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C.C.がゼロの部屋に戻った時、藤堂とゼロは並んでソファに腰掛け、ゼロが仮面を被ったまま藤堂に寄り掛かって眠っていた。
「仮面を取らなかった事は褒めてやろう、藤堂。‥‥暫く起きないだろうから、そのまま着替えさせてベッドに放り込んでくれ」
痛ましそうにゼロを見下ろしていた藤堂が顔を上げ、C.C.と視線を合わせて来たから、そう言ってC.C.は手に着替えの服をローテーブルの上に放った。
「‥‥おれがゼロの素顔を知っている事は、C.C.も知っているはずだ。‥‥何故今更仮面に拘るのだ?」
藤堂はゼロに聞けなかった分、C.C.へと尋ねる。
「そう、お前はこいつの素顔も、素性も知っているな、藤堂。‥‥ではこう言えば良いか?あの女もまたこいつの事を知っていた、と」
C.C.はギアス云々について語るつもりはなかったし、これはかなり説得力のある話なので、ついでに被ってもらう事にした。
「‥‥ッまさか」
「そのまさかだ。異母兄である事を知っていて傷を負わせた」
C.C.は「嘘は言っていないな」と内心付け加えていた。
「おい、殺気を振りまくなよ。とにかくさっさと着替えさせて横にさせてくれ。‥‥それとお前はまだまだする事が残っているだろう?」
ユーフェミアに対する憎悪が増して思わず殺気を放っていた藤堂は、言われて慌てて気を落ち着ける。
折角眠ったところなのに、起こしてしまってはまずいのだと言う事は、藤堂にしろC.C.にしろ承知していた。
藤堂はゼロを起さないようにそっとゼロをソファに寄り掛からせると、着替えさせ始める。
それを見ながら、C.C.は必要事項を告げ始めた。
「こいつが目を覚ました後、キョウトとの話し合いを望むだろう。桐原を待機させておけ。当面はブリタニアの奇襲に注意しろよ」
「‥‥何をする気だ?」
藤堂は手を止めずに、チラと一瞬C.C.を見てから尋ねた。
「別に。『行政特区』とやらが不発に終わりそうだからな。こいつならこれを機に、こちらの『日本』を別に宣言しそうだと思っただけだ」
それはユーフェミアが「行政特区日本」の件を発表する前に、黒の騎士団内でゼロが明かした今後の展望に有った事だ。
「‥‥可能なのか?」
「さあな。わたしは知らん。こいつがどうする気なのか、本当のところはわからないからな。可能性は押さえておきたいだけだ」
さらりと言い切ったC.C.の言葉に、藤堂は不思議なものを見る目を向ける。
これまで、C.C.はゼロの傍にいたりいなかったりと姿を見せていたが、口を挟んだ事は稀で、いつも我関せずだったのだから当然だろうが。
着替えを終わらせた藤堂はゼロをそっと抱きあげてベッドへと運んで横たえる。
「‥‥まぁ数時間は目を覚まさないだろうから、安心して仕事をしてこい。‥‥起きたら真っ先に連絡を入れてやろう」
ゼロに布団を掛ける藤堂を見やりながら、C.C.はそう言った。
「‥‥急に協力的になったのはどういうわけだ?」
あまりにも違うC.C.に藤堂は戸惑うばかりだ。
「煩い。あのお気楽主従のせいで、こいつが不安定だから、安定剤代わりだ。まさか妹を連れて来るわけにはいかないからな」
C.C.は忌々しげに言うが、今の状態を妹に知らせたりすれば、後で何を言われるかわかったものではないのも事実だ。
「‥‥そうか。‥‥いや、そうじゃなくて、ゼロに対して協力的だと尋ねたのだが‥‥」
自分に掛けられた言葉の意味を理解した藤堂は頷いてから、もう一度言葉を付け加えてC.C.に尋ねた。
「こいつは自分の事には無頓着らしいからな。周りが気にかけるくらいが丁度良いだろうと思ったまでだ。‥‥今は怪我人だしな」
C.C.はそう応じると、「もう行け」と藤堂を追い払う仕草をした。
藤堂は頷いてベッドの傍を離れると、部屋を横切り扉に向かう。
「‥‥藤堂」
自分で追い払おうとしておきながら、C.C.はその背中に声をかけていた。
藤堂は立ち止り振り返る。
「お前は、‥‥こいつを裏切らないか?見捨てないか?置いていかないか?欺かないか?一人にしないか?」
C.C.は藤堂の視線をまっすぐに捉えて、訊ねていた。
藤堂は、初めてC.C.と向き合ったように、少なくとも真正面から視線を合わせたのは初めてだと思った。
「おれは、裏切ったりしない。見捨てたりもしない。置き去りにもしないし、一人にもしない。‥‥決して欺いたりもしない。‥‥誓う」
藤堂は、ひとつ息を吐くとC.C.を相手に何かの儀式のように言いきった。
それを聞いてC.C.は笑みを見せる。
「そうか‥‥。‥‥ならば、わたしの出番はまだ先になりそうだな」
そう呟いたC.C.は藤堂から興味を失ったかのようにベッドで眠るゼロに向きなおった。
「‥‥お前がどういうつもりなのかは知らないが、‥‥今は彼を頼む」
藤堂はC.C.にそれだけを言うと、部屋を出た。
部屋に残ったC.C.は、おもむろにゼロの仮面に手をかけてそっと外す。
目を閉じたルルーシュは、今まで通りの寝顔で眠っている。
だが、瞼の奥にある瞳の色は、片方は紫だが、もう片方は赤くなっているのを、C.C.は知っている。
失血のせいで、元から白い肌は、紙のように色をなくしてしまっている。
C.C.は手に持っていた黒いバンダナを左目を覆うように斜めに巻きつけて結んだ。
「‥‥王の力は、お前を孤独にする。‥‥だが、わたしと、あの男だけは、お前の傍に残りそうだぞ。‥‥それとお前の妹‥‥か」
C.C.は溜息を吐くと、ベッドに乗り出した身を引いて、近くの椅子に座った。
「‥‥あのお姫様の事があるから、妹の事も考える必要があるな‥‥。‥‥早く元気になれ、ルルーシュ」
C.C.は祈るように呟いていた。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.24
黒の騎士団曰くの白兜、ランスロットによって連れ戻されたユーフェミアは、周囲の説得にも応じずどこで拾ったのかマシンガンを頑として手放そうとしなかった。
「皇女殿下、それはとても危険ですから‥‥」
セシルが穏便に説得しても。
