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コードギアスの二次創作サイト。 ルルーシュ(ゼロ)至上主義です。 管理人は闇月夜 零です。
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ゼロ(ルル)至上主義です。
騎士団多め。
表現力がなく×ではなく+どまり多数。
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「藤堂!」
ゼロが藤堂の名を呼びながら近づいて来るのを見て、四聖剣は嫌な予感を覚えた。
藤堂とゼロが藤堂の部屋で待ったり過ごしていたのを目撃してからそう日が経っていなかったからだ。
四人が「まさか‥‥またッ!?」と思ってもそれは不思議ではないだろう。
「どうした?ゼロ」
「‥‥今日は時間が取れるか?」
「って待った、ゼロッ!藤堂さんはおれ達とこの後話があるんだから、時間なんてないよッ」
朝比奈があれはもう見たくないと横から慌てて割って入った。
「そうか、わかった。‥‥ラクシャータ」
ゼロはあっさり引き下がり、背中を見せていたラクシャータに話を振った。
藤堂は口を開こうとしたまま固まっており、朝比奈は千葉から殴られた。
「んー?なぁに?事と次第によっちゃ、時間作ってもいーけどぉ?」
振り返ってそう応じたラクシャータは完全にゼロではなく藤堂を見てにやにや笑っている。
「‥‥事と次第?」
ゼロはそう繰り返して首を傾げる。
「わたしは藤堂の代役ぅ?」
「‥‥そうだな。藤堂は断るかも知れないと思ったが、ラクシャータは断らないだろうと判っているからな」
「ふぅん?断るかも知れないと思ってる藤堂に先に聞くくらい藤堂の方が良かったわけねぇ?」
二人は既に隣に藤堂がいる事を忘れ去っているかのように会話を続けている。
「‥‥まぁ、そうだが。時間が取れないと言うのならば、尋ねるまでもないだろう?」
ゼロの言葉を聞きながら、「それを本人のいる横で言うか?普通‥‥」とラクシャータと四聖剣は頭痛を覚える。
というか、邪魔をした朝比奈さえもが頭に手を置いているのは何も千葉に殴られたせいばかりではないのだ。
ラクシャータもまた、「話を振ったのは確かにわたしだけどぉ~」と少し気の毒そうに藤堂を見た。
「ゼロ。ちなみに藤堂中佐に何と言われるつもりだったのですか?」
仙波が気になってゼロに声をかけた。
「‥‥『この間の件、今日も頼めないか?』‥‥だったが、時間がないようだから、それはラクシャータに頼もうかと思っている」
「てかなんでラクシャータ!?てかあれを断らないってゼロとラクシャータってどんな関係?」
「朝比奈‥‥。わたしはその『この間の件』とやらも、『あれ』とやらも知らないんだからねぇ」
ラクシャータが知らないものは答えられる訳ないと朝比奈に抗議する。
「ゼロ‥‥‥‥。今日、それを言って来ているという事は‥‥まさか」
藤堂がかなりの渋面を作りながら、恐る恐ると言った様子で口を挟んだ。
四聖剣は成り行きを見守る為に、藤堂とゼロとを大人しく見比べる。
「そのまさかだ、藤堂。ダメか?‥‥というか時間が取れないんだったな」
「‥‥。‥‥‥‥。いない、のか?」
「あぁ、いない」
「そうか、わかった。引き受けよう。‥‥但し、おれの部屋ではこいつらに苦情を言われるので、出来ればゼロの部屋の方が良いのだが」
「良いぞ。今日はC.C.も来ていないからな。邪魔は入らん。‥‥だが、良かったのか?」
「話は今日でなくても出来る。まさかゼロを一年も待たせるわけにはいかないだろう?」
「‥‥助かる。では待っている。作業が終わったら来てくれ。ラクシャータ。すまなかったな」
「良いわよぉ」
ラクシャータは笑ってゼロを見送った。

「あの、藤堂さん?一年も待たせるとかって何?」
ゼロの姿が見えなくなってから、朝比奈がポツリと尋ねた。
「今日は母の日でしょぉ。夢見でも悪かったんでしょうねぇ」
「ラクシャータ。君は‥‥」
しんみりと言うラクシャータに、藤堂が声をかける。
「知ってるわよぉ。ゼロのお母様がお亡くなりになっているのはねぇ。藤堂こそどうして?」
「以前、『たった一人の家族は』と言ったのを聞いた事がある。それが親とは思えなくてな」
「へぇ。藤堂そんな話、いつしたのぉ?」
「‥‥‥‥子供の日だ」
「良く分かったわねぇ。確かにゼロは成人してないから、子供って言っても間違っちゃいないけどぉ?」
「‥‥ラクシャータって、ゼロの事知ってるみたいに断言するんだなー」
「知ってるわよ、卜部。ゼロのお母様の事、とぉっても尊敬してたものぉ。ゼロも言ってたでしょぉ。わたしなら断らないって」
「言っていたが‥‥それは一体何の話なのだ?」
仙波が嫌な予感を感じつつも、そろっと尋ねる。
「藤堂、あんた、もうここは良いからゼロのとこ行ってきなぁ?‥‥頑張ってねぇ、母親役ぅ」

ラクシャータの爆弾発言に、渋面を作りつつも去って行った藤堂を四聖剣は絶句しながら見送った。

四人揃って奇声を上げ、周囲から注目を集めるまでラクシャータもその場にいる気はなく、キセルを揺らしながら去って行った。

一方、ゼロの部屋では、「母親らしい事なぞ出来んぞ」と言いつつ膝を貸す藤堂の姿が有った。



───────────
作成 2008.05.11 
アップ 2008.05.11 

PR

※「難解な君」の続きです。

ミレイはナナリーの無事な姿を見るなり、その膝にすがるように抱きついた。
「良かった、無事で‥‥」
涙混じりの声でそれだけを言うと、ミレイはただただナナリーを抱きしめた。
ナナリーは優しくミレイの頭を撫でる。
「心配を掛けてしまってすみません、ミレイさん。‥‥それに、みなさんも」
「そんなッ、謝るのはこっちの方だよ。ごめんな」
リヴァルが心底申し訳なさそうに謝り倒す。
それを皮切りに、シャーリーが、ニーナが加わった。

「‥‥咲世子君。説明して欲しいのだが?」
暫く外していて戻って来るなり展開されていた、そんな光景を何の感慨もなく見ながら、ディートハルトはこそりと咲世子に尋ねる。
「申し訳ありませんが、わたくしからは何も申し上げる事は出来ません」
咲世子は別段声を低めもせずに、にっこり笑ってディートハルトの問いを突っぱねた。
絶句するディートハルトと、不思議そうに二人を見る生徒会メンバー。
「咲世子さん?」
顔を上げたミレイが、そっと名前を呼ぶ。
「咲世子さん、そちらの方ですか?お手紙をお送りしていると言う方は?」
続いてナナリーがそう尋ねた。
「はい、お嬢様。ディートハルト・リートと申しまして、表ではブリタニアのメディア関係を仕事をしているのですが、黒の騎士団に所属しているのですよ」
「ッな‥‥」
自分の事を開示されたディートハルトは、驚きの声を上げた後、二の句が続かない。
ディートハルトは本来、情報を集める側が普通なのに、自分の事を晒された事がショックだったようである。
「では、咲世子さんのお邪魔をしたと言う?」
「そうです。黒の騎士団に入ろうとしていたのですけど、何故か留め置かれてしまいまして‥‥」
嘆息する咲世子はチロリとわざとらしくディートハルトに鋭い視線を向けた。
「ちょッ‥‥と待って、咲世子さん、ナナちゃんも。‥‥咲世子さんが黒の騎士団に入ろうとしてたってどういうこと?」
慌てたミレイがあたふたと尋ねる。
「ブリタニアに対抗出来得る勢力は、しっかり確認していませんと」
「君はッ‥‥スパイなのか!?」
ディートハルトが驚く。
「あら、違いますわ。咲世子さんは日本人ですもの。ブリタニアにつくはずがありませんわ。ね、咲世子さん」
「勿論ですわ。よそのエリアと比べても反抗が活発とは申しましても、無闇に被害を拡大するだけの組織ではアテになりませんでしょう?」
咲世子は「ならば中に入って確認してみませんと」と艶やかに笑う。
「ちょッ、咲世子さん?一体何を‥‥」
「ミレイお嬢様も承知しておいででしょう?ブリタニアの支配が続く限り、平和は訪れませんわ」
慌てるミレイにも、咲世子は平然としたままである。
ミレイは咲世子の言いたい事を理解して押し黙った。
咲世子の言う「平和」とは、すなわち「ルルーシュとナナリーにとっての平和」である。
「ただ待っているだけでは、何も変わりませんもの。勿論、闇雲に動いても何の足しにもならないでしょうけれど」

