04 | 2025/05 | 06 |
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★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
「ゼロの部屋に戻る」と言って2階に行ったはずのC.C.がいくらも経たない内に降りて来た。
「あれ?‥‥上がったんじゃなかったの?C.C.」
戻ってきたC.C.に気づいたカレンが声を掛ける。
「そのつもりだったんだが、あんなところ、いられないから戻って来たんだ」
不機嫌そうに、そして元気もなさそうに応じたC.C.は手近なソファにボスンと身を沈めた。
「いられない‥‥って、藤堂さんまだ戻ってませんけど?」
朝比奈が不思議そうに首を傾げながら声をかけた。
「そうだな。だからいられないんだ。全くあの馬鹿」
「ちょ‥‥まさかそれ藤堂さんの事じゃないだろうね?」
「違う。藤堂は堅物と言うんだろう?‥‥まぁ、堅物というのも違うのかも知れないが」
「ちょ‥‥C.C.ならそれってゼロの事を言ってるわけ!?」
朝比奈の抗議を退けたC.C.に今度はカレンが喰ってかかる。
「あんな奴、馬鹿で十分だ。‥‥というか、お前等安心しろ?どうやら、藤堂が説得に成功したらしいぞ?」
「「へッ!?藤堂さんが!?」」
カレンと朝比奈の声が重なる。
「あぁ。『第二皇子のところへは行かせない』とか藤堂が言っていた。」
C.C.がそう言った時だった。
「なッ‥‥。C.C.お前聞いていたのか!?」
慌てたゼロの声が頭上から降ってきたのは。
驚いた1階にいた幹部達は、そろそろと頭上を振り仰ぎ、ゼロと、その横にいる藤堂の姿を視認したのだった。
「聞かれて悪い事だったのか?」
「それを当人達のいないところで言うのが悪いと言っているんだ」
「なら、今なら当人がいるのだから言っても良いんだな?」
いつも通りのゼロとC.C.の言い合いに、頭を抱えたくなる幹部達だが、それでは一向に話は進展しない。
そんな事はみんな承知しているので、頭を抱えたくなるのを我慢して二人の言い合いを止めにかかった。
「ちょちょちょっと、待ってください、ゼロッ!それにC.C.あんたもよ」
カレンがまず声をかけて止める。
「ゼロ。それに藤堂さん。降りて来てくれないか。話を聞きたい事が、あるんだ」
扇がまだ2階部にいるゼロと藤堂に声をかけると、息を吐いたゼロに次いで藤堂も階段を下りてきた。
幹部達はそれぞれ動いてゼロと藤堂の場所を空ける。
空いた場所に座った二人は、「それで?」と扇を見る。
「えっと、今C.C.の言った、『藤堂さんが「第二皇子のところへは行かせない」とゼロに言った』というのは本当ですか?」
扇が藤堂に尋ねる。
「あぁ、確かにそう言ったな」
「えっと、じゃあ、C.C.が『藤堂さんが説得に成功したらしいぞ?』って言ったんですけど、それも本当ですか?」
朝比奈の問いかけに、しかしゼロと藤堂は顔(片方は仮面だったが)を見合せただけで無言を通した。
「‥‥中佐?」
黙る藤堂に千葉が声を掛ける。
「おれは確かにそう言ったが、ゼロの返答はまだ貰っていない。説得が成功したとは思っていなかったのだが?」
「ていうか、藤堂中佐は全然ゼロの引き留め作戦に参加してなかったから、成行きに任せてるんだと思ってたんだけど、違ったんですねー」
卜部が少しばかり驚いた表情を浮かべながら藤堂を見ていた。
「‥‥言っただろう?おれの我が侭と承知しているが、ゼロには行かないで欲しいと」
藤堂の再度の言葉に、四聖剣は4人とも頷き、くるりとゼロを見た。
「「「「ゼロ。藤堂中佐(さん)はこのように言っています。ですから、どうか騎士団に残り、第二皇子のところへはいかないでください!」」」」
四聖剣は声を揃えてそう言って、頭を下げた。
これにはゼロも、藤堂も、他の幹部一同も驚いた。
しかし、驚いてばかりもいられない。
「ゼロッお願いします。騎士団に!わたし達のところに残ってくださいッ!!」
いち早く我に返ったカレンが次いでそう言うとがばっと頭を下げる。
「ゼロッ頼む。おれ達にはゼロが必要なんだッ!」
扇もまたそう言ってやっぱり頭を下げた。
「「「「「ゼロッ!!頼むから残ってくれ!!!」」」」」
他の幹部一同もまたそう言って倣った。
「‥‥‥‥‥‥ッ」
「ゼロ。どうやら、みんな君を必要としているようだ。これでも第二皇子の誘いに乗るか?」
頭を下げて頼む幹部達に、気押されるように息を呑む声が仮面から漏れ、藤堂が尋ねる。
「‥‥ッ言っておくが、わたしを引き留めたからにはこれまでのようには行かないからそのつもりでいろよッ!」
ゼロはそれだけを言うとふいっと仮面をそむけてしまった。
「テレているのか?存外可愛いところもあるじゃないか?なぁ?」
C.C.のからかい口調の声に誘われて頭を下げていた幹部達がそろそろと身体を起こす。
そんな幹部一同の目に飛び込んできたのは。
キッとC.C.を睨みながらゼロを抱き寄せる藤堂と、まるで恥ずかしがるように藤堂の胸に仮面を埋めるゼロの姿だった、とか。
了
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作成 2008.08.11
アップ 2008.08.20
★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
藤堂が幹部会議室に足を踏み入れた時、そこでは男性陣がまだあーだこーだと言い合っていた。
その様子に、「良い案はあまり出ていなさそうだ」と思う。
「あ、藤堂さん。遅いですよー。‥‥ゼロは何て言ってました?」
藤堂の存在に目敏く気づいた朝比奈が声をかける。
「‥‥まぁ、まだ望みはあると見たが。‥‥下手を打って後押しだけはしてくれるなよ」
藤堂はまるで他人事のように言うと、朝比奈と仙波の間に空いている席へと座った。
「ん?千葉はどうした?」
「あぁ、それなら中佐。千葉を含めた女性陣は『紅月の色仕掛け作戦』の方に回ってて席外してますよ」
「ぐッ‥‥。‥‥い、色仕掛け、だと?」
藤堂は噎せかけ、数瞬置いてから、眇めた目で卜部を見て尋ねた。
「初めはC.C.って話だったけど、『自分は愛人じゃないから断る』って言われて、紅月になったけどよ」
卜部はそう言ってから、「あっちで女性陣だけ集まって詳細を詰めてるぜ」と女性陣が消えた方を指した。
「‥‥‥‥で、で?こちらはどうなんだ?」
「ばっちりだぜぃ。カレンがしくじったって、おれ様がばっちり決めてやるぜ」
玉城が自信満々に言うが、その周囲で扇達がげんなりとした表情をするので、どんな作戦かは推して知るべしだろう。
藤堂は扇に確認を取る為に視線を移す。
「ぇ、えーと。‥‥玉城は、第二皇子との会見の時にゼロを閉じ込めれば‥‥なんて言っている」
扇はすまなそうな上目使いで藤堂を見ながら、気弱そうな声で答える。
途端に藤堂の眉間の皺が増えたのに、幹部達は少し怯える。
「ゼロは『全員が納得しない内は』、との取り決めに同意している。そのゼロに無理強いをするのは感心しない」
「だけど藤堂さん。それって、ゼロがおれ達全員を説得出来ない内は第二皇子の誘いには乗らないって思ってて良いって事ですよね?」
朝比奈が藤堂の言葉を受けて問いかける。
「そうだな。‥‥だが、おれはゼロの説明自体には納得している。その上で、行って欲しくないと思うのはおれの我が侭だと承知しているがな」
藤堂に「納得している」と苦く笑われて四聖剣は怯み、扇達はうろたえる。
「最後の砦が~ッ!」と嘆く者もちらほらと窺える。
「‥‥とにかく、正攻法でやってみろ」
藤堂はそれだけを言うと腕を組んで目を閉じた。
仙波と卜部は息を吐いただけで何も言わず、朝比奈は扇に視線を向けた。
「~~~って事だから、扇さん。玉城の案はやっぱり却下って事で、後は片っ端から試してみましょうよ」
何が「て事」なのかと首を傾げる旧扇グループ達を他所に仙波と卜部は朝比奈の言葉に頷いた。
なものだから残る幹部達も仕方なしに頷き、ゼロへの説得工作を正攻法で仕掛ける事にしたのだった。
どんッ。
ゼロの自室で、仮面を外したルルーシュは握った拳をローテーブルに叩きつけた。
ルルーシュの座るソファの正面には、そんなルルーシュに同情する藤堂が座っている。
「‥‥大変そうだな、ルルーシュ君」
藤堂はそう言いながら腕を伸ばして叩きつけられたばかりのルルーシュの腕を優しく持ち上げると、痛むであろう場所を摩る。