「ユフィ。とにかくそれを離して。ゼロならぼくがちゃんと‥‥」
スザクが宥めても賺しても。
「あら、ゼロはうたなくてはいけないのですわ。あの時もっとうっておけば良かったのかしら」
「だからと言って、本人が撃つ必要はないよね~。騎士であるスザク君に頼めば良い事なんじゃないの~?」
「あは~」と笑いながら、ロイドも参戦する。
「‥‥そうかしら?‥‥でも、持っていないといざと言う時、うてませんし‥‥」
一瞬説得成功か?と喜んだのも束の間、考える時にマシンガンを見る為に少し離したユーフェミアは、再びそれを抱え込んでしまった。
「‥‥あー、そうですわ。お疲れじゃありませんか?皇女殿下。お部屋にご案内いたしますから、少し休まれては如何でしょうか?」
「あーそれが良いね、セシル君。じゃあ案内よろしくね。スザク君もお姫様の騎士なんだから一緒に行くようにぃ」
うんうんと一人頷いたロイドの言葉に、セシルを筆頭にしてスザクに促されたユーフェミアが移動していった。
「あー、やれやれ。全く、危なっかしいお姫様だなぁ、もー」
一人になったロイドが呟いていると、ロイドが使用する端末に通信が入った。
ロイドがすぐさま回線を繋ぐと、モニターに現れたのは第二皇子シュナイゼルだ。
『ロイド‥‥、ユフィ、は?』
ロイドはこれまでこれ程蒼白になったシュナイゼルを一度しか見た事がなかった。
「お元気ですよぉ、とってもー。どーしてもゼロを倒すんだーってマシンガン抱えてますけど~」
そんなシュナイゼルに対しても、ロイドは普段と全く変わりなく応じる。
『一体、何が有ったんだい?』
「それをぼくに言われましても~。傍にいたわけじゃないですしぃ。補佐していたダールトン将軍は行方不明ですし」
『ユフィの騎士になった枢木はなんといっているんだ?』
「あー、彼も要領を得なくてねー。皇女殿下がゼロと二人で話をして、戻ってきたらアレですしぃ?‥‥ところで殿下」
普段通りにシュナイゼルの問いに答えていたロイドが、シュナイゼルが黙った隙をついて質問に出る。
「ゼロの言った事は本当ですか?皇女殿下が『名前を返上した』っていうア、レ」
するとシュナイゼルが整った顔を顰めた。
『本当らしい。‥‥父上に確認を取ったらそのように仰られていた』
「もしかして、殿下にも言っておられなかったんですか?彼女。‥‥じゃー、コーネリア皇女殿下にも?」
『確認していないが、そうだろう。‥‥彼女が知っていれば、止めていたはずだからね』
沈痛な面持ちのシュナイゼルを見ていたロイドは、嫌な予感を感じて頭痛を覚える。
「あー、殿下?もしかして、この通信。ユーフェミア様に対しての沙汰つきですかぁ?」
「ぼくから伝えるのはいやだな~」とロイドは続けてぼやく。
『その通りだよ、ロイド。‥‥とにかく、ユフィには詳しい事を聞かなければならないからね‥‥』
「聞きたくないんですけど~、事情聴取は誰がするんですか?」
『今、コーネリアがそっちに向かっているのだけど、聞けるところは先に聞いておいてくれても良いよ』
「それはコーネリア殿下がお越しになる前に、聞ける範囲は聞いておけって事ですか~?」
『‥‥話が早くて助かるよ、ロイド。‥‥とにかく、今は出ずに事態の収拾に当たってくれ。後の事は、コーネリアの指示に』
「わかりましたよ、殿下。殿下も少しお休みになった方が宜しいですよ~」
『そうだね。‥‥また連絡する』
通信が切れると、ロイドは深々と溜息を吐く。
「‥‥彼が怒るのは無理もない、かなぁ~、これは」
ロイドは呟くと、休憩していると思われる部屋に向かって歩き出した。
セシルが隣同士にソファに座ったユーフェミアとその騎士枢木スザクにお茶と茶菓子を出したのは、部屋に通されて暫く経ってからの事だった。
出されたお茶菓子は、セシルの手作りらしく、手に取るのが怖いのでは?とスザクに思わせる代物だ。
セシルはそのまま向かいのソファに座る。
ユーフェミアがマシンガンから手を外し、カップに伸ばされるその一瞬で、隣に座っていたスザクがマシンガンを取り上げてセシルに手渡した。
「あッ、スザク何をするのですか。あれがないと、わたくしがゼロをうつ事が出来なくなってしまうじゃないですか」
一転、スザクの軍服を掴んで、せがむようにユーフェミアが言い募る。
「幾つかお尋ねしたい事があるのですけど、それにお答え頂ければ、お返しさせていただきます」
困りきってセシルに視線を送ったスザクに代わって、セシルはそう言った。
「なんでしょう?」
小首を傾げて、ユーフェミアは問い返した。
「どうしてゼロを撃ったのですか?‥‥ゼロが貴女に何かなさったとか?」
「いいえ。でもゼロはクロヴィス義兄様を殺したのですから、うたなくてはいけなかったのですわ」
「では、‥‥何故、ゼロを招いたのですか?皇女殿下はあんなにも『行政特区日本』を望んでいらっしゃったのに‥‥」
「許せる、と‥‥そう思っていたの。お義兄様の事を抜きにすれば、ゼロも絶対賛成してくれると思ったもの。‥‥でも」
続きそうになるユーフェミアの言葉が、「クロヴィス義兄様を~」とか「ゼロをうたなければ」とかになると思ったセシルは慌てて遮って次の問いを投げる。
「あ、あの。何故、ゼロが賛成すると?」
「それ、ぼくも訊きたいな~」
唐突に扉が開いてロイドが入ってきて、セシルの問いに便乗する。
セシルは慌ててソファの半分を開けてロイドの座る位置を作り、ロイドはそのまま空いたソファに腰をおろした。
「さっきね~、シュナイゼル殿下から連絡が有ったんだよね~。驚いていたよ、殿下。『返上した』事、知らなかったって」
「それは、わたくしから皇帝陛下にお願いしたんです。数日中に発表してくださるって」
はっきりしたユーフェミアの言葉に、ロイドは嘆息し、セシルは驚いた表情を見せてから、ユーフェミアとスザクを見比べる。
「‥‥それ、お姉さんのコーネリア殿下には相談してる?あーんなに、貴女の事を思っておいでのコーネリア殿下にも黙ってたのかな~?」
「だって、お姉さまはお忙しくっていらしたから‥‥。それに会えなくなるわけじゃないですし、お姉さまもきっとわかってくださいます」