混乱する少女が二人いた。
一人はゼロによって敬愛するユーフェミア皇女を殺されたニーナで。
一人はゼロ=ルルーシュだという、書いた覚えのない自筆の手紙を見てしまっていたシャーリーである。
ゼロは憎い敵で、この黒の騎士団はゼロの組織で、日本人だけど優しいと思っていた咲世子はそこに入団しようとしていた?
ゼロはルルーシュで、ルルーシュは良くは知らないけどナナリーちゃんの兄だと言うし、二人の世話をしている咲世子もまた騎士団のメンバー?
ニーナが怖い日本人の多くいるこの場に来たのは、ゼロに会ったら復讐しようと思っていたからで、と制服の上から隠し持った銃を握る。
シャーリーが同行したのは、ナナリーが心配だったと言う事も有るけれど、ゼロにもう一度ちゃんと確認する為だったのだ。

不意に、ナナリーがニーナとシャーリーを見るように顔を向けた。
「ニーナさん、シャーリーさん。ゼロはわたしを助けてくださいました。‥‥勿論、何もなさいませんよね?」
ナナリーの念押しとでも言うべき一言に、ニーナとシャーリーは震えた。
シャーリーは、ナナリーのブラコン振りを知っており、もしも本当にゼロがナナリーの兄なのだとしたら、逆鱗に触れて当然とばかりに慌てて何度も頷いた。
ニーナは、何故、何がナナリーの逆鱗に触れたのか判らず、それでも「命の恩人だから?」と思わないでもないけれど、頷くのにも抵抗があって固まる。
ミレイとリヴァルは、「ぅお。ナナリーがルルーシュ以外の事で怒るなんて‥‥」と純粋に驚いて固まった。
ディートハルトは、「この二人の少女がゼロに何かをするのか?」と言う方が気になったらしい。
咲世子は見慣れすぎているので、一人平然としたものだ。
「ありがとうございます、シャーリーさん。‥‥ニーナさんも宜しいですよね?」
頷いたシャーリーににっこりと微笑んでお礼を言ったナナリーは、そのまま頷かなかったニーナに再度尋ねた。
「‥‥う、うん。わかった。‥‥何も、しないわ」
ニーナの答えに、ナナリーは満足して満面の笑みを浮かべた。

「てか、会長~。ルルの奴、どこでなにしてるんだよ~。こんな大変な時に、大事な妹ほったらかしてぇ」
「‥‥それもあるけど、わたしはルルちゃんの方が心配。‥‥まさか巻き込まれたりとかしてないとは思うけど‥‥」
この場にいない、居所もハッキリしない生徒会メンバーの身を案じるミレイとリヴァル。
だが、ナナリーには明かす気は更々なく、シャーリーは今し方口止めされたばかりなので、沈黙を守っていた。



───────────
作成 2008.03.18 
アップ 2008.05.09 

ゼロはその日、ガウェインの整備をする為にアジトに来ていた。
いつもはC.C.が一人でやって来ては整備をおこない、報酬のピザを夢見てほくほく顔で帰って行くのだが。
この日は何故かゼロが一人でやって来ていて、C.C.の姿はなかった。

初めは、確かにガウェインの整備に専念していたゼロだったが、折角ゼロが来たのだしと、あれこれと確認やら指示を求めにやって来る者が後を絶たず。
ゼロの作業はあまり捗ってはいなかった。
ふと、ゼロはガウェインのコックピットから外を、窓の外を見て固まった。
身動ぎ一つせずに、ジッと窓の外を見たままなのだ。
例に漏れず指示を仰ぎに来た藤堂は、その様子を見て、同じように視線を窓の外へと向けた。
そこには鯉のぼりが泳いでいて、「あぁ、今日は子供の日だったか?」と納得した。
「‥‥ゼロ?鯉のぼりを見ているのか?」
ゼロが素直に頷くとは思っていなかった藤堂だが、ついそう尋ねていた。
「‥‥‥‥あ、あぁ。あれは親子だろう?‥‥仲が良さそうだと、思って、って藤堂ッ!」
鯉のぼりに気を取られていたのか、さらっと頷いて応えていたゼロは、ハタと状況に気付いたらしく慌て出した。
藤堂は驚いた表情を一瞬浮かべたものの、周囲に他に人がいない事を確認してから、肯いた。
「あぁ、そうだ。父親と母親、それに子供達だな。‥‥まだ出しているところがあるとは思わなかったが‥‥羨ましいと思ったのか?」
「ッ‥‥羨ましいだと!?それは違うぞ、藤堂。お前は思い違いをしている」
「そうか?‥‥今日は子供の日だ。君も今日くらい普通の子供に戻っても誰も文句は言わないと思うが?」
「‥‥‥‥わたしを、子供だと?」
「あぁ。随分と若く見える。まだ二十歳にも届いていないだろう?ならば十分子供だと思うが?」
「‥‥わたしは、」
ゼロが言いかけるが、それを遮って藤堂は続ける。
「ゼロ。おれは軍人で、体格を見ればわかる事もある。だが、君以上に騎士団を纏められる者がいないから、君に頼ってしまっているがな」
「‥‥はぁ。言っておくが、他の者には言うなよ?それと、『普通の子供に戻れ』と言うが、では普通の子供とは何をしているのだ?」
諦めの溜息の後、ゼロは藤堂に口止めをしてから、首を傾げて尋ねる。
改めて尋ねられて、藤堂も唸りながら考え、言葉を紡ぐ。
「家族と過ごしたり、友人と遊んだり、‥‥か?」
「なるほどな。たった一人の家族は、この連休を利用して友人と旅行に出かけている。いつもわたしが家を空けてばかりだからな。たまには良いだろう?」
ゼロの苦笑を察した藤堂は、だからゼロがアジトに来たのだと気付く。
「‥‥では、もし今日の予定が他にないのならば、整備が終わったら、おれの部屋に来ないか?」
「お前の?確かに予定はないが、それでどうするのだ?」
「今日だけ、おれがお前の家族になってやろう。父でも兄でも、好きに思えば良い。そして甘えろ」
藤堂の断定、命令口調に、ゼロは藤堂をじっと見た後、ポツリと呟いた。
「‥‥‥‥。いっておくが、仮面は取らないぞ?」
「それで構わない」
「そうか。‥‥そうだな、ならば今日だけ、わたしの兄になれ。藤堂、‥‥いや、鏡志朗。後で行く」
「わかった。‥‥待っている、ゼロ」
同意したゼロに、藤堂は何故かホッとした様子で頷いて、そう言うと踵を返して去って行った。

その日、藤堂の部屋で、四聖剣は不思議なものを数多く目にする事になった。

よもや、藤堂の膝を借りて横になるゼロを拝む事になるとは思わなかった、と卜部は肩を落とした。
まさか、ゼロが藤堂を「鏡志朗」などと名前で呼び捨てにするのを耳にするとは思わなかった、と仙波も耳を疑った。
千葉は「てか、どーしてゼロがここで藤堂さんとあーんなに密着してるんですか?」と小声で叫ぶ朝比奈の言葉を耳に、二人を見つめていた。
朝比奈は様々な言葉を小声で器用に叫びながら、二人の間に割って入れない雰囲気を感じて涙を流していた。



───────────
作成 2008.05.05 
アップ 2008.05.05 

──「団内の反応」編──

前日、ゼロは「表の用事が有るから数日来れない」と言って去っていった。
次の日、静かなアジトに団員達は戸惑った様子で周囲を見渡していた。
原因は言ってみれば簡単な事で、最近立て続けに入団したブリタニア人達が大人しかったからである。

ロイドはラクシャータを筆頭とした技術者達との話に熱中していた。
主な内容は、紅蓮弐式と白兜の事で、これに月下や無頼、無頼改もところどころ混じる。
ラクシャータ以外の技術者は、ロイドの博識ぶりに、「これで性格がまともならば」と嘆いたとか。

