04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
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★陸様へのリクエスト作品★
(命の危険が迫ったゼロを藤堂が身を挺して庇い、二人の距離が縮まる)
作戦を終了させて参加していた団員が騎士団アジトに帰還してきた。
今回は待機組だったディートハルトが数名の団員を従えて格納庫で出迎えていた。
ナイトメアを所定の位置に納め、順次パイロットも降りて来る。
カレンと藤堂は降りるなり片腕を失ったゼロの無頼に近付いた。
その頃になってゼロが姿を見せ、降りて来る。
「大丈夫ですか?ゼロ」
カレンが心配そうに尋ねる。
「‥‥ぁあ、問題ない」
ゼロのしっかりした言葉にカレンはホッとし、しかし藤堂は眉間の皺を深くする。
「ゼロ、怪我をした時くらい強がるのはよせ。すぐにちゃんとした手当てを受けて来い」
藤堂の声は別段大きかったわけではなかったが、低く通る言葉を聞いた者はそれなりにいた。
ディートハルトもその一人で、ゼロが負傷した事実に衝撃を受けた。
タイミングとしては、最悪と言って良いだろう。
カレンが驚いて「早く手当てしてきてください!!」と悲鳴に近い声を上げる。
藤堂も「渋るようならば抱えてでも連れて行くぞ」と半ば威すように指示を出す。
ゼロは「抱えられては威厳が‥‥」とぶつぶつと呟いてから「‥‥わかった」と折れた。
踵を返して歩きだすゼロを案じて見送るが、その動きは確かなもので怪我自体は対したものではなさそうだと思うのだ。
ディートハルトはホッと息を吐いて、それからハッとして振り返り慌てた。
振り返った先で、ゼロが帰るなり相談し許可を得ようとしていた問題視している団員が動いているのを見たからだ。
既にゼロに向けて銃を構えていて、動きを止める事は出来そうに無いと悟ったディートハルトは叫ぶ。
「ゼロッ!!伏せてくださいッ!!!」
ディートハルトの声に、動いたのは3人だった。
ゼロは怪我の為か、意味を掴み損ねて足を止め振り返ろうとした。
銃を構えた団員は、引き金に添えた指に力を入れた。
藤堂は立ち止まったゼロに驚き、地面に伏せさせる為に突進した。
一発の銃声が鳴り響き、ドサッと言う倒れる音が続いた。
驚いた幹部達が見たのは、折り重なるように倒れるゼロと藤堂、それから煙を上げる銃を構えたままの団員だ。
「ゼロッ!!」「藤堂さんッ!」「中佐ッ!」
「逃がすなッ!」「捕まえろッ!」
幾つもの声が交差する。
そんな声を遠くに聞きながら、ゼロは自分に覆いかぶさる相手に声を掛けた。
「藤堂‥‥「怪我はないか?」ゼロ」
ゼロの声に重なるようにして、藤堂もまたゼロを案じて声を掛ける。
「‥‥新たに痛くなったところは、ない。藤堂、お前は?」
ゼロが先にそう応じていると、藤堂は身を起こした。
ポタリ、と滴る音が聞こえ、藤堂の肩が赤く染まっているのにゼロは気付いて慌てる。
「なッ、怪我をしているではないかッ。他人の心配をしている場合か!?」
「掠めただけだ。大したことじゃない」
「藤堂ッ!『怪我をした時くらい強がるのはよせ』と言ったのは貴様だろうがッ!それもつい今しがたッ!」
ゼロは怒鳴ると少し乱暴にスカーフを引き抜いて藤堂の肩に巻いて止血する。
「おい」
「替えくらいある。‥‥ラクシャータッ」
「わかってるわよぉ。ゼロ、あんたも診たげるから、一緒に来なさぁい」
ラクシャータはそれだけ言うと手も貸さずに医務室に足を向ける。
先に立ち上がったのは藤堂で、次いでゼロも立ち上がる。
それぞれ手を借りずに立った事に、その場にいた者達は安堵する。
「カレン。この場を任せる。狙撃犯は捕えろ。ディートハルトには背後関係を調査するように。それとこれ以上の被害は出すな」
「わッ、わかりました、ゼロ。‥‥‥‥あの、本当に平気ですか?」
「わたしは平気だ」
「おれもだ。すまんが紅月。後は頼む」
「はい」
カレンが頷くと、ゼロと藤堂はまだ騒がしい格納庫を離れて医務室へと向かって行った。
ゼロと藤堂の手当をしたラクシャータは、治療に使った道具をしまいながら呆れた声を出した。
「あんたらねぇ。もう少し自分を労わりなさぁい。良くもまぁそれで『平気だ』なんて言ってられるわねぇ」
「わたしは本当に平気だと思ったからそう言ったまでだ」
「なぁんですってぇ?ゼロ、あんた本気でそう言っているんだったら、もうあんたの『平気だ』はアテになんてしないわよぉ」
ゼロの返答に、ラクシャータは眦吊り上げて言い返し、藤堂を見る。
「おれは平気だっただろう?ゼロの止血もしっかりしたものだったし」
「ゼロの止血はたいしたもんだったけどねぇ。掠めるって言うには傷口広かったじゃないの」
「「‥‥だが」」
「問答無用!あんた達は当分絶対安静。ここで大人しくしてなさぁい」
ラクシャータの珍しく怒った口調に、ゼロと藤堂は押し切られてしまった。
ラクシャータがナイトメアのメンテナンスに出て行くと医務室にはゼロと藤堂の二人だけが残される。
「‥‥先程は助かった。礼を言う、藤堂」
「いや‥‥」
藤堂の方を見ずに礼を口にするゼロに、藤堂は曖昧に応じる。
「だが、‥‥何故助けた?自分が怪我を負ってまで。四聖剣だって蒼白になっていたぞ」
「ゼロ。狙われている時に立ち止まっては格好の的になるだけだ。君を失うわけにはいかないからな」
藤堂はそう答えてから、「この言い方では誤解を招きかねない」と少し焦る。
「‥‥そうだな。まだわたしは『奇跡』と言う夢を『正夢』にしていないからな。藤堂が困るのは判った」
ゼロは誤解せずに藤堂の言いたい事を汲んだが、その事に、藤堂は一抹の寂しさを覚えてしまい更に内心でうろたえる。
「君が無事で‥‥良かった」
更にポロッと口を衝いて出た言葉に、藤堂は真っ白になっていた。
ゼロはと言うと、本当に心底ホッとしたように言われて、仮面の下で思わず頬を染めていた。
身を挺して庇われたり、「君を失うわけにはいかない」と真面目な口調で言われたりと、慣れない事が続いていたせいもある。
「‥‥ッわ、たしが無事でも助けたお前が怪我をしていたのでは話にならないな。‥‥もし次も同じ事をする気ならば今度は怪我をするなよ」
ゼロは火照った頬を気にしていた為か、ついそんな事を言ってしまい、「しまった、これでは次も助けろと言っているようではないか」と慌てる。
急にわたわたと慌て始めたゼロに、藤堂は苦笑した。
「そうだな。次はおれも君も無傷で切り抜けられるように力を尽くそう」
ゼロはそう言って藤堂が見せた笑顔に、慌てていた事も忘れて見入ってしまった。
急に大人しくなったゼロに、藤堂が心配顔になって見返す。
そんな二人の見つめ合いは、狙撃犯を確保し事後処理を終わらせた四聖剣とカレンが見舞いに来るまで続いたのだった。
了
───────────
作成 2008.05.25
アップ 2008.06.11
★小柳様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/手料理/藤堂のみバレ済み)
「あッ、ゼロ~」
格納庫にやって来たゼロを見つけて朝比奈が声をかけたのは午後に入ってすぐの事だった。
藤堂がギロッと朝比奈を睨み、仙波と卜部がそんな藤堂を宥め、千葉は朝比奈をとめようと動く。
「ん?なんだ、朝比奈」
「おれもゼロの手料理が食べてみたいんですけどー。作ってくれませんか?」
朝比奈は別に殊更声を落としたりしなかった為、その内容は、格納庫内に響き渡り、ピキリと空気が固まった。
ゼロも数秒固まったが誰よりも早く我に返ると活動外と判断して朝比奈を無視した。
「藤堂、次の作戦についてなんだが、幾つか確認してもらいたい箇所がある。手が空いたらわたしの部屋に来てくれ」
「‥‥承知した」
「えぇえ!?おれ無視されたの?なんで?」
一瞬迷ってゼロ同様朝比奈を無視する事にした藤堂の返事に重なるような形で、朝比奈の嘆きが再び響く。
「‥‥藤堂、朝比奈が煩いようだが、何か有ったのか?まさか反抗期でもないだろう?」
再び朝比奈を無視してゼロは藤堂に問いかけた。
「‥‥それに近いモノがあるな」
疲れた様子で応じる藤堂に、ゼロは「そうか‥‥」と納得してから、取り出した携帯が震えてるのを確認すると一言断って繋げる。
「すまない。‥‥わたしだ、何故‥‥なに?やめろ馬鹿ッ。すぐに離れろッ!‥‥ちッ」
ゼロは訝しげに聞き返したかと思ったら慌てた声で罵って指示しながら走り出した。
向かう先は自室のようで、「ならば電話の相手はC.C.なのか?」とか「一体何が?」とか思いながらも幹部達も後に続いた。
ゼロを先頭に目的地であるゼロの自室の前まで来た時、ぼんッと音がしたかと思うと扉が開いて煙とC.C.が出てきた。
「C.C.!怪我は!?」
「なッごほッ、い。ごほッごほッ。少し煙を吸っただけだ。火は出てない」
「わかった。扇、C.C.をラクシャータのところに運んでやってくれ」
ゼロはそれだけ言うと、まだ煙が出てきている部屋に入っていった。
元から仮面をしているので、煙を吸う事はないだろう。
「‥‥あぁ、平気だな。お前達、入るなよ。それと、すまないが煙が外に漏れないように手を打ってくれ」
中からゼロの指示が飛び、入ろうとしていた藤堂やカレンは踏み止まる。