何を言いたいのかわからないのか、首を傾げながらも、ユーフェミアは応じる。
「なら、貴女が騎士にした枢木スザク君には?どーかなぁ?スザク君?」
再び嘆息したロイドは、ユーフェミアに尋ね、そのままスザクに視線を移す。
「えッ、‥‥いえ、自分は聞いて、いません‥‥が?‥‥あの?」
スザクはわからないままに問いには素直に答えたものの、何の事なのか尋ねるものの言葉が見つからず短い問いかけに終わる。
「‥‥ひとつ聞いても良いですかぁ?お姫様?」
ロイドはスザクの問いを流して、ユーフェミアに視線を向ける。
「なんでしょう?」
首を傾げるユーフェミアは、笑みさえ浮かべていて、やましい事など一つもないと言わんばかりに堂々としている。
「ゼロの言ってた事だけど、『わたしが示した信頼だけは、裏切らないで頂きたいものだ』と有りましたけど、何の事ですかぁ?」
ロイドの言葉に、ハッとしたのはセシルとスザクで、「えーと‥‥」と考え込むユーフェミアに視線を移した。
「さぁ、特に何もなかったと思いますけど‥‥。さあ、答えたのですから、それを返してください」
結局、わからないと言いたげに首を振って答えたユーフェミアは、セシルに向かってマシンガンを返せと手を差し出した。
「ざぁんねぇんでした~。シュナイゼル殿下から、出撃はしないようにって沙汰が有ったからね。ゼロの件は一時御預け~」
ロイドはやっぱりいつも通りの口調で、言ってのけた。
まぁ、シュナイゼル殿下からのお達しだというのだから、問題にはならないのだろうけど、とセシルとスザクは複雑そうな表情をしていた。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.23
握手した手を離した後、ユフィはくすりと笑った。
「でも、わたしって信用ないのね。脅されたからって、わたしがルルーシュを撃つと思ったの?」
そう言ったユフィは下から問いかけるようにルルーシュの顔を見上げた。
ゼロの仮面を小脇に抱えていたルルーシュは、一瞬きょとんとした表情を見せた後、「あぁ」と納得した様子を見せた。
「あぁ、違うんだよ。おれが本気で命令したら誰だって逆らえないんだ。おれを撃て、スザクを解任しろ‥‥。どんな命令でも」
ユフィの身体がビクンと跳ね、膝が抜けるように床に座り込んだ。
ルルーシュはその状況に驚く。
「まさか‥‥。ユフィ、今の命令は忘れるんだッ」
ルルーシュは、左目を左手で覆う。
ギアスのオンオフが出来ない?まさかッ‥‥。
「‥‥。そうね、スザクは名誉ブリタニア人だし、やっぱりわたしの騎士には無理なのよね、きっと」
ユフィはそう呟くとにっこり笑って立ち上がる。
「ねー、ルルーシュ?貴方もそう思うでしょう?そうとなれば、すぐに宣言して来なくっちゃ」
「あッ、ちょっ、待て、ユフィ」
ルルーシュは左目に走る鈍い痛みに気を取られながらも呼びかけるが、ユーフェミアは止まらず走り去る。
「‥‥‥‥チッ、このタイミングでは、‥‥最悪だ。しかも『行政特区日本』まで絡む‥‥。マズいな。間に合うか」
ルルーシュはゼロの仮面を被るなり駆け出した。
倒れているC.C.とスザク、それに数人の護衛官達。
ゼロはまずC.C.の傍らに膝を付いた。
「大丈夫か?C.C.」
「あ、あぁ。‥‥そっちはどうなった?」
眼を開けたC.C.は何もなかったように上体を起こすと状況を尋ねる。
「‥‥かなりまずい状況だ。‥‥ユフィを止めなくてはならない。‥‥スザクと、こいつらは?」
「あぁ、気を失っているだけだ。大したことじゃない」
ゼロは頷くと踵を返してガウェインに搭乗し、C.C.がそれに続く。
密室となったコックピットの中で、ゼロは仮面を無造作に剥いで、脇に置いた。
C.C.はその時見えた赤い色に、眼を伏せて「そうか」と小さく呟いていた。
「それで?一体どうかかったのだ?」
「‥‥『スザクを解任しろ』だな。このタイミングでは最悪だ。特にユフィは『行政特区』と同時に宣言するつもりのようだしな‥‥」
ゼロは遣る瀬無い溜息を吐いてから続ける。
「‥‥おれは、ユフィの『行政特区』を生かす形で策を練ると、言ったばかりだったのに‥‥」
「後悔しているのか?」
「‥‥違う。ただ、想定外だったんだ。‥‥そう、多少修正が必要になっただけだ。‥‥とにかく、余計な口は挟むなよ、C.C.」
ユフィがマイクの前に立つ姿が見える。
『わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に、「行政特区日本」成立を宣言いたします。そして、』
ゼロはオープンチャンネルにしたガウェインの中で、声を出したのだった。
「待っていただこうか、ユーフェミア皇女殿下。お話の途中で立ち去られてはこちらも困るのですが」
『ゼロ?‥‥そういえば、お話、途中でしたっけ?でも、貴方も賛成してくださいましたよね?』
「『行政特区日本』、まだ少々甘いところのある話ですが、それに参加する事自体は確かに認めました。だが、後がいけない」
『後?一体、何の事ですか?』
「今、貴方はわたしの到着を待たずして、勝手に個人のお名前で宣言したと言う事が一つ。これではわたしは拒絶されたと受け取るしかないでしょう?」
『だって、わたくし、急いでおりましたもの。わかってくださると思っていましたのに‥‥』
「何も語らずして、わかれ、と言う方が間違っていると思いますが?貴女の周りには、余程先んじて貴女の意を汲む者しか傍にいなかったようですね?」
『‥‥‥‥。そんな事ありませんわ。‥‥わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に、』
「今。それをこの場で宣言すれば、『行政特区』の破局だと言う事にすら気付かない。いや、気付こうとしないと言うべきか?」
『ゼロッ。何故わたくしの邪魔をするのですか?』
「わたしは弱者の味方ですから。折角の『行政特区』を皇女殿下の気まぐれの言葉一つで台無しにするのは余りにも忍びないと思うまで」
『ユーフェミア皇女殿下。少しお静まりを。ゼロ。言いたい事が有るのならば、この場に出てきて言うのが筋ではないか?』