一方、ダールトンとジェレミアはディートハルトといた。
ディートハルトが収集してきたデータを見て、ダールトンとジェレミアが意見を述べたり補足をしたりと、データをより確かなものにしていっていた。
これにはディートハルトも喜び、「次は‥‥」と言いながら、資料に手を伸ばした。

藤堂はトレーラーのソファに座っていた。
腕を組んで、表情はすっかり渋面である。
藤堂の前には左右に分かれて四聖剣が立ち、彼等の表情を彩っているのは、戸惑い、であろうか。
藤堂の正面に揃う旧扇グループと、藤堂とを四聖剣は見比べている形である。

「藤堂さんに聞きたい事があるんだ」
そう話を切り出したのは扇だった。
だがしかし、次の瞬間には玉城が割り込んでいた。
「やい、いったいどういうつもりだ、藤堂さんよぉ。あんな連中次々引き込みやがってッ!!」
玉城は語尾も荒く言い放ち、「伯爵や将軍、挙句はオレンジだと!?」と続ける。
「‥‥それを藤堂中佐に言うのはお門違いというものですな。決めたのはゼロであって中佐ではない」
仙波が弁護に入り、発言者の玉城を見据える。
「あ、あぁ。それは判ってるんだが。‥‥その、どういう経緯で入団が認められたのかが知りたくて」
扇が背後に視線を感じながら、それでも控えめに尋ねた。

「‥‥経緯?」
藤堂は訝しげに問い返す。
「そう。これまでブリタニア人はディートハルトだけしか受かってなかったし、それだって彼が民間のジャーナリストで、ゼロを撮りたいとかって変な動機だからだろう?」
確かに変な動機なのだが、それについては誰にも異論はなかった。
ラクシャータはキョウトからの紹介で、別なのは周知の事実なので除外されている。
「だけど、今度の三人は動機もハッキリしないし、みんな軍人で、これまで敵対すらしてたんだ。俄かには信じられないと思っても仕方がないと思うんだ」
扇の言葉に、旧扇グループが一斉にうんうんと頷いている。
ロイドは白兜を擁した特派の主任だし、ダールトンは現在敵対しているコーネリアの副官だったし、ジェレミアに至ってはゼロに陥れられて恨みを持っていた。

「‥‥‥。動機は‥‥ゼロ。‥‥だそうだ」
藤堂はゆっくりと、告げた。
「動機がゼロ」とは際どい言い回しで、その場にいた幹部達は、意味を図りかねていた。
「いや、それがわからないし」とみんな思う。
確かにロイドとジェレミアがゼロを慕っているのは一目瞭然で判るのだが、何故そうなったのかもわからないのだ。

「あ、あの。藤堂さん。‥‥ゼロ、嫌がってたんじゃないんですか?あの時だって、『これだからブリタニアはッ』てすっごく忌々しそうに呟いてましたし」
その間にカレンが自分の疑問をぶつける。
相手がどれだけ慕っていようが、ゼロが嫌がっているのならばとカレンは考えたのだ。
「あ、あぁ。‥‥ブリタニアのノリとか思い切りの良さとか、思い込みの激しさには、時々ついていけないものを感じるからな」
藤堂の言葉に、「あぁなるほど」と思わず頷いたのは、一人や二人ではない。
どころか、ほとんどがそんな心境だろう。
脳裏にはディートハルトや、ラクシャータが浮かんでいたかも知れないし、ロイドやダールトン、ジェレミアだったかも知れないが。
カレンの脳裏には、何故か生徒会のメンバーが浮かんでいた。

「‥‥で、話を戻すけど、『動機がゼロ』‥‥って言うのは?」
扇が疲れた様子で尋ね直した。
「‥‥ゼロの力になりたい、と言うのが動機だそうだ」
藤堂もまた答えを言い直した。
「ちょッ‥‥。藤堂さん?前から疑問だったんですけど、それってプリン伯爵も将軍もオレンジ卿もゼロの正体知ってるって事ですか?」
朝比奈が驚きながら慌てた様子で藤堂に尋ね、その質問の内容を聞いて、扇グループも色めきだす。
「‥‥ゼロがブリタニアにいた頃の、知り合いだったらしいな」
藤堂は慌てるでもなく、渋面のまま応じた。
何せ最初にやってきたブリタニア人がディートハルトで、「仮面をしたままでも!」と叫びながら嬉々として仕えてるような男だったから、みな思考停止していたのだ。

「んん?中佐よぉ。それってゼロがあの三人を呼び寄せたのか?」
卜部が首を傾げて尋ねる。
「逆だな。ゼロの正体を察した彼等の一方的な押しかけだったぞ。入団希望の書類を見て酷く驚いていたからな」
藤堂はそう言うと深々と息を吐き出した。
「‥‥中佐?もしや、中佐もゼロの素性をご存知だったりしますか?」
話を聞きながら首を傾げていた千葉が疑問を口にした。
「‥‥‥あぁ。知っている。昔、面識があったから、気付いたんだが」
藤堂の言葉に、四聖剣も旧扇グループも目を点にする。

ゼロって何者!?

日本人ではないのに、桐原公とは知り合いで、藤堂とも面識が有ったというゼロ。
現在、軍の高官(一部降格済み)で、皇族の覚えもめでたい、横繋がりのなさそうな者達とも過去に知り合いだったというゼロ。
一人目は第二皇子の友人だとかいう伯爵で、直属の部隊を預かる主任だったし。
二人目は第二皇女の副官だか騎士だかで、歴戦の将軍だし。
三人目は第三皇子(故)の元でメキメキと頭角を現し始めていた(ゼロにより失墜済み)純血派とか言う派閥のリーダーだったらしいし。
ゼロと知り合った頃に、何をしていたか知らないが、「どんな出会いだよ」とツッコミたいところである。

「てかありえねぇだろ?なんだってリーダーの素顔とか素性とか幹部が知らなくて、ポッと出の新参者が知ってるんだよ?」
玉城が吼える。
「‥‥‥それって、ヤキモチ?」
朝比奈が思わずツッコミを入れていた。
怒りで顔を染めた玉城は「んな事言ってねぇ~だろッ」と否定するが、テレで赤くなったようにも見えるのだ。

「藤堂中佐。ゼロの素性がどうのとは問いませんが、ひとつお伺いしても?」
玉城はまるきり無視で、仙波が藤堂に声を掛けた。
「なんだ?」
「現在、ゼロの正体を知っている者は、どのくらいいるのですか?」
仙波の問い。
みんな首を傾げながら、指折り数えてみる。
C.C.、桐原公、藤堂、ロイド、ダールトン、ジェレミア‥‥六人は出てきて、なら六人か?と藤堂を見る。

「‥‥‥知らん」
しかし、藤堂は憮然としてそう答えた。

「え‥‥と。C.C.に桐原公に藤堂さんにプリン伯爵に将軍にオレンジ卿で六人ですよね?」
朝比奈が確認の為、声に出して言う。
「‥‥騎士団内で言えば、加えてラクシャータが入るな、恐らく」
藤堂の答えはまたしても聞く者を驚かせるに十分だった。

「‥‥‥‥。な、なら他を入れたら?」
扇が恐る恐る尋ねる。
「だから知らんと言った。どうやら、三人の行動で、わかる者にはわかったらしい。そのような話をしていたから、軍内にはそれなりにいるそうだ」
そう言った藤堂は、それはそれは重い溜息を吐いたのだった。