「そう思うのでしたら、あの連中を何とかして欲しいのですけど‥‥」
ルルーシュは大人しく腕を預けたまま、弱り切った表情を浮かべて言った。
「だが、あれが君の見たかった団員の反応だろう?」
「‥‥そうですが。‥‥あぁもバラバラとやって来られたのでは、嫌がらせをされているようにしか思えませんよ」
「‥‥‥‥紅月は来たのか?」
ふと、藤堂は思い出して尋ねた。
「カレン、ですか?‥‥いえ、カレンはまだ‥‥。そう言えばまだ一度も‥‥」
きょとんとしたルルーシュは今まで嫌がらせのようにバラけて来ていた者が全員男だった事に気づいた。
「‥‥女性陣はまだ‥‥準備中らしいな」
不安そうな表情を見せたルルーシュに、藤堂は渋々ながらもそう答える。
本当は実行に移して欲しくはないけれど、とは思いながらもそんなルルーシュの顔を見ると黙っている事は出来なかったのだ。
「‥‥準備?そんなに準備が必要なんて‥‥何をするつもりなんですか?」
ホッと息を吐いた後、ルルーシュは不思議そうに首を傾げる。
「それは‥‥おれも良くは知らない」
「そうですか。‥‥ところで、やはり様子見、ですか?藤堂さんがここに来たのは」
「あぁ、そうだ。扇達からゼロのその後を聞いてきてくれ、と頼まれた。ついでにおれからも説得をしてきてくれとも頼まれたが」
「『出て行け』なら面と向かってそう言えと言いたくなりますね。‥‥藤堂さんは説得、しますか?」
「したいが、今は曲解されそうだな。‥‥と扇達には言って今回は何も言っていないとでも言っておこう」
「‥‥すみません、藤堂さん。おれが馬鹿な事を言い出したばかりに‥‥」
恐縮するルルーシュに、藤堂は笑みを見せる。
「構わない。どんな結果になろうと、最後にはおれが引き留める。シュナイゼルのところには行かせない」
「‥‥藤堂さん‥‥」
きっぱり言い切った藤堂に、ルルーシュは頬を染めて俯き加減になりながらも小さく頷いていた。
4に続く
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作成 2008.08.11
アップ 2008.08.19
★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
黒の騎士団、幹部会議室。
その場には暗い表情をした幹部達がいた。
いや、ラクシャータは普段通りだったし、何故かいるC.C.は面白そうににやにやと笑いながら幹部達を眺めていた。
いないのはゼロと藤堂のみである。
「‥‥‥‥どうするよ、おい」
玉城がボソリと呟く。
いつも反抗ばかりしてゼロに楯突く玉城とて、実際にゼロが騎士団を離れ、あまつさえ敵に寝返った場合どうなるか分かっていた。
ゼロが次々に生み出す作戦、そのどれもがこの場にいる全員が束になって考えても思いつきすらしないもので。
更には相手の動きを見るその洞察力の深さはかつて軍人だった藤堂や四聖剣ですら舌を巻くものなのだ。
「そぉねぇ。良い手なら一つあるけどぉ?」
ラクシャータがキセルを揺らしながら、いつも通りの口調で提案する。
「良い手ってどんなのですかー?」
顔を見合わせるばかりで尋ね返そうとしない幹部達を見渡してから朝比奈がそう尋ねた。
「んー。結局ぅ、ゼロも男なんだからぁ。色仕掛けとかぁ?ほらぁ、ここには愛人だって言うC.C.もいるんだしぃ?」
ラクシャータの意見に幹部達の視線がC.C.に向かう。
「‥‥わたしはやらないぞ。第一、それは噂で有って、事実無根だ。わたしにだって選ぶ権利くらいはあるんだ」
C.C.は嫌そうに顔を顰めてから断った。
「ぇ‥‥。C.C.ホントにゼロの愛人じゃないの!?」
カレンが驚いたように尋ね返す。
どうやら否定していてもどこかで信じていたようである。
「だからそう言っているだろう?あいつとは唯の『共犯者』だ。ちなみにわたしはあいつがどこにいようと構わないからな」
カレンの言葉に頷きつつ、幹部一同を突き放す。
「構わないって‥‥。ゼロがもしブリタニアに行ったら、君はどうするんだ‥‥?」
扇が戸惑い気味に尋ねる。
「決まっているだろう?わたしは別に騎士団に所属しているわけでもない。唯のあいつの『共犯者』。だからあいつについて行くさ」
あっさりと意志を表明したC.C.に幹部達は驚いた。
「ちょッ‥‥おれ等見捨てて行くってのか?」
「黙れ玉城。‥‥『見捨てて』?良くそんな事が言えるな?散々反抗していたのは貴様だろう?」
「んだとぉ。大体仮面被ったままで素性明かさねぇゼロが悪いんじゃねぇか」
「何を言っている?今更。桐原が認めた事だと納得していたのはお前達だったはずだな?」
「ぅっわムカつくー。だからって仲間なんだから知りたいと思ったって仕方ないだろーがよぉ」
「貴様はあれか?好きな奴程苛めたいとかいうどこぞの小学生か?」
「だぁーあ!‥‥玉城ッ!C.C.も。いい加減にしろ。いつまで言い争っているつもりだ?」
玉城とC.C.の舌戦に、扇が割って入る。
「まぁ、せいぜい色仕掛けだろうがなんだろうがあいつを引き留める事だな。わたしは楽しく見物させて貰おう」
C.C.はそう言うとどっかと椅子に座ってチーズ君を抱え込んだのだった。
「えっとー。色仕掛けって事だけど‥‥。C.C.がしないなら‥‥紅月さん、とか?」
朝比奈が話を戻し、色仕掛けの執行人としてカレンを指名する。
カレンは突然の事に「えッ‥‥!?」と驚きの声をあげて固まった。
わたわたと顔をまっかにして無意味に両手を振っている。
「わたわた、わたしには、ムリですッ!!」
慌てまくるカレンに「これは面白い」と笑みを深くする半数と、「カレンにそんな事をさせるのは‥‥」と渋面を作る扇以下数名。
残りはそれぞれの表情で成り行きを見守っている。
「あら、カレンがやらないなら、ラクシャータとか千葉さんとかに振るけど、どうする?」
井上がにやにやしながら選択肢を迫る。
「ゔ‥‥だ、ダメです。そんなッ!」
カレンは一瞬詰まったものの、「そんなの耐えられないッ」と結論付けて反射的に反対した。
「じゃあカレン。ほら覚悟決めなさいな」
うりうりと井上がやっぱり面白そうな表情を浮かべたままに返答を迫る。
「ぅ‥‥で、でも、どう‥‥やるんですかッ!?」
カレンが真っ赤になって尋ねると、視線は再びC.C.へと集まる。
「ねぇ、C.C.。ゼロの好みの女性ってどんなタイプか知ってるなら教えて欲しいんだけど?」
そう尋ねたのはやはり井上で。
「さて。あいつは‥‥強くて誰にも負けないタイプか、可憐で守りたくなるようなタイプか?」
C.C.はマリアンヌとナナリーを思い浮かべながら答える。
「なぁんか、描写が具体的な気がするんだけどー。正反対だから、例えば過去にゼロが好きになったタイプとか?」
「まぁ、とにかくさ。色仕掛けって分は紅月と女性陣に任せて、おれ等は別の作戦練らねぇか?」
朝比奈がC.C.に問いかけるが、そんな事をしていては話が進まないと卜部が口を挟んだ。
「そ、そうだな。井上、ラクシャータ、それに千葉さん。カレンを頼むよ」
扇が女性陣にそう言うと、それぞれの方法で是を返した。
「じゃ、行くわよぉ、カ~レン。C.C.あなたも来るわよね?」
「後でな。他にどんな案が出るのか興味がある」
「わかったわ、なら後で。どんな案が出たのかもその時教えてくれると嬉しいけど、それも頼んで良いかしら?」
「‥‥‥良いだろう」
井上に渋々と言った感じで頷いたC.C.は出て行く女性陣を尻目にその場から動かなかった。
「えっと。‥‥それで?他に案がある者は‥‥」
女性陣の声が聞こえなくなってから、扇がそう言って残った男性陣を見渡す。
「‥‥あ。そうだ。交渉の時にゼロを閉じ込めて行かせないってぇのはどうだ?」
「って玉城、それはダメだろう?ゼロが納得していないなら、後になって出て行くことになりかねないのだし‥‥」
玉城の乱暴な提案に、扇は慌てて異を唱える。
「でも、その時いかなけりゃシュナイゼル側がゼロを受け入れる事はなくなるわけだろ?」
「とにかくッ!それはおれが認めないからな、玉城」
「なんでぇ~~え。肝っ玉が小せぇなぁ、扇は」
「そうかなー?おれも反対。第二皇子が受け入れなくっても、ゼロが騎士団から手を引いたら同じだと思うしー」
「そうだな。朝比奈のいう通りだとおれも思う」
卜部が朝比奈の言葉に賛意を示し、仙波も頷いて同意する。
