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コードギアスの二次創作サイト。 ルルーシュ(ゼロ)至上主義です。 管理人は闇月夜 零です。
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ゼロ(ルル)至上主義です。
騎士団多め。
表現力がなく×ではなく+どまり多数。
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その日、最後の授業をカレンはサボる。
生徒会長のミレイと副会長のルルーシュには既に報告、承認済みの話であった。
一足早く着替えを済ませたカレンは、ソロリソロリと誰にも出会わないように注意しながらミレイの待つ放送室へと向かった。
「‥‥カレン?」
放送室への扉を開くと、中からやはりゼロの衣装を着たミレイが声をかけてきた。
「あ、はい。そうです‥‥が?」
「へ~、似合うじゃない。‥‥じゃ、時間も頃合いだし、始めましょうか」
こうして放送室はゼロ二人に占拠されたのだった。

ピ~ンポ~ンパ~ンポ~ン。
『アッシュフォード学園の諸君。わたしは生徒会長のミレイ・アッシュフォードです。‥‥ただいまより、イベント「黒の騎士団」を開催します』
最後の授業時間も残り十数分と言う段になって、唐突にそんな校内放送が響き渡った。
ルルーシュは、溜息を吐くと、教科書やノートを鞄にしまい始めた、──もう授業は終わるのだ。
教師も、諦めに近い笑みを浮かべている。
『各自、所定の場所に移動の後、着替えてね~。チャイムと同時に命令が飛ぶわよ~』
教室のあちこちで椅子を引くガタガタと言う音が響き、教師がいるのに授業中の教室を飛び出して行く生徒達。
「ルル。おれ達も急ごーぜ?間に合わなくなっちまうぞ」
リヴァルがまだ座ったままのルルーシュに声をかける。
「あぁ、あ。先に行っていてくれ、リヴァル。おれは着替える前にまだする事があるからな。何、開始までには間に合わせるから」
「絶対だぞ~?」
リヴァルは念を押すと、ルルーシュを残して所定の場所へと駆け出して行った。
ルルーシュは再び溜息を吐くと、ゆったりと歩きだした。

「じゃ、ここは任せるわね~」
放送を切ったミレイは、そう言うとカレンの返事も待たずに放送室を出て行ってしまう。
これから審査組のシャーリーとニーナの様子を見に行く予定だった。
カレンはミレイの消えた扉を見て、仮面の下で本性の笑みを浮かべると、そのまま扉に鍵を掛けた。
「後は、スザクの居所を掴んで、指示を出すのと‥‥、みんなを巧く誘導しないといけないわね」
カレンは、改めてマイクの前に座ると、今後の予定を挙げながら、チャイムの鳴るのを待ち望んでいた。

ルルーシュは着替えを終えた後、誰も来ない場所に身を隠していた。
手元には携帯と通信機、それに集音機にマイクなど。
今は通信機が生きていた。
『こちら扇。みんな所定の位置に着いた。‥‥本当にゼロが参加しなくても平気なのか?この作戦‥‥』
「あぁ。問題ない。藤堂の指揮で条件はクリアされる」
ゼロの口調で応じてルルーシュはそっと息を吐き出した。
どうして扇はこうも自信が足りないのだろうとは何度思った事なのか、既に両手の指では足りないだろう。
「目的を達成したら速やかに引き上げればそれで良い。‥‥それは扇、お前も分かっているだろう?」
『あ、‥‥ああ、そうだな。わかった。‥‥えと、ゼロは今、どこに‥‥?』
「租界だ。わたしにもするべき事としておきたい事があるからな。‥‥ッとにかくそちらは任せた。‥‥切るぞ」
ルルーシュが少し慌てて通信を切った直後、学園のチャイムが音高く響いた。
流石にこれを聞かれるわけにはいかなかったルルーシュはホッと息を吐き出したのだった。

『わたしはゼロ。7番のゼロだ。学園内にいる、全ての騎士団団員に告ぐ。速やかに校舎から外へ出たまへ。これは命令である』
チャイムの直後、「ゼロ」の声がスピーカーから溢れ返った。

「‥‥これで、団員姿の生徒全員が一旦外へ出なければならなくなったな」
ルルーシュは「ゼロ」の声を聞いてほくそ笑むと携帯を掛ける。
『もしもし?ルルーシュ?どうしたの?』
「スザクか?今何処だ?」
『今?放送の通り外に出てるけど?‥‥えっと、中庭の方』
「そうか。これから合流したいから待ってて貰えるか?‥‥勿論、新たな指示がなければ、だけど」
『うん、わかった。待ってるよ。指示が有ってもまた戻るから、いなくても待ってて欲しいな』
「わかった。そうする。じゃあ中庭で」
ルルーシュは通話を切ると今度はカレンへコールする。

『はい。‥‥カレンだけど』
「おれだ。ルルーシュだ。約束の件だが」
『‥‥あんた、本気だったの?』
「そう言っただろう?ゼッケンの番号は既に教えたな。現在の居場所は中庭だ」
『‥‥どうして教えるの?』
「約束だからな。‥‥一応待ち合わせをしているからおれも行く予定だが、おれには命じるなよ?」
『え、ええ。わかってるわ。‥‥ありがとう』
「‥‥もう切るぞ」
言うなり通話を切ったルルーシュは、そのまま携帯の電源も切ってしまう。
リヴァルやミレイ辺りからコールがかかるのはいただけないからだ。
「‥‥カレンはうまくやるかな?」
ルルーシュは独り呟く。
今の放送で、採点はカレンが一歩リードしているはずだ。
このまま指示通り動いていれば、最優秀になるのも難しくはないだろうが、何が有るかわからないのでまだ油断は出来ないだろう。

携帯が鳴り、相手を見て予想通りだったと言うのに、カレンは少し躊躇ってから通話ボタンを押した。
「はい。‥‥カレンだけど」
『おれだ。ルルーシュだ。約束の件だが』
変わらない声音で言う相手に、カレンは眉を寄せる。
「‥‥あんた、本気だったの?」
変装している事も手伝って、カレンの猫はすっかり退散してしまっていた。
『そう言っただろう?ゼッケンの番号は既に教えたな。現在の居場所は中庭だ』
淡々と、事務的に言う相手に、カレンの中で疑心は膨れる。
曲がりなりにも親友の事を、イベントとは言え、何をするかもハッキリ言っていないというのに、こうも教える事が出来るのだろうか、と。
「‥‥どうして教えるの?」
『約束だからな。‥‥一応待ち合わせをしているからおれも行く予定だが、おれには命じるなよ?』
冗談めかして言う相手に、チャメッ気が見えた気がして、カレンはほんの少しホッとする。
「え、ええ。わかってるわ。‥‥ありがとう」
『‥‥もう切るぞ』
そっけない言葉と共に切れた通話に、もしも会ったら何か命じてやろうかしらとカレンは思った。
「‥‥とにかく、中庭ね」
携帯をしまったカレンは、そう呟くと駈け出した。


ロイドは、それはそれはふか~い溜息を吐いた。
「‥‥どうしたんです?ロイドさん」
それに気づいたセシルが声を掛ける。
「どーしたって言われてもねぇ?どうしてパーツもないのに、ぼくのランスも動かないのに、ぼく達がこんなところでジッとしてないといけないのかなぁと」
ロイドの愚痴にセシルは呆れる。
「‥‥どうしてって‥‥。ロイドさんでしょう?スザク君に無茶な頼み事したの。ランスロットが起動できないのも。それに一応、これも軍務、ですよ?」
「軍務、ねぇ?なんだって学園を完全包囲するのが軍務になるんだか」
トレーラーのモニターにはアッシュフォード学園の門が映し出されていたり、周囲を囲んでいる軍を映しているモニターも有ったりする。
「でも、いかにも騎士団に来てくださいッて言っているようなイベントですから、警戒した方が良いと判断されたんでしょう?」
「普通はイベント自体を中止するとか、そっちに動くんじゃないかなぁ~?」
「ですから、ロイドさんにそれを言う資格はないですって」
見えない位置にナイトメアフレームさえ配備しているのを知っているので、余り強く出れないセシルは、それでもロイドに注意するのだった。

