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※「光と闇の想い」の続きです。
ゼロは歩いて神根島を移動し、洞窟の前に止まる無人のナイトメアフレームを三機見つける。
言わずと知れたC.C.のガウェインとカレンの紅蓮弐式、それにスザクの白兜である。
洞窟に入る前に、ゼロはまず白兜に近づき、エナジーフィラーを抜いた。
ゴトンと地面に落ちたエナジーフィラーを、ゼロは無感動に眺める。
それからコックピットの中を覗いて予備がないかどうかも確認し、発見したので当然なんとか外に放り出す。
再びゴトンと音がして、エナジーフィラーが地面に落ちる度に結構派手に響かせるのが気がかりなくらいだ。
次いでガウェインに近づきコックピットに入る。
起動キーは抜かれていたが、複座式だからとC.C.と暗号付きの隠し場所を取り決めていた為、今回もそこに置かれていた。
取り出した起動キーを挿し、ガウェインを動かしたゼロは、まずは白兜から取り出したエナジーフィラーを収得する。
これで白兜は援軍が来なければ動けない。
本来なら武装解除くらいしておいた方が良いのだろうが、流石にそんな時間的余裕はなく、ゼロは黒の騎士団に向けて通信を繋げた。
租界。
藤堂は前線で、南は後方本陣で、ディートハルトは広報車で、続々と入る被害報告に苛立ちと焦りを募らせていた。
途中で戦場を放棄して消えた総司令ゼロとC.C.とガウェイン。
その後を追うように扇に指示されてやはり戦場を離れたエースパイロットのカレンと紅蓮弐式。
何故か唐突に負傷して戦線離脱せざるを得なかった副指令の扇。
中枢にいる三人がほぼ同時に戦線離脱した事は、かなりの痛手となった。
そして、最悪の報告がもたらされる。
『大変だッ!ゼロのガウェインを追っていっていたハズのあの怪物が戻ってきたッ』
人形すらしていない、ナイトメアフレームモドキの怪物。
これまで性能の勝っていたガウェインや白兜、紅蓮二式の上を行く化物である。
それだけが戻ってきたと言うのは、どういうことだろうか、考えると怖いものがある。
性能で勝るあの怪物が、追っていったガウェインを見失ったとは思えないから、まさかやられたのか!?と更に不安に思う。
戦場から何の説明もなく消えたゼロを、それでも案じるのは戻ってきて欲しいと願うからだ。
ゼロが消えた途端、戦局は一気に不利になった。
何故か第二皇女は指揮を取っていないようだが、その騎士であるギルフォードの手腕も、それに動かされるブリタニアの大軍も馬鹿にならないのだ。
どんな事情があるかはわからないが、早く戻ってきて指揮を取って欲しいと願わずにはいられないのはその為である。
ゼロさえいれば、戦局が逆転するかも知れない、再び奇跡を起こしてくれるかも知れない、と信仰に近い思いもある。
「くッ‥‥」
その報を受けた藤堂は呻く。
既に性能による彼我の差がハッキリしていて、誰を宛てても「死にに行け」と言うのと同義にしかならない。
例えそれに多数を宛てても勝てる気がしない上に、明らかな穴を作る事になるのだ、判断に迷っても仕方がないだろう。
まだ勝負になるのは騎士団のナイトメアフレームでは、ガウェインと紅蓮弐式を除けば、月下だけだろう。
しかし、藤堂自身や、四聖剣までもが戦列から離れれば、待っているのは確実な敗北なのも判りきっている。
「せめて、弱点なりとも判れば‥‥」
『藤堂中佐。わしと卜部が行きましょう。ここを手薄にしてしまいますが‥‥』
『そうそう。今はなんとしても持たせないと、だしな、中佐』
仙波が月下間のみに通信を繋げ提案し、卜部が同意する。
『抜けた穴はわたしと朝比奈とで全力でカバーします、中佐』
『まっかせてー、藤堂さん』
こんな時でも戦意を失わない四聖剣を、藤堂は誇りに思った。
「仙波、卜部。無理はするな。‥‥戦線を下げて守りに回る。千葉と朝比奈は再度隊列を整えろ」
『『『『承知ッ』』』』
しかし、四聖剣が動き出す前に、通信が飛び込んできた。
『藤堂。聞こえるか?』
藤堂にのみ繋げて来た通信は、月下に乗る四聖剣にも届いた。
それは騎士団の誰もが待ち望んだ声でもある。
「ゼロッ!無事だったのだな。今何処にいる?用事は済んだのか?」
『‥‥‥ッまだだ。だから余り時間がない。急いでいるのだが、そちらにナイトメアフレームモドキが戻ったから知らせようと思った』
「‥‥こちらでも既に確認している」
『そうか、流石に速いな。‥‥藤堂、それには手を出すな。一応、「騎士団に攻撃は加えるな」、とは言ってある』
『‥‥言ってある‥‥って、敵でしょう?』
租界を離れる前のアレに、騎士団が散々な目に遭わされたのは記憶に新しいのだ。
『朝比奈か。今も半分敵だが、半分はまぁ味方だろう。‥‥藤堂、騎士団員に徹底させろ。「オレンジ」と言う単語を耳にすると暴走する。注意しろ』
ゼロの言葉に、藤堂も四聖剣も眉間に皺を作った。
「‥‥‥というと、奴、か?ジェレミア‥‥とか言った‥‥。平気なのか?奴はゼロを」
『地雷を踏まない内は平気だろう。‥‥わたしはもう行かなければ。暫くガウェインを離れる』
「そこは何処だ?C.C.と紅月は?」
『先行している。‥‥白兜もあるから枢木も来ているのだろう。用事が無事に済めば戻る』
『なッ。こっちはもう壊滅寸前なんですよ!』
ドドドドドォ~~ン。
爆撃が巻き起こり、ゼロの声を消し去る。
いつの間にか戦場に到着した怪物がブリタニア軍のナイトメアフレームを破壊した音だった。
「黒の騎士団、全員に告げる。今後『オレンジ』という言葉を禁句にする。‥‥あの怪物を敵に回したくなければ、徹底しろ。態勢を整えるぞッ」
全騎士団員に向けての、藤堂の言葉が響いた。
藤堂の声を聞きながら、団員は敵だったはずの怪物がブリタニア軍に牙を剥いて襲いかかっているのを茫然として見つめていた。
さっきまであんなに絶望的だったというのに、今、戦局は三度変わろうとしているのだ、‥‥たった一機の怪物によって。
『もう一度繰り返す。あれを敵に回したくなければ、禁句は口にするな。‥‥その条件でゼロがあれを説得した』
藤堂の言葉に、騎士団のアチコチから「奇跡だッ」「ゼロがまた奇跡を起こしたッ」と騒ぐ声が聞こえだす。
『隊を編成し直す。この機に乗じて攻めるぞ。浮かれてないで気を引き締めろ』
「「「「「ッわっかりました~~~~~!!!」」」」」
敗戦一色だった騎士団の暗い雰囲気が一掃された。
了
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作成 2008.02.21
アップ 2008.03.12
※「休暇と思い出」の続きです。
もしも万が一素行調査や実態調査などの名目の尾行が存在したとしても、十分撒いたと思った頃。
ギルフォードは目的の場所へと足を向けた。
ピ~ンポ~ン
『授業中ですが。生徒会長及び副会長は至急理事長室へ出頭してください』
放送は唐突だった。
しかし、それを聞いた教師も、生徒達も驚いたりはしない。
それどころか、「またか~」「大変だな~ルルーシュ~」等と呼び出されたクラスメイトに労わりの言葉までかける。
呼び出された対象の片割れである副会長のルルーシュは、溜息を吐くと立ち上がった。
「すみませんが、行ってきます」
「あぁ、毎度毎度大変だな、生徒会も」
「いえ‥‥では、失礼します」
教師からも呆れ混じりに同情されて居心地の悪くなったルルーシュは、言葉少なに返事をすると教室を出て行った。
そう、既に二桁の大台にはとっくに乗っている事なのだった。
理事長室に繋がる廊下に入る前にルルーシュは会長のミレイと合流した。
「‥‥で?今日は何ですか?会長」
ルルーシュが眇めた目でミレイを見ながら訊ねると、ミレイは乾いた笑いを浮かべた。
「あはは‥‥。それがね、ルルちゃん。わたしも知らないのよ。今朝は何も言ってなかったから」
ルルーシュは更に目を細める。
「‥‥帰って良いですか?会長。何だか嫌な予感がするんですが」
「珍しいわね。おじい様の呼び出しを断ろうとするなんて」
ミレイは驚いた様子で応じる。
「‥‥冗談です。さ、行きましょう、会長」
「ルルちゃん?嫌なら良いのよ?おじい様の我が儘に付き合わなくっても」
「理事長も別に我が儘で呼び出しているわけではないでしょう?」
「そこんところはちょっと~。孫娘のわたしにも良くわかんないのよね~」
言い合いながら、二人の足は理事長室へと向かっていた。
中に入ってミレイは、ルルーシュをそのまま帰してしまわなかった事を後悔した。
ルルーシュもまた、冗談に紛らわさずに予感に従って帰っていればと後悔していた。
理事長室には、ミレイの祖父ルーベンがいた。
だが、一人だけではなかったのだ。
第二皇女コーネリアの騎士、ギルバート・G・P・ギルフォードが、何故か私服姿でそこにいた。
「‥‥彼等が、この学園の生徒会長と副会長、です」
ルーベンがギルフォードにそう紹介した。
紹介されたからには名乗らないわけにはいかない。
「‥‥‥‥。生徒会長のミレイ・アッシュフォードですわ。‥‥彼は副会長のランペルージ」
ミレイは最後の悪足掻きに出てみる。
ギルフォードはまっすぐにルルーシュを見つめた。
