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ミレイは音量をいくつか下げる。
「リヴァル。いつも言ってるでしょう?電話口でそんなに叫ばないでって。‥‥それで?何が大変なの?」
学校内での口調のままミレイは冷静にリヴァルに訊ねる。
『落ち着いてる場合じゃないんですってばー。ルルが、転校したって担任がッ。あいつ、おれ達にも何の挨拶もなしでッ』
リヴァルのテンパッた言葉に、カレンは驚いてナナリーを見る。
「ルルちゃんが?‥‥とにかく落ち着いて。わたしはおじい様の用事で数日は戻れないのよ。戻ったらおじい様に詳しく聞くから、それまでは静かに待ってて」
『そんなに待てないって会長。だって、クラブハウスには』
「リヴァル。良いリヴァル。とにかく、今は騒がないように。生徒会の仕事は貴方とシャーリーとニーナに任せるから、わたしが戻るまでは」
『‥‥会長、もしかして理事長に何か聞いてたんじゃ‥‥』
「聞いてた事もあるけど、‥‥こんなに早くとは思わなかったと言うか‥‥。とにかく騒がないで。わたしも用事をさっさと終わらせて戻るから、ね?」
『‥‥わっかりました、会長。大人しく待ってますんで、さっさと戻ってきてください。じゃ、切ります』
何かを吹っ切るように明るく応じたリヴァルは電話をかけてきた直後には失っていた落ち着きを取り戻していた。
切れた電話を元に戻したミレイは、深々と溜息をついた。
「‥‥すみません、ミレイさん。ご迷惑をおかけしてしまって‥‥」
「あ、ナナちゃんのせいじゃないわよ。単にリヴァルの勢いに疲れただけだから」
申し訳なさそうに謝るナナリーに、ミレイは明るく応じる。
「‥‥てか、転校?って‥‥まさかホントに学園を出てきたの?」
「ルルちゃんとナナちゃんはね。‥‥カレン、学園で余計な事は言わないでちょうだいね?ややこしい事になると困るから。‥‥特に、」
「あーのーさー?なんか、隠してるっぽいね~?"カレンさん"、"ルルちゃん"て誰?」
朝比奈が割って入って訊ねる。
「‥‥生徒会のメンバーよ。わたしのクラスメイトの。さっきのリヴァルもだけど」
「それがさっき言ってた先行したっていうアイツ?」
「‥‥‥‥‥‥。そうよ。ナナちゃんの、」
渋々応じるカレンは、再び起こった受信音に言葉を途切れさせる。
再びミレイが携帯に視線を落とし、カレンが頷くのを待って通話ボタンを押した。
『会長、おれです』
電話の相手を推測できたカレンは、複雑な表情でミレイとナナリーを見比べる。
「どうしたの?何か有った?」
ミレイは少し焦った、強張った声音で訊ねていた。
『いえ、経過報告をと思いまして‥‥。キョウトとは話がつきました。三日後、黒の騎士団を護衛につけてくれるそうです。合流の手はずを』
言葉の内容に、ミレイと咲世子、カレンと仙波、朝比奈はそれぞれ顔を見合わせた後、電話をマジマジと見てしまう。
「あ、あのね、今、その、‥‥もう、黒の騎士団にいて‥‥。こっちでも話はついたわよ」
我に返ったミレイは慌てて返事を返す。
『‥‥そうですか。流石ですね、仕事が早い。ではまた連絡を入れます』
「あ、待った。今リヴァルから連絡が有って、転校の話、出たって怒ってたわ」
『‥‥リヴァルからならおれも連絡を貰いましたよ、先程。‥‥でも、仕方が無いですし‥‥』
「仕方がないで簡単に済ませないで欲しいのだけど?」
『お小言なら後で幾らでも。では会長、頼みます』
それを最後に通話が切れる。
「こらルル~。こっちの返事も聞きなさいよね~‥‥まったくもー」
切れた電話に向かって、ミレイは毒づいた。
「‥‥あのさー?桐原公と面識ありそうな"ルルちゃん"ってホント何者なんですかー?」
朝比奈が警戒しながら訊ねる。
「‥‥‥知らないわ。ルルちゃんがどういう人脈をどこで作ってるかなんて聞いてないもの」
ミレイが力なく首を振って応じる。
「"カレンさん"は?」
「わたしも知らないわ。けど、あいつは"日本人"を助けるのが趣味みたいだから‥‥その繋がりかも‥‥」
カレンはルルーシュが日本人を助ける現場を一度ならず見ており、不機嫌そうにそう応じた。
「日本人を助けるのが趣味?あのルルちゃんが?へー‥‥。結構斜に構えてたように思ったんだけど、そっかそっか~」
少々驚いたミレイだが、一人納得して嬉しそうに頷いていた。
軽くノックされ、扇が顔を出す。
「部屋、とりあえず準備は出来たぞ、カレン。これが鍵。任せても良いか?」
「ありがとう、扇さん」
「それと、四聖剣の人はラクシャータが呼んでる。調整したいから来てくれって」
「わかりましたー。行きましょう、仙波さん」
「じゃー、案内するからついて来て。ミレイ会長」
そうして、第二会議室は無人になった。
「‥‥どういうつもりだ?ゼロ」
ゼロの私室で、藤堂が訊ねる。
「別に。‥‥表のわたしを消そうとしているだけだが?」
「それは聞いた。‥‥そうではなくて、彼等に対する態度、だ」
藤堂は違うと首を振って聞きなおす。
「‥‥騎士団の活動に巻き込むつもりはないな。‥‥ルルーシュ・ランペルージは間もなく死亡する事になる」
ゼロの言葉に藤堂は気色ばむ。
「‥‥どういう事だ?」
「‥‥キョウトから、租界に入った辺りでルルーシュ・ランペルージは事故死する。‥‥暫くは身元不明だが、彼等がキョウトに着いた後、判明するだろう」
藤堂はこの部屋に入ってすぐにゼロの仮面を取るのだったと悔やむ。
仮面のせいでゼロがどんな表情で己の死を語っているのかがわからないのだ。
「妹君が悲しまれるぞ」
「神楽耶が慰めるだろう。‥‥と、言うより、あの子は兄の死を認めない、いや、信じないだろうな」
「何‥‥?」
訝しげに藤堂が訊ねるが、ゼロはスッと立てた人差し指を仮面の前に持ってくる。
そしてノック。
「‥‥なんだ?ディートハルト」
「先程、ロイド・アスプルンドが外に出ましたので、報告に上がりました」
「‥‥御苦労。奴は腐っても軍人だから問題ないだろう。連絡が有るまで放っておいて構わない」
扉越しに、ゼロとディートハルトのやり取りがおこなわれる。
「‥‥あの。『軍人だから問題ない』とは、何を指してのお言葉でしょうか?」
「単独でゲットーを歩いていても問題にはならない、という意味だ。日本人である篠崎咲世子も同様だな」
「‥‥それは、残る二人には護衛をつけると言う事ですか?」
「彼等も己の立場は分かっているだろうから、無暗に外に出たりはしないとは思うがな」
「‥‥‥‥。わかりました。失礼します、ゼロ」
その返事の後にディートハルトの気配が遠のいていった。
「‥‥あの子はおれの素性に気づいていたようだったからな。全く、いつから気付いていたんだか」
ゼロが自嘲気味に笑って、中断していた藤堂の問いに答えた。
「残りの三人と、君の関わりを尋ねても構わないか?」
無理に聞こうとは思わないがと、藤堂が訊ねてみると、ゼロはわりとすんなりと答えた。
「‥‥アッシュフォードは母の後見の家の者だ。‥‥今はおれ達を匿ってくれている。特にミレイからは騎士になりたいとまで言われていた」
「‥‥騎士に?‥‥少し雰囲気が合わないのだが‥‥」
「匿われるようになってからだな。それまで以上に明るく振る舞って、あいつはおれ達を元気づけようと必死になっている」
「悪いが強そうにも見えない」
「あれも相当な猫かぶりだからな。‥‥ロイドも、まだ母が健在だった頃、おれの騎士になりたいのだと言っていた。死んだと聞かされて尚諦めていないとは‥‥」
「それで連絡を取ったのか?」
「そうだな。‥‥まさかスザクの上司だとは思わなかったがな‥‥」
その名が出た事で藤堂はハッとする。
「匿われていた学園を去るのは、スザク君のせい、か?」
「あいつがユーフェミアの騎士になれば、あいつの周りにも調査の手は伸びるだろう。同じ学園、同じクラス、同じ生徒会‥‥必ずおれの所にまで辿り着くからな」
「‥‥それをスザク君には‥‥?」
「言ったさ。スザクが学園に転校してきて再会した時に。『おれはここに匿われている』と。‥‥スザクにはそれだけでは言葉が足りなかったようだがな」
匿われているとは、隠れて生活していると同義語だ。
目立つわけにはいかず、調査対象になるわけにもいかず、ブリタニアの公的な場所には出るわけにはいかず‥‥、それをスザクはわかっていなかったのだ。
「ロイドが戻ったのは、仕事でスザクを忙しくさせて学園へ暫く行かせないようにする為だろう。スザクは敵に回せばそれなりに厄介だからな」
「‥‥スザク君よりも、彼を信じているのか?」
スザクの邪魔をするというロイドを疑わないゼロに、藤堂は思わず訊ねていた。
「‥‥信じる、か。‥‥一番信じているのはナナリーだ、次いでC.C.か。‥‥それから藤堂、ロイド、ミレイ、‥‥カレンの順だな。後は仙波達四聖剣に扇、だな」
自嘲気味に笑ったゼロは、指折りどんどんと人を挙げていくが、いつまでたっても出てこない名前に、藤堂は再び驚いていた。
「スザク君を信じる事は、やめたのか?」
「あいつがどういうつもりだったのかは知らないが。‥‥ユフィの騎士になったからな。あいつが護るのはユフィだけだし、そうでなければならない」
「‥‥」
「‥‥騎士は主ただ一人だけを護る存在だ。スザクはユフィを選び、おれの敵であるブリタニア皇族に与した。道は完全に分たれている」
「‥‥‥‥君は、それで良いのか?」
「良いも何も、覆しようのない事実だ。‥‥もしスザクがユフィを裏切るのならば、おれはスザクを許さないだろう。そして他の騎士をも敵に回す事になる」
藤堂の躊躇いがちな問いかけに、ゼロはスッパリと言い切ったのだった。
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作成 2008.01.14
アップ 2008.02.23
「‥‥それで?三人を呼んだ件はわかりましたが、ゼロ。藤堂中佐とわし等四聖剣を呼んだ訳は一体‥‥?」
ロイドとラクシャータの舌戦の余韻が冷めた頃、仙波がゼロに尋ねた。
「キョウトまでの護衛を四聖剣に任せたい。返答は?」
ゼロの言葉に、四聖剣だけでなく護衛される側もまた驚く。
「ちょっ、‥‥ちょっと待ってゼロ。それは承服出来ないわ」
まっ先に口に出して異を唱えたのは、護衛される側のミレイだった。
「‥‥。理由を聞かせて貰っても良いか?納得出来れば変更も検討しよう」
「‥‥‥‥。何故ここにいるのかは知らないけど、元々は日本解放戦線にいた人達でしょう?その人達は」
ミレイがチラと四聖剣に視線を向けた後、躊躇いがちに告げる。
カレンが「あっ」と小さな呟きを上げた。
「んー?何か心当たりでもあるのかな?‥‥"カレンさん"?」
その呟きを聞きつけた朝比奈が、問いかける。