───────────
作成 2008.03.18 
アップ 2008.05.04 

ラクシャータは一人格納庫に戻った後、口々にゼロの容体を尋ねられ、ひとしきりの質問が落ち着くまでをのんびりと待った。
その場にいた団員とキョウト六家のお歴々に、「お目付け役として藤堂を置いてきたわぁ」と告げたのは、だからしばらく経ってからの事だ。
騎士団の一同は驚いた。
この局面で、ブリタニアが何時攻めてくるかも知れない時に、的確な戦闘指示を出せるのはゼロと藤堂しかいないというのに、と。
「ちょっとラクシャータ。ゼロが動けないなら、藤堂さんには戻って指揮を執ってもらわないと。いつブリタニアが動くか判らないんだし」
朝比奈が慌てた声を出す。
「そんなの知ってるわよぉ、わたしだってぇ?攻めてきたら呼びに行けば良いんじゃなぁい?それまではあんた達四聖剣が指揮してればぁ?」
どこか投げやりにラクシャータは言い返す。
「‥‥そんなにゼロの容態は悪いのか?」
まだ言い返そうとしていた朝比奈を抑えた千葉が、険しい表情で尋ねる。
「んー、当分は絶対安静ねぇ。傷が開いてたって事もあるけどぉ。結局のところ、過労よ、過労。無理しすぎ、させすぎ」
キセルを振りながらラクシャータは「第一体力ないんだから傷の治りも普通より遅いだろうし、もっと気遣ってあげるべきよねぇ」と一同を睥睨する。
「だからでしょ。言っちゃなんだけど、ゼロが満足出来るレベルの戦闘指揮って藤堂さんにしか無理なんだから」
ラクシャータと朝比奈、千葉のやり取りを、周囲で聞いていた団員は、改めて反省する。
思い返せば、ゼロが「指示通りに動け」と言っていた事もあって、指示通りにしか動いてこなかったのだ。
ゼロの立てた作戦は大抵において成功を収めていたし、白兜さえ出て来なければほぼゼロの読み通りだったから。
ゼロに付いて行きさえすれば‥‥。
何時しかそんなふうに思っていたのは確かなのだ。
「なら、今からもう少し考えて行動すればぁ?まだ遅くないと思うしぃ。少しはマシになるんじゃなぁい?」
キセルをゆらゆらと揺らすラクシャータには、引く様子はない。
「あの‥‥。ラクシャータ」
カレンが進み出て、思いつめたような声を掛ける。
「ん?なぁに?お嬢ちゃん」
「傍についているだけなら、別に藤堂さんでなくたって良いんじゃないの?‥‥C.C.だっているんだし‥‥」
「わたしが何だと?」
躊躇いに躊躇ってからカレンがC.C.の名前を出した途端、タイミング良く(悪くと言うべきか)C.C.の声が掛かった。
一斉にC.C.の声がした方を見て、更に驚いた。
C.C.がどう見てもゼロの仮面にしか見えないモノを抱えていたからだ。
「‥‥‥って、今、ゼロ仮面してないの!?」
カレンの驚いた声に、みんなは唯頷くだけ。
「藤堂さんがまだいるはずなのにッ??」とはカレンをはじめとする騎士団の心の叫びである。
「ん?‥‥あぁ、この仮面は予備だ。アイツが人前で仮面を外すと思うか?ラクシャータに頼みたい事があるんで、持ってきた」
「頼みぃ?どんなぁ?」
ラクシャータの声音には楽しげな色が乗っている。
「‥‥外野のいないところで話そう」
「んー?てことはゼロの部屋に逆戻りぃ?」
不機嫌そうに言うC.C.にラクシャータもまた眉を顰めて尋ねる。
「外野のいないところで、と言ったはずだぞ、ラクシャータ。あそこにはまだ藤堂がいる。‥‥そうだな、ガウェインの中に行こう」
更に低くなったC.C.の声が怒ったようにそう告げる。
「ぅわぁ、徹底してるわねぇ。‥‥それは良いけど、ゼロと藤堂は何してるわけぇ?」
「わたしは藤堂に追い出されたんだ。‥‥わたしがいるとゼロと喧嘩になるから、ゼロが安静にしていられないと言う理由でな」
C.C.の言葉に、ラクシャータ以外が驚く。
「へッ、やるじゃねぇか。愛人追い出すなんて、普通しねぇだろーによぉ」
玉城の言葉はいつもの事だったが、いつもならばいない人達がいる事を、玉城は失念していたのだ。
「愛人ですって?‥‥ゼロ様の?」
ゼロに会った途端、ゼロを「未来の旦那さま」と公然と言ってのける日本最後の皇、神楽耶が過激に反応した。
怪我人だからと桐原に窘められて、ゆっくり話す機会すら与えられない神楽耶は嫉妬に頬を膨らませる。
「ほぉ、あやつもやるものよのぉ」
ゼロの自室での二人の独特の雰囲気を見ていた桐原は、逆に感心したように呟いた。
「あ、‥‥いや。‥‥あれはわたし達が勝手に勘ぐっているだけで、本人達は否定しているから、違うかと‥‥」
慌てた扇が控え目ながら否定を試みる。
キョウトの面々にまで誤解されてはゼロが気の毒だ、と思った為だ。
無言で玉城に近づいたカレンは、無言のまま玉城の頭に拳を見舞った。
「それにしてもぉ、まぁだ言い合ってたのぉ?」
「悪いか?わたしにとっては死活問題だ」
呆れた調子で尋ねるラクシャータに、C.C.は開き直ったように応じた。
「悪いでしょ、それは。そりゃ藤堂さんだって追い出すって。‥‥C.C.にとっての死活問題って、‥‥ピザの事だよね?」
思い当たった朝比奈もまた呆れた様子で口を挟んだ。
納得した雰囲気が漂う中、神楽耶が首を傾げた。
「そこの女の死活問題がピザと言うのはどういう事か?何故それで負傷しているゼロ様と喧嘩など‥‥」
「えーとですね。ゼロはC.C.の事を『共犯者』と呼んでいまして、C.C.を傍に置いてますけど、時々ピザ代の事で口論してます」
朝比奈が説明する。
「たかがピザ代くらいでガタガタと。アイツが男らしくない事を言っているからだろう?」
「しかし。‥‥あの金額をたかがとは言えないかと‥‥。個人で賄えるのは、騎士団内でもゼロしかいないと思うが。‥‥中佐でも無理だぞ」
男達が反論できずに黙る中、千葉が控えめにゼロの弁護をする。
「まぁ。ゼロ様も水臭いですわ。‥‥それくらい、キョウトに請求してくださればよろしかったですのに」
「これ、神楽耶さま。流石にピザ代は経費では落ち申さぬぞ」
神楽耶の言葉に、C.C.は瞳を怪しく光らせたが、口を開く前に、桐原が神楽耶を嗜めた。
「そのくらいなんとかなさいませ。ゼロ様が困っていると言うのですよ」
「ここでもピザ代議論始める気なのぉ?‥‥C.C.あんたも急いでるんじゃないのぉ?頼み事とやらぁ」
「あ、そうだった。行くぞ、ラクシャータ」
本題を思い出したC.C.は、唖然とする一同を置き去りにして、ガウェインのコックピットの中に入り、ラクシャータもまたそれに続いた。

「‥‥‥えーっと。‥‥結局、藤堂さんは戻ってこないわけだね?」
「そうらしいな。‥‥仕方がない。外に出ている仙波さんと卜部さんにも伝えないと」
「‥‥本気で荷が重いんですけどぉ~。早く戻ってきてくださいよ~。藤堂さ~ん」
泣き言を言う朝比奈を千葉が引きずって、月下へと歩いていった。

───────────
作成 2008.02.26 
アップ 2008.05.03 

混乱の始まりはその日の戦闘終了後の事だった。
‥‥そう団員達にとっては。

アジトに戻った後、月下隊長機からはゼロが、ゼロの無頼からは藤堂が降りて来たのだ。
ちなみにゼロの無頼は、いつもの如く、戦闘中やられて片腕を失っている。
更に言うならば、月下隊長機もまたいつも通り目覚ましい活躍を披露していた。
なのに、乗り手が逆だったので団員達はパニックに陥ったのだ。

「大丈夫か?」
月下隊長機から降りたゼロが無頼から降りた藤堂に近づきながら、そう声をかけた。
「あぁ、怪我はしていない。‥‥月下の扱いはどうだ?」
「体格の差の分だけ、調整が必要だな‥‥このままでは、咄嗟の時ミスが出る」
ゼロと藤堂は外野を無視して会話を続け、揃って溜息を着いた。
「ちょッ‥‥。藤堂さん、それにゼロ!隊長機にゼロが乗っていたなんておれ達聞いてなかったんですがッ!」
朝比奈が抗議の声を上げたのを皮切りに、団員達が口々に疑問や驚きを言い立てた。
「というか中佐、ゼロ。何故今、月下の乗り手を変える必要が?」
裏返った声が大半だった為か、はっきりした千葉の声はしっかりとゼロと藤堂に届き、二人は顔を見合わせた。
「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」
暫くの沈黙。
団員達は答えを待って固唾を呑んでいる状態だ。
「そうだな。やはり、四聖剣とラクシャータには話しておいた方が無難だな」
藤堂がそう言うとゼロが頷いた。
「はぁ~あ?おれ達には言えねッてのか!?」
玉城の怒鳴り声。
「‥‥更に混乱するのがオチだ。一度にそんなに宥められるものか」
藤堂が冷ややかな視線を玉城に向けて言い捨てると、歩きだした。
「ラクシャータ、四聖剣はついて来い」
ゼロはそれだけ言うと、藤堂の後を追った。