「‥‥やはり、生きておいででしたか、殿下」
ルルーシュとミレイの肩が、同時に強張る。
「‥‥『やはり』?最初から知っていた、と?」
これ以上の誤魔化しは無意味と、ルルーシュは息を吐いた後、そう尋ねた。
「‥‥‥‥。誰も殿下と妹姫の御遺体を確認した者がおりませんでしたから。‥‥それは、『亡くなられた』ではなく、『行方不明』と言うのですよ」
「なるほど?‥‥それで、わたしの存命を知って、どうするつもりだ?ギルバート・G・P・ギルフォード」
ルルーシュは慌てたりせず、静かに相手に確認を取る。
「‥‥お戻りになるおつもりはないのですか?既に七年。‥‥いえ、本国を離れてより八年になられるのですよ?」
「異な事を。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは既に死んでいる。戸籍も記憶も。そうなっているのだろう?今更戻っても居場所など在りはしない」
ルルーシュは笑みさえ浮かべて、そう応じた。
「コーネリア姫様が保護してくださいます。殿下のご無事な姿をご覧になられたら、きっと温かくお迎えくださいます」
ギルフォードはルルーシュの言葉に即座に返す。
「‥‥。この学園はブリタニアから隠れる為の箱庭だった。かなり自由に振る舞えるところが気に入っている。‥‥義姉上は我々をどこに閉じ込めるおつもりか?」
ルルーシュは遠まわしに言葉を綴る。
気に入っている場所を追い出し、不自由などこに幽閉するのか、と。
ブリタニアに戻る、と言う事はそう言う事なのだと暗に言ったのだ、ルルーシュは。
ギルフォードは静かに首を振って答える。
「‥‥姫様はまだ、存じ上げません。‥‥この姿を見ていただければ判るかと存じますが、現在、休暇中でして」
「ほぉ?真面目なお前らしくないな?ギルフォード卿。主に無断で、わたしに会いに‥‥いや、わたしがここにいると踏んだ時点で何故主に知らせなかった?」
ルルーシュが訝しげに眉を寄せて尋ねるのを、ルーベンとミレイは不思議な思いで見つめていた。
ルルーシュが、ギルフォードと親しかったとは終ぞ聞いた事がなかったからである。
ギルフォードの主で有り、ルルーシュの義姉であるコーネリアが妹共々、ルルーシュの住まうアリエスの離宮を良く訪ねていた事は知っていたが。
「ご承知の通り、姫様は実妹であるユーフェミア様と殿下のご一家をこよなく愛しておられました。不確かな情報をお教えする事は出来ませんでしたから」
ギルフォードは当時を思い出して、苦いモノを感じながらも、そう答えた。
「‥‥‥‥。義姉上には黙っていて欲しい、‥‥そう言ったとしても、既にわたしを確認しているのだから、無理な相談か?」
ルルーシュの諦めたような言葉に、ギルフォードは瞬間沸騰した。
「ッ‥‥何故ですか?‥‥何故殿下はッ‥‥」
「落ち着け、ギルフォード卿。わたしには、あの表面のみが華やかな、忌わしい場所に戻る気がないだけだ。‥‥アレがテロでなかった事は知っているだろう?」
突然憤りを見せたギルフォードに、ルルーシュはやはり動揺する事無く、言い聞かせるように話す。
「‥‥それはッ‥‥。ですが、今はこのエリア11も何かと物騒です。イレブンが活気づいておりますし。皇室とまでは申さずとも、本国に一旦お戻りになられた上で」
「ダメだ。本国にも戻るつもりはない。‥‥わたしに、顔を隠して行動しろとでも言うつもりか?」
「ちょ‥‥。何故かは知らないけれど、彼は貴方の事を考えて言ってるみたいなのに、もう少し言い方を考えてあげたら如何ですか?」
ルルーシュの口調がきつくなったのを感じて、ミレイが口を挟んだ。
「ミレイ。お前は黙っていなさい。‥‥殿下。隣に部屋がございます。ギルフォード卿と、そちらでお話になられますか?」
ルーベンが孫を叱責した後、ルルーシュに提案する。
「‥‥良いだろう。借りるぞ、ルーベン」
ギルフォードが微かに頷いたのを見たルルーシュは、そう応じて隣に移動していった。
「おじい様ッ」
ミレイは二人の姿が隣室に消えるなり、祖父に抗議する。
「ミレイ。ギルフォード卿は、殿下を悪いようにはなさらないだろう。大人しく待っていなさい」
確信に満ちたルーベンの言葉に、ミレイは渋々頷いて、隣室に繋がる扉を見つめ続けた。
了
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作成 2008.02.15
アップ 2008.03.11
「ゼッケン‥‥‥ですか?」
ゼロと二人だけになった会議室で、説明を受けていたカレンは、首を傾げた。
「そうだ。最優秀の選定を採点式にしたいが、みな同じ格好で紛らわしいとのクレームが上がったらしい。ゼッケンをつけて見分けると言う案が出ているようだ」
聞いたカレンはニュースソースであろう金髪の女性を思い浮かべ、「そこまで流しますか、ミレイ会長‥‥」とげんなりとした気分になる。
勿論それを有効利用しているゼロを目の当たりにしているし、役に立てている側の者としてはむしろ喜ぶべきなのだろう事は、カレンも承知しているのだが。
どこかしら、割り切れないモノがカレンの中に存在する事もまた事実だったのだ。
「カレンには前日までのなるべく早い時期に、カレン自身と枢木スザクのゼッケン番号を入手して来て貰いたい」
「はい。‥‥えっと‥‥、それは‥‥何に使うのでしょうか?」
「例えば、カレンのゼロを7番、枢木の団員を100番と仮定しよう。『そこの団員100番。このわたし、7番のゼロが命じる』‥」
ゼロの芝居がかった台詞にカレンは目を丸くした。
「あ、あの。‥‥手伝っていただけるのですか?」
「幾つかのパターンを想定して吹き込むくらいは造作ない。‥‥但し、カレンには内容とタイミングを誤らないように覚えてもらう必要があるが‥‥」
「それくらいなら‥‥。ありがとうございます、ゼロ。枢木スザクになんて絶対に負けませんから」
カレンは上気した頬を隠す為にも、勢い良く頭を下げて礼を言った。
「ゼロ。‥‥‥今のこの時期に、この場所を襲撃する意図は何処にある?‥‥まさかイベントに合わせただけではあるまいな?」
ゼロの私室に呼ばれた藤堂と四聖剣は、イベント当日におこなう予定になっている作戦の資料を手渡されたばかりだった。
ざっと眼を通した藤堂が、ゼロが説明を始める前に、そう切り出した。
場所はヨコハマ。
アッシュフォード学園から遠すぎず近すぎない、手頃な位置にある。
「合わせたのは確かだが、元から予定には入っていた。まるっきり無駄な事はしない」
「では、襲撃する理由を聞いても構わないな?」
重ねて尋ねる藤堂に、「もちろん」とゼロは頷いた。
「この襲撃に関しては全権を藤堂に任せるからな。疑問点は少ないに越した事はない。迷えば隙が出来るから気をつけろ」
そう前置きしたゼロに、朝比奈が待ったをかける。
「ちょ、っと待った、ゼロ。藤堂さんに任せるって‥‥ゼロは参加しないんですかー?」
「そうだ。わたしが参加しなくても平気な作戦にしているが、それでも『ゼロ』がいなければと藤堂が判断するのならば、元の日に戻すのは可能だ」
「‥‥ちなみに、元々は何時決行だったんだ?この作戦は」
千葉が軽く手を上げて発言する。
「ハッキリした日程はまだ決めていなかったが中旬には決行予定だった。半月程前倒しになった形、だな」
「‥‥物資の補充は間に合うのか?」
「あぁ、それは。通常ルートの搬入には問題がないし、特殊ルートも明日発注予定だったから今日までならばまだ変更は利く」
「おれ。今すっごく特殊ルートの事が気になるな~。いつもゼロが直接注文出してるんですよね~?どんなのー?」
「‥‥ノーコメントだな。それは知らなくても作戦に支障は出ない。‥‥さて、襲撃する理由だが‥‥」
朝比奈の問いはあっさり切って捨てたゼロは、三つ有った理由を順番に挙げていった。
「‥‥‥襲撃する理由は納得できた。‥‥次はゼロが参加しない理由を聞いても良いだろうか?」
「‥‥‥。表の都合、だ。決行予定が中旬だったのはそれまでわたしの予定が立たなかった為だ。纏まって租界を離れる時間が作れない、というのが理由だ」
ゼロの答えに藤堂はやっと頷いた。
「良いだろう。イベント当日、ゼロ不在の騎士団はおれが預かろう」
「すまないな、藤堂。‥‥では作戦について不明な点が有れば言ってくれ」
こうしていつも以上に詳細な打ち合わせはそれから更に続いたのだった。
特派のトレーラーの中で、セシルの悲鳴が特派一同の鼓膜を響かせた。
「ちょっ、ちょっとなにをやっているんですか、ロイドさんッ」
しかしロイドはセシルの声量に少し眉を顰めただけで、作業の手を止めたりはしなかった。
「んー?おしごと~」
のほほんとそんな回答を返すロイドに、セシルはプッツンとどこかをぶち切った。
「今そんな事をやったら、今日中にランスロットを起動できるまでに持って行けないじゃないですか。どうするんですか、ロイドさんッ」
ロイドの胸倉を掴まんばかりに迫るセシルに、ロイドはやっぱりのらくらへらりと笑みを見せた。
「だってね~、セシルくん。パーツが学業でランスロットをほったらかしにしてるんだよ?別に構わないんじゃないかなー?」