「‥‥あの、ミレイ会長は、解放戦線による河口湖のホテルジャック事件の時に‥‥人質の中にいたんです。それでだと‥‥」
カレンは朝比奈が今までの「紅月さん」ではなく「カレンさん」と呼んだ事に内心感謝しながらも控え目に応じた。
藤堂と四聖剣は、黒の騎士団に所属しながら、騎士団の制服ではなく、前から来ていた軍服を着用している為、区別がついたのだろう。
藤堂はチラとミレイに視線を向けただけで何も言わなかった。
四聖剣はバツが悪そうに互いに視線を見かわし、それでも拒絶された事に納得した。
五人とも、全くタッチしていなかったが、客分としてだとしても同じ組織にいたのは事実だからと、負の感情を向けられる事を甘んじて受け入れたのだ。
「なるほど、あの場所にいたのか。‥‥ならばわかるだろう?わたしが、あの連中と同じ者を招き入れるはずがない、と」
ゼロはミレイの言葉に納得したが、まるで藤堂と四聖剣を庇うかのような言い方をした。
ミレイは藤堂と四聖剣に向き直り、それからチラとロイドに視線を向けた。
「別にいーんじゃないかなぁ?護衛して貰う立場としては贅沢は言えないしぃ?無事に辿り着けるならぼくは全然構わないよ~」
ミレイの視線を受けたロイドは「あは~」と笑って応じた。
聞き様によっては、誰が護衛に着こうが変わりはないと、相手の腕を軽んじているようでもある。
「あのーゼロ。昨日今日入ったばかりのおれ達に対してそこまで言う、その根拠は何?以前からおれ達の事、知ってたんですか?」
朝比奈が過大評価気味のゼロの言葉に驚きながら訊ねる。
「『奇跡の藤堂』と四聖剣は有名だからな。ある程度の情報は自ずと入ってくるというもの。桐原公の信頼も篤いようだしな」
「‥‥もしかしておれ達に護衛の話が来たのも、桐原公からの‥‥ですか?」
「そうだ。桐原公が護衛には藤堂か四聖剣、或いは紅蓮弐式のパイロットと指名してきた。わたしは四聖剣が妥当と判断した。返答をまだ聞いていないが?」
「紅蓮弐式?‥‥もしかして、それ『赤いの』かな~?輻射波動を使うぅ?ラクシャータ」
聞きなれないナイトメアフレームの名前にロイドが首を傾げてラクシャータに問う。
「煩いわよ、少しは黙ってられないの~?プリン伯爵はー?」
ラクシャータがロイドを一蹴する間に、四聖剣は再び視線を交わし合った。
「わかりました。お引受け致しましょう。我等四聖剣、必ずやお客人を無事にキョウトまでお連れ致す」
仙波が代表で応じ、残る三人が頷いた。
「‥‥良いだろう。任せよう。‥‥構わないかな?ミレイ・アッシュフォード」
四聖剣に頷いたゼロは、ミレイに最終確認を取る。
「‥‥‥‥。はい、よろしくお願いします」
息を吐き出したミレイは、気持ちを切り替えると深々と頭を下げた。
「桐原公が受入準備に少し時間を貰いたいと言っていた。こちらも準備が必要の為、出発は三日後になるだろう。そのつもりでいてくれ」
話がまとまると、ゼロは日程を告げる。
「あのー。三日後って、それまでここに軟禁状態ですか~?ぼくは仕事抜けてきている状態だから三日も戻らないと怒られるんだけども~?」
「仕事って、プリン伯爵ぅ?‥‥黒の騎士団に協力を要請しておいて、自分は白兜の整備に行くつもりなわけぇ?」
ロイドが外出を希望すると、ラクシャータが不機嫌そうに眉を寄せる。
「‥‥って、白兜の整備担当者なのか?」
当然驚き、扇が声を上げた。
「ロイド・アスプルンド。伯爵。特別派遣嚮導技術部、通称特派の主任で少佐。特派は白兜‥‥ランスロットの設計と開発を担当。枢木スザクの上司」
手帳を繰りながらデータを読み上げたのはディートハルトだ。
「「「‥‥‥‥。って、なんだって~ッ」」」
扇と朝比奈、卜部の声が見事にハモる。
当然だ、ディートハルトの言葉通りならば、白兜に枢木スザクと地雷だらけの経歴なのだから。
「それと、これは公式ではありませんが、第二皇子シュナイゼル殿下の友人だとか」
ディートハルトが付け加え、一同は最早驚きすぎて、言葉もないようだった。
「出入りは自由だ。‥‥この場所が漏れなければ好きにすれば良い。ゲットーではブリタニア人が目立つ事は念頭に置いていた方が良いぞ」
しかしゼロはあっさりと許可を出してしまう。
「‥‥良いんですか?ゼロ」
カレンが訝しげに訊ねる。
「あぁ。部屋を用意してやれ。‥‥それと、戻る前には連絡を入れるように。間違えて撃たれても知らないぞ。‥‥藤堂、この後話が有る」
ゼロはそう言うと、踵を返す。
「ぼくが軍に知らせる~とか、思わないのかな~、君は?」
「思わないな。‥‥守りたいと思っている者がいる場所に危険を及ぼそうとする事はないと見たが?」
ロイドが口にする興味本位のような言葉に、しかしゼロは冷静に応じる。
「ならキョウトに出立した後に通報~とかは考えないのかなー?」
「ちょ‥‥ロイドさん。いい加減にしてください。黒の騎士団の手の内で敵に回すようなこと言うのやめてくださいね」
ミレイが慌てて止めに入る。
「‥‥わたしを怒らせてその反応を見るつもりか?少しでも疑っているのならば、まずは武装解除くらいさせている。ここは任せる。行くぞ、藤堂」
溜息を吐いた後、ゼロは扇とカレンを見てこの場を任せると、藤堂を連れて部屋を出て行ってしまった。
結局、藤堂は一言も口を利かず仕舞いだったのを、四聖剣はこの時思い当って当惑した。
「‥‥武装解除くらいって‥‥武器持ってるんですか?ミレイ会長‥‥それに」
カレンは唖然として「そういえば、確認してなかった‥‥」と眉を寄せて思いながら、ミレイとロイドと咲世子を順に見た。
「‥‥‥‥。そりゃぁねぇ。‥‥一応持ってるわよ。すぐに取り上げられると思っていたから護身銃一つだけど‥‥」
「あぁ、ぼくも一応軍属だし、銃の一つとか持ってるね~。あはー。もっと気をつけないとダメだよ~。ゼロが気づいてたみたいだから良ーんだろうけど~」
「申し訳ございません。わたくしも、一応所持しております」
三人三様に頷いた後、ミレイはバツの悪そうな表情で、「‥‥いる?」とカレンを見る。
ロイドと咲世子は表情を変える事はなく、相手の出方を待っているようであった。
「良ーんじゃないか?ゼロも取り上げろとは言わなかったし‥‥。あれだけ言われて滅多な事はしないと思うけど」
と、扇は曖昧に応じた。
武器を持っている事がバレたのに、何もしようとしない三人にそのままで良いかもと思ったせいもある。
「‥‥扇さん、部屋、どこにしますか?」
「あ、あぁ。‥‥Dエリアに空き室が固まっていたからそこに‥‥。カレン、準備をしてくるからしばらく頼む」
「はい」
扇はカレンに任せると続いて部屋を出て行った。
「あっと。‥‥えっとプリン伯爵、だっけ?戻るのなら出口まで誰かつけるけど‥‥?」
「ロイドです、ロイド・アスプルンド。君まで変な名前で呼ばないでくれるかな?」
カレンがロイドに言うと、不機嫌な顔で訂正されてしまった。
カレンは思わずムッとする。
「‥‥名前はどうでも良い。それで?」
「えーと。ミレイくん。頼んでも平気かな~?当座の仕事片付けて、明日の昼には戻れると思うんだけど~?あー、出動がなければぁ?」
ロイドはミレイに訊ね、しかし最後にチラと騎士団のメンツを流し見た。
その目は「黒の騎士団が余計な騒動を起こせば、ランスロットの出動が発生して、自分も出動しないといけないんだけどー」と言っている。
入ったばかりの四聖剣はまだ黒の騎士団の予定はわからないから他の三人を見る。
「知らないわよ。わたしはぁ。興味あるのはナイトメアフレームだけだしぃ?」
「わたしの知るところは情報面だけですが、特に事件らしい事件は起こっていませんね」
ラクシャータとディートハルトはさっさと無関係だと言いきってしまう。
「‥‥。わたしも聞いてないわ。今日あるはずだった会議も闖入者のせいで随分とずれこんでしまってるし」
「わかりました。‥‥わたしは祖父の用事で数日留守にすると言ってあるし‥‥。早目に戻ってくださいね、『イエス』なら」
ミレイは暫く考えた後頷いた。
「わ、わかってますよ~。少し遅くなったからと言って、勝手に『ノー』に変換しないでくださいね~」
ロイドは、焦りながらもそう言うとカレンに向きなおった。
「ラクシャータ。四聖剣の二人程連れて出口までお願いできますか?他の団員の牽制の為にも。後、ゼロに報告を」
「しょーがないわねぇ。行くわよ、プリン伯爵。と四聖剣二人」
ラクシャータが言うと、ロイドが歩き出し、四聖剣の中から卜部と千葉が動いた。
「ではわたしがゼロに」と言ってディートハルトも一緒に出て行く。
扉が閉まってから、ミレイがカレンに訊ねる。
「‥‥それで、何か聞きたい事でも?」
残った仙波と朝比奈を気にしながら、それでも気になったと言ったところか。
「‥‥‥‥‥‥。あいつ、どうしたの?」
しかしカレンがそう尋ねた時、電話のベルが鳴り出した。
ミレイが携帯を取り出す。
「‥‥出ても良いかしら?相手はリヴァルみたいだけど?」
「‥‥‥‥。スピーカーでなら‥‥どうぞ」
カレンは仙波と朝比奈を見てから、そう許可を出した。
ミレイは腕を伸ばして出来るだけ離して机に置いてから、通話ボタンを押すとすぐさま両手で両耳を塞いだ。
その動きを察した咲世子はナナリーの耳元で囁き、二人揃って耳を塞ぐ仕草をした。
『ミレイ会長~~。今どこですかぁ~~。この大変な時に~~』
リヴァルの大声が室内に響いた。
重要な会議もおこなわれるこの部屋が防音に優れていなければ、基地中に響いていたのではと思われる音量で有る。
当然、予期していなかったカレンと仙波、朝比奈は顔を顰めて遅まきながら耳を押さえていた。
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作成 2008.01.14
アップ 2008.02.21
脳裏に浮かぶゼロの仮面、ゼロの姿が歪んで捻れて消えていった‥‥。
後に残ったのはゼロの声だけ。
ッ‥‥‥‥何故気付かなかったのだ、わたしは。
このような姿になる前に、あれほどの無礼を重ねる前に。
もう遅いだろうか?手遅れだろうか?もしもまだ間に合うのならば‥‥‥‥わたしは。
いや!例え手遅れだったとしても、会いに行こう、ゼロに、‥‥あの方に!
『おはようございました』
何処だ?何処におられる?‥‥外野が煩い、何を言ってる?
‥‥わたしの邪魔をするな。
わたしの口が身体がわたしの意志の通りに動かない。
なんだ?その目茶苦茶な文法は。
これではあの方への言葉が伝わらないではないかッ。
忠誠もッ!敬愛もッ!謝罪でさえもッ!
‥‥‥‥待て!わたしにはもはやゼロに仇をなすつもりは毛頭ないんだぞ!
ゼロが騎乗すると言う黒い機体を目の前にして、わたしの口は勝手に高笑いを上げている。
‥‥ヨセッ!ヤメロッ!あの方を傷付けるなッ!