確かにこれ程真っ黒い煙が外に漏れれば、すわ火事か!とかで消防か軍が踏み込んでくる可能性はある。
それに思い至った幹部達は手分けして煙の対応に追われ始めた。
ゼロがやっと煙を出さなくなった部屋から出てきた時、部屋の前には藤堂だけがいた。
「何が有った?」
元から真っ黒い装束だったのが幸いして、ゼロの襟が黒ずんでいるだけに見える。
藤堂は手拭いを取り出すと、仮面の表面を擦って煤を落とした。
「ありがとう。‥‥すまない。C.C.が調理中の料理にチーズと油を足し込んだらしい。台所がかなり悲惨な状態になっている」
藤堂の短い問いに続いたゼロの謝罪が、台所の惨状のせいで料理がポシャッた事を指しているのだと気づく。
「煙は吸わなかっただろうな?」
だが藤堂にとってはゼロ自身の方が大事だ。
火が見えたら即座にゼロを助けに向かう気満々だった藤堂は自然にゼロの安否を尋ねる。
「当たり前だ。‥‥仕方が無い。食堂の台所を使うか‥‥」
「ゼロ?」
藤堂は少し引き気味に尋ねる。
「藤堂、少し遅くなっても良いだろうか?」
「それは‥‥構わないが。だが、ゼロ。あれ程、食堂では作らない、と‥‥。無理をする必要は無いんだぞ?」
「わたしは無理はしていない。これ以上恐れられるのもどうかと思っていただけだが、藤堂は離れたりしないだろう?」
「当たり前だ」
「ならば良いんだ。少し待っててくれ」
「わかった」
藤堂はゼロの言い回しに少し引っかかりを覚えたものの、しっかりと頷いたのだった。
その日、食事当番に当たっていた団員が数名、扇の元へと転がり込んできた。
その慌て振りに扇だけでなく、周囲にいた幹部達も驚く。
「何が有ったッ!!」
「「ゼロが料理し始めました!!」」
反応は大きく分けると三つだった。
カレンを除いた旧扇グループとラクシャータが目を点にして絶句した。
カレンとディートハルトは「ゼロが料理‥‥」とうっとりと呟いて悶えている。
残り、四聖剣は即座に駆け出して食堂へと向かった。
その行動に我に返った残りの幹部達が続き、ただ一人残ったラクシャータは「あぁまぁ、自室のC.C.が壊しちゃったみたいだしねぇ」と納得していた。
食堂の台所、というよりは厨房の入り口で、幹部達はゼロによって刻々と出来上がる料理の数々を呆然と眺めていた。
手際が実に良い。
というよりそれ以前に、マントを外して何故かピンクのエプロンをつけたゼロが、くるくると動く様が可愛く見えてしまっている事に衝撃を受けて固まっていたのだ。
食堂では藤堂が一人腕を組んで座って目を閉じている。
まるで厨房の騒ぎには我関せず、と言った具合に、だ。
最初に動いたのは玉城だった。
玉城の後ろで、「ホントに美味いのか?」「手際は良いし」「でもとても良い匂いですよ?」「美味そうだ」と四聖剣がヒソヒソと話していたからだ。
そろりと厨房に入ると、玉城は料理に手を伸ばす。
その様子をハラハラと見ていた幹部たちの中で、扇がハッとして玉城に声をかけた。
「玉城、避けろッ!」
扇の声に驚いた玉城は反射的に伸ばしていた手を引っ込めた。
直前まで玉城の手が有った空間を裂いて、フォークが通り過ぎて行き、壁に突き刺さる。
「‥‥ッぶねぇ~‥‥」
「‥‥ん?どうやらこの厨房にはねずみがいるようだな。後で退治しておくか」
ゼロは玉城の方を見る事無くそう呟くと、止まった手を再び動かし始めた。
何気ないその言葉に、恐怖を覚えた玉城は、いつもならば突っかかるところを何もせずにすごすごと引き下がった。
入り口付近で屯していた幹部たちと共に食堂まで来た時、藤堂が目を開く。
「ゼロが料理をしている時に近づくのはあまり勧めない。摘み喰いをする者には容赦するなと言う教えを受けているらしい」
運動神経はあまり宜しくないゼロ。
但しフォーク投げとナイフ投げ、ついでに包丁投げの腕は天下一品だった。
幹部達、特に玉城は「知ってるんなら、最初に言え最初に!!」と内心藤堂にツッコミを入れまくる。
それでは収まらない玉城が口を開いた時、ゼロが膳を持って現れた。
「待たせた、藤堂。‥‥ん?どうした、お前達も今から食事か?」
普段は食堂に現れないゼロは「遅いんだな」と気に止めないで藤堂の前に膳を置いた。
「すまない、材料が思った程無かったから有り合せになってしまった。口に合えば良いんだが‥‥」
「心配はしていない。君の料理はいつも美味いからな」
「そうか?しかし、食費は十分充てていたはずなんだが‥‥」
「あぁ。‥‥質より量で、購入しているとか言っていたが」
「ん?量の計算を間違えたか?」
「‥‥君を基準にしたらみなたちまち腹を空かせると思うぞ。君はもっと食べた方が良い」
「そうか、わかった。食費にもう少し充てるようにしよう。‥‥それより藤堂、食べてくれ。冷めると美味しくなくなる」
「‥‥そうだな。いただこう」
藤堂は外野を気にしたが、それも一瞬だけで箸を持って食べ始めた。
「ちょッ‥‥‥っとゼロ!藤堂さん!!!な、なんで、ゼロが料理してそれを藤堂さんだけが食べてるんですか!!?」
カレンがやっとの事で叫ぶ。
「ん?わたしが藤堂の為に作ったからだが?」
「ですから、何故藤堂だけに作るのですか?わたしも頂きたい!」
ディートハルトもまた懇願に近い状態で訴え、幹部達は「うんうん」と頷いた。
「‥‥‥この人数に作れ、だと?ふざけるな。わたしにここに来ている間、調理に終始しろとでも?」
ゼロの言い分はもっともだった。
表での生活もあるゼロが、この人数の食事を作っていたら騎士団としての活動が出来なくなってしまいそうだ。
藤堂は一人、我関せずと言った様子で箸を動かしている。
「藤堂さん、ずるいです。昼もお弁当を作って貰っていたのにー」
朝比奈が本当に最近には珍しく美味しそうに食べる藤堂に羨ましそうな視線を向けた。
「‥‥はぁ。朝比奈。時々持ち回りで四聖剣の内の一人ずつ藤堂の許可を得て誘って貰え」
朝比奈の萎れる様子に、ゼロは溜息を吐いた。
「良いの!?やった。藤堂さん!おれ明日!!」
「てか四聖剣だけかよ?おれも喰ってみてぇ」
「‥‥‥藤堂に許可を取れ。一度に3人以上作る気はないし、わたしが不在の時は言うに及ばず、忙しい時も作れない」
「「藤堂(さん)ッ。明日はわたしを招待してください!!」」
即座にカレンとディートハルトが立候補しながら藤堂に詰め寄った。
「‥‥ゼロ」
ピタリと箸を止めた藤堂が非難するようにゼロを呼ぶ。
「別に藤堂が誘いたくなければ誘わなければ良いだけの話だろう?わたしは三人分以上作る気はないだけだ。後は‥‥」
思案気に止められたゼロの言葉の続きを幹部達は固唾を呑んで待つ。
「メインは藤堂だからな。藤堂が食べない時も作らない」
ゼロのその言葉に、幹部一同の嫉妬の眼差しが藤堂に向けられた。
その後、藤堂と四聖剣、藤堂と幹部の熾烈な攻防が繰り広げられる事になるが、現在のところ、藤堂の許可を取り付けた者はまだいない‥‥。
了
───────────
作成 2008.05.20
アップ 2008.06.09
★小柳様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル/手料理/藤堂のみバレ済み)
それは、とある昼休みの事だった。
「飯だ飯だ~」
一際煩い玉城の声に少し遅れて時報が鳴るのはいつもの事。
仕事にキリをつけた者から食堂へ向かって行く。
「藤堂さん、行きましょう」
朝比奈もまたいつものように藤堂に声をかけ、そこに仕事を終わらせた四聖剣も集まって藤堂を待った。
だが‥‥。
「すまないが、今日は四人で行ってくれ」
藤堂は作業中の手を止めて上げた顔で四聖剣を見て言った。
「珍しいですね、中佐の作業が終わっていないのは」
「待ちますよ、藤堂さん。おれ、藤堂さんと一緒の方が良いですし」
千葉は軽く驚き、朝比奈は真面目に提案する。
「‥‥‥‥いや、今日は食堂へは行かないから、お前達だけで行って来い」
藤堂はどこか困ったように首を振って言った。
「藤堂中佐。どこか具合でもお悪いのですか?‥‥食欲がないとか‥‥?」
仙波が気遣わし気に尋ねる。
「‥‥そうじゃない。ただ弁当を貰ったから、食堂に行く必要がないだけだ」
藤堂は言葉にはそう言ったが、実際には質問責めに合う事が予想されるので行きたくなかったと言う本音を自覚している。
「べっ弁当ぉ!?」とかなりの音量で叫びそうになっていた朝比奈の口は卜部が塞いで止めた。
「中佐、どなたから弁当等を?」
千葉の問いに藤堂は「やはりか‥‥」と思い溜息をついた。
「各自食堂で自分の分を調達して来い。‥‥部屋で話す」
藤堂の言葉に四人は顔を見合わせてからそれぞれ返事をして食堂に向かった。
四人の姿が見えなくなるまでを見送った藤堂は「嬉しいが説明に困るな‥‥」と呟くと作業を終わらせて部屋に向かった。
仙波と卜部が日替わり定食、千葉と朝比奈がA定食を手に藤堂の部屋にやって来たのは、藤堂が部屋に入ったすぐ後だった。
「早かったな‥‥」
扉を開けて迎え入れた藤堂は、疲れた口調でそう評した。
長ソファに二人ずつ定食のトレイを前に座った四人の視線は、自然と斜めに座る藤堂の前に置かれた弁当の包みに注がれてた。
「‥‥‥‥開けないんですか?藤堂さん」
中身が気になる朝比奈が尋ねる。
「お前達、内容については何も言うなよ」