ダールトンがユーフェミアを遮り、話に割って入る。
「筋、か‥‥。先にその筋を無視したのはユーフェミアの方だぞ?」
『わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に、宣言させていただきます』
「よせッ」
『わたくしは、枢木スザクをわたくしの騎士より解任いたします』
『ッな‥‥姫様。一体どういうおつもりですか?貴女は「行政特区日本」を御作りになると言うのにそのような事を申されては』
『どうしてゼロもダールトンも反対するのですか?彼は名誉ブリタニア人で、イレブンでも日本人でもないではありませんか』
ユーフェミアとダールトンの言い合う姿がモニターから窺える。
その後ろでこの場に参加する日本人の一人が立ち上がり、何かを投げ捨て、立ち去ろうとしている。
何かを言ったかも知れないその行動は周囲を巻き込み、やがてぞろぞろと動き出す。
「‥‥。ユーフェミア皇女殿下。貴女の穿った穴はそれなりに立派だった船を沈めるまでになってしまった。最早わたしの手をもってしても修復は不可能」
ガウェインが会場の上空に飛びあがる。
「ご自分が任じた騎士すら、簡単に解任するような相手とは‥‥。全く無駄骨を踏んだようですね。失礼します、皇女殿下」
ゼロはオープンチャンネルを閉じ、待機中の騎士団に繋げる。
「聞いた通りだ。ここまで来させてすまないがE-3を使い順次撤退してくれ」
『‥‥宜しいのですか?』
「仕方がない。まさかユーフェミアがここまで愚かだったとは‥‥。枢木も詰らない主を選んだものだ」
『ゼロが気にする事じゃありません。そんなの、枢木スザクの自業自得です』
それに同意する声が幾つか上がる中、ゼロは通信を閉じ、深く溜息を吐いた。
「‥‥こちらの『日本』についても、かなりの変更が必要になったか」
こちらも自業自得とは言え、ゼロにとっても手痛い結末であった。
了
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作成 2008.01.21
アップ 2008.01.22
ダールトンの身柄を黒の騎士団が抑えたのが良かったのか。
それとも、G1ベースを占拠したのが効いたのか。
アヴァロンが到着し、白兜が出るには出たが、その頃には粗方片付いており、白兜はユーフェミアを回収するだけで引き下がった。
もちろん、他のブリタニア側の兵士やナイトメアフレームも同時に撤退している。
この場の戦いは、黒の騎士団側の勝利、と言えなくもなかった。
G1ベースの格納庫で、ガウェインは降り立ったまま沈黙を守っていて、ゼロとC.C.が降りて来る様子を見せない。
それを心配した幹部達が、集まってガウェインを見上げていた。
ガウェインの中、そんな様子をモニターで見た後、C.C.は溜息を吐いた。
「‥‥仮面、つけれるか?」
C.C.が後ろに座るゼロを振り返って訊ねた。
「‥‥‥‥ぁ」
ゼロは小さく頷くと、仮面を拾って被る。
「動くのも辛そうだな。‥‥少し待ってろ」
言い置くと、C.C.はハッチを開けて外を見た。
「C.C.、ゼロは?」
するとすぐにカレンの声が聞こえて来る。
「‥‥藤堂、手を貸せ。扇、ゼロの部屋を用意しろ。そこまで運んでもらう。‥‥ラクシャータ、治療を頼む」
C.C.はガウェインのコックピットから、矢継ぎ早に指示を出した。
「それ以外の奴等は邪魔だから仕事してろ。‥‥こいつの負担を減らしたいならな」
「治療ね~、良いわよ~」
ラクシャータはゼロの素顔、とまではいかなくても何かしら知る事が出来るだろうと嬉しげである。
藤堂は無言でタラップを昇ってC.C.の元へと上がる。
「扇。部屋は士官ので良いからな。‥‥前の主とは相性が宜しくないだろうし」
C.C.が指示を出そうとしている扇に追加注文を出した。
前の主とはユーフェミアの事で、なるほどゼロを騙して攻撃した相手の部屋を使うのははばかられると納得した。
そこへ、ゼロを抱えた藤堂がコックピットから出て来る。
普段、誰にも頼ろうとせず、他を圧するゼロが、力なく藤堂に身体を預けてる様子に一同絶句する。
この時初めて、ゼロに護られてきていた騎士団は、ゼロをこそ守るべきではないかと言う考えに思い至った。
「ゼロって白い肌してるのね~。キメも細かいし、それに細身だわ~」
などとのんびりな口調で感想を述べながらも、ラクシャータの手付きは的確に素早く傷口を治療していた。
ゼロからの反論がないのは、口を開く気力がないからに過ぎない。
「‥‥しかし、無茶をしたもんね~。あんた、刺さった状態のまんま、暴れたりしたんでしょう。少しは自分も労わりなさい」
手当を終えたラクシャータは銜えていた煙管で最後に傷のある肩を叩こうとして、結局仮面を軽く小突くに留めて離れる。
「言っとくけどぉ、当分は絶対安静よぉ~。無理をしたら、まぁた一からやり直すからね~」
そういうと、ラクシャータは返事も待たずに部屋を後にした。
廊下に出て扉を閉めた途端、ラクシャータはその場に集まっていた幹部から取り巻かれてしまう。
「ゼロの容体は?平気なの?」
カレンが真っ先に尋ね、扇達が固唾を呑んでラクシャータの言葉を待つ。
「べっつに~。命がどうのって話にはならないわよ~。しばらくは安静にしてるしかないだろうけどね~」
それでも口々にゼロの安否を尋ねだす騎士団の中で、朝比奈が別の事を尋ねた。
「‥‥あのー。藤堂さんはまだ中ですよねー。どうしてるんですかぁ?」
問われたラクシャータはチラリと扇を見てから言った。
「あぁ。C.C.がね~。当分は藤堂に任せるからってぇ。ほら、ゼロの言いたい事一番理解するじゃない?あまり話させたくないらしいのよねぇ。‥‥賛成だけど」
確かに、実際の戦闘に関してならば、阿吽の呼吸と言える程の息の合った動きも見せるので、反論はない。
「だから、副司令の扇には悪いけどぉ、藤堂から話を聞くように~、らしいわよ~」
ヒラヒラと手を振って、ラクシャータは歩き出す。
悪いけどと言われても、現在扇のする事ははっきりしているし、急を要するのはブリタニアの再攻勢についてだろうから、扇にも否やはなかった。