「学業、じゃなくて、ロイドさんの趣味、の為じゃないですか、アレはッ。それなのにあなたって人はッ」
「まぁまぁ、そんなに怒らないで。ねーセシルくん。君も手伝えば、それだけ早く元に戻るんだしー?」
「だからって、明日も出動かかっているんですよ?こんな状態のランスロットかかえてどうしようって言うんですか」
「んー。だってね~。パーツはたぶん戻ってこないだろうし?明日のイベントが終わるくらいまでに戻しておけば良いんだから~?」
言い訳しながら、「まったく君のせいでとんだとばっちりだね、ラクシャータ」とロイドは口の中で呟いてみる。
これでラクシャータが「知っている」のなら、くやしーやらかなしーやらと、涙にくれるのだろうとロイドはそうも思う。
「‥‥‥‥次、こんな事をしたら、承知しませんからね、ロイドさん?」
「わ、‥‥わかりましたよ。セシルくん。気をつけるから、‥‥ね?」
ロイドは及び腰になりながらもコクコクと肯いたのだった。
藤堂は己の月下の中で瞑想に耽るかのように両目を閉じていた。
その耳に届くのは、騎士団の通信でも、四聖剣の会話でもない──そのどちらも、今は回線が切れている。
モニターに映るのは、外の景色ではなく、別の場所、そう、某学園の門前だったりする。
門前には、歩哨か門番よろしくブリタニア兵が二人立っていて、学園内から走り来る人がいる度に、その数を数えていた。
『八回‥‥本気で十回やる気かよ、こいつは』
いささか辟易しながら藤堂はそれを聞くともなく聞いていた。
本気で実行に移したのか、ゼロ、それに紅月‥‥と思う反面、ホントに指示に従っているスザクにゼロの読み通りかと感心もする。
いや、藤堂自身、あの時ゼロと話した事に偽りはないのだから、非難しようとは一欠けらも思ってはいないのだが。
「もう少し、疑問を持ったらどうだ、スザク君‥‥」と、かつての弟子に言いたくなってくるのがいただけないだけだ。
『──枢木が十回目の合図を送ったら、作戦開始だ』
ゼロの言葉が藤堂の頭に蘇る。
離れたところでおこなわれているイベントの進行も作戦に組み込む事に、藤堂は難を示していたのだが。
話を聞いて納得はしたし、支障が出る場合は、連絡を寄越すと言うので、藤堂もその作戦を受け入れたのだった。
枢木スザクがモニターに姿を見せる事九回目、モニターから流れる音量を消した藤堂は、従う騎士団への通信を繋げた。
「各位、突入準備。まもなく作戦を実行に移す」
四聖剣からは「承知」、他の団員からは「わかった」や「はい」などの返事が返る。
藤堂が何でタイミングを計っているか知っている四聖剣の返事には、少々勢いが欠けていたが、無理はないだろう。
それでも余計な事は何も言わなかったのは、ゼロの説明を一緒に聞いていたせいだろうが。
藤堂は四聖剣の心中を思って、十回目の姿を見るまでの間、苦い笑みを浮かべたのだった。
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作成 2008.02.03
アップ 2008.03.10
「‥‥‥‥で?扇さん、ゼロは何て?もう機嫌は直った?」
扇が二階から降りて来るなり、下でずっと今か今かと待っていたと思われるカレンがまず駆け寄って尋ねた。
その後ろで扇とカレンを遠巻きにするように、みんな注目している。
「あー‥‥。一応、直った‥‥、かなぁ?」
扇は少し躊躇った後、曖昧に応じた。
「何よそれ。一応って。かなぁって。扇さんハッキリしてください」
ずずいとカレンが詰め寄り、扇は後退りながら、こくこくと頷く。
「い、いや。うん。‥‥だから、もう‥‥機嫌は悪くない‥‥かな」
しかし出てくる言葉が変わり映えしないのは扇ならではだろうか。
「かな、じゃねぇ!それじゃさっきと同じ答えじゃねぇか。ハッキリキッパリ言えよ、扇」
ハッキリキッパリ過ぎる玉城が、遠い位置から声を投げる。
「だから、機嫌は直ってる、うん」
扇は再度言い直した。
「それで、扇さん。ゼロの相談に乗って上げたんですよね?何が原因で機嫌が悪かったんですかー?」
朝比奈がズバリと扇が聞いて欲しくない事を聞いてきた。
「‥‥‥‥‥‥。も、もうゼロの機嫌は直っているんだから、それは別に言わなくても良いだろう?」
長い沈黙の後、扇は視線を逸らせて逃げの手に出る。
固唾を呑んで待っていた分、団員達はずっこける。
勿論、それですまそうなんて思う者はいない。
全員が扇の押しの弱さを知っているのだ。
ここは押して押して押しまくり、押しの一手で扇の口を割らせようと、元扇グループ+朝比奈は一致した見解に達した。
「扇さん。今はゼロもいませんし、みんな扇さんが話したなんて言いませんから。ね?話してください、扇さん」
「そうよね、カレンの言う通りだわ。だから教えて、扇さん。さっきのゼロ、ホンットに怖かったのよ?逆の立場だったら扇さんだって」
カレンと井上の言葉に、杉山と南と吉田がうんうんと頷く。
「‥‥‥‥い、いや。‥‥し、しかし、だな‥‥」
扇は勢いに押されて後退するが、壁にぶつかり逃げ出せなくなってしまった。
「‥‥何をしている?騒々しい」
その時、いつの間にか部屋から出てきていたゼロが、階段の途中から声を投げて来た。
その声に、先程の凄まじさは込められていない事に、一同ホッとする。
「ゼロッ。‥‥あの、‥‥どうして機嫌が悪かったのか、‥‥き、聞いても良いですか?」
扇に聞いても埒が明かないと、カレンはゼロに直接尋ねていた。
「‥‥なんだ、扇。教えていなかったのか?」
「あ‥‥いや、その‥‥。そう、なんとなく」
やっぱり扇はしどろもどろに意味不明な言葉を連ねた後、コクリと肯いた。
フッとゼロは笑う。
「おかしな奴だな。わたしは別に口止めはしていなかったはずだぞ」
「あ、あぁ。それは、勿論。‥‥だけど、その‥‥」
それでも扇の口からは有益な言葉は出てこない。
「くっくっ‥‥。では扇。今度また、わたしの機嫌が悪くなった時も相談に乗って貰おうか?」
ゼロはそう言うと、茫然とする扇と、唖然とする一同を残して格納庫の方へと歩いて行ったのだった。
部屋に消える前のゼロとは全く違い、笑いながら出て行ったゼロに開いた口が塞がらない。
我に返った扇は、「絶対ゼロの意趣返しだ。おれだってあんな状態のゼロと対面したいはずはないってのに‥‥」と心なしか青くなる。
「流石副司令だけの事はあるんですね~。あの状態のゼロを落ち着かせるどころか、笑わせるなんて」と朝比奈は感心する。
玉城はしつこく相談の内容を知りたがり、再び扇に視線を戻す。
カレンはかなりのダメージを受けたのか、いまだ唖然としたままゼロの消えた方向を見つめていた。
そこへ、千葉が爆弾を落とした。
「なんだか、ゼロと扇さんが付き合ってるように思えてしまったが?」
当然、その直後、その場に絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。
その日、騒動は終わらなかった。
了
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作成 2008.02.21
アップ 2008.03.09
黒の騎士団が攻め上がった政庁の一室で。
ゼロが己の持つ銃を突きつけた相手。
神聖ブリタニア帝国、第二皇子にして宰相の任にあるシュナイゼル・エル・ブリタニアは悠然と座ったまま優雅な笑みを浮かべていた。
ゼロの後ろには騎士団幹部である藤堂、扇、カレン、朝比奈に千葉がやはり銃を手に控えていると言うのに、である。
ちなみに残りの四聖剣の仙波と卜部や、他の幹部達は各所で騎士団を率いてブリタニア軍を牽制、或いは戦闘中である。
「‥‥これで、チェックメイトのつもりかい?ゼロ。‥‥それとも名前を呼んだ方が良いかな?」
シュナイゼルの言葉に、藤堂はシュナイゼルを凝視し、残りはゼロを凝視する。
「いいえ、結構。わたしはゼロですから」
ゼロはその素性がバレているかも知れないと言うのに、平然と応じる。
「そうだろうね。‥‥そうそう、君に一人紹介したい者がいてね?」
シュナイゼルはそう言うと、背後の扉に視線を向けた。
「お入りください。‥‥枢機卿猊下」
次期皇帝に一番近いとされているシュナイゼルが敬語を用いて声をかけた事に、騎士団の幹部達は興味を覚えて視線が扉に向かう。
注目を浴びる中、開いた扉から男が一人、悠然と入って来た。
漆黒の髪、白い肌、そして紫の双眸。
ゼロが、藤堂が、そしてカレンが驚いた。
「‥‥‥‥ル、‥‥ルルー、シュ?」
新たに現れた、その少年とも呼べそうな若い男は、あまりにも知っている人物に似ていたのだ。
カレンは驚きの表情のまま、ポツリと呟いた。
藤堂はハッとしてゼロを顧みる。
扇と朝比奈、千葉はカレンを見た。
「‥‥知り合いなのか?」
しかし扇の言葉はカレンの耳には届いていない。
「‥‥どうやら、人違いをしているようだね」
優しげな笑みを浮かべて枢機卿と呼ばれた少年は言いさした。
「わたしは神聖ブリタニア帝国、第十一皇子、第十皇位継承者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。現在は枢機卿の任を授かる者‥‥」