───────────
作成 2008.01.27 
アップ 2008.02.03 

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生徒会室の前でカレンはミレイと行き違う。
「ミレイ会長?‥‥どちらへ?」
「ルルちゃんったら人遣い荒くって~。もぉ~やんなっちゃんわ~」
まずは大抵おどけた愚痴が零される。
「会長。自業自得って言葉覚えたほうが良いですよ。急ぎなんですから、さっさと行って来て下さい。‥カレン、来たなら入ってくれ」
部屋の中からルルーシュのかなり不機嫌そうな声が飛び出してくる。
「あちゃ~。じゃ、後はよろしく~」
結局ミレイはカレンの問いに答えることなく足早に立ち去っていった。
カレンは少しその背を見つめていたが、仕方なく生徒会室に入る。
みんなそれぞれ出払っていて、机に書類を満載にしたルルーシュだけが室内にいた。
‥‥これを手伝うくらいなら、少しくらい人遣いが悪かったとしても、あちこち動き回る方が良いかなと思う量である。
しかし、この量の書類仕事をしながら、生徒会メンバーや実行委員に指示を出しまくるとは、凄い事ではないかとカレンは少しルルーシュを認めた。
もっともカレンがここに来たのは、準備を手伝う為というよりは、とある事を聞く為だったりする。
カリカリと物凄い速さで何かを書き付けるルルーシュに声を掛ける雰囲気でもなく、暫く待っているとピタリと音が止まってルルーシュは顔を上げた。
「採点をしやすくする為、ゼッケンを採用する事になった。そこにゼロ用のゼッケンがある。カレンが預かっていて、当日ゼロ役に配ってくれ」
桐原公経由でゼッケンの話を既に知っていたカレンは、内心ほくそ笑みながら聞いていたが、ルルーシュの最後の言葉に驚く。
「‥‥良いの?誰がどの番号か、把握してなくて?」
「生徒会だけが知っていると不公平だろう?特にゼロ役は指示を出すほうだからな。知っていれば不正が起こりやすい」
そろりと尋ねるが、ルルーシュは軽く笑って肯定した。
「‥‥なら、‥‥団員の方は?」
カレンがさりげなく本題を切り出す。
「会長の指示でおれが管理している。‥‥言っておくが、おれのは教えないぞ?」
さらりと暴露したルルーシュがにやりと笑って付け加えた。
「だッ、誰があんたのなんか知りたいって言ったのよ」
カレンは頭に血が昇って思わず、素のままに怒鳴り返してしまい、バツの悪そうな表情で視線を逸らした。
「おれのなんか、‥‥か。誰か知りたい奴でもいるのか?手伝うなら一人くらいは教えないでもないが‥‥。勿論、おれ以外でな」
今のルルーシュにとって、人手を確保する事が最優先課題だった為、ついついそんな言い方をしてしまう。
カレンは迷って机の書類に目を向ける。
「‥‥手伝い‥って、それ?」
「そうだが?‥‥流石に会長達の手前、カレンにあちこち駆け回れ‥‥とは言えないからな」
これでも譲歩しているんだとばかりのルルーシュの言葉に、カレンは「駆け回る方が良いに決まってるじゃない~」と内心叫びながらも頷いた。
会長達を出されれば、例えルルーシュには本性が知られているとはいえ、病弱設定である以上、頷く以外の手は残されていないからだ。
「それは助かる。‥‥で?誰が良い?」
「‥‥あ、じゃあ‥‥枢木君を」
カレンは知りたい事でも有った事だしと、それ以上深く考えずにポロリと零す。
すると、ルルーシュは数瞬カレンを凝視した後、それはそれは人の悪い笑みを浮かべたのだ。
「へぇ~。カレンお嬢様のお気に入りはスザクだったのか。スザクに教えたら喜びそうだな」
「バッ、‥‥ちょ‥‥ちが‥‥。何言ってるのよ。誰もそんなこと言ってないじゃないの」
カレンは言われた意味に気づいて顔を真っ赤に染めて反論する。
だいたい、枢木スザクは敵なのだから、そんな邪推は迷惑以外のなにものでもない。
「これを並び替えて、こっちは集計、それとこれの統計を取ってくれ。終わったらまだあるから声をかけてくれれば良い」
トン、トサ、トスと紙の束が目の前に置かれるのをカレンは口をパクつかせながら見ているしかなかった。
カレンは声が出せない程驚いていたので、「こ、こいつ、なんだってこう変わり身が早いのよッ」と内心で思いっきり毒づいておく。
「‥‥‥‥どうした?手伝うんだろう?‥‥それとも気分が悪くなったのか?カレンお嬢様?」
「‥‥‥‥。やれば良いんでしょう、やれば」
動かないカレンに、ルルーシュは「一旦引き受けておいてやめるのか?」と言いたげな視線を向ける。
勿論、そんな視線を投げられたからには、カレンに引き受けると言う選択肢しか残されてはいない。
椅子に座ると、はがれかけた病弱設定をなんとかくっつけ直して、静々と作業をやり始めたのだった。

ミレイは途中まだ大量の書類を抱えて行きすぎようとするスザクと遭遇する。
「あれ、スザク君。あの後一度戻ったの?」
ミレイが生徒会室に入った時に出ようとするスザクの持っていた書類の量と同じくらいだったから、思わず声をかけていた。
「あ、会長さん。‥‥いえ、まだです。これは行った先で貰った物もあるので、減らなくて‥‥」
体力馬鹿と称されるスザクにとって、重さは大した事がなくても、いつ紙が飛ばないか、落ちないかと結構神経を使うので疲れてきている。
「大変ね~。軍の仕事は良いの?」
「あ、はい。このイベントが終わるまでは‥‥。何故かみんな、協力的で‥‥」
「豪華賞品に魅かれたかな~?」
ミレイは本当にに~っこりと笑う。
「‥‥えーと。会長さん。ところで、騎士団側はどうなったんですか?」
「あぁ。とりあえず打診はしておいたわよ。返答待ちってところかしら。でも、多分大丈夫だから安心していーわよ~」
お~ほっほと高らかにミレイは得意満面に笑って見せた。
「そうですか。一応、軍の方でも、学園の周辺に配備すると言う事になっているらしいんですけど‥‥来ないに越したことはないですからね」
「そ~ね~。‥‥あ、急いで戻らないとルルちゃんに叱られちゃうわ。スザク君も頑張ってね」
「は、はい。では、後で」
呼びとめたのはミレイだったが、そう言うと、二人は慌ただしく自分の仕事に戻って行った。


「は~い、もしもし~。誰かな~?」
ロイドは非通知の電話に出るとそう尋ねる。
『‥‥‥‥相変わらずね~、プリン伯爵ぅ?』
「げ、ラクシャータ。‥‥ど~したんだぃ?珍しい事もあるね~」
それまでそれなりに見た目機嫌の良さそうだったロイドは、眉を顰めて一気に不機嫌モードに突入してしまう。
『わたしだって、あんたなんかに連絡取りたいとは思わなかったんだけどね~。仕方なく~ってやつ~?』
「‥‥それで~?一体なんの用事なんだぃ?」
『ちょっとね~。あんたの名前を小耳に挟んじゃったから~?あんた白兜のデヴァイサーにおかしな指示を出したんだって~?』
「‥‥ハッ、まさか、君。そっちでも似たような事考えてるんじゃないだろうね?」
『なんの話~?』
「‥‥‥‥。むぅ。良いじゃないか少しくらい。君は常に傍にいられるようだけど、ぼくは現在敵側に立っているんだし~」
『‥‥‥‥‥‥。だから、プリン伯爵?一体何の話かって聞いてるじゃないの~?』
「へ?‥‥‥もしかして、君。知らない?全然?まったく?」
『わからないからき~てるんじゃないのさ~。だから、一体なんの話なわけ~?』
「‥‥‥‥。あは~。別に~。それならそれでいーんだ。‥‥それで?用事は?」
『ん~。「あれが出て来るとややこしい事にしかならない」って言うしぃ?大人しくしててくれるわよね~?プリン伯爵ぅ?』
「‥‥‥‥ラクシャータ、君ね?ホントのホントはわかってるのかぃ?それともわかっていないのかぃ?一体どっち?」
『またわけのわからない事を‥‥。返事は~?』
「‥‥仕方がないね~。その日だけだよ~。その日だけ、ぼくのランスのメンテナンスをエラーにしとくから。それだけだからね~?」
『ま、それでいーんじゃないかなぁ~?‥‥じゃ、ね~プリン伯爵』
ガチャン、ツー、ツー。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。一体どっちなんだぃ?ラクシャータ?」
切れた電話を眺めて、ロイドは切なげにポツリと呟いたとか。

