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コードギアスの二次創作サイト。 ルルーシュ(ゼロ)至上主義です。 管理人は闇月夜 零です。
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ゼロ(ルル)至上主義です。
騎士団多め。
表現力がなく×ではなく+どまり多数。
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十回にも及ぶ反復行動の指示を終えたスザクは、ホッと息を吐いてから、出発点の中庭を目指していた。
ここでルルーシュと落ち合う約束をしていたのだが、十回の行き来の間その姿を見る事はなく、心配になっていたからだ。
「う~ん。やっぱりゼロの誰かに何かの指示を貰ったのかなぁ」
もしもそのゼロが7番ならば、無理難題を言われていないとも限らないのだと、7番が誰かを知らないスザクは不安だったのだ。
中庭に着いてもいなかったら連絡を入れてみようと決めたスザクは、早足だった速度をかけ足に変更した。

藤堂は騎士団に出撃の命令を出した。
ナイトメアフレームが一斉に飛び出す。
藤堂の月下に続き四聖剣の月下が付き従い、更に無頼やサザーランド、グラスゴーが続く。
ヨコハマのブリタニア軍基地に、黒の騎士団が襲いかかった。

中庭に到着したスザクは、その途端声をかけられた。
「そこの団員。‥‥ん?さっきの126番か‥‥」
スザクはハッとして振りかえる。
「‥‥7番のゼロ‥‥」
スザクは呻くように呟いた。
「そう‥‥7番のゼロが指示を伝える。126番は携帯を切った後、講堂へ向かえ」
「ッ待ってくれ、7番。講堂に向かうのは良いが、携帯を切る必要は感じられない」
スザクは携帯を切るように指示された事に対して難色を示す。
ルルーシュに連絡を取ろうとしてたところだったのだ、慌てるなと言う方が無理だった。
「‥‥指示に従わないつもりか?」
「そうじゃない。だけど‥‥」
「126番。理不尽だからと指示に従わず、末端が自分勝手に動いていれば、組織は成り立たない。それはわかっているな?」
7番のゼロは諭すような口調で言い、スザクはそれは事実だと納得してしまう。
「‥‥あぁ」
「‥‥ならば。指示に従い、行動しろ」
「了解した。‥‥すぐに講堂に向かう」
スザクはそれでも渋々頷くと、携帯を切って踵を返した。

カレンはそのやり取りを一番近くで傍観しながら、仮面の下で眉を寄せる。
スザクの頭には、既に最優秀を取ると言う目的が失われているとしか思えなかった。
こうも立て続けに反抗していれば、どう頑張っても採点結果は下がる一方なのに、それがわかっていないらしい。
中途半端に訊ねる事が反抗と取られ、自身に都合の良い返答だと思う回答を得られれば、それ以上は訊こうとしないで突っ走る。
「‥‥馬とか犬とか‥‥、もしかして、合ってる?」
以前、ゼロと藤堂がスザクを評して言った例えを思い出して、カレンはポツリと呟いた。
それから、まだ仕事が残っていた事を思い出し、再び新たなる獲物(団員に扮した生徒)を求めて移動を始めた。

ミレイ扮する1番のゼロは、ふと立ち止まって首を傾げた。
「おかしーわね~。さっきから団員に一人も行き合わないじゃないの。一体みんな、何所へ行ったのかしら」
ミレイのいる場所はB校舎とC校舎を結ぶ渡り廊下。
最初に、カレン扮する7番のゼロの先制攻撃で団員は全員校舎から追い出されているのでその周りをうろついていたのだけど。
「まぁったく。最初に何人かにグランド走らせただけじゃな~い。カレンったら、張り切りすぎよ、あれは~」
声音まで本物のゼロに近いところまで変えていたカレンはノリにノッているとミレイは苦笑する。
「あ、そこのゼロに扮した人」
後ろから声を掛けられて、ミレイは振り返る。
グランド方面から歩いて来たのは二人のゼロに扮した生徒、番号は3番と6番。
「どうしたの?」
「その声、ミレイ会長ですか?‥‥団員に扮した生徒達ってどこに行ったんですか?さっきから全然‥‥」
「そーなんですよ。最初は7番が外に出してたから、外回るだけで結構指示出せてたんですけど、段々誰にも会わなくなってきて‥‥」
3番が男子。6番は女子のようだけど、二人して苦情を訴える。
「それ、わたしも聞きたいくらいなのよ。‥‥ちょっと審査員のところに顔を出して来るわね」
ミレイは困り顔(仮面の下なので二人にはわからないが)で、そう言って二人を宥めた。
「「お願いします、会長」」
3番と6番のゼロは揃って1番のゼロに頭を下げた。

ピーーーと、軍の緊急通知音が鳴り響く。
『緊急連絡。黒の騎士団がヨコハマ基地を襲撃しているとの情報を受信。繰り返す、黒の騎士団が──』
放送が裏返りまくった通信兵の声を垂れ流しにしていた。
「あはー?どうやら黒の騎士団はイベントなんか眼中になかったようだね~?」
ロイドはそうコメントし、「どうやらラクシャータに一杯喰わされてしまったかなー?」と内心付け足した。
「笑い事じゃないでしょう?ロイドさん。すぐにスザク君に連絡しないと」
「え~。それはないでしょー?彼には是非、『豪華賞品』を持ち帰って貰わないと~」
「ロイドさん?わたし達の職業、ちゃんとわかってます?」
「判ってるけどね~。パーツが戻っても、ランスロットが起動できなければ同じだしー?」
「もぅ。それが判ってるんでしたら、さっさと起動できるまでに直してくださいね?」
腰に両手を当てて、セシルはロイドに向かって笑顔で角を立てる。
しかし、今のロイドにとっては、騎士団にいるラクシャータとの取り決めの方が優先される事柄だったので、「は~い」と返事をするだけである。
いつにも増して腰の重いロイドに、セシルは訝しみながらも再び笑顔を向けるのだった。

ルルーシュは、イベント開始後から、一歩も動いてはいなかった。
カレンが扮する7番のゼロと、スザクが扮する126番の団員、それから騎士団の動きを音だけで追いながら、口元の笑みは絶えない。
「ふッ、予定通りか。‥‥とすると、そろそろ藤堂から連絡が──」
ルルーシュが言い差したところで、微かな通信音が鼓膜を打つ。
「わたしだ。予定通りのようだな?藤堂」
『あぁ。‥‥今のところ全て予定通りだ。警備も君の読み通り手薄になっている』
「良し。ならば目的を達成の後、速やかに撤退を。‥‥万が一白兜が動くような事が有れば、こちらから連絡する」
『‥‥わかった。頼む』
「‥‥今、学園の周辺に展開するブリタニア軍に、ヨコハマ基地襲撃が伝わった。一時間以内に目的を達成させられるな?」
『それは問題ない。撤退のルートも理に適っているから、逃げ切れるだろう。‥‥ではアジトで』
短いやり取りの後、藤堂からの通信は途切れる。
「‥‥‥‥流石だな、藤堂鏡志朗」
ルルーシュはそう呟くと笑みを深くしたのだった。

「会長ッ。脅かさないでくださいよ。会長と言えどもここは立入禁止だって言ったはずですよ」
突然現れた「ゼロ」に驚いたシャーリーは、1番のゼッケンを見てから、相手に文句を言う。
「悪いって。ちょっと聞きたい事が有ったのよね。わたしも思ってた事なんだけど、3番と6番からも団員を見かけなくなったって言われたから様子見よ、様子見」
ミレイの言葉に、シャーリーとニーナは顔を見合わせる。
「えーと‥‥」
「番号は言いませんけど、ゼロの一人が団員に指示を出した‥‥結果?ですよ」
「うん、そう。‥‥たぶん、どこかにはうじゃうじゃ~って集まってるハズ。‥‥どこかは言えないけど」
二人の言葉にミレイは頷いて、聞いてみた。
「あらぁ。そう言う事?‥‥ふぅ~ん。て事はやっぱり7番かしらねぇ~?」
ミレイのカマかけに引っかかったのは、シャーリーだった。
「え!?ど、どうしてそれを?会長知ってたんですか?」
「へぇ~。やっぱりかぁ~」
「シャーリー‥‥」
「‥‥‥‥あ。引っかけましたね、会長ッ」
「‥‥って、もしかして会長、7番が誰か知ってるんですか?」
「ふっふ~ん。それは~。ひ・み・つよ~。そう言う事なら続行ね。だから、もう行くわ」
ミレイのゼロはそう言うと片手をヒラヒラと振って立ち去って行った。
‥‥‥‥どうでも良いけど、ゼロの姿で女声の女言葉‥‥凄く不気味、と思ったシャーリーとニーナだった。

