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【ルルーシュ】
漸くの事で、ゼロの仮面のお陰でバレずに済んだ自失から覚めた。
覚めたからといって迂闊な事を口走るわけにはいかないので、今後の展開のシミュレートを始める。
まず最優先しなければならないのは怪しまれる事なくカレンを黙らせる事。
これ以上、カレンの持つ情報を藤堂や四聖剣に話されては、本気で困る事になるからだ。
しかし、だからといって、多少の事ではこの場を乗り切る事は出来ないだろう。
なんといっても朝比奈が異様に聞き出す気満々だからだ。
【藤堂】
千葉の言った色彩に覚えがあった。
昔、まだこの地がエリア等ではなく、日本だった頃。
死んだと、殺されたのだと聞かされて、絶望を感じた事を今も、昨日の事のように覚えている。
千葉の人物描写に耳を傾けたところで、開く扉の音に邪魔をされて不機嫌になる。
扉を開けたのは紅月で、紅月は千葉の言う人物を知っているらしかった。
だから即座に扉を閉めるように言ったのは、紅月を追い出す為ではなく、むしろ逃がさない為だった。
それを正しく察知したらしい朝比奈が素早く席を立つと扉を閉めて鍵を掛け、更には扉の前に居座った。
どうやら、朝比奈もまた紅月の話を聞く気満々なようだと気付いた。
【千葉】
先を知りたいと思った、しかしそれは仙波大尉達の言った意味でではない、と思う。
唯、知りたいと思っただけなのだ。
日本人の、イレブンの自分に対して、何の隔たりもなく接してくれたブリタニア人は初めてだったのだ。
ディートハルト達は同じ団員という事で、除外しておく。
まぁ、あの少年も身近に日本人がいたのかも知れないが、それでも嬉しかったのは確かで。
だからこそ、気になっていたのだ。
彼が時折見せた、寂しそうな表情や、辛そうな表情が。
彼の事を知りたいと思うのは、そのせいだろう、と思っている。
朝比奈が何故か聞き出す気満々なので、何かしら知り得るだろうと思った。
【朝比奈】
ふ~ん。
すっごく興味ある。
あの千葉さんが気に掛けるってだけでも珍しいのに、藤堂さんもなんだか気になってるみたいだし。
第一あのゼロがやめさせないんだから、ゼロも気にしてるって事だよね。
それぞれすっごく個性的っていうか、他者に無関心な人達ばっかりが気にしてるその少年の事がすっごく気になる。
千葉さん曰くすっごく美少年らしいし、出来るなら会ってみたいな。
さー、話して貰うよ、紅月さん?
ぜーったいに逃がしたりしないからねー。
【仙波、卜部】
な、なー仙波さん?
何も言うな、卜部。
けどさー、仙波さん。
言うな。関わらぬ事だ。
でも。なんだかその少年を巡った争いが始まりそーな雰囲気が。
言うな。藤堂中佐と千葉だけでも大変だと言うのに。
‥‥ゼロも参戦しそーだし、それを朝比奈が煽る気満々だなー。
紅月が防波堤になるかも知れぬし、嬉々として差し出すかも知れぬ。
ぅわー‥‥。関わりたくねーなー。
ならば黙って関わらねば良い。
うん、そーするよ、仙波さん。
【カレン】
ど、どーすれば良いですか、ゼロッ!
朝比奈さんは嬉々とした表情で期待の眼差しを向けてくるし。
藤堂さんはさぁ話せと言わんばかりに睨みつけてくるし。
千葉さんも控えめながら話を聞きたいオーラ出してるように思えるし。
仙波さんと卜部さんは逆に聞きたくないと言った様子でさりげなく視線を逸らしているし。
ゼロ、話しても良いんですか?
というか、あいつの話をしてゼロを煩わせるのもどうかと思うんですけど。
というよりも、あいつの話をゼロの耳に入れたいとは思わないんですよね。
お願いですから止めてください、ゼロッ!
ゼロが一言言ってくだされば、藤堂さんや四聖剣が幾ら尋ねてきても話したりしませんからッ!
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作成 2008.08.29
アップ 2008.10.07
──「反響と戦慄」編──
ダールトンは黒の騎士団の格納庫にそれを見つけた時、柄にも無く絶句していた。
「あぁれまぁ、グロースターじゃないのぉ。これってぇ、あんたの?」
いつの間にか、隣に来ていたラクシャータがのんびりと驚いた声を上げた。
「わたしの専用機ではあるが、わたしが持参したわけではない。‥‥‥‥何故ここに‥‥?」
グロースターの隣にはサザーランドまで並んでいる。
「わたしが運ばせておいた。次の戦闘には参加して貰おうと思ってな」
ゼロの声にダールトンとラクシャータが振り返ると、ロイドとジェレミアを纏わり付かせたゼロと、軍事責任者の「奇跡の藤堂」がいた。
「貴方が?まさか単独で潜入なさったとは言いますまいな?」
「‥‥‥‥おれも聞きたい、ゼロ」
藤堂が問いに便乗する。
「いや?流石に一人で二機同時は無理だ。短期の臨時協力者を調達して任せた。その際、操縦させたから将軍とオレンジ君は調整に念を入れてくれ」
ゼロは軽くそう答えると、「ラクシャータ、プリン伯も協力してやれ」と技術者二人にも声をかけた。
「いぃわよぉ」「任せてくださ~い、我が君♪」
ラクシャータとロイドはあっさりと快い返事を返したが、主の手を煩わせたとジェレミアは恐縮し、藤堂とダールトンは気にかかる言葉に眉を寄せていた。
「ゼロ。その、『短期の臨時協力者』というのはなんだ?」
「言葉通りだが?藤堂。オレンジ君のナイトメアは紅蓮が壊していたから、そこらのを盗って来たらしいがな」
とぼけているのかホントに分かっていないのか、そう説明するゼロに、藤堂とダールトンは顔を見合わせてからそれ以上の質問は控える事にした。
ダールトンの出奔をイコール黒の騎士団への転向と結びつける事は出来なかった。
既にロイドという前例が有ったからこそ、余計に結びつける事を拒否していたと言うべきだろう。
更にダールトンの人柄というか、人格というか、およそ寝返りをするような人物に見えなかったという事も一因だった。
そうして、捜索という無為な時を過ごしている間に、気付けばジェレミアという三人目が軍病院から消えていた。
ジェレミアはオレンジ疑惑という恨みをゼロに抱いていると広く思われている為、更に騎士団と繋げる声はなかった。
どちらも、騎士団の出動がなかったせいだとも言えたが。
コーネリアは、エリア11に到着したばかりのシュナイゼルに呼ばれ、ギルフォードを連れて彼の執務室に来ていた。
「お呼びと伺いましたが?」
「あぁ、そうだね、コーネリア。まぁ、座りなさい。ギルフォード卿、君もね」
手元の書類から目を離さないまま、書き付ける手を止めないまま、そう言ったシュナイゼルにギルフォードは眉を寄せた。
しかし、コーネリアが気にする事無くソファに沈み、ギルフォードを招いたので、気を落ち着かせたギルフォードもソファに座った。
一段落をつけたシュナイゼルが顔を上げて立ち上がり、コーネリアとギルフォードの正面に座るのに数分。