それぞれゼロの仮の部屋となった扉を振り返ってから、ラクシャータの後に続いた。
「とにかく、藤堂さんが戻るまでは、各自後片付けやナイトメアフレームの整備に当たってくれ」
扇が歩きながらそう指示を出すと、銘々に頷いて、する事のある者は散って行った。
一方、ゼロの部屋では。
「おい、その服は血だらけなんだから、ベッドに上がる前に着換えろよ。‥‥なんなら手伝ってやろうか?」
いまだソファに座ったままのゼロを相手に、C.C.がセクハラ紛いの事を言っていた。
C.C.の言った通り、ゼロの服一式は、マントに至るまで、血がこびりついていて既に使い物にならなくなっている。
ついでにラクシャータによって手当をされる時に、アンダーシャツには鋏が入れられていて、現在上半身は包帯だけと言う有様だった。
その状態でも仮面を被っているので、ハッキリ言っておかしいのだ。
「‥‥ゼロ、‥‥いや、ルルーシュ君」
躊躇いがちに藤堂が呟いた途端、ゼロの肩が揺れ、それが傷を刺激したのか、息を呑む音が響く。
そう、藤堂は既にゼロの正体を知っていると言うのに、ラクシャータが出て行ってからも、仮面を取らない事に訝しんだのだが。
「C.C.。‥‥着替えと、‥‥アレも‥‥頼む」
「良いだろう。‥‥少し待っていろ。‥‥まぁ眠っていても構わないぞ。‥‥藤堂、あまり無理はさせるなよ」
C.C.は溜息を吐くと、鋭い視線を藤堂に残して、部屋を出て行った。
ユーフェミアと二人だけの時、いったい何があったのか、藤堂はそれを尋ねたいと思ったが、今のゼロにそれを問うのは酷だと理解してもいた。
治療の間、ずっと壁に寄り掛かっていた藤堂は、すっと前に出た。
途端に、ゼロの身が強張るのが遠目にも見えて、藤堂は眉を顰める。
周囲全てに、いや、C.C.を除く全てに警戒しているゼロに、藤堂は己の不甲斐無さを感じていた。
それでも、足は止めずにゼロに近づき、そのまま隣に腰かけた。
「‥‥仮面を取るのが不都合だと言うのなら、それでも構わないが‥‥もう少しおれを頼って欲しいな」
自分が軍事の総責任者だと言う事は理解しているし、である以上、さっさと外に出て指揮を執る必要がある事も藤堂には分かっていた。
それでも、この状態のゼロを一人にしておく事は出来ない事もわかっていたのだ。
フッとゼロの緊張が解けた気がしたと藤堂が思った途端、藤堂の肩にゼロの仮面が当たり、寄りかかってくるのがわかった。
「傍にいる。誰がどんな理由で、お前の敵に回ろうと、おれはお前の傍にいよう」
それは今回の発端が何だったのかを知らない藤堂の、この場で言えるただ一つの事だった。
「‥‥‥‥すまない‥‥」
ゼロの呟きは、あまりにも小さく、藤堂がその音を拾い脳に意味を到達させた時には、ゼロは意識を手放していた。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.22
握手した手を離した後、ユフィはくすりと笑った。
「でも、わたしって信用ないのね。脅されたからって、わたしがルルーシュを撃つと思ったの?」
そう言ったユフィは下から問いかけるようにルルーシュの顔を見上げた。
ゼロの仮面を小脇に抱えていたルルーシュは、一瞬きょとんとした表情を見せた後、「あぁ」と納得した様子を見せた。
「あぁ、違うんだよ。おれが本気で命令したら誰だって逆らえないんだ。おれを撃て、スザクを解任しろ‥‥。どんな命令でも」
ユフィの身体がビクンと跳ねる。
「あ‥‥い、や‥‥。ダメ‥‥」
ガクンと、ユフィは床に膝をついて蹲る。
ルルーシュはその状況に驚く。
「まさか‥‥。ユフィ、今の命令は忘れるんだッ」
ルルーシュは、左目を左手で覆う。
ギアスのオンオフが出来ない?まさかッ‥‥。
「‥‥。そうね、貴方はテロリストのゼロだし、クロヴィス義兄様を殺したんだもの。撃って当然ね」
ユフィは素早く銃を拾うと、ルルーシュに向けるなり引き金を引いた。
ルルーシュは右肩に鋭い痛みを感じてその場にくずおれる。
「‥‥‥‥」
「‥‥そうだわ。『行政特区』の宣言をするんだったわ‥‥。行かないと‥‥」
身動ぎしないルルーシュから興味が消えたのか、それともギアスの効果が尽きたのか、ユフィはルルーシュには見向きもしないで歩き去って行った。
ルルーシュはユフィの姿が消えると同時に詰めていた息を吐き出した。
「‥‥当初の予定通りとは言え、‥‥これは流石に堪えたな‥‥。自業自得か‥‥」
肩の痛みに顔を顰めながら立ち上がると、ゼロの仮面を被って歩き出す。
ユフィが宣言を出す前に、ガウェインに辿り着いていなければならないのだ。
一時、痛みは忘れる事にしたゼロは、駆け出した。
倒れているC.C.とスザク、それに数人の護衛官達。
ゼロはまずC.C.の傍らに膝を付いた。
「大丈夫か?C.C.」
「あ、あぁ。‥‥そっちはどうなった?」
眼を開けたC.C.は何もなかったように上体を起こすと状況を尋ねる。
「‥‥ガウェインに乗ってからだ。‥‥それから話す。‥‥スザクと、こいつらは?」
「あぁ、気を失っているだけだ。大したことじゃない」
ゼロは頷くと踵を返してガウェインに搭乗し、C.C.がそれに続く。
密室となったコックピットの中で、ゼロは仮面を無造作に剥いで、脇に置いた。
C.C.はその時見えた赤い色に、眼を伏せて「そうか」と小さく呟いていた。
「それで、この血の匂いは、あのお姫様に負わされた傷のせいだな?かなり匂うぞ。出血が多いんじゃないか?」
「‥‥平気だ。‥‥おれは、ユフィの『行政特区』を生かす形で策を練ると、‥‥言ったばかりだったのに‥‥」
「後悔しているのか?」
「‥‥違う。こうなる事はわかっていたのだからな。‥‥とにかく、余計な口は挟むなよ、C.C.」
ユフィがマイクの前に立つ姿が見える。
『わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に、「行政特区日本」成立を宣言』
ゼロはオープンチャンネルにしたガウェインの中で、声を出したのだった。
「‥‥‥‥待っていただこうか、‥‥ユーフェミア‥‥」
