04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
──「酒の席」編──
(※原案となる藤ルル会話文を聖魔王様より頂き加工しました。)
注意:軽く(?)違和感がありそうなので、設定だけの別モノと捉えてください。
でんッ。或いは、どんッ。
そんな感じで目の前に置かれた瓶にゼロは仮面の下で目を見開いた。
ゼロの両隣に座っていた藤堂とロイドも一瞬瓶に視線を注いでから置いた当人を睨みあげた。
「何の真似だ?卜部」
藤堂の視線の先には、酒瓶をでんと置いた体勢の卜部が苦笑を浮かべていた。
その後ろには両手に持った酒瓶を掲げて見せる朝比奈がいる。
「騎士団に合流してから、酒盛りしてないなあと思いまして」
「たまには羽目を外しませんか?藤堂さんにゼロ」
卜部と朝比奈の提案に側にいた幹部達が即座に食いついた。
「賛成っ!!賛成賛成賛せ~~~い!!!」
真っ先に叫ぶように同意したのは当然と言うか玉城だ。
しかし間髪入れずに放たれたロイドから鋭い一瞥を受け、玉城は固まった。
ロイドはそのまま再び提案者の卜部と朝比奈へと視線を移した。
「我が君が仮面を外さないでいる事に対する嫌がらせかなー、それはー?」
殺気に近い気が、ロイドと、ゼロの正面にいたダールトンから零れる。
卜部と朝比奈は顔を見合わせ揃って首を振った。
元軍人だった藤堂や四聖剣の目には、ゼロが成人していない事は解るので、始めから参加しないだろうとの読みがあったのだ。
だから卜部と朝比奈にすれば、「許可だけくれたら後はこっちで適当に」と考えただけだったのだ。
しかし、「未成年だし」なんぞと言おうものなら何がどう跳ねるかわからず二人は首を振るだけに終始する。
「‥‥明日も通常作業が出来るなら‥‥好きにすれば良いさ。但し、わたしは参加しないからな」
ゼロの言葉でロイドとダールトンは殺気を引っ込めた。
瞬時に広がる緩んだ空気に、それまで張りつめていたのかと思いながらも息を吐く者が数名。
「卜部、朝比奈。それはどうしたんだ?」
藤堂が二人の手にある酒瓶を示して尋ねる。
「あー‥‥、水、なんだよなー、これの中身は」
「ゼロ。ちなみに福利厚生ッて事で経費で落ちたりしませんかー?」
卜部の言葉に盛大にずっこけた面々は続いた朝比奈の言葉に期待の眼差しをゼロに注いだ。
「良いぞ、‥‥‥‥残っているならな」
ゼロの許可の言葉に沸きかけた一同は「‥‥‥‥はぃ?」と掴み損ねた意味を問う。
「玉城の使い込みを主にそこから充てているからな。福利厚生‥‥団員の娯楽、道楽、だろう?」
玉城の使い込みを道楽だと断じたゼロに、反論出来ない一同は同時に玉城を睨み据えていた。
しかし結局、扇の「大丈夫だ。酒代くらいならば、なんとか‥‥あるから」との言葉で、飲み会が急遽開かれる運びとなった。
仮面を外したゼロ、つまりルルーシュは、室内にいるメンバーを見渡した。
最初にやって来たのは四聖剣を振り切った藤堂だった。
仮面を外す気はないからと酒の席に立ち会う事すらしなかったゼロ──ルルーシュ──が気になったらしい。
なので久々にのんびりとした会話を楽しもうと思ったし、藤堂もそれに同意した。
しかし、すぐにロイドがやって来て、ラクシャータがロイドを追って来て、更にはダールトンまで姿を見せた。
何故か静かに、なんて雰囲気は望めなくなり、話、というか流れは飲み比べへと突き進む。
ルルーシュは諦めの溜息を吐くと肴を用意する為に台所へと向かった。
飲み比べに参加したのは藤堂とロイド、ダールトンの三人、男の意地と言う奴だ。
ラクシャータはその審判をしつつ見物しながら、ルルーシュにも酒を勧めていた。
ルルーシュは何度か断ったものの結局何故か飲む羽目になっていて、ちびりちびりと盃を傾けていた。
しかし飲み比べなので相手を牽制する言葉は飛び交うも。
見ているだけのルルーシュやラクシャータにまで声をかける余裕が段々なくなっていく。
それがルルーシュには物足りなくなる。
ルルーシュは溜息をつくと手に持っていた盃に残っていた酒を干してから口を挟む事にした。
藤堂の正面に座り直したルルーシュは見上げるように藤堂の顔を見る。
「そのくらいでやめませんか?藤堂さん‥‥。それにプリンと将軍も」
いきなりの事に藤堂は驚いて言葉少なに何とか問い掛けた。
「何を‥‥?」
「あー‥‥殿下が『奇跡の藤堂』に敬語使ってるなんてーッ。ダーメですよーぉ、我が君ー」
「煩いぞ、アスプルンド伯爵。殿下に絡むのもやめろ」
ロイドが藤堂の声を掻き消す勢いで割って入り、ダールトンはそれを咎める。
しかしルルーシュの視線はあくまでも藤堂に向かっていた。
「‥‥お酒」
ぽつり、とルルーシュは言葉を足す。
「「「‥‥?」」」
酒がどうしたのか?と、藤堂はルルーシュを見返し、ロイドとダールトンは顔を見合わせてからルルーシュへと視線を向けた。
「‥‥お酒、じゃなくて」
そう言ったルルーシュの上体がくらりと揺れ傾ぐ。
「‥‥っ!ルルー‥‥ッ」
「我が君ッ」「殿下ッ」
慌てたのは三人で、藤堂が手を差し延べて抱き寄せるようにしてルルーシュの身体を支えた。
藤堂の腕の中に収まったルルーシュの片手が持ち上がり、藤堂の頬に添えられる。
それを見た、ロイドは「ぎゃあ、我が君なんて事を~~」と叫び、ダールトンは固まり、ラクシャータは目を見開いた後にやにやと二人を見つめた。
頬にルルーシュの手の感触を感じた藤堂は目を見開いて腕の中のルルーシュを見つめる。
「おれを相手にしてください」
続けられたその言葉に、ラクシャータ以外が固まってしまっても、誰も咎めたりはしないだろう。
ロイドなどは「我が君が‥‥、我が君が‥‥」と言い続けているも目が離せない、と言った有様だ。
「‥‥ルルーシュ君‥‥」
藤堂は突然のルルーシュの言葉に困惑をありありとその表情に乗せて、真意を問うべく名前を呼ぶ。
「藤堂さ、ん」
酔いの為か潤んだ瞳と薄く色付いた頬で見上げられながら掠れた声で名前を呼ばれ、藤堂は言葉を失い、ただルルーシュを見返す。
藤堂も酒が入っているせいか、頬が染まっているように見えるのは気のせいなのか。
「‥‥‥‥」
そんな藤堂の視線から逃れるように瞼が下がり、ルルーシュはそのまま藤堂の胸に顔を埋めた。
「‥‥くぅ」
ルルーシュの口から漏れた言葉を拾い損ね、藤堂はルルーシュの艶やかな黒髪を梳きながら復唱した。
「‥‥『くぅ』?」
しかし、ルルーシュからの反応はない。
「‥‥」
「ルルーシュ君?」
藤堂は訝るように名を呼んだ。
「‥‥むにゃ」
しかしルルーシュの瞳は開かれず、口からついてでたのはかわいらしい寝言で。
「‥‥‥‥‥‥びっくりした」
藤堂は思わずそう言って、息を深々と吐き出していた。
「‥‥‥‥」
ルルーシュの返事は規則正しい寝息だけ。
「我が君が『むにゃ』って‥‥そんなー」
「アスプルンド伯爵。静かにしないか。殿下がお起きになられたら如何致す気だ」
嘆くロイドにダールトンは吐息だけに近い言葉で注意を促す。
ロイドは暫く、ルルーシュの様子を見ていたが、やがて溜息を吐くとこくりと頷いた。
「‥‥‥」
藤堂は腕の中で眠るルルーシュに穏やかな眼差しを向け、その眠りを妨げないように、髪を梳き続けた。