───────────
作成 2008.01.26 
アップ 2008.02.02 

再び座るゼロに、視線が集中する。
ディートハルトとラクシャータの表情が引きつっているのは、笑いの余韻が中途半端に残ったせいだろう。
「‥‥カレン。どこまで説明した?」
「あ、はい。イベントの名前と、簡単な内容です。まだ本決まりにはなっていなかったので、触りだけですけど‥‥。あの、ゼロッ」
「なんだ?」
「ゼロの機嫌が悪いのは‥‥‥。この話のせいですか?」
カレンは思い切って尋ねる。
「‥‥。四割程はその通りだな。‥‥桐原公も突然の事に少々驚かれていた様子。‥‥お陰で夜中に叩き起こされる始末だ」
「四割って、じゃあ他にも?」
朝比奈が尋ねるが、ゼロは「そうだな‥‥」と言って黙ってしまった。
「ゼロ。‥‥何故、その話が桐原公から回ってきているのだ?」
藤堂が訝しげに尋ねる。
「アッシュフォード学園から打診が有ったそうだ。『イベントをおこないたいが軍と黒の騎士団双方の介入は避けたい』と。『騎士団に関しては頼めないか』だそうだ」
「あ。‥‥その、生徒会長が、『騎士団の方にはちゃんと申し入れをしておくから』と言ってたんですけど‥‥」
「なるほど?直接ではなく、間にキョウトを挟んだわけか‥‥。とすれば、桐原公が懸念していた、最優秀者とやらに贈られる『豪華賞品』についても確かなのか?」
ゼロの問いかけに、カレンはビクンと身を震わせた。
「カレン?なんだ、その‥‥『豪華賞品』って言うのは?」
カレンの反応に戸惑った扇が尋ねる。
「あ、その。‥‥会長がどこからか入手したみたいで‥‥その、止めようとは思ったんですけど‥‥。どの程度のモノかも見てないのでハッキリしないですし‥‥」
「‥‥今ハッキリしていないのは君だろう?」
情報の出し惜しみよろしく、しどろもどろのカレンに、ディートハルトがイライラと突っ込む。
「えと。会長の言葉をそのまま言います。‥‥『ゼロの写真と、騎士団が名乗った時の写真等、騎士団に関するデータ満載!のお得版よ』‥‥です」
ぶはッ。
誰かが吹いた。
ディートハルトは撃沈しているし、四聖剣も千葉以外突っ伏している。
「あら~。それは確かに言いにくいわね~。わかるわ~」
ラクシャータは全然気にしないとばかりに、そうコメントした。
藤堂は、呆れた様子だったが、不意にハッと顔色をわずかに変えて口を開いた。
「待て、紅月。確か枢木スザクも同じ学校だったはずだな?」
「あッ」
藤堂の言葉に、四聖剣と扇が声を上げる。
「はい。‥‥その、スザクはロイドって言う上司から、『是非、一番になって賞品を貰って帰ってくるように~』と命令されています」
頷いたカレンは、顔を歪めて会長の言葉を伝える。
「あら~?‥‥大変ね~、それはぁ?」
ラクシャータは嫌そうな表情を浮かべながら言い、珍しい事もあると内心思う。
「‥‥桐原公からも同様の事を言付かっている、カレン。『軍の手に、情報が渡るのは避けた方が良かろう?確か学園に通っている団員がいるそうだな』と」
ゼロの言葉に、カレンは「え゛ッ‥‥」と唸ってしまい、他の者はカレンに同情と憐みの視線を送る。
「『その者に、必ずや最優秀者になるようにと伝えてくれんかの。この件で表だって騎士団が関わるのはデメリットにしかなるまい?』と言われた」
「ぅわ~‥‥。桐原さんも案外オチャメだったんだな~。ねぇ千葉さん」
朝比奈が率直な感想を述べる。
ところが、桐原のこの言葉はカレンだけに向けられたものではなく、ゼロ本人に対しても向けられていたりしたのだが。
当然ながら、ゼロは一存を持って黙殺してのけ、全てはカレン一人に託される事になったのである。
「わたしに振るな。‥‥紅月、こっそり潜入とか無理なのか?みながみな騎士団の格好をしているのならば、見つかる確率も減るだろう?」
「あー‥‥たぶん、無理、です。‥‥あの学園、何故か警備はかなり厳重で‥‥。外部の者の出入りはかなり制限されているんです」
千葉の問いにカレンは力なく答える。
厳重な理由を知るゼロは、仮面の下で思わず笑みを浮かべてしまう──笑うしかないと言うべきだろう。
「‥‥ゼロ。騎士団としてはどう動くつもりだ?」
二人の会話を聞きながら、藤堂はゼロに尋ねる。
「‥‥‥‥。そうだな。イベントに関してはカレンを頼むしかないだろうな。‥‥騎士団は同日、別にひとつ作戦を展開する」
「「「‥‥は?」」」
「話では当日、軍が学園付近の警備を厳にして、騎士団が網にかかるのを待っているとか。‥‥ならば、他はかなり手薄となるだろう」
「‥‥‥‥囮作戦、というわけですか?‥‥その情報も桐原公から?」
「そうだ。ディートハルトは当日の軍の動きを出来るだけ調べてくれ。カレンはゼロの役だそうだな?」
顎に手を当てながら訊ねたディートハルトに、ゼロは頷いて指示を出し、カレンに確認する。
「は、‥‥はい」
「当日、是非やってもらいたい事があるのだが?」
「はい。わたしに出来る事でしたら、なんだってッ」
咎められるかと一瞬強張ったカレンだったが、そうではないと知って勢いよく頷く。
「‥‥枢木が扮する役はどちらかわかるか?」
「あ、団員です。本人が、ゼロにはなりたくないって言ってましたから」
「‥‥なるほどな。ならば、団員に扮する枢木に指示を出せるわけだな?『門まで走って行き、外に展開する軍に手を振ってこい』‥‥とか」
ゼロの話にみな真剣に耳を傾けていたのだが、出てきた例えに、ラクシャータとディートハルト、扇に朝比奈と卜部が思わず噴き出す。
「‥‥ゼロ、それ、本気で言ってるのか?」
千葉が眇めた目でゼロを見て言う。
「‥‥‥‥。それも有りだな、ゼロ。‥‥紅月。戻って来たら即座に『もう一度』と言うのも良い。いや、『十回繰り返せ』の方が効率的か」
しかし、思案気に沈黙していた藤堂がゼロに同意して、更にを要求してきたので、四聖剣は驚く。
「有りなんですか~~。藤堂さん~」
ゼロと藤堂は同時に頷いた。
「「当然、有りだな。枢木ならば」」
見事に声まで揃えて言いきった。
「彼は一直線で前しか見ない、走り出したら止まらない、‥‥馬のような性格をしているからな」
「自分で考えているようで、本人が理不尽とは思わない命令には犬のように、かなり従順に従う。イベント等の祭りの中では疑う事すらしないだろう?」
藤堂がかつての弟子を馬に例えれば、ゼロは犬に例える、がどちらもかなりな言いようである。
「ほぉ?ゼロは枢木の事を良く把握しているな?」
感心する藤堂にゼロはフッと暗い笑声を上げる。
「現在最大の敵だからな。性格もそれなりに把握しておいた方が読みやすい」
ゼロと藤堂による、かなり黒い枢木談義である。
「‥‥えと、ゼロ。スザクの事、だけですか?」
「いや。‥‥枢木の件はまぁオマケのようなものだが。‥‥本題については後で説明しよう」
枢木をけなした事で、機嫌が少し上昇したのか、纏う空気が少しだけ柔らかくなっている。
カレンは少しホッとして頷いた。
「ラクシャータ」
次いでゼロは、ラクシャータを呼ぶが。
「え~‥‥。いやよ~わたしは~」
何も言う前から、ラクシャータは心底嫌そうに拒否を示す。
当然話の見えない他のメンバーはゼロとラクシャータとを見比べたり顔を見合わせたりするだけだ。
少し低くした声で、再びゼロは名前を呼ぶ。
「‥‥‥‥ラクシャータ」
「ちょッ、ちょっとゼロ、お~ぼ~よぉ、それは~」
柄にもなく少し慌てたラクシャータが意見するが、ゼロは取り合う気がなさそうであるし、一向に話は見えてこない。
「‥‥‥‥あの。何の話ですか?」
カレンが業を煮やしたのか訊ねる。
「お嬢ちゃんのせいよ~。‥‥ッたく~。ゼロ、今回だけだからね~」
「助かる。あれが出て来るとややこしい事にしかならないからな」
「それはそーだろう~けどさぁ。‥‥あんた、絶対性格悪いって言われてるでしょ~」
カレンの問いはスルーされ、何が自分のせいなのかと余分な疑問まで残されて悩む中、ゼロとラクシャータの間でだけ、何かしらの成立を見たらしい。
「まぁな。自覚もしている。枢木がイベントから出て来れない以上、白兜も動けまい。‥‥こちらも紅蓮二式は出られないが‥‥」
ゼロはあっさり頷き、状況を説明すると藤堂と四聖剣を見る。
「その分、月下が頑張ってくれるのだろう?」
有無を言わせぬゼロの口調に、藤堂と四聖剣は揃って頷いた。
「扇、移動の準備を進めてくれ。‥‥ではカレンのみ残れ。すまなかったな」
ゼロの言葉に、立ち上がった一同は、若干不安そうな表情をしたカレンを心配しながらその場を後にした。
───────────
作成 2008.01.21 
アップ 2008.02.01 

黒の騎士団の本部。
上級に位置する団員達が作業もそこそこ、そこかしこで少数の塊を作ってヒソヒソと話し合っている。
内容は言わずと知れた、彼等のリーダーについてである。
先程、現れたゼロは、仮面をしていても不機嫌なのがありありとわかる状態で、「部屋にいる。しばらくは誰も寄越すな」と言い置いてさっさと篭ってしまったのだ。
ならなんでやってきたのか?と疑問にも思うと言うもの。
カレンはゼロの私室がある方向をチラチラと気にしているが、一歩を踏み出せないでいる。
「落ち着かないね~、紅月さん。そんなにゼロが気になるのかなぁ?」
紅蓮弐式のメンテナンス中のその状態に、隣の月下からやっぱりメンテナンス中の朝比奈が声を掛けた。
「ッ‥‥それは‥‥確かに気になりますけど。‥‥その、報告したい事があるんです」
カレンは動揺しつつも、問いに答えた。
カレンの言葉に、他の月下からは藤堂と四聖剣が視線を寄越し、横に立っていたラクシャータも顔を上げた。
「そっかぁ。‥‥急ぎとか深刻とかの話なら、言いに行った方が良いんじゃないかなぁ?それか扇さんに報告しとくか」
「おれ達にでも良いよ~?」と朝比奈が返した。
言われて暫く躊躇っていたカレンが言いさした時、不意に立ちこめたピザのにおいに顔を上げた。
やってきたのは言わずと知れたC.C.だ。
気づいた順に口を閉ざし、波が引くように静かになる。
現れたC.C.は格納庫を見回すと、ディートハルトと話をしている扇を見つけ声を掛けた。
「扇。あいつが話があるそうだから会議室へ行って待ってろ」
C.C.が扇にだけ声を掛けたことに、一同騒然となる。
煩そうにC.C.が顔を顰めていると、扇は頷きながらも問いかける。
「わ、わかった。‥‥けど、‥‥おれだけなのか?」
「いや?‥‥‥煩いぞ、貴様等」
ピザを口に銜えながら応じていたC.C.が、ピザを口から放すなり、声のボリュームを上げた。
当然、再びピタリと静かになる。
「扇の他は、カレン、ディートハルト、ラクシャータ。‥‥藤堂と四聖剣‥‥だったかな?」
「はぁ~?なんでおれ様が入ってないんだよ。おかしいだろ?おれだって幹部なんだぜ?」
玉城が速攻で抗議を口にする。
「煩い。あいつは入れようとしていたがわたしが却下した。貴様が入ると話が進まないからな」
「なッ、テメッ勝手な事してるんじゃねーぞ」
「煩い。‥‥今、あいつの機嫌は最悪なんだ。貴様があいつに怒られたいのは勝手だし忠告する義理はないが言ってやる。‥‥今だけは止せ。骨も残らないからな」
C.C.は玉城にそれだけを言うと、「指名した者は急げよ」と手を振りながら戻っていった。
玉城はC.C.の姿が見えなくなるまで呆然としていて、ハッと我に返る。
「なッ‥‥。ふざけるな。おれ様がゼロに怒られたいだと~。勝手な事言いやがって」
一人憤慨する玉城を誰も取り合わない。
蒼褪めるのは呼ばれたメンツだ、──特に扇。
「骨も残らないってなんだ?」
「機嫌最悪ってどんだけだよ」
と呼ばれなかった幹部や、団員達がヒソヒソと話をする中、最初から下にいた扇とディートハルトを先頭に、ナイトメアフレームから下りたメンバーが続いた。
その足取りは、重いながらも確実なもので、内面の葛藤が現れているようでもあった。

