい加減うんざりする」
心底うんざりした様子を見せてC.C.が言う。
「それはちゃんと質問に答えないからだろう?」
「質問?あれがか?」
なんでもない事のように言うゼロに、C.C.は目を丸くした。
「何様!無礼が抹殺!」
「するな、危ない奴だな。こいつはC.C.と言って、わたしの『共犯者』だ。こいつはいつもこんな感じだからお前も気にするな」
「‥‥‥理解はシアワセ。‥‥誰様!如何様!!」
渋々と言った様子を見せてメカオレンジは頷いた後、再び叫ぶ。
「『厳島の奇跡』の藤堂鏡志朗と四聖剣だ。仙波、卜部、千葉、朝比奈。‥‥多分すれ違いばかりで戦場では会ってないんじゃないか?」
「‥‥ゼロの誰様、如何様」
「‥‥‥ふむ。藤堂、四聖剣、お前達ならなんと答える?」
ゼロは直接答えず、藤堂と四聖剣を振り返った。
ゼロの視線の先には、唖然としてゼロとメカオレンジを見る5人がいた。
「えーと、ですな、ゼロ。まずは質問から言って頂きたいかと」
仙波が遠慮がちに言葉を投げた。
ゼロは「ん?」と首を傾げる。
「あんなおかしな言葉で受け答えできる貴様の方がおかしいと思わないのか?」
C.C.が助け舟のつもりか口を挟んだ。
「‥‥あぁ。なるほど。つまり、わたしとの関わりを聞いている。C.C.の事は『共犯者』でとりあえず納得したらしい」
「関係って‥‥黒の騎士団のリーダーと構成員?くらい?」
了
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作成 2008.03.13
アップ 2008.04.23