人違いと言いながら、それでもカレンの呟いた「ルルーシュ」を名に持つ少年は、動じる様子を見せない。
相手の名乗りに対し、藤堂が何かを言いかけるのをゼロが制し、口を開いた。
「継承順位が随分と上がっているではありませんか?‥‥殿下。以前は確か十七位だったはずですが?」
「クロヴィス義兄上を筆頭に高位の継承者の方が幾人か退いたし?‥‥ねぇ、ゼロ」
親しげに話をするゼロと枢機卿の『ルルーシュ』に騎士団達は戸惑うばかり。
「‥‥ゼロ‥‥」
「‥‥あの時、皇女のみを狙った理由は、返り咲きを目論んでいた為ですか?」
「気づいていたのか?‥‥まぁ、だからこそ身を隠した。そしてゼロになったのだろうけど?」
「そちらこそ、気付いていたのですね、‥‥やはり」
誰かの呟くような呼びかけを無視して、続いていく会話に、カレンが耐えきれなくなって混乱しながら口を挟んだ。
「ゼロッ‥‥。あの、‥‥どういうことですか?」
ゼロは溜息を吐いただけで答えず、スッと仮面に手を掛け、そして外した。
中から現れたのは「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」と名乗った枢機卿と同じ顔、但しこちらは片方に眼帯が掛けられていたが。
元から素顔を知っていたシュナイゼルと『ルルーシュ』、それに藤堂は驚かなかったが、他はそうはいかない。
いや、シュナイゼルと『ルルーシュ』は、その顔を飾る眼帯に視線を向けて一瞬表情らしきものを浮かべはしたけれど。
「‥‥なッ、同じ顔?」「え?‥‥ル、ルルーシュ?」
そして、藤堂もまた、わからない事が有って、口を開く。
「説明して貰えるのか?‥‥ルルーシュ君」
藤堂の視線は枢機卿ではなく、唯一人ゼロに向いていた。
ゼロはチラと藤堂を見、視線をシュナイゼルと主に『ルルーシュ』に向けて言う。
「皇妃マリアンヌが長子は実は双子だったというのはあまり、いやほとんど知られてはいない」
「そう。かつて『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』は二人いて。双子のどちらもが『ルルーシュ』の名を持っていた‥‥」
「七年前、一人は国に戻り、今一人はこの地で亡くなった‥‥」
「ランペルージ‥‥。とかいったね?仮の名前は。今はゼロなのだろうけど?」
ゼロと『ルルーシュ』とが、交互に言葉を紡いでいく。
「‥‥ゼ、ゼロがルルーシュ?‥‥けど、‥‥皇族?」
「そう、かつては、だがな。‥‥なぁ?我が半身、ルルーシュ」
ゼロは『ルルーシュ』にそう呼びかけた。
束の間落ちる沈黙。
それを利用した扇がカレンをせっついた。
「‥‥ゼロは同級生のルルーシュ・ランペルージ‥‥です。‥‥皇族だとは知りませんでしたけど‥‥」
こそこそと扇に囁き返したカレンの言葉は、扇のほかには藤堂と朝比奈、千葉にのみ聞き取れた。
若いとは思っていたけれど高校生、ブリタニア人だとは知っていたけれど皇族だった事に、扇と朝比奈、千葉、そしてカレンも驚きが勝っていて言葉にならない。
「‥‥一つ聞くけど、ゼロ。‥‥それは、どうしたのかい?鏡に映したようにそっくりだったと言うのに、傷でもつくったのかな?」
『ルルーシュ』は憂い顔で半身に対して「ゼロ」と呼び掛け、左目を覆う眼帯を指して尋ねる。
「‥‥‥‥答える必要は感じませんね。まさか出て来るとは思いませんでしたけど‥‥、というか何故?シュナイゼル殿下に丸め込まれましたか?」
「人聞きの悪い事を言わないで貰いたいね、ゼロ」
シュナイゼルは優雅に肩を竦めて否定する。
「別に丸め込まれてはいないよ。‥‥ただ、生きていると聞いたものでね。あの子を迎えに来たまで」
「‥‥今更出てきて、『はいそうですか』と大人しく渡すとでも?」
「まさか。君の妹思いがどれ程のものか、良く承知しているからね。‥‥勿論君を無力化してから、迎えに行くつもりだよ?」
『ルルーシュ』は笑みを浮かべたままそう言い、藤堂はゼロを庇うようにその前に出る。
「‥‥『奇跡の藤堂』だったかな?君は初めから知っていたようだね?ゼロの素性を」
その様子を見たシュナイゼルが面白そうに訊ねる。
「え?そうなんですか?‥‥藤堂さん?」
藤堂はシュナイゼルと朝比奈の問いに答えず、肩越しにゼロを振り返った。
「一つ聞く。おれが七年前に会ったのは、君の方で間違いないな?」
確信を持って問いかける藤堂に、ゼロは目を見開き、驚きを表す。
「‥‥何故、そう思う?」
「わたしも知りたいな?何故それをゼロの方だと思うのか、を」
ゼロが問い、『ルルーシュ』も便乗した‥‥。
朝比奈と千葉はゼロと『ルルーシュ』を見比べてから、心配そうに藤堂に視線を固定した。
扇とカレンは顔を見合せてから、藤堂とゼロとを視界に収めた。
───────────
作成 2008.02.04
アップ 2008.03.08
夕刻。
テレビがジャックされたと聞いてスイッチを入れると、そこには朝「行政特区日本」の会場だった場所が移っていた。
舞台の上には、何故か垂れ幕がしていて、その後ろに動く人影が見えていたがそれが誰なのかはまだ教えてくれない状態だ。
ここは「アヴァロン」の中の一室。
ユーフェミアとスザク、ロイド、セシルがいる場所で、4人は今、一緒にテレビを見ている。
「‥‥これは、黒の騎士団、ですね‥‥。何をするつもりなのでしょうか‥‥」
セシルが不安気に呟いた。
「‥‥この放送、止められないのかな~。ブリタニアよりも先になんらかの発表をしようとしてるんだろうけど‥‥」
そう言うロイドは全く焦りを見せない。
「なッ、それって大変じゃないですか。なんとかならないんですか?ロイドさん」
「ぼくに言われてもね~。なんとかなるくらいなら、そもそもこんな映像流れてないと思うんだよね~」
非難の眼差しを向けるセシルに、ロイドはやれやれと肩を竦める。
「心配いりません。ゼロは『行政特区日本』を生かす形で策を練ると‥‥」
ユーフェミアが自信たっぷりに言い切るのを、3人は不思議なものでも見るような表情で眺めてしまう。
「ちょっ‥‥ユーフェミア様」
「ユフィ、って呼んでくださいって言ったはずですよ、スザク」
「ゆ、ユフィ?‥‥ゼロがそう言ったのに、彼を撃ったのかい?」
スザクは驚いて裏返りまくった声音で訊ねた。
「むぅ。何度言わせるのですか?スザク。ゼロはクロヴィス義兄様を殺めたのですよ?」
拗ねた口調になったユーフェミアは、一転不機嫌に応じる。
「矛盾してると言っているんですよ~、お姫様ぁ?‥‥それに、現状で『特区』を生かす形で事を進めるには‥‥」
ロイドがそこまで行った時、テレビの画面内で変化が起こった。
幕が取り払われ、舞台が露わになったのだ。
大きく×印をつけられたブリタニア国旗。
自分の存在を強調するシンプルすぎる日本国旗。
舞台に並んだ黒の騎士団と、イレブン‥‥日本人と思われる老人達。
そして──。
歩いて登場してくる、ゼロ。
「まぁ、そうだろうね~。現状で『特区』を生かすにはこれしかないだろうしぃ?」
ロイドはポツリと続きを呟いた。
「「ロイド、さん?」」
既に何かを悟っているらしいロイドに、セシルとスザクが物問いた気に名前を呼んだ。
ユーフェミアもまた、首を傾げてロイドを見た。
テレビではゼロの演説が始まる。
「既に先の無い頓挫した『特区』をこき下ろす事によって別の力に変える。つまり~、『行政特区』は既に踏み台の役にしか立たないんだよね~」
ロイドはゼロの声を聞きながら、やっぱりかぁと自分の考えに自信を持ちながら、そう説明した。
ブリタニアを、ユーフェミアを、そして『特区』を、‥‥全てを悪者に仕立てて行くゼロの言葉。
それは直前の騒動を見れば、彼等をもってしても、全てが真実としか思えない内容で、とても説得力が有った。
「では、『行政特区日本』は‥‥」
茫然とユーフェミアは呟いた。
「それはすぐにわかるよ~」
ロイドの言葉を待っていたかのように、テレビでゼロは宣言する。
『その名は、「合衆国日本」ッ』
「『合衆国日本』‥‥。『行政特区日本』は‥‥」
「名前を変えたようだね~。まぁ、独立してる分『合衆国』の方が日本人受けはするだろうね~。多分、成功するよ、コ、レ」
「もう、ロイドさん。ブリタニアが黙っているはずないじゃありませんか」
セシルが反論するが、ロイドは首を振った。
「ブリタニアと騎士団の立場が逆転したんだよ。ここで『合衆国日本』をブリタニアが攻撃すれば、自ら『行政特区』をも否定する事に繋がるよ~?」
少し前の騎士団が『特区』に参加しなければ意義を失うと言われていた事と同じだね~とロイドは笑う。
「けどッ、これはあまりにも準備良すぎじゃないですか?その日の内になんて‥‥。まだ半日も経ってないって言うのに‥‥」
スザクがどこか慌てたように言い募る。
「恐らく、かなり前から構想は有ったんだろうね~。それを発表する前に、『行政特区』を先に打ち出されてしまった‥‥てのが本音かなぁ?」
構想すらなく、突発的に独立を宣言したとしても、それは長続きなどしないのだと、読み取れるかは別にして言外に告げる。
ロイドのその言下以外の言葉を読み取ったのはセシルだけだった。
「じゃあ、『行政特区』に参加すると言うのは‥‥」