「‥‥あのさ。あれこれ考えるより、正面から頼み込むなり、ゼロが必要だって訴えた方が、多分良いような気がするんだけど」
みんなが考える姿勢に入ったところで、扇がそう提案する。
その扇の言葉に、C.C.が笑みを見せたがそれに気づいた者はいなかった。
3に続く
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作成 2008.08.05
アップ 2008.08.18
★本樹様へのリクエスト作品★
(むっつり藤.ル.ル/シュナの引き抜きに揺れるゼロ/引留め工作)
トレーラーの一階、いつもの場所に陣取っているゼロは、考える彫像と化していた。
既に数時間、ゼロは呼吸すらしていないのではないかと思いたくなる程、微動だにしないでいた。
これで眠っているとかならば心配して周囲で気にしている幹部達からガミガミと総攻撃を喰らうだろうが、それは杞憂だった。
‥‥いやもしかしたら眠っていた方が良かったのかも知れない。
唐突に動いたかと思うとゼロはそれはそれは深い溜息を吐いて下さったのだ。
真っ先に反応したのは一番近くに座っていた藤堂で、次が遠巻きながらもガン見していたカレンとディートハルトである。
「‥‥‥‥どうした?」と藤堂が声をかける。
もしかしたら答えないかもとか思う者がいる中で、しかしゼロは言葉を返していた。
「少し迷っているんだ」
どこか途方に暮れているといった、幼ささえ垣間見せるような言いように、幹部達は驚き息を呑む。
「‥‥迷う、とは?」
藤堂が更に問うがその声はかなり低くなっている。
「ブリタニアから誘いが‥‥ッ」
ゼロはそこで唐突に言葉を切った。
やけに素直に答えていると思っていたら考えに没頭していて周りが見えていなかったようである。
当然ながらの問題発言に、驚きが醒めた幹部が詰め寄ったのも無理からぬ事だっただろう。
ゼロはいかにも仕方がないと言う態度で説明を始めた。
「第二皇子から引き抜きを受けた。あれは宰相でもあるからかなりの好条件でな、正直揺れている」
「テメッ、今更裏切る気かッ!」
当然ながら玉城が吠える。
「‥‥条件を聞いて良いか?」
しかし、藤堂はあっさり玉城を無視してゼロに尋ねる。
「凄いぞ。エリア11をくれるそうだ」
ゼロは本当に珍しくも弾んだ声で応じた。
どう考えても受ける気満々な気がしてならない幹部達は、ゼロの言葉のその内容にも遅れて驚く。
「日本を手放してまでゼロを手に入れたいなんて‥‥。ゼロ、第二皇子となにか関係があるのか?」
扇が呆然と尋ねる。
「ん?それは違うぞ、扇。わたしがこの地を手にする時はすなわちブリタニアに行った後と言う事になるから手放すのとは意味が違うだろう?」
扇の疑問にゼロは仮面を傾けつつも応じる。
「てか待った、ゼロ!既にそこまで思い巡らせてるの?揺れてるどころじゃないじゃないか」
朝比奈が慌てて話と注意を引き戻す。
朝比奈の言葉にそれぞれ我に返った幹部達は「そうだった」と慌ててゼロを引き留めにかかった。
「ゼロ!ブリタニアを憎んでて倒すんだって言ってましたよね?なのに下るなんて言わないでくださいッ!」
まずはカレンが説得を試みる。
「確かにな。だが、応じれば、シュナイゼルは皇帝を廃位させて自分が帝位に就きブリタニアを変えると言うしな‥‥」
「あらぁ?確かに第二皇子なら出来そうな気も確かにするけどぉ?無理でしょぉ流石にぃ?」
ラクシャータが面白そうに検討しながらも否定的な意見を述べる。
「‥‥まぁ、それが可能ならば今頃はとっくに交代してるだろうからな‥‥。だが、だからこその勧誘とも言えるだろう」
ラクシャータの意見に同意するゼロにホッとしたのも束の間、幹部達はやはり慌てた。
「‥‥第二皇子は‥‥ゼロを引き込めばそれが可能だと考えていると?」
「扇は不可能だと思うか?」
尋ねた扇は逆に返され、思わず絶句する。
「騎士団をどうするつもりだ?ゼロ。君が作ったのだろう?」
「わたしに従う者は一緒に不問にするそうだ。そのまま親衛隊にでもすれば良いとまで言っていた。諸ともに引き込む気なのかも知れないな」
何を言っても答えが返ってくる事に、幹部達の焦りは強くなる。
「しかし。それは内部に不穏分子を抱え込むような愚考に思えるのだが」
千葉が難しい顔で発言する。
「相手はあの第二皇子だぞ?」
千葉の言葉にほんのり希望を見出した幹部達を、ゼロの言葉が粉砕してのけた。
結局、ゼロが表に戻る時間だと言い出したので、話は持ち越しとなった。
ただ一つだけ、全員を納得させる事が出来ないうちは無断で誘いに乗らないという取り決めをして、ゼロは自室へと引き上げた。
暫くして藤堂がゼロの部屋を訪れる。
「‥‥別に、日本を切り捨てる気はないんです」
ゼロ、いや既に仮面を外しているルルーシュが扉を閉ざしたその前に立つ藤堂に言う。
藤堂はルルーシュの苦い笑みに誘われてルルーシュに近づきそっと抱き締める。
「では、なぜ?」
「第二皇子、義兄上の譲歩が分かって、それで少し、揺れているだけなんです、きっと」
ルルーシュは抵抗する事なく、藤堂の胸に頬を押し付けて背中に手を回して言う。
「‥‥譲歩?」
「昔は、何故か義兄上に気に入られていまして。良く他の義兄弟と一緒にいる時に連れ出されたりしていたんです。理由は『チェスをする』でしたけど」
昔話をするルルーシュに藤堂は眉間の皺を深くする。
「でも、その義兄上が言うんです。『「奇跡の藤堂」と離れたくないのなら共に来れば良いだろう?』って。随分な譲歩だと思いませんか?」
苦笑するルルーシュにしかし藤堂の表情は晴れない。
「七年も八年も離れていて我慢が出来なくなったか‥‥」と思ってしまったからだ。
藤堂はルルーシュを抱く腕に少し力を込める。
「行かせない。そう言えば行かないか?」
力が入る藤堂の腕に、ルルーシュは少しの間を置いてくすくすと笑いだす。
「貴方ならそう言うと思っていました。‥‥でも少し気になりませんか?」
藤堂の問いにすんなりと答える事はせずにルルーシュは尋ね返す。
「ん?気になる、とは?」
「団員達がどんな手を使って引き留めようとするのか、です」
悪戯っぽい笑みを浮かべたルルーシュに、藤堂もまたにやりと笑った。
「有効な手段がない時は、最後にはおれが引き留めるからな?」
「お願いします。藤堂さん」
見ようによっては怖い笑みを浮かべる藤堂に、しかしルルーシュは嬉しそうに微笑み返していた。
2に続く
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作成 2008.07.27
アップ 2008.08.17
★nao様へのリクエスト作品★
(シュナ+ネリ+騎.士達+ユフィ/騎.士団合流/ス.ザク切捨て)
立ち上がったシュナイゼルに、コーネリアが声を掛ける。
「‥‥義兄上。どちらへ‥‥?」
「勿論、ルルーシュとナナリーのところだよ」
さも当たり前のように答えるシュナイゼルにコーネリアは慌てた。
「なッ。皇族が学園に出向いて二人に会おうとすれば、それだけで注目が集まります。それでは隠れているであろう二人の事が公にッ!」
「勿論、承知しているよ。二人はきっと皇族から隠れて過ごしていたはず。枢木が名前を出してしまった為に露見したけれど、ね」
「ご承知だというのでしたら何故!?」
「何も学園に乗り込もうとはしていないよ。他に心当たりがあるから、そちらに向かおうとは思っているけれどね。来るかい?」
そう応じたシュナイゼルはコーネリアにも同行するかと誘う。
「行きます」
「わ、わたくしもご一緒してもよろしいですか?シュナイゼルお義兄様」
「もちろんだよ、ユフィ。‥‥ダールトン将軍。ギルフォード卿。とめるかい?」
「いえ。姫様が行かれるところがわたくしの存在する場所ですから。出来ますれば同行の許可を」
「わたしも、同行を希望致します。殿下」
シュナイゼルの問いかけに、ギルフォードもダールトンも諌めるどころか同行を希望する始末。
そんなノリの良い雰囲気に、スザクも頷いていた。
そう、ルルーシュとナナリーに自分も会えると思ったのだ。
それをシュナイゼルが見咎めて、表情を険しくする。
「枢木スザク。君は本当に何も分かっていないのだね。君のおこないは『皇族から隠れている二人を皇族に売った』と言うのに」
シュナイゼルの言葉に、スザクの肩が跳ねる。
「ぇ‥‥?で、でも。命令、だと‥‥」
「つまり君は『命令』だと言われれば守ろうとしていた者さえも売る事が出来る、という事だ。とても騎士に相応しい精神とは思えないな」