───────────
作成 2008.02.14 
アップ 2008.04.14 

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「‥‥皇族だったとはいえ、既に戸籍上、存在しない者にまで手を掛けるつもりは、わたしにはない」
脱線しかけたロイドとミレイが黙ると、ゼロはそう告げた。
「‥‥相手にするまでもない、って?」
ゼロの言葉にピクリと反応したロイドが、好物のプリンを前にしながら、剣呑な目つきをゼロに向けて言う。
「ブリタニアに戻るつもりがないのならば、敵ではないという事だ。『ランペルージ』は皇族ではなく、唯の学生、子供だろう?」
「それを軽んじてるって言うって知ってる?凄く不愉快なんだけど?」
ゼロは二人に害意を持っていない事を告げようとしただけなのだが、ロイドに反発されてしまった。
反発してボソボソと低音になって反論するロイドに、ミレイは慌てる。
「ちょ‥‥ロイドさん。口調も声音も変わってますから。それに、」
「ミレイくんは少し黙ってて。ぼくはどーしても許せないんだよね。あの方が軽視されるのは我慢できない」
道化師の仮面はなりを潜め、ロイドはゼロをまっすぐに睨みながら言う。
ゼロはそんなロイドを見ながら、息を吐いた。
「‥‥皇女とは交流はなかったが、兄皇子とならば、一度話をした事がある。‥‥その時だな、わたしが『ゼロ』になろうと思ったのは」
ロイドとミレイはきょとんとしてゼロを見、ラクシャータは驚いて軽く目を見開き、藤堂は一人無表情で話を聞いていた。
「‥‥‥‥‥‥。一体どんな話をしたんですか?」
聞いたのはミレイだった。
「あの時、お互いに力がない事を実感していた。‥‥一人では何も出来ない事を痛感していた。足掻いても世界は変わらない。‥‥だから時を待つ事にした」
ゼロの話を、みな静かに聴いていたが、藤堂は少々懸念していた。
バラすつもりがないのならば、下手な事を云って、悟られるのは不味いのではないか、と思ったせいだ。
「十年。或いは十五年。‥‥そうすれば子供だった彼も、何も持たなかったわたしも、世界を変える為の力を手に入れ動き出せるのではないか、と」
「‥‥ちょっと待ちなさいよ、ゼロぉ。それってあんた、第十一皇子と結託してたって事ぉ?」
ラクシャータが待ったをかける。
「‥‥まさか。最初の動機、きっかけに過ぎない。以来、彼とは一度も会わず、連絡さえ取っていなかった。今回、桐原公を介して連絡してきた時は驚いた」
「それってその時の相手がゼロだって事を、知ってらしたって事ですか~?」
「さあな。わたしは随分と前倒しに動き始めてしまったし、このナリだ。気付いてなくても不思議ではない。気付いていたとしても驚かないが」
そう応じたゼロに、ロイドのまなざしがフッと緩んだ。
「わーかーりまーしーたー。実は我が君から今回の件に対しての報酬をお渡しするように託されまして~」
「‥‥不要だ。これは桐原公からの依頼なんだ」
「そうは行きませんよ~。それに、話だけで、実際には受け取りに行ってもらわなくてはなりませんし、少し危険でもありますしー?」
元の口調と声音に戻ったロイドの言葉に、藤堂の表情が険しくなる。
「‥‥それは、どういう事だ?」
「実はー。とある島に、開発途中のナイトメアフレームが一機有りまして~。それをゼロに進呈するようにって話を請けましたー」
「特殊なヤツなのぉ?」
ナイトメアフレームと聞いてラクシャータが反応する。
「そりゃそうさ。諦めの悪いぼくが、いつかを夢見て開発してたんだから~?た~だ~しぃ。現在は第二皇子の管理下に置かれてるけど~?」
「‥‥彼の為、にか?‥‥良いのか?それをわたしに渡しても?‥‥今はその気がなくとも、いつか、彼や彼女に仇なすかも知れないというのに?」
「‥‥‥‥。その時はぼくの全力を持ってお二人をお守りしますともぉ。‥‥例えゼロ。君を殺す事になっても、ね?」
ゼロとロイドはゼロの仮面越しに睨み合う。
「そこまでにしておけ、ゼロ。今、その気がないのならば、後の事は後で考えれば良い話だろう?」
睨み合う二人が、主とその騎士志願だという関係を知っている藤堂が、その光景に耐えきれなくなって止めに入る。
フッとゼロは笑みを零した。
「藤堂の言う通り、か。‥‥良いだろう、そのナイトメア、わたしが戴こう。‥‥代わりに彼にこれを」
ゼロはそう言って、懐から取り出した小さな箱をロイドの前、プリンの横に置いた。
「「‥‥これは?」」
ロイドとミレイの問いが同時に発せられる。
「渡せば判るだろう。‥‥約束の品、そう言えば、伝わるはずだ。‥‥彼が覚えていれば、な」
一人芝居を続けるゼロに、藤堂は寂しさを感じてしまう。
何故、そこまで別人である事を示さなければならないのか、と。
「了解した。‥‥責任を持って我が君にお渡しするまで預かりますよ。‥‥で、場所は神根島ね。機体の名前はガウェインって言うんだけど」
「ふぅん?あんた、その話、好きだったっけぇ?白兜のランスロットも、今度のガウェインもアーサー王伝説の円卓の騎士の名前じゃないのさ」
「良ーだろ、別に。そんなのぼくの勝手だね。それよりも、近々第二皇子もエリア11に来る予定だから、取りに行くのなら早目の方が良いよー?」
ラクシャータが首を傾げながら問いかけると、不貞腐れたように応じたロイドは、ゼロに第二皇子来訪を告げた。
「‥‥そうか、わかった」
ゼロはそう言うと、立ち上がる。
「ガウェインについては、有りがたく奪取させて戴く。具合の悪い者の部屋に押し掛けて長々とすまなかった。大人しく休んでくれ。失礼する」
そう暇の挨拶をしたゼロに従い、藤堂とラクシャータも立ち上がった。
「お嬢ちゃん。プリン伯爵をちゃんと休ませてあげてねぇ?プリン食べたって良くなったりしないんだしぃ?」
「わかりました。‥‥重ね重ねありがとう‥‥、ラクシャータさん」
ミレイの言葉を受けて、三人はロイドとミレイを残して部屋を出た。

「じゃ、わたしはナイトメアの整備に戻るしぃ?藤堂、あんたの月下の調整、後でするからねぇ?」
ラクシャータはそう言うと、肯く藤堂を見てから煙管を持った手をヒラつかせて歩いて行った。
「‥‥ゼロ、話がある」
「‥‥‥‥。良いだろう。付いて来い」
藤堂の言葉に頷いたゼロが自室に向かって歩き出すと、藤堂もその後に続いた。

その言葉を聞いた時、脳裏に映し出されたのは、あの時の光景。
わたしの瞳は何も映さないと言うのに、それでもあの時の光景は、いつまでも鮮明に見えてしまう。
その度に、わたしはお兄様を悲しませてしまう。
驚いたお兄様の顔、重く圧し掛かるお母様の身体、広がって行く赤い色、濡れる身体、痛む身体。
熱い血の海の中、徐々に冷えて行くお母様の身体。
重さも、色も、匂いも、音も、全てが最早有り得ないはずの情報を、身体は勝手に作りだし、わたしを悩ませるのだ。
『‥‥‥‥は、母上ッ‥‥ナナリーッ』
悲痛な、お兄様の声が、今もまだ耳に残っていた。

『ロイド、ミレイ。今回は我ながら急だったと思うが、かなりの無理を聞いて貰って感謝する。
桐原公とは連絡をつけた。この手紙と荷物も彼の好意で騎士団に向けて送って貰う事にした。
みんながそちらを出る前にと思い少々強引に出発直前の荷に紛れ込ませて貰いもした。
‥‥桐原公が全面的にゼロと騎士団を支援していると聞いた。
わたしも賭けに出たいと思う。
ロイド。以前話していたナイトメアフレームは出来ただろうか?
ロイドが見極め、ゼロを認めたのならば、それを回しても良いと、わたしは思っている。
判断はロイド、君に任せたい。‥‥頼んだ、ロイド。
追記。荷物の中にロイドの好きなプリンも入れてある。ミレイも好きだったな?
その他については日持ちするだろうから適当に食べてくれ』
それはロイドとミレイ、‥‥おもにロイドに向けられた彼等の主からの手紙だった。

───────────
作成 2008.02.16 
アップ 2008.04.11 

「おーい、藤堂ー」
玉城の声が格納庫に響く。
「あ、おい朝比奈。藤堂は?」
目当ての人物を見つけられずにいた玉城はちょうどやって来た朝比奈を呼び止めた。
「‥‥藤堂さんでしたら、部屋にいますけど?」
玉城のくせに藤堂さんを呼び捨てにするなんて‥‥と思いながらも朝比奈は答える。
「んじゃこれ。藤堂宛に荷物が来てるぜ」
と玉城が示したのは、一抱えありそうなダンボールの箱だった。
箱に近づいて確かに藤堂宛なのを確認した朝比奈は、首を傾げながらも箱を抱え上げた。
「じゃあ部屋に運んで来ますね~」
見た目の感じよりも随分と重い荷物に疑念を膨らませながら、朝比奈は藤堂の部屋に向かった。