「姿を見せた以上、彼は本気だったんだと思うよ~?『合衆国』として準備していた草案なんかを『行政特区』に盛り込めれば御の字だったはずだしぃ?」
ロイドはそう言って、皮肉気な視線をユーフェミアに向けた。
その視線に、セシルは「お姫様が余計な事をしなければ~?」という言葉を読み取ってしまって顔を顰める。
「‥‥でもッ、そんなの勝手すぎますッ。あんな騒動の後、独断でこんな発表までして、ユーフェミア皇女殿下の事を蔑ろにしすぎています」
スザクは憤慨する。
「けどね~、スザク君?ゼロの立場に立てば、むしろ大人しいくらいだと、ぼくは思うけどね~?」
「ロイドさんッ!?」
「まずは何の打ち合わせもなしに全国放送で『行政特区』への参加を促され、退路を断たれているよね?これで騎士団、ゼロには参加以外の道がなくなった」
スザクの非難の声に耳を貸さず、ロイドはユーフェミアを見ながらそう言った。
「‥‥だって、みんなが仲良く過ごせる場所が有れば、危険な事をする必要もなくなるじゃないですか」
ユーフェミアがどこが悪いのかわからないと言った様子で言い返す。
「‥‥ふ~ん?まぁいーですが?‥‥で、ノコノコやって来たゼロを罠に嵌めちゃった訳ですね~?」
「ロイドさん、いい加減にしてくださいね?皇女殿下も困っているじゃないですか。それとも、少しお話しましょうか?」
セシルが何度目かの注意を呼びかける。
「‥‥いえ、結構。ま、そーだね~。じゃあ、ぼくはこれで」
と今度はロイドもあっさりと従い、立ち上がると、ゼロの居なくなったテレビの画面から興味を失ったように、その場を離れた。
「ユー、ユフィ。気にしなくても良いからね」
途方に暮れたようにロイドの消えた扉を見るユーフェミアに、スザクは優しく声をかける。
セシルはそんな主従の様子を見ながら、そっと息を吐いたが、不意に通信が鳴ってそれに手を伸ばす。
『コーネリア皇女殿下がお着きになりました』
「わかりました。ロイドさんにも伝えてください。すぐに参ります」
セシルはそう返事を返すと通信を切って立ち上がった。
「と、言う事ですので、ユーフェミア様は暫くこちらでお待ちください。‥‥スザク君もね」
「あ、はい。‥‥あの、お出迎えに‥‥行かなくても、良いんですか?」
「良いのよ。今はジッとしていて欲しいから。‥‥お願い出来るわね?スザク君」
「わかりました」
しっかりと肯いたスザクを見たセシルは、ユーフェミアに向かって一礼すると部屋を出て行った。
「‥‥お姉さまが‥‥怒っているかしら?」
ユーフェミアがポツリと呟く。
「‥‥ユフィ?‥‥怒られると思う事を、何か‥‥したと思ってるのかな?」
スザクはユーフェミアの表情一つ見逃さないつもりでジッと見つめて問いかける。
ユーフェミアは「ん~と‥‥」と考える仕草をしてから、そっと首を振った。
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作成 2008.01.27
アップ 2008.03.07
夕刻。
舞台が整い、キョウトと黒の騎士団幹部がズラズラと並ぶ中、ゼロが現れる。
ユーフェミアに、ブリタニアに、失望した「日本人」を前にして、ゼロは演説をおこなった。
ゼロは、怪我をしているにしては力強い、物言いと、過剰な身振りで会場を引き込んでいく。
そして、ゼロは「合衆国日本」を宣言したのだった。
「ゼロッ」
舞台から降りたゼロに、後ろから追いついた藤堂が声をかける。
チラと肩越しに振り向いたゼロは、しかしそのまま確かな動きで歩きだす。
「ゼロぉ~。あんたね~。あんなに肩動かして、ど~いうわけ~?無茶ばっかしてると使い物にならなくなるわよ~」
と、今度は「めんどぉ~」と言って舞台には上がらなかったラクシャータがゼロの前に立ちはだかって、彼女にしては珍しく人の心配をしている。
「‥‥藤堂、ラクシャータ。ブリタニアに動きが無いようならば、後で部屋に来てくれ」
ゼロの言葉に、藤堂は少し考えてから「‥‥わかった」と頷いたが、ラクシャータは眉を顰めた。
「後で~?しかも何気にブリタニアが動いたら治療はもっとずっと後回し~みたいな~?」
憤慨気味のラクシャータの声に反応したのは、ゼロではなく様子を見ていた騎士団幹部。
「二人はそのままゼロと行ってくれ。ブリタニアの動きくらいならおれ達にだってちゃんと見れる」
「そうですとも、ゼロ。情報面に関してはわたしが万端にッ」
扇とディートハルトが相次いで申し立てる。
「ヘッ、グズるようなら、この場でひん剥いて傷見たら良いんじゃねーか?」
「玉城ッ、あんた、なんてこと言うのよ」
玉城の言葉に激怒したカレンが拳を見舞う。
床に沈む玉城には目もくれず、「ここは任せて先に治療してきてください、ゼロッ」とカレンは訴える。
この時、四聖剣の千葉と朝比奈が顔を見合わせたが、何も言わなかった。
「‥‥わかった。お前達に任せる。‥‥一緒に来い」
折れたゼロがそう言って歩き出すと、ラクシャータは道を譲ってから藤堂と一緒に後に続いた。
人気のない廊下を歩きながら、藤堂は前を行くゼロに問いかける。
「‥‥声だけ部屋から出していたのか?」
ゼロがピタリと止まる。
「‥‥良く、わかったな。何時気づいた?」
振り返ったゼロの発した声はC.C.のそれで。
「あら~?中身、C.C.だったのぉ~?」
「そうだ。あいつは体力はないがプライドは高いからな。人前で絶対倒れたりしないし?無理をしては悪化させるだけだからな」
「へぇ~。優し~とこあるんだ~?」
そう感心したラクシャータだったが、ふと思い当たる。
「もしかして~。ゼロが後で、とか言ってたのって今仮面つけてないから~?」
「そうだ。それに、動いていないのだから、傷口が開いているでもないしな。ところで藤堂。何時気づいたかまだ聞いていなかったが?」
「‥‥壇上で、動きにおかしなところがなかったから訝しんだ。今のゼロにあの動きは出来ない」
藤堂の回答に、フッと笑声を発したC.C.は再び歩き出した。
扉の前でC.C.は振り返る。
「少し待ってろ。仮面を渡して来るから」
解錠し、扉を開けると、そういって先に中に入った。
念の為にと、ラクシャータは半ば強引に包帯を取り換えた。
「‥‥ちょっ、ゼロあんた、ホントにジッとしてたわけ~?」
傷口を見たラクシャータはかなり憤慨していたが、技術屋らしくその手付きは繊細だった。
なので、手当が終わるとゼロは「すまない。‥‥助かった」と仮面なのにも関わらずソッポを向いて礼を言ったくらいだ。
「‥‥あんたさ~。もしかして仮面の中身、結構若くてハンサムだったりする~?それでもって少々照れ屋かな~?」
ラクシャータはジーっとゼロの仮面を凝視して、そんな感想を述べた。
「ぶっ‥‥」
ゴホゴホとC.C.がむせて咳き込んでいる。
「‥‥どーでもい~けど~。どーして、藤堂まで反応してるのかね~?」
藤堂は胡乱な視線をラクシャータから受けて思わず視線を逸らせてしまう。
「そうイジメるな、ラクシャータ。藤堂はわたしの顔を知っているからな。‥‥それよりC.C.。貴様、そんなに笑うな」
あっさりゼロは藤堂を評し、笑いを堪えているC.C.に声を投げた。
「あっはっは。その仮面のどこをどうみたらそうなるのか、考えると笑わずにはいられるか」
C.C.はゼロに向き直ると、堪えるのをやめて盛大に笑い飛ばしてそう応酬する。
「ん~。やっぱりそーなのかぁ。結構告白され慣れてるでしょぉ?でも、照れが出る年頃だから高校生か大学生くらい~」
「なるほど?慣れる程告白されるならハンサムで、高校や大学なら十分若いと言うわけか。当たっているではないか?」
C.C.はにやにやと人の悪い笑みを浮かべてそう応じた。
「C.C.。口が過ぎるぞ、貴様ッ‥‥」
「喚くな。傷に障るぞ?大体、頻繁に告白されているのは事実だろう?貴様の取り得はその顔くらいのものだからなぁ?」
ゼロが低く恫喝すれば、C.C.は人を小馬鹿にしたような口調で応酬する。
「‥‥‥‥ピザの代金は自分で払えよ」
「ほぉ?貴様は自分のしなければならない事も分かっていなかったらしいな?」
だが、ポツリと呟いたゼロの一言が、雰囲気を一変させてしまった。
「少なくとも、貴様のピザの代金を払う事ではない事は確かだ」
「へぇ?つまり『共犯者』のわたしに対し、『出て行け』と言いたいわけだな?」
「何故そうなる。大体出て行ったところで行くあて等ないのだろう?」
「そうだな。そうするとどうなるか分かっているだろう?困るのは貴様、だよなぁ?」
ピザ代からエスカレートした唯の言い合いに、話の核心がわからない藤堂は苛立ちを覚え、思わず止めに入った。
「‥‥おい、いい加減にしておけ。おれ達がいる事を忘れていないか?」
「「‥‥あ」」
ゼロとC.C.は一瞬後同時に呟いて口を閉ざした。
それはつまり、‥‥二人だけの時は、こーいった状態が日常だと暴露しているようなものなのだが。
「あはは~。たのし~ね~。しっかし、ゼロが高校生とはね~。て事は紅蓮のお嬢ちゃんとか白兜のデヴァイサーと同じくらいなのかー」
ラクシャータは3人を傍観して笑い、そう言った。
「‥‥‥‥」
ゼロは無言を通した。
C.C.と藤堂は答えるならゼロが答えるだろうと、黙って見ていた。