藤堂はそう念を押し、四人が躊躇いがちながらも頷くのを待ってから包みを解いて中身を広げた。
藤堂の念押しがなければ、声を上げていた自信のある朝比奈は息を呑んだ。
千葉は「中佐、何か祝い事でも?」と赤飯を見て言いかけたが堪える。
仙波と卜部も和食な煮魚や和え物や玉子焼きやら別に取り出された湯気のたつみそ汁を目の当たりにして絶句した。
「‥‥それで、どなたから?」
気を取り直し千葉が尋ねる。
「‥‥‥‥ゼロ、だ」
四聖剣は思わず己の耳を疑った。
視線をかわし合い、確認しあう。
数瞬の後、四人は一斉に驚きの声をあげていた。
「ゼロぉ~!?ゼロが料理?見た目は良いけどホントにそれ美味いの?」
「てかあの仮面で料理するのか?」
「ゼロが料理をするのはともかく、それで何故中佐に弁当を?」
「‥‥ゼロが弁当‥‥‥‥」
それそれ驚きのポイントがズレているのはご愛嬌であろう。
「馬鹿を言うな、朝比奈。味は今までで一番美味い。料理の種類も驚く程多い、卜部。以前作戦の話をした後に口を滑らせたら用意してくれたんだ、千葉」
藤堂は順に答えた後「‥‥何に驚いているのかわからんぞ、仙波」と呆れた視線を向けた。
「一口!藤堂さん一口下さい!」
「ダメだ、朝比奈」
藤堂はそう来ると分かっていたのか即座に却下してのけた。
考えた形跡さえない藤堂の即答に四聖剣は驚いた。
「‥‥あの、中佐?」
「やらんぞ、千葉」
「いや、あの、だからさ、中佐」
「やらんと言ってるだろう、卜部。聞こえなかったのか?」
「藤堂中佐、弁当の事ではなく、」
「やらんと‥‥‥‥ん?なんだ?仙波」
やっと会話が成り立つ事に、四聖剣は安堵しつつも「この人は、本当に藤堂鏡志朗なのだろうか?」と思う。
ここまで物(しかも弁当)に執着する藤堂を見るのは、四聖剣ですら初めてだった。
執着心がないとは言わない。
勝利への執念は凄まじいし、一途なところがあるから気に入った人へも執着しそうではある。
「藤堂中佐がわし等に対してまでそれ程頑なになられる理由が知りたいかと思いまして」
「‥‥‥‥‥‥」
押し黙る藤堂に、仙波は折れて「あー‥無理に聞き出そうとは思いませんが」と付け足した。
「てか、おいしいって既に知ってるって事は、これが初めてじゃないんですか?藤堂さん!?」
朝比奈の疑問に、三人の同僚は「あッ」と声を上げ、藤堂は「失言は何処だ?」と内心呻く。
「と、とにかく冷めるから、食べるぞ」
箸を持つ藤堂に、朝比奈は「答えてくれてませんけどッ」と抗議をするものの、確かにいつまでも昼休みが続くわけでもないので渋々頷いたのだった。
後編に続く。
───────────
作成 2008.05.18
アップ 2008.06.08
★未来(みく)様へのリクエスト作品★
(藤.ル.ル or 朝.ル.ル or ナ.ナル.ル/女性陣に守られる)
その日、生徒会室には見事に女性陣しかいなかった。
ルルーシュとリヴァルはミレイ会長の命令で買い出しに出かけており、スザクは軍務で朝から来ていない。
やる事も無く、みんなでお茶をしていると、扉が開いて車椅子でナナリーがやってきた。
「あら、ナナちゃん。ルルーシュなら今ちょっと買い出しにだしちゃってるんだけど‥‥」
「はい、先程連絡を頂きました。ですから来たんです。みなさんにお願いが有って‥‥」
「あ、とにかくナナちゃん、入って入って。一緒にお茶しましょ」
シャーリーがナナリーに声を掛け、みんなして場所を確保する。
ナナリーが輪に入り、カップを渡してから、ミレイが尋ねる。
「‥‥えっと、ナナちゃん、それで?早速だけど、お願いって聞いて良い?」
「はい、あの。‥‥スザクさんの事なんです」
ナナリーの口から出てきた名前に、ナナリーの目が見えないのを良い事にそれぞれ顰めた顔を見合わせた。
「‥‥スザク君がどうかしたの?」
そろっと尋ねたのはシャーリーだ。
「あの。あまり、お兄様の傍に近づけないで欲しいんです」
「「‥‥へ?」」
カレンとシャーリーの声が重なる。
ニーナは意味が分からず首を傾げ、ミレイは一人納得顔になって頷いた。
「それは良いんだけど、ルルちゃんに何か有ったの?」
「会長、良いんですか?そんな安請け合いしちゃって」
「いーからいーから。それで?」
「実は、お兄様に恋人が出来たんです。それをスザクさんが知ったら、祝福してくださるかどうか心配で‥‥」
「「「「‥‥恋人ッ!!?」」」」
「はい。ここ数日とても幸せそうなんです、お兄様。わたしはずっとあんなお兄様だと嬉しいのですけど」
「あぁ、そう言われてみればここ数日ルル機嫌良かったわよね」
「てっきり枢木君が来ていないからだと思ってたけど」
「今日もミレイちゃんの用事をそんなに嫌そうにせずに引き受けてたし」
「てかあっさり引き受けてリヴァル引きずって出てッたわよね」
「恐らく、買い出しが終わった後、荷物をリヴァルさんに預けてデートするんですわ、お兄様」
「「‥‥はぁ~あ!!?」」
「ちょッ‥‥。ナナちゃん?ルルーシュの相手って学外の人なの?」
「はい。学園の方でしたら、お付き合いを始める前に分かると思うんです。『今度紹介してくださいね』ってお願いしたら、お兄様テレてました」
ナナリーの言葉に4人が4人とも「まだ教えてもいない身内にいきなりそんな事言われたら驚くだろうな‥‥」と少しルルーシュに同情する。
「良いわ。じゃあ、これからスザクとルルの間を徹底的に邪魔する方向で行きましょう」
「賛成~!二人っきりとかにさせないようにすれば良いんですよね?会長」
「そうそう、シャーリー。そんな感じね」「もし迫るような素振り見せたら引き剥がせば良いのかしら?」
「なんなら殴っちゃっても良いわよ、カレン。生徒会長のわたしが認めちゃうから」
「分かりました。ではその方向で」
「‥‥わたし、薬作っても良い?」
「そーねぇ。彼、あんまり効かなさそうだからちょっと強めに作ってくれる?ニーナ」
「わかった、ミレイちゃん。強めで作るね」
「後は~。女生徒達にだけ、伝達しましょうかぁ?『騎士様は主以外に惚れるべきではないわよねぇ~』って?」
「あ、それ良いですね」
「うん、それ賛成。じゃないとユーフェミア様もお可哀想だし」
ミレイの提案に賛成して盛り上がるシャーリーとニーナ。
「ありがとうございます、みなさん。お願いしに来て良かったですわ。テレたお兄様がとっても可愛くて、もっと愛でていたかったんですよね、助かります♪」
ナナリーはそんな様子に嬉しそうに礼を述べていた。
「もしもし、藤堂さんですか?ナナリーです」
『‥‥何か有ったのか?』
「いえ。学園でのスザクさん対策は完璧ですとお伝えしたくて‥‥」
『そうか。ありがとう。助かった。流石にそちらには手が出せないからな』
「そんな‥‥。わたしの方こそ、騎士団での事は何も出来ていません」
『気にするな。ここでなら、おれが守るから』
「藤堂さん‥‥。お兄様を、よろしくお願いします」
『わかった』
「千葉、少し良いだろうか?」
珍しく千葉が一人でいると、敬愛する藤堂が話しかけてきて、千葉は慌てて立ち上がる。
「何でしょうか、中佐」
千葉に座るように指示し、藤堂は向かいに座るとすぐに話を切り出した。
「千葉は、ゼロをどう思っている?」
「‥‥は?あの、中佐。それを尋ねられるのは、中佐がゼロと付き合い始めた事と関係がありますか?」
唐突だったと自覚のある藤堂の問いに、しかし千葉は面喰らいながらもそう切り替えした。
「なッ‥‥」
藤堂は二の句が継げないままに、千葉を見返した。
「やはり、ですか。最近の中佐の様子を見ていてそうではないかと。‥‥それで、中佐は一体何を懸念しておいでなのですか?」
「‥‥‥‥ゼロを目の敵にしている、白兜に乗るスザク君だ」
「中佐。幾らかつては弟子だったからとはいえ、今現在敵であるのですから、その呼び方は改めた方が良いかと思いますが」
「‥‥そうだな」
「枢木がゼロに仇なす事を案じておいででしたら、わたしが何とかしますが?」
納得顔になって頷く藤堂に、千葉はさらっとそんな事を言い切った。
「‥‥何とかとは?こう言ってはなんだが、枢木は強いぞ?」
「判っておりますが、ゼロを討たれては中佐にダメージが出る以上、わたしはゼロも守りますよ」
千葉はそう言ってくすりと笑った。
「紅月はゼロを案じているし、井上やラクシャータも協力してくれるでしょう」
「千葉、一つ尋ねるが、何故女性ばかりの名が挙がる?」
首を捻る藤堂は、千葉が名を挙げるのなら同じ四聖剣だと思っていたから不思議だったのだ。
千葉はそれについては沈黙を通した。
まさか藤堂に言えるハズがなかったのだが、千葉が藤堂とゼロが付き合いだしたと知ったのは、本当は女性陣だけでの会話からだったのだ。
ラクシャータと井上がそう言い合っているのを、千葉とカレンが聞く羽目になり、千葉は一瞬、カレンはかなり茫然とした後開き直ったのだ。
曰く、藤堂とゼロを祝福しよう、と。
カレンは「似たような話があちこちにあるわね‥‥」と思うものの、繋げることはなかった。
こうして当人達が知らぬ間に、女性陣達を味方につけていたのだ。
藤堂はそうとは知らずに、最良の相談相手を選んだ事になる、と千葉は内心で笑う。
「とにかく、白兜からゼロを守れば良い、と言う事ですね。‥‥C.C.にも手を借りて、万全を期します、中佐」