両手が塞がっているので、足で扉を蹴ると千葉が出て来て、朝比奈に渋面を向けるも荷物を見て黙って扉を全開にした。
「朝比奈、それは?」
「藤堂さん宛の荷物です。下に行った途端渡されました」
「誰からだ?」
仙波の声が奥から飛んで来て、朝比奈は首を傾げた。
「え?‥‥さあまだ見てませんよ」
答えた朝比奈はテーブルの上に荷物を置いて息をついた。
テーブルの上に置かれた箱に藤堂と四聖剣の視線が注がれる。
差出人の名前はなく、宛名は「藤堂鏡志朗」のみ。
住所や黒の騎士団を示唆する記述は何もないと言うのに、何故ここにあるのかと悩んでいたのだ。

そこへ、ノックが響き、一斉に扉を振り向いたのは、驚いたからだ。
「‥‥誰だ?」
千葉が声を投げると「わたしだ。藤堂はいるか?」とゼロの声。
「あぁ、いるぞ。入ってくれ」
藤堂の返事にゼロが扉を開けて入って来た。
「次の作戦に関する事前資料だ。ミーティングの前に目を通して置いてくれ。‥‥‥‥それと、忘れ物だ」
「あ、あぁ。わざわざすまない」
応じた藤堂はゼロに近づき書類と忘れ物を受け取った。
「‥‥それと、食べ物は眺めてないで早目に食べた方が良いぞ」
ゼロは去り際にそう言って出て行った。

「‥‥‥‥‥‥食べ物?‥‥って、この箱の中身?どうしてわかったんでしょうか?」
暫く続いた沈黙を、朝比奈が破る。
藤堂は、軽い溜息を吐いた後、箱を開けた。
「‥‥‥‥‥‥」
「これは‥‥重箱か?かなりの量だな」
箱の中には、重箱が並べられていた。
取り出した重箱は全部で4つ、それと手紙が一通。
箱はどけて全てをテーブルに広げてみた。
そこに並んだのは、みんながみんな何かの祝い事メニューと言う事請け合いの日本料理だった。
赤飯に炊き込み御飯、尾頭付きの鯛や、伊勢海老、入れ物が入れ物だけにおせちにも見えかねない代物ではあったが。
「あッ。今日って藤堂さんの誕生日でしたっけ?」
朝比奈が思い出したかのように叫ぶと、他の3人もまたなるほどと思わず納得してしまった。
藤堂は手紙を開封して中を見るとそこには一行、『「奇跡の藤堂」へ「鬼籍の皇子」より』と有って、藤堂は思わずむせて咳込んだ。
慌てた千葉が背中をさすってやる。
「平気ですか?中佐」
「何が書いていたんですか?」
「い、‥‥いや。‥‥どうやら、昔の知り合いからの贈り物らしい。一緒に食べよう」
気を落ち着かせた藤堂は四聖剣に言った。
「良いんですか?‥‥てか、おれ達、何にも用意してませんよ?」
「まぁ、忘れてたくらいだしよ。てかよくわかったよな、その知り合いっての?中佐がここにいる事とか。この場所とか」
朝比奈が躊躇いと、申し訳なさに控え目に訊ね、卜部は差出人の藤堂の昔の知り合いとやらに首を傾げた。
「以前から頭が良かったから、多分造作もなかっただろうな。信頼できる者だから心配はいらないぞ」
藤堂が保証すると、四聖剣はホッと息を吐いてそれぞれ椅子に座った。
「では、とりあえず、一言だけでも」
と仙波が言うと、四聖剣は頷き合って、まだ一人立っている藤堂に向かって声を揃えた。
「「「「藤堂中佐(さん)。お誕生日、おめでとうございます」」」」
藤堂はただ鷹揚に頷いただけだった。

(‥‥生きていたのか、‥‥ルルーシュ君。料理よりも、四聖剣からの言葉よりも、君が生きていると言う報せが一番の贈り物だったぞ)
いつしか藤堂の表情に笑みが浮かんでいたが、四聖剣は目の前の料理と祝いの言葉に対する笑みだと思った。



───────────
作成 2008.04.08 
アップ 2008.04.08 

※「一つの解答」の続きです。

藤堂がカレンに近づいた時、みな少し期待したのだ。
「後で」と言いながら、説明を始めないカレンに痺れを切らせて抗議に向かったのではないか、と。
だが実際は、何事か話をした後、カレンは紅蓮に駆け込み、藤堂はスルスルとガウェインを昇って、そのコックピットに収まってしまったのだ。

「‥‥ッて、良いのかおい」
玉城がガウェインのコックピット辺りを指差しながら、他の幹部を振り返る。
「良いんですよ。藤堂さん、ゼロに呼ばれてましたから」
答えたのは朝比奈で、月下に乗ったまま近づいてきていた。
「って、朝比奈さん!?なんで月下?」
紅蓮に乗ったままのカレンが月下を運んでくる朝比奈に驚く。
「ん?藤堂さんのお手伝いをしようかとー」
「ゼロに頼まれたからそれは紅蓮でやるわ。朝比奈さんは少しみんなを退けておいて」
「‥‥てさぁ。ゼロが降りてくるってだけで、そんなに警戒するもん?まさか仮面してないとか言わないよね?」
朝比奈の言葉にみんな驚いて紅蓮のカレンを見上げる。
注目を浴びたカレンはここで初めて動揺した。
「‥‥‥‥‥え?‥‥さぁ。あ、でも藤堂さんが入っていったんだから、仮面はしてると‥‥思うけど?」
「じゃあ何故?‥‥それに、あの車椅子、まさかゼロが使うなんて事はないよねぇ?」
「違います。あれはッ‥‥。てか話してる場合じゃないでしょ。何故藤堂さんだったのか知らないけど、人呼んだ以上降りてくるんだから」
カレンが話を打ち切り、藤堂の名前が出たので朝比奈も突っ込むのをやめる。
二人のやり取りを見上げていた幹部達は、「そのまま勢いで暴露話とかしないかな」とか思っていたので落胆した。

ガウェインのハッチが開き、藤堂が顔を出した。
「藤堂さん。下まで運びます。‥‥えっと、二人、ですか?」
カレンが紅蓮の手のひらをコックピットに近づけながら言う。
「紅月か。あぁ、頼む」
藤堂がゆっくり立ち上がると、黒い布が広がった。
それはどうみてもゼロのマントで、誰もが、「藤堂さんがゼロを抱えている!?」と目を疑ったのは言うまでもない。
だが藤堂が紅蓮の手によって移動している間に、コックピットから出て来たゼロがマントをつけていない事に気付いて何故かホッとした。
ホッとしてから、「ではゼロがマントを貸し、わざわざ藤堂を呼んでまで運ばせたのは誰だ?」と言う疑問が浮上する。

「‥‥ん?朝比奈か。丁度良い。それの手を貸せ」
ゼロのその言葉に、過剰に反応した者が二人いた。
ナナリーを抱えた藤堂を無事地面に降ろしたばかりのカレンと、地面に降り立ったばかりの藤堂が、バッとゼロを振り仰ぐ。
二人はやはりどこか具合が悪いのかと思ったが、ナナリーがいるところで、迂闊な事を言えば、余計な心配をさせたと怒らせるだけなので言えなかった。
「朝比奈、貸してやれ」
代わりに藤堂は己の部下に指示を出した。
そこでやっと朝比奈が月下を動かした。
その間に藤堂はそっとナナリーを車椅子に座らせると、カレンを見上げた。
「‥‥頼めるか?」
「勿論よ」
カレンは言われるまでもない事だと思いながら返事をすると、今度は紅蓮の姿勢もそのままでコックピットから下りて来た。

カレンが車椅子を押してその場を離れるのを見ながら、ゼロは藤堂の前に降り立った。
「怪我をしているのか?それとも具合が悪いのか?」
先に藤堂が尋ねた。
「‥‥怪我をしているのはお前だろう、藤堂」
「なら、具合が悪いのか?」
ゼロが左手で仮面の上から頭を押さえているのを気にして藤堂は問いを続ける。
「‥‥耳鳴りがするだけだ。‥‥今から止めて来るさ」
ゼロの回答に、「はぃい??」と幹部達が意味を図りかねて思わず声を出す。
「何処に?」
「『オレンジ君』のところだが?今C.C.と口論になって敵に傾きかけているようなんでな。煩くて敵わない」
さも当然の事のように言うゼロは、耳鳴り(言い争い)が煩すぎて自分にしか聞こえていない事を失念していた。
さらっと「オレンジ君」と言ったゼロに、一同恐怖を覚える中、藤堂がゼロの腕を取った。
「付き合おう。万が一の場合、あっさり君を殺されるわけにはいかないからな」
「‥‥良いのか?『オレンジ君』の戦闘能力はかなり高いぞ?」
「あぁ、平気だ。が出来ればその禁句は口にしないで欲しいものだな」
抵抗なく頷く藤堂に、慌てたのは朝比奈である。
「ぅわ、藤堂さん、怪我してるって事忘れないでくださいって。おれも行きますよ?行きますからね」
かなり慌てて、月下から駆け下り、既に歩き始めているゼロと藤堂の後を追いかけた。