「し、しかし自分はっ!」
「‥‥わたくしが間違っていたのですね、シュナイゼルお義兄様、コーネリアお姉様。‥‥わたくしはもう自分でもちゃんと選べるようになったのだと‥‥」
「今からでもきっと遅くはありません、ユーフェミア様」
「左様です。枢木スザクを選任騎士より解任し、新たなる騎士をお選びになられればよろしいでしょう」
ギルフォードとダールトンとの言葉に励まされ、ユーフェミアはスザクに手を伸ばす。
「スザク。そう言う事ですので、返上して頂けますか?宜しいですよね?あなたは主となったわたくしにすら嘘を吐いていらしたのですから」
きっぱりと言い切ったユーフェミアに、スザクはのろのろと騎士の証を手にとって差し出した。
「確かに、返していただきましたわ。今まで短い間でしたが楽しかったです」
「特派のロイドにも連絡しておこう。騎士を返上した枢木スザクは騎士になった時に昇格した位を取り下げ、元の准尉に戻った、と」
「枢木准尉。そう言う事だ。下がって良い」
ユーフェミア、シュナイゼル、コーネリアの続けざまな言葉に、打ちのめされたスザクは呆然と敬礼をして退出していった。
「それで?義兄上。どちらへ参られるのですか?」
スザクのいなくなった室内で、コーネリアがシュナイゼルに問いかける。
「それはね、コーネリア」
シュナイゼルの答えに、さしものコーネリアやダールトン、ギルフォードですら驚きの声を上げる事になった。
ランスロットのデヴァイサーである枢木スザクが、主に呼び出しを受けて出ているので、特派はとっても暇である。
特にランスロットの駆動テストをしようとしていた時だっただけに、デヴァイサーがいなければ何も出来ない。
ロイドもセシルもどこか気の抜けたような様子でぼーっとしていた。
そこへ通信が入り、セシルが繋げる。
『やぁロイド。少々報告が有ってね』
「これは殿下ー。なんでしょーかー?」
『実はついさっき、枢木少佐をユフィの騎士から解任してね?従って階級も准尉に逆戻りしたからそのつもりでいてくれたまえ』
「へ?‥‥ちょ‥‥殿下?」
『本来ならば、超特例的に上げた准尉の階級も下げたいところだけどね』
「あのー。スザク君、いえ枢木准尉は一体何をしたのですか?」
『それは言えない。けれど彼をランスロットに乗せるのにも反対したいくらいだ、とだけは言っておこう』
「んー。ところで、殿下ー?どちらに行かれるんですかー?」
『ふッ。やはり判るか?ロイド。実は義弟と義妹が生きている事が分かってね?これからみんなで会いに行くところなのだよ』
「‥‥ぇええ?ホントですか?それ!行きます。ぼくもすぐに駆けつけますからね?あ、ランスロットも持ってった方が良いですよねー」
『‥‥‥‥許す。但し、枢木准尉の同行は認めないから、悟られる事のないようにするように』
「わっかりましたー。ではあちらでー」
切れてブラックアウトしたモニターに向かってロイドは会心の笑みを浮かべる。
「あの、ロイドさん?一体‥‥」
「セシル君は分からなかったのかー。それはねー」
セシルはロイドの言葉を聞いて驚きに目を見張ったのだった。
「不法侵入者」と聞いてゼロは幹部達と格納庫へと向かう。
ゼロを待ち構えていたのは、神聖ブリタニア帝国の皇族達とその騎士、それに軍属の科学者が2名。
それを見たゼロは本当に深々と溜息を吐いた。
「‥‥何故、バレたと聞くべきでしょうか?」
ゼロは何かを諦めたようにそう言うと、仮面に手を伸ばしたのだった。
了
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作成 2008.08.12
アップ 2008.08.13
★nao様へのリクエスト作品★
(シュナ+ネリ+騎.士達+ユフィ/騎.士団合流/ス.ザク切捨て)
「お姉様ッ!お力を貸して下さいッ!」
バタンと扉を開け放つなり、少しもしとやかでない仕種でユーフェミアは執務中でギルフォードとダールトンと話をしていたコーネリアに泣き付いた。
そうなると仕事は終わりだと悟っている二人は片付けに入る。
勿論この日も仕事はそれ以上進まなかったが。
「義兄上ッ!お話がありますッ!」
バタンと扉を開け放つなり、全くしとやかでない仕種でコーネリアは執務中のシュナイゼルに言いたてた。
シュナイゼルはその後ろに続く三人がコーネリアの言動をやめさせる為に追い掛けて来たわけではないと気付いて筆を止めた。
枢木スザクは途方にくれていた。
それはもう直立したままカチコチに。
呼び出しを受け、ユーフェミアの執務室に向かうとそこにいたのは部屋の主だけではなかったからだ。
ユーフェミアの姉コーネリアがいて、ダールトンとギルフォードがいて、更にはシュナイゼルがいる。
(‥‥なんだ?この華やかさは?どうしてこんな状況でぼくが呼ばれるんだ?)
「枢木スザク。以前より聞きたいと思っていたのだけど、答えてくれるかな?」
ここは、ユーフェミアの執務室だと言うのに。
だけど、座っているのはシュナイゼルで、その右にコーネリアが立ち、コーネリアの背後にはギルフォードが寄り添っている。
左にはユーフェミアが立っていて、その後ろ、本来ならばスザク自身が立つはずの場所にはダールトンがいた。
そんな中、シュナイゼルの問いに、スザクは反射的に「イエス、ユア、ハイネス」と答える。
「君はユーフェミアから騎士として指名されたわけだけど、何故受けたのかな?」
シュナイゼルの問いに、スザクは首を傾げる。
何故も何も皇族の指名で、スザクの意思などどこ吹く風の勢いだったようにスザクは思っているからだ。
一応、ユーフェミアの考えに賛同し、力になりたいと思った事もあるし、尊敬しているし守りたいとも思うのだけど。
どういって良いのか判らず、スザクは「えーっと」といったまま沈黙した。
しかしそれでも長く沈黙なんてしていられず、「自分は」と言ってから、一度ごくりと喉を鳴らして先を続けた。
「ユーフェミア様を守り助けたいと思い、お受けいたしました」
それが、スザクの出した答えだった。
これまでスザクがそう言うと、嬉しそうににこにこと笑顔を浮かべていたユーフェミアは、しかしこの時、表情を曇らせる。
スザクは「何か失敗しただろうか?」と内心で焦っていた。
「枢木。偽りを述べるのは感心しない。騎士がそのようではコーネリア殿下も安心してユーフェミア殿下を任せて置けないと嘆いておられる」
ギルフォードが鋭い眼差しをスザクに向けて言う。
「偽りなんてッ!自分はッ!」
「ユフィが憤って泣き付いて来た。『自分は蔑ろにされている』のだとな」
コーネリアの瞳にも、怒りがありありと浮かんでいる。
スザクは気圧されそうになりながらも反論を試みる。
「自分はッ!蔑ろになどッ‥‥」
しかしギロと睨まれて途中で言葉が途切れる。
「しかし、ユフィの前で上の空の事が多いそうではないか?一体何を考えているのやら」
コーネリアが侮蔑するかのように吐き捨てる。
「報告書を読みました。スザク貴方は別の人を守りたいから騎士の話を受け、騎士になったのだそうですね?」
ユーフェミアが悲しそうな表情でそう言い、「そんな事、わたくしはスザク自身から一言も伺っていませんわ」と涙を零す。
「騎士が主に隠し事をするなどと、‥‥有るまじき行為ですな」
「まったく、嘆かわしい限り。ユーフェミア皇女殿下を蔑ろにするにも程があります」
涙を零すユーフェミアを元気付けるようにシュナイゼルがその手をぽんぽんと優しく叩く。
ギルフォードとダールトンが、同じ騎士として許せないおこないをする枢木スザクを睨みながら非難する。
「‥‥‥報告、書?」
聞きなれない単語にスザクは首を傾げる。
それがその場にいる者の怒りを更に煽る行為だと、スザクは気付かない。
「知らぬとは言わさぬ。皇族の選任騎士になる者には、それなりの人物でなければならず本人、周囲に関して調査がおこなわれる」
コーネリアの宣言に近い言葉は、スザクの顔色を蒼白にさせた。
「‥‥どうやら、君は我々に、というよりはユフィに言わなければならない事があるようだね?」
シュナイゼルがそんなスザクを観察しながら、やんわりと問いかけた。
しかし、シュナイゼルは皇族であり、宰相閣下でもあるのだから、その問いかけは絶対のものだ。
「‥‥‥‥‥。それは‥‥」
けれど、スザクは躊躇いを見せて押し黙った。
自分の行動がルルーシュとナナリーを危険な立場に追いやったかもしれないと今更ながらに気付いた結果だったが。