藤堂は結局どういう事かわからなかったが、「よろしく頼む」と千葉に頭を下げた。
千葉から話を聞いた女性陣は「そう言う事なら」とはりきり完璧に計画を練り、実行に移したのだった。
枢木スザクはここ数日、かなりストレスを溜めまくっていた。
学園に行っても、何故かルルーシュの傍に行けないから、癒されたいと思いながらもそれが果たされず。
ランスロットに乗って出動してもゼロを倒そうにもゼロのナイトメアに近づく事すら出来ずに終わってしまう。
オープンチャンネルを開いてストレス発散させる為にゼロを思いっきり非難しようとしても何故か妨害電波がでまくり自分の耳が痛くなるだけに終わる。
かと言って、他のナイトメアのオープンチャンネルは無事らしく、訳がわからないのだ。
癒されず、ストレスは溜まる一方のスザクはランスロットとの適合率も右肩下がりにどんどんと低下の一途を辿っているのが現状だ。
まさかそれが全て女性陣がルルーシュをゼロを守る為に故意にやっているとは思わないスザクは、最後の手段に出る事にした。
「ルルーシュがダメならナナリーに癒して貰おう‥‥」そう思ってスザクはクラブハウスを訪れたのだ。
最悪の相手を選んでしまったスザクは、満面の笑顔のナナリーからルルーシュに恋人が出来た事を知らされたのだった。
枢木スザク───再起不能。
了
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作成 2008.05.23
アップ 2008.06.06
★レイシア様へのリクエスト作品★
(枢.機.卿とル.ルーシュ/依存兄弟/二人に優しい話)
「アラン様ぁ、部屋に行ってからにしませんかぁ?部屋でなら不粋な仮面も取ってくれますよぉ」
「‥‥‥‥そうだが、そのつもりだったのに呼び止められたからな。わたしがどこで何をしようが苦情は受け付けない」
「‥‥‥‥ていうか、仮面してる意味がないって思うの、わたしだけ?同じ顔じゃないの」
カレンがなんだか悩むのも馬鹿らしくなって疲れた声を出す。
「何を言ってるんだ?こんな騒がしい男どもにゼロの顔を曝すなど二度と言うなよ。そんな事、兄であるわたしが認めないからな」
ゼロの兄であると自ら認めた「アラン様」は、そう難色を示し更に強くゼロを抱きしめる。
「‥‥‥‥扇、良いからみんなを作業に戻せ。わたしはこの後、すり合わせもあるから何もしないぞ」
「わ、‥‥わかった」
扇は引き攣りながらも頷き、幹部や団員に解散と再開の指示を出して行った。
井上に引きずられる玉城と千葉に引っ張られる朝比奈はいつもの事なので、他は苦笑しながら散っていった。
(残ろうとしたディートハルトはカレンに沈められて扇の指揮で、団員に運ばれて行った。)
残ったのはゼロの部屋に向かう事になっていたゼロと「アラン様」、藤堂、カレン、ラクシャータの5人だけとなる。
「‥‥どうなさったのです?兄上。いつまでもこのままでは妹に会うのも遅くなってしまいますよ?」
敬語を使う優しい声音のゼロに、驚いたのはカレンだけで、それも束の間の内に、納得の色を帯びて、黙って見守る。
「判ってる。唯、苦労をかけていたかと思うと、兄だというのに不甲斐無くて‥‥」
「だから連絡を入れなかったと?まったく。兄上が一つも苦労なさっていないなんて誰も思っていません」
「だけど‥‥」
「そうですね。今度わたし達の前から姿を消すような事が有れば、その時は赦さないかもしれませんね」
「絶対離れないから。もう、二度と離れたりしないから。これからはずっと‥‥。連絡だって欠かさないと約束する。出来る事は何でもしよう」
「そうですか。‥‥では8年離れていた間の積もり積もった話も交えて今後の事を検討致しましょう、アラン兄上」
「わかった。義兄上が来るまで最低4日有るから、それまでに色々と手段を講じておこうな」
「‥‥って、待って。ゼロの兄弟ってそのアランてお兄さんと妹だけなんでしょう?どうして更に『兄』が出て来るわけ?」
「はいはい、お嬢ちゃんは少し黙ってなさいねぇ。その辺りの事は部屋で話しましょぉ。やっと移動する気になってるんだからさぁ」
言葉じりを捉えて驚くカレンをラクシャータが宥めながらゼロの部屋に向かう。
その後を、ゼロから離れたアランとゼロが並んで続き、更に藤堂が動いた。
ゼロの自室についた後、ゼロはすぐに仮面を外し、自分がルルーシュ・ランペルージである事を明かす。
ルルーシュとアランが隣り合って立ったのを見て、先程のアランの言葉にカレンは納得した。
アランだけを見るとルルーシュにしか見えなかったが、並んで立っていると違いがはっきりしたからだ。
「‥‥えっと、妹がナナリーちゃんなのは間違いないのよね?」
「あぁ。唯、おれとナナリーは素性を偽って学園に住んでいた。‥‥アッシュフォードに匿って貰っていたと言うべきだな」
自嘲気味に笑うルルーシュに、カレンは眉を寄せる。
「素性?‥‥って、藤堂さんもラクシャータも知っているんですか?」
「勿論よぉ。なんたってわたしはアラン様の事も知ってるしぃ、お母様とも面識あったくらいですものぉ」
「おれはルルーシュ君とナナリー君の事しか知らなかったが、素性は知っていた。彼等が日本に来た頃の知り合いだからな」
「つまり、わたしがアラン・ヴィ・ブリタニアだと言えば、はっきりするだろう?ちなみに第九皇子で第十四位皇位継承者だったよ」
アランの言葉には真っ先にルルーシュが反応した。
「ん?だった、とは?」
「別の地位に就いたから、皇位継承からは外されたんだ。清々しているけどね」
「‥‥‥‥皇族!?」
遅ればせながらカレンが驚いて目を見開いた。
「そうだ。おれはルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。第十一皇子で、かつては第十七皇位継承者だった。剥奪されて久しいがな」
ルルーシュもまた清々したと言わんばかりに皇族を歯牙にもかけない。
「ちなみにナナリー・ヴィ・ブリタニアは第七皇女だったよ。皇位継承は‥‥辛うじて二桁の辺りだったけれどね」
「あの、アラン様ぁ?別の地位に就いたってぇ?別に皇位継承から外されるなんて事はなかったと思うんですけどぉ?」
説明が一区切りついたと判断したラクシャータが疑問点を尋ねる。
「一つだけあるだろう?俗世に属する皇帝とは別系統になる地位がさ。今度、わたしは枢機卿になってね?」
「えぇ?‥‥良く出て来れましたねぇ?確かに枢機卿なんてやってらしたら今更皇帝になる必要なんてないでしょうけどぉ」
「監視の事を言ってるのかな?当然撒いたよ。弟と妹に会うのを邪魔されたくなかったし?」
ルルーシュはアランの言葉に溜息を吐いてから、話を本題に乗せた。
「そんな事よりも。枢機卿の権限で出来る範囲の援護はして貰いますよ」
「勿論。手に入れられるだけの情報はここに。後は色々と手を回しておいたから順次物資も提供されてくるよ」
「助かります、兄上。妨害が出来るのは皇帝と宰相くらいと考えて宜しいですね?」
「そうだね。ただ、シュナイゼル義兄上はお願いすれば妨害はしないと思うけど?」
「お断りします。義兄上直属の部隊にしてやられていますし。おれがあちらに泊まる事になれば、兄上の機嫌が悪くなるでしょう?」
それまで黙っていた藤堂がここで口を挟む。
「ちょっと良いだろうか?君達と第二皇子の関係と言うのは?」
「シュナイゼル義兄上はわたし達ヴィ家の兄弟にはこの上なく優しいのだけどね。ルルーシュに対しては特に猫可愛がりをして引きはがすのに一苦労するんだ」
「他人事だと思っていませんか??兄上。騎士団にも場所を作ります。なんでしたら、一緒にゼロの仮面を被りますか?」
「「「いや、それだけはやめて」くれない(か/ぃ)?」」
カレンと藤堂とラクシャータが同時に拒絶を示した。
「いらないよ。仮面は。わたしはずっと君の傍にいるから。団員達が従わないって言うのならちゃんと説得もしてあげる」
「アラン兄上‥‥」
アランの言葉に感動するルルーシュを他所に、「説得」と言ったアランに冷たい物を感じた三人は無言を通した。
「兄上が傍にいてくださるのなら、出来ない事はない気がします」
「わたしもルルーシュの傍にいれば怖い事なんて全然ないよ」
「「一緒に、ブリタニアをぶっ壊(しましょう/そうね)」」
「麗しの兄弟愛」、そう言ったのはラクシャータだったな、と藤堂とカレンはチラとラクシャータを見る。
ラクシャータは最早遠い目をしながら笑うしかないという表情で笑っていた。
藤堂とカレンは「なるほど、あれが正しい処し方か‥‥」と納得した。
これ以降、ゼロの傍には美貌のそれはそれは恐ろしいパートナーが傍にいる事になるが、何故か映像は流れる事はなかった。
更にこの時を境に、騎士団の補給物資は質も量も格段に跳ね上がり、ブリタニアとの戦いを有利に進めて行く事になった。
了
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作成 2008.05.18
アップ 2008.06.04
★レイシア様へのリクエスト作品★
(枢.機.卿とル.ルーシュ/依存兄弟/二人に優しい話)
数日後、ルルーシュは扇に泣き付かれて、渋々ゼロになってアジトに顔を出していた。
当然ながらゼロの機嫌は最悪で、扇は少し後悔しながらも、ゼロの判断が必要なあれこれを報告、相談していた。