会議室に入った後、ゼロが現れるまでに三十分程を無駄に過ごした。
ゼロは無言で現れて、定位置に座ると一言。
「カレン」
「はッ‥‥はい」
いまだ機嫌の悪い様子のままのゼロに、突然呼びかけられて、身体を強張らせたカレンは半ばパニック状態である。
「桐原公から話が回ってきた。‥‥事実か?」
唐突な質問に、カレンは完全にパニック状態になった。
「え?え?え?え?」
と無意味に繰り返すだけで要領を得ない。
「待てゼロ。‥‥桐原公が何を言ってきたのか、それをまず話すべきじゃないのか?紅月も驚いているし、話が見えない」
気の毒に思ったのか、藤堂が助け舟をだす。
ゼロは藤堂に仮面を向け、それから一同を見渡した。
「‥‥‥‥。あぁ、言っていなかったか?‥‥C.C.はどうした?」
どうやらゼロは既に話した気になっていたらしいとみな驚いた。
「おれ達に声を掛けた後戻っていったが‥‥?」
「‥‥‥逃げたな、あいつ‥‥」
扇の言葉に、ゼロはそれはそれは低い声でポツリと呟き、軽く息を吐き出した。
「すまなかったな。‥‥桐原公が連絡を寄越して来た。カレンの通う‥‥『アッシュフォード学園でとある催しをするから、それには一切関わるな』とな」
ゼロの説明に、一同絶句。
「イベント~?一体、何のイベントなのぉ?お嬢ちゃん」
まず最初にラクシャータが何とか、それでもいつも通りの声を上げる。
「‥‥えと‥‥。‥‥仮装イベント、です。‥‥とあるテーマに沿った仮装をして一日を過ごすって‥‥来月初めに‥‥」
活発なカレンにしては躊躇いがちに、そしてゼロを気にしながらそれだけ言う。
勿論、それだけで判れと言う方が無茶なので、誰もほとんどわかっていない。
「‥‥事実か。‥‥既に桐原公から催しの名称も聞いている。‥‥カレン、他の者にもちゃんと説明してやれ。‥‥ちッ。少し外す」
話の途中で携帯を取り出したゼロは、それを手に持ったまま立ち上がると、返事も待たずに出て行く。
その背中を見送った一同は、そのままカレンに視線を戻した。
「‥‥さっき言ってたゼロに報告したい事って件?」
朝比奈が水を向ける。
「え、ええ、そう‥‥よ」
「まずは観念して、イベントとやらの名称を」
曖昧に頷くカレンに千葉が更に促す。
「‥‥‥‥‥。イベント名は‥‥‥『黒の騎士団イベント』‥‥よ」
それでもしばらく躊躇った後に発したカレンの言葉に、戸惑いを見せる日本人の扇と藤堂、四聖剣を他所に、ディートハルトとラクシャータは笑い出す。
「‥‥あのさー、それって笑い事なのか?」
爆笑する二人を、胡乱な様子で卜部が、誰にともなく問いかける。
「やはりアッシュフォード学園は他より抜きん出てイベント好きですな。まさかここまでとは」
頷きながらディートハルトが応じる。
「あっはは~。やるわね、今時の学生も~。あー、おかし~」
笑いながらも生徒を褒めるラクシャータに、これだからブリタニア関係者はと思う日本人達。
「‥‥それで、紅月。そのイベントとやらは何をするのだ?仮装して‥‥それで終わりというわけではあるまい?」
まだ笑っている二人は置き去りにする事に決めたらしい仙波が口を開く。
「あ、はい。えっと。まだ確定じゃないんですけど、『黒の騎士団の団員』に扮した大多数の生徒が、『ゼロ』に扮した十人くらいの指示に従う。だそうです」
「‥‥‥。それ、何が楽しいの?」
呆れた様子で朝比奈が突っ込む。
「あの学校の突発イベントは変わったものが多いらしいんです。聞いた話だと、『男女逆転祭り』とか、『絶対無言パーティー』とか、『水着で授業』とか‥‥」
「‥‥紅月も参加するのか?今回の、イベント」
タイトルを聞いただけでおかしい事がわかる過去のイベントに、多少は目をつぶる事にしたのだろう、千葉が話を戻す。
「‥‥‥‥‥。はぃ。団員の格好をしてバレるとまずいと思ったので‥‥『ゼロ』の役を‥‥」
カレンは「今は戻ってこないでください、ゼロ」と心中で思いながら、視線を泳がせつつ告げた。
途端にディートハルト、ラクシャータだけでなく、扇や、四聖剣、藤堂までもが笑ってしまった。
そして、タイミングが良いのか悪いのか、席を外していたゼロが戻ってきたのだった。
「‥‥楽しそうだな」
ゼロの言葉は、見事に一同の笑みを奪う効果を持っていた。

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作成 2008.01.18 
アップ 2008.01.31 

「「「「「「‥‥‥‥は????」」」」」」
アッシュフォード学園生徒会長ミレイ・アッシュフォードの言葉に、生徒会役員全員が揃って聞き返していた。
何かの間違いだ、聞き間違いだ、きっと耳がおかしかったんだ、とそれぞれ心の中で叫んでいたりするが。
ミレイがそんな事を斟酌する事はなく。
「だからぁ。来月初めに、『ゼロイベント』をするよ~って言ったのよ。全員一日ゼロに扮して行動するの」
「「「「「‥‥‥‥きゃっかぁ~~~~~!!!!」」」」」
ルルーシュ、スザク、カレン、シャーリー、ニーナの声が室内に響き渡る。
「う~む、けど会長~。ゼロの衣装って露出がないし誰が誰だか分らないし、面白みに欠けると思うんですけど~」
一人リヴァルは、唸り声を上げながら、ミレイの言葉を検討していた。
「そぉ?‥‥じゃぁね。『黒の騎士団イベント』にしましょう。十人くらいがゼロに扮して残りは騎士団の格好をしてゼロ役の指示に従うの。どぉ?」
「あ、それならなんとか。なぁ?」
変更したミレイの意見に賛成したリヴァルは、どうだお前等と言った様子で残りのメンバーを顧みた。
「どこがですか、会長。リヴァル、お前もだ。そんな事をして、軍や黒の騎士団に目をつけられたらどうする気ですか?」
「そうだよ。黒の騎士団は何をどういったところでテロリストなんだよ?それをイベントに取り上げようだなんて」
ルルーシュが危機感に訴えれば、スザクも頷いて非難する。
「イレブンでしょう?‥‥その真似事をするなんて‥‥」
「そうですよ、会長。正義の味方とか言っておいて、やる事はひどい連中なんだから」
ニーナとシャーリーもまた否定的な言葉を口にした。
「ノリが悪いわね~。みんな。‥‥カレンも反対?」
「え、えぇ。やめておいた方が良いと思うのですけど‥‥」
カレンは曖昧に頷いて応じた。
「だ、け、ど~。これは決定事項ね~。一番巧かった人には!なんと、豪華賞品をプレゼント!なのだよ、諸君」
「はいは~い。会長~。豪華賞品ってなんですか~?」
一人ノリの良いリヴァルが、ミレイの話に即座に喰いつく。
「ふっふっふ~。ゼロの写真と、騎士団が名乗った時の写真等、騎士団に関するデータ満載!のお得版よ」
「‥‥‥‥。会長、それ、どこで手に入れたんですか?」
「んー?それは~‥‥ひみつよ、ルルちゃん。‥‥あ。スザクくん。『是非、一番になって賞品を貰って帰ってくるように~』って連絡が有ったわよ?」
ミレイの言葉に、スザクはがっくりと項垂れてしまった。
「‥‥‥‥あぅ‥‥あの、ゼロはやりたくないですんでー」
それでも、これだけは譲れないとばかりに弱い口調でスザクは主張していた。
一方、カレンもまた内心で「そんなのブリタニア軍人のスザクに持ってかれたら大変じゃないの~~ッ」と奮起している。
ルルーシュはというと、カレンと似たような心境だったが、加えてカレンの心理も読み取れてしまい、頭痛を覚えるものの聞いておく事を尋ねる。
「‥‥スザク、会長。それ誰の言葉ですか?」
「あー‥‥ロイドっていう、ぼくの上司。‥‥ですよね?会長さん」
「大正解~。てことで、スザクくんも参加よね。後は~?」
「つまり、軍は既にこのイベントがおこなわれる事を認めているんだな?‥‥とすると残るは騎士団の方か」
「お?ルルちゃん、やる気になったのかな~?」
「どうせ止めたって聞いてくれないでしょう?会長は。ならなるべく安全を確保したいですからね。あ、言っておきますがおれもゼロはしませんよ?」
「うむうむ、流石頼りになる副会長だわ。ルルちゃんは~♪‥‥でもね~。ゼロ役の方が似合ってると思うけども?」
「しませんて」
「よし。なら衣装を用意してくれるっていうなら団員で良い事にするわよ?」
ミレイの交換条件に、ルルーシュは目を丸くする。
「ちょっ、‥‥学園に一体何人の生徒がいると思ってるんですか。そんな数、一人で用意できるはずがないでしょう?」
「ちゃんと他のみんなを使って良いからね~?それともゼロをやる?」
「‥‥‥‥わかりましたよ、会長。‥‥カレン、衣装のデザインは君に任せる。リヴァルとスザクは服屋を当たってくれ。黒の生地を確保しておかないと‥‥」
盛大な溜息を吐いたルルーシュは折れると、早速とばかりに指示を出した。
「ちょ‥‥っと待って、ルルーシュ。わたしはまだ」
慌てたのはいきなり話を振られたカレンである。
しかも、病弱設定の今、過激に否定できるはずもなく、言葉少なに反論を試みたのだが。
「参加、するんだろう?‥‥最近は調子良さそうだし、デザインだけならそう負担にはならないと思ったんだが?」
相手を思っているような言い方に、再度の反論は封じられてしまった。
勿論、ルルーシュの中にカレンの不参加は既に存在していない為、反論なんぞ取り合わない。
「流石ルルちゃん。良く考えてるわね~。じゃあ、カレン。よろしくね。あ、そうそう。カレンはどっちをやる?団員?それともゼロ?」
ミレイに問われてカレンは考える。
ゼロ役など大それた事ではあるけれど、騎士団が名乗った時の写真まであるとカレンも映っている可能性もあるわけで。
「‥‥あ、あの。‥‥では、ゼロを‥‥」
ついでに、ゼロになってみたいという、純粋な誘惑も確かにあったので、カレンはそう応じていた。
「おーーー。そっかそっか~。まぁ、カレンなら露出が無い方がいいかも知れないわね~。ニーナ、シャーリー。二人はどうする?」
「‥‥‥‥か、会長~。‥‥裏方をやるので、変装は勘弁してくださ~い。ダメなら当日休みますから~」
「あ、あの‥‥。わたしもそれで‥‥」
「んー‥‥仕方がないわね~。じゃあ、ルルちゃん。二人は裏方だそうだから、仕事の割り振りをよろしくね。‥‥言っとくけど、貴方達はもう裏方には回さないわよ?」
ミレイが裏方を認めたので、スザクとルルーシュとカレンが反応したところを、先手を打たれてしまい肩を落とした。
「‥‥会長。それで、騎士団の方はどうするつもりなんですか?イベントの最中に乱入されでもしたら、大変ですよ?」
ルルーシュが最大の懸念事項を尋ねる。
「ん?大変って?」
リヴァルが首を傾げて尋ね、ルルーシュに視線が集まる。
「遊びで騎士団の格好をするブリタニア学生に彼等が寛大とは思えない。それに、騎士団が出張ったと知れば軍だって動くだろう?見分けがつくと思うか?」
ルルーシュの言葉に、スザクやニーナ、シャーリーは頷き、けれどミレイは一人平然としている。
カレンはフイと視線を泳がせながら、病弱設定でなければ、「弱者の味方の騎士団なのよ。それに出張ってくる程暇じゃないわよ」くらいは言っていたかも知れない。
が、玉城がいる以上、本当に出張らないかどうかすら不明の為、病弱設定のまま、無言を通したのだった。
「平気よ、ルルちゃん。ちゃんと騎士団には申し入れしておくから。だ、か、ら。準備の方はよろしくね~♪」
ミレイは簡単に請け負うと、ヒラヒラと手をひらつかせて部屋を出て行ってしまった。
どうやって申し入れをするのか、尋ねる暇さえありはしない、早業だった。
「‥‥‥。ニーナ、シャーリー。全校生徒への告知、各クラスで一人、ゼロ役になる者の選出と、採寸を頼む」
ルルーシュが裏方に決まった二人に指示を出した。
あぁなったミレイは誰にも止められないのだ。
ミレイを良く知るルルーシュ、リヴァル、シャーリー、ニーナは、肩を落としながらも動き出す。
「えーっと‥‥。反論は終わり?なのかな?決定?」
スザクが首を傾げながら呟く。
「終わりだよ、スザク。もう会長は止まらないからな。とりあえずスザクはリヴァルと服屋を頼む。カレン、君も固まってないでデザインを」
ルルーシュの声の響きには、諦めがありありと表れていた。