「ユフィの言葉通りのようだな。貴様にユフィを託すのは間違っているようだ」
「ユーフェミア様。今からでも遅くありません。イレブンだからと言うのではなく、この男自身にユーフェミア様の騎士になる資格などありません」
「そのようですな。解任する事をお勧めいたす」
コーネリア、ギルフォード、ダールトンのスザクへの評価は右肩下がりに下がりまくる。
「枢木スザク。名誉とはいえ、ブリタニア人なのだから、宰相でもあるわたしの問いには答えなくてはならないのだよ?」
シュナイゼルはそう言って「さあ」と促す。
「‥‥‥」
「枢木スザク。命令である。誰を守りたいが為に騎士になったのか、今すぐに言いたまえ」
黙るスザクにシュナイゼルは、一転して高圧的に命じた。
はっとしてシュナイゼルを見返したスザクは、その表情に怒りが浮いているのを察して、慌てた。
「じ、自分、は‥‥る、ルルーシュとナナリーを守りたい、と‥‥」
がたんッと音がして、スザクは言葉を切る。
誰かが身動いでどこかにぶつけたのか音を境に室内の空気が重くなったとスザクは感じた。
シュナイゼルが、コーネリアが、ユーフェミアが、ダールトンが、ギルフォードが、スザクを凝視していた。
「ほぉ?これは面白い事を言う。『ルルーシュ』、『ナナリー』とはこの地で亡くなったとされる皇族の兄妹の名前。今、出てくるべきではない名前だね?」
「枢木。いつから二人の生存を知っていた?」
押し殺したようなコーネリアの声音で告げられた問いに、スザクはやはり言い淀む。
「それは‥‥」
「答えなさい、スザク」
キッと眦釣り上げて、ユーフェミアがスザクに尋ねた。
「‥‥‥‥。が、学園に入った時に、‥‥再会、しました」
スザクは俯いて、拳を握りながらも、とうとうそう報告していた。
「枢木スザク。君には失望したよ。再会した時には、名誉ブリタニア人であり、ブリタニア軍人で有ったにも関わらず、報告の義務を怠っていたとは」
シュナイゼルはそう言うと、立ち上がた。
後編に続く
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作成 2008.08.12
アップ 2008.08.12
★hidori様へのリクエスト作品★
(朝.ゼロ/ブラコン皇.族兄弟(シュナ、ネリ、アラン?)/騎.士団押し掛け話)
沈黙。
「‥‥‥そうかぃ」
ゆぅらり、とシュナイゼルが前に出ながら呟いた声は、そこはかとなく低かった。
「きさま‥‥か」
一瞬で殺気を放出し始めたコーネリアもまた前に出る。
「ぜっ‥‥‥たいに認めないから、今すぐ離れろッ!」
アランもまた前に進みゼロの腕を掴んで朝比奈の腕から解放しようと引っ張り始める。
「‥‥えーっと。朝比奈さんと皇族三人組で、ゼロの取り合いしてる、の?」
いけ好かないクラスメートそっくりの皇族がぎゃいぎゃい騒いでいるのを呆然と見ながらカレンが呟いた。
そっくりだけど、そいつなら絶対見せない姿に激しいギャップを感じながら。
「ゼロぉ。この調子だとバレるの時間の問題だから、先に団員達に説明しといた方が良いわよぉ」
ラクシャータの忠告が飛ぶ。
ゼロはラクシャータの言葉に、またもや深々と溜息を吐いた。
「‥‥今すぐ離さないと嫌いになるぞ」
小さく呟かれたゼロの言葉に、朝比奈とアランが同時にゼロを離し、ゼロはその反動で数歩たたらを踏むも何とか堪える。
「まぁ、確かに。ラクシャータの言う通りだな。しかし、お前はそれで良いのか?ラクシャータ」
身軽になったゼロが頷いて問い返せば、ラクシャータはこの上なく素晴らしい笑顔を返した。
「喜びこそすれ非難なんて致しませんわぁ」
ゼロは次に、藤堂に仮面を向ける。
「藤堂。お前は?」
「問題はない。‥‥これまで以上に力になろう」
重々しく頷いた藤堂は、そう言ってからやはり優しい笑みを見せる。
その事に朝比奈を含めた四聖剣は驚いた。
ゼロは更にカレンへと仮面の向きを移動させる。
「‥‥カレン。その‥‥‥‥‥君は?」
「‥‥ッへ!?‥‥て事はまさか‥‥‥。そ、そうね。後で一度だけ苦情を聞いてくれるなら以降は従うわ。良いわよね?そのくらいは」
尋ねられるとは思っていなかったカレンは、驚くも、何故尋ねられたのかを察して、ゼロを窺いつつそう言った。
ゼロ至上のカレンらしくない頷き方に驚く幹部達を尻目に、ゼロはあっさりとそれを容認した。
「あぁ、妥当だな。認めよう。‥‥朝比奈」
そして、更には騒動の渦中とも言える朝比奈へと問いかけは移る。
「一体何の基準だ!?」とは問われていない幹部達の共通する思いだったりする。
「むー。この三人受け入れないってなら文句なしに賛同するんだけど。すっごく邪魔だし」
問われた朝比奈はむくれて皇族の三人を睨みながら言う。
「何を言うか。貴様のような悪い虫をいつまでも可愛いゼロの側にのさばらせておく気はないわ」
即座に反論するコーネリアに、ゼロは仮面の上から頭を押さえた。
幹部達の混乱はいや増す。
「悪い虫‥‥ってあれの事か?」とか「朝比奈が悪い虫って‥‥」とか「可愛いゼロだってぇ~~え!?」とか。
囁き合っていたり、絶叫していたりと幹部達は忙しい。
しかし、「わかった」と言ったゼロが両手を仮面に持っていったのを見て、しーんと静まった。
小さな機械音の後、そっと仮面を外すゼロに、幹部と皇族と‥‥その場にいる全ての者の視線が注がれる。
さらりと黒い髪が揺れる。
仮面を片手に持ち直し、空いた手でマスクを下げる。
白い肌に赤い唇に、そして強い意志を窺わせる紫の瞳。
ゼロの仮面の下から現れたのは、────。
「同じ、‥‥顔!?」
アランと言った第十皇子とそっくり同じ顔が有った。
「わたしは。神聖ブリタニア帝国の第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア‥‥アランの同腹の弟、だな」
「素直に双子だって言いなさい、ルルーシュ。わたしがどれだけ君に会いたいと思っていたと思ってる?」
少し怒ったような表情でそれでも仮面を外した「弟」を嬉しそうにアランは見る。
「さて。既に廃嫡されているはずですし、皇位継承権も手放した身ですよ?」
しれっとルルーシュは言うが、皇族三人組に揃って首を振られて「ん?」と首を傾げる事になる。
「残念だけどね、ルルーシュ。君達の廃嫡は無効になったし、死亡報告も握り潰したから鬼籍に載ってもいないよ?」
「わたし達がお前達の死亡報告とやらをそのまま鵜呑みにすると思っていたのか?」
「そうそう。片割れの喪失に何も感じないなんてあるはずないからね。ちゃんとあの男を脅してそんな書類全部抹消しておいたよ」
にこにことルルーシュの顔を嬉しそうに見る三人の皇族に、ゼロの素性を知ったばかりの幹部達はどこに驚くべきだろうかと悩む。
ゼロが皇族だったという事よりも、これまで敵対していたはずの皇族がこの場にいる事の方に驚きの比重があるように思うからだ。
いや、それよりも。
「ルルーシュ君。おれ、君に双子の兄弟がいるなんて全然聞いてなかったんだけど」
「言ってなかったからな。第一おれは既に廃嫡されていると思っていたし‥‥」
ルルーシュに対して抗議の声を上げる朝比奈と、それに応じるルルーシュに、「あれ?」と思う。
「あの男の戯言なんぞ、気にするな。酷い事を言ったと聞いたからな。きっちり一万倍返しにしておいたぞ?」
「あぁ、わたしも三千回程暗殺者を送り込んでおいたのだけどね。しぶといのだけが取り柄のあの男には効果が見られなかったようで残念だよ」
「あの男の通る床にワックスや油を流したり、バナナの皮を置いたりと嫌がらせはたっぷりしておいたからね」
三人の言う「あの男」が誰だか判ったのはラクシャータと藤堂、それに朝比奈とゼロの四人だけ。
「あの男って誰だ?」
「い、一万倍返しって‥‥普通は倍返しか、多くても十倍返しだよな?」
「三千回も暗殺者送り込んでるのに無事って何もんだ?」
と、怖くて声高に尋ねられない内容に、幹部達はひそひそと囁き合う。
「‥‥なるほどな、アランのせいか。あの男の視線が時々足元に向けられたり、恐る恐る歩く時が有ったのは」
「あ、気づいてくれてたんだね、ルルーシュ。だって、すっ転ぶ度に衣装を汚すし、流石に放送中にそんな無様な姿をさらせないから、必死だよね」
「だぁ。そうやってルルーシュ君の気を引こうとするのやめなよ」
「うるさいな、お前には関係ないだろ。わたしはルルーシュの双子の兄なんだ。一緒にいるのが当たり前なんだからね。君のが邪魔」