話の合間を縫うように、他の幹部達もやって来ては相談を持ち込む。
側にいる扇はその度に更にゼロの機嫌が悪くなるのがわかって、泣きたくなっていた。
「ゼロッ、扇さんッ!外部監視員から、今ブリアニア人が近付いて来てるって連絡がッ!」
団員が扉をどんどんと叩いてから慌てた口調で報告してきたのを聞いたゼロはガタンと立ち上がった。
「攻撃は待て。すぐに向かう」
扇には一言もなく、ゼロは歩きだし、扇もまた慌ててその後を追い掛けた。
カレンは近付いて来た人物が誰かに気付いて、「なんだってあいつがッ!?」と額に青筋が浮かぶのを知覚した。
そこにゼロに報告しに行っていた団員が駆け戻って来て、「攻撃は待てとゼロがッ!」と告げる。
ゼロと扇はそのすぐ後に姿を見せた。
カレンは「もしかしてつけられてたのかも!?」と焦りまくる。
わたわたと慌てるカレンに訝し気な視線を向ける者もいる中、ゼロはスタスタと無警戒に接近者に近付いて行った。
「‥‥‥‥ゼロッ!会いたかったッ‥‥‥‥」
そう言ってゼロを抱きしめた相手に、周囲から驚愕の叫びがあがり、カレンがキレた。
「ちょっ‥‥いきなりやって来てゼロになんて事してるのよ!離れなさいルルーシュ!」
カレンの出した名前に藤堂とラクシャータが目を見開いて驚き、他はカレンを見た。
「やめろ、カレン。人違いだ。‥‥わたしは事前に連絡を寄越せと言わなかったか?」
ゼロはカレンに間違いを指摘して制止し、抱きついた相手に対して問い質す。
「聞いたさ、もちろん。わたしが君の言葉を聞き逃すわけがない。ただ頑張って説得して早く来たんだから少しくらい手順省いても良いだろ?」
カレンはゼロに懐きながらそう言う「ルルーシュにしか見えない」乱入者に「マジに別人!?」と混乱する。
「「‥‥‥‥なら(ぁ)、ゼロがルルーシュ(君/様)なの(か/ねぇ)‥‥‥‥」」
どこか納得したような台詞が藤堂とラクシャータから同時に出て来てカレン含めた幹部達はパニックに陥った。
「あれ?ラクシャータじゃないか。失踪したって聞いてたから心配してたんだ。元気そうで安心したよ」
ゼロを抱きしめたままラクシャータに声をかけた「ルルーシュに似た」乱入者は、あまりというかまったく心配していた風には見えない。
「気にかけて頂けていたなんて光栄だわぁ。でもぉだぁれが失踪なんてお耳に入れたんですかぁ、アラン様ぁ?」
それでもラクシャータは嬉しそうに受け答えしていた。
「お土産にプリン持って行ったら換わりに彼女がね。さぁゼロ、話を始めよう」
ハグをといた「アラン様」はそのまま自然にゼロの背中に手を添えて歩きだそうとする。
「「「‥‥‥‥ちょっと待ったあ~ぁ!!!」」」
その周りを無視した動きに幹部達の焦りを含みまくった大合唱が巻き起こった。
「アラン様」が煩そうに幹部一同を冷たい視線で見渡し叫ばなかった三人以外の背筋が冷えた。
「ゼロ、こんな連中しかいなくて良く今まで勝ってこれたな‥‥。これからは君にだけ苦労させたりしないからな」
馬鹿にしたようなこれ見よがしの溜息を吐いた後、ゼロに向き直った時には優しい雰囲気に一変して労う。
「これでも言う程悪くはないんだがな。時々羽目を外すだけだろう」
「優しいな、君は。けど他の奴らにまで優しくする必要ないだろ?」
ゼロは相手の変わらない言葉に、「この人にはこの件で何を言っても時間の無駄なのだ」と諦めて妥協案を提示する事にした。
「‥‥‥‥わかった。部屋に軽食の用意はしている。それで手を打て」
「そうしよう。‥‥‥‥さっき叫ばなかった三人なら煩くなさそうだな」
「あーはいはい。藤堂、カレン、ラクシャータ。一緒に来い。聞いた話は後で適当に他の幹部に伝えて貰う。わたしはそこまで暇ではないからな」
「軽食付きなら行きますけどぉ?」
ラクシャータは心得たように、笑みを見せて応じる。
「心配するな、ラクシャータ。想定済みだ」
「ほらみろ。連絡入れなくってもちゃんと準備して待ってるじゃないか」
得意がる「アラン様」と「今日は突発に呼び出されてやって来たハズだろ?」と驚く幹部達。
「‥‥わたしが声を聞きたかったとは思わなかった、と?」
「‥‥‥‥あ‥‥。すまないゼロ。そうだな、わたしが間違っていた」
「アラン様」はそう言って再びゼロを抱きしめる。
「今日は当然、帰ってくるのだろうな?泊まる時間は?」
「君の許す限り」
抱きしめられたまま平然と尋ねるゼロと抱きしめたまま甘く応じる「アラン様」。
「‥‥ゼロ。おれ達がいる事を忘れているのではないか?」
藤堂が呆れたように口を挟んだ。
「忘れてはいないが。久しぶりなのだから多少大目に見ろ、藤堂」
呆れる藤堂に対して平然と言い返すゼロに「おいおい」と内心でツッコミを入れつつ、「ゼロ壊れてるか?」と幹部達は思う。
「麗しい兄弟愛よねぇ。ホント、兄弟の事しか念頭にないんだものぉ、変わらないわねぇ」
ラクシャータは懐かしそうに目を細めて二人を見てそう評し、「こいつが例の電話のゼロの兄貴かッ?」と更に驚いた。
「‥‥て事は、ホントのホントにゼロが‥‥ルルーシュなわけぇ!?」
カレンにとってはそれよりも驚く事があり、思わず声を上げてしまっていたが。
「カレン。軽食にありつきたいなら、部屋の前で待っていろ。兄が離れない事には歩けない」
「て、引き剥がしなさいよ、そんなの」
「何故だ?」
「へ?‥‥何故って、部屋に移動して軽食食べながら説明してくれるってさっき言ったわよね?それが先じゃないの?」
「兄のしたい事が優先されるに決まっているだろう?次に『そんなの』呼ばわりすればカレンと言えど赦さないからな」
ゼロの言葉に、「ルルーシュ」を知らない幹部は絶句し、藤堂とカレンは「シスコンだけでなくブラコンも凄まじい(な/わね)」とどこか納得する。
ラクシャータは一人、「懐かしいわねぇ」と微笑んで二人を見ていた。
後編に続く。
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作成 2008.05.16
アップ 2008.06.03
★レイシア様へのリクエスト作品★
(枢.機.卿とル.ルーシュ/依存兄弟/二人に優しい話)
トレーラー一階のソファに座るゼロを階段付近に固まって心配そうな視線を送るのは旧扇グループと四聖剣にディートハルト。
早い話が藤堂とラクシャータを除いた幹部達だ。
いない二人は月下隊長機のメンテナンス中である。
ゼロはと言うと、どこか心ここにあらずな様子で、そっとかけた程度の呼び掛けだと気付かないくらいなのだ。
副司令だからと言う理由で、みんなから押し付けられた扇が、背中を押されようとした時、着信音が響いて幹部達は慌てた。
一部は自分か?と服の上から携帯を叩いて確認する者もいる中、ゼロが動いて携帯を取り出した。
すぐに取るかと思った幹部達の予想は外れ、着信音はやむ様子を見せず、ゼロは携帯を見つめたままだった。
「ってゼロ、おい!電話取らなくて良いのかよッ!いつまでも鳴りっ放しじゃうるせーんだよ!」
痺れを切らせた玉城が怒鳴る。
その声に背中を押されるかのようにゼロは通話ボタンを押して携帯を耳にあてた。
『ルルーシュ?』
良く知っている、毎日のように耳にする、けれども懐かしい声が仮面ごしに耳に入って来る。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
『ルルーシュ?聞こえている?わたしだよ?元気にしてた?』
「なッ。‥‥どれだけ連絡を取ろうとしていたと思っている?ずっと音信不通でやっと連絡してきたと思えば『元気にしてた?』だと?ふざけるな」
『ごめんね、ルルーシュ。ずっと本国だったんだ、それも奥の院で外部との連絡が取れなくて‥‥やっと出て来れるようになったからね、真っ先に』
「まさか‥‥幽閉されていたのか?」
相手の声が聞こえない幹部達は、ゼロの言葉だけを聞いて、その度にどよめいている。
『違うよ、ルルーシュ。勉強?修行かな?今ね、枢機卿に就任したところなんだ』
「なんだと!?まさか、わたしの敵になるなどと言う気ではあるまいな?」
『ありえないよ、ルルーシュ‥‥。そうか、やっぱり君がゼロなんだね。勿論協力するよ、枢機卿の特権だって色々使えるし』
「‥‥手を組むと?」
『当然じゃないか。わたし達が敵対するなんてありえないのは、ルルーシュだってわかっているよね?』
「それにしては、良くこれまで黙ってこれたな?わたしがどれだけ」
『「わたし」?さっきもだけど、今外なの?ゼロの活動中?』
改めて言及されてゼロは自分を見る幹部達に気付いたが、色々とツッコミどころ満載な事を口走った自覚はあるので半ば諦めた。
「あ、あぁ、そうだが‥‥。良いだろう。それで、すぐに会えるのか?」
『エリア11に着くのは、早くても十日後なんだ‥‥』
「なんだと?‥‥一人で来い、一人で。奴はいらないからな」
『どうしてそうシュナイゼル義兄上を嫌うかなあ』
「嫌う?‥‥違うな、それは。間違っているぞ。わたしの手は二本しかないだけだ」
『わたしとナナリーだけで良いって?わたしもだよ、それは。ルルーシュとナナリーが傍にいてくれればそれだけで幸せだから』
「わかっているならさっさと会いに来い。‥‥必要はないだろうが念のため策のすり合わせもしたいしな」