ガウェインの中で、急に現れた「オレンジ君」が乗る機体に、渋面を作りながら、ゼロはC.C.に指示を出す。
「C.C.。‥‥あれには構うなッ、神根島を目指せッ」
「無理だぞ、その前に追い付かれる」
ガウェインよりも性能が良いのは先刻承知だろう?とC.C.は不機嫌を隠さずに言うのだが、ゼロは頷きつつも撤回はしなかった。
「‥‥良い、とにかく少しでも島に急いでくれ」
「‥‥ならば、追い付かれた時はお前が何とかしろよ」
言い出したら聞かない性格なのはわかりきっているので、諦めの入った声で、C.C.はそう言って先を目指す。
「わかってる」
ゼロは気負うでもなく、ただ肯定しただけだった。
衝撃が来て攻撃を受けたガウェインは神根島の浜辺に叩き落とされた。
「くっ‥‥。おい、どうするつもりだ?」
先程言った通り、お前がどうにかしろとC.C.はゼロに指示を仰ぐ。
ゼロの出した指示は、とんでもないものだった。
「C.C.はおれを降ろした後、ナナリーを助けに向かってくれ」
「待てッ、逆じゃないのか?生身でアレの相手をするつもりか?」
C.C.でさえ驚くような内容に、眼を見開いて訊ねなおした。
「平気だ。殺されたりはしない。だから、ナナリーを。‥‥頼む」
「‥‥わかった。その代わり、約束は守れよ」
ゼロの揺るがない自信に、C.C.はそう言うと、ゼロを降ろして、その場から飛び去って行った。
黒い機体から出て来た人物にわたしは歓喜し、小躍りした。
ゼロだ、あの方だ!
言わなければならない事がたくさんあるのだ、わたしには。
謝らねば、許しを戴ける事はないとわかっていても、とにかく謝らなければ。
黒い機体から出て来た人物にわたしは歓喜し、小躍りした。
間違いない、ゼロだ!
これまでの無念を今こそ晴らすのだッ!
濡れ衣を着せられた無念を、屈辱を、怒りを!
なッ待てそれはダメだ!
待たぬ、このような好機を逃してたまるかッ!
「‥‥‥‥煩いッ、黙れオレンジ!わたしに言いたい事が有るのならば、降りて来て面と向かって言え」
それは張り上げたものではない、ただゼロは怒りを込めて不機嫌に、いつもよりも低い声で言っただけだった。
聞こえてる‥‥のか?今のやり取りが?
「ふッ、当然だろう?」
ゼロは仮面越しながらも、余裕たっぷりに言い切った。
ルルーシュは不機嫌だった。
なんだ?この頭の中に直接聞こえるような言い合いは。
なんだ?支離滅裂な言葉の羅列は?
ある時を境にして聞こえだしたその声に、思考を邪魔されまくっているからである。
一つには思慕、一つには憎悪、一体全体何なんだ?この声は!
目の前に現れた「オレンジ君」を見て、ルルーシュはこの声の主が「オレンジ君」だったのだと気づく。
「ゼロを倒せ」とそう言った端から、「やめろ、手を出すな」と否定する、その言い合いが鬱陶しい。
「オレンジ君」は一体何がやりたいんだ?
『ゼロッ、ご無事ですか?‥‥コイツッ』
カレンの声と共に、紅蓮弐式がゼロを庇う位置に割って入る。
「カレンか‥‥。わたしは平気だ。C.C.がガウェインで先行している。白兜も見掛けたから追ってくれ」
『ですが、コイツが‥‥』
おかしな形だが、曲がりなりにもナイトメアフレームであろう機体の前に生身のゼロ一人を残して行けようはずがないとカレンは躊躇する。
「平気だ。C.C.にも言ったが、わたしは殺られたりはしない。だから‥‥行けッ、カレン!」
ゼロのその言葉は、こんな状況だというのに、何故か説得力を持っていて、カレンは頷いていた。
『‥‥わかりました、ゼロッ!ご無事で』
それだけ言うと、カレンは紅蓮弐式を飛び立たせ、ガウェインを見た方向へと進ませていった。
再び一人「オレンジ君」の乗る機体と対峙するゼロは、静かに佇んでいた。
機体はスーッとゼロに近づいて来て、すぐ近くに止まると、中から変わり果てたイメチェン「メカオレンジ君」が現れる。
どうやらゼロがさっき言った「降りて来て面と向かって言え」に従ったらしい。
その手には銃が握られ、銃口はゼロに固定されていたが。
「‥‥で?‥‥ジェレミア・ゴットバルト、‥‥だったな?何の用だ?」
ゼロは敢えて、「オレンジ君」と言う愛称(?多分怒る者約一名)を避け、本名で訊ねていた。
あの状態で、わざわざ降りて来た行動に敬意を表しても良いかと思った為だ。
「貴方様はゼロ?!何たる僥倖!宿命!数奇!」
そうだッ、そのまま謝罪をするのだ。今までの行動を、ゼロに、詫びるのだ。
「‥‥‥‥それで?ハッキリ言え、ジェレミア卿ッ」
「出会イハ幸セ!このジェレミア・ゴットバルトには!!こんな形で機会をイタダキマシタ!!」
やっと貴方にお逢い出来たのだッ、謝罪する絶好のチャンスまで頂いた。
「前置きは良い。お前がジェレミア卿だと言う事も分かっている。その先を言え」
「言い訳ムダ!懺悔は今!!ご無礼が大量!」
わたしは悔やんでいるのです。
ゼロが貴方だと気づかずに、これまでの無礼の数々を、言い訳のしようもない程にッ。
「‥‥‥‥。ん?もう一つの意思はどこに行った?ジェレミア卿。さっきまで葛藤していただろう?わたしへの憎悪と」
ゼロは不意に首を傾げると、普通にジェレミアに話しかけていた。
そう言われてみればいつの間にか抵抗がない。
身体もぎこちないながら、我が意に従い動いてくれている。
わたしはまだ構えたままだった銃を持つ手を下し、銃を手放した。
ボトッと鈍い音がして、砂浜に銃が落ちる。
「なるほど?名前に反応しているのかも知れないな。あの疑惑の名前で呼ぶとわたしを殺そうとするわけか?」
「呼ブハイケナイ!危険が大量!」
再び身体が意に従わなくなれば、わたしは何をするかわからないのだ。
これ以上の無礼を重ねるわけにはいかない!
「‥‥良いだろう、ジェレミア卿。謝罪は受け入れても良いぞ?但し、わたしの素性は黙っていろ」
ゼロの言葉に、わたしは歓喜した。
「何たる僥倖!何たる歓喜!忠誠をイタダキマセ!」
わたしの忠誠を、敬愛をどうかッ!
「‥‥それは保留だな。あの呼び方をされても、わたしを殺そうとしなくなったら、その時には改めて検討してやっても良いが」
ゼロは溜息混じりにそう応じる。
今のジェレミアの忠誠を受けて騎士にしたとして、「オレンジ」の言葉でその騎士に命を狙われる主にはなりたいはずがない。
「あれは違イマシタ。別人!」
「だが、あれでお前を呼ぶ者は多いだろう?今後も。それまで違うとは言いきれないだろう?ジェレミア卿」
ジェレミアの意思とは別のところで、ジェレミアを「オレンジ」「オレンジ卿」「オレンジ君」と呼ぶ者は多いだろうし、今後も恐らく絶えないだろう。
「仕方アリマシタ!命令ハ幸セ!」
「お前はこのまま租界に取って返し、ブリタニア軍を倒してこい。‥‥間違っても騎士団に攻撃は加えるなよ?」
それでも命令をというジェレミアに、租界へ戻るように言ってみる。
これで応じれば儲けモノだ、あの変なナイトメアフレームモドキは強力な戦力になる。
「命令ハ幸セ!」
敬礼をしたジェレミアは、踵を返すとナイトメアフレームモドキに乗り込んで飛び去って行った。
ゼロは騎士団の連中に、「オレンジ」と呼ばないように指示を出さなければ、と思いながらその機影を見つめていた。
了
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作成 2008.02.16
アップ 2008.02.18
「‥‥‥‥は?」
ギルフォードは、主であるコーネリアの言葉に、普段は絶対にしないだろう少々間の抜けた返答を返していた。
「だからだな。‥‥明日は公務がないからお前にも休暇をやる、そう言ったのだよ、我が騎士ギルフォード」
コーネリアはギルフォードの様子が可笑しかったのか、笑みを含んで再度告げた。
「ですが、姫様の傍を離れるわけには‥‥」
「明日は久々にユフィと過ごそうと思っている。危ない事はないから安心するが良い」
「そうは仰られましても‥‥」
常にない事に、困惑しているギルフォードは曖昧に応じるだけだ。
「‥‥ではこうしよう。明日、朝食後から休みに入り、夕食前に戻ってくる。半日の休暇だ。その間わたしは外には出ない」
コーネリアはそう妥協して、ギルフォードは少し躊躇った後、首肯した。
これ以上の妥協がコーネリアに存在しない事を、ギルフォードは承知していたからである。
「わかりました。ですが姫様。もしも万が一外出なされる場合は、ダールトン将軍を供にお付けになってくださいね」
「ふっ、わかっておる。たまにはわたしの事など忘れて個人に立ち返って羽目を外して来い」
「また姫様は無茶な事を仰られる」
そんな事が騎士には無理な事など、どちらも承知しているのだ。
仕方がないと言わんばかりのギルフォードの科白は、コーネリアの無理難題をそれでも叶える時のそれだ。
「夜からはまた頼むぞ?我が騎士ギルフォード」
「承知いたしました」
ギルフォードはいつも通り、優雅に頭を下げた。
コーネリアとユーフェミアの姉妹とダールトンに見送られ、政庁を後にしたギルフォードは、ブラリと租界を歩き出した。
コーネリアには言わなかったが、ギルフォードに行く宛は有った。
しかし、真っ直ぐそこへ行く事が躊躇われ、まずは散歩でもしようかと考えたからだ。
「個人に立ち返って」‥‥コーネリアはそう言った。
そう言われてギルフォードが真っ先に思い出したのは、遠い昔の事だった。
ギルフォードがコーネリアから騎士に望まれる前、──いや更に遡り、ギルフォード自身がコーネリアの騎士にと望む前だ。
ナイトメアフレームに騎乗しての、初陣でギルフォードは危機一髪のところを、とある騎士候に助けられたのだ。
戦闘後、お礼を言う為にそのナイトメアフレームから恩人が降りて来るのを待っていると、開いたハッチから珍しい長い黒髪が靡いたのだ。
驚いた事に、恩人は女性で、しかも騎士候とはいえ出は庶民でありながら皇妃になった「閃光」の異名を持つマリアンヌだったのだ。
庶民出とは言え、皇族に名を連ねている事には違いなく、ギルフォードはバッと姿勢を正した。
ところが、驚く事はそれだけではなかった。
降りてくるマリアンヌの腕には、幼子が一人抱かれていたのだから、ギルフォードだけでなくその場に居合わせた全ての者が驚いていた。
「‥‥というか、マリアンヌ皇妃ッ。子連れで戦場に出てくるな~~」とほぼ全員が内心で叫んでいた事だろう。
黒髪の、マリアンヌに良く似た面差しのその幼子が誰かわからぬ者はその場にはいない。
第十一皇子にして、この度第十七皇位継承権を授かる事になったばかりのルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに相違ないだろう。
戦闘直後とは思えない程優しい笑みを浮かべるマリアンヌに抱かれたルルーシュは、周囲を一瞥するとギルフォードに視線を固定した。
「ぶじでよかったな。ははうぇにかんしゃしろよ。‥‥なにをされるのですか、ははうぇ」