「‥‥それで、義兄上。お話とは?」
「ロイドが黒の騎士団に下ったと聞いたのでね。相対した君達に直接話を聞こうと思ってね」
シュナイゼルの言葉に、今度はコーネリアも渋面を作る。
「義兄上。今はそれどころではないのですが」
「あぁ。ダールトン将軍が出奔したんだってね。‥‥それにクロヴィスのところにいたジェレミア辺境伯もだね」
「全く。何を考えているのかッ!」
「そう言えば、グロースターとサザーランドが紛失したんだって?盗まれたのかぃ?」
シュナイゼルの言葉に、コーネリアとギルフォードは「昨日の出来事なのに何故知っている!?」と目を剥いた。
「まさかとは思っていたのだけど、二人とも騎士団に下ったのではないかな?」
「そんなッ!ありえません、殿下。ダールトン将軍は真面目実直な方ですし、裏切りをおこなうような人物では‥‥。それにジェレミア卿はゼロを恨んでいます」
ギルフォードが慌ててダールトンの弁明をし、ジェレミアの事情というか私怨すら出して説明する。
弁明しながらもギルフォードにも思い当たる節が有ったので、その勢いはあまり強くはなかった。
「しかしナイトメアを持って行った。ダールトン将軍の専用機とジェレミア辺境伯が乗っていた物と同じ型のがね」
シュナイゼルはそれでも平然としている。
「何が仰りたいのですか義兄上」
「奪ったのは使うからだろう?次の黒の騎士団との戦い、二人が出て来る事を想定しておいた方が良いよ?」
コーネリアはシュナイゼルの忠告めいた言葉に、気分が重くなるのを感じていた。
ブリタニア軍は驚愕していた。
コーネリアとギルフォードは、シュナイゼルに可能性を示唆されていただけ驚きは少なかったがそれでも愕然としたのだ。
ゼロのナイトメアと思われる無頼の隣に、赤い最精鋭紅蓮弐式と、「奇跡の藤堂」の乗る月下隊長機がその存在を主張している。
その周囲に、元特派の主任ロイド・アスプルンドが乗っていると判明しているランスロットが今度は最初から姿を見せていた。
更にはダールトン専用機のはずのグロースターと、サザーランドが一機、どちらも先日盗まれたナイトメアが控えているのだ。
『ま、まさかダールトンだと言うのかッ!!?』
コーネリアは思わずオープンチャンネルでそう叫ぶように訊ねていた。
『その通りですよ、コーネリア皇女殿下。この度、採用させて頂きました。そうそう、騎乗するナイトメアがないと不便だと思い徴収させて頂きましたよ?』
応じたのはゼロで、人を喰ったような言いように、ブリタニア軍将兵は呆れ、ダールトンは慌てる。
『ゼロッ。その、もう少し穏便な言い方をして戴きたいのですが』
『穏便?‥‥グロースターとサザーランドは有り難く受け取りました、で良いか?』
『ダールトンッ!!何故そこにいる?わたしに愛想をつかせたのか?そんなに至らない主だったというのか!?』
『いいえ、姫様。わたしは姫様にお仕えする事が出来て幸せでございました。ですが、ゼロを敵にする事だけは出来ません』
『何を言っている!?』
『‥‥お気持ちは変わりませんか?ダールトン将軍』
コーネリアの焦る声とは異なり、ギルフォードは何かを悟ったような、冷静な声音でダールトンに問いかけた。
『変わらぬ。姫様には申し訳ないと思いますが、わたしは今後、ゼロにお仕えする所存です』
『くッ‥‥。わたしはそんなにゼロに劣ると言うのかッ!答えろッ、ダールトン!!』
「ぅわぁー。コーネリア皇女殿下ってば気づいてないんですねぇ~」
騎士団内の回線でロイドがポツリと呟くように言う。
「‥‥確かに気づいておられなければ、この反応は致し方ないとは思われますが‥‥」
それを受けてジェレミアが応じる。
「その点、ギルフォードは気づいているようだが?」
そう割り込んだのは、オープンチャンネルを切ったゼロだった。
「彼はコーネリア殿下の選任騎士だからねー。先に将軍が来ちゃった事も手伝って身動きできないんじゃないかなぁー、逆に?」
「身動き‥‥って、別に気づいたからと言って必ず寝返るとは限らないだろう?」
「「限るから申し上げてるんです(よー)。我が(君/主)」」
ロイドとジェレミアに同時に言われて、ゼロは「そ、そうなのか‥‥」と曖昧に頷いた。
『劣りはしません。ですが‥‥』
『ダールトン将軍。貴方がそちらに付く事にしたと言い切った以上、最早覆りはしないと判断し、今後はブリタニアの敵として扱います』
ダールトンの言葉を遮るように、ギルフォードはダールトンに対して宣告を下し、言葉を切ってそれを聞いたダールトンは笑みを見せた。
『‥‥それで良い。ギルフォード卿。‥‥ゼロ、ご命令を』
『なッ‥‥ギルフォードッ、何故!?』
慌てたのはコーネリアで、ダールトンを切り捨てるような事を言ったギルフォードに抗議した。
『藤堂、カレン、‥‥‥ロイド、ダールトン、ジェレミア。仙波、卜部、千葉、朝比奈。作戦を開始する』
ゼロは暫く迷った後、オープンチャンネルで言う事でもないか、と愛称を言うのを控えて命じた。
これに若干二名程が狂喜乱舞したのはいうまでも無く。
「ハイテンションな白兜とサザーランドがこれまで以上の活躍を披露した」とだけ記しておく事にする。
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作成 2008.05.28
アップ 2008.10.04
トレーラーの一階で、騎士団幹部達は休憩を取っていた。
四聖剣の3人は隅の方に陣取って座っている。
傍目にはいつものように休憩を取っているように見える。
しかしいつもと違うところがあった。
一つには四聖剣と一緒に休憩を取る事の多い藤堂の姿がない事。
一つには四聖剣の最年長者、仙波の姿がやはり見られなかった事。
そして一つにはその場にいる卜部、千葉、朝比奈の様子がいつもよりも硬い事があげられるだろう。
ゼロのいない緊張しなくても良い、穏やかな時間。
それを破るかのように、ばたばたと騒々しい音とともに駆けつけてきたのはその場にいなかった幹部の南だった。
「扇ッ!大変だ」
その言葉に、一同の表情に一瞬にして緊張が走る。
名指しされた扇は、がたっと立ち上がって南を見る。
「どうした!?」
「今、キョウトから‥‥てか桐原公から連絡が有って、至急に扇副司令と話がしたいって」
南の言葉に、その場の空気がざわついた。
何故「副司令」の扇を名指ししたのか?とそれぞれが疑問に思ったからである。
「‥‥おれ、に?ゼロにではなく?」
「あぁ、出来るだけ早い方が良いらしいから‥‥‥‥」
戸惑っている南にこれ以上聞いても分からないだろうと、扇は頷いて出口へと向かう。
そこへ着信音が鳴り響き、扇の足も止まった。
慌てたのは着信音が鳴った携帯の所持者である卜部である。
「ッ‥‥すまん」
卜部はそう言うと幹部達に背を向けるようにして通話を繋げた。
『すまない。今、良いか?』
スピーカーにしていないので、相手である藤堂の声が聞こえるのは当然ながら卜部だけである。