コンコンと扉をノックすると、内側から開いて咲世子が顔を出す。
「お嬢様ッ。よくご無事で‥‥」
「じゃあ、咲世子さん、後はお願いできますか?」
カレンは車椅子を咲世子に託し、自分はさっきまでナナリーにかけていたゼロのマントだけをその手に持って言う。
「はい。お任せください。‥‥ありがとうございました、カレンさん」
頭を下げる咲世子を見て頷いてから、カレンはそのまま踵を返した。



───────────
作成 2008.03.12 
アップ 2008.04.05 

──審査編初期──

その日、ゼロは自室で入団希望者リストを眺めていた。
藤堂と四聖剣が騎士団に合流後、これまでにも増して入団希望者が増えていた。
中にはスパイや明らかに怪しい者も含まれてくるので、審査は何重にも及び、次第に厳しいものになってきている。
そう、例えるなら今玉城辺りが審査を受ければ、まず間違いなく落ちているだろう程、にだ。
最終審査はゼロ自身がおこない、最終的な合否が決まるようにしているのはトップに立つ者の務めだと思っているからだ。
ふと、リストを捲っていた手が止まる。

ブリタニア人。

ディートハルトが入団後、それが知られているはずはないというのに、時々見かけるようになった。
ディートハルト以外にまだ入団許可を出した事はないが、リストを作成している一人であるディートハルトは、それを何故か喜んでいる。
まずは特記事項に視線を向け、唖然とする。
「‥‥なんの冗談だ?」
そのまま顔写真と、氏名に改めて目を向けた。
「‥‥‥‥。見なかった事にするべきだろうか、これは‥‥」
とりあえず保留にして次に進み、ゼロは素で泣きたくなった。
見覚えのある顔が、と言うよりはかつては良く見た顔の乗った書類が四枚。
全てブリタニア人である。
とりあえず、リストから外し、別の場所によけておいて、続きを見る事にした。

幹部だけでおこなわれるミーティングも滞りなく終わり、後はゼロの解散の合図を待つだけとなった時である。
「‥‥。ディートハルト」
ゼロが、思い出したかのように、広報担当の名前を呼んだ。
「はい」
「これは今回の入団希望リストの最終合否だ。処理しておけ」
「承知いたしました」
ディートハルトは席を立つと書類を受け取りに行き、「他には?」と尋ねる。
「‥‥‥この後、話がある。ラクシャータと藤堂もだ。‥‥扇とカレン、四聖剣については任意。残りは解散」
難色を示すのはいつもの如く玉城である。
「はぁあ?半分以上じゃねぇかよ。ならこの場で話したって構わねぇんじゃねぇのか?」
「‥‥‥。ならば変更する。ディートハルト、ラクシャータ、藤堂はわたしの部屋に来い。残りは解散」
ゼロは前言を翻すと、そのまま自室に引き上げていった。
「‥‥玉城ッ、あんたが文句ばっか言うからわたし達まで締め出されたじゃないの」
「そうですよ。おれだって藤堂さんが聞く事知りたかったのに」
任意と言われていて参加する気満々だったカレンと四聖剣が玉城に詰め寄った。
「めんどぉだわぁ」
そんな騒ぎを眺めながら、ラクシャータは盛大な溜息を吐いてからゆうらりと立ち上がる。
無言で立ち上がった藤堂と、キビキビとした動きで早速階段に向かうディートハルトの後を追ったのだった。

「ディートハルト。貴様何を考えている?」
自室に三人を招いたゼロは、椅子を進め、三人がソファに座るのを待って、そう切り出した。
ちなみに長ソファはラクシャータが一人で占領し、藤堂とディートハルトはそれぞれ一人掛けのソファに座っている。
藤堂とラクシャータの視線がディートハルトに向かう。
「わたしには判断がつきかねましたので、ゼロの判断を仰ごうと思った次第ですが?」
ディートハルトは平然と応じる。
「‥‥貴様以外ならば、わたしの元に来る遥か手前で即座に落としていただろうな」
「わたしも一瞬そうしようかと愚考いたしましたが、思い直しまして」
ゼロは黙ったままディートハルトを見ていた。
「‥‥先程ザッと目を通しましたが、合否どちらのリストにも載っておりませんでしたね?」
「ちょっとぉ、ゼロぉ?一体入団希望者とわたし達に何の関係があるってのよぉ?」
要領を得ない二人の会話に痺れを切らせたラクシャータが口を挟んだ。
「入団希望者が技術屋でな。君の意見が聞きたい」
ゼロはそう言うと、テーブルの上に二枚の経歴書を置いた。
ラクシャータはそれに触れる事無く、一瞥しただけで顔を顰めた。
「って‥‥なんでプリン伯爵がぁ?」
「やはり知り合いか。こちらの女性もか?」
「えぇ‥‥プリン伯爵とぉ、セシルちゃんじゃないのぉ」
驚くラクシャータにゼロは二つの経歴書の備考欄を指し示した。
「‥‥‥‥‥ひとっ言も聞いてないわぁ」
『ラクシャータに照会すればぼくの身元はハッキリするよぉ~』
『ラクシャータさん、よろしくお願いしますね』
それぞれ、備考欄にはそう書き込まれていた。

「で?どんな奴等だ?」
「プリン伯爵はぁ、ナイトメア以外一切興味のないオタクの変人よぉ。今はオモチャがあるからこんな気なんて起こさないと思ってたけどぉ?」
「‥‥オモチャ?」
「そ。騎士団じゃ、『白兜』って呼んでるナイトメア。あれの開発担当じゃないかしらぁ?」
「ふぅん?‥‥つまりこちらのナイトメアの情報を手に入れる為のスパイ、と言うことも有りか?」
「プリン伯爵に限ってそれはないわねぇ。セシルなら有りかも知れないけど、プリン伯爵が一緒となると可能性は低いわぁ」
「ナイトメアを破壊する為の工作要員と言う事は?」
「それも有り得ないわぁ。わたし達は技術屋だからねぇ」

「では次だ。今度は藤堂とディートハルトにも意見が聞きたい」
次にテーブルの上に置かれた経歴書は三枚。
既に知っているディートハルトは口の端を上げただけだったが、流石の藤堂とラクシャータでさえ絶句した。
ユーフェミア・リ・ブリタニア、アンドレアス・ダールトン、そして‥‥。
「スザク君‥‥」
枢木スザクだった。
「信じる道を行け」‥‥そう言って敵と味方に別れたはずのかつての弟子の経歴書を、藤堂は半ば唖然と見つめる。
「ユーフェミアとその補佐、騎士、及び白兜関連がごっそりだな。ディートハルト。ダールトンとはどんな奴だ?」
「真面目で実直。仕える者が道を踏み外そうとしていれば、身体を張ってでも止めようとする男だと思っておりましたが」

「面倒だな。‥‥一人採れば全員採用しなければならない勢いだろうな、これは」
「ん~?ゼロ、あんたこの中に誰か欲しい人いるわけぇ?」
「‥‥枢木はわたしの手を何度も拒み敵となっていたはずだな?‥‥このアスプルンド、クルーミー、それにダールトンは評価しても良いかと思っているが‥‥」
「あー‥‥曲がりなりにも騎士ですし、主である皇女殿下のお付、だったのではないでしょうか?」
「‥‥ならばユーフェミアと枢木を不採用とし、残りの三人を採用、と言うのはどうだ?」
ゼロはそう言い、「その場合、白兜はどっちに転ぶかな?」と呟いた。
「どーせならぁ、デヴァイサーである枢木も取り込んじゃえばぁ?皇女殿下がいれば軍も手荒な事出来ないかも知れないしぃ?」
「‥‥まぁ、コーネリアに対する何らかの手にはなるかもしれないが‥‥。下手をすると今以上に凶暴化するぞ?」
「あぁ、それ、わかるわぁ‥‥。てか、ゼロ、あんた、結構皇室に詳しい?」
「わたしの目的の一つに『皇族を倒す』と言うものがあるからな。かなり調べたのさ」
藤堂の指が動いて、ユーフェミアとダールトンの経歴書の備考欄を相次いで指した。
「‥‥ゼロ。これは?」
『ゼロ。貴方の力になりたいと思います。貴方がそちらで頑張るのでしたら、わたしがそちらに参りましょう』
『今回は、ユーフェミア姫様のお言葉に従いたく存じます。‥‥コーネリア姫様には申し訳ありませんが、ゼロ、貴殿にお味方したく存じ上げる』
「あらぁ?熱烈ねぇ、ゼロ。あんたさぁ。もしかして個人的な知り合い?そんでもって正体バレてたりするのぉ?」
ラクシャータはにやにやとゼロの返事を待っている。
「‥‥全く。あのおしゃべり皇女は‥‥。恐らく口を滑らせたか何かしたのだろうな‥‥」
「て事はぁ。‥‥わかっちゃったかもぉ?あんたの正体ぃ」
「だ、ろうな。ダールトンがコーネリアよりもと思う相手は限られている」
「それはピンクのお姫さまにしてもそーなんじゃなぁい?」
「‥‥ゼロ。君は‥‥」
「‥‥なんだ、藤堂も気づいたのか?」
「あ、あぁ。‥‥可能性を考えれば、それしかないからな。‥‥また会えて、嬉しく思う」
「面識有りなのぉ?ホントあちこちと顔広いわよねぇ?」
「‥‥あの‥‥」
「へぇ?あんたはわからないんだ?ディートハルト。残念ねぇ。教えるつもりはなくってよぉ」
「‥‥悪いが、おれも口を割る気はない」
ディートハルトがごねた為に、その日、彼等の合否は決まらなかった。