ギルフォードに話しかけた途端頭をポンと軽く叩かれたルルーシュは、不思議そうにマリアンヌを見上げ苦情を言う。
「感謝とは強制するものではありませんよ?ルルーシュ。そのような事を言ってはどうすれば良いのか逆にわからなくなってしまうでしょう?」
マリアンヌは慈愛に満ちた表情で我が子を見つめながら、諭すようにそう言った。
暫くマリアンヌの言葉を考えていたらしいルルーシュは、こくりと頷いた。
「わかりました、ははうぇ。‥‥すまなかった、‥‥えーと、‥‥ギルフォードきょぉ、だったな?」
ギルフォードに向かって頭を下げて、その上名前まで呼んだルルーシュに、ギルフォードは目を見開いて驚いた。
面識もないナイトメアフレームにさえ騎乗したばかりのギルフォードの名前まで覚えているなんて思ってもいなかったからだ。
「‥‥‥‥。おこったのか?」
返事をしないギルフォードに、ルルーシュはどうすれば許して貰えるのかわからず途方にくれてしまう。
憂いを見せるルルーシュにギルフォードは我に返って慌てる。
「怒っておりません、殿下。助けて頂き感謝しているのは本当ですから。‥‥ありがとうございました。マリアンヌ様、ルルーシュ様」
ギルフォードの言葉に、ルルーシュはホッと息を吐く。
「礼を言われる事は何もしていないわ。それと、貴方の事は、コーネリア殿下から伺って知っていたの」
「ですが‥‥」
「そうですね。宜しければ少しお話をしましょう?」
マリアンヌの言葉に、恐る恐る頷いたギルフォード。
「では、付いておいでなさい」
マリアンヌは微笑を浮かべて言うと、再びルルーシュを連れてナイトメアフレームガニメデに颯爽と騎乗した。
ギルフォードは慌てて自身のナイトメアフレームに騎乗すると、既に移動を始めていたガニメデの後を追った。
陣からは少し離れた他に誰もいない場所まで来たマリアンヌはガニメデを止めると再び外に出てきた。
ギルフォードもナイトメアフレームを近くに止めて慌てて降りる。
その様子をマリアンヌはくすくすと可笑しそうに見ていた。
「本当に、貴方はコーネリア殿下の仰ってらした通りの方のようね、ギルフォード卿」
ギルフォードは途端にやはり面識のない第二皇女に何と言われていたのかと不安になる。
「‥‥あの。‥‥わたくしはコーネリア皇女殿下とも面識はございませんが‥‥」
「そのようね、まだ今は。『真面目過ぎるキライは有るけれど、とても優秀な男が入って来たとダールトンが喜んでいた』と仰っていたわ」
「ダァルトンがひとをほめるのはめずらしいからおぼえていたんだ。‥‥でもやっぱりダァルトンのいったとおりだったな」
ギルフォードは、マリアンヌの言葉に納得し、ルルーシュの言葉に戸惑う。
「‥‥ルルーシュ殿下。危機を救って頂いた立場としては、褒められるような状態ではなかったはずですが」
「ははうぇにむかってもらっているあいだに、ておくれかもしれないともおもったんだ。なのにまにあったのはもちこたえたものがゆぅしゅぅだったからだろう?」
「はい、良く言えたわね、ルルーシュ。‥‥貴方の配置場所が手薄だと、そう気づいたのはルルーシュなの。だから取って返したのよ」
マリアンヌはそう言って、「本当に間に合って良かったわ」と笑った。
あの時、ギルフォードは確かにマリアンヌとルルーシュのいずれかの騎士になりたいと思った事を覚えている。
しかしマリアンヌからはやんわりと断られ、ルルーシュにも当面言い出す事を止められて、そのままだったのだ。
ギルフォードがコーネリアの騎士を望んだのは、その後任務でコーネリアの隊に配属された後の事だ。
コーネリアは、実妹であるユーフェミアと、憧れのマリアンヌ、その子供であるルルーシュの為に戦っているのだと言った。
ならば、コーネリアに仕え、護り、助ける事が、間接的にマリアンヌとルルーシュを守る事にもなるのだと思い至ったからだ。
その後、目覚しい活躍をするギルフォードをコーネリアが騎士にと指名し、ギルフォードはそれを受けたのだった。
了
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作成 2008.02.13
アップ 2008.02.17
扇は遅れて来たという負い目も手伝って、押し切られる形でゼロの自室の前に立っていた。
これでも精一杯の反論はしたのだ、扇も。
「‥‥ゼロの機嫌が?」
「そうなんです、扇さん。なんだかとっても悪いみたいで」
「‥‥でも、ゼロにだって機嫌の悪い時くらいはあるんじゃないのか?」
「ちょっとどころじゃねーんだぞ、あれは。声だけで人を殺す事だって出来るぜ、今のゼロは」
「‥‥緊急時以外声をかけるな、と言われたんだろう?」
「でもッ、あのまま放っておくなんて、良いはずがないんです、きっと。何か有ったと思うから、相談くらい乗って上げた方が良いかと」
「‥‥‥‥それが、何故おれなんだ?」
「あの場にいた奴は、全滅なんだから仕方ねぇだろ。それに副司令だし?」
扇の問いに、カレンと玉城が交互に答えて、扇の退路をドンドンと削って行く。
「あー‥‥。それなら、藤堂さんとか」
「ダメですよ。藤堂さんを煩わしちゃ。ここは古株の威厳をしっかりと見せていただかないと」
と、足掻く扇に朝比奈が止めを刺した。
「‥‥‥‥‥‥。じ、じゃぁ、聞いて、くる」
そうして、扇はすごすごと、二階へと上がって来て今に至る。
意を決してノック。
「‥‥‥‥。‥‥‥‥。ゼロ?扇だけど。‥‥いないのか?」
返事がないので、扇は声をかけ、もう一度ノック。
「‥‥‥‥入れ」
微かに聞こえた声に、扇は驚いた。
今まで、「入れ」と言われた事はなく、「なんだ?」とか「どうした?」とかで扉越しに報告するか、ゼロが直接扉を開けて出て来るかしていたからだ。
そろり、と扇は開閉ボタンに手を伸ばし、何の抵抗もなく空いた扉から中へと入った。
扇が中に入ると、ゼロはまるで扇を待っているかのように、ただソファに優雅に座っているだけだった。
「‥‥‥‥‥‥。ゼロ。みんなからゼロの機嫌が悪いようだと聞いた。‥‥何か、有ったのか?」
扇は背後で勝手にしまった扉にビクリと反応した後、用件を早く済ませて立ち去ろうと思い、早速切り出した。
「‥‥まず、座れ。聞きたいと言うのならば、話してやろう。‥‥聞きたくなければ引き返せば良い」
何かを見定めるようでもあり、どこか投げやりにも聞こえるゼロの言葉に、扇はその場で少し考えた。
だが、ゼロ本人が話すと言っているのだから、と扇はゼロの向かいのソファにそろっと腰を下ろした。
「‥‥今日、ここへ来る途中、とある現場を目撃した」
ゼロの話は唐突で、扇は鸚鵡返しに、「現場?」と繰り返した。
「そうだ。‥‥租界でブリタニアの学生とぶつかっていたな?扇」
よりにもよってゼロに見られていたとは思っていなかった扇は、指摘されてわたわたと慌てた。
「‥‥あ、‥‥あぁ。確か、に。ど、こで見ていたんだ?ゼロ‥‥」
「‥仮面をしていないのに、声を掛けると思うか?‥‥それに、ぶつかった事を問題にしているんじゃない。その時いた、‥‥お前の連れ、だ」
ゼロの容赦のない指摘に、扇はドクンと身体が震えるのを感じた。
それは今、指摘されたくない事柄でも有ったからだ。
「‥‥‥‥か、‥‥彼女、が‥‥何か?」
尋ねながら、扇はダラダラと冷や汗をかいている。
「‥‥わたしの記憶が正しければ、ブリタニア軍の『純血派』の一人だったはずだが?‥‥そう、『オレンジ君』の部下だったか。何故共にいた?」
「‥‥‥‥。彼女が軍人だとは知らなかったんだ。怪我をして倒れていたから助けたんだが‥‥。その、記憶を失くしているから、報告しそびれた‥‥」
扇は少し迷った後、ホンの少しだけ嘘を混ぜて、後はそのまま報告した。
軍人とは知らなかったと言ったが、助けた時の場所や服装から、ある程度そうではないかと思っていたのは確かだったのだけど。
「‥‥‥‥‥‥‥‥。何時の話だ?」
怪我と言う言葉に、ゼロはとある可能性に気付いて、扇に確認を取る。
「あー‥‥港での作戦が有ったあの場所で、‥‥次の日の夕方、だ」
扇の言葉で、ゼロの懸念が一つ解消された。
「そうか。‥‥それで?どうするつもりなんだ?扇」
「‥‥それは‥‥」
「記憶が戻れば、あの女は『純血派』だからな。お前とは相容れないぞ?」
そう、唯のブリタニア軍人と言うわけではないのだ、記憶が戻れば「イレブン」である扇を認めるとは思えない。
「‥‥‥‥。あの、ゼロ。機嫌が悪かったのは、‥‥このせいだったのか?」
考えても答えを出せなかった扇は、話を逸らすかのように問いかけていた。
「‥‥そうだな。‥‥中核となったグループのリーダーだった男が、ブリタニア軍人と連れ立って歩いていれば気になって当然だと思うが?」
ゼロは当然の結果だと応じ、「しかも時間になっても現れなければ余計だ」と付け加える。
「す、すまなかった。‥‥その、具合が悪くなったみたいで、一度家に戻っていたから‥‥」
藪蛇だったかと思いながら、連絡くらいはするべきだったと、扇は素直に詫びを入れる。
「‥‥それにしても勇気が有るな。ゲットーにブリタニア人を置いているのか?」
そう言ったゼロの声音に若干の呆れたような笑いが含まれていたように感じた扇は、少しは機嫌が直ったのかとホッとする。
それから内容に苦く笑った。
「‥‥他に、預ける先が見つからなかった事もあるし‥‥、その」
離しがたくなった、とは扇は口に出来なかった。
「まぁいい。承知の上なら構わない。気を配ってやる事だ。‥‥わたしに報告しなかったという事は、自分で解決するつもりも有ったはずだな?」
「あ、あぁ。それは‥‥」
「ならば、この件に関しては今後もお前の責任であたれ。これ以上は問わない。‥‥もし、わたしに助けを求めるのならばその後の苦情は受け付けないが」
扇はまさか報告した後もそのまま任されるとは思わず、驚いた。
「‥‥い、良いのか?」
「軍人だった時は、『オレンジ君』の部下で、それなりに手を焼いた存在だったが、今はそうではないのだろう?‥‥ならば任す」
「あ、‥‥ありがとう、ゼロ」
扇は礼を言った後も、何か言いたそうにゼロを見ていて、それに気づいたゼロは「なんだ?」と尋ねる。
「あ、その。‥‥下でみんながゼロの不機嫌だった理由を聞いて来いと‥‥。けど流石にこれは‥‥」
「‥‥ならば、表で起きたトラブルについて考えていたとでも言っておけ」
扇の躊躇いを汲んだゼロの言葉に、扇は驚いた。
てっきり、「それくらい自分で考えろ」くらい言うかと思ったのだ。
思いがけず、温かい気づかいを見せてくれたゼロに、扇は素直に感謝した。
「‥‥ありがとう、‥‥ゼロ」
礼を言って、扇はゼロの部屋から出て行った。
了
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作成 2008.02.11
アップ 2008.02.16
2月14日。
その日、アッシュフォード学園に在学する女生徒の内、実に三分の一に相当する人数(+一部(計上不能?)の男子生徒)が嘆きの声を上げたという。