「あー‥‥はい」
『‥‥不都合ならば、適当に相槌していれば良い』
「はい」
卜部の様子に足を止めたままの扇を筆頭に視線が卜部に集中している。
『桐原公が扇に連絡を取るそうだ。一応、おれのところにも連絡が有った為に至急に出かけたと言う事にしておいてくれ』
「え‥‥と」
『これから戻る。話は戻って、落ち着いてから話す。頼んだ』
「えッちょッ待ってくださいッて、それなら‥‥って切れてるし」
慌てた声を出した卜部はがっくりと肩を落として切れた携帯に力ない苦情を述べた。
「‥‥今の、藤堂さんか、仙波さん?」
そろっと尋ねたのは急ぎのはずの扇だった。
「あー‥‥中佐、です。中佐のところにも桐原公から連絡が有ったとかで‥‥」
卜部は答えながらも恨めしげな視線を携帯に向ける事を忘れない。
無言で続きを促す恐らくはその場全員の視線を受けて、卜部は「この落とし前は取って貰いますからね、中佐ぁ」と心中で叫んでから続けた。
「大至急だって呼び出されたとかで、仙波さん連れて出たそうです。詳細は戻ってからで、後扇さんにも桐原公から連絡が行くとかなんとか‥‥」
卜部の説明に、視線は自然と扇へと移る。
扇はうろたえながらも「と、とにかく桐原公と話をしてから、だな」と言うと通信室へ向かう為に扉から出て行った。
残った幹部達は顔を見合わせてから、扇の後を追う事にしたらしく、我先にと部屋を出て行った。
残されたのは四聖剣の三人だけとなった部屋で、卜部は深々と溜息を吐いた。
「中佐はなんと?」
「んー‥‥とだな」
卜部は唸りながら周囲を見渡し、誰もいない事を確認すると、声を潜めて続ける。
「急用で仙波さんと出掛けたってぇ先が桐原公んとこだったらしいな。んで、これからこっちに戻って来るんだと。後は言ったとおりだ」
「‥‥‥あれ?じゃあ桐原さんって今こっちに出てきてるんですか?」
「じゃねぇのか?」
引っ掛かりを覚えた朝比奈が尋ねると、卜部は投げやりに答えて嘆息した。
一方扇は桐原との連絡を取り付ける。
『すまぬな』
「いえ。‥‥それで、おれに話とは‥‥」
『実は所用で租界にきておるのだがな。身辺をうろつく不振人物を捕らえてみれば騎士団の者らしく、相違なければ引き取りに来るように、との要請をな』
桐原の言葉に扇と、部屋の外で聞いていた幹部達は驚く。
「えっと、藤堂さんを呼んだのがその件、ですか?」
『いや?それはまた別件だな。‥‥さて、所持していた身分証には「ディートハルト・リート」とあるのだが?』
扇は危うく声を上げそうになり、背後から聞こえた「ぐぇ」とか「げぇ」とか「なにしてんだあの野郎」と言った声は無視する。
「た、確かに、団員‥‥ですが‥‥。き、桐原公に何かご迷惑を!?」
扇は蒼白になるのを感じながらもなんとかそう尋ねてたのだった。
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作成 2008.08.19
アップ 2008.10.02
カレンからC.C.の伝言を聞いた四聖剣は一瞬沈黙した。
「なんかさ。藤堂さんをずっとゼロにつかせときたいっぽいみたいだなぁ、C.C.ってばさ」
朝比奈が渋面を作ってぼやく。
「それで紅月、用件とはゼロのなのか?それともC.C.の用なのか?」
仙波が紅蓮に乗るカレンに問い掛ける。
「え‥‥。多分C.C.の用だと。ゼロが指示したにしては曖昧だし‥‥」
カレンは首を傾げてC.C.の様子を思い出しながら答える。
「仙波さん、卜部さん。どうせ交代の予定だったのだし、とりあえず戻って話聞いて来たら良いんじゃないですか?」
「紅月。ゼロの様子、ラクシャータはなんと?」
「ダメです、千葉さん。あの後すぐラクシャータは部屋に篭ったから詳しい話なんて聞けてません」
「‥‥ってC.C.の頼み事の件で?結局あれってなんだったの?」
「それも全然。けど、あのラクシャータがナイトメアの整備より優先させてたんで、整備班の人達が驚いてました」
「紅月、仮面はラクシャータが持って行ったのか?それともC.C.が?」
千葉に問われて、カレンは思い起こすが。
「え?二人とも手ぶらだったような気がする‥‥。え、ちょっと待って‥‥うん、持ってたら気づいたはずだもの」
仮面を見たのはガウェインに入るまでで出てきてからは見ていないのだ。
「ん?てもしかしてガウェインの中に置きっ放しとか?」
「「「‥‥‥‥」」」
「面白ぇ。仙波さん戻ろう。ガウェイン覗いたら仮面置いてないかな?」
「まぁ、仮面持って行けば部屋を訪ねても不思議ではなかろうが‥‥」
渋りながらも頷いた仙波は、千葉と朝比奈とカレンに後を任せると、卜部と共に戻っていった。
二機の月下が誘導にしたがってG1の格納庫に収まると、すぐに卜部が飛び出してきた。
「何事だ?」と格納庫に居た者達が首を傾げる中で、卜部はすぐ側に置かれていたガウェインのコックピットへと向かった。
「って待ってください。ラクシャータさんもゼロもC.C.もいないのに勝手に覗かないで下さいよッ!」
慌てた整備班の技術者達が後を追う。
「‥‥卜部さんどうしたんだ?」
扇が首を傾げながら、ようやく月下から降りてきた仙波に近付いて尋ねる。
「あー‥‥とですな。紅月からC.C.もラクシャータ殿も仮面を持っていなかったと聞いたので、ガウェインに置きっ放しなのかと気になりましてな」
それが聞こえていた整備班達は追うのをやめ、仙波を一瞬振り返ってから、コックピットを覗き込んでいる卜部に集中した。
程なくして卜部は上体を起こすと仙波を振り返って首を振った。
「ダメだな。ないぜ、仙波さん。紅月が見てないだけでどっちかが持って行ってたんじゃないっすかねぇ?」
しかし扇も整備班の一同も首を傾げる。
「い、いや。そういえばおれも見ていない」
扇がそう答えると扇と仙波、卜部が顔を見合わせ、整備班もそれぞれ顔を見合わせる。
「てぇ事は、今ゼロの部屋に行くと仮面被ってないって事は?」
「あ、いや、それは。C.C.は予備だと言っていたから‥‥。第一、ゼロの部屋には藤堂さんがいるわけだし‥‥」
卜部の言葉を扇が否定するのだが。
「とにかく、だ。わしと卜部はC.C.に呼ばれておる。C.C.はどこだ?」
「C.C.なら‥‥ゼロの部屋に戻ったけど‥‥。二人の内のどちらかだったんじゃ‥‥?」
「そうなのか?紅月はそうは言っていなかったのだが」
「ま、良いんじゃないか?とにかく行こうって」
卜部がそう言うと、仙波が躊躇いがちに頷いて歩き出した卜部に続く。
扇と整備班はその後姿を酢を飲んだような表情で見送った。
こんこん、とノックがして藤堂は顔を上げる。
ベッドを占領するC.C.がルルーシュを見てから扉へと視線を移して起き上がった。
藤堂は隣で眠るルルーシュを起こさないように、仮面を被せる。
その間に、C.C.はベッドから降りてスタスタと扉に向かっていた。
「誰だ?」
『卜部だ。仙波さんもいるけど。用が有るって紅月から聞いてきたんだけど?』