「ま、わたしは別に~、ゼロが子供だろうが、女だろうが気にしちゃいないけどね~。じゃ、ホントに安静にしてなさいね~」
ヒラヒラとラクシャータは手を振り、気だるげに部屋を出て行った。
ラクシャータの足音が、完全に聞こえなくなると、C.C.はさっさとゼロの仮面を取り除いてしまう。
「‥‥おい」
声だけの制止しかしなかったゼロは、あっさりと素顔を晒されていた。
「‥‥で?本気でピザ代を払わないつもりか?」
「‥‥‥‥。まずそこなのか?ならば、桐原公にでも交渉してくればどうだ?ピザ代の計上を認めろとでも」
「なるほど?」
再び始まったピザ代議論に、藤堂は良い顔をしていなかったのだが、思わず突っ込みを入れてしまった。
「‥‥おい。キョウトにタカるのか?ピザ代を?」
「おれ個人の懐からそれを出すのはそろそろきつくなっているので。しかし『ゼロ』としてはC.C.が離れるのも確かに痛手」
「つまりわたしの『ピザ代』は必要経費だな」
「‥‥問題は一つ。それをした場合、玉城の無駄遣いを止める事が出来なくなる事だな」
「奴なら、床に沈めておけば良かろう?それよりも今はわたしのピザ代だ」
「‥‥‥‥。おい。二人とも。今の問題は『合衆国日本』とブリタニアだろう?」
真剣にピザ代議論を進める二人に、藤堂は頭痛まで感じ始めていた。
「ふむ。確かにそうだな。『合衆国日本』を軌道に乗せ、ブリタニアや中華連邦、EUへの対策をしっかり練れば、ピザ代の心配もなくなるか」
藤堂の意見に、ゼロは頷き今後の展望を語る。
何故か最後にピザ代が来るのには首を傾げざるを得ないが、藤堂はやっと話題が移った事を少し喜んだ、ホンの一瞬だけ。
「──そして、ゼロも必要なくなる」
ゼロの言葉に固まった室内、藤堂は無表情のルルーシュとC.C.を視界に収めていた。
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作成 2008.01.25
アップ 2008.03.06
『トウキョウ租界の西部エリアで、未明、車がフェンスに激突、炎上する事故が発生しました。死亡者は三名、身元はまだ分かっておりません』
その放送が流れた時、黒の騎士団に戻っていたロイドはバッとテレビ画面を振り返っていた。
驚いたのは一緒にいたミレイとナナリー、千葉に朝比奈、そしてラクシャータである。
それまではラクシャータとロイドの言い合いを中心に、ナイトメアの話で盛り上がっていたのである。
ハッキリ言って微かにしか聞こえてこないテレビからの音など、誰もしかとは聞いていないのだ。
「ロイドさん?」
画面に見入ったまま動かなくなったロイドを訝しんで、ミレイがそっと名前を呼んだ、が反応はない。
テレビは既に別のニュースを流している。
「どーしたのぉ?プリン伯爵~?」
ラクシャータも流石に変に思ったのだろう、声をかけるが、やはり反応はないままだった。
千葉と朝比奈は顔を見合わせ、千葉が立ち上がると、そのままテレビを消してみた。
肩越しにロイドを見るが、それでも固まったまま。
朝比奈が恐る恐るロイドの肩に手を置いた。
「ぅわ~~。‥‥あー驚いたー。‥‥‥‥なになに?どーしたのかな~?」
ロイドは本当に驚いたらしく、朝比奈の腕を振りほどいて飛び退った後、胸に片手を置いて驚きを表現している。
「ロイドさん?急に固まるから、みんな心配してたのですけどー?何か有ったのですか?」
ミレイがロイドの余りの驚きように逆に驚いて、声をかける。
「てか、すみません。そんなに驚くとは思わなくてー。顔色、ホントに悪いですよー?」
結果的に驚かした事になる朝比奈は素直に詫びを入れる。
「えー。それはたいへんだ、ねー。ミレイくーん。ぼく、不治の病かもー」
フラフラとミレイの元へ行くと、ロイドはミレイの肩に懐いて見せる。
「ちょっ、‥‥ロイドさん?」
ミレイはいきなりの事にうっすらと頬を染め、目を白黒させて驚いている。
「ミレイさん。ロイドさんを休ませてあげてください」
「ナナちゃん。‥‥かといってこれを運ぶのわたしには出来ないわよ~。てことでそこの朝比奈さん、でしたっけ?責任もって運んでくださいね?」
「ぅわー。おれより全然大きいのに~。‥‥あ、仙波さ~ん、卜部さ~ん、ヘルプヘルプ~」
藤堂と話しながらやってくる仙波と卜部を見つけた朝比奈は救いとばかりに声をかけた。
「どうした朝比奈。何か有ったのか?」
見ようによってはイチャついているようにも見える(にしか見えない?)ロイドとミレイに視線を向けながら近づいて来た卜部が訊ねる。
「あー、ちょっと驚かしたみたいで、具合が悪くなったようで‥‥。顔色が悪いのは本当だから、運ぶようにって言われて‥‥」
朝比奈が後ろめたそうに応じた。
「あはー。ちょっと寝不足が入ってるのはホントだからーそのせいかもー」
口調は変わらず人を喰っているが、顔色が悪いだけに強がってるようにしか見えない。
「あんたが寝不足ぅ?何してたわけぇ」
「あーちょっと留守にするからー、部下に仕事残しとこーかなーとか思って、色々用意してたらー‥‥ほぼ徹夜になったかな~とか」
あはあはと力なく笑うロイドは、元気がない以外は普段通りに見える。
「卜部。部屋に運んで休ませてやれ。朝比奈、お前もついていけ」
藤堂は内心で「ゼロの読み通りか‥‥」と思いつつ、部下に指示を出した。
「中佐が言うんじゃ仕方ないな。出発までに治ってるのか~。ほら、肩に掴まれ」
卜部はロイドに近づくと腕を取って肩に回す。
朝比奈が逆側に回って支えると、ゆっくり歩き出した。
「‥‥で?結局どうしたんだ?」
藤堂が遠ざかる三つの背中を眺めながら問いかける。
「それが‥‥。彼は突然テレビを凝視して固まってしまって。朝比奈が肩に手を乗せたら、殊の外驚いて真っ青になってしまったんです、中佐」
千葉が見たままを伝える。
「テレビ?」
藤堂と仙波は消えているテレビに視線を移す。
「えーと。声をかけても、テレビを消しても反応がなかったので、朝比奈さんが動いたんですけどねー」
ミレイが補足する。
「‥‥それで、千葉。テレビで何をやっていたのだ?」
「‥‥‥‥。ニュースでした。良くは覚えていませんが、確か‥‥テロと殺人事件と事故と火災‥‥だったかと」
仙波の問いに、千葉は記憶を辿るように思い出し、曖昧ながらも告げて行く。
「良く聞いてたわね~。プリン伯爵と言い合いしてたから全然聞いてなかったわぁ」
ラクシャータは感心したように言うものの、フイッと視線を泳がせた。
ナナリーの異変に気づいたのはミレイとラクシャータと藤堂が同時。
「ナ、ナナちゃん?」
ミレイは慌てて立ち上がるとナナリーの身体を引き寄せて抱きしめる。
遅れて仙波と千葉がナナリーとミレイに気づく。
「‥‥藤堂、ランペルージを部屋に運んでやれ。ラクシャータは同行を。千葉は食堂に行って篠崎を呼んでくるように」
唐突にゼロの声が届いて一同振り返る。
何時の間に来ていたのか、かなり近くにいたゼロに驚く。
「‥‥聞こえなかったのか?」
ゼロを見たまま動こうとしない一同に、ゼロが問いかけると、慌てて指示に従う。
「‥‥仙波。車椅子を頼む。‥‥失礼する」
藤堂は、一声かけるとナナリーを抱き上げて部屋に向かう。
その後ろにラクシャータが続き、「承知」と小さく応じた仙波が車椅子を担ぎあげて後を追った。
それを見た千葉は足早に食堂へと向かって行き、ミレイもまたナナリーの後を追おうとしてゼロを振り返った。
「良く気がつくのね。今回はお礼を言った方が良さそうね、ゼロさん?」
「必要ない」
短く応じたゼロは踵を返した。
一瞬その背を視線で追ったミレイだったが、振り切ると部屋へと駆け出して行った。
一人残ったゼロは、ミレイの消えた回廊を見た後、自室に引き上げていった。
卜部がロイドをベッドに横たえる。
「ほんと、ごめんねー。悪気はなかったんだけどー。あの時は何故固まってたのかな~とか」
朝比奈が片腕で目を隠しているロイドに訊ねてみる。
「さー、どーしたのかな~。ぼくも良く分からないんだよね~。寝不足だったから意識とんでたかな~?」
もう片方の手を、ヒラヒラとひらめかせながら、ロイドは応じる。
「やれやれ。人騒がせな奴だな、お前。とりあえず一寝入りするんだな」
卜部が投げやりに指示を下した。
と、廊下が騒がしくなる。
「ラクシャータ、開けてくれ」
「はいは~い。ちょっと待ってね~」
藤堂とラクシャータの声が届き、卜部と朝比奈は顔を見合わせ、ロイドはガバリと起き上がる。
扉の開く音。
「とりあえず、お姫様はベッドに寝かせて。車椅子は適当に置いとけば良いわ。それが済んだら外に出てねぇ」
ラクシャータの声が再び聞こえ、ロイドは慌ててベッドから降りて扉に向かう。
すんなりと間を素通りされた朝比奈と卜部が驚きながらもその後を追う。
扉を開けて外に出ると、藤堂と仙波が隣の扉を見る中、ミレイが入り扉が閉ざされるところだった。
「‥‥何が有ったんですか?」
さっきまでの人を喰ったような口調ではない静かに問いかけるロイドに、藤堂達は目を見開く。
「あの後すぐ、彼女も具合を悪くしたらしい。今、ラクシャータが様子を見ているが‥‥」
藤堂が応じる。
「‥‥な、ぜ?」
ロイドの顔色はどんどん悪くなっている。