「ん?あぁ。ルルーシュなら、今日は休みだぜ」
と教えるのはルルーシュ・ランペルージの悪友として名が高い(ホントか?)リヴァル・カルデモンドだった、但し少々辟易して、だが。
朝からずっと、授業時間を除いて絶え間なく問われ続けていたら、辟易するのも当然と言えよう、しかもお礼チョコすら置いていかないのだから尚更だ。
「ん?それも無理無理。クラブハウスにもいないって。朝、病院に行くからって出てったからさ。あぁ、風邪だろ?たぶん」
放課後になると、既に投げやりに近い言葉を発しながら、リヴァルは途切れたら速攻生徒会室へ逃げ出すぞ、と機会を窺っていた。
その日、カレンは学校を休んだ。
何故ならいつアジトにゼロが来ても良い様に、ずっとアジトで待機していたかったからである。
「おい、カレン。‥‥学校、良かったのか?」
小さいながらも、義理だとハッキリキッパリ言いながらだったけれど渡されたチョコを食べた手前、強く出られないまま、扇はカレンに尋ねた。
「良いのよ。それより、扇さん。ホントにゼロから連絡来てないんですね?」
カレンの表情も声も真面目で、扇はつられるように真面目に頷いた。
「あ、あぁ。今日はまだ連絡は来ていない。‥‥元から来る日じゃなかったから、今日は来ないかも、知れないぞ?」
「‥‥わかってます。‥‥それでも‥‥」
カレンは俯いて、ポツリと呟いた。
正体不明のリーダーのどこがそんなに気に入ったのか、と思わないでもないが、親友の妹であるカレンは、扇にとっても妹のような存在で、応援はしたくなる。
だから、扇はゼロの素性がカレンとお似合いならば良いと思いながら、カレンをそっと応援する事にしているのだ。
「ま、良いさ。最近は学校に行く事が多かったから、たまにはサボっても良いだろうし、カレンの気の済むようにすれば良い」
「‥‥ありがとう、扇さん」
カレンは嬉しそうに笑って礼を言った。
ゼロの部屋の扉が開いて、カレンは「え?もしかして、いつの間にか来てたの?」とか思ったのだが、出て来たのはC.C.だったので、落胆する。
「ん?扇に、カレン、か?何をしているんだ?こんなところで」
C.C.の問いかけに、何時もならば反発するカレンだったが、背に腹は代えられないッとばかりにC.C.に詰め寄った。
「お願い、C.C.。ゼロの予定を教えて。今日は、ゼロ、ここに来るの?」
「あぁ‥‥。来ないぞ、アイツは。今頃は‥‥。‥‥そうだな。どこかに潜伏中じゃないか?」
カレンの意図を察したC.C.の答えに、カレンだけでなく、傍で成り行きを聞いていただけの扇も首を傾げる。
「潜伏中って‥‥何か有ったのか?」
「バカかお前は。今日が何の日か知らないわけじゃないだろう?アイツはモテるからな。世の女性から追いかけられないように隠れているに決まっているだろう?」
C.C.の言葉はすなわち、ゼロはこの日、追いかけ回される程、モテる!と言う事なのだ。
「じゃ、じゃあ‥‥アジトにも?」
「当たり前だ。アイツ、わたしに昨日、何と言ったと思う?『C.C.。無事に終わったらピザを十枚くれてやる。だからおれを一人にしておけ』だぞ」
「C.C.!二十枚出すわ。だからゼロの居場所、教えてッ」
「悪いな。十枚は先払いにさせて既に腹の中だ。今教えると後が煩い。魅力的な提案だが、乗るわけにはいかないんだ、諦めろ」
そう言うとC.C.は絶望するカレンと、それを憐れむ扇を残して立ち去って行った。
C.C.の姿が見えなくなってから、扇とカレンはふと、別の事に気付いて首を傾げた。
「そういえば‥‥。今日は人が少なくないか?」
いつもならば、こんな場面で、突っ込みを入れるハズの声がないから気付いたのだとはどちらも言わない。
「ですね。さっき義理チョコ配りに回ってた時、いつもアジトにいるハズの藤堂さんや四聖剣も見かけなかったんですよ」
「ん?千葉さんはいたぞ?井上やラクシャータと話をしてた。平団員も普通だったが、‥‥そうか、幹部の男性陣が少ないんだ。‥‥どこへ行ったんだ?」
二人は顔を見合せて、再び首を傾げたのだった。
「咲世子さん。‥‥お兄様、やっぱり戻ってきてくださいませんでしたね‥‥」
日付が変わりそうになる時間、ナナリーは寂しそうにポツリと呟いた。
その手にはシンプルな包装に包まれた最愛の兄へのチョコレート。
「そうですね‥‥。年に一度だけ、ナナリー様を避けておしまいになられる日ですから‥‥」
そう。この日だけは、最愛の妹すら寄せ付けず、ルルーシュは雲隠れを敢行する。
その為、ナナリーのチョコレートはいつも一日遅れで手渡される事になっていた。
チョコレートケーキをつつきながらも暗い表情でその部屋にいる全員が深い溜息を吐いた。
選択を誤ったかも知れない、と誰もが思っているのだ。
去年までの毎年、この日はドキドキハラハラちょっと女性が近づく度に緊張し、何事もなく離れていくと落胆、貰えれば天国な日だったのだ。
それが、何故男ばかり同じ部屋で、とてもおいしいチョコレートケーキをつつきつつも暗い表情をしているか、というと‥‥。
チョコレートケーキの作り手がゼロで、彼等に渡したのもゼロだったからだ。
幾らおいしくっても男からじゃなぁ~‥‥というのが、暗い表情と、溜息の原因だった。
‥‥いや、全員じゃないか、ディートハルトは一人ご満悦で敬愛するゼロの手作りケーキを頬張っているのだから。
「何故、ゼロは奴まで呼んだんだ?」とは他のメンバーの一致する意見なのだが、勿論ゼロが呼んだ訳ではない。
ディートハルトは独自の情報網でこの場を嗅ぎつけてやってきたのだ。
なので、彼等は「ディートハルトがゼロの部屋に近づこうとすれば全力で止めろ」とまで指示されていた。
ゼロの部屋に招かれたのは、洋菓子は苦手だと言いきった藤堂と、四聖剣の三人。
ならばとゼロが自室で和菓子を提供しているはずである。
この時、目の前のチョコレートケーキに目が眩んでケーキを取った一同は、少々後悔したとかしないとか。
和菓子が恋しい日本人男性だ、羨ましそうに、ゼロの自室に目を向けたのだった。
藤堂は畳の上に正座をしながら、抹茶をすすっていた。
お茶受けは羊羹が供されている。
四聖剣の三人もまた、楊枝を手に羊羹を頬張っていた。
「おいしいね、ルルーシュ君」
朝比奈はにこにことゼロの格好をしながら仮面だけを外した少年に声をかけた。
「‥‥名前を呼ぶな、と言ったはずだが?」
キラリンと紫の瞳を煌めかせてゼロが朝比奈を睨むが、堪えた様子は見られない。
「藤堂、徹底させろ」
ゼロは朝比奈に直接言うのは早々に諦めて、朝比奈が敬愛する上司に指示する。
「‥‥朝比奈、次呼べば追い出す」
一緒に追い出されたら堪らない藤堂は、朝比奈を睨んでそう言った。
「ぅ、わかりましたよ、藤堂さん。だから睨まないでくださいって」
同じように睨んで言っているのに、効果がなかったゼロは威圧感が足りないか?と反省した。
そうして日々威圧感に磨きがかかって行くゼロだったが、原因が朝比奈にあるとは誰も知らない。
「朝比奈はさ。反省って言葉を知らないだよなぁ?」
「そんな事ないですよ、卜部さん。おれだって反省くらいしますって」
「へぇ?いつ?前反省したのはどんな事だった?」
「え?‥‥えーとぉ‥‥‥‥‥‥」
卜部と朝比奈の言い合いを他所に、藤堂はゼロに話しかける。
「‥‥妹君は良かったのか?それとも、朝受け取って来ているとか?」
その問いにゼロは「う゛ッ‥‥」と呻いて固まった。
ゼロのその反応があまりにも意外だったので、訊ねた藤堂だけでなく、見ていた仙波も、卜部と朝比奈もゼロを凝視する。
「‥‥‥‥ゼロ?」
「‥‥。‥‥。‥‥。妹からは、いつも翌日、に‥‥貰っている。‥‥今日みたい、に。おれが、‥‥雲隠れしていたから‥‥」
「「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」」
ゼロの逡巡だらけの言葉に、四聖剣の三人は絶句し、困惑顔を藤堂に向ける。
「‥‥‥‥。ゼロ。この日に何か、あるのか?」
無言の圧力を受けた藤堂は、自身も気になっていたので、ゼロに問いかける。
「‥‥あ、あぁ。‥‥昔。数名のパワフルな少女から一日中追いかけ回されてな。‥‥この日は女性から逃げなければならないと言う強迫観念が‥‥」
ゼロの言葉に、唖然とする。
ちなみにパワフルな少女とは、下からナナリー、ユーフェミア、コーネリア、セシル、ラクシャータ、それとマリアンヌ、だった。
普段は庇護する側にいる優しい母や、守ってやるんだと思っている妹からさえも追われる日、‥‥それがルルーシュのバレンタインだったのだ。
更に余談だが、ルルーシュはこの日だけは、体力不足に悩みながらも体力で勝る相手達から見事に逃げきっていた。
「それで、騎士団の男性幹部だけ、誘ったわけですか?」
「普通ならば、異性を招くだろう?」と疑問に思っていた仙波が、得心が行った様子で言った。
「まぁな。‥‥ディートハルトだけは来て欲しくなかったがな」
ゼロは仙波の言葉に頷いた。
「‥‥しかし、それだと次の日は凄いんじゃないか?当日じゃなくても、と思う女性はかなり多いだろう?」
「あ、あぁ。‥‥普段は次の日の朝だけと言う事で、規制を掛けてくれている人がいて‥‥わたしの為に用意してくれたのを受け取らないのも申し訳ないし‥‥」
ゼロも畳に座って抹茶を手に取りながら応じる。
抹茶を飲んだ後、羊羹を食べるゼロは幸せそうである。
「‥‥ゼロ。‥‥おいしい羊羹を、ありがとう。改めて、礼を言っておこう」
藤堂は、とりあえずもう一度礼を言う事にした。
「‥‥感謝する、ゼロ」
「ありがとう、ゼロ。おいしかったぜ」
「ゼロ。また作ってくださいね♪」
一同の感謝の言葉に、ゼロは四人に向かって満面の笑みを見せた。
2月15日。
「おかえりなさい、お兄様。‥‥これ、受け取って頂けますか?」
朝一番で、ナナリーはルルーシュにそう言ってチョコレートの入った包みを差し出した。
「ありがとう、ナナリー。嬉しいよ。‥‥昨日は、ごめんね、ナナリー」
「良いんです。わたしは、受け取って頂ければ、それで‥‥」
ナナリーはそう言って嬉しそうに笑った。
『良い事~?並んで並んで~。予鈴鳴るまでだからね~。押し合った人は問答無用でどいて貰うからね~』
ミレイが何故かマイクを持ち出して一列に並び始めている女生徒達に説明している。
行列の整理には生徒会のメンバーが駆り出されている。
スザクを含めた男子生徒はこの列に並ぶ資格を持っていない為、涙を呑んで諦めた。
スザクは、生徒会メンバーが後で生徒会室で渡す事を知らない。
そして知らないまま、軍に呼ばれて放課後になる前に、生徒会室に寄る前に帰り、とうとう知らず仕舞いだった。
ルルーシュは一旦部屋に戻って朝貰ったチョコレートの山を置き、生徒会室へ行ってミレイ、シャーリー、ニーナからチョコレートを受け取った。
カレンからは「義理よ、義理。一応だからね」と小声で言われて苦笑する事になったが、見た目笑顔で渡すカレンに、ルルーシュも笑顔で礼を言った。