C.C.の誰何の声に卜部の声が返る。
「あぁ、そう言えば頼んでいたな。藤堂、二人を借りるぞ?」
「‥‥何をさせるつもりだ?」
「なに、ちょっとした警護だ。危険は、多分ないさ」
「ブリタニア軍への警戒よりも重要なのか?」
「ある意味重要だろう?ま、ずっとじゃない。一時的なものだから、そうそう穴は開かないさ」
「‥‥‥ならば、良いだろう。仙波、卜部。聞いたとおりだ。C.C.の頼みとやらを聞いてやれ」
『『承知ッ』』
C.C.との短いやり取りの末、藤堂は扉の外にいる部下二人に指示を投げ、二人は即座に是を返す。
「じゃあ、ここは任せるぞ、藤堂」
C.C.はにぃっと藤堂に笑みを見せると扉を開けて外へと出て行った。
開いた扉から仙波と卜部は思わず中を窺おうとしたが、ゼロの姿も藤堂の姿も見る事は叶わなかった。
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作成 2008.07.22
アップ 2008.10.01
藤堂が終わりを知らせると、ゼロは礼を言って衣装を元通りに着直した。
「しっかし、君って色白いねー」
朝比奈が感心したように今は衣装の下に隠れてしまった肌を評した。
「‥‥日焼けしていないだけだ」
むすッとした声音でゼロは応じた。
「酷くぶつけているところもある。熱を持つかも知れないぞ」
藤堂が忠告するとゼロは当然だといった様子で「だろうな」と同意した。
「冷やせる物は持っている。他の物を持ち出す余裕はなかったがな」
「って、なんだって冷やすもんだけ?普通もっと別なの持ち出さないか?」
「‥‥違う。携帯していただけだ。あの時は、外していた仮面を被る時間しかなかったと言う意味だ」
卜部の疑問にゼロは「殊更冷やす物を掴んだ訳じゃない」と言い直す。
「あれ?じゃあ君ってナイトメアの中だと仮面外してるんだね」朝比奈が驚いた声をあげた。
「‥‥悪いか?」
「え?全然。通信とかはするだろうから、声はそんなに変えてないんだなぁって思っただけ」
「‥‥そう思うか?」
意味深に問い返されて朝比奈は言葉に詰まる。
それ以上質問がないようだと朝比奈から仮面を巡らせたゼロは藤堂に向き直る。
「‥‥ところで、ここはどの辺りになる?」
「まだナリタの中腹だ。‥‥君の仲間はどうしている?」
「それならばとっくに離脱している。‥‥‥逃げ遅れたのは、わたしだけのはずだ‥‥」
苦々しい口調の中に自嘲気味な気配が混じったなんとも言えない声が仮面から響く。
白兜に追い詰められたのが余程悔しいのだと言う事が声だけで察せられる。
「ってゼロ見捨てて逃げたの?みんな?」
残ったのがゼロだけだと聞いて、朝比奈はそれにも驚く。
確かに上官が部下を見捨てて逃げるのならば論外だけど、上官を守らず先に逃げる部下もありえないように思ったからだ。
「違うな。わたしが指示を出した。‥‥想定外だったのは白兜の執念深さだ。‥‥計算ではわたしも逃げ切れていたはずだっただけだ」
しかしゼロは、騎士団が先に戦場を離れた事に関しては特に何も思っていないのか、あっさりそう答える。
「‥‥何もかも一人で背負うつもりなのか?君は‥‥」
曖昧な藤堂の問いに、ゼロは仮面を傾ける。
「何が言いたい?藤堂。一人では無理だと判ったから騎士団を作った。‥‥確かに元は一人でやるつもりだったがな」
「って一人でブリタニア相手に!?それは無謀でしょ?‥‥まぁ、君は枢木スザクを救ってみせたけどさぁ」
「だから騎士団作ったって今言ったばっかりじゃねぇか。お前ちっと黙ってろよ」
驚く朝比奈に卜部が注意する。
「組織を作ったところで、今のままでは君一人がいなくなるだけで、烏合の衆となる脆さがある。つまり君にだけ負荷が掛かっているという事だ」
「なるほど。ゼロの指示がなければ的確に動けぬのでは、そう言わざるを得ませぬが‥‥」
仙波が藤堂の言い分に同意する。
「仕方がない。作ったばかりの組織だ。使える人材はこれから集めるさ。言っただろう?初めは一人でやるつもりだったと。組織作りは想定外だったんだ」
再びむすっとした声音で返すゼロに、四聖剣は顔を見合わせた。
どうやらこちらの意図した事とは違う意味で捉えたらしい事が察せられたからだ。
「短期間でこれだけの組織にした君の力量は認める。だが、騎士団の団員達が君に頼りすぎているのではないか、と言っている」
「‥‥‥頼る?リーダーに指示を仰ぐのは当然の事だろう?でなければそれこそ烏合の衆だ」
「まぁ、そうなんだけどさー。なら、あれだ。お前以外、考えてなないんだか考えるのを放棄してるかだな。それと想像力なさ過ぎだ」
「ぅわ、卜部さん、はっきり言いますね。おれも同意見ですけど」
仮面を傾けるゼロに、卜部はきっぱりと言い、そんな卜部に呆れながらも朝比奈も同意する。
ゼロが何かを言いかけた時、カランと小石が落ちる音がして、一瞬にしてその場に緊張が走った。
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作成 2008.07.29
アップ 2008.09.30
「承知」と応えてしまったが、それでも四聖剣は悩んでいた。
「仙波さん、やっぱり会わせてあげたいんですけど‥‥」
まずは朝比奈がそう言った。
当然ながら側には四聖剣しかいない。
「‥‥しかし。紅月には関わらせる気はないとはっきりと仰られている。何か理由が有るのかも知れぬ」
仙波が藤堂の言葉を無視するのはまずかろうと朝比奈を抑える。
「なら、おれ達が直接」
「ダメだろ、それは。相手はブリタニアの学生だぜ?イレブンが近くをうろちょろしてたら迷惑掛けるだろ」
卜部が諌め、更に「第一、ゼロから租界には出るなって言われてるだろ」と付け加える。
「んー‥‥と、ならブリタニア人って事で、ディートハルトに頼」
「ダメだ」
代案を考える朝比奈の言葉をみなまで言わせず千葉が却下する。
「あの少年にディートハルトを関わらせるのは危ない気がするから、それは却下する」
「むー‥‥。ならC.C.はどうかな?彼女ならピザでつれるかも知れないし。ついでにゼロに言わないように口止めも出来るかもだし」
朝比奈の次なる代案に、千葉は詰まって仙波と卜部を見て「‥‥‥‥どう致しますか?」と尋ねる。
「‥‥‥‥‥‥他に任せられる奴いねぇし‥‥なぁ?」
卜部も渋々と言った様子でそう言って仙波に視線をやり、三人の視線を受けた仙波はこれまた渋々と頷いた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥致し方あるまい」
最早心境は「背に腹は代えられない」というやつであろう。
ゼロが来ていない事を確認してから四聖剣はゼロの部屋を訪れる。
旨くすれば、C.C.がいるかも知れないと思って、代表で卜部が扉をノックする。
そして扉は開かれ不機嫌そうなC.C.が顔を出した。
「何だ?‥‥ゼロならば来ていないぞ」