『そうだね、多分枢機卿の特権やゼロについての細かな辺りを話し合えば良いだろうね。また連絡いれるね?』
「当然だ。今度音信不通になってみろ、その時は赦さないからな」
『わかった。けど、ルルーシュ。随分と口が悪くなってないかい?昔みたいに呼んで欲しいと思うのは、わたしのわがままかな?』
「‥‥‥‥わたしがどこにいるか知っていてそれを要求するのか?」
『いけないかなぁ?』
「‥‥‥‥とにかく、連絡を待っている。‥‥無事なようで安心しました、兄上」
要望に答えて、返事も聞かずに通話を切ったゼロは、携帯をしまうと先程まで騒ぎ立てていた幹部を見た。
ゼロは自分から何かを言う気はなかった。
幹部達は何からどう聞けば良いかわからなかった。
そうして出来上がった沈黙の中、整備を終わらせた藤堂とラクシャータがやって来た。
「んー?なんかあったのぉ?」
「入口で固まられては邪魔になるんだがな」
二人が声をかけると、幹部達は左右に別れて道を作り、二人はその道を通ってソファに腰掛けた。
「‥‥それで?ゼロ。何が有った?」
「別に何もないな。わたしが私用の電話を受けたが、これまでも何度か有った事で報告する事ではないだろう?」
「‥‥だけどゼロ。敵に回るとか手を組むとか、全く無関係と言う訳でもなさそうだったし‥‥」
扇が控えめに意見する。
「策のすり合わせをするとも言っておられましたね」
ディートハルトも言い添える。
「後は、幽閉とか音信不通とか」と続けたのは朝比奈で、「今のゼロのお兄さんなんですか!?」とカレンが核心に触れた。
藤堂は眉間の皺を深くし、ラクシャータも流石に笑みを引っ込めた。
「ゼロ、幽閉や音信不通と言うのは?」
「‥‥‥‥私用電話だと言ったはずだが?わたしにもプライベートは存在する」
「君の兄弟だったのだろう?困った事があるのならばおれ達だって力になれる事があるかもしれない」
「必要ない。久方振りの連絡で、明るくわたしの身を案じる程度に余裕のある相手だ。お前達の手を借りるまでもない」
ゼロの返事はにべもない。
「なぁらぁ、敵になるとか手を組むって話はぁ?」
「ものの例えだ」
「ゼロのお兄さんてぇのはほんとぉ?」
「‥‥あぁ。随分と連絡の取れなかった‥‥兄だったな。わたしがどれだけ心配したかも考えずに『元気にしてたか?』などとほざいてくれたがな」
「ゼロ、それってテレ隠し?『無事なようで安心しました、兄上』て敬語使ってたよね、さっき」
朝比奈が笑みを浮かべながら指摘した。
「そう言えと言ったのは兄だ。‥‥あぁそうだ、扇、それに藤堂」
朝比奈に応じたゼロは、扇と藤堂に声をかけ、二人が返事をすると続ける。
「わたしは暫くここには来ない。その間の事は二人に任せる。活動は控えてくれ」
「それもお兄さん関連でですか?ゼロ」
カレンが驚いて尋ねる。
「そうだ。兄の部屋を用意して掃除して家具を揃えて‥‥‥‥する事が増えたからな」
「ってゼロ!騎士団の活動より掃除のが大事だってのか!?」
「当然だ!兄との再会をわたしがどれだけ願っていたと思っている?‥‥そうだ、兄が来る事を報せなければッ」
玉城の発言を一蹴してのけ、ぶつぶつを言い始めたゼロは立ち上がった。
「と言う事でわたしは帰る。次に来るのは兄からの来訪の連絡が有った後だ」
「‥‥待て、ゼロ。君の兄は何者だ?」
「‥‥‥‥わたしが大切に思っている二人の内の一人だ。危害を加えた者には一切の容赦も情けもかけるつもりがない事は先に言っておく」
「ん?もう一人は?」
「‥‥妹だ。わたしの家族はその二人だけだ。‥‥少し話し過ぎたか。わたしはもう行く」
苦い声で最後に付け足したゼロは、「そそくさ」とその場を後にした。
中編に続く。
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作成 2008.05.11
アップ 2008.06.02
★咲様へのリクエスト作品★
(朝ルル+藤堂+ナナリー/交際許可取り付け/ゼロバレ)
朝比奈はアジトの廊下をこれでもか、という速度で驀進していた。
ぶつからないのは相手が恐れをなして脇に避けるからに他ならない。
藤堂の部屋に到着した朝比奈は、ノックもせずにバタンと扉を壊さん勢いで開いて飛び込んだ。
「藤堂さんはッ!!!」
呼びながら室内を見渡す朝比奈の視界には、仙波と卜部と千葉が唖然とした表情を見せるだけで肝心要の藤堂の姿がなかった。
「藤堂さんどこッ!?知らないッ!?」
「何が有ったんだ?朝比奈。そんなに慌てて‥‥」
仙波がいつになく慌てた様子の朝比奈を宥めようと口を開いたが、卜部が質問に答えてやった。
「藤堂中佐なら、さっき呼ばれてゼロの部屋に向かったけど?」
「えぇえッ!?遅かったかッ!?」
驚いた朝比奈はそのまま踵を返して扉から出て行こうとするのを、千葉がバタンと扉を閉めて足止めする。
「事情を説明するべきだと思わないのか?朝比奈。一体中佐にどんな迷惑をかけた?」
閉めた扉の前に陣取った千葉は、厳しい目を朝比奈に向けたのだった。
藤堂はゼロの呼び出しに応じてゼロの自室に赴き、今は招じ入れられてソファに座っていた。
向かいに座るゼロの雰囲気は何故か普段より穏やかに感じられ、急な呼び出しをするようには見えなかった。
藤堂がゼロの言葉を待っていると、くすりと仮面の下で笑う気配がして、藤堂は訝しげに眉を寄せた。
「どうした?」
「いや、今頃慌てているだろうと思ってな。気にするな。‥‥それよりも来て貰った話なんだが‥‥」
ゼロは本題に入ろうとして言葉を切り、藤堂は「それほど言い出し難い話なのか」と驚く。
「本当はわたしが藤堂の部屋に行くべきだったのだろうが、邪魔が入る事は目に見えていたから来て貰ったんだが‥‥」
「それは構わない。が、話の内容と、邪魔というのは気になるな」
どこで話そうが、気にしないと藤堂は先を促した。
「‥‥藤堂。その、朝比奈を貰っても良いだろうか?」
だが、ゼロの言葉に藤堂は一瞬思考を停止させ、次いで渋面を作った。
「‥‥‥‥それは、朝比奈をおれの配下からゼロの配下へと所属を移させたい、と言う事か?」
「ぇ?‥‥違うッ!そんな事は言ってない。四聖剣が藤堂に従っている事はわたしも認めているし離すつもりもない」
藤堂の低い声で紡がれた言葉に、ゼロは「そう言う意味にも取れたか」と慌てて否定した。
「ではどういう意味で言っているのだ?」
それでも藤堂はきつい視線をゼロに向けたまま詰問する。
「‥‥朝比奈に交際を申し込まれた。受けても良いと思っているが、正式ならば許可が必要になる。だから藤堂に許可を求めているのだが」
ゼロはどう言えば良いのか思い悩んだ末に一息に言い立てた。
今度は藤堂が混乱する番だった。
「ちょッ‥‥‥‥と待て、ゼロ。朝比奈がゼロに交際を申し込んだと言ったのか?」
「そうだが?」
「仮面をしたままの君に?それとも素顔を知っているのか?朝比奈は」
「見られた。ちょっとした油断だったが‥‥『一目惚れしたから付き合って下さい』とか迫って来たのでどうでも良くなったというか」
その時を思い出したのか溜息を吐くゼロは「本当ならばタダで済ますつもりはなかったんだが、タダですませてしまった」と苦笑した。
「そ、そうか。それで受けても良いと?‥‥朝比奈にほだされたのか?」
「そうとも言うな。あまりにしつこく言い寄って来るから、いないと物足りなくなったとも言うが」
「‥‥それで何故おれに?」
「本来は親、‥‥家族に言うべきなのだろう?だが朝比奈は『それなら藤堂さんかなぁ?』と言ったからだ」
ゼロはそう言うと仮面に手を掛けて外した。
藤堂はゼロが仮面を外した事に驚き、その下から現れた素顔に誰かが判って更に驚いた。
「君は‥‥‥‥ッ」
「お久しぶりです、と言った方が良いですか?藤堂さん」
「生きていたのか‥‥。良かった、気にしていたんだ、君達の事は」
「何の連絡もせずにすみませんでした」
「いや、無事だっただけで嬉しく思う。‥‥朝比奈は君の事は全て承知しているのか?」
「えぇ‥‥素性は全て教えました。それでもと言うので、ならば正式に付き合うべきだろうと手順を踏む事にしたんですが」
「君の場合は、妹君のところへ?」
「先日連れて行きました。‥‥全く、あいつは。今まで苦労して隠していたというのに、あっさりとおれがゼロだとバラしてくれたんですが」
「それは‥‥‥‥申し訳ない事をした。浮かれると歯止めが利かなくなってしまうのが朝比奈の欠点なんだ‥‥」
「知っていますが。‥‥それで、認めてもらえますか?藤堂さん。おれと朝比奈との仲を」
「君は‥‥、君達はそれで幸せになれるのか?」
「えぇ、勿論、幸せになりますよ?‥‥朝比奈も幸せにしてみせるから、‥‥だから藤堂さん」
「わかった。君のそんな笑顔や必死な顔を見ては反対もできまい。朝比奈を頼む、ルルーシュ君」
「はい。‥‥‥‥それでですね。勝手に妹にバラして泣かせた朝比奈に意趣返しをしたいと思うのですが、手を貸してくれませんか?」
しっかりと肯いたルルーシュは、数瞬後、一転して悪だくみをしてそうな笑みを藤堂に見せてそう誘いかけた。
「何をする気だ?」
「妹にバレてしまったし、表も何かと危なくなってきているので、妹もこちらに移そうかと考えています。なら素顔をバラすのも良いかと思いまして」
「それのどこが意趣返しなんだ?」
「素性は話したのですが、藤堂さんと面識が有った事は伏せているんですよね」