その後、騎士団のアジトに向かったゼロは、待ち構えていた女性陣に思わず足を止める事になる。
勿論、その中に、何故かラクシャータが含まれていたからなのだが。
他にはカレン、井上に千葉の姿まで有った。
「昨日は来られなかったので、‥‥一日遅れですけど、受け取って頂けますか?‥‥ゼロ」
頬を染めたカレンがそう言って包装された小箱を差し出す。
「いつもお世話になってますし。‥‥一応義理ですけど、お渡しします」
井上が生真面目な表情でリボンの掛かった包みを示す。
「いつも、特に中佐や朝比奈が世話になっている。その礼代わりと思って貰いたい」
千葉もまた黒の紙袋を渡そうとしている。
「またナイトメアフレームの部品とか仕入れて貰わないとだしぃ?こんな日くらい渡しとこうと思ってぇ?」
ラクシャータが差し出したのは昔を彷彿とさせるリボンの掛かった真四角の箱。
「‥‥‥‥。あ、ありがとう。戴こう、カレン、井上、千葉、‥‥ラクシャータ」
仮面の下で表情を引き攣らせながらもゼロは四人の贈り物を受け取ったのだった。
了
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作成 2008.02.14
アップ 2008.02.15
「‥‥‥‥アラン・スペイサー?」
租界の街角で、人とぶつかり転倒した(つまり勢いに負け尻もちをついた)ルルーシュは、「いてて」と言っていた口を閉ざして咄嗟に顔を上げる。
ぶつかった相手、それはどこか見覚えのあるブリタニア女性と、──扇。
扇はぶつかった相手に向かって手を伸ばしていたが、連れの呟きが耳に入るなり、手を引っ込めて連れに向きおなる、っておいおい。
「‥‥記憶が戻ったのかッ?」
ルルーシュは小声で訊ねているつもりらしい扇の声を聞きながら、自力で立ち上がり、パンパンと服に着いた埃や汚れを払う。
見られる訳にはいかない鞄に異常はなさそうで、内心ホッと息を吐いた。
その間、ルルーシュは表情には出さず、見覚えのある女性の事を思い出そうと頭を回転させていた。
「き、君。大丈夫だったかい?‥‥君は、ちぐさ‥‥いや、彼女の事を知っているんだろうか?」
扇が肩を掴まんばかりの勢いでルルーシュに迫り、ルルーシュは思わず数歩後退る。
だが不意にルルーシュの中で思い出される事が有った。
彼女はルルーシュを「アラン・スペイサー」と呼んだ、それは最近、ルルーシュが一度だけ名乗った名前でもある。
相手はブリタニア軍でナイトメアフレームに搭乗していた一人の女性軍人、確か、名前は──。
どうやら彼女は記憶喪失らしいが、いつ失われた記憶が戻らないとも限らず、その名前を、そして顔を覚えている以上迂闊な事は云わない方が無難だった。
「‥‥えっと‥‥。直接会った事はありませんよ?それに名前も知りません。‥‥ただ、たぶん、顔は見た事は有りますけど」
首を傾げ、曖昧に、何故そんな事を聞くのだろうと訝しげにする事を忘れずに、ルルーシュはそう言った。
「えッ?‥‥どこで?」
扇は訊ねておきながら少しでも肯定される事を想定していなかったのだろう、かなり驚いている。
「えっと、番組、です。‥‥少し前に、総督暗殺の容疑者が護送される番組を放送してましたよね、あれで。随分雰囲気が違ってますけど‥‥」
そう、ルルーシュが後で確認した番組に、彼女も映っていたのを覚えていたのだ。
「‥‥‥‥‥‥。沿道にいた民衆とか?」
扇はつーッと額から汗を流しながら、そっと訊ねてきた。
「いえ。ナイトメアフレームに乗っていたので、ブリタニア軍人‥‥ですよ?‥‥今日は休暇中みたいですけど。あ、おれ、そろそろ行かないと時間が‥‥」
ルルーシュは答えて扇にもわかるように腕時計に視線を向けてもう良いだろうと訴える。
「あ、ありがとう。えっと‥‥アラン、君?」
「いいえ。何故、彼女がそう言ったのかは知りませんけど、それ、おれの名前じゃないです。誰かと間違えたんじゃありませんか?‥‥じゃこれで」
ルルーシュはキッパリと否定してそう告げると、ペコリとお辞儀をして、その場から足早に立ち去った。
背中にかかる扇の声は、聞こえなかった振りを貫いた。
仮面を被っていると言うのに、ゼロの機嫌の良し悪しは、そこはかとなく伝わってくる。
良し悪し、ではない、機嫌が悪い事が、だ。
騎士団の誰もが、「ゼロの機嫌が良かった事って有っただろうか?」と何度目かの考えに嵌りこむ瞬間でもある。
ゼロはトレーラーの二階の自室ではなく、一階のソファに座って腕を組んでいる。
ただ、それだけ。
しかしゼロはやってきてこの場に座るなり、ピクリとも動いていないのだ。
これが藤堂ならば理解できるのだが、ここに座る時のゼロは書類に目を通している事が多いので普段と違う事は明らかだった。
ゼロが来る前からソファに座っていた藤堂と四聖剣。
藤堂は一度チラとゼロに視線を向けただけで、話す事がないならと放っておく事にしたようである。
だが四聖剣は、それでも気になるのか、度々ゼロに視線を向けたり、顔を見合わせたりと、集中力が乱されている様子であった。
その空間への入口付近では、騎士団幹部達が集まってなにやらヒソヒソと囁き合っている。
玉城の声が大きいので、他の、カレンや井上、杉山達が幾らヒソヒソと声を落としても、話を推察するのは容易だったりするのだが。
卜部と千葉の無言の要求を感じ取った事もあって朝比奈が立ち上がると、カレンに近づいてそっと訊ねる。
「あのさ。扇さんはどうしたの?姿が見えないみたいだけど~?」
困惑の表情を浮かべたカレンがこちらもコソリと応じた。
「まだ来てないです。来るって言ってた時間はとっくに過ぎてるんですけど‥‥」
「‥‥アレ、どうしたの?すっごく気になるんだけどー?」
「それはこっちもです。確かに扇さんなら、聞いてくれるんでしょうけど」
チラリとゼロを見ながら、コソコソ、ヒソヒソと言い合うカレンと朝比奈の言葉を聞いた玉城は両手で拳を作った。
「ヘッ、どいつもこいつも。‥‥だったらおれ様が聞いてやる。‥‥おい、ゼロ。テメッ、さっきから何怒ってやがるんだ?」
カレンと朝比奈に宣言し、二人が止めるのも聞かずにゼロにズカズカと近づいて指さしながら言いきった。
ゼロは仮面を玉城へと動かし、無言のまま元の状態へと戻る。
「かぁ~ッ。テメ、おれ様には言えねッてのか。その態度改めろッて何度も言ってるだろーがッ」
玉城の、全くもって説得力の欠片もない棚上げ発言が叫ばれる。
「うるさい。黙れ。少しは大人しく出来ないのか?」
そこはかとなく冷たい声が、ゼロの口から吐き出され、言われた玉城は元より、その場にいてその声を聞いた者すべてが凍りつく。
仮面をしているので、純粋に声だけでこの威力である。
もしも万が一鋭かったり冷ややかだったりする眼差しが一緒だったならば心臓すら止まっているだろう。
「‥‥ゼロ。みな、君の事を心配しているんだ。もう少し違う言い方は出来ないものか?」
その場で一番胆力の在る藤堂が、珍しくもフォローを入れる為に口を挟んだ。
「‥‥‥‥。心配?わたしの?‥‥何故?意味がわからないな」
ゼロは藤堂を見、しばらく黙った後、心当たりはないと訝しげに応じると立ち上がった。
「どうやら、わたしがここにいては仕事にならないようだな。‥‥自室にいる。緊急時以外は声をかけるな」
ゼロはそう言うとマントをバサリと翻して、誰もが止める間もなく二階に消えていった。
ゼロの自室の扉が閉まった後、何人もがホッと溜息を吐いた。
「ッかはぁ~‥‥。なんだありゃ。メチャクチャ怖いじゃねぇかよ。あれで、なんでもないつもりだったのか奴は」
玉城が盛大に息を吐き出してから、ようやっと悪態を吐いた。
「てか玉城ッ、あんたがキレるから」
「んだとぉ」
ここに扇がいれば、玉城とカレンの言い合いをすぐに止めるのだろうが、他のメンツではみな離れて傍観するだけである。
二人の言い合いと、ディートハルトの独り言は頭から締め出すように設定されているとしか思えない節がないでもない。
暫く、二人の喧々囂々とした言い合いだけが響いた後、待望(?)の扇がひょっこりと顔を出した。
扇は室内の様子に首を傾げた後、何が原因なのか言い合いを続けている二人に声をかけた。
「‥‥一体、何を騒いでいるんだ?」
どこかのんびりとしたいつもの扇に、玉城とカレンは瞬時に口を噤む。
次の瞬間、二人は共謀するかのように顔を見合わせた後、扇に向かって同時に声をかけた。
「「扇(ッ)」さんッ」
扇はあまりの勢いに上体を仰け反らせながら、「な、‥‥なんだ。一体?」と返した。
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作成 2008.02.09
アップ 2008.02.14
誰かが接近している。
その報が黒の騎士団の本部を駆け巡ったのは、藤堂と四聖剣が仲間になった次の日だった。
それぞれ物陰に隠れたり、窓から相手を確認しようとしたり、攻撃に適した配置に移動したりと大慌てである。
紅月カレンも、相手を見ようと窓にかかったカーテンの隙間からそっと眺めた。
そして驚いた。
「‥‥‥‥ッんで‥‥」
振り返って少し離れた場所にいた扇に向かって小さく声をかける。
「扇さん、お願い、攻撃はしないで」
「‥‥知ってる奴等なのか?カレン」
カレンは曖昧に頷く。
「女性はみんな、‥‥男は初めて見るけど‥‥」
カレンは、「だから照準を合わせるのなら男の方で」と頼んだ。
「判ってる。おれ達だって無暗に女子供を傷つけたくない。‥‥とにかく、誰かゼロに知らせて来てくれ。カレン、見つかるとマズイなら出るなよ」
扇の言葉に杉山が踵を返し、カレンは頷いた。
車椅子に座ったナナリーと、それを押す咲世子、その両脇を歩くミレイとロイドは警戒する黒の騎士団員を他所に入口から広間へと入ってから止まる。
ロイドは周囲を見渡して、とりあえず目当ての人物を探す事にしたが、それはすぐにわかった。
奥にあるナイトメアフレームの傍に立っているのが遠目にもはっきりとわかったのは白衣のせいだろう。
「あぁ、やっぱりここにいたんだね~、ラクシャータ」
自分には関係がないとナイトメアフレームの整備を続けていたラクシャータは、呼ばれて嫌そうな顔を向けてから作業を中断して出てきた。
「なぁにしにきたわけぇ」
「いやぁ~。いるとは思ってたけど、ホントにいたとはね~。でも、今回は助かったかな~」
にこにことロイドは笑顔満面で言う。
「‥‥‥‥。言っとくけどぉ。あんたなんかの頼みは聞かないからね~」
「そ~言わずにさぁ~。流石に知り合いがいないと頼み難いじゃないか~」
「あんたがそれを気にするわけぇ?」
ロイドがラクシャータと舌戦を繰り広げていると、バラバラと騎士団の団員が出てきて周囲を取り囲んだ。
カレンと扇の会話が行き届いていたのか、照準はロイドだけに向けられている。
「ラクシャータ。‥‥知り合いか?」
「んー。まぁ、以前一緒の研究所にいたってだけだけどぉ~」