それはゼロ本人が思っていた以上に、暗く沈んでいたように聞こえた。
「くッ‥‥」
幾らC.C.の腕前でもかわし切れないと、思った時、目の前に紅の風が通り過ぎ、攻撃を薙ぎ倒していった。
『ゼロッ、ご無事ですか?』
「カレンか。‥‥助かった」
見れば藤堂や四聖剣も他の団員もブリタニアのナイトメアフレームとの戦闘に突入していた。
その一方で"日本人"達の避難誘導も開始されていて、ゼロはホッと息を吐いた。
途端に傷口がズキズキと痛みだす。
無理をして走ったりするから、傷口が予想以上に広がったのだろう。
『C.C.。援護するからガウェインは引いてください。ゼロの手当をしないと‥‥』
「‥‥そうだな。では任せる」
「なッ、まだ駄目だッ‥‥」
「お前がここに留まっている方が被害が広がるとは思わないのか?一旦身を隠すべきだろう?」
『藤堂さんにもくれぐれもと頼まれているんです。お願いですゼロ、まずはちゃんとした手当を』
C.C.とカレンの二人がかりで諭され、だがゼロは頷かなかった。
「‥‥ダメだ。‥‥"日本人"の避難、‥‥現状動く、ナイトメアフレームの、停止。‥‥それから、‥‥」
「‥‥強情な。‥‥藤堂、敵の艦‥‥G1ベースとか言ったか?あれを落とせ。そうすればこいつも大人しく手当てされるだろう」
C.C.が溜息を吐いてから、藤堂に向かって指示を出した。
『‥‥わかった。仙波と卜部はG1ベースを。千葉と朝比奈はこのままナイトメアフレームにあたれ』
『『『『承知ッ』』』』
仙波、卜部と弐番隊がG1ベースへと進んでいき、千葉、朝比奈と壱番隊はそのままナイトメアフレームと相対していた。
「‥‥もう一つ。‥‥ダールトンが、負傷、しているはずだ。‥‥捕らえられるようなら、捕えて、‥‥手当をした後、監禁してお、け‥‥」
「‥‥ゼロッ、いい加減にしろ。今はもう喋るな。わたしの気まで散るだろう?大人しく、とりあえず寝とけ」
C.C.の言を漏れ聞いた騎士団は、その内容に唖然とする。
戦闘中のナイトメアフレームの中で、「とりあえず寝とけ」とは‥‥。
例え複座式の操縦系統以外に座っているとはいえ、攻防の幾つかの制御はゼロが座る側で操作するというのに「寝とけ」とは‥‥。
「お前達も。後々のこいつの負担を減らしたいなら、ヘマはしない事だな。カレン、G1までの道を確保しろ、降りるぞ」
『わかったわ‥‥。貴女は攻撃を受けないようにそっとついて来て』
カレンはきっぱりと肯くと、手近なサザーランドにスラッシュハーケンを叩きつけていた。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.21
『‥‥‥‥待っていただこうか、‥‥ユーフェミア‥‥』
宣言をしようとするユーフェミアに、黒の騎士団一同、同盟はなったか?と気を抜きかけた直後だった。
どこか物悲しそうな、ゼロの制止の声が、途切れがちに聞こえてきて、みな身を固くする。
『わたしは、‥‥本気で参加しても良い、‥‥そう、思っていたのですが、貴女にその気がないのでしたら、‥‥諦めるより他に道はなさそうですし』
「本気で?だが、貴方は何らかの形で、破断に持って行くつもりだったはず」
ディートハルトはモニターの前で口の端を持ち上げて笑みを浮かべながら、小さく呟いた。
そう、ゼロの計画では、黒の騎士団側からではなく、ブリタニア側から破断するように持ち込む事だと、ディートハルトは理解していた。
『‥‥中佐、どうしますか?』
月下に乗っている千葉が同じく月下に乗る藤堂に通信で話しかける。
『‥‥指示はまだだ。‥‥もう暫く様子を見る』
藤堂はそう応じながら、ギリギリと操縦桿を握った拳に力を込める。
騎士団の待機場所でそんな会話がかわされる中、ゼロの声は流れる。
『ゼロの名において、‥‥我々、黒の騎士団は、‥‥ユーフェミアの敵に回る。信頼‥‥どころか、‥‥信用すら出来ぬ者の手は‥‥取れない』
『ぅわ~。‥‥お姫様、一体何したんでしょうね。まさか、騙し撃ち?』
朝比奈が呆れたような声を出すと、周辺の殺気濃度が急上昇する。
『煽るな、朝比奈』
千葉が声をかけるが、時既に遅し、だ。
そして、更に追い討ちをかける声が飛び込んでくる。
『ゼロ、そのくらいにしておけ。一旦帰還するぞ。‥‥早くその怪我の手当をしないと、‥‥出血が多い』
C.C.の声が聞こえた途端、カレンは頭に血が昇るのを感じていた。
「あッ‥‥んの、お飾り皇女~ッ」
動かなかったのは、ゼロから、「こちらからの指示があるまで動くな」と厳命されていたからに他ならない。
それでも藤堂だけは軍事の総責任者として、「不測の事態と判断した時はその限りではない。が、無暗に動くなよ」と続けて言われていた。
『藤堂さん。ゼロを助けに』
カレンが歯がみをしながら藤堂に訴える。
『まだだッ。まだ、ゼロに指揮ができないわけではない。‥‥』
藤堂は、己もまた飛び出したい気持ちを抑えながらも、一同を抑える言葉を放つ。
しかし、無情にも流れる次の声が完全に騎士団員の怒りに火をつけていた。
『はい、わたくしが、ゼロを撃ったのですわ』
それはユーフェミアの声だった。
朗らかに、明るく、一点の曇りもないその声には、暗い響きは少しも見られなかった。
「罠‥‥だったのか、‥‥この『特区日本』は‥‥」
扇が、茫然と呟いていた。
『‥‥そう、貴女はわたしを誘い出し、‥‥攻撃する為に、この場を設けたのですよ。‥‥"日本人"の為ではなく、』
『だって、貴方はクロヴィス義兄様を殺したのですよ?それに「行政特区日本」はちゃんと』
『ちゃんと?‥‥ユーフェミア。「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の名前を返上した、‥‥ただの「ユーフェミア」の宣言に何の意味があると言うのですか?』
二人の言葉の応酬が、騎士団の耳に入っていた。
「行政特区日本」は、黒の騎士団を誘き寄せる為の罠だった。
ユーフェミアの狙いは、義兄クロヴィスを殺したゼロであり、その抹殺。
「行政特区日本」は、「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の名で進められていた事業だった。