移した先は藤堂の部屋だった。
藤堂とゼロ、四聖剣、ラクシャータが、朝比奈と卜部が運び込んだ椅子に落ち着いたところで、藤堂が口を開いた。
「実は‥‥」
だが藤堂は珍しく困惑の表情を浮かべて言葉をとめた。
「‥‥説明が難しいからな。代わるか?」
ゼロがそんな藤堂を気遣ってか声をかける。
くすりと藤堂は笑う。
「いや。だが面倒なのは確かだ。いっそ素で話すのが、手っ取り早いだろう」
「‥‥本気か?」
「あぁ。人を絞ったのはその為でもあるのだろう?」
藤堂にしては珍しく笑みを浮かべて言う言葉に、ゼロはチラと四聖剣を見渡して頷いた。
「‥‥そうだな。ラクシャータ、月下の調整を頼みたい」
それからゼロはおもむろに、ラクシャータへ仕事を依頼する。
「ちょッ、待ちなさいよぉ。その前に説明してくれるんじゃなかったのぉ。ゼロぉ」
話があっさりとすっ飛んだ事に、流石のラクシャータも慌てて抗議するが、それに対して「なんだ?」と返事をしたのは藤堂だった。
「月下には今後も藤堂を乗せる。その為に必要な調整だ。やってもらうぞ、ラクシャータ」
藤堂がそう言うので、ラクシャータも四聖剣も、唖然と藤堂を凝視した。
姿は、声も、藤堂なのに、「藤堂を」と他人事のように言い、口調も違い、それはまるでゼロのようで。
「最初から飛ばしすぎだ、ゼロ。少しは加減してやってくれ」
聞いていたゼロが苦笑を漏らした後、藤堂に向かってそう言った。
「‥‥つまり、もしや、中佐とゼロの中身が入れ替わった‥‥なんて事になっていたりするのですか?」
「どうやらそうらしい、千葉」
ゼロが千葉の言葉を肯定した。

暫く続いた沈黙を、朝比奈が破る。
「それって藤堂さん、ゼロの顔を見たって事ですか!?」
「朝比奈。まずそこなのか?他に言う事はないのか?」
ゼロ(外見藤堂)が呆れた口調で朝比奈に言う。
「え?ポイント高くないですか?」
「なんだ、そのポイントというのは‥‥。藤堂、教育しなおせ」
「すまない、ゼロ。多分手遅れだ」
げんなりとする藤堂(中身ゼロ)がゼロ(中身藤堂)に向かって指示を出すも、藤堂(外見ゼロ)はあっさりと謝り匙を投げた。
「あのさぁ?原因と元に戻る目処はぁ?それともずっとこのままぁ?」
ラクシャータが朝比奈をスルーして問いかける。
「‥‥いや、目を覚ました時には入れ替わっていて‥‥」
ゼロ(中身藤堂)は首を傾げながら答える。
「原因ならハッキリしている。『C.C.の悪戯』だ。現に入れ替わって以来、アイツの姿を見かけていないからな。どうせ今頃どこかで笑っているのだろう」
ゼロ(外見藤堂)が心底嫌そうに言い捨てた。
「ちょっと待て、ゼロ。その話は聞いていなかったのだが」
「そうだな。言ったところで、何の解決にもならない。効力切れが何時起こるのか、或いはC.C.がその気になるまでかも知れないが、わたしは知らないのだからな」
藤堂(外見ゼロ)がゼロ(外見藤堂)に抗議するが、ゼロ(外見藤堂)は堪えた様子もなくあっさりと応じた。
「ってそこまでわかっててなんで落ち着いてるのさ。C.C.を捕まえて元に戻すように言わないと」
「今、C.C.はアジトにはいない。ならば表の住まいだと思うが‥‥藤堂にわたしの表になりきって周囲に悟られる事なくC.C.を連れて来い‥‥と?」
朝比奈の焦った言葉に、ゼロ(外見藤堂)は畳み掛けるように説明した。
「う゛‥‥無理だぞ。流石にそこまで器用ではない」
「知っている。期待もしていない。だから言わなかったんだ」
呻いて力なく首を振るゼロ(中身藤堂)に、藤堂(中身ゼロ)はどこか遠い目をしながらもすっぱりと言い切った。
「‥‥そんなに大変なのですか?表の行動は‥‥」
仙波が「藤堂に期待していない」と言い切るゼロ(外見藤堂)に少しむっとしながら尋ねた。
「想像出来ないからな上司にからかわれる藤堂や、書類に埋もれる藤堂や、多数の男女に追い掛け回される藤堂は」
あっさり言うゼロ(外見藤堂)は「‥‥第一、下手をすれば殺傷沙汰になりかねない」とこれまた心底嫌そうに言い切った。
その例えに、「ゼロって表で日常的にそんな生活をしてるのか‥‥?」と四聖剣の頭の中にハテナマークが飛び交った。
「ちょっとぉ。殺傷沙汰って物騒だけどぉ?そんなに危険なのぉ?」
ラクシャータはあっさり前半をスルーして自分の気になるところだけを尋ねる。
「‥‥さて。藤堂がキレる状況が待っている可能性があるのでな。流石にわたしの表の姿でそんな惨事を引き起こして貰いたくはない」
藤堂(中身ゼロ)はまっすぐにゼロ(中身藤堂)の仮面を見据えて真面目な表情で言う。
「‥‥つまり、おれがキレる状況を表で体験している、ということだな?ゼロ。‥‥やはり彼、か?」
藤堂(外見ゼロ)は声を低くして唸るように言う。
既にキレかけている藤堂(外見ゼロ)に、四聖剣はゼロ(外見藤堂)の暴言への非難を取り下げた。
「それは答えられないな。言っておくが、表に出る事は認めないからな、藤堂。大人しくしていろよ」
藤堂(外見ゼロ)の言葉を物ともせずに、ゼロ(外見藤堂)が逆に藤堂(外見ゼロ)に警告する。
「‥‥あぁ、承知した」
暫し検討する為に黙った藤堂(外見ゼロ)は、重々しく頷いたのだった。

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作成 2008.04.14 
アップ 2008.05.01 

──審査編初期Ⅱ──

その日、ゼロは自室で入団希望者リストを眺めていた。
藤堂と四聖剣が騎士団に合流後、これまでにも増して入団希望者が増えていた。
中にはスパイや明らかに怪しい者も含まれてくるので、審査は何重にも及び、次第に厳しいものになってきている。
そう、例えるなら今玉城辺りが審査を受ければ、まず間違いなく落ちているだろう程、にだ。
最終審査はゼロ自身がおこない、最終的な合否が決まるようにしているのはトップに立つ者の務めだと思っているからだ。
ふと、リストを捲っていた手が止まる。

ブリタニア人。

ディートハルトが入団後、それが知られているはずはないというのに、時々見かけるようになった。
ディートハルト以外にまだ入団許可を出した事はないが、リストを作成している一人であるディートハルトは、それを何故か喜んでいる。
まずは特記事項に視線を向け、唖然とする。
「‥‥なんの冗談だ?」
そのまま顔写真と、氏名に改めて目を向けた。
「‥‥‥‥。見なかった事にするべきだろうか、これは‥‥」
とりあえず保留にして次に進み、ゼロは素で泣きたくなった。
見覚えのある顔が、と言うよりはかつては良く見た顔の乗った書類が三枚。
全てブリタニア人である。
とりあえず、リストから外し、別の場所によけておいて、続きを見る事にした。