「むー。何言ってるのさ。ルルーシュ君はおれの恋人なんだから、兄弟だからって割り込まないでよね」
喧々囂々とヒートアップした二人の言い合い、その内容に、幹部達は今度こそ絶叫していた。
ルルーシュは耳を塞いで音を遮ると、少し下がって藤堂の横に並ぶ。
「えーっと。‥‥朝比奈と付き合っているというのは本当なのか?ルルーシュ君」
朝比奈とアランの言い合いに、シュナイゼルとコーネリアが参戦するのを見ながら、藤堂はそっとルルーシュに尋ねる。
「‥‥はい、一応。あれ、収まるまでここにいて良いですか?二人まで参加してしまったので止められません」
頬を染めてテレながらも頷いたルルーシュもまた、四人の言い合いを見つめていた。
「それは良いが。‥‥止めて欲しいのなら割り込むぞ?」
「無理無理ぃ。やめときなさぁい、藤堂。あぁなったら殿下方はやめないしぃ、それなら朝比奈だってやめるわけにはいかなさそうだしねぇ」
ラクシャータが近づいてきて藤堂の提案を却下してのけた。
「扇。すまないが、ゼロがわたしである事に異論がないようならば通常作業に戻ってくれないか?」
「‥‥‥‥。わ、わかった。異論はない、し‥‥。ここは任せる、よ」
扇は頷き、その他の見ているしか出来なかった者達を促して作業に戻らせた。
ドモッていたのは単に急な展開についていけなかっただけにすぎない。
そう、思いはまさに、カレンの述べた事、「朝比奈さんと皇族三人組で、ゼロの取り合いしてる」事に驚いているというやつである。
そうして大半の者が通常作業に戻っても、朝比奈とシュナイゼル、コーネリア、アランの言い争いは続いていた。
ルルーシュには止める意思はないらしく、ラクシャータは楽しそうにその様子を見ている。
藤堂と残りの四聖剣は、呆れたような、諦めたような溜息を吐きつつ、朝比奈に視線を向けるのみ。
いつ終わるとも知れない舌戦の攻防を始まりとして、騎士団が新たに認識した事。
それは朝比奈とゼロが付き合っているという衝撃的事実と。
皇族の三人が新たに騎士団に入団したという事。
そしてゼロに不用意に近づけば争いに巻き込まれるという事だった。
了
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作成 2008.07.26
アップ 2008.07.28
★hidori様へのリクエスト作品★
(朝.ゼロ/ブラコン皇.族兄弟(シュナ、ネリ、アラン?)/騎.士団押し掛け話)
その三人が格納庫に姿を見せた時、ほとんどの者が「‥‥夢だ‥‥最近忙しかったし‥‥」と認識した。
そう、現在敵対している相手のトップとも言える第二皇子と第二皇女が(騎士でもなさそうな)供を一人だけ連れて乗り込んでくるはずがないのだ。
しかし、別の視点で見てしまった幾人かがその大半がただの供としか見ていない三人目を凝視して固まっていた。
名前を挙げるならカレンとラクシャータ、藤堂、それに朝比奈だった。
カレンは「どうしてあいつが皇族なんかと一緒にいてしかもこんなところにやって来るのよッ!」と驚いていた。
ラクシャータと藤堂は俯き加減なその顔を良く見ようと食い入るように見ている。
みんなが正気ならば恰好のからかいネタだっただろう。
そして朝比奈は初めこそ蒼褪めていたが、「何か違うなぁ」と首を傾げる。
団員が誰も銃を向けないのを確認したコーネリアが一歩進み出た。
「ゼロはいるか?話がある。ゼロを出して貰おう」
居丈高に言い放つコーネリアに、やっと頭が回った幹部達が警戒して身構えた。
「もう少し穏便な言い方をしなさい、コーネリア。争いに来たわけではないのだから」
いきり立つコーネリアを横から諌めるシュナイゼルの言葉に、戸惑ったように顔を見合わせる者多数。
「報せるにしても、誰が来たか言わないと報せに行った者が怒られるんだけど、名乗る気もないわけ?」
そう言ったのが朝比奈だった事に藤堂と残る四聖剣が驚く。
確かに朝比奈は良く口を挟む性質だが初めから全開なのはあまり例がなかったからだ。
「これは異な事を。わたし達の事は知っているだろう?」
シュナイゼルが平然と応じる。
「第二皇子と第二皇女は知ってるね、流石に?けど、‥‥そっちは?」
「あぁ、彼かぃ?アランと言うんだよ。確かに表に出る事の方が少ないから知らないかも知れないね」
シュナイゼルはそう応じてから、アランに視線を向ける。
ふいと逸らされる顔にシュナイゼルは息を吐くと再び前を向く。
「さあ、ゼロを呼びたまえ」
シュナイゼルが催促するが、誰かが呼びに行く前に騒ぎを聞き付けたのかゼロが現れた。
「何の騒ぎだ?これは」
ゼロの声に人垣が割れ、ゼロは侵入者を目視することになった。
「‥‥‥‥何故ここにブリタニアの皇族がいるんだ?」
「ッてめぇに会いに来たんだと!」
玉城がツッコむ。
「用はない。引き取って頂け」
「ツレないなぁ。折角こうやって会いに来たんだ。お茶の席にくらい招きなさい、ゼロ」
即答するゼロをシュナイゼルがやんわりと諌め、コーネリアはうんうんと頷いている。
そこでアランと呼ばれた黒髪の少年が二人の間から進み出て来た。
止める間も、割って入る間もなく、ゼロの前まで辿り着いた少年は、何故か動かないゼロに抱きついた。
「会いたかったよ、ゼロッ!てか無粋な仮面も外しなさい。あと『ゼロ』と呼ぶのもあれだから名前呼んで良いね?‥‥‥‥ダメ?」
大半が唖然とし、カレンは悲鳴を上げ、朝比奈は無言で近付くとベリッと音が聞こえそうな勢いでアランをゼロから引きはがした。
「ダメに決まってる。第一ゼロに抱き着くな」
「むッ、君にとやかく言われる筋合いはないな。それに拒否はされていない」
「固まってただけだろ。何を都合の良いように解釈してるのさ、図々しい」
突然始まった言い争いに、次第に空気は唖然から困惑に変わって行く。
「ちょッ‥‥と待て。朝比奈。アラン、お前もだ」
フリーズの溶けたゼロが未だ混乱中だと言う事がすぐにわかったのは四人だった。
侵入者達と朝比奈である。他の者も遅れて気付く。
「‥‥‥‥‥‥あのさ、ゼロ。なんだってそいつの名前、知ってるんだ?そいつもゼロの名前知ってるッぽいし‥‥。まさか知り合い?」
扇の問いに視線がゼロに集まる。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
ゼロは無言を通していたが仮面の下ではルルーシュが打開策を考えるも、良案なんて浮かばない。
浮かぶはずがないのだ。
カレンは疑惑の眼差しでアランを凝視しているし、藤堂とラクシャータの視線は既にゼロに向けられているのだ。
そんな中では何を言ったところで納得させられる訳がない。
更に言えば朝比奈もアランも睨み合って一歩も譲らない構えだし、シュナイゼルとコーネリアも参戦する気満々だとわかるし‥‥。
「ゼロ。その馴れ馴れしい奴は何?人名乗らせといて自分は名乗りもしない無礼者を側に置くのは感心しないよ」
「名乗ったのは君じゃないだろ。第二皇子が紹介してたじゃないか。‥‥おれはね、朝比奈って言うんだよ。ゼロが呼んだの聞いてなかったの?」
やはりバチバチと火花を散らせて言い合う二人に、ゼロはまず藤堂を振り返った。
「‥‥藤堂、朝比奈を止めろ。第二皇子、第二皇女、アランを止めて頂きたい」
深い溜息をつきながらゼロが言うと藤堂は朝比奈に近付いたが次に視線を向けられたシュナイゼルとコーネリアは首を振った。
「それは出来ないな、ゼロ。どちらかと言うと参戦したいと思っているくらいだからね」
「そうだぞ、ゼロ。だいたいアランばかり名前を呼ぶのはずるいだろう?」
平然と言う二人に「参戦って何?」「ずるいってなんだ?」と幹部達の頭上には大量の「?」マークが浮かぶ。
藤堂は「あちらに止める意思がないのに朝比奈だけ下がらせるのは良いものか」と迷う。
「あッそうだ、ゼロ!説明!」
朝比奈が思い出したかのように肩越しにゼロを顧みた。
朝比奈の求める説明が、他と違っている事にゼロは気付いたがこれまた「どーするかなぁ」と悩んだ。
少し置いて溜息をつくと、アランに視線を固定させた。
「彼はアラン・ヴィ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国の第十皇子‥‥。マリアンヌ皇妃が長子。‥‥皇位継承順位はどうなっていましたかね?」
「離れる気ないからね、変わらず十六と十七だよ」にっこり笑うアラン。