まさか、主の穏やかな眠りを妨げるわけにもいかず、黙り込むロイドとダールトンを促すラクシャータに従ってそっと部屋を後にした。
勿論、ロイドは出る前に藤堂を睨む事は怠らなかったが。
次の日、目が覚めたルルーシュは、一睡もしなかったらしい藤堂の腕の中だった事に激しく動揺する事になった。
その後。
宴会会場となった場所に足を踏み入れたゼロ、藤堂、ロイド、ダールトン、そしてラクシャータが見たものは。
屍累々たる地獄絵図だったとか。
ゼロは自身の記憶が途中からない事を自覚しながらも、幹部一同を正座させて、懇々とした説教大会を開く事になった。
───────────
作成 2008.08.06
アップ 2008.08.11
※「七夕と願い事」の続き
七夕であるその日の夜、満天の星空の下、テレビのスクリーンが黒の騎士団によってジャックされた。
『さて。七夕に無粋な事をして申し訳ない』
スクリーンに映ったゼロがそう挨拶した直後だった。
すぐにスクリーンに映らない場所にいるのか女性の声が割って入って来る。
『ブリタニアに告げるわぁ。これから藁を手に入れようと思うのぉ。人形を作る為なんだけどぉ。後五寸釘はちゃぁんと入手したから心配要らないわぁ』
『おい、一体何を言っているんだ?』
『良いから貴方は黙ってなさいなぁ。‥‥聞いてるかねぇ?皇帝に効かない事は過去に実証済みだからぁ。周囲から攻める事にしたわよぉ』
『おい、何を!何故バラす?逃げられるではないか』
『あらぁ?どこに逃げたって効果に変わりなんてないんだから良いじゃないのぉ。ゼロに味方するってぇなら、対象外にするらしいけどねぇ』
ラクシャータがそう言ったところで、スクリーンが二つに割れた。
『それ、本当かぃ、ラクシャータ!?』
現れたのはメガネをかけた銀髪の男で、その白衣の後ろに軍服を着た女性が控えている。
『あんたは別よぉ。プリン伯爵ぅ。なぁんで速効で喰いついてくるのかねぇ』
『だって、君がそう言うからにはゼロってあの方なんだろ?そうじゃないかとも思っていたし、それなら騎士団につこうかなって思ってさー』
『そうですよ、ラクシャータさん。わたしもそちらに行きますね。あ、ランスロットは持参しても良いですよね?』
『あ、デヴァイサーは要らないわよぉ。確かプリンも乗れたはずだしぃ。プリンはなんとか許容してもぉ、パーツまではねぇ?』
『大丈夫ですよ。気付いてませんから。じゃあ、ロイドさんとそちらに向かいますね~』
ブツンと音を立てて黒くなった半分に、分割されていたスクリーンが戻るかと思いきや、すぐさま別の人物が現れる。
『先を越されてしまったけれど、わたしも君につこうと思う。構わないだろう?ゼロ』
代わって現れたのは、神聖ブリタニア帝国宰相である第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアだった。
『‥‥‥‥宰相閣下自らが、ですか?』
『ぅん?そんなの気にする必要はないよ。わたしにとっては君の方が大事というだけの事』
シュナイゼルがそう言うと、シュナイゼルの姿は4分の1になり、その下に更に見知った顔が現れる。
『義兄上ぇえ!何をお一人で決めているのですかッ!!』
『‥‥コーネリア、かぃ?誘って欲しかったのかな?』
肩を怒らせて抗議する第二皇女に、シュナイゼルは普段通りに問いかける。
『‥‥‥‥‥‥当然です』
コーネリアは不服そうな表情のままでこくりと頷いてみせたのだった。
『ゼロぉ。とりあえず、ここにいる意味はもうないわよねぇ?言うべき事は言ったんだしぃ』
『ぇ?いや、しかしわたしはまだ』
『良いから良いからぁ。ほら、笹のところでみんな待ってますよぉ。今日は晴れてますしぃ、存分に願い事を致しましょうねぇ』
戸惑うゼロに対して、女性はそう言ってゼロの背中を押すようにしてスクリーンから退場していった。
二人の皇族をそのままに、人の映らなくなった半面は、数瞬後ブラックアウトした。
慌てたのは四分割表示から二分割表示に切り替わった二人の皇族だった。
『コーネリア。こうしてはいられないね』
『そうですね。わたしはすぐに動きますので、義兄上もお早く。‥‥ではあちらで』
そんなやり取りを画面越しで交わした二人の姿もまたぶつんとした音と共にブラックアウトして、モニターは暫く黒一色となった。
そんな黒画面を前にして、一番慌てたのは、皇帝の傍近くに仕える者達だった。
ゼロと共に映っていた女性の言葉が正しければ、最初の標的にされる可能性が濃厚だったからだ。
そして、地位が高ければ高い程、昔のとある女性について知る者も多く、恐慌状態に陥る者まで出る始末だ。
宰相である第二皇子と、エリア11の総督である第二皇女がゼロにつくと公表しているのだから、自分がそれに乗っても悪くないだろうと言う心理が働く。
そうして、空前の寝返りがここに起こる事になった。
ブリタニア本国、謁見の間にて、ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは、玉座に座っていた、何時も通りに。
しかし、謁見の間には他に人の姿はない。
謁見の時間になってから随分と経つのだから、何時もならば引きも切らない長蛇の列の謁見を望む者を相手にしている時間のはず。
しかし、取り次ぐ者もいなければ、取次ぎを待つ者もいない。
護衛の兵も姿を見せず、だだっ広いだけに謁見の間は薄ら寒く感じられ、皇帝は一人首を傾げて人の来るのを待っていた。
一方エリア11政庁では。
黒の騎士団へ寝返る者達が長蛇の列を作っていた。
エリア11総督コーネリア・リ・ブリタニアが、黒の騎士団に政庁を無血で明け渡したからだ。
これまでコーネリアが座っていた椅子に、戸惑いを隠せないらしい仮面をしたままのゼロが座り、寝返る者のリストを手に首を傾げていた。
傍には藤堂とラクシャータ、シュナイゼルとコーネリアにロイドが立ち並び。
壁際には四聖剣と扇、カレンの他、ギルフォードにダールトンにセシル、その他付き従う騎士達が並び立つ。
吐息を漏らしたゼロに視線が集中した。
「‥‥どうした?ゼロ。‥‥疲れたのならば少し休むか?」
尋ねたのは藤堂で、ゼロは首を振ってから藤堂を見上げた。
「いや。‥‥ただ、晴れた日の七夕の威力がいかに凄いかを身をもって実感している」
心底感心したように言うゼロに、「いや、それは違うから」とそれぞれが内心でツッコミを入れる。
結局、ゼロの誤解を解く事が、出来なかったのだ。
そして今回のラクシャータ発案の作戦のせいで、ゼロの誤解に拍車がかかっていて、最早多分その誤解を解くには手遅れである。
何故なら、裏切って長蛇の列を作るブリタニア軍人達の手には折鶴があったりする。
更には列の最後尾辺りには座り込んで鶴を折る者や折り方を教わる者、教えてくれと頼む者がひしめき合っていたりする。
七夕の効果を実感したゼロが、今度は千羽鶴の効果を検証したいと思ったらしく、折鶴持参を条件にした為だった。
そうして受付を済ませた者の書類がゼロの手元にやってきているのだが。
「えーっとぉ。ゼロぉ。千羽鶴幾つ用意するのぉ?てか何祈るのぉ?」
ラクシャータが既に千枚をゆうに越している経歴書に視線を向けながら、尋ねた。
「決まっている。千羽鶴に祈るのは『優しい世界になりますように』だ」