幹部だけでおこなわれるミーティングも滞りなく終わり、後はゼロの解散の合図を待つだけとなった時である。
「‥‥。ディートハルト」
ゼロが、思い出したかのように、広報担当の名前を呼んだ。
「はい」
「これは今回の入団希望リストの最終合否だ。処理しておけ」
「承知いたしました」
ディートハルトは席を立つと書類を受け取りに行き、「他には?」と尋ねる。
「‥‥‥この後、話がある。ラクシャータと藤堂もだ。‥‥扇とカレン、四聖剣については任意。残りは解散」
難色を示すのはいつもの如く玉城である。
「はぁあ?半分以上じゃねぇかよ。ならこの場で話したって構わねぇんじゃねぇのか?」
「‥‥‥。ならば変更する。ディートハルト、ラクシャータ、藤堂はわたしの部屋に来い。残りは‥‥そうだな、代表で仙波。以外は解散」
ゼロは前言を翻すと、そのまま自室に引き上げていった。
「‥‥玉城ッ、あんたが文句ばっか言うからわたし達まで締め出されたじゃないの」
「そうですよ。おれだって藤堂さんが聞く事知りたかったのに」
任意と言われていて参加する気満々だったカレンと朝比奈が玉城に詰め寄った。
「しかし‥‥。何故仙波さんだったのだ?」
「一番の年長者だからじゃねぇの?」
千葉と卜部は顔を見合わせてから、仙波を見て囁き合った。
「めんどぉだわぁ」
そんな騒ぎを眺めながら、ラクシャータは盛大な溜息を吐いてからゆうらりと立ち上がる。
無言で立ち上がった藤堂と、キビキビとした動きで早速階段に向かうディートハルトの後を追い、仙波も藤堂に従った。

「ディートハルト。貴様何を考えている?」
自室に四人を招いたゼロは、椅子を進め、四人が座るのを待って、そう切り出した。
ちなみに長ソファはラクシャータが一人で占領し、藤堂とディートハルトはそれぞれ一人掛けのソファに座っている。
仙波は一人だけソファではなく藤堂の後ろに移動させた椅子に腰かけていた。
藤堂とラクシャータ、仙波の視線がディートハルトに向かう。
「わたしには判断がつきかねましたので、ゼロの判断を仰ごうと思った次第ですが?」
ディートハルトは平然と応じる。
「‥‥貴様以外ならば、わたしの元に来る遥か手前で即座に落としていただろうな」
「わたしも一瞬そうしようかと愚考いたしましたが、思い直しまして」
ゼロは黙ったままディートハルトを見ていた。
「‥‥先程ザッと目を通しましたが、合否どちらのリストにも載っておりませんでしたね?」
「ちょっとぉ、ゼロぉ?一体入団希望者とわたし達に何の関係があるってのよぉ?」
要領を得ない二人の会話に痺れを切らせたラクシャータが口を挟んだ。
「入団希望者が技術屋でな。君の意見が聞きたい」
ゼロはそう言うと、テーブルの上に二枚の経歴書を置いた。
ラクシャータはそれに触れる事無く、一瞥しただけで顔を顰めた。
「って‥‥なんでプリン伯爵がぁ?」
「やはり知り合いか。こちらの女性もか?」
「えぇ‥‥プリン伯爵とぉ、セシルちゃんじゃないのぉ」
驚くラクシャータにゼロは二つの経歴書の備考欄を指し示した。
「‥‥‥‥‥ひとっ言も聞いてないわぁ」
『ラクシャータに照会すればぼくの身元はハッキリするよぉ~』
『ラクシャータさん、よろしくお願いしますね』
それぞれ、備考欄にはそう書き込まれていた。

「で?どんな奴等だ?」
「プリン伯爵はぁ、ナイトメア以外一切興味のないオタクの変人よぉ。今はオモチャがあるからこんな気なんて起こさないと思ってたけどぉ?」
「‥‥オモチャ?」
「そ。騎士団じゃ、『白兜』って呼んでるナイトメア。あれの開発担当じゃないかしらぁ?」
「ふぅん?‥‥つまりこちらのナイトメアの情報を手に入れる為のスパイ、と言うことも有りか?」
「プリン伯爵に限ってそれはないわねぇ。セシルなら有りかも知れないけど、プリン伯爵が一緒となると可能性は低いわぁ」
「ナイトメアを破壊する為の工作要員と言う事は?」
「それも有り得ないわぁ。わたし達は技術屋だからねぇ」

「では次だ。今度は藤堂とディートハルトにも意見が聞きたい」
次にテーブルの上に置かれた経歴書は一枚。
既に知っているディートハルトは口の端を上げただけだったが、流石の藤堂とラクシャータ、そして仙波も絶句した。
アンドレアス・ダールトン。
「コーネリアの元副官にして、ユーフェミアの補佐。及び白兜関連がごっそりだな。‥‥ディートハルト。ダールトンとはどんな奴だ?」
「真面目で実直。仕える者が道を踏み外そうとしていれば、身体を張ってでも止めようとする男だと思っておりましたが」
ディートハルトはそう答え、「まさか自身が道を踏み外すとは‥‥」と苦笑する。

「どう思う?藤堂、仙波」
問われて藤堂と仙波は渋面を作る。
かつて、国土防衛戦での戦争からして、その名前を耳にしていた、歴戦の将だったはずである。
「国を裏切るとはとても思えないが‥‥」
藤堂の指が動いて、ダールトンの経歴書の備考欄を指した。
「‥‥ゼロ。これは?」
『お疑いになるのは承知しておりますが。ゼロ、貴殿にお味方したく存じ上げる』
「あらぁ?熱烈ねぇ、ゼロ。あんたさぁ。もしかして個人的な知り合い?そんでもって正体バレてたりするのぉ?」
ラクシャータはにやにやとゼロの返事を待っている。
「‥‥心当たりは一人だけ‥‥。恐らく口を滑らせたか何かしたのだろうな‥‥」
「て事はぁ。‥‥わかっちゃったかもぉ?あんたの正体ぃ」
「だ、ろうな。ダールトンがコーネリアよりもと思う相手は限られている」
「そーよねぇ。だけどぉ?どーして彼一人だったのかしらぁ?」
「ダールトンは選任ではないからな」
「‥‥ゼロ。君は‥‥」
「‥なんだ、藤堂も気づいたのか?」
「あ、あぁ。‥‥可能性を考えれば、それしかないからな。‥‥また会えて、嬉しく思う」
それが本当に嬉しそうな声音だった事に、居合わせた三人は驚く。
「藤堂中佐。‥‥ゼロと以前よりお知り合いだったのですか?」
「面識有りなのぉ?ホントあちこちと顔広いわよねぇ?」
「‥‥あの‥‥」
「へぇ?あんたはわからないんだ?ディートハルト。残念ねぇ。教えるつもりはなくってよぉ」
「‥‥悪いが、おれも口を割る気はない。‥‥それと、仙波。お前も面識ならばあるぞ。忘れているだろうが」
おかしそうに笑うラクシャータに、苦笑する藤堂、首を傾げる仙波に一人悔しげに唇を噛むディートハルト。
「‥‥とりあえず、仮入団、とでもしておくか?‥‥ディートハルト。足がつかないように、アジトに招いておけ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。は、はい。承知いたしました、ゼロ」
長い間の後に、ディートハルトは頷いたのだった。



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作成 2008.03.05 
アップ 2008.04.27 

※「難解な君」の続きです。

G1ベースの一室で、C.C.はソファに座って壁際に立つメカオレンジを観察していた。
部屋に入って立ち位置を決めるなり、閉じた扉を見つめたまま直立不動の体勢で身動ぎ一つしないのだ。
「おい。いい加減座ったらどうだ?『オレンジ君』」

ピクリ。

メカオレンジの身体が揺らいで放つ空気に刺々しさを纏う。
C.C.は「これはもしかすると面白いおもちゃか?」と思ってにやりと笑った。

勿論、C.C.としてもゼロ=ルルーシュを倒されては困るのだが、このどっちつかずの状態が気に入らないのも確かだったのだ。
「‥‥ゼロから『オレンジ』で暴走すると聞いたが、本当か?」

ピ、ピクリ。

またもやメカオレンジは身動ぎ、刺々しさも増した。

メカオレンジはギギギ‥‥と、扉からC.C.へと首を巡らし、ギロッと睨む。
「ゼロの何様!?」

「‥‥‥は?」
C.C.は目を点にしてメカオレンジを見返した。

ゼロが藤堂に支えられるようにG1ベース内の廊下を歩いている。
その後ろに朝比奈が続き、千葉と卜部と仙波も話を聞きつけてやってきて従っている。
少し間を置いて、玉城とディートハルトが続いた。
残りの幹部もついてきたいと思わないでもなかったのだが、どうしても手持ちの作業が押していて抜ける事が出来ず泣く泣く諦めた。