「うん、それは知ってる。ちょっとC.C.に話っていうかお願いが有るんだけど‥‥」
眉を寄せるC.C.に朝比奈がさっくりと用件を切り出し、C.C.は改めて四聖剣の顔を見渡す。
「わたしに?言っておくがゼロの素性とかは話さないぞ。後、話は聞くが、願いは必ず叶えるとは約束できない」
C.C.は眉を寄せたままそう言うと、「それでも良いなら入れ」と言って扉を大きく開いた。
「あー‥‥うん。ゼロの素性とかは知りたいけどそれはまた今度って事で、今回は別件だから入れて貰うねー」
朝比奈はそう言って残る三人を振り返り、頷きが返ってきたのを見届けてから中へと入った。
千葉が続き、仙波が続き、卜部が入るとC.C.は扉を閉ざし、ロックを掛けたのだった。
「‥‥で?」
C.C.は一人どっかとソファに座り、チーズ君を抱え込むと四聖剣に椅子を勧めもせずに尋ねた。
そんならしいといえばらしい行動に四聖剣はそれぞれ苦笑を浮かべる。
「んーと。座って良いかな?てか座るねー?」
そして朝比奈はこちらも我が道を貫くのか、そう言ってから返事も待たずに向かいのソファにさっさと座ってしまう。
「図々しい奴だな。‥‥まぁ適当に座れば良いさ。わたしとしてはさっさと話しなんだか願いなんだか言って引き上げて欲しいところだがな」
一応の厭味だか許可だかの言葉を受けて仙波達もソファに落ち着いた。
「その。租界への使いを頼まれて欲しいのだが」
千葉がそう切り出した。
「租界?何故わたしに?それならばカレンとかディートハルトにでも頼めば良いだろう?」
チーズ君に軽いパンチを喰らわせながら、C.C.はやる気なさげに反論する。
「紅月は事情が有って頼めなくて、ディートハルトは事情がないけど頼みたくないっていうか、なんというか‥‥でな」
卜部が名前の挙がった二人に頼まなかった理由を説明する。
「‥‥なんだそれは。‥‥まぁ、後半は分からなくもないが。それで?」
卜部の説明に呆れながらも理解を示したC.C.は先を促す。
「‥‥‥‥。引き受けて下さるにしろ、引き受けぬにしろ、これからの話は他言無用は是非とも守って頂きたいのですが」
仙波が真面目な表情でC.C.に迫る。
「ふむ。‥‥ならばまずはその口止め料を請求するべきか?」
「お前さぁC.C.。おれ等が言う事じゃないだろうけど、あんまピザばっか喰ってると身体に悪いぜ?」
当然のようにピザを要求するC.C.に卜部は呆れた口調ながらも忠告を入れる。
「ふんっ。ピザの良さが分からん奴は黙ってろ。それで?」
「当然ゼロにも内緒って事で、3枚!」
朝比奈が3本指を立てた手をC.C.に向けながら言う。
「あいつにも内緒なら5枚、だな。あいつは変なところで鋭いからな」
C.C.はにやりと笑って応酬する。
「一体最終的に何枚請求されるんだ?」とは四聖剣の共通の思いだったりするが、誰も口には出さなかった。
「間を取って4枚だな。‥‥良いだろう?C.C.」
千葉が一枚でも減らすべく、そう切り替えした。
「まぁいいだろう。さぁ、時間切れで追い出される前にさっさと話せ?」
C.C.の合意を得て最初の交渉が一段落着くと、四聖剣は頷きあって話を進めた。
「租界にある紅月の通う学園の生徒に言伝を頼みたいのだが」
そう言ったのは仙波で、C.C.はその仙波の顔をマジマジと見ながら内心で心底驚いていた。
しかし四聖剣には呆れているとしか見えず、卜部は苦笑し、朝比奈はへらりとした笑みを見せた。
結果を言えば、C.C.は説明を聞いた後、にやにやとした笑みを見せながら引き受けた。
要求したピザの数は諸々有って大量の20枚。
四聖剣はC.C.に対し、何とか交渉し、合計で20枚のピザを、ピザの代金を支払う事になったのだった。
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作成 2008.08.19
アップ 2008.09.12
──面接「ヴィレッタ」編──
わたしは心配ないとは思いつつも、用心しながらゲットーを歩いていた。
記憶を失っていた間に世話になっていた男が、騎士団の人間だと知った。
記憶がなかった間の事は覚えていて、自分はその男を慕っていたという事も自覚していた。
でも、記憶が戻れば自分は軍人で、騎士団とは敵同士、とても共にはいられない、と黙って出てきた。
軍に戻る前に、記憶がない間の情報を得ようと動き、大きな変化がある事を知った。
特派の白兜を抱えてそこの主任が騎士団へと寝返ったという。
それに続くかのようにダールトン将軍と、そしてあのゼロを目の敵にしていたジェレミア卿までが騎士団側として戦場に立ったという。
その3人に共通する事‥‥と考えていて気付いたのだ。
ゼロの素顔、それは写真を見た時にも思った事では有ったのだが、知っている顔に似ていたのだ、だからこそ特に気になっていた。
でもあの時は、這い上がる事しか考えておらず、何故這い上がろうとしていたのかすら忘れていたのだ。
けれど、今は。
わたしは自らの意思で、騎士団への入団希望届けを投函し、面接だからと呼ばれてのこのことやってきているのだ。
目的地の前まで来ると、ダールトン将軍が出迎えの為なのか待ち構えていた。
「‥‥‥ダールトン将軍」
「ヴィレッタ・ヌゥだな。心変わりがないのであれば、付いてくるが良い」
ダールトン将軍はそう言うと踵を返し中へと入っていく。
わたしは躊躇いもせずにその後に続いた。
どこか別の場所での面接になると思っていたのだが、通ってきた格納庫には騎士団のナイトメアが並んでいてここが既にアジトなのだと知って驚く。
通された場所は会議室のようで、面接というには多すぎる人数が集まっていた。
正面にゼロ。
その右に恐らくは「奇跡の藤堂」、左にはジェレミア卿が座り、ゼロの背後には特派の主任が立っていた。
更には、白衣を着たイレブンでは有り得ない女性が特派主任に「座りなさぁい、プリン伯爵ぅ」と声を掛ける姿も有った。
このような場で「プリン伯爵」などとふざけていると思っていると、ゼロが主任を振り返る。
「場所はそこで構わないから椅子を持ってきて座れプリン伯。でなければ‥‥」「ぅわ、判りました判りました」
ゼロの半ば脅しの文句に主任は慌てて椅子を一つひょいっと運んできて場所を確保していた。
どうやら、主任の名前になっているようだ、とその事についてはスルーする事にして首を巡らした。
「奇跡の藤堂」の更に右に要さんの姿を見つけ、その表情に安堵の色を見つけてホッとする。
更には、ここまで案内してきたダールトン将軍がジェレミア卿の隣に座り、更に隣に視線を移して、そこで固まった。
「なッ、‥‥何故貴様がここにいる?ディートハルト・リート」
思わず鋭く尋ねていた。
当のディートハルトは肩を竦めただけだったが、ジェレミア卿が応じる。
「騎士団の情報・広報担当らしいぞ、ヴィレッタ。我々はどうやらとんでもない男に話を持ちかけていたらしいな」
ジェレミア卿は憤るでもなくそう言い、用意された椅子に座るように手振りで指示を出した。