きっぱりと言い切ったゼロに、一同揃って溜息を吐いていた。
了
───────────
作成 2008.08.06
アップ 2008.08.07
それは、ギリギリの勝利だった。
得るモノは確かに大きかったが、その為に失ったモノもまた、大きかったのだ。
ブリタニアを退け、独立を果たした最大の立役者である黒の騎士団の全員を、リーダーのゼロは大講堂に集めた。
押し合いへし合いしながら、どこか誇らしげに団員は整列する。
報告を受けた重傷をおしてやって来ていた扇が、座ったままゼロに声をかけた。
「ゼロ。来れる者は全員揃ったようだ」
ゼロは扇に視線を向けて頷いてから、幹部達を見渡した。
みな、どこかしら怪我をして包帯が巻かれている。
それは、平の団員にも言える事だった。
幾人か見えない顔があるのは、重傷者か‥‥死者なのだ。
ゼロは壇上に用意されたマイクに向かって優雅に歩いていった。
途端に、少々騒がしかった場内が、水を打ったように鎮まった。
マイクの前で、ゼロは場内を見渡した後、ゆっくりと話し始める。
『騎士団の諸君。良くやった。本日、この地はエリア11ではなくなり、独立国「合衆国日本」となった。もはや、諸君を「イレブン」と呼ぶ者はいない‥‥』
場内を揺るがす程の大音声が、ゼロの語尾を消す勢いで響き渡った。
雄叫びをあげる者、歓喜を叫ぶ者の声が巻き起こったのだ。
ゼロは、それを鎮めようとはせずに、自然に鎮まるのを待った。
『国葬に先んじて、明日、騎士団内の合同葬儀を執りおこなう。全員参加して貰う。黒の騎士団はその後、幹部を残して解散する。以上。解散』
続いたゼロの言葉に、先程とは違う種類のどよめきが起こるが、ゼロは気に留める事なく壇上を降りた。
袖で待っていた幹部の中に、ディートハルトを見つけ声をかける。
「ディートハルト。合同葬儀の手配を頼む。騎士団入団後死亡した者のリストを、わたしにも届けてくれ」
ゼロはそう言ってから、改めて幹部一同を見渡した。
「もちろん、抜けたいと望む者を引き止めるつもりはない。それぞれで選ぶといい」
幹部の中に、動揺が走る。
「ゼロ。君はどうするつもりだ?」
藤堂がみんなの最大の関心事を口にした。
「‥‥わたしは‥‥。‥‥そうだな、明日の合同葬儀の時に発表しよう。みんなもゆっくり考えるといい」
ゼロははっきりとは答えずに答えを先送りにして、歩き出す。
幹部達はそれを不思議に思った。
消えるにしろ残るにしろ、ゼロならとっくに決めていると思っていたからだ。
「今は言えねッてのか?」
いつもの如くに玉城が突っ掛かる。
足を止め、振り返ったゼロは、真っ直ぐ玉城に仮面を向けた。
微かな違和感。
「そうだ。確かに、わたしは既に決めているが、‥‥今は言う気にならないな」
「‥‥何故か、聞いても構わないか?」
再び藤堂が尋ねる。
「お前達の中には、わたしの存在の有無で決めかねない者が少なからず、いそうだからだ」
ゼロは藤堂を中心に、幹部達を見ながら即答する。
ゼロがいるなら参加したい者、ゼロがいなければ参加したい者、またはその逆‥‥‥‥。
それには否定できず、誰もが黙る。
カレンと玉城はその両極端だろうと言われているくらいあからさまだったりもする。
「これからの大事な決断だ。わたしに構う必要はない。己のやりたい事を、自分なりに考えてみる機会だと思えばどうだ?」
「だけど‥‥。君の存在はかなり大きいと思う。君の身の振り方はみんなの最大の関心事でもあるわけで‥‥わからないままだと気になってしまう」
扇が、そう切り出した。
「残るにしろ、去るにしろ、わたしは素性を明かす気はない。‥‥それで桐原公はともかく残りのキョウトや民が同意するかどうかという問題もあるぞ?」
ゼロの言葉は、「残ると決めていたとしても、周囲の反対から残れない事だって有り得る」と言っていた。
「‥‥ゼロ。桐原公はともかく、とは。桐原公が君の素性を隠したままでの参画を認めると?」
「彼はわたしを判っているからな。‥‥認めるだろう?わたしに残る意思があると判れば」
「で?残る意思はあるのか?」
「それは明日だと答えたはずだが?」
ゼロは視線を転じてゾロゾロと引き上げていく平団員の波に逆らうようにしてやってくる老人に気づいた。
それが誰か分かった団員達は行動を邪魔しないように避けるから、余計にわかる。
ほとんど邪魔されなかった老人は、程なく幹部たちの傍へとやってきた。
「合同葬儀をおこなうそうじゃの、ゼロ」
「はい。‥‥騎士団としての締め括りとしては必要かと。この日の為に、頑張ってくれた者達ですし」
「話があるのじゃがな、ゼロ。‥‥独立を果たした以上、可及的速やかに決めねばならぬ案件が山のようにある」
「承知している。軍事、民間レベルでは話をつけているとはいえ、早急に代表を立て各国との調停を結ばねば、第二第三のブリタニアとなりかねない事は」
桐原にとっての最大の懸念事項をサラッと言ってのけたゼロに、桐原は「何故?」と困惑した視線を投げる。
「それが分かっているのならば、黒の騎士団の解散はしばし待たれよ」
ほんの少し硬質化した老人の声に、気付いたのは藤堂と仙波、それにゼロだけだったが、ゼロはフッと笑ってみせた。
「‥‥黒の騎士団の名前で話をつけていたわけではない。わたしが話をつけた時に出した名前は貴方のものだ、桐原公」
「なに‥‥?」
訝しげに桐原は眉をよせてゼロを見る。
「何をどういったところで、黒の騎士団はテロリストに変わりはない。第一、何の為に『合衆国日本』の宣言に、キョウト六家を立ち合わせたと?」
「‥‥見届け人、ではないとでも言う気か?ゼロよ」
「違うな、桐原公。キョウト六家があの場にいた事で、例えわたしが宣言をしたとしても、『合衆国日本』はキョウトを中心に置く事になった」
キッパリと言い切ったゼロの言葉に、騎士団幹部達にも動揺が走った。
───────────
作成 2008.03.01
アップ 2008.08.06
カレンは不満だった。
最近、ゼロの側には四聖剣の誰かが常にいて、ゼロもそれが当たり前のように思っているみたいだったからだ。
「ゼロが月下(隊長機)に乗るから連携が取れるようにしないとね」との朝比奈の言い分が納得出来てしまえるのも腹立たしいのだ。
「あんた達四聖剣は藤堂さんの部下でしょ!」とカレンは内心で叫んでいた。
ゼロに言うのもはばかられ、藤堂に注意して貰おうとカレンが部屋に向かうと既に先客が扉の前で仙波と睨み合いをしていた。
「む。紅月も来たのか」
ディートハルトの肩越しにカレンを見た仙波がそう呟いて嘆息した。
「藤堂さんは?」
「中におられるが今は会わせられぬ」
相手がディートハルトからカレンに替わっても仙波の言う事は変わらない。
大体、彼らが中に入って目にするのは、ゼロの仕事をゼロ並に処理していく藤堂の姿だ。
間近で見て初めてゼロの殺人的な仕事量を実感した四聖剣は、その姿だけは他人に見せないと決めた。
元に戻った時、「やってたじゃないか」とか「出来るだろ」等と言われて藤堂が過剰な仕事を割り当てられない為にだ。
その言い分はゼロも認め、四聖剣が手伝う事を条件に他人に見られないよう心がけると約束していた。
今、中でゼロ(外見藤堂)の手伝いをしているのは千葉で、ディートハルトが来る前は仙波も共に手伝っていたのだが‥‥。