「‥‥ゼロ、平気なのか?」
藤堂が気遣わし気にゼロに問いかける。
「‥‥残念だが平気とは言い難いな。全く、C.C.の奴。あそこまで『オレンジ君』を挑発してどうする気だ?」
この場にいない相手に向かって悪態を吐いた後、ゼロはチラと後ろを見た。
「ついて来るのは勝手だが、部屋に入る時は気をつけた方が良いぞ。この様子だと、扉を開けた途端ズドンと来るかも知れないからな」
ゼロの物騒な言葉に、玉城とディートハルトの足が鈍って距離が更に開いたが、四聖剣は意志の力で更に近づいた。
「ゼロ。部屋に入らない、と言う選択肢はないのか?」
「わたしはこの耳鳴りをなんとかしたい。‥‥考えが纏められないのは致命的だ」
頭脳派のゼロにそう言われては確かに致命的だと思ってしまった(←失礼)ので、それ以上の反論は出なかった。

部屋の前で、藤堂は足を止めるとゼロに「開けるぞ?」と確認を取った。
しかしゼロが反応する前に、室内からの声が届いてきた。
「ゼロの何様!?」
「しつこいぞ。バカの一つ覚えのように‥‥。それしかいえないのか?『オレンジ君』?」
C.C.の言葉に、玉城とディートハルトは真っ青になって踵を返した。
「後は任せたッ」
「わたしは戦闘要員ではありませんし、出直しましょう」
それぞれ一言残すなり、後ろも見ずに脱兎の如く駆け去った。
ゼロと藤堂は初めから眼中になく、四聖剣は唖然としてその様子を見送った。

立ち直った四聖剣は、小声で藤堂とゼロを宥めすかして、少し下がらせて前に出る。
扉の両脇に千葉と朝比奈が張り付き、ゼロと藤堂を庇うように仙波と卜部が立つと朝比奈がノックする。
「‥‥C.C.、わたしだ。入るぞ」
ゼロが後ろから声を出し、千葉が扉の開閉ボタンを押した。

「貴方様はゼロぉ~!?」
「馬鹿者。部屋から出るなと言っただろうが。戻れ『オレンジ』」
「貴方様は貴方様は貴方様は貴方様は貴方様は貴方様は貴方様は貴方様はぁ!!」
C.C.の言葉も聞かずに廊下に飛び出したメカオレンジは、キョロキョロと首と視線を動かしてゼロの姿を探す。
藤堂と仙波、卜部の影に隠れてメカオレンジの視界に入らなかったようである。

「‥‥‥煩いぞ、ジェレミア卿。少し黙れ」
ゼロが疲れた口調でポツリと呟くように言った途端、ピタリ、とメカオレンジが止まる。

止まった事に、藤堂と四聖剣は驚いた。
「説得したとか言ってたけど、本当だったのか‥‥」と言うのが彼等の共通した思いである。

「廊下で騒ぐな。中に入れ」
ビシッと直立しなおしたメカオレンジは、そのままキビキビとした動きで部屋に戻っていく。
ホッと息を吐き出したゼロは、藤堂の腕を断わると先に立って部屋に入り、藤堂と四聖剣がそれに続いた。

「‥‥C.C.。貴様、からかい過ぎだ。暴走するとあれ程言っておいただろうが」
部屋に入り扉が閉じると、ゼロはC.C.に向かって苦情を言う。
「ん?なんだ。気付いていたのか。つい面白くてな。悪く思うな」
しかしC.C.はいつも通り悪びれる事無く応じて笑った。
「十分悪い。反省してろ」
しかしさっきまで耳鳴りとそれによる頭痛に悩まされていたゼロは取り合わず、聞かないだろうと思いながらも突き放したように付け加えた。


「貴方様はゼロ!何様!誰様!如何様!!」
すると「黙れ」と言った少しの時間が終わったのか、またぞろメカオレンジが叫ぶ。


「お前こそ、この『オレンジ君』を何とかしろ。これしか言わないんだ。いい加減うんざりする」
心底うんざりした様子を見せてC.C.が言う。
「それはちゃんと質問に答えないからだろう?」
「質問?あれがか?」
なんでもない事のように言うゼロに、C.C.は目を丸くした。

「何様!無礼が抹殺!」
「するな、危ない奴だな。こいつはC.C.と言って、わたしの『共犯者』だ。こいつはいつもこんな感じだからお前も気にするな」
「‥‥‥理解はシアワセ。‥‥誰様!如何様!!」
渋々と言った様子を見せてメカオレンジは頷いた後、再び叫ぶ。
「『厳島の奇跡』の藤堂鏡志朗と四聖剣だ。仙波、卜部、千葉、朝比奈。‥‥多分すれ違いばかりで戦場では会ってないんじゃないか?」
「‥‥ゼロの誰様、如何様」
「‥‥‥ふむ。藤堂、四聖剣、お前達ならなんと答える?」
ゼロは直接答えず、藤堂と四聖剣を振り返った。
ゼロの視線の先には、唖然としてゼロとメカオレンジを見る5人がいた。
「えーと、ですな、ゼロ。まずは質問から言って頂きたいかと」
仙波が遠慮がちに言葉を投げた。
ゼロは「ん?」と首を傾げる。
「あんなおかしな言葉で受け答えできる貴様の方がおかしいと思わないのか?」
C.C.が助け舟のつもりか口を挟んだ。
「‥‥あぁ。なるほど。つまり、わたしとの関わりを聞いている。C.C.の事は『共犯者』でとりあえず納得したらしい」
「関係って‥‥黒の騎士団のリーダーと構成員?くらい?」



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作成 2008.03.13 
アップ 2008.04.23 

ゼロは、無頼を完全に壊される前に、コックピットを射出することに成功した。
枢木スザクの騎乗する白兜──もといランスロット──は間髪の差で無頼のみを粉砕した後、ゼロの身柄を確保する為に、追跡を開始した。

ギルフォード及び親衛隊の相手をしていた藤堂と四聖剣だったが、藤堂の合図で一斉に距離を取りそのまま後退した。
コーネリア第一のギルフォードが後を追うハズもなく合わせて双方退く形になった。
『しかし、よろしかったのですか?藤堂中佐』
仙波が気遣わし気に尋ねる。
「黒の騎士団の動きが解せない。これ以上は無意味だ。‥‥あちらで不測の事態でも起きたのかも知れんな」
藤堂は戦場に流れる空気から、そう読み取ったのだ。
ならば混乱に乗じて退くのが吉である。

『中佐ッ。何か来ます!』
飛来音に気付いた千葉が注意を促す。
それぞれ無頼改を進ませた仙波と卜部が左右の前方を固め、千葉と朝比奈は後ろを含めた周囲に警戒を向ける。
藤堂は音のする空へ視線を向けた。
「‥‥脱出したコックピット‥‥」
『どこのでしょうか‥‥』
『どうしますか?中佐』
尋ねている間にも、高度を下げていた飛来物は、無頼改の前方に墜落して破片を撒き散らしながら更に接近して来た。
それを凝視していた藤堂は、仙波と卜部の間を抜けて無頼改を前に出した。
『中佐ッ!?』
千葉の慌てた声が響く中、藤堂は飛んで来た黒い塊を無頼改の片腕で受け止め、もう片方で他の破片から庇うようにしながら反転した。
藤堂の無頼改を襲う破片を、慌てて仙波と卜部が叩き落とした。
『どうしたんですか、藤堂さん?』
朝比奈が無頼改を寄せて問い掛け、千葉はその動きに渋面を作りながらも周囲の警戒を継続した。
破片を全て叩き落とした二人は、やれやれと息を吐き出す。
『中佐ー。いきなりだとフォローするのが大変だって』
卜部が明るい口調で言う。
いつもなら、何かしらの反応があるのだが今回はなかった。
『あれ?藤堂さん。それってもしかして、‥‥ゼロ?』
朝比奈は藤堂の無頼改の手の平に乗っているモノが人である事に気づき、それがゼロだと当たりをつけた。
藤堂は無頼改のコックピットを開いて外に出ると、無頼改の肩と腕とを伝って手の平まで身軽に移動した。
朝比奈がゼロだと推測した人物に対して無頼改の銃口を向け、何か有ればいつでも放てるように警戒する。
藤堂はそっとその肩に触れる、と「うっ」と唸って身動いだ。
『動かないでくださいよ』
「お前は‥‥ッく‥‥。は、早くここを離れろ。‥‥白兜が追って来る」
どこか怪我をしているのか、苦痛の息の下、藤堂に向かって警告を発する。
『中佐、本当です。ナイトメアが一機こちらに向かっています』
「掴まれ。大人しくしているのならば、安全な所まで連れて行ってやる」
藤堂の言葉に、四聖剣は驚き、藤堂とゼロは暫く無言で(多分)睨み合った後、ゼロは藤堂に片手を差し出した。