───────────
作成 2008.02.29 
アップ 2008.04.04 

「いてッ」
猫に引っかかれた腕を瞬時に引っ込める。
と、同時に枝から落ちかけて、そのまま見事な着地を決めた。
「‥‥スザクには無理だな、猫が懐かないんだから。第一猫が可哀想だ。‥‥ぼくがやる」
木に登って猫に手を伸ばしていた子供を下から見上げていた子供が声を張る。
「なッ‥‥君には無理だよ、ルルーシュ。‥‥木登り、出来ないじゃないか」
「やってみる前から無理だなんて言いきるな、スザク。第一、事実上無理だったスザクに言われたくない」
二人の子供のじゃれあい、というか言い合いを遠くから藤堂は見ていた。
ブリタニアから皇子と皇女が来てから、藤堂は時々こうして遠目に見ている事があった。
スザクが猫にかまれたり、引っかかれたりするのは良くある事で、藤堂は動じない。
ルルーシュは頭から否定するスザクの言葉に、悔しそうに目の前の大木とその枝で鳴く猫を見上げていた。
それから周囲に視線を巡らした後、スザクを見た。
「スザク。少しかがんでぼくを乗せろ。‥‥少しでも近くなれば猫も飛び移る気になるかもしれないだろ」
途端にスザクが膨れっ面になる。
「おれに踏み台になれって言うのか?ルルーシュ」
「良いだろ?お前は猫には懐かれないが、体力はあるんだ。そういうのを適材適所って言うんだぞ」
暫くの押し問答の後、言い負かされたスザクが渋々と屈んでいた。
スザクの背に乗ったルルーシュは、まだ高い位置にいる猫に手を伸ばす。
その不安定で危なっかしい体勢に、藤堂は眉を顰め、近づく事にした。
かなり足早に歩いた藤堂だったが、それでも結果的には間に合わなかったのだ。
その前に意を決した猫がルルーシュの腕に飛び移り、当然の如くルルーシュはバランスを崩した。
「ほわぁッ」「ッ、ルルーシュッ」
ルルーシュの口から衝いて出たおかしな驚きの声に、スザクもまた慌てる。
土台のスザクが動いた事が決定打となったのは言うまでもない。
地面に投げ出されたルルーシュと、どうして良いかわからず唯見下ろすだけのスザク。
近寄った藤堂は、茫然としているだけのスザクを押しのけるようにしてルルーシュの容体を確認した。
ミーと鳴く猫をルルーシュの腕の中からそっと取り上げて傍らに置き。
まずは首筋に手を置いて脈を確かめ、口元へ移動させて呼吸を確認すると、藤堂は微かにホッと息を吐いた。
この状況で、情勢で、日本に来ているブリタニアの皇子の身に何か有れば‥‥、最初に藤堂が思ったのがそんな事だったのは確かだったが。
「と、藤堂師匠。‥‥ル‥‥その子、大丈夫?」
スザクはルルーシュの名前を言おうとして思い留まり、容体だけを尋ねる。
それについては、藤堂もスザクを評価したが、既に名前を呼んでしまっている事には頭が回っていないらしい。
「あぁ。脈も呼吸も正常だ。ただ、頭を打っているかも知れないから動かす事は避けたい。君は先に戻っていなさい」
遅くなれば妹の皇女が心配するだろうし、皇女への連絡を頼みたかったのだ。
「え‥‥と。けど、おれのせいだし‥‥残ります、おれも」
しかしハッキリ言わないと伝わらないらしく、スザクは頑固に残ると主張する。
「‥‥何か、冷やすモノが有った方が良いかもしれない。それを取ってくるついでに、遅くなって心配する人がいるなら心配要らないと伝えて来い」
藤堂の再度の言葉に、スザクはハッとして頷いた。
「わかりました、藤堂師匠。‥‥えと、その子をお願いします」
バッと頭を下げて頼むなり、スザクは家に向かってかなりの速度で駆け出して行った。
藤堂は姿勢を変えて、ルルーシュを抱えると問題の木の幹に寄り掛かった。
膝元で、助けられた子猫がミーと鳴いていた。


「‥‥佐。‥‥中佐、聞いておられますか?」
控えめな千葉の声に藤堂は瞬いた。
心配そうな千葉の顔がすぐ近くにある事に、藤堂は無表情に驚いていた。
千葉の後ろには、朝比奈と仙波、卜部も控えていて、それぞれ戸惑った様子を見せている。
「‥‥いや、すまん。少々考え事をしていた‥‥」
藤堂は何の話かわからず、素直に聞いていない事を認めた。
事実、四聖剣がいつ部屋に入ってきたのかすら、覚えていないのだ、話を聞いていようハズもない。
藤堂のらしくない様子に、四聖剣は余計に戸惑い、お互いに顔を見合わせる。
「‥‥そろそろ、散策の時間なのでは、‥‥と申し上げたのですが‥‥」
千葉は躊躇いがちに再度言って、「それとも今日はやめておきますか?」と続けた。

藤堂は難しい表情で沈黙した。
「‥‥えーっと、藤堂さん?ホントどうしたんですか?」
朝比奈が藤堂の表情の変化に目敏く気付いて、心配して尋ねる。
「‥‥千葉。卜部と朝比奈を連れて散策に行って来い。藤堂中佐は今回は休まれる」
仙波が有無を言わさずに、断言した。
千葉は仙波を振り返り、「承知」と頷くと、ゴネる朝比奈の襟首を引っ張って卜部と共に部屋を後にした。

「仙波‥‥」
藤堂の意見を待たずして独断で決めた仙波に、藤堂は名前を呼ぶ事で真意を尋ねる。
「たまには宜しいでしょう、藤堂中佐。‥‥時には肩の力を抜く事も必要だとわしは愚考いたします」
「‥‥‥散策は気分転換になって良いんだが?」
「承知しておりますが。散策の気分ではない時もあるでしょうな。今のように?」
仙波が珍しく茶目っ気を含んだ声音で言うので、藤堂もフッと笑みらしきものを浮かべていた。
「少し、昔を思い出して、感傷に浸っていたようだ」
「で、しょうな。わし等が部屋に入った事にも気付かれていなかったようですから」
「なんだ、気付いていたのか」
「はい。目を開けたまま眠ってしまわれているのかと思っておったくらいですよ」
二人はそう言い合って笑った。

「仙波さんってば、おーぼーだと思いませんか?」
「煩いぞ、朝比奈。少しは静かに歩けないのか?」
「だっておれだって藤堂さんの事心配なのに~」
「ならば大人しく歩け」
卜部はそんな同僚の言い合いを眺めていたが、ふと思いついて尋ねてみる。
「ところでお二人さん。中佐の様子がおかしくなったのって昨夜からだろ?昨夕の散策で何か有ったりしたのか?」
千葉と朝比奈の足と口が、同時に止まる。
同じ動きで卜部を見返して、更に同時に顔を見合わせてから首を傾げたのも一緒だった。
「‥‥どう思う?朝比奈」
「どうって‥‥千葉さんは‥‥?」
「‥‥おーい、聞いてるか?それじゃさっぱりわからねぇんだけど?てか何かが有ったってくらいしかわかんねぇぞ」
取り残された卜部が口を挟んでみるも、千葉にも朝比奈にも卜部の声を届いていないらしい。
「確かあの服は‥‥」
「あ、そうですよ、千葉さん。制服、間違いないです」
「‥とすると‥‥」
「紅月さんですね。早いとこ戻りましょう」
「朝比奈。そこで踵を返すな。ぐるッと回るくらいしろ」
「てか二人とも、おれにもわかるように説明してくれる気はないんだな?」
二人だけで納得して話を進め行動を決める千葉と朝比奈に卜部が低い声を投げた。

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作成 2008.03.07 
アップ 2008.04.03 