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作成 2008.01.18 
アップ 2008.01.30 

突然、C.C.がやってきた事に、その場にいた騎士団幹部とキョウトの面々は驚いた。
いや、一人、藤堂だけはあらかじめ知っていた為驚かなかったのだが。
C.C.は一同を見渡すと桐原に視線を向けた。
「桐原公。ゼロが話があるそうだ。‥‥それと、藤堂。お前も来い」
次いで藤堂に視線を転じると、その後はそのまま踵を返して立ち去ろうとする。
慌ててC.C.の背中へ、扇が声をかける。
「ちょっ、ちょっと待ってくれC.C.。ゼロは」
「後だ。今は忙しい。桐原公に藤堂。いつまでゼロを待たせるつもりだ?」
足を止めたC.C.は肩越しに扇を睨みつけると、それだけ言って再び歩き出した。
「わかった」と呟いた桐原と、無言のままの藤堂がその後に従った。
その背後では、アチコチでざわめきが巻き起こっていた。


ゼロはその部屋で、ソファに座っていた。
マントを羽織り、仮面を被り、入って来たC.C.と桐原、藤堂の三人を待っていた。
二人を招きいれ、最後に入ったC.C.は、そのまま扉を閉めて鍵をかける。
「座れ。立ったままでは話も出来まい」
C.C.が後ろから声をかけると、桐原は向いのソファに座る。
動かなかった藤堂に、C.C.は苛立ち紛れに再び声をかけた。
「藤堂。座らないのならば、追い出すぞ」
言われて、藤堂は桐原と同じソファに座るのも躊躇われ、横のソファに腰を降ろした。
といってC.C.が座る様子は見せない。
「この場に、藤堂を呼んだのは、この男もまたお主の正体を知っているからか?ゼロ」
まずは桐原が切り出した。
「‥‥そうだな。藤堂ともあの時会っている。知っていてもおかしくはないだろう?」
ゼロは平然と言う。
「ならば、‥‥仮面を取って話をしてはどうだ?」
桐原の言葉に、藤堂は息を呑み内心焦る。
だが、C.C.もゼロも平然としたまま、ゼロは頷いた。
「良いだろう」
答えたのはゼロだったが、仮面に手を伸ばしたのは、いつの間にかゼロの背後に立っていたC.C.だった。
カシュンと軽い音を立てて、仮面が取り除かれた。
既に仮面の下にある顔を知っているはずの桐原と藤堂は、だがしかし、それを見るなり驚きに絶句してしまう。
ゼロの素顔の、左目を覆うように黒いバンダナが斜めに取り巻いていたのだ。
「‥‥それは、一体‥‥」
呟いたのは桐原だった。
藤堂は、もしこの場に桐原がいなければ、ゼロに突進していってバンダナを剥いでいたかもしれない程、驚いていてまだ声が出なかった。
「何が有った」、あるいは「どうした」と、詰問していたのかも知れない自分を、藤堂は自覚していた。
「気にするな。‥‥それよりもこの先の話だ。キョウトにはわたしの指揮下に入って頂く。『特区』が不発に終わった今、我々が『日本』を宣言する為に」
ゼロはなんでもないという態度を崩さず、桐原を呼んだ本題に入った。
「キョウト六家はわしが説得しよう。‥‥だが、『特区』と違うと認めさせるのは、こうなると少々骨じゃぞ」
「‥‥宣言した後、トウキョウ租界を落とす。そこを手始めとして、日本全土を開放していく。そうすれば"日本人"も認めざるを得まい」
隻眼でも尚鋭い眼光で、ゼロは言い切った。
「‥‥お主は、今後の展開を、どこまで見ておるのじゃ?」
少し思案した桐原が訊ねる。
「コーネリア皇女が妹姫の為に打てる手は八通り。その内、ブリタニア皇帝にユーフェミア皇女の『廃嫡宣言』をおこなわせない手は二通りしかないな」
ゼロはそう切り出した。
「『廃嫡宣言』が出されれば、"日本人"の支持は一気にこちらに傾くだろう。そうなれば、全国各地で、一斉蜂起と言う事も有り得るな」
「‥‥コーネリアが、何もしなくても皇帝が『廃嫡宣言』を出さない、という事はないのか?」
藤堂が、黒いバンダナの下を気にしながらも、そう切り出す。
「それはない。奴がこの機を逃すとは思えないからな。出さない時は、コーネリアか、‥‥シュナイゼル辺りが働きかけた時だけだ」
「その根拠はなんじゃ?」
確信めいたゼロの言葉を不思議に思った桐原が、訊ねる。
「‥‥『閃光の』マリアンヌの庇護下にいたおれ達が良い例だな。‥‥奴はコーネリアの庇護下にいるユーフェミアを見てはいないだろう」
ゼロの自嘲気味の言葉に、二人は日本に送られてきた幼い皇子と皇女を思い出していた。
「出されなければ、『ゼロ』の虚言だった、とでも言い繕い、あの場の惨劇を黒の騎士団のせいに出来る。あちらにとってはそれがベストだろう」
クツクツとゼロは笑いながら言う。
「‥‥そうなる確率はどの程度と見ておる?」
桐原が痛ましそうな表情を浮かべて尋ねる。
「‥‥まず、二割も有るまい。その筋書きに達するには、コーネリア達にとっては道が険しすぎよう」
「宣言を出させない方法が二通り、と言ったな?‥‥それは?」
藤堂が口を挟む。
「コーネリアがブリタニア皇帝に向かって言えば良い。『ユーフェミアの代わりにわたしを』‥‥と。奴はそれ以外は恐らく認めまい」
ゼロの言葉に桐原も藤堂もC.C.すらもが目を見張って絶句する。
「もっともそうなれば、庇護をなくしたユーフェミアに待つのは、他の皇族による毒牙である以上、コーネリアはそれを口にはしないだろう」
「それで?もう一つの方法とは?」
C.C.が後ろからゼロの仮面を胸に抱えたまま訊ねる。
「‥‥宣言者がいなければ、宣言しようがないと思わないか?」
ゼロはその整った顔に悪魔の笑みを浮かべる。
禍々しくも美しいその表情に、桐原と藤堂はハッと息を呑む。
「‥‥‥‥。それこそあり得ない話だな?まさか、貴様が殺めに行くとでも?」
「まさか。‥‥シュナイゼル辺りなら、本当に守りたいと思っていればそのくらいはするだろうと思ったまで」
「第二皇子は、‥‥行動に出るかの?」
桐原が乾いた唇を舌で湿らせながら、訊ねる。
「出ないな。‥‥出るとすれば‥‥、コーネリアに対して何らかの交換条件を出す場合か?弑逆するとなればコーネリアは頷かないかな」
ゼロはそこまで言うと溜息を吐く。
「この辺りは予測でしかない上に、あの二人は読む相手としては少々厄介だからな。暫く様子を見る必要はあるだろう」
随分と先走った事を訊ねていたと言う事に思い当たり、桐原は頷いた。
「‥‥ゼロ。‥‥そのバンダナは如何にした?それもユーフェミアにやられたものなのか?」
桐原は仮面を外しているにも拘らず「ゼロ」と呼び掛けていた。
それはゼロの放つ気がそうさせているのだが、ゼロは怪しく笑う。
「‥‥いいや?これはわたしがゼロである事の証。それとも代償と言うべきかな?」
左手をバンダナの左目の部分に宛がい、皮肉気に言うゼロは残った片目でC.C.を見上げる。
「‥‥‥‥そうだな。代償‥‥、だが、呪いと言いたくはならないのか?」
C.C.は頷き、仮面の表面を撫でてから、何かを堪えるような表情を見せて尋ねた。
「ならない。‥‥第一自ら望んだ事だ。‥‥さて。宣言は夕刻。舞台は任せる。まずは先手を打つとしよう」
ゼロはC.C.に笑いかけ、スッと真顔に戻って桐原を見据えると言った。
桐原はそれ以上の話はないと見ると、立ち上がる。
桐原からの目配せを受け、内心渋々藤堂も腰を上げる。
藤堂は桐原に続いて部屋を出る直前、ゼロを振り返り、視線を絡ませ合う。
フッと微笑んだゼロが頷くのを見て、藤堂もまた笑みを浮かべて頷き返し、部屋を後にしたのだった。