カチャと音がして扉が内側から開き、千葉が顔を見せた。
「仙波大尉、わたしはこれより月下の整備に参ります。後をお願いしても?」
「うむ、承知した。次は卜部か?朝比奈か?」
「卜部さんです、大尉。この二人はわたしがゼロの元へ連れて行きますので」
仙波と千葉はそう言って頷き合い、仙波は口を挟む事も出来ず見ているだけだった二人を置き去りに部屋に姿を消した。
「さて」
千葉は扉が閉まるのを確認すると、ディートハルトとカレンを振り返り、そう始めた。
「共に来て貰うぞ、二人とも」
「しかしですな」
「‥‥お前達の言いたい事は理解してるつもりだ。ゼロも中佐も他の四聖剣やラクシャータもだ。それでも応じられない事は有る」
諭すようなそれでいて諌めるような千葉の言葉に二人は突入を断念した。
「‥‥ゼロのところに連れて行って、どうするつもり?」
カレンは探るように千葉に尋ねる。
「別になにもしない。まぁ今は、中佐にしろ、ゼロにしろ何かと忙しいのは確かだ。手を貸すのならともかく、邪魔はするなよ」
千葉はそう言うと格納庫に向かって歩きだし、カレンとディートハルトは顔を見合わせてから後を追った。
「と‥‥ゼロ、この動きなんですけど」
普段から藤堂や四聖剣と話す内容なのも相俟って、朝比奈は呼び掛け間違えないようにするのに一苦労していた。
「あぁ、そこは‥‥。慣れないか?」
「今もですけどー、戻った後に間違えそうな程には慣れたくないかなって思いますねー」
朝比奈は曖昧に頷いて答え、「良く平気ですよね」と続けた。
「朝比奈ぁ、そろそろ千葉が交代にやってくる。おれの月下は整備終わったから、後は頼むぜぇ?」
「わっかりましたー、卜部さん」
卜部の声に振り返った朝比奈は「頑張ってくださいー」と卜部を激励した。
───────────
作成 2008.05.18
アップ 2008.08.05
「藤堂!」
ゼロが藤堂の名を呼びながら近づいて来るのを見て、四聖剣は嫌な予感を覚えた。
藤堂とゼロが藤堂の部屋で待ったり過ごしていたのを目撃してからそう日が経っていなかったからだ。
四人が「まさか‥‥またッ!?」と思ってもそれは不思議ではないだろう。
「どうした?ゼロ」
「‥‥今日は時間が取れるか?」
「って待った、ゼロッ!藤堂さんはおれ達とこの後話があるんだから、時間なんてないよッ」
朝比奈があれはもう見たくないと横から慌てて割って入った。
「そうか、わかった。‥‥ラクシャータ」
ゼロはあっさり引き下がり、背中を見せていたラクシャータに話を振った。
藤堂は口を開こうとしたまま固まっており、朝比奈は千葉から殴られた。
「んー?なぁに?事と次第によっちゃ、時間作ってもいーけどぉ?」
振り返ってそう応じたラクシャータは完全にゼロではなく藤堂を見てにやにや笑っている。
「少し出かけたいところがあるから、それに同行を頼もうと思ったんだが」
「わたしにぃ?それとも藤堂にぃ?」
「‥‥都合がつけば両方に、と思っていたが、藤堂は時間が取れないらしいからな。‥‥ラクシャータはどうだ?」
ゼロの言葉を聞きながら、「それを本人のいる横で言うか?普通‥‥」とラクシャータと四聖剣は頭痛を覚える。
というか、邪魔をした朝比奈さえもが頭に手を置いているのは何も千葉に殴られたせいばかりではないのだ。
「いぃわよぉ。ちょっと煮詰まってたところだしぃ、気分転換も必要よねぇ。だけど、後で相談に乗って貰うわよぉ」
「中佐。話は戻ってからでも構いませんが。今ならまだ間に合うかと」
千葉がこれまたゼロにも聞こえるように声も落とさず藤堂に話しかけ、チラとゼロを見る。
「お、おれも千葉さんに賛成~。千葉さんに殴られた頭が痛くなってきたしぃ‥‥」
「む、それはいかんな。部屋で休んでくるか?朝比奈」
「あ、じゃあおれが運んでやるよ。てことで藤堂中佐。話は夜か明日以降って事で」
反応のないゼロと藤堂に、朝比奈と仙波と卜部が揃って藤堂を後押しした。
「‥‥と、言う事だが。ゼロ」
「そ、そうか。では二人とも一時間後にゲットーR出口で。ラクシャータ、相談は戻ってから聞こう」
そう言ったゼロはそのまま踵を返して去って行った。
「‥‥て、もしかしなくても仮面外すとか?」
ポツリと言った朝比奈の言葉に「あッ‥‥」と言う呟きが重なる。
「R出口と言う事は目的地は海岸方面。浜か港か岬か‥‥沖にまで出るとは思わないけどよ‥‥」
確かにその辺りで仮面したゼロの姿のままでは目立ちまくる事請け合いだ。
何と言っても隠れる場所がないのだから。
「‥‥では余程の用事と言う事か‥‥」
「‥‥‥‥。余程と言うか‥‥」
千葉の言葉に、藤堂は思い当たる節が有って、言いかけて口篭る。
「藤堂中佐?何か心当たりでもお有りなのですか?」
「‥‥今日、団員が少ないわけがわかったというか」
「それなら母の日だから親孝行とか墓参りとか、あ‥‥て事はもしかしてゼロも?」
「ブリタニアは遠いからねぇ。それで海かぁ。お墓がこっちにあるとは思えないしぃ」
「ておい、ラクシャータ。墓限定なのかよ?」
「あらぁ、だって亡くなってるもの、ゼロのお母様」
「ラクシャータ。お主、ゼロの素性を?」
「知ってるわよぉ。だから、わたしに声をかけたのよ、ゼロもぉ。わたしとしてはぁ、藤堂に声をかけた事の方がよっぽど驚いたけどねぇ?」
あっさり首肯するラクシャータに驚き、その言葉に四聖剣の視線が藤堂に流れる。
「おれは知らない。ただ、ゼロは『家族はたった一人しかいない』と言っていたからな‥‥」
「へぇ、ゼロがかぁなり気を許してるなんて、あんたやるわねぇ藤堂。さぁてとぉ。早く行かないと時間までに辿り着けないわねぇ」
ラクシャータは伸びをするとキセルをひらつかせて立ち去って行く。
「どこに寄る気だ?」
「お花屋~。母の日だものぉ。カーネーションくらい有った方が良いでしょー。まぁさか藤堂に買いに行けなんて言うわけにはいかないしねぇ?」
「やっぱりここにいらしたんですねぇ。ルルーシュ様」
花屋から出て来たルルーシュを見つけ、ラクシャータは声をかける。
「‥‥来たのか。藤堂は?」
「別行動。花屋に寄るって言ったからついて来てないはずですよぉ。買いに行かされると困るでしょうしぃ?」
「違いない。すまなかったな、ラクシャータ」
「構いませんよぉ。てより誘って戴けて嬉しかったくらいですしぃ?でも何故藤堂も誘ったんですかぁ?てかわたしより早く声をかけてましたねぇ?」
「‥‥あーその、だな。‥‥‥‥と、とにかく行くぞ。おれが遅れてはまずいだろう」
「そうですねぇ」
くすくすと笑ったラクシャータはルルーシュの後について行った。
了
───────────
作成 2008.05.11
アップ 2008.08.04
二人きりになり、桐原が机に向かい筆を走らせるのを見ながら、ルルーシュは高圧的な声を出した。
「どういうつもりだ?桐原公。少々遊びが過ぎてはいないか?」
「黒の騎士団はゼロの軍隊。ゼロがおらぬ間にどうなっているのか、ゼロをどう思っておるのか、一度見ておくのも良いかも知れぬ、と思うての」
「無断で話を進めるのはやめて頂きたかった。騎士団には表のわたしを知る者がいる。バレれば桐原公と知り合いだという件と変装の件、痛い腹を探られる」
少女の姿で渋面を作ってみても、正しい効果は得られず、桐原もまた堪えた様子はかけらもなかった。