にもかかわらず、「ユーフェミア・リ・ブリタニア」は名前を返上し、唯の「ユーフェミア」になってその義務を放棄した。
それは黒の騎士団にとっては受け入れがたい話だった。
「くそッ、お飾りどころか、腹黒じゃないかッ。‥‥こんなッ」
カレンは藤堂の月下だけを見つめ、指示が下るのを待ちながら、逸る気持ちを懸命に抑えていた。
藤堂もまた、号令すら掛けずに、まっ先に飛び出したい気持ちを必死になって抑えていた。
怪我をしたというゼロを案じ、ゼロを傷つけたというユーフェミアへの怒りによって、周りが見えなくなるのではないかというくらい血が上っている。
それでも、ゼロの声が聞こえて来るから、何とか己を保てているのだ。
『それとも、わたしに‥‥「返上した」と言ったのは、わたしを欺くためだけのものですか?皇族でなくなったのならば、‥‥貴女にはそこに立つ資格がないのですよ』
『おい、いい加減にしておけ。‥‥せめて止血だけでもちゃんとしろ』
『宣言をなさるのでしたら、‥‥ただの「ユーフェミア」ではなく、‥‥貴女の姉、第二皇女「コーネリア・リ・ブリタニア」か、‥‥ッ』
『ほら見ろ、我慢せずさっさと止血しろ』
『‥‥第二皇子「シュナイゼル・エル・ブリタニア」の、名前でなければ、‥‥機能しない事も、念頭になかったのですか?』
そろそろ「演説」の終りが近いと悟った藤堂が、無理やり呼吸を整えた後、指示を出す。
『‥‥間もなく、ゼロから、指示が入るだろう。‥‥紅月、白兜が出て来るまでは、お前はゼロの守りに回れ。一度引くようなら付いていけ』
『はいッ。‥‥白兜が来たって、今回は容赦しないわ』
「そう、あんな腹黒お姫様を選んだ、枢木スザクになんて、絶対に負けるもんか」と、カレンは闘志を燃やす。
『扇。ゼロが撤退を選んだならば、この場の撤退は任せる。戦闘を選んだ場合は、"日本人"の安全を』
『わかった。任せてくれ』
「行政特区日本」への移住を真剣に検討し、騎士団へも参加するよう勧めた扇もまた、いつもの優柔不断さがなりを潜めてしまっている。
『四聖剣、おれと共に敵を減らす。狙いはユーフェミア。それを阻むモノだ』
『『『『承知ッ』』』』
『‥‥「返上した」のならば、‥‥「行政特区日本」を顧みない、身勝手なおこない、‥‥「返上していない」のならば、偽りを口にした‥‥』
『‥‥まったく。‥‥どちらにしても、ゼロ、お前にとって「裏切り者」には違いないのだろう?もう放っておけ。少しは我が身の事を考えろ』
いつもの高飛車な物言いではなく、どこか気遣う口調のC.C.に、ゼロの怪我はそこまで酷いのかと不安になる。
『あぁ、‥‥もう少し待て。‥‥「ユーフェミア」裏切りの皇女よ。‥‥残った、なけなしの良心で、わたしが示した、信頼だけは‥‥裏切らないで頂きたい、ものだ』
『‥‥さて、集めたからには保護の義務があるのは知っているだろうな?』
それまで、ずっとゼロの怪我についての発言しかしていなかったC.C.が、ゼロの言葉を補足するような言葉を言い始めた。
『一般の"日本人"諸君。‥‥ここが「行政特区」として、機能するかどうかは、わたしにはわからない。だが、とりあえず避難してほしい』
『ここはこれより戦場となる。‥‥もっとも、ブリタニアが場所を変えてと悠長な意見に賛同すれば、別だがな』
藤堂を筆頭に騎士団は腹を括った。
ゼロとC.C.の言い方では戦闘は必至、戦いが始まるのだ。
『あら、ゼロはうたなくてはなりませんわ。そう、言いましたわよね。‥‥ブリタニアの兵士の皆さん。ゼロをうってください』
『姫様、何を言われるのですか』
『邪魔をしないでください。ゼロをうつのです。逃がしてはいけませんよ』
ユーフェミアの宣言の言葉と共に、銃撃の音を拾って、一同慌てる。
『‥‥藤堂、聞いた通りだ。‥‥ユーフェミアは敵に、なった。‥‥騎士団は、会場に入り、‥‥"日本人"を護って、敵を蹴散らせ』
藤堂は月下の片手を持ち上げて振り下ろすと、先陣を切って飛び出した。
みな、その後に続く。
藤堂は通信をガウェインのみに切り替える。
「わかった。ゼロ、怪我は平気なのか?C.C.」
『‥‥‥‥出血が酷いのが気になる程度だ。傷自体はそれ程大きくはないのだが‥‥』
「とにかく、ガウェインは一旦引いて、ゼロの怪我の手当を優先してくれ。紅蓮弐式を援護に回す」
『止血はしてある。C.C.が少し大袈裟に、言っていただけだ。‥‥それに、今現在、奴等の狙いは、わたしのようだ。‥‥"日本人"の避難を、優先する』
「‥‥避難状況は?」
ゼロが一度言い出したらなかなか引かない事は藤堂とて承知しているので、無駄な言い合いを避ける為、今は逆らわず渋々話題を変えた。
『ガウェインは上空だからな。流れ弾は少ないが、それでもそれなりの被害は出ている。現状避けるので手一杯なのでな』
「後2分で到着できるだろう。‥‥その後は、ちゃんとした手当を受けてくれ」
藤堂の懇請に近い言葉に対するゼロの返事はなく、別の指示が下される。
『‥‥アヴァロンはどこにいるかわかるか?‥‥会場に、枢木スザクはいたが、白兜はなかった。‥‥到着を牽制出来れば、敵の機動力が異なる』
「わかった。調べて対処しよう」
『一旦通信は切るぞ。合流するまでは忙しい。‥‥良いな?ゼロ。‥‥切るぞ』
ゼロは頷いたのだろう、C.C.の声だけが聞こえて通信が切られた。
藤堂は迷いを振り切るように頭を一度振ると、騎士団内の回線を開いた。
「ディートハルト。アヴァロンの現在位置を調べてくれ。到着を牽制したい。‥‥ゼロの指示だ」
『了解しました。すぐに確認します』
「扇、戦闘が進むにつれて、日本人への被害が拡大する前に、出来るだけ逃がせ」
『分かっている。ゼロは離脱出来ないのか?』
「弾幕がきついらしいな。紅月、お前はゼロを第一に考えておけ。ユーフェミアを見かけても飛び出すな」
『‥‥ッわかってる。今はゼロが第一だわ』
「刃向う敵には容赦するな」
藤堂の声に、騎士団の返事が唱和した。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.20