にっこりとルルーシュに笑顔を向けられて藤堂は怯んだ。
「君は‥‥、四聖剣や団員の前で今のをもう一度やれ、と?」
「お願いできますか?藤堂さん。付き合うのは望むところですが、妹を泣かせた罪は重いと思いませんか?」
「わかった。付き合おう。朝比奈にもそれはちゃんと認識させておいた方が良いだろう」
ふっと陰ったルルーシュの表情に、藤堂は先刻までの躊躇いを遠くへ放り捨て頷いていた。
一時間後、素顔を晒したゼロと藤堂との感動の再会が幹部達の目の前でおこなわれ、悲鳴が上がった。
カレンは仮面を外したゼロを震えて指差し、「あ、‥‥あ、‥‥あんたが、ゼロなわけぇ!?」と絶叫していた。
朝比奈は「なッ‥‥‥‥。藤堂さん!?藤堂さんと言えどもゼロは渡しませんからね!!!」とゼロを掠めて逃げ出した。
「中佐。ゼロに何を言われてあのような芝居をおこなったのですか?」
千葉の冷静な言葉に、藤堂は苦笑する。
「朝比奈と付き合う事には同意したが、妹君を泣かせた罪は重いそうだ。彼は『意趣返し』だと言っていたぞ」
「あぁ、まぁ、確かに。てか、ホントに朝比奈さんの事好きなのね。どうでも良い奴が泣かせたりしたら命ないはずだもの」
カレンはどこか遠い目をしてポツリと呟き、それを聞いた幹部達は肝を冷やした。
後日、その恐怖の元が現れるとは、この時は藤堂しか知らなかった。
了
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作成 2008.05.18
アップ 2008.05.31
★咲様へのリクエスト作品★
(朝ルル+藤堂+ナナリー/交際許可取り付け/ゼロバレ)
「‥‥ナナリー。少し良いだろうか?」
兄ルルーシュの躊躇いがちな言葉に、ナナリーは可愛く首を傾げて「どうなさったのですか?お兄様」と尋ねる。
「その、明日夕食に一人招く約束をしてしまったんだけど‥‥」
応えるルルーシュの言葉は尻つぼみに消えていった。
招く約束をしたと言うかさせられたと言うか悩むところではあるが、一応ナナリーが反対したら流す事が出来る。
ただどう切り出せば良いのかルルーシュは悩んでいたのだ。
「‥‥‥‥スザクさん、ですか?」
ふっと硬くなった表情で、ナナリーが問いかける。
「違うよ。‥‥ナナリーはスザクが来るの、良く思ってないのかぃ?」
「だってお兄様、スザクさんがいると辛そうなんですもの」
気付かれていたとは思わなかったルルーシュはナナリーの髪を優しく撫でる。
「心配かけてごめんな、ナナリー。‥‥それに今回はスザクじゃないから」
「‥‥なら良いですわ、お兄様。ご一緒致しましょう?」
あっさりと頷いたナナリーに、ルルーシュは却って不安になる。
「ナナリー?まだどんな奴か言ってないのに、本当に良いのかい?」
「勿論ですわ、お兄様。今その方の事を話されたお兄様、とても嬉しそうでしたもの」
にっこり微笑むナナリーに「そうだったかなぁ?」とルルーシュは首を傾げたが、許可を得たのを思いだす。
「じゃあ、明日、招待するから」
ルルーシュはそう告げてその話を終わらせた。
朝比奈は指定された人気のない公園でぽつねんと佇んでいた。
言わずと知れた待ち合わせなのだが、ゲットー内になるその公園を待ち合わせ場所にする事に、朝比奈は最後まで反対していた。
聞き入れられなかった朝比奈は、指定時間よりも随分と早くからそこで待っていた。
相手がやって来たら、即行で移動出来るようにである。
「朝比奈さまでいらっしゃいますか?」
唐突に女性の声でそんな呼び掛け方を近くからされた朝比奈は、驚いて慌てて振り返った。
そこには大量の荷物を抱えて立つ大人しそうな日本人の女性。
「朝比奈さまでいらっしゃいますね?」
再び問われて朝比奈はこくりと頷いた。
「‥‥君は?」
「お迎えに参りました。『予定していたルートが使えなくなったので多少のカムフラージュが必要になった』との事なので」
「どんな関係?」
「お二方のお世話をさせて頂いております」
「えっと、あッ。確か咲世子さんだよね。おれ、朝比奈省悟って言います」
女性の素性に思い当たった朝比奈はそう挨拶をしてペコリと頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願い致します。ではこれをお持ちになって頂けますか?‥‥カムフラージュ用ですので」
カムフラージュ用にと渡された荷物を抱えた朝比奈は、表に出さずに驚いた。
咲世子はまだ荷物を手にしていて朝比奈は全てを渡されたわけではないのに、「この重さはナニゴト!?」と落とさないように気をつけながら思う。
「出来るだけ顔が隠れるようにお願いしますね。正規のルートなので、話し掛けられても答えてはいけませんよ」
咲世子の忠告に頷いた朝比奈は、慌てて歩きだした咲世子についていった。
不機嫌に怒りのオーラを撒き散らしつつ朝比奈に背を向けるルルーシュ。
けれどその顔が真っ赤になっている事を知っている朝比奈はただただ謝り倒して、ルルーシュが許してくれるのを待つだけだった。
「ほんっとーにごめん。荷物が重くって‥‥じゃくて、疲れてて‥‥でもなくて、頭がパニック起こしててつい即行で言ってしまったんだ」
「おれはッ!食事が済むまで待てと言ったはずだな?制止も聞かないで!しかもッ!騎士団の事だけでなくおれがゼロだという事までバラしてしまうなんてッ!」
「うん、それはおれもすっごく悪かったって思ってるんだけど‥‥。本当に、これこの通り謝るから、ね?」
不機嫌な恋人のルルーシュを宥めながら、先程までの事を朝比奈は振り返る。
「貴方がお兄様のお友達の方ですか?初めまして、妹のナナリーと申します。いつも兄がお世話になっているのでしょうね」
そう挨拶をした可憐な少女に、朝比奈はある目的を持って来ていた事も手伝って舞い上がってしまった。
「お、おれは朝比奈省悟って言います。‥‥実は今日はルルーシュ君の大切な妹である君にお願いが有って来たんだ!」
「おッおい、朝比奈ッ。とまれ馬鹿ッ」
「お願い、ですか?お兄様が焦っていらっしゃるようですけど、わたしに出来る事でしょうか?」
「なッナナリーも聞かなくて良いッ、朝比奈ッやめろッ!」
「貴女にしか出来ない事です。おれはお兄さんのルルーシュ君を愛しています。ルルーシュ君と生涯を共にする相手としておれを認めて頂けますか?」
「朝比奈~~ッ!!」
止まらない朝比奈に、ルルーシュは真っ赤になって叫んだ。
「はいッ!お兄様にも異存がないようですし、歓迎いたしますわ。‥‥えっと朝比奈さん?」
「あ、省悟で良いよ?ルルーシュ君は恥ずかしがって呼んでくれないんだけど」
「朝比奈ッ、いい加減黙れ貴様ッ」
「では省悟お義兄様ですね?お兄様をよろしくお願いしますね?泣かせたり、傷つけたり、裏切ったりしたら赦しませんけど、構いませんよね?」
「勿論ッ!おれはぜ~ったいにルルーシュ君を幸せにしてみせるから。あ、ナナリーちゃんもね、一緒に幸せになろうね♪」
「はい!省悟お義兄様。‥‥ところで、省悟お義兄様はどこでお兄様と?」
「おれ?騎士団でね、ゼロに一目ボ」
「朝比奈ッ!!」
朝比奈の言葉を、今までにない強い口調で遮ったルルーシュに、朝比奈は失言を悟る。
「‥‥では、お兄様が‥‥ゼロなのですね?すみません、お兄様。わたし、全然気づかなくって‥‥」
悲しげに伏せられた顔と声音で謝るナナリーに、ルルーシュは焦った。
「ナナリーが謝ることじゃない。ごめん、ナナリー。黙っていたおれが悪い。気づかれないように動いていたのはおれで、気づかれていればおれが困ってた」
「でもお兄様。知っていればッ、わたしは。‥‥スザクさんをここに入れたりしませんでしたのに。あのような批判を黙って聞いていたりはしませんでしたのに‥‥」
ぽろぽろと涙を零れさせながら訴えるナナリーに、ルルーシュは固まった。
朝比奈はそっと進み出るとナナリーの前に膝を付き、零れる涙を拭ってやった。
「ごめん、ナナリーちゃん。急にルルーシュ君がゼロだって知って、動転しているんだね。枢木スザクの事はさ、おれがきっちり報復するからもう気にしないで?」
「‥‥何度か、もしかしたら‥‥そう思う事は有ったんです。‥‥でも、」
「うん、大丈夫だよ、ナナリーちゃん。ルルーシュ君の望みはナナリーちゃんの幸せで、悲しませる事じゃないからね」
「ですが、お兄様に何か有れば、わたしは笑ってなどいられません」
「うん、だからね。ルルーシュ君はちゃんとおれが守るから。二人が幸せに暮らせる優しい世界もね」
朝比奈の言葉に、ナナリーはやっと笑みらしきものを浮かべた。
「‥‥省悟お義兄様もでしょう?それで一緒に幸せになるのでしょう?」
「もっちろん♪三人で幸せになろうね、ナナリーちゃん」
朝比奈の言葉で、やっといつもの笑顔を取り戻したナナリーに、ルルーシュはほっと息を吐いた。
そう、この時点では、ルルーシュも笑顔を見せたのだ。
そんなやりとりを来た早々やってしまったので、夕食の席で、ルルーシュはかなり居た堪れない思いをする事になっていた。
現在ルルーシュが不機嫌なのはその為である。
「ルルーシュ君。そんなに怒らないでよ。次は藤堂さんに挨拶に行くんでしょう?」
朝比奈の言葉に、ルルーシュはやっと振り返り、朝比奈を見るとにやりと笑う。