「ほぉ。‥‥してその者の名は?」
「‥‥‥。紅月カレン。紅蓮弐式のパイロットだ」
ルルーシュは暫し躊躇った後、その名を告げた。
「あの少女か。‥‥良かろう。エルを騎士団に向かわせている間に、こちらで少々借り受けよう。それならば良いか?」
桐原の言葉に、ルルーシュは折れて頷こうとしたが、その時、扉をノックする音が聞こえて、ルルーシュはエルになりきった。
「どうした?」
桐原が問いかける。
「建物を撮影していた不審なブリタニア人を捕らえました。いかが致しましょうか」
その言葉に、ルルーシュは思い当たる人物がいた為、思わず額に手を当てた。
「‥‥名を」
ごく小さく、桐原にそう告げると、「その者、名はなんと言う?」と質問してくれた。
「持っていた身分証には、『ディートハルト・リート』と有ります。ブリタニアの報道関係者のようですが、‥‥スパイやも知れません」
「‥‥団員です」
桐原は軽く目を見張り、嘆息した。
「別室にて見張りをつけておけ。後で話を聞く。それまではあまり無体な事はするな」
「了解いたしました。失礼致します」
扉の外の気配は、そのまま遠ざかっていった。
「真に騎士団の者なのか?」
「えぇ。情報・広報の責任者にすえた者。‥‥藤堂達を見かけて後をつけてきたのかもしれない」
まさか自分がつけられていたとは思わず、ルルーシュは答える。
「そうか。‥‥ならば藤堂に預ければ良いな?じゃが、そうするとアジトまではエルも共にと言う事になるのか?」
桐原の言葉に、ルルーシュはその光景を想像し、嫌そうに顔を歪めた。
「‥‥仕方ない。あまり近付きたいとは思わないのだが‥‥」
「まぁ、せいぜい藤堂達に守って貰え」
そう言って笑う桐原に、ルルーシュは溜息を吐いたのだった。
戻ってきたのは、桐原一人だった。
「藤堂。この者に心当たりはあるか?」
桐原はそう言って、ディートハルトの身分証を渡す。
身分証が誰の物であるかを見て取った藤堂と仙波は、出来ればアジトに戻るまでくらいは忘れたままでいたかったと渋面を作る。
「‥‥‥‥‥‥。‥‥団員です」
長い沈黙が、答えたくないと言う思いを如実に表しているようで、桐原は苦笑した。
「実は建物の周りをうろついていたので、部下が捕らえて来たのだが‥‥預かると言うのであれば引き渡すぞ?」
藤堂と仙波は反射的に、「いらん」と言いそうになってなんとか堪えた。
確かに能力は高いのだが、いかんせん普段の言動によって相殺どころかマイナス方面へと、その評価は突出してしまっているのだ。
「‥‥後程、団員を寄越すまで預かって頂くわけには?」
それ程までに引き取るのが嫌なのかと、桐原はエルの態度と合わせて、面白いと思った。
「あー‥‥その、ですな。エル殿を同行するならば、一緒、と言うのはどうかと思うわけでして‥‥」
仙波もまた何とか回避する方向へと話を持っていこうと口を挟んでみた。
ここまで毛嫌いされているのに、一部門の責任者という事は、かなり有能なのだろうと、桐原は納得した。
勿論、周囲にこれ程煙たがられる者を配下や身近に欲しいとは断じて思わないのだが。
「ふむ。‥‥ならば、引取り人はこちらで指名させてもらうとしようかの。扇、と言ったな。それと紅蓮弐式のパイロット。その二人で引き取りに来るように伝えよ」
どうしたものかと思い、藤堂と仙波は視線を合わせるが、それも束の間、二人は揃って頷いていた。
───────────
作成 2008.07.03
アップ 2008.08.03
扇とカレンは後ろ髪引かれる思いで、ゼロと藤堂、四聖剣の二人を残して騎士団の本陣まで下がっていた。
「おいッ、扇、カレン。ゼロや藤堂達はどうしたッ」
玉城が二人に苛立たし気に声を掛ける。
四聖剣の仙波と卜部や他の団員達もその答えを固唾を呑んで待っている。
「‥‥まだ残っている。‥‥シュナイゼルと会談中だ」
扇はカレンと視線を合わせてから、そう言った。
とりあえずはゼロの素性と、枢機卿については黙っているように言われているからだ。
言ったところで混乱を招くだけ、と言われては従うより他にないし、うまく説明できる自身もなかったからだ。
「‥‥じゃあ、扇さん。わたしは行きますね」
カレンは扇に一言声を掛けると、紅蓮弐式に向かう。
「って、何所行く気だ?カレン」
「任務、よ。‥‥ゼロに頼まれた事があるの。あ、仙波さん、卜部さん。ついて来て下さい。藤堂さんから許可は貰ってますから」
仙波と卜部は顔を見合わせ、一度政庁に視線を向けてから頷いた。
「「承知」」
カレンは紅蓮弐式に騎乗し、月下に乗った二人を従えてその場を去って行った。
「‥‥で?おれ達はここでボケーッとしてろってのか?」
「えっと‥‥。ラクシャータ、ディートハルト。被害状況はどんな感じだ?」
「ナイトメアはぁ~。パイロットがいるモノのぉ、損害率30%ってところねぇ。今修理中だけどぉ。全く動かないのはないわよぉ」
「団員の死亡者が32名。重傷を負って戦線離脱の者87名。軽傷多数、といったところですな」
ラクシャータがナイトメアフレームの事だけを説明し、後にディートハルトが人的損害だけを告げた。
「32、‥‥120‥‥か。とにかく交替で食事と仮眠を。話し合いの結果次第ではもう一戦有るかも知れない」
扇は溜息を吐くと、団員に指示を出した。
「ってシュナイゼルを捕まえたんじゃなかったのか?‥‥さっきの停戦の指示だって‥‥」
玉城が呆れたような声を出す。
「とりあえず、一旦停戦、と言うだけだ。今おこなわれている会談がどうなるのかはおれだって知らない」
扇は政庁に目を向け、眉を寄せながら、そう言った。
「そんな状況なのに、ゼロを残して来るなんて、ゼロに危険はないのですか?」
扇の言葉に素早く反応したのはディートハルトだ。
彼に関して言えば、ゼロの安否だけが気がかりなのだろう。
「それは‥‥。藤堂さん達が責任を持って護る、と言っていたから‥‥。ゼロには3人付いているし」
「ゼロには?‥‥シュナイゼル殿下には何人ついているのですか?」
「あー‥‥っと、‥‥1人、だよ。‥‥武装はしてない、と思う」
扇は滑った口を呪いながら、ボソボソと応じていた。
ソファにシュナイゼル、『ルルーシュ』とゼロ、藤堂が向かい合って座り、千葉と朝比奈はゼロと藤堂の後ろに立っていた。
「立っていられると落ち着かないね。‥‥君達も座ったらどうかな?」
シュナイゼルが千葉と朝比奈に声を掛ける。
「座りたくなったら考えますよ。それか藤堂さんに言ってください」
朝比奈はシレっと応じる。
シュナイゼルは、藤堂に視線を向けた。
「ゼロ、気になるなら座らせるが?」
藤堂はシュナイゼルの視線などお構いなしに隣のゼロに聞く。
ゼロは首を傾げた。
「わたしは別に気にならないが?」
「‥‥まぁ君は、そうだろうね、ゼロ」
昔から他人の視線には頓着しない二人の「ルルーシュ」に、双子だと知る者達がどれほど気をもんだ事か。
特に苦労させられたのは、離宮以外で会う事の多かった第二皇子とアッシュフォード家の令嬢だった。
シュナイゼルやミレイが笑顔の下で、他人の視線に敏感になったのは、それが原因なので、物悲しい気分になった。
「義兄上、話を進めましょう」
『ルルーシュ』がやっぱり、シュナイゼルの言った意味を理解しないまま、先を促した。