※「合流」の続きです。

それに気付いたのは朝比奈だった。
「あれ?‥‥藤堂さ~ん。藤堂さんの月下、通信入ってますよ?」
副指令の扇が重傷者リストに載っている事も有って、軍事の責任者である藤堂の負担も増えていた。
この時、藤堂は月下を離れ、団員に幾つか指示を出しているところだった。
月下のハッチを開けて顔を出した状態の朝比奈を藤堂は見上げた後、団員を振り返って、「行け」と言い、立ち去るのを見届けてから自分の月下を見上げた。
朝比奈が月下の手を藤堂に差し出し、藤堂は目で礼を言ってからそれに乗って月下のコックピットまで運んでもらった。

藤堂は上体だけをコックピットに入れて通信をオンにすると、「誰だ?」と尋ねる。
『‥‥わたしだ』
「ゼロか。‥‥どうした?みんな心配している。まだ降りて来れないのか?」
『いや、今から降りる。‥‥が、藤堂。人を一人乗せている。怪我に問題がないのならば、手を貸せ』
ゼロの言葉に、藤堂は顔を顰めた。
「紅月が枢木を連れていた。君は一体誰を連れてきたんだ?」
『‥‥見れば判るだろう?藤堂、お前ならば。今はあまり人目に晒したくない』
「‥‥わかった。今行こう」
『頼む』
短い声と共に、通信は切れた。
藤堂は溜息を吐いてから、スイッチを切って身体を起こした。
朝比奈が月下で藤堂を下に降ろしながら小さく尋ねる。
「藤堂さん。ゼロが乗せてるって誰でしょうね。‥‥てか、その怪我で人一人抱えるの大変でしょ?卜部さんか誰か呼びますか?」
卜部にはあのまま枢木スザクについていてもらっているし、ゼロの言い方が気になっていた事も有って、藤堂は首を振った。
「良い。わざわざ指名してきたのだから、何か意味が有るのかもしれない。無理な時は手伝いを呼ぶ」
藤堂は月下の手のひらから地面に降り立ちながら、そう応じた。
「わかりました。‥‥けど、自分で運ばないって、ゼロも怪我でもしてるんでしょうかね~?」
「それなら紅月がもう少し焦っているだろう」
藤堂はガウェインの足元で、車椅子に手を添えたカレンがガウェインを見上げているのに目をやって言った。
「ですね」
朝比奈はそれもそうだと頷き、「ならなんで?」と首を傾げた。

カレンは遠巻きな物問いた気な視線に内心うんざりしていた。
そこへ近づいてくる気配がして、しつこいと怒鳴ってやるつもりで振り返って、一瞬固まった。
カレンもまさか藤堂が来るとは思わなかったからだが、その雰囲気も何か他の者とは違っていたからでもあった。
「‥‥何か?」
「ゼロに呼ばれた。通るぞ?」
「え?ちょっ‥‥。あ、そうか。でも、なんで、藤堂さん?」
藤堂の言葉に、一瞬驚いたカレンだったが、何かを納得した後、何故藤堂だったのかに首を傾げた。
ピロロ、ピロロと鳴る携帯の着信音に、カレンは会長達か?と思いつつ相手を見て、慌てて繋げた。
「はいッ‥‥‥。あ、そうですね、わかりました」
電話の相手に丁寧に応じながら、カレンは身振りで通って良いと藤堂に伝えた。
そして電話を切るなり、紅蓮に向かって駆け出した。

藤堂は「今の電話の相手もゼロなのか?」と疑問に思いはしたが、通って良いのならとそちらを優先して、ガウェインを上り始めた。
すぐ傍にいるのに、手の込んだ事をするゼロに、藤堂は訝しさを覚えるが、それ以上に心配にもなっていたからだ。
ガウェインの肩まで来ると、ハッチが開き、「入れ」と小さく聞こえたので、C.C.の席に乗り込んだ藤堂を取り込んでハッチは再び閉じた、っておい。
「降りるんじゃなかったのか?」
そう声を掛けながらゼロの席を見上げ、藤堂は固まった。
ゼロと、ゼロの膝に乗る少女がそこにいた。
ピクッと少女は肩を震わせ、ゼロに尋ねる。
「どなたですか?お兄様」
少女の言葉に、藤堂は目を見開いた。
「‥‥君の、‥‥妹なのか?」
藤堂は疑問を口しながらもその答えを自分で導き出していた。
下にある車椅子と、盲目らしき少女、その兄。
「‥‥‥ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとその妹のナナリー・ヴィ・ブリタニアか‥‥!?」
「当たりだ、藤堂。随分と変わっているだろうに、良くわかったな。‥‥ナナリー。彼は藤堂鏡志朗。昔会った事があるだろう?あの、『奇跡の藤堂』だ」
呆れ口調で藤堂に答えたゼロは、一転優しい声音に変わって少女、妹に藤堂を紹介する。
「はい。覚えています。優しくして頂きましたし」
「藤堂が下まで運んでくれる。藤堂ならナナリーも安心だろう?」
「お兄様も一緒でなければ嫌です」
どうやら、ゼロは妹の説得に手間取っていたらしいと藤堂は察した。
「‥‥一つ尋ねても良いか?他の者に見られる心配のないこの場所で、何故仮面を被ったままだったのか。それとも今被ったのか?」
「違いますわ。お兄様は『自分はゼロだから、仮面は取らない』と仰るのです」
「一体‥‥」
「こんなモノでもないよりマシでな。‥‥藤堂、妹を頼む。それと‥‥」
「素性の事ならおれからは何も言わないと約束しよう」
「お兄様ッ」
「おれもすぐに降りるよ、ナナリー。先に行って待っててくれ。ミレイや、咲世子さんもいるから、一緒に」
「‥‥‥わかりました、お兄様。早く来てくださいね」
渋々折れるナナリーに、ゼロはマントを羽織らせる。
「頼む、藤堂」
「承知した」
ゼロの、ルルーシュの最愛の妹の軽い身体を抱き上げた藤堂は、ゼロが開いたハッチから外へと出て行った。



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作成 2008.03.11 
アップ 2008.04.02 

──面接「ジェレミア」編──

そこはダールトンが面接を受けたゲットーの廃墟ビルの一室だった。
座っているのはゼロと藤堂で、ロイドはゼロの座るソファの背もたれに肘をついているし、ダールトンとディートハルトは左右に分かれて直立して立っていた。
ちなみにディートハルトは一切記録に残さず外に漏らさないと言う条件付で同席を認められている。

部屋に入ったジェレミア・ゴットバルトはその場にアンドレアス・ダールトンとディートハルト・リートがいる事に度肝を抜かれた。
ロイド・アスプルンドがランスロットのデヴァイサーとして、黒の騎士団に与した事は最早有名な話だったので驚きはしなかったのだが。

ジェレミアの驚きが冷めぬ内に、ゼロが口を開いた。

「まずは聞こうか?『オレンジ君』?‥‥理解した、その内容とやらを」
ゼロの言葉に、「オレンジ」と呼ばれた時のジェレミアの反応を知っているディートハルトとロイド、ダールトンはひやりとして心なしか身構える。
だがそれは肩透かしを喰らってしまった。

「ずっと、考えておりました。あの時の事は、未だに思い出せないのですが、何故わたしはゼロを全力で見逃す気になったのかと言う事を‥‥」
ジェレミアは怒るでもなく、逆上するでもなく、真面目な表情でそう告げる。
ゼロは「そりゃ思い出せないだろうな、なんたってギアスのせいだし」と思いながら、「それで?」と先を促した。
「実際、わたしにはやましい覚えは一つもなく、ゼロに従う必要はなかった。なのに従ったのは、何故なのか。それをやっと思い出しました」
ジェレミアの言葉に、四人はゼロを見た。
しかしゼロの方にこそ、「思い出した」と言う内容に心当たりは当然なく、思わずコテンと首を傾げてしまった。
それから慌てて不思議がってるわけにはいかないんだと思い出し、「思い出した?」と何とか尋ねた。

勿論、納得する者はいない。
「もしかして見当違いな答え持ってきたのかなぁ~?オレンジ卿はぁ~?」
ゼロがとても楽しみにしていた様子を知っている者としては、捨て置けない事だったので、ロイドは眇めた目で見据えて言う。
「貴様にそれで呼ばれる筋合いはないぞ、プリン伯ッ」
ジェレミアはロイドをきつい眼差しで睨み返して怒りをぶつける。
「むッ、ぼくだって、オレンジ卿にその名前で呼ばれたくないんだけどぉ~?」
「それくらいにしておけ、貴様等。場をわきまえよ」
ダールトンが一喝して、二人の不毛な、或いは低次元な言い争いに割って入る。
二人はゼロを見て押し黙った。

「とりあえず、答えを聞いてからでも良いだろう?これ以上騒いでいると、また言われるぞ」
藤堂が、ロイドを見ながらそう言って扉を指差したので、ロイドはぶんぶんと首を振った。
ゼロに「次は追い出す」と言われている以上、次にゼロが言えば、藤堂が容赦なく追い出しに掛かるのが判ったからだ。