大人しく椅子に座る間に、一同の視線がディートハルトに注がれ、ディートハルトは居心地悪そうに身動ぐ姿が見られた。
「あー‥‥その。お二人が、ナリタに出掛けるのでととある調査の依頼を持ってきまして‥‥」
ディートハルトはジェレミア卿とわたしを気にしながら説明した。
「なるほど?その情報をそのまま騎士団に流したわけか。入団を引き換えに」
ゼロと要さんが納得して頷き、「奇跡の藤堂」も「それで騎士団はナリタにいたのか‥‥」と納得したようだった。
「ねぇ。『とある調査』ってなにかなー?」
「プリン伯爵」の言葉に、わたしとジェレミア卿が同時に「それはもう良いッ!」と声を上げていた。
この場に、ゼロの素性を知らない者がいては大変だ、というのがその理由である。
けれど再び一同の視線はディートハルトに集まる。
「あー‥‥その、ですね。ゼロの関係者が、アッシュフォード学園にいる、という事なので、調べるように、と‥‥‥ぁあああ!!!!」
言いながらディートハルトの声は段々と小さくなっていき、最後に叫ぶようにしてゼロを見た。
「もしやッ!あの写真の少年ですか?確か名前はルルーシュ・ランペルージと」
ディートハルトの叫ぶような確認の言葉に、わたしとジェレミア卿は身を縮める。
「あらぁ?やぁあっとわかったみたいねぇ?バレちゃったわよぉ、ゼロぉ」
キセルを揺らしながら女性がゼロに「どぅするぅ」と笑みを向ける。
要さんが驚いたように突然叫んだディートハルト・リートとゼロとを見比べている。
どうやらこの場で知らなかったのはこの二人だけだったのだと知る。
「‥‥‥写真?」
ゼロがディートハルト・リートに仮面を向けてから、ジェレミア卿とわたしに仮面を巡らした。
「‥‥その。シンジュク事変の折にわたしからナイトメアを奪った、その時の関係者と思い、ならばゼロと関連があると‥‥」
「写真はどうやって手に入れた?」
「それは‥‥ナリタでの事後処理中にその写真を持っている女生徒の手帳から‥‥」
説明をしている途中でゼロから息を呑む気配が伝わってきて、わたしは口を噤んだ。
「‥‥それ以上は良い。‥‥話は繋がったからな。一応聞いておく。‥‥入団を希望した動機を」
「ぇえ!?繋がったって、我が君。我が君の事を調べていたんでしょう?良いんですかー?放置で」
「プリン伯爵」が不満の声を上げる。
「良いんだ。唯、そうだな。お前に怪我を負わせた相手に対して報復しようとするなら‥‥その時は別とするが」
「‥ゼロッ!?君は彼女に怪我を負わせた相手を知っているのか?」
ゼロの言葉に真っ先に反応したのは要さんで、半ば腰を浮かせてゼロを見ていた。
「今気付いたと言うべきだな。‥‥血溜まりと銃の落ちた現場を見た。『人を殺した』のだと嘆いていた者を知っている。怪我はもう良さそうだな?」
ゼロのその沈んだ声音に、扇はストンと椅子に座り直した。
人を傷つけた事すらない素人なのだと気付いたからだろう。
「分かっている。それに関してはわたしが悪かったのだから恨んではいない」
「‥‥そうか。ならば改めて入団を希望した動機を尋ねたい」
「動機は三つある。一つにはジェレミア卿がここに来ている事。一つには扇要に受けた恩を返したい事」
「恩ってぇ、扇ぃ。なぁにしたのぉ?」
「ッ‥‥怪我をして倒れていたから‥‥手当てを‥‥その。無事で良かった」
「ヴィレッタ。彼はお前が急にいなくなったからとずっと心配して塞ぎこんでいたぞ」
説明した後、わたしに優しい笑みを向ける要さんに、ジェレミア卿が補足を入れ、わたしは戸惑った。
「それでぇ?後の一つは何かなー?」
「プリン伯爵」はその辺りには興味がないのか、さくっと先に進めようと話を促した。
「‥‥後の一つ、は。‥‥ゼロ。貴方が誰かを思い出しこれまでの非礼を詫び、赦されるならばジェレミア卿と共にお仕えしたい、と‥‥」
ヴィレッタの言葉に。
ロイドとダールトンとジェレミアは揃って嘆息した。
「まぁねー。そーいう展開だと思ってたけどさー」
「そうですな。この調子では、今後の展開も予想できると言うものですな」
「次は誰か、賭ける気も起きぬわ」
「‥‥‥それは同感ですが、わたしの合否はどうなっているのでしょうか?」
「採用する。これから宜しく頼む。ヴィレッタ。それとも『千草』と呼んだ方が良いか?なぁ、扇?」
ゼロの口から入団の許可を聞いてホッとしたのも束の間、要さんに振られた言葉に驚く。
振られた要さんもわたわたと慌ててから、小さく「‥‥あー‥おれ、は『千草』‥‥と呼びたいと、思う、けど‥‥」と言うのでわたしは驚いて要さんを凝視した。
「そうか。ならば、ヴィレッタの呼び名を『千草』にしよう」
あっさりと頷いたゼロはさらっとそう決定してしまった。
「‥‥とりあえず、ようこそ、黒の騎士団へ。‥‥と言うべきなのだろうな」
「奇跡の藤堂」が疲れたようにそう声をかけてきた。
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作成 2008.07.29
アップ 2008.08.25
この数日、どんよりと暗く、心ここにあらずな様子の扇を旧扇グループはもとより、藤堂や四聖剣も心配していた。
ゼロはと言うと、まだ扇の変調に気づいていないだろう。
「表で仮初の生活をするのはやめた」と言い放ったゼロは、表に戻る事がなくなった。
しかし、それに代わるように今まで表に戻っていた時間は自室に篭るようになったのだ。
カレンの話で、ゼロがカレンの同級生、つまり学生だった事が幹部にだけ知らされ驚愕を呼んだのはつい先日の事である。
プライベートと称されて、自室を尋ねる者も制限された為、もしかしたら表に戻っていた時よりも厄介かも知れないが。
ちなみに、許可されたのは、「ゼロの素顔を知る者」である。
藤堂、カレン、ラクシャータ、プリン、将軍、オレンジに加え今回新しく入団した三人である。
いや、更に加えて元から団員だったと主張し、何故かディートハルトもそれを認めた咲世子と言う女性もだ。
これまたカレンの話では、新団員の三人は学園の生徒でカレンやゼロとも仲が良いのだと言う話だった。
ゼロの正体に気付いて、共に戦いたいのだと言うのが入団希望の動機だと聞いて幹部達はゼロとの友情に感動する者もいた。
だが、そのうちの一人である車椅子の少女がゼロの部屋から出て来る様子がない事には首を傾げ捲った。
いや、ゼロの部屋を訪れる許可を貰っている者達には動揺は見られず、当然の事と受け止めているようだったが。
カレンが渋々ゼロの自室を訪れたのは、扇の様子を報せて、判断を仰ぐ為だった。
だがしかし、玉城達にせっつかれたとはいえ、騎士団の用事では、きたくなかったのだ、カレンは。
来る途中に、藤堂やラクシャータや将軍に「気をつけろ」的な忠告を投げ掛けられ、気が重いカレンだった。
カレンは扉をノックして「ゼロ、カレンです」と声をかけた。
『‥‥どうした?カレン』