「まずお尋ねしても?‥‥何度ありますか?シュナイゼル義兄上」
ゼロが尋ねる。
「やれやれ。二人ともせっかちだねぇ。‥‥クロヴィスが亡くなる前までで32回‥‥だったかな?」
シュナイゼルの回答に、ゼロだけでなく、『ルルーシュ』もまた驚いていた。
「良くそれで、未だに宰相なんてやれてますね‥‥」
「と言うか、それだけ失敗してるんですか?‥‥わたしは人選を誤ったのかも知れませんね」
二人してそっくり同じ呆れ顔をシュナイゼルに向けて言い、一拍置いて続けた。
「「‥‥と言う事は、まさか他の者も?」」
声を揃える双子に視線を向けたシュナイゼルは苦笑する。
「ゼロが知らないのは判るとして、猊下もご存知ではなかったとはね」
「仕方がないでしょう、シュナイゼル義兄上。足場固めに忙しかったのですから」
どこか拗ねたように『ルルーシュ』が言い訳を口にする。
「と言う事は、兄上はゼロですか?」
「‥‥‥数回クロヴィス義兄上を嗾けた事はあるよ」
「クロヴィス義兄上がエリア11に飛ばされたのはそのせいですね‥‥。気の毒に」
確かに気の毒とは思う。
本国で第十一皇子の口車に乗ったせいでこの地に飛ばされ、飛んだ先で第十一皇子に暗殺された事になるのだから。
「ゼロ。それは何の回数ですか?」
千葉が口を挟む。
「‥‥知りたいのか?」
「はい。教えて頂けるのでしたら」
首を傾げて訝しげに問うゼロに、千葉は頷いた。
ゼロは、「そうか‥‥」と呟いた後、シュナイゼルと『ルルーシュ』に視線を向けた。
「「皇帝暗殺‥‥失敗の回数と言うのが正しい(でしょう)ね」」
千葉の問いに、二人の「ルルーシュ」が同時に答える。
「確かに失敗しているけどね、初めから失敗を前提にしているわけじゃないのだし、一言余計だよ、二人とも」
「「事実は認めた方が宜しいですよ、シュナイゼル義兄上」」
苦笑しながらやんわりとシュナイゼルは訂正を求めるが、二人に軽く一蹴されてしまった。
「「‥‥‥‥皇帝暗殺!?」」
やっと言葉が脳に浸透した千葉と朝比奈が、揃って驚きの声を上げる。
「弱肉強食が国是だからね。皇帝から苦情は出ないんだよ。だからまぁ、この件に関して皇族なら咎められる事もない」
シュナイゼルが笑みを浮かべたまま応じる。
「それにしても、その回数は頑張り過ぎでは?」
「単純計算で年5回以上ですね」
二人はやはり呆れた口調のままである。
「‥‥‥‥曲がりなりにも貴方達の父親の事だろう?ゼロも」
千葉が呆れ混じりの口調で皇族達に意見する。
「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」
双子は、顔を見合わせて沈黙する。
「‥‥‥‥あの男が父親である事を喜んでいる兄弟の方が少ないのだよ」
苦笑して応じるシュナイゼルの声音には明らかな怒りが混じっていた。
「えーっと。それって皇子皇女のほとんどが主義者‥‥って事なのかな?」
混乱した朝比奈が、そろっと尋ねてみる。
「「「‥‥‥‥‥‥」」」
皇族の三人は、沈黙したまま顔を見合わせた。
───────────
作成 2008.02.29
アップ 2008.08.02
念の為にと、ラクシャータは半ば強引に包帯を取り換えた。
「‥‥ちょっ、ゼロあんた、ホントにジッとしてたわけ~?」
傷口を見たラクシャータはかなり憤慨していたが、技術屋らしくその手付きは繊細だった。
なので、手当が終わるとゼロは「すまない。‥‥助かった」と仮面なのにも関わらずソッポを向いて礼を言ったくらいだ。
「‥‥あんたさ~。もしかして仮面の中身、結構若くてハンサムだったりする~?それでもって少々照れ屋かな~?」
ラクシャータはジーっとゼロの仮面を凝視して、そんな感想を述べた。
「ぶっ‥‥」
ゴホゴホとC.C.がむせて咳き込んでいる。
「‥‥どーでもい~けど~。どーして、藤堂まで反応してるのかね~?」
藤堂は胡乱な視線をラクシャータから受けて思わず視線を逸らせてしまう。
「そうイジメるな、ラクシャータ。藤堂はわたしの顔を知っているからな。‥‥それよりC.C.。貴様、そんなに笑うな」
あっさりゼロは藤堂を評し、笑いを堪えているC.C.に声を投げた。
「あっはっは。その仮面のどこをどうみたらそうなるのか、考えると笑わずにはいられるか」
C.C.はゼロに向き直ると、堪えるのをやめて盛大に笑い飛ばしてそう応酬する。
「ん~。やっぱりそーなのかぁ。結構告白され慣れてるでしょぉ?でも、照れが出る年頃だから高校生か大学生くらい~」
「なるほど?慣れる程告白されるならハンサムで、高校や大学なら十分若いと言うわけか。良かったな、ルル‥‥っと、ゼロ‥‥」
C.C.は素顔の話をしていたせいで、思わず名前を呼び掛け、慌てて言い直して口に手を持って行った。
室内に流れる重い沈黙。
C.C.が、藤堂が、そしてゼロがラクシャータを見ていた。
「‥‥若くて、ハンサムで、統率力が有って、頭も良くて、ナイトメアフレームの知識にも詳しくて、‥‥そして、ブリタニアを憎んでいる‥‥」
ボソボソと、形容詞を述べて行くラクシャータにいつもの口調はそげ落ちていた。
「‥‥もしかしなくても、ルルーシュ様ですか?」
藤堂とC.C.はそろりと視線をゼロに向ける。
「‥‥‥‥‥‥。後で覚えていろよ、‥‥C.C.」
地の底から響いていそうな低い声音で、己の共犯者を恫喝するゼロに、C.C.は項垂れる。
「すまない。今のはわたしの失態だ」
己の過失を全面的に認めてC.C.は珍しくも謝った。
「‥‥なら、やっぱり。‥‥」
姿勢を変えようとしてラクシャータは藤堂とC.C.に視線だけを向けた。
「‥‥心配ない。二人とも知っている。‥‥おれが、誰なのかも。‥‥C.C.」
ゼロは一転威厳のある声になってそう告げてから、C.C.を呼ばわった。
溜息を吐いたC.C.はゼロの後ろに回ってその仮面を外した。
現れたのは漆黒の髪と白い肌と紫の輝きが──鋭く一つ。
「‥‥生きて、‥‥生きておられたのですね。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下」
ポロリと、ラクシャータの瞳から涙が零れ落ちる。
相変わらず、黒いバンダナをしたルルーシュを見て、藤堂は顔を顰めていた。
「その名は既に死んでいる。廃嫡もされているし、意味もない。‥‥表ではルルーシュ・ランペルージを名乗っていた。ここではゼロだ」
「そんな事は関係ありません。わたし達技術屋にとっては『閃光の』マリアンヌ様と、ルルーシュ様、ナナリー様は絶対のお方」
切々と語るラクシャータに普段とのギャップが有りすぎて、藤堂は頭痛を覚えた。
「‥‥ひとつ言っておく。団員や他の人の目のある場所で、今まで以外の態度は取るなよ。お前がそれを見せたらみな驚く」
こめかみに手を置く藤堂の気持ちを察したのか、ゼロがそう言った。
「はい。‥‥ところで、殿下」
「それはやめろ。呼び方は今まで通りゼロだ。‥‥もしも万が一、ゼロでない時に会ったとしてもそれは許さない。話し方も戻せ」
ラクシャータの話の腰を折って、ゼロはそう命じた。
「‥‥その目をどうなされたのか、お答えくだされば考えましょう?」
「‥‥。そうだな。ラクシャータ。お前、眼帯を作れないか?‥‥どんな光も通さない、漆黒の」