「‥‥ニュースを見ておかしくなったと言うからどんな内容なのかと尋ねた。『テロと殺人事件と事故と火災』‥‥お前はどれに反応したのだ?」
部屋に届かないように声を落として藤堂はロイドに尋ねる。
だが、ロイドは答えられなかった。
その場に力尽きたように座り込むロイドを卜部と朝比奈が慌てて支える。
「ちょ‥‥大人しく横になってないから。運びますよ?」
朝比奈が言い、返事も待たずに卜部が半ば引きずるように元の部屋へと運び込む。
藤堂と仙波もそれに続いた。
ベッドにつれられようとしないロイドを、仕方無くソファに座らせると、その向かいに藤堂が座った。
「‥‥ぼくのせいだなんて‥‥」
ポツリとロイドの声。
それはあまりにも弱々しい口調で、憔悴しきっているように見えた。
「‥‥‥‥。仙波、卜部、朝比奈。お前達は戻っていろ。‥‥こいつも、こんな姿は大勢に見られたくないだろうからな」
藤堂が部屋に所在なく立ったまま、ロイドを見る三人の部下に指示を出した。
確かに、とそう思っていた事もあり、「「「承知」」」と短く頷いて、三人は退室していった。
一方、自室に戻ったゼロは、仮面のままソファに深く座り込み、携帯を片手にジッと考え込んでいた。
「‥‥どうした?たったあれしきの事で、計画を取りやめるつもりか?」
C.C.の笑いを含んだ声が飛ぶ。
「‥‥いや。計画は既に動き出している。‥‥それに今更取りやめるつもりもない。お前も、取りかかってくれ、C.C.」
ゼロは感情を窺わせない声で、キッパリと言い切り、指示を出した。
「‥‥ならば良い。お前も早目に合流しろよ」
C.C.はそう言うと猫のような動きで、部屋を出て行き、ゼロは独りきりになった。
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作成 2008.01.25
アップ 2008.03.05
その日、カレンと四聖剣の千葉に付き添われて、滞在中の闖入者であるところの車椅子のブリタニア少女と活発なブリタニア少女が格納庫に顔を出した。
ちなみに同じく闖入者の日本人女性は少し前に「買い物へ‥‥」と言って外出している。
「おい、カレン。なんだってこんなところへ連れて来るんだ?」
目敏く見つけた玉城が、早速とばかりに喰ってかかっている。
「煩いわね、引っこんでな、玉城。ちゃんとゼロの許可も取ってるんだからね」
そう反論したものの、カレンもまた、ナイトメアフレームの見学を許したゼロの意図を測りかねている。
「へぇ~。これが純日本製のナイトメアかぁ~。やるわね、日本も」
ミレイが感心したように月下と紅蓮弐式を見上げている。
「か、会長、もう少し大人しくお願いしますって」
慌ててカレンが小声で注意したのは、これ以上玉城を筆頭とした熱血組を煽らないで欲しいからだ。
その時、月下から降りてきた藤堂と二、三話したラクシャータが四人に向かってやって来た。
「んー?ゼロからナイトメアの解説を頼む~とかって言われたんだけどぉ。‥‥本気~?」
気だるげに、ラクシャータは訊ねる。
「えぇ、宜しければお願いします。‥‥わたしはともかく、ナナちゃんは説明を頂かないとわかりませんし‥‥」
「興味あるんだー?ナイトメア」
「はい。本当は乗ってみたいのですけど、それは無理ですから‥‥」
ナナリーが頷いて言う。
「‥‥もしかして、乗った事あるとか?」
「そうですね。目と足を悪くする前に何度か」
「えー?ナナちゃんそれホント~?だって確か、悪くしたのって六歳とか、七歳とかじゃなかったっけ~?」
ミレイの驚く声が少々大きかったせいで、その場にいたほぼ全員の耳に届く事になった。
「ナイトメア初騎乗が六、七歳だと~?一体どんな子供?てかどんな環境だよ、それ」
「ふ~ん、気に入ったわ~。ナイトメアの説明したげるわね~」
驚く外野は速攻無視して、ラクシャータはにんまりと笑って話を進め、早々にナイトメアの説明に入った。
こうなってはラクシャータの邪魔をすると碌な事にならない事を既に知っているメンツは黙ってそろそろと離れていった。
「大変ですねー、千葉さん」
ほとんど一人喋っているラクシャータと、それを熱心に聴いている二人のブリタニア少女、それに紅月カレンを近くの壁にもたれながら眺めている千葉に声がかかる。
「‥‥代わるか?朝比奈」
チラと横目で相手を確認した千葉は、疲れた声で応じた。
「やーですよー。しかし、そろそろ二時間ですよねー。良く持つな~」
「そろそろ紅月がキレそうだがな。ところどころ話についていけていないようだ」
「え?それってミレイさんとナナちゃんは話についていけてるって事?」
「あぁ、時々質問もしているし、それがわかるのかラクシャータの話す内容もどんどん高度になっている」
「‥‥あーそうか。ミレイさんはアッシュフォードで、第三世代ガニメデの関係者だからかなー?」
ポンと手を打った朝比奈が、やっぱりのんびりと応じた。
その女性ばかりの輪の周囲には科学者達白衣を着た集団が少し距離を置いて話を聞き入っている。
そして、ミレイやナナリーの問いとラクシャータの回答を真剣な表情でメモしている姿が見えていた。
初めはまばらだったその行動が、質問の回を重ねる度に増えていき、今では全員が忙しなく手を動かしていた。
当然ながら、ナイトメアの整備は中断状態であり、或いは一種の妨害工作と見えなくもないかもしれない。
「そうだろうな。第三世代ナイトメアは特殊だったと聞いた事がある。どう特殊だったのかは知らないがな」
千葉が言い、朝比奈はもう一度白衣の集団に目を走らせ、その向こうに藤堂の入ってくる姿を見つけた。
「あッ、藤堂さんみ~つけたー。じゃあね、千葉さん」
あっさりと千葉を見捨てると、朝比奈は手を振って藤堂の元へと移動していった。
「全く、相変わらずか、あいつは」
千葉はやはり疲れた様子でそう呟いたのだった。
当然と言うべきか、その日の内に、ミレイとナナリーの株は技術者を中心に上昇していた。
特にラクシャータが手放しに褒めていて、散々な言われようだった団員を唖然とさせていた。
夜は夜で咲世子の作る食事を相伴したカレンと千葉が、久々のまともな日本料理に感激して周囲に吹聴したので、咲世子の株も上がる事になる。
千葉等は、その食事だけで疲れが吹き飛んだと大喜びで、中佐や他の四聖剣にも食べさせたいとまで言い切った。
それを受けたゼロは、滞在期間中の格納庫と食堂への出入りを解禁とした。
反対者は玉城だけで、当然黙殺された。
ディートハルトは承服しかねると言った表情をしていたが、無言を通していた。
「ディートハルト。反対か?」
が、ゼロから問いかける。
「いえ。ただ、ゼロが余り警戒していらっしゃらないのが少々不思議だっただけです」
「‥‥ディートハルトが見込んだ者と、ラクシャータが認めた技術者、カレンが保証する学生‥‥。何か問題でも?」
「貴方がそれだけで信じる事が信じられないと申しますか」
ディートハルトは煮え切らない返事を返す。
「‥‥アッシュフォード家とアスプルンド家は知っている。ディートハルト、お前も知っているから強引に反対しなかった。違うか?」
「否定は致しません。ですが‥‥上に立つ者がそれでは」
「別に全ての出入りを認めるつもりもないな。‥‥それにカレンや千葉が同行している。問題にはならないはずだが?」
「では残りの二人は如何ですか?特派の主任はいまだ戻らず、咲世子くんは今日も外出しました。それぞれ単独で行動している事については?」
「篠崎咲世子についてはお前の方が詳しいのだろう?お前が信用できない相手を使うとは思えない」
「では特派の主任については?」
「‥‥ディートハルト。わたしもお前も、表の顔を持っているな。後はカレンと。ロイド・アスプルンドにだけそれを認めないと言う気はない」
ディートハルトはゼロの仮面を見つめ、折れる事にした。
「わかりました、ゼロ。‥‥ですがひとつだけ。万が一の対策は練っておいでですか?」
「当然だな。手放しで信用するつもりもないからな」
「結構です」
ディートハルトはそこでやっと心の底からの笑みを見せた。
次の日、ナナリーとミレイは許す限りの時間を格納庫でラクシャータと過ごした。
護衛と言うか、同行者は千葉と朝比奈で、朝比奈は完全に夕食目当てである。
カレンはと言うと学校へ行くと言ってアジトには来ていなかった。
ガラッと扉を開け、いつものように静々と自席に向かう中、漂うのは暗~い雰囲気で、カレンは早くも後悔する。
たった一人欠けただけで、こんなにも沈むのだと半ば感心してしまうのだが。
「‥‥カレンさん、今日はもう良いのかぃ?」
いつもより静かなリヴァルが声をかけてきた。
「おはよう、リヴァル。‥‥どうしたの?みんな、なんだか暗いみたいですけど」
病弱ぶりっこで、カレンは既にわかっている事を尋ねる。
「あー‥‥ちょっと‥‥ルルの奴が転校しちまって、みんな落ち込んでるんだよ」
リヴァルは小声で説明した。
カレンは軽く目を見開いて、驚いて見せる。
「ルルーシュ、が?‥‥でも、随分と急だったのね」
「そーなんだよ、その日も休みかな~とか軽く思ってたら終礼の時間に突然だもんな~」
「‥‥えっと、やっぱりナナリーちゃんも?」