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作成 2008.01.20 
アップ 2008.01.29 

朝比奈が、藤堂に軍服を手渡す。
着替えると有って、千葉だけは後ろ向きに座っているが、席を外す気はなさそうだった。
藤堂の無事を喜びながらも、不機嫌なのを隠そうとしない、という器用な事をやってのけている。
「‥‥何がそんなに不満なんだ?お前達は」
「ゼロですよ、ゼ、ロ。‥‥藤堂さん、ホントにゼロとお知り合いなんですか?」
朝比奈が憤懣やるかたないと言わんばかりに言う。
「あぁ。彼は‥‥。‥‥それで?彼の何が不満だと?」
藤堂は言いかけた言葉を飲み込み、続きを促した。
「‥‥我々は藤堂中佐を助けていただく代わりに戦力になる、とゼロに申し出ておったのです」
仙波がその時の状況を思い出しながら、藤堂に説明する。
「勝手に決めたのは悪いと思ったけど、藤堂中佐がいなくなるのはもっと嫌だったからな」
卜部も言い訳するように口を開いた。
「‥‥なのにあの男ッ。我々にまでどうするか、等と聞いて来たんですよ、中佐」
「千、千葉さ~ん。少し落ち着きましょうよ~。まぁ聞いてくるくらいだからって好きに選ばせて貰ったんじゃないですか~」
朝比奈が千葉の勢いに押されたのか、宥めに掛かっている。
「あ、それで思い出した。仙波さん、どうしてゼロの元に残るって言ったんだ?」
ポンと手を打った卜部が、隣の仙波に尋ねていた。
「‥‥不愉快で有ろうと、約束は約束だからな。恩を受けたからには返さなければなるまい。‥‥そう思っただけだ」
仙波の言に、卜部、千葉、朝比奈は押し黙る。
「‥‥仙波に言ったように、ゼロの中では今回限り、と見ていたのではないか?だから今後どうするか尋ねたのだろう」
藤堂が、四聖剣に向かって、そう締めくくった。
「仙波の言葉も。卜部、千葉、朝比奈の言葉も。‥‥おれは嬉しく思う。‥‥今回は助かった、礼を言う」
「「「「はいッ。おかえりなさい。藤堂中佐(さん)」」」」


肩を怒らせた玉城が、二階から降りてくる、続いて消沈したカレンと扇が続く。
「あらぁ~。やっぱり怒らせたのね~?」
ラクシャータがそんな三人を見て気のなさそうなコメントを言う。
「あの野郎、な~にが、『昔話をするとは言ったが、仮面を取るとは言ってない』だ。ふざけやがって」
玉城は悪態を吐くと、どさっとソファに座り込んだ。
扇とカレンは顔を見合わせてから、玉城から離れた椅子に座った。

「う~ん。七年前に一度かぁ、おれが四聖剣に入ったのは開戦後だったしー。心当たりないんだけど、開戦前とか、‥‥仙波さん達、心当たり有りませんか?」
逆の端では四聖剣が固まって座っていて、朝比奈が憤慨する玉城を見ながら仙波達に尋ねていた。
「ゼロの事か‥‥。開戦前だとすると、藤堂中佐は良く単独行動をされておいでだったからな‥‥」
「そうそう。道場で一時期師範とか、あちこちで会談とかしてたからな。そこまでついてくわけにもいかなかったし」
「わたし達もそうそう軍を離れられない状況だったからな」
開戦前の、それなりに平和だった頃へと思いを巡らしながら、三人は思い当たらないのか考え込む。
「あの頃はそこそこ人の出入りが激しかった頃でもあるし、その内の誰かがゼロだったのだろうか‥‥」
「だけど仙波さん。一度会っただけで、それも仮面越しに言い当てるなんて、相当言動の印象が残ってないと出来ないと思うけどよ?」
「顔ではなく、だな。‥‥やはり心当たりはないな。わたしには」
千葉が早々に諦め、「わしもない」「おれもお手上げ」と仙波と卜部も匙を投げた。
「やっぱり藤堂さんに聞くしかないかなぁ~。でも、さっきもはぐらかされたようなものだったしなぁ。どう思います?」
それでも尚も諦めきれないのか、朝比奈が問いかける。
「藤堂中佐と、桐原公が認めておる人物だからな。‥‥ゼロが誰であろうと、わしは構わぬよ」
「まぁ藤堂中佐以外に従う気はないしなぁ」
「ゼロか中佐か、桐原公が何か言うまで待てば良い」
「それはおれだって。藤堂さんのいるところがおれのいるところですから。‥‥じゃなくて、単に気になるだけじゃないですか~」
所詮、藤堂至上主義の四聖剣にとって、ゼロは二義的なものにしかならなかった。
ゼロの正体が、ではなく、藤堂がいつ、どこで、どうやってゼロと知り合ったのかが知りたいだけなのだ。

不意にニュースの音が飛び込んできた。
『お聞きください。本日、ブリタニア第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下が騎士を発表いたしました』
それはどこか興奮したアナウンサーのモノで、テレビに近かった団員がボリュームを上げる。
『なんと前代未聞の騎士指名であります。指名されたのは名誉ブリタニア人で軍に所属する准尉です』
バババっと何人かがテレビを振り返って凝視する。
『過日には先代イレブン総督故クロヴィス・ラ・ブリタニア殿下の暗殺犯として調べられた事もあります』
「まさかだろ~~??」
玉城が驚きの声を上げる。
『日本最後の内閣総理大臣・枢木ゲンブの嫡男だった、その名は枢木スザクです。ユーフェミア皇女殿下は枢木スザクを騎士に指名しました』
「「「‥‥ッなんで~~~!!!」」」
何人かの叫び声が合唱する。
「‥‥‥‥なんで、スザクが?」
カレンがポツリと呟いた。
「‥‥ッ、ゼロに報告してくるッ」
扇は言うなり立ち上がり、駆け出した。
まだ喚いているテレビを他所に半数以上は扇の後姿を追いかけた。

「‥‥このタイミングだと、枢木スザクが白兜に乗ってたのがバレたからってのもありそー」
朝比奈が眉を顰めながら嫌そうに呟いた。
「普通の名誉ではなく、ナイトメアフレームに騎乗出来る、騎士なればこそ、というわけか?」
千葉が朝比奈の言葉に反応する。
「しっかし、思いきったことするな~。風当たりとか相当きつくなるんじゃない?」
嫌そうな響きを込めたまま、それでも感心した風に、朝比奈は言った。

「ディートハルト。この件について詳しい情報を集めてくれとゼロが」
二階から扇が降りてきながら声をかける。
「わかりました。早急に」
ディートハルトは無駄な問いを発する事なく、そう応じると出て行く。
「藤堂さんは?」
「すぐに来る。玉城、南、杉山、井上。他のテログループを注意するように言われた。手分けして当たってくれ」
「了解。すぐに取り掛かる」
「ッて、指示だけ出してゼロは出てこないつもりかぁ~?」
「こら、玉城。とにかく先に動きなさいよね。あんただって口先ばっかりじゃないの」
井上に急きたてられながら、玉城は転ぶように部屋から追い出された。
残る三人もそれに続く。

「当分、忙しくなるぞ」
下まで降りてきた扇が、残る一同に向かってそう声をかけた。

扇のその言葉が、別の意味でも的中してしまう事を、誰も知らなかった。



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作成 2008.01.23 
アップ 2008.01.28 

部屋に戻って暫く。
控えめなノックに開錠して扉を開ければ、四聖剣の誰かが用意したのだろう、軍服に着替えた藤堂が立っていた。
その後ろに何故か扇と玉城、カレンが立っていたが。
「‥‥どうした、扇。何か有ったのか?」
問われた扇は、「えっと、その、あの」と、しどろもどろで要領を得ず、痺れを切らした玉城が横から口を挟んだ。
「おれ達初期の幹部すら素顔知らないってのに、入ったばかりの奴になんて、ありえないだろ、普通ッ」
「わたしは昔話をしようと言っただけだが?仮面を取るとは言っていない。‥‥それに、お前達はわたしが仮面をしたままなのを承知の上だと思っていたが?」
おれは呆れたように応じる。
「ッ、それは‥‥。そうですけど。‥‥でもッ」
カレンが弾かれたように応じるが、先が続かないようであった。
「確かに、キョウトの桐原公が保障してくれている事もあるし、そのままの君についていく事には異論はない。‥‥しかし、気になるのも事実なんだ‥‥ゼロ」
扇が、ゆっくりと言う言葉に、「まぁそうだろうな」と内心思わざるを得ないのだが。
「‥‥それで?仮面をしてここにいる以上、わたしに昔話一つするな、とでも言いたいわけか?」
しかし、気になるからと言われて「はいそうですか」と、バラすつもりは毛頭なく、ズレた事を言ってみる。
「い、いや‥‥」
「では、わたしのプライバシーを認めないと?」
否定する扇に畳み掛けると、扇はハッとした表情になった。
「‥‥すまなかった、ゼロ。そんなつもりじゃ、なかったんだが‥‥。‥‥戻ろう。玉城、カレン」
扇の言葉に、「けッ」と言って引き返す玉城と、辛そうな表情を向けるカレン。
「あの、ゼロ。わたしはッ‥‥。例えゼロが誰だったとしても‥‥」
カレンはそれだけ言うと、一礼して玉城の後を追い、扇がおれとカレンを見比べてから続いた。

三人の消えた廊下を暫く見た後、一人残った藤堂に向き直る。
「待たせてすまなかったな、藤堂。‥‥入って、掛けてくれ」
扉の前を大きく開けると、ずっと黙って成り行きを見守っていた藤堂が静かに中に入った。
おれも続いて部屋に入ると、扉を閉めて鍵をかけた。