「‥‥一体何をしに」
扇が「来たんだ?」と続ける前に、ミレイが一点を指さして「あーーー」と叫んだ。
ミレイはそこに見知った顔を見つけてしまったのである。
「カ、カレン??なんで貴女が黒の騎士団のカッコをしてるの?」
「知り合い?じゃあ丁度良いねぇ。ラクシャータよりは頼みがいがありそうじゃないか~」
ロイドは「あはー」と笑ってラクシャータから視線を外して、既に彼女を関心の外に置いている。
「‥‥ミレイ会長こそ、どうしてこんなところに?てかみんなして‥‥夜逃げ?‥‥まだ夜じゃないけど」
渋々出てきて扇の隣に立ったカレンは、首を傾げつつ思った事を口にする。
「あーおしい。ざ~んね~んでしたー。ちょっとしたお引越し希望中~なんだよね~」
「ロイドさん。余計なチャチャは入れないでください。‥‥えっとね。本題から言えば、キョウトまで連れて行って欲しいと頼みに来たのよ」
ミレイはロイドを黙らせてから、回りくどく言っても納得しないだろうと、ズバッと本題を切り出した。
「‥‥あの。ブリタニア人である会長が、どうしてキョウトへ?」
「‥‥‥‥。それはキョウトにつけばわかると思うわ。‥‥桐原って方とは話が付いてるって事だったから」
「‥‥そのメンツで、あいつの姿がないのが一番不自然なんだけど、どうしたのあいつ」
「一人で先行したらしいわ。ただ、移動中何かあると困るから護衛をつけたいとかって話はしていたのよ」
「‥‥その護衛が黒の騎士団?それってちょっとふざけてない?」
「あは~。でも黒の騎士団って、弱者の味方、なんだよね~。助けを求めてやって来た弱者を追い出す事はまさかしないと思うけども~?」
「てっめぇ。都合の良い時だけ弱者気取る気か?」
「‥‥玉城、あんたはちょっと黙ってて。‥‥てか、扇さん。外野がうるさくて説明ちゃんと聞けないです」
外野がアチコチで交わし合っている囁き声が気になって仕方がないカレンが、ついでに扇に泣きついたところで、バサリと布を翻す音が聞こえた。
「なんだ、この集団は。侵入者となごんで井戸端会議か?害がなければ、持ち場に戻って仕事しろ」
「ゼロッ。てめぇが遅いからこーなってるんだろーがよ。ブリタニア人が迷い込んだんだよ。どーする気だ?」
玉城が早速ゼロに突っかかる。
玉城が吼えるのは何時もの事と、あっさり無視したゼロは、井戸端会議の中心に向かって声をかけた。
「扇、カレン、ディートハルト、ラクシャータ。‥‥藤堂に四聖剣、以外は解散。カレン、四人を第二会議室へ通せ」
「えッ‥‥、わ、わかりました。‥‥会長、とりあえず大人しく付いてきてください」
現れて説明も求めず指示を出したゼロに驚いたカレンだが、肯いてから、小声でミレイに囁いた。
ミレイが頷いたのを確認してから先頭に立って歩き出した。
「呼ばれた者も、第二へ入ってくれ。‥‥‥‥全く、世の中狭すぎるな」
最後に呟くように言ったゼロの言葉は誰の耳にも届かなかったけれど。
第二会議室の奥に不法侵入者四名を通し、扉側に各々居場所を決めた騎士団員。
「‥‥お前達は、ナナリー・ランペルージ、ミレイ・アッシュフォード、ロイド・アスプルンド、篠崎咲世子に間違いないか?」
最初に口を開いたのは、ゼロだった。
呼ばれた四人も、騎士団の団員も一様に驚く。
「ゼロ、何故彼等の名前を知っているんだ?」
扇が四人とゼロとを見比べて、混乱しながらも訊ねる。
しかしゼロは、扇を一瞥すると、無言のまま再び四人に視線を戻した。
「おおあたり~。どうしてわかったのかなぁ?」
「桐原公から連絡が有った。キョウトまでの護衛を黒の騎士団に頼みたい、とな。‥‥どうやって接触するか、検討していたところだ」
相変わらずの口調でゼロに尋ねるロイドに、ゼロは淡々と事実を述べた。
「‥‥ならゼロ。このメンツを選んだのは何故なんだ?」
扇は尚も疑問をぶつける。
「‥‥不確定要素は除いておきたいからだ。顔見知りのようだな?‥‥ラクシャータ、カレン、‥‥それにディートハルト」
ゼロは言って、三人に視線を巡らせるが、呼ばれた三人は驚く。
ゼロが来る前に、ある程度の会話をしていたラクシャータとカレンはともかく、ディートハルトは一同の視線を浴びてしまう羽目に陥っていた。
「あー、良くご存じでしたね、ゼロ。‥‥そちらの、篠崎咲世子さんとは面識がありますが‥‥何故?」
ディートハルトは、すんなりとゼロの言葉を肯定してのけて、悪びれる事なく、何故知っていたのかと逆に訊ねていた。
「貴様が各所にスパイモドキを置いているのは知っている。学校なんぞに置いて何を探っていたのかは知らないがな」
ゼロは質問が返る事を予測していたように、スラスラと応じた。
慌てたのはミレイである。
「ちょっ、ちょっと待って。咲世子さんが来たのって、ゼロや黒の騎士団が現れる、ずっとずっと前なのよ?そんな前から一体、何を探っていたと言うの?」
ミレイの言葉は、ディートハルトと咲世子に向けられた言葉だった。
「良家子息の通う学校では、ドラマが生まれやすいのですよ。彼女には、目についた情報の提供を頼んでいた」
「初めは学内新聞等を流しておりましたが、‥‥途中から情報を『枢木スザク』に関する事と変更されましたので」
咲世子は素直に認めた。
「まぁ。では、時々お書きになっていたお手紙は恋人の方へのものではなく、こちらの方に宛てられていたのですか?」
驚いた声音で、しかし残念そうな響きも載せてナナリーが言う。
「‥‥ディートハルト。貴様の探っていたモノは、アッシュフォード学園そのものか、アッシュフォードの家の方だったのだな」
断定的に言いきったゼロに、流石のディートハルトも驚き、いや驚愕に表情を崩した。
「良くお分かりになりましたね、ゼロ。‥‥わたしは、第三世代のナイトメアフレームが今後どうなって行くのか知りたかったのですが」
ディートハルトのあくまで悪びれない言葉に、ゼロは溜息を吐いて、カレンに声をかける。
「カレン。お前は確かアッシュフォード学園に在籍していたな?」
「は、はい。ミレイ会長とは生徒会で一緒です。生徒会室のある建物に残りの二人がいて‥‥。そっちのロイドって人は知りません」
「ならば、ラクシャータ」
「えっとぉ。そっちの男はプリン伯爵って言う、嫌ぁな奴よぉ。以前同じ研究所にいた事が有ったけど、ホント最悪ぅ」
「ちょっと~、ラクシャータ。何もそこまで言わなくても良いだろう?そ~れ~にぃ、ぼくはそんな名前じゃないって何度言ったらわかるかなぁ」
「なぁに~?あの時はこっちも迷惑していたんだからねぇ」
「‥‥‥‥。つまりかつての同僚か‥‥」
再び言い合いを始めてしまったロイドとラクシャータにゼロは半ば強引に言葉を割り込ませていた。
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作成 2008.01.13
アップ 2008.02.13
※「17話の後」の続きです。
その日、生徒会室には会長のミレイと副会長のルルーシュしかいなかった。
リヴァルは他校との打ち合わせにニーナを連れて出掛け、シャーリーは水泳部へ、スザクは軍、カレンは休み‥‥と都合が付かなかったのだ。
先に来ていたミレイが、珍しく一人ポツンとする事もなくぼんやりしているところへ、ルルーシュがやって来たのだ。
少々暇を持て余していたミレイは、早速ルルーシュをからかって遊ぼうと思い振り返ったのだが、瞬時に固まった。
普段のルルーシュからは考えられない程、沈痛な表情を見せていたからで‥‥。
「‥‥‥‥どう、なさいました。ルルーシュ様‥‥」
と、思わず呟いてしまったほどである。
ルルーシュは苦笑を洩らす。
「‥‥ミレイ。今まで世話になった。書類はここにある。おれは、本国へ転校する事にしておいてくれ。‥‥ナナリーと共に」
ミレイは驚きに目を見張る。
「なッ‥‥一体、何が‥‥まさかッ、見つかって‥‥?」
「まだ、今は見つかっていないだろう。‥‥だが、最早時間の問題だ。‥‥おれは先に消える。‥‥ミレイには、ナナリーを頼みたい」
「‥‥しておいてくれ、という事は、実際には違う、という事ですね?それは?わたしは‥‥貴方についていきたい」
ミレイの頭には、アッシュフォードの家の事も、学園の事も、学友の事も有ったけれど、それでもと性急に訊ねていた。
「‥‥良いのか?今まで良くしてくれたアッシュフォードにも、迷惑はかけたくないのだが」
「構いません。わたしは貴方を選びます。それは祖父にも既に伝えてある事」
「‥‥では、これを。確か、まだ婚約は解消していないな?‥‥ロイドとは」
ルルーシュの言葉に、ミレイは顔を顰める。
「‥‥それって、もしかして、わたし、ダシにされてました?」
「さぁな、それはロイドに聞け。‥‥託として、『最後のチャンス、返事は即答』‥‥だな。頷いたならばここへ連れて来てくれ。待たせておく」
「待たせておく?‥‥つまりルルーシュ様はいらっしゃらない?」
「おれには他にする事がある。‥‥ナナリーを無事キョウトへ届けて欲しいんだ」
「‥‥わたしが貴方の騎士になりたがっていたのは知っているでしょう?貴方の大切なナナリー様の事は任せてください。‥‥ただ、また会えますね?」
「‥‥約束しよう。‥‥ナナリーを頼む」
「イエス、ユアマジェスティ」
満面の笑みで、ミレイは応じた。
特派のトレーラーを覗くと、以前も対応に出てきていた確かセシルと言う女性士官が顔を出した。
「あら、貴女、ロイドさんの婚約者の‥‥?」
「は、はい。あの、ロイド伯爵、いらっしゃいますか?」
「ちょっと待ってくださいね。‥‥ロイドさん、お客様ですよ~」
背後を振り返ったセシルが、トレーラー内に向かって声を荒げた。
「ん~。ぼくに~?上がって貰って、セシルくん」
どこか上の空で返って来た声に、セシルは振り返り様にっこりと無理やり笑顔を作っているような顔で対応した。
「入ってください。危険ですから、コード類には触れないようにお願いしますね」
言われて頷くと、セシルの後ろを大人しく付いていき、ロイドの元へとたどり着いた。
隣にいるのは枢木スザクだ。
「‥‥あれ、ミレイ会長?」
スザクの驚いた声に、ロイドが顔を上げて振り向いた。
「おやぁ~。これはこれはー、婚約者殿。今日はどーしたのかなぁ?」
「‥‥今日はこれを届けたくて参りました。ロイド伯爵。出来れば早急に目を通して頂き、返答を、との事ですので‥‥」
「んー」
ロイドは生返事を返した後、わたしの差し出した手紙を取るでもなく、手元の書類へと視線を移した。
「ロイドさんッ」
セシルの声に、やっとロイドは少し慌てながら手紙を受け取った。
「怖いな~セシルくんは。‥‥んーどれどれ。‥‥‥‥」
手紙を開いて一読していたロイドは、ピタリと動きを止めた。
「ロ、ロイド‥‥さん?」
動こうとしないロイドに、セシルが訝しげな声をかけた途端、ロイドは爆笑した。
「あー‥‥あはははははは~。おーけー、おーけー」
笑いながら立ち上がり、それでもお腹を押さえながら、セシルとスザクに視線を向けた。