「‥‥‥‥意趣返しは必要だよな、朝比奈?」
「てッ!マジ謝りますからそれだけは勘弁してください」
そうしてその日、朝比奈は泣きの入った謝罪に明け暮れたのだった。
後編に続く。
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作成 2008.05.14
アップ 2008.05.30
★未来(みく)様へのリクエスト作品★
(ルルーシュ=枢機卿猊下/枢機卿権限(皇帝を超える程のものと捏造)で日本を手に入れ、楽園を築く)
政庁にやって来た騎士団幹部達は、ラクシャータが「プリン伯爵」と呼んでいた白衣の青年に先導されて広間に向かっていた。
「あんたも本国に帰ったと思ったのにねぇ」
「どうしてぼくが?主のいないところなんてもういるつもりもないね」
「白兜の製作者でしょう?ゼロだって散々苦労させられたぁ」
「あれをデヴァイサーに選んでしまったのはー、確かに失敗だったけどさー。これでも色々制限かけてたんだよー、ぼくもー」
「制限ってぇ?」
「脱出装置付けてなかったりー。エナジーフィラーの消費量が倍だったりー、制御系にだって幅を限定してみたりとかー」
単に面倒だったとか、色々機能付けたらエナジーフィラー馬鹿食いしたけど「まあ良いか」でほっといたとかの事情は言わない。
「へぇえ。でもまぁあんたは肩身狭いと思うわよぉ、あのデヴァイサーの上司だったわけだしぃ」
「えぇ!?折角ランスロット取り上げたのにぃ?特派はこっちに残るから当然ランスもだし、丁度良いからデヴァイサーから外したってのにー」
「そんなの知らないわよぉ。すると元デヴァイサーは何に乗るのぉ?」
「知らないよぉ~、そこまではー。‥‥うー、ぼくだってお傍にいたいのにー」
広間に入りながらラクシャータに突っ掛かるロイドの言葉は、待っていたメンバーにも届いた。
「ロイド伯爵。不敬を咎められたいなら遠慮はいらないよ?」
聞こえてきたシュナイゼルの言葉にロイドは慌てて否定する。
「ぅわ、ダメです。すみません、ルルーシュ様。お連れしましたよー」
順次広間に入ってきた幹部達は奥に所在なげに椅子に座るルルーシュを真っ先に見つけた。
当然ながら仮面は付けておらず、その美貌に幹部達は見惚れつつも近づいて行く。
ルルーシュの両横にはシュナイゼルと神楽耶が立ち、周囲にキョウトのメンバーやらブリタニア人やらとかなりの人数がいるのに気付いた。
車椅子に乗った少女の嬉しそうな様子を見て和むルルーシュに、藤堂とカレン、ラクシャータもまた表情を緩める。
「へーホントに騎士団も来たのねー」
「てカレン!?貴女、騎士団だったの!?」
「おぉ『奇跡の藤堂』がいる。実はファンなんだよなーおれ」
「わたしはラクシャータ様が…」
学生である生徒会メンバーが、いやだけが賑やかに騒いでいる。
何度かシュナイゼルが注意を促していたが、気にしていないように、さっきまではルルーシュも巻き込んでわいわいやっていた延長のようだ。
リヴァル等はルルーシュから、「あの時の電話の相手だ」とシュナイゼルを紹介され、即行で開き直ったという経緯もある。
「間に合って良かったです、藤堂さん。‥‥みんなも来ると思っていた」
「なッ。どうして藤堂だけ敬語なのですか?貴方が一番ですのに」
神楽耶が藤堂を睨みながら意見する。
「ルルーシュも『奇跡の藤堂』に憧れてたんだから当たり前だろー。おれ達良く『奇跡の藤堂』の事で話してたもんなー」
「あぁ、そうだな、リヴァル。‥‥とにかく、正午まで時間がない。今後の事を話し合いたいと思うが」
「って話をしてた時に騎士団の方達が到着しちゃいましたからね~。それで、先程の話ですけど、ルルーシュ様」
セシルがロイドに対して非難の眼差しを向けてから、ルルーシュに問いかけた。
「まず、わたしは『日本人』になるつもりはない。まだ当面は枢機卿でいる必要があるからだ。それは宰相である義兄上も同様」
「だからー、ここにいるブリタニア人はみんなでー、当日はどこかの島にバカンスに行きましょうねー猊下」
ロイドはるんるんとどこから取り出したのか観光ガイドを広げて見せる。
「戻って来るのですよね?ルルーシュッ!」
「勿論だよ、神楽耶。『合衆国日本』が優しい国で有る限り、おれはここにいたいと思っている」
「‥‥優しい国じゃなくなったら見捨てるってのか?」
「何を言っている?玉城。優しい国じゃなくなれば、わたし自ら改革に乗り出すに決まっているではないか。自分だけの平穏に浸っていられなくなるからな」
「そんな事にはならないと約束します。貴方が平穏に過ごせる為にも、『合衆国日本』はわたくしが責任を持って導いてみせますわ」
「良くぞ申されました、神楽耶さま。わしら一同、その為の尽力は一切惜しまぬつもりでおります」
神楽耶に桐原を筆頭としたキョウトの面々が頭を下げる。
「お、わたし達黒の騎士団も、『合衆国日本』の為に出来る事はします。なぁ、みんな」
「‥‥おれ達は、レジスタンスだったわけだが、その事についてはどうするつもりだ?」
「何。『合衆国日本』に弓を引いたわけでもない。一月後、この地におれば国民だ。それまでに政府各所に取り込めれば問題はなかろう?」
「それについては既にルルーシュから案を頂いております。最終的な参加不参加は各人の判断と言われていますから後で調整致しましょう」
「猊下。そろそろお時間ですよ?」
シュナイゼルが口を挟み、それぞれが時計に目を向けると、正午まで後僅かになっていた。
「神楽耶。初めの宣言を」
「はい!ルルーシュ」
ポーンと時報が鳴る。
『わたくしは、旧日本の皇神楽耶と申します。今、この時を以って「合衆国日本」の建国を宣言致します!』
神楽耶はそう言った後、すぐにはマイクを置かなかった。
『「合衆国日本」は新しい国です。優しい国を目指します。過去に囚われず、未来へ進む国を目指します』
「一言、多かったみたいだね、姫君?」
「一言くらい宜しいでしょう?シュナイゼル殿下。建国早々ルルーシュの手を煩わせるなんて御免ですもの」
「なるほどね。その調子で頼むよ、姫君。さ、エリア11の総督も副総督もめでたく解任だ。そろそろ行きましょうか?」
「‥‥どこへ連れて行くつもりだ?」
藤堂がルルーシュの傍まで歩み寄ってシュナイゼルの前に立ち塞がる。
「邪魔をしないでくれないかな?『奇跡の藤堂』。わたしが弟と妹をどこへ連れて行こうとわたしの勝手だろう?」
「義兄上?藤堂さんに絡まないで頂けますか?第一、一緒に行くとは一言も言っていません」
「わたしはこの八年、随分と頑張って来たと思うのだけどね?」
「勿論感謝していますよ、義兄上。ですが、わたしは‥‥」
ルルーシュはそこで一度言葉を止めると、溜息を吐いてから続けた。
「おれは学園や生徒会が好きだし、騎士団の連中も気に入っている。この地には失いたくないものが沢山出来てしまいました」
ルルーシュの言葉に、ミレイとシャーリーとニーナがルルーシュに飛び付いた。
「あ、ずるいですわ」
と言って、神楽耶もルルーシュに抱きつく。
「お兄様、もててらっしゃいますね」
ナナリーはそれに対して嬉しそうにコメントして「宜しかったですね」と応じる咲世子と微笑みあう。
それにカレンが参加し、ディートハルトが参加しようとしたところを井上と千葉によって沈められ、その間にセシルとロイドと朝比奈が参戦しに行った。
「ってちょっと待て。どこを触ってる?やめないかっ。‥‥笑ってないで助けてください、藤堂さん」
「ならわたしが助けよう」
名指しで助けを求められた藤堂が動こうとしたところへシュナイゼルがそう言って動くから、藤堂はそちらの牽制に回る。
「‥‥こうして、『合衆国日本』建国第一日目がスタートしたのでした。‥‥か?」
千葉が小さく呟いたその言葉は傍にいた仙波と卜部だけが耳にしていた。
一月後、「合衆国日本」の国民たる「日本人」が彼の地にあふれた日。
本国に戻っていたシュナイゼルはコーネリアとユーフェミア、その騎士達を執務室に招いた。
「さて、色々忙しくてすまなかったね、ユーフェミア」
唐突に名指しされたユーフェミアは「え?」と首を傾げる。
「忘れたのかい?申請していた件が受理されたよ、と言っているのだよ?」
「シュナイゼル義兄様?」
「やれやれ、本当に忘れていたのかぃ?皇帝に直接申請したのだろう?『ブリタニア』の名前を返上する、と」
「あ、‥‥義兄上、そ、‥‥それは真なのですか?」
あまりの事にコーネリアの声が上ずっている。
「わたしもね。戻って来てから知ったのでね。取り消すのに尽力はしたのだけど、無理だったのだよ。結局ユーフェミアの申請通りになってしまった」
「で、でもわたしは‥‥」
「わたしが聞いていたのは『行政特区日本』についてだけだったから、そちらは白紙にしたけどね。わたしを飛ばして皇帝に持ち込まれては‥‥」
「‥‥では、ユフィは‥‥」
「あぁ、皇室を出て庶民として暮らす事になるね。‥‥当然。騎士は返上。枢木は騎士就任に依る昇進の為、位をいくつか落とす事になる」
コーネリアの問いに答えたシュナイゼルは、厳しい目を枢木に向けて言った。
「ん?返事は?」
「い、イエス、ユア、ハイネス」
こうして、元皇族の騎士にして現一等兵枢木スザク名誉ブリタニア人が誕生した。
了
───────────
作成 2008.05.11
アップ 2008.05.27