ゼロの言葉に、ラクシャータと藤堂は首を傾げてしまった。
「‥‥ゼロ。視力を失っているわけではないのか?」
藤堂が訊ねる。
「ん?‥‥あぁ。見えるぞ、ちゃんと。見せる気がないだけで。作れるか?ラクシャータ。‥‥他にもつけたい注文はあるが‥‥」
「‥‥‥‥。作れる事は作れるけど~。他の注文って~?」
「装着者、つまりおれの意思でスライド出来ればもっと良い」
言葉づかいを元に戻したラクシャータに応じたゼロの言葉に、C.C.はゼロの仮面を被った。
「つまり、こう言う具合に、だ」
シュッとごくごく軽い音と共に、仮面の一部が消え、仮面をつけたままのC.C.の左目が見えた。
シュッシュッとC.C.はそれを何度か繰り返した後、仮面を外す。
「仮面を被っている時には、連動できれば更に良い。だろう?ルルーシュ」
「‥‥C.C.。騎士団内で名前を呼ぶのは止せ。また間違える気か」
C.C.の呼んだ名前に、嫌そうな表情を浮かべたゼロは言い返す。
「いつまでも過去の話を持ち出すな。男らしくないぞ」
「貴様はもっと女らしい言動を取った方が良いぞ、C.C.」
取り合わない様子でC.C.が応じると、ゼロはそれに即座に言い返す。
「えっとぉ、ゼロ?‥‥前々から噂には有ったけどもぉ。‥‥C.C.が愛人ってのは本当ですかぁ?」
ラクシャータが尋ねた途端、ゼロは再び嫌そうな表情を浮かべた。
「愛人?このピザ女が?‥‥‥誰だそんな根も葉もない噂をバラ撒いているのは」
「わたしにだって選ぶ権利はある。こんな軟弱者はお断りだ」
「愛人か」と問われた時、二人はほとんど同じ台詞を吐く。
お陰で藤堂は何度目かの台詞を耳にしたわけだが。
「‥‥いつも、否定するだけだが‥‥。では、どういう関係なんだ?」
流石に訝しんで、藤堂は疑問を口にしていた。
「なんだ、藤堂。お前も気になっていたのか?‥‥『共犯者』。以前にもそう答えたはずだが?」
「何に対する、『共犯者』なんだ?」
苦笑して応じるゼロに、藤堂は突っ込む。
「‥‥‥C.C.はゼロのきっかけの一つだ。C.C.がいたからこそ、反逆の計画を前倒しに進めてこれた。その代価はまだ支払っていないがな」
「‥そうだな。わたしは代価を受け取るまでは『共犯者』として傍にいる。外野の意見は受け付けない」
それは藤堂の問いからはズレた答え。
ゼロとC.C.の両方が、わざとズラした答えを返しているのならば、これ以上は何を聞いても無駄なのだろうと藤堂は諦めの溜息を吐いた。
「‥‥代価が何か、聞いても良いだろうか?」
「‥‥‥‥‥。知って良いのは、契約を交わした相手だけだ。他に教える気はないし、教えさせる気もない。諦めろ」
「えーとぉ?仮面と連動するとかしないとかって話だったかなぁ?」
固まった空気を払拭させるかのように、ラクシャータが話を戻したのは、少したった後。
「‥‥あぁ、出来るならば、頼みたい」
「まかせて~。ゼロの頼みだしぃ~。張り切ってあげるわ~」
ラクシャータは二つ返事で頷いたのだった。
───────────
作成 2008.01.28
アップ 2008.07.31
いつでも出発できる状態で迎えた三日目、しかしこの日のキョウトへの出発は延期となった。
状況を尋ねに行った千葉(女性の部屋という事で仙波達が半ば強引に千葉に押し付けたとも言う)は、咲世子から今日は動かしたくない、と言われたのだ。
千葉はラクシャータを伴って再び訪れ、診察したラクシャータはゼロに、「二、三日延期できないかしらぁ?」と進言した。
ゼロは「確認してみよう」と言って一旦自室に戻り、桐原公の許可を取り付けて戻ってきた。
「最大十日は待てるそうだ。その後は、改めて日程調整から入る必要が生じる」
最初のメンバーを集めた場所で、ゼロはそう言った。
と、言っても、臥せっているナナリーと付き添いの咲世子は参加せず、カレンとディートハルトは不在だったが。
「で?どーなんだい?ラクシャータ」
「微熱よぉ。ただ移動するとなるとぉ、下がるまでは様子見ときたいってぇ感じだから。明日か明後日には発てるんじゃなぁい?」
「悪化したりとかはしないのかぃって聞いてるんだけど、ぼくは?」
「それは平気でしょ~?受け答えもしっかりしてたしぃ。昼下がりには熱も下がってるわぁ」
ロイドとラクシャータが、以前の知り合いという事が影響しているのか、かなり気安く話を進める。
「ゼロ。‥‥騎士団としてはどうする気だ?」
藤堂が、ゼロに尋ねる。
「他の予定を変える気はない。‥‥ラクシャータ。君はどうする?」
ゼロはキッパリと言い切ると、そのままラクシャータに尋ねる。
「わたしぃ?‥‥てか、わたしが行かないと話にならないでしょぉ?」
「他の予定って‥‥ゼロ何かするんですか?」
首を傾げた朝比奈が尋ねる。
「わたしは表の用事があるから、数日不在にする。藤堂とラクシャータには用事を頼んでいた」
「ホントーはぁ。あんた達を見送ってから出発しようってぇ話してたんだけどねぇ。延期するならそうも言ってられないしぃ?」
「中佐?どちらに行かれるのですか?」
千葉が藤堂に尋ねる。
四聖剣が傍にいない時に、四聖剣には何も言わずに動こうとしていた事が藤堂らしくないと思ったためだ。
「わたしのぉ、護衛かねぇ?ちょっとしたモノを受け取りに行くんだけどねぇ。モノがモノだからさー。手に入れるまでは秘密なわけぇ」
ラクシャータが口を挟み、「だからぁ。ゼロと藤堂にも他言無用だってぇ頼んだのはわたしなのよねぇ」と笑う。
「ラクシャータ‥‥。君、こんなところでまで、やりたい放題かぃ?」
「いけないかしらぁ?わたしのやりたい事とぉ、ゼロのやらせたい事がおんなじなんだから、プリン伯爵にとやかく言われたくないわぁ」
「なんか、二人って仲が良いんだか悪いんだか判らないね」
ラクシャータとロイドの言い合いを聞いて朝比奈がそう評した。
「「仲が良いなんて気持ちの悪いこと言わないでくれるぅ?‥‥って真似しな」」
バッと朝比奈に振り返った二人は、同時に抗議し、お互いに向かって苦情を言うもまたも揃った為に途中で口を噤んだ。
「‥‥では、ラクシャータも変更はないんだな?」
気まずい沈黙を破ったのはゼロの呆れた声だった。
「ないわよぉ。‥‥そうねぇ。幾つか薬を処方するくらいの時間を取って貰えればぁ、いつでも出発出来るわよぉ」
「そうか。‥‥ならば、ラクシャータの準備が整い次第、二人は出発してくれ」
「わかったわぁ。‥‥で、あんたは?ゼロ。いつ表にぃ?」
「まだ若干しておく事があるからな。‥‥3時間程だな。その間の事は、扇、任せるぞ」
「あぁ、判った。いつも通りに処理しておく。‥‥戻るのは‥‥?」
「少なくとも三日は戻れないつもりでいてくれ」
「あ、あぁ。‥‥その、ゼロ。そういう事を客人達の前で言ってしまって良かったのか?」
扇は今更ながらに、チラとロイドとミレイを見る。
「何か問題があるのか?表にいる間、わたしに連絡は取れない。それは客人にも認識しておいて貰った方が話が早いだろう?」
「いや、それはそーなんだろうけど‥‥」
「それにわたしが不在かどうかなど、中にいなければわからない事だろう?」
「あ、あぁ、そうだな」
ゼロの言葉に扇は頷いたが、ロイドが反論した。
「そーかなぁ?戦闘開始してみたら、君がいるかどうか判るだろー?なんたって君は最前線に出ながら指揮まで執っちゃうんだから~?」