「‥‥では、ゼロ。やはり君は‥‥」と足を止めた藤堂が言い、「生きてらしたんですねぇ」とラクシャータがホッとする。
「だぁあッ!そこ!てかテメェらさっきからッ!こっちにも判るように話しやがれ」
疎外感を覚えた玉城がキレ、そこかしこで幹部達がそれに同意するように頷いていた。
ゼロは玉城を振り返った後、皇族3人組に視線を移した。
「‥‥用件を伺いましょう」
ゼロの言葉に、シュナイゼルは「やれやれ」と笑顔を見せる。
「わたし達はね。ゼロに味方したくて来たんだよ。君のしたい事、その全てに手を貸そうじゃないか」
「そうだぞ、ゼロ。君がブリタニアの崩壊を望むなら、あの皇帝を引き摺り下ろしてやろう」
「その為に必要な準備をするのに手間取って、こんなに遅くなってしまったけど、これからはずっと側にいて良いよね?」
シュナイゼル、コーネリア、アランの順に、ゼロに味方する為に来たのだと、言い切った。
「なッ!てめぇら、そんなあっさりと自分の国を裏切るってのか!?」
「そう受け取ってくれて構わないよ。ブリタニアとゼロ。どちらを取るかと言われれば、迷わずゼロを取るだけの事」
「ゼロよりも大事なものなど、何一つない」
「そう、ゼロが一番大切だからね。‥‥お前達だって、ゼロの為にならないなら、相応の報いは受けて貰うよ?」
玉城の怒鳴り声に、またもやそれぞれきっぱり言い切り、アランは加えて朝比奈を睨みすえながら付け足した。
朝比奈はアランを睨み返し、ゼロは深々と、本当に深々と息を吐き出した。
「ぇえ?ゼロ、まさか認めるの?絶対、騒動の元にしかならないの判ってるのに?」
朝比奈が驚きの声を上げて、まだ何も言っていないゼロを見て抗議する。
「朝比奈ぁ。あんた、少し黙ったらぁ?殿下方のこれって昔っからだからぁ、追い返そうったって絶対に引き下がらないわよぉ」
ラクシャータが騒ぐ朝比奈に意見すると、朝比奈は「むー」っと唸って、再びゼロに抱きついた。
「ダメッ!それが判ってるから反対してるんじゃないですかー。絶対、小姑にしかならないって判」
「朝比奈ッ!」
ゼロが少し慌てたように朝比奈の言葉を遮った。
後編に続く
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作成 2008.07.26
アップ 2008.07.27
★明日咲様へのリクエスト作品★
(ロイルル/騎士設定/アジト/ゼロを信頼しない幹部に怒る話/ゼロ&皇族バレ)
「ちょっと待て」
藤堂が待ったを掛ける。
「何?」
盗聴器の件で叫ぶ幹部達を煩そうに見ていたロイドは、気のなさそうに藤堂に視線を向けて尋ねる。
「先程は粛清と言ったな?一体どの立場に立っての言葉だ?ブリタニアか?それとも軍か?」
「違うね。ぼくの主はゼロだから、ブリタニアも軍も関係ない。‥‥ゼロの為にならないなら、ゼロがやらなくたってぼくが粛清すると言っている」
きっぱりと言い切るロイドに、藤堂は「彼の言っている事は本当か?」と尋ねるようにラクシャータを見た。
「‥‥あぁまぁ、プリン伯爵の中ではぁ。ゼロを中心に世界が回ってるしぃ。後はナイトメアとプリンが有って、最後にちょろっとその他諸々がある感じだしぃ?」
「良く判ってるじゃないか、ラクシャータ。その『ちょろっ』にはゼロの為になる者しか置くつもりないから、残りはことごとく排除しようかなって思ってさ」
「あんた‥‥。言葉遣いからして変だ変だと思ってたけどぉ。キレてるわねぇ?よっくそれでセシルが黙ってたわねぇ?」
「あぁ。セシル君なら、快く送り出してくれたよ。彼女もゼロ一筋だし?」
「ラクシャータ。貴女とその男が会話をするとどんどん話がズレているように思う」
千葉が再び修正を試みる。
「そうかもねぇ。半分はわざとだものぉ。ガス抜きしとかないと後が怖くってぇ?」
団員達は「ラクシャータが怖いってどんだけだよッ!」と一層怯える。
「‥‥ゼロを主というが、どういう事だ?」
再び藤堂が問う。
「ん?昔、主であるゼロに忠誠を誓ったんだよ。次に会う時まで気持ちが変わらないなら騎」
「プリン伯爵ッ!」
ロイドの言葉を慌てたラクシャータが鋭く遮る。
「‥‥何?説明の邪魔しないでくれるかな?ラクシャータ」
「プリン伯爵ぅ。あんた、もしかしてゼロの素性まで暴露しに来たなんて言わないでしょうねぇ」
「良いかなぁと思って。隠したままだと折角主が作った組織なのに、安らげないだろ?それで離れるようなら粛清の対象のトップに上げるだけ。簡単じゃないか」
ラクシャータとロイドの会話に、幹部も団員も関係なく蒼褪める。
「だからってぇ、ゼロに無断で暴露したら、あんた嫌われるかもよぉ」
ラクシャータは一騒動起こる事がわかっているだけに止めに掛かるのだが、ロイドはそれでも引き下がらなかった。
「‥‥ぼくが嫌われたとしても、それで主にとって安らげる場所が手に入るなら、喜ばしい事じゃないか?」
真摯な瞳で言うロイドに、ラクシャータは白旗を揚げる事にした。
本当に主一筋で、自分の事を二の次にするロイドに、これ以上反論する言葉が見つからなかったからだ。
「‥‥ラクシャータ。今の話の流れからすると、君はゼロの素性を知っていると言う事になるが‥‥」
「その通りよぉ、藤堂。プリン伯爵が主と慕うなんて後にも先にも唯一人だけだものぉ。こぉんな側にいたってぇのに今まで気付かなかったなんてねぇ」
ラクシャータはそう言って溜息を吐くと「不覚だわぁ」と嘆いた。
「君は素性を知ってもゼロについていくと?」
「当然よぉ。ゼロが本国からいなくならなかったら、野に下ってなんてないわよぉ」
ラクシャータの答えに、もしそうならば紅蓮や月下は存在していなかったかも知れないと思った者が何名か。
「あぁ、時期的に考えてそうだろうなぁとは思ってたけど、やっぱりか。そぉれで主の下に辿り着くなんて羨ましいよ」
ロイドはそう言うと、溜息を吐いて視線を巡らせて入り口に主の姿を発見して固まった。
固まるロイドに、その視線を追ってゼロが来た事を知る。
「ゼロッ!呼び出してすまない。その‥‥」
扇が声を掛ける。
「‥‥来たのか。お前にしては随分とゆっくりしていたな。‥‥まったく。お前だと判っていれば、急ぐ必要はなかったんだがな」
ゼロはそう言うと、スタスタと歩いてロイドとその周囲を囲む幹部団員達の横を通り過ぎようとする。
「どこ行くんだよッ、ゼロ」
「扇から『ブリタニア人がアジトに接近している』と聞いて慌てて来たんだ。少しくらい休ませろ」
「いや、休むのは別に良いんですけど、この人どうにかしてからにしませんか?」
朝比奈がロイドを示して訴えた。
ゼロは一つ息を吐くと、ロイドに向き直った。
「‥‥ロイド。その服装という事は、もう戻る気はないのか?」
「はいー。ランスも持ち出して近くに隠してますしー。あ、これ、起動キーですー。あちらはセシル君が引き受けてくれるって言うし、任せてきちゃいましたー」
にこにこと、先程までの雰囲気はなりを潜め、がらりと変わったロイドが応じる。
それを見てラクシャータはホッと息を吐いた。
しかし、他の幹部団員達は余りの変貌振りに戸惑うばかりである。
「家と婚約者は?」
「あはー?やきもち焼いてくれてるわけじゃないですよねー。‥‥あー‥‥もしかして怒ってらっしゃいますー?」
「当たり前だろう?全く。もう少し手段を選べ。‥‥それで?どうしたいんだ?お前は」
「‥‥どうって。決まってるじゃないですかー。家は別にどうでも良いでーす。彼女の意志も変わらないそうですから、そのうち来ると思いますー」
呆れたように言うゼロに、にこにこと笑うロイド。
「で?本気でわたしの素性をバラす気だったのか?」
「あ、聞いてらしたんですねー。そうですよ?だってここは今、貴方にとって安らげる場所ではないじゃないですか。表の箱庭だって崩壊してるのに」
主と言い切るゼロの問いに、ロイドは真正面から頷いて答え、「ぼくは貴方が安らげる場所を手に入れたいんです。すぐにでも!」と言う。
騎士団の一同はゼロの答えを固唾を呑んで待つ。
場合によってはロイドとかいうプリン伯爵に粛清されかねないから一応と逃げ道を視線で確認する者もいたが。
ゼロは深く息を吐き出すと、すっと仮面に手を伸ばした。
「お前がその気ならば、隠していても意味がないな。バラされる前に自分で仮面を取った方が幾らかマシだろう」
そう言ってから仮面を外した。
もちろん、一騒動があったけどね。
何故か「奇跡の藤堂」が主の事を知っていたり、赤いナイトメアのパイロットだって言う少女が主につっかかったり。