中からゼロの声が届いて、カレンは泣きたくなった。
「その、扇さんが何故だか沈んでまして。副司令という立場上、このままにしておくわけには行かないので‥‥」
『‥‥‥‥カレン。扇と藤堂、それにオレンジ卿を小会議室に‥‥。そうだな、一時間後で』
カレンは「何故その組み合わせ?」と首を傾げながら「わかりました」と応じて引き返していった。
「むー。『奇跡の藤堂』はともかく、何故オレンジ卿なのさー。ミレイ君はぼくまで締め出しちゃうしさー」
ロイドは口を尖らせて文句を述べる。
「当然じゃないですか。リラックスする為の時間に軍人入れたがる人はそうそういません」
「そんなことないよー。ぼくの側は落ち着くって言ってた事だってあるんだからねー」
「勝手に捏造するのやめなさいよ。後、ゼロを待たせる事にならないように早目に行ってくださいね、扇さん」
「あ、あぁ。‥‥わかった」
名前を呼ばれて反射的にしたような返事に、どこまでわかったのか、みんな疑問に思う。
そんな中、ロイドと更にラクシャータ、ダールトンだけはロイドの言葉が捏造でない事を知っていたが言葉を重ねても無駄だと無言を保った。
「‥‥ディートハルト、今度は誰だ?」
そんな中、小さく息を吐いた藤堂がディートハルトに声をかけた。
「それはまさか‥‥。で、ですが、扇さんとジェレミア卿に関連しているらしい方は思い浮かばないのですが」
結局、藤堂の問いに明確な答えがでないまま、藤堂とジェレミアは扇を促しつつ場所を移動した。
カレンや井上は心配顔で扇を見送り、四聖剣は上司の苦労に苦笑を浮かべていた。
小会議室についた三人は、既にゼロがいる事に驚いた。
ジェレミアは「主をお待たせしてしまうとは‥‥‥‥」と平身低頭してしまっている。
ゼロが身振りで座るように促すのに従い、三人が席に着くと、ゼロは扇に仮面を向けた。
「扇、原因を話せ」
余りにも単刀直入な問いに、藤堂とジェレミアも唖然とする。
「それは‥‥‥‥」
言い渋る扇にゼロは溜息を一つ。
「わたしは知っている、と言えば話す気になるか?扇」
ゼロのその一言は劇的な効果を生み出し、扇はガタンと立ち上がる。
「知って、いる‥‥‥‥?」
「有り体に言えば女性問題、だろう?」
ゼロはそう言ってくすりと笑った。
扇は「それはそうなんだが‥‥」と口内で呟きつつ、ゼロを凝視した。
「扇、君の口から聞かない事には、話が始められないのだが?」
「‥‥‥‥ほ、ホントに知っているのか?‥‥全部?」
「少なくともお前が言い渋っている原因は把握しているつもりだが?」
扇はストンと椅子に座り込む。
「す、すまない」
扇から出た謝罪の言葉にジェレミアの表情が険しくなる。
「魔がさす事はある。初めの動機は不問にしてやるからさっさと話せ」
ゼロはそう言って扇を促すが次に口を開いたのは藤堂だった。
「ゼロ。知っていると言いながら話せ、というのは何故だ?」
「わたしが知っているのが表面の事象だけだからだ。扇がどう思っているなどの内面までは認知外なのでな」
ゼロの言葉に、扇はぽつりと話し始めた。
「もう十日、二週間になる‥‥。おれは、もう一度会いたいと‥‥。それが無理なら無事を確かめるだけでも良いからと」
うなだれて絞りだすように言う扇を、藤堂とジェレミアは痛ましそうに見る。
「良いだろう、扇。その望み、叶えてやろう」
ゼロは威厳に満ちた声で告げると、一枚の用紙をテーブルに乗せた。
「なッ‥‥‥‥!ななななななあぜ!」
扇が目を見開いて経歴書の写真に釘づけになっていると、ジェレミアが驚き吃りまくった声を上げて、写真を指していた。
「ヴィレッタ・ヌゥ。オレンジ君の元部下だな。‥‥‥‥扇には千草と言った方が良いか?」
「なッ!何故その名前までッ!」
「尋ねる前に備考欄を見てみろ」
そう言ったのは藤堂で、なんだかすっかり慣れてしまっている。
『ジェレミア卿、騎士団にいると聞いて驚きました、ヴィレッタ』と言うジェレミアに対する一文と。
『要さん。助けて頂きありがとうございました。千草』と言う扇に対する一文が並んでいた。
──審査「ヴィレッタ」編──
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作成 2008.05.30
アップ 2008.08.24
なんとか宥めたカレンを穏便に帰した後、未だに機嫌の悪い藤堂に四聖剣の視線は集中する。
「‥‥藤堂中佐。先程、紅月の言っておった少年の事を、ご存知なのですか?」
ゴホンと咳払いをした後、口を開いたのは、仙波だった。
一番、今回の事情に疎かったせいもある。
「えーと。昨日の散歩中に、助けてるところを見たんだよ。おれと藤堂さんと千葉さんとで」
黙ったままの藤堂に代わって朝比奈が答える。
「‥‥日本人をか?」
仙波が首を捻って尋ねるが、千葉が首を振って否定した。
「いえ、‥‥‥猫です」
「「‥‥‥猫ぉ~!?」」
仙波と卜部の訝しげな声が重なった。
「容姿についてはさっき言った通りだし、紅月さんが言うように口は悪くなかったし。あ。猫語までわかるんだよ、彼」
にこにこと朝比奈が答える。
「‥‥‥‥猫語‥‥?あの、にゃーにゃーとかってやつか?」
訝しげに眉を寄せ、卜部が猫の鳴き真似をしてみるが、はっきりいってミスマッチである。
「いや、彼は鳴き真似しなかったよ。猫の鳴き声を聞いて、普通に話をしてただけで」
「‥‥それって、単なる思い込みってやつじゃないのか?」
「え?そうかなー?だっておれ、聞いてて納得しちゃったし。ねぇ千葉さんもそうでしょう?」
朝比奈は首を振って千葉に同意を求めた。
「‥‥そうだな、わたしも判っているように感じた。‥‥猫を助けた彼が落ちそうになったところを、中佐が助けておられた」
「そうそう。急に飛び出して声を掛ける暇もなかったんだよね。‥‥でも藤堂さん?彼の足場が崩れたの、その後だったと思うんですけど」
千葉と朝比奈の言葉に、再び四聖剣の視線は藤堂に集中した。
「‥‥昔。似たような状況を見た事が有ったから、気付いたら身体が動いていた。‥‥その時は間に合わなかったのでな」
沈んだ声音で飛び出した理由を語る藤堂に、四聖剣は戸惑いを浮かべる。
もう少し詳しく、そう思いもしたが、尋ねて良いのかどうかを迷ってしまって言葉が出ないのだ。
「‥‥藤堂中佐。『間に合わなかった』‥‥というのはもしや」
仙波が意を決して尋ねたのは暫く沈黙が続いてからだった。
「いや。‥‥軽い脳震盪で気を失っていただけだ。‥‥目を覚ますまで、少々肝が冷えた」
藤堂は苦笑して四聖剣の懸念を拭ったので、そこは四聖剣もホッと息を吐く。
「‥‥中佐。昨夕の、『ルルーシュ』という少年を助けた時、驚いておられたようですが。仙波大尉の言われたとおり、お知り合いだったのですか?」
千葉が藤堂からの答えの得られていない問いを蒸し返して尋ねた。
「‥‥随分と会っていなかったし、また会えるとも思っていなかったが面識はある。‥‥彼は覚えていないようだったが、まだ小さかったから無理もない」