「セシルくん、後は任せるね~。スザクくんのデータ取ってあげて。ぼくは、これからデートだから~」
「ちょっ、‥‥本気ですか?」
手紙に、何が書かれていたのかは知らないけれど、突然デートなどと言われては驚くしかないと、ミレイは思うけれど口は勝手に動くモノ。
「本気本気~。善は急げ~。それに二人はとっても優秀~。さぁさ。でましょでましょ♪」
ミレイの背中を押すようにトレーラーから出、その後は腕を引っ張るようにしてその場を後にした。
トレーラーの外まで見送りに出たセシルとスザクは、何も言えないまま二人を見送ったのだった。
「‥‥で?説明してくれるかな~。なんで、君がこれをぼくに持って来たのか~を~」
ロイドに問われてミレイは首を傾げたので、ロイドは手紙をミレイに見せてやる。
『祖国を裏切る気はあるか?』
文面を見て、ミレイは絶句する。
「‥‥‥‥これは?」
ロイドが特派を出てきてここにいる以上、この文面に賛同したという証なのだが。
「で?我が君はどこ~?」
ロイドは嬉しそうに言っているものの、その目は笑っていない。
ミレイはもう一通の手紙を差し出した。
「ここまで来たら渡すように頼まれていたの。確かに渡したわよ」
「あは~。もしかしてぼく達、同じ立場~?だとすると、婚約破棄だね~。それとも連絡取り易いように暫くこのままかな~?」
「‥‥なら、貴方も騎士に立候補中?」
「そーだよ~。しかし、我が君があれ程大切にしていた妹姫を任されるなんて‥‥。これは気が抜けないね~」
「立候補中」という言葉に否定しないまま、「我が君」と言い切ったロイドは、渡されたばかりの手紙をミレイに差し出した。
訝しげに眉を寄せてから、ミレイは受け取って文面に目を通す。
『妹をキョウトに預ける手はずを整える。最も確実なのは「黒の騎士団」経由だと判断した。
その後、キョウトの桐原を経由して皇の元へ預けられたし。‥‥‥‥頼んだ』
「‥‥‥‥そっけないですね、これ‥‥」
ミレイは学園での様子を知る分余計にそっけなく感じてしまう。
呆れながら手紙をロイドに返すと、ロイドはおもむろにライターを取り出して手紙に火をつけた。
「なッ、‥‥何をしてらっしゃるんですか?」
「んー?危ない文面の手紙残しておくわけにはいかないからね~。万が一落としたりしたら大変だし~」
完全に紙を燃やし、火が消えるまでを目で追っていたロイドは、ミレイに視線を戻した。
「で?これからお迎えに?それとも日を改めてかな~?」
問われてミレイは腕時計に視線を落とす。
「そろそろ到着の時間だわ。ここで待ち合わせをしているのよ」
ミレイは言って周囲を見渡した。
するとそれを待っていたかのように、車椅子に乗った少女とそれを押す女性が姿を現した。
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作成 2008.01.12
アップ 2008.02.11
「そこの団員、126番」
スザクは中庭でルルーシュを待っていると、名指し(番号指し)で呼ばれて軍人の習性上、振り返って直立した。
そこにはゼロが一人。
ぅ、嫌だな、なんか‥‥ゼロを一人二人と数える日が来るとは‥‥とスザクの脳裏に要らぬ事が駆け巡ったりしていたが。
「このわたし、7番のゼロが命じる。126番はこれより校門へ急行し、外に展開するブリタニア軍に対し手を振って戻って来る事。それを十回繰り返せ」
「ゼロ」の声はそう命じる。
スザクにとってはあまりにも聞き覚えのある、本物の「ゼロ」ッぽい声に、驚きを隠せない。
大体、最初の命令を言った放送の時からそう思っていたのだけど、とスザクは7番のゼッケンをつけた「ゼロ」を凝視する。
なのにルルーシュに結び付けようとはしないスザクは抜けているのか天然なのか──げに、恐ろしきは先入観。
「‥‥どうした?団員だと言うのに、わたしの命令には従えない、と?」
「‥‥本当に生徒の変装?」
スザクは思わず訊ねてしまう。
「‥‥‥‥。当たり前だ。こんなところに本当のゼロが来ると?言ったはずだ。わたしは7番のゼロだと。速やかに命令を実行に移せ」
「‥‥了解。えっと門へ行って手を振る‥‥を十回だったね。じゃあ行ってくる」
応じると腑に落ちないものを感じながらもスザクは駆け出して行った。
中庭が見渡せる教室の一室で、ニーナとシャーリーがその状況を見下ろしていた。
「ねぇねぇシャーリー。あの7番のゼロって誰かな?」
「んー‥‥。ミレイ会長?それか3年の誰かかも。スザク君、面喰らってたね。あれって‥‥」
「うん、減点対象、かなぁ?でも、おかしな事命じていたよね」
「馬鹿にして~とかって軍の人に怒られないかなぁ?‥‥会長に報告しとく?」
「大丈夫、だと思うけど‥‥。でも、7番のゼロは結構点数稼げるね、コレって」
「そうね。さっきの放送も点数高いし、今のやり取りもいけてるし。結構上位に喰い込みそう」
ニーナとシャーリーは顔を見合せてどちらからともなく笑みを見せた。
「んー?」
学園の門を映していたモニターを見るともなしに見ていたロイドは、不意の変化に声を上げた。
「どうかしたんですか?ロイドさん?」
セシルに尋ねられてモニターを指さす。
「これ。誰か近づいて来たよ。‥‥脱走かなぁ?」
促されて見たセシルは、モニターの中に黒の騎士団の姿をした人物を見つけた。
軽く身長よりも高い門の上に飛び乗ったその団員は、キョロキョロと周囲を見渡すといきなり手を振った。
「何かの合図かな~?」
「っていうかロイドさん。コレ、スザク君ですよ?」
「知ってるよ~。パーツくらいの身体能力がないと、あれに飛び乗るなんてできないしぃ?」
スザク扮する団員は、ひとしきり手を振り終えると門から飛び降りて駆け去ろうとして少し行ったところで立ち止まった。
パラパラとブリタニア軍人が数名外から門に近づいて、どうやら呼びとめたらしい。
「‥‥わたし達も行った方が良くないですか?」
「ん~。‥‥流石に生徒に無体な事はしないでしょ~?」
ラクシャータとの取り決め通り、大人しくしているつもりのロイドは、のらりとかわした。
そのラクシャータはというと、後方支援として、出撃している騎士団に同行していた。
作戦開始まではまだ時間が有る事もあって、ラクシャータはのんびりとソファに腰を降ろしている。
『あのー』
そこへ、前線で待機している月下から朝比奈の声が回ってきた。
「んー?ど~かしたぁ?なんか、トラブルぅ?」
ラクシャータは気のない返事を返す。
『じゃないですけどね~。ちょっと気になって~。紅月さんのせいだっていう、ゼロとの会話。アレ、なんだったんですか~?』
ゼロはラクシャータの名前を呼んだだけで、かなり嫌がっていたラクシャータの事が、朝比奈は気になって仕方がないらしい。
このタイミングで訊ねたのは、このままでは任務に支障を来しかねないとでも思ったのだろう。
「‥‥‥‥‥‥答える必要はないと思うけどぉ~」
ラクシャータはかなり言い渋った後、そんな返答を返した。
『だけど~。ゼロは「あれが出て来るとややこしい事にしかならない」とかって言ってましたしー?』
「だからぁ、それは出てこないように言っといたしぃ?」
ラクシャータはしつこい朝比奈にうんざりしながらも応じる。
『‥‥誰に?』
聞いていたのか、ポツリと千葉の声が鋭く飛び込んで来た。
「ないしょ~?知りたいならゼロに聞いて~。藤堂~、あんたの部下でしょぉ~?黙らせて頂戴ぃ?」
『‥‥‥‥後にしろ』
『『わかりました』』
やめろと言わなかった藤堂に、良いお返事を返した朝比奈と千葉はそのまま沈黙する。
「後で、ゼロに尋ねなさいね~」
含みを持たせた藤堂の言葉を気にしながらも、ラクシャータは逃げの一手を打ったのだった。
指示通り、手を振って戻ろうとしたところで、スザクは背後からの制止の声に立ち止まる。
振りかえるとバラバラとブリタニア兵が数名近づいてきていた。
スザクはバイザーの下で眉を顰めながら門のところへと戻って行く。
「あの、‥‥何か?」
「今の行動を説明したまへ。どこへ合図した?」
高飛車な言い様よりも、その内容に、スザクは警戒する。
「いえ、どこへも合図は送っていません」
「では、一体なんだったのだ?」
「‥‥単に手を振っていただけで‥‥それ以外にはなにも‥‥」
これが自分で良かったとスザクは思う。
他の一般の学生や、ましてやルルーシュだったらと考えるとゾッとするものがあるが、スザクならば同じ軍人だし対処のしようもあると少し安堵したのだ。
「学年と名前を。本当に学生なんだろうな?」
「自分は‥‥。アッシュフォード学園2年の枢木スザク、です」
「枢木スザク?‥‥まさか」
「第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア様の騎士にして、特別派遣嚮導技術部に所属する少佐です。軍は学園に関わらないはずではなかったのですか?」
「名誉の分際で‥‥。チッ」
ボソリと小声で吐き捨てるように呟いた軍人は、手で行くように合図を送る。
「‥‥自分は同じ事を後9回、する事になっている。また来るのでそのつもりで」
スザクは団員の格好のままで、ブリタニア軍人に対して注進するというスパイ行為にも見える動きをすると踵を返して駈け出した。
ちなみに、採点者がこれを見ていれば、減点対象と言う事になるだろう、恐らく。
走りながら、今度7番のゼロを見かけたらこんな指示を出さないように注意しようと心にとめる事を、スザクは忘れなかった。
カレンは暫くその場に留まっていたが、ルルーシュらしい団員が来る気配がなかったので、移動しようと踵を返す。
そこに他の知らない団員がいたので声をかける事にする。
「そこの」
団員2名がカレンを見たので、先を続ける。
「7番のゼロが命じる。‥‥グランドを2周走って来てくれ」
「ぅわ。‥‥あの、せめて1周になりませんか?さっき走って来たばっかりなんですけど」
「‥‥そうだな。では1周で」
「ありがとう、7番。それじゃあ」
走り去る団員を見送りながら、カレンは驚いている。
そして慌てて止めるスイッチを押した。
実はカレンは先程から一度も自分の声で命令を出していないのだ。
全ては事前に本物のゼロに吹き込んで貰っていたテープを流していたに過ぎない。
なのに、何故ここまで会話が成立するのかと、カレンは驚いていたのだ。
スザクとのやり取りでさえ、ゼロがスザクの性格をそれなりに把握しているから、と言われていたからまだ驚きも少しで済んでいたというのに。
偶然会った、ゼロにとっては会った事も見た事すらない相手に対してここまでとは、驚くなと言う方が無理なのだ。
今度会った時に、改めてお礼を言おうと決めたカレンは、次の獲物(団員に扮した生徒)を求めて移動を開始した。
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作成 2008.01.28
アップ 2008.02.09