少女に関しては、主が庇うので保留にしたのだけど、後日それを少しばかり後悔したりする。
何故って、婚約者殿がやって来て、「あら、カレン。やっぱり騎士団のメンバーだったのね」なんて話しかけたりしたからだ。
主と婚約者殿の両方が知っていて好意的な相手を粛清の対象になんてできるわけないじゃないか。
まぁ、その時には、主に対する態度から反抗的な要素は消えていて主から「紅蓮の騎士」なんて呼ばれるに相応しくはなってきていたけど。
ディートハルトとかいうブリタニア人が暴走して主に突進してきたのはその場で沈めて、今後も一層注意しようと思ったり。
結果としては主は未だにゼロを続けている。
素性を知った後も、誰も離れようとはしなかった事はここに記しておくけど。
それがぼくが睨みを利かせたせいなのか、そうじゃないのかはこれから判断しようと思う。
了
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作成 2008.07.06
アップ 2008.07.10
★明日咲様へのリクエスト作品★
(ロイルル/騎士設定/アジト/ゼロを信頼しない幹部に怒る話/ゼロ&皇族バレ)
特派唯一の移動手段であり研究機材が満載の居住性はすごぶる悪いトレーラーの内部は、現在加えて長居したいとは思えない場所に成り果てていた。
原因は戦々恐々の視線を一身に集めながらも気にした様子もなく怒りに燃えている主任のロイドに有った。
普段は道化じみた言動をするロイドが今は何故か「道化?誰が?」とでも言いたげに、眼光鋭く宙を睨んでいるのだ。
研究員達は耐え切れなくなって縋るようにセシルを見る。
しかしセシルには焦りも恐怖も困惑も見られず、諦めの苦笑だけが浮かんでいた。
その瞳はなによりも雄弁に「今のロイドさんには何を言っても無駄ですよ」と語っているようで、研究員達は最後の手段である逃げにでた。
我先にセシルに向かって「今日はこれで‥‥」とか「お先に失礼します」などと暇の挨拶をすると、トレーラーから退散していった。
残ったのは元凶のロイドとセシルだけ。
セシルは溜息をつく。
「止めてもどうせ聞かないでしょうから止めませんけど。服は着替える事と、これを忘れないように」
ロイドに向かってセシルが差し出したのは、ランスロットの起動キー。
ロイドはジト目をセシルに向けた。
「スザク君から借りたんです。『メンテナンスの為にロイドさんに渡したいから』って。だから後の事は問題ないですよ?」
「‥‥‥‥良いの?セシル君。ぼくは君を裏切るかも知れないよー?」
「かも‥‥って。別にロイドさんがどんな行動を取ろうと、それがわたしへの裏切りにはなりませんから」
大事なもの、大切なもの、守りたいものが同じで、それが世界の中心に在って、自分にとっては全てで有った時、裏切りは起こらない。
「そうだったね。ならこっちの事は任せるよ~」
ロイドはセシルの意を正確に読み取ってにやりと笑ってみせた。
黒い騎士服、黒いマント、要所を縁取る刺繍はメタルシルバーで施されている。
上に乗っているのは銀髪に眼鏡をかけたいかにも不機嫌そうな顔。
「ブリタニア人接近」の報告は総司令のゼロがいない為、副司令の扇と軍事の責任者藤堂の元へと上がって来た。
藤堂は接近者の動きを止めるように指示し、扇はゼロに報せるべく電話に手を伸ばした。
遠巻きにじりじりと下がりながら、格納庫に侵入されてしまった団員達は、それでもたった一人を相手に手を出しあぐねていた。
殺気立つ相手に気圧されているのは明白だった。
報告を受けて幹部達が駆け付けたのは、だから格納庫の中程で侵入者が立ち止まった後だった。
「ブリキ野郎が何の用だ!?」
玉城が銃を突き付けながら怒鳴る。
「‥‥‥‥ラクシャータ。いるんだろ?」
侵入者は玉城をあっさり無視して鋭い声で呼ばわった。
「あー‥‥‥‥。予想は付くんだけどぉ、なぁにしに来たのぉ?プリン伯爵ぅ」
不本意そうに前に出て来たラクシャータは、嫌そうに言った。
「予想通りなら、当然一纏めにして構わないよな?ラクシャータ」
「良いわけないじゃないのぉ。第一纏められる謂れはないわよぉ」
外野を無視して続く会話に団員達は途方に暮れ、幹部達は訳も解らぬままに苛立ちを募らせる。
「ラクシャータッ!‥‥知り合いなのか?」
扇が慌てたように割って入る。
「昔の同窓かしらぁ、不本意だけどぉ。あぁ、一つ言っておくけどぉ、わたしが知る中では二番目に強いわよぉ、癪だけどぉ」
「保証の仕方がイマイチだよね、それ?」
「事実でしぉ、一番は不動よ不動。それとも抜かせてるつもりなのぉ?」
殺気立つ相手にラクシャータは負けていない。
「まぁ、今回は保留にしておくけど、次も同じならその時は」
「分かってるわよぉ。善処するわぁ」
相手の言葉を強引に遮って、ラクシャータは頷いた。
話にケリが着いたと見てとった幹部達が口を挟むよりも早く視線をラクシャータから幹部達に立て直したロイドが声を出す方が早かった。
「なんかさ、すっごく腹が立つ。お前達、良くそれで騎士団なんて名乗っているよね、ホント呆れるの通り越して、いっそ感心するよ」
冷ややかに言うロイドに、当然ながら大半の者がむっとしたりカチンと来ている。
なので、「なんだとぉ~ッ!」とあちこちから反論が上がっても仕方がないのだろう。
「自覚ないなんて最悪。ワザとでも性質悪いからどっちもどっちなんだけど。‥‥てか、ラクシャータ、どこ行く気なんだ?」
ロイドは振り返りもせずに背後でそろりと退場しようとしていたラクシャータを呼びとめた。
「‥‥保留なんでしょぉ?」
「ラクシャータ?話も聞かないで何を善処するんだぃ?」
ロイドの言葉にラクシャータは深い溜息を吐いて逃亡を諦めた。
「とばっちりぃ‥‥」と呟いて幹部達を睨む事は忘れなかったが。
「プリン伯爵といったか?」
藤堂が一歩進み出て真顔で声を掛ける。
「む。‥‥『奇跡の藤堂』だっけ?ぼくはロイド・アスプルンドって名前があるんだから、次からそれで呼ばないように。‥‥それで?」
ロイドはむっとしたものの、「そういえばまだ名乗ってなかったっけ?」と思い至り、初回なのでそこだけは譲歩する事にした。
「‥‥結局、何をしに来た?要点が判らないのだが。それとおれも『奇跡の』はつけなくて良い」
「‥‥騎士団の粛清?」
ロイドが何故か疑問系で応える。
「はぁ~~~あ?何だってブリキ野郎におれ達が粛清されなくちゃならねぇんだ!?」
玉城が呆れたような口調で抗議すると何人かが同調して頷く。
「黒の騎士団ってゼロの組織なんだろ?つまり騎士団の団員はリーダーであるゼロを信頼してないと成り立たない。‥‥何か間違ってるかな、ラクシャータ?」
「ぜぇんぜん間違ってないわよぉ。プリン伯爵ぅ」
「君のその嫌がらせは間違ってるからやめてくれないか?」
「やぁよ。あんたに嫌がらせって他に有効そうなのないんだからぁ」
「てかラクシャータ、てめッ。どっちの味方だよ、おい」
「んー。プリン伯爵の味方ってぇのは癪だしねぇ‥‥。わたしはゼロの味方ってぇ事にしとくわぁ」
「‥‥話が脱線してばかりな気がするのは気のせいか?」
千葉がロイドとラクシャータの口論をうんざりした様子で眺めながら言う。
「ぼくが見た限り、ゼロを信頼してるのってほっとんどいないよね。指示通り動かなかったり、反抗ばっかりしてたり。騎士団にいる意味ないんじゃないかそれ?」
玉城はロイドの冷たく鋭い氷のような眼光に射竦められて固まる。
「ゼロのいない場所では散々悪口やら批判やら、果ては素性が知れないからと疑って掛かるし」
「「「ってちょっとまてぃ!!どこで聞いてやがった!?てかラクシャータ?」」」
一斉に待ったを掛けて尋ねる幹部達に、ラクシャータは首を振り、ロイドはにやりと笑う。
「違うわよぉ。わたしだってこいつと連絡つけたいなんて思わないんだからぁ」
「そんなの盗聴器とか色々仕掛けたからに決まってるだろ。ゼロがいないと途端に箍が緩むし、不平不満だらけだし、どうしようもないよ」
平然と己のおこないを暴露するロイドに、「盗聴器ぃ~~い!?」と叫んで幹部達は周囲を見渡した。
もちろん、見渡したくらいで見つかるような盗聴器は存在しなかったが。
後編に続く
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作成 2008.07.06
アップ 2008.07.09