廊下での一騒動の後、ゼロの部屋に入ってソファに腰を下ろす間に、ゼロは扉を閉めて鍵をかけていた。
カチャッと音がして、しかし続く音がない事に訝しみ、おれは扉の前に立つゼロに視線を向けた。
「‥‥どうした?ゼロ。‥‥いや、ルルーシュ君」
尋ねれば、「いいえ、別に」との返事と共に、動き出す。
歩き寄りながら、仮面に手をかけ、慣れた手付きでカシュンと仮面を外した。
そしてそのまま、おれの向かいのソファに腰掛ける、仮面は脇に置いた。
露わにされた漆黒の髪、白い肌、そして紫の瞳は、記憶にあった少年の面影を色濃く残していて、彼が生きていたのだと、おれはやっと実感を持つ事が出来た。
「仮面は外さないのではなかったのか?ルルーシュ君‥‥」
「仮面を取らないとも言ってない。‥‥それに、素性がばれている以上、隠しておく意味はないからな」
ルルーシュはそう言って笑みを見せた。
「‥‥では、まず、聞くべきなのだろうな。『何処でわかった?』」
「おれが知っているのは、スザク君を助けに現れた時と黒の騎士団を結成した時、その後の活動と、おれを助けに現れた、ゼロだ」
まずは手札を開いていく。
「それで?」と視線で続きを促され、おれは続ける。
「桐原公がゼロを知っていると聞いた。そう思えば、ゼロの考えは、ルルーシュ君のものに近いと思い当たった」
「待て。‥‥七年前死んだ事になっていたはずだぞ」
「あの時、二人が亡くなったと聞いたあの時、おれは信じなかったんだ。‥‥信じたくなかった、と言えば良いか」
そう、あの時は、幼い二人の兄妹の境遇に、かなり同情していた。
そして、そのまま亡くなったのだとしたら、と思うと辛くなった。
だから、どこかで生きていて幸せになっていて欲しかったのだ。
「‥‥それに、残ると言った仙波を突っぱねただろう?」
「‥‥‥あぁ、仙波は律儀だったからな。‥‥四聖剣を藤堂から引き離す程、冷酷ではないつもりだ」
「つまり、おれと四聖剣の付き合いを正確に把握していた事になるな。ナイトメアフレームについてもそれを裏付けている」
おれは最後の札を見せた。
「‥‥なるほど。‥‥七年前に一度、か。‥‥隠すつもりなのか?」
ルルーシュの紫の瞳に鋭さが加算される。
「‥‥‥。スザク君、だったな。彼は君の事は‥‥」
「今、同じ学校に通っている。‥‥何故か、紅蓮弐式に乗っていた紅月カレンも一緒にクラスメイトとして。‥‥呉越同舟、というのだったか?」
ルルーシュはクスリと笑みを零す。
「ルルーシュがゼロだと言う事は、二人とも知らない。スザクはカレンが紅蓮弐式のパイロットだと言う事も知らないだろう」
そこまで言うと、ルルーシュは笑みを引っ込めた。
それを見計らったように、廊下でバタバタッと騒がしい足音が近づいてきて、ルルーシュは仮面を手にとって被り、ゼロとなった。

「ゼロッ、大変だッ」
「‥‥どうした、扇」
「さっきの‥‥白兜のパイロットの、名誉の枢木スザクが、ユーフェミアの騎士になるって、ニュースで騒いでるッ」
「‥‥。ディートハルトに詳しく調べさせろ。後で検討する。お前達は、他のテログループに注意していろ」
「わかった。‥‥その、」
「‥‥藤堂もすぐに戻す」
「あ、あぁ。その、すまない。待ってる」

足音が遠ざかると、ゼロは息を吐き出した。
「七年前。おれはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを殺した。‥‥今、ルルーシュ・ランペルージが消える時だろう。そして、おれはゼロになる」
藤堂は目を見開く。
「‥‥表の生活を、捨てる‥‥と言うのか?妹君はどうする?」
目の前の少年が、妹の事をとても溺愛している事を、それは今も変わりないと言う事を、藤堂は知っているからだ。
「勿論、妹もだ。‥‥学園は安全ではなくなった。‥‥恐らくキョウトに頼る事になるだろう‥」
言ってゼロは立ち上がる。
「キョウトとのコネクションは黒の騎士団の方が強い。‥‥恐らく騎士団経由になるだろう。‥‥その時は四聖剣に護衛を頼みたいが?」
大事な妹をキョウトに預けるのを既に決定事項としているゼロに、藤堂は遣る瀬無さを覚えた。
「わかった。その時は言ってくれ。四聖剣はおれが説得しよう」
藤堂も立ち上がる。
「おれは、もう二、三する事をしてから、行く。先に戻っていてくれ。‥‥藤堂。お前の言葉は、嬉しかった。ありがとう」
ゼロはそう言うと、藤堂の為に扉を開けた。
藤堂は、驚いた表情を浮かべてゼロの仮面を見てから、笑みを見せた。
そして部屋を出て行った。

部屋に一人になったゼロは、「箱庭の、崩壊か‥‥」と小さく呟いた。

───────────
作成 2008.01.16 
アップ 2008.01.27 

おれがゼロを初めて見たのは、イレブン総督のクロヴィス皇子暗殺犯として逮捕された、枢木スザクの護送を放送している番組でだった。
相手の用意した茶番、何かしら罠が在るだろうその場所に、わざわざ出向く必要はないと言い切り、おれは傍にいた解放戦線の同志達を抑えていたのだが。
まさか堂々と現れ、且つ真犯人として名乗りを上げ、無事に枢木スザクを救出して脱出に成功するとは、と感心したものだった。
枢木スザクとは面識もあり、その無事は嬉しい事ではあるが、ゼロと名乗ったクロヴィス暗殺の真犯人の真意が読めず、苛立ちも覚えていた。

次に見たのは、河口湖事件の報道でだった。
解放戦線の中でも強硬派がホテルジャックをおこない、ブリタニアの一般人を人質として立てこもっていた場所に、ゼロは現れた。
強硬派達を倒し、ブリタニアの一般人を救い、仲間と共に姿を見せたゼロは、「黒の騎士団」を名乗って「世界を裁く」と宣言していた。
イレブンもブリタニアもなく、弱きを助け強きを挫くのだと、言ってのけたゼロ。

その言葉通りの活躍を、ゼロと黒の騎士団がしてみせていた事は、その後連日のように賑わしている紙面でも確認できていた。

ゼロと実際に対面したのは、おれがブリタニアに捕まり、処刑される事になった後だった。
おれを助ける為に現れたゼロは、「奇跡の責任を取れ」とおれに迫ってきた。
余力を残して敗北した日本人は、「厳島の奇跡」があるからこそ、余計にテロ活動が盛んになっているのは、間違いようのない事実だ。
だからこそおれはこの場で大人しく処刑されるわけにはいかず、ゼロの手を取っていた。


黒の騎士団のアジトに戻った後、ゼロの様子がおかしい事に誰もが気づいた。
みんながナイトメアフレームから降りても、一人だけ出てこようとしなかったゼロ。
騎士団の幹部達が、心配そうにゼロの乗る無頼を見上げる中、そのコックピットからは狂気を窺わせるゼロの笑い声が響いてきたのだ。
おれもまた表情を曇らせて無頼を見ていたし、後ろでは四聖剣が顔を見合わせていたのも判っていた。

暫くして、気が済んだのか笑い声の止んだ無頼から、ゼロが降りてきた。
ゼロがタラップを降り切るまで、誰も発言するものはいなかったが、降りた後、紅蓮弐式に乗っていた少女がゼロに駆け寄って尋ねた。
「あの、ゼロ。大丈夫ですか?」
「あぁ、カレンか。‥わたしは大丈夫だ。なんともない」
それはさっきまで、狂気を孕んだ笑声を響かせていたとは思えない程、落ち着いた声だった。
カレンと呼ばれた少女は、戸惑いながらも再度声を掛けた。
「あ、あの。先程は何故笑っていたのですか?」
ゼロは少女の方を向き(仮面を向け)、数瞬間を置いてから「あぁ」と頷いた。
「聞こえていたのか。少々皮肉でな。我が事ながら、あまりにも滑稽だったから笑っていただけだ」
少女の反応がなかったのをどう取ったのか、ゼロは少し置いて続ける。
「以前、枢木を助けたのは、枢木の無実をわたし自身が良く知っていた事と、弱者だと思っての事。だが、それ以前に既に牙を剥かれていたとはな‥」
そう言ったゼロの言葉に、少女を含めた黒の騎士団の面々は、納得顔になって頷いた。
それはゼロがゼロと名乗る前に、既に白兜と一戦交えていた事をあらわしていた。

少女から離れたゼロがおれの前まで来て立ち止まる。
「さて、『奇跡の藤堂』、それに四聖剣。黒の騎士団と行動を共にするか、それとも袂を分かつか‥。その返答を聞かせてもらおうか」
ゼロの問いによって、背後に感じた息を呑む気配に、チラと見れば、四聖剣の四人はそれぞれ酢を飲んだような表情をしてゼロを凝視していた。
それでも何も言わない四人からゼロに視線を戻すと、おれは口を開いた。
「‥共にしない、そう言えばゼロ、お前はどうする気だ?」
おれの言葉に、仮面のせいで表情の変化を知りようもないが、それでもこの場の空気が凍ったように感じた。
ザワリと黒の騎士団からざわめきが起こったのも、その変化を感じたからだろう。

「‥‥四聖剣。お前達はどうする?」
キリリと歯を噛み締める音の後に、千葉が口を開く。
「わたしはッ、‥中佐と行動を共にする」
「おれも藤堂さんに従います」
「おれも同じく」
続いて朝比奈と卜部が賛同したが、仙波だけは異なっていた。
「‥‥藤堂中佐を助けていただいた恩を返すまでは、ゼロに従おうと思う」
「「「仙波さんッ!?」」」
驚いた残りの三人が仙波の名を呼んでいた。