「‥‥そもそも、わたしがいない状態で作戦行動に出る事自体がないのに、そんな事は気にする必要はないだろう?」
ロイドの反論をあっさり肯定したゼロは、それでもそんな事は歯牙にもかけていない様子で返す。
「‥‥ゼロ。出立前に、2、3確認して置きたい事がある。少し時間を割いてくれ」
藤堂が息を吐いた後、ゼロに声を掛けた。
「‥‥判った。扇、任せた。客人を頼んだ、四聖剣。ではわたしはこれで」
扇と四聖剣とがそれぞれ頷いたのを確認すると、ゼロは立ち上がり、藤堂を連れて先に部屋を出て行った。
「‥‥えーと。じゃあ、わたしは結果をナナちゃんと咲世子さんに報告してくるけど、ロイドさん?あんまり騒動起こさないでくださいね」
ミレイがそう言って立ち上がる。
「‥‥ミレイ君?ぼくの事、子ども扱いしてないかぃ?きみ」
「あら、そんな事ありませんわ。子どもっぽいところがある事は否定しませんけど」
「プリン伯爵はお子様でしょぉ?ナイトメアをおもちゃにして、プリンさえあればご満悦で、にやにやと笑ってるんじゃないのぉ?今もぉ」
ラクシャータの横やりに、ミレイは「そんな感じだったような‥‥」と特派のトレーラーを訪れた時を思い出して思う。
「それは違うよ、ラクシャータ。訂正して欲しいね、ぼくはそれでも主がいないなら心から喜べないんだから」
「あぁ、まぁ、それは認めるけどねぇ。まったくぅ、結構迷惑な話よねぇ」
再び始まったロイドとラクシャータの舌戦に、ミレイは肩を竦めると、千葉に目礼してついて来て貰いつつ、賑やかな部屋を後にした。
残った扇、仙波、卜部、朝比奈は顔を見合せて揃って溜息を吐いたのだった。
───────────
作成 2008.03.19
アップ 2008.07.26
※「説明Ⅰ」の続きです。
「他に質問は?」
和らいだ空気の中、カレンは幹部達を見回して尋ねる。
「‥‥カレンはゼロの正体を知っているのか?バリバリの敬語だったのが、さっきから、何気にタメ口なんだけど?」
カレンは「さっきも言われた事だったのに」と反省しながらも、頷いた。
「‥‥‥。そ、そうね。だってゼロの大切な人が学園の人だったでしょ?で、その人の事知ってるからわかったって言うか‥‥」
「「「教えろ。‥‥ラクシャータでも良いけど」」」
幹部達は揃ってカレンとラクシャータに詰め寄った。
「あらぁ?わたしは言う気はなくってよぉ。下手な事言って怒られるの嫌だものぉ。知ってると思うけどぉ、怒るとすッごく怖いからねぇ」
「ちょッ‥‥ラクシャータ!?怒られるって、‥‥ゼロに?」
説明しておくようにカレンに指示を出したのはゼロなのに、それで怒られるのかとカレンは驚いた。
「う~ん。そーねぇ。ゼロにもだけどぉ。ゼロの事がとぉっても大切な、ゼロの大切な人にだけは怒られたくないわねぇ」
しみじみと語るラクシャータの顔色はどこかしら悪い。
「え?ちょッ‥‥それって真面目に?」
人物像に当てはまらず、カレンは混乱する。
「もちろんよぉ。お互いに、お互いの事が大切で見ているだけならとぉっても微笑ましいのよねぇ。確かに。‥‥見ているだけならねぇ」
最後にポツリと付け足したラクシャータに、逸らされたその視線に幹部一同慌てる。
「「「「ら、らくしゃあた?」」」」
カレンもまた慌てた。
「ら、ラクシャータ。真偽はすっごく気になるんだけど、それ以上はストップ。ゼロの大切な人よりも先にゼロがキレるわ。今はまずいのよそれも」
仙波と千葉はカレンが止めた理由を正確に把握して、頷く。
メカオレンジがいる以上、ゼロの怒りがそのまま発動に繋がりかねないのだ。
「まずいってぇ?」
「禁句男よ。さっき会って来たんだけど、あれはゼロ至上ね。ゼロの事を悪く言っても、ゼロを怒らせても暴走するわよ」
「お、おい。敵になるんじゃなかったのか?」
「それは禁句を言った時だけ。実際さっきも暴走してたけど、一部屋滅茶苦茶にしてたわよ」
「あらぁ~。それは大変ねぇ。ゼロとゼロの大切な人に対する言動にはかぁなぁりぃ、気をつけた方が良いって事ねぇ」
「あなたもよ、ラクシャータ。ゼロの大切な人がラクシャータの言うとおりなら、ゼロは気付いてないわよ、確実に。暴露したなんて知られたら‥‥」
「ゼロってばぁ、まぁだ気づいてなかったのねぇ。昔から少し鈍いところがあるとは思っていたけどぉ。それとも大切な人の方が一枚上手なのかしらぁ?」
ラクシャータは顔色が少し悪い以外は変わらず、口調もいつもどおりのんびりとしたものだったが、カレンの口調は固い。
仙波と千葉はその「ゼロの大切な人」を藤堂が運んだ事を朝比奈からも聞いていたので、少し蒼褪めた。
幹部達は「ゼロは一体、どんな相手に引っかかってるんだ!?」と困惑を隠せない。
そこへ足取りの覚束ない様子でディートハルトがやってきた。
「なっ。ディートハルト、なんでここに?さっきからフラフラと。任せてたはずよね?」
目敏く見つけたカレンは、ディートハルトに抗議する。
「紅月君。頼みますから代わってくれませんか?‥‥わたしには‥‥あれ以上あの場所に留まるのは、無理です!」
全面降伏する勢いで、ディートハルトはカレンに縋る目を向けた。
さっきまで聞いていた話が話だっただけに、幹部達はディートハルトから少し距離を置く。
「ディートハルト‥‥。あんた、一体誰に何を言って誰を怒らせたのぉ?」
ラクシャータは呆れた様子でディートハルトを見る。
「わたしはッ!‥‥ゼロがジェレミア卿のところへ行った事と、ゼロの頭痛と耳鳴りが彼のせいだと言っただけですッ!」
「それは仕方ないわねぇ。どうせ、『オレンジの分際で、ゼロを苦しめているなんて』とかってぇ流れになったんでしょぉ?」
ラクシャータの言葉に、ディートハルトは目を見張ってラクシャータを凝視する。
「で、出だしは一言一句その通りですが、何故それをッ」
「お嬢ちゃん。ゼロがここに来てないのってぇ、てっきり会いに行ったんだと思ってたけどぉ?どぉこ行ってるのぉ?」
「‥‥枢木のところ、よ。閉じ込めて放置したって聞いたら、『まずはそちらか』って」
「あららぁ。知らないわよぉ。ゼロの大切な人から、敵と見做されたわねぇ、オレンジと枢木はぁ?」
「え!?どうして?」
「『まずは』って事はぁ。ゼロは大切な人のところへ行く予定だったってぇ事よねぇ。その予定がずらされたんだから当然でしょぉ」
ケラケラと笑うラクシャータの顔色はやっぱり少し悪く、最早笑うしかないとでも言う感じに見えた。
「‥‥‥‥そ、そんなに危険なのか?その、『ゼロの大切な人』とやらは‥‥」
千葉がなんとか声を絞り出すように疑問を口にする。
「‥‥‥‥‥‥それは、知らない方が幸せになれるわよぉ」
ラクシャータはさりげなく視線を逸らして遠い目をしながらポツリと呟いた。
「え、えーと。質問が終わりならわたしは‥‥『ゼロの大切な人』のところへ行くけど。‥‥勿論一緒に行きますよね?仙波さん、千葉さん」
キッとディートハルトを睨んでから、幹部を一瞥し、最後に仙波と千葉を顧みてカレンは言う。
藤堂からカレンと同行するように言われている二人には、是と答えるしかなく、揃って頷いたのだった。
了
───────────
作成 2008.04.30
アップ 2008.07.25