「そ。かなしーぜ。あ、チャイム。じゃあ後で」
よよよと泣いて見せたリヴァルは授業開始のチャイムに合わせて自席に戻って行った。
「セシルく~ん。これ、打ち込みよろしくー。それとその分の調整とデータ取り、スザク君と一緒にがんばってねー」
デンとセシルの机に乗せられた書類の束に、セシルは目を丸くする。
パラパラと捲ると内容も相当なものだ。
「ちょっ、ロイドさん?これ、どーしたんですか?」
「ちょっとねー。昨日あれから徹夜で仕上げたんだよ~。セシルくんはスザク君と協力して、それを完成しておいてね~。ぼくが戻るまでに」
「え?どこかへ出かけるんですか?」
セシルは少し慌てる。
ロイドがいなければ、この量は軽く十日くらいかかってしまいそうな程だ。
なんだかんだとふざけた態度を取っていても、ナイトメアフレームに関する(場合のみ)ロイドの仕事が早い事は、セシルも認めているのだ。
しかもスザクはユーフェミアの騎士叙任関連で時間をかなり拘束され始めるだろうし、とセシルは思い溜息を吐いた。
「うん、これでもぼく伯爵でしょー?色々と雑事が溜まってるって言われてさー。仕方なくお休み取る事にしたんだよねー」
家の、それも伯爵家の事情と言われると、セシルも強く出るわけにはいかなくなる。
「‥‥‥‥それならもっと早く言っておいて欲しかったですわ、ロイドさん」
「あはー?ぼくにやれる分はこの通りやってるんだから、他に仕事させようとしてても無理だったよ~?じゃ、がんばってね~」
ぶんぶんと手を振って激励してから、ロイドはトレーラーを後にした。
「‥‥ごめんねスザクくん。この量だと、十日くらいかかるわ‥‥」
「‥‥仕方ないですよ、セシルさん。‥‥頑張りましょう」
スザクは学校当分いけないのか~と物悲しく思ってしまった。
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作成 2008.01.15
アップ 2008.03.04
空が茜色に染まりだした頃、ルルーシュはミレイに声を掛けた。
「会長。そろそろお開きにしませんか?暗くなる前に行きたいところがあるので」
「お?デート?」
「違いますって。人形屋に挨拶に。明日から暫く休むそうなので、お礼を兼ねてもう少し修繕について聞いて置きたいかと」
勿論嘘だが、足はつかないようにしてあるから、ルルーシュの言葉に迷いはない。
「それじゃぁ仕方ないわね~。ま、ここの片付けはリヴァルがやってくれるだろうし?人形は明日まで飾っておくわ」
「あ‥‥」
「明日までと言わず、今週くらい出して置いたらどうですか?どうせ、この部屋で作業する事はあまりないですよね、会長は」
「そうなさったらいかがですか?お部屋の人形さん達も、昨日出したばかりなので、暫く飾って置いてくださるってお兄様が」
ルルーシュに続いてナナリーまで言うので、ミレイはその気になってくる。
「‥‥‥確信犯‥」
ポソリと呟かれたカレンの言葉を拾ったのは、生憎とルルーシュだけだった。
こうして誰よりも早く生徒会室を出たルルーシュだったが、ゼロとなってアジトに着いた時には既にカレンは到着していたようだった。
相変わらずの素早い行動に呆れていると、扇が近づいてきた。
「ゼロ」
「扇か。‥‥準備はどうだ?」
「ほぼ完了してる。食事当番にもちゃんと説明したし、食堂の椅子も増やしておいた」
「そうか。‥‥そうだな。わたしの準備が二時間程かかる。その後、放送をかけるから、それまでに今日の作業を終わらせておけ」
「わ、わかった。みんなにも伝えておく。しかし、‥‥ホントにあの条件で、カレン達が参加すると思うのか?」
「気になるのは千葉くらいだが‥‥朝比奈が是が非でも説得するだろう。条件は全てクリア、だ。楽しみにしていろ」
そう言うゼロ自身が珍しくなんだか楽しそうである。
「‥‥なんていうか、一番楽しんでないか?」
「‥‥‥‥。そうかもしれないな。修繕での鬱屈が溜まっているのかも知れない。‥‥たまには良いだろう?」
ゼロの言葉に、この数日の間にゼロの苦労の程が身に沁みた扇はあっさりと頷いたのだった。
ゼロが第二会議室に入ると、そこは「日本」だった。
部屋の端には紅のひな壇に並んだひな人形が桃の花と和装で着飾った女性陣に囲まれている。
逆側には所在無気な男性陣が、こちらも白の袴姿でそんな女性達を見守っていた。
滅多に見る事はないだろうその姿に、ある者は眩しげに、ある者は軽く頬を染め、ある者は感慨深げに‥‥。
一人、ラクシャータだけが和装をしておらず、そんな様子を楽しそうに見ている。
ゼロは、というと普段通りの姿であるから、こちらも浮いているだろう自覚はあった。
「ゼロッ。先に始めていろって事だったんだが、みんな君を待つって言うから‥‥待っていたんだが‥‥」
最初にゼロに気づいた扇がホッとした様子でそう声を掛けたのだが、尻つぼみに声は消えていった。
扇の声に室内の視線が一斉にゼロに向けられる。
「‥‥どうした?」
「‥‥ゼロは着替えなかったんですね。そのままですか?‥‥それと、C.C.は?」
「仮面を取る気はないから変だろう?流石に。‥‥C.C.なら今来る」
ゼロが言った途端、扉が開いてC.C.が入ってくる‥‥着物姿で。
「かッ‥‥わいぃ~~。どうしたの?それ。‥‥まさかとは思うけど、‥‥着付けはゼロが?」
井上が真っ先に声を上げる。
自分自身とカレンと千葉の着付けをした井上だからこそ気になったのかも知れない。
「着せろ、と言うので仕方なく、な。ご苦労だったな、井上。大変だっただろう?」
「暫く振りだったから、結構忘れていただけね。出来てホッとしてるわ。ゼロこそ、どうして着付けなんて出来るわけ?」
井上が満面の笑みを見せて応じてから問いかける。
「女性用の和服は華やかな物が多いからな。いつか着せてやりたいと思って習った後、練習していた」
「それって彼女!?奥様?それとも‥‥お子さん??」
井上が即座に喰いつき、発想が卜部と同じだった事が受けたのか、男性陣が一斉に吹き出した。
「‥‥わたしはまだ独身で、従って子供もいないし、ついでに彼女もいない。だいたい『いつか』だと言っただろう?」
「じゃあ未来の!?」
カレンが驚いて尋ねる。
「未来の」とか「まだ見ぬ」とかつけたら何でも有りな気がしたのだ。
「わたしの為だと素直に言ってしまえばどうだ?」
C.C.が更に混乱を招く言葉を吐く。
「誰がそのような嘘を吐けるか。そんな格好をしている時くらい少しは大人しく出来ないのか?C.C.」
「‥‥‥‥。そうだな、良いだろう。この服に免じて今日は大人しくしておこう」
C.C.はフッとゼロから視線を外すと、ひな壇に近づいていった。
「「ぅお、折れた?‥‥あのC.C.がピザ以外で!?」」と何人かが驚く。
「‥‥さて。写真を撮って構わないだろうか?人形を譲ってくれた人が、是非『日本』が見たい‥と言っていたのでな」
レジスタンスなのに記念写真?と思わないでもないが、それよりも気になる事が有り、視線が藤堂に向けられた。
「‥‥‥‥誰か聞いても構わないだろうか?」
無言の圧力を感じた藤堂が、渋々口を開く。
「桐原公だ。‥‥最終的には皇の、らしいな」
「‥‥ッて、これ、天皇家縁のひな壇ですかッ。え?でもそしたら今年は飾ってないの?」
「いや、これは当代の物ではない。皇は姫が生まれるたびに作らせていたはずだし、これは随分と古いからな」
応じてからゼロは息を吐き出した。
「質問ばかりでは何時まで経っても始まらない。ほら、和装の者は並べ。写すぞ」
ゼロの急きたてるような言葉に、藤堂達男性陣もひな壇に近づいた。
赤いひな壇と華やかな和装の女性陣の周囲に白の袴姿の男性陣が並ぶ姿はかなり絵になった。
「ふ~ん。良いわねぇ。これが『日本』かぁ」
楽しそうに感心するラクシャータの隣で、ゼロがカメラのシャッターを何度か切った。
「ゼロッ。‥‥あの、一緒に写りませんか?」
「いや、‥‥わたしは‥‥」
カレンの誘いにゼロは渋る。
「桐原公への写真はもう撮ったんでしょ?なら入りなさいな、ゼロ。わたしが写してあげるから」
「そうそう。今回一番の功労者なんだし?凄いんですよ、ふぐッ」
「ストップ。それをここで言うなよなぁ朝比奈よぉ」
「藤堂中佐。朝比奈を追い出しますか?」
卜部に口を塞がれ、脅しかけられ、仙波が藤堂にお伺いを立てる段になって、朝比奈はブンブンと首を激しく横に振る。
「す、すみません、もう言いませんから、追い出さないでください~」
卜部に手を放して貰った朝比奈は、平身低頭で詫びを入れた。
それを見て井上がまず笑い、すぐにみんなに伝染する。
笑いながらラクシャータはまだ隣にいたゼロの背中をドンと押し、ひな壇にぶつかりそうになるゼロを藤堂が慌てて支える。
カシャッとジャストタイムでラクシャータによってシャッターが切られた。
ゼロの手が触れて一枝落ちた桃の花を、ゼロはそっと掲げた。
「さて、始めるか」
「「「「「はいッ」」」」」
ぼんぼりに灯りが入り、宴が始まる。
了
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作成 2008.02.29
アップ 2008.03.03