ゼロが溜息を吐く。
「それならば、月下をくれてやる。‥五人とも、すぐにこの場から立ち去れ。あぁ、この場所の事は他言無用に願いたいな」
ゼロは突き放すように言い切った。
この言葉に驚いたのは、残ると言った仙波と、白衣を着た褐色の肌のブリタニア女性だ。
「なッ、わしは残ると‥」
「ちょっとちょっと~。月下はキョウトが騎士団に寄越したナイトメアフレームなのよ~。出て行く者にそんなに簡単に渡しちゃって良いわけ~?」
だが、ゼロは少しも慌てず双方に言い返した。
「仙波。それは今回の戦いで十分だ。ラクシャータ。月下は初めから藤堂と四聖剣用として回って来た物。ならば当人に渡すのは筋に通っている」

おれは驚いた。
ラクシャータと呼ばれた科学者らしいブリタニア女性に向けたゼロの言葉は、すなわちキョウトがおれ達が騎士団と合流する事を察知していた事になる。
「なぁにそれ~。じゃあ月下を要請した時には、彼等が合流する事を予測してたわけ~?」
「あぁ。可能性としては七割程だと予測していた。合流した時、使えるナイトメアフレームがなければ、即座に動けまい?」
それでもゼロは平然と言ってのけ、おれは息を吐き出した。
「‥‥良いだろう。行動を共にしても良い。‥だが、その前に一つ質問に答えてもらいたい」
ゼロはブリタニア女性からおれへと顔を向けなおして頷いた。
「‥‥。答えられる事ならば、答えよう」

「‥‥‥‥‥。おれは、以前、お前に会った事があるだろうか?」
おれのその言葉に、そこかしこから叫び声が上がる。
朝比奈なども、「藤堂さん、それ本当ですか?」とか、「どうしてわかったんですか?」とかの言葉を口走っている。
暫くして静かになるまで、ゼロは黙ったままおれを見ていたと思う。

そして、静かになった後、ゼロはやっと口を開いた。
「‥ほぉ?どうしてそう思う?」
「以前、‥いや、七年前に一度」
問いで返すゼロに、おれは言い直した。
「‥‥‥。久しいな、藤堂。しかし、何故分かった?‥いや、それよりも、それを承知の上での言葉か?」
ゼロが認めると、再びざわめきが起こる。
近くだからか朝比奈の声が良く届く。
「七年前にたった一度?それでなんでわかるんですか、藤堂さんッ。てか仮面被ってるのにどうして?」
とひたすら驚いている朝比奈の声に被って、騎士団の、特に紅蓮弐式の少女と、ブリタニアの男一人の声が大きいようだった。

「承知の上で、だ。力になろう。あの日、『ブリタニアをぶっ壊す』‥そう言った言葉に嘘はないと分かっているからな」
おれはそう言い、一度月下に視線を向けてから続けた。
「それはキョウトも承知しているようだから、気兼ねもいらないだろう」
ゼロがフッと笑う。
「桐原公も、わたしと藤堂に面識がある事を知っていたのだから当然だな。しかし、何処でわかったのだ?」
首を傾げるゼロに、おれは呆れる。
ゼロの言葉、主張はそのまま、七年前の彼の言い分そのままだったし、行動を見ていれば或いはと思って当然だと思うのだが。
逆にスザク君が敵に回っている事に驚きを禁じえなかったくらいなのだ。
あの時、ゼロの素性に確信が持てなかったとはいえ、スザク君を焚きつけるような事を言ってしまったと、少しばかり後悔がないでもない。
そして改めて思うのだ、ナイトメアフレームでの笑いの意味を。
かつての、そして或いは今もまだ親友であろう二人。
その、かたや相手を救おうとして立ち上がり、かたや相手の邪魔をするために立ちはだかっているのだ、笑うしかないという心境だったのだろう。

「‥‥それをこの場で言っても構わないのか?ゼロ」
「なるほど。そうだな。では着替えたらわたしの部屋に来て貰おうか。昔話をしよう」
「了解した」
おれとゼロはそう言って頷きあった。
すると、三度ざわめきが起こっていた。

───────────
作成 2008.01.08 
アップ 2008.01.26 

ユーフェミアをその騎士スザクに任せて、半ば引きずるようにしてロイドを連れ出したセシルは、そのまま手近な空き部屋に連れ込んでいた。
「どーしたんだぃ?セシルくん」
「とぼけないでください、ロイドさん。‥‥本当に発表されてしまうのでしょうか‥‥皇女殿下の件は‥‥」
セシルはいつもの調子でのらくらと発言するロイドにきつく言ってから、一転不安そうな様子で訊ねる。
「そりゃ、皇帝陛下が許可したっていうくらいだしね。近日中には発表があるだろうねぇ」
室内を見回していたロイドは興味なさげに応じて、見つけた椅子に座った。
「なんとかならないんですか?スザク君、せっかく騎士になれたのですし‥‥」
セシルが重ねてロイドに問いかける。
「それはぼくに言うことじゃないよね、セシルくん。それに、一番の問題はそこじゃないしー?」
ロイドはあくまでも普段通りだ。
「それはわかってます。あのゼロの言が正しいかどうかは置くとしても、"日本人"達の反感は買いますよね、絶対」
「うん、それは確実だね‥‥。コーネリア殿下に一言相談していれば、こんな事にはならなかったんだろうけど」
「ダールトン将軍は知っていらしたんでしょうか?」
「どうかな。せっかく姉君がお付けになった補佐役だって言うのに、将軍も可哀想だよねー。立つ瀬ない上に行方不明だしぃ?」
式典会場で戦闘前に姿を見たのが最後だと言う、ユーフェミアの補佐役を二人は思い浮かべる。
だが、ロイドはそれも一瞬で終わらせてしまう。
「それよりも、ぼく達はこの後が大変だよ~、セシルくん。コーネリア殿下が向かっているからね~。合流したら、こんなのんびりとはしてられないよー?」
「コーネリア皇女殿下はどうなさるおつもりでしょう?」
「さぁね~。最悪、妹姫を本国に‥‥う~ん、それもまずいかなぁ。殿下の庇護がない状態で本国にいるのもまずくなるだろうし?」
「でも、このままエリア11に留まっているのも‥‥」
「ここで、ぼく達が頭を悩ませていてもどうにもならないんだけどね~。まぁ、早目に気づけて良かったんじゃないの?」
ロイドは明るく突き放す言い方をした。
「‥‥どういう事ですか?」
「『行政特区日本』が始まってからだともっと大変だったと思うよ~?ぼくは」
「‥‥それは、」
「行政特区日本」の成立が「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の名前で宣言される。
次いで、その「ユーフェミア・リ・ブリタニア」の廃嫡が宣言される。
すると、「行政特区日本」は有名無実の空手形になり、そこに集う"日本人"達もまた"イレブン"に逆戻りする事になる。
また、「ユーフェミア・リ・ブリタニア」廃嫡宣言のタイミングによっては、あぶれた"イレブン"による暴動が起きていたかも知れない。
そうすると、他のエリアでも同様の「特区」を求める運動や、暴動が起こるだろう。
そして、「行政特区日本」に参加した"日本人"となっていて"イレブン"に戻った人達も当然、「ユーフェミア」に対する怒りを抑えられないに違いない。
「あの場所で、ゼロが暴露したせいで、この程度で済んでいるのかも知れないよね~この騒ぎ」
「でも、」
反論をしようとしたセシルを制止して、ロイドは続ける。
「ぼくはねー。あのタイミングまで、ゼロは発言を控えていたんだと思うんだよねー」
「‥‥どういう事ですか?ロイドさん」
訝しげに顔を顰めるセシルが声を低くして訊ねるのだが、ロイドの答えはセシルにとって難解だった。
「ゼロはユーフェミア様に撃たれていたにも関わらず、誰の名前で『特区』が宣言されるのか、それまで待っていたんだと思うよーって」
「だから、それはどうしてですか?」
さっぱりわからないセシルはイライラ感を募らせるが、ロイドには全然通じない。
「んー。もしかしたら、別の名前で宣言されるのならば、大人しく引き下がる気が有ったのかな~って思ったんだよねー」
言いながらロイドはゼロのセリフを思い出す。
『第二皇女「コーネリア・リ・ブリタニア」か、第二皇子「シュナイゼル・エル・ブリタニア」の名前でなければ、機能しない事も、念頭になかったのですか?』
つまりゼロにはその二人の名前で宣言されていれば、「特区」に参加する意思が有ったのではないか、と思ったのだが。
「ま、その辺は、本人に聞かないとわからないんだろうけどね~。つまりゼロにとっては、本当にお姫様は『裏切り者』なんだろうなーと」
結局、ロイドの口調は、最後まで変わらなかったのである。


一方コーネリアは、アヴァロンに合流するべく、移動中であった。
「‥‥姫様」
執務机に両肘をついて組んだ手の上に額を乗せたコーネリアの様子に、心配したギルフォードが声をかける。
つい先程、第二皇子シュナイゼルからの通信が有ったばかりなのだ。
それまでは、ゼロの偽りだと思っていた、コーネリアの最愛の妹姫が「名前を返上した」件が事実なのだと知らされ、かなり凹んでいるのだ。
「‥‥わたしは、‥‥そんなに頼りない姉だっただろうか?ギルフォード」
ポツリと、コーネリアが呟く声には全くと言って良い程、力がなかった。
「いえ、そんな事はありません。姫様はとても頼りにされておりましたとも」
ギルフォードは反射的にそう返しながらも、妹姫であるユーフェミアに、勿論無理なのだが一言言いたい気分になってくる。
そう、せめて補佐につけたダールトン将軍にくらい相談していれば、きっと、何が何でも止めていたはずなのに、とギルフォードは確信している。
きっと、一人で考えて一人で決めて、一人で皇帝陛下に連絡を入れたのだろうと思うと、かなり悔しいと思うギルフォードだった。
「皇帝陛下に、発表を控えていただくように進言出来ないものなのでしょうか?」
ギルフォードは一番被害の少ない案を尋ねる。
「返上する」件がないのであれば、ユーフェミアの所業はゼロに対してのみの詐称だけと言う事になり、反感は最小限で済むはずなのだ。
「‥‥無駄だな。あの父上が、こんなチャンスを逃すとは思えない」
力なく頭を振るコーネリアは、自分が今情けない顔をしているとわかっているので、顔をあげる事が出来なかった。

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作成 2008.01.07 
アップ 2008.01.25 

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