★霧崎睦月様へのリクエスト作品★
(藤ルル/白主従糾弾)
夕刻、チャイムがなったので咲世子は玄関に出る。
扉を開けた先にいたのは、ユーフェミアとスザクで、どちらも私服‥‥というか一般人のような服装である。
「やあ、咲世子さん。ルルーシュ、いるかな?」
笑ってそういうスザクに、咲世子はチラとユーフェミアに視線を向けてから、尋ねる。
「いらっしゃいませ、スザクさん。今日は軍人としていらっしゃったのですか?それとも騎士として?」
本来ここで、スザクは「騎士として」と応えなければならないのだ、隣に主たるユーフェミアがいるのだから、尚の事。
それ以外が答えられた場合、主は騎士を糾弾出来るのだが、恐らくユーフェミアはそれすら知らないのだろう、そしてスザクも。
「ルルーシュの友人、としてだよ?軍は休みなんだ。ユーフェミア様も休みが取れたし」
公人だろうが私人だろうが主は主だし、騎士は騎士なのだが、それすらユーフェミアもスザクもわかっていないのだ。
「わたくしも、ただのユフィとして参りました。ルルーシュはいるでしょうか?」
スザクの言葉に、ユーフェミアも頷いて応じたが、これもまたおかしな話である。
皇族は生まれを指すのだから仕事が休みだろうが皇族のはずである、それを返上するか廃嫡されるまでは。
この二人はどう思っているのか、と咲世子は心底不思議に思う。
もしも咲世子ではなく、別の人が取次ぎに出ていれば、ユフィの言葉はルルーシュを詮索させるだけのものを有しているのだ。
だが、咲世子は「ただのユフィ」と「ルルーシュの友人スザク」を通す。
咲世子はルルーシュに頼まれていた事、「言質を確かに頂戴いたしました」と胸のうちで呟いた事に、当然ながら二人は気付いていなかった。
ユーフェミアとスザクが通されてくる事になっている部屋で、ルルーシュは少し緊張しながらソファに座っていた。
藤堂はそんなルルーシュを見かねて隣に腰掛け肩を抱いた。
初めは部屋の隅にいる予定だったのだが、予定は未定、繰り上げても問題なかろうと藤堂は考えたのだ。
「藤堂‥‥。すまない」
ルルーシュはそう言って藤堂にもたれかかる。
「謝る必要はない。おれは頼られて嬉しいと思っている。‥‥このまま二人きりならもっと嬉しいんだがな」
「‥‥そう、だな」
藤堂がルルーシュに笑みを向けると、ルルーシュもまた、同意してぎこちないながらも笑みを見せた。
緩やかで穏やかなそんな時間は、咲世子のノックが聞こえるまで続いていた。
その部屋に通されたスザクは、視線を巡らせた後、ピキリと固まった。
スザクに続いて部屋に入ったユーフェミアもまた、それを目撃するなり絶句して目が離せなくなった。
咲世子は気にする事無く、部屋に入ると扉を閉めて、既に用意してあるお茶のセットの傍にいき、準備を始める。
目を離すとどうなるか不安だったので、咲世子は事前に準備して持ち込んでいたのだ。
スザクとユーフェミアが見たもの、それは、藤堂(ユーフェミアは見知らぬ男と認識した)の肩にもたれて眠るルルーシュの安らいだ姿だった。
「‥‥なッ!なんで、藤堂さんが、ここに‥‥ッ!」
我に返ったスザクが発した声はあまりにも大きかった。
「スザク君。眠っているのが見えないのか?気遣って声を落とす事も考え付かないとは‥‥」
藤堂はスザクの問いに答えずに、非難がましく苦情を述べる。
だが、スザクの声はルルーシュが目覚めるには十分で、ルルーシュにとってはなんとも不快な目覚めとなった。
警戒も露わに上体を起こすと、ルルーシュは室内を見渡し、ユーフェミア、スザク、咲世子、藤堂の順に視界に入れてから、警戒を解いて座りなおした。
「来ていたのか‥‥。転寝していたようだ。話があるんだろう?座れば良い」
ルルーシュは藤堂の事にはふれずに、二人にソファを勧めた。
「ルルーシュ様。お休みだったとは気付かず、申し訳ございませんでした。ご友人のスザクさんとユフィさんがお越しですわ」
と、咲世子が言質を取った事を知らせる為に、遅ればせながらそんな報告をしながら、お茶をテーブルに置いて行く。
だが、スザクもユーフェミアも藤堂が気になって動かない。
「る、‥‥るるーしゅ?どうして、と、藤堂さんがここに?」
動揺したまま、スザクが尋ねる。
ルルーシュはスザクを見上げ、瞬いて首を傾げた。
「いけないのか?スザクも昔は世話になっているだろう?」
「どなたですの?ルルーシュ」
やっと我に返ったユーフェミアが尋ねる。
「藤堂鏡志朗。以前はスザクの師匠だった男だ。‥‥そうだな、ユフィには『厳島の奇跡』と言った方がわかりやすいか?」
このエリア11ではあまりにも有名なそのフレーズを、だがユーフェミアは知らない様子で首を傾げていた。
それが意味するところは、このエリアの事を何も学んでこなかったという事だ。
「い、いけないのかって。だって藤堂さんは黒の騎士団の人間なんだよ!?知らないわけじゃないだろ、ルルーシュだって」
スザクはルルーシュと藤堂の落ち着きぶりに憤って叫んだが、ユーフェミアはルルーシュがゼロである事を知っているので却って納得した。
「スザク、座りましょう。今日は話をしに来たのですよ」
ユーフェミアはスザクを注意すると、ルルーシュの向かいのソファに腰かけた。
スザクもまた藤堂を気にしながらも、ユーフェミアの隣に座る。
「る、ルルーシュ?学園の警備って厳しいんだろ?部外者の藤堂さんをどうやって入れたの?」
スザクが驚くのは、「だって藤堂さんって顔も知られているし、手配だってされてるだろうし、見つかるとやばいだろ?」と思ったからだ。
「何言ってるんだ?スザク。お前だってユフィを連れて来ているじゃないか。ユフィだって学園関係者じゃないんだし、同じ事だろう?」
ルルーシュはとりあわず、首を傾げてスザクを見る。
「え?だけど、ユフィは皇族だし」
「今は唯のユフィなんだろ?その唯のユフィを通しているんだ。唯の藤堂さんを通したって別におかしくはないだろう?」
混乱するスザクにルルーシュは笑って「藤堂さんも今日は騎士団が休みなんだ」と言った。
勿論ルルーシュ自身はおかしい事を承知でそう言っているのだが。
「‥‥休み?」
「なんだ、スザク。お前だって軍、休んでるんだろ?騎士団にだって休みが有っても不思議じゃないよ。年中無休でテロしてるわけじゃないんだし」
「けど‥‥手配書が回っているんだし‥‥」
「一度でもテロリストに手を貸したら、それ以後どんな状況でも犯罪者‥‥か?」
「う、うん。そうだよ、ルルーシュ」
「スザク。そこまで言ってしまっては誰も改心する事が出来なくなりますわ」
ユーフェミアの言葉に、スザクは「そうかなぁ?」と思いながらも曖昧に頷いた。
後編に続く。
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作成 2008.04.23
アップ 2008.04.29
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