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作成 2008.02.29 
アップ 2008.04.19 

「あ、卜部さん。藤堂さんは?知りませんか?」
主に藤堂と四聖剣が集まる彼等の部屋に一番近い休憩室に入った朝比奈は、出てこようとしていたらしい卜部を見つけて声をかけた。
「‥‥藤堂中佐に何の用なんだ?」
卜部は歯切れも悪く、朝比奈に問い返す。
「さっき、扇さんがゼロからの連絡を受けて、今日は来られなくなったって言うから、藤堂さんに構って貰おうと思って♪」
朝比奈の言葉に、卜部は肺が空になるまで盛大に息を吐き出した。
「‥‥‥‥卜部さん?」
いつにないリアクションの大きさに、朝比奈は目を白黒させて卜部に問いかける。
「あー‥‥。中佐は仙波さんと出かけている。‥‥その、急な予定だ」
声を落とした卜部は、言いにくそうにそう説明した。
「‥‥って何時の間に!?‥‥当然、ゼロにも何も言ってないですよね?その反応だと」
「そうなんだ‥‥。今日は来る日だってわかっていたんだが‥‥。仙波さんに誤魔化せと言われててどうしようかと」
肩の荷が降りたと言わんばかりの卜部に、朝比奈は笑顔を向ける。
「良かったじゃないですか。次来るの五日後ですよ♪」
「‥‥そうだな。千葉にも伝えてくれ」
「わっかりました。行ってきます」
目当ての藤堂はいなかったが、それなりに退屈はしなさそうだと朝比奈は千葉の元へと駆けて行った。

ディートハルトが、ゼロ欠席の報を受けたのは、騎士団のアジトに向かう為に仕事場を出た暫く後の事だった。
ゼロが来ないからと言って、今更仕事場に戻るわけにも行かず、かといってまっすぐアジトに向かう気も失せたディートハルトは散歩をする事にした。
普段は通らない地区へと足を踏み入れ、何らかの有意義な情報でもないかと精神を研ぎ澄ますのは何時もの事。
特にゼロを知ってからこの方、ゼロと騎士団とに役立つ情報に敏感になって来ていると自覚するディートハルトである。
だがこの日、ディートハルトは自分の感覚を少々疑いたくなってしまった。
目に留まったのは、ブリタニアの子供だったからだ。
年の頃は十代半ばから二十歳まで。
珍しい黒髪の、白い肌の、薄い色のサングラスをかけていたとしても隠し切れないその美貌の、細身の、麗しい少女だったのだ。
これは恋?いや、わたしにはゼロだけが‥‥だがこの胸の高鳴りは‥‥と心の中での葛藤とは裏腹に、身体は勝手に動くのだ。
ディートハルトの瞳はファインダー越しに少女を捉えているし、指はシャッターを切っているし、足は少女を追っているのだから。
ゼロに続いて、二人目の被写体だと、早々にディートハルトは思い定めていた。

異様な気配に、藤堂のすぐ後ろを歩いていた仙波は視線を巡らせて、それを見つけてしまった。
「藤堂中佐。‥‥あちらを」
前を行く藤堂に注意を促すと、藤堂は立ち止ったが振り返りも、そちらを見る事もしなかった。
「‥‥見るな。忘れておけ」
低い、それは低い声で、藤堂は仙波に命じた。
それに心底同意したいと思っていた仙波だが、一点だけ気になる事が有ったので、言及してみる。
「ですが‥‥、カメラを向けている場所が問題ですので」
「‥‥わかっている。裏から入るぞ」
「承知」
気付いているのならば、忘れる事に否やはなく、仙波は返事をすると行き先を若干変えた藤堂に従った。

通された部屋で、藤堂と仙波は戸惑っていた。
目の前に桐原が座っている、それは良いのだ、彼に会いに来たのだから。
では桐原の後ろにそっと控える少女はどうなのだろうか?と訝しげに思うのも無理はない話だと思う。
まるで祖父に着き添う孫のような様子だが、彼女はどうみても日本人には見えず、二人の関わりが説明できないのも戸惑う原因の一つだ。
桐原への挨拶の言葉も、その為にまだ発せられていない。
部屋の中には、当然いるものと思っていた護衛の姿も、一人もおらず、桐原とその少女と、二人だけだったのだ。
「久しいな、藤堂。‥‥それに、仙波も。掛けるが良い」
促されて藤堂と仙波はぎこちなく桐原の対面に並んで座った。
「ん?あぁ、この者か?案じるな。わしに縁ある者でな。今回はわしの身を案じて付き添って来ている。害はない」
桐原の保証を受けて、藤堂と仙波は警戒を一応解いた。
「急な連絡には驚きました。一体‥‥何が‥‥」
藤堂は桐原に尋ねる。
「別に。所用で近くまで来たモノでな。近況を聞いておきたいと来て貰っただけじゃな」
そう応じる桐原は悪びれない。
「それならばそうと、言って頂きたかった。‥‥突然『近くまで来ている。出て来い』では慌てるしかないので」
少女はそっと桐原の傍を離れ、何かを持って戻ってくる。
ブリタニアの少女が湯のみと急須を盆に載せて来たと知って、藤堂と仙波は少し驚いた。
サイドテーブルに置いた盆の上で、急須を傾ける姿は堂に入っていた。
「ふッ。どうやら気に入られたようじゃな?どうじゃ?わし等捨て置いて付いて行くか?」
桐原と藤堂、仙波にお茶を出した少女に、桐原がそう尋ねる。
「御冗談を仰らないでください、おじい様」
少女は少し怒った様子で桐原に応じた。
「桐原公。失礼だが、お孫さんには見えないが‥‥、縁、というのは?」
「‥‥惚れたのか?藤堂?」
くつくつと桐原は笑って藤堂を揶揄する。
「おじい様。お客様がお困りになっているではありませんか。そうおからかいになるものではありませんわ」
少女はそう言って桐原を諫めてから、藤堂に向きなおった。
「‥‥桐原様はわたしの祖父のご友人なのですわ。‥‥『おじい様』と呼ばせて頂いておりますが」
「‥‥名を、聞いても構わぬでしょうか?」
訊ねたのは仙波の方だった。
これ以上藤堂に尋ねさせれば、またも桐原からのからかいの言葉がかからないとも限らないと思って割って入ったのだ。
「エルと申します」
「わしは仙波と申す。こちらは‥‥」
「藤堂だ」
藤堂は桐原の言葉を気にしてか、言葉少なに応じた。
「存じておりますわ。『奇跡の藤堂』様と、四聖剣の方ですね。お噂は良くお聞きしておりました」
にっこりと笑って言う少女に、藤堂と仙波は思わず見惚れた。
「えー、それは桐原公、からですかな?」
ごほんッと咳払いをした後、仙波が尋ねる。
「ええ、おじい様からもそうですが、他にも色々な方から‥‥。有名でいらっしゃるようですね」
「なんじゃ、やはり気に入っておるのではないか。別に老体に気を使わずとも良いのじゃぞ?」
にやにやと桐原は人の悪い笑みを、主に藤堂と仙波に向けながらそんな良い方をする。
「‥‥おじい様?わたしに黒の騎士団に行って何をしろ、と仰るのですか?」
少女はそんな桐原にまたも怒った様子で抗議した。
確かに華奢で儚げにも見える少女がテログループに来たところで、何も出来ないだろうと藤堂と仙波は思う。
「ゼロに会ってみるのもまた一興だと思うぞ?なぁ、藤堂、仙波。お主等から見てゼロをどう思う?」
桐原は少女に笑って見せてから、真顔になって藤堂達に尋ねたのだった。

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作成 2008.02.20 
アップ 2008.04.18 

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