「あの時の言葉は‥‥ハッタリ、ですね?何故なら貴方の言った『オレンジ』とはわたしの瞳の色だからだ」
最初こそ恐る恐るだったが、最後はキッパリとジェレミアは言い切った。
「ほぉ?‥‥確かにハッタリだったな。軍等の組織や、派閥を唱えている者はとかく疑惑に弱い。混乱を招くには良い手だっただろう?」
ゼロはあっさりとハッタリだと認め、「ついでに、あのカプセルもハリボテのハッタリだ。わたしはあの時、ハッタリしか用いていない」と言い切った。
「ハリボテ‥‥!?」
ゼロの言葉にジェレミアは驚いて目を見開き、ゼロを凝視する。
「あぁ。お前達軍の者は、クロヴィスからカプセルの中身は毒ガスだと聞いていたのだろう?少々利用させて貰った。あれは単なるスモークだった」
「という事は、シンジュク事変の元凶となったテロリストに盗まれ使用されたという‥‥」
ゼロの言葉に、ディートハルトが思い出しながら言い添える。
「そうだ。結局、中身は毒ガス等ではなく、‥‥いや、クロヴィスにとってはそれ以上に危険なモノだったが‥‥。まぁ、中身を知る者はほとんどいなかったからな」
「そうですね。クロヴィス殿下お亡くなりの後、バトレー将軍も更迭されましたし‥‥」
とディートハルトは更迭した張本人であるジェレミアに視線を向けて言う。
「‥‥ゼロ。ならば中身は何だったのだ?」
藤堂が尋ねる。
「‥‥‥‥‥。知りたいか?」
少しの沈黙の後、尋ねたゼロに、一同揃って頷いた。
「‥‥‥‥。言われずとも承知しているだろうが、念を押しておく。外で、これに関する発言及び行動は一切認めない。‥‥そう、表情に出す事も」
またも少し間を空けて厳命したゼロは、「それでも聞きたいか?」と尋ねた。
「クロヴィスにとっては毒ガス以上に危険なモノ」とゼロは言ったが、それはゼロにとっても似たようなモノなのだと気を引き締めた。
けれども、好奇心には勝てずに、またはゼロの事なら何でも知りたいという思いから、それぞれ頷いていた。

「‥‥‥あれに入っていたのは。一人の少女だ。拘束服で拘束されていた‥‥」

沈黙。
藤堂の脳裏にゼロの周辺に出没する少女が浮かぶ。
ディートハルトの脳裏にゼロの愛人ではないかと噂される少女が浮かぶ。
ロイドの脳裏に主の傍で偉そうにピザを頬張る少女が浮かぶ。
ダールトンの脳裏に恐れ気もなく自分を見返し、鼻で笑った少女が浮かぶ。

「‥‥‥‥少女?それが何故危険で、拘束服でカプセルなどに?」
一人心当たりのないジェレミアが首を傾げてゼロに尋ねた。

「さて。その辺りまではクロヴィスに聞くのを忘れていたから、わたしも知らないな。だが危険だったのは確かだぞ」
ゼロはジェレミアにそう答え、新参であるが故に少女と付き合いの浅いロイドとダールトンが目を細めた。
「どぅ危険だったのか、聞いても良いですか~?」
「クロヴィスはあれを人の目に触れさせない内に始末をつけたかったらしいな。人目についたと知った途端、壊滅作戦に移行している」

「少しお待ちください。貴方はシンジュク事変の時にゲットーにいらっしゃったのですか?」
ダールトンが険しい表情で尋ねる。
「あぁ、巻き込まれた挙句にカプセルの中身まで見る羽目になった。お陰で危うく親衛隊に殺されるところだったが」

「なッ‥‥。では、親衛隊全員を返り討ちにしたのはッ」
「返り討ち?‥‥まぁ、名を明かしたら、銃を向けた非礼を詫びるといって止めるまもなく自殺したから、返り討ちといえばそうか?」
「ってクロヴィス殿下の親衛隊と親交ありましたっけぇ~?」
「いや?初めて見る顔だったし、名前も知らないな。その時わたしを庇った少女は、気付いたら何故か傍に‥‥。話がズレてるな」
ゼロはハタとそこで一度言葉を切って、咳払いをしてから話題を変えたというか戻した。

「‥‥ハッタリである以上、名称は何でも良かったから、特に決めていたわけではない。目の前にいて丁度目を合わせていたことだし、良いかと思ったのは確かだな」
「へぇ~?じゃあジェレミア卿の推測って大当たりだったんですねぇ~」
ロイドは感心したように暢気な声を出したが、藤堂は「当たり」と聞いて、またもや「おかしなブリタニア人が増えるのか?」とげんなりとしていた。

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作成 2008.03.13 
アップ 2008.04.01 

ダールトン入団の後、ディートハルトはゼロから「当分の間、ブリタニア人が希望してきたとしても、わたしの元まで回さずに落としまくれ」と言われていた。
ディートハルトはその時、「承知いたしました」と二つ返事で頷いたものだった。
その後は、ダールトンの時のような事故を防ぐ為に、必ず部屋の施錠を確認してもいる。
「だがしかし、‥‥」と手の中の経歴書を前にして、ディートハルトは一人固まっていた。

ロイドの時も、それなりに混乱していた団員達だったが、今度はその時の比ではなかった。
ロイドは、ブリタニア人で、軍属で、だけど七年前の戦争には参加していない事はハッキリしていた。
だが、ダールトン(通称は将軍だが、これまた一部しか呼ぶ者はいない)はハッキリと七年前の戦争に参加している事が確認されていた。
団員の中で、直接戦火を交えたのは、藤堂と四聖剣だけとは言え、その戦争で国を奪われ、名を奪われ、親しい人を奪われているのだ。
簡単に納得できる者の方が少なくて当たり前だった。

更に言えば、ダールトンは何処にいようと威風堂々とした将であり、大抵の団員は傍によると位負けしてしまうので、敬遠したいという事もあった。
ダールトンに位負けしないのは、リーダーのゼロと軍事の責任者である藤堂、四聖剣の仙波、何故かC.C.、後はロイドとラクシャータくらいである。

七年前の戦争で敵味方に分かれていたはずの藤堂が面接に同席しておいて、「何故!?」と言う声も一部上がっているが、藤堂は気にしていない。
一度、四聖剣に尋ねられた時に、「裏切らないのならば、問題はなかろう」と言ってのけたという話も流れている。
「‥‥ッて、自軍を裏切って来てるんだぜ?また裏切らないって何故言いきれるんですか?中佐」
卜部が驚いて尋ねた言葉に対しても「ゼロの顔の広さには恐れ入る」とだけ答えたという。

そりゃ顔が広いってのには、誰もが賛成するだろう。
何処からともなく列車一杯のナイトメアを用意したり、最初のアジトであるトレーラーを放蕩貴族から譲り受けたり。
キョウトの桐原公と旧知である事を知った時には魂消る程に驚いたし。
そうこうしている内に、ゼロを「我が君」と呼んで白兜を抱えたブリタニアの貴族で軍でも中佐の一組織の主任がやってきた。
今度は将軍だ、広いにも程があるってなものだろう。


幹部会議の間中何故か大人しかったディートハルトが、ゼロが解散の合図をした途端、「ゼロ‥‥」と声を掛けた。
厭な予感を覚えたのは、ゼロと藤堂、ロイドと、ダールトンの四人のみ。
ちなみにこの場にロイドがいるのは、みんなが諦めたせいだし、ダールトンがいるのはゼロと藤堂が希望したからである。
当然、ゼロから希望されたという事に、ロイドは拗ねたのだが、誰も取り合いはしなかった。
「わたしにまで回すな。そう言っておいたはずだぞ、ディートハルト」
ゼロはディートハルトに話の内容を尋ねすらせずに、そう突っぱねてみた。
「はい、伺っておりますが。それでも一人だけ、見て頂きたいと‥‥」
「少し待て、ディートハルト。一人だけ、という事は、他にもいたのか?」
眉を寄せて藤堂が尋ねるとディートハルトは黙然と首肯した。
この日、ゼロの横に座っていたのは、カレンと扇だったが、二人だけはゼロの小さな呟きを聞き取っていた。
曰く、「これだからブリタニアはッ」である。

ゼロはその呟き以外無言でディートハルトを見据え、ディートハルトはゼロの返事をじっと待っていた。
「‥‥ゼロは解散と言ったはずだ。仙波、卜部、千葉、朝比奈。お前達も先に戻っていろ」
藤堂が溜息を吐いた後、とりあえず自分の部下に声を掛けた。
四聖剣はすぐに立ち上がり、揃って「承知」と言った後、後ろ髪引かれる思いでそれでもその場を離れていく。
その為、藤堂もまた下がるべきだった事に気づく者はいなかった。
次いで扇が立ち上がり、残りの者に声を掛けつつ、自ら下がっていった。
カレンもまた、渋る玉城を引っ張るようにして後に続き、一人、また一人と人が減っていった。
残ったのは、ゼロとディートハルトの他には、藤堂、ロイド、ダールトンだけとなる。