藤堂の声音に寂しさが混じっている事に気付いた四人は慌てた。
千葉と朝比奈は、礼を言うとさくっと帰っていった少年の様子を思い出し、朝比奈は「確かに覚えてなかったかもね~」と少年に対する評価を少しだけ下げた。
「小さかった‥‥とは、中佐は彼といつお会いに?」
「‥‥戦前、だな。戦後は‥‥一度見かけただけだ」
その言葉に、朝比奈は下げた評価を白紙にした。
攻めている敵地で、親がいたかもしれないが子どもが乗り切るのがいかに大変であるか、わからない者は四聖剣にはいないからだ。
例えその期間が短かったとしても、戦後に見かけたというのならば、無事に乗り切ったということだ。
「だがその後、姿が見えなくなり、日本人に殺されたのでは、との噂が立った。見かけたあの時、保護しておけば、とおれは悔やんだ」
だがそう続いた藤堂の言葉に、空白の七年を彼がどう過ごしたのかを思う。
「藤堂さんッ。そんな事情があるなら、もう一度ちゃんと会って話をした方が良いと思います」
「中佐。わたしも朝比奈に賛成です。紅月に言って彼に連絡を取って貰うべきです」
「ダメだ。これ以上紅月をこの件に関わらせる気はない。良いな」
有無を言わせぬ藤堂の強い口調に、四聖剣は反射的に「「「「承知ッ!」」」」と応えてしまっていた。
その後、藤堂は「暫く一人になりたい」と四聖剣に言い、四人は揃って頷くと部屋を出て行く。
静かになった部屋で、藤堂は再び昨夕の事を思い出す。
「ルルーシュ君‥‥。まさかこんなに近くにいたとは‥‥な」
藤堂の呟きは勿論誰にも届く事はなかった。
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作成 2008.06.27
アップ 2008.08.21
カレンは中々戻らないゼロと藤堂と四聖剣に、「まさか厳罰だったのかな‥‥」と心配になって様子を見に来ていた。
扇からも頼まれた結果だったのだが、いざ会議室の前まで来ると、ノックするのに躊躇ってしまったのだ。
そしてその言葉が中から微かに聞こえてきて、カレンは思わず目を見張って扉を凝視していた。
小会議室内では、外にカレンがいるとは思いもせずに、会話は続けられていた。
「ランペルージ?だけ?それって名前?苗字?」
「苗字だろう。わたしも千葉としか名乗っていないから、お互い様だ」
朝比奈の疑問に答える千葉に、ゼロは「いや、名前まで名乗ると、こういった場合に藤堂にバレるからやめたんだが‥‥」と思う。
しかし、「状況は違えど藤堂や四聖剣に話すと想定していたとおりになるとはな」とゼロは気づかれぬようにそっと溜息を吐いた。
「どんな学生だったのだ?女性に追い掛け回されるとは‥‥」
仙波が首を捻る。
「‥‥美人、だったな」
千葉の簡潔な回答に、ゼロは思わずずっこけそうになるのを意志の力で我慢した。
「‥‥待て、千葉。男子学生と言っていなかったか?」
「えぇ、そうです、卜部さん。そこらの女性より余程美しかったので表現は間違っていないはずです」
「千葉さん、千葉さん。細かい描写は?」
「話がズレていないか?朝比奈」
藤堂が苦言を述べるが、朝比奈は千葉に視線を固定していて藤堂の声すら耳に入っていなさそうだ。
ゼロは「詳しい描写まで言われては流石に藤堂に疑問を持たれる」とますます焦るが、何か言う前に千葉の描写説明が始まる。
「ブリタニア人にしては珍しい黒髪と透けるような白い肌と強い意志を窺わせる紫の瞳が印象的な──」
千葉の語尾に扉が勢い良く開かれる音が重なり、千葉は言葉を切った。
藤堂と四聖剣は驚きの表情で反射的に振り返り、一瞬遅れてゼロも仮面を巡らし、そしてゼロは固まった。
「紅月さん?‥‥今会議中なの判らなかった?」
千葉の処遇がどうなるかの大事な時に、と朝比奈は不機嫌な声を投げる。
「千葉さんの事を決めてたんじゃないんですか?どうしてあいつの事なんか‥‥」
固まったゼロには誰も気づかずそのまま置き去りにして、話は進む。
「‥‥紅月、扉を閉めろ」
藤堂が憤り気味に、呆然としたカレンに指示を出した。
それが「出ていろ」という言葉でない事を四聖剣は悟った。
ゼロが何も言わない事を了承と取り、朝比奈が立ち上がってカレンを会議室内に置いたままさっさと扉を閉めた。
「‥‥で?あいつって誰?紅月さんの知ってる人だったの?」
そうして朝比奈はそのまま早速とばかりに問いかける。
カレンは鍵を閉めた扉を背にする朝比奈と椅子に座ったままカレンを見るゼロと藤堂と残りの四聖剣をぐるりと見回す。
ちなみにゼロは扉を振り返った時から固まっているのだが、気づく者はやはりいなかった。
ゼロまで返答を待っていると思ったカレンは渋々と口を開く事にした。
「同じ学園の生徒、なので。あんな外見二人といないから、すぐわかりました。どうしてあいつの話なんかしてたんですか?」
硬い声音で告げるカレンに、「一体学園でどんな仲だ?」と首を傾げたくなる。
「んーとだな。早い話が千葉が惚れてるらしくてさ」
「なッ‥‥。わたしはそんな事言っていませんッ、卜部さんッ!」
「だが、気になっていたのだろう?」
驚いて反論する千葉に、仙波までがそう言うものだから千葉はますます慌てた。
「仙波大尉ッ!からかうのはやめてくださいッ」
「‥‥‥ぇーっと?接点がない気がするんですけど‥‥?」
「てか、紅月さん。その美少年の名前は?それにどんな人?」
戸惑うカレンに、果てしなく脱線する気満々な朝比奈。
いつもの藤堂ならばそろそろ注意しそうなものなのに、何か気を取られている事があるのか、騒動は収まる気配を見せない。
それはゼロにしても同じ事だったが。
反対する者がいなかったので、カレンは(主に)ゼロを気にしながらも朝比奈の問いに答える事にした。
「えっと、クラスメイトです。生徒会でも同じで、彼は副会長をしています。外面はあの通り良いんですが、性格は最悪なのであまり薦めませんよ?」
朝比奈に対して、というよりは千葉に対しての忠告めいているのはカレンなりの親切心からだろう。
「しかし、‥‥彼は道を尋ねても嫌な顔一つせず、少し入り組んでいるからとわざわざ案内までしてくれたが‥‥」
「被ってる猫が凄いだけですッ!学園でもみんな気づいてなくて、だから人気も学園一なんですよね」
カレンはそう言ってから、更に渋面になって「次に人気があるのが枢木スザクだってんだから学園のみんながどうかしてるんです」と言い切った。
「んー?けど枢木ってイレブンってか名誉なのに?」
「そうです、卜部さん。‥‥なんだかんだ言って皇女の騎士ですからね。ミーハーな女生徒にはモテるようですよ」
カレンはきっぱりと「目当ては皇族とお近づきになる事な気もしますけどね」と言ってのけた。
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作成 2008.07.01
アップ 2008.08.14