あれは、どういうことだったのだろうか‥‥。
『二人きりで話がしたい』
そう、話を持ちかけたのは、ゼロの方だった。
ユーフェミア皇女殿下は笑顔でそれを受け入れ、二人は会場を離れ、G1ベースへと入って行った。
戻ってきたのは、ユーフェミア皇女殿下一人だけだった。
会場の自らの席で待っていた一同が訝しむ。
桐原は眉を顰め、G1ベースに続く回廊へと視線を向けた。
ダールトンもまた、気遣わしげにユーフェミア皇女殿下の背中を見つめ、姿を現さないゼロについて思案を巡らせる。
列席者の思惑を他所に、ユーフェミア皇女殿下は、マイクの前へと進み、会場に集まる多くの"日本人"を見まわして宣言を下す。
『わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に、「行政特区日本」成立を宣言』
『‥‥‥‥待っていただこうか、‥‥ユーフェミア‥‥』
ユーフェミア皇女殿下の宣言を遮るように、途切れ途切れに聞こえた声は、どこか弱いながらもまぎれもなくゼロのモノで。
次いで、ゼロの乗って来たナイトメアフレーム『ガウェイン』が空高く舞い上がる。
「特区日本を敵に回す気か、‥‥ゼロ」
そう呟いた桐原の声は、あまりにも小さくて誰の耳にも届かなかった。
ダールトンが飛び出し、ユーフェミア皇女殿下を庇いつつ後退させる。
『わたしは、‥‥本気で参加しても良い、‥‥そう、思っていたのですが、貴女にその気がないのでしたら、‥‥諦めるより他に道はなさそうですし』
ゼロの、意味不明の言葉は、それでもユーフェミア皇女殿下が何らかの形で、ゼロの手を払った事を意味していると取れる。
それに思い至ったその場に集まった"日本人"達が、不安そうな顔で周囲と顔を見合わせている。
ダールトンは舌打ちをしたい気持ちを抑えると、配下の兵士にユーフェミア皇女殿下を託すと、マイクを握った。
このままでは収拾が付かない事を悟っていたからだ。
『‥‥』
だが、ダールトンが反論をする前に、再びゼロの声が放たれた。
『ゼロの名において、‥‥我々、黒の騎士団は、‥‥ユーフェミアの敵に回る。信頼‥‥どころか、‥‥信用すら出来ぬ者の手は‥‥取れない』
これまでよりも、押しが弱いその声は、どこか切れがちで、不自然さを聞く者に与えていた。
『ゼロ、そのくらいにしておけ。一旦帰還するぞ。‥‥早くその怪我の手当をしないと、‥‥出血が多い』
だが、続いて聞こえた、別の、明らかな女の声に、いやその内容に、聞いていた者は愕然とする。
ダールトンは咄嗟に、直前までゼロと一緒だったユーフェミア皇女殿下を振り返っていた。
ダールトンのその動作に、発言を求められたと思ったのだろう、ユーフェミア皇女殿下はにっこりと笑って頷いた。
『はい、わたくしが、ゼロを撃ったのですわ』
その言葉は会場に戻った時に、取り付けたドレスの胸元のマイクが拾っていて、会場に響いた。
『‥‥そう、貴女はわたしを誘い出し、‥‥攻撃する為に、この場を設けたのですよ。‥‥"日本人"の為ではなく、』
『だって、貴方はクロヴィス義兄様を殺したのですよ?それに「行政特区日本」はちゃんと』
『ちゃんと?‥‥ユーフェミア。「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の名前を返上した、‥‥ただの「ユーフェミア」の宣言に何の意味があると言うのですか?』
ゼロの言葉は更に会場中に不安をまき散らす。
『だけど』
反論しようとユーフェミア皇女殿下が口を開くが、ゼロには反論する隙を与えるつもりはなかった。
『それとも、わたしに‥‥「返上した」と言ったのは、わたしを欺くためだけのものですか?皇族でなくなったのならば、‥‥貴女にはそこに立つ資格がないのですよ』
『おい、いい加減にしておけ。‥‥せめて止血だけでもちゃんとしろ』
合間に女の声が入る。
『宣言をなさるのでしたら、‥‥ただの「ユーフェミア」ではなく、‥‥貴女の姉、第二皇女「コーネリア・リ・ブリタニア」か、‥‥ッ』
『ほら見ろ、我慢せずさっさと止血しろ』
『‥‥第二皇子「シュナイゼル・エル・ブリタニア」の、名前でなければ、‥‥機能しない事も、念頭になかったのですか?』
ゼロはところどころで入る女の声をここまでは完全に無視していた。
『‥‥「返上した」のならば、‥‥「行政特区日本」を顧みない、身勝手なおこない、‥‥「返上していない」のならば、偽りを口にした‥‥』
『‥‥まったく。‥‥どちらにしても、ゼロ、お前にとって「裏切り者」には違いないのだろう?もう放っておけ。少しは我が身の事を考えろ』
『あぁ、‥‥もう少し待て。‥‥「ユーフェミア」裏切りの皇女よ。‥‥残った、なけなしの良心で、わたしが示した、信頼だけは‥‥裏切らないで頂きたい、ものだ』
『‥‥さて、集めたからには保護の義務があるのは知っているだろうな?』
『一般の"日本人"諸君。‥‥ここが「行政特区」として、機能するかどうかは、わたしにはわからない。だが、とりあえず避難してほしい』
『ここはこれより戦場となる。‥‥もっとも、ブリタニアが場所を変えてと悠長な意見に賛同すれば、別だがな』
『あら、ゼロはうたなくてはなりませんわ。そう、言いましたわよね。‥‥ブリタニアの兵士の皆さん。ゼロをうってください』
ユーフェミアが号令をかけると、周囲を囲んでいたナイトメアフレーム「サザーランド」が一斉に起動し始める。
この言葉にはダールトンも驚く。
場所を変えるなり、この場は見逃すなり、とにかくこの場でこのまま闘うのはこちらにとって不利だと思っていたにも関わらず先に言われてしまったのだ。
『姫様、何を言われるのですか』
慌てたダールトンが制止しようとしたが、ダールトンは脇腹に痛みを感じてくずおれた。
『邪魔をしないでください。ゼロをうつのです。逃がしてはいけませんよ』
こうしてサザーランドによるガウェインへの攻撃が始まった。
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作成 2008.01.06
アップ 2008.01.19