「ゼロ。そんなに見たくないのか?」
何故日本人組織として名を馳せているはずの場所で、一人取り残されているのだろうと藤堂は内心不思議に思いながら、口を開いた。
不思議といえば、この中で日本人は藤堂だけだが、ゼロの素性を知らないのはディートハルトだけか、と別な事まで考えてしまう。
「‥‥予想がついて厭なんだ。なんなら見てみるか?藤堂。確実に後悔するから」
名指しされた以上、見たくないとは最早言えず、藤堂はディートハルトに手を伸ばした。
渡された経歴書を見て、藤堂はゼロの言った通り後悔した。
「‥‥‥‥それで?『オレンジ君』はなんと言ってきている?」
結局、ゼロは経歴書を見もせずに、そう尋ねた。
目を見張ったロイドとダールトンだが、それでも何となく予想は立てられたので自失する事はなかった。

「備考欄に『オレンジ疑惑について理解した』と書いているが‥‥」
藤堂が困惑した様子で読み上げた。
「そういえば、ゼロ。いつかお伺いしようと思っていたのですが、結局公表するという『オレンジ』とは何だったのですか?」
ゼロはディートハルトの問いには答えなかった。
「ほぉ?『理解した』‥‥か。面白い。その言い分、聞いてやらないでもないな」
くつくつとゼロはさも面白そうに笑って言ったのだ。

「あれぇ?だけどさー?『オレンジ卿』って、確かナリタ以来、療養中じゃなかったでしたっけ~?」
「その通りだ。勝手に持ち場を離れ、ゼロに向かって行って赤い新型のナイトメアにやられたのでな」
ロイドの疑問にダールトンが答える。
「‥‥そう言えば、あの時は何時になくあっさりと脱出していたようだが、ナイトメアの不具合だったのか?」
紅蓮弐式の輻射波動の影響がナイトメア全体に及ぶ遥か前に、コックピットが飛んでいってしまったのを見た時、ゼロは一瞬固まる程驚いたのだ。
「はい、左様で。自らの意思でしたら、降格モノと調べてみたのですが、確かにナイトメアの脱出機能の接触不良でした」
「ふむ、輻射波動で誤作動を起こしたか。『オレンジ君』なら無駄に粘るかと思っていたが、逆にそのせいで助かったようだな」
「‥‥‥ゼロ。『オレンジの彼』が助かったのを喜んでいるように見えるのだが‥‥?」
ナリタの戦いの時には解放戦線の一人として参加していた藤堂は、ゼロの様子を不思議そうに見た。
「フッ‥‥。『オレンジ君』は素直で反応が面白いものでな。見ていて飽きない」
楽しそうに言うゼロは、やはり喜んでいるようだ、と藤堂は思った。
「‥‥‥やはり、人が悪くなられたようですな」
そんなゼロを見て、ダールトンはポツリと呟いていた。

──審査「ジェレミア」編──

───────────
作成 2008.03.12 
アップ 2008.03.31 

「‥‥ゼロ」
藤堂は掠れた声でゼロを呼んだ。
素顔を晒しているゼロは無表情のまま、藤堂を見る。
「尋ねたい事が二つ、ある」
「‥‥‥答えられる事ならば答えよう。‥‥それで?」
ほとんど睨むようにゼロの一つだけ見える紫の瞳を凝視しながら、藤堂が言えば、ゼロは暫く静かに見返した後、無感動に応じる。
「C.C.とはなんだ?『「ゼロ」としてはC.C.が離れるのも確かに痛手』とは、どういう意味なのだ?」
「‥‥その答えを持っているのはC.C.だな。‥‥わたしには答えられない」
ゼロの回答に、藤堂は眉を顰めて、C.C.へと視線を移す。
「‥‥答える気はないぞ。わたしは。わたしはわたしだし、なんだと問われても答えようがないしな。‥‥でもそうだな、ピザを献上すると言うのなら‥‥」
「やめろ、C.C.。そう簡単にピザで左右されるな。‥‥その内、おれの素性もピザで売ろうとしないだろうな?貴様‥‥」
「流石に、時と場合と相手は選ぶ。大体、貴様がわたしのピザ代をケチろうとするからこうなるんだろう?」
どうしたものかと考えたが、この場にゼロも同席している以上ピザで釣るのは不可能と判断して、藤堂はゼロへと視線を戻した。
「‥‥全てが終わった後、『ゼロ』をどうする気なんだ?そして、君はどうする気なんだ?‥‥ルルーシュ君」
そして二つ目の問い。
「『ゼロ』は当然消える。全てが終わり、反逆する必要がなくなれば、『ゼロ』もまた無に戻るだけだ」
一切の未練も感じさせないゼロの言い様に、藤堂は嫌な物を感じる。
「‥‥では、君は?ルルーシュ君。‥‥君は、その時は、」
「初めの名は既に死んでいる。表の名もまもなくその場所を奪われる。おれはナナリーさえ幸せになってくれればそれで良い」
「待て。まもなくという事は、まだ奪われない手を打てるのではないのか?妹君の幸せは、君が傍にいなければ叶わない。‥‥間違っているか?」
「‥‥例えナナリーがゼロの正体を知り、それでもと望んでも、それは応えてはいけないし、応えられない。おれの未来はナナリーとは繋がっていないからだ」
「‥‥居場所が奪われない為の手は打たないのか?」
「既に打てる手は打ってきた。だが、ここまで皇族がエリア11に来ていては、見つかるのも時間の問題。せめてナナリーだけでも隠す算段はつけるさ」
ギリッと藤堂の奥歯が鳴る。
「‥‥ならば、日本の地を踏む皇族を、ことごとく屠れば、居場所は出来るか?コーネリアも、ユーフェミアも、シュナイゼルさえ屠ってみせれば良いか?」
藤堂の内に沸きあがるのは純粋な怒りだった。
誰に対するモノかは判らないが、ただ怒りだけが、膨れ上がっていって止める事が出来ない。
「無駄だな、藤堂。仮に、今からそれを成した所で、十手も二十手も後手であり、最早手遅れで有る以上、悪手にしか成りようがない」
藤堂に、そんな暴挙に出られては堪らないと、C.C.が口を挟む。
「それに、そんなにこいつの居場所を確保したいのならば、お前の傍に新しく作ってやれば良いんじゃないのか?」
「C.C.、貴様ッ。何を考えている?」
「お前が考えていない事だ。そうだろう?お前は妹の、『合衆国日本』の、そして騎士団の未来は見ているが、お前自身の未来は見ていない」
「‥‥見ているさ。唯、おれの先には道がないだけだ。‥‥元々、道なき道を糸を渡して強引に渡って来たようなモノだったのだ。なくて当然なんだ」
「だが、今はあるはずだぞ?わたしが作ったのだからな。お前の道はわたしとの『契約』が有る限り、なくなりはしない。わかっているはずだな?」
C.C.の提案と、それに続いた二人の会話に、藤堂は内に広がっていた怒りが急速に萎んでいくのを感じていた。
「‥‥『契約』とはなんだ?」
「質問が増えているぞ。‥‥それに、お前には関係のない事だ、藤堂。‥‥強いて言えば、わたしがこいつの傍にいる『理由』か?」
藤堂はC.C.の答えにならない答えを聞いてから、ゆっくりとゼロに視線を移した。
「‥‥‥‥。君が『ゼロ』のままだろうとそれをやめようと構わない。おれが君を、君達を守りたいと言えば、守らせてもらえるだろうか?」
ゼロはその言葉に、見えている片目を大きく見開いた。
「‥‥‥お前は、‥‥お前にはやるべき事があるはずだ。おれ達にかかわっている場合ではないはずだぞ、藤堂」
「‥‥‥‥。『ゼロ』は日本人に『合衆国日本』と言うかけがえのない宝を取り戻してくれた。その『ゼロ』を優先する事を誰も咎めたりはしない」
「文句も言わせないし、聞くつもりもない」と藤堂は言ってのけた。
「‥‥‥‥ッ」
乱暴なその言い分に、ゼロは咄嗟に反論が出てこない。
「建前と体裁はこれで整うのだ、『ゼロ』にも文句は言わせない。‥‥それとも守らせては貰えないのか?」
藤堂のそれはゼロの、ルルーシュの為だけを想った言葉だ。
他の誰をも説得して、言い負かして、ねじ伏せて、それでも傍に残りたいのだと言っているのだ。
「‥‥どうした?答えてやらないのか?」
C.C.が黙ったままのゼロに声を掛ける。
「‥‥‥‥‥‥。ッその時が来るまで、‥‥保留だッ」
迷っていたゼロはそう云い捨てるとソッポを向いた。
「‥‥いいだろう。ただし、返事を言う前に勝手に消えるなよ」
その場で即座に否定されなかった事に、藤堂は頷くと、そう返した。

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作成 2008.02.03 
アップ